(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189499
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】玉軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 19/06 20060101AFI20221215BHJP
F16C 19/16 20060101ALI20221215BHJP
F16C 33/38 20060101ALI20221215BHJP
F16C 33/44 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
F16C19/06
F16C19/16
F16C33/38
F16C33/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098110
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和久田 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】深間 翔平
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 悠稀
(72)【発明者】
【氏名】宗吉 正樹
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA03
3J701AA04
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA54
3J701BA34
3J701BA49
3J701EA36
3J701FA04
3J701FA46
3J701XB03
3J701XB13
3J701XB14
3J701XB16
3J701XB19
3J701XB23
3J701XB26
(57)【要約】 (修正有)
【課題】保持器のポケットに挿入された玉がポケットから脱落することを防止でき、かつ幅広い用途に適用可能な玉軸受を提供する。
【解決手段】複数のポケット40Aの各々は、保持器4の径方向の外径側に開口している第1収容部41と、第1収容部41と径方向に連なっておりかつ径方向の内径側に開口している第2収容部42とを有する。玉3の外径Dwは、第1収容部41の最短距離E1よりも短く、第2収容部42の最短距離E2よりも長い。外径Dwに対するしめしろW1の比率W1/Dwは、0.002以上0.067以下である。外輪1の内径と保持器4の外径との差の半値を隙間A1とし、中立状態において複数の玉3の各々と第2収容部42との径方向の間隔を隙間B1とし、かつ外輪軌道溝1Aの径方向の深さを溝深さC1(単位:mm)としたときに、C1>A1+B1との関係式を満たす。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪軌道溝を有する外輪と、
内輪軌道溝を有する内輪と、
前記外輪軌道溝と前記内輪軌道溝との間に、前記外輪の周方向に互いに間隔を空けて配置されている複数の玉と、
前記複数の玉の各々を収容する複数のポケットを有し、前記外輪に案内される保持器とを備え、
前記複数のポケットの各々は、前記保持器の径方向の外径側に開口している第1収容部と、前記第1収容部と前記径方向に連なっておりかつ前記径方向の内径側に開口している第2収容部とを有し、
前記複数の玉の各々の外径Dw(単位:mm)は、前記第1収容部の前記周方向の一端と他端との間の最短距離E1よりも短く、前記第2収容部の前記周方向の一端と他端との間の最短距離E2よりも長く、
前記玉の外径Dwと前記最短距離E2との差の半値をしめしろW1(単位:mm)としたとき、前記外径Dwに対するしめしろW1の比率W1/Dwは、0.002以上0.067以下であり、
前記外輪の内径と前記保持器の外径との差の半値を隙間A1(単位:mm)とし、
前記外輪と前記保持器とが前記隙間A1を空けて配置されており、かつ前記玉が前記外輪軌道溝に接している中立状態において、前記複数の玉の各々と前記第2収容部との前記径方向の間隔を隙間B1(単位:mm)とし、かつ
前記外輪軌道溝の前記径方向の深さを溝深さC1(単位:mm)としたときに、C1>A1+B1との関係式を満たす、玉軸受。
【請求項2】
