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特開2022-189468離型剤、それを用いた積層体及び成形体、並びに積層体及び成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189468
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】離型剤、それを用いた積層体及び成形体、並びに積層体及び成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/60 20060101AFI20221215BHJP
   B29C 33/58 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
B29C33/60
B29C33/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098059
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 寛啓
(72)【発明者】
【氏名】河野 雄太
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202AA24
4F202AA33
4F202AA49
4F202AB10
4F202AC05
4F202AD20
4F202CA09
4F202CA30
4F202CB01
4F202CM42
4F202CM46
4F202CM64
4F202CM82
4F202CN01
(57)【要約】
【課題】離型性に優れた離型剤を提供する。
【解決手段】離型剤は、シリコーンとワックスとを含む水分散液を含有し、前記水分散液中の水の蒸発除去により、前記シリコーンを主成分とする層と、前記ワックスを主成分とする層とに分離することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンとワックスとを含む水分散液を含有し、
前記水分散液中の水の蒸発除去により、前記シリコーンを主成分とする層と、前記ワックスを主成分とする層とに分離することを特徴とする、離型剤。
【請求項2】
金型を用いた成形体の製造に使用され、
前記シリコーンを主成分とする層が前記金型に、
前記ワックスを主成分とする層が前記成形体に、
夫々被着する、請求項1に記載の離型剤。
【請求項3】
前記シリコーンと前記ワックスとの固形分の含有比が質量比(シリコーン/ワックス)で1.0以上4.5以下である、請求項1又は請求項2に記載の離型剤。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の離型剤を金型に塗布し、
前記金型を加熱することにより前記離型剤から水を蒸発除去し、
前記金型に成形体原料を設置し、
前記成形体原料が硬化した成形体を前記金型から取り出す、
成形体の製造方法。
【請求項5】
ワックスを主成分とする層と被着した成形体であって、
前記ワックスを主成分とする層と、シリコーンを主成分とする層とが積層されてなる離型膜からの前記シリコーンを主成分とする層の剥離により、前記ワックスを主成分とする層のみが接着される、成形体。
【請求項6】
金型内で作成される離型膜と成形体との積層体であって、
前記離型膜は、前記金型に被着する側に形成されるシリコーンを主成分とする層と、前記成形体に被着する側に形成されるワックスを主成分とする層とを有することを特徴とする、積層体。
【請求項7】
製造工程(1)~(4)を含むことを特徴とする、積層体の製造方法:
(1)シリコーンとワックスとを含む水分散液を含有する離型剤を金型に塗布する工程、
(2)前記金型を加熱し前記離型剤から水を蒸発除去させることにより、前記金型にシリコーンを主成分とする層とワックスを主成分とする層とに分離した離型膜を積層させる工程、
(3)前記離型膜を有する前記金型に成形体原料を設置する工程、
(4)前記成形体原料を硬化させることにより、前記離型膜に成形体を積層させる工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型剤、それを用いた積層体及び成形体、並びに積層体及び成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等の合成樹脂の成形時に、成形体の金型からの離型を容易にするために離型剤を金型に塗布することが一般的に行われている。このような離型剤としては、シリコーン系又はワックス系等の離型剤が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5848909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シリコーン系化合物単一の離型剤は、初期の離型性の観点において改善の余地があった。またワックス系の離型剤は、ある温度以上に加熱されると炭化が起こるため、高温で成形される成形体への適用が困難であるという問題を有する。
