(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189483
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】ニットウェアの編成方法、及び横編機のカムシステムへの編成データの割当装置
(51)【国際特許分類】
D04B 15/36 20060101AFI20221215BHJP
D04B 1/00 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
D04B15/36 101
D04B1/00 Z
D04B15/36 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098081
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】清原 千晴
(72)【発明者】
【氏名】島崎 宜紀
【テーマコード(参考)】
4L002
4L054
【Fターム(参考)】
4L002BA00
4L002EA00
4L054AA01
4L054AB02
4L054JA01
4L054KA36
4L054NA01
4L054NA03
4L054NA07
(57)【要約】
【構成】 複数の筒状パーツから成るニットウェアの各パーツを、横編機の針床上で並行して編成する。針床間での編目の目移しを行わないキャリッジのコースに対しては、キャリッジの進行方向前方のパーツの編成を、進行方向に沿って前方のカムシステムに割り当て、進行方向後方のパーツの編成を、進行方向に沿って後方のカムシステムに割り当てる。針床間での編目の目移しを伴うキャリッジのコースに対しては、該コースで編成する全パーツの編成をキャリッジの1つあるいは複数のカムシステムに割り当てる。
【効果】 キャリッジのストロークを短縮することにより、ニットウェアの編成時間を短縮する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも前後一対の針床と、1台のキャリッジとを備え、かつ前記キャリッジは、針床の針を操作し編目を形成するカムシステムを針床の長手方向に沿って複数備える横編機上で、
複数の筒状パーツから成るニットウェアの各パーツを、前記針床上で並行して編成する方法において、
針床間での編目の目移しを行わないキャリッジのコースに対しては、キャリッジの進行方向前方のパーツの編成を、進行方向に沿って前方のカムシステムに割り当て、進行方向後方のパーツの編成を、進行方向に沿って後方のカムシステムに割り当て、
針床間での編目の目移しを伴うキャリッジのコースに対しては、該コースで編成する全パーツの編成をキャリッジの1つあるいは複数のカムシステムに割り当てることを特徴とする、ニットウェアの編成方法。
【請求項2】
前記キャリッジは、前記のカムシステムを針床の長手方向に沿って2個備え、
前記ニットウェアは、両袖と身頃とから成り、
針床間での編目の目移しを行わないキャリッジのコースに対して、キャリッジの進行方向前方の袖を進行方向に沿って前方のカムシステムに割り当てて編成し、
身頃を2個のカムシステムの何れかに割り当てて編成し、
進行方向後方の袖を、進行方向に沿って後方のカムシステムに割り当てて編成することを特徴とする、請求項1のニットウェアの編成方法。
【請求項3】
前記キャリッジは、前記のカムシステムを針床の長手方向に沿って少なくとも3個備え、
前記ニットウェアは、両袖と身頃とから成り、
針床間での編目の目移しを行わないキャリッジのコースに対して、キャリッジの進行方向前方の袖を進行方向に沿って前方のカムシステムに割り当てて編成し、
身頃を進行方向に沿って中央のカムシステムに割り当てて編成し、
進行方向後方の袖を、進行方向に沿って後方のカムシステムに割り当てて編成することを特徴とする、請求項1のニットウェアの編成方法。
【請求項4】
針床間での編目の目移しを伴うキャリッジのコースに対して、
前針床から後針床へ、後編地の編目を戻す操作と前編地の編目を移す操作とを、目移しが可能な1個のカムシステムにより同時に行うと共に、後針床へ移した前編地の編目に続いてニットが可能なカムシステムにより編目を形成するコースと、
後針床から前針床へ、前編地の編目を戻す操作と後編地の編目を移す操作とを、目移しが可能な1個のカムシステムにより同時に行うと共に、前針床へ移した後編地の編目に続いてニットが可能なカムシステムにより編目を形成するコースとを行うことを特徴とする、請求項1のニットウェアの編成方法。
