(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189404
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】溶接装置、積層造形装置及び位置決め方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/127 20060101AFI20221215BHJP
B23K 9/04 20060101ALI20221215BHJP
B23K 9/032 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
B23K9/127 501D
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K9/032 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097961
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】近口 諭史
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】飛田 正俊
【テーマコード(参考)】
4E081
【Fターム(参考)】
4E081BA02
4E081BA04
4E081BA05
4E081BA08
4E081BB03
4E081CA01
4E081CA10
4E081CA11
4E081CA14
4E081DA14
4E081EA24
(57)【要約】
【課題】設備費を抑えつつトーチの傾きによる位置ずれ及び溶加材の変形による位置ずれを抑えて良好にビードを形成することが可能な溶接装置、積層造形装置及び位置決め方法を提供する。
【解決手段】線状の溶加材Mを保持するトーチ23を溶接ロボット11によって移動させ、ビード形成予定位置に溶加材Mを溶融させて溶着ビード35を形成する。溶接ロボット11によるトーチ23の傾きに応じて生じるトーチ23の狙い位置のずれの情報である誤差情報を参照するマニピュレータ誤差参照手段25と、トーチ23に保持された溶加材Mの変形状態を計測する変形状態計測手段27と、誤差情報及び変形状態に基づいて、溶加材Mの先端位置を補正する狙い位置補正手段29と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状の溶加材を保持するトーチをマニピュレータによって移動させ、ビード形成予定位置に前記溶加材を溶融させてビードを形成する溶接装置であって、
前記マニピュレータによる前記トーチの傾きに応じて生じる前記トーチの狙い位置のずれの情報である誤差情報を参照するマニピュレータ誤差参照手段と、
前記トーチに保持された前記溶加材の変形状態を計測する変形状態計測手段と、
前記誤差情報及び前記変形状態に基づいて、前記溶加材の先端位置を補正する狙い位置補正手段と、
を備える、
溶接装置。
【請求項2】
前記変形状態計測手段は、ベース材に前記ビードを形成する際に、前記溶加材を前記ベース材に接触させて前記溶加材の変形状態を計測する、
請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
前記変形状態計測手段は、既に形成したビードに隣接させてビードを形成する際に、既に形成したビードの表面に前記溶加材を接触させて前記溶加材の変形状態を計測する、
請求項1に記載の溶接装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の溶接装置によって、積層計画に基づいて前記ビードを繰り返し形成して積層造形物を造形する積層造形装置であって、
前記狙い位置補正手段は、前記積層計画における前記ビードの形成開始位置において、前記溶加材の先端位置の補正を行う、
積層造形装置。
【請求項5】
前記狙い位置補正手段は、前記積層計画に基づいて、前記積層造形物におけるオーバーハング部を造形する際の前記ビードの形成開始位置において、前記溶加材の先端位置の補正を行う、
請求項4に記載の積層造形装置。
【請求項6】
線状の溶加材を保持するトーチをマニピュレータによって移動させ、ビード形成予定位置に前記溶加材を溶融させてビードを形成する際に、前記溶加材の先端の狙い位置を位置決めする位置決め方法であって、
前記マニピュレータによる前記トーチの傾きに応じて生じる前記トーチの狙い位置のずれの情報である誤差情報を参照するマニピュレータ誤差参照処理と、
