(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189467
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】振動発電ユニット、振動発電ユニットの設計方法及び振動発電ユニット設計用プログラム
(51)【国際特許分類】
B06B 1/06 20060101AFI20221215BHJP
H02N 1/00 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
B06B1/06 Z
H02N1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098057
(22)【出願日】2021-06-11
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 IoT推進のための横断技術開発プロジェクト 超効率データ抽出機能を有する学習型スマートセンシングシステムの研究開発 微小加速度領域での振動発電を可能にする機構開発および振動発電デバイスに関する関係技術の動向調査に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下村 典子
(72)【発明者】
【氏名】三屋 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄二
(72)【発明者】
【氏名】三好 智也
【テーマコード(参考)】
5D107
【Fターム(参考)】
5D107AA05
5D107AA13
5D107CC00
5D107CC10
5D107DD03
5D107DD12
(57)【要約】
【課題】薄型化に有利であって、しかも所望の発電電力が得られる周波数幅が明らかな振動発電ユニット、このような振動発電ユニットの設計方法及び振動発電ユニット用設計プログラムを提供する。
【解決手段】一方向に延出する固定電極部、固定電極部に対向し、かつ一平面上で振動する可動電極部と、を備え、固定電極部と可動電極部とが相対的に振動することによって発電する振動発電素子1と、振動発電素子1と接続され、振動源の振動により少なくとも平面方向に振動すると共に、振動を振動発電素子1に伝える振動体2と、により振動発電ユニットを構成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に延出する固定電極部と、前記固定電極部に対向し、かつ一平面上で振動する可動電極部と、を備え、前記固定電極部と前記可動電極部とが相対的に振動することによって発電する振動発電体と、
前記振動発電体と接続され、振動源の振動により少なくとも前記平面方向に振動すると共に、振動を前記振動発電体に伝える振動体と、を備えることを特徴とする、振動発電ユニット。
【請求項2】
前記固定電極部は、前記延出方向と交差する方向に複数配置されて固定櫛歯電極を構成し、前記可動電極部は、前記延出方向と交差する方向に複数配置されて可動櫛歯電極を構成することを特徴とする、請求項1に記載の振動発電ユニット。
【請求項3】
前記固定電極部及び前記可動電極部の少なくとも一方は、エレクトレット化されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の振動発電ユニット。
【請求項4】
前記振動発電体により発電される発電量は、前記振動体に接続されていないときの一質点振動系における前記振動発電体の固有振動数よりも小さい第1周波数において第1ピークを持つと共に、前記固有振動数よりも大きい第2周波数において第2ピークを持ち、前記第1周波数と前記第2周波数との間で下に凸の変曲点を有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の振動発電ユニット。
【請求項5】
前記振動体は、前記振動発電体を固定する固定部と、前記振動源から前記固定部に振動を伝える弾性体と、を有し、
前記弾性体は、前記固定電極部の前記延出の方向に弾性変形することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の振動発電ユニット。
【請求項6】
前記弾性体は、一方の端部が前記固定部に接続され、他方の端部が前記振動源に接続されて、かつ前記一方の端部と前記他方の端部との間において、前記一方の端部の側から前記他方の端部の側に向かう方向が変化することを特徴とする、請求項5に記載の振動発電ユニット。
【請求項7】
前記第1ピークと前記第2ピークとの間の周波数の範囲であるピーク間幅、及び前記変曲点における発電量を前記一質点振動系の前記振動発電体が前記固有振動数において発電する発電量で規格化した増加率は、前記振動発電体の減衰比を0.0005以上、0.01以下の範囲とした値を有することを特徴とする請求項4に記載の振動発電ユニット。
【請求項8】
前記第1ピークと前記第2ピークとの間の周波数の範囲であるピーク間幅、及び前記変曲点における発電量を前記一質点振動系の前記振動発電体が前記固有振動数において発電する発電量で規格化した増加率は、前記振動発電体と前記振動体の質量比を0.0001以上、0.008以下の範囲とした場合の値を有することを特徴とする請求項4に記載の振動発電ユニット。
【請求項9】
前記振動体を構成するフレーム内に前記振動発電体が配置されたことを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の振動発電ユニット。
【請求項10】
一方向に延出する固定電極部と、前記固定電極部に対向し、かつ一平面上で振動する可動電極部と、を備え、前記固定電極部と前記可動電極部とが相対的に振動することによって発電する振動発電体と、前記振動発電体と接続され、振動源の振動により少なくとも前記平面方向に振動すると共に、振動を前記振動発電体に伝える振動体と、を備える振動発電ユニットを設計するための振動発電ユニットの設計方法であって、
前記振動発電体の質量及び前記振動体の質量の少なくとも一方に関する質量情報、前記振動発電ユニットが発電量のピークを持つ周波数範囲に関する周波数情報、及び前記周波数範囲において前記振動発電ユニットが発電する発電量に関する発電情報の少なくとも一つの入力を受け付ける工程と、
前記質量情報、前記周波数情報、前記発電情報のうち、前記入力を受け付ける工程において入力が受け付けられた情報に基づいて、入力されなかった前記質量情報、前記周波数情報、前記発電情報の少なくとも一つを出力する工程と、を含むことを特徴とする振動発電ユニットの設計方法。
【請求項11】
前記振動発電ユニットは、前記周波数範囲において発電量の二つのピークを有し、前記周波数情報は前記二つのピークの間の周波数の範囲に関する情報を含むことを特徴とする、請求項10に記載の振動発電ユニットの設計方法。
【請求項12】
前記振動発電ユニットは、前記二つのピークの間で下に凸の変曲点を持ち、前記周波数情報は、前記振動体に接続されていないときの一質点振動系における前記振動発電体の固有振動数において生じる第0ピークに対応する周波数範囲であるΔη
1と、前記二つのピークの間の周波数の範囲であるピーク間隔Δη
2pとの比であるβを含み、前記βは、前記第0ピークに対する前記変曲点の割合であるα、前記振動発電体の減衰比であるζ
