(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189423
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】セメント用添加剤、セメント用混和剤、及びセメント質組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 24/26 20060101AFI20221215BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20221215BHJP
C08F 220/00 20060101ALI20221215BHJP
C08F 212/06 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
C04B24/26 E
C04B28/02
C04B24/26 F
C04B24/26 A
C04B24/26 G
C08F220/00
C08F212/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097986
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石丸 富士雄
(72)【発明者】
【氏名】藤本 豊久
【テーマコード(参考)】
4G112
4J100
【Fターム(参考)】
4G112PB28
4G112PB31
4J100AB02Q
4J100AJ02Q
4J100AJ02R
4J100AL03P
4J100AL75R
4J100AL75S
4J100CA05
4J100CA06
4J100DA39
4J100EA05
4J100EA09
4J100FA03
4J100FA28
4J100FA30
4J100FA34
4J100FA35
4J100JA15
4J100JA67
(57)【要約】
【課題】製造後の洗浄性が良好でありながら、基材への良好な付着性を達成し、かつ硬化前には良好な流動性を有するセメント質組成物を構成し得る、セメント用添加剤の提供。
【解決手段】セメント用添加剤は、コア層と、該コア層の外側に位置するシェル層を含む重合体粒子を含む。前記コア層は、構成単量体として、カルボキシル基含有単量体及び/又は水酸基含有単量体(a1)を含む架橋重合体から形成され、前記架橋重合体中の(a1)の合計含有量は1~20重量%であり、前記重合体粒子中の前記コア層の含有量は20~85重量%である。前記シェル層は、構成単量体として、芳香族ビニル化合物(b1)と、カルボキシル基含有単量体及び/又は水酸基含有単量体(b2)とを含むシェル形成共重合体から形成され、前記シェル形成共重合体中の(b1)の含有量は20~80重量%、(b2)の合計含有量は1~45重量%である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント用添加剤であって、
コア層と、該コア層の外側に位置するシェル層を含むコアシェル構造を有する重合体粒子を含み、
前記コア層は、構成単量体として、カルボキシル基含有単量体及び/又は水酸基含有単量体(a1)を含む架橋重合体から形成され、
前記架橋重合体中の前記カルボキシル基含有単量体及び/又は水酸基含有単量体(a1)の合計含有量は1~20重量%であり、
前記重合体粒子中の前記コア層の含有量は20~85重量%であり、
前記シェル層は、構成単量体として、芳香族ビニル化合物(b1)と、カルボキシル基含有単量体及び/又は水酸基含有単量体(b2)とを含むシェル形成共重合体から形成され、
前記シェル形成共重合体中の前記芳香族ビニル化合物(b1)の含有量は20~80重量%であり、前記シェル形成共重合体中の前記カルボキシル基含有単量体及び/又は水酸基含有単量体(b2)の合計含有量は1~45重量%である、添加剤。
【請求項2】
前記芳香族ビニル化合物(b1)が、置換又は非置換のスチレンである、請求項1に記載の添加剤。
【請求項3】
前記架橋重合体が、構成単量体として、アクリル酸エステル系単量体(a2)を更に含む、請求項1又は2に記載の添加剤。
【請求項4】
前記シェル形成共重合体が、構成単量体として、アクリル酸エステル系単量体(b3)を更に含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の添加剤。
【請求項5】
前記重合体粒子は、体積平均粒子径が70~2500nmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の添加剤。
【請求項6】
ラテックス又は粉体状の形態を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の添加剤。
【請求項7】
セメント用添加剤であって、
コア層と、該コア層の外側に位置するシェル層を含むコアシェル構造を有する重合体粒子を含み、
前記重合体粒子は、80℃において0.02%濃度の水酸化ナトリウム水溶液に0.1重量%添加して4時間撹拌した時の溶解度が10%以上である、添加剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の添加剤、並びに、
流動性改良剤及び/又は減水剤、を含有する、
セメント用混和剤。
【請求項9】
セメント、水、及び、請求項1~7のいずれか1項に記載の添加剤又は請求項8に記載の混和剤を含有する、セメント質組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント用添加剤、セメント用混和剤、及びセメント質組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントペーストは、セメントと水から構成される材料である。セメントモルタルは、セメント、水、細骨材(砂)から構成される材料であり、コンクリートは上記に加えて、更に粗骨材(砂利)を含有する材料である。本願では、セメントペースト、セメントモルタル又はコンクリートを総称して、セメント質組成物という。
【0003】
一般に、セメント質組成物には、フロー性を改良したり空気量を調整する目的で、混和剤が少量添加されている。そのような混和剤としては、従来、AE剤(カルボン酸塩系、ABS石鹸系など)、減水剤又はAE減水剤(リグニンスルホン酸塩系、ナフタリン系、メラミン系、ポリオ―ル系など)、高性能AE減水剤(ナフタリン系、ポリカルボン酸系、メラミン系、アミノスルホン酸系など)が知られている。