前記周方向に沿った断面において、前記第1収容部は、前記周方向に対向する一対の第1内周面を有し、前記第2収容部は、前記周方向に対向しかつ前記一対の第1内周面に対して前記周方向に突出している一対の第2内周面を有し、
前記最短距離E2は、前記一対の第2内周面の前記外径側に位置する端部間の最短距離である、請求項1に記載の玉軸受。
【請求項3】
前記一対の第2内周面の前記外径側に位置する端部と前記外輪の中心との間の距離F1は、前記保持器の内径よりも長い、請求項2に記載の玉軸受。
【請求項4】
外輪軌道溝を有する外輪と、
内輪軌道溝を有する内輪と、
前記外輪軌道溝と前記内輪軌道溝との間に、前記外輪の周方向に互いに間隔を空けて配置されている複数の玉と、
前記複数の玉の各々を収容する複数のポケットを有し、前記内輪に案内される保持器とを備え、
前記複数のポケットの各々は、前記保持器の径方向の内径側に開口している第3収容部と、前記第3収容部と前記径方向に連なっておりかつ前記径方向の外径側に開口している第4収容部とを有し、
前記複数の玉の各々の外径Dw(単位:mm)は、前記第3収容部の前記周方向の一端と他端との間の最短距離E3よりも短く、前記第4収容部の前記周方向の一端と他端との間の最短距離E4よりも長く、
前記玉の外径Dwと前記最短距離E4との差の半値をしめしろW2(単位:mm)としたとき、前記外径Dwに対するしめしろW2の比率W2/Dwは、0.002以上0.067以下であり、
前記内輪の外径と前記保持器の内径との差の半値を隙間A2(単位:mm)とし、
前記内輪と前記保持器とが前記隙間A2を空けて配置されており、かつ前記玉が前記内輪軌道溝に接している中立状態において、前記複数の玉の各々と前記第4収容部との前記径方向の間隔を隙間B2(単位:mm)とし、かつ
前記内輪軌道溝の前記径方向の深さを溝深さC2(単位:mm)としたときに、C2>A2+B2との関係式を満たす、玉軸受。
【請求項5】
前記周方向に沿った断面において、前記第3収容部は、前記周方向に対向する一対の第3内周面を有し、前記第4収容部は、前記周方向に対向しかつ前記一対の第3内周面に対して前記周方向に突出している一対の第4内周面を有し、
前記最短距離E4は、前記一対の第4内周面の前記内径側に位置する端部間の最短距離である、請求項4に記載の玉軸受。
【請求項6】
前記一対の第4内周面の前記内径側に位置する端部と前記内輪の中心との間の距離F2は、前記保持器の外径よりも短い、請求項5に記載の玉軸受。
【請求項7】
前記複数のポケットの各々の形状は、円筒形状、円錐形状、または球形状である、請求項1~6のいずれか1項に記載の玉軸受。
【請求項8】
前記保持器を構成する材料は、金属およびポリアミド樹脂の少なくともいずれかを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の玉軸受。
【請求項9】
アンギュラ玉軸受、3点接触玉軸受、または4点接触玉軸受のいずれかである、請求項1~8のいずれか1項に記載の玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2016-53424号公報(特許文献1)には、外輪または内輪に案内される保持器と、該保持器を案内する外輪または内輪、および玉とからなる一体物において保持器のポケットに挿入された玉がポケットから脱落することを防止するためにポケットの一方の開口幅を狭める突出部と、ポケットへの玉の挿入を容易にするために隣り合うポケット間に配置されている柱部に形成された複数の溝部とを有する保持器、および該保持器を備える玉軸受が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の玉軸受では、保持器の柱部の周方向の幅が広く設けられる必要があるため、玉数が制限され、結果玉軸受の負荷容量が制限されるために、玉軸受の用途が制限される。
【0005】
