IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-電池システム 図1
  • 特開-電池システム 図2
  • 特開-電池システム 図3
  • 特開-電池システム 図4
  • 特開-電池システム 図5
  • 特開-電池システム 図6
  • 特開-電池システム 図7
  • 特開-電池システム 図8
  • 特開-電池システム 図9
  • 特開-電池システム 図10
  • 特開-電池システム 図11
  • 特開-電池システム 図12
  • 特開-電池システム 図13
  • 特開-電池システム 図14
  • 特開-電池システム 図15
  • 特開-電池システム 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189409
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】電池システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/10 20060101AFI20221215BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20221215BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20221215BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
H02J7/10 L
H02J7/00 S
H02J7/10 Q
H01M10/48 301
H01M10/48 P
H01M10/44 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097968
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 翔太
(72)【発明者】
【氏名】松本 潤一
(72)【発明者】
【氏名】歳嶋 倫明
【テーマコード(参考)】
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
5G503AA04
5G503BA03
5G503BB01
5G503CA01
5G503CA20
5G503CB10
5G503CB11
5G503CC02
5G503DA04
5G503DA07
5G503FA06
5G503FA17
5G503FA18
5G503GD03
5G503GD06
5H030AA06
5H030AS06
5H030AS08
5H030BB01
5H030FF22
5H030FF42
(57)【要約】
【課題】バイポーラ型のニッケル水素電池によって構成される電池システムにおいて、温度センサが設けられている領域の温度の検出値に従って、その領域よりも温度が高い対象領域の温度を適切に推定する。
【解決手段】電池システム90は、電池モジュール4と、サーミスタ80と、ECU100とを備える。サーミスタ80は、電池モジュール4における第1領域の温度を検出する。ECU100は、電池モジュール4において第1領域よりも温度が高い第2領域の推定温度を、サーミスタ80の検出値に温度補正量を加えることによって算出する。ECU100は、検出値の時間微分値に従って温度補正量を設定するように構成されている。そして、ECU100は、第2領域の推定温度の上昇率が0よりも大きい所定率を上回らないように温度補正量を設定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のバイポーラ型ニッケル水素電池を含んで構成される電池モジュールと、
前記電池モジュールにおける第1領域の温度を検出する温度センサと、
前記電池モジュールにおいて前記第1領域よりも温度が高い第2領域の推定温度を、前記温度センサの検出値に温度補正量を加えることによって算出する処理装置とを備え、
前記処理装置は、
前記検出値の時間微分値に従って前記温度補正量を設定するように構成されており、
前記第2領域の推定温度の上昇率が0よりも大きい所定率を上回らないように前記温度補正量を設定する、電池システム。
【請求項2】
前記処理装置は、
正値の第1補正量を前記検出値に加えることによって、前記第2領域の第1推定温度を算出し、
前記第1推定温度の変化を緩やかにするためのなまし処理を前記第1推定温度に行うことによって、前記第2領域の第2推定温度を算出し、
前記処理装置は、
前記時間微分値が正値である場合に、
前記温度補正量に前記第1補正量を設定し、
前記時間微分値が正値から負値に低下した場合に、
前記温度補正量に0よりも大きい第2補正量を設定し、
前記検出値に前記第2補正量を加えることによって、前記第2領域の推定温度としての前記第2推定温度を算出する、請求項1に記載の電池システム。
【請求項3】
前記検出値が第1の値から前記第1の値よりも大きい第2の値に上昇した場合に、
前記処理装置は、
前記時間微分値に所定の定数を乗じて得られる第3補正量を算出し、
前記検出値が前記第1の値であるときの前記温度補正量を示す第4補正量から前記第3補正量への上昇量がしきい量よりも小さいときは、前記第3補正量を、前記検出値が前記第2の値であるときの前記温度補正量として設定し、
前記上昇量が前記しきい量以上であるときは、前記しきい量よりも小さい値を前記第4補正量に加算した値を、前記検出値が前記第2の値であるときの前記温度補正量として設定する、請求項1または請求項2に記載の電池システム。
【請求項4】
前記処理装置は、
サンプリング周期ごとに前記温度センサの出力のサンプリング値を取得し、
前記サンプリング周期よりも長い所定期間にわたる複数のサンプリング値を用いて、前記所定期間ごとに前記検出値を算出し、
前記所定期間ごとに、前記検出値から前記第2領域の推定温度を算出し、
前記サンプリング値の前回値と今回値との差分の絶対値がしきい値以上である場合に、前記今回値を用いることなく前記検出値を算出する、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の電池システム。
【請求項5】
前記処理装置は、前記電池モジュールの充電電流が所定のしきい電流以上である場合に、前記第2領域の推定温度の上昇率が前記所定率を上回らないように前記温度補正量を設定する、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の電池システム。
【請求項6】
前記電池モジュールに接続されるリレー部をさらに備え、
前記処理装置は、前記第2領域の推定温度がしきい温度に上昇した場合に、前記リレー部を開状態に制御する、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2010-108750号公報(特許文献1)は、電池パック入出力制御装置を開示する。この制御装置は、電池パックと、温度センサと、電圧センサと、電流センサと、最大温度推定部とを備える。電池パックは、複数の単位電池を組み合わせて構成される。温度センサは、電池表面温度を検出する。電圧センサは、電池パックの単位電池の電池電圧を検出する。電流センサは、電池パックに入出力される電流値を検出する。最大温度推定部は、温度センサ、電圧センサおよび電流センサの検出値を用いて、電池パックの内部の最大温度を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-108750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数のバイポーラ型ニッケル水素電池を含んで構成される電池モジュールが知られている。このような電池モジュールにおいて、その温度を検出するための温度センサが設けられる。ここで、バイポーラ型電池から成る電池モジュールの構造的な理由から、電池モジュールにおける温度解析の対象である領域(以下、「対象領域」と称する」)に温度センサを設けることが困難である場合がある。この場合、温度センサは、対象領域とは異なる領域に設けられるので、温度センサの検出値は、対象領域の温度に通常一致しない。そこで、温度センサの検出値を用いて対象領域の温度を推定することが考えられる。特に、温度センサが設けられる領域よりも対象領域の温度が高い場合、電池モジュールの過熱保護という観点から、対象領域の温度を適切に推定することは重要である。
【0005】
ここで、温度センサがノイズの影響を受けることにより、その検出値が、温度センサが設けられている領域の実際の温度から大きく乖離して上昇してしまうことがある。これに伴い、その検出値を用いて算出される対象領域の推定温度も、その領域の実際の温度から大きく乖離して上昇してしまう。その結果、対象領域の温度を適切に推定することができない。
