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特開2022-189407アルミニウム合金膜およびこれを用いた半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189407
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】アルミニウム合金膜およびこれを用いた半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/28 20060101AFI20221215BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20221215BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20221215BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20221215BHJP
   H01L 29/417 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
H01L21/28 301R
H01L29/78 653A
H01L29/78 652T
H01L29/78 652M
H01L29/78 658J
H01L21/28 301B
H01L21/28 301S
H01L29/50 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097965
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津間 博基
【テーマコード(参考)】
4M104
【Fターム(参考)】
4M104AA01
4M104AA03
4M104BB02
4M104BB03
4M104BB04
4M104BB05
4M104BB19
4M104CC01
4M104DD37
4M104EE06
4M104EE18
4M104FF13
4M104GG08
4M104GG18
4M104HH01
4M104HH16
4M104HH20
(57)【要約】
【課題】膜自身のクラックを抑制する膜硬度およびこれに覆われる他の膜にかかる応力緩和を両立可能なアルミニウム合金膜、並びにこれを用いた半導体装置を実現する。
【解決手段】少なくとも、0.9重量%~1.1重量%のSiと、0.1重量%~2.3重量%のMgを含有し、Al結晶中にMgシリサイド結晶物を含有するAl-Si-Mg合金膜とする。また、半導体装置は、基板2の一面2aにゲートトレンチ3、ゲート絶縁膜4およびゲート電極5からなる複数のトレンチゲート構造と、トレンチゲート構造を覆う層間絶縁膜6と、層間絶縁膜6を覆う電極膜7と、電極膜7を覆う絶縁層8、導電層9とを有する。この電極膜7は、上記のAl-Si-Mg合金膜により構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワー半導体素子の電極に用いられるアルミニウム合金膜であって、
少なくとも、0.9重量%~1.1重量%のSiと、0.1重量%~2.3重量%のMgを含有するAl-Si-Mg合金膜であり、
Al結晶中にMgシリサイド結晶物を含有するアルミニウム合金膜。
【請求項2】
トレンチゲート構造の縦型半導体素子を備えた半導体装置であって、
表裏の関係にある一面(2a)および他面(2b)を有し、シリコンまたは炭化珪素で構成された基板(2)と、
前記一面から前記他面に向かって延設された溝であって、互いに離れて配置される複数のゲートトレンチ(3)と、
前記ゲートトレンチの内壁面を覆うゲート絶縁膜(4)と、
前記ゲート絶縁膜の上に設けられ、前記ゲートトレンチを充填するゲート電極(5)と、
前記一面に設けられ、複数の前記ゲートトレンチを覆いつつ、前記一面のうち隣接する前記ゲートトレンチの間における一部の領域を露出させるコンタクトホールを有する層間絶縁膜(6)と、
前記層間絶縁膜の上に設けられる電極膜(7)と、
