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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189514
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】溶鋼の脱窒方法および鋼の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 7/00 20060101AFI20221215BHJP
   C21C 7/10 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
C21C7/00 N
C21C7/10 Z
C21C7/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098131
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】根岸 秀光
(72)【発明者】
【氏名】山田 令
【テーマコード(参考)】
4K013
【Fターム(参考)】
4K013AA09
4K013BA11
4K013CC02
4K013CE07
4K013EA03
4K013EA19
4K013FA04
(57)【要約】
【課題】上吹きガスを用いることなく安定して高速で極低窒素濃度域まで到達し得る方法を提案する。
【解決手段】溶鋼に金属Al含有物質を添加して脱酸しAl含有溶鋼とするAl添加ステップと、前記溶鋼にCaO含有物質を添加するCaO添加ステップと、を組み合わせて形成されたCaOおよびAlを含有するスラグと前記Al含有溶鋼とを接触させて溶鋼中の窒素を除去する脱窒処理であって、前記溶鋼を60W/t以上の攪拌動力密度εで攪拌する溶鋼の脱窒方法である。前記脱窒処理では、溶鋼ないしスラグの表面を1.0×10Pa以下の雰囲気にすることが好ましい。得られた溶鋼に対し成分調整後鋳造する鋼の製造方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶鋼に金属Al含有物質を添加して脱酸しAl含有溶鋼とするAl添加ステップと、前記溶鋼にCaO含有物質を添加するCaO添加ステップと、を組み合わせて形成されたCaOおよびAlを含有するスラグと前記Al含有溶鋼とを接触させて溶鋼中の窒素を除去する脱窒処理であって、
前記溶鋼を60W/t以上の攪拌動力密度εで攪拌することを特徴とする、溶鋼の脱窒方法。
【請求項2】
前記脱窒処理では、溶鋼ないしスラグの表面を1.0×10Pa以下の雰囲気にすることを特徴とする、請求項1に記載の溶鋼の脱窒方法。
【請求項3】
前記脱窒処理では、前記スラグ中のMgO濃度(MgO)を5.0mass%以下にすることを特徴とする、請求項1または2に記載の溶鋼の脱窒方法。
【請求項4】
前記脱窒処理では、前記のスラグ中のMgO濃度(MgO)が5.0mass%を超えて1.0mass%増加するごとに、処理中の溶鋼温度Tを5℃以上増加させることを特徴とする、請求項1または2に記載の溶鋼の脱窒方法。
【請求項5】
前記Al添加ステップにおいて、脱窒処理時の攪拌動力密度ε(W/t)に基づき溶鋼中のAl濃度[Al](mass%)を下記の式(A)で計算される値[Al]以上にすることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の溶鋼の脱窒方法。
[Al]=-0.072×ln(ε)+0.5822 ・・・・(A)
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の溶鋼の脱窒方法で溶製した溶鋼に対し、任意に成分調整したのち、鋳造することを特徴とする、鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取鍋などの反応容器に充填された溶鋼と、溶鋼上に添加・形成されたスラグとを接触させることにより溶鋼中の窒素を除去する方法、および、その方法により溶製された鋼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒素は金属材料にとって有害成分であり、従来の製鋼プロセスでは主に溶銑の脱炭処理時に発生する一酸化炭素の気泡表面に溶鉄中の窒素[N]を吸着させて除去している。そのため炭素濃度が低い溶鋼に関しては、一酸化炭素の発生量が限られているため、同様の手法では窒素を低濃度まで除去することができない。
【0003】
