(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189527
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】溶鋼の脱窒方法、脱窒及び脱硫同時処理方法および鋼の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21C 7/00 20060101AFI20221215BHJP
C21C 7/10 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
C21C7/00 N
C21C7/10 J
C21C7/00 H
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098151
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】根岸 秀光
(72)【発明者】
【氏名】山田 令
(72)【発明者】
【氏名】多田 睦
【テーマコード(参考)】
4K013
【Fターム(参考)】
4K013AA09
4K013BA11
4K013CA04
4K013CE04
4K013CE07
4K013EA03
4K013EA05
4K013FA04
4K013FA05
(57)【要約】
【課題】安定して高速で極低窒素濃度域まで到達し得る脱窒処理を行い、さらには、この脱窒処理と脱硫処理とを同一処理中で行い、効率的に溶鋼の脱窒または脱窒と脱硫とを行うことができる方法を提案する。
【解決手段】容器1に充填した溶鋼3上にCaO及びAl
2O
3を含有するスラグ4を形成し、前記スラグ上から酸素含有ガスを吹き付けるとともに、前記スラグと溶鋼とを接触させて溶鋼中の窒素を除去する溶鋼の脱窒処理であって、溶鋼中のAl濃度を攪拌動力密度に応じて式(1)で決まる値以上に確保するとともに、前記スラグの厚みL
S0と酸素含有ガス吹き付けにより生じるスラグの凹み深さL
Sとの比がL
S/L
S0≧1となるように酸素含有ガスを吹き付けることを特徴とする、溶鋼の脱窒方法。
溶鋼中Al濃度(mass%)=-0.072×ln(攪拌動力密度(W/t))
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器に充填した溶鋼上にCaO及びAl2O3を含有するスラグを形成し、前記スラグ上から酸素含有ガスを吹き付けるとともに、前記スラグと溶鋼とを接触させて溶鋼中の窒素を除去する溶鋼の脱窒処理であって、溶鋼中のAl濃度を攪拌動力密度に応じて式(1)で決まる値以上に確保するとともに、前記スラグの厚みLS0と酸素含有ガス吹き付けにより生じるスラグの凹み深さLSとの比がLS/LS0≧1となるように酸素含有ガスを吹き付けることを特徴とする、溶鋼の脱窒方法。
溶鋼中Al濃度(mass%)=-0.072×ln(攪拌動力密度(W/t))
+0.5822 ・・・・(1)
【請求項2】
前記スラグ中のCaO濃度(mass%)とAl2O3濃度(mass%)の比であるC/A(-)を0.4以上1.8以下にすることを特徴とする、請求項1記載の溶鋼の脱窒方法。
【請求項3】
前記スラグ中のMgO濃度を5.0mass%以下にすることを特徴とする、請求項1または2に記載の溶鋼の脱窒方法。
【請求項4】
前記スラグ中のMgO濃度が5.0mass%を超えて1%増加する毎に、前記溶鋼の温度を5℃以上増加させることを特徴とする、請求項1または2に記載の溶鋼の脱窒方法。
【請求項5】
前記スラグまたは溶鋼の表面を1.0×105Pa以下に減圧することを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の溶鋼の脱窒方法。
【請求項6】