【0005】
本開示の主な目的は、離型性に優れた離型剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討の結果、シリコーンとワックスとを含む水分散液を含有する離型剤であって、前記水分散液中の水の蒸発除去により、前記シリコーンを主成分とする層と、前記ワックスを主成分とする層とに分離する離型剤が、離型性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本開示の一態様に係る離型剤は、シリコーンとワックスとを含む水分散液を含有し、前記水分散液中の水の蒸発除去により、前記シリコーンを主成分とする層と、前記ワックスを主成分とする層とに分離することを特徴とする。
【0008】
上述の離型剤において、金型を用いた成形体の製造に使用され、前記シリコーンを主成分とする層が前記金型に、前記ワックスを主成分とする層が前記成形体に、夫々被着するものであってもよい。
【0009】
上述の離型剤において、前記シリコーンと前記ワックスとの固形分の含有比が質量比(シリコーン/ワックス)で1.0以上4.5以下であってもよい。
【0010】
本開示の一態様に係る成形体の製造方法は、上述のいずれかの離型剤を金型に塗布し、前記金型を加熱することにより前記離型剤から水を蒸発除去し、前記金型に成形体原料を設置し、前記成形体原料が硬化した成形体を前記金型から取り出す。
【0011】
本開示の一態様に係る成形体は、ワックスを主成分とする層と被着した成形体であって、前記ワックスを主成分とする層と、シリコーンを主成分とする層とが積層されてなる離型膜からの前記シリコーンを主成分とする層の剥離により、前記ワックスを主成分とする層のみが接着される。
【0012】
本開示の一態様に係る積層体は、金型内で作成される離型膜と成形体との積層体であって、前記離型膜は、前記金型に被着する側に形成されるシリコーンを主成分とする層と、前記成形体に被着する側に形成されるワックスを主成分とする層とを有することを特徴とする。
【0013】
本開示の一態様に係る積層体の製造方法は、製造工程(1)~(4)を含むことを特徴とする。
(1)シリコーンとワックスとを含む水分散液を含有する離型剤を金型に塗布する工程、
(2)前記金型を加熱し前記離型剤から水を蒸発除去させることにより、前記金型にシリコーンを主成分とする層とワックスを主成分とする層とに分離した離型膜を積層させる工程、
(3)前記離型膜を有する前記金型に成形体原料を設置する工程、
(4)前記成形体原料を硬化させることにより、前記離型膜に成形体を積層させる工程。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、離型性に優れた離型剤を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本開示の一態様に係る離型剤は、シリコーンとワックスとを含む水分散液を含有し、前記水分散液中の水の蒸発除去により、前記シリコーンを主成分とする層と、前記ワックスを主成分とする層とに分離することを特徴とする離型剤である。
本開示の一態様に係る離型剤は、離型性に加え、耐熱性に優れる。離型性に優れるとは、成形体の金型との離型性(剥離性)に優れることを意味する。耐熱性に優れるとは、高温条件下で使用された場合であっても離型剤の炭化に伴う金型汚れを抑制でき、高温条件下での成形体の成形に好適に使用できることを意味する。
【0017】
(離型剤)
実施形態の離型剤は、シリコーンとワックスとを含む水分散液を含有する。
シリコーンとワックスとを含む水分散液は、シリコーンとワックスとを含有する。
【0018】
シリコーンとしては、例えばポリシロキサンを主骨格構造としたものを用いることができる。このようなシリコーンとしては、例えばジメチルポリシロキサン、変性ポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等が挙げられる。変性とは、例えば、エポキシ変性、アルキル変性、アミノ変性、カルボキシル変性、ポリエーテル変性等が挙げられる。シリコーンとしては、アルキル変性ポリシロキサン、アミノ変性ポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン等が好適に使用できる。シリコーンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0019】