本発明の主たる目的は、保持器のポケットに挿入された玉がポケットから脱落することを防止でき、かつ幅広い用途に適用可能な玉軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施の形態に係る玉軸受は、内輪軌道溝を有する内輪と、外輪軌道溝を有する外輪と、内輪軌道溝と外輪軌道溝との間に、外輪の周方向に互いに間隔を空けて配置されている複数の玉と、複数の玉の各々を収容する複数のポケットを有し、外輪に案内される保持器とを備える。複数のポケットの各々は、保持器の径方向の外径側に開口している第1収容部と、第1収容部と径方向に連なっておりかつ径方向の内径側に開口している第2収容部とを有する。複数の玉の各々の外径Dw(単位:mm)は、第1収容部の周方向の一端と他端との間の最短距離E1よりも短く、第2収容部の周方向の一端と他端との間の最短距離E2よりも長い。玉の外径Dwと最短距離E2との差の半値をしめしろW1(単位:mm)としたとき、外径Dwに対するしめしろW1の比率W1/Dwは、0.002以上0.067以下である。外輪の内径と保持器の外径との差の半値を隙間A1(単位:mm)とし、外輪と保持器とが隙間A1を空けて配置されており、かつ玉が外輪軌道溝に接している中立状態において、複数の玉の各々と第2収容部との径方向の間隔を隙間B1(単位:mm)とし、かつ外輪軌道溝の径方向の深さを溝深さC1(単位:mm)としたときに、C1>A1+B1との関係式を満たす。
【0007】
上記玉軸受では、周方向に沿った断面において、第1収容部は、周方向に対向する一対の第1内周面を有し、第2収容部は、周方向に対向しかつ一対の第1内周面に対して周方向に突出している一対の第2内周面を有する。最短距離E2は、一対の第2内周面の外径側に位置する端部間の最短距離である。
【0008】
上記玉軸受では、一対の第2内周面の外径側に位置する端部と外輪の中心との間の距離F1は、保持器の内径よりも長い。
【0009】
本発明の他の一実施の形態に係る玉軸受は、内輪軌道溝を有する内輪と、外輪軌道溝を有する外輪と、内輪軌道溝と外輪軌道溝との間に、外輪の周方向に互いに間隔を空けて配置されている複数の玉と、複数の玉の各々を収容する複数のポケットを有し、内輪に案内される保持器とを備える。複数のポケットの各々は、保持器の径方向の内径側に開口している第3収容部と、第3収容部と径方向に連なっておりかつ径方向の外径側に開口している第4収容部とを有する。複数の玉の各々の外径Dw(単位:mm)は、第3収容部の周方向の一端と他端との間の最短距離E3よりも短く、第4収容部の周方向の一端と他端との間の最短距離E4よりも長い。玉の外径Dwと最短距離E4との差の半値をしめしろW2(単位:mm)としたとき、外径Dwに対するしめしろW2の比率W2/Dwは、0.002以上0.067以下である。内輪の外径と保持器の内径との差の半値を隙間A2(単位:mm)とし、内輪と保持器とが隙間A2を空けて配置されており、かつ玉が内輪軌道溝に接している中立状態において、複数の玉の各々と第4収容部との径方向の間隔を隙間B2(単位:mm)とし、かつ内輪軌道溝の径方向の深さを溝深さC2(単位:mm)としたときに、C2>A2+B2との関係式を満たす。
【0010】
上記玉軸受では、周方向に沿った断面において、第3収容部は、周方向に対向する一対の第3内周面を有し、第4収容部は、周方向に対向しかつ一対の第3内周面に対して周方向に突出している一対の第4内周面を有する。最短距離E4は、一対の第4内周面の内径側に位置する端部間の最短距離である。
【0011】
上記玉軸受では、一対の第4内周面の内径側に位置する端部と内輪の中心との間の距離F2は、保持器の外径よりも短い。
【0012】
上記玉軸受の複数のポケットの各々の形状は、円筒形状、円錐形状、または球形状である。
【0013】
上記玉軸受の保持器を構成する材料は、金属およびポリアミド樹脂の少なくともいずれかを含む。
【0014】
上記玉軸受は、アンギュラ玉軸受、3点接触玉軸受、または4点接触玉軸受のいずれかである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、保持器のポケットに挿入された玉がポケットから脱落することを防止でき、かつ幅広い用途に適用可能な玉軸受を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施の形態1に係る玉軸受の一例としての4点接触玉軸受を示す断面図である。
【
図2】
図1に示される外輪、玉、および保持器の一体物である第1アセンブリが中立状態にあるときの、外輪、保持器、および中心を挟んで配置された2つの玉の位置関係を説明するための、断面模式図である。
【
図3】
図2に示される第1アセンブリの部分拡大断面図である。
【
図4】
図2に示される第1アセンブリ中の保持器が外輪に接触した第1接触状態にあるときの、外輪、保持器、および中心を挟んで配置された2つの玉の位置関係を説明するための、断面模式図である。
【
図6】
