(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189419
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】圧電薄膜共振器、フィルタ、およびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20221215BHJP
H03H 9/70 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
H03H9/17 F
H03H9/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097980
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】浅田 稔
(72)【発明者】
【氏名】西澤 年雄
(72)【発明者】
【氏名】岡村 龍一
(72)【発明者】
【氏名】入枝 泰成
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕樹
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA01
5J108BB08
5J108CC04
5J108CC11
5J108CC12
5J108EE03
5J108FF03
5J108GG03
5J108GG16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】スプリアスを抑制することが可能な圧電薄膜共振器を提供する。
【解決手段】圧電薄膜共振器100は、基板10と、基板10上に設けられる下部電極12と、下部電極12上に設けられる圧電膜14と、上部電極16と、挿入膜28とを備える。上部電極16は、圧電膜14の少なくとも一部を挟んで下部電極12と対向する共振領域50を形成している。挿入膜28は、共振領域50に挿入され、共振領域50の中央領域54には設けられておらず、中央領域54を囲むように共振領域50の外周に沿って設けられ、共振領域50内に内周29を有し、共振領域50における下部電極12と圧電膜14と上部電極16との合計厚さをHとした場合に、平面視して内周29に平面方向の深さがH/2より大きくかつ3H/2より小さい複数の凹部58と複数の凸部60とが交互に設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられる下部電極と、
前記下部電極上に設けられる圧電膜と、
前記圧電膜上に設けられ、前記圧電膜の少なくとも一部を挟んで前記下部電極と対向する共振領域を形成する上部電極と、
前記共振領域に挿入され、前記共振領域の中央領域には設けられてなく、前記中央領域を囲むように前記共振領域の外周に沿って設けられ、前記共振領域内に内周を有し、前記共振領域における前記下部電極と前記圧電膜と前記上部電極との合計厚さをHとした場合に、平面視して前記内周に平面方向の深さがH/2より大きくかつ3H/2より小さい複数の凹部と複数の凸部とが交互に設けられた挿入膜と、を備える圧電薄膜共振器。
【請求項2】
前記複数の凹部の深さは、3H/4以上かつ5H/4以下である、請求項1に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項3】
前記複数の凹部の幅および前記複数の凸部の幅は、H/2以上かつ4H以下である、請求項1または2の記載の圧電薄膜共振器。
【請求項4】
前記挿入膜は、前記内周のうち前記共振領域の中心に対して対向する箇所各々に前記複数の凹部を構成する2以上の凹部と前記複数の凸部を構成する2以上の凸部とが交互に設けられている、請求項3に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項5】
前記挿入膜は、前記内周の略全周に前記複数の凹部と前記複数の凸部が交互に設けられている、請求項3に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項6】
前記共振領域は、平面視して円形状、楕円形状、またはオーバル形状である、請求項1から5のいずれか一項に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項7】
前記複数の凹部のうち前記共振領域の外周の曲線部分に対応した位置にある凹部の底面は、前記共振領域の外周に沿った曲面である、請求項6に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項8】
前記複数の凹部の底面は、略平坦面である、請求項6に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項9】
前記共振領域において、前記基板と前記下部電極の間に空隙が形成されている、または、前記下部電極の前記圧電膜とは反対側に前記圧電膜を伝搬する弾性波を反射する音響反射膜を備える、請求項1から8のいずれか一項に記載の圧電薄膜共振器。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の圧電薄膜共振器を備えるフィルタ。
【請求項11】
