(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189529
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】高分子モデルの生成方法、システム、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G16C 20/00 20190101AFI20221215BHJP
G16Z 99/00 20190101ALI20221215BHJP
【FI】
G16C20/00
G16Z99/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098154
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】唐津 秀一
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】実験データの無いモノマーの割合であっても精度の良い評価に利用可能な高分子モデルの生成方法、システム及びプログラムを提供する。
【解決手段】高分子モデルを生成するシステム1において、角度ポテンシャル算出部10は、第1~第3種モノマーモデル5~7の角度ポテンシャルを実験地に合致するように決定する。モノマー割当部11は、ポリマーモデルの複数の粗視化粒子に対して第1~第3種モノマーモデル5~7のいずれかを割当てる。ポテンシャル設定部12は、各粗視化粒子に対し、割り当てられたモノマーモデルのポテンシャルを設定する。架橋処理実行部13は、粗視化粒子を、割り当てられたモノマーに応じて架橋粒子モデルと結合可能又は結合不可能に設定し、結合可能に設定された第1種モノマーモデル5と架橋粒子モデルとを結合する架橋処理を実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数のプロセッサが実行する、高分子モデルの生成方法であって、
前記高分子モデルは、直鎖状又は分岐状に接続される複数の粗視化粒子を有する複数のポリマーモデルと、架橋粒子モデルとを含み、
前記複数の粗視化粒子は、第1種モノマーモデル及び第2種モノマーモデルを含む複数種類のモノマーモデルのいずれかを表し、
前記第1種モノマーモデル及び第2種モノマーモデルは、複数の粒子が直鎖状又は分岐状に接続され且つ3粒子間の相互作用を表す角度ポテンシャルを有し、
前記第1種モノマーモデルは、前記架橋粒子モデルと結合可能に設定可能であり、
前記第2種モノマーモデルは、前記架橋粒子モデルと結合不可能に設定され、
前記方法は、
前記第1種モノマーモデルと前記第2種モノマーモデルそれぞれの前記角度ポテンシャルを実験値に基づき算出することと、
前記ポリマーモデルを構成する前記複数の粗視化粒子それぞれに対して、前記第2種モノマーモデルの前記第1種モノマーモデルに対する割合が指定された割合になるように、前記複数種類のモノマーモデルのいずれかを割り当てることと、
前記複数の粗視化粒子それぞれについて、割り当てられた前記モノマーモデルに対応するポテンシャルを設定することと、
前記ポリマーモデルにおける前記第1種モノマーモデルと前記架橋粒子モデルとを結合させる架橋処理を実行することと、を含む、高分子モデルの生成方法。
【請求項2】
前記複数種類のモノマーモデルは、前記架橋粒子モデルと結合不可能な第3種モノマーモデルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1種モノマーモデルはブタジエンモデルであり、前記第2種モノマーモデルはエチレンモデルであり、前記第3種モノマーモデルはスチレンモデルであり、前記高分子モデルは水素添加SBRモデルである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、前記高分子モデルとして、第1高分子モデル及び第2高分子モデルを生成することを含み、
