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特開2022-189511リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池
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  • 特開-リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池 図1
  • 特開-リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189511
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20221215BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221215BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/36 C
H01M4/66 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098128
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519100310
【氏名又は名称】APB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】草野 亮介
(72)【発明者】
【氏名】土田 和也
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AS02
5H017CC01
5H017EE07
5H017HH00
5H017HH05
5H050AA14
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA20
5H050CA22
5H050CA25
5H050CA26
5H050CB09
5H050DA02
5H050DA04
5H050FA01
5H050FA17
5H050FA18
5H050HA00
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】電解液の熱分解が生じるような異常時であっても枠状部材と正極側の集電体との剥離強度が低下しにくく、信頼性の高いリチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池を提供すること。
【解決手段】集電体と、上記集電体上に配置される正極活物質粒子を含む正極組成物と、上記集電体上に配置され、かつ、上記正極組成物の周囲を囲むように環状に配置される枠状部材と、からなり、上記枠状部材の表面エネルギーが35mN/m以上であることを特徴とするリチウムイオン電池用正極。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、前記集電体上に配置される正極活物質粒子を含む正極組成物と、前記集電体上に配置され、かつ、前記正極組成物の周囲を囲むように環状に配置される枠状部材と、からなり、
前記枠状部材の表面エネルギーが35mN/m以上であることを特徴とするリチウムイオン電池用正極。
【請求項2】
前記正極活物質粒子は、表面の少なくとも一部が高分子化合物を含む被覆層で被覆されている被覆正極活物質粒子である請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極。
【請求項3】
前記集電体が樹脂集電体であり、
前記樹脂集電体の表面エネルギーが30mN/m以上である請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用正極。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用正極を備えることを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、高エネルギー密度、高出力密度が達成できる二次電池として、近年様々な用途に多用されている。一般的なリチウムイオン電池は、集電体の一面に正極活物質層及び負極活物質層をそれぞれ設けた後に、活物質層間にセパレータを挾んでこれら正極活物質と負極活物質を積層することで略平板状のリチウム二次単電池を製造し、この単電池を複数層積層して構成される。
【0003】
リチウムイオン電池を構成する材料のうち、正極と負極との短絡を防ぐ部材であるセパレータとしては、安全性の観点からポリオレフィンの多孔質膜を基材としたものが多く用いられている。ポリオレフィンの多孔質膜は、電池が短絡や過充電などによって急激に発熱した時に溶融して空孔を閉塞することで電池の内部抵抗を上昇させて電池の安全性を向上させる機能(シャットダウン機能)がある。
【0004】
一方で、セパレータ基材であるポリオレフィンの多孔質膜は、延伸によって多孔質構造を形成しているため、所定の温度(収縮温度)以上に加熱されると収縮・変形(以下、熱変形ともいう)を起こす特性を有している。そのため、電池の使用による発熱や電池製造時に加えられる熱によってセパレータ基材の温度が上記収縮温度を超えて熱変形を起こしてしまい、内部短絡が発生する恐れがあった。
【0005】
熱変形による内部短絡を防止できるセパレータとして、セパレータ本体と、セパレータ本体の外周に沿って環状に配置される枠状部材とからなり、枠状部材が、耐熱性環状支持部材とその表面に配置されるシール層からなるセパレータが開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-053877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
