(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189498
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】冷凍パン生地の製造方法及びパンの製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 6/00 20060101AFI20221215BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20221215BHJP
【FI】
A21D6/00
A21D13/00
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098109
(22)【出願日】2021-06-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2021年1月 8日の電話による公開 〔刊行物等〕 2021年1月28日の電話による公開 〔刊行物等〕 2021年2月 5日のホシノ天然酵母パン種社秦野工場における公開 〔刊行物等〕 2021年2月 9日の電話による公開 〔刊行物等〕 2021年2月16日の電話による公開 〔刊行物等〕 2021年2月25日のZOOM講習会による公開 〔刊行物等〕 2021年3月25日の電話による公開 〔刊行物等〕 2021年4月 6日の電話による公開 〔刊行物等〕 2021年4月13日の電話による公開 〔刊行物等〕 2021年4月15日のZOOM講習会による公開 〔刊行物等〕 2021年4月27日の電話による公開 〔刊行物等〕 2021年5月14日の電話による公開 〔刊行物等〕 2021年5月14日の顧客先における公開 〔刊行物等〕 2021年5月28日の電話による公開 〔刊行物等〕 2021年6月 2日の顧客先における公開 〔刊行物等〕 2021年6月 4日の電話による公開 〔刊行物等〕 2021年1月 7日のe-mail及び電話による公開 〔刊行物等〕 2021年2月25日のZOOM講習会による公開 〔刊行物等〕 2021年2月26日の顧客先における公開 〔刊行物等〕 2021年3月 4日の顧客先における公開 〔刊行物等〕 2021年3月 5日の顧客先における公開 〔刊行物等〕 2021年4月21日の顧客先における公開 〔刊行物等〕 2021年6月 4日の顧客先における公開
(71)【出願人】
【識別番号】000115924
【氏名又は名称】レオン自動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100123607
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 徹
(72)【発明者】
【氏名】土田 耕正
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DB36
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK41
4B032DK51
4B032DK53
4B032DK54
4B032DK70
4B032DP08
4B032DP26
4B032DP33
4B032DP38
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】食品添加剤を使用せずに、ホイロ後冷凍法を使用するのに適した冷凍パン生地の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明による冷凍パン生地の製造方法は、強力粉又は超強力粉と、麹及び/又は麹由来の酵素を含む天然酵母の生種と、塩と、砂糖と、水を含み、且つ、食品添加剤を含まない材料を混捏した後、醗酵させて、醗酵種を作る工程と、強力粉又は超強力粉と、麹及び/又は麹由来の酵素を含む天然酵母の生種と、塩と、砂糖と、油脂と、水と、上記醗酵種を含み、且つ、食品添加剤を含まない材料を混捏した後、醗酵させて、一次醗酵生地を作る工程と、一次醗酵生地を分割して丸め成形し、ホイロで醗酵させて、ホイロ後醗酵生地を作る工程と、ホイロ後醗酵生地を冷凍する工程と、を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍パン生地の製造方法であって、