前記第2高分子モデルにおける前記第2種モノマーモデルの前記第1種モノマーモデルに対する割合は、前記第1高分子モデルにおける前記第2種モノマーモデルの前記第1種モノマーモデルに対する割合よりも高く、
前記第2高分子モデルにおける架橋可能に設定される前記第1種モノマーモデルの数は、前記第1高分子モデルにおける架橋可能に設定される前記第1種モノマーモデルの数よりも少なく設定されている、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の方法を実行する1又は複数のプロセッサを備えるシステム。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の方法を1又は複数のプロセッサに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高分子モデルの生成方法、システム、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
水素添加SBR(スチレン・ブタジエン・ゴム)は、水素添加していないSBRに比べて耐摩耗性に優れていることが知られている。その優れている要因を知るため等の目的で、水素添加SBRを再現する分子動力学シミュレーションのモデルを生成することが求められる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】絡み合い密度制御モデルによるSSカーブシミュレーション、山村浩樹 冨永哲雄 足立拓海 千賀寛文、JSR TECHNICAL REVIEW No.126/2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1には、Kremer-Grestモデルを用いて、スチレンとブタジエンを区別せずに両者を一括りでモデル化する手法が開示されている。具体的には、スチレン・ブタジエンモデルとするKremer-Grestモデルに角度ポテンシャルを追加し、その角度ポテンシャルを、実験値の粘弾性(平衡弾性率、ヤング率)に合致するように決定する。その後、水素添加率が既知の水素添加SBRのSS曲線(応力ひずみ曲線)の実験値に合致するようにスチレン・ブタジエンモデルの架橋点数を決定している。
【0005】
しかしながら、この方法では、既知の水素添加率の実験データを用いるため、水素添加率が未知のモデルを生成できない。
また、水素添加SBRに限定されず、モノマーの割合に応じて架橋粒子との架橋数が変化し得る高分子モデルの生成方法も求められる。
【0006】
本開示は、実験データの無いモノマーの割合であっても精度の良い評価に利用可能な高分子モデルの生成方法、システム、及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の高分子モデルの生成方法は、1又は複数のプロセッサが実行する、高分子モデルの生成方法であって、前記高分子モデルは、直鎖状又は分岐状に接続される複数の粗視化粒子を有する複数のポリマーモデルと、架橋粒子モデルとを含み、前記複数の粗視化粒子は、第1種モノマーモデル及び第2種モノマーモデルを含む複数種類のモノマーモデルのいずれかを表し、前記第1種モノマーモデル及び第2種モノマーモデルは、複数の粒子が直鎖状又は分岐状に接続され且つ3粒子間の相互作用を表す角度ポテンシャルを有し、前記第1種モノマーモデルは、前記架橋粒子モデルと結合可能に設定可能であり、前記第2種モノマーモデルは、前記架橋粒子モデルと結合不可能に設定され、前記方法は、前記第1種モノマーモデルと前記第2種モノマーモデルそれぞれの前記角度ポテンシャルを実験値に基づき算出することと、前記ポリマーモデルを構成する前記複数の粗視化粒子それぞれに対して、前記第2種モノマーモデルの前記第1種モノマーモデルに対する割合が指定された割合になるように、前記複数種類のモノマーモデルのいずれかを割り当てることと、前記複数の粗視化粒子それぞれについて、割り当てられた前記モノマーモデルに対応するポテンシャルを設定することと、前記ポリマーモデルにおける前記第1種モノマーモデルと前記架橋粒子モデルとを結合させる架橋処理を実行することと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】システムが実行する処理を示すフローチャート。