一方で、CO排出量低減のためには、製鋼プロセスは従来の高炉、転炉を用いる方法から、スクラップや還元鉄を溶解させる方法へと転換する必要がある。その場合、得られる溶融鉄は炭素濃度が低くなり、前記理由で低窒素鋼を溶製できないおそれがある。
【0004】
そこでスラグを用いた溶鋼からの脱窒方法がいくつか提案されている。たとえば、特許文献1には、VOD炉にて溶鋼中Al濃度を0.7mass%以上の濃度に少なくとも5分間保持し、アルミナイトライド(以下AlN)の生成により脱窒する方法が示されている。
【0005】
また、特許文献2には、電気炉で鉄スクラップを主鉄源として溶鋼を溶製し、別の精錬容器に出鋼、保持した後、Al含有物質を含む脱窒用のフラックスを添加して、AlNをスラグに移行させてから、溶鋼に酸素含有ガスを吹き付けて脱窒する方法が示されている。
【0006】
また、特許文献3には、ガス上吹き機能を有する精錬容器に溶融金属を装入し、この溶融金属の表面を、CaOおよびAlを主成分とするスラグで覆ったのち、この被覆スラグ面に対し酸化性ガスを、該ガスが溶融金属と直接接触しない程度に吹き付けることにより脱窒する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5-320733号公報
【特許文献2】特開2007-211298号公報
【特許文献3】特開平8-246024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記従来技術には以下の問題点がある。
すなわち、特許文献1や2に記載の技術は、脱窒のためにAlNの生成を利用しており、生成したAlNの一部が溶鋼中に残存し、後工程の鋳造時に割れの起点になってしまうという課題がある。
【0009】
また、AlNの生成を使用した脱窒方法を用いて、数十massppm程度の低窒素鋼を溶製するためにはAlとNの溶解度積から考えて少なくともAl濃度が数mass%~10mass%程度必要である。もしくは、脱窒反応を有効に利用するためには数百massppm程度の初期窒素濃度が必要である。特許文献1や2に記載の技術は、低窒素鋼を溶製するには工程的に用いるコストが非常に高くなりすぎ、ステンレス鋼等の溶解窒素量の高い鋼種にしか適用できないという課題がある。
【0010】
特許文献3に記載の技術は、溶鋼を酸化性ガスから遮断するための条件として、
(1)スラグ量を少なくとも溶鋼1トンあたり15kg確保すること
(2)スラグ量、底吹きガス量、上吹きガス組成やその流量、ランス高さおよび雰囲気圧力などを適当な範囲に制御すること
を挙げているが、条件(1)は溶鋼を充填する容器のサイズによってスラグ量が増大すること、条件(2)は具体的な制御手段、制御範囲の記載がなく、ガスと溶鋼の遮断を確認する方法が明らかでないことから、適合条件が明確でない。特許文献3に記載の適合例と同一範囲で試験を行っても、実際は酸化性ガスによりスラグ-メタル界面のみかけの酸素分圧が増加することによるスラグ-メタル間での窒素移動抑制によって、脱窒速度が遅くなり、操業上実用的でないことを発明者らは確認している。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、スラグを用いた溶鋼の脱窒精錬を行うにあたり、上吹きガスを用いることなく安定して高速で極低窒素濃度域まで到達し得る溶鋼の脱窒方法を提案することにある。さらに、その溶鋼の脱窒方法で溶製した溶鋼を用いた鋼の製造方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らはこれらの問題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、先行特許文献で提案されているような、スラグを介して溶鋼中の窒素をガス相へ除去する脱窒処理における反応の律速工程は、スラグ側およびメタル側の窒素の物質移動であること、即ち、メタル、スラグ、ガス3相を用いた溶鋼の脱窒反応である、下記(1)式および(2)式の反応のうち、(2)式の反応はガス-スラグ界面の酸素分圧が十分に小さくても進行するため、スラグやメタルに十分な攪拌を付与すること、および、スラグが溶融している割合(以下、滓化率という)が高いことが重要であることを見出した。下記反応式において、[M]は、元素Mが溶鋼中に溶存含有している状態を表し、(R)は、元素Rのスラグ中での形態または化学物質Rがスラグ中に溶存含有している状態を表す、以下本明細書中での表記とする。
[Al]+[N]+3/2(O2-)=(N3-)+1/2(Al)・・・(1)
2(N3-)+2/3O=N+3(O2-) ・・・・・・・・・・・・・(2)
【0013】