図5に示される第1アセンブリ中の玉が保持器に接触した第2接触状態にあるときの部分拡大断面図である。
【
図7】実施の形態2に係る玉軸受の、外輪、玉、および保持器の一体物である第2アセンブリが中立状態にあるときの、外輪、保持器、および中心を挟んで配置された2つの玉の位置関係を説明するための、断面模式図である。
【
図8】
図7に示される第2アセンブリが中立状態にあるときの部分拡大断面図である。
【
図9】
図7に示される第1アセンブリ中の保持器が外輪に接触した第3接触状態にあるときの、外輪、保持器、および中心を挟んで配置された2つの玉の位置関係を説明するための、断面模式図である。
【
図10】
図7に示される第2アセンブリ中の保持器が内輪に接触した第3接触状態にあるときの、周方向に垂直な部分拡大断面図である。
【
図11】
図10に示される第2アセンブリ中の玉が保持器に接触した第4接触状態にあるときの部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。以下の図面においては、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さない。また、以下では、玉軸受の軸方向、周方向、および径方向を、単に軸方向、周方向、径方向とよぶ。
【0018】
(実施の形態1)
<玉軸受10および第1アセンブリ5の構成>
図1に示されるように、実施の形態1に係る玉軸受10は、外輪1、内輪2、複数の玉3、および保持器4を主に備える。
図2および
図3に示されるように、玉軸受10では、外輪1、複数の玉3、および保持器4が、一体物として、内輪2から分離するように設けられている。以下、外輪1、複数の玉3、および保持器4の一体物を、第1アセンブリ5とよぶ。
【0019】
外輪1は、周方向に沿って延びる外輪軌道溝1Aと、軸方向において外輪軌道溝1Aを挟むように配置されており、周方向に沿った延びる2つの肩部を有している。外輪1の2つの肩部は、内径面1Bを有している。外輪1の内径は、保持器4の外径よりも長い。外輪1の内径と保持器4の外径との差の半値を隙間A1とする。
【0020】
内輪2は、周方向に沿って延びる内輪軌道溝2Aと、軸方向において内輪軌道溝2Aを挟むように配置されており、周方向に沿った延びる2つの肩部を有している。内輪2の2つの肩部は、外径面2Bを有している。外径面2Bは、径方向において、保持器4を挟んで内径面1Bと対向している。
【0021】
複数の玉3は、外輪軌道溝1Aと内輪軌道溝2Aとの間に、周方向に互いに間隔を空けて配置されている。複数の玉3の各々は、互いに同等の構成を有している。
【0022】
保持器4は、径方向において外輪1と内輪2との間に配置されている。保持器4は、外輪1の内径面1Bと対向する外径面と、内輪2の外径面2Bと対向する内径面とを有している。保持器4は、複数の玉3の各々を収容する複数のポケット40Aと、周方向に隣り合う2つのポケット40A間に配置されている柱部40Bとを有している。保持器4の柱部40Bには、保持器4の内径面に開口した溝が形成されていない。保持器4は、各ポケット40Aに1つの玉3が挿入された状態で、外輪1により回転案内されるように設けられている。
【0023】
図1および
図2に示されるように、各ポケット40Aは、保持器4の上記外径面に開口している第1収容部41と、保持器4の上記内径面に開口している第2収容部42とを有している。第2収容部42は、第1収容部41と径方向に連なっている。
【0024】
図1および
図2に示されるように、第2収容部42の開口幅は、第1収容部41の開口幅よりも狭い。
図1に示されるように、第2収容部42の軸方向の一端と他端との間の最短距離G2は、第1収容部41の軸方向の一端と他端との間の最短距離G1よりも短い。
【0025】
図3に示されるように、第2収容部42の周方向の一端と他端との間の最短距離E2は、第1収容部41の周方向の一端と他端との間の最短距離E1よりも短い。玉3の外径Dwは、最短距離E1よりも短く、最短距離E2よりも長い。言い換えると、各ポケット40Aには、該ポケットに収容されている玉3と第1収容部41との間にしめしろW1が設けられている。しめしろW1は、玉3の外径Dwと最短距離E2との差の半値である。
【0026】