枠状部材には、セパレータが熱変形を起こした場合であっても、正極と負極との短絡を防止することが求められる。しかし、特許文献1に記載の枠状部材を使用した場合、セパレータの熱変形が生じる温度よりもさらに高い温度まで上昇した際に、枠状部材と正極側の集電体との剥離強度が低下して剥離が起こりやすくなることがあった。この理由は、電解液を構成する電解質塩が高温下で熱分解されることによって、電池内部が酸性環境に変化することによると考えられる。枠状部材と集電体との剥離が生じると、正極と負極との短絡が生じるおそれがあることから、電解液の熱分解が生じるような異常時であっても枠状部材と集電体との剥離を生じさせない、信頼性の高い枠状部材が求められている。
【0008】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、電解液の熱分解が生じるような異常時であっても枠状部材と正極側の集電体との剥離強度が低下しにくく、信頼性の高いリチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、集電体と、上記集電体上に配置される正極活物質粒子を含む正極組成物と、上記集電体上に配置され、かつ、上記正極組成物の周囲を囲むように環状に配置される枠状部材と、からなり、上記枠状部材の表面エネルギーが35mN/m以上であることを特徴とするリチウムイオン電池用正極、及び、本発明のリチウムイオン電池用正極を備えることを特徴とするリチウムイオン電池に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池は、電解液の熱分解が生じるような異常時であっても枠状部材と正極側の集電体との剥離強度が低下しにくく、信頼性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明のリチウムイオン電池用正極の一例を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、図1におけるA-A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において、リチウムイオン電池と記載する場合、リチウムイオン二次電池も含む概念とする。
【0013】
[リチウムイオン電池用正極]
本発明のリチウムイオン電池用正極は、集電体と、上記集電体上に配置される正極活物質粒子を含む正極組成物と、上記集電体上に配置され、かつ、上記正極組成物の周囲を囲むように環状に配置される枠状部材と、からなり、上記枠状部材の表面エネルギーが35mN/m以上であることを特徴とする。
【0014】
図1は、本発明のリチウムイオン電池用正極の一例を模式的に示す斜視図である。図2は、図1におけるA-A線断面図である。
【0015】
図1及び図2に示すように、リチウムイオン電池用正極1は、集電体10と、正極組成物20と、枠状部材30とを備える。
正極組成物20は、集電体10上に配置される。
枠状部材30は、集電体10上に配置され、かつ、正極組成物の周囲を囲むように環状に配置される。
枠状部材30は、上面視した際の外形形状及び内形形状が、いずれも正方形である。
枠状部材30の内側には、正極組成物20が配置されている。
【0016】
枠状部材の表面エネルギーは、35mN/m以上である。
枠状部材の表面エネルギーが35mN/m以上であると、電解液の熱分解が生じるような異常時であっても枠状部材と正極側の集電体との剥離強度が低下しにくく、枠状部材と集電体との剥離強度を向上させることができる。
正極側の集電体を正極集電体ともいう。
【0017】
枠状部材の表面エネルギーは、ダインペンを用いることにより測定することができる。具体的には、複数のダインペンを用いて枠状部材の表面に線を引き、2秒後に枠状部材の表面のインクの状態が変化していないか(液滴化していないか)を確認することにより、枠状部材の表面エネルギーを測定できる。複数のダインペンは、内部に充填されたインクの表面エネルギーがそれぞれ異なっている。線を引いた2秒後に枠状部材の表面のインクの状態が変化していないインクのうち、最も表面エネルギーが大きいインクの表面エネルギーが、枠状部材の表面エネルギーとなる。
【0018】
枠状部材の表面エネルギーは、40mN/m以上であることが好ましく、45mN/m以上であることがより好ましく、50mN/m以上であることが特に好ましい。
枠状部材の表面エネルギーが高いほど、酸性条件下における枠状部材と集電体との剥離強度をさらに向上させることができる。
【0019】
枠状部材を構成する材料及びその混合割合を調整することで、枠状部材の表面エネルギーを調整することができる。
【0020】
枠状部材は、ポリオレフィン樹脂を含んでいることが好ましい。
ポリオレフィン樹脂は、枠状部材の表面エネルギーを35mN/m以上に調整しやすい。
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、東ソー(株)製 メルセン(登録商標)G等が挙げられる。
【0021】
枠状部材は、ポリオレフィン樹脂以外の樹脂を含んでいてもよい。
ポリオレフィン樹脂以外の樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂が挙げられる。
ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)やポリエチレンテレフタレート(PET)等が挙げられる。ポリエステル樹脂は、枠状部材に剛性を付与することができる。
【0022】
枠状部材を構成するポリエステル樹脂は、ポリオレフィン樹脂と混合した状態で使用してもよいし、フィルム状に成形したポリオレフィン樹脂と、フィルム状に成形したポリエステル樹脂とを積層してもよい。
フィルム状に成形したポリオレフィン樹脂と、フィルム状に成形したポリエステル樹脂とを積層する場合、ポリオレフィン樹脂が最も外側に配置されることが好ましい。この様な例として、フィルム状に成形したポリエステル樹脂の両面を、フィルム状に成形したポリオレフィン樹脂で挟んむように積層した枠状部材が挙げられる。
【0023】
枠状部材は、非導電性フィラーを含有してもよい。
非導電性フィラーとしては、ガラス繊維等の無機繊維及びシリカ粒子等の無機粒子が挙げられる。
【0024】
枠状部材の厚さは特に限定されないが、0.1~10mmであることが望ましい。
【0025】
枠状部材の幅は特に限定されないが、5~20mmであることが好ましい。
枠状部材の幅が5mm未満であると、枠状部材の機械的強度が不足して、正極組成物が枠状部材の外へ漏れてしまう場合がある。一方、枠状部材の幅が20mmを超えると、正極組成物の占める面積が低下してしまい、エネルギー密度が低下してしまう場合がある。
なお、枠状部材の幅は、枠状部材を上面視した際の、外形形状と内形形状の間の距離で表される。枠状部材の形状によっては、幅の広い部分と狭い部分を有していてもよい。
【0026】
正極組成物は、正極活物質粒子を含む。
正極組成物は正極活物質粒子を含んでなり、必要に応じて、導電助剤、電解液、溶液乾燥型の公知の電極用バインダ(結着剤ともいう)及び粘着性樹脂を含んでいてもよい。
ただし、正極組成物は公知の電極用バインダを含んでいないことが好ましく、粘着性樹脂を含んでいることが好ましい。
【0027】
正極活物質粒子としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属が1種である複合酸化物(LiCoO、LiNiO、LiAlMnO、LiMnO及びLiMn等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO、LiNi1-xCo、LiMn1-yCo、LiNi1/3Co1/3Al1/3及びLiNi0.8Co0.15Al0.05)及び金属元素が3種類以上である複合酸化物[例えばLiMM’M’’(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO、LiCoPO、LiMnPO及びLiNiPO)、遷移金属酸化物(例えばMnO及びV)、遷移金属硫化物(例えばMoS及びTiS)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びポリ-p-フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等の粒子が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
【0028】
正極活物質粒子の体積平均粒子径は、電池の電気特性の観点から、0.01~100μmであることが好ましく、0.1~35μmであることがより好ましく、2~30μmであることがさらに好ましい。
【0029】
本明細書において、正極活物質粒子の体積平均粒子径は、マイクロトラック法(レーザー回折・散乱法)によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(Dv50)を意味する。マイクロトラック法とは、レーザー光を粒子に照射することによって得られる散乱光を利用して粒度分布を求める方法である。なお、体積平均粒子径の測定には、レーザー回折・散乱式の粒子径分布測定装置[マイクロトラック・ベル(株)製のマイクロトラック等]を用いることができる。
【0030】
導電助剤は、導電性を有する材料から選択される。
具体的には、金属[ニッケル、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等]、及びこれらの混合物等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
これらの導電助剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物を用いてもよい。電気的安定性の観点から、好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン、銀、銅、チタン及びこれらの混合物であり、より好ましくは銀、アルミニウム、ステンレス及びカーボンであり、さらに好ましくはカーボンである。またこれらの導電助剤としては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料(上記した導電助剤の材料のうち金属のもの)をめっき等でコーティングしたものでもよい。
【0031】
導電助剤の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μmであることが好ましく、0.02~5μmであることがより好ましく、0.03~1μmであることがさらに好ましい。なお、本明細書中において、「粒子径」とは、導電助剤の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0032】
導電助剤の形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電性材料として実用化されている形態であってもよい。