【請求項5】
目移しと編成とが可能な4個のカムシステムを用い、
針床間での編目の目移しを伴うキャリッジのコースでは、
キャリッジの進行方向に沿って最前方のカムシステムを目移しに、2番目のカムシステムを進行方向前方のパーツの編成に割り当てると共に、3番目のカムシステムを目移しに、4番目のカムシステムを進行方向後方のパーツの編成に割り当てるか、
あるいは、キャリッジの進行方向に沿って最前方のカムシステムを進行方向前方のパーツの編成に、2番目のカムシステムを目移しに割り当てると共に、3番目のカムシステムを進行方向後方のパーツの編成に、4番目のカムシステムを目移しに割り当てることを特徴とする、請求項4のニットウェアの編成方法。
【請求項6】
目移しと編成とが可能な3個のカムシステムを用い、
針床間での編目の目移しを伴うキャリッジのコースでは、
キャリッジが第1の方向に進行する場合、キャリッジの進行方向に沿って前方のカムシステムを進行方向前方のパーツの編成に、2番目のカムシステムを目移しに、3番目のカムシステムを進行方向後方のパーツの編成に割り当てると共に、
キャリッジが第2の方向に進行する場合、キャリッジの進行方向に沿って前方のカムシステムを目移しに、2番目のカムシステムを複数の筒状編地の編成に、3番目のカムシステムを目移しに割り当てることを特徴とする、請求項4のニットウェアの編成方法。
【請求項7】
少なくとも前後一対の針床と、1台のキャリッジとを備え、かつ前記キャリッジは、針床の針を操作し編目を形成するカムシステムを針床の長手方向に沿って複数備える横編機上で、
複数の筒状パーツから成るニットウェアの各パーツを、前記針床上で並行して編成するために、
針床間での編目の目移しを行わないキャリッジのコースに対しては、キャリッジの進行方向前方のパーツの編成を、進行方向に沿って前方のカムシステムに割り当て、進行方向後方のパーツの編成を、進行方向に沿って後方のカムシステムに割り当て、
針床間での編目の目移しを伴うキャリッジのコースに対しては、該コースで編成する全パーツの編成をキャリッジの1つあるいは複数のカムシステムに割り当てるように、横編機のカムシステムに編成データを割り当てるように構成されている、横編機のカムシステムへの編成データの割当装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、横編機でニットウェアを編成する方法と編成データの割当装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プルオーバ、パンツ等のニットウエアを、筒状に編成することが行われている。例えば特許文献1(特許第4233409)は、左右の袖と中央の身頃から成るプルオーバを3個の筒として裾から衿へ向けて編成し、両袖を身頃に接合する、編成方法を開示している。
【0003】
編成に用いる横編機は、少なくとも前後一対の針床と、針床上を走行する1個のキャリッジを備えている。キャリッジはカムシステムにより針床の針を操作をし、キャリッジはニット専用のカムシステムと、編目の目移し専用のカムシステムを複数個ずつ備え、あるいはニットと目移し兼用のカムシステムを複数個備えている。そしてキャリッジの上部のレールを走行するヤーンフィーダーから針に編糸を供給する。
【0004】
特許文献1では、右袖、身頃、左袖に、1個のカムシステムと、別々のヤーンフィーダーを割り当てる。左右の袖は編成の途中で編幅を増やし、また袖を身頃に接合する。このため編目の目移しが必要で、目移し用に編成とは別のカムシステムを使用する。
【0005】
上記の場合のキャリッジのストロークSTを
図7に示す。2はプルオーバで、5は右袖、6は左袖、7,8,9は裾のリブ編組織、10aは前衿、10bは後衿である。そして脇の部分で袖5,6を身頃4に接合する。キャリッジ12は例えばニットと目移しが可能なカムシステム14a,b,cを備えている。従来例では、例えば中央のカムシステム14bを身頃4と左右両袖5,6に割り当てるので、ストロークSTは長くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明の課題は、プルオーバ等のニットウェアを編成する際に、キャリッジのストロークを短縮することにより、編成時間を短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明のニットウェアの編成方法は、少なくとも前後一対の針床と、1台のキャリッジとを備え、かつ前記キャリッジは、針床の針を操作し編目を形成するカムシステムを針床の長手方向に沿って複数備える横編機上で、