1との間に以下の関係を有することを特徴とする、請求項11に記載の振動発電ユニットの設計方法。
【数1】
【請求項13】
前記αは、前記振動発電体の質量m
1と前記振動体m
2の質量との比m
1/m
2である質量比μと、前記減衰比ζ
1との間に、以下の関係を有することを特徴とする、請求項12に記載の振動発電ユニットの設計方法。
【数2】
【請求項14】
前記発電情報は、前記変曲点における発電量に関する情報を含むことを特徴とする、請求項12または13に記載の振動発電ユニットの設計方法。
【請求項15】
前記振動体に接続されていないときの一質点振動系における振動発電体の固有振動数Ω
1と、前記振動発電体と接続されていないときの一質点振動系における前記振動体の固有振動数Ω
2とは、前記振動発電体の質量m
1と前記振動体の質量m
2との比m
1/m
2である質量比μとの間に、以下の関係を有することを特徴とする、請求項12から14のいずれか一項に記載の振動発電ユニットの設計方法。
【数3】
【請求項16】
一方向に延出する固定電極部と、前記固定電極部に対向し、かつ一平面上で振動する可動電極部と、を備え、前記固定電極部と前記可動電極部とが相対的に振動することによって発電する振動発電体と、前記振動発電体と接続され、振動源の振動により少なくとも前記平面方向に振動すると共に、振動を前記振動発電体に伝える振動体と、を備える振動発電ユニットを設計するための振動発電ユニット用設計プログラムであって、
前記振動発電体の質量及び前記振動体の質量の少なくとも一方に関する質量情報、前記振動発電ユニットが発電量のピークを持つ周波数範囲に関する周波数情報、及び前記周波数範囲において前記振動発電ユニットが発電する発電量に関する発電情報の少なくとも一つの入力を受け付ける機能と、
前記質量情報、前記周波数情報、前記発電情報のうち、前記入力を受け付ける機能により入力が受け付けられた情報に基づいて、入力されなかった前記質量情報、前記周波数情報、前記発電情報の少なくとも一つを出力する機能と、を含むことを特徴とする、振動発電ユニット用設計プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動発電ユニット、振動発電ユニットの設計方法及び振動発電ユニット設計用プログラムに関し、詳しくは、二質点振動系の振動発電技術に関する。
【背景技術】
【0002】
振動により発電する振動発電素子は、電池の交換や配線の引き回しが不要であるため、頻繁なメンテナンスが困難な箇所に配置可能な電源として様々な場面で使用されている。振動発電素子の発電量は、振動発電素子が大きく振動する固有振動数でピークを持ち、周波数がピークから遠ざかるほど小さくなる。発電量のピークが急峻であるほど充分な発電量が得られる周波数帯が狭くなり、発電量に周波数のずれが大きく影響して振動発電素子の稼働が不安定になる。したがって、振動発電素子の発電を安定させるためには、必要な発電量が得られる周波数帯が広い方が好ましい。
【0003】
上記の点から、現在、他の質量を持つ部材に振動発電素子を取り付け、振動発電素子をこの部材と共に振動させる二質点振動系の構成がある。このような構成は、例えば、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載の振動発電装置は、台座に振動発電ユニットを取り付けて、台座及び台座に取り付けられた錘及びコイルバネを含む質点と、この台座の上に取り付けられる発電ユニットの錘及びコイルバネが含まれる質点とを含む二質点振動系を構成している。そして、特許文献1には、二質点振動系の振動発電装置の発電量が、発電ユニットの錘及びコイルバネの固有振動数の両側で2つのピークを持つことと、このピークの現れる周波数が、台座の錘と発電ユニットの錘との質量比によって増減することが記載されている。
【0004】
さらに、特許文献1には、発電ユニットの発電量が磁石またはコイルの振幅を大きくすることによって大きくなることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の構成においては、台座と床スラブとの間に設けられたコイルバネによって台座に取り付けられた錘を振動させている。このような構成では、錘や台座といった構成が振動発電装置全体を大型化し、発電装置の設置場所が制限される。また、錘は台座に対して垂直方向に振動し、この振幅を大きくして発電量を確保する場合、錘が振動するための空間を確保する必要があり、振動発電装置の薄型化することが困難である。この点は、振動発電装置の厚型化は、発電装置を屋内のダクトや壁面に取り付ける際に不利である。
【0007】
さらに、特許文献1には、発電量の二つのピークによって発電ユニットの錘及びコイルバネの固有振動数の周辺の周波数帯域において振動増幅倍率が大きくなり発電を安定化させることができる旨の記載がある。しかし、特許文献1は、単に、高い発電量を実現する周波数の広帯域化と振動増幅倍率との関係を開示するのみで、特定の振動源に適切に対応して、これら広帯域化などに関して所望の発電量を得ることはできない。
【0008】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、薄型化に有利であって、しかも所望の発電電力が得られる周波数幅が明らかな振動発電ユニット、このような振動発電ユニットの設計方法及び振動発電ユニット用設計プログラムを提供することを目的とする。また、特定の振動源に対応して所望の発電量を得ることが可能な振動発電ユニット、このような振動発電ユニットの設計方法及び振動発電ユニット用設計プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明の一態様の振動発電ユニットは、一方向に延出する固定電極部と、前記固定電極部に対向し、かつ一平面上で振動する可動電極部と、を備え、前記固定電極部と前記可動電極部とが相対的に振動することによって発電する振動発電体と、前記振動発電体と接続され、振動源の振動により少なくとも前記平面方向に振動すると共に、振動を前記振動発電体に伝える振動体と、を備える。
【0010】
また、本発明の一態様の振動発電ユニットの設計方法は、一方向に延出する固定電極部と、前記固定電極部に対向し、かつ一平面上で振動する可動電極部と、を備え、前記固定電極部と前記可動電極部とが相対的に振動することによって発電する振動発電体と、前記振動発電体と接続され、振動源の振動により少なくとも前記平面方向に振動すると共に、振動を前記振動発電体に伝える振動体と、を備える振動発電ユニットを設計するための振動発電ユニットの設計方法であって、前記振動発電体の質量及び前記振動体の質量の少なくとも一方に関する質量情報、前記振動発電ユニットが発電量のピークを持つ周波数範囲に関する周波数情報、及び前記周波数範囲において前記振動発電ユニットが発電する発電量に関する発電情報の少なくとも一つの入力を受け付ける情報入力受付工程と、前記質量情報、前記周波数情報、前記発電情報のうち、前記情報入力受付機能に入力が受け付けられた情報に基づいて、前記情報入力受付工程において入力されなかった前記質量情報、前記周波数情報、前記発電情報の少なくとも一つを出力する情報出力工