【0006】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、バイポーラ型のニッケル水素電池によって構成される電池システムにおいて、温度センサが設けられている領域の温度の検出値に従って、その領域よりも温度が高い対象領域の温度を適切に推定することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の電池システムは、電池モジュールと、温度センサと、処理装置とを備える。電池モジュールは、複数のバイポーラ型ニッケル水素電池を含んで構成される。温度センサは、電池モジュールにおける第1領域の温度を検出する。処理装置は、電池モジュールにおいて第1領域よりも温度が高い第2領域の推定温度を、温度センサの検出値に温度補正量を加えることによって算出する。処理装置は、検出値の時間微分値に従って温度補正量を設定するように構成されている。そして、処理装置は、第2領域の推定温度の上昇率が0よりも大きい所定率を上回らないように温度補正量を設定する。
【0008】
上記の構成とすることにより、上記時間微分値が急激に上昇するほど温度センサの検出値がノイズの影響を受ける場合であっても、第2領域の推定温度の上昇率が所定率を上回ることが防止される。その結果、第2領域の推定温度が実際の温度から大きく乖離するほど急激に上昇することを抑制することができる。
【0009】
処理装置は、正値の第1補正量を検出値に加えることによって、第2領域の第1推定温度を算出し、第1推定温度の変化を緩やかにするためのなまし処理を第1推定温度に行うことによって、第2領域の第2推定温度を算出してもよい。処理装置は、時間微分値が正値である場合に、温度補正量に第1補正量を設定し、時間微分値が正値から負値に低下した場合に、温度補正量に0よりも大きい第2補正量を設定し、検出値に第2補正量を加えることによって、第2領域の推定温度としての第2推定温度を算出してもよい。
【0010】
上記の構成とすることにより、検出値の時間微分値が正値から負値に低下することに伴って、第2領域の推定温度は、第1推定温度から、検出値よりも第2補正量だけ大きい第2推定温度に変化する。これにより、第2領域の推定温度が検出値まで急激に低下することによって第2領域の推定温度が実際の温度から大きく乖離することを抑制することができる。
【0011】
検出値が第1の値から第1の値よりも大きい第2の値に上昇した場合に、処理装置は、時間微分値に所定の定数を乗じて得られる第3補正量を算出し、検出値が第1の値であるときの温度補正量を示す第4補正量から第3補正量への上昇量がしきい量よりも小さいときは、第3補正量を、検出値が第2の値であるときの温度補正量として設定してもよい。上昇量がしきい量以上であるときは、処理装置は、しきい量よりも小さい値を第4補正量に加算した値を、検出値が第2の値であるときの温度補正量として設定してもよい。
【0012】
上記の構成とすることにより、上記上昇量がしきい量以上になるほど温度センサがノイズの影響を受ける場合であっても、温度補正量が過度に上昇する事態を回避することができる。その結果、第2領域の推定温度がノイズの影響を受けて過度に上昇することによって実際の温度から大きく乖離する事態を回避することができる。
【0013】
処理装置は、サンプリング周期ごとに温度センサの出力のサンプリング値を取得し、サンプリング周期よりも長い所定期間にわたる複数のサンプリング値を用いて、所定期間ごとに検出値を算出し、所定期間ごとに、検出値から第2領域の推定温度を算出し、サンプリング値の前回値と今回値との差分の絶対値がしきい値以上である場合に、今回値を用いることなく検出値を算出してもよい。
【0014】
上記の構成とすることにより、サンプリング値の前回値と今回値との差分の絶対値がしきい値以上になるほど今回値が異常値を取る場合であっても、異常値としての今回値が用いられることなく検出値が算出される。これにより、その検出値に従って温度補正量が設定されるため、第2領域の推定温度が適切に算出される。その結果、第2領域の推定温度が実際の温度から大きく乖離するほど急激に変化する事態を回避することができる。
【0015】
処理装置は、電池モジュールの充電電流が所定のしきい電流以上である場合に、第2領域の推定温度の上昇率が所定率を上回らないように温度補正量を設定してもよい。
【0016】
上記の構成とすることにより、充電電流が過剰に大きい場合に温度センサの検出値がノイズの影響を受けるときであっても、第2領域の推定温度の上昇率が所定率を上回らないように温度補正量が設定される。その結果、電池モジュールの過充電時に、第2領域の推定温度が実際の温度から大きく乖離するほど急激に上昇することを抑制することができる。
【0017】
電池システムは、さらに、電池モジュールに接続されるリレー部をさらに備えていてもよい。処理装置は、第2領域の推定温度がしきい温度に上昇した場合に、リレー部を開状態に制御してもよい。
【0018】
上記の構成とすることにより、第2領域の推定温度がしきい温度に上昇した場合に、電池モジュールにおける充放電が停止される。これにより、第2領域の温度がしきい温度を上回るほど上昇する事態を回避することができる。その結果、電池モジュールを充放電による過熱から保護することができる。
【発明の効果】
【0019】
バイポーラ型のニッケル水素電池によって構成される電池システムにおいて、温度センサが設けられている領域の温度の検出値に従って、その領域よりも温度が高い対象領域の温度を適切に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施の形態に従う電池システムの構成を模式的に示す図である。
図2】電池ユニットの断面図である。
図3】電池ユニットの分解斜視図である。
図4】電池ユニットの使用中に、サーミスタ近傍の対象領域の温度が、サーミスタが設けられている領域の温度よりも高くなることを説明するための図である。
図5】電池モジュールの過充電時における、サーミスタの検出値、および対象領域の推定温度の時間的推移を示す図である。
図6】対象領域の推定温度の算出に伴う処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図7】仮の推定温度に従って温度補正量を設定するための処理の詳細を説明するためのフローチャートである。
図8】サーミスタの検出値と、対象領域の第1推定温度との時間的推移の一例を示す図である。
図9】実施の形態2における、サーミスタの検出値と、対象領域の推定温度との時間的推移の一例を示す図である。
図10】実施の形態2に従うECUにより実行される処理の一例を示すフローチャートである。
図11】サーミスタの検出値と、対象領域の仮の推定温度と、対象領域の推定温度との時間的推移の一例を示す図である。
図12】実施の形態3における、サーミスタの検出値と、対象領域の仮の推定温度と、対象領域の推定温度との時間的推移の一例を示す図である。
図13】実施の形態3に従うECUにより実行される処理の一例を示すフローチャートである。
図14】サーミスタからのサンプリング値が異常値を含む場合の、サーミスタの検出値と、対象領域の推定温度との時間的推移を示す図である。
図15】実施の形態4において、サーミスタのサンプリング値が異常値を含む場合の、サーミスタの検出値と、対象領域の推定温度との時間的推移を示す図である。
図16】実施の形態5において、図6のステップS105において実行される処理の詳細を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明を繰り返さない。本開示の電池システムは、代表的には車両に適用されるが、車両以外にも適用可能である。
【0022】
[実施の形態1]
図1は、本実施の形態に従う電池システムの構成を模式的に示す図である。図1を参照して、電池システム90は、電池ユニット1と、サーミスタ80と、システムメインリレー(SMR:System Main Relay)95と、電流センサ53と、ECU(Electronic Control Unit)100とを備える。
【0023】
電池ユニット1は、複数の電池モジュール4が積層されて構成される。各電池モジュール4は、バイポーラ型のニッケル水素電池を含んで構成される。図1の例では、7つの電池モジュール4が記載されているが、電池モジュールの数はこれに限定されるものではない。隣接する電池モジュール4の間には、電池モジュール4を冷却するための冷媒が内部に流通する冷却板(図示せず)が設けられる。電池モジュール4の詳細な構成については、後述する。
【0024】
サーミスタ80は、電池モジュール4の端部領域の温度を検出する。この例では、サーミスタ80は、複数の電池モジュール4のうち代表的な1つの電池モジュール4(7つの電池モジュール4のうち真ん中のモジュール)に設けられて、その電池モジュールの端部領域の温度を検出するものとしているが、他の電池モジュールの温度を検出してもよい。サーミスタ80の検出値は、ECU100により取得される。サーミスタ80に代えて、他の種類の温度センサが用いられてもよい。
【0025】
SMR95は、電池モジュール4(電池ユニット1)に接続される。SMR95は、電池モジュール4における充放電の実施および停止を切り替えるための開閉装置として設けられる。電流センサ53は、電池モジュール4(電池ユニット1)の充放電電流を検出する。