複数の筒状パーツから成るニットウェアの各パーツを、前記針床上で並行して編成する方法において、
針床間での編目の目移しを行わないキャリッジのコースに対しては、キャリッジの進行方向前方のパーツの編成を、進行方向に沿って前方のカムシステムに割り当て、進行方向後方のパーツの編成を、進行方向に沿って後方のカムシステムに割り当て、
針床間での編目の目移しを伴うキャリッジのコースに対しては、該コースで編成する全パーツの編成をキャリッジの1つあるいは複数のカムシステムに割り当てることを特徴とする。
【0009】
この発明の横編機のカムシステムへの編成データの割当装置は、少なくとも前後一対の針床と、1台のキャリッジとを備え、かつ前記キャリッジは、針床の針を操作し編目を形成するカムシステムを針床の長手方向に沿って複数備える横編機上で、複数の筒状パーツから成るニットウェアの各パーツを、前記針床上で並行して編成するために、
針床間での編目の目移しを行わないキャリッジのコースに対しては、キャリッジの進行方向前方のパーツの編成を、進行方向に沿って前方のカムシステムに割り当て、進行方向後方のパーツの編成を、進行方向に沿って後方のカムシステムに割り当て、
針床間での編目の目移しを伴うキャリッジのコースに対しては、該コースで編成する全パーツの編成をキャリッジの1つあるいは複数のカムシステムに割り当てるように、横編機のカムシステムに編成データを割り当てるように構成されている。
【0010】
この発明では、キャリッジのストロークを短縮できるので、編成時間が短くなる。この明細書で、目移しを伴わないコースに対し編成をカムシステムに割り当てるとは、針床の針を操作し編目を形成するカムシステムに、パーツの編成を割り当てることである。
【0011】
好ましくは、前記キャリッジは、前記のカムシステムを針床の長手方向に沿って2個備え、前記ニットウェアは、両袖と身頃とから成り、針床間での編目の目移しを行わないキャリッジのコースに対して、キャリッジの進行方向前方の袖を進行方向に沿って前方のカムシステムに割り当てて編成し、身頃を2個のカムシステムの何れかに割り当てて編成し、進行方向後方の袖を、進行方向に沿って後方のカムシステムに割り当てて編成する。このようにすると、前記のカムシステムを針床の長手方向に沿って2個備える横編機により、両袖と身頃から成るニットウエアを効率的に編成できる。
【0012】
また好ましくは、前記キャリッジは、前記のカムシステムを針床の長手方向に沿って少なくとも3個備え、前記ニットウェアは、両袖と身頃とから成り、針床間での編目の目移しを行わないキャリッジのコースに対して、キャリッジの進行方向前方の袖を進行方向に沿って前方のカムシステムに割り当てて編成し、身頃を進行方向に沿って中央のカムシステムに割り当てて編成し、進行方向後方の袖を、進行方向に沿って後方のカムシステムに割り当てて編成する。このようにすると、前記のカムシステムを針床の長手方向に沿って3個備える横編機により、両袖と身頃から成るニットウエアを特に効率的に編成できる。
【0013】
変形例では、針床間での編目の目移しを伴うキャリッジのコースに対して、
前針床から後針床へ、後編地の編目を戻す操作と前編地の編目を移す操作とを、目移しが可能な1個のカムシステムにより同時に行うと共に、後針床へ移した前編地の編目に続いてニットが可能なカムシステムにより編目を形成するコースと、
後針床から前針床へ、前編地の編目を戻す操作と後編地の編目を移す操作とを、目移しが可能な1個のカムシステムにより同時に行うと共に、前針床へ移した後編地の編目に続いてニットが可能なカムシステムにより編目を形成するコースとを行う。
【0014】
変形例では、編目を戻す操作と編目を移す操作を同じカムシステムにより実行するので、編成効率が向上する。変形例は特にリブ編成に適している。
【0015】
変形例では好ましくは、目移しと編成とが可能な4個のカムシステムを用い、
針床間での編目の目移しを伴うキャリッジのコースでは、
キャリッジの進行方向に沿って最前方のカムシステムを目移しに、2番目のカムシステムを進行方向前方のパーツの編成に割り当てると共に、3番目のカムシステムを目移しに、4番目のカムシステムを進行方向後方のパーツの編成に割り当てるか、
あるいは、キャリッジの進行方向に沿って最前方のカムシステムを進行方向前方のパーツの編成に、2番目のカムシステムを目移しに割り当てると共に、3番目のカムシステムを進行方向後方のパーツの編成に、4番目のカムシステムを目移しに割り当てる。
