(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189395
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】スラブの連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/00 20060101AFI20221215BHJP
B22D 11/124 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
B22D11/00 A
B22D11/124 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097948
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】片山 弥優
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004KA12
4E004KA14
4E004MC02
4E004NA01
4E004NB01
4E004NC01
(57)【要約】
【課題】二次冷却における復熱を抑制して、内部割れを回避することができる、スラブの連続鋳造方法を、提供する。
【解決手段】鋳型13と、鋳型13の下流側に接続され、垂直方向に延在する垂直部51と、垂直部51の下流に接続され、下流に向かうほど曲率半径が徐々に小さくなる曲げ部52と、曲げ部52の下流に接続され、曲率半径が一定である湾曲部53と、湾曲部53の下流に接続され、下流に向かうほど曲率半径が徐々に大きくなる矯正部54と、矯正部54の下流に接続され、水平方向に延在する水平部55と、を順に備える垂直曲げ型連続鋳造機10によって、0.08~0.29質量%のCを含有する鋼からなる鋳片1を製造する方法であって、1.1m/min以下の鋳造速度で鋳片1を引き抜くときに、湾曲部53の上流において鋳片1の温度上昇が15℃以下となるように冷却を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型と、
前記鋳型の下流側に接続され、垂直方向に延在する垂直部と、
前記垂直部の下流に接続され、下流に向かうほど曲率半径が徐々に小さくなる曲げ部と、
前記曲げ部の下流に接続され、曲率半径が一定である湾曲部と、
前記湾曲部の下流に接続され、下流に向かうほど曲率半径が徐々に大きくなる矯正部と、
前記矯正部の下流に接続され、水平方向に延在する水平部と、を順に備える垂直曲げ型連続鋳造機によって、0.08~0.29質量%のCを含有する鋼からなる鋳片を製造する方法であって、
1.1m/min以下の鋳造速度で前記鋳片を引き抜くときに、前記湾曲部の上流において前記鋳片の温度上昇が15℃以下となるように冷却を行う、
スラブの連続鋳造方法。
【請求項2】
前記鋳片は、0.002~0.008質量%のSを含有する、
請求項1に記載のスラブの連続鋳造方法。
【請求項3】
前記湾曲部の上流側における合計比水量を0.14L/kg~0.19L/kgとして、前記冷却を行う、
請求項1又は請求項2に記載のスラブの連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラブの連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造では、水冷式の鋳型内に注入された溶鋼が一次冷却され、鋳型との接触で溶鋼の表面が凝固して凝固シェルが生成される。この凝固シェルを外殻とし、内部を未凝固層とする鋳片は、鋳型の下流側に設置されたロールで支持されながら冷却水が噴射されることによって二次冷却され、鋳造方向下流側に連続的に引き抜かれる。この連続鋳造機において、鋳片に生じる内部割れを防止する方法が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、炭素濃度が0.3~1.0質量%の溶鋼から丸ビレットを連続鋳造する際の、鋳型直下における冷却方法が開示されている。この方法では、鋳型直下における凝固シェル厚みをD(mm)、鋳型直下から最初に丸ビレットがスプレー冷却されるまでの間の復熱量をΔT(℃)とした場合、ΔT/Dが8.5℃/mm以下となるように、鋳型直下の二次冷却水量及び鋳造速度の少なくとも一つを制御している。これにより、丸ビレットの内部割れや、内部割れに起因するブレークアウトを防止することができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の発明によれば、炭素濃度が0.3~1.0質量%の溶鋼から丸ビレットを連続鋳造する際に、鋳型直下において所定の条件で冷却すれば、得られた丸ビレットの内部割れを防止することができるとされている。しかしながら、炭素濃度が0.08質量%以上0.29質量%以下の溶鋼からスラブを垂直曲げ型の連続鋳造機を用いて鋳造する場合においては、内部割れが発生することがある。ここで、垂直曲げ型の連続鋳造機は、鋳型直下に、垂直部、曲げ部、湾曲部、矯正部、水平部を順に備えている。
図4は、炭素濃度が0.08質量%以上0.29質量%以下の溶鋼から連続鋳造して得た鋳片の内部割れの発生状況を例示する図である。