(a)タンパク質の含有量が12%以上の強力粉又は超強力粉100重量部と、麹及び/又は麹由来の酵素を含む天然酵母の生種7~10重量部と、塩2重量部以下と、砂糖6重量部以下と、水55~75重量部を含み、且つ、食品添加剤を含まない材料を混捏した後、19~21℃で15時間以上醗酵させて、醗酵種を作る工程と、
(b)タンパク質の含有量が12%以上の強力粉又は超強力粉100重量部と、麹及び/又は麹由来の酵素を含む天然酵母の生種7~10重量部と、塩2重量部以下と、砂糖11重量部以下と、油脂12重量部以下と、水55~75重量部と、上記醗酵種25~50重量部を含み、且つ、食品添加剤を含まない材料を混捏した後、26~29℃で100~150分醗酵させて、一次醗酵生地を作る工程と、
(c)一次醗酵生地を分割して丸め成形し、37~39℃、55~65%のホイロで50~60分間醗酵させて、ホイロ後醗酵生地を作る工程と、
(d)ホイロ後醗酵生地を冷凍して、冷凍パン生地にする工程と、を含み、冷凍パン生地を焼成してパンにしたときに、パンの断面にランダムな大きさの気泡が散在していることを特徴とする製造製法。
【請求項2】
麹及び/又は麹由来の酵素を含む天然酵母の生種は、ホシノ天然酵母パン種を起こした生種であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記強力粉又は超強力粉は、タンパク質の含有量が13.5%以上の超強力粉であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記超強力粉は、小麦「ゆめちから」の超強力粉であることを特徴とする、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記冷凍する工程は、ホイロ後醗酵生地を-22℃~-25℃の冷凍庫で緩慢冷凍することを含む、請求項1~4の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の製造方法で製造された冷凍パン生地を、解凍することなしに焼成する工程を含む、パンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン生地及びパンの製造方法に関する。より詳細には、天然酵母種(醗酵種)を用いた冷凍パン生地の製造方法、及び、かかる冷凍パン生地からパンを作る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パン生地を最終醗酵させた後に冷凍するホイロ後冷凍法が考えられており、また、冷凍したパン生地を、解凍し又は解凍せずに焼成することにより、パンを作ることが考えられている(例えば、特許文献1参照)。今日では、最終醗酵させたパン生地を冷凍するとき、急速冷凍が用いられることが一般的である。急速冷凍とは、食品の温度を約30分以内の短時間に最大氷結晶生成温度帯(-1℃~-5℃)を通過させて凍結させることにより、氷結晶が大きくならないようにして冷凍することをいう。このため、急速冷凍を行うには、例えば、食品にマイナス30℃以下の低温の冷気を強く吹きつけるショックフリーザーが用いられる。この方法は、中堅ベーカリー又は大手ベーカリーでよく使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「北海道ブランド小麦」 https://connect-gohan.jp/user_data/packages/default/img/hokkaido_komugi.pdf
【非特許文献2】有限会社ホシノ天然酵母パン種社ホームページ https://www.hoshino-koubo.co.jp/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リテールベーカリーでも、ホイロ後冷凍法を使用できると有利である。特に、冷凍したパン生地を、解凍せずに焼成する場合、いつでも誰でもパンをすぐに焼成することができ、省人化や作業時間の短縮を実現できる。また、お客の動きを見ながら臨機応変に様々な種類のパンを焼成することができ、商品の品揃えの多様化を図ることができると共に、店舗でのチャンスロスの低減や、フードロスの削減を実現することができる。
