(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189432
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】自己始動形同期リラクタンスモータの回転子およびその製造方法。
(51)【国際特許分類】
H02K 19/10 20060101AFI20221215BHJP
H02K 1/22 20060101ALI20221215BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
H02K19/10 A
H02K1/22 Z
H02K15/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098002
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】森林 諒伍
【テーマコード(参考)】
5H601
5H615
5H619
【Fターム(参考)】
5H601AA24
5H601AA29
5H601CC01
5H601CC17
5H601DD01
5H601DD09
5H601DD11
5H601EE15
5H601EE18
5H601EE19
5H601GA24
5H601GA25
5H601GA28
5H601GA32
5H601GA33
5H601GA39
5H601GC02
5H601GC12
5H601GC22
5H601GD03
5H601GD07
5H601GD17
5H601HH02
5H601HH04
5H601KK08
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB14
5H615PP02
5H615PP06
5H615SS03
5H615SS05
5H615SS10
5H615SS13
5H619AA01
5H619AA05
5H619BB06
5H619BB24
5H619PP02
5H619PP04
5H619PP08
(57)【要約】
【課題】製造を容易に行うことができ、生産性を高めることができる自己始動形同期リラクタンスモータの回転子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】実施形態のリラクタンスモータ1の回転子4は、内周側が中空に形成されている外周側分割鉄心15と、外周側分割鉄心15の中空の部分に配置され、当該外周側分割鉄心15に組付けられいてに一体に回転する内周側分割鉄心16とにより構成された回転子鉄心11を有しており、硬磁性材料としての永久磁石が、外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16との境界から後着磁が可能な範囲内に配置されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラックスバリアスリットが形成されている回転子鉄心と、
前記フラックスバリアスリットの少なくとも一部に充填されている導電性の非磁性材料と、
前記回転子鉄心の周方向において前記フラックスバリアスリットに対応する位置に配置されている硬磁性材料と、を備え、
前記回転子鉄心は、内周側が中空に形成されている外周側分割鉄心と、前記外周側分割鉄心の中空の部分に配置され、当該外周側分割鉄心に組付けられて一体に回転する内周側分割鉄心とにより構成されており、
前記硬磁性材料は、前記内周側分割鉄心と前記外周側分割鉄心との境界から後着磁が可能な範囲内に配置されている自己始動形同期リラクタンスモータの回転子。
【請求項2】
前記硬磁性材料は、前記内周側分割鉄心と前記外周側分割鉄心との間に形成される空間に配置されている請求項1記載の自己始動形同期リラクタンスモータの回転子。
【請求項3】
前記硬磁性材料は、前記内周側分割鉄心の内部に配置されている請求項1または2記載の自己始動形同期リラクタンスモータの回転子。
【請求項4】
前記硬磁性材料は、前記外周側分割鉄心の内部に配置されている請求項1から3のいずれか一項記載の自己始動形同期リラクタンスモータの回転子。
【請求項5】
前記硬磁性材料は、前記回転子鉄心の周方向、前記回転子鉄心の径方向、または、前記回転子鉄心の軸方向のうち少なくとも一方向において、複数個が配置されている請求項1から4のいずれか一項記載の自己始動形同期リラクタンスモータの回転子。
【請求項6】
前記フラックスバリアスリットは、前記回転子鉄心の径方向に並んで複数層形成されており、
前記硬磁性材料は、最も外周側に形成されている前記フラックスバリアスリットよりも内周側に配置されている請求項1から5のいずれか一項記載の自己始動形同期リラクタンスモータの回転子。
【請求項7】
前記内周側分割鉄心と前記外周側分割鉄心との境界に、一方の分割鉄心から他方の分割鉄心に向かって突出している凸部と、当該凸部と係合する凹部とが形成されている請求項1から6のいずれか一項記載の自己始動形同期リラクタンスモータの回転子。
【請求項8】
前記硬磁性材料は、前記回転子鉄心の周方向において前記凸部に対応する位置に配置されている請求項7記載の自己始動形同期リラクタンスモータの回転子。