【0016】
この場合、前編地の編成と後編地の編成とで、目移しに割り当てるカムシステムと編成に割り当てるカムシステムとが逆になる。このようにすると、編目を戻す操作と編目を移す操作を同じカムシステムにより実行し、かつキャリッジのストロークを短縮できる。
【0017】
変形例では好ましくは、目移しと編成とが可能な3個のカムシステムを用い、
針床間での編目の目移しを伴うキャリッジのコースでは、
キャリッジが第1の方向に進行する場合、キャリッジの進行方向に沿って前方のカムシステムを進行方向前方のパーツの編成に、2番目のカムシステムを目移しに、3番目のカムシステムを進行方向後方のパーツの編成に割り当てると共に、
キャリッジが第2の方向に進行する場合、キャリッジの進行方向に沿って前方のカムシステムを目移しに、2番目のカムシステムを複数の筒状編地の編成(全ての筒状編地の編成)に、3番目のカムシステムを目移しに割り当てる。
【0018】
この場合も、前編地の編成と後編地の編成とで、目移しに割り当てるカムシステムと編成に割り当てるカムシステムとが逆になる。第1の方向と第2の方向は逆方向で、一方が前編地の編成、他方が後編地の編成である。この場合も、編目を戻す操作と編目を移す操作を同じカムシステムにより実行し、かつキャリッジのストロークを短縮できる。
【0019】
対象とするニットウェアは、プルオーバ、パンツ、カーディガン等、複数の筒状編地を並行して編成するニットウェアである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1の実施例に従って、ニットウエアを編成する際の、カムシステムの割当とキャリッジのストロークを模式的に示す図
【
図2】第2の実施例に従って、ニットウエアを編成する際の、カムシステムの割当とキャリッジのストロークを模式的に示す図
【
図3】第1及び第2の実施例での、カムシステムの割当アルゴリズムを示すフローチャート
【
図5】
図4のキャリッジと等価な他のキャリッジの模式図
【
図7】従来例に従って、ニットウエアを編成する際の、カムシステムの割当とキャリッジのストロークを模式的に示す図
【
図8】目移しした編目の戻し操作と目移し操作を、同じカムシステムで行う変形例の編成方法を示す図
【
図9】4個のニットとカム兼用のカムシステムを用い、
図8の編成方法を実施例に適用した変形例を模式的に示す図
【
図10】3個のニットとカム兼用のカムシステムを用い、
図8の編成方法を実施例に適用した変形例を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例0022】
図1に第1の実施例の編成方法を示す。図において、2はニットウェアでここではプルオーバであるが、左右一対の筒状編地から成るパンツ等でも良い。ニットウェア2は、複数の筒状パーツから成るニットウエアである。4は身頃、5は右袖、6は左袖で、いずれも筒状のパーツで、裾のリブ編組織7,8,9から編成し、脇の部分で袖5,6を身頃4に接合する。10aは前衿、10bは後衿、11は肩である。
【0023】
ニットウエア2を、3個のカムシステム14a,b,cを備えるキャリッジ12を用いた横編機上で編成する。また編成では、身頃4と袖5,6を並行に編成する。カムシステム14a,b,cはニットと目移しができるカムシステムである。編目の目移しを必要としない編成コースに対し、右袖5にカムシステム14aを、身頃4にカムシステム14bを、左袖6にカムシステム14cを割り当てる。このように、キャリッジ12の進行方向前方のパーツに同じ方向に沿って前方のカムシステムを割り当て、中央のパーツに中央のカムシステムを割り当て、後方のパーツに後方のカムシステムを割り当てる。
【0024】
ここに編成コースは、キャリッジ12の1回の移動のことである。また袖5,6と身頃4に、別々のヤーンフィーダーから編糸を供給する。なおキャリッジ12は、カムシステム14a,b,cを前針床上と後針床上に備えている。前針床上のカムシステムは前針床の針を操作することにより筒状編地の前編地を編成し、後針床上のカムシステムは後針床の針を操作することにより筒状編地の後編地を編成する。前針床上のカムシステムと後針床上のカムシステムは、針床の長手方向に関して対称に配置されている。以下で前針床側のカムシステムの割当を示し、後針床側のカムシステムも同様にニットウェアのパーツへ割り当てる。
【0025】
