(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189523
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】NOx浄化装置及びそれを用いたNOx浄化方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/92 20060101AFI20221215BHJP
B01D 53/56 20060101ALI20221215BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20221215BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20221215BHJP
B01J 23/89 20060101ALI20221215BHJP
B01J 23/63 20060101ALI20221215BHJP
B01J 23/44 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
B01D53/92 227
B01D53/56 400
B01D53/86 222
B01D53/94 222
B01J23/89 A ZAB
B01J23/63 A
B01J23/44 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098145
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 千和
(72)【発明者】
【氏名】▲榊▼原 雄二
(72)【発明者】
【氏名】畑中 美穂
(72)【発明者】
【氏名】濱口 豪
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 哲哉
【テーマコード(参考)】
4D002
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
4D002AA12
4D002AC10
4D002BA08
4D002EA05
4D148AA07
4D148AB02
4D148BA03X
4D148BA07Y
4D148BA08Y
4D148BA19X
4D148BA31X
4D148BA33X
4D148BA36X
4D148BA41X
4D148CD10
4G169AA03
4G169BA01B
4G169BB04B
4G169BC43B
4G169BC66B
4G169BC71A
4G169BC71B
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169CA10
4G169CA13
4G169DA05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】室温付近の低温でも高い浄化率でNOxをN
2まで分解除去することが可能なNOx浄化装置を提供する。
【解決手段】固体電解質1と、固体電解質1の一方の面上に配置されたアノード電極膜2と、固体電解質1の他方の面上に配置されたカソード電極膜3とを有する電気化学セル4と、アノード電極膜2及びカソード電極膜3に電気的に接続された通電装置5と、電気化学セル4の下流に配置されているN
2O分解触媒とを備え、前記N
2O分解触媒が、金属酸化物担体と前記金属酸化物担体に担持された、Pd及びRhからなる群から選択される少なくとも1種の貴金属とを含有するものであり、アノード電極膜2に第一の入ガスを供給するためのアノード側入ガス流路7aとカソード電極膜3に第二の入ガスを供給するためのカソード側入ガス流路8aとがそれぞれ独立に設けられ、カソード側出ガス流路8bのみが前記N
2O分解触媒に接続されているNOx浄化装置。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質と、前記固体電解質の一方の面上に配置されたアノード電極膜と、前記アノード電極膜と対向するように前記固体電解質の他方の面上に配置されたカソード電極膜とを有する電気化学セルと、
前記アノード電極膜及び前記カソード電極膜に電気的に接続された通電装置と、
前記電気化学セルの下流に配置されているN2O分解触媒と
を備えており、
前記N2O分解触媒が、金属酸化物担体と前記金属酸化物担体に担持された、Pd及びRhからなる群から選択される少なくとも1種の貴金属とを含有するものであり、
前記アノード電極膜に第一の入ガスを供給するためのアノード側入ガス流路と前記カソード電極膜に第二の入ガスを供給するためのカソード側入ガス流路とがそれぞれ独立に設けられており、