【0006】
また、イーストフード、乳化剤などの食品添加剤を使用せずに、パン生地を作ることが要望されたり、チャパタのように大きい気泡を含む内層のパンが要望されたりすることがある。
【0007】
そこで、本発明は、食品添加剤を使用せずにホイロ後冷凍法により形成された冷凍パン生地であって、解凍せずに焼成してパンにしたときに断面全体にランダムな大きさの気泡が散在する冷凍パン生地の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、かかる冷凍パン生地からパンを作る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明による冷凍パン生地の製造方法は、
(a)タンパク質の含有量が12%以上の強力粉又は超強力粉100重量部と、麹及び/又は麹由来の酵素を含む天然酵母の生種7~10重量部と、塩2重量部以下と、砂糖6重量部以下と、水55~75重量部を含み、且つ、食品添加剤を含まない材料を混捏した後、19~21℃で15時間以上醗酵させて、醗酵種を作る工程と、
(b)タンパク質の含有量が12%以上の強力粉又は超強力粉100重量部と、麹及び/又は麹由来の酵素を含む天然酵母の生種7~10重量部と、塩2重量部以下と、砂糖11重量部以下と、油脂12重量部以下と、水55~75重量部と、上記醗酵種25~50重量部を含み、且つ、食品添加剤を含まない材料を混捏した後、26~29℃で100~150分醗酵させて、一次醗酵生地を作る工程と、
(c)一次醗酵生地を分割して丸め成形し、37~39℃、55~65%のホイロで50~60分間醗酵させて、ホイロ後醗酵生地を作る工程と、
(d)ホイロ後醗酵生地を冷凍して、冷凍パン生地にする工程と、を含み、冷凍パン生地を焼成してパンにしたときに、パンの断面にランダムな大きさの気泡が散在していることを特徴とする。
【0009】
上記製造方法において、好ましくは、麹及び/又は麹由来の酵素を含む天然酵母の生種は、「ホシノ天然酵母パン種」を起こした生種である。
【0010】
上記製造方法において、強力粉又は超強力粉は、好ましくは、タンパク質の含有量が13%以上の超強力粉であり、更に好ましくは、小麦「ゆめちから」の超強力粉である。
【0011】
上記製造方法において、好ましくは、冷凍する工程は、ホイロ後醗酵生地を-22℃~-25℃の冷凍庫で緩慢冷凍することを含む。
【0012】
また、上記目的を達成するために、本発明によるパンの製造方法は、上記何れかの製造方法で製造された冷凍パン生地を、解凍することなしに焼成する工程を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、食品添加剤を使用せずにホイロ後冷凍法により形成された冷凍パン生地であって、解凍せずに焼成してパンにしたときに断面全体にランダムな大きさの気泡が散在する冷凍パン生地の製造方法を提供する。また、本発明は、かかる冷凍パン生地からパンを作る方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図4】本発明の実施例により製造されたパンの断面図である。
【
図5】比較例により製造されたパンの断面図である。
【
図6】本発明の第2の実施例により製造されたパンの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願発明者は、北海道産の小麦「ゆめちから」の超強力粉と、有限会社ホシノ天然酵母パン種の「ホシノ天然酵母パン種」の組合せにより、上記目的を達成する冷凍パン生地を作る方法を見出した。
【0016】
小麦「ゆめちから」の超強力粉は、例えば、山本忠信商店が販売している「月の魔法」である。かかる超強力粉のたんぱく質の含有量は、約13.5%であり、一般的な強力粉(例えば、「春よ恋」の約12.5%)よりも多く、したがって、パン生地にしたときのグルテンの量も多くなり、弾力のあるパンを作ることができる。なお、小麦「ゆめちから」の超強力粉を単独でパン生地にするよりも、中力粉とブレンドしてパン生地にする方が、製パン性がよいことが知られている(非特許文献1)。
【0017】