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一態様の振動発電ユニット設計用プログラムは、一方向に延出する固定電極部と、前記固定電極部に対向し、かつ一平面上で振動する可動電極部と、を備え、前記固定電極部と前記可動電極部とが相対的に振動することによって発電する振動発電体と、前記振動発電体と接続され、振動源の振動により少なくとも前記平面方向に振動すると共に、振動を前記振動発電体に伝える振動体と、を備える振動発電ユニットを設計するための振動発電ユニット用設計プログラムであって、前記振動発電体の質量及び前記振動体の質量の少なくとも一方に関する質量情報、前記振動発電ユニットが発電量のピークを持つ周波数範囲に関する周波数情報、及び前記周波数範囲において前記振動発電ユニットが発電する発電量に関する発電情報の少なくとも一つの入力を受け付ける機能と、前記質量情報、前記周波数情報、前記発電情報のうち、前記入力を受け付ける機能により入力が受け付けられた情報に基づいて、入力されなかった前記質量情報、前記周波数情報、前記発電情報の少なくとも一つを出力する機能と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
以上の形態によれば、薄型化に有利であって、しかも所望の発電電力が得られる周波数幅が明らかな振動発電ユニット、このような振動発電ユニットの設計方法及び振動発電ユニット用設計プログラムを提供することができる。また、特定の振動源に対応して所望の発電量を得ることが可能な振動発電ユニット、このような振動発電ユニットの設計方法及び振動発電ユニット用設計プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態の振動発電ユニットを説明するための斜視図である。
【
図2】
図1に示した振動発電ユニットの分解斜視図である。
【
図3】(a)は
図2に示した振動体2の上面図、(b)及び(c)は、それぞれ側面図である。
【
図4】
図2に示した振動発電素子の発電部の斜視図である。
【
図5】
図4に示す発電部の上面図であって、発電部の振動の状態を示す図である。
【
図6】(a)、(b)は、可動電極部と、固定電極部の模式図であって、エレクトレットについて説明するための図である。
【
図7】
図1に示す振動発電ユニットの振動発電素子と振動体との質量比を変えながら、その振幅を計算した結果を示すグラフである。
【
図8】(a)は一質点振動系モデルを示し、(b)は二質点振動系モデルを示す図である。
【
図9】
図8(b)に示す振動モデルにおける質量の偏りについて説明するための図である。
【
図10】本発明の一実施形態の振動発電ユニットの設計方法を説明するための図である。
【
図11】本発明の一実施形態のピーク間隔と振動発電素子の減衰比ζ
1及びQ値との関係を示すグラフである。
【
図12】振動発電素子と振動体それぞれの固有振動数のずれ量と発電量との関係を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態の振動発電ユニットを、図面を使って説明する。図面は、本実施形態の技術思想、構成部材、その配置や互いの位置関係、作用、機能を例示するものであり、その具体的な構成や形状を限定するものではない。
【0015】
[振動発電ユニット]
図1は、本実施形態の振動発電ユニット100を説明するための斜視図である。
図2は、
図1に示した振動発電ユニット100の分解斜視図である。振動発電ユニット100は、振動発電体と、振動発電体と接続され、振動源の振動により振動発電体と共に振動する振動体2と、を有している。振動体2は、取付体3に取り付けられて、壁面や床面、ダクトといった所望の取付面に取り付けられる。本実施形態の振動発電体は、電極により発電し、発電した電力を外部に取り出す回路等を含む振動発電素子1である。本実施形態の説明においては、
図1、
図2中に示す座標系を使って振動発電ユニット100における位置関係を規定する。すなわち、本実施形態の説明は、振動発電ユニット100の長手方向をx方向、x軸に直交する方向をy方向、x軸及びy軸に直交する方向をz方向に定める。本実施形態は、z方向の長さを「幅」とも記し、z軸の数値の大きい側を数値の小さい側よりも「上」とし、小さい側を大きい側に対して「下」とする。このようなz軸の上下は、重力に従うものではなく、振動発電ユニット100は、振動発電素子1が上、下のいずれに向かうようにも取り付けられ得る。以下、振動発電ユニット100を構成する取付体3、振動体2、振動発電素子1の各構成について説明する。
【0016】
(取付体)
図2に示すように、取付体3は、取付部31と、取付部31の上面に互いに間隔をもって設けられる二つの支持体32と、支持体32の少なくとも一方と接触するように形成される振動伝達部34と、を有している。取付部31は、支持体32が接着等固定されることなく載置される面である。振動伝達部34は、図示しない振動源と接続するための孔Hを有し、孔Hには振動源の振動により振動する部材が挿入される。振動源は、例えば、設備のモータ等の振動を利用してもよいし、自動車や電車の走行によって生じる振動や人が歩行する際に生じる振動を利用してもよい。
【0017】
図2に示すように、振動伝達部34の側の支持体32は、他方の支持体32が取付部31上に取り付けられているのに対し、振動伝達部34から取付部31にわたって取り付けられている。このような構成により、支持体32は、振動伝達部34により直接振動する。後述するように、支持体32には振動体2が取り付けられ、振動発電素子1は振動体2に接触する。支持体32は振動伝達部34、振動体2と直接接触し、振動伝達部34に加わる振動を振動体2及び振動発電素子1に効率的に伝えることができる。
【0018】
(振動体)
図3(a)は、
図2に示した振動体2の上面図である。
図3(b)は、振動体2をy方向に向かって見た側面図であり、
図3(c)は、振動体2をx方向に向かって見た側面図である。振動体2は、振動発電素子1と接続され、振動源の振動により少なくとも平面方向に振動すると共に、振動を振動発電素子1に伝える構成である。
図1、
図2から明らかなように、振動体2は、振動発素子1を固定する固定部である固定板24と、振動源から固定板24に振動を伝える弾性体である四つの板バネ21と、を有している。また、本実施形態の振動体2は、板バネ21と固定板24とを接続するための枠体23を有している。すなわち、枠体23は、固定板24の周辺に沿って設けられている。四つの板バネ21は、それぞれ枠体23の対向する二辺の両端部に沿って、互いに間隔を空けて取り付けられている。このような構成により、4つの板バネ21は、いずれも独立に振動することができる。
【0019】
また、枠体23は、
図2、
図3(a)、
図3(c)のように、四辺のうちの対向する一組の辺において切欠き部23a有している。このような構成により、切欠き部23aを挟んで設けられる二対の板バネ21は、切欠き部23aを挟んで対向する板バネ21の振動の影響を受けることなく振動することができる。さらに、本実施形態は、任意の大きさの切欠き部23aを設けることにより、振動体2の質量を容易の調整することができる。
【0020】
図1、