前記アノード電極膜からの第一の出ガスを排出するためのアノード側出ガス流路と前記カソード電極膜からの第二の出ガスを排出するためのカソード側出ガス流路とがそれぞれ独立に設けられており、
前記カソード側出ガス流路のみが前記N2O分解触媒に接続されている
ことを特徴とするNOx浄化装置。
【請求項2】
前記アノード電極膜及び前記カソード電極膜が貴金属を含有するものであることを特徴とする請求項1に記載のNOx浄化装置。
【請求項3】
前記カソード電極膜がPd電極膜又はPt電極膜であることを特徴とする請求項2に記載のNOx浄化装置。
【請求項4】
前記固体電解質がプロトン伝導性高分子固体電解質であることを特徴とする請求項1~3のうちのいずれか一項に記載のNOx浄化装置。
【請求項5】
請求項1~4のうちのいずれか一項に記載のNOx浄化装置の前記アノード電極膜と前記カソード電極膜との間に電圧を印加しながら、水分を含む第一の入ガスを前記アノード電極膜に、NOxを含む第二の入ガスを前記カソード電極膜に、それぞれ独立に供給することによって、前記アノード電極膜上で前記水分を電気分解して水素イオンを生成させ、前記カソード電極膜上で前記水素イオンと前記NOxとを反応させて前記NOxをN2とN2Oに分解する工程と、
前記カソード電極膜からの第二の出ガスのみを前記N2O分解触媒に供給して前記第二の出ガスに含まれるN2OをN2に還元分解する工程と、
を含むことを特徴とするNOx浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NOx浄化装置及びそれを用いたNOx浄化方法に関し、より詳しくは、水の電気分解を利用したNOx浄化装置及びNOx浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気化学素子に電圧を印加することによりNOxを浄化させる方法が研究されてきた。また、このような方法に用いられるNOx浄化装置としては、様々な構成の装置が開示されている。
【0003】
例えば、特開2020-110761号公報(特許文献1)には、固体電解質と、前記固体電解質の一方の面上に配置されたアノード電極膜と、前記アノード電極膜と対向するように前記固体電解質の他方の面上に配置されたカソード電極膜と、前記アノード電極膜及び前記カソード電極膜に電気的に接続された通電装置と、を備えているNOx浄化装置、並びに、前記アノード電極膜と前記カソード電極膜との間に電圧を印加しながら、NOx及び水分を含む排ガスを前記NOx浄化装置に導入することによって、前記アノード電極膜上で前記排ガス中の水分を電気分解して水素イオンを生成させ、前記カソード電極膜上で前記水素イオンを前記排ガス中のNOxと反応させてNOxを除去するNOx浄化方法が開示されている。この方法では、特許文献1にも記載されているように、カソード電極膜上において、NOxが水素イオン(H+)と反応して窒素分子(N2)と水分子(H2O)に還元分解される。この還元分解反応は、NOxが解離して生成する窒素原子(N)同士が反応することによって進行するが、窒素原子(N)同士の反応は室温付近の温度では進行しにくい(反応速度が遅い)ため、NOxが解離して生成した窒素原子(N)はNOxと反応しやすく、一酸化二窒素(N2O)が生成しやすい。この一酸化二窒素(N2O)は水素イオン(H+)と反応して窒素分子(N2)と水分子(H2O)に還元分解されるものの、この還元分解反応も室温付近の温度では進行しにくい(反応速度が遅い)ため、特許文献1に記載の方法では、高いNOx浄化率は達成されるものの、一酸化二窒素(N2O)が残存しやすいという問題があった。
【0004】
また、特開2014-237117号公報(特許文献2)には、NOxを吸着可能なNOx吸着材と前記NOx吸着材の下流側に配置したNOx還元触媒と前記NOx還元触媒の下流側に配置したN2O分解触媒とを備え、前記N2O分解触媒が、Rh、Pt、Cu、Co、Ni、Fe、Au及びAgからなる群から選択される少なくとも1種の活性金属とCeを含有する担体とを含んでいる排ガス浄化システムが開示されている。この排ガス浄化システムでは、窒素酸化物を含有する排ガスをNOx吸着材及びNOx還元触媒に接触させることにより、NOxが浄化され、条件により(特に、還元雰囲気下で)N2Oが生成する。生成したN2OをN2O分解触媒に接触させると、N2O分解触媒のN2Oの分解サイトであるRh等の活性金属とその近傍の担体のCe上の高速酸素吸脱着サイトの働きにより、N2Oの解離により生じた酸素種が担体のCe上に効率よく吸着し、H2による再生機能により脱離する。しかしながら、特許文献2に記載の排ガス浄化システムにおいては、高いNOx浄化率は達成されるものの、一酸化二窒素(N2O)の分解効率は必ずしも十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-110761号公報