【0026】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)102と、メモリ105とを含む。CPU102は、メモリ105に記憶された情報などに従って各種演算を実行する。メモリ105は、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)とを含む(いずれも図示せず)。ROMは、CPU102により実行されるプログラムなどを格納する。RAMは、CPU102により参照されるデータなどを一時的に格納する。ECU100の制御は、ソフトウェア処理により実現されるが、ECU100内に作製されたハードウェアにより実現されてもよい。
【0027】
ECU100は、各センサ信号(例えば、サーミスタ80および電流センサ53の検出値)、並びにメモリ105に記憶されたプログラム、データおよびマップなどに従って、電池モジュール4における対象領域の温度を推定する。本実施の形態では、サーミスタ80が設けられた電池モジュール4において温度が推定される。代表的な電池モジュール4における検出温度および推定温度は、他の電池モジュール4における検出温度および推定温度に等しいものとして利用される。
【0028】
ECU100は、サンプリング周期ごとにサーミスタ80の出力のサンプリング値を取得する。ECU100は、サンプリング周期よりも長い所定期間にわたる複数のサンプリング値を用いて、当該所定期間ごとにサーミスタ80の検出値を算出する。具体的には、ECU100は、当該所定期間にわたる複数のサンプリング値の平均値を、サーミスタ80の検出値として算出する。ECU100は、当該所定期間ごとに、その検出値から対象領域の推定温度を算出する。
【0029】
また、サーミスタ80の対象領域の推定温度がしきい温度を超えた場合、ECU100は、SMR95を開状態に制御する。ECU100による制御については、後ほど詳しく説明する。
【0030】
電池システム90は、負荷55に接続される。電池システム90が車両に搭載される場合、負荷55は、例えば、PCU(Power Control Unit)、およびモータなどである。
【0031】
図2および図3を参照して、電池ユニット1および電池モジュール4の構成について説明する。図2は、電池ユニット1の断面図である。図3は、電池ユニット1の分解斜視図である。
【0032】
電池ユニット1は、積層体11と、拘束具12とを含む。積層体11は、複数の電池モジュール4を含む。複数の電池モジュール4は、積層方向Zに積層される。積層体11は、積層方向Zに配列する端面13および端面14を有する。
【0033】
電池モジュール4は、複数の電極層41を含んで構成される。電極層41は、セパレータ44と、負極45と、正極43とを含む。セパレータ44は、積層方向Zに配列する上面46および下面47を有する。負極45は、上面46に設けられる。正極43は、下面47に設けられる。
【0034】
また、電池モジュール4は、正極終端電極と、負極終端電極とをさらに含む(いずれも図示せず)。そのため、電池モジュール4において、正極終端電極と、負極終端電極との間に、複数の電極層41が設けられる。
【0035】
隣接する電極層41の間に1個の電池セルが形成される。ここで、電池モジュール4に、n個の電極層(バイポーラ電極)41が設けられているものとすると、n個の電極層41の間に、合計でn-1個の電池セルが形成される(nは自然数)。また、正極終端電極に隣接する電極層41と、正極終端電極との間に1つの電池セルが形成される。負極終端電極に隣接する電極層41と、負極終端電極との間に1つの電池セルが形成される。したがって、電池モジュール4は、積層方向Zに形成されるn+1個の電池セルを含んでいる。各電池セルは、バイポーラ型のニッケル水素電池である。
【0036】
拘束具12は、積層体11を積層方向Zに拘束する。拘束具12は、押圧板20と、押圧板21と、複数の接続軸26とを含む。押圧板20は、端面13を押圧する。押圧板21は、端面14を押圧する。
【0037】
各接続軸26は、押圧板20および押圧板21の間に配置され、押圧板20および押圧板21を接続する。各接続軸26は、積層体11の周囲を取り囲むように間隔をあけて配置されている(図3)。積層体11は、外気に曝されており、積層体11における電池モジュール4の熱は、外気に放出される。
【0038】
図4は、電池ユニット1の使用中に、サーミスタ80近傍の対象領域の温度が、サーミスタ80が設けられている領域の温度よりも高くなることを説明するための図である。
【0039】
電池モジュール4の構造的な理由から、電池モジュール4における温度解析の対象である対象領域107にサーミスタ80を設けることができない。そのため、サーミスタ80は、電池モジュール4において、発熱領域502(矩形領域)の外の領域のうち対象領域107に最も近い領域85に設けられる。図4の例では、領域85は、積層方向Zから視たときの電池モジュール4の端部領域である。電池モジュール4の使用中、対象領域107(発熱領域502)の温度は、領域85の温度よりも高い。
【0040】
対象領域107から領域85への熱伝導と、サーミスタ80の熱容量とから、対象領域107の温度上昇は、サーミスタ80の検出値に直ちに反映されない。
【0041】
このような理由から、サーミスタ80の検出値は、対象領域107の温度に通常一致しない。そこで、サーミスタ80の検出値を用いて対象領域107の温度を推定することが考えられる。
【0042】
本実施の形態では、ECU100は、対象領域107の推定温度を、サーミスタ80の検出値に温度補正量を加えることによって算出する。具体的には、ECU100は、時刻tにおける対象領域107の推定温度TN(t)を、サーミスタ80の検出値TD(t)と、温度補正量CA(t)とに従って次式(1)を用いて算出する。
【0043】
TN(t)=TD(t)+CA(t) …(1)
ECU100は、サーミスタ80の検出値TD(t)の時間的な微分値に従って温度補正量CA(t)を設定するように構成されている。
【0044】
図4の例のように、領域85よりも対象領域107の温度が高い場合、電池モジュール4の過熱保護という観点から、対象領域107の温度を適切に推定することが重要である。
【0045】
ここで、サーミスタ80は、ノイズ(例えば、外部の無線機から発生するBCI(Bulk Current Injection)ノイズなどの高周波ノイズ)の影響を受けることがある。その結果、サーミスタ80の検出値が、領域85の実際の温度から大きく乖離して上昇してしまう現象が発生することがある。より詳細には、サーミスタ80に流れる電流が、ノイズに起因して発生する磁界の影響を受ける。これにより、サーミスタ80が発熱し、サーミスタ80の検出値が、領域85の実際の温度から大きく乖離して上昇する。これにより、サーミスタ80の検出値に従って算出される対象領域107の推定温度も、対象領域107の実際の温度から大きく乖離して上昇してしまう。その結果、対象領域107の温度を適切に推定することができない。
【0046】
本実施の形態に従う電池システム90は、上記問題を解決するための構成を備える。具体的には、ECU100は、対象領域107の推定温度TN(t)の時間的な上昇率が、0よりも大きい所定率(レートガード値)を上回らないように温度補正量CA(t)を設定する。この処理を「レートガード処理」とも称する。
【0047】
レートガード処理が実行されることにより、ノイズの影響により推定温度TN(t)が対象領域107の実際の温度から大きく乖離して急激に上昇することを抑制することができる。以下、推定温度TN(t)の算出方法について詳しく説明する。
【0048】
時刻tにおける対象領域107の仮の推定温度をTNP(t)とする。仮の推定温度TNP(t)は、式(1)における推定温度TN(t)の算出のために用いられる温度である。この実施の形態1では、仮の推定温度TNP(t)について、上記のレートガード処理が実行されると、推定温度TN(t)が算出される。仮の推定温度TNP(t)は、仮の温度補正量(後述)と、検出値TD(t)との合計である。
【0049】
また、時刻tにおける、サーミスタ80が設けられる領域85の実際の温度をTT1(t)とする。時刻tにおける、対象領域107の実際の温度をTT2(t)とする。対象領域107と領域85との間の熱伝導量をWとし、熱伝導率をCとする。サーミスタ80の熱容量をαとする。ECU100によるサーミスタ80の検出値の算出間隔(一定値)をΔtとする。この場合、以下の式(2),(3)が成立する。
【0050】
W=C×(TT2(t)-TT1(t)) …(2)
TD(t)=TD(t-Δt)+(W/α)×Δt …(3)
ここで、熱容量αおよび熱伝導率Cは、実験により予め定められる定数である。なお、式(3)における右辺第2項は、熱伝導量Wに起因する、Δtの間のサーミスタ80の温度上昇量を表す。
【0051】
ここで、TT1(t)=TD(t),TT2(t)=TNP(t)とし、(α/C)を定数Kとすると、上式(1),(2)から、以下の式(4)が成立する。
【0052】
TNP(t)=TD(t)+((TD(t)-TD(t-Δt))/Δt)×K
=TD(t)+TDD(t)×K
=TD(t)+CAP(t) (CAP(t)≧0) …(4)