【0033】
導電助剤は、その形状が繊維状である導電性繊維であってもよい。
導電性繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維、合成繊維の中に導電性のよい金属や黒鉛を均一に分散させてなる導電性繊維、ステンレス鋼のような金属を繊維化した金属繊維、有機物繊維の表面を金属で被覆した導電性繊維、有機物繊維の表面を導電性物質を含む樹脂で被覆した導電性繊維等が挙げられる。これらの導電性繊維の中では炭素繊維が好ましい。また、グラフェンを練りこんだポリプロピレン樹脂も好ましい。
導電助剤が導電性繊維である場合、その平均繊維径は0.1~20μmであることが好ましい。
【0034】
正極活物質粒子は、表面の少なくとも一部が高分子化合物を含む被覆層で被覆されている被覆正極活物質粒子であってもよい。
正極活物質粒子の周囲が被覆層で被覆されていると、充放電に伴う正極組成物の体積変化が緩和され、正極の膨張を抑制することができる。
【0035】
被覆層を構成する高分子化合物としては、特開2017-054703号公報に非水系二次電池活物質被覆用樹脂として記載されたものを好適に用いることができる。
【0036】
上述した被覆正極活物質粒子を製造する方法について説明する。
被覆正極活物質粒子は、例えば、高分子化合物及び正極活物質粒子並びに必要により用いる導電剤を混合することによって製造してもよく、被覆層に導電剤を用いる場合には高分子化合物と導電剤とを混合して被覆材を準備したのち、該被覆材と正極活物質粒子とを混合することにより製造してもよく、高分子化合物、導電剤及び正極活物質粒子を混合することによって製造してもよい。
なお、正極活物質粒子と高分子化合物と導電剤とを混合する場合、混合順序には特に制限はないが、正極活物質粒子と高分子化合物とを混合した後、導電剤を加えてさらに混合することが好ましい。
上記方法により、高分子化合物と必要により用いる導電剤を含む被覆層によって正極活物質粒子の表面の少なくとも一部が被覆される。
【0037】
被覆材の任意成分である導電剤としては、正極組成物を構成する導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。
【0038】
電解液としては、リチウムイオン電池の製造に用いられる、電解質及び非水溶媒を含有する公知の電解液を使用することができる。
【0039】
電解質としては、公知の電解液に用いられているもの等が使用でき、好ましいものとしては、例えば、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF及びLiClO等の無機酸のリチウム塩系電解質、LiN(FSO、LiN(CFSO及びLiN(CSO等のフッ素原子を有するスルホニルイミド系電解質、LiC(CFSO等のフッ素原子を有するスルホニルメチド系電解質等が挙げられる。
これらの内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのはLiPF又はLiN(FSOである。
【0040】
非水溶媒としては、公知の電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、ラクトン化合物、環状又は鎖状炭酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状又は鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン、スルホラン等及びこれらの混合物を用いることができる。
【0041】
ラクトン化合物としては、5員環(γ-ブチロラクトン及びγ-バレロラクトン等)及び6員環のラクトン化合物(δ-バレロラクトン等)等を挙げることができる。
【0042】
環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート及びブチレンカーボネート等が挙げられる。
鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート及びジ-n-プロピルカーボネート等が挙げられる。
【0043】
鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル及びプロピオン酸メチル等が挙げられる。
環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン及び1,4-ジオキサン等が挙げられる。
鎖状エーテルとしては、ジメトキシメタン及び1,2-ジメトキシエタン等が挙げられる。
【0044】
リン酸エステルとしては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリ(トリフルオロメチル)、リン酸トリ(トリクロロメチル)、リン酸トリ(トリフルオロエチル)、リン酸トリ(トリパーフルオロエチル)、2-エトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン、2-トリフルオロエトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン及び2-メトキシエトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン等が挙げられる。
ニトリル化合物としては、アセトニトリル等が挙げられる。
アミド化合物としては、DMF等が挙げられる。
スルホンとしては、ジメチルスルホン及びジエチルスルホン等が挙げられる。