【特許文献2】特開2014-237117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、室温付近の低温でも高い浄化率でNOxをN2まで分解除去することが可能なNOx浄化装置及びNOx浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、固体電解質とアノード電極膜とカソード電極膜とを有する電気化学セルを用いてNOxを浄化した場合に、カソード電極膜からの出ガスのみをN2O分解触媒に供給することによって、室温付近の低温でも高い浄化率でNOxをN2まで分解除去できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のNOx浄化装置は、固体電解質と、前記固体電解質の一方の面上に配置されたアノード電極膜と、前記アノード電極膜と対向するように前記固体電解質の他方の面上に配置されたカソード電極膜とを有する電気化学セルと、前記アノード電極膜及び前記カソード電極膜に電気的に接続された通電装置と、前記電気化学セルの下流に配置されているN2O分解触媒とを備えており、前記N2O分解触媒が、金属酸化物担体と前記金属酸化物担体に担持された、Pd及びRhからなる群から選択される少なくとも1種の貴金属とを含有するものであり、前記アノード電極膜に第一の入ガスを供給するためのアノード側入ガス流路と前記カソード電極膜に第二の入ガスを供給するためのカソード側入ガス流路とがそれぞれ独立に設けられており、前記アノード電極膜からの第一の出ガスを排出するためのアノード側出ガス流路と前記カソード電極膜からの第二の出ガスを排出するためのカソード側出ガス流路とがそれぞれ独立に設けられており、前記カソード側出ガス流路のみが前記N2O分解触媒に接続されていることを特徴とするものである。
【0009】
本発明のNOx浄化装置においては、前記アノード電極膜及び前記カソード電極膜が貴金属を含有するものであることが好ましく、また、前記カソード電極膜がPd電極膜又はPt電極膜であること好ましく、さらに、前記固体電解質がプロトン伝導性高分子固体電解質であること好ましい。
【0010】
また、本発明のNOx浄化方法は、前記本発明のNOx浄化装置の前記アノード電極膜と前記カソード電極膜との間に電圧を印加しながら、水分を含む第一の入ガスを前記アノード電極膜に、NOxを含む第二の入ガスを前記カソード電極膜に、それぞれ独立に供給することによって、前記アノード電極膜上で前記水分を電気分解して水素イオンを生成させ、前記カソード電極膜上で前記水素イオンと前記NOxとを反応させて前記NOxをN2とN2Oに分解する工程と、前記カソード電極膜からの第二の出ガスのみを前記N2O分解触媒に供給して前記第二の出ガスに含まれるN2OをN2に還元分解する工程とを含むことを特徴とする方法である。
【0011】
なお、本発明によって、室温付近の低温においても高い浄化率でNOxをN
2まで分解除去できる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、
図1に示す電気化学セル(固体電解質1とアノード電極膜2とカソード電極膜3とを備えるもの)のアノード電極膜2とカソード電極膜3との間に電圧を印加しながら、アノード電極膜2に水分(水蒸気、H
2O)を含むガスを接触させると、アノード電極膜2上において、水分(水蒸気、H
2O)が電気分解されて水素イオン(プロトン、H
+)と電子(e
-)が生成する。水素イオン(H
+)は固体電解質1を通って、また、電子(e
-)は通電回路を通ってカソード電極膜3へ移動する。カソード電極膜3へ移動した水素イオン(H
+)と電子(e
-)はカソード電極膜3上でNOxと反応し、NOxが窒素分子(N
2)と水分子(H
2O)に電気化学的に還元分解される。この還元分解反応は、NOxが解離して生成する窒素原子(N)同士が反応することによって進行するが、窒素原子(N)同士の反応は室温付近の温度では進行しにくい(反応速度が遅い)ため、NOxが解離して生成した窒素原子(N)はNOxと反応しやすく、一酸化二窒素(N
2O)が生成しやすい。この一酸化二窒素(N
2O)は水素イオン(H
+)と反応して窒素分子(N
2)と水分子(H
2O)に還元分解されるものの、この還元分解反応も室温付近の温度では進行しにくい(反応速度が遅い)ため、一酸化二窒素(N