「ホシノ天然酵母パン種」は、米由来の酵母を国産小麦、国産米、麹及び水で育てることによって作られているため、麹及び/又は麹由来の酵素を多く含んでおり、小麦でんぷんを糖化する機能、即ち、小麦でんぷんを酵母の栄養となる単糖類まで分解する機能を備えている。したがって、「ホシノ天然酵母パン種」を使用すると、イーストフード等の添加剤を配合しなくても、酵母の醗酵と小麦でんぷんの糖化が効率的に行われ、いわゆる、並行複醗酵が行われる。なお、ホシノ天然酵母パン種」は、酵母が眠っている粉状で販売されているため、それを使用するときに酵母を起こして生種にしておく必要がある。予め、「ホシノ天然酵母パン種」100重量部に対して、30℃の温水200重量部を加えて、粉気がなくなるまでよく混ぜたら、28℃で24時間静置して醗酵させ、その後、冷蔵庫で6時間以上休ませて、生種にしておく(非特許文献2)。
【0018】
以下、本発明による冷凍パン生地の製造方法及びパンの製造方法の実施形態を説明する。以下の説明で製造されるパンは、例えば、リテールベーカリー等で販売され、トッピング(例えば、コーン、枝豆、きんぴら、カスタードクリーム、粒あん)を変更することにより商品の品揃えを変更可能なパンである。
【0019】
まず、醗酵種を作る(醗酵種製造工程)。醗酵種の材料は、小麦「ゆめちから」の超強力粉100重量部と、「ホシノ天然酵母パン種」の生種7~10重量部と、塩1~2重量部と、砂糖4~6重量部と、水55~75重量部であり、ドライイーストや乳化剤等の添加剤を含まない。醗酵種の材料を全てミキサーに投入し、低速で約3分間混捏する。混捏してできた種生地の捏上げ温度は22℃前後であることが好ましい。種生地を容器に移し、19~21℃の環境下で15~24時間醗酵させて、醗酵種にする。
【0020】
引続いて、一次醗酵生地を作る(一次醗酵生地製造工程)。一次醗酵生地の材料は、小麦「ゆめちから」の超強力粉100重量部と、「ホシノ天然酵母パン種」の生種7~10重量部と、塩1~2重量部と、砂糖9~11重量部と、油脂8~12重量部と、水55~75重量部と、上述した醗酵種25~50重量部であり、ドライイーストや乳化剤等の添加剤を含まない。油脂以外の一次醗酵生地の材料をミキサーに投入し、低速で約3分間、中速で約3分間混捏した後、油脂をミキサーに投入し、低速で約3分間、中速で約3分間混捏して、本捏生地にする。本捏生地の捏上げ温度は、32℃前後であることが好ましい。本捏生地をトレイに移し、26~29℃の環境下で、100~150分間一次醗酵(フロア醗酵)させることによって、一次醗酵生地にする。
【0021】
本願発明者は、小麦「ゆめちから」の超強力粉と「ホシノ天然酵母パン種」の組合せの配合や醗酵時間を研究することにより、醗酵種製造工程と一次醗酵生地製造工程において、長い時間、酵母を持続的に醗酵させることにより、伸長され且つ弾力のあるグルテンの網目構造、即ち、グルテン膜を形成することができることを見出した。
【0022】
醗酵種製造工程と一次醗酵生地製造工程において加えられる水の割合はいずれも、超強力粉100重量部に対して55~75重量部であり、この割合は、製造されるパンの食感等によって増減され、それにより、混捏してできる生地(種生地及び本捏生地)の硬さが変化する。醗酵種製造工程において混捏してできた種生地の硬さは、自重で変形しない硬さである(
図1参照)。これは、水が、小麦粉のでんぷんの中に結合水の状態で入っていることに起因すると考えられる。「ホシノ天然酵母パン種」の醗酵(炭酸ガスの発生)は、工業用酵母(いわゆる、イースト)の発酵よりも緩やかであり、即ち、遅く、また、「ホシノ天然酵母パン種」が活発に活動する温度帯は、25~30℃である。醗酵種製造工程では、この温度帯よりも低い温度、好ましくは、約20℃の環境下で、「ホシノ天然酵母パン種」を低温発酵させ、醗酵種を熟成させる。このため、種生地の捏上げ温度は、それよりも少し高い22℃前後であることが好ましい。醗酵種の醗酵時間は、リテールベーカリーでの製造を考慮して、一晩程度(15~24時間)であるのが適当であるが、それよりも長くてもよい。醗酵種製造工程後の醗酵種の表面は、気泡による凹凸はあるが、比較的滑らかで連続的ある(
図2参照)。一方、醗酵種の内部は、「ホシノ天然酵母パン種」の発酵によって伸長されて細長くなったグルテンの網目構造を視認することができる(