容器に充填した溶鋼上にCaO及びAl2O3を含有するスラグを形成し、前記スラグ上から酸素含有ガスを吹き付けるとともに、前記スラグと溶鋼とを接触させて溶鋼中の窒素及び硫黄を除去する溶鋼の脱窒及び脱硫同時処理方法であって、請求項1~5のいずれか1項に記載の脱窒処理中において、溶鋼中のAl濃度を0.05mass%以上に保ちつつ、スラグ中のCaO濃度(mass%)とAl2O3濃度(mass%)の比であるC/A(-)を0.7以上1.7以下に制御することを特徴とする、溶鋼の脱窒及び脱硫同時処理方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の溶鋼の脱窒方法または請求項6に記載の溶鋼の脱窒及び脱硫同時処理方法で溶製した溶鋼に対し、任意に成分調整したのち、鋳造することを特徴とする、鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取鍋などの反応容器に充填された溶鋼と、溶鋼上に添加・形成されたスラグとを接触させることにより、溶鋼中の窒素を除去する方法または窒素及び硫黄を同時に除去する方法、さらには、それらの方法により溶製された鋼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒素は金属材料にとって有害成分であり、従来の製鋼プロセスでは主に溶銑の脱炭処理時に発生する一酸化炭素の気泡表面に溶鉄中の窒素[N]を吸着させて除去している。そのため炭素濃度が低い溶鋼に関しては、一酸化炭素の発生量が限られているため、同様の手法では窒素を低濃度まで除去することができない。
【0003】
一方で、CO2排出量低減のためには、製鋼プロセスは従来の高炉、転炉を用いる方法から、スクラップや還元鉄を溶解させる方法へと転換する必要がある。その場合、得られる溶融鉄は炭素濃度が低くなり、前記理由で低窒素鋼を溶製できないおそれがある。
【0004】
そこでスラグを用いた溶鋼からの脱窒方法がいくつか提案されている。たとえば、特許文献1には、VOD炉にて溶鋼中Al濃度を0.7mass%以上の濃度に少なくとも5分間保持し、アルミナイトライド(以下AlN)の生成により脱窒する方法が示されている。
【0005】
また、特許文献2には、電気炉で鉄スクラップを主鉄源として溶鋼を溶製し、別の精錬容器に出鋼、保持した後、Al含有物質を含む脱窒用のフラックスを添加して、溶鋼に酸素含有ガスを吹き付けてスラグを形成しながら、そのスラグにAlNを移行させて脱窒する方法が示されている。
【0006】
また、特許文献3には、ガス上吹き機能を有する精錬容器に溶融金属を装入し、この溶融金属の表面を、CaOおよびAl2O3を主成分とするスラグで覆ったのち、この被覆スラグ面に対し酸化性ガスを、該ガスが溶融金属と直接接触しない程度に吹き付けることにより脱窒する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5-320733号公報
【特許文献2】特開2007-211298号公報
【特許文献3】特開平8-246024号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】鉄と鋼、101(2015)、p.74
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記従来技術には以下の問題点がある。
すなわち、特許文献1や2に記載の技術は、脱窒のためにAlNの生成を利用しており、生成したAlNの一部が溶鋼中に残存し、後工程の鋳造時に割れの起点になってしまうという課題がある。
【0010】
また、AlNの生成を使用した脱窒方法を用いて、数十massppm程度の低窒素鋼を溶製するためにはAlとNの溶解度積から考えて少なくともAl濃度が数mass%~10mass%程度もしくは数百massppm程度の初期窒素濃度が必要である。特許文献1や2に記載の技術は、低窒素鋼を溶製するには工程的に用いるコストが非常に高くなりすぎ、ステンレス鋼等の溶解窒素量の高い鋼種にしか適用できないという課題がある。
【0011】
特許文献3に記載の技術は、溶鋼を酸化性ガスから遮断するための条件として、
(1) スラグ量を少なくとも溶鋼1トンあたり15kg確保すること
(2) スラグ量、底吹きガス量、上吹きガス組成やその流量、ランス高さ及び雰囲気圧力などを適当な範囲に制御すること
を挙げているが、条件(1)は溶鋼を充填する容器のサイズによってスラグ量が増大すること、条件(2)は具体的な制御手段、制御範囲の記載がなく、ガスと溶鋼の遮断を確認する方法が明らかでないことから、適合条件が明確でない。特許文献3に記載の適合例と同一範囲で試験を行っても、実際は酸化性ガスによりスラグ-メタル界面のみかけの酸素分圧が増加することによるスラグ-メタル間での窒素移動抑制によって、脱窒速度が遅くなり、操業上実用的でないことを発明者らは確認している。