非水溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
非水溶媒の内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのは、ラクトン化合物、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル及びリン酸エステルであり、さらに好ましいのはラクトン化合物、環状炭酸エステル及び鎖状炭酸エステルであり、特に好ましいのは環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルの混合液である。最も好ましいのはエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)の混合液、又は、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合液である。
【0046】
溶液乾燥型の公知の電極用バインダとしては、デンプン、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレン(PE)及びポリプロピレン(PP)等が挙げられる。
ただし、公知の電極用バインダの含有量は、正極組成物全体の重量を基準として、2重量%以下であることが好ましく、0~0.5重量%であることがより好ましい。
【0047】
正極組成物は、公知の電極用バインダではなく、粘着性樹脂を含むことが好ましい。
正極組成物が上記溶液乾燥型の公知の電極用バインダを含む場合には、圧縮成形体を形成した後に乾燥工程を行うことで一体化する必要があるが、粘着性樹脂を含む場合には、乾燥工程を行うことなく常温において僅かな圧力で正極組成物を一体化することができる。乾燥工程を行わない場合、加熱による圧縮成形体の収縮や亀裂の発生がおこらないため好ましい。
【0048】
なお、溶液乾燥型の電極用バインダは、溶媒成分を揮発させることで乾燥、固体化して正極活物質粒子同士を強固に固定するものを意味する。一方、粘着性樹脂は、粘着性(水、溶媒、熱等を使用せずに僅かな圧力を加えることで接着する性質)を有する樹脂を意味する。
溶液乾燥型の電極用バインダと粘着性樹脂とは異なる材料である。
【0049】
粘着性樹脂としては、被覆層を構成する高分子化合物(特開2017-054703号公報に記載された非水系二次電池活物質被覆用樹脂等)に少量の有機溶剤を混合してそのガラス転移温度を室温以下に調整したもの、及び、特開平10-255805公報等に粘着剤として記載されたものを好適に用いることができる。
【0050】
正極組成物に含まれる粘着性樹脂の重量割合は、正極組成物の重量を基準として0~2重量%であることが好ましい。
【0051】
集電体を構成する材料としては、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル及びこれらの合金、並びに、焼成炭素、導電性高分子及び導電性ガラス等が挙げられる。
また、導電剤と樹脂からなる樹脂集電体を用いてもよい。
集電体と枠状部材との剥離強度を高める観点から、集電体は樹脂集電体であることが好ましい。
樹脂集電体の表面エネルギーは30mN/m以上であることが好ましい。
樹脂集電体の表面エネルギーは、ダインペンを用いることにより測定することができる。具体的な測定方法は、枠状部材の表面エネルギーの測定と同様である。
【0052】
樹脂集電体を構成する導電剤としては、正極組成物に含まれる導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。
樹脂集電体を構成する樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリシクロオレフィン(PCO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂又はこれらの混合物等が挙げられる。
電気的安定性の観点から、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)及びポリシクロオレフィン(PCO)が好ましく、さらに好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリメチルペンテン(PMP)である。
【0053】
リチウムイオン電池用正極を上面視した際の、集電体の面積に占める枠状部材の面積(すなわち、枠状部材と集電体とが接着している部分の面積)の割合は、8.5面積%以上、45.2面積%以下であることが好ましい。
【0054】
本発明のリチウムイオン電池用正極において、枠状部材と集電体とは接着されている。
25℃の電解液に6日間含浸させた後の状態における、枠状部材と集電体との剥離強度は、1.3N/cm以上であることが好ましい。
72℃の電解液に6日間含浸させた後の状態における、枠状部材と集電体との剥離強度は、1.0N/cm以上であることが好ましく、1.3N/cm以上であることがより好ましく、1.5N/cm以上であることがさらに好ましい。
72℃の電解液に6日間含浸させた後の状態における、枠状部材と集電体との剥離強度が1.0N/cm以上であると、高温条件下において枠状部材と集電体との剥離強度が充分である。
剥離強度の測定に使用する電解液は、エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率1:1)にLiN(FSOを1.0mol/Lの割合で溶解させたものとする。