上式(4)において、TDD(t)は、TD(t)の時間的な微分値である。CAP(t)は、サーミスタ80の検出値TD(t)に対する仮の温度補正量である。仮の温度補正量CAP(t)は、式(1)における温度補正量CA(t)の算出のために用いられる。仮の温度補正量CAP(t)は、0以上になるように設定される。また、微分値TDD(t)が正値から0に低下した場合、仮の温度補正量CAP(t)は、微分値TDD(t)が0に低下する直前の値に等しくなるように設定されるものとする。微分値TDD(t)が正値から負値に低下した場合、仮の温度補正量CAP(t)は0に設定されるものとする。
【0053】
ECU100は、上式(1),(4)を用いることによって、温度補正量CA(t)を設定するように構成されている。例えば、TNP(t)の上昇率が所定率を上回らない場合、ECU100は、レートガード処理を実行しない。そのため、ECU100は、仮の温度補正量CAP(t)を温度補正量CA(t)として設定する(CA(t)=CAP(t))。その結果、仮の推定温度TNP(t)が推定温度TN(t)として利用される(TN(t)=TNP(t))。
【0054】
他方、仮の推定温度TNP(t)の上昇率が所定率を上回る場合、ECU100は、レートガード処理を実行する。この場合、ECU100は、仮の温度補正量CAP(t)そのものを温度補正量CA(t)に設定しない。その結果、仮の推定温度TNP(t)そのものは、推定温度TN(t)として利用されない。このようにレートガード処理が実行されることによって、推定温度TN(t)が、ノイズに起因して対象領域107の実際の温度から大きく乖離して急激に上昇することを抑制することができる。本実施の形態では、仮の推定温度TNP(t)の上昇率が所定率を上回る場合、ECU100は、推定温度TN(t)の上昇率が所定率になるようにレートガード処理を実行する。
【0055】
図5は、電池モジュール4の過充電時における、サーミスタ80の検出値TD(t)、および対象領域107の推定温度TN(t)の時間的推移を示す図である。図5において、横軸は時間を示し、縦軸は温度を示す。
【0056】
なお、「電池モジュール4の過充電時」とは、電池モジュール4の充電電流が所定のしきい電流以上である場合をいう。しきい電流は、電池モジュール4を過熱から保護するために実験などにより適宜予め定められる。電池モジュール4の過充電時、発熱領域502(図4)のうち対象領域107の温度が特に急激に上昇し易い。このような、対象領域107の温度が特に急激に上昇し易い場合に、ECU100が、式(1),(4)を用いて、推定温度TN(t)を算出すること(レートガード処理を実行すること)は特に効果的である。なお、ECU100は、電池モジュール4が過充電されているか否かを、電流センサ53(図1)の検出値に従って判定することができる。
【0057】
図5において、線605は、サーミスタ80の検出値TD(t)の時間的推移を示す。線610は、サーミスタ80がノイズの影響を受けていない場合の、対象領域107の推定温度TN(t)の時間的推移を示す。線615は、サーミスタ80がノイズの影響を受けている場合の、対象領域107の推定温度TN(t)の時間的推移を示す。
【0058】
時刻t10において、電池モジュール4における充電が開始されることよって、電池モジュール4の温度が上昇し始める。時刻t10以降、サーミスタ80の検出値TD(t)(線605)は、対象領域107の推定温度TNP(t)(線615)と一致しない。具体的には、図5に示されるように、電池モジュール4の過充電時において、推定温度TNP(t)は、サーミスタ80の検出値TD(t)よりも早く上昇する。対象領域107の実際の温度が、このように検出値TD(t)よりも早く上昇することは実験的に既知である。そのため、対象領域107の推定温度TNP(t)は、対象領域107の実際の温度を適切に反映している。
【0059】
時刻t11において、サーミスタ80の検出値TD(t)がノイズの影響を受け始めるものとする。その結果、式(4)を用いてサーミスタ80の検出値TD(t)に従って算出される仮の推定温度TNP(t)の上昇率は、所定率PDR(レートガード値)を上回るものとする。そこで、ECU100は、推定温度TN(t)の上昇率が所定率PDRになるように温度補正量CA(t)を設定する(線615)。すなわち、時刻t11以降、推定温度TN(t)は、線615により表される。所定率PDRは、サーミスタ80がノイズの影響を受けていないならば過充電時に取るであろう上昇率(時刻t11以降の線610の上昇率)に基づいて設定される。例えば、所定率PDRは、当該上昇率の最大値に設定される。これにより、電池モジュール4の過充電時、推定温度TN(t)が、ノイズの影響を受けて、対象領域107の実際の温度から大きく乖離するほど上昇する事態を回避することができる。
【0060】
時刻t12において、対象領域107の推定温度TN(t)が、しきい温度THTに到達する。これに伴い、ECU100は、電池モジュール4を過熱から保護するためにSMR95を閉状態から開状態に切り替える。しきい温度THTは、電池モジュール4を過熱から保護するための値であり、実験などにより適宜予め定められる。SMR95が開状態に切り替わることにより、電池モジュール4における充電が停止される。これにより、対象領域107の推定温度TN(t)がしきい温度THT以上に上昇する事態を回避することができる。その結果、電池モジュール4を過充電による過熱から保護することができる。
【0061】
図6は、対象領域107の推定温度TN(t)の算出に伴う処理の手順の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、例えば、電池システム90が搭載される車両の走行用システムの起動中(車両のスタートスイッチがオン状態である間)に所定時間ごとに実行される。
【0062】
図6を参照して、ECU100は、サーミスタ80の検出値TD(t)を算出する(ステップS105)。具体的には、ECU100は、サンプリング周期よりも長い所定期間にわたる複数のサンプリング値を用いて、当該所定期間に対応する検出値を算出する。ECU100は、検出値TD(t)の微分値TDD(t)を算出する(ステップS110)。
【0063】
ECU100は、検出値TD(t)の微分値TDD(t)に従って、式(4)における仮の温度補正量CAP(t)(=TDD(t)×K)を算出する(ステップS115)。ECU100は、式(4)を用いて、検出値TD(t)と、仮の温度補正量CAP(t)とに従って、対象領域107の仮の推定温度TNP(t)を算出する(ステップS120)。
【0064】
ECU100は、仮の推定温度TNP(t)に従って、温度補正量CA(t)を設定する(ステップS125)。この設定方法の詳細については、後述する。
【0065】
ECU100は、設定された温度補正量CA(t)を、式(1)に従って検出値TD(t)に加えることによって対象領域107の推定温度TN(t)を算出する(ステップS130)。
【0066】
ステップS135において、ECU100は、推定温度TN(t)がしきい温度THT以上であるか否かを判定する。推定温度TN(t)がしきい温度THT未満である場合(ステップS135においてNO)、ECU100は、SMR95を閉状態に制御する(ステップS140)。その後、電池ユニット1の充放電が継続した状態で、リターンへ処理が移行する。
【0067】
他方、推定温度TN(t)がしきい温度THT以上である場合(ステップS135においてYES)、ECU100は、SMR95を開状態に制御する(ステップS145)。ECU100は、推定温度TN(t)がしきい温度THT未満に低下するまで(ステップS135においてNOに分岐するまで)、SMR95を開状態に制御する。
【0068】
図7は、仮の推定温度TNP(t)に従って温度補正量CA(t)を設定するための処理(図6のステップS125)の詳細を説明するためのフローチャートである。
【0069】
図7を参照して、ECU100は、仮の推定温度TNP(t)の上昇率が所定率PDR以上であるか否かを判定する(ステップS205)。推定温度TNP(t)の上昇率が所定率PDR以上である場合(ステップS205においてYES)、ECU100は、対象領域107の推定温度TN(t)の上昇率が所定率PDRを上回らないように温度補正量CA(t)を設定する(ステップS210)。この場合、仮の温度補正量CAP(t)は、温度補正量CA(t)として用いられない。具体的には、ECU100は、推定温度TN(t)の上昇率が所定率PDRになるように温度補正量CA(t)を設定する。
【0070】
他方、推定温度TNP(t)の上昇率が所定率PDR未満である場合(ステップS205においてNO)、ECU100は、仮の温度補正量CAP(t)を温度補正量CA(t)に設定する(ステップS215)。ステップS210,S215の後、ECU100は、図7の処理を終了し、図6のステップS130に処理を進める。
【0071】
以上のように、本実施の形態に従うECU100は、ECU100は、対象領域107の推定温度TN(t)を、サーミスタ80の検出値TD(t)に温度補正量CA(t)を加えることによって算出する。ECU100は、サーミスタ80の検出値TD(t)の時間的な微分値TDD(t)に従って温度補正量CA(t)を設定するように構成されている。ECU100は、対象領域107の推定温度TN(t)の時間的な上昇率が、0よりも大きい所定率PDRを上回らないように温度補正量CA(t)を設定する。
【0072】