前記電極膜の上に設けられ、前記電極膜の一部を露出させる開口部(81)を有する絶縁層(8)と、
前記開口部に配置され、前記電極膜のうち前記絶縁層から露出した部分を覆う導電層(9)と、を備え、
前記電極膜は、少なくとも、0.9重量%~1.1重量%のSiと、0.1重量%~2.3重量%のMgを含有するAl-Si-Mg合金によりなり、Al結晶中にMgシリサイド結晶物を含有するアルミニウム合金層を有してなる、半導体装置。
【請求項3】
前記電極膜は、すべてが前記アルミニウム合金層により構成されている、請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記電極膜は、前記層間絶縁膜の側から第1層(71)、第2層(72)が積層されてなり、
前記第1層は、前記アルミニウム合金層であり、
前記第2層は、前記第1層よりも膜硬度が大きいアルミニウム合金で構成されている、請求項2に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記電極膜は、前記層間絶縁膜の側から第1層(71)、第2層(72)、第3層(73)が積層されてなり、
前記第2層は、前記アルミニウム合金層であり、
前記第1層および前記第3層は、前記第2層よりも膜硬度が大きいアルミニウム合金で構成されている、請求項2に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記電極膜は、前記層間絶縁膜の側から第1層(71)、第2層(72)が積層されてなり、
前記第2層は、前記アルミニウム合金層であり、
前記第1層は、前記第2層よりも膜硬度が大きいアルミニウム合金で構成されている、請求項2に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金膜およびこれを用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Si(シリコン)やSiC(炭化珪素)を主成分とする半導体基板を用いたパワー半導体装置であって、電極膜としてアルミニウム合金膜を用いたものが知られている。この種の半導体装置は、例えば、車載用途等の分野において、装置の小型化が進められている。しかし、半導体装置の小型化が進むと、構成部材である半導体素子やその電極も小面積化されるため、電極におけるマイグレーションの発生や抵抗増加による発熱量の増大が課題となる。
【0003】
上記の課題を解決する手法としては、例えば特許文献1に記載のAl(アルミニウム)合金膜により電極を構成することが提案されている。このAl合金膜は、主としてAl-Cu(銅)によりなり、Nd(ネオジム) 、Gd(ガドリニウム) 、La(ランタン)及びMg(マグネシウム)からなる群Xの少なくとも1つが添加された構成とされ、低抵抗されつつも、高い膜硬度が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-102896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本発明者らは、この種の半導体装置であって、電極膜、当該電極膜を部分的に覆う絶縁層、および当該電極膜のうち当該絶縁層から露出する部分を覆う導電層を有した半導体素子を備える構成における小型化について検討を行った。その結果、電極膜のうち絶縁層および導電層に接する点(以下、便宜的に「三重点」という)に熱応力が集中してしまい、クラックが生じることが判明した。
【0006】
そこで、本発明者らが、電極膜を特許文献1に記載のAl-Cu-Xの合金膜により構成したところ、電極膜のうち三重点におけるクラックが抑制された。しかし、その一方で、当該電極膜に覆われた他の層におけるクラックが生じる新たな課題が判明した。つまり、上記構成の半導体装置の信頼性をさらに向上させるためには、電極膜におけるクラックを抑制するための膜硬度と、これに覆われる他の膜にかかる応力の緩和とを両立することが求められる。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑み、膜自身のクラックを抑制する膜硬度、およびこれに覆われる他の膜にかかる応力緩和を両立可能なアルミニウム合金膜、並びにこれを電極膜として用い、信頼性が向上した半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載のアルミニウム合金膜は、パワー半導体素子の電極用に用いられるアルミニウム合金膜であって、少なくとも、0.9重量%~1.1重量%のSiと、0.1重量%~2.3重量%のMgを含有するAl-Si-Mg合金膜であり、Al結晶中にMgシリサイド結晶物を含有する。