2O)が残存しやすい。本発明においては、このように残存した一酸化二窒素(N
2O)と、カソード電極膜3上で水素イオン(H
+)と電子(e
-)とが反応して生成する水素(H
2)とを含有するカソード側出ガスのみをN
2O分解触媒反応装置9に供給することによって、N
2O分解触媒により一酸化二窒素(N
2O)と水素(H
2)との反応が促進され、一酸化二窒素(N
2O)が窒素分子(N
2)と水分子(H
2O)に還元分解されるため、室温付近の低温においても高い浄化率でNOxをN
2まで分解除去できると推察される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、室温付近の低温でも高い浄化率でNOxをN2まで分解除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明におけるNOxの分解反応のメカニズムを示す模式図である。
【
図2】本発明のNOx浄化装置の好適な一実施態様を模式的に示す縦断面図である。
【
図3】実施例で作製したNOx浄化装置を模式的に示す縦断面図である。
【
図4】実施例1~5及び比較例1~4で作製したNOx浄化装置のN
2生成率及びN
2O残存率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明は前記図面に限定されるものではない。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する場合もある。
【0015】
〔NOx浄化装置〕
先ず、本発明のNOx浄化装置について説明する。
図2は本発明のNOx浄化装置の好適な一実施態様を模式的に示す縦断面図である。
図2に示すNOx浄化装置は、固体電解質1と、前記固体電解質1の一方の面上に配置されたアノード電極膜2と、前記アノード電極膜2と対向するように前記固体電解質1の他方の面上に配置されたカソード電極膜3とを有する電気化学セル4と、前記アノード電極膜2及び前記カソード電極膜3に電気的に接続された通電装置5と、前記電気化学セル4の下流に配置されているN
2O分解触媒反応装置9とを備えるものである。
【0016】
本発明に用いられる固体電解質としては、電気化学的還元分解反応を利用したNOxの浄化装置に用いられる固体電解質であれば特に制限はないが、例えば、プロトン伝導性固体電解質が好ましく、プロトン伝導性高分子固体電解質膜がより好ましい。このようなプロトン伝導性高分子固体電解質膜としては、例えば、商標名「ナフィオン(登録商標)」として知られているパーフルオロスルホン酸系ポリマー等の従来公知のプロトン伝導性高分子固体電解質膜が挙げられる。また、このようなプロトン伝導性高分子固体電解質膜の厚さとしては特に制限はないが、0.01~0.5mmが好ましく、0.05~0.2mmがより好ましい。
【0017】
本発明に用いられる固体電解質1の一方の面上にはアノード電極膜2が配置されており、他方の面上には前記アノード電極膜2と対向するようにカソード電極膜3が配置されている。このようなアノード電極膜及びカソード電極膜としては導電性を有する金属膜であれば特に制限はないが、アノード電極膜上における水分(水蒸気、H2O)の電気分解及びカソード電極膜上におけるNOxの還元分解が促進されるという観点から、貴金属(Pt、Rh、Pd、Ag、Ir、Ru等)、Cu、Ti、Sn等を含有する電極膜が好ましく、Pd電極膜、Pt電極膜、IrOx電極膜がより好ましく、カソード電極膜としては、Pd電極膜、Pt電極膜が特に好ましい。また、このような電極膜としては、前記貴金属等が担持された多孔質カーボン膜、前記貴金属等が担持されたカーボンペーパー、前記貴金属等からなる多孔質膜、又は前記貴金属等のメッシュであってもよい。
【0018】
このようなアノード電極膜及びカソード電極膜の厚さとしては特に制限はないが、0.1~100μmが好ましく、1~50μmがより好ましい。アノード電極膜及びカソード電極膜の厚さが前記下限未満になると、触媒としての活性点が不足し、不活性になったり、電極膜の抵抗が大きくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、電極膜と固体電解質との界面で生成したプロトン(H+)がNOxと十分に反応しなかったり、水分やNOx等との接触性が低下する傾向にある。
【0019】
アノード電極膜及びカソード電極膜の形成方法としては特に制限はないが、例えば、固体電解質(又は固体電解質前駆体)の面上に電極材料を、熱圧着する方法、塗布する方法、蒸着させる方法が挙げられる。電極材料としては、金属が担持されたカーボン粉末、金属ターゲット(例えば、Ptターゲット)、有機金属等が挙げられる。