図2から明らかなように、板バネ21は、一方の端部が枠体23を介して固定板24に接続され、他方の端部が支持体32及び振動伝達部34を介して振動源に接続されている。さらに、板バネ21は、一方の端部214aと他方の端部214bとの間において、一方の端部214aの側から他方の端部214bの側に向かう方向が変化する、所謂戻りバネである。すなわち、板バネ21の延出方向は、
図3(a)等から明らかなように、一方の端部214aから固定板24よりも外側に向かい、反転し、さらに変化して端部214bに向かっている。本実施形態では、板バネ21のうち、外側に向かって延出する部分を第1延出部211、延出方向が反転する部分を第2延出部212、第1延出部211と第2延出部212との間にあって延出方向が変わる箇所を曲部213とする。
【0021】
振動体2は、例えば、ステンレス鋼、ニッケル合金及びチタン合金、あるいはこれらを混合、または組み合わせて形成される。振動体2と取付体3、さらに振動発電素子1は、互いにねじ止めにより接続され、それぞれがねじ止めのための孔hを複数有している。
【0022】
戻りバネである板バネ21は、第1延出部211と第2延出部212とが互いに近づく、または遠ざかるように撓み、固定板24は、±x方向に振動する。この際、板バネ21は、一定の幅及び厚みを有することによってコイルバネ等よりも高い剛性を有し、y方向に変位し難い。また、端部214aを中心にしたモーメントがかかっても捻じれ難く、固定板24は、仮想的な平面上をおおよそx方向にのみ振動するようになる。なお、ここで、仮想的な平面は、取付部31の上面と平行な平面である。
【0023】
また、4つの板バネ21は、いずれも端部214aの全体が固定板24の側面と重なり、固定板24を四方から安定して保持することができる。そして、振動発電素子1は、板バネ21によって支持されている領域に重なる固定板24の範囲内に重心が位置するように配置されている。このような構成は、後述する振動発電ユニットの設計において予期されないモーメント等が発生することをなくし、設計通りの機能を有する振動発電ユニットを構成することに寄与する。
【0024】
(振動発電素子)
図1、
図2に示すように、振動発電素子1は、発電する機構である発電部4(
図4)を封止するパッケージ11と、パッケージ11を固定するステージ13と、発電部4が発電した電力を取り出すコネクタ12と、を有している。ステージ13は、発電部4よりも固定板24に向かう面の面積が大きくなっている。ステージ13の形状は、固定板24に略一致し、その面積がわずかに小さいことが好ましい。このようにすれば、パッケージ11で封止された発電部4をステージ13に固定した後、枠体23に図示しないネジによりネジ止めし、振動体2に対して発電部4を容易に位置合わせすることができる。
【0025】
図4は、振動発電素子1の発電部4の斜視図である。
図5は、
図4に示す発電部4の上面図であって、発電部4の振動の状態を示す図である。振動発電素子1の発電部4は、ベース部40と、ベース部40上に固定されている可動電極41及び二つの固定電極42と、を有している。可動電極41は、複数の可動電極部415と、複数の可動電極部415の基軸411と、基軸411と交差する板体412と、板体412を挟んで両側に設けられるバネ413と、可動電極41をベース部40に固定する固定部414と、を有している。本実施形態の複数の可動電極部415は、延出方向(
図5中のx方向)と交差する方向(y方向)に複数配置されて櫛歯電極を構成する。本明細書においては、複数の可動電極部415の群を「可動櫛歯電極」とも記す。このような発電部4は、シリコン及び酸化ケイ素を含むSOI(Silicon On Insulator)基板を加工して形成される。
【0026】
バネ413は、基軸411と平行な二つのバネ部413a、413b、413c、413dを含む。バネ部413a、413bは間隙を隔てて対向配置されていて、バネ部413a、413bの両端部はそれぞれバネ部413c、413dによって接続されている。
【0027】
固定電極42は、可動電極41の両側にそれぞれ一つずつ設けられている。二つの固定電極42は、互いに線対称に配置され、複数の固定電極部425と、複数の固定電極部425の基軸421と、固定電極42をベース部40に固定する固定部424と、を有している。複数の固定電極部425は、延出方向(
図5中のx方向)と交差する方向(y方向)に複数配置されて櫛歯電極を構成する。本明細書においては、複数の固定電極部425の群を「固定櫛歯電極」とも記す。固定部424は、基軸421の両端部に接続する略枠形状を有して基軸421の両端を支持している。上記構成により、振動発電素子4は、可動櫛歯電極と固定櫛歯電極とが延出方向に一部重なって、かつ互いに対向して配置されるようになる。このような振動発電素子1の発電部4は、一方向に延出する固定電極部425と、固定電極部425に対向し、かつ一平面上で振動する可動電極部415と、を備え、固定電極部425と可動電極部415とが相対的に振動することによって発電する。
【0028】
図5に示すように、本実施の発電部4は、x方向に振動を加えた場合、バネ413のバネ部413a、バネ部413bは、バネ部413c、バネ部413dによって互いに隔てられながら-x、+x方向に撓み、バネ413に連なる板体412及び基軸411が-x、+x方向に振動する。基軸411の振動と共に複数の可動電極部415が-x、+x方向に振動する。一方、固定電極42は、固定部424がベース部40に固定されていて、固定部424に続く固定櫛歯電極も固定されている。このような構成により、振動発電素子4においては、可動櫛歯電極と固定櫛歯電極とが相対的に対向しながらx方向に振動する。二つのバネ413は、いずれも固定部414によってベース部40に固定され、間の基軸411及び板体412によって支持されている。このため、x軸を中心にした回転方向の力を受けることがなく、x軸に平行な平面上を振動する。
【0029】
ただし、振動発電素子1は、固定櫛歯電極と可動櫛歯電極とが平面上で振動するものであればよく、可動電極部415がその延出方向に振動する構成に限定されない。例えば、可動電極部415は、固定櫛歯電極の間を基軸411の長手方向、すなわち延出方向に直交する方向に振動するものであってもよい。
【0030】
固定電極部425及び可動電極部415の少なくとも一方は、エレクトレット化されている。ここで、エレクトレットとは、永久電荷を保持する物質を指し、「エレクトレット化されている」とは、可動電極部415及び固定電極部425の少なくとも一方の表面にエレクトレット層が形成されていることをいう。
図6(a)、
図6(b)は、可動電極部415と、固定電極部425の模式図であって、エレクトレットについて説明するための図である。本実施形態の振動発電素子1においては、固定電極部425、可動電極部415が、互いに対向する部分の表面に、SiO
2(二酸化ケイ素)でなる酸化膜425a、415aをそれぞれ備えていて、このうちの固定電極部425の側の酸化膜だけが負電荷を固定するエレクトレット層になっている。負電荷の固定は、例えば、特開2014-049557号公報に記載されているような酸化膜中にドープしたイオンを高温中で移動させるB-T法(Bias-Temperature Treatment)によって実現できる。