【0012】
また、スラグを貫通させず酸素含有ガスを供給する場合、送酸工程ではAl濃度の低下はないか、非常に緩やかである。そのため、金属Al含有物質によって増加した鋼中Al濃度を製品規格レベル、例えば0.025~0.040mass%程度まで低下させるためには、スラグ相を貫通させて酸素含有ガスと鋼中Alを反応させて除去する、Al飛ばしという工程が別途必要になる。しかし、これを行うことは、処理時間の増大を招き、後工程の鋳造時間との時間の不整合による生産性の低下の誘因となっていた。
【0013】
また、窒素の他、溶鋼中の硫黄の除去も二次精錬での役割となるが、特許文献1から3には特に脱硫に関する記載がない。そのため、溶鋼中の硫黄除去は、例えばLF(レードルファーネス)で電極加熱を行いながらCaO及びAl2O3を主成分とするスラグを造滓し、スラグと溶鋼を接触させながら硫黄を除去する、といったプロセスを別途設けなければならず、生産コストの増加の誘因となっていた。
【0014】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、スラグを用いた溶鋼の脱窒精錬を行うにあたり、高濃度の鋼中Alを除去するとともに、安定して高速で極低窒素濃度域まで到達し得る脱窒処理を行い、さらには、この脱窒処理と脱硫処理とを同一処理中で行い、効率的に溶鋼の脱窒または脱窒と脱硫とを行うことができる方法を提案することにある。さらに、それらの溶鋼の脱窒方法で溶製した溶鋼を用いた鋼の製造方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは、上記課題を解決すべく、種々実験を重ねた結果、酸素含有ガスをスラグに吹き付け、スラグを介して溶鋼中の窒素を除去する脱窒処理において、上吹き酸素ガスを溶鋼に到達させてAl飛ばしを行う際、酸素含有ガスがスラグを貫通する条件においても、スラグ酸素含有ガスが吹き付けられる面(以下、火点)以外を覆っているスラグの組成や溶鋼温度によっては、急速な脱窒、さらには急速な脱窒と脱硫とを同時に進行させる領域があることを見出した。本発明は上記知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0016】
上記課題を有利に解決する本発明の溶鋼の脱窒方法は、容器に充填した溶鋼上にCaO及びAl2O3を含有するスラグを形成し、前記スラグ上から酸素含有ガスを吹き付けるとともに、前記スラグと溶鋼とを接触させて溶鋼中の窒素を除去する溶鋼の脱窒処理であって、溶鋼中のAl濃度を攪拌動力密度に応じて式(1)で決まる値以上に確保するとともに、前記スラグの厚みLS0と酸素含有ガス吹き付けにより生じるスラグの凹み深さLSとの比がLS/LS0≧1となるように酸素含有ガスを吹き付けることを特徴とする、溶鋼の脱窒方法である。
溶鋼中Al濃度(mass%)=-0.072×ln(攪拌動力密度(W/t))
+0.5822 ・・・・(1)
【0017】
なお、前記のように構成される本発明に係る溶鋼の脱窒方法においては、
(1)前記スラグ中のCaO濃度(mass%)とAl2O3濃度(mass%)の比であるC/A(-)を0.4以上1.8以下にすること、
(2)前記スラグ中のMgO濃度を5.0mass%以下にすること、
(3)前記スラグ中のMgO濃度が5.0mass%を超えて1%増加する毎に、前記溶鋼の温度を5℃以上増加させること、
(4)前記スラグまたは溶鋼の表面を1.0×105Pa以下に減圧すること、
がより好ましい解決手段となるものと考えられる。
【0018】
また、上記課題を有利に解決する本発明の溶鋼の脱窒及び脱硫同時処理方法は、容器に充填した溶鋼上にCaO及びAl2O3を含有するスラグを形成し、前記スラグ上から酸素含有ガスを吹き付けるとともに、前記スラグと溶鋼とを接触させて溶鋼中の窒素及び硫黄を除去する溶鋼の脱窒及び脱硫同時処理方法であって、上述した溶鋼の脱窒方法の脱窒処理中において、溶鋼中のAl濃度を0.05mass%以上に保ちつつ、スラグ中のCaO濃度(mass%)とAl2O3濃度(mass%)の比であるC/A(-)を0.7以上1.7以下に制御することを特徴とする、溶鋼の脱窒及び脱硫同時処理方法である。