【0020】
本発明のNOx浄化装置においては、このようなアノード電極膜2及びカソード電極膜3と通電装置5とが電気配線6によって電気的に接続されている。このような通電装置としては直流の電圧を印加できるものであれば特に制限はなく、公知の通電装置(直流電源)を適宜採用することができる。電気配線としては特に制限はなく、Au線、Pt線、Ni線、Cu線、Ag線等が挙げられる。また、電気配線6は、アノード電極膜2及びカソード電極膜3に直接接合されていてもよいし、電気配線6が接合された金属メッシュ(Auメッシュ、Ptメッシュ、Niメッシュ、Agメッシュ等)を介してアノード電極膜2及びカソード電極膜3と接触させてもよい。さらに、電気配線6が接合された集電板を集電材及び金属製薄板フィンを介してアノード電極膜2及びカソード電極膜3と接触させてもよい。前記集電板及び前記集電材としては、ステンレス板、貴金属をコーティングしたステンレス板及び金等の金属メッシュ等が挙げられ、前記金属製薄板フィンとしては、ステンレス製のコルゲートフィン、オフセットフィン及びウェービングフィン等が挙げられる。
【0021】
また、本発明のNOx浄化装置においては、このような固体電解質1、アノード電極膜2及びカソード電極膜3を有する電気化学セル4に対して、アノード電極膜2に第一の入ガスを供給するためのアノード側入ガス流路7aとカソード電極膜3に第二の入ガスを供給するためのカソード側入ガス流路8aとがそれぞれ独立に接続されている。これにより、アノード電極膜2には水分(水蒸気、H2O)を含有するガスを、カソード電極膜3にはNOxを含有するガスをそれぞれ独立に供給することが可能となる。
【0022】
さらに、本発明のNOx浄化装置においては、アノード電極膜2からの第一の出ガスを排出するためのアノード側出ガス流路7bとカソード電極膜3からの第二の出ガスを排出するためのカソード側出ガス流路8bとがそれぞれ独立に接続されており、このカソード側出ガス流路8bのみが、電気化学セル4の下流に配置されているN2O分解触媒(N2O分解触媒反応装置9)に接続されている。これにより、カソード電極膜3上で副生した一酸化二窒素(N2O)と水素(H2)とを含有する第二の出ガスのみをN2O分解触媒(N2O分解触媒反応装置9)に供給することができ、N2O分解触媒の作用によって効率よくN2OをN2まで還元分解することが可能となる。
【0023】
本発明に用いられるN2O分解触媒は、金属酸化物担体と前記金属酸化物担体に担持された、Pd及びRhからなる群から選択される少なくとも1種の貴金属とを含有するものである。前記金属酸化物担体としては特に制限はなく、従来公知のN2O分解触媒に用いられる金属酸化物担体を用いることができ、例えば、セリア、アルミナ、ジルコニア、チタニア、スピネル酸化物等が挙げられる。
【0024】
前記貴金属の担持量としては特に制限はないが、前記金属酸化物担体100質量部に対して0.01~10質量部が好ましく、0.1~5質量部がより好ましい。貴金属の担持量が前記下限未満になると、N2O分解触媒中に存在する活性サイトが少なく、触媒活性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、コストが増大する傾向にある。
【0025】
〔NOx浄化方法〕
次に、本発明のNOx浄化方法を、
図2に示すNOx浄化装置を用いた場合を例に説明する。このような
図2に示すNOx浄化装置を用いてNOxを浄化するNOx浄化方法は、本発明のNOx浄化方法の好適な一実施態様である。なお、前記本発明のNOx浄化装置の好適な一実施態様において説明した内容と重複する内容については省略する。
【0026】
本発明のNOx浄化方法においては、前記NOx浄化装置のアノード電極膜2とカソード電極膜3との間に電圧を印加しながら、水分を含む第一の入ガスをアノード側入ガス流路7aからアノード電極膜2に、NOxを含む第二の入ガスをカソード側入ガス流路8aからカソード電極膜3に、それぞれ独立に供給して、水分をアノード電極膜2に、NOxをカソード電極膜3に接触させる。これにより、
図1に示したように、アノード電極膜2上では水分(水蒸気、H
2O)が電気分解して水素イオン(H
+)と電子(e
-)が生成し、水素イオン(H
+)は固体電解質1を通ってカソード電極膜3の表面に移動する。また、電子(e
-)は通電回路を通ってカソード電極膜3へ移動する。
【0027】