図6(a)に示す例では、固定電極部425の表面に負電荷が固定された酸化膜425aが形成されている。可動電極部415には、酸化膜425aに固定された負電荷に誘導されたシリコン(ケイ素)中の正電荷が誘導電荷として移動する。図中の矢印は電気力線を示している。
【0031】
酸化膜425a中の負電荷は、常温で移動することがなく、酸化膜425a中の、シリコンと酸化膜との境界の近傍に留まっているが、負電荷と境界との距離は酸化膜厚に比べて充分小さい。酸化膜425aの電荷密度をσ1とすると、電荷密度σ1と可動電極部415、固定電極部425との電位差V1とにより可動電極部415の界面に電荷密度σ2の誘導電荷が生じる。電荷の中性条件により、固定電極部425には電荷密度-σ1-σ2の誘導電荷が誘起される。発電部4においては、誘導電荷が取り出されることによって発電電力を得ている。
【0032】
図6(b)は、
図6(a)に示す固定電極部425、可動電極部415間に生じる帯電電圧V
0を算出する式を導出するモデルを示す図である。
図6(b)に示すモデルは、固定電極部425と、酸化膜425aと、可動電極部415と、を含んでいる。ここで、g1は酸化膜425a中に固定された負電荷と、固定電極部425に誘導された誘導電荷との距離である。距離g2は、固定された負電荷と可動電極部415に誘起された誘導電荷との距離である。g1、g2、及び負電荷の電荷密度σ1との間には、以下の式が成立する。
V
0=-g1・σ1/ε
0
なお、上記式の関係においては、酸化膜425a及び415aの誘電率は無視している。発電部4において取り出される発電量は、帯電電圧V
0が大きくなるにしたがって大きくなる。
【0033】
以上説明した構成の振動発電ユニット100によれば、可動櫛歯電極と固定櫛歯電極とが平面上で振動するため、この平面に交差する方向のスペースを確保する必要がなく、薄型化に有利な振動発電ユニットを実現することができる。また、水平面上を振動する振動発電ユニット100は、鉛直方向に振動する構成に対し、取付体3と振動体2との干渉が少なく、また、取付体3の振動方向に対する機械的な剛性を高めることができる。
【0034】
図7は、以上説明した振動発電ユニット100において、振動発電素子1と振動体2との質量比(m
1/m
2)を変えながら、その振幅を計算した結果を示すグラフである。
図7中の縦軸は振動発電ユニット100の振幅を、横軸は振幅に対応する周波数を示している。
図7中に示す特性c1からc5は、特性c1、c2、c3、c4、c5の順に質量比が大きい、すなわち振動発電素子1の質量m
1に対する振動体2の質量m
2が小さい二質点振動系のものである。
図7によれば、二質点振動系の振動発電ユニット100においては、振幅の二つのピークが現れることが分かる。二つのピークの間には、振動体2と接続されていない状態の振動発電素子1の固有振動数(以下、「発電固有振動数」とも記す)が存在する。つまり、本実施形態の振動発電ユニット100の振幅に比例する発電量は、発電固有振動数よりも小さい第1周波数と、発電固有振動数よりも大きい第2周波数と、を有し、第1周波数において第1ピークを持つと共に、第2周波数において第2ピークを持ち、第1周波数と第2周波数との間で下に凸の変曲点を有する。
【0035】
また、
図7によれば、振動発電素子1、振動体2の質量比を調整することによって第1ピーク及び第2ピークが現れる周波数の範囲(以下、「ピーク間隔」とも記す)が変化し、この変化は、振動発電素子1、振動体2の質量比が大きいほど広く、小さいほど狭くなるように起こることが分かる。さらに、
図7によれば、第1ピーク及び第2ピークは、振動発電素子1、振動体2の質量比が大きいほど小さく、小さいほど大きくなることが分かる。本実施形態は、このような現象を用い、第1ピークと第2ピークとのピーク間隔と、この範囲において最も小さい発電量(振幅)とを正確に得られる振動発電ユニットの設計方法及びプログラムを得る。そして、所望の周波数帯において所望の発電量を安定に得ることができる振動発電ユニットを構成する。
【0036】
[振動発電ユニットの設計方法(プログラム)]
次に、以上説明した二質点振動系の振動発電ユニット100の発電量と、この発電量が得られる周波数範囲との関係を求めることについて説明する。
図8(a)、
図8(b)は、本実施形態の振動発電ユニットの設計方法において用いた振動系のモデルを示す図である。
図8(a)は振動発電素子1を振動体2に取り付けることなく振動させた場合の一質点振動系を示し、
図8(b)は、振動発電素子1と、振動体2とにより構成される二質点振動系を示す。本実施形態は、後述するように、
図8(a)に示す一質点振動系により
図8(b)の二質点振動系を規格化している。
図8(a)、
図8(b)において、位置の原点となる位置基準面を70、振動の基準となる振動基準面を71として示す。m
1は振動発電素子1の質量、m
2は振動体2の質量、k
1は振動発電素子1の振動のバネ係数、k
2は振動体2の振動のバネ係数、c
1は振動発電素子1の総合的な減衰係数であり、機械的な減衰係数c
mと電気的な減衰係数c
eとの和によって表される。c
2は振動体2の機械的な減衰係数である。なお、質量m
1は振動発電素子1のパッケージ11やステージ13をも含めた全体の質量である。質量m
2は、振動発電ユニット100から振動発電素子1を除いた全体の質量である。
【0037】
なお、以上説明した振動モデルにおいては、振動発電ユニット100の振動発電素子1以外の部分の質量が偏ると、設計上で考慮していないモーメントが発生して振動モデルが力学モデルから逸脱し、設計理論から外れた(多くの場合劣化した)振動発電特性を有するようになる。
図9は、この点を説明するための模式図である。ここで、振動発電素子1の質量から固定部414を除く可動電極41の質量を除外した部分を錘2aとし、錘2aを固定する振動体2の部分を「フレーム」とし、この質量(主に固定板24の部分)を錘2bとする。振動体の質量をm
2、錘2aの質量をm
f、錘2b(主に固定板24の部分)の質量をm´
2とすると、m
2=m´
2+m
fの関係が成立する。このような構成において、錘2aと錘2bに振動発電素子全体の質量から固定部414を除く可動電極41の質量を除外した部分とを含めた部分の重心が板バネ21で支えている領域外にある場合、上記のモーメントが発生する。そこで、本実施形態は、振動体2の重心が四つの板バネ21によって支えられている領域内におさまるように、より望ましくは振動発電素子1の重心が振動体2の幾何学的な中心に一致するように固定板24の形状を設計している。なお、このような点は、振動体2が、その幾何学的な中心を通る平面に対して対称な構造を有していることが前提となる。以下、
図8(a)、
図8(b)及び
図9の振動系のモデルを使い、本発明の一実施形態の二質点振動系の振動発電ユニット100の設計における広帯域化と発電量の増加率を説明する。
【0038】
図10は、本実施形態の振動発電ユニットの設計方法を説明するための図である。
図10において、横軸は規格化周波数ηを示し、ηはη=ω/Ωで表される。ここで、ωは周波数(振動数)、Ωは対象とする振動系の固有振動数である。縦軸は規格化発電量を示し、pはp=P/P
η=1で表される。ここで、Pは発電量、P