【
図3】本実施形態で生成する高分子モデル(SBRモデル)を示す模式図。
【
図4】角度ポテンシャル(角度パラメータ)及び特性比に関する説明図。
【
図5】特性比と角度パラメータ、角度ポテンシャルと角度パラメータの関係を示す図。
【
図6】ポリマーモデルの各粒子にモノマーモデルを割り当てる処理に関する説明図。
【
図7】本実施形態で作成した4つの高分子モデルに関する説明図。
【
図8】本実施形態で作成した4つの高分子モデルのSS曲線を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0010】
[モデル生成システム]
本実施形態のシステム1(装置)は、高分子モデルを生成する。本実施形態において高分子モデルは、水素添加SBRである。SBRはブタジエンとスチレンの共重合体であり、ブタジエン部分が硫黄などの架橋剤と架橋する。SBRに水素添加するとブタジエン部分の二重結合に水素が添加され、エチレン構造となる。この構造変化をモデル化する。
【0011】
図1に示すように、システム1は、角度ポテンシャル算出部10と、モノマー割当部11と、ポテンシャル設定部12と、架橋処理実行部13と、を有する。システム1は、生成した高分子モデルを引張する伸長処理実行部14を有していてもよい。これら各部10~14は、プロセッサ1a、メモリ1b、各種インターフェイス等を備えたコンピュータにおいて予め記憶されている
図2に示す処理ルーチンをプロセッサ1aが実行することによりソフトウェア及びハードウェアが協働して実現される。本実施形態では、1つの装置におけるプロセッサ1aが各部を実現しているが、これに限定されない。例えば、ネットワークを用いて分散させ、複数のプロセッサが各部の処理を実行するように構成してもよい。すなわち、1又は複数のプロセッサが処理を実行する。メモリ1bは、生成した高分子モデル2、複数種類のモノマーモデル(5,6,7)、分子動力学計算を実行するための解析条件(所定温度、所定圧力など)を記憶する。
【0012】
図3で模式的に示すように、高分子モデル2は、複数のポリマーモデル3と、架橋粒子モデル4とを有する。ポリマーモデル3は、直鎖状または分岐状に連なる複数の粗視化粒子30を有する。架橋粒子モデル4は、ポリマーモデル3のうち架橋可能に設定された粒子30と結合(架橋反応)する。粗視化粒子30は、第1種モノマーモデル5及び第2種モノマーモデル6を含む複数種類のモノマーモデルのいずれかを表す。
図3では、ポリマー3の鎖を構成する各々の粗視化粒子に、更に複数の粒子を有するモノマーが含まれているように記載しているが、これは理解を容易にするための記載である。粗視化粒子30はその中にモノマーを表す粒子を有するのではなく、モノマーの特性を表すための各種のポテンシャル(後述)が設定され、粒子数を削減して計算コストを低減している。
本実施形態では、複数種類のモノマーモデルは更に第3種モノマーモデル7を含み、第1種モノマーモデル5がブタジエンを表し、第2種モノマーモデル6がエチレンを表し、第3種モノマーモデル7がスチレンを表している。第1種モノマーモデル5は、ブタジエンを表すため、架橋粒子モデル4と結合可能に設定可能である。これは、第1種モノマーモデル5の全てが架橋粒子モデル4と結合可能に設定される必要があるのではなく、第1種モノマーモデル5の一部が架橋粒子モデル4と結合可能に設定され、残りの他部が架橋粒子モデル4と結合不可能に設定されてもよい。第2種モノマーモデル6は、エチレンを表すため、架橋粒子モデル4と結合不可能に設定されている。また、第3種モノマーモデル7は、スチレンを表すために、架橋粒子モデル4と結合不可能に設定されている。
【0013】