【0019】
さらに、本発明に係る鋼の製造方法は、上述した溶鋼の脱窒方法または上述した溶鋼の脱窒及び脱硫同時処理方法で溶製した溶鋼に対し、任意に成分調整したのち、鋳造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
上述したように構成される本発明によれば、スラグを用いた溶鋼の脱窒精錬を行うにあたり、高濃度の鋼中Alを除去することと、安定して高速で極低窒素濃度域まで到達し得る脱窒処理に加え脱硫処理をも同一処理中で行い、効率的な溶鋼の脱窒処理を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の方法に適した装置の一例を示す模式図である。
【
図2】到達窒素濃度25massppmを得るために必要な鋼中Al濃度と攪拌動力密度の関係を示したグラフである。
【
図3】スラグ中CaO濃度とAl
2O
3濃度との比、C/A(-)と到達窒素濃度との関係を示したグラフである。
【
図4】到達窒素濃度に及ぼすスラグ中MgO濃度の影響を示したグラフである。
【
図5】同一の到達窒素を得るために必要だった溶鋼温度に及ぼすスラグ中MgO濃度の影響を示したグラフである。
【
図6】炉内雰囲気圧が及ぼす処理後窒素バラツキ上限への影響を示すグラフである。
【
図7】平衡S濃度とC/Aとの関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0023】
<本発明を実施する装置構成について>
図1に本発明を実施するにあたり好適な装置構成を示す。
図1において、耐火物2が内張りされた取鍋などの容器1に溶鋼3を充填し、その上にCaO及びAl
2O
3を含有するスラグ4を形成する。排気系統11と合金添加系統12を有する真空容器13中で溶鋼3またはスラグ4表面を減圧雰囲気とした状態で、酸素ガス供給用のガス配管5および不活性ガス供給用のガス配管9に接続されたガス上吹き用ランス6から、O
2含有ガス7をスラグ4に吹き付ける。溶鋼3は、ガス配管9に接続された底吹きノズル8から鋼浴攪拌用不活性ガス10を吹込むことで、攪拌される。
【0024】
溶鋼3の脱酸や溶鋼3中Al濃度の増加用の金属Al含有物質の添加およびCaO含有物質の添加は、合金添加系統12から行ってもよいし、真空容器13に入る前工程で行っても良い。CaO及びAl2O3を含有するスラグ4の形成は、CaO含有物質及び溶鋼3の脱酸で生じるAl2O3を利用するが、例えばCaO及びAl2O3含有物質としてプリメルトもしくはプレミックス品のカルシウムアルミネートを用いて行っても良い。攪拌用不活性ガス10の溶鋼3中への供給は、前記の方法以外にも、例えば不活性ガス吹込み用のインジェクションランスを介して溶鋼3にインジェクションする形式でも良い。
【0025】
次に、本発明の溶鋼の脱窒方法、本発明の溶鋼の脱窒方法の好適例1~4、本発明の溶鋼の脱窒及び脱硫同時処理方法について、経緯を交えて詳細に説明する。
【0026】
<本発明の溶鋼の脱窒方法の特徴について>
本発明の溶鋼の脱窒方法の特徴は、上吹き酸素含有ガスがスラグ相を貫通するような条件において、火点外のスラグを用いた脱窒処理を行うにあたって必要なAl量を調査していた際に見出されたものである。小型高周波真空誘導溶解炉にて、15kgの溶鋼を溶解し、15kg/t以上のCaO及びAl
2O
3含有スラグを形成し、酸素含有ガスをスラグに吹き付ける処理を行う場合において、溶鋼中窒素を25massppmまで低下させるために最低限必要なAl濃度を調査した所、
図2に示すように、攪拌動力密度に応じて必要なAl濃度が変化することが分かった。この時、溶鋼中のAl濃度は、脱窒処理前のCaO及びAl
2O
3含有スラグが溶融した段階でのスラグの厚みL
S0(m)測定結果と、非特許文献1記載の式中の諸パラメータ、具体的には液体密度やガス密度、ジェット速度などを実験条件に適合する値に変えたスラグの凹み深さL
S(m)との比であるL
S/L
S0(-)が1以上あれば、酸素との反応により低下することも分かった。本発明は、このような調査を基に提案されたものである。
【0027】