上記の構成とすることにより、微分値TDD(t)が急激に上昇するほどサーミスタ80の検出値TD(t)がノイズの影響を受ける場合であっても、対象領域107の推定温度TN(t)の上昇率が所定率PDRを上回ることが防止される。その結果、対象領域107の推定温度TN(t)が実際の温度から大きく乖離するほど急激に上昇することを抑制することができる。その結果、サーミスタ80の検出値TD(t)に従って、対象領域107の温度を適切に推定することができる。
【0073】
さらに、推定温度TN(t)がしきい温度THTに到達することに伴ってSMR95が開状態に制御されるタイミング(図5の例では、時刻t12)も適切になる。すなわち、電池モジュール4が過剰に保護されたり、電池モジュール4の過熱からの保護が不十分になったりすることを抑制することができるため、電池モジュール4を適切に保護することができる。
【0074】
さらに、本実施の形態では、ECU100による推定温度TN(t)の算出に、電流センサおよび電圧センサの各検出値を要しない。すなわち、ECU100は、電池モジュール4に入出力される電流および電圧を用いることなく、サーミスタ80の検出値TD(t)に従って対象領域107の推定温度TN(t)を算出することができる。
【0075】
[実施の形態2]
実施の形態2では、検出値TD(t)の微分値TDD(t)が正値から負値に低下する場合について説明する。具体的には、ECU100は、微分値TDD(t)が負値に低下する前の算出方法による対象領域107の推定温度になまし処理を行う。そして、ECU100は、なまし処理が行われた後の温度を、微分値TDD(t)が負値に低下した後の対象領域107の推定温度TN(t)として算出する。なまし処理は、平均化処理および遅れ処理などを含む除変処理である。この実施の形態2における電池システムの構成および処理の手順は、図1図6に示された実施の形態1における電池システム90の構成および処理の手順と基本的に同様である。
【0076】
図8を参照して、この実施の形態2に対する比較例について説明する。図8は、サーミスタ80の検出値TD(t)と、対象領域107の第1推定温度との時間的推移の一例を示す図である。第1推定温度は、推定温度TN(t)の上昇率が所定率PDR(レートガード値)を上回らないという条件下で上式(1),(4)を用いて検出値TD(t)に従って算出され、かつ、なまし処理が行われていない温度である。図8において、横軸は時間を示し、縦軸は温度を示す。
【0077】
線210は、サーミスタ80の検出値TD(t)の時間的推移を示す。線205は、対象領域107の第1推定温度の時間的推移を示す。
【0078】
時刻t21において、サーミスタ80の検出値TD(t)がノイズの影響を受け始める。ECUは、推定温度TN(t)の上昇率が所定率PDRを上回らないように温度補正量CA(t)を設定する(線205)。この温度上昇は、期間ΔT1の間、継続する。この間、サーミスタ80は、ノイズの影響を受けている。そのため、サーミスタ80の検出値TD(t)は、領域85の実際の温度よりも高い。
【0079】
時刻t22において、検出値TD(t)の上昇が停止する。そして、検出値TD(t)の微分値TDD(t)が正値から負値に低下する。その結果、以下に説明されるように、推定温度TN(t)は、サーミスタ80の検出値TD(t)まで急激に低下する(線205)。
【0080】
温度補正量CA(t)は、仮の温度補正量CAP(t)に基づいて設定されるため、検出値TD(t)の微分値TDD(t)に依存する(式(1),(4))。そして、前述の式(4)において、微分値TDD(t)が負値に低下した場合、仮の温度補正量CAP(t)が0に設定されるものとされる。そのため、検出値TD(t)が低下している期間ΔT2の間、温度補正量CA(t)も0に設定される(CA(t)=CAP(t)=0)。それゆえ、対象領域107の推定温度TN(t)は、サーミスタ80の検出値TD(t)に等しくなる(式(1))。このような理由から、時刻t22において、対象領域107の推定温度TN(t)は、サーミスタ80の検出値TD(t)まで急激に低下する。
【0081】
しかしながら、対象領域107の実際の温度がこのように急激に低下するはずがないため、対象領域107の推定温度TN(t)は、対象領域107の実際の温度を適切に反映していない。このように、推定温度TN(t)が急激に低下(変化)する現象は、推定温度TN(t)の精度という観点から好ましくない。
【0082】
時刻t23において、サーミスタ80へのノイズの影響は解消しており、サーミスタ80の検出値TD(t)が再び上昇し始める(線210)。検出値TD(t)の上昇に伴って、検出値TD(t)の微分値TDD(t)が正値になる。その結果、微分値TDD(t)に従って算出される温度補正量CA(t)も正値になる。
【0083】
時刻t23~時刻t24の期間中、仮の推定温度TNP(t)の上昇率が所定率PDR以上であるものとする。そのため、ECUは、推定温度TN(t)の上昇率が所定率PDRを上回らないように温度補正量CA(t)を設定する(推定温度TN(t)の上昇率を所定率PDRに制限する)。その結果、対象領域107の推定温度TN(t)が実際の温度を適切に反映する(実際の温度に追いつく)まで時間がかかる。
【0084】
以上のように、図8に示される比較例は、対象領域107の推定温度TN(t)の精度の低下(時刻t22~時刻t24)という問題と、検出値TD(t)がノイズの影響を受け終わった後に推定温度TN(t)が実際の温度を再び適切に反映するようになるまでに時間がかかる(時刻t23~時刻t24)という問題とを有する。
【0085】
図9は、この実施の形態2における、サーミスタ80の検出値TD(t)と、対象領域107の推定温度TN(t)との時間的推移の一例を示す図である。
【0086】
図9を参照して、線255は、対象領域107の第1推定温度の時間的推移を示す。線260は、対象領域107の第2推定温度の時間的推移を示す。第2推定温度は、第1推定温度の変化を緩やかにするためのなまし処理をECU100が第1推定温度に行うことによって算出される。
【0087】
なまし処理の時定数は、ノイズのおおよその発生期間(例えば、図8の期間ΔT1の長さと期間ΔT2の長さとの合計)に基づいて決定される。一例として、時定数は、この合計よりも小さく、かつ、0よりも大きい数である。このように時定数が決定されることによって、対象領域107の第2推定温度は、対象領域107の実際の温度を適切に反映するようになる。
【0088】
時刻t21において、図8の場合と同様に、サーミスタ80の検出値TD(t)がノイズの影響を受け始める。対象領域107の推定温度TN(t)を示す第1推定温度は、その上昇率が所定率PDRを上回らないように上昇し始める(線255)。この実施の形態2では、微分値TDD(t)が正値である場合(時刻t22までの間)に、ECU100は、温度補正量CA(t)に正値の補正量CA1(t)を設定する。ECU100は、サーミスタ80の検出値TD(t)に補正量CA1(t)を加えることによって、対象領域107の推定温度TN(t)としての第1推定温度を算出する。ここで、ECU100は、第1推定温度とともに第2推定温度を算出する(線260)。すなわち、時刻t22よりも前の期間中、対象領域107の推定温度TN(t)としては第1推定温度が用いられるものの、第2推定温度も算出されている。
【0089】
時刻t22において、サーミスタ80の検出値TD(t)の上昇が停止する(線210)。そして、検出値TD(t)の微分値TDD(t)が正値から負値に低下する。これに伴い、対象領域107の推定温度TN(t)は、急激に低下する。
【0090】
ここで、時刻t22以降、対象領域107の推定温度TN(t)として、第1推定温度に代えて第2推定温度が用いられる(線260)。具体的には、ECU100は、温度補正量CA(t)に0よりも大きい補正量CA2(t)を設定する。ECU100は、サーミスタ80の検出値TD(t)に補正量CA2(t)を加えることによって、対象領域107の推定温度TN(t)としての第2推定温度を算出する。このように、時刻t22以降、推定温度TN(t)として第2推定温度が用いられるため、時刻t22において、対象領域107の推定温度TN(t)は、第2推定温度まで低下する。よって、推定温度TN(t)は、時刻t22において急激に低下する点において比較例の場合の推定温度(図8の線205)と共通するものの、比較例の場合とは異なり、サーミスタ80の検出値TD(t)(線210)までは低下しない。
【0091】
時刻t22以降、対象領域107の推定温度TN(t)(第2推定温度)は、その上昇率が所定率PDRに制限されることなく上昇する。対象領域107の推定温度TN(t)は、このように急激に上昇していない場合、対象領域107の実際の温度を適切に反映していると考えられる。よって、この実施の形態2では、比較例の場合(図8の時刻t22~t24)よりも、推定温度TN(t)の精度が向上している。また、この実施の形態2では、比較例の場合(図8の時刻t23~時刻t24)とは異なり、対象領域107の推定温度TN(t)が急激に低下した後に実際の温度を適切に反映するようになるまでに時間を要することがない。
【0092】