図3に示されるように、第1収容部41は、周方向に対向する一対の第1内周面41Aを有している。第2収容部42は、周方向に対向する一対の第2内周面42Aを有している。一対の第2内周面42Aは、一対の第1内周面41Aに対して周方向に突出している。最短距離E1は、一対の第1内周面41A間の最短距離である。最短距離E2は、一対の第2内周面42A間の最短距離である。玉軸受10の中心と、第2内周面42Aの径方向の外側に位置する外周端部D1との間の距離F1は、保持器4の内径よりも大きく、保持器4の外径よりも小さい。
【0027】
ポケット40Aの第1収容部41および第2収容部42の各々は、例えば円筒形状を有している。この場合、一対の第1内周面41Aは、円筒の内周面として構成されている第1内周面41Aのうち第1収容部41の中心軸を挟んで対向する各一部により構成されている。一対の第2内周面42Aは、円筒の内周面として構成されている第2内周面42Aのうち第2収容部42の中心軸を挟んで対向する各一部により構成されている。第1収容部41の中心軸は、第2収容部42の中心軸と同軸上に配置されている。
【0028】
図2および
図3に示される第1アセンブリ5は、中立状態にある。第1アセンブリ5の中立状態とは、第1アセンブリ5において少なくとも以下の2つの状態が同時に実現されている状態である。第1に、第1アセンブリ5において各玉3が外輪軌道溝1Aに接している。第2に、外輪1の内径面1Bと保持器4の上記外径面とが周方向に一定の隙間A1を空けて配置されている。
図3では、さらに、1つの玉3に対して周方向の一方側に位置する第1内周面41Aの一部と当該1つの玉3との間隔が、当該1つの玉3に対して周方向の他方側に位置する第1内周面41Aの他の一部と当該1つの玉3との間隔と等しい。
【0029】
1つの玉3の外径Dw(単位:mm)に対するしめしろW1(単位:mm)の比率W1/Dwは、0.002以上0.067以下である。上記比率W1/Dwが0.002未満である場合、玉3が保持器4のポケット40Aの第2収容部42から脱落するおそれがある。上記比率W1/Dwが0.067超えである場合、保持器4のポケット40Aの第2収容部42側から玉3を挿入することは困難である。
【0030】
上述のように、外輪1の内径と保持器4の外径との差の半値を隙間A1(単位:mm)とする。上記中立状態において、複数の玉3の各々と第2収容部42との径方向の間隔を隙間B1(単位:mm)とする。隙間B1は、玉3と第2内周面42Aの上記外周端部D1との間の径方向の間隔である。外輪軌道溝1Aの径方向の深さを溝深さC1(単位:mm)とする。第1アセンブリ5では、隙間A1、隙間B1、および溝深さC1が、C1>A1+B1との関係式を満たすように設けられている。
【0031】
図4および
図5に示される第1アセンブリ5は、第1接触状態にある。第1アセンブリ5の第1接触状態とは、
図2および
図3に示される第1アセンブリ5の中立状態に対し、保持器4のみが径方向の一方の側に移動することにより、保持器4の外径面の一部が外輪1の内径面1Bの一部に接触している状態である。
図4および
図5に示される外輪1および玉3は、
図2および
図3に示される外輪1および玉3と同じ位置にある。
【0032】
図5に示されるように、第1接触状態では、外輪1と保持器4との間の隙間の最大間隔は、上記隙間A1の倍の値2A1となる。最大間隔2A1は、外輪1の中心に対して、外輪1と保持器4とが接触している部分とは反対側に位置する外輪1の内径面1Bと保持器4の外径面との隙間の間隔である。第1接触状態において、玉3と第2収容部42との径方向の最大間隔、すなわち玉3と第2内周面42Aの上記外周端部D1との間の径方向の最大間隔は、上記隙間A1と上記隙間B1との和となる。
【0033】
図6に示される第1アセンブリ5は、第2接触状態にある。第1アセンブリ5の第2接触状態とは、
図4および
図5に示される第1アセンブリ5の第1接触状態に対し、玉3のみが径方向の一方の側(内径側)に移動することにより、玉3の一部が保持器4の第2内周面42Aの上記外周端部D1に接触している状態である。玉3の径方向への移動距離は、上記第1接触状態において、玉3と第2内周面42Aの上記外周端部D1との間の径方向の最大間隔、すなわち上記隙間A1と上記隙間B1との和A1+B1に等しい。
図6に示される外輪1および保持器4は、
図4および
図5に示される外輪1および保持器4と同じ位置にある。
【0034】