【0004】
また、セメント質組成物の曲げ強度向上などを目的として、セメント質組成物にポリマー(ポリマーセメント用混和剤)を配合することも行われている。そのようなポリマーとしては、EVA、SBR、アクリルラテックスなどが知られている。
【0005】
特許文献1では、コア-シェル重合物を含む水性分散液を、接着剤モルタルや修理モルタルに使用することが記載されており、コア部がモノカルボン酸のビニルエステル45~95重量%を含み、シェル部が芳香族ビニルベンゼン3~15重量%と、炭素数3~4の不飽和カルボン酸1~10重量%を含むことが記載されている。
【0006】
特許文献2では、コアシェル型構造を有するポリマー微粒子を、セメントモルタル及び/又はコンクリート用添加剤として使用することが記載されており、コア部の重合体は、アルキル基の炭素数が1~8であるアクリル酸アルキルエステル55~100重量%を含み、シェル部の重合体は、アルキル基の炭素数が1~8であるアクリル酸アルキルエステル5~49.9重量%と、アルキル基の炭素数が1~4であるメタクリル酸アルキルエステル45~90重量%と、エチレン性不飽和カルボン酸ないしその塩0.1~5重量%を含むことが記載されている。
【0007】
特許文献3では、ポリマーセメント組成物に用いられるアクリル樹脂エマルジョンであって、(メタ)アクリル酸アルキルエステル25~99.8重量%と、(メタ)アクリル酸0.1~5重量部と、アルキレングリコール等のジ(メタ)アクリレート0.1~5重量部と、芳香族ビニル化合物0~60重量部を乳化重合して得られるアクリル樹脂エマルジョンが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1-121351号公報
【特許文献2】特許第2932574号公報
【特許文献3】特許第4930966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1又は2で記載されているコアシェル型構造を有するポリマー粒子、あるいは特許文献3で記載されているアクリル樹脂エマルジョンをセメント質組成物に配合すると、硬化前のセメント質組成物の流動性が低下したり、基材への付着強度が十分でない場合があり、これらの点で改良の余地があった。
また、コアシェル型構造を有するポリマー粒子を乳化重合などによって製造すると、重合器の内壁や撹拌羽根に固形の重合物が少量付着する場合がある。このような固形副産物は、重合終了後に高圧洗浄機で除去することが可能であるが、高圧洗浄機を用いても除去できない場合がある。その場合、重合器に人が入って直接除去する方法、溶剤を用いて洗浄する方法、水酸化ナトリウム等を含む塩基性水溶液を用いて洗浄する方法が考えられる。しかし、重合器に人が入って作業する方法では、人力での作業となるため大変な労力が必要となる。また、溶剤を用いて洗浄する方法は、洗浄能力は高いものの洗浄後の溶剤を処理する必要が生じ工業的に望ましくない。これらに対し、塩基性水溶液を用いて洗浄する方法は、撹拌するだけで、付着した固形副産物を除去でき、また、洗浄後の水溶液は、pHを中性付近に調整することで通常の排水とすることができるため、工業的な観点から最も望ましい。
しかし、コアシェル型構造ポリマー粒子を製造した時に発生する固形副産物は、塩基性水溶液に溶けにくく、塩基性水溶液を用いた洗浄性が十分でない場合があった。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑み、セメント質組成物に添加されるセメント用添加剤であって、製造後の洗浄性が良好でありながら、基材への良好な付着性を達成し、かつ硬化前には良好な流動性を有するセメント質組成物を構成し得る、セメント用添加剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、特定のコアシェル構造を有する重合体粒子をセメント質組成物に添加することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明は、セメント用添加剤であって、コア層と、該コア層の外側に位置するシェル層を含むコアシェル構造を有する重合体粒子を含み、前記コア層は、構成単量体として、カルボキシル基含有単量体及び/又は水酸基含有単量体(a1)を含む架橋重合体から形成され、前記架橋重合体中の前記カルボキシル基含有単量体及び/又は水酸基含有単量体(a1)の合計含有量は1~20重量%であり、前記重合体粒子中の前記コア層の含有量は20~85重量%であり、前記シェル層は、構成単量体として、芳香族ビニル化合物(b1)と、カルボキシル基含有単量体及び/又は水酸基含有単量体(b2)とを含むシェル形成共重合体から形成され、前記シェル形成共重合体中の前記芳香族ビニル化合物(b1)の含有量は20~80重量%であり、前記シェル形成共重合体中の前記カルボキシル基含有単量体及び/又は水酸基含有単量体(b2)の合計含有量は1~45重量%である、添加剤に関する。
好ましくは、前記芳香族ビニル化合物(b1)が、置換又は非置換のスチレンである。
好ましくは、前記架橋重合体が、構成単量体として、アクリル酸エステル系単量体(a2)を更に含む。
好ましくは、前記シェル形成共重合体が、構成単量体として、アクリル酸エステル系単量体(b3)を更に含む。
好ましくは、前記重合体粒子は、体積平均粒子径が70~2500nmである。
好ましくは、前記添加剤は、ラテックス又は粉体状の形態を有する。
別の態様に係る本発明は、セメント用添加剤であって、コア層と、該コア層の外側に位置するシェル層を含むコアシェル構造を有する重合体粒子を含み、前記重合体粒子は、80℃において0.02%濃度の水酸化ナトリウム水溶液に0.1重量%添加して4時間撹拌した時の溶解度が10%以上である、添加剤に関する。
また本発明は、前述したいずれかの添加剤、並びに、流動性改良剤及び/又は減水剤、を含有する、セメント用混和剤にも関する。