前記トーチに保持された前記溶加材の変形状態を計測する変形状態計測処理と、
前記誤差情報及び前記変形状態に基づいて、前記溶加材の先端位置を補正する狙い位置補正処理と、
を行う、
位置決め方法。
【請求項7】
前記変形状態計測処理において、ベース材に前記ビードを形成する際に、前記溶加材を前記ベース材に接触させて前記溶加材の変形状態を計測する、
請求項6に記載の位置決め方法。
【請求項8】
前記変形状態計測処理において、既に形成したビードに隣接させてビードを形成する際に、既に形成したビードの表面に前記溶加材を接触させて前記溶加材の変形状態を計測する、
請求項6に記載の位置決め方法。
【請求項9】
積層計画に基づいて前記ビードを繰り返し形成して積層造形物を造形する際に、
前記積層計画における前記ビードの形成開始位置において、前記狙い位置補正処理によって前記溶加材の先端位置の補正を行う、
請求項6~8のいずれか一項に記載の位置決め方法。
【請求項10】
前記積層計画に基づいて、前記積層造形物におけるオーバーハング部を造形する際の前記ビードの開始位置において、前記狙い位置補正処理によって前記溶加材の先端位置の補正を行う、
請求項9に記載の位置決め方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接装置、積層造形装置及び位置決め方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産手段としての3Dプリンタのニーズが高まっており、特に金属材料への適用については航空機業界等で実用化に向けて研究開発が行われている。金属材料を用いた3Dプリンタは、レーザやアーク等の熱源を用いて、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させて造形物を造形する。
【0003】
特許文献1には、ファンネル用プランジャーにおける溶滴が滴下されて溶着される面が常に略水平となり、且つ溶加材トーチと溶着される面とが所定の距離を保持するように、トーチ移動機構とワーク動作機構とを駆動制御して溶着ビードを形成する造形方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、トーチを傾けてビードを側方へ順に積層してオーバーハング形状の造形部を造形する場合、ビードの溶着位置にずれが発生することがある。この位置ずれの要因としては、トーチを傾けた際に生じる機械的な誤差や溶加材の曲り等の変形が考えらえる。
【0006】
上記特許文献1では、トーチを傾けることによって生じる位置ずれが抑えられるが、ワークの姿勢を複雑に変えるワーク動作機構が必要であり、設備費が嵩んでしまう。また、ワーク動作機構で姿勢を変更させて造形するため、大きな造形物を造形することが難しく、造形可能な造形物の大きさ等が制限される。しかも、溶加材の曲り等の変形による位置ずれを抑えることは困難である。
【0007】
そこで本発明は、設備費を抑えつつトーチの傾きによる位置ずれ及び溶加材の変形による位置ずれを抑えて良好にビードを形成することが可能な溶接装置、積層造形装置及び位置決め方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記構成からなる。
(1) 線状の溶加材を保持するトーチをマニピュレータによって移動させ、ビード形成予定位置に前記溶加材を溶融させてビードを形成する溶接装置であって、
前記マニピュレータによる前記トーチの傾きに応じて生じる前記トーチの狙い位置のずれの情報である誤差情報を参照するマニピュレータ誤差参照手段と、
前記トーチに保持された前記溶加材の変形状態を計測する変形状態計測手段と、
前記誤差情報及び前記変形状態に基づいて、前記溶加材の先端位置を補正する狙い位置補正手段と、
を備える、
溶接装置。
(2) 上記(1)の溶接装置によって、積層計画に基づいて前記ビードを繰り返し形成して積層造形物を造形する積層造形装置であって、
前記狙い位置補正手段は、前記積層計画における前記ビードの形成開始位置において、前記溶加材の先端位置の補正を行う、
積層造形装置。
(3) 線状の溶加材を保持するトーチをマニピュレータによって移動させ、ビード形成予定位置に前記溶加材を溶融させてビードを形成する際に、前記溶加材の先端の狙い位置を位置決めする位置決め方法であって、
前記マニピュレータによる前記トーチの傾きに応じて生じる前記トーチの狙い位置のずれの情報である誤差情報を参照するマニピュレータ誤差参照処理と、