複数種類のモノマーモデルそれぞれは、複数の粒子が直鎖状又は分岐状に接続されている。複数種類のモノマーモデルそれぞれは、各粒子に結合ポテンシャルと非結合ポテンシャルが設定されている。本実施形態において第1種モノマーモデル5は、複数の粒子50が直鎖状又は分岐状に結合ポテンシャルによって接続され、各粒子50に非結合ポテンシャルが設定されている。第2種モノマーモデル6は、複数の粒子60が直鎖状又は分岐状に結合ポテンシャルによって接続され、各粒子60に非結合ポテンシャルが設定されている。第3種モノマーモデル7は、複数の粒子70が直鎖状又は分岐状に結合ポテンシャルによって接続され、各粒子70に非結合ポテンシャルが設定されている。結合ポテンシャルは、結合相手との間に作用するポテンシャルである。非結合ポテンシャルは他の粒子との間に作用するポテンシャルである。
【0014】
本実施形態の複数種類のモノマーモデル5~7は、Kremer-Grestモデルを用い、Kremer-Grestモデルの非結合ポテンシャル(U
non-bond)と、Kremer-Grestモデルの結合ポテンシャル(U
bond)と、を有する。Kremer-Grestモデルは、高分子鎖の広がり及び絡み合いを表す特性比が一意に決定されるため、複数種類のモノマーモデルのポテンシャルに更に3粒子間の相互作用を表す角度ポテンシャル(U
angle)が追加されている。結合相手との角度によって変化する角度ポテンシャルにより、特性比を変更可能となる。非結合ポテンシャルは、式(1)で表現され、結合ポテンシャルは、式(2)で表現可能である。角度ポテンシャルは式(3)で表される。この式は一例に過ぎない。
【数1】
【0015】
特性比は(末端間距離の二乗)の全粒子鎖の平均/(粒子数×粒子間距離の二乗)=〈(r
1-r
N)
2〉/(NL
2)で算出可能である。Nは1つの粒子鎖を構成する粒子数を示す。
図4において第1種モノマーモデル5で例示するように、直鎖状又は分岐状に接続(結合)された粒子鎖の第1端の粒子50の位置r
1と、第1端と反対側の第2端の粒子50の位置r
Nとの間の距離は|r
1-r
N|で表される。位置は、粒子の識別番号iとすれば、r
iで表現され、識別番号1の粒子の位置はr
1、識別番号2の粒子の位置はr
2、識別番号Nの粒子の位置はr
Nで表現される。結合状態にある隣接する2つの粒子50の間の距離はLで表される。特性比は、実験において光散乱から得られる値である。なお、粒子鎖が分岐状である場合には、上記末端間が最も長いものを採用する。
【0016】
角度ポテンシャル算出部10は、第1種モノマーモデル5、第2種モノマーモデル6及び第3種モノマーモデル7それぞれの角度ポテンシャルU
angle(角度パラメータ(K
angle))を、実験値に基づき算出する。本実施形態では、ポテンシャルを決定するための各種パラメータは、全てのモデルでK=30.0、R
0=1.5、ε=1.0、σ=1.0に統一している。本実施形態では、第1種モノマーモデル5がブタジエンであり、文献(高分子48巻9月号p737(1999)、高分子学会)に記載の特性比が5.4である。第2種モノマーモデル6がエチレンであり、上記文献に記載の特性比が6.8である。第3種モノマーモデル7がスチレンであり、上記文献に記載の特性比が10.8である。本実施形態の各モノマーモデルは、Kremer-Grestモデルを用いて、200個の粒子が直鎖状に接続されるモデルとし、粒子間距離Lが0.97とした。角度ポテンシャルを決定する角度パラメータ(K
angle)を仮決めすれば、
図5の下図に示すように、角度ポテンシャルU(θ)と角度θの関係が算出できる。異なる複数の角度パラメータ(
図5では、K
angle=0,1,2,3,4,5,6,7,8,9,10)を第1種モノマーモデル5に設定して、平衡状態になるまで分子動力学計算を継続すれば、各々の角度パラメータにおいて末端間距離|r
1-r
N|が算出でき、
図5の上図に示すように、角度パラメータ(K
angle)と特性比の関係が算出できる。
図5の上部では、角度パラメータ(K
angle)=2~7のデータを近似式[特性比=α×K
angle+β]に最小二乗法を用いてフィッティングし、近似式の係数αとβを算出している。α=1.7288であり、β=-0.0513であり、残差の二乗和(決定係数)R