筒状に編成する場合、リブ編組織7,8,9の編成には編目の目移しが必要である。また袖5,6の編幅を編成中に増すこと、袖5,6を身頃4に接合することなどにも、目移しが必要である。目移しを伴う編成コースでは、編成用と目移し用に別のカムシステムが必要なので、例えば中央のカムシステム14bを編成に割り当て、両側のカムシステム14a,cを目移しに割り当てる。
【0026】
図1の実施例では、目移しを伴わない編成コース(表目をニットで形成すること、表目をタックで形成すること、及びミスから成るコース)に対し、キャリッジ12のストロークSTが短縮される。ストロークSTの一端はカムシステム14aとカムシステム14b間の、図示しない選針装置が右袖5の編成用に選針できるとの条件で定まり、他端はカムシステム14cとカムシステム14b間の、図示しない選針装置が左袖6の編成用に選針できるとの条件で定まる。この結果、キャリッジ12のストロークSTは、
図7の場合よりも短くなり、編成時間は例えば数%減少する。
【0027】
図2は、ニットと目移し兼用の2個のカムシステム14a,14bを備えるキャリッジ16を用いる、第2の実施例を示す。なおニット専用のカムシステムを2個と、目移し専用のカムシステムを2個備えるキャリッジでも良い。第2の実施例では、例えばカムシステム14aを右袖5と身頃4に割り当て、カムシステム14bを左袖6に割り当てる。キャリッジ16のストロークSTは図のようになり、
図7に比べ短くなる。勿論、カムシステム14aを右袖5に割り当て、カムシステム14bを身頃4と左袖6に割り当てても良い。
【0028】
図3に、第1及び第2の実施例に対する、カムシステムの割当アルゴリズムを示す。なお
図3の処理は、ニットウェア2のデザインデータを編成データに変換するデザインシステムで、あるいは横編機のコントローラで実施し、これ以外にデザインシステムとも横編機とも独立したコンピュータでも実施できる。
【0029】
予め、ニットウェア2を編成するための編成データが与えられているものとし、ステップS1で編成データを適宜のメモリから読み出す。編成データでは、編成コース毎にどのヤーンフィーダーをどのようなストロークで移動させるかと、針床21のどの針をどのようにキャリッジ12,16で操作するかが指定されている。ただしどのカムシステム14a,b,cを編成に用いるかは、変更できる。
【0030】
編成コース内に編目の目移し操作が含まれる場合、例えば1つのカムシステムに右袖5,身頃4,左袖6の全パーツの編成(編目の形成)を割り当てる(ステップS2、S3)。ただし複数のカムシステムに割り当てても良い。また目移しと編成は別のカムシステムで行う。
【0031】
編成コース内に編目の目移し操作が含まれない場合、キャリッジの進行方向前方のパーツを同じ方向に沿って前方のカムシステムに割り当て、キャリッジの進行方向後方のパーツを同じ方向に沿って後方のカムシステムに割り当てる(ステップS4)。
【0032】
例えば
図1の場合で、キャリッジ12の進行方向が図の左から右の場合、左袖6をカムシステム14cに、身頃4を中央のカムシステム14bに、右袖5を後方のカムシステム14aに割り当て、キャリッジ12の進行方向が逆向きの場合も、カムシステム14a,b,cへのパーツ4,5,6の割当を変更しないことが、最も効率的である。即ち、3個のパーツ4,5,6に3個のカムシステム14a,b,cを割り当てる場合、針床上で左側のパーツ5に左側のカムシステム14aを、中央のパーツ4に中央のカムシステム14bを、右側のパーツ6に右側のカムシステム14cを割り当てることが、最も効率的である。
【0033】
なお効率は落ちるが、カムシステム14cに左袖6を、カムシステム14aに身頃4と右袖5を割り当てることも可能である。同様に編成効率が低下するが、カムシステム14cに左袖6と身頃4を、カムシステム14aに右袖5を割り当てることも可能である。
【0034】
図2の場合で、キャリッジ16の進行方向が図の左から右の場合、左袖6をカムシステム14bに、身頃4と右袖5を後方のカムシステム14aに割り当て、キャリッジ12の進行方向が逆向きの場合も、カムシステム14a,bへのパーツ4,5,6の割当を変更しない。なお左袖6と身頃4をカムシステム14bに割り当て、右袖5をカムシステム14aに割り当てても、編成効率は同じで、カムシステム14a,bの割当コンセプトは同じである。これらをまとめると、針床上で左側のパーツ5に左側のカムシステム14aを割り当て、右側のパーツ6に右側のカムシステム14bを割り当て、中央のパーツ4に左右何れかのカムシステムを割り当てることになる。