前記トーチに保持された前記溶加材の変形状態を計測する変形状態計測処理と、
前記誤差情報及び前記変形状態に基づいて、前記溶加材の先端位置を補正する狙い位置補正処理と、
を行う、
位置決め方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、設備費を抑えつつトーチの傾きによる位置ずれ及び溶加材の変形による位置ずれを抑えて良好にビードを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】製造システムの構成例を示す模式的な概略構成図である。
【
図4】誤差情報の求め方を説明する図であって、(A)~(C)は、トーチの側面図である。
【
図5】変形状態計測処理における溶加材の変形状態の計測の仕方を説明する図であって、(A)~(C)は、基準となるアングル材の平面図である。
【
図6】狙い位置補正処理における位置補正の仕方を説明する図であって、(A)~(D)は、トーチの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、製造システム100の構成例を示す模式的な概略構成図である。
【0012】
本構成の積層造形物の製造システム100は、溶接ロボット11と、ロボットコントローラ13と、溶加材供給部15と、溶接電源19と、制御部21と、を備える。
【0013】
溶接ロボット11は、多関節ロボットからなるアクチュエータであり、先端軸にトーチ23が支持される。トーチ23の位置及び姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。トーチ23は、溶加材供給部15から連続供給される線状の溶加材(溶接ワイヤ)Mをトーチ先端から突出した状態に保持する。
【0014】
トーチ23は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが溶接部に供給される。アーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する積層造形物に応じて適宜選定される。
【0015】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ23は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。溶加材Mは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構によりトーチ23に送給される。そして、トーチ23を移動しつつ、連続送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、ベースプレート31上に溶加材Mの溶融凝固体である溶着ビード35が形成される。
【0016】
ベースプレート31は、鋼板等の金属板からなり、基本的には積層造形物Wの底面(最下層の面)より大きいものが使用される。このベースプレート31は、板状に限らず、ブロック体や棒状等、他の形状のベースであってもよい。
【0017】
溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビームやレーザを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビームやレーザにより加熱する場合、加熱量をさらに細かく制御でき、溶着ビードの状態をより適正に維持して、積層造形物Wの更なる品質向上に寄与できる。
【0018】
溶加材Mは、あらゆる市販の溶接ワイヤを用いることができる。例えば、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ(MAG)溶接及びミグ(MIG)溶接ソリッドワイヤ(JIS Z 3312)、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ(JIS Z 3313)等で規定されるワイヤを用いることができる。
【0019】
溶加材Mとしてチタンのような活性金属を用いることもできる。その場合、溶接時に大気との反応による酸化、窒化を回避するため、溶接部をシールドガス雰囲気にすることが必要となる。
【0020】
ロボットコントローラ13は、制御部21からの指示を受けて、溶接ロボット11の各部を駆動し、必要に応じて溶接電源19の出力を制御する。
【0021】