請求項10に記載のフィルタを備えるマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電薄膜共振器、フィルタ、およびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の無線端末の高周波回路用のフィルタおよびマルチプレクサとして、圧電薄膜共振器が用いられている。圧電薄膜共振器は、圧電膜を挟んで下部電極と上部電極が設けられた構造を有し、圧電膜の少なくとも一部を挟んで下部電極と上部電極が対向する共振領域は弾性波が共振する領域である。Q値を向上させかつスプリアスを抑制するために、共振領域の外周領域における圧電膜中に挿入膜を挿入しかつ挿入膜の内周に切欠きを設けることが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のように、楕円形状をした共振領域の短軸近傍にのみ切欠きを設けた構造では、スプリアスを抑制する点において改善の余地が残されている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、スプリアスを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられる下部電極と、前記下部電極上に設けられる圧電膜と、前記圧電膜上に設けられ、前記圧電膜の少なくとも一部を挟んで前記下部電極と対向する共振領域を形成する上部電極と、前記共振領域に挿入され、前記共振領域の中央領域には設けられてなく、前記中央領域を囲むように前記共振領域の外周に沿って設けられ、前記共振領域内に内周を有し、前記共振領域における前記下部電極と前記圧電膜と前記上部電極との合計厚さをHとした場合に、平面視して前記内周に平面方向の深さがH/2より大きくかつ3H/2より小さい複数の凹部と複数の凸部とが交互に設けられた挿入膜と、を備える圧電薄膜共振器である。
【0007】
上記構成において、前記複数の凹部の深さは、3H/4以上かつ5H/4以下である構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記複数の凹部の幅および前記複数の凸部の幅は、H/2以上かつ4H以下である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記挿入膜は、前記内周のうち前記共振領域の中心に対して対向する箇所各々に前記複数の凹部を構成する2以上の凹部と前記複数の凸部を構成する2以上の凸部とが交互に設けられている構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記挿入膜は、前記内周の略全周に前記複数の凹部と前記複数の凸部が交互に設けられている構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記共振領域は、平面視して円形状、楕円形状、またはオーバル形状である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記複数の凹部のうち前記共振領域の外周の曲線部分に対応した位置にある凹部の底面は、前記共振領域の外周に沿った曲面である構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記複数の凹部の底面は、略平坦面である構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記共振領域において、前記基板と前記下部電極の間に空隙が形成されている、または、前記下部電極の前記圧電膜とは反対側に前記圧電膜を伝搬する弾性波を反射する音響反射膜を備える構成とすることができる。
【0015】
本発明は、上記に記載の圧電薄膜共振器を備えるフィルタである。
【0016】
本発明は、上記に記載のフィルタを備えるマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、スプリアスを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)は、実施例1における挿入膜の共振領域近傍の平面図、
図1(c)は、
図1(a)のA-A断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1における挿入膜の内周近傍を拡大した平面図である。
【
図3】
図3(a)から
図3(d)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
【
図4】
図4(a)は、比較例に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図4(b)は、比較例における挿入膜の共振領域近傍の平面図、
図4(c)は、
図4(a)のA-A断面図である。
【
図5】
図5は、実施例1および比較例に係る圧電薄膜共振器の周波数に対する減衰量を示す実験結果である。
【
図6】
図6は、楕円形状をした共振領域の光観測測定IFFT(Inverse Fast Fourier Transform)画像の模式図である。
【
図7】
図7(a)から
図7(c)は、挿入膜の他の例を示す平面図である。
【
図8】
図8(a)および
図8(b)は、共振領域の他の例を示す平面図である。