【請求項9】
前記硬磁性材料は、前記回転子鉄心の周方向において前記凸部からずれた位置に配置されている請求項7または8記載の自己始動形同期リラクタンスモータの回転子。
【請求項10】
回転子鉄心と、前記回転子鉄心に形成されているフラックスバリアスリットと、前記フラックスバリアスリットの少なくとも一部に充填されている導電性の非磁性材料と、前記回転子鉄心の周方向において前記フラックスバリアスリットに対応する位置に配置されている硬磁性材料とを備えた自己始動形同期リラクタンスモータの回転子の製造方法であって、
前記回転子鉄心は、内周側が中空に形成されている外周側分割鉄心と、前記外周側分割鉄心の中空の部分に配置され、当該外周側分割鉄心に組付けられて一体に回転する内周側分割鉄心とにより構成されるものであり、
前記内周側分割鉄心を製造する工程と、
前記外周側分割鉄心を製造する工程と、
前記内周側分割鉄心と前記外周側分割鉄心とを組付ける前に、前記硬磁性材料をいずれかの分割鉄心に装着する装着工程と、を含む自己始動形同期リラクタンスモータの回転子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、自己始動が可能な自己始動形同期リラクタンスモータの回転子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、永久磁石を備えるとともに、フラックスバリアを形成するためのスリットを設け、そのスリット内に非磁性材料を充填した回転子を用いるリラクタンスモータが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、そのような回転子を製造する際には、着磁した永久磁石を装着することが困難であったり、非磁性材料をダイキャストにより充填すると着磁した永久磁石が熱によって減磁したり、ダイキャスト後にいわゆる後着磁しようとしても回転子の表面から磁石までの距離が遠く着磁を行うことができなくなったりするなど、製造上の問題が発生するおそれがある。
【0005】
そこで、製造を容易に行うことができ、生産性を高めることができる自己始動形同期リラクタンスモータの回転子およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の自己始動形同期リラクタンスモータの回転子は、回転子鉄心と、回転子鉄心に形成されているフラックスバリアスリットと、フラックスバリアスリットの少なくとも一部に充填されている導電性の非磁性材料と、回転子鉄心の周方向においてフラックスバリアスリットに対応する位置に配置されている硬磁性材料と、を備え、回転子鉄心は、内周側が中空に形成されている外周側分割鉄心と、外周側分割鉄心の中空の部分に配置され、当該外周側分割鉄心に組付けられて一体に回転する内周側分割鉄心とにより構成されており、硬磁性材料は、内周側分割鉄心と外周側分割鉄心との境界から後着磁が可能な範囲内に配置されている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態による自己始動形同期リラクタンスモータを模式的に示す図
【
図3】回転子および固定子の製造工程を模式的に示す図
【
図4】内周側分割鉄心、外周側分割鉄心、組付けた状態の要部を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、複数の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、構成を理解しやすくするために、各実施形態で共通する符号を付して説明することがある。
【0009】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について説明する。
図1に示すように、本実施形態の自己始動形同期リラクタンスモータ(以下、単にリラクタンスモータ1と称する)は、フレーム2の内部に固定されている固定子3と、固定子3の内周側に配置されてその固定子3に対して相対的に回転する回転子4と、回転子4に取り付けられていて回転子4と一体に回転するシャフト5とを備えている。以下、回転子4およびシャフト5が回転する軸を回転軸(J1)と称し、回転軸(J1)に沿った向きを軸方向と称する。
【0010】
フレーム2は、本実施形態では回転軸方向の両端が開口した円筒状に形成されており、その両端の開口がブラケット6によって閉鎖されている。このブラケット6には、シャフト5を回転可能に支持する軸受け7がそれぞれ設けられている。なお、
図1に示すフレーム2の形状は一例であり、例えば設置場所に固定するための固定構造などを外面に有するものであってもよい。
【0011】
図2は、固定子3および回転子4を軸方向からの断面視にて模式的に示すものである。この
図2に示すように、固定子3は、中空の概ね円筒状に形成された固定子鉄心8、固定子鉄心8の内周側に形成されている複数のスロット9に装着されているコイル10を備えている。コイル10は、