制御部21は、CPU、メモリ、ストレージ等を備えるコンピュータ装置により構成され、予め用意された駆動プログラム、又は所望の条件で作成した駆動プログラムを実行して、溶接ロボット11等の各部を駆動する。これにより、駆動プログラムに応じてトーチ23を移動させ、作成した積層計画に基づいてベースプレート31上に複数層の溶着ビード35を積層することで、多層構造の積層造形物Wが造形される。また、制御部21には、データベース17が接続されている。このデータベース17には、溶接ロボット11の姿勢によって生じる溶接ロボット11のトーチ23の狙い位置のずれの情報である誤差情報が予め格納されている。この誤差情報は、狙い位置補正処理を行う際に用いられる情報である。
【0022】
次に、製造システム100によって積層造形物Wを製造する場合について説明する。
図2は、ベースプレート31上の壁部33の側面に溶着ビード35を側方へ向かって順に形成して積層させてオーバーハング部37を造形する場合を例示したものである。
【0023】
図2に示すように、この壁部33に溶着ビード35を形成し、側方へ向かって順に積層させてオーバーハング部37を造形する場合、重力の影響で溶着ビード35が垂れないように、トーチ23を傾けながら積層させる。
【0024】
ところで、溶接ロボット11を駆動させてトーチ23を傾けながら溶着ビード35を形成すると、溶接の狙い位置にずれが生じ、溶着ビード35を積層計画に基づいた位置に形成されなくなることがある。この狙い位置の位置ずれの要因としては、溶接ロボット11がもつ機械的な誤差が考えられる。また、トーチ23へ送給されてトーチ23から突出された溶加材Mに曲り癖があると、溶加材Mの先端位置にもずれが生じる。したがって、積層計画に基づいて精度良く溶着ビード35を形成してオーバーハング部37を造形するには、溶接の狙い位置を厳密に管理する必要がある。
【0025】
このため、本実施形態では、溶着ビード35を形成する際に、溶接の狙い位置を補正して高精度に位置決めする。
【0026】
この位置決めを行うために、製造システム100は、
図3に示すように、制御部21が、マニピュレータ誤差参照手段25と、変形状態計測手段27と、狙い位置補正手段29とを備えている。
【0027】
次に、製造システム100の制御部21による狙い位置の位置決めの仕方について説明する。
【0028】
(マニピュレータ誤差参照処理)
まず、制御部21のマニピュレータ誤差参照手段25が、溶接ロボット11の姿勢によって生じる狙い位置のずれの情報である誤差情報を参照する。この誤差情報は、溶接ロボット11によってトーチ23を傾けた際に生じる狙い位置のずれの情報である。この誤差情報は、予め様々な角度にトーチ23を傾けて求めた位置ずれの情報であり、溶接ロボット11毎に求められてデータベース17に格納される。
【0029】
ここで、この誤差情報の求め方について説明する。
図4は、誤差情報の求め方を説明する図であって、(A)~(C)は、トーチ23の側面図である。
【0030】
図4(A)に示すように、狙い位置の基準となる基準針Nbを立設させ、この基準針Nbの先端を、水平方向(X,Y)の座標及び鉛直方向(Z)の座標における基準位置(x0,y0,z0)とする。そして、トーチ23に測定針Nmを取り付け、溶接ロボット11によってトーチ23の姿勢を垂直にし、測定針Nmの先端を基準針Nbの先端に接触させるタッチセンシングを行う。
【0031】
次に、
図4(B)に示すように、溶接ロボット11を駆動させてトーチ23を角度θで傾ける。すると、溶接ロボット11によって傾けられたトーチ23は、溶接ロボット11の機械的な誤差による影響で位置ずれする。これにより、トーチ23に取り付けた測定針Nmの先端が基準針Nbの先端から離れる。
【0032】
この状態から、
図4(C)に示すように、溶接ロボット11を駆動させ、測定針Nmの先端を基準針Nbの先端に接触させるタッチセンシングを行う。これにより、水平方向(X,Y)の座標及び鉛直方向(Z)の座標における計測位置(x1,y1,z1)を求める。
【0033】
そして、基準位置(x0,y0,z0)と計測位置(x1,y1,z1)との差分からなる位置ずれ量(x0-x1,y0-y1,z0-z1)を算出し、トーチ23の角度θと位置ずれ量(x0-x1,y0-y1,z0-z1)とを関連付けた誤差情報(Δxθ,Δyθ,Δzθ)をデータベース17に格納する。
【0034】
なお、上記の誤差情報の抽出は、測定針Nmを用いずに、変形のない溶加材Mを基準針Nbにタッチセンシングさせて行ってもよい。