【
図9】
図9(a)および
図9(b)は、挿入膜の内周に設けられる凹部の例を示す平面図である。
【
図10】
図10(a)は、実施例1の変形例1に係る圧電薄膜共振器の断面図、
図10(b)は、実施例1の変形例2に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図12】
図12は、実施例3に係るデュプレクサのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照し、本発明の実施例について説明する。
【実施例0020】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器100の平面図、
図1(b)は、実施例1における挿入膜28の共振領域50近傍の平面図、
図1(c)は、
図1(a)のA-A断面図である。
図1(a)では主に基板10、下部電極12、および上部電極16を図示している。
図1(a)から
図1(c)に示すように、実施例1に係る圧電薄膜共振器100は、基板10と、下部電極12と、圧電膜14と、上部電極16と、付加膜24と、挿入膜28と、を備える。基板10は、上面に窪みが形成されている。下部電極12は、基板10上に平坦に形成されている。基板10の上面に形成された窪みによって、基板10と下部電極12との間に空隙30が形成されている。空隙30は、基板10を貫通するように形成されていてもよい。基板10は、例えばシリコン基板であり、厚さが100μm~1000μmである。下部電極12は、下層12aと上層12bを含み、厚さが30nm~400nmである。下層12aは例えばクロム(Cr)膜であり、上層12bは例えばルテニウム(Ru)膜である。
【0021】
下部電極12上に圧電膜14が設けられている。圧電膜14は、例えば(002)方向を主軸とする窒化アルミニウムを主成分とする窒化アルミニウム膜であり、厚さが800nm~1500nmである。圧電膜14は、下部電極12上に設けられた下部圧電膜14aと、下部圧電膜14a上に設けられた上部圧電膜14bと、を備える。主成分とするとは、アルミニウム原子と窒素原子の合計が50原子%以上である場合でもよいし、80原子%以上である場合でもよいし、90原子%以上である場合でもよい。
【0022】
圧電膜14上に上部電極16が設けられている。上部電極16は、圧電膜14を挟み下部電極12と対向する領域を有するように圧電膜14上に設けられている。圧電膜14を挟み下部電極12と上部電極16とが対向する領域が共振領域50である。共振領域50は、例えば平面視にて楕円形状を有し、厚み縦振動モードの弾性波が共振する領域である。平面視において、空隙30の大きさは共振領域50と同じかまたは共振領域50より大きい。共振領域50は、平面視において、四角形または五角形等の多角形状を有していてもよい。上部電極16は、下層16aと上層16bを含み、厚さが30nm~400nmである。下層16aは例えばRu膜であり、上層16bは例えばCr膜である。
【0023】
上部電極16上に共振領域50の少なくとも一部を覆って付加膜24が設けられている。付加膜24は、例えば酸化シリコン膜であり、周波数を調整する役割を担っていてもよい。付加膜24は保護膜として機能してもよい。共振領域50における下部電極12と圧電膜14と上部電極16の合計厚さをHとする。共振領域50で共振される厚み縦振動モードの弾性波の波長λは、付加膜24により微調整されるが、概ね下部電極12と圧電膜14と上部電極16との合計厚さHの2倍(2H)である。
【0024】
下部電極12に孔部35が設けられている。孔部35は、下部電極12下の導入路33を介し空隙30に通じている。孔部35および導入路33は、空隙30を形成するときに用いる犠牲層をエッチングするときに、犠牲層にエッチング液を導入するためのものである。
【0025】
下部圧電膜14aと上部圧電膜14bとの間に挿入膜28が設けられている。挿入膜28は、圧電膜14の膜厚方向のほぼ中央に設けられていることが好ましい。挿入膜28は、共振領域50内の外周領域52に設けられ、中央領域54には設けられていない。外周領域52は、共振領域50内の領域であって、共振領域50の外周を含み外周に沿った領域である。外周領域52は、例えば帯状およびリング状である。中央領域54は、共振領域50内の領域であって、共振領域50の中央を含む領域である。中央領域54は幾何学的な中心でなくてもよい。したがって、挿入膜28は、中央領域54には設けられてなく、中央領域54を囲むように共振領域50の外周に沿って設けられている。挿入膜28は、共振領域50内に内周29を有する。挿入膜28の内周29は、概ね共振領域50の外周に沿っていて、例えば平面視にて概ね楕円形状をしている。挿入膜28は、例えば外周領域52に加えて共振領域50を囲む領域56まで連続して設けられているが、共振領域50内にのみ設けられている場合でもよい。挿入膜28は、例えば酸化シリコン膜である。挿入膜28は、弾性波のエネルギーが共振領域50から外に漏洩することを抑制するために設けられている。
【0026】
挿入膜28は、圧電膜14中に挿入されている場合に限られず、共振領域50に挿入されていればよい。例えば、挿入膜28は、下部電極12と圧電膜14の間または圧電膜14と上部電極16との間のように下部電極12と上部電極16との間に挿入されていてもよいし、下部電極12の下方または上部電極16の上方に設けられていてもよい。