図3参照)。これは、超強力粉のたんぱく質の含有量と「ホシノ天然酵母パン種」の組合せに起因する効果であると考えられる。引続いて行われる一次醗酵生地製造工程では、「ホシノ天然酵母パン種」を、それが活発に活動する温度帯、好ましくは、26~29℃の環境下で醗酵させる。一次醗酵生地では、上記網目構造が再構成され、パンを焼成したときの断面の内層に影響を及ぼす。
【0023】
麹及び/又は麹由来の酵素は、小麦たんぱくを分解して、アミノ酸の生成し、生地の風味を豊かにする効果もある。また、麹及び/又は麹由来の酵素は、脂肪を分解して、脂肪酸を生成し、pH低下による生地伸長に寄与する。すなわち、グルテンは酸により軟化する性質があり、弾力のあるグルテン膜を軟化させ、膜を伸びやすくする効果もある。一次醗酵生地製造工程において、醗酵種の割合を25~50重量部としているのは、旨味の向上及び調整、生地のpHを弱酸性にすることによるグルテン膜の伸展性の向上及び調整、酵母活性の異なる生地を加えることによる醗酵の調整のためである。また、醗酵種製造工程において、塩と砂糖を加えているのは、一次醗酵生地製造工程における醗酵種の割合が比較的大きいため、パンの味を考慮して予め加えておくためである。
【0024】
次に、一次醗酵生地を手で20~90gに分割して球状に丸め成形する。更に、丸め成形した生地を天板に並べ、温度35~38℃、湿度60~80%に設定されたホイロ(醗酵装置)で約50分間醗酵させることによって、ホイロ後醗酵生地にする。ホイロの設定は、温度38℃、湿度60%であることが好ましい。
【0025】
ホイロの醗酵時間は、一次醗酵生地の発酵時間よりも短くてよい。醗酵させた生地を分割及び成形するのに、機械を使用して手作業を減らしてもよい。機械は、生地に形成されているグルテン膜を過度に傷つけない機械、例えば、レオン自動機株式会社のVM300型秤量分割・丸めラインを使用することが好ましい。すなわち、ピストン・シリンダ型分割機を使用すると、生地に形成されているグルテン膜が傷つけられ、グルテン膜によって保持されていたガスが抜けて気泡が均質化するとともに、グルテン膜を回復させるために成形後に生地を休ませる時間(ベンチタイム)を追加することが必要となる場合がある。上記のような機械をしようすれば、ベンチタイムが不要になり、生産工程の簡略化を図ることが可能である。
【0026】
次に、成形した生地の表面全体に刷毛でオリーブオイル(食用油脂)を塗った後、生地の中央部を手で圧し潰し、円形偏平状に成形することが好ましい。
【0027】
油脂による皮膜を形成することにより、表面での水分等の放出あるいは吸水を防止できる。また、上記の円形偏平状に成形することにより、後工程でのトッピングがし易くなると共に、焼成するときの熱の伝達を効率的にすることができる。
【0028】
次いで、このパン生地を-22~-25℃の業務用冷凍機で80分~90分間静置し冷凍パン生地にする。冷凍パン生地を袋詰めし、密封した後、-18~-20℃の冷凍庫で冷凍保存するのがよい。パンを製造したいとき、冷凍パン生地を、解凍することなく焼成すればよい。例えば、焼成温度は、210℃であり、焼成時間は、12分間である。焼成する前に、冷凍パン生地の中央部のくぼみにチーズ等をトッピングしてもよい。
【0029】
上記冷凍は、急速冷凍ではなく、いわゆる、緩慢冷凍である。ホイロ後醗酵生地を冷凍する場合、一般的には、急速冷凍が用いられている。これは、緩慢冷凍を行うと、ホイロ後醗酵生地に含まれる自由水により氷結晶が多く作られ、そのときにグルテン膜が傷つけられて、焼成後のパンのボリュームが減少してしまうからである。これに対して、本実施形態によるホイロ後醗酵生地では、小麦粉と水との水和が、天然酵母による長時間の発酵によりグルテン膜が形成される過程で促進され、水がホイロ後醗酵生地に結合水の状態で含まれる割合が、自由水の状態で含まれる割合よりも多くなっていると考えられる。このため、後で説明するように、焼成後のパンのボリュームが十分に確保される。また、このように冷凍保存される冷凍パンは、冷凍耐性が高く、品質の劣化を招くことなく2ヶ月間の保存が可能である。
【0030】