図1に示すように固定子3の軸方向の両端に突出した部位が環状に成型され、いわゆるコイルエンド10aを形成している。また、固定子3の外周側には、フレーム2に固定するためのボルト孔3aを有する耳部3bが周方向に均等となる3か所に設けられている。ただし、ここに示す固定子3の形状は一例であり、スロット9の数や配置などはこれに限定されない。
【0012】
回転子4は、固定子3の内周側に配置される回転子鉄心11を有しており、その回転子鉄心11には、フラックスバリアスリット(以下、スリット12と称する)、そのスリット12内に充填されている導電性の非磁性材料13、および永久磁石14が設けられている。
【0013】
このスリット12は、フラックスバリアを形成するものであり、回転子鉄心11の周方向において極となる位置に対応して、内周側に湾曲しつつ回転子鉄心11の外周側に向かって広がる湾曲形状に形成されている。本実施形態では4極のリラクタンスモータ1を想定しており、スリット12は回転子鉄心11の周方向を4等分したそれぞれの極となる位置に形成されている。また、スリット12の外周側の端部には、回転子鉄心11の外周との間に外周側ブリッジ部12aが形成されている。
【0014】
また、スリット12は、各極において径方向に並んで複数層、例えば3層形成されており、回転子鉄心11を軸方向に貫いていている。そして、本実施形態では全てのスリット12の内部をダイキャストによって非磁性材料13で充填している。なお、スリット12の層数はこれに限定されず、1層や2層あるいは4層以上設ける構成とすることができる。
【0015】
非磁性材料13は、回転子鉄心11の軸方向の両端から突出した状態で充填され、各スリット12から突出した部位が互いに連結されることで、
図1に示すいわゆる短絡環13aを形成する。ただし、短絡環13aは、単純な円環形状に限らず、フレーム2内の空気をかき混ぜるフィンを有する形状などにすることができる。また、非磁性材料13としては、例えばアルミニウムや銅などを利用することができるがそれらに限定されない。
【0016】
永久磁石14は、回転子鉄心11の周方向において極となる位置に対応して、それぞれの極に配置されている。本実施形態の場合、最も内周側に位置するスリット12は極の中心部分において周方向に2分割されており、そのスリット12間となる中央ブリッジ部12bに永久磁石14が配置されている。
【0017】
回転子鉄心11は、内周側が中空に形成されている外周側分割鉄心15と、外周側分割鉄心15の内周側に配置されて外周側分割鉄心15と一体に回転する内周側分割鉄心16とにより構成されている。そして、永久磁石14は、詳細は後述するが、外周側分割鉄心15に設けられている外周側凹部17と、内周側分割鉄心16に設けられている内周側凸部18とで囲まれた空間、つまりは、外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16との間に配置されている。
【0018】
換言すると、永久磁石14は、外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16との間、つまりは、両者の境界に配置されている。なお、境界は、回転子鉄心11を軸方向から視た状態における外周側分割鉄心15の内周側の縁となる内縁、または、内周側分割鉄心16の外周側の縁となる外縁に相当する。
【0019】
この永久磁石14は、平板状であって長辺が外周面に沿う態様で配置されている。永久磁石14は、硬磁性材料に相当し、例えば希土類磁石、フェライト磁石、アルニコ磁石、サマリウム鉄コバルト磁石などを適宜選択して採用することができる。また、本実施形態では、永久磁石14は、鉄心への装着後に磁気を高めるいわゆる後着磁により着磁されるものを想定している。
【0020】
シャフト5は、内周側分割鉄心16の中心に設けられた軸孔16aに例えば圧入されている。この軸孔16aは、その一部が径方向外側に窪んだキー溝16bを有しており、このキー溝16bにシャフト5の外周に設けられているキーが係合することによりシャフト5が回転子鉄心11に対して周方向にずれることが規制されている。
【0021】
次に、上記した構成の作用について説明する。
前述のように、永久磁石14を備えるとともに、フラックスバリアを形成するためのスリット12を設け、そのスリット12内に非磁性材料13を充填した回転子4を製造する際には、例えば着磁した永久磁石14を挿入することが困難であったり、非磁性材料13をダイキャストにより充填すると着磁した永久磁石14が熱によって減磁したり、ダイキャスト後にいわゆる後着磁しようとしても回転子4の表面から磁石までの距離が遠くなって着磁ができないなどの製造上の問題が発生するおそれがある。そこで、以下のようにしてそれらの問題の少なくとも1つあるいは複数を解決可能とする。
【0022】
まず、固定子鉄心8および回転子鉄心11の製造方法方を説明する。固定子鉄心8および回転子鉄心11は、
図3に示すように、帯状の電磁鋼板19を所定の送り方向に送りつつ図示しないプレス加工機により打ち抜いて形成された鉄心片20を積層することにより形成されている。具体的には、電磁鋼板19を所定の送り方向に送りつつ、所定の位置で内周側分割鉄心16用の鉄心片20a、外周側分割鉄心15用の鉄心片20b、および固定子鉄心8用の鉄心片20cが順次打ち抜かれていく。この工程は、打ち抜き工程に相当する。