2=0.9987である。角度ポテンシャル算出部10は、実験値に対応する角度パラメータ(K
angle)を算出し、角度ポテンシャルを決定する。上記近似式を用いれば、第1種モノマーモデルの角度パラメータ(K
angle)が3.1、第2種モノマーモデルの角度パラメータ(K
angle)が4.0、第3種モノマーモデルの角度パラメータ(K
angle)が6.3と算出する。
上記により、各々のモノマーモデル5の角度ポテンシャル(角度ポテンシャルを決定するパラメータ)を、各モノマーの特性比に合致するように算出できる。
【0017】
モノマー割当部11は、
図6に示すように、ポリマーモデル3(水素添加SBR)を構成する複数の粗視化粒子30それぞれに対して、複数種類のモノマーモデル5~7のいずれかを割り当てる。
図6では、第1種モノマーモデル5(ブタジエン)が割り当てられた粒子30をBと表記し、第2種モノマーモデル6(エチレン)が割り当てられた粒子30をEと表記し、第3種モノマーモデル(スチレン)が割り当てられた粒子30をSと表記している。この時、第2種モノマーモデル6(エチレン)の第1種モノマーモデル5(ブタジエン)に対する割合が指定割合になるようにする。指定割合は、ユーザにより指定された割合であり自由に設定可能である。例えば、SBRは、スチレンが23.5%であり、ブタジエンが残りの76.5%を占める。水素添加すれば、ブタジエンの二重結合に水素が付加されてエチレン構造になるため、ブタジエンの割合が減り、その代わりにエチレンの割合が増える。水素添加率をY[%]とすれば、ブタジエンの割合[%]は76.5×(100-Y)となり、エチレンの割合[%]は76.5×Yとなる。モノマー割当部11は、指定された割合になるように、第1種モノマーモデル5に割り当てる粗視化粒子30の数と、第2種モノマーモデル6に割り当てる粗視化粒子30の数とを決定する。本実施形態では、1つのポリマーモデル3を、粗視化粒子数200個とし、3種類のモノマーモデル5~7を、各モノマーモデルの割当数に合致するように、ランダムに割り当てている。第3種モノマーモデル7(スチレン)に割り当てられる粒子数は47個である。水素添加率が0%であれば、第1種モノマーモデル5(ブタジエン)に割り当てられる粒子数は153個である。水素添加率が10%であれば、第1種モノマーモデル5(ブタジエン)に割り当てられる粒子数は約137個、第2種モノマーモデル6(エチレン)に割り当てられる粒子数は約16個となる。
【0018】
ポテンシャル設定部12は、複数の粗視化粒子30それぞれについて、割り当てられたモノマーモデル5~7に対応するポテンシャルを設定する。本実施形態では、式(1)と(2)のポテンシャルは、モノマーモデルの種類に関係なく同一である。ポテンシャル設定部12は、第1種モノマーモデル5(ブタジエン)として割り当てられた粗視化粒子30の角度パラメータ(Kangle)を3.1とし、第2種モノマーモデル6(エチレン)として割り当てられた粗視化粒子30の角度パラメータ(Kangle)を4.0とし、第3種モノマーモデル7(スチレン)として割り当てられた粗視化粒子30の角度パラメータ(Kangle)を6.3とし、角度ポテンシャルを設定する。
【0019】
架橋処理実行部13は、指定された数のポリマーモデル3と、架橋粒子モデル4を空間に配置して、平衡化処理を行った後、平衡状態においてポリマーモデル3における第1種モノマーモデル5と架橋粒子モデル4とを結合させる架橋処理を実行する。平衡化処理は、平衡状態になるまで所定圧力および所定温度において分子動力学計算を実行する。架橋処理実行部13は、第1種モノマーモデル5と架橋粒子モデル4が所定距離内に近づいた場合に、所定確率で両者を結合する。架橋処理実行部13は、全ての架橋粒子モデル4が結合済みとなるまで、処理を繰り返し実行する。これにより、水素添加SBRモデル(高分子モデル2)が生成完了となる。平衡状態は、例えば、モデル全体のポテンシャルの一定期間の変動が一定幅以内に収まる状態などが挙げられる。
【0020】