ワックスとしては、例えば、天然ワックス、合成ワックス等の炭化水素系ワックスが挙げられる。天然ワックスとしては、動植物ワックス、石油ワックス等の鉱物ワックスが挙げられる。石油ワックスとしては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等が挙げられる。合成ワックスとしては、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス等が挙げられる。ワックスは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0020】
ワックスの融点は、40℃以上80℃以下であることが好ましい。この場合、離型性及び耐熱性が良好である。
【0021】
シリコーンとワックスとを含む水分散液は、当該水分散液を含有する離型剤を金型内面に塗布し、金型を加熱すると、水分散液中の水の蒸発除去により、シリコーンを主成分とする層と、ワックスを主成分とする層とに分離する。金型の内部(成形体原料を設置する部分)を水平方向上側に向けて、金型の内部表面に離型剤を塗布すると、シリコーンとワックスとの溶融温度の違いや比重差等により、シリコーンを主成分とする層が金型側に形成され、ワックスを主成分とする層が成形体側に形成される。ワックスを主成分とする層は、成形体との接着機能を有する。
【0022】
シリコーンを主成分とする層と、ワックスを主成分とする層とが積層されてなる離型膜においては、シリコーンを主成分とする層における凝集破壊、シリコーンを主成分とする層とワックスを主成分とする層との界面における界面破壊、及びワックスを主成分とする層における凝集破壊、の3種類の破壊が起こることにより、顕著な離型性が発揮される。
【0023】
また、シリコーンを主成分とする層とワックスを主成分とする層との界面剥離により、ワックスを主成分とする層が成形体にする接着することで、金型への炭化成分の付着を抑制できる。従って、高温条件下で使用しても金型汚れを抑制でき、金型汚れの洗浄等の工数を低減しコスト削減につながる。
【0024】
水分散液に含まれるシリコーンとワックスとは、例えば、シリコーン及びワックスそれぞれの溶融温度、比重、及び極性等に応じて、組み合わせる種類を適宜設定できる。
【0025】
離型剤における、シリコーンとワックスとを含む水分散液中のシリコーンの含有量については、シリコーンの種類、他の含有成分の種類や含有量等に応じて適宜設定できる。例えば、シリコーンの含有量は、離型剤全体を100質量部としたとき、2質量部以上16質量部以下とすることが好ましい。シリコーンの含有量を上記範囲内とすることにより、離型性及び耐熱性に優れた離型膜を形成することができる。シリコーンの含有量の下限は、より好ましくは8質量部である。シリコーンの含有量の上限は、より好ましくは11質量部である。
【0026】
離型剤における、シリコーンとワックスとを含む水分散液中のワックスの含有量については、ワックスの種類、他の含有成分の種類や含有量等に応じて適宜設定できる。例えば、ワックスの含有量は、離型剤全体を100質量部としたとき、2質量部以上10質量部以下とすることが好ましい。ワックスの含有量を上記範囲内とすることにより、ワックス成分と金型との接着性を高め、離型性に優れた離型膜を形成することができる。また、成形体への接着量を適正に保ち、成形体の二次加工性を高める。ワックスの含有量の下限は、より好ましくは4質量部である。ワックスの含有量の上限は、より好ましくは6質量部である。
【0027】
シリコーンとワックスとの含有量は、特に限定的ではないが、固形分の質量比(シリコーン/ワックス)で、1.0以上4.5以下であることが好ましい。この場合、エマルションの分散安定性を高めるとともに、シリコーン成分とワックス成分との分離が良好であり、離型性及び耐熱性に優れた離型膜を形成できる。前記質量比の下限は、より好ましくは1.3以上、さらに好ましくは1.5以上である。前記質量比の上限は、より好ましくは4.2以下、さらに好ましくは3.0以下、最も好ましくは2.5以下である。
【0028】
シリコーンとワックスとを含む水分散液は、水を含む。使用する水は、水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水等のいずれでもよく、その水は硬水であるか軟水であるかを問わない。
【0029】
シリコーンとワックスとを含む水分散液は、シリコーン及びワックスを、界面活性剤を用いて乳化し、水中に均一分散してなるエマルションである。シリコーンとワックスとを含む水分散液は、シリコーンを含む水分散液(シリコーンエマルション)と、ワックスを含む水分散液(ワックスエマルション)とを混合してなるエマルションであってもよい。シリコーンエマルションは、シリコーンを界面活性剤により乳化して得られる。シリコーンエマルションは、界面活性剤を用いて水中に分散させたシリコーンを、重合開始剤により乳化重合させて得てもよい。ワックスエマルションは、ワックスを界面活性剤により乳化して得られる。シリコーン及びワックスの乳化、並びにシリコーンの乳化重合は公知の方法によって行うことができる。
【0030】