図4に例示するように、鋳片1にはその短辺の表面から60~70mmほど内側の領域において、内部割れ100が生じることがあった。内部割れ100は、この内部割れ100が発生した位置から、垂直曲げ型の連続鋳造機における湾曲部(鋳型内の湯面からの鋳込長が7~10m付近)の、固液共存状態となっている領域(固液共存領域)において発生していると想定された。
【0006】
連続鋳造において固液共存領域は脆弱である。内部割れは、この固液共存領域の脆化部分を起点に、凝固シェルに引張変形が生じることにより発生する。
図5は、炭素濃度が0.08質量%以上0.29質量%以下の溶鋼の一例として炭素濃度が0.18質量%の溶鋼における、固相率と引張強度との関係を示す図である。
図5に示すように、固相率0.7付近で引張強度が発現し、固相率0.8を超えると引張強度が0.5MPaを超え、急激に高くなっていく。この傾向は、炭素濃度が0.08質量%以上0.29質量%以下の溶鋼に共通する傾向である。そのため、固相率0.8を超える鋳片に引張応力が作用すると外力が凝固シェルに作用し、内部割れを誘発する。ここで、引張応力を小さくする手段として、二次冷却の強化や鋳造速度Vcを低下させることが有効とされている。しかしながら、炭素濃度が0.08質量%以上0.29質量%以下の溶鋼からスラブを得る場合には、温度低下に伴うγα変態による膨張が発生すると、鋳片の長辺及び短辺の凝固シェル厚の違いから歪み速度のアンバランスに起因する割れが発生するおそれがある。このため、引張応力を小さくする手段として、温度低下によるγα変態を促進させる二次冷却の強化を採用することは好ましくない。そこで、引張応力を小さくする手段として、鋳造速度Vcを低下させることを試みた。
【0007】
しかしながら、
図6に示すように、鋳造速度Vcを低下させるとかえって内部割れが発生することが分かった。
図6は、鋳造速度Vcと、内部割れとの関係を示す図である。本発明者は、その理由について鋭意研究を行った結果、以下の知見に至った。すなわち、鋳造速度Vcが低い場合、鋳片が鋳型直下で接触するロールによって過剰に抜熱(冷却)される一方で、湾曲部での比水量は上述のとおりγα変態の発生を防止するために制限する必要がある。このため、湾曲部において鋳片の復熱量が大きくなり、復熱による凝固シェルの膨張が引張応力として作用し、内部割れが発生していたことを見出した。
【0008】
そこで、本発明の目的の一例は、湾曲部における復熱を抑制して、内部割れを回避することができる、スラブの連続鋳造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
鋳型と、
前記鋳型の下流側に接続され、垂直方向に延在する垂直部と、
前記垂直部の下流に接続され、下流に向かうほど曲率半径が徐々に小さくなる曲げ部と、
前記曲げ部の下流に接続され、曲率半径が一定である湾曲部と、
前記湾曲部の下流に接続され、下流に向かうほど曲率半径が徐々に大きくなる矯正部と、
前記矯正部の下流に接続され、水平方向に延在する水平部と、を順に備える垂直曲げ型連続鋳造機によって、0.08~0.29質量%のCを含有する鋼からなる鋳片を製造する方法であって、
1.1m/min以下の鋳造速度で前記鋳片を引き抜くときに、前記湾曲部の上流において前記鋳片の温度上昇が15℃以下となるように冷却を行う、
スラブの連続鋳造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、湾曲部における復熱を抑制して、内部割れを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、スラブの連続鋳造方法で用いる連続鋳造機の概略図である。
【
図2】
図2は、表1に示す比水量のうち鋳造速度0.7[m/min]で二次冷却した場合における鋳片の温度推移を示す図である。
【
図3】
図3に、内部割れ発生率を比較した結果を示す。
【
図4】
図4は、炭素濃度が0.08質量%以上0.29質量%以下の溶鋼から連続鋳造して得た鋳片の内部割れの発生状況を例示する図である。
【
図5】
図5は、炭素濃度が0.18質量%の溶鋼における、固相率と引張強度との関係を示す図である。
【
図6】
図6は、鋳造速度Vcと、内部割れとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のスラブの製造方法の実施形態について図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、スラブの連続鋳造方法で用いる連続鋳造機10の概略図である。
【0014】
鋳片1を鋳造するための連続鋳造機10は、垂直曲げ型であって、タンディッシュ11と、浸漬ノズル12と、鋳型13と、複数のロール14と、複数の二次冷却スプレー15と、ピンチロール16とを備えている。また、連続鋳造機10の鋳造経路は、鋳造方向の上流の鋳型から、下流側のピンチロール16に向って順に、垂直部51、曲げ部52、湾曲部53、矯正部54、水平部55を備えている。
【0015】
垂直部51は、鋳型13の直下から垂直方向に延在する部分である。曲げ部52は、垂直部51から緩やかに湾曲し、鋳造経路の曲率半径を小さくする部分であり、鋳片1を円弧状に曲げる。湾曲部53は、曲げ部52に連接し、鋳造経路の曲率半径が一定となる部分である。矯正部54は、湾曲部53の下流に設けられ、鋳造経路の曲率半径を徐々に大きくする部分である。水平部55は、矯正部54から水平方向に延在した部分である。
【0016】