【0009】
このような構成とされ、Al結晶中にMgシリサイド結晶物を含有するアルミニウム合金膜は、自身におけるクラックを抑制可能であって、隣接する他の膜にかかる応力を緩和できる膜硬度となる。
【0010】
請求項2に記載の半導体装置は、トレンチゲート構造の縦型半導体素子を備えた半導体装置であって、表裏の関係にある一面(2a)および他面(2b)を有し、シリコンまたは炭化珪素で構成された基板(2)と、一面から他面に向かって延設された溝であって、互いに離れて配置される複数のゲートトレンチ(3)と、ゲートトレンチの内壁面を覆うゲート絶縁膜(4)と、ゲート絶縁膜の上に設けられ、ゲートトレンチを充填するゲート電極(5)と、一面に設けられ、複数のゲートトレンチを覆いつつ、一面のうち隣接するゲートトレンチの間における一部の領域を露出させるコンタクトホールを有する層間絶縁膜(6)と、層間絶縁膜の上に設けられる電極膜(7)と、電極膜の上に設けられ、電極膜の一部を露出させる開口部(81)を有する絶縁層(8)と、開口部に配置され、電極膜のうち絶縁層から露出した部分を覆う導電層(9)と、を備え、電極膜は、少なくとも、0.9重量%~1.1重量%のSiと、0.1重量%~2.3重量%のMgを含有するAl-Si-Mg合金によりなり、Al結晶中にMgシリサイド結晶物を含有するアルミニウム合金層を有してなる。
【0011】
この半導体装置は、トレンチゲート構造であって、基板の一面から他面に延設されたトレンチゲート構造部分が層間絶縁膜に覆われ、層間絶縁膜の上に電極膜、当該電極膜の一部を覆い、開口部を有する絶縁層、および開口部において電極膜を覆う導電層を有する。この電極膜は、少なくとも一部が自身におけるクラックを抑制可能であって、隣接する他の膜にかかる応力を緩和できる膜硬度とされたアルミニウム合金層を有してなる。そのため、この半導体装置は、電極膜のうち絶縁層および導電層と接触する三重点を起点するクラックが抑制されると共に、これに覆われた層間絶縁膜にかかる応力が緩和され、層間絶縁膜におけるクラックも抑制された構造となる。
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態の半導体装置を示す断面図である。
図2】比較例の半導体装置における電極膜のクラックを示す図である。
図3】比較例の半導体装置における層間絶縁膜のクラックを示す図である。
図4】組成の異なる複数のアルミニウム合金のひずみ-引張特性を示すグラフである。
図5】AlSi合金におけるMg含有量と膜硬度との関係を示す図である。
図6】AlSi合金におけるMg含有量と層間絶縁膜のひずみ量との関係を示す図である。
図7】Al-Si-Mg合金膜のSEM(Scanning Electron Microscope)観察結果であって、Al結晶中におけるMgシリサイド結晶物の存在を示す図である。
図8】第2実施形態の半導体装置を示す断面図である。
図9】第3実施形態の半導体装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0014】
(第1実施形態)
第1実施形態の半導体装置1について、図1を参照して説明する。
【0015】
〔基本構成〕
本実施形態の半導体装置1は、例えば、トレンチゲート構造の縦型半導体素子を有した構成とされる。本明細書では、MOSFETが形成された縦型のパワー半導体素子が形成された場合を代表例として説明するが、この素子構造に限定されるものではない。
【0016】
半導体装置1は、例えば図1に示すように、基板2と、基板2に形成されたゲートトレンチ3、ゲート絶縁膜4およびゲート電極5によりなるトレンチゲート構造と、層間絶縁膜6と、電極膜7と、絶縁層8と、導電層9とを備える。