【0035】
(変形状態計測処理)
次に、制御部21の変形状態計測手段27が、トーチ23に保持された溶加材Mの変形状態を計測する。
【0036】
溶加材Mの変形状態は、この溶加材Mの送給経路、溶接ロボット11の姿勢あるいは溶加材M自体が有する捻じれの開放等によって変化するため、誤差情報のようにデータベース化することが難しい。このため、この溶加材Mの変形状態は、狙い位置の位置決めを行う際に、その都度計測する。
【0037】
ここで、この溶加材Mの変形状態計測処理の具体的な手法の一例について説明する。
図5は、変形状態計測処理における溶加材Mの変形状態の計測の仕方を説明する図であって、(A)~(C)は、基準となるアングル材41の平面図である。
【0038】
図5に示すように、変形状態計測処理には、例えば、アングル材41を用い、溶加材Mの先端位置と、変形していない場合の正規の位置(
図5における一点鎖線で示す)とのずれ量を計測する。
【0039】
このアングル材41は、第1壁部43と、第2壁部45とを備えたL型のアングル材である。これらの第1壁部43及び第2壁部45は、互いに直角に配置されており、例えば、水平面内において、第1壁部43をX方向に直交させ、第2壁部45をY方向に直交させた状態で配置させる。
【0040】
このアングル材41を用いて溶加材Mの変形状態を計測する場合、まず、
図5(A)に示すように、溶接ロボット11によってトーチ23を移動させ、トーチ23に保持された溶加材Mの先端をアングル材41における第1壁部43と第2壁部45との隅部に配置させる。
【0041】
次に、
図5(B)に示すように、溶接ロボット11によってトーチ23を移動させ、溶加材Mを第1壁部43に接触させ、溶加材MのX方向における先端の位置ずれ量を計測する。
【0042】
さらに、
図5(C)に示すように、溶接ロボット11によってトーチ23を移動させ、溶加材Mを第2壁部45に接触させ、溶加材MのY方向における先端の位置ずれ量を計測する。
【0043】
また、アングル材41の上端に溶加材Mをタッチセンシングすることにより、溶加材Mの鉛直方向であるZ方向における先端における位置ずれ量を計測する。
【0044】
このように、座標が既知であるアングル材41を用いて溶加材Mの変形状態を計測することにより、溶加材Mの曲がり等の変形に起因したずれ量とずれ方向を特定することができる。これにより、溶加材Mの変形による位置ずれ量からなる変形状態(Δxw,Δyw,Δzw)を求める。
【0045】
なお、タッチセンシングによる溶加材Mの変形状態の計測としては、アングル材41を用いずに、ベースプレート31に溶加材Mをタッチセンシングさせても良い。このように、ベースプレート31に溶加材Mを接触させて溶加材Mの変形状態を計測すれば、基準となる別途のアングル材41などを用いることなく、溶加材Mの変形状態の計測を容易に行うことができる。
【0046】
また、既に形成した溶着ビード35に溶加材Mをタッチセンシングさせてもよい。この場合も基準となる別途のアングル材41などを用いることなく、溶加材Mの変形状態の計測を容易に行うことができる。しかも、溶接ロボット11を駆動させてトーチ23を別途の基準位置へ移動させる距離及び時間を短縮させることができる。
【0047】
また、溶加材Mの変形状態の計測の他の方法としては、例えば、トーチ23に保持された溶加材Mをカメラによって複数の方向から撮像し、その複数の画像に基づいて溶加材Mの曲がり等の変形に起因したずれ量とずれ方向を特定してもよい。
【0048】
(狙い位置補正処理)
次に、制御部21の狙い位置補正手段29が、溶着ビード35を形成する際に傾けるトーチ23の角度θに対応した誤差情報をデータベース17から引き出し、この誤差情報と、変形状態検出処理によって計測した溶加材Mの変形状態とに基づいて、溶着ビード35を形成する際の溶加材Mの先端の狙い位置を補正する。
【0049】
ここで、この狙い位置補正処理による具体的な補正例について説明する。
図6は、狙い位置補正処理における位置補正の仕方を説明する図であって、(A)~(D)は、トーチ23の模式図である。
【0050】
図6(A)に示すように、トーチ23を垂直に配置し、溶接時の狙い位置P(x,y,z)にトーチ23の狙い位置Ptを合わせる。このとき、溶加材Mに変形があると、溶加材Mの先端位置Pmが狙い位置P,Ptから外れる。
【0051】
この状態から、