なお、上述した本発明の溶鋼の脱窒方法において、スラグの厚みLS0(m)とスラグの凹みLS(m)との比LS/LS0(-)の上限については、脱窒条件や装置構成などに応じて異なる上限が存在するため、ここでは特に上限を設定していない。
【0028】
本発明の溶鋼の脱窒方法の好適例1は、スラグ組成、主にスラグ中のCaO濃度(mass%)とAl
2O
3濃度(mass%)の比である、C/A(-)の脱窒へ及ぼす影響を調査している際に見出されたものである。前記小型溶解炉にて、スラグ中のMgO濃度を0%とした上で、C/Aを0,4~2.0まで振った試験において、
図3に示すように、C/Aが0.4~1.2の範囲では脱窒成績は横ばい、C/Aが1.2を超えた点から脱窒成績は下がり始め、1.6を超えると急激に到達窒素が上昇し、1.8を超えると低窒素濃度域(窒素濃度が35massppm以下)へ到達しなくなった。上述した好適例1は、このような調査を基に提案されたものである。
【0029】
本発明の溶鋼の脱窒方法の好適例2は、スラグ中のMgO濃度の影響を調査していた時に見出されたものである。前記小型溶解炉において、攪拌動力密度を500W/t一定として、MgO濃度を0%~17%の範囲で制御して脱窒処理を行った所、
図4に示すように、スラグ中MgO濃度が5mass%以下の水準は低窒素濃度域(窒素濃度35massppm以下)に到達したが、それより多い濃度では脱窒成績が著しく悪化した。上述した好適例2は、このような調査を基に提案されたものである。
【0030】
本発明の溶鋼の脱窒方法の好適例3は、溶鋼を充填する容器の耐火物保護の観点からMgO濃度を上げざるを得ない場合の脱窒悪化に対し、改善策を検討している際に見出された。前記小型高周波真空誘導溶解炉を用いて、CaO及びAl
2O
3含有スラグ中のMgO濃度を0mass%から飽和濃度の範囲で変化させた際、溶鋼中窒素を25massppmまで低下させるために必要な、溶鋼温度を調査した。その結果、
図5に示すようにスラグ中のMgO濃度が1.0mass%増加するにしたがって、溶鋼温度を約5℃増加させる必要があった。この調査により、MgO濃度増加による脱窒低下をリカバリーできる溶鋼温度増加量が定量的に判明した。上述した好適例3は、このような調査を基に提案されたものである。
【0031】
本発明の溶鋼の脱窒方法の好適例4は、脱窒挙動に及ぼす雰囲気圧の影響について調査を行った際に見出されたものである。前記小型高周波真空溶解炉を用いて、炉内の雰囲気圧を調整した上で、攪拌動力密度で200W/t~2000W/tの攪拌を溶鋼に付与しながら溶鋼の脱窒処理を行った。まず、真空度を制御した試験において、
図6に示すように処理後の窒素濃度のバラツキ上限値は攪拌動力密度に応じて変化した。低攪拌動力密度では1.0×10
5Paで到達窒素濃度が安定するが、高攪拌動力密度では、0.66×10
5Pa超で増加し始め、攪拌動力密度が高いほど、処理後の到達窒素濃度のバラツキ上限値が大きくなることが分かった。従って、本発明においては、望ましい雰囲気圧を大気圧(1.0×10
5Pa)以下と定め、さらに好ましくは0.66×10
5Pa以下とした。これは、鋼浴の攪拌により溶鋼表面が一部露出し、そこから吸窒が発生しているためと考えられる。上述した好適例4は、このような調査を基に提案されたものである。
【0032】
<本発明の溶鋼の脱窒及び脱硫同時処理方法の特徴について>
本発明の溶鋼の脱窒及び脱硫同時処理方法は、スラグのC/Aが脱窒に及ぼす影響を調査している中で、条件によっては脱硫も進行したことから、脱窒と脱硫の同時進行が起こりうる条件に関して調査を進めていく中で見出されたものである。前記小型高周波真空溶解炉を用いて、0.66×105Paまで減圧した前記溶解炉内で、LS/LS0を1として酸素ガスをスラグに吹き付け、溶鋼に付与する攪拌動力密度は200W/tで一定とし、試験中は酸素活量を測定して、それと平衡するAl濃度から発生したAl2O3量を計算し、C/Aが変わらないように粉状石灰を添加しながらC/Aを0.4~2.0で維持した上で、脱窒と脱硫の挙動双方を調査した。この処理を行う前の溶鋼中Al濃度は0.3%、溶鋼温度は1650℃で一定、溶鋼中の窒素濃度及び硫黄濃度はそれぞれ50massppmと0.03%、スラグMgO濃度は0%、スラグ原単位は15kg/tであった。