【0023】
内周側分割鉄心16用の鉄心片20aは、
図4に内周側鉄心片として拡大して示すように、回転子鉄心11の周方向において極となる位置に対応した4か所の外周側に所定の突出長(L1)で内周側凸部18が形成され、内周側には軸孔16aおよびキー溝16bが形成された状態で打ち抜かれる。また、内周側凸部18の幅は仕様に応じて適宜設定することができる。なお、厳密には、鉄心片20aは、積層された状態で内周側凸部18、軸孔16aおよびキー溝16bを形成する形状に打ち抜かれる。そして、各鉄心片20aを積層して溶接することにより
図3に示す内周側分割鉄心16が形成される。この工程は、積層工程、溶接工程に相当する。
【0024】
また、外周側分割鉄心15用の鉄心片20bは、
図4に外周側鉄心片として拡大して示すように、内周側分割鉄心16が配置される中空部分、極となる位置つまりは内周側凸部18の位置に対応した径方向外側に所定の深さ(L2)で窪んだ4か所の外周側凹部17、および各スリット12が形成された状態で打ち抜かれる。このとき、外周側凹部17の幅は仕様と内周側凸部18に対して必要になるクリアランスとを加味して適宜設定することができる。なお、厳密には、鉄心片20bは、積層された状態において中空部分、外周側凹部17、スリット12が形成される形状に打ち抜かれる。そして、各鉄心片20bを積層することにより
図3に示す外周側分割鉄心15が形成される。
【0025】
このとき、外周側凹部17の深さ(L2)は、内周側凸部18の突出量(L1)よりも大きく設定されている。そのため、
図4に空間部分として示すように、外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16とを組付けた状態では、内周側凸部18の先端と外周側凹部17の艇部との間に空間(S)が形成される。そして、本実施形態ではこの空間(S)に永久磁石14が配置される。つまり、永久磁石14は、外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16との間であって、外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16との境界に位置して配置される。
【0026】
また、固定子3用の鉄心片20cは、
図3に示すように、回転子4が配置される中空部分、内周側に位置する複数のスロット9、ボルト孔3aを有する耳部3bが形成された状態で打ち抜かれる。なお、厳密には、鉄心片20cは、積層された状態において中空部分、スロット9、ボルト孔3aおよび耳部3bを形成する形状に打ち抜かれる。そして、鉄心片20cを積層することにより固定子鉄心8が形成される。
【0027】
続いて、
図5に装着工程として示すように、内周側分割鉄心16は、それぞれの内周側凸部18の表面に着磁前の永久磁石14が例えば張り付けることによって装着される。すなわち、永久磁石14は、回転子鉄心11の周方向において内周側凸部18に対応する位置であり、回転子4の極に対応する位置に配置されている。このとき、本実施形態では内周側凸部18の表面つまりは径方向外側の端面は平坦に形成されており、その平坦な面に平板状の永久磁石14が装着される。つまり、永久磁石14は、外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16との境界から後着磁が可能な範囲内、本実施形態では内周側分割鉄心16の外縁に位置して配置されることになる。
【0028】
内周側分割鉄心16に装着された永久磁石14は、着磁工程として示すように着磁される。すなわち、本実施形態では装着した後に着磁が行われる後着磁の永久磁石14を採用しており、その永久磁石14は、例えば内周側凸部18の表面のように、外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16との境界から後着磁が可能な範囲内に配置されている。そのため、永久磁石14を内周側分割鉄心16に装着する際に着磁前のものを利用することができることから、位置決めなどを容易に行うことができ、作業性を改善することができる。なお、図示は省略するが、本実施形態では、装着工程の前の時点、着磁工程の前の時点、あるいは、着磁工程の後の時点で内周側分割鉄心16にシャフト5が取り付けられている。
【0029】
一方、外周側分割鉄心15は、ダイキャスト工程として示すように、単独でダイキャストが行われ、スリット12内に非磁性材料13が充填されるとともに、上記した短絡環13aが形成されている。つまり、外周側分割鉄心15にダイキャストが行われる際には、永久磁石14に対する熱の影響が発生しない。
【0030】
そして、組付け工程として示すように、外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16とは、互いの中心軸を一致させた状態で、また、外周側分割鉄心15の外周側凹部17と内周側分割鉄心16の内周側凸部18とが互いに係合した状態で一体に組付けられて回転子4が形成される。これにより、各極に対応する位置のそれぞれに、非磁性材料110が充填されたスリット12と永久磁石とが配置される。また、内周側凸部18と外周側凹部17とが互いに係合することにより、周方向へのずれが規制される。