【0017】
基板2は、例えば、Si(シリコン)やSiC(炭化珪素)を用いて構成される半導体基板である。基板2は、表裏の関係にある一面2aおよび他面2bを有する板状とされ、例えば、MOSFETが形成される領域では、他面2bから一面2aに向かって、SiCからなるn型層、n型層、n型層、p型層、n型層の積層構成となっている。基板2は、例えば、他面2bを有するn型基板上に、上記した各層がエピタキシャル成長により積層させることで得られる。
【0018】
基板2のうち他面2b側のn型層は、例えばn型不純物濃度が1.0×1019/cmとされ、表面が(0001)Si面となっている。n型層上に積層されるn型層は、例えばn型不純物濃度が0.5~2.0×1016/cmとされている。n型層上に積層されるn型層は、例えば、n型不純物濃度が8×1016/cm程度とされ、n型層よりも高濃度(つまり低抵抗)とされ、より広範囲に電流を分散して流すことで、JFET抵抗を低減する役割を果たす。また、n型層は、例えば、厚みが0.5μmとされ、n型層と共にドリフト層を構成する。
【0019】
基板2のうちn型層上に積層されるp型層は、例えば、チャネル領域が形成される部分であって、p型不純物濃度が例えば2.0×1017/cm程度とされ、厚みが300nmで構成される。基板2のうち一面2a側のn型層は、表層部におけるn型不純物濃度が例えば2.5×1018~1.0×1019/cmといった具合にn型層よりも高不純物濃度とされ、厚さ0.5μm程度で構成される。基板2は、例えば、MOSFETが形成される領域を囲む、図示しない環状のガードリングが形成されている。基板2は、一面2aから他面2bに向かって延設された溝であって、一面2aの最表面に位置するn型層およびp型層を貫通し、n型層にまで達するゲートトレンチ3が形成されている。
【0020】
ゲートトレンチ3は、例えば、基板2の一面2aに複数設けられ、互いに距離を隔てて配置される。ゲートトレンチ3は、例えば、1.0μmのピッチで配置され、幅に対する深さの比であるアスペクト比が2以上とされている。複数のゲートトレンチ3は、例えば、マスクを用いてRIE(Reactive Ion Etching)などの異方性エッチングにより形成され、一面2aに対する法線方向から見たとき、直線状の溝とされ、これらが平行に等間隔で並べられたストライプ状とされる。複数のゲートトレンチ3は、その内壁面にゲート絶縁膜4が形成されている。
【0021】
ゲート絶縁膜4は、ゲートトレンチ3の内壁面に沿って設けられ、これを覆う絶縁膜であり、例えば、SiOによって構成される。ゲート絶縁膜4は、例えば、TEOS(テトラエトキシシラン)をガス材料として用い、CVD(chemical Vapor Deposition)により厚み100nm程度で形成される。ゲート絶縁膜4は、ゲート絶縁膜4の表面は、ゲートトレンチ3を充填するゲート電極5により覆われている。
【0022】
ゲート電極5は、例えば、n型不純物としてP(燐)が1.0×1017~1.0×1020/cm程度の濃度で含有するドープドPoly-Siで構成されている。ゲート電極5は、例えば、CVDによりドープドPoly-Siを成膜した後、少なくともゲートトレンチ3内にPoly-Siを残すようにエッチバックすることで形成される。
【0023】
このように、基板2の一面2aには、ゲートトレンチ3、ゲート絶縁膜4およびゲート電極5によりなるトレンチゲート構造が所定のピッチで複数設けられている。基板2は、一面2aのうちトレンチゲート構造を覆う層間絶縁膜6が形成されている。
【0024】
層間絶縁膜6は、例えば、基板2の一面2aのうちトレンチゲート構造を覆うと共に、隣接するトレンチゲート構造の間の領域を露出させるコンタクトホールを有する所定のパターン形状とされた絶縁膜である。層間絶縁膜6は、例えば、CVDにより厚み300nm~900nmで形成され、BPSG(Boron Phosphorus Silicon Glass)などの絶縁性材料により構成されている。層間絶縁膜6は、ゲート電極5と電極膜7とを電気的に絶縁すると共に、電極膜7により覆われている。