一方、カソード電極膜3上ではNOxが窒素原子(N)と酸素原子(O)とに解離し、酸素原子(O)が前記水素イオン(H+)及び電子(e-)と反応して水分(H2O)が生成する。また、解離した窒素原子(N)同士が反応して窒素分子(N2)が生成するとともに、解離した窒素原子(N)と残存するNOとが反応して一酸化二窒素(N2O)が生成する。さらに、前記水素イオン(H+)同士が反応して水素分子(H2)が生成する。したがって、カソード電極膜3からの第二の出ガスが、窒素分子(N2)と一酸化二窒素(N2O)と水素分子(H2)とを含むガスとなる。
【0028】
アノード電極膜2とカソード電極膜3との間に印加する電圧としては、1~20Vが好ましく、1.2~8Vがより好ましい。印加する電圧が前記下限未満になると、反応に必要な水の電気分解が進行しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、プロトン(H+)伝導に必要な固体電解質中の水分が失われたり、固体電解質や電極膜が劣化したりする傾向にある。
【0029】
また、アノード電極膜2とカソード電極膜3との間の電流値としては、0.1~500mA/cm2が好ましく、1~400mA/cm2がより好ましい。電極膜間の電流値が前記下限未満になると、反応に必要な水の電気分解が進行しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、固体電解質や電極膜が劣化する傾向にある。
【0030】
アノード電極膜2に供給される第一の入ガスとしては、水分(水蒸気、H2O)を含むガスであれば特に制限はないが、例えば、H2Oを相対湿度として30%以上含むガスが好ましく、H2Oを相対湿度として40%以上含むガスがより好ましい。このような相対湿度のガスを第一の入ガスとして用いることによって、アノード電極膜2上における水素イオン(H+)の生成が促進される。
【0031】
また、カソード電極膜3に供給される第二の入ガスとしては、NOxを含むガスであれば特に制限はない。このようなNOxを含むガスとしては内燃機関からの排ガスが挙げられる。
【0032】
次に、本発明のNOx浄化方法においては、カソード電極膜3からの第二の出ガスのみを、電気化学セルの下流に配置されたN2O分解触媒(N2O分解触媒反応装置9)に導入して、N2O分解触媒の存在下で、一酸化二窒素(N2O)と水素分子(H2)とを反応させてN2Oを窒素分子(N2)まで還元分解する。N2O分解触媒の作用によりN2OとH2との反応が促進されるため、室温付近の低温でも高い浄化率でNOxをN2まで分解除去することが可能となる。
【0033】
以上、
図1及び
図2を参照して本発明のNOx浄化装置及びNOx浄化方法の好適な実施態様について説明したが、本発明のNOx浄化装置及びNOx浄化方法は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例0034】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
(作製例1)
先ず、バイアル瓶(容量30ml)に1.97質量%のテトラアンミンパラジウム水酸塩水2.54gを秤量し、イオン交換水8ml、エタノール5ml及び酢酸2mlを添加した後、さらに、担体として導電性カーボンブラック(キャボット社製「VULCAN XC-72」)0.1gを添加して混合した。得られた混合物を、マイクロ波合成装置(株式会社アントンパール・ジャパン製「Monowave450」)を用いて140℃で1.5時間加熱して、前記導電性カーボンブラックにパラジウム(Pd)を担持した。得られた粉末をイオン交換水で洗浄した後、吸引ろ過により回収し、Pd担持多孔質カーボン(Pd担持量:カーボン100質量部に対して33質量部)を得た。このPd担持多孔質カーボンをパーフルオロスルホン酸系樹脂溶液(デュポン社製「ナフィオン(登録商標)」、濃度:20質量%)に添加して混合し、得られた溶液を用いてPd担持多孔質カーボン(Pd/C)電極膜を作製した。
【0036】
また、酸化イリジウム(IrOx)(田中貴金属工業株式会社製、比表面積:5m2/g)をパーフルオロスルホン酸系樹脂溶液(デュポン社製「ナフィオン(登録商標)」、濃度:20質量%)に添加して混合し、得られた溶液を用いて酸化イリジウム(IrOx)電極膜を作製した。
【0037】
次に、プロトン伝導性高分子固体電解質膜であるパーフルオロスルホン酸系樹脂膜(デュポン社製「ナフィオン(登録商標)N115」)の一方の面上に前記Pd担持多孔質カーボン(Pd/C)電極膜(面積:12.96cm2)を、他方の面上に前記酸化イリジウム(IrOx)電極膜(面積:12.96cm2)を熱圧着して、プロトン伝導性高分子固体電解質膜にカソード電極膜として前記Pd/C電極膜とアノード電極膜として前記IrOx電極膜とが接合した電極・電解質膜接合体(Pd/C-IrOx-MEA)を作製した。
【0038】