図10は、この実施の形態2に従うECU100により実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、図7のフローチャートと比較して、ステップS315,S320,S325の処理が、ステップS215(図7)の処理に代えて実行される。本フローチャートにおけるステップS305,S310の処理は、それぞれ、図7のステップS205,S210の処理と同様である。
【0093】
図10を参照して、仮の推定温度TNP(t)の上昇率が所定率PDR未満である場合(ステップS305においてNO)、ECU100は、サーミスタ80の検出値TD(t)の微分値TDD(t)が正値から負値に低下したか否かを判定する(ステップS315)。微分値TDD(t)が正値から負値に低下していない場合(ステップS315においてNO)、ECU100は、温度補正量CA(t)に補正量CA1(t)を設定する(ステップS320)。上述のように、補正量CA1(t)は、図9の時刻t22よりも前に設定されるものである。他方、微分値TDD(t)が正値から負値に低下した場合(ステップS315においてYES)、ECU100は、温度補正量CA(t)に補正量CA2(t)を設定する(ステップS325)。上述のように、補正量CA2(t)は、図9の時刻t22以降に設定されるものである。ステップS320,S325の後、ECU100は、図10の処理を終了し、図6のステップS130に処理を進める。
【0094】
以上のように、この実施の形態2に従うECU100は、正値の補正量CA1(t)を検出値TD(t)に加えることによって、対象領域107の第1推定温度を算出し、第1推定温度の変化を緩やかにするためのなまし処理を第1推定温度に行うことによって、対象領域107の第2推定温度を算出する。ECU100は、微分値TDD(t)が正値である場合に、温度補正量CA(t)に補正量CA1(t)を設定する。ECU100は、微分値TDD(t)が正値から負値に低下した場合に、温度補正量CA(t)に0よりも大きい補正量CA2(t)を設定し、検出値TD(t)に補正量CA2(t)を加えることによって、対象領域107の推定温度TN(t)としての第2推定温度を算出する。
【0095】
上記の構成とすることにより、微分値TDD(t)が正値から負値に低下することに伴って、対象領域107の推定温度TN(t)は、第1推定温度から、検出値TD(t)よりも補正量CA2(t)だけ大きい第2推定温度に変化する。これにより、対象領域107の推定温度TN(t)が検出値TD(t)まで急激に低下することによって対象領域107の推定温度TN(t)が実際の温度から大きく乖離することを抑制することができる。
【0096】
[実施の形態3]
この実施の形態3では、仮の温度補正量CAP(t)(=TDD(t)×K))の上昇量が、0よりも大きいしきい量以上である場合について説明する。この場合、温度補正量CA(t)が過剰に大きく設定されることによって、推定温度TN(t)が過剰に高い非現実的な値として算出される事態は好ましくない。そこで、この実施の形態3では、このような事態が回避されるように温度補正量CA(t)が設定される。以下、この点について詳しく説明する。この実施の形態3における電池システムの構成および処理の手順は、図1図6に示された実施の形態1における電池システム90の構成および処理の手順と基本的に同様である。
【0097】
まず、図11を参照して、この実施の形態3に対する比較例について説明する。図11は、サーミスタ80の検出値TD(t)と、対象領域107の仮の推定温度TNP(t)と、対象領域107の推定温度TN(t)との時間的推移の一例を示す図である。図11において、横軸は時間を示し、縦軸は温度を示す。
【0098】
線315は、サーミスタ80の検出値TD(t)の時間的推移を示す。線305は、式(4)を用いて算出される仮の推定温度TNP(t)の時間的推移を示す。線310は、対象領域107の推定温度TN(t)の時間的推移を示す。線320は、式(4)を用いて算出される仮の温度補正量CAP(t)の時間的推移を示す。線325は、温度補正量CA(t)の時間的推移を示す。時刻t33(後述)以降、線320,325は一致する。
【0099】
時刻t31において、サーミスタ80の検出値TD(t)は、ノイズの影響を受け始めることによって温度T0から上昇し始める(線315)。
【0100】
時刻t32において、仮の推定温度TNP(t)は、ノイズの影響により急激に上昇する(線305)。図11の例では、仮の推定温度TNP(t)の時間的な上昇率が所定率PDR(レートガード値)を上回っている。そのため、時刻t32~時刻t33の間、ECUは、推定温度TN(t)の上昇率が所定率PDRを上回らないように、温度補正量CA(t)を設定する(線310,325)。
【0101】
時刻t33において、温度補正量CA(t)および推定温度TN(t)の上昇が終了する。推定温度TN(t)は、温度T1になる。時刻t33以降、サーミスタ80の検出値TD(t)(温度TA)は、サーミスタ80がノイズの影響を受ける前(時刻t31の前)の温度T0よりも、ΔTE1だけ上昇している。また、温度補正量CA(t)は、上昇量CAQだけ上昇している。
【0102】
図11の例では、電池モジュール4の充電電中に、時刻t31~時刻t33までの間にサーミスタ80の検出値TD(t)がノイズに起因してΔTE1だけ上昇しているものとする。すなわち、対象領域107の実際の温度は、ΔTE1だけ上昇していないものとする。
【0103】
検出値TD(t)がΔTE1だけ急激に上昇したことに伴って、検出値TD(t)に基づいて算出される仮の温度補正量CAP(t)も急激に上昇する(線320)。仮の温度補正量CAP(t)の上昇量CAQは、しきい量THQ以上である。しきい量THQは、上昇量CAQがしきい量THQ以上の量になる状況が非現実的であるような量であり、実験などにより適宜予め定められる。それゆえ、図11に示されるように、仮の温度補正量CAP(t)の上昇量CAQがしきい量THQ以上である場合、対象領域107における実際の温度は急激に上昇しておらず、サーミスタ80がノイズの影響を受けていると考えられる。
【0104】
しかしながら、図11の比較例では、仮の温度補正量CAP(t)が非現実的な上昇量CAQだけ上昇したものとして、温度補正量CA(t)が算出され、推定温度TN(t)が算出される。その結果、推定温度TN(t)は、非現実的な温度T1まで過度に上昇している(線310)。よって、図11の比較例において、対象領域107の推定温度TN(t)は、対象領域107の実際の温度を適切に反映していない。したがって、ECUは、推定温度TN(t)を適切に算出できない。
【0105】
そこで、この実施の形態3では、ECU100は、仮の温度補正量CAP(t)の上昇量CAQがしきい量THQ以上であるか否かに従って、サーミスタ80がノイズの影響を受けているか否かを判定する。上昇量CAQがしきい量THQ以上である場合、ECU100は、しきい量THQよりも小さい上昇量だけ仮の温度補正量CAP(t)が上昇するように、仮の温度補正量CAP(t)の上昇量を制限する。そして、制限された上昇量に従って、温度補正量CA(t)を設定する。これにより、温度補正量CA(t)が過剰に大きく設定されることを抑制することができる。その結果、推定温度TN(t)が、非現実的な温度T1まで上昇することを抑制することができる。以下、この点について詳しく説明する。
【0106】
図12を参照して、この実施の形態3に従うECU100による処理について説明する。図12は、この実施の形態3における、サーミスタ80の検出値TD(t)と、対象領域107の仮の推定温度TNP(t)と、対象領域107の推定温度TN(t)との時間的推移の一例を示す図である。図12において、横軸は時間を示し、縦軸は温度を示す。
【0107】
線415は、サーミスタ80の検出値TD(t)の時間的推移を示す。線405は、式(4)を用いて算出される仮の推定温度TNP(t)の時間的推移を示す。線410は、対象領域107の推定温度TN(t)の時間的推移を示す。線420は、仮の温度補正量CAP(t)よりも上昇量が制限された仮の温度補正量(後述)の時間的推移を示す。線425は、この実施の形態3に従う温度補正量CA(t)の時間的推移を示す。時刻t43(後述)以降、線420,425は一致する。
【0108】
時刻t41において、サーミスタ80の検出値TD(t)は、ノイズの影響を受け始めることによって温度T0から上昇し始める(線415)。
【0109】
時刻t42において、仮の温度補正量CAP(t)の上昇量CAQは、ノイズの影響により、しきい量THQ以上になる。よって、ECU100は、サーミスタ80がノイズの影響を受けていると判定する。そこで、ECU100は、仮の温度補正量CAP(t)の上昇量をCAQ1(<CAQ)に制限する(線420)。上昇量CAQ1は、しきい量THQよりも小さく、かつ、0よりも大きい。上昇量CAQ1は、例えば、上昇量CAQを、1よりも大きい所定数により除算することによって得られる。上昇量が制限された後の仮の温度補正量をCAPR(t)とする。本実施の形態では、仮の温度補正量CAPR(t)は、式(1),(4)において、仮の温度補正量CAP(t)に代えて用いられる。
【0110】