全ての第1種モノマーモデル5(ブタジエン)の粗視化粒子30を架橋粒子モデル4に結合可能に設定してもよいが、ポリマーモデル3に占める第1種モノマーモデル5(ブタジエン)の数が他のモノマーモデルに比べて相対的に多いため、第1種モノマーモデル5(ブタジエン)の粗視化粒子30の一部だけを架橋粒子モデル4に結合可能に設定することが好ましい。架橋粒子モデル4は、或るポリマーモデル3の第1種モノマーモデル5と結合し且つ他のポリマーモデル3の第1種モノマーモデル5と結合することが好ましいため、架橋粒子モデル4と結合可能に設定された粗視化粒子30を中心とした所定数内の粗視化粒子は架橋粒子モデル4と結合不可能に設定されることが好ましい。これにより、1つの架橋粒子モデル4が同一のポリマーモデル3の複数の第1種モノマーモデル5(ブタジエン)に結合してしまうことを抑制可能となり、架橋の均一性を向上可能となる。また、水素添加率が高くなるについて、第1種モノマーモデル5(ブタジエン)が減るため、第1種モノマーモデル5(ブタジエン)の数の減少に合わせて、架橋粒子モデル4と結合可能な粗視化粒子30(第1種モノマーモデル5)の数を減らすことが好ましい。架橋の均一性を向上可能となる。
【0021】
[高分子モデルの生成方法]
上記システム1が実行する、高分子モデルの生成方法を、
図2を用いて説明する。ここでは、高分子モデルとして水素添加SBRモデルを生成する例を挙げる。メモリ1bには、分子動力学計算で用いる所定圧力、所定温度が予め設定され、記憶されている。また、メモリ1bには、スチレン、ブタジエン及びエチレンの特性比が予め設定され、記憶されている。
【0022】
まず、ステップST1において、角度ポテンシャル算出部10は、第1~3種モノマーモデル(ブタジエン、エチレン、スチレン)の角度ポテンシャル(角度パラメータ)を実験値に基づき算出する。本実施形態では、第1種モノマーモデル5(ブタジエン)の角度パラメータ(Kangle)を3.1と算出し、第2種モノマーモデル6(エチレン)の角度パラメータ(Kangle)を4.0と算出し、第3種モノマーモデル7(スチレン)の角度パラメータ(Kangle)を6.3と算出する。
【0023】
次のステップST2において、
図6に示すように、モノマー割当部11は、ポリマーモデル3を構成する複数の粗視化粒子30それぞれに対して、第1~3種モノマーモデルのいずれかを割り当てる。各々の割合は指定された割合になるようにする。
【0024】
ステップST2において、全ての粗視化粒子30に、第1~3種モノマーモデルの割り当てが完了すれば、次のステップST3において、ポテンシャル設定部12は、複数の粗視化粒子30それぞれについて、割り当てられたモノマーモデルに対応するポテンシャルを設定する。本実施形態では、結合ポテンシャルのうちの角度ポテンシャル以外が共通であるので、角度ポテンシャルのみを割り当てられたモノマーモデルに対応するポテンシャルに設定する。
【0025】
次のステップST4において、システム1は、第2種モノマーモデル(エチレン)および第3種モノマーモデル7(スチレン)が割り当てられた粗視化粒子30を、架橋粒子モデル4と結合不可能に設定する。また、第1種モノマーモデル(ブタジエン)の一部の粗視化粒子30を、架橋粒子モデル4と結合可能に設定する。第1種モノマーモデル(ブタジエン)の残りの粗視化粒子30を、架橋粒子モデル4と結合不可能に設定する。本実施形態では、第1種モノマーモデル(ブタジエン)に割り当てられた粗視化粒子30の数の約13%を、架橋粒子モデル4と結合可能に設定しているが、割合はこれに限定されない。
【0026】
次のステップST5において、架橋処理実行部13は、ポリマーモデル3において結合可能に設定された第1種モノマーモデル(ブタジエン)と架橋粒子モデル4とを結合させる架橋処理を実行する。これにより、モデルが生成完了となる。架橋処理の前に、未架橋の高分子モデルを安定状態にする平衡化処理を実行するとよい。架橋処理が完了すれば(全ての架橋粒子モデルが結合完了すれば)、平衡化処理を実行するとよい。
【0027】
[引張試験シミュレーション]