(作製例2)
先ず、固体高分子形燃料電池用電極触媒である白金(Pt)担持多孔質カーボン(田中貴金属株式会社製白金触媒「TEC10V30E」、カーボン担持体:導電性カーボンブラック(キャボット社製「VULCAN XC-72」)、Pt担持量:30質量%)をパーフルオロスルホン酸系樹脂溶液(デュポン社製「ナフィオン(登録商標)」、濃度:20質量%)に添加して混合し、得られた溶液を用いてPt担持多孔質カーボン(Pt/C)電極膜を作製した。次に、前記Pd/C電極膜の代わりに前記Pt/C電極膜(面積:12.96cm2)を用いた以外は作製例1と同様にして、プロトン伝導性高分子固体電解質膜(パーフルオロスルホン酸系樹脂膜)にカソード電極膜として前記Pt/C電極膜とアノード電極膜として前記IrOx電極膜とが接合した電極・電解質膜接合体(Pt/C-IrOx-MEA)を作製した。
【0039】
(調製例1)
イオン交換水250mlに硝酸パラジウム水溶液(Pd濃度:4.5質量%)2.24gを添加して撹拌し、さらに、γ-Al2O3(Rhodia社製「MI307」)10gを添加して撹拌し、得られた混合物を蒸発乾固させた。得られた乾固物を大気中、300℃で3時間焼成してPd担持γ-Al2O3(Pd担持量:γ-Al2O3100質量部に対して1質量部)を得た。
【0040】
(調製例2)
イオン交換水100mlに酢酸ロジウム(Rh含量:36.6質量%)0.272g及びクエン酸鉄アンモニウム(Fe含量:16質量%)0.2196gを添加して撹拌し、さらに、CeO2(第一稀元素化学工業株式会社製「酸化セリウム」)10gを添加して撹拌し、得られた混合物を蒸発乾固させた。得られた乾固物を大気中、300℃で3時間焼成してRhFe担持CeO2(Rh担持量:CeO2100質量部に対して1質量部、Fe担持量:CeO2100質量部に対して0.35質量部)を得た。
【0041】
(調製例3)
イオン交換水100mlに硝酸ロジウム水溶液(Rh濃度:2.75質量%)3.67gを添加して撹拌し、さらに、CeO2(第一稀元素化学工業株式会社製「酸化セリウム」)10gを添加して撹拌し、得られた混合物を蒸発乾固させた。得られた乾固物を大気中、300℃で3時間焼成してRh担持CeO2(Rh担持量:CeO2100質量部に対して1質量部)を得た。
【0042】
(比較調製例1)
硝酸パラジウム水溶液の代わりにジニトロジアンミン白金硝酸溶液(Pt濃度:4.573質量%)2.19gを用いた以外は調製例1と同様にして、Pt担持γ-Al2O3(Pt担持量:γ-Al2O3100質量部に対して1質量部)を得た。
【0043】
(実施例1)
図3に示すNOx浄化装置を作製した。すなわち、先ず、作製例1で作製した電極・電解質膜接合体(Pd/C-IrOx-MEA)を、2枚のカーボンペーパー(東レ株式会社製「TGP-H-060」、厚さ:0.19mm、電気抵抗値:(厚さ方向)80mΩ・cm、(面方向)5.8mΩ・cm、気体透過性:1900ml・mm/(cm
2・hr・mmAq)、気孔率:78%、嵩密度:0.44g・cm
3)で挟持し、固体電解質1(パーフルオロスルホン酸系樹脂膜)、アノード電極膜2(IrOx電極膜)、アノード側カーボンペーパー2a、カソード電極膜3(Pd/C電極膜)、及びカソード側カーボンペーパー3aを備える電気化学セル4を作製した。
【0044】
次に、この電気化学セル4を、2枚の集電材11a(AuをスパッタリングしたSUS316ステンレスメッシュ、厚さ:0.1mm)、2枚の金属製薄板フィン12(SUS304ステンレス製コルゲートフィン、厚さ:0.8mm)、2枚の集電材11b(AuをスパッタリングしたSUS316ステンレスメッシュ、厚さ:0.1mm)で順に挟持し、さらに、ガス流路用開口部を有する2枚の集電板13(PtをスパッタリングしたSUS316ステンレス板)で挟持し、前記集電板13を通電装置5(ケースレーインスツルメンツ社製直流電源「2400-C型汎用ソースメータ」)に電気配線6により接続した。さらに、シール材(シリコーンガスケット)14を用いて、入ガス流路7a及び出ガス流路7bを含むアノード側ガス流路7並びに入ガス流路8a及び出ガス流路8bを含むカソード側ガス流路8をそれぞれ独立に形成した。
【0045】
次に、N
2O分解触媒として調製例1で調製したPd担持γ-Al
2O
30.8gを反応管に充填してN
2O分解触媒反応装置9を作製し、これにカソード側出ガス流路8bのみを接続し、さらに、前記N
2O分解触媒反応装置9に浄化ガス排出流路10を接続して、
図3に示したNOx浄化装置を作製した。
【0046】
(実施例2)
調製例1で調製したPd担持γ-Al
2O
3の代わりに調製例2で調製したRhFe担持CeO