さらに本発明は、セメント、水、及び、前述したいずれかの添加剤又は前記混和剤を含有する、セメント質組成物にも関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、セメント質組成物に添加されるセメント用添加剤であって、製造後の洗浄性が良好でありながら、基材への良好な付着性を達成し、かつ硬化前には良好な流動性を有するセメント質組成物を構成し得る、セメント用添加剤を提供することができる。本発明の好適な態様によれば、セメント硬化後の圧縮強度を実質的に低下させることなく、曲げ強度、防水性を向上させることもできる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施形態を詳細に説明する。
(セメント用添加剤)
本実施形態に係るセメント用添加剤は、コアシェル構造を有する重合体粒子を含む。該重合体粒子は、コア層と、該コア層の外側に位置するシェル層を含む。
【0015】
コア層は、シェル層よりも重合体粒子の内側に位置する重合体層のことを指し、架橋重合体から構成される。コア層は、一層のみであってもよいし、互いにモノマー組成が異なる二層以上から構成されてもよい。
【0016】
シェル層は、重合体粒子の表面側に位置する重合体層のことを指し、グラフト層ともいう。シェル層は、コア層にグラフト結合していることが好ましい。
シェル層は、コア層の表面を被覆するものであるが、コア層の表面の全面を被覆するものに限られず、コア層の表面の少なくとも一部を被覆していればよい。
【0017】
前記重合体粒子は、発明の効果を奏する限り、コア層とシェル層の間に、中間層をさらに有するものであってもよい。中間層は、重合体から構成される層であり、コア層にグラフト結合していることが好ましい。このような中間層を有する場合、中間層が、コア層の表面の少なくとも一部を被覆し、シェル層は、中間層の表面の少なくとも一部を被覆することになる。
【0018】
(コア層)
前記重合体粒子のコア層は、架橋重合体から形成されるものである。コア層が架橋重合体から形成されることで、本実施形態に係る添加剤が添加されたセメント質組成物は、基材への付着強度が大きく、かつ、良好な流動性を確保することができる。前記架橋重合体としては、例えば、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン-スチレン)、アクリル系ゴム等が挙げられる。中でも、耐候性や取り扱いやすさの観点から、アクリル系ゴムが好ましい。
【0019】
前記架橋重合体は、構成単量体として、少なくとも、カルボキシル基含有単量体及び/又は水酸基含有単量体(a1)を含む。これによって、塩基性水溶液に対する架橋重合体の溶解性が向上し、重合体粒子製造後の、塩基性水溶液を用いた洗浄性が改善され得る。なお、(a1)としては、カルボキシル基含有単量体のみを使用してもよいし、水酸基含有単量体のみを使用してもよい。また、カルボキシル基含有単量体と水酸基含有単量体を併用してもよい。
【0020】
前記(a1)におけるカルボキシル基含有単量体としては特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等が挙げられる。前記(a1)におけるカルボキシル基含有単量体は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記(a1)における水酸基含有単量体としては特に限定されず、例えば、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル等が挙げられる。前記(a1)における水酸基含有単量体は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
このうち、前記(a1)としては、カルボキシル基含有単量体が好ましい。なかでも、アクリル酸及び/又はメタクリル酸がより好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。
【0021】
前記架橋重合体中のカルボキシル基含有単量体及び/又は水酸基含有単量体(a1)の合計含有量は、良好な洗浄性を達成する観点から、1~20重量%である。好ましくは、1.2重量%~15重量%であり、より好ましくは、1.5~10重量%である。
【0022】
前記架橋重合体は、構成単量体として、アクリル酸エステル系単量体(a2)を更に含むことが好ましい。該(a2)におけるアクリル酸エステル系単量体としてはカルボキシル基含有単量体及び/又は水酸基含有単量体(a1)に該当しないものを使用することができる。具体例としては特に限定されないが、例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ベヘニルなどのアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸ベンジルなどの芳香環含有アクリレート;グリシジルアクリレート、グリシジルアルキルアクリレートなどのグリシジルアクリレート;アルコキシアルキルアクリレート等が挙げられる。なかでも、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アクリル酸ブチルが特に好ましい。
前記架橋重合体中のアクリル酸エステル系単量体(a2)の含有量は、重合体粒子製造後の洗浄性、セメント質組成物の基材への付着強度、セメント質組成物の流動性をそれぞれ良好にする観点から、60~99重量%であることが好ましく、70~98.8重量%であることがより好ましく、80~98.5重量%であることがさらに好ましい。
【0023】
前記架橋重合体は、構成単量体として、(a1)及び(a2)に該当しない他の単量体(a3)を更に含有してもよいし、含有しなくともよい。該他の単量体(a3)としては、メタクリル系単量体や、スチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル類;酢酸ビニル;エチレン、プロピレン等のアルケン類等が挙げられる。
前記架橋重合体中の他の単量体(a3)の含有量は、0~30重量%であることが好ましく、0~20重量%がより好ましく、0~10重量%がさらに好ましく、0~5重量%が特に好ましい。
【0024】
前記架橋重合体は架橋構造を有するものである。架橋構造を導入するには、例えば、単量体成分を重合してコア層の重合体を合成する際に、多官能性単量体等の架橋性単量体を使用すればよい。
【0025】