η=1はη=1のときの振動発電素子1の発電量であり、本実施形態の第0ピークの発電量に相当する。
【0039】
(ピーク間隔Δη
2pについて)
図10において、Δη
2pは発電量の2つのピーク(第1ピーク及び第2ピーク)の間の周波数の範囲(以下、「ピーク間隔」とも記す)を示し、規格化発電量の特性は、ピーク間で下に凸の変曲点を有している。すなわち、本実施形態の振動発電ユニット100は、広い周波数の範囲で大きな発電量を実現でき、ピーク間隔Δη
2pはその広帯域化の指標を示している。このピーク間隔Δη
2pは次のように求めることができる。
振動発電素子1と本実施形態の振動発電ユニットの規格化発電量となるp
1DOFとp
2DOFは、次の式(1a)、式(1b)で表される。
【0040】
【0041】
また、μは質量比で、μ=m1/m2、νは振動発電素子1の発電固有振動数Ω1と、振動体2の振動固有振動数Ω2との比で、ν=Ω1/Ω2で表される。ζ1は振動体2と接続されていない一質点振動系であるときの振動発電素子1の減衰係数、ζ2は振動発電素子1と接続されていない一質点振動系であるときの振動体2の減衰係数である。
【0042】
上記の式(1a)、(1b)を、ν=1、ζ2=0の条件でη2により微分し、発電量のピーク(極大値)に対する周波数ηを求めると、有意な解としてη2、η4が求められ、ピーク間隔Δη2pは、以下の式(2)によって表すことができる。
Δη2p=η4-η2 ・・・式(2)
【0043】
(発電量増加率αについて)
図10において、発電量増加率αは、η=1における規格化発電量p
2DOF(発電量の極小点)の、一質点振動系の規格化発電量(
図8において波線で示される)のη=1における値p
1DOFに対する比(増加率)であり、次式(3)によって、
α=p
2DOF/p
1DOF ・・・式(3)
と表すことができる。詳しくは、p
2DOFは、上記の式(1a)、式(1b)でη=1としたときの値であり、p
1DOFは、
図8(a)に示す一質点振動系におけるη=1のときの発電量である。
ここで、式(3)をν=1として質量比μについて解くと、以下の式(4)を得る。ただし、式(4)中のΛは、式(5)によって与えられる。
【0044】
【0045】
(広帯域化利得βについて)
広帯域化利得βは、上述したピーク間隔Δη
2pの、一質点振動系における発電量に対する周波数の半値幅Δη
1DOFに対する比として求めることができる。すなわち、
図10に示す半値幅Δη
1DOFは、一質点振動系においてη=1での発電量の1/2となる2つの周波数の間の距離として表される。このとき、利得βは、
β=Δη
2p/Δη
1DOF ・・・式(7)
で表される。式(7)は、ν=1、ζ
1<<1とすることによって式(8)のように表される。
【0046】
【0047】
ここで、二質点振動系におけるピーク間隔を求めるため、dp2DOF/dη2=0として、ν=1、減衰係数ζ2=0として四次方程式を解くことにより、η2、η4の周波数で現れる第1ピークと第2ピークとのピーク間隔Δη2pが求められる。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
以上説明したピーク間隔Δη2pは、上述したように広帯域化の指標であり、この値が大きいほど、より広い範囲の振動数で大きな発電量を実現することができる。また、発電量増加率αは、ピーク間隔Δη2pの範囲で実現される発電量の最小値を示しており、この値が大きいほど、広帯域化された振動数の範囲でより大きな発電量を実現することができる。
本実施形態に係る振動発電ユニットは、例えば、周波数が3000Hz以下、加速度が1G以下の振動源から比較的大きな発電量(例えば、500μW)を得ることができる。本実施形態の振動発電ユニットは、比較的高い品質係数(以下、Q値とも言う)の振動系を実現し、この高いQ値の範囲で定められた上記ピーク間隔Δη2p及び増加率αを有するものとして実現する。
【0052】
図11は、式(11)の関係を、振動発電素子1の減衰比ζ
1及びQ値をパラメータとして表した図である。
図11に示すQ値の範囲は、50~1000であり、この範囲に対応する減衰比ζ
1は、ζ
1=0.01~0.0005である。
図11には、ζ
1とQ値の組(ζ
1、Q
1)である、(ζ
1、Q
1)=(0.01、50)、(0.005、100)、(0.0025、200)、(0.001、500)、(0.0005、1000)の5組のパラメータについて、ピーク間隔Δη
2pと増加率αとの関係が示されている。これらのグラフに示すように、Q値を高くするほど、つまり減衰比ζ
1を小さくするほど、同じ増加率αに対してピーク間隔Δη
2pは小さくなる。
【0053】
(振動発電ユニットの設計)
振動発電ユニットの設計では、
図11に関して説明した関係に基づき、例えば、本実施形態の振動発電ユニットを用いる環境に適応した、ピーク間隔Δη
2pと増加率αを決定することができる。そして、上記決定したピーク間隔Δη
2p及び増加率αに対応する品質係数Q
1を有するものとして、振動発電ユニットの構造を定める。例えば、
図11に示す5つの組で示すような、品質係数Q
1に対応した減衰比ζ
1を有するよう発電振動体の構造を定める場合、本実施形態の振動発電ユニットは、上述したようにエレクトレット方式の発電振動体部を櫛歯状にした構成において、ζ
1=0.0005~0.01の範囲の減衰比ζ
1となるように構造を定める。
【0054】
図11に示すQ
1、ζ
1を例にして本実施形態の振動発電ユニットの振動発電素子1の質量m
1及び振動体2の質量m
2を定める場合、振動発電ユニットの減衰比がζ
1=0.01~0.0005の範囲にあることに対応して振動発電素子1の質量m
1と振動体2の質量m
2との比が次の範囲の値として定まる。
μ=m
1/m
2とするとき、次の式(12)が成立する。
【0055】
【0056】
式(12)の関係から、例えば、α=1.5としたときのζ1=0.0005~0.01の範囲に対応する質量比m1/m2の範囲は、m1/m2=0.0008~0.016となる。このように、上述した設計値として定められるピーク間隔Δη2p及び増加率αに応じて、発電振動体の減衰比がζ1=0.01~0.0005の範囲を満たすように、質量比m1/m2の値を定めることができる。
【0057】
上記の関係から、本発明の発明者らは、発電増加率αの最小値を1.5、最大値を100とし、振動発電素子1の減衰比の最小値を0.0005、最大値を0.01として質量比m1/m2の範囲を求めたところ、0.0001以上、0.008以下の値を得た。ただし、本実施形態の発電ユニットは、このような減衰比、発電増加率及び質量比に限定されるものではない。振動発電ユニット100に適正な減衰比、発電増加率及び質量比は、振動発電ユニットの用途や適用される環境及び振動源、さらには振動源の振動の周波数の範囲等により相違する。
【0058】
以上説明した振動発電ユニットの設計方法に用いられるモデルでは、発電固有振動数Ω
1と、振動固有振動数Ω
2が等しくてもよいし、異なっていてもよい。ただし、振動発電ユニットのピーク間隔における最小の発電量、すなわちピーク間の下に凸の変曲点における発電量の特性は、振動固有振動数、発電固有振動数Ω
1、Ω
2の相違が大きくなるにしたがって変化する。