乳化に使用する界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤のいずれも使用することができる。アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、アルキルスルホン酸塩等が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩、アルキルアンモニウム塩等が挙げられる。両性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸型両性界面活性剤、スルホン酸型両性界面活性剤等が挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等が挙げられる。乳化重合に使用する界面活性剤は、分子内にラジカル重合性官能基を有する反応性界面活性剤を使用することができる。界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。界面活性剤の含有量については、界面活性剤の種類、他の含有成分の種類や含有量等に応じて適宜設定されてよい。
【0031】
乳化重合に使用する重合開始剤としては、例えば、通常のラジカル重合で用いられる過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0032】
実施形態の離型剤は、水を含有する。使用できる水としては、例えば水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水、純水、超純水等が挙げられ、軟水、硬水を問わない。またこれらの水を1種ないし2種以上を混合して使用してもよい。離型剤における水の含有量は、特に限定的ではないが、離型剤全体を100質量部として、70質量部以上96質量部以下とすることが好ましく、80質量部以上90質量部以下とすることがより好ましい。
【0033】
実施形態の離型剤は、上記各成分以外に、本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて、各種添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えばレベリング剤が挙げられる。各添加剤の配合量は従来技術に従い適宜選択されればよい。
【0034】
レベリング剤としては、例えばフッ素系界面活性剤が挙げられる。レベリング剤を適量添加することで、金型への塗工性が向上する。
【0035】
実施形態の離型剤は、上記各成分以外に、中和剤(例えば、無機アルカリ等)、アルコール類、防錆剤、防腐剤等を添加することができる。これらの添加剤は本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて添加することができる。
【0036】
実施形態の離型剤は、そのまま成形体の製造に使用できる。また、実施形態の離型剤を原液とし、さらに水等の希釈剤で希釈して離型剤としてもよい。実施形態の離型剤を希釈する場合、希釈倍率は、水分散液中のシリコーン及びワックスの含有量等に応じて適宜設定されてよい。
【0037】
実施形態の離型剤は、上記各成分を混合することによって得られる。シリコーンとワックスとを微粒子状で水中に分散させることで、相溶性の低いシリコーン及びワックスが均一に分散した離型剤が得られる。
【0038】
(積層体)
実施形態の積層体は、上記離型剤を含む離型膜と成形体とを備える。
【0039】
成形体の原料としては、例えばゴム、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂等が挙げられる。ゴムとしては、例えば天然ゴム、イソプレン、ブタジエン、スチレンブタジエン等の合成ゴム等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えばポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。成形体の原料としては、ポリエチレン樹脂が好ましく、ポリエチレンテレフタレート(PET)がより好ましい。成形体の原料は、上記の熱可塑性樹脂と繊維との混合材であってもよく、上記の熱硬化性樹脂と繊維との混合材であってもよい。繊維としては、例えば炭素繊維、ガラス繊維等が挙げられる。成形体の原料は、液状であってもよく固体状であってもよい。
【0040】
離型膜は、上記離型剤を金型の内面に塗布し、金型を加熱し離型剤から水を蒸発除去させることにより形成される。離型膜は、金型に被着する側に形成されるシリコーンを主成分とする層と、成形体に被着する側に形成されるワックスを主成分とする層とを有する。離型膜の厚みは、特に限定的ではないが、0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0041】
(成形体)