【0031】
このとき、永久磁石14は、
図6に拡大して示すように外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16との間、本実施形態の場合であれば内周側凸部18と外周側凹部17とで囲まれた空間内に位置して配置される。また、永久磁石14は、径方向に複数層形成されているスリット12のうち、最も外周側に形成されているスリット12よりも内周側であって、最も内周側のスリット12間に配置される。
【0032】
この永久磁石14は、その幅(Wm)が、外周側凹部17との間にクリアランスがある状態で概ね内周側凸部18の幅と一致する長さに設定されている。また、永久磁石14は、その厚み(Tm)が、外周側凹部17との間にクリアランスがある状態で概ね外周側凹部17と内周側凸部18とによって形成される空間と一致する長さに設定されている。
【0033】
また、永久磁石14は、径方向における位置が、本実施形態では最も内周側に位置するスリット12を延長した範囲内となるように設定されている。より具体的には、永久磁石14の径方向外側の辺が図示左右のスリット12の径方向外側の線を繋いだ位置と一致または内側になり、径方向内側の辺が図示左右のスリット12の径方向内側の線を繋いだ位置と一致または外側になるように配置されている。
【0034】
ただし、
図6に示す永久磁石14の大きさや配置は一例であり、特性に応じて適時変更することができる。例えば、永久磁石14は、径方向外側の辺が例えば2番目のスリット12に近い位置となったり、径方向内側の辺が最外周のスリット12よりも内側に位置したりする大きさに設定することができる。あるいは、永久磁石14は、
図6に示した配置に対して、その全体を径方向内側にずらしたり、径方向外側にずらしたりして配置することができる。
【0035】
以上説明した実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
リラクタンスモータ1の回転子4は、フラックスバリアとして機能するスリット12が形成されている回転子鉄心11と、スリット12の少なくとも一部に充填されている導電性の非磁性材料13と、回転子鉄心11の周方向においてフラックスバリアスリットに対応する位置に配置されている硬磁性材料としての永久磁石14と、を備えている。そして、回転子鉄心11は、内周側が中空に形成されている外周側分割鉄心15と、外周側分割鉄心15の中空の部分に配置され、当該外周側分割鉄心15に組付けられいてに一体に回転する内周側分割鉄心16とにより構成されており、硬磁性材料は、外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16との境界から後着磁が可能な範囲内に配置されている。
【0036】
これにより、永久磁石14が外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16との境界から後着磁が可能となる範囲内に配置されることから、必ずしも永久磁石14を予め着磁しておく必要がなくなること、また、永久磁石14を後着磁することが可能となることから、永久磁石14を容易に装着することができる。したがって、製造を容易に行うことができるとともに生産性を高めることができる。
【0037】
また、上記した構成のリラクタンスモータ1についても、永久磁石14を後着磁することが可能となることから、永久磁石14を容易に装着することができ、製造を容易に行うことができるとともに生産性を高めることができるなどの効果を得ることができる。
【0038】
また、外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16とを組み付ける前に永久磁石14を装着する工程を実施する製造方法によっても、永久磁石14を後着磁することが可能となることから、永久磁石14を容易に装着することができ、製造を容易に行うことができるとともに生産性を高めることができるなどの効果を得ることができる。
【0039】
この場合、永久磁石14は、スリット12に非磁性材料13をダイキャストにより充填する際の熱による影響を受けることがない。これにより、着磁した永久磁石14が熱によって減磁してしまうことを防止できる。また、ダイキャスト後の後着磁も可能となることから、永久磁石14の装着を容易に行うことができる。
【0040】
また、外周側分割鉄心15は、その内周面において、それぞれの極に対応する位置に径方向外側に窪んだ外周側凹部17が形成されており、内周側分割鉄心16は、その外周面において、外周側凹部17に対応する位置に外周側凹部17と係合する内周側凸部18が形成されている。これにより、外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16とが周方向にずれることが防止される。
【0041】