図6(B)に示すように、溶接ロボット11によってトーチ23を角度θで傾ける。すると、トーチ23の狙い位置Ptが溶接時の狙い位置Pに対して位置ずれする。
【0052】
ここで、狙い位置補正手段29は、角度θでトーチ23を傾けた際の誤差情報(Δxθ,Δyθ,Δzθ)をデータベース17から引き出す。そして、狙い位置補正手段29は、
図6(C)に示すように、引き出した誤差情報(Δxθ,Δyθ,Δzθ)に基づいて、溶接ロボット11を補正座標(x+Δxθ,y+Δyθ,z+Δzθ)へ移動させ、溶接時の狙い位置Pにトーチ23の狙い位置Ptを合わせる。
【0053】
さらに、狙い位置補正手段29は、変形状態計測処理で計測した溶加材Mの変形状態(Δxw,Δyw,Δzw)に基づいて、トーチ23が角度θで傾斜した際の溶加材Mの先端のずれ量(Δxwθ,Δywθ,Δzwθ)を次式に基づいて算出する。
【0054】
【0055】
そして、この溶加材Mの先端のずれ量(Δxwθ,Δywθ,Δzwθ)に基づいて、溶接ロボット11を補正座標(x+Δxθ-Δxwθ,y+Δyθ-Δywθ,z+Δzθ-Δzwθ)へ移動させ、溶接時の狙い位置Pに溶加材Mの先端位置Pmを合わせる。
【0056】
以上、説明したように、本構成例によれば、マニピュレータである溶接ロボット11の機械的な誤差及び溶加材Mの変形による位置ずれを補正して溶加材Mの先端を高精度に位置決めすることができる。これにより、溶着ビード35の形成精度を高め、溶接品質及び溶着ビード35から造形する造形物の造形品質を高めることができる。
【0057】
そして、積層計画における溶着ビード35の形成開始位置において、溶加材Mの先端位置の補正を行うことにより、溶加材Mの先端位置のずれを原因とするアークの発生の不具合などのトラブルを抑制することができる。
【0058】
特に、オーバーハング部37を造形する際に位置補正を行うことで、精度が要求されるオーバーハング部37での溶着ビード35の形成位置のずれを抑制することができる。また、位置補正をオーバーハング部37の造形時に限定して行うことにより、位置補正に要する手間を抑えて生産性を高めることができる。
【0059】
なお、上記構成例では、溶着ビード35を繰り返し形成して積層させることにより積層造形物Wを造形する場合を例示したが、本発明は、例えば、隅肉溶接等の溶接におけるビードの形成時においても適用可能である。
【0060】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0061】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 線状の溶加材を保持するトーチをマニピュレータによって移動させ、ビード形成予定位置に前記溶加材を溶融させてビードを形成する溶接装置であって、
前記マニピュレータによる前記トーチの傾きに応じて生じる前記トーチの狙い位置のずれの情報である誤差情報を参照するマニピュレータ誤差参照手段と、
前記トーチに保持された前記溶加材の変形状態を計測する変形状態計測手段と、
前記誤差情報及び前記変形状態に基づいて、前記溶加材の先端位置を補正する狙い位置補正手段と、
を備える、溶接装置。
この構成の溶接装置によれば、マニピュレータの機械的な誤差及び溶加材の変形による位置ずれを補正して溶加材の先端を高精度に位置決めすることができる。これにより、ビードの形成精度を高め、溶接品質及びビードから造形する造形物の造形品質を高めることができる。
【0062】
(2) 前記変形状態計測手段は、ベース材に前記ビードを形成する際に、前記溶加材を前記ベース材に接触させて前記溶加材の変形状態を計測する、(1)に記載の溶接装置。
この構成の溶接装置によれば、ベース材に溶加材を接触させて溶加材の変形状態を計測するので、基準となる別途のアングル材などを用いることなく、溶加材の変形状態の計測を容易に行うことができる。
【0063】
(3) 前記変形状態計測手段は、既に形成したビードに隣接させてビードを形成する際に、既に形成したビードの表面に前記溶加材を接触させて前記溶加材の変形状態を計測する、(1)に記載の溶接装置。
この構成の溶接装置によれば、既に形成したビードの表面に溶加材を接触させて溶加材の変形状態を計測するので、基準となる別途のアングル材などを用いることなく、溶加材の変形状態の計測を容易に行うことができる。また、マニピュレータを駆動させてトーチを別途の基準位置へ移動させる距離及び時間を短縮させることができる。
【0064】