実施形態の成形体は、上記離型膜のうちのワックスを主成分とする層と被着したものである。当該ワックスを主成分とする層は、ワックスを主成分とする層と、シリコーンを主成分とする層とが積層されてなる離型膜から、シリコーンを主成分とする層が剥離されたものである。
【0042】
成形体は、金型内で生成された上記積層体を金型から取り出すことにより得られる。金型から取り出す前において、成形体側に形成されるワックスを主成分とする層の接着機能により、成形体は離型膜と被着している。金型からの取り出し時に、離型膜のワックスを主成分とする層と、シリコーンを主成分とする層との界面破壊により、成形体に接着した離型膜のうちのシリコーンを主成分とする層が剥離され、ワックスを主成分とする層のみが成形体に接着する。
【0043】
(積層体の製造方法)
実施形態に係る積層体の製造方法は、
(1)シリコーンとワックスとを含む水分散液を含有する離型剤を金型に塗布する工程、
(2)金型を加熱し離型剤から水を蒸発除去させることにより、金型にシリコーンを主成分とする層とワックスを主成分とする層とに分離した離型膜を積層させる工程、
(3)離型膜を有する金型に成形体原料を設置する工程、
(4)成形体原料を硬化させることにより、前記離型膜に成形体を積層させる工程
を含む。
【0044】
離型剤を金型に塗布する方法としては、スプレー塗布又ははけ塗り等によって塗布する方法がある。金型に付着する離型剤の不揮発成分量は1m2 あたり0.1g以上50g以下が好ましい。上記の量を金型に塗布することによって離型性が十分に得られ、金型汚れが少なく、かつ経済性に優れる。離型剤中のシリコーン及びワックスは、水中に均一に分散しているため、通常の塗布方法により、均一に金型に塗布される。
【0045】
離型膜を積層させる際の金型温度は、離型剤中の水を蒸発除去させるのに十分な温度であればよい。金型温度は、例えば60℃以上250℃以下、好ましくは130℃以上220℃以下である。この場合、好適に蒸発を進めることができ、形成するべき離型膜の変性を抑制できる。
【0046】
金型へ成形体原料を設置する方法は、限定されるものではないが、例えば固体状樹脂原料の金型内への設置や、液状原料の注入による金型内への充填などのように、成形体原料の性状や種類等に応じて公知の方法により行うことができる。
【0047】
成形体原料を硬化させる方法としては、熱硬化を用いる。具体的には、互いに対向する金型内で成形体原料を加熱することより硬化させる。これにより、離型膜と、成形体原料が硬化した成形体との積層体が得られる。
【0048】
成形体原料を硬化させる際の金型温度、言い換えると、離型剤の使用温度は、硬化させる成形体原料等に応じて適宜設定することができるが、例えば60℃以上250℃以下、好ましくは130℃以上220℃以下とすることができる。この場合、成形体原料を適切に硬化でき、本発明の効果を充分に発揮することが可能となる。
【0049】
成形体原料を硬化させる際の硬化時間は、得られる硬化成形体の硬化率が十分となる時間とすればよい。
【0050】
(成形体の製造方法)
実施形態に係る成形体の製造方法は、離型剤を金型に塗布し、金型を加熱することにより離型剤から水を蒸発除去し、金型に成形体原料を設置し、成形体原料が硬化した成形体を前記金型から取り出す、工程を含む。
【0051】
成形体の製造方法に含まれる工程のうち、離型剤を金型に塗布し、金型を加熱することにより離型剤から水を蒸発除去し、金型に成形体原料を設置する工程は、上記積層体の製造方法と同様である。
【0052】
上記積層体の製造後に、金型を開いて、成形体原料が硬化した成形体を取り出すことによって、成形体が得られる。成形体の取り出し時に、成形体に接着したワックスを主成分とする層とシリコーンを主成分とする層とからなる離型膜から、シリコーンを主成分とする層が剥離される。剥離されたシリコーンを主成分とする層は金型内に残存する。このようにして、ワックスを主成分とする層と被着した成形体が得られる。
【実施例0053】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0054】
1.離型剤の調製
[実施例1~9及び比較例1~4]
下記の表1及び表2に示す各成分を、同表に示す組成(質量部で示す)となるようにそれぞれ秤取し、撹拌機中で均一になるまで混合して、実施例1~9及び比較例1~4の離型剤を得た。下記表1及び表2に示される各成分としては、いずれも市販品を用いた。
シリコーンとワックスとの固形分の配合比(質量比)、及び含水量を表1及び表2に併記する。なお含水量は、離型剤に含有される水の総含有量を意味し、シリコーンエマルション及びワックスエマルション中の水も含むものである。
【0055】
下記表1及び表2に示される各成分の詳細については、以下の通りである。
シリコーンエマルション1:アミノ変性ポリシロキサン、固形分30質量部
シリコーンエマルション2:アルキル変性ポリシロキサン、固形分54質量部
シリコーンエマルション3:ジメチルポリシロキサン、固形分33質量部