前記多官能性単量体としては、例えば、アリル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレート等のアリルアルキル(メタ)アクリレート類;アリルオキシアルキル(メタ)アクリレート類;(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル基を2個以上有する多官能(メタ)アクリレート類;ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン等が挙げられる。好ましくはアリルメタクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンであり、特に好ましくはアリルメタクリレートである。
【0026】
前記架橋重合体における前記多官能性単量体の使用比率としては、前記架橋重合体を構成する単量体成分(多官能性単量体以外の単量体)の合計100重量部に対して、好ましくは0.01~10重量部であり、より好ましくは0.05~5重量部であり、さらに好ましくは0.1~3重量部である。
【0027】
前記重合体粒子中の前記コア層の含有量は、流動性と付着強度を両立する観点から、20重量%以上85重量%以下である。好ましくは30重量%以上であり、より好ましくは40重量%以上であり、さらに好ましくは50重量%以上であり、さらにより好ましくは60重量%以上であり、特に好ましくは65重量%以上である。また、好ましくは80重量%以下であり、より好ましくは75重量%以下である。
【0028】
(シェル層)
前記シェル層は、構成単量体として、少なくとも、芳香族ビニル化合物(b1)と、カルボキシル基含有単量体及び/又は水酸基含有単量体(b2)とを含むシェル形成共重合体から形成されるものである。シェル形成共重合体を構成する単量体にカルボキシル基含有単量体及び/又は水酸基含有単量体(b2)を含めることで、塩基性水溶液に対するシェル形成共重合体の溶解性が向上し、重合体粒子製造後の、塩基性水溶液を用いた洗浄性が改善され得る。また、シェル層の親水性が向上し、親水性のセメント質組成物中での重合体粒子の分散性が向上する。しかし、シェル層の親水性が向上しすぎると、セメント質組成物の流動性が低下する傾向がある。
そこで、シェル層形重合体を構成する単量体に、カルボキシル基含有単量体及び/又は水酸基含有単量体(b2)に加えて、芳香族ビニル化合物(b1)を含めることで、セメントと重合体粒子間の相互作用を適度なレベルに制御し、セメント質組成物の良好な流動性も確保することができる。なお、(b2)としては、カルボキシル基含有単量体のみを使用してもよいし、水酸基含有単量体のみを使用してもよい。また、カルボキシル基含有単量体と水酸基含有単量体を併用してもよい。
【0029】
前記芳香族ビニル化合物(b1)としては特に限定されないが、例えば、スチレン、2-ビニルナフタレン等の無置換ビニル芳香族化合物類;α-メチルスチレン等の置換ビニル芳香族化合物類;3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、3,5-ジメチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン等の環アルキル化ビニル芳香族化合物類;4-メトキシスチレン、4-エトキシスチレン等の環アルコキシル化ビニル芳香族化合物類;2-クロロスチレン、3-クロロスチレン等の環ハロゲン化ビニル芳香族化合物類;4-アセトキシスチレン等の環エステル置換ビニル芳香族化合物類が挙げられる。中でも、置換又は非置換のスチレンが好ましく、スチレン及び/又はα-メチルスチレンがより好ましく、スチレンが特に好ましい。芳香族ビニル化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
前記シェル形成共重合体中の前記芳香族ビニル化合物(b1)の含有量は、重合体粒子製造後の洗浄性、セメント質組成物の基材への付着強度、セメント質組成物の流動性をそれぞれ良好にする観点から、20重量%以上80重量%以下である。好ましくは30重量%以上75重量%以下であり、より好ましくは40重量%以上70重量%以下である。
【0031】
前記(b2)におけるカルボキシル基含有単量体としては特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等が挙げられる。前記(b2)におけるカルボキシル基含有単量体は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記(b2)における水酸基含有単量体としては特に限定されず、例えば、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル等が挙げられる。前記(b2)における水酸基含有単量体は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
このうち、前記(b2)としては、カルボキシル基含有単量体が好ましい。なかでも、アクリル酸及び/又はメタクリル酸がより好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。
【0032】
前記シェル形成共重合体中の前記カルボキシル基含有単量体及び/又は水酸基含有単量体(b2)の合計含有量は、重合体粒子製造後の洗浄性、セメント質組成物の基材への付着強度、セメント質組成物の流動性をそれぞれ良好にする観点から、1重量%以上45重量%以下である。好ましくは2重量%以上であり、より好ましくは3重量%以上であり、さらに好ましくは5重量%以上であり、特に好ましくは10重量%以上である。また、好ましくは40重量%以下であり、より好ましくは35重量%以下であり、さらに好ましくは30重量%以下であり、より更に好ましくは25重量%以下であり、特に好ましくは20重量%以下である。
【0033】
前記シェル形成共重合体は、構成単量体として、アクリル酸エステル系単量体(b3)を更に含むことができる。これによってシェル形成共重合体のガラス転移温度が低下することで、前記重合体粒子製造後の洗浄性がより改善され得る。アクリル酸エステル系単量体(b3)としては芳香族ビニル化合物(b1)とカルボキシル基含有単量体及び/又は水酸基含有単量体(b2)に該当しないものを使用することができる。具体例としては特に限定されないが、例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ベヘニルなどのアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸ベンジルなどの芳香環含有アクリレート;グリシジルアクリレート、グリシジルアルキルアクリレートなどのグリシジルアクリレート;アルコキシアルキルアクリレート等が挙げられる。なかでも、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アクリル酸ブチルが特に好ましい。