前記課題を有利に解決する本発明にかかる溶鋼の脱窒方法は、溶鋼に金属Al含有物質を添加して脱酸しAl含有溶鋼とするAl添加ステップと、前記溶鋼にCaO含有物質を添加するCaO添加ステップと、を組み合わせて形成されたCaOおよびAlを含有するスラグと前記Al含有溶鋼とを接触させて溶鋼中の窒素を除去する脱窒処理であって、前記溶鋼を60W/t以上の攪拌動力密度εで攪拌することを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかる溶鋼の脱窒方法は、
(a)前記脱窒処理では、溶鋼ないしスラグの表面を1.0×10Pa以下の雰囲気にすること、
(b)前記脱窒処理では、前記スラグ中のMgO濃度(MgO)を5.0mass%以下にすること、
(c)前記脱窒処理では、前記のスラグ中のMgO濃度(MgO)が5.0mass%を超えて1.0mass%増加するごとに、処理中の溶鋼温度Tを5℃以上増加させること、
(d)前記Al添加ステップにおいて、脱窒処理時の攪拌動力密度ε(W/t)に基づき溶鋼中のAl濃度[Al](mass%)を下記の式(A)で計算される値[Al]以上にすること、
などが、より好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
[Al]=-0.072×ln(ε)+0.5822 ・・・・(A)
【0015】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる鋼の製造方法は、上記溶鋼の脱窒方法のいずれかで溶製した溶鋼に対し、任意に成分調整したのち、鋳造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スラグを用いた溶鋼の脱窒精錬を行うにあたり、上吹きガスを用いることなく安定して高速で極低窒素濃度域まで窒素を除去できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態にかかる溶鋼の脱窒方法に適した装置の一例を示す模式図である。
図2】炉内圧力Pと到達窒素濃度バラツキの上限Max[N]との関係に与える溶鋼の攪拌動力密度εの影響を示すグラフである。
図3】攪拌動力密度εと到達窒素濃度[N]の関係を示すグラフである。
図4】到達窒素濃度[N]に及ぼすスラグ中MgO濃度(MgO)の影響を示すグラフである。
図5】スラグMgO濃度(MgO)が変化した時、同一到達窒素濃度[N]を得るための溶鋼温度Tを示したグラフである。
図6】到達窒素濃度[N]=25massppmを得るための、溶鋼中Al濃度[Al]と攪拌動力密度εの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0019】
図1に本発明を実施するにあたり好適な装置構成を示す。耐火物2が内張りされた取鍋などの容器1に溶鋼3を充填し、その上にCaOおよびAlを含有するスラグ4を形成する。排気系統8と合金添加系統9を有する真空容器10中で溶鋼3およびスラグ4表面を減圧雰囲気とした状態で、ガス配管6に接続された底吹きノズル5から攪拌用不活性ガス7を吹込むことで攪拌を行う。攪拌用不活性ガス7としては、窒素ガスを含まないArガスなどが好ましい。
【0020】
溶鋼3に金属Al含有物質を添加して脱酸しAl含有溶鋼とする工程(Al添加ステップ)、溶鋼3にCaO含有物質を添加する工程(CaO添加ステップ)は、合金添加系統12を用いて行ってもよいし、真空容器13に入る前工程で行っても良い。溶鋼3を脱酸する工程(脱酸ステップ)をAl添加ステップから分離して行ってもよい。CaO添加ステップは任意の時期に実施することができる。CaO添加ステップは、脱酸ステップ後に実施すれば、脱酸反応による溶鋼温度の上昇をスラグの滓化に利用できるので好ましい。CaO添加ステップは、Al添加ステップの後に実施すれば、添加したAl含有物質が厚みのあるスラグに阻害されて溶鋼に到達しないことによる脱酸不良またはスラグ組成のバラツキを抑制することができるためさらに好ましい。
【0021】
CaOおよびAl含有スラグ4の形成は、CaO含有物質および溶鋼の脱酸で生じるAlを利用するが、例えばCaO含有物質としてプリメルトもしくはプレミックス品のカルシウムアルミネートを用いて行っても良い。スラグ組成は、滓化率が高いほど脱窒反応に有利であり、CaOとAlの質量比C/Aが0.4~1.8の範囲にあることが好ましく、さらに0.7~1.7の範囲にあることがより好ましい。
【0022】
攪拌用ガス7の溶鋼中への供給は、前記の方法以外にも、例えば不活性ガス吹込み用のインジェクションランスを介して溶鋼にインジェクションする形式でも良い。