20.8gを用いた以外は実施例1と同様にして、
図3に示したNOx浄化装置を作製した。
【0047】
(実施例3)
調製例1で調製したPd担持γ-Al
2O
3の代わりに調製例3で調製したRh担持CeO
20.8gを用いた以外は実施例1と同様にして、
図3に示したNOx浄化装置を作製した。
【0048】
(実施例4)
作製例1で作製した電極・電解質膜接合体(Pd/C-IrOx-MEA)の代わりに作製例2で作製した電極・電解質膜接合体(Pt/C-IrOx-MEA)を用いた以外は実施例1と同様にして、
図3に示したNOx浄化装置を作製した。
【0049】
(実施例5)
調製例1で調製したPd担持γ-Al
2O
3の代わりに調製例2で調製したRhFe担持CeO
20.8gを用いた以外は実施例4と同様にして、
図3に示したNOx浄化装置を作製した。
【0050】
(比較例1)
N2O分解触媒反応装置9を接続しなかった以外は実施例1と同様にして、NOx浄化装置を作製した。
【0051】
(比較例2)
調製例1で調製したPd担持γ-Al2O3の代わりに比較調製例1で調製したPt担持γ-Al2O30.8gを用いた以外は実施例1と同様にして、NOx浄化装置を作製した。
【0052】
(比較例3)
N2O分解触媒反応装置9を接続しなかった以外は実施例4と同様にして、NOx浄化装置を作製した。
【0053】
(比較例4)
N2O分解触媒反応装置9にアノード側出ガス流路7bとカソード側出ガス流路8bの両方を接続した以外は実施例1と同様にして、NOx浄化装置を作製した。
【0054】
実施例及び比較例で作製した各NOx浄化装置の構成を表1にまとめた。
【0055】
【0056】
<性能評価試験>
先ず、実施例及び比較例で作製した各NOx浄化装置のN2O分解触媒反応装置9に、ヘリウムガスを流量100ml/分、温度300℃の条件で30分間流通させて前処理を行った。
【0057】
次に、各NOx浄化装置の電気化学セル4のアノード電極膜2にバブラーで水を添加したヘリウムガスを、カソード電極膜3に一酸化窒素と水分とを含有する混合ガス(NO(1000ppm)+H2O(5%)+He(残部))をそれぞれ流量120ml/分で供給しながら、室温(19~26℃)で、アノード電極膜とカソード電極膜との間に1.5Vの電圧を15分間印加した。
【0058】
N
2O分解触媒反応装置9から排出された浄化ガス(比較例1、3については、カソード側出ガス)中のNO濃度、N
2濃度及びN
2O濃度を、質量分析計(キヤノンアネルバ株式会社製四重極型質量分析計「M-101QA-TDF」)を用いてm/z=28及び44として測定した。なお、ガス濃度と質量分析ピーク強度との関係は、予め既知の濃度のガスを用いて校正した。得られた結果に基づいて、電圧印加開始から14分~15分の1分間におけるNO転化量に対するN
2生成量の割合(N
2生成率)及びN
2O残存量の割合(N
2O残存率)を求めた。その結果を
図4に示す。
【0059】
図4に示したように、電気化学セル(NOx分解装置)のカソード側出ガスのみをPd又はRhを含有するN
2O分解触媒に供給した場合(実施例1~5)には、浄化ガス中にN
2Oは残存せず、N
2生成率が高くなった。すなわち、本発明のNOx浄化装置を用いることにより、高い浄化率でNOxをN
2まで分解除去できることがわかった。
【0060】
一方、電気化学セル(NOx分解装置)の下流にN2O分解触媒を配置しなかった場合(比較例1、3)には、N2生成率が非常に低く(15%以下)、N2O残存率が非常に高くなった(50%以下)。すなわち、N2O分解触媒を備えていないNOx分解装置を用いると、NOx浄化率は高くなるものの、N2まで十分に分解されず、浄化ガスに多量のN2Oが残存することがわかった。
【0061】
また、N2O分解触媒としてPtを含有する触媒を用いた場合(比較例2)には、N2O分解触媒を備えていないNOx分解装置を用いた場合(比較例1、3)に比べて、N2生成率は高くなる(約25%)ものの、N2O残存率は未だ高かった(約45%)。すなわち、Ptを含有する触媒はN2O分解触媒として不向きであることがわかった。
【0062】
さらに、電気化学セル(NOx分解装置)のアノード側出ガスとカソード側出ガスの両方をPd又はRhを含有するN2O分解触媒に供給した場合(比較例4)も、N2生成率が非常に低く(約15%)、N2O残存率が非常に高くなった(約65%)。すなわち、電気化学セル(NOx分解装置)の出ガスすべてをPd又はRhを含有するN2O分解触媒に供給すると、NOx浄化率は高くなるものの、N2まで十分に分解されず、浄化ガスに多量のN2Oが残存することがわかった。