枠状部材と集電体との剥離強度は、剥離強度測定用試験片の形状を、長さ65mm、幅20mmに変更し、つかみ移動速度を60mm/minに変更する以外は、JIS K 6854-2:1999に準拠して測定することができる。
【0055】
本発明のリチウムイオン電池用正極において、国連勧告輸送試験UN38.3のT2試験後に測定した、枠状部材と集電体との剥離強度は、1.3N/cm以上であることが好ましい。
なお、国連勧告輸送試験UN38.3のT2試験では、75℃での6時間の保持と-40℃での6時間の保持を、10分間隔で合計10回繰り返す。
【0056】
本発明のリチウムイオン電池用正極は、例えば、集電体上に枠状部材を配置し、枠状部材の内部に正極活物質を充填することにより作製することができる。集電体と枠状部材は、ヒートシール等の手段により接着される。
【0057】
[リチウムイオン電池]
本発明のリチウムイオン電池は、本発明のリチウムイオン電池用正極を備えることを特徴とする。
本発明のリチウムイオン電池は、本発明のリチウムイオン電池用正極を備えるため、電解液の熱分解が生じるような異常時であっても枠状部材と正極側の集電体との剥離強度が低下しにくく、信頼性が高い。
【0058】
本発明のリチウムイオン電池は、例えば、本発明のリチウムイオン電池用正極を、セパレータを介してリチウムイオン電池用負極と組み合わせることで作製することができる。
以降、リチウムイオン電池用正極を構成する集電体を正極集電体、リチウムイオン電池用負極を構成する集電体を負極集電体と区別する。
【0059】
リチウムイオン電池用負極は、負極集電体と、負極集電体上に配置される負極活物質粒子を含む負極組成物とを備える。
負極組成物は、負極活物質粒子を含む。
負極活物質粒子としては、リチウムイオン電池に用いられる公知の負極活物質粒子を用いることができる。
負極集電体としては、リチウムイオン電池用負極に用いられる公知の集電体を用いることができる。
【0060】
リチウムイオン用負極は、負極集電体上に配置されて、負極組成物の周囲を囲むように環状に配置される枠状部材を備えていてもよい。
【0061】
負極組成物は、導電助剤や電解液を含んでいてもよい。
導電助剤及び電解液としては、本発明のリチウムイオン電池用正極に用いられる導電助剤及び電解液と同様のものを好適に用いることができる。
【0062】
負極活物質粒子は、表面の少なくとも一部が高分子化合物を含む被覆層で被覆されている被覆負極活物質粒子であってもよい。
被覆剤としては、被覆正極活物質粒子を構成する被覆剤と同様のものを好適に用いることができる。
【実施例0063】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0064】
<製造例1:被覆用高分子化合物とその溶液の作製>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF407.9部を仕込み75℃に昇温した。次いで、メタクリル酸242.8部、メチルメタクリレート97.1部、2-エチルヘキシルメタクリレート242.8部、及びDMF116.5部を配合したモノマー配合液と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1.7部及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)4.7部をDMF58.3部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、75℃で反応を3時間継続した。次いで80℃に昇温し反応を3時間継続し樹脂濃度50%の共重合体溶液を得た。これにDMFを789.8部加えて、樹脂固形分濃度30重量%である被覆用高分子化合物溶液を得た。
【0065】
<製造例2:電解液の作製>
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率1:1)にLiN(FSOを1.0mol/Lの割合で溶解させて電解液を準備した。
【0066】
<製造例3:被覆正極活物質粒子の作製>
正極活物質粉末(LiNi0.8Co0.15Al0.05粉末、体積平均粒子径4μm)93.7部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、製造例1で得られた被覆用高分子化合物溶液1部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電剤であるアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]1部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、被覆正極活物質粒子を得た。
【0067】
<製造例4:被覆負極活物質粒子の作製>
負極活物質粒子として難黒鉛化性炭素[(株)クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン製 カーボトロン(登録商標)PS(F)]100部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、製造例1で得られた被覆用高分子化合物溶液6部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。次いで、撹拌した状態で導電剤であるアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]5.1部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を150℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、被覆負極活物質粒子を得た。