図12は、この点を説明するためのグラフである。
図12のグラフの横軸は
図8(a)に示す一質点振動系モデルによって規格化された、
図8(b)に示す二質点振動系モデルの規格化周波数、縦軸は規格化周波数に対応する規格化発電量を示す。
図12中の特性c6からc11のうち、特性c11は振動発電素子1だけの一質点振動系のものであり、c8は、発電固有振動数と振動固有振動数とが略一致する二質点振動系のものである。発電固有振動数Ω
1と振動固有振動数Ω
2との比を振動数比Ω
1/Ω
2とし、振動数比Ω
1/Ω
2は、式(13)によって表される。
【0059】
【0060】
特性c6は、振動発電素子1と振動体2との振動数比が1/(1+μ/√2)よりも√μ/2だけ小さい場合のものである。特性c7は振動数比が1/(1+μ/√2)よりも√μ/4だけ小さい場合のものである。特性c9は、振動数比が1/(1+μ/√2)よりも√μ/4だけ大きい場合のものである。特性c10は、振動数比が1/(1+μ/√2)よりも√μ/2だけ大きい場合のものである。なお、
図12に示す特性c6から特性c10は、いずれもζ=0.001、α=1、μ=0.002として計算されている。
【0061】
本発明の発明者らは、
図12に示すように、振動数比が1/(1+μ/√2)と相違することによってピークが現れる周波数がシフトし、シフトによって発電量、及び発電量が最小値をとる周波数が変化することに着目した。そして、振動数比のずれに起因する発電電力の減少を15%まで許容するものとし、振動数比を上記の式(13)の範囲とすることを設計条件の一つとする。
【0062】
また、本実施形態の振動発電ユニット設計方法は、以上説明したように、式(6)、式(8)及び式(12)を使い、所望の発電増加率やピーク間隔に対応する質量比を得ることが可能である。また、本実施形態は、反対に、振動発電ユニットの振動発電素子1と振動体2との質量比を先に決定し、このような振動素子1と振動体2とによって構成される振動発電ユニットの発電増加率やピーク間隔を予測することができる。すなわち、本実施形態の振動発電ユニットの設計方法によれば、振動発電素子1の質量及び振動体2の質量の少なくとも一方に関する質量情報、振動発電ユニットの第1ピーク、第2ピークを含む周波数範囲に関する周波数情報、及び周波数範囲において振動発電ユニットが発電する発電量に関する発電情報の少なくとも一つの入力を受け付けて、このような情報のうちの入力が受け付けられた情報に基づいて、入力されなかった質量情報、周波数情報、発電情報の少なくとも一つを出力することができる。
【0063】
また、本実施形態は、上記の振動発電ユニットの設計をコンピュータによって行うことができ、上記方法を実行するための振動発電ユニット設計用プログラムを構築することができる。このようなプログラムは、上記の質量情報、周波数情報、発電情報のうちの少なくとも一つの入力を受け付ける機能と、入力がなされた情報に基づいて、入力がなされなかった情報を算出する機能と、算出の結果を出力する機能を含む。入力を受け付ける機能は、例えば、キーボードや音声入力装置、ディスプレイ画面、タッチペン等のユーザインターフェース及びこれらのハードウェアを制御するCPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)によって構成される。また、情報を算出する機能は、演算処理を実行するCPU、処理に使用されるデータや入力されたデータを一時的または非一時的に記憶する記憶部、演算に使用されるワーキングメモリ等によって構成される。さらに、出力する機能は、例えば、音声入力装置、ディスプレイ画面、プリンタ及びこれらを制御するCPUやGPUによって構成される。
【0064】
また、このような振動発電ユニット設計用プログラムは、周波数情報として、例えば
図10、あるいは
図11に示すピーク間隔を入力、または出力してもよい。ピーク間隔は、
図8(b)のモデルで示す二質点振動系が二つの周波数においてそれぞれピークを持ち、このピークの間の周波数の範囲で表される。また、振動発電ユニット設計用プログラムは、周波数情報として、式(8)に示す広帯域化利得βを入力、または出力するようにしてもよい。さらに、振動発電ユニット設計用プログラムは、発電情報として、式(6)に示す発電量増加率αを入力、または出力するようにしてもよい。
【0065】
(1)以上説明した振動発電ユニット100は、一方向に延出する固定電極部425と、固定電極部425に対向し、かつ一平面上で振動する可動電極部415と、を備え、固定電極部425と可動電極部415とが相対的に振動することによって発電する振動発電素子1と、振動発電素子1と接続され、振動源の振動により少なくとも平面方向に振動すると共に、振動を振動発電素子1に伝える振動体2と、を備える。このような構成により、振動発電ユニット100は、可動電極部と固定電極部とが互いに一平面上で振動し、この平面に対する鉛直方向に振動するためのスペースを確保する必要がなく、薄型化することに有利である。
【0066】
(2) (1)において、固定電極部425は、延出方向と交差する方向に複数配置されて固定櫛歯電極を構成し、可動電極部415は、延出方向と交差する方向に複数配置されて可動櫛歯電極を構成する。このような構成により、振動発電ユニット100は、複数の固定電極部425と可動電極部415とを多数かつ高密度に対向、配置させて大きな発電量を得ることができる。
【0067】
(3) (1)または(2)において、固定電極部及び可動電極部の少なくとも一方は、エレクトレット化されている。このように構成することにより、エレクトレット材料に静電気を長期間にわたって安定に保持し、固定電極部425と可動電極部415との間の発電を安定化することができる。
【0068】
(4) (1)から(3)において、振動発電体により発電される発電量は、振動体に接続されていないときの一質点振動系における振動発電体の固有振動数よりも小さい第1周波数において第1ピークを持つと共に、固有振動数よりも大きい第2周波数において第2ピークを持ち、第1周波数と第2周波数との間で下に凸の変曲点を有する。このように構成することにより、第1ピークと第2ピークとのピーク間隔において電力が得られるようになり、電力が得られる周波数の範囲を大きくすることができる。
【0069】
(5) (1)から(4)において、振動体2は、振動発電素子1を固定する固定板24と、振動源から固定板24に振動を伝える板バネ21と、を有し、板バネ21は、固定電極部425の延出の方向に弾性変形する。このような構成により、固定板24は主に板バネ21が弾性変形する方向に振動し、可動電極部415と固定電極部425とが一定の間隔を保ちながら対向して振動する。このため、可動電極部415と固定電極部425との間の電位が安定し、可動電極41と固定電極42とによって行われる発電を安定させることができる。
【0070】
(6) (5)において、板バネ21は、一方の端部214aが固定板24に接続され、他方の端部214bが振動源に接続されて、かつ一方の端部214aと他方の端部214bとの間において、一方の端部214aの側から他方の端部214bの側に向かう方向が変化する。このような構成により、板バネ21の弾性力を維持しながら、板バネ21が外部に向かって張り出す長さを短くし、振動発電ユニットを小型化することに有利な構成とすることができる。