図6に示されるように、第2接触状態では、第1接触状態と同様に、外輪1と保持器4との間の隙間の最大間隔は、上記隙間A1の倍の値2A1となる。第2接触状態において、玉3と外輪軌道溝1Aの最深部との間の径方向の最大間隔は、溝深さC1から、第1接触状態から第2接触状態に移行する際の玉3の移動距離(上記和A1+B1)を引いた距離C1-(A1+B1)となる。上述のように、第1アセンブリ5ではC1>A1+B1が成立するため、第2接触状態において玉3と外輪軌道溝1Aの最深部との間の径方向の最大間隔は、溝深さC1よりも短くなる。言い換えると、第2接触状態において外輪1の内径面1Bに対して玉3の径方向の突出量は、ゼロよりも大きくなる。そのため、第1アセンブリ5が第2接触状態にあるときにも、玉3は保持器4のポケット40Aの第1収容部41側から脱落しない。
【0035】
保持器4を構成する材料は、金属および樹脂の少なくともいずれかを含んでいればよいが、好ましくはポリアミド樹脂を含む。
【0036】
保持器4の柱部40Bには、保持器4の内径面に開口した溝が形成されていない。そのため、ポケット40Aは、比較的密に配置され得る。ポケット40Aの数は、特に制限されない。
【0037】
なお、玉軸受10の寸法は、特に制限されないが、例えば各玉3の外径Dwは、0.1mm以上150mm以下である。各ポケット40Aの形状は、円錐形状または球形状であってもよい。
【0038】
<玉軸受10および第1アセンブリ5の製造方法>
玉軸受10を製造する方法は、第1アセンブリ5を製造する工程と、第1アセンブリ5に内輪2を嵌めあわせる工程とを備える。
【0039】
具体的には、まず外輪1、内輪2、複数の玉3、および保持器4が準備される。次に、外輪1の中心軸と保持器4の中心軸とが重なるように配置される。次に、複数の玉3が、保持器4の各ポケット40Aに第2収容部42側から押し込まれる。このようにして、第1アセンブリ5が製造される。さらに、内輪2が第1アセンブリ5に嵌めあわされることにより、玉軸受10が製造される。
【0040】
<玉軸受10および第1アセンブリ5の効果>
玉軸受10では、上記比率W1/Dwが0.067以下であるため、保持器4の柱部40Bに溝が形成されていなくても、玉3が第2収容部42側からポケット40Aに挿入され得る。そのため、玉3の数および玉軸受10の負荷容量は溝を理由に制限されず、玉軸受10は幅広い用途に適用可能である。例えば、玉軸受10は、自動車のトランスミッション用の玉軸受、航空機用の玉軸受に適用可能である。
【0041】
さらに、玉軸受10では、上記比率W1/Dwが0.002以上であるため、玉3が保持器4のポケット40Aの第2収容部42側から脱落することが防止されており、かつC1>A1+B1との関係式が成立するため、玉3が保持器4のポケット40Aの第1収容部41側から脱落することが防止されている。その結果、玉軸受10では、保持器4のポケット40Aに挿入された玉3がポケット40Aから脱落することが防止されている。
【0042】
保持器4を構成する材料は、金属および樹脂の少なくともいずれかを含む。このような保持器4を備える玉軸受10においても、上記比率W1/Dwが0.002以上0.067以下であり、かつC1>A1+B1との関係式が成立することにより、上記効果が奏される。
【0043】
また、保持器4を構成する材料がポリアミド樹脂を含んでいれば、玉3が第2収容部42側からポケット40Aにさらに容易に挿入され得る。
【0044】
玉軸受10は、4点接触玉軸受であるが、これに限られない。実施の形態1に係る玉軸受は、例えばアンギュラ玉軸受、または3点接触玉軸受であってもよい。
【0045】
(実施の形態2)
実施の形態2に係る玉軸受は、実施の形態1に係る玉軸受10と基本的に同様の構成を備えるが、内輪2、複数の玉3、および保持器4が、一体物として、外輪1から分離するように設けられている点で、玉軸受10とは異なる。以下では、玉軸受10と異なる点を主に説明する。
【0046】
図7に示される内輪2、複数の玉3、および保持器4の一体物を、第2アセンブリ6とよぶ。保持器4の柱部40Bには、保持器4の外径面に開口した溝が形成されていない。
【0047】
図8に示されるように、各ポケット40Aは、保持器4の上記内径面に開口している第3収容部43と、保持器4の上記外径面に開口している第4収容部44とを有している。第4収容部44は、第3収容部43と径方向に連なっている。
【0048】
第4収容部44の開口幅は、第3収容部43の開口幅よりも狭い。第4収容部44の軸方向の一端と他端との間の最短距離は、第3収容部43の軸方向の一端と他端との間の最短距離よりも短い。