【0068】
<製造例5:正極樹脂集電体の作製>
2軸押出機にて、ブロックポリプロピレン[ポリオレフィン樹脂、商品名「サンアロマーPC684S」、サンアロマー(株)製]46部並びにブロックポリプロピレン[ポリオレフィン樹脂、商品名「サンアロマーPC630S」、サンアロマー(株)製]21部、ファーネスブラック[導電性フィラー、商品名「#3030B」、三井化学(株)製]28部及び分散剤[商品名「ユーメックス1001」、三洋化成工業(株)製]5部を添加し、200℃、200rpmの条件で溶融混練して正極樹脂集電体用材料を得た。
得られた正極樹脂集電体用材料を、Tダイ押出しフィルム成形機に通して、それを延伸圧延することで、膜厚100μmの正極樹脂集電体用導電性フィルムを得た。
得られた正極用樹脂集電体用導電性フィルムを17.0cm×17.0cmとなるように切断した後、電流取り出し用の端子(5mm×3cm)を接続して正極樹脂集電体を作製した。
得られた正極樹脂集電体の表面エネルギーをダインペン(春日電機株式会社社製)で測定したところ、34mN/mであった。
【0069】
<製造例6:負極樹脂集電体の作製>
2軸押出機にて、ブロックポリプロピレン[ポリオレフィン樹脂、商品名「サンアロマーPC684S」、サンアロマー(株)製]28部、ニッケル粉末[導電性フィラー、ニッケルパウダー Type255、ヴァーレ・ジャパン(株)製]67部及び分散剤[商品名「ユーメックス1001」、三洋化成工業(株)製]5部を200℃、200rpmの条件で溶融混練して、負極樹脂集電体用材料を得た。
得られた負極樹脂集電体用材料を、Tダイ押出しフィルム成形機に通して、それを延伸圧延することで、膜厚100μmの負極樹脂集電体用導電性フィルムを得た。
得られた負極用樹脂集電体用導電性フィルムを17.0cm×17.0cmとなるように切断した後、電流取り出し用の端子(5mm×3cm)を接続して負極樹脂集電体を作製した。
【0070】
<製造例7:枠状部材(F-1)の作製>
押出成形によって樹脂(東ソー(株)製 メルセン(登録商標)G)を厚さ400μmのフィルム状に成形し、内形が11.0cm×11.0cmの正方形、外形が15.0cm×15.0cmの正方形である環状形状に打ち抜いて、枠状部材(F-1)を得た。
得られた枠状部材(F-1)の表面エネルギーを、ダインペンを用いて測定した。結果を表1に示す。
【0071】
<製造例8~10:枠状部材(F-2)~(F-4)の作製>
使用する樹脂の種類を表1に示すように変更した他は、製造例7と同様の手順で枠状部材(F-2)~(F-4)を作製し、表面エネルギーを測定した。枠状部材(F-2)~(F-4)の厚みは、(F-1)と同じ400μmである。なお、アドマーは、三井化学(株)製 アドマーVE300であり、PEN-メルセンはPENフィルム(厚さ250μm)の両面を厚さ75μmのメルセン製フィルムで挟み熱圧着したものであり、PEN-アドマーはPENフィルム(厚さ250μm)の両面を厚さ50μmのアドマー製フィルム(正極側2枚、負極側1枚)で挟み熱圧着したものである。従って、PEN-メルセンはメルセンと同じ表面エネルギーであり、PEN-アドマーはアドマーと同じ表面エネルギーである。
【0072】
<実施例1:リチウムイオン電池用正極の作製>
製造例3で作製した被覆正極活物質粒子95部、導電助剤であるアセチレンブラック5部、及び、製造例2で作製した電解液30部を混合し、正極組成物を作製した。
続いて、製造例7で作製された枠状部材(F-1)を製造例5で作製した正極樹脂集電体(17.0cm×17.0cm)上に載置し、120℃でヒートシールして枠状部材(F-1)と正極樹脂集電体とを熱圧着した後、正極枠状部材の内側に正極組成物を充填することで、リチウムイオン電池用正極(C-1)を作製した。
【0073】
<実施例2、比較例1~2>
枠状部材(F-1)を、製造例8~10で作製された枠状部材(F-2)~(F-4)に変更したほかは、実施例1と同様の手順でリチウムイオン電池用正極(C-2)、(C’-1)~(C’-2)を作製した。
【0074】
<剥離強度測定用試験片の作製>
剥離強度の測定に先立って、以下の手順で剥離強度測定用試験片を準備した。
まず、枠状部材(F-1)を作製するのに用いたフィルムを長さ65mm、幅20mmの矩形形状に打ち抜いた試験用フィルムと、製造例5で正極樹脂集電体を作製するのに用いた正極樹脂集電体用導電性フィルムを長さ265mm、幅20mmの矩形形状に打ち抜いた試験用正極樹脂集電体とを準備した。続いて、試験用フィルムの長さ方向の一端と、試験用正極樹脂集電体の長さ方向の一端とが重なるように位置をあわせて、試験用フィルムと試験用正極樹脂集電体とが重なった長さ65mm、幅20mmの部分をヒートシールテスターを用いて120℃で加熱して熱圧着し、実施例1に係る剥離強度測定用試験片(ドライ)を準備した。
剥離強度測定用試験片(ドライ)の熱圧着した部分を、製造例2で得られた電解液に浸漬した状態で、25℃又は72℃の恒温槽で6日間静置した後、取り出して表面の電解液をキムタオルで充分に除去し、剥離強度測定用試験片(25℃含浸)及び剥離強度測定用試験片(72℃含浸)を準備した。
枠状部材の種類をそれぞれ(F-2)~(F-4)に変更して、それぞれ、実施例2及び比較例1~2に係る剥離強度測定用試験片を作製した。
【0075】
<剥離強度の測定>
