(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189540
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】筒状パイル編地の編成方法および筒状パイル編地
(51)【国際特許分類】
D04B 1/02 20060101AFI20221215BHJP
D04B 1/00 20060101ALI20221215BHJP
D04B 7/02 20060101ALI20221215BHJP
D04B 7/12 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
D04B1/02
D04B1/00 Z
D04B7/02
D04B7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098171
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100101638
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 峰太郎
(72)【発明者】
【氏名】奥野 昌生
(72)【発明者】
【氏名】島崎 宜紀
【テーマコード(参考)】
4L002
4L054
【Fターム(参考)】
4L002BA00
4L002BA01
4L002BB04
4L002EA00
4L002FA00
4L054AA01
4L054AB02
4L054BB04
(57)【要約】
【課題】 横編機による筒状のパイル編成で、前後境界に生じる割れを改善する。
【解決手段】 筒状パイル編地10は、1サイクルのパイル編成を繰り返して形成される。1サイクルのパイル編成では、パイル糸3および地糸5を給糸して、後側外向きパイル編地10aB、前側外向きパイル編地10aF、後側内向きパイル編地10ab、および前側内向きパイル編地10afが形成される。1サイクルのパイル編成には、パイル糸3および地糸5とは異なる付加糸7で袋付加編成を含める。袋付加編成では、端部領域10cに袋編み7cが行われ、袋編み7cを行うパイル編地に対向して、端部領域10cを除く編目には、編目7bが重ねられる。端部領域10cの袋編み7cは、前後境界側に引かれるので、割れが目立たなくなる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向で対向する少なくとも一組の針床を備え、針床間の歯口上方に複数の糸道レールを備える横編機で、針床の長手方向に、編糸としてパイル糸と地糸とをそれぞれ給糸する先行の給糸口と後行の給糸口とを異なるトラックで往復走行させながら、一方の針床でベースとなる編目をパイル糸および地糸で形成し、他方の針床でパイループをパイル糸で形成するパイル編成を,一方と他方とを交代して行い、予め定める組み合わせとなる1サイクルのパイル編成を繰り返して筒状パイル編地を形成する編成方法において、
1サイクルのパイル編成に、編糸としてパイル糸および地糸と異なる付加糸をベースとなる編目を係止する編針に給糸して付加編成を行うことを追加し、
付加編成は、袋付加編成を含み、
袋付加編成は、
少なくともパイル糸と地糸との交差が生じる側の前後境界を挟む編地の端部領域で、かつ、パイル編成で形成されたベースの編目を係止する編針が属する針床に対向する針床で袋編みを行い、
編地の他の領域では、当該ベースの編目を係止する編針に新たな編目を形成する、
ことを特徴とする筒状パイル編地の編成方法。
【請求項2】
前記パイル編成は、
前記ベースの編目の形成後の工程中で、対向する針床に係止されるパイルループを払えば、筒状パイル編地の内周側に向くパイルループを形成し、
当該工程中で、対向する針床でパイルループを係止している編針間の空針に目移ししてから、パイルループを払えば、筒状パイル編地の外周側に向くパイルループを形成する、
ことを特徴とする請求項1記載の筒状パイル編地の編成方法。
【請求項3】
前記付加編成は、裏目であるベースの編目に続いて天竺編みの表目で新たな編目を形成することを特徴とする請求項1または2記載の筒状パイル編地の編成方法。
【請求項4】
前記袋付加編成は、前記編地の前記長手方向の両側の前後境界をそれぞれ挟むように設ける端部領域で行うことを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載の筒状パイル編地の編成方法。
【請求項5】
前後に針床を備える横編機で編糸としてパイル糸および地糸を使用して編成される筒状パイル編地において
前後の針床でそれぞれ編成されたパイル編地で、少なくともパイル糸と地糸とが交差する側の編幅端部の連結境界を挟む端部領域に、パイル糸および地糸と異なる付加糸による袋編み部分を有する、
ことを特徴とする筒状パイル編地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機による筒状パイル編地の編成方法および筒状パイル編地に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、横編機では、地糸とパイル糸とを使用するパイル編地の編成が可能である(たとえば、特許文献1参照)。パイル編地は、平坦な地編地の表面が浮いているパイルループで覆われ、厚みを有するように形成される。特許文献1に開示されているパイル編地の編成では、地糸とパイル糸とを分離し、パイルループを形成するために、パイル糸を引き出すためのシンカー装置を備える横編機を使用する必要がある。そのようなシンカー装置を備えていない横編機でも、前後に対向する針床の一方に地糸とパイル糸とによるベースを形成し、他方にパイル糸によるパイルループを形成すれば、パイル編地を編成することもできる。たとえば2つのカムシステムを搭載するキャリッジを走行させ、先行のカムシステムでパイル糸を両方の針床で1×1リブ編みでパイルループを形成し、後行のカムシステムで地糸を一方の針床でパイルループを係止している編針に喰わせてベースとする。他方の針床の編針を、編糸を給糸しないで進退させれば、パイルループは編針から外れて払われる。
【0003】
前後に針床を備える横編機では、編地を筒状に編成することも可能である。筒状の編地は、前針床では一方向に、前針床では他方向に、それぞれ編地を編成し、端部で連結することを繰り返して形成する。パイル編地の編成でのパイル糸と地糸との給糸は、キャリッジとともに走行する2つの給糸口を使用して行う必要がある。筒状編地の編成で、複数の給糸口を使用する技術も知られている(たとえば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭60-59333号公報
【特許文献2】特許第3121283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
横編機で筒状のパイル編地を編成すると、編幅の一端側