また、上述した醗酵時間を採用することにより、パンを製造(焼成)したときにランダムな大きさの気泡が散在している断面を実現することができる。特に、一次醗酵生地製造工程において、比較的長い時間醗酵させることが重要である。また、グルテン膜は、高い破断力を有し(グルテン膜が破壊されにくく)、発生する炭酸ガスの保持に有効である。この生地構造は、「ホシノ天然酵母パン種」の代わりにイーストを使用したときには得られない生地構造である。なお、薄く且つ弾力のあるグルテン膜の形成と小麦粉と水の水和が促進は、醗酵種や一次醗酵生地の状態で把握することは難しく、焼成した後のパンの内層によって確認できる。このことは、後で、
図4を参照して説明する。
【0031】
次に実施例を説明する。
【0032】
まず、醗酵種を作った。小麦の超強力粉として、北海道産超強力小麦ゆめちから100%の市販の超強力粉を使用した。天然酵母の生種として、有限会社ホシノ天然酵母生種の「ホシノ天然酵母パン種」を起こした生種を使用した。食塩として、天日塩を使用し、砂糖として、さとうきび糖を使用した。超強力粉100重量部と、天然酵母の生種8重量部と、塩1.8重量部と、砂糖5重量部と、水60重量部を全て、ミキサーに投入し、低速で約3分間混捏した。混捏してできた種生地の捏上げ温度は22℃であった。種生地を容器に移し、20℃の環境下の醗酵室で15時間醗酵させることによって、醗酵種にした。
【0033】
次に、一次醗酵生地を作った。醗酵種と同様、小麦の超強力粉として、北海道産超強力小麦ゆめちから100%の市販の超強力粉を使用し、天然酵母の生種として、「ホシノ天然酵母パン種」を起こした生種を使用し、食塩として、天日塩を使用した。また、砂糖として、上白糖を使用し、油脂として、無塩バターを使用した。超強力粉100重量部と、天然酵母の生種8重量部と、塩1.5重量部と、砂糖10重量部と、水66重量部と、上述した醗酵種30重量部をミキサーに投入し、低速で3分間、中速で3分間混捏した後、油脂10重量部をミキサーに投入して、低速で3分間、中速で7分間混捏して、本捏生地にした。本捏生地の捏上げ温度は、32℃であった。本捏生地をトレイに移し、28℃の環境下で、120分間一次醗酵させることによって、一次醗酵生地にした。
【0034】
次に、一次醗酵させた本捏生地を手で90gに分割して丸めて球状に成形した。成形した生地を天板に並べ、室温38℃、湿度60%に設定されたホイロ(醗酵装置)で50分間醗酵させて、ホイロ後醗酵生地にした。
【0035】
次に、成形した生地の表面全体に刷毛でオリーブオイルを塗った後、生地の中央部を手で圧し潰し、厚さ約20mm及び外径約110mmの円形偏平状に成形し、中央部を厚さ10mmにくぼませた。この偏平状のパン生地の比容積は、1.23cc/gであった。なお、パン生地の容積は、水を満たしたボウルにパン生地を沈ませて、あふれた水の重さを測定することによって測定した。
【0036】
次に、-22℃で90分冷凍した。次いで、解凍することなしに、焼成温度210℃のオーブンで12分間焼成した。焼成後のパンは、重量84g、中央の高さ15mm、縁部の高さ35mm、外径約120mm、比容積2.68cc/gであった。すなわち、焼成前に対して約2.2倍に膨張した(
図2参照)。焼成後のパンの断面を
図4に示す。
【0037】
また、焼成の際に、冷凍パン生地の中央部のくぼみに15gのチーズをトッピングした場合、焼成後のパンは、重量84g(除くチーズ)、高さ45~50mm、比容積3.2cc/g(除くチーズ)であった。すなわち、焼成前に対して約2.6倍に膨張した。
【0038】
次に、「ホシノ天然酵母パン種」の生種の代わりに、イーストを用いた比較例を説明する。
【0039】
まず、醗酵種を作った。小麦の超強力粉として、北海道産超強力小麦ゆめちから100%である株式会社山本忠信商店の「月の魔法」を使用した。天然酵母の生種の代わりに使用するイーストとして、カネカ株式会社の「カネカイーストDR(ドルフェ(登録商標))」を使用した。食塩として、天日塩を使用し、砂糖として、さとうきび糖を使用した。超強力粉100重量部と、イースト1重量部と、塩1.8重量部と、砂糖5重量部と、水60重量部を全て、ミキサーに投入し、低速で約3分間混捏した。混捏してできた種生地の捏上げ温度は22℃であった。種生地を容器に移し、4℃の環境下の醗酵室で15時間醗酵させることによって、醗酵種にした。イーストの割合が少ないのは、イーストが工業用酵母であり、酵母が凝縮されているためあり、発酵室温度が低いのは、15時間醗酵させても生地がふきすぎ(醗酵オーバー)にならないようにするためである。