【0027】
共振領域50から下部電極12が引き出される領域では、共振領域50の外周より上部圧電膜14bの外周が外側に位置し、上部圧電膜14bの外周より下部圧電膜14aの外周が外側に位置する。挿入膜28の外周は下部圧電膜14aの外周に略一致する。これにより、圧電膜14には段差が形成される。
【0028】
挿入膜28には、内周29に複数の凹部58と複数の凸部60が交互に繰り返し設けられている。複数の凹部58の深さおよび幅は例えば略一定であり、複数の凸部60の高さおよび幅は例えば略一定である。挿入膜28の内周29には、略全周にわたって、このような略一定の幅の凹部58と略一定の幅の凸部60が交互に繰り返し設けられている。凹部58の底面は、共振領域50内の外周領域52に位置していてもよいし、共振領域50の外周と概ね一致していてもよいし、共振領域50を囲む領域56に位置していてもよい。
【0029】
図2は、実施例1における挿入膜28の内周29近傍を拡大した平面図である。
図2に示すように、挿入膜28の内周29に設けられた凹部58と凸部60は、例えば平面視して略矩形状をしている。凹部58の深さLは、H/2より大きくかつ3H/2より小さい。言い換えると、凹部58の深さLは、λ/4より大きくかつ3λ/4より小さい。凹部58の幅W1および凸部60の幅W2は、例えばH/2以上かつ4H以下、言い換えるとλ/4以上かつ2λ以下である。例えば、凹部58の幅W1と凸部60の幅W2は略同じ大きさである。略同じとは、幅W1と幅W2の差が5%以下の場合である。凹部58の深さLは、凹部58の底面が湾曲している場合等では、最も深い部分の深さを深さLとする。凹部58の幅W1は、凹部58の2つの側面が互いに傾いている場合等では、最も共振領域50の中心側における幅を幅W1とする。同様に、凸部60の幅W2は、凸部60の2つの側面が互いに傾いている場合等では、最も共振領域50の中心側における幅を幅W2とする。共振領域50の中心とは、例えば共振領域50の重心である。
【0030】
基板10としては、シリコン基板以外に、例えばサファイア基板、スピネル基板、アルミナ基板、石英基板、ガラス基板、セラミック基板、またはガリウム砒素基板等の絶縁基板または半導体基板を用いることができる。下部電極12および上部電極16としては、RuおよびCr以外にも、例えばアルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる。
【0031】
圧電膜14は、窒化アルミニウム(AlN)以外にも、例えば酸化亜鉛(ZnO)、窒化ガリウム(GaN)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、またはチタン酸鉛(PbTiO3)等を用いることができる。また、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のために他の元素を含んでもよい。添加元素として、例えばスカンジウム(Sc)、2族元素と4族元素の2つの元素、または2族元素と5族元素の2つの元素を用いることにより、圧電膜14の圧電性が向上する。このため、圧電薄膜共振器の実効的電気機械結合係数を向上できる。2族元素は、例えばカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、または亜鉛(Zn)である。4族元素は、例えばチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、またはハフニウム(Hf)である。5族元素は、例えばタンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、またはバナジウム(V)である。さらに、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、フッ素(F)またはホウ素(B)を含んでもよい。
【0032】
挿入膜28は、圧電膜14よりヤング率および/または音響インピーダンスが小さい材料により形成されることが好ましい。これにより、Q値を向上できる。挿入膜28は、酸化シリコン以外に、アルミニウム(Al)、金(Au)、銅(Cu)、チタン(Ti)、白金(Pt)、タンタル(Ta)、またはクロム(Cr)等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる。挿入膜28として金属膜を用いることにより、実効的電気機械結合係数を向上できる。付加膜24としては、酸化シリコン膜以外にも、例えば窒化シリコン膜または窒化アルミニウム膜等を用いることができる。
【0033】
[製造方法]
図3(a)から
図3(d)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器100の製造方法を示す断面図である。
図3(a)に示すように、基板10の上面に例えばエッチング法により凹部を形成した後、凹部内に犠牲層38を埋め込む。凹部の深さは例えば10nm~100nmである。犠牲層38は、MgO、ZnO、Ge、またはSiO