そして、永久磁石14は、回転子鉄心11の周方向において内周側凸部18に対応する位置に配置されている。これにより、永久磁石14を配置するための構造と、ずれを防止するための構造とを共用することが可能となり、外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16の構造が過度に複雑化することが防止され、品質や生産性が低下することを抑制できる。
【0042】
また、永久磁石14は、外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16との間に形成される空間、本実施形態であれば、内周側凸部18の先端と外周側凹部17の底壁との間に形成される空間に配置されている。これにより、内周側凸部18の突出長さ、あるいは、外周側凹部17の深さを適切なものに設定するという簡単な構造で、永久磁石14を配置する構造を設けることができる。
【0043】
また、スリット12は、回転子鉄心11の径方向に並んで複数層形成されており、永久磁石14は、最も外周側に形成されているスリット12よりも内周側に配置されている。つまり、本実施形態の場合には、永久磁石14は、外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16との境界に近い位置に配置されている。これにより、永久磁石14を後着磁することが可能な範囲に配置することができる。
【0044】
実施形態では永久磁石14を内周側分割鉄心16の外縁に装着する構成を例示したが、永久磁石14は、外周側分割鉄心15の内縁に配置することができる。例えば、
図7に示すようにダイキャスト工程において外周側分割鉄心15にダイキャストを施し、装着工程において外周側分割鉄心15の外周側凹部17内に永久磁石14を装着し、着磁工程において永久磁石14を着磁した後、組付け工程において、永久磁石14を装着した外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16とを組み付ける。
【0045】
このような構成によっても、永久磁石14を後着磁することが可能となり、また、永久磁石14を容易に装着することが可能となることから、製造を容易に行うことができるとともに生産性を高めることができるなど、上記した各種の効果を得ることができる。この場合、後着磁するのではなく、着磁した永久磁石14を外周側分割鉄心15に装着する構成とすることもできる。
【0046】
本実施形態ではスリット12の全体に非磁性材料13を充填する構成を例示したが、スリット12の一部を空隙のままにするなど、スリット12の少なくとも一部に非磁性材料13を充填する構成とすることもできる。
【0047】
また、永久磁石14と外周側凹部17との間の隙間を例えば耐熱性を有する樹脂材料で埋めることで永久磁石14のずれを防止する構成とすることができる。また、永久磁石14の軸方向の端部を例えばワニスにより塞ぐなどの構成とすることにより、万が一破損した際に欠片が飛散するおそれを低減することができる。これは、他の実施形態の構成例についても同様である。
【0048】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について図面を参照しながら説明する。第2実施形態では第1形態とは形状や配置が異なる複数の構成例を説明するが、理解し易くするために第1実施形態と共通する符号を付すことがある。また、第2実施形態では、軸方向から視た断面視の一部を拡大した図を示している。
【0049】
<構成例その1>
図8に構成例その1として示すように、リラクタンスモータ1の回転子4は、内周側凸部18に形成した磁石溝21内に永久磁石14を配置する構成とすることができる。この磁石溝21は、内周側凸部18の先端から径方向内側に窪んだ状態に形成されている。そして、永久磁石14は、その外周側が、磁石溝21に装着されたときに概ね内周側凸部18の先端と面一となる位置、あるいは、内周側凸部18の先端から若干径方向内側に位置する大きさに形成されている。
【0050】
つまり、構成例1の永久磁石14は、外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16との境界から後着磁が可能な範囲内に配置されるとともに、外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16との間に形成される空間に配置されている。また、永久磁石14は、内周側分割鉄心16の表面に露出した状態で配置されている。この場合、内周側分割鉄心16に永久磁石14を装着して着磁した後に外周側分割鉄心15と組付けたり、着磁した永久磁石14を装着した外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16と組付けたりすることにより製造することができる。
【0051】
このような構成によっても、永久磁石14の装着が容易になり、永久磁石14を後着磁することも可能となることから、製造を容易に行うことができるとともに生産性を高めることができるなど、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、簡単な構造で内周側凸部18と外周側凹部17とにより周方向へのずれを防止することができ、外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16の構造が過度に複雑化することも防止できる。