【0034】
前記シェル形成共重合体中のアクリル酸エステル系単量体(b3)の含有量は、重合体粒子製造後の洗浄性、セメント質組成物の基材への付着強度、セメント質組成物の流動性をそれぞれ良好にする観点から、0~70重量%であることが好ましく、0~50重量%がより好ましい。
【0035】
前記シェル形成共重合体は、構成単量体として、(b1)、(b2)及び(b3)に該当しない他の単量体(b4)を更に含有してもよいし、含有しなくともよい。該他の単量体(b4)としては、例えば、メタクリル酸エステル系単量体、(メタ)アクリロニトリル、置換(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリルアミド、マレイン酸イミド等が挙げられる。
【0036】
また、前記シェル形成共重合体中の他の単量体(b4)の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0重量%以上30重量%以下であり、より好ましくは20重量%以下であり、さらに好ましくは10重量%以下であり、特に好ましくは5重量%以下であり、最も好ましくは1重量%以下である。
【0037】
(重合体粒子の体積平均粒子径)
前記重合体粒子は、重合の安定性とラテックスの安定性を両立する観点から、体積平均粒子径が70nm以上2500nm以下であることが好ましい。より好ましくは80nm以上であり、さらに好ましくは90nm以上であり、より更に好ましくは100nm以上である。更には、110nm以上であってもよく、120nm以上であってもよく、130nm以上であってもよく、140nm以上であってもよい。特に好ましくは150nm以上であり、160nm以上であってもよく、170nm以上であってもよく、180nm以上であってもよく、190nm以上であってもよい。最も好ましくは200nm以上である。また、より好ましくは2000nm以下であり、さらに好ましくは1500nm以下であり、より更に好ましくは1000nm以下であり、特に好ましくは500nm以下であり、最も好ましくは300nm以下である。なお、重合体粒子の体積平均粒子径は、実施例の項で示すように、重合体粒子のラテックスの状態で、粒子径の測定装置を使用することによって測定される値である。重合体粒子の粒子径は、重合開始剤、連鎖移動剤、酸化還元剤、乳化剤等の種類や量、重合温度、重合時間等によって制御することができる。
【0038】
(塩基性水溶液への溶解性)
前記重合体粒子を乳化重合などによって製造すると、重合器の内壁や撹拌羽根に固形の重合物が少量付着する場合がある。このような固形副産物である重合スケールは、塩基性水溶液を用いて容易に除去できるよう、塩基性水溶液への溶解性が高いことが望まれる。この観点から、前記重合スケールは、80℃において0.02%濃度の水酸化ナトリウム水溶液に0.1重量%添加して4時間撹拌した時の溶解度が10%以上であることが好ましい。より好ましくは15%以上であり、さらに好ましくは20%以上である。このように塩基性水溶液への溶解性が高い重合スケールは、重合器の内壁や撹拌羽根に付着していても、塩基性水溶液を使用して容易に洗い落とすことが可能となる。なお、重合スケールの塩基性水溶液への溶解性は、重合体粒子で使用するモノマーの種類や量によって制御可能である。
【0039】
本実施形態の一態様は、コア層と、該コア層の外側に位置するシェル層を含むコアシェル構造を有する重合体粒子を含むセメント用添加剤であって、前記重合体粒子は、80℃において0.02%濃度の水酸化ナトリウム水溶液に0.1重量%添加して4時間撹拌した時の溶解度が10%以上であるものであってよい。前記重合体粒子の前記溶解度が10%以上であることによって、該重合体粒子を製造する際に生じた重合スケールの、塩基性水溶液への溶解性が高くなり、結果、該重合スケールを、塩基性水溶液を用いて容易に除去することが可能となる。前記重合体粒子の前記溶解度は、15%以上であることが好ましく、30%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましい。
【0040】
(重合体粒子の製造方法)
前記重合体粒子の製造法としては、特に限定されないが、例えば、乳化重合、ミニエマルション重合、マイクロエマルション重合、無乳化剤(ソープフリー)乳化重合を用いることができる。
【0041】
乳化重合において用いることができる乳化剤としては、特に限定されず、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などを使用可能である。また、ポリビニルアルコール、アルキル置換セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸誘導体などの分散剤を併用してもよい。
上記乳化剤のうちアニオン性界面活性剤としては特に限定されないが、例えば、次の化合物が挙げられる:ラウリン酸カリウム、ヤシ脂肪酸カリウム、ミリスチン酸カリウム、オレイン酸カリウム、オレイン酸カリウムジエタノールアミン塩、オレイン酸ナトリウム、パルミチン酸カリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、混合脂肪酸ソーダ石けん、半硬化牛脂脂肪酸ソーダ石けん、ヒマシ油カリ石けんなどの脂肪酸石鹸;ドデシル硫酸ナトリウム、高級アルコール硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸トリエタノールアミン、ドデシル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、2-エチルヘキシル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸エステル塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム;ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウムなどのジアルキルスルホコハク酸ナトリウム;アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム;アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム;アルキルリン酸カリウム塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウムなどのリン酸エステル塩;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩;ポリカルボン酸型高分子アニオン;アシル(牛脂)メチルタウリン酸ナトリウム;アシル(ヤシ)メチルタウリン酸ナトリウム;ココイルイセチオン酸ナトリウム;α-スルホ脂肪酸エステルナトリウム塩;アミドエーテルスルホン酸ナトリウム;オレイルザルコシン;ラウロイルザルコシンナトリウム;ロジン酸石けんなど。
【0042】
また、上記乳化剤のうち非イオン性界面活性剤としては特に限定されないが、例えば、次の化合物が挙げられる:ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリルエーテルあるいはポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタンエステル類、ポリエチレングルコールモノラウレート、ポリエチレングルコールモノステアレート、ポリエチレングルコールモノオレエート等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、オキシエチレン/オキシプロピレンブロックコポリマーなど。
【0043】
また、上記乳化剤のうちカチオン性界面活性剤としては特に限定されないが、例えば、次の化合物が挙げられる:ココナットアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート、オクタデシルアミンアセテート、テトラデシルアミンアセテートなどのアルキルアミン塩;ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム塩など。
【0044】
また、上記乳化剤のうち両性界面活性剤としては特に限定されないが、例えば、次の化合物が挙げられる:ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ジメチルラウリルベタインなどのアルキルベタイン;ラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム;アミドベタイン;イミダゾリン;ラウリルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインなど。
【0045】
これらの乳化剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。乳化剤のなかでは、セメント質組成物の流動性が良好になる観点から、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、又は、オキシエチレン構造を有する界面活性剤が好ましく、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウムが特に好ましい。乳化剤の使用量を調節することによって、重合体粒子の平均粒子径を制御することができる。
【0046】
乳化重合法を採用する場合には、公知の重合開始剤、すなわち2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどを熱分解型開始剤として用いることができる。
【0047】
また、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラメンタンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ヘキシルパーオキサイドなどの有機過酸化物;過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの無機過酸化物といった過酸化物と、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、グルコースなどの還元剤;硫酸鉄(II)などの遷移金属塩;エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムなどのキレート剤;及びピロリン酸ナトリウムなどのリン含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種とを併用したレドックス型開始剤を使用することもできる。
【0048】
レドックス型開始剤を用いた場合には、前記過酸化物が実質的に熱分解しない低い温度でも重合を行うことができ、重合温度を広い範囲で設定できるようになり好ましい。中でもクメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物をレドックス型開始剤として用いることが好ましい。前記開始剤の使用量、レドックス型開始剤を用いる場合には前記還元剤、遷移金属塩、キレート剤、リン含有化合物などの使用量は公知の範囲で用いることができる。またラジカル重合性二重結合を2以上有するモノマーを重合するに際しては公知の連鎖移動剤を公知の範囲で用いることができる。追加的に界面活性剤を用いることができるが、これも公知の範囲である。
【0049】
乳化重合時に使用される溶媒としては、乳化重合を安定に進行させるものであればよく、例えば、水等を好適に使用することができる。
【0050】
乳化重合時の温度は、乳化剤が溶媒に均一に溶解すれば、特に限定されないが、例えば、40~75℃であり、好ましくは45~70℃、より好ましくは49~65℃である。
【0051】
乳化重合によって前記重合体粒子を製造した場合には、例えば、該重合体粒子のラテックスをスプレードライ乾燥することで、水に再分散が可能なパウダーを得て、これを前記重合体粒子として用いてもよい。
【0052】