2等のエッチング液またはエッチングガスに容易に溶解できる材料から選択される。次いで、犠牲層38および基板10上に下部電極12として下層12aおよび上層12bを形成する。下部電極12は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い成膜される。その後、下部電極12をフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。下部電極12はリフトオフ法により形成してもよい。
【0034】
図3(b)に示すように、下部電極12および基板10上に下部圧電膜14aおよび挿入膜28を、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD法を用い成膜する。挿入膜28を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。挿入膜28はリフトオフ法により形成してもよい。挿入膜28には内周29に凹部58および凸部60(
図3(b)では不図示)が形成される。
【0035】
図3(c)に示すように、下部圧電膜14a上に、上部圧電膜14b並びに上部電極16の下層16aおよび上層16bを、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD法を用い成膜する。下部圧電膜14aおよび上部圧電膜14bから圧電膜14が形成される。上部電極16を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。上部電極16は、リフトオフ法により形成してもよい。圧電膜14上に、付加膜24を、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、CVD法を用い成膜する。付加膜24を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。その後、圧電膜14を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。
【0036】
図3(d)に示すように、孔部35および導入路33(
図1(a)参照)を介し、犠牲層38のエッチング液を下部電極12下の犠牲層38に導入する。これにより、犠牲層38が除去される。犠牲層38をエッチングする媒体としては、犠牲層38以外の共振器を構成する材料をほとんどエッチングしない媒体であることが好ましい。特に、エッチング媒体は、エッチング媒体が接触する下部電極12がほぼエッチングされない媒体であることが好ましい。犠牲層38が除去されることで、下部電極12と基板10の間に空隙30が形成される。以上により、実施例1に係る圧電薄膜共振器100が形成される。
【0037】
[比較例]
図4(a)は、比較例に係る圧電薄膜共振器500の平面図、
図4(b)は、比較例における挿入膜28の共振領域50近傍の平面図、
図4(c)は、
図4(a)のA-A断面図である。
図4(a)から
図4(c)に示すように、比較例に係る圧電薄膜共振器500では、挿入膜28の内周29に、共振領域50の短軸近傍に位置して凹部58が1つ設けられている。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0038】
[実験]
実施例1および比較例の圧電薄膜共振器のスプリアスを評価する実験を行った。実験条件は以下である。
基板10:シリコン基板
下部圧電膜14a、上部圧電膜14b:厚さ1152nmの窒化アルミニウム(AlN)膜
下部電極12の下層12a:厚さ55nmのクロム(Cr)膜
下部電極12の上層12b:厚さ205nmのルテニウム(Ru)膜
上部電極16の下層16a:厚さ205nmのルテニウム(Ru)膜
上部電極16の上層16b:厚さ55nmのクロム(Cr)膜
付加膜24:厚さ70nmの酸化シリコン(SiO2)膜
挿入膜28:厚さ122nmの酸化シリコン(SiO2)膜
弾性波の波長λ:2400nm
凹部58の深さL:λ/2
凹部58の幅W1および凸部60の幅W2:λ/2
共振領域50:短軸長122μm、長軸長146μmの楕円形状
【0039】
図5は、実施例1および比較例に係る圧電薄膜共振器の周波数に対する減衰量を示す実験結果である。実施例1に係る圧電薄膜共振器100の共振周波数は2021MHzであり、比較例に係る圧電薄膜共振器500の共振周波数は2018MHzである。
図5に示すように、実施例1に係る圧電薄膜共振器100は、比較例に係る圧電薄膜共振器500に比べて、スプリアスが抑制され、減衰量が改善された結果であった。
【0040】
実施例1においてスプリアスが抑制されたメカニズムを考察する。
図6は、楕円形状をした共振領域50の光観測測定IFFT(Inverse Fast Fourier Transform)画像の模式図である。
図6における圧電薄膜共振器では、挿入膜28の内周29の側面は平坦面となっていて、凹部は形成されていない。
図6では、共振領域50内を伝搬する横モードの弾性波に起因する定在波が主に表されていて、主モードである厚み縦振動モードの弾性波はほとんど表されていない。
図6では、定在波が発生している領域をハッチングで図示し、そのうち定在波が互いに強め合って振幅が大きくなった大振幅領域27を細かいハッチングで図示している。なお、大振幅領域27は、共振領域50内に複数存在していると思われるが、光観測測定の測定精度から、大振幅領域27の一部のみが図示されている。