【0025】
電極膜7は、本実施形態では、全域が少なくとも0.9重量%~1.1重量%のSiと、0.1重量%~2.3重量%のMgを含有するAl-Si-Mg合金膜で構成されたアルミニウム合金層となっている。電極膜7は、上記組成のAl-Si-Mg合金膜で構成されることにより、絶縁層8および導電層9の双方に接触する三重点を起点とするクラックの発生抑制および層間絶縁膜6にかかる応力緩和が両立する膜硬度となっている。また、電極膜7は、上記組成のアルミニウム合金層であって、Al結晶中にMgシリサイド結晶物が存在する構成となっている。これらの詳細については後述する。電極膜7は、層間絶縁膜6を覆いつつ、そのコンタクトホールを埋めるように形成されており、基板2の一面2aとオーミック接触している。電極膜7は、例えば、上記した組成のAl-Si-Mg合金によりなるターゲット材を用意し、スパッタリング装置により成膜することで形成される。スパッタリングの場合、例えば、DC電力6.0~12.0kW、真空度0.2Pa、成膜温度200~350℃の条件で電極膜7を成膜することができるが、この成膜条件に限定されるものではない。電極膜7は、一部が絶縁層8により覆われると共に、絶縁層8の開口部81から露出する部分が導電層9に覆われている。
【0026】
絶縁層8は、例えば、ポリイミドなどの任意の絶縁性樹脂材料により構成され、開口部81を有する所定のパターン形状となっている。絶縁層8は、例えば、スピンコート法ななどの湿式成膜法により成膜された後、フォトグラフィーエッチング法などによりパターニングされることで形成される。絶縁層8は、例えば、厚みが10.0μmとされ、導電層9の厚みよりも大きくなっている。
【0027】
導電層9は、例えば、Ni(ニッケル)などの導電性の金属材料もしくはその合金で構成され、電極膜7のうち開口部81により露出した部分と電気的に接続されている。導電層9は、電極膜7と共に、例えば、MOSFETが形成された領域におけるソース電極として機能する。導電層9は、電極膜7を覆うカバー層であり、例えば、厚みが4.5μm程度とされる。
【0028】
なお、基板2の他面2bには、電極膜7を第1電極として、第1電極と対をなす図示しない第2電極が形成されている。電極膜7がソース電極である場合、第2電極は、ドレイン電極となる。
【0029】
以上が、本実施形態の半導体装置1の基本的な構成である。
【0030】
〔電極膜〕
次に、電極膜7の組成およびその効果について、電極膜7に相当する膜が従来のアルミニウム合金膜で構成された比較例の半導体装置と対比して説明する。
【0031】
以下、説明の便宜上、Alにα重量%の元素X1が添加された構成のアルミニウム合金膜を「Al-αwt%X1」と称し、Al-αwt%X1にβ重量%の元素X2が添加された構成のアルミニウム合金膜を「Al-αwt%X1-βwt%X2」と称する。また、Alに0.9~1.1重量%のSi、0.1~2.3重量%のMgを添加したアルミニウム合金膜を総称して、単に「Al-Si-Mg合金膜」と称する。
【0032】
比較例の半導体装置100は、例えば図2に示すように、基本的な構成については本実施形態の半導体装置1と同じであるが、電極膜7に相当する膜がAl-1wt%Siで構成された電極膜M1となっている。電極膜M1は、Al-Si-Mg合金膜よりも膜硬度が小さく、層間絶縁膜6にかかる応力をより緩和しやすい組成のアルミニウム合金膜である。
【0033】
しかし、本発明者らが、比較例の半導体装置100について冷熱サイクルによる信頼性評価試験を実施したところ、電極膜M1のうち絶縁層8および導電層9の双方に接触する部分である三重点TPを起点とするクラックが生じることが判明した。これは、三重点TPに応力が集中し、電極膜M1の膜硬度では当該応力に耐え切れなかったことが原因と考えられる。
【0034】