【0040】
次に、一次醗酵生地を作った。醗酵種と同様、小麦の超強力粉として、上記「月の魔法」を使用し、イーストとして、「カネカイーストDR(ドルフェ(登録商標))」を使用し、食塩として、天日塩を使用した。また、砂糖として、上白糖を使用し、油脂として、無塩バターを使用した。超強力粉100重量部と、イースト3重量部と、塩1.5重量部と、砂糖10重量部と、水72重量部と、上述した醗酵種30重量部をミキサーに投入し、低速で3分間、中速で3分間混捏した後、油脂10重量部をミキサーに投入して、低速で3分間、中速で9分間混捏して、本捏生地にした。本捏生地の捏上げ温度は、24℃であった。本捏生地をトレイに移し、28℃の環境下で、60分間一次醗酵させることによって、一次醗酵生地にした。イーストの割合が少ないのは、イーストが工業用酵母であり、酵母が凝縮されているためある。水の割合が多いのは、上記実施例において「ホシノ天然酵母パン種」を起こしたパン種が水を含んでおり、全体の水の割合を上記実施例に合わせたためである。一次醗酵の時間が短いのは、一次醗酵で膨らんだ一次醗酵生地の容積を上記実施例と合わせたためである。なお、イーストを使用する一般的なパン生地の製造における捏ね上げ温度は、25~26℃が適正であり、それよりも高い捏上げ温度になると、グルテン膜の形成を阻害して生地がふきすぎ(醗酵オーバー)になる。
【0041】
次に、一次醗酵させた本捏生地を90gに手で分割し、丸めて球状に成形した。成形した生地を天板に並べ、室温38℃、湿度60%に設定されたホイロ(醗酵装置)で30分間醗酵させて、ホイロ後醗酵生地にした。
【0042】
次に、成形した生地の表面全体に刷毛でオリーブオイルを塗った後、生地の中央部を手で圧し潰し、厚さ約20mm及び外径約110mmの円形偏平状に成形し、中央部を厚さ10mmにくぼませた。この偏平状のパン生地の比容積は、1.23cc/gであった。なお、パン生地の容積は、水を満たしたボウルにパン生地を沈ませて、あふれた水の重さを測定することによって測定した。
【0043】
次に、-22℃で90分冷凍した。次に、解凍することなしに、焼成温度210℃のオーブンで12分間焼成した。焼成後のパンの断面を
図5に示す。
【0044】
図4と
図5を参照して、「ホシノ天然酵母パン種」を用いたパンの断面と、イーストを用いたパンの断面を比較する。「ホシノ天然酵母パン種」を用いたパンでは、
図4から分かるように、断面全体にわたって、大きい気泡から小さい気泡まで様々な大きさの気泡B1~B6が分散している。また、気泡を構成している膜が薄く(後ろが透けて見えながら)広がっているところMも多数ある。すなわち、種生地及び一次醗酵生地において伸長され且つ弾力のあるグルテンの網目構造により、ランダムな大きさの気泡が散在しており、また、緩慢冷凍であっても氷結晶によるグルテン膜が傷つけられる割合が少ないことがわかる。それにより、もちもちとした弾力のある食感で、風味の良好なものパンになった。これに対して、イーストを用いたパンでは、
図5から分かるように、高さ方向の中央から下の部分は、比較的細かい気泡FBで占められ、同程度の大きさの気泡が集合している箇所が多くみられる。また、高さ方向の上部には、比較的大きい気泡LBが数個見られるが、
図4と比較すると小さく、また、大きさも同程度である。
【0045】
本願発明は、上記実施形態に限られず、本願の特許請求の範囲に含まれる他の実施形態も含む。
【0046】
上記実施形態では、緩慢冷凍であったが、急速冷凍であってもよい。
【0047】
「ホシノ天然酵母パン種」の代わりに、麹が関与している有限会社あこ天然酵母の「あこ天然培養酵母(登録商標)ライトタイプ種」等を使用してもよい。
【0048】
小麦「ゆめちから」の超強力粉の代わりに、強力粉を用いても良好な冷凍パン生地及びパンを作ることができることも分かった。強力粉は、例えば、株式会社ニップンの強力粉「イーグル」(タンパク質の含有量12%)である。焼成後のパンの断面を
図6に示す。断面全体にランダムな大きさの気泡が散在していることが分かる。