【0035】
また左右一対の筒状編地から成るニットウエアを編成する場合、
図1の場合でも、
図2の場合でも、キャリッジ12の進行方向前方のカムシステムに、同じ方向に沿って前方の筒状編地を割り当て、後方のカムシステムに同じ方向に沿って後方の筒状編地を割り当てる。
【0036】
ステップS2~S4の処理を全編成コースに対して実施し、カムシステムの割り当てが終了すると、編成コース毎の割当結果を出力する(ステップS5,S6)。
【0037】
図4に、ニットウェアのパーツへのカムシステムの割当装置32を備える、横編機20を示す。なお割当装置32は、ニットウェアのデザインシステムに設けても良く、あるいは独立した装置であっても良い。
【0038】
横編機20は、例えば前針床21と図示しない後針床を備え、これ以外の針床を備えていても良い。キャリッジ22はドライブ23により針床21等の上部を往復走行し、例えばニット専用のカムシステム24を2個と、目移し専用のカムシステム25を2個備えている。
【0039】
キャリッジ22は、前針床21側と図示しない後針床側に、対称にカムシステムを備え、前針床側のカムシステム24,25により前編地を編成し、後針床側の図示しないカムシステムにより後編地を編成する。また前針床側と後針床側とで、針床の長手方向に沿って同じ位置のカムシステムを、同じパーツに割り当てる。
【0040】
針床21等の上部に針床21と平行にレール26が複数配置され、図示しないヤーンフィーダーが走行し、針床21等の針に編糸を給糸する。また天板27に載置した図示しない糸パッケージから、図示しない天バネ装置等を介し、編糸をヤーンフィーダーに供給する。
【0041】
割当装置32はCPU34とメモリ35,36を備え、カムシステム24,24の割当前の編成データをメモリ35に記憶し、目移しを伴わない編成コースに対し、
図3のアルゴリズムに従って、左右いずれのカムシステム24,24を割り当て、割当結果をメモリ36に記憶する。
図4の場合、メモリ36のデータを横編機20内の図示しないコントローラへ出力する。デザインシステムに割当装置32を設ける場合、メモリ36のデータをデザインシステム内で使用し、カムシステムの割当済みの編成データを出力する。
【0042】
図4のキャリッジ22は、
図2及び
図5のキャリッジ16と等価である。キャリッジ16は、目移しとニットの兼用カムシステム14a,bを備え、これはニット専用のカムシステム24と目移し専用のカムシステム25を交互に各2個備えることに等しい。
【0043】
またキャリッジ22の代わりに、
図1及び
図6のカムシステム12を用いても良い。キャリッジ12は、目移しとニットの兼用カムシステム14a,b,cを合計3個備えている。
【0044】
実施例では、キャリッジ12,16,22が往復するストロークSTを短縮し、ニットウェアの編成効率が向上する。
【0045】
変形例
図8は、編目の目移しに関する変形例を示す。筒状のリブ編地など、目移しを必要とする編地を編成する場合、前編地の編目を後針床へ目移しした後に前編地をリブ編成し、次いで目移した前編地の編目を前針床へ移し戻す必要がある。また後編地の編目を前針床へ目移しした後に後編地をリブ編成し、次いで目移した後編地の編目を後針床へ移し戻す必要がある。従来は編目の目移しと移し戻しとを別々に実行する。このため上記の編成では、目移し用にカムシステムを延べ4個動作させ、編成用に延べ2個動作させる必要がある。編目の目移しと移し戻しを同時に同じカムシステムで行うと、編成効率が向上する。
【0046】
図8の1)は、針抜き編成でのリブ編み開始前の状態を示し、
図8において○は前編地の表目、●は前編地の裏目、△は後編地の表目、▲は後編地の裏目を示し、上側の針床が後針床、下側の針床が前針床、編目間の実線は編糸である。編成は前後2枚の針床を有する横編機でも、前後上下で合計4枚の針床を有する横編機でも実施できる。
【0047】
2)で編目を目移しし、リブ編成の準備を行い、3)で前編地を1コースリブ編成する。1)~3)は変形例の準備で、適宜に変更できる。
【0048】
4)で前編地の裏目と後編地の裏目を前針床に1個のカムシステムで目移しする。即ち、前編地の裏目のリブ編成後の移し戻しと、後編地の裏目の目移しを、同じカムシステムで同時に実行する。次いで、5)で後編地を1コースリブ編成する。
【0049】