シリコーンエマルション4:ジメチルポリシロキサン、固形分37質量部
シリコーンエマルション5:ジメチルポリシロキサン、固形分32質量部
シリコーンエマルション6:ジメチルポリシロキサン、固形分34質量部
シリコーンエマルション7:ジメチルポリシロキサン、固形分39質量部
シリコーンエマルション8:アミノ変性ポリシロキサン、固形分30質量部
ワックスエマルション1:基油融点66℃、固形分12.5質量部
ワックスエマルション2:基油融点66℃、固形分25質量部
ワックスエマルション3:基油融点88℃、固形分16質量部
フッ素系界面活性剤1:アニオン性
フッ素系界面活性剤2:アニオン性
【0056】
2.性能評価
調製後の各離型剤について、分層性を評価した。また、以下のようにして成形体を製造し、成形体の金型との離型性、及び金型の汚染性(金型汚れ)を評価した。
【0057】
[分層性の評価]
シャーレに離型剤を5g秤取し、開放系の加熱機器(ホットプレート等)を用いて120℃で1時間加熱した。その後、シャーレ内の離型剤をガラス容器へ移し替え、80℃の恒温機内で1時間静置した。静置後の外観を確認することにより、離型剤の分層性を目視にて評価した。分層性の評価を表1及び表2の下段に示す。評価の内容は以下の通りである。
〇:層分離が生じている
×:層分離が生じておらず、混合状態である
[成形体の製造]
試験用の金型(SUS製、成形品サイズ:横100mm×縦100mm×高さ3mm)の内表面に、スプレーガンを用いて、得られた離型剤を金型当たり約0.1g、均一に噴霧塗布した。200℃で2分間加熱することにより離型剤中の水を蒸発除去し、金型に離型膜を積層させた。未延伸のPET(目付量2000g/m2)を金型内に設置した。160℃に加熱したプレス機にて、押圧0.4MPaの条件で加熱加圧処理を行うことにより、PETを硬化させた。その後室温で徐冷し、成形体を得た。
【0058】
[初期離型性の評価]
PETが硬化した後、金型から硬化したPETを脱型させるのに要する荷重をプッシュプルスケールで測定した。この荷重を初期脱型力とする。初期脱型力の評価を表1及び表2の下段に示す。評価の内容は以下の通りである。
◎:0.7N未満
〇:0.7N以上1.1N未満
×:1.1N以上
【0059】
[連続離型性の評価]
初期脱型を実施した後、新たな離型剤を塗布することなく、同様の成形を5回連続して実施し、各回の金型から硬化したPETを脱型させるのに要する荷重をプッシュプルスケールで測定した。得られた各荷重の平均値を連続脱型力とする。連続脱型力の評価を表1及び表2の下段に示す。評価の内容は以下の通りである。
〇:0.6N未満
×:0.6N以上
【0060】
[汚染性の評価]
金型の一部(成形に用いない部分)に金属板を設置することにより、離型剤の未塗布領域を形成した。この金型を用いて、上記連続離型性の評価試験と同様の成形を実施した。その後、金型をプレス機内で1時間静置し、金属板を取外した。静置後の、金型における離型剤の塗布領域と未塗布領域との外観を確認することにより、金型の炭化物質の付着による汚れの状態を目視にて評価した。汚染性の評価を表1及び表2の下段に示す。評価の内容は以下の通りである。
〇:外観の変化に乏しく、耐金型汚染性は良好である
×:一部変色しており、金型汚染がみられる
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
表1及び表2から明らかなように、シリコーンとワックスとを含む水分散液を含有し、当該水分散液中の水の蒸発除去により、シリコーンを主成分とする層と、ワックスを主成分とする層とに分離する実施例の離型剤の場合、比較例と比べて離型性に優れていた。実施例の離型剤は、初回である初期離型性に加え、初回以降の複数回に亘る連続離型剤にも優れていた。従って、離型剤の塗布回数を低減でき、生産効率の向上及びコスト削減に繋がる。また、実施例の離型剤の場合、160℃といった高温条件下での使用であっても、耐金型汚染性に優れていた。金型への炭化物質の堆積を良好に抑制し、高温条件下で好適に使用でき、耐熱性に優れることが確認された。
【0064】
シリコーンとワックスとの固形分の質量比(シリコーン/ワックス)が1.0以上4.5以下である実施例の場合、比較例と比べて離型性に優れていた。質量比の下限は、より好ましくは1.3以上、さらに好ましくは1.5以上である。質量比の上限は、より好ましくは4.2以下、さらに好ましくは3.0以下、最も好ましくは2.5以下である。
【0065】
以上より、本開示の離型剤は、離型性に優れることが確認された。
【0066】
今回開示した実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。各実施例にて記載されている技術的特徴は互いに組み合わせることができ、本発明の範囲は、特許請求の範囲内での全ての変更及び特許請求の範囲と均等の範囲が含まれることが意図される。