【0049】
図8に示されるように、第4収容部44の周方向の一端と他端との間の最短距離E4は、第3収容部43の周方向の一端と他端との間の最短距離E3よりも短い。玉3の外径Dwは、最短距離E3よりも短く、最短距離E4よりも長い。言い換えると、各ポケット40Aには、該ポケットに収容されている玉3と第3収容部43との間にしめしろW2が設けられている。しめしろW2は、玉3の外径Dwと最短距離E4との差の半値である。
【0050】
図8に示されるように、第3収容部43は、周方向に対向する一対の第3内周面43Aを有している。第4収容部44は、周方向に対向する一対の第4内周面44Aを有している。一対の第4内周面44Aは、一対の第3内周面43Aに対して周方向に突出している。最短距離E3は、一対の第3内周面43A間の最短距離である。最短距離E4は、一対の第4内周面44A間の最短距離である。玉軸受10の中心と、第2内周面42Aの径方向の内側に位置する内周端部D2との間の距離F2は、保持器4の内径よりも大きく、保持器4の外径よりも小さい。
【0051】
ポケット40Aの第3収容部43および第4収容部44の各々は、例えば円筒形状を有している。この場合、一対の第3内周面43Aは、円筒の内周面として構成されている第3内周面43Aのうち第3収容部43の中心軸を挟んで対向する各一部により構成されている。一対の第4内周面44Aは、円筒の内周面として構成されている第4内周面44Aのうち第4収容部44の中心軸を挟んで対向する各一部により構成されている。第3収容部43の中心軸は、第4収容部44の中心軸と同軸上に配置されている。
【0052】
図7および
図8に示される第2アセンブリ6は、中立状態にある。第2アセンブリ6の中立状態とは、第2アセンブリ6において少なくとも以下の2つの状態が同時に実現されている状態である。第1に、第2アセンブリ6において各玉3が内輪軌道溝2Aに接している。第2に、内輪2の外径面2Bと保持器4の上記内径面とが周方向に一定の隙間A2を空けて配置されている。
図8では、さらに、1つの玉3に対して周方向の一方側に位置する第3内周面43Aの一部と当該1つの玉3との間隔が、当該1つの玉3に対して周方向の他方側に位置する第3内周面43Aの他の一部と当該1つの玉3との間隔と等しい。
【0053】
1つの玉3の外径Dw(単位:mm)に対するしめしろW2(単位:mm)の比率W2/Dwは、0.002以上0.067以下である。上記比率W2/Dwが0.002未満である場合、玉3が保持器4のポケット40Aの第4収容部44から脱落するおそれがある。上記比率W2/Dwが0.067超えである場合、玉3が保持器4のポケット40Aの第4収容部44側から挿入することが困難である。
【0054】
上述のように、内輪2の外径と保持器4の内径との差の半値を隙間A2(単位:mm)とする。上記中立状態において、複数の玉3の各々と第4収容部44との径方向の間隔を隙間B2(単位:mm)とする。隙間B2は、玉3と第4内周面44Aの上記内周端部D2との間の径方向の間隔である。内輪軌道溝2Aの径方向の深さを溝深さC2(単位:mm)とする。第2アセンブリ6では、隙間A2、隙間B2、および溝深さC2が、C2>A2+B2との関係式を満たすように設けられている。
【0055】
図9および
図10に示される第2アセンブリ6は、第3接触状態にある。第2アセンブリ6の第3接触状態とは、
図7および
図8に示される第2アセンブリ6の中立状態に対し、保持器4のみが径方向の一方の側に移動することにより、保持器4の内径面の一部が内輪2の外径面2Bの一部に接触している状態である。
図9および
図10に示される内輪2および玉3は、
図7および
図8に示される内輪2および玉3と同じ位置にある。
【0056】
図10に示されるように、第3接触状態では、内輪2と保持器4との間の隙間の最大間隔は、上記隙間A2の倍の値2A2となる。最大間隔2A2は、内輪2の中心に対して、内輪2と保持器4とが接触している部分とは反対側に位置する内輪2の外径面2Bと保持器4の内径面との隙間の間隔である。第3接触状態において、玉3と第4収容部44との径方向の最大間隔、すなわち玉3と第4内周面44Aの上記内周端部D2との間の径方向の最大間隔は、上記隙間A2と上記隙間B2との和となる。
【0057】