【0071】
(7) (4)において、第1ピークと第2ピークとの間の周波数の範囲であるピーク間幅、及び変曲点における発電量を一質点振動系の振動発電素子1が固有振動数において発電する発電量で規格化した増加率は、振動発電素子1の減衰比を0.0005~0.01の範囲とした値を有する。このように構成することにより、特に小加速度の振動源に適切に対応して効率よく高い発電量を得ることができる。また、減衰比が小さい、すなわちQ値が大きい振動系に即してピーク間隔や発電量の増加率を求めることができる。
【0072】
(8) (4)において、第1ピークと第2ピークとの間の周波数の範囲であるピーク間幅、及び変曲点における発電量を一質点振動系の振動発電素子1が固有振動数において発電する発電量で規格化した増加率は、振動発電体と振動体の質量比を0.0001~0.008の範囲とした場合の値を有する。このように構成することにより、特に小加速度の振動源に適切に対応して効率よく高い発電量を得ることができる。また、減衰比が小さい、すなわちQ値が大きい振動系に即して振動発電素子1と振動体2との質量比を求めることができる。
【0073】
(9) (1)から(8)において、振動体2を構成するフレーム内に振動発電素子1が配置される。このように構成することにより、振動発電ユニット100において質量の傾きが発生することを防ぎ、設計上予測されないモーメントの発生を防いで振動発電ユニット100を適正に設計することができる。
【0074】
(10) 一方向に延出する固定電極部と、固定電極部に対向し、かつ一平面上で振動する可動電極部と、を備え、固定電極部と可動電極部とが相対的に振動することによって発電する振動発電体と、振動発電体と接続され、振動源の振動により少なくとも平面方向に振動すると共に、振動を振動発電体に伝える振動体と、を備える振動発電ユニットを設計するための振動発電ユニットの設計方法であって、振動発電体の質量及び振動体の質量の少なくとも一方に関する質量情報、振動発電ユニットが発電量のピークを持つ周波数範囲に関する周波数情報、及び周波数範囲において振動発電ユニットが発電する発電量に関する発電情報の少なくとも一つの入力を受け付ける工程と、質量情報、周波数情報、発電情報のうち、入力を受け付ける工程において入力が受け付けられた情報に基づいて、入力されなかった質量情報、周波数情報、発電情報の少なくとも一つを出力する工程と、を含む。このように構成することにより、振動発電ユニットに関する質量情報、周波数情報、及び発電情報の少なくとも一つを入力し、入力されなかった質量情報、周波数情報、及び発電情報の少なくとも一つを求めることができる。このため、所望の周波数の範囲において所望の発電量が得られる振動発電ユニットを設計することができる。
【0075】
(11) (10)において、振動発電ユニットは、周波数範囲において発電量の二つのピークを有し、周波数情報は二つのピークの間の周波数の範囲に関する情報を含む。このような構成により、二つのピークの間の周波数範囲を所望の発電量が得られる周波数の範囲として得ることができる。
【0076】
(12) (11)において、振動発電ユニット100は、二つのピークの間で下に凸の変曲点を持ち、周波数情報は、振動体に接続されていないときの一質点振動系における振動発電体の固有振動数において生じる第0ピークに対応する周波数範囲であるΔη1と、二つのピークの間の周波数の範囲であるピーク間隔Δη2pとの比であるβを含み、βは、第0ピークに対する変曲点の割合であるα、振動発電体の減衰比であるζ1との間に式(8)の関係がある。このように構成することにより、周波数の広帯域化の指標と発電量の増加率の指標との関係とを求め、互いにトレードオフの関係にある両者を調整し、所望の振動発電ユニットを設計することができる。
【0077】
(13) (12)において、αは、振動発電体の質量m1と振動体m2の質量との比m1/m2である質量比μと、振動発電体の減衰比であるζ1との間に、式(6)の関係を有する。このように構成することにより、所望の発電量を得られるように振動発電ユニットの振動発電素子1に対する振動体2の質量を決定することができる。また、反対に、振動発電素子1及び振動体2の仕様から、振動発電ユニットの発電量を予測することができる。
【0078】
(14) (12)または(13)において、発電情報は、前記変曲点における発電量に関する情報を含む。このように構成することにより、ピーク間隔において最小の発電量を求め、所望の発電量が、この発電量を下回らないように振動発電ユニットを設計することができる。
【0079】
(15) (12)から(14)において、振動体2に接続されていないときの一質点振動系における振動発電体の固有振動数Ω1と、振動発電素子1と接続されていないときの一質点振動系における振動体2の固有振動数Ω2とは、振動発電素子1の質量m1と振動体2の質量m2との比m1/m2である質量比μとの間に式(13)の関係を有する。このように構成することにより、それぞれの固有振動数を考慮して所望の振動発電ユニットを構成する振動発電素子1と振動体2を選択あるいは設計することができる。
【0080】
(16) 以上説明した振動発電ユニット用設計プログラムは、一方向に延出する固定電極部と、固定電極部に対向し、かつ一平面上で振動する可動電極部と、を備え、固定電極部と可動電極部とが相対的に振動することによって発電する振動発電体と、振動発電体と接続され、振動源の振動により少なくとも平面方向に振動すると共に、振動を振動発電体に伝える振動体と、を備える振動発電ユニットを設計するための振動発電ユニット用設計プログラムであって、振動発電体の質量及び振動体の質量の少なくとも一方に関する質量情報、振動発電ユニットが発電量のピークを持つ周波数範囲に関する周波数情報、及び周波数範囲において振動発電ユニットが発電する発電量に関する発電情報の少なくとも一つの入力を受け付ける機能と、質量情報、周波数情報、発電情報のうち、入力を受け付ける機能により入力が受け付けられた情報に基づいて、入力されなかった質量情報、周波数情報、発電情報の少なくとも一つを出力する機能と、を含む。このように構成することにより、振動発電ユニットに関する質量情報、周波数情報、及び発電情報の少なくとも一つを入力し、入力されなかった質量情報、周波数情報、及び発電情報の少なくとも一つを求めることができる。このため、所望の周波数の範囲において所望の発電量が得られる振動発電ユニットを、コンピュータプログラムを使って設計することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 振動発電素子
2 振動体
3 取付体
4 発電部
11 パッケージ
13 ステージ
21 板バネ
23 枠体
23a 切欠き部
24 固定板
31 取付部
32 支持体
34 振動伝達部
40 ベース部
41 可動電極
42 固定電極
100 振動発電ユニット
211 第1延出部
212 延出方向が反転する部分を第2延出部
213 曲部
214a,214b 端部
411,421 基軸
412 板体
413 バネ
413a,413b,413c,413d バネ部
414,424 固定部
415 可動電極部
415a,425a 酸化膜
425 固定電極部