【0041】
図6に示すように、共振領域50内の外周領域であって、挿入膜28の内周29近傍の領域は、大振幅領域27となっている。また、楕円形状をした共振領域50の中央領域において長軸近傍および短軸近傍に位置する4つの領域も大振幅領域27となっている。大振幅領域27が挿入膜28の内周29の全体にわたって存在していることから、共振領域50内には様々な方向の定在波が存在していると考えられる。
【0042】
ここで、発明者は、共振領域50で共振する主モードの厚み縦振動モードの弾性波の波長と共振領域50を伝搬する横モードの弾性波の波長とは概ね同じ大きさであり、かつ、横モードの弾性波に起因した定在波の波長も厚み縦振動モードの弾性波の波長と概ね同じであると想定した。そこで、上記実験において、挿入膜28の内周29で反射する定在波が互いに打ち消し合うように、挿入膜28の内周29に深さLがλ/2の凹部58を設けた。
【0043】
比較例では、挿入膜28の内周29に凹部が設けられていない圧電薄膜共振器と比べて、スプリアスに大きな違いはなかった。これは、挿入膜28の内周29に深さλ/2の凹部58を1つ設けただけでは、挿入膜28の内周で反射する定在波の打ち消し合いがあまり起こらなかったためと考えられる。そこで、実施例1では、挿入膜28の内周29の全周にわたって深さλ/2の凹部58を設けた。これにより、様々な方向の定在波が互いに打ち消し合うようになり、その結果、実施例1では、比較例に比べて、スプリアスが抑制されて減衰量が改善された結果が得られたと考えられる。
【0044】
上記実験では、凹部58の深さLをλ/2とした。挿入膜28の内周29で反射する定在波を効果的に打ち消し合わせて弱めるためには、凹部58の深さLはλ/2の場合が好ましいが、凹部58の深さLをλ/4より大きくかつ3λ/4より小さくした場合でも、挿入膜28の内周29で反射する定在波を打ち消し合わせることができる。上述したように、共振領域50で共振する厚み縦振動モードの弾性波の波長λは、概ね下部電極12と圧電膜14と上部電極16との合計厚さHの2倍(2H)である。したがって、凹部58の深さLをH/2より大きくかつ3H/2より小さくした場合に、挿入膜28の内周29で反射する定在波を打ち消し合わせることができる。
【0045】
以上のように、実施例1によれば、挿入膜28は、平面視して内周29に平面方向の深さLがH/2より大きくかつ3H/2より小さい複数の凹部58と、複数の凸部60と、が交互に設けられている。これにより、挿入膜28の内周29で反射する定在波を打ち消し合わせて弱めることができ、その結果、スプリアスを抑制することができる。挿入膜28の内周29で反射する定在波を弱める観点から、凹部58の深さLは、3H/4以上かつ5H/4以下が好ましく、4H/5以上かつ6H/5以下がより好ましく、Hが更に好ましい。
【0046】
また、実施例1では、凹部58の幅W1および凸部60の幅W2は、H/2以上かつ4H以下である。凹部58の幅W1が狭くかつ凸部60の幅W2が広い場合、または、凹部58の幅W1が広くかつ凸部60の幅W2が狭い場合、挿入膜28の内周29のうち凹部58で反射する定在波と凸部60で反射する定在波の割合が大きく異なってしまう。このため、定在波を弱める効果が小さくなる。凹部58の幅W1および凸部60の幅W2をH/2以上かつ4H以下とすることで、凹部58で反射する定在波と凸部60で反射する定在波との割合が大きく異なることを抑制でき、定在波を効果的に弱めることができる。定在波を弱める観点から、凹部58の幅W1および凸部60の幅W2は、H以上かつ3H以下が好ましく、3H/2以上かつ5H/2以下がより好ましい。
【0047】
また、実施例1では、挿入膜28は、内周29の略全周にわたって複数の凹部58と複数の凸部60とが交互に設けられている。これにより、挿入膜28の内周29で反射する定在波を効果的に弱めることができる。内周29の略全周とは、内周29の90%以上の場合であるが、95%以上の場合でもよい。内周29の全てに凹部58と凸部60が交互に設けられていることが好ましい。
【0048】
図7(a)から
図7(c)は、挿入膜28の他の例を示す平面図である。
図7(a)に示すように、挿入膜28は、内周29のうち楕円形状をした共振領域50の中心に対して対向した長軸近傍各々に2以上の凹部58と2以上の凸部60とが交互に設けられ、短軸近傍では凹部58が設けられていない場合でもよい。
図7(b)に示すように、挿入膜28は、内周29のうち共振領域50の中心に対して対向した短軸近傍各々に2以上の凹部58と2以上の凸部60とが交互に設けられ、長軸近傍では凹部58が設けられていない場合でもよい。
図7(c)に示すように、挿入膜28は、内周29のうち共振領域50の中心に対して対向した長軸近傍と短軸近傍それぞれで2以上の凹部58と2以上の凸部60とが交互に設けられて、それらの間では凹部58が設けられていない場合でもよい。これらのように、挿入膜28は、近接して隣接した凹部58の間の凸部60よりも広い幅の平面が内周29に存在していてもよい。対向する長軸近傍各々および/または対向する短軸近傍各々の凹部58の個数は、5以上が好ましく、10以上がより好ましい。
【0049】