作成した高分子モデルが定性的な挙動を示すか否かを確認するために、引張試験シミュレーションを実行した。特開2017-96871で説明されている公知の手法を用いているので、詳細な説明は省略する。
図1に示す伸長処理実行部14は、仮想空間に高分子モデルを配置し、仮想空間を体積一定、温度一定条件にてz軸方向に徐々に伸長していき、伸長比と応力を算出する。目的の伸長比まで一度に伸長することができないため、微量に伸長させる処理と、緩和処理(平衡処理)を繰り返し実行する。例えば、約1.0139倍に伸長し、その後、緩和処理を実行し、再度1.0139倍に伸長する処理を繰り返し実行する。z軸方向に約1.0139倍に伸長する処理を100回繰り返せば、伸長比を1から7まで得られ、その各時点の応力が得られ、ひずみも得られる。
【0028】
実施例
図7に示すように、水素添加率を0%、30%、50%、70%の4つの高分子モデル(水素添加SBR)を生成した。いずれのモデルも、1本のポリマーモデル3の鎖長が200(粗視化粒子30が200個)、ポリマーモデル3の本数を200本とし、架橋粒子モデル4を単一粒子として200個の架橋粒子モデル4が配置されている。
図7に示すように、水素添加率の増加に伴い、第1種モノマーモデル5(ブタジエン)のうち架橋粒子モデル4と結合可能に設定される数(結合可能点数)を減少させている。架橋の均一性を向上させるためである。
図7は、4つの高分子モデルと、その全粒子数、ブタジエン粒子数、結合可能点に設定される割合、結合可能点数、結合可能点数の全粒子に対する割合を示している。
図8は、
図7に示す4つの水素添加SBRモデル(高分子モデル)のSS曲線を示す。上記引張シミュレーションで求めている。いずれのモデルも水素添加率が増加するほど応力が増加しており、定性的に水素添加SBRを再現できていることが理解できる。
図8の応力は上に向かって増加する。縦軸の一グリッドは同じ量を示している。
【0029】
以上のように、本実施形態の高分子モデルの生成方法のように、1又は複数のプロセッサが実行する、高分子モデルの生成方法であって、高分子モデル2は、直鎖状又は分岐状に接続される複数の粗視化粒子30を有する複数のポリマーモデル3と、架橋粒子モデル4とを含み、複数の粗視化粒子30は、第1種モノマーモデル5及び第2種モノマーモデル6を含む複数種類のモノマーモデル5~7のいずれかを表し、第1種モノマーモデル5及び第2種モノマーモデル6は、複数の粒子(50,60)が直鎖状又は分岐状に接続され且つ3粒子間の相互作用を表す角度ポテンシャルを有し、第1種モノマーモデル5は、架橋粒子モデル4と結合可能に設定可能であり、第2種モノマーモデル6は、架橋粒子モデル4と結合不可能に設定され、方法は、第1種モノマーモデル5と第2種モノマーモデル6それぞれの角度ポテンシャルを実験値に基づき算出することと、ポリマーモデル3を構成する複数の粗視化粒子30それぞれに対して、第2種モノマーモデル6の第1種モノマーモデル5に対する割合が指定された割合になるように、複数種類のモノマーモデル5~7のいずれかを割り当てることと、複数の粗視化粒子30それぞれについて、割り当てられたモノマーモデルに対応するポテンシャルを設定することと、ポリマーモデル3における第1種モノマーモデル5と架橋粒子モデル4とを結合させる架橋処理を実行することと、を含む、としてもよい。
【0030】
このように、第1種モノマー(ブタジエン)と第2種モノマー(エチレン)を区別せずに混合させたモデルの角度パラメータを決定するのではなく、第1種モノマーモデル5と第2種モノマーモデル6を区別して各々のモノマーモデル5~7の角度ポテンシャルを決定する。各々のモノマーモデル5~7を、ポリマーモデルを構成する粗視化粒子に割り当てる。よって、第1種モノマーと第2種モノマーとの割合を自由に制御でき、その制御によって絡み合い度合いを制御可能となる。絡み合い度合いによって特性比が再現できるので、未知の割合のモデルであっても精度のよい評価に利用可能なモデルを生成可能となる。
【0031】
本実施形態のように、複数種類のモノマーモデル5~7は、架橋粒子モデル4と結合不可能な第3種モノマーモデル7を含む、としてもよい。これによれば、再現可能な高分子の種類を増やすことが可能となる。