(4) (1)~(3)のいずれか一つに記載の溶接装置によって、積層計画に基づいて前記ビードを繰り返し形成して積層造形物を造形する積層造形装置であって、
前記狙い位置補正手段は、前記積層計画における前記ビードの形成開始位置において、前記溶加材の先端位置の補正を行う、積層造形装置。
この構成の積層造形装置によれば、ビードの形成開始時に溶加材の先端位置の補正を行うことができ、溶加材の先端位置のずれを原因とするアークの発生の不具合などのトラブルを抑制することができる。
【0065】
(5) 前記狙い位置補正手段は、前記積層計画に基づいて、前記積層造形物におけるオーバーハング部を造形する際の前記ビードの形成開始位置において、前記溶加材の先端位置の補正を行う、(4)に記載の積層造形装置。
この構成の積層造形装置によれば、オーバーハング部を造形する際に位置補正を行うので、精度が要求されるオーバーハング部でのビードの形成位置のずれを抑制することができる。また、位置補正をオーバーハング部の造形時に限定して行うことにより、位置補正に要する手間を抑えて生産性を高めることができる。
【0066】
(6) 線状の溶加材を保持するトーチをマニピュレータによって移動させ、ビード形成予定位置に前記溶加材を溶融させてビードを形成する際に、前記溶加材の先端の狙い位置を位置決めする位置決め方法であって、
前記マニピュレータによる前記トーチの傾きに応じて生じる前記トーチの狙い位置のずれの情報である誤差情報を参照するマニピュレータ誤差参照処理と、
前記トーチに保持された前記溶加材の変形状態を計測する変形状態計測処理と、
前記誤差情報及び前記変形状態に基づいて、前記溶加材の先端位置を補正する狙い位置補正処理と、
を行う、位置決め方法。
この構成の位置決め方法によれば、マニピュレータの機械的な誤差及び溶加材の変形による位置ずれを補正して溶加材の先端を高精度に位置決めすることができる。これにより、ビードの形成精度を高め、溶接品質及びビードから造形する造形物の造形品質を高めることができる。
【0067】
(7) 前記変形状態計測処理において、ベース材に前記ビードを形成する際に、前記溶加材を前記ベース材に接触させて前記溶加材の変形状態を計測する、(6)に記載の位置決め方法。
この構成の位置決め方法によれば、ベース材に溶加材を接触させて溶加材の変形状態を計測するので、基準となる別途のアングル材などを用いることなく、溶加材の先端の変形状態の計測を容易に行うことができる。
【0068】
(8) 前記変形状態計測処理において、既に形成したビードに隣接させてビードを形成する際に、既に形成したビードの表面に前記溶加材を接触させて前記溶加材の変形状態を計測する、(6)に記載の位置決め方法。
この構成の位置決め方法によれば、既に形成したビードの表面に溶加材を接触させて溶加材の先端の変形状態を計測するので、基準となる別途のアングル材などを用いることなく、溶加材の変形状態の計測を容易に行うことができる。また、マニピュレータを駆動させてトーチを別途の基準位置へ移動させる距離及び時間を短縮させることができる。
【0069】
(9) 積層計画に基づいて前記ビードを繰り返し形成して積層造形物を造形する際に、
前記積層計画における前記ビードの形成開始位置において、前記狙い位置補正処理によって前記溶加材の先端位置の補正を行う、(6)~(8)のいずれか一つに記載の位置決め方法。
この構成の位置決め方法によれば、ビードの形成開始時に溶加材の先端位置の補正を行うことができ、溶加材の先端位置のずれを原因とするアークの発生の不具合などのトラブルを抑制することができる。
【0070】
(10) 前記積層計画に基づいて、前記積層造形物におけるオーバーハング部を造形する際の前記ビードの開始位置において、前記狙い位置補正処理によって前記溶加材の先端位置の補正を行う、(9)に記載の位置決め方法。
この構成の位置決め方法によれば、オーバーハング部を造形する際に位置補正を行うので、精度が要求されるオーバーハング部でのビードの形成位置のずれを抑制することができる。また、位置補正をオーバーハング部の造形時に限定して行うことにより、位置補正に要する手間を抑えて生産性を高めることができる。
【符号の説明】
【0071】
11 溶接ロボット(マニピュレータ)
23 トーチ
25 マニピュレータ誤差参照手段
27 変形状態計測手段
29 狙い位置補正手段
31 ベースプレート(ベース材)
35 溶着ビード(ビード)
37 オーバーハング部
100 製造システム(溶接装置,積層造形装置)
M 溶加材
W 積層造形物