また、時刻t42において、仮の温度補正量CAPR(t)に基づいて算出される仮の推定温度TNP(t)の時間的な上昇率は、所定率PDR(レートガード値)を上回っている(線405)。そのため、時刻t42~時刻t43の間、ECU100は、推定温度TN(t)の上昇率が所定率PDRを上回らないように、温度補正量CA(t)を上昇させながら設定する(線410,425)。
【0111】
時刻t43において、時刻t42からの温度補正量CA(t)の上昇量が上昇量CAQ1に達する。時刻t43以降、ECU100は、温度補正量CA(t)に補正量CA4(一定値)を設定し、温度補正量CA(t)を上昇させない。その結果、推定温度TN(t)は、比較例(図11)の場合の温度T1よりも小さい温度T2になる(線410)。ここで、サーミスタ80の検出値TD(t)は、比較例(図11)の場合と同様に、サーミスタ80がノイズの影響を受ける前(時刻t41の前)よりも、ΔTE1だけ上昇している。一方で、温度補正量CA(t)は、比較例とは異なり、時刻t41の前よりも、上昇量CAQ1だけ上昇するようにECU100により設定される。すなわち、仮の温度補正量CAP(t)の上昇量CAQがしきい量THQ以上になる時刻t42よりも後に設定される補正量CA3は、時刻t42よりも前に設定される補正量CA4と、上昇量CAQ1との合計である(線425)。
【0112】
図13は、この実施の形態3に従うECU100により実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、この実施の形態3における、図6のステップS125)の詳細な処理に相当する。このフローチャートは、図7のフローチャートと比較して、ステップS402,S403,S404の処理が追加されている。本フローチャートにおけるステップS405,S410,S415の処理は、それぞれ、図7のステップS205,S210,S215の処理と同様である。
【0113】
図13とともに図12を参照して、ECU100は、仮の温度補正量CAP(t)の上昇量CAQがしきい量THQ以上であるか否かを判定する(ステップS402)。仮の温度補正量CAP(t)の上昇量CAQがしきい量THQ以上である場合(ステップS402においてYES)、ECU100は、制限された上昇量CAQ1を算出し(ステップS403)、上昇量が制限された仮の温度補正量CAPR(t)を、上昇量CAQ1と上昇前の補正量CA4とに従って算出する(ステップS404)。上昇量が制限された仮の温度補正量CAPR(t)は、以降の処理において、仮の温度補正量CAP(t)に代えて用いられる。ステップS404の処理の後、ECU100は、ステップS405へ処理を進める。他方、仮の温度補正量CAP(t)の上昇量CAQがしきい量THQ未満である場合(ステップS402においてNO)、ECU100は、仮の温度補正量CAP(t)の上昇量を制限することなく、ステップS405へ処理を進める。
【0114】
ステップS405以降の処理は、実施の形態1の場合(図7)と同様に実行される。具体的には、仮の温度補正量CAP(t)(または仮の温度補正量CAPR(t))に従って算出される仮の推定温度TNP(t)の上昇率が所定率PDR以上である場合(ステップS405においてYES)、ECU100は、対象領域107の推定温度TNP(t)の上昇率が所定率PDRを上回らないように温度補正量CA(t)を設定する(ステップS410)。そうでない場合(ステップS405においてのNO)、ECU100は、仮の温度補正量CAP(t)(または仮の温度補正量CAPR(t))を、温度補正量CA(t)に設定する(ステップS415)。ステップS410,S415の後、ECU100は、図13の処理を終了し、図6のステップS130に処理を進める。
【0115】
以上のように、本実施の形態では、検出値TD(t)が温度T0から温度TAに上昇した場合に、ECU100は、微分値TDD(t)に所定の定数Kを乗じて得られる仮の温度補正量CAP(t)を算出する。ECU100は、検出値TD(t)が温度T0であるときの温度補正量CA(t)を示す補正量CA4から仮の温度補正量CAP(t)への上昇量CAQがしきい量THQよりも小さいときは、仮の温度補正量CAP(t)を、検出値TD(t)が温度TAであるときの温度補正量CA(t)として設定する。他方、上昇量CAQがしきい量THQ以上であるときは、しきい量THQよりも小さい上昇量CAQ1を補正量CA4に加算した補正量CA3を、検出値TD(t)が温度TAであるときの温度補正量CA(t)として設定する。
【0116】
これにより、仮の温度補正量CAP(t)の上昇量CAQがしきい量THQ以上になるほどサーミスタ80がノイズの影響を受ける場合に、温度補正量CA(t)が過度に大きく設定される事態を回避することができる。したがって、図11の比較例の場合(線310)とは異なり、対象領域107の推定温度TN(t)が非現実的な温度T1まで過度に上昇する事態を回避することができる(線410)。
【0117】
[実施の形態4]
この実施の形態4では、ECU100は、サーミスタ80から取得するサンプリング値の前回値と今回値との差分の絶対値がしきい値以上である場合に、今回値を用いることなく検出値TD(t)を算出する。この実施の形態4における電池システムの構成および処理の手順は、図1図6に示された実施の形態1における電池システム90の構成および処理の手順と基本的に同様である。
【0118】
まず、図14を参照して、この実施の形態4に対する比較例について説明する。図14は、サーミスタ80からのサンプリング値が異常値を含む場合の、サーミスタ80の検出値TD(t)と、対象領域107の推定温度TN(t)との時間的推移を示す図である。図14において、横軸は時刻を示し、縦軸は温度を示す。
【0119】
線510は、サーミスタ80の検出値TD(t)の時間的推移を示す。線505は、対象領域107の推定温度TN(t)の時間的推移を示す。線505Tは、対象領域107の実際の温度と考えられる温度の時間的推移を示す。前述したように、Δtは、ECU100によるサーミスタ80の検出値の算出間隔である。
【0120】
ECU100は、サーミスタ80から、所定のサンプリング周期ごとにサンプリング値を取得する。このサンプリング周期は、Δtの長さの検出期間よりも短い。ECU100は、Δtの長さの検出期間にわたる複数の(例えば、所定数の)サンプリング値の平均値を、次の検出期間の検出値TD(t)として算出する。
【0121】
例えば、ECU100は、時刻t51~時刻t52の間の検出期間に取得した複数のサンプリング値の平均値を算出する。そして、この平均値は、時刻t52~時刻t53の間の検出期間における検出値TD(t)として推定温度TN(t)の算出のために用いられる(線505)。
【0122】
図14の例では、時刻t51~時刻t52の間の検出期間にわたって取得される複数のサンプリング値の少なくとも1つが異常値を含むものとする。「異常値」とは、その値がサンプリングされる直前のサンプリング値(前回値)から、所定のしきい値以上変化した値である。このような異常値は、サーミスタ80の領域85の実際の温度変化に起因するものでなく、例えば、サーミスタ80の突発的な誤検出に起因する。このように、時刻t51~時刻t52の期間のサンプリング値が異常値を含むため、時刻t52において、その期間の複数のサンプリング値の平均値としての検出値TD(t)がVA2(<VA1)に急激に低下している。
【0123】
よって、時刻t52において、検出値TD(t)の微分値TDD(t)(=(VA2-VA1)/Δt)が負値に低下する。前述したように、微分値TDD(t)が負値に低下した場合、温度補正量CA(t)が0に設定されるものとされる。よって、時刻t52~時刻t53の期間中、温度補正量CA(t)が0に設定される。その結果、推定温度TN(t)は、サーミスタ80の検出値TD(t)に一致するほどに急激に低下してしまっている(線505)。
【0124】
このように、推定温度TN(t)が急激に変化する現象は、非現実的であると考えられる。そのため、時刻t52~時刻t53までの間、推定温度TN(t)は、対象領域107の実際の温度を適切に反映していないと考えられる。
【0125】
時刻t53~時刻t54の期間、ECUは、前回の期間(時刻t52~時刻t53の期間)にわたって取得された複数のサンプリング値の平均値を、今回の期間の検出値TD(t)として用いることによって対象領域107の推定温度TN(t)を算出する(線505)。当該複数のサンプリング値は、異常値を含まないものとする。そして、時刻t53~時刻t54の期間中、仮の推定温度TNP(t)の上昇率は、所定率PDRを上回っているものとする。そのため、ECUは、推定温度TN(t)の上昇率が所定率PDR(レートガード値)に制限されるように、温度補正量CA(t)を設定する。その結果、対象領域107の推定温度TN(t)が実際の温度(線505T)を適切に反映するようになるまで(実際の温度の追いつくまで)に時間がかかる。
【0126】
以上のように、図14の比較例では、時刻t51~時刻t52の期間にわたって取得された複数のサンプリング値が異常値を含むため、時刻t52~時刻t55の間、対象領域107の推定温度TN(t)は、対象領域107の実際の温度と考えられる温度(線505T)を適切に反映できない。
【0127】