取鍋(不図示)からタンディッシュ11に供給される溶鋼20(溶融金属)は、Cを0.08質量%以上0.29質量%以下含有する。また、溶鋼20のS含有量が多いと、
図5で説明した固相率fs=0.7~0.8付近となる温度範囲が拡大し、凝固シェルに生じる引張強度が高くなるために、溶鋼20は、Sを0.008質量%以下含有することが好ましい。Sの含有量の下限値は、脱Sのコスト及び生産性の観点から、0.002質量%とすることが好ましい。
【0017】
タンディッシュ11の溶鋼20は、浸漬ノズル12から鋳型13内に注入される。溶鋼20は、鋳型13は水冷されていて、鋳型13に注入された溶鋼20の外周は鋳型13と接触することで、冷却(1次冷却)される。これにより、溶鋼20の外周部には凝固シェル2が形成される。
【0018】
外側に凝固シェル2が形成されることで溶鋼20は、鋳型13直下では未凝固鋳片1Aとなる。未凝固鋳片1Aは、複数のロール14によって支持されて、垂直部51を通過して、曲げ部52でロール14に支持されながら円弧状に曲げられる。そして、湾曲部53で下流側に移送された後、矯正部54でロール14によって水平方向に向くように矯正される。その後、水平部55によって下流側に移送される。複数のロール14の間には、二次冷却スプレー15が配置されている。下流側に移送される未凝固鋳片1Aは、二次冷却スプレー15から噴射される冷却水により冷却(二次冷却)される。そして、溶鋼20は完全に凝固して鋳片1となり、ピンチロール16により連続鋳造機10から引き抜かれる。
【0019】
この鋳片1の引き抜く工程において、鋳片1を引き抜く速度である鋳造速度Vcは、タンディッシュ11内の溶鋼20の温度に基づいて、0.7m/min~1.2m/minの範囲で手動または自動により適宜設定される。しかしながら、
図6で説明したように、1.1m/min以下の鋳造速度Vcで鋳片1を引き抜く場合、内部割れ100(
図4参照)が顕著に発生する。これは、上記したように、湾曲部53の上流部における大きな復熱量が原因となっている。
【0020】
なお、鋳造速度(m/min)は、水平部55の出側における鋳片1の水平方向の移動速度である。また、湾曲部53の上流部とは、装置の仕様によって異なるが、通常は、湾曲部の中間位置よりも上流側に位置する部位を意味する。特に、鋳片1の短辺部側における凝固シェル厚dが、鋳片1の短辺巾Dの1/4くらいとなる位置、つまりd=(1/4)×Dとなる位置での温度管理が重要である。
【0021】
そこで、本実施形態では、前記二次冷却において、1.1m/min以下の鋳造速度Vcで鋳片1を引き抜く場合、湾曲部53における上流部での復熱温度を15℃以下となるようにする比水量で、二次冷却を行う。この場合における比水量は以下の表1の通りとした。表1の比水量は、湾曲部53における上流部に冷却水を噴射する複数の二次冷却スプレー15の合計比水量であり、水量密度は平均水量密度である。表1では、比較例として、復熱温度を55℃以下となるようにした場合(比較例1)と、復熱温度を35℃以下となるようにした場合(比較例2)についても表している。なお、鋳片1の温度は、成分によるTLL及び密度や伝熱係数、鋳造速度Vc、溶鋼温度加熱度(T-TLL)、ノズル配置、各ノズルの水量に基づいて、算出される。
【0022】
【0023】
表1に本発明例として示す各比水量は、表中のそれぞれに対応する鋳造速度において湾曲部53における上流部(鋳型内の湯面からの鋳込長が7~10m付近)での復熱温度を15℃以下とするための比水量である。また、これらの比水量は、表中のそれぞれに対応する鋳造速度において湾曲部53における上流部での鋳片1の内部温度(内部割れ発生領域における温度)が、γα変態温度以下となることを抑制するための比水量でもある。
【0024】
図2は、表1に示す比水量のうち鋳造速度0.7[m/min]で二次冷却した場合における鋳片の温度推移を示す図である。
図2に示す温度は、鋳片1の内部割れ発生領域における位置の温度であり、具体的には、鋳片1の長辺の表面から10mm内側でかつ鋳片1の短辺の表面から30mm内側における位置の温度である。
図2に示すように、本発明例では、湾曲部53における上流部での復熱温度を15℃以下となり、かつ、湾曲部53の上流部においてγα変態温度を上回っている。
【0025】
図3に、湾曲部53における上流部での復熱温度を15℃以下(本発明例)、55℃以下(比較例1)、35℃以下(比較例2)となるようにする比水量で、二次冷却を行ったときの内部割れ発生率を比較した結果を示す。
図3は、本発明例と、比較例1、2とにおける内部割れ発生率を示す図である。
図3では、冷却後に目視チェックすることで、内部割れを評価した。その結果、
図3に示すように、比較例1、2に関しては内部割れが生じているのに対し、本発明例では、内部割れは発生していないことが分かる。
【0026】
以上のように、本実施形態では、1.1m/min以下の鋳造速度Vcで鋳片1を引き抜く場合、湾曲部53における上流部での復熱温度を15℃以下となるようにする比水量で、二次冷却を行うことで、鋳片1の内部割れの発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 鋳片
1A 未凝固鋳片
10 連続鋳造機
11 タンディッシュ
12 浸漬ノズル
13 鋳型
14 ロール
15 二次冷却スプレー
16 ピンチロール
20 溶鋼
51 垂直部
52 曲げ部
53 湾曲部
54 矯正部
55 水平部