そこで、本発明者らは、例えば図3に示すように、電極膜M1よりも膜硬度が大きいアルミニウム合金膜で構成された電極膜M2を備える比較例の半導体装置101を試作し、同様の信頼性評価試験を行った。この電極膜M2は、例えば、Al-1%Cuで構成されている。信頼性評価試験の結果、比較例の半導体装置101は、電極膜M2におけるクラックが生じない一方で、これに覆われた層間絶縁膜6にクラックが生じた。これは、電極膜M2の膜硬度が大きくなり、電極膜M2におけるクラックを抑制できる一方で、膜が硬すぎることで応力緩和の作用が弱まり、層間絶縁膜6に応力が集中したことが原因と考えられる。
【0035】
上記の結果は、電極膜におけるクラック抑制および層間絶縁膜6にかかる応力緩和を両立可能な膜硬度に調整する必要があることを示している。
【0036】
ここで、組成の異なる複数のアルミニウム合金膜について、ひずみ-引張特性を評価した結果を図4に示す。図4では、横軸が真ひずみ(True strain)であり、縦軸が真応力(True stress)である。
【0037】
Al-1%Siは、真ひずみが0から0.01になるにつれて真応力が約50MPa程度まで上昇するが、真ひずみが0.01を超えると真応力が約60MPa程度であった。Al-1wt%Siで構成された電極膜M1は、軟らかく脆い性質のアルミニウム合金であることで、電極膜M1にクラックが生じたと考えられる。
【0038】
Al-1wt%Cuは、真ひずみが0から0.01になるにつれて真応力が約320MPa程度まで上昇し、真ひずみが0.01を超えると真応力が約380MPa程度であった。Al-1wt%Cuで構成された電極膜M2は、Al-1wt%Siよりも硬い性質のアルミニウム合金であることで、電極膜M2にクラックが生じないものの、応力緩和の作用が弱まったと考えられる。
【0039】
Al-5wt%Mgは、真ひずみが0から0.01になるにつれて真応力が約630MPa程度まで上昇し、真ひずみが0.01を超えても真応力が緩やかに上昇し、真ひずみが0.05では真応力が約720MPa程度であった。Al-5wt%Mgは、Al-1wt%Cuよりもさらに硬い性質のアルミニウム合金膜であり、これにより電極膜を形成した場合には、Al-1wt%Cuと同様の結果になると考えられる。
【0040】
よって、電極膜におけるクラック抑制と層間絶縁膜6にかかる応力緩和とを両立するためには、例えば、Al-1wt%SiとAl-1wt%Cuとの中間になるような歪み-引張特性を有するアルミニウム合金膜にすればよい。
【0041】
本発明者らは、鋭意検討の結果、Al-Si-Mg合金膜とすることで、上記の両立が可能であることを見出した。例えば、Al-1wt%Si-2wt%Mgは、真ひずみが0から0.02になるにつれて真応力が約150MPa程度まで上昇し、その後、真ひずみがほぼ一定であった。このような特性を有するAl-Si-Mg合金膜によりなる電極膜7を備える半導体装置1について、比較例の半導体装置100と同様の信頼性評価試験を行ったところ、電極膜7および層間絶縁膜6のいずれにおいてもクラック発生は生じなかった。
【0042】
続いて、Al-Si-Mg合金膜におけるMg含有量と当該合金膜の膜硬度との関係について、図5を参照して説明する。
【0043】
なお、図5に示す結果は、シリコン基板に、Al-Si合金膜またはMg含有量を変えたAl-Si-Mg合金膜を5.0μmで成膜した評価サンプルを作製し、ナノインデーション測定を行うことで得られたものである。また、この評価サンプルのアルミニウム合金膜は、Alに0.9重量%~1.1重量%のSiが添加されたAl-Siをベースとし、Mgの含有量を変えたターゲット材を用いたスパッタリングにより成膜されたものである。
【0044】
Mgを含有しないAl-Si合金膜は、膜硬度が約0.78GPaであった。Al-Si-Mg合金膜は、Mg含有量が0.5重量%では膜硬度が約0.66GPa、Mg含有量が2.5重量%では推定値であるが、膜硬度が約0.90GPaであった。なお、図5において破線で示す曲線は、これらの結果を最小二乗法により曲線近似することで得られたものである。本発明者らの検討の結果、自身のクラックを抑制するために必要な膜硬度は、0.6~0.8GPaであった。この条件を満たすMg含有量は、2.3重量%以下である。
【0045】
次いで、Al-Si-Mg合金膜におけるMg含有量と層間絶縁膜6のひずみ量との関係について、図6を参照して説明する。