図15を参照して、この実施の形態4に従うECU100が検出値TD(t)を算出する手法について説明する。図15は、この実施の形態4において、サーミスタ80のサンプリング値が異常値を含む場合の、サーミスタ80の検出値TD(t)と、対象領域107の推定温度TN(t)との時間的推移を示す図である。図15において、横軸は時刻を示し、縦軸は温度を示す。
【0128】
線605は、この実施の形態4における推定温度TN(t)の時間的推移を示す。線610は、この実施の形態4における検出値TD(t)の時間的推移を示す。
【0129】
ECU100は、サンプリング値の前回値と今回値との差分の絶対値がしきい値以上である場合に、今回値を用いることなく検出値TD(t)を算出する。しきい値は、前回値と今回値との差分に従って、今回値が異常値であるか否かをECU100が判定するために用いられる。具体的には、しきい値は、サンプリング周期ごとのサンプリング値の変化量としては非現実的な値として適宜予め定められる。
【0130】
時刻t51~時刻t52の期間中に、ECU100が今回値を取得した時点において、前回値と今回値との差分がしきい値以上である(今回値が異常値である)ものとする。そこで、ECU100は、異常値としての今回値を、正常値としての前回値に置換する。そして、ECU100は、異常値が正常値に置換された後の複数のサンプリング値の平均値を検出値TD(t)として算出する(線610)。図15の例では、この平均値は、VA3(≠VA2)である。ECU100は、時刻t51~時刻t52の期間にわたる当該複数のサンプリング値の平均値であるVA3に従って、時刻t52~時刻t53の期間に対応する検出値TD(t)を算出する。そして、ECU100は、その検出値TD(t)に従って、時刻t52~時刻t53における温度補正量CA(t)を設定する。その結果、図15の例では、この期間中の推定温度TNP(t)は、時刻t52における推定温度TNP(t)に等しい値として算出される。
【0131】
このように、この実施の形態4では、比較例の場合(図14の線505)とは異なり、時刻t51~時刻t52の期間におけるサンプリング値の異常値が、次の期間(時刻t52~時刻t53の期間)における推定温度TN(t)の算出結果に反映される事態が回避される。その結果、時刻t52において推定温度TN(t)が急激に変化する事態が回避される(線605)。
【0132】
なお、図15の例では、サンプリング値が急激に低下する場合について説明されたが、サンプリング値が急激に上昇する場合(異常値が他のサンプリング値よりも大幅に大きい場合)も、ECU100は、検出値TD(t)を上記と同様に算出する。具体的には、ECU100は、その異常値を用いることなく当該他のサンプリング値に従って検出値TD(t)を算出し、その検出値TD(t)に従って温度補正量CA(t)を設定し、対象領域107の推定温度TN(t)を算出する。
【0133】
図16は、この実施の形態5において、図6のステップS105において実行される処理の詳細を説明するためのフローチャートである。
【0134】
図16を参照して、ECU100は、サーミスタ80からサンプリング値を取得する(ステップS505)。ECU100は、サンプリング値の今回値と前回値との差分の絶対値がしきい値TH以上であるか否かを判定する(ステップS510)。絶対値がしきい値TH以上でない場合(ステップS510においてNO)、ECU100は、ステップS520に処理を進める。絶対値がしきい値TH以上である場合(ステップS510においてYES)、ECU100は、サンプリング値の今回値が異常値であるものとして、サンプリング値の今回値を前回値に置換する(ステップS515)。
【0135】
ステップS520において、ECU100は、所定の検出期間(図15の例では、Δtの長さの期間)が経過したか否かを判定する。所定の検出期間が経過していない場合(ステップS520においてNO)、ECU100は、ステップS505に処理を戻す。所定の検出期間が経過した場合(ステップS520においてYES)、ECU100は、異常値が正常値に置換された後の複数のサンプリング値の平均値を算出する(ステップS525)。この平均値は、サーミスタ80の検出値として、図6のステップS110以降の処理において用いられる。
【0136】
以上のように、本実施の形態4では、ECU100は、サーミスタ80から取得したサンプリング値の前回値と今回値との差分の絶対値がしきい値TH以上であるか否かを判定する。絶対値がしきい値TH以上である場合に、ECU100は、今回値が異常値であるものとして、今回値を用いることなく前回値(および所定の検出期間における他の正常値)を用いて検出値TD(t)を算出する。
【0137】
これにより、サンプリング値の前回値と今回値との差分の絶対値がしきい値TH以上になるほど今回値が異常値を取る場合であっても、異常値としての今回値が用いられることなく検出値TD(t)が算出される。よって、サンプリング値の異常値が温度補正量CA(t)に反映されることを防止することができる。その結果、対象領域107の推定温度TN(t)が急激に変化することによって実際の温度から大きく乖離する事態を回避することができる。
【0138】
[変形例1]
上述の各実施の形態では、複数の電池モジュール4のうち代表的な電池モジュール4のみにサーミスタ80が設けられるものとした。これに対して、複数の電池モジュール4の各々にサーミスタが設けられてもよい。各サーミスタの検出値は、ECU100により取得される。
【0139】
この場合、ECU100は、対象領域107の推定温度TN(t)を電池モジュール4ごとに演算する。そして、ECU100は、例えば、各電池モジュール4に対して演算された推定温度TN(t)の7つの推定値の平均値(または、これらの推移値の少なくとも1つ)がしきい温度THT(図5)以上であるか否かに応じて、ステップS135(図6)の処理を分岐させてもよい。
【0140】
[変形例2]
上述の各実施の形態では、サーミスタ80の検出値TD(t)は、サーミスタ80の対象領域107(近傍領域)の推定温度TN(t)の算出のために用いられるものとした。
【0141】
これに対して、サーミスタ80の検出値TD(t)は、サーミスタ80の対象領域107以外の領域(発熱領域502のうちの他の領域)の温度の推定のために用いられてもよい。すなわち、サーミスタ80が設けられる領域と、温度が推定される他の領域との間の熱伝導率(熱伝導量)などが既知である限り、ECU100は、式(1),(4)を用いて、当該他の領域の温度の推定値を算出することができる。
【0142】
[その他の変形例]
前述の実施の形態1~4では、式(1),(4)に示されるように、ECU100は、サーミスタ80の検出値TD(t)の算出間隔Δt(一定値)が経過する度に、微分値TDD(t)を算出するものとした。
【0143】
これに対して、ECU100は、サーミスタ80の検出値TD(t)が所定の温度間隔(ΔTIとする)だけ変化する度に、微分値TDD(t)を算出する処理を実行してもよい。
【0144】
この場合、ΔTIが小さくなるほど、微分値TDD(t)が変動し易い。他方、ΔTIが大きくなるほど、微分値TDD(t)が変動し難いものの、その算出回数が減少したり、微分値TDD(t)が次に算出されるまでの時間が長くなったりする。そこで、ECU100は、以下に説明される手法を用いて、微分値TDD(t)の算出回数を増加させてもよい。
【0145】
具体的には、ECU100は、微分値TDD(t)の算出処理を、その開始時間をずらしながらn回に分割して実行する(nは2以上の自然数)。例えば、ECU100は、まず、第1の微分値算出処理を開始する。この処理は、その処理の開始後にサーミスタ80の検出値TD(t)がΔTIだけ上昇した時点において完了する。この処理における微分値は、その処理の開始時点のサーミスタ80の検出値TD(t)と、その検出値TD(t)がΔTIだけ上昇した値との時間的な変化率に従って算出される。
【0146】
ECU100は、サーミスタ80の検出値TD(t)が、第1の微分値算出処理の開始時の検出値TD(t)からΔTI×(m-1)/nだけ上昇する度に、第mの微分値算出処理を開始する(mは、1≦m≦nを満たす自然数)。各微分値算出処理は、その開始からサーミスタ80の検出値TD(t)がΔTIだけ上昇した時点において完了する。
【0147】
これにより、第1の微分値算出処理の完了後、サーミスタ80の検出値TD(t)がΔTI/nの温度だけ上昇したタイミングごとに、対応する微分値算出処理が完了する。よって、ECU100は、そのタイミングごとに、サーミスタ80の検出値TD(t)の微分値TDD(t)を得ることができる。その結果、ECU100は、微分値TDD(t)が大きく変動する事態を防止しつつ、微分値TDD(t)の算出回数を、微分値TDD(t)の算出処理が分割して実行されない場合よりも増加させることができる。よって、対象領域107の温度の推定精度を向上させることができる。
【0148】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0149】
1 電池ユニット、4 電池モジュール、80 サーミスタ、90 電池システム、105 メモリ、107 対象領域。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16