【0033】
その結果、
図7に示すように、C/Aが0.4から増加する毎に、脱硫挙動から確認できる平衡硫黄濃度は低下し、C/Aが1.7で最小値となり、C/Aが1.7よりも大きくなると平衡硫黄濃度は増加に転じることが分かった。脱硫速度は以下の(2)式で決定され、現在の硫黄濃度と平衡硫黄濃度の差を駆動力として決定されるため、平衡硫黄濃度が増加するということは、脱硫速度の低下することを意味する。
-d[%S]/dt=k・([%S]-[%S]
e)・・・(2)
ここで、
[%S]は鋼中硫黄濃度、[%S]
eは平衡硫黄濃度、kは比例定数、tは時間を表す。
【0034】
窒素濃度は、
図3に示した通り、C/Aが1.8以下までは低窒素濃度域(鋼中窒素濃度35massppm以下)まで到達しており、脱窒が進行するC/Aの範囲において、脱硫速度が最大になるC/Aが1.7以上にC/Aを増加させることは、脱窒及び脱硫同時処理の観点からはあまり意味がないことが分かる。
【0035】
一方で、C/Aが0.4~1.2の範囲では、
図7から平衡到達硫黄濃度は単調減少するので脱硫の観点ではC/Aを増加させることが望ましいが、
図3から到達窒素はC/Aが0.7以上で微増(到達窒素15massppmから16massppm)となっており、脱窒の観点ではC/Aを低下させることが望ましい。したがって、脱窒及び脱硫同時処理を行う際は、C/Aの下限は0.7以上とすると良い。本発明の溶鋼の脱窒及び脱硫同時処理方法は、このような調査によって提案されたものである。
【0036】
<本発明の鋼の製造方法の特徴について>
上記溶鋼の脱窒方法または上記溶鋼の脱窒及び脱硫同時処理方法で溶製した溶鋼に対し、必要に応じて、その他所定の成分に調製し、介在物の形態制御や浮上分離したのちに鋳造を行うことが好ましい。低窒素鋼としたうえで、各種成分を調整した高級鋼を製造することができる。
【実施例0037】
以下に、発明の実施例について詳細に説明する。
図1の構成の装置を用い、取鍋内の1650℃以上の溶鋼に金属Alを添加して、溶鋼中Al濃度を0.12~0.15mass%にするとともに、CaOや耐火物保護用MgOを添加してCaO-Al
2O
32元系スラグ、またはCaO-Al
2O
3-MgO3元系スラグを形成した後、攪拌動力密度で500W/tとなるように供給した。溶鋼量は160tで試験を行った。脱窒または脱窒脱硫同時処理の処理前窒素濃度は50massppm、処理前硫黄濃度は300massppmに調整した。以下の表1に試験結果を示す。
【0038】
【0039】
表1の結果から、式(1)の撹拌動力密度および鋼中のAl濃度を満たし、Ls/LS0≧1を満たす本発明例1~10は、Ls/LS0が1未満の比較例1と比較して、処理後Nが35massppm以下と効果的な脱窒処理を行えることがわかる。
【0040】
また、表1の結果から、C/Aが0.4以上1.8以下である発明例2~10は、C/Aが1.8を超える発明例1と比較して、処理後Nが良好であり、好ましいことがわかる(好適例1)。さらに、表1の結果から、スラグ中のMgO濃度が5.0mass%以下である発明例4、発明例6、発明例8、発明例10は、MgO濃度が5.0mass%を超える発明例1~3と比較して、処理後Nが良好であり、好ましいことがわかる(好適例2)。さらにまた、表1の結果から、スラグ中のMgO濃度が5.0mass%を超えても溶鋼温度をMgO濃度1%増加するごとに5℃以上増加させた発明例5、発明例7、発明例9では、MgO濃度5mass%の発明例4、発明例6、発明例8と同様の処理後Nが得られており、好ましいことがわかる(好適例3)。また、表1の結果から、スラグまたは溶鋼の表面を1.0×105Pa以下に減圧した発明例6~10は、1.0×105Paを超える発明例1~5と比較して、処理後Nが良好であり、好ましいことがわかる(好適例4)。
【0041】
また、表1の結果から、溶鋼中のAl濃度が0.05mass%以上を満たし、C/Aが07以上1.7以下を満たす発明例8~10は、C/Aがその範囲外の発明例1~7と及び比較例1と比較して、処理後硫黄濃度が35massppm以下となるとともに処理後窒素濃度が25massppm以下となり両者とも良好であり、好適に脱窒及び脱硫の同時処理ができることがわかる。