【0046】
なお、図6に示す結果は、CAE解析を用いたシミュレーション計算により得られたものである。このCAE解析においては、シリコン基板に厚み900nmのBPSG膜(層間絶縁膜6に相当)が成膜され、BPSG上に厚み5.0μmのAl-SiまたはMg含有量を変えたAl-Si-Mg合金膜が成膜されたものをシミュレーションモデルとした。図6の縦軸である「層間絶縁膜のひずみ量」は、後述する解析モデルのBPSG膜におけるシミュレーション結果である。
【0047】
Mgを含有しないAl-Si合金膜は、BPSG膜のひずみ量が約3.5×10-3であった。Al-Si-Mg合金膜は、Mg含有量が0.5重量%ではBPSG膜のひずみ量が約1.7×10-3であり、Mg含有量が2.5重量%ではBPSG膜のひずみ量が約3.4×10-3であった。なお、図6において破線で示す曲線は、これらの結果を最小二乗法により曲線近似することで得られたものである。本発明者らの検討の結果、BPSG膜のクラックを抑制するためには、ひずみ量が3.0×10-3以下となることであった。この条件を満たすMg含有量は、0.1~2.3重量%である。
【0048】
これらの結果は、電極膜7におけるクラック抑制および層間絶縁膜6にかかる応力緩和を両立するAl-Si-Mg合金膜とするためには、Mg含有量が0.1~2.3重量%の範囲内であることが必要であることを示している。つまり、電極膜7を少なくとも0.9~1.1重量%のSi、および0.1~2.3重量%のMgを含有するAl-Si-Mg合金膜とすることにより、自身のクラック抑制と他の膜への応力緩和とを両立することができる。
【0049】
また、シリコン基板にAl-Si-Mg合金膜を成膜したサンプルの表面のSEM観察をしたところ、例えば図7に示すように、Mgシリサイド結晶物が存在していた。なお、図7に示すサンプルにおけるAl-Si-Mg合金膜は、Al-1.0wt%Si-0.5wt%Mgである。また、図7では、Mgシリサイド結晶物を示す矢印を示している。
【0050】
本実施形態においては、少なくとも0.9~1.1重量%のSi、および0.1~2.3重量%のMgを含有するAl-Si-Mg合金膜とすることで、自身のクラックおよび自身に覆われる他の膜にかかる応力を緩和することが可能なアルミニウム合金膜となる。また、このAl-Si-Mg合金膜により電極膜7が形成され、これに層間絶縁膜6が覆われた構造の半導体装置1は、電極膜7および層間絶縁膜6におけるクラックが抑制された、信頼性が向上したパワー半導体素子を有した構成となる。
【0051】
(第2実施形態)
第2実施形態の半導体装置1について、図8を参照して説明する。
【0052】
本実施形態の半導体装置1は、例えば図8に示すように、電極膜7が層間絶縁膜6の側から第1層71、第2層72が積層された積層構成である点で上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点について主に説明する。
【0053】
電極膜7は、本実施形態では、組成の異なる2つのアルミニウム合金膜が積層されてなり、例えば、全体の厚みが5.0μm程度とされている。
【0054】
第1層71は、少なくとも0.9重量%~1.1重量%のSiと、0.1重量%~2.3重量%のMgを含有するAl-Si-Mg合金膜で構成されている。第1層71は、例えば、厚みが1.0~2.5μmとされ、自身におけるクラック発生を抑制しつつ、絶縁層8および導電層9並びに第2層72の側から層間絶縁膜6にかかる応力を緩和する応力緩和層として機能する膜硬度となっている。
【0055】
第2層72は、第1層71とは異なる組成であって、少なくとも第1層71よりも膜硬度が大きいアルミニウム合金膜で構成されている。第2層72は、例えば、Al-1wt%Si合金、Al-1wt%Cu合金、Al-5wt%Mg合金やこれらに他の金属元素が添加されたものなどの任意のアルミニウム合金膜で構成される。なお、第2層72は、少なくとも絶縁層8および導電層9の双方に接する三重点を起点とするクラックを抑制可能な膜硬度となっていればよく、他の公知の組成のアルミニウム合金膜であってもよい。第2層72は、例えば、電極膜7の厚みが5.0μmである場合、2.5μm~4.0μmの厚みとされる。