図7(a)から
図7(c)のように、挿入膜28は、内周29のうち共振領域50の中心に対して対向する箇所各々に2以上の凹部58と2以上の凸部60とが交互に設けられている場合が好ましい。これにより、挿入膜28の内周29で反射する定在波を効果的に弱めることができる。共振領域50の略短軸方向に伝搬する横モードの弾性波は減衰され難いことから、挿入膜28は、内周29のうち共振領域50の短軸近傍各々に2以上の凹部58と2以上の凸部60とが交互に設けられている場合が好ましい。凹部58および凸部60による凹凸は、挿入膜28の内周29の50%以上に形成されている場合が好ましく、70%以上に形成されている場合がより好ましく、80%以上に形成されている場合が更に好ましい。
【0050】
また、実施例1では、凹部58は平面視して略矩形状である。これにより、挿入膜28の内周29で反射する定在波を効果的に弱めることができる。略矩形状とは、側面および底面に湾曲を有する場合や角部が丸みを帯びている場合を許容するものである。なお、凹部58は、平面視して略三角形状をしている場合でもよい。
【0051】
また、実施例1では、共振領域50は平面視して楕円形状である場合を例に示したが、この場合に限られない。
図8(a)および
図8(b)は、共振領域50の他の例を示す平面図である。
図8(a)に示すように、共振領域50は平面視して円形状である場合でもよい。この場合、挿入膜28の内周29は共振領域50の外周に沿って概ね円形となる。
図8(b)に示すように、共振領域50は平面視してオーバル形状である場合でもよい。この場合、挿入膜28の内周29は共振領域50の外周に沿って概ねオーバル形となる。このような場合でも、
図6の場合と同様に、大振幅領域27が挿入膜28の内周29の全体にわたって存在し、共振領域50内には様々な方向の定在波が存在するため、挿入膜28の内周29に複数の凹部58と複数の凸部60を交互に繰り返し設けることが好ましい。
【0052】
図9(a)および
図9(b)は、挿入膜28の内周29に設けられる凹部58の例を示す平面図である。
図9(a)に示すように、複数の凹部58のうち共振領域50の外周の曲線部分に対応した位置にある凹部58の底面は、共振領域50の外周に沿った曲面となっていてもよい。言い換えると、凹部58の底面と共振領域50の外周との間の距離が略一定となっている場合でもよい。略一定とは製造誤差程度の差を許容するものである。
図9(b)に示すように、共振領域50の外周の曲線部分に対応した凹部58を含む複数の凹部58の底面は略平坦面となっていてもよい。略平坦面とは、製造誤差程度に湾曲している場合を許容するものである。
図9(a)、
図9(b)のいずれの場合でも、挿入膜28の内周29で反射する定在波を効果的に弱めることができる。
【0053】
複数の凹部58の深さLは、略同じであってもよいが、少なくとも2つ以上の凹部58で互いに異なっていてもよい。少なくとも2つ以上の凹部58の深さLが異なっている場合でも、挿入膜28の内周29で反射する定在波を打ち消し合わせることができる。
【0054】
[変形例]
図10(a)は、実施例1の変形例1に係る圧電薄膜共振器110の断面図である。
図10(a)に示すように、圧電薄膜共振器110では、基板10の平坦主面と下部電極12との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成されている。ドーム状の膨らみとは、例えば空隙30の周辺では空隙30の高さが小さく、空隙30の内部ほど空隙30の高さが大きくなるような形状の膨らみである。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0055】
図10(b)は、実施例1の変形例2に係る圧電薄膜共振器120の断面図である。
図10(b)に示すように、圧電薄膜共振器120では、共振領域50の下部電極12下に音響反射膜31が形成されている。音響反射膜31は、音響インピーダンスの低い膜31aと音響インピーダンスの高い膜31bとが交互に設けられている。膜31aおよび31bの膜厚は例えばそれぞれλ/4である。膜31aと膜31bの積層数は任意に設定できる。音響反射膜31は、音響特性の異なる少なくとも2種類の層が間隔をあけて積層されていればよい。また、基板10が音響反射膜31の音響特性の異なる少なくとも2種類の層のうちの1層であってもよい。例えば、音響反射膜31は、基板10中に音響インピーダンスの異なる膜が1層設けられている構成でもよい。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0056】
実施例1およびその変形例1のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において空隙30が基板10と下部電極12との間に形成されているFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)でもよい。実施例1の変形例2のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において下部電極12下に圧電膜14を伝搬する弾性波を反射する音響反射膜31を備えるSMR(Solidly Mounted Resonator)でもよい。