次に、本発明の好適な実施形態について、経緯を交え詳細に説明する。
【0023】
(第1実施形態)
第1の実施形態は、ガス上吹き設備を有さない設備において、安定して低窒素濃度まで脱窒する方法を検討する際に見出された。図1の構成要件を満たす小型高周波真空誘導溶解炉にて15kgの溶鋼3に対し15kg/t以上の、MgO濃度が0~17mass%含まれるCaOおよびAl含有スラグ4を溶鋼面が肉眼で確認できない程度の量で形成した。そして、炉内の雰囲気圧を調整した上で、攪拌動力密度で200W/t~2000W/tの攪拌を溶鋼に付与しながら溶鋼の脱窒処理を行った。まず、炉雰囲気の真空度(雰囲気圧)P(Pa)を変化させた脱窒試験において、図2に示すように処理後の窒素濃度のバラツキ上限値Max[N](massppm)は攪拌動力密度ε(W/t)に応じて変化した。このとき、溶鋼中の初期窒素濃度[N]は、50massppm、Al濃度[Al]は、0.7mass%、スラグ組成はCaOとAlの質量比C/Aで1.2、スラグ中のMgO濃度(MgO)は、5mass%、溶鋼温度Tは、1600℃、処理時間tは30分であった。低攪拌動力密度(ε~500W/t)では雰囲気圧P:1.0×10Paまで到達窒素濃度のバラツキ上限値Max[N]が安定する。なお、図1の設備構成の場合、密閉空間内の温度上昇や底吹きガスの影響で雰囲気圧Pは外気より数%圧力上昇することになる。一方、高攪拌動力密度(ε>500W/t)では、雰囲気圧P:0.7×10Pa超で到達窒素濃度のバラツキ上限値Max[N]が増加し始め、攪拌動力密度εが高いほど、処理後の到達窒素濃度のバラツキ上限値Max[N]が大きくなることが分かった。従って、本実施形態においては、望ましい雰囲気圧Pを1.0×10Pa以下と定め、さらに好ましくは0.7×10Pa以下とした。これは、底吹きガスによる鋼浴の攪拌により溶鋼表面が盛り上がって一部露出し、そこから溶鋼への吸窒が発生していると考えられる。
【0024】
次に、MgO濃度(MgO)を5%で一定とし、炉雰囲気圧Pを0.7×10Pa、Al濃度[Al]を1.0mass%とし、初期窒素濃度[N]、スラグ組成のC/A、溶鋼温度Tおよび処理時間tは上記とおなじとして、攪拌動力密度εを20~1500W/tに変化させて脱窒試験を行った。その結果、図3に示すように、攪拌動力密度εが60W/t以上の水準で低窒素濃度域(窒素濃度[N]が35massppm以下)に到達することができた。また、極低窒素濃度域(窒素濃度[N]が25massppm以下)は攪拌動力密度ε:200W/t以上の水準で達成できた。第1の実施形態、つまり、溶鋼に金属Al含有物質を添加して脱酸しAl含有溶鋼とするAl添加ステップと、前記溶鋼にCaO含有物質を添加するCaO添加ステップと、を組み合わせて形成されたCaOおよびAlを含有するスラグと前記Al含有溶鋼とを接触させて溶鋼中の窒素を除去する脱窒処理であって、前記溶鋼を60W/t以上の攪拌動力密度εで攪拌する溶鋼の脱窒方法、または、さらに前記脱窒処理では、溶鋼ないしスラグの表面を1.0×10Pa以下の雰囲気にする溶鋼の脱窒方法は、上記のような調査の結果から得られたものである。なお、攪拌動力密度εの上限は特に限定するものではないが、底吹きガスを大量に吹き込んでも有効に活用されずに吹き抜けてしまうので、5000W/t程度を上限とし、攪拌動力密度εの上昇に応じて起こり得る不具合(たとえば、炉蓋への地金付着等)が発生しない範囲で適宜設定する。また、過度の減圧は排気系など設備費の増加を招くので、炉雰囲気圧Pの下限は10Pa程度とすることが好ましい。
【0025】
(第2実施形態)
第2の実施形態は、CaOおよびAl含有スラグ中のMgO濃度(MgO)の影響について調査した際に見出されたものである。攪拌動力密度εを500W/t一定とし、炉雰囲気圧Pを0.7×10Paとし、初期窒素濃度[N]、Al濃度[Al]、スラグ組成のC/A、溶鋼温度Tおよび処理時間は上記とおなじとして、スラグ中のMgO濃度(MgO)を0~17mass%に変更して脱窒試験を行った。その結果、図4に示すように、スラグ中MgO濃度(MgO)が5mass%以下の水準は低窒素濃度域(窒素濃度[N]が35massppm以下)に到達したが、それより多い濃度では到達窒素濃度[N]が下がらず高止まりした。第2の実施形態、つまり、上記第1の実施形態に加え、さらにスラグ中のMgO濃度(MgO)を5mass%以下に制限する溶鋼の脱窒方法は、上記のような調査の結果から得られたものである。なお、溶鋼温度Tは、脱窒処理後の溶鋼温度を用い、後工程である鋳造工程や搬送時間にもよるが、1600℃以上で脱窒処理を終了するようにすることが好ましい。また、スラグ中のMgO濃度(MgO)の下限は特に限定しないが、0mass%であってもよい。