6)で後編地の裏目と前編地の裏目を後針床に1個のカムシステムで目移しする。即ち、後編地の裏目のリブ編成後の移し戻しと、前編地の裏目の目移しを、同じカムシステムで実行する。次いで、7)(3)と同じ)で前編地を1コースリブ編成する。そして、3)~6)を繰り返す。4),6)でリブ編成後の移し戻しとリブ編成前の目移しを同じカムシステムで実行するので、編成効率が向上する。
【0050】
図9は、
図8の編成方法を実施例に適用した例を示す。身頃4と右袖5及び左袖6のリブ編組織7,8,9を、編成と目移しが可能な4個のカムシステム144a~dを有するキャリッジで編成する。中央の矢印上の「前」は前編地のリブ編成コースであることを、「後」は後編地のリブ編成コースであることを示す。
【0051】
前編地の編成では、先頭のカムシステム144aと3番目のカムシステム144cを目移し(後編地の編目の移し戻しと前編地の編目の目移し)に割り当て、2番目のカムシステム144bと4番目のカムシステム144dを編成に割り当てる。そして2番目のカムシステム144bを右袖5と身頃4の編成に、4番目のカムシステム144dを左袖6の編成に割り当てる。
【0052】
後編地の編成では、先頭のカムシステム144dと3番目のカムシステム144bを前編地の編目の移し戻しと後編地の編目の目移しに割り当て、2番目のカムシステム144cと4番目のカムシステム144aを編成に割り当てる。そして2番目のカムシステム144cを左袖6の編成に、4番目のカムシステム144aを右袖5と身頃4の編成に割り当てる。
【0053】
図9の場合、カムシステム144bに必要なストロークはストロークST1となり、カムシステム144dに必要なストロークはストロークST2となり、全体としてキャリッジのストロークが短縮する。また目移しと移し戻しを1個のカムシステムで同時に行うので、編成用のカムシステム間に必要な目移し用のカムシステムは1個で良い。即ち4個のカムシステム中の2個を編成に用いることができる。
【0054】
なお身頃4の編成をカムシステム144d,144cに割り当てても良い。また進行方向先頭と3番目のカムシステムを編成に、2番目と最後尾のカムシステムを目移しに割り当てても良い。具体的には、進行方向先頭と2番目のカムシステムを進行方向前方のパーツの編成と目移しに、進行方向3番目と4番目のカムシステムを進行方向後方のパーツの編成と目移しに割り当てても良い。いずれの場合も、前編地の編成と後編地の編成とで、カムシステムの割当が編成と目移しの間で反転する。
【0055】
図10では、編成と目移しが可能な3個のカムシステムを用い、身頃4と左右の袖5,6のリブ編組織7~9を編成し、記号の意味は
図9と同じである。前編地の編成では、先頭のカムシステム144aを右袖5と身頃4の編成に割り当てる。2番目のカムシステム144bを目移し(右袖と身頃に対する前編地の編目の移し戻しと後編地の編目の目移し、及び左袖に対する前編地の編目の目移しと後編地の編目の移し戻し)に割り当てる。3番目のカムシステム144cは左袖6の編成に割り当てる。
【0056】
後編地の編成では、先頭のカムシステム144cを前編地の編目の移し戻しと後編地の編目の目移しに割り当て、2番目のカムシステム144bを左右の袖5,6と身頃4の編成に割り当てる。3番目のカムシステム144aを後編地の編目の移し戻しと前編地の編目の目移しに割り当てる。
【0057】
前編地の編成で、カムシステム144aに必要なストロークはストロークST1となり、カムシステム144cに必要なストロークはスロトークST2となり、これらは
図9のストロークST1,ST2と実質的に同じである。前編地と後編地共に、カムシステム144bに必要なストロークはストロークST3となる。カムシステム144a~cを連結したキャリッジ全体としては、前編地の編成でも後編地の編成でも、ストロークが短縮する。また編目の移し戻しと目移しを同じカムシステムで行うので、効率的に編成できる。
【0058】
なお前編地の編成で、身頃4の編成をカムシステム144cに割り当てても良い。また前編地の編成で、2個のカムシステム144a,144cを目移しに、カムシステム144bを編成に割り当て、かつ後編地の編成で、2個のカムシステム144a,144cを編成に割り当て、カムシステム144bを目移しに割り当てても良い。いずれの場合も、前編地の編成と後編地の編成とで、カムシステムの割当が編成と目移しの間で反転する。
【0059】
実施例では目移しを伴う編成コースとして裾のリブ編成を示したが、裾以外の場所のリブ編成も同様である。ガーター編成など、表目と裏目とが混在する編地を編成する場合も同様である。