【0052】
また、スリット12にダイキャストによって非磁性材料13を充填する場合であっても、外周側分割鉄心15とは別体となる内周側分割鉄心16に永久磁石14を装着しているため、熱による消磁を防止することができる。さらに、永久磁石14が磁石溝21内に収まった状態になっていることから、周方向の両端が磁石溝21の壁部によって保護されるとともに、外周側の端面も壁部の先端から突出しない範囲になっている。そのため、永久磁石14を装着した内周側分割鉄心16を外周側分割鉄心15に組付ける際に永久磁石14が損傷するおそれを低減することができる。
【0053】
<構成例その2>
図8に構成例その2として示すように、リラクタンスモータ1の回転子4は、外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16との境界から後着磁が可能な範囲内であって、内周側分割鉄心16の内部に配置する構成とすることができる。すなわち、内周側分割鉄心16内に永久磁石14を挿入する挿入孔22を設け、内周側分割鉄心16の表面に露出しない状態で永久磁石14を配置する構成とすることができる。
【0054】
この場合、内周側分割鉄心16に永久磁石14を装着および着磁した後に外周側分割鉄心15と組付けたり、着磁した永久磁石14を装着した外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16と組付けたりすることにより製造することができる。
【0055】
これにより、例えば内周側分割鉄心16の表面から後着磁が可能な範囲内に永久磁石14を配置することにより第1実施形態と同様の効果を得ることができる。この場合、永久磁石14が内周側分割鉄心16の内部に位置していることから、永久磁石14を装着した内周側分割鉄心16を外周側分割鉄心15に組付ける際に永久磁石14が損傷するおそれを低減することができる。
【0056】
<構成例その3、その4、その5>
図9に構成例その3として示すように、永久磁石14は、回転子鉄心11の周方向に複数個配置することができる。また、構成例その4として示すように、永久磁石14を回転子鉄心11の径方向に複数個配置する構成とすることができる。あるいは、構成例その5として示すように、回転子鉄心11の軸方向に複数個配置することができる。また、永久磁石14を複数個配置する構成は、第1実施形態の構成や本実施形態で例示する他の構成例にも適用することができる。
【0057】
また、これらの配置を組み合わせることにより、周方向、径方向および軸方向のうち、2つ以上の方向に対して永久磁石14を複数個配置する構成とすることができる。すなわち、永久磁石14は、回転子鉄心11の周方向、回転子鉄心11の径方向、あるいは回転子鉄心11の軸方向のうち少なくとも一方向に対して複数個を配置する構成とすることができる。
【0058】
このような構成により、例えば基準となる大きさの永久磁石14をあらかじめ用意しておき、製造するリラクタンスモータ1に必要とされる性能に応じて装着する永久磁石14の数を変更することなどが可能となり、部品点数を削減することにより在庫管理業務の簡略化やコストダウンを図ることができる。また、
図9では、理解し易くするために永久磁石14の間に隙間を設けて示しているが、永久磁石14は、実際に隙間がある状態で配置することができるし、互いが接触して隙間が無い状態で配置することもできるし、それらを混在させて配置することもできる。
【0059】
また、このような構成によっても、内周側分割鉄心16に永久磁石14を装着および着磁した後に外周側分割鉄心15と組付けたり、着磁した永久磁石14を装着した外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16と組付けたりすることにより製造することができるなど第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0060】
<構成例その6、その7、その8>
図10に示すように、永久磁石14は、内周側凸部18からずれた位置に配置する構成とすることができる。その場合、例えば外周側分割鉄心15の内周側に磁石溝21を設け、その磁石溝21に永久磁石14を配置する構成とすることができる。
【0061】
このとき、永久磁石14は、構成例その6として示すように、内周側分割鉄心16の外周面に装着されたような状態に配置することができる。また、永久磁石14は、構成例その7として示すように内周側分割鉄心16の表面に露出しつつ一部が内周側分割鉄心16の内部に位置する状態や、構成例その8として示すように全体が内周側分割鉄心16の内部に位置する状態に配置することが得できる。つまり、永久磁石14は、外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16との間に形成される空間、あるいは、外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16との境界から後着磁が可能な範囲内に配置することができる。