【0056】
本実施形態によっても、上記第1実施形態と同様の効果が得られる半導体装置1となる。
【0057】
(第3実施形態)
第3実施形態の半導体装置1について、図9を参照して説明する。
【0058】
本実施形態の半導体装置1は、例えば図9に示すように、電極膜7が層間絶縁膜6の側から第1層71、第2層72、第3層73が積層された積層構成である点で上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点について主に説明する。
【0059】
電極膜7は、本実施形態では、3つのアルミニウム合金膜が積層されてなり、例えば、全体の厚みが5.0μm程度とされている。
【0060】
第1層71および第3層73は、第2層72とは異なる組成であって、少なくとも第2層72よりも膜硬度が大きいアルミニウム合金膜で構成されている。第1層71および第3層73は、例えば、Al-1wt%Si合金、Al-1wt%Cu合金、Al-5wt%Mg合金やこれらに他の金属元素が添加されたものなどの任意の組成で構成されるが、他の公知の組成のアルミニウム合金膜であってもよい。第1層71および第3層73は、例えば、電極膜7の厚みが5.0μmである場合、それぞれ2.0μm程度の厚みとされる。なお、第1層71および第3層73は、同一の組成のアルミニウム合金膜であってもよいし、異なる組成のアルミニウム合金膜であってもよい。
【0061】
第1層71は、膜硬度がAl-Si-Mg合金膜よりも大きく、膜自体の応力緩和作用がAl-Si-Mg合金膜よりも小さいものの、例えば、厚みが2.0μmなど所定以下とされることで、層間絶縁膜6にかかる応力を緩和する構成となっている。
【0062】
第3層73は、膜硬度がAl-Si-Mg合金膜よりも大きいため、絶縁層8および導電層9の双方に接する三重点を起点とするクラックを抑制可能な膜硬度となっている。本実施形態の半導体装置1は、第3層73の膜硬度に起因する層間絶縁膜6側にかかる応力が、所定の膜硬度とされた第2層72により緩和される構成となっている。
【0063】
第2層72は、少なくとも0.9重量%~1.1重量%のSiと、0.1重量%~2.3重量%のMgを含有するAl-Si-Mg合金膜で構成されている。第2層72は、例えば、厚みが1.0μm程度とされ、自身におけるクラック発生を抑制しつつ、絶縁層8および導電層9並びに第3層73の側から層間絶縁膜6にかかる応力を緩和する応力緩和層として機能する膜硬度となっている。
【0064】
本実施形態によっても、上記第1実施形態と同様の効果が得られる半導体装置1となる。
【0065】
(他の実施形態)
本発明は、実施例に準拠して記述されたが、本発明は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本発明は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらの一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本発明の範疇や思想範囲に入るものである。
【0066】
例えば、上記第2実施形態の半導体装置1は、第1層71と第2層72とが逆の構成であってもよい。この場合、電極膜7は、第1層71がAl-Si-Mg合金膜よりも膜硬度が大きいアルミニウム合金膜、第2層72がAl-Si-Mg合金膜、でそれぞれ構成される。つまり、第2層72は、絶縁層8側からの層間絶縁膜6にかかる応力を緩和する応力緩和層として機能する。この場合であっても、上記第1実施形態と同様の効果が得られる半導体装置1となる。
【符号の説明】
【0067】
2・・・基板、2a・・・一面、2b・・・他面、3・・・ゲートトレンチ、
4・・・ゲート絶縁膜、5・・・ゲート電極、6・・・層間絶縁膜、7・・・電極膜、
71・・・第1層、72・・・第2層、73・・・第3層、8・・・絶縁層、
81・・・開口部、9・・・導電層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9