上記中立状態および上記第3接触状態では、玉3は内輪軌道溝2Aの最深部と接している。上記中立状態および上記第3接触状態では、玉3は、内輪軌道溝2Aに収容されている部分と、第3収容部43および第4収容部44の各々に収容されている部分と、内輪2と保持器4との隙間に配置されている部分と、保持器4よりも外径側に配置されている部分とから成る。
【0058】
図11に示される第2アセンブリ6は、第4接触状態にある。第2アセンブリ6の第4接触状態とは、
図10に示される第2アセンブリ6の第3接触状態に対し、玉3のみが径方向の一方の側(外径側)に移動することにより、玉3の一部が保持器4の第4内周面44Aの上記内周端部D2に接触している状態である。玉3の径方向への移動距離は、上記第3接触状態において、玉3と第4内周面44Aの上記内周端部D2との間の径方向の最大間隔、すなわち上記隙間A2と上記隙間B2との和A2+B2に等しい。
図11に示される内輪2および保持器4は、
図10に示される内輪2および保持器4と同じ位置にある。
【0059】
図11に示されるように、第4接触状態では、第3接触状態と同様に、内輪2と保持器4との間の隙間の最大間隔は、上記隙間A2の倍の値2A2となる。第4接触状態において、玉3と内輪軌道溝2Aの最深部との間の径方向の最大間隔は、溝深さC2から、第3接触状態から第4接触状態に移行する際の玉3の移動距離(上記和A2+B2)を引いた距離C2-(A2+B2)となる。上述のように、第2アセンブリ6ではC2>A2+B2が成立するため、第4接触状態において玉3と内輪軌道溝2Aの最深部との間の径方向の最大間隔は、溝深さC2よりも短くなる。言い換えると、第4接触状態において内輪2の外径面2Bに対して玉3の径方向の突出量は、ゼロよりも大きくなる。そのため、第2アセンブリ6が第4接触状態にあるときにも、玉3は第2アセンブリ6から脱落しない。
【0060】
つまり、上記第4接触状態でも、玉3は、内輪軌道溝2Aに収容されている部分と、第3収容部43および第4収容部44の各々に収容されている部分と、内輪2と保持器4との隙間に配置されている部分と、保持器4よりも外径側に配置されている部分とから成る。
【0061】
<玉軸受および第2アセンブリ6の製造方法>
実施の形態2に係る玉軸受を製造する方法は、第2アセンブリ6を製造する工程と、第2アセンブリ6に外輪1を嵌めあわせる工程とを備える。
【0062】
具体的には、まず外輪1、内輪2、複数の玉3、および保持器4が準備される。次に、内輪2の中心軸と保持器4の中心軸とが重なるように配置される。次に、複数の玉3が、保持器4の各ポケット40Aに第4収容部44側から押し込まれる。このようにして、第2アセンブリ6が製造される。さらに、外輪1が第2アセンブリ6に嵌めあわされることにより、実施の形態2に係る玉軸受が製造される。
【0063】
<玉軸受および第2アセンブリ6の効果>
実施の形態2に係る玉軸受では、上記比率W2/Dwが0.067以下であるため、保持器4の柱部40Bに溝が形成されていなくても、玉3が第4収容部44側からポケット40Aに挿入され得る。そのため、玉3の数および玉軸受10の負荷容量は溝を理由に制限されず、玉軸受10は幅広い用途に適用可能である。
【0064】
さらに、実施の形態2に係る玉軸受では、上記比率W2/Dwが0.002以上であるため、玉3が保持器4のポケット40Aの第4収容部44側から脱落することが防止されており、かつC2>A2+B2との関係式が成立するため、玉3が保持器4のポケット40Aの第3収容部43側から脱落することが防止されている。その結果、実施の形態2に係る玉軸受では、保持器4のポケット40Aに挿入された玉3がポケット40Aから脱落することが防止されている。
【0065】
以上のように本発明の実施形態について説明を行ったが、上述の実施形態を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は、上述の実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むことが意図される。
【符号の説明】
【0066】
1 外輪、1A 外輪軌道溝、1B 内径面、2 内輪、2A 内輪軌道溝、2B 外径面、3 玉、4 保持器、5 第1アセンブリ、6 第2アセンブリ、10 玉軸受、40A ポケット、40B 柱部、41 第1収容部、41A 第1内周面、42 第2収容部、42A 第2内周面、43 第3収容部、43A 第3内周面、44 第4収容部、44A 第4内周面、D1 外周端部、D2 内周端部。