【0062】
この場合、内周側分割鉄心16に永久磁石14を装着して着磁した後に外周側分割鉄心15と組付けたり、着磁した永久磁石14を装着した外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16と組付けたり、外周側分割鉄心15に永久磁石14を装着して着磁した後に内周側分割鉄心16と組付けたり、着磁した永久磁石14を装着した外周側分割鉄心15を内周側分割鉄心16と組付けたりすることにより製造することができる。
【0063】
このような構成によっても、内周側分割鉄心16に永久磁石14を装着および着磁した後に外周側分割鉄心15と組付けたり、着磁した永久磁石14を装着した外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16と組付けたりすることにより製造することができるなど第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、永久磁石14は、回転子鉄心11の周方向、径方向あるいは軸方向に複数個配置することもできる。
【0064】
<構成例その9、その10、その11>
ここまでは内周側分割鉄心16に凸部を形成する例を示したが、例えば
図11に示すように、外周側分割鉄心15に径方向内側に突出する外周側凸部23を設け、内周側分割鉄心16に径方向内側に窪む内周側凹部24を設け、それらを係合させることにより外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16との周方向へのずれを抑制する構成とすることができる。
【0065】
また、構成例その9として示すように、永久磁石14を、外周側凸部23から周方向にずれた位置に配置する構成とすることができる。構成例その9の場合、永久磁石14は、外周側凸部23の先端と内周側凹部24の底部との間に形成される空間に配置されている。この場合、永久磁石14を内周側凹部24に装着および着磁した後に外周側分割鉄心15と組み合わせたり、永久磁石14を外周凸部の先端に装着および着磁した後に内周側分割鉄心16と組み合わせたり、着磁した永久磁石14をいずれかの分割鉄心に装着した後に互いの分割鉄心を組み合わせたりすることにより製造することができる。なお、外周側分割鉄心15に永久磁石14を装着あるいは挿入する場合には、ダイキャスト後に装着すればよい。
【0066】
また、構成例その10として示すように、外周側分割鉄心15に永久磁石14を挿入する挿入孔22を例えば最内周側にスリット12間に設け、永久磁石14を外周側分割鉄心15に配置することができる。この場合、挿入孔22をマスキングした状態でダイキャストし、その後に永久磁石14を挿入して着磁することにより製造することができる。この場合、永久磁石14を、外周側凸部23から周方向にずれた位置に配置する構成とすることができる。
【0067】
また、構成例その11として示すように、永久磁石14を、外周側凸部23から周方向にずれた位置であって内周側分割鉄心16の内部に配置する構成とすることができる。この場合、永久磁石14を挿入孔22に挿入した後に着磁することにより製造することができる。
【0068】
このように外周側分割鉄心15に凸部を設け、内周側分割鉄心16に凹部を設ける構成であっても、永久磁石14の装着が容易になり、永久磁石14を後着磁することも可能となることから、製造を容易に行うことができるとともに生産性を高めることができるなど、第1実施形態や例示した他の構成例と同様の効果を得ることができる。また、簡単な構造で外周側凸部23と内周側凹部24とにより周方向へのずれを防止することができ、外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16の構造が過度に複雑化することも防止できる。
【0069】
また、スリット12にダイキャストによって非磁性材料13を充填する場合であっても熱による影響を受けない状態で永久磁石14を装着することが可能となるため、消磁するおそれを低減することができる。また、内周側分割鉄心16あるいは外周側分割鉄心15のいずれかの内部に永久磁石14を配置した場合には、内周側分割鉄心16を外周側分割鉄心15に組付ける際に永久磁石14が損傷するおそれを低減することができる。
【0070】
また、実施形態では回転子4を外周側分割鉄心15と内周側分割鉄心16とにより構成する例を示したが、例えば内周側分割鉄心16をさらに周方向に分割可能とし、それらの境界に永久磁石14を配置する構成とすることもできる。これにより、着磁した磁石を内周側分割鉄心16の内部に容易に配置することができる。
【0071】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
図面中、1はリラクタンスモータ、4は回転子、11は回転子鉄心、12はスリット(フラックスバリアスリット)、13は非磁性材料、14は永久磁石(硬磁性材料)、15は外周側分割鉄心、16は内周側分割鉄心、17は外周側凹部(凹部)、18は内周側凸部(凸部)、23は外周側凸部(凸部)、24は内周側凹部(凹部)を示す。