【0026】
(第3実施形態)
第3の実施形態は、溶鋼を充填する容器の耐火物保護の観点からMgO濃度を上げざるを得ない場合の脱窒速度の低下に対し、改善策を検討している際に見出された。前記小型高周波真空誘導溶解炉を用いて、CaOおよびAl含有スラグ中のMgO濃度(MgO)を0mass%から飽和濃度の範囲で変化させた際、溶鋼中窒素[N]を25massppmまで低下させるために必要な、溶鋼温度Tを調査した。その結果、図5に示すようにスラグ中のMgO濃度(MgO)が1.0mass%増加するにしたがって、溶鋼温度Tを約5℃増加させる必要があった。調査の前提となる炉雰囲気圧Pを4×10Pa、Al濃度[Al]を0.7mass%とし、初期窒素濃度[N]を50massppm、スラグ組成のC/Aを1.2、攪拌動力密度εを60W/tおよび処理時間を30分とした。この調査により、MgO濃度が増加することによる脱窒反応の低下を補償できる溶鋼温度の増加量が定量的に判明した。第3の実施形態、つまり、第1の実施形態に加えて、スラグ中のMgO濃度(MgO)が5.0mass%を超えて1.0mass%増加するごとに、溶鋼の温度を5℃以上増加させる、溶鋼の脱窒方法は、上記のような調査結果から得られたものである。
【0027】
(第4実施形態)
特許文献3ではスラグ-メタル間の窒素分配比を高めるために必要な溶鋼中Al濃度[Al]が0.3mass%から2mass%という濃度を要求されるため、普通鋼を溶製するにあたってはコスト高となってしまう。第4の実施形態は、この問題を解決するために、溶鋼中Al濃度[Al]を更に低い濃度に抑えて脱窒ができないか検討を行った際に見出されたものである。前記小型高周波真空誘導溶解炉にて、溶鋼中窒素を25massppmまで低下させるために最低限必要なAl濃度[Al]を調査した所、図6に示すように、攪拌動力密度ε(W/t)に応じて必要なAl濃度[Al](mass%)が変化することが分かった。ここで、スラグ中のMgO濃度(MgO)を0mass%、溶鋼温度Tを1600℃とし、初期窒素濃度[N]およびスラグ組成のC/Aは上記と同様である。調査の前提となる炉雰囲気圧Pを0.7×10Paとし、攪拌動力密度εを200~2000W/tの範囲で処理中一定になるように制御し、処理時間は30分とした。第3の実施形態、つまり、第1~第3の実施形態のうちのいずれか一つに加えて、Al添加ステップにおいて、脱窒処理時の攪拌動力密度ε(W/t)に基づき溶鋼中のAl濃度[Al](mass%)を下記の式(A)で計算される値[Al]以上にする、溶鋼の脱窒方法は、上記のような調査結果から得られたものである。
[Al]=-0.072×ln(ε)+0.5822 ・・・・(A)
【0028】
上記溶鋼の脱窒方法で溶製した溶鋼に対し、必要に応じて、その他所定の成分に調整し、介在物の形態制御や浮上分離したのちに鋳造を行うことが好ましい。低窒素鋼としたうえで、各種成分を調整した高級鋼を製造することができる。
【実施例0029】
以下に、発明の実施例について詳細に説明する。図1の構成の装置を用い、取鍋内の1600℃以上の溶鋼に金属Alを添加して、溶鋼中Al濃度を0.085~0.1mass%にするとともに、CaOや耐火物保護用MgOを添加してCaO-Al2元系スラグ、またはCaO-Al-MgO3元系スラグを形成した後、攪拌動力密度εで60~1000W/tとなるように底吹き攪拌ガスを供給した。溶鋼量は160tで試験を行った。スラグ組成でCaOとAlの質量比C/Aは0.4~1.8の範囲であった。
表1に試験条件および結果を示す。十分な攪拌動力密度εである処理No.1~4では、処理後N濃度[N]が35massppm以下となり良好な結果であった。一方、攪拌動力密度εが低い処理No.5は同じ処理時間で十分な脱窒が行われなかった。
【0030】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明にかかる溶鋼の脱窒方法は、電気炉等で低炭素のスクラップや還元鉄を溶解して溶鋼を製造する製鋼プロセスに適用して低窒素鋼を安定して量産できるので、CO削減に寄与し産業上有用である。
【符号の説明】
【0032】
1 容器
2 耐火物
3 溶鋼
4 CaOおよびAl含有スラグ
5 底吹きノズル
6 ガス配管
7 鋼浴攪拌用不活性ガス
8 排気系統
9 合金添加系統
10 真空容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6