本実施形態に係るセメント用添加剤は、前記重合体粒子のラテックスの形態であってもよいし、前記重合体粒子の粉体状の形態であってもよい。セメント質組成物への分散性に優れているため、前記添加剤は、前記重合体粒子のラテックスの形態であることが好ましい。
【0053】
本実施形態に係るセメント用添加剤は、硬化前のセメント質組成物に添加し、混合して分散させることで使用される。これによって、硬化前のセメント質組成物の流動性を低下させることなく、硬化後には基材への良好な付着性を達成することができる。
【0054】
セメント質組成物への前記添加剤の配合量は、前記重合体粒子の固形分が、例えば、セメントに対して0.1重量%以上20重量%以下程度であってよく、好ましくは0.5重量%以上15重量%以下、より好ましくは1重量%以上10重量%以下である。
【0055】
本実施形態に係るセメント用添加剤と、流動性改良剤及び/又は減水剤を混合することで、セメント用混和剤を提供することもできる。当該セメント用混和剤も、硬化前のセメント質組成物に添加し、混合して分散させることで使用される。これによって、硬化前のセメント質組成物の流動性を低下させることなく、硬化後には基材への良好な付着性を達成することができる。
【0056】
前記流動性改良剤や、AE減水剤、高性能AE減水剤等の減水剤としては公知のものを使用することができる。例えば、AE減水剤として、リグニンスルホン酸塩、ヒドロキシ酸塩など、高性能AE減水剤としてナフタレン系、メラミン系、アミノスルホン酸系、ポリカルボン酸系高性能減水剤などを併用してもよい。
【0057】
本実施形態の好適な態様に係る添加剤又は混和剤を含むセメント質組成物は、単位水量を減らさなくても、該添加剤又は混和剤の添加によってセメント質組成物の圧縮強度を実質的に低下させることがないという利点が得ることができる。
【0058】
本実施形態に係る添加剤又は混和剤を含むセメント質組成物も、本実施形態の一態様である。セメント質組成物とは、少なくともセメントと水を含む組成物であって、上述した通り、セメントペースト、セメントモルタル又はコンクリートのいずれも包含する概念である。本実施形態に係るセメント質組成物は、硬化前のものであってもよいし、硬化後のものであってもよい。
【0059】
本実施形態に係る添加剤又は混和剤を含むセメント質組成物の施工方法は特に限定されず、従来のセメント質組成物と同様に施工することができる。
【0060】
本実施形態に係る添加剤又は混和剤を含むセメントモルタルは、基材、特にコンクリート基材への付着性が良好であり、コンクリート基材に塗布することでコンクリート基材上にセメントモルタル層を形成することができる。本実施形態に係る添加剤又は混和剤を含むセメントモルタルをコンクリート基材に塗布する場合には、コンクリート基材の表面にポリマー層(セメントを含まないポリマー層)を形成してから該塗布を行ってもよい。また、前記セメントモルタル層の上面には、タイル等の保護層を積層することもできる。
本実施形態に係る添加剤又は混和剤を含むコンクリート又はセメントペーストも、基材、特にコンクリート基材への付着性が良好であり、上記のセメントモルタルの場合と同様に使用することができる。
【0061】
本実施形態に係る添加剤又は混和剤を含むセメント質組成物は、建築構造物の内壁及び外壁基材、タイル張り用接着剤、タイル張り用目地材、床材、ACL鉄筋防食等の防食ライニング材、貯水タンク、プール、サイロ、テニスコート用下地等の防水材、船舶デッキ、歩道橋床、橋梁デッキ等のデッキカバーリング材、耐酸性ヒューム管、GRC製品用特殊コンクリート成型品、バスターミナル、トンネル内、高速道路、工場等の半剛性道路、グラスファイバー、カーボンファイバー、ポリエステルファイバー、ポリビニルアルコールファイバー等の無機、有機の繊維等を併用したモルタル及びコンクリート躯体の吹付け保護塗装材、カーボンファイバー、メタルパウダー(フレーク)を併用した導電塗装材、電磁波シールド材、超高強度成型品、船舶バラストタンク等の重防食塗材、モルタル浮き補修材、斜張橋ワイヤー材、化粧瓶、インターロッキング等の化学成型品を製造する際に使用することができる。
【実施例0062】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下、「部」及び「%」は、特記がない限り、「重量部」及び「重量%」を示す。
【0063】
(重合体粒子の平均粒子径の測定方法)
重合体粒子の平均粒子径としては、重合体粒子ラテックスの状態で体積平均粒子径を測定した。測定装置として、日機装株式会社製のNanotrac Waveを使用した。計算モードは、UPA互換モードに設定した。
【0064】
(実施例1)
(コア層の形成)
脱イオン水2006.7g、ぺレックスOT-P(花王社製:ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、固形分70%)12.9g、10%硫酸ナトリウム水溶液30.0g、2%炭酸ナトリウム水溶液75gを8L重合器に投入し、50℃に昇温し、窒素をフローした。
アクリル酸ブチル150g(5部)、アリルメタクリレート0.75g(0.025部)、及びt-ブチルハイドロパーオキサイド(固形分69%)0.43gの混合物を前記重合器に追加し、硫酸第一鉄(FeSO4・7H2O)0.0162g、及びエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.027gを脱イオン水8.6gに溶解した溶液を追加し、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(固形分5%)48.0gを追加し、30分間攪拌した。
24%ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム6.3gを追加し、アクリル酸ブチル1920.75g(64.025部)、メタクリル酸29.25g(0.975部)、アリルメタクリレート9.75g(0.325部)及びt-ブチルハイドロパーオキサイド(固形分69%)3.6gの混合物を前記重合器に195分かけて追加した。追加中に、24%ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム93.8gを分割して追加し、追加終了時にt-ブチルハイドロパーオキサイド(固形分69%)0.7gを追加し、30分間攪拌した。
【0065】