各実施例及び各比較例について準備した3種類の剥離強度測定用試験片について、接着部分の長さを65mm、幅を20mmとし、剥離強度を測定する際の剥離長さを、最初の10mmと最後の5mmを除いた50mmとし、つかみ移動速度を60mm/minに変更した以外は、JIS K 6854-2:1999に準拠して、剥離強度を測定した。このとき、剥離強度測定用試験片の枠状部材側を試験用平板に接着剤で固定し、正極樹脂集電体をたわみ性被着材として引っ張った。結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1の結果より、本発明のリチウムイオン電池用正極は、高温環境下(72℃浸漬下)であっても枠状部材と集電体との剥離強度が低下しにくいことがわかった。
【0078】
<製造例11:リチウムイオン電池用負極の作製>
製造例4で作製した被覆負極活物質粒子99部、導電助剤であるアセチレンブラック1部、及び、製造例2で作製した電解液30部を混合し、負極組成物を作製した。
続いて、製造例7で作製された枠状部材(F-1)を製造例6で作製した負極樹脂集電体の表面に載置し、120℃でヒートシールして枠状部材(F-1)と負極樹脂集電体とを熱圧着した後、枠状部材(F-1)の内側に負極組成物を充填することで、リチウムイオン電池用負極(A-1)を作製した。
【0079】
<実施例3:リチウムイオン電池の作製>
実施例1で作製したリチウムイオン電池用正極(C-1)の上から、セパレータとなる平板状のセルガード3501(PP製、厚さ25μm、平面視寸法17.0cm×17.0cm)を、正極組成物を覆うように重ねた。正極組成物中の電解液がセパレータに染み込み、セパレータが正極組成物に張り付いたことを確認した。続いて、セパレータ及びリチウムイオン電池用正極(C-1)を裏返して、セパレータが負極組成物と接触するように、製造例11で作製したリチウムイオン電池用負極(A-1)の上に載置した。このとき、正極側の枠状部材の外形形状の重心と、セパレータの外形形状に基づく重心と、負極側の枠状部材の外形形状の重心とが積層方向において互いに重なるように積層体を作製した。
続いて、積層体をヒートシールテスターを用いて120℃で加熱して、セパレータを正極側の枠状部材及び負極側の枠状部材とそれぞれ熱圧着して外装体に収容することにより、実施例3に係るリチウムイオン電池を作製した。
【0080】
<比較例3>
枠状部材(F-1)に変わって枠状部材(F-3)を使用したほかは、製造例11と同様の手順でリチウムイオン電池用負極(A’-1)を作製した。
続いて、実施例1で作製したリチウムイオン電池用正極(C-1)に代わって、比較例2で作製したリチウムイオン電池用正極(C’-2)を使用し、リチウムイオン電池用負極(A-1)に変わってリチウムイオン電池用負極(A’-1)を使用したほかは、実施例3と同様の手順で比較例3に係るリチウムイオン電池を作製した。
【0081】
<容量維持率の測定>
実施例3及び比較例3に係るリチウムイオン電池を0.1C(3.8mA)にて4.2Vまで定電流-定電圧充電(カットオフ電流:3.8mA)し、その後、0.1C(3.8mA)にて2.5Vまで定電流放電した。放電終了後、0.1C(3.8mA)にて4.2Vまで定電流-定電圧充電(カットオフ電流:3.8mA)し、リチウムイオン電池を72℃の恒温槽にて6日間静置したあと、0.1C(3.8mA)にて2.5Vまで定電流放電した。72℃で6日間静置した後の放電容量を、静置前の放電容量で除することによって、容量維持率[%]を得た。結果を表2に示す。
【0082】
<温度特性の測定>
実施例3及び比較例3に係るリチウムイオン電池を75℃の恒温槽に入れて後6時間静置した後、-40℃の恒温槽に移して約6時間静置した。この工程を10分間隔で合計10回繰り返す温度変化試験を行った。
温度変化試験前後のリチウムイオン電池の放電電圧から、電圧降下率を求めた。さらに、温度変化試験後の外観(液漏れの有無)を目視で判定した後、外装体を取り除いてリチウムイオン電池用正極を構成する正極樹脂集電体と枠状部材とが剥離していないかを確認した。
次いで、温度変化試験を経た後のリチウムイオン電池からリチウムイオン電池用正極を取り出し、正極樹脂集電体と枠状部材とが剥離していない部分の一部を切り出して剥離試験測定用試験片を作製し、剥離試験を行った。結果を表2に示す。
なお、比較例3では、リチウムイオン電池用正極を構成する集電体と枠状部材との間に剥離が生じており、これが液漏れの原因と考えられる。
【0083】
【表2】
【0084】
表2の結果より、本発明のリチウムイオン電池用正極を備えるリチウムイオン電池では、容量維持率が高いことがわかった。また、急激な温度変化を加えた場合であっても、電池が液漏れを起こしにくいことがわかった。これは、急激な温度変化や高温条件に晒された場合であっても、正極樹脂集電体と枠状部材との剥離強度が低下していないためと考えられる。
【0085】
以上より、本発明のリチウムイオン電池用正極及び本発明のリチウムイオン電池は、電解液の熱分解が生じるような異常時であっても枠状部材と集電体との剥離強度が低下しにくく、信頼性が高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のリチウムイオン電池用正極は、特に、携帯電話、パーソナルコンピューター、ハイブリッド自動車及び電気自動車用に用いられる双極型二次電池用及びリチウムイオン二次電池用等の正極として有用である。本発明のリチウムイオン電池は、特に、携帯電話、パーソナルコンピューター、ハイブリッド自動車及び電気自動車用に用いられる双極型二次電池用及びリチウムイオン二次電池として有用である。
【符号の説明】
【0087】
1 リチウムイオン電池用正極
10 集電体(正極集電体)
20 正極組成物
30 枠状部材
図1
図2