【0032】
本実施形態のように、第1種モノマーモデル5はブタジエンモデルであり、第2種モノマーモデル6はエチレンモデルであり、第3種モノマーモデル7はスチレンモデルであり、高分子モデル2は水素添加SBRモデルである、としてもよい。
これによれば、割合が水素添加率として、水素添加SBRのモデルを生成可能となる。
【0033】
本実施形態のように、高分子モデル2として、第1高分子モデル(水素添加率0%)及び第2高分子モデル(水素添加率30%)を生成することを含み、第2高分子モデルにおける第2種モノマーモデル6の第1種モノマーモデル5に対する割合(水素添加率30%)は、第1高分子モデルにおける第2種モノマーモデル6の第1種モノマーモデル5に対する割合(水素添加率0%)よりも高く、第2高分子モデル(水素添加率30%)における架橋可能に設定される第1種モノマーモデルの数は、第1高分子モデルにおける架橋可能に設定される第1種モノマーモデルの数よりも少なく設定されている、としてもよい。
この構成によれば、第2種モノマーモデルの第1種モノマーモデルに対する割合が高くなると、架橋可能に設定可能な第1種モノマーモデルが減ることになり、それに合わせて架橋可能に設定する第1種モノマーモデルの数を減らすことで、意図しない架橋を防ぎ、架橋均一性を向上可能となる。
【0034】
本実施形態に係るプログラムは、上記方法を1又は複数のコンピュータに実行させるプログラムである。
これらプログラムを実行することによっても、上記方法の奏する作用効果を得ることが可能となる。
【0035】
以上、本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0036】
(1)前記実施形態の高分子モデル2は、スチレンとしての第3種モノマーモデル7を有しているが、第3種モノマーモデル7は省略可能である。
【0037】
(2)前記実施形態において高分子モデルは、SBRであるが、これに限定されない。互いに割合が取り合いの関係(負の相関関係)にある2種のモノマーを有していれば、種々の高分子の再現に利用可能である。
【0038】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0039】
例えば、特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現できる。特許請求の範囲、明細書、および図面中のフローに関して、便宜上「まず」、「次に」等を用いて説明したとしても、この順で実行することが必須であることを意味するものではない。
【0040】
図1に示す各部は、所定プログラムを1又は複数のプロセッサで実行することで実現しているが、各部を専用メモリや専用回路で構成してもよい。上記実施形態のシステム1は、一つのコンピュータのプロセッサ1aにおいて各部が実装されているが、各部を分散させて、複数のコンピュータやクラウドで実装してもよい。すなわち、上記方法を1又は複数のプロセッサで実行してもよい。
【0041】
システム1は、プロセッサ1aを含む。例えば、プロセッサ1aは、中央処理ユニット(CPU)、マイクロプロセッサ、またはコンピュータ実行可能命令の実行が可能なその他の処理ユニットとすることができる。また、システム1は、システム1のデータを格納するためのメモリ1bを含む。一例では、メモリ1bは、コンピュータ記憶媒体を含み、RAM、ROM、EEPROM、フラッシュメモリまたはその他のメモリ技術、CD-ROM、DVDまたはその他の光ディスクストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージまたはその他の磁気記憶デバイス、あるいは所望のデータを格納するために用いることができ、そしてシステム1がアクセスすることができる任意の他の媒体を含む。
【符号の説明】
【0042】
3…ポリマーモデル、4…架橋粒子モデル、5…第1種モノマーモデル、6…第2種モノマーモデル、7…第3種モノマーモデル、30…粗視化粒子、50,60,70…粒子。