(シェル層の形成)
前記重合器にナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(固形分5%)180gを追加した。メタクリル酸150g(5部)、スチレン525g(17.5部)、ブチルアクリレート225g(7.5部)及びt-ブチルハイドロパーオキサイド(固形分69%)15.7gの混合物を前記重合器に90分かけて追加した。
ぺレックスOT-P、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、t-ブチルハイドロパーオキサイドを適宜添加し、150分後に重合終了し、転化率100%、固形分濃度47.9%の、コアシェル構造含有重合体粒子のラテックスを得た。
【0066】
(実施例2~7、比較例1~13)
表1~2の記載に沿って、モノマーの種類もしくは使用量、又は重合体粒子の粒子径を変更した以外は、実施例1と同様にしてコアシェル構造含有重合体粒子のラテックスを得た。
【0067】
(評価方法)
各実施例及び比較例で得たラテックスを用いて以下に示す評価を行った。
【0068】
(重合体粒子の溶解度)
得られたコアシェル構造含有重合体粒子のラテックスを40℃のオーブンに入れて、48時間かけて十分に乾燥させた。乾燥後の重合体粒子を粉砕又は切断して、4mm角以下のサイズの重合体粒子片を得た。重合器に0.02%水酸化ナトリウム水溶液4000gと、重合体粒子片4.0gを入れ、80℃で4時間攪拌した。攪拌後の溶液を150メッシュで濾し、洗浄後の重合体粒子を得た。得られた重合体粒子を水で洗い、120℃のオーブンで2時間乾燥させ、重量を測定した。
溶解量[%]=[(乾燥させた洗浄前の重合体粒子片の重量[g])-(乾燥させた洗浄後の重合体粒子片の重量[g])]/(乾燥させた洗浄前の重合体粒子片の重量[g])
【0069】
(洗浄性)
得られたコアシェル構造含有重合体粒子のラテックスをガーゼで濾してラテックスに浮遊していたポリマー固形分を回収すると共に、重合器の内壁や撹拌羽根に付着していたポリマー固形分をはがして、これら固形分を重合スケールとして回収した。回収した重合スケールを水で洗い、40℃のオーブンで1晩乾燥させた。重合器に0.02%水酸化ナトリウム水溶液4000gと、乾燥させた重合スケール4.0gを入れ、80℃で4時間攪拌した。攪拌後の溶液を150メッシュで濾し、洗浄後の重合スケールを得た。得られた重合スケールを水で洗い、120℃のオーブンで2時間乾燥させ、重量を測定した。
溶解量[%]=[(乾燥させた洗浄前の重合スケールの重量[g])-(乾燥させた洗浄後の重合スケールの重量[g])]/(乾燥させた洗浄前の重合スケールの重量[g])×100
【0070】
(流動性:セメントペースト(簡易混練))
C:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
W:希釈水+ラテックス中の水分
P:ポリマー=ラテックスの固形分
C=50g、P=2.5g(P/C=5%)、W=25g(W/C=50%)
ラテックスと希釈水を混ぜた溶液をセメント50gに入れ、木べらを用いて手で1分間攪拌した。得られたセメントペーストを直径5cm、高さ4cmの筒に詰め、表面を平らにならし、筒をゆっくり抜き取り、広がったセメントペーストの幅を測定した。下記式によりフロー値を算出した。
フロー値[%]=(広がったセメントペーストの幅)[cm]/(筒の直径)[cm]
フロー値が50%以上を示したものを〇と評価した。
【0071】
【0072】
【0073】
表1より、本発明の要件を満足する添加剤を用いた実施例1~7では、セメントペーストの流動性と、洗浄性が良好であることが分かる。
【0074】
表2より、本発明の要件を満たしていない添加剤を用いた比較例1~13では、流動性と洗浄性のうち少なくとも1つが十分でないことが分かる。
比較例1は、コアにカルボキシル基含有単量体であるメタクリル酸を含まず、また、シェル中のスチレン比率が高い。比較例2はコアにメタクリル酸を含まない。比較例3はコア中のメタクリル酸比率が低い。比較例4はシェル中のスチレン比率が高い。比較例5はコア層の重合体が架橋されていない。比較例6はシェル中のスチレン比率が低い。比較例7はシェルにメタクリル酸を含まない。比較例8はシェルのスチレン比率が高い。比較例9はコアのメタクリル酸比率が高い。比較例10は架橋重合体から形成される一層のみである。比較例11~12はコアとシェルの何れにもメタクリル酸を含まず、シェルのスチレン比率が高い。比較例13はコアにメタクリル酸を含まず、シェルにスチレンを含まない。
なお、比較例10は特許第4930966号公報に開示された重合体粒子に相当し、比較例12は特開平1-121351号公報に開示された重合体粒子に相当し、比較例13は特許第2932574号公報に開示された重合体粒子に相当する。
【0075】
(圧縮強度)
下記材料、及び、実施例3又は比較例1で得たコアシェル構造含有重合体粒子のラテックスを用いて、下記の条件で圧縮強度を測定した。
C:普通ポルトランドセメント
S:細骨材
W:希釈水+ラテックス中の水分
P:ポリマー=ラテックスの固形分
W/C=68%、S/C=3.1、P/C=5%の配合、及び、ポリカルボン酸系AE減水剤をラテックスに対して1.4%、消泡剤をラテックスに対して10%を混練し、モルタルを得た。
径50mmx高さ100mmの円柱型枠に、上記モルタルを打ち込み、20℃80%R.H.以上の環境下にて48時間養生し、材齢14日まで20℃60%R.H.環境下に静置した。材齢14日目に圧縮強度試験を実施した。載荷速度は、毎秒0.6N/mm2とした。3回測定を行い、それら測定値の平均値を、圧縮強度とした。
実施例3について得られた圧縮強度の測定値は34.9N/m2、比較例1では32.6N/m2であった。実施例3は比較例1よりも大きい圧縮強度が示すことが分かる。
【0076】
(防水性試験)
上記で実施例3と比較例1に関して得られたモルタルを径50mmx高さ100mmの円柱型枠に打ち込み、20℃80%R.H.以上の環境下にて48時間養生し、材齢28日まで20℃で水中養生し、40℃で14日乾燥した。その後エポキシ樹脂で吸水面(上面)以外シールして水につけ6時間後の吸水率を測定したところ、実施例3では0.71%、比較例1では0.7%であった。実施例3と比較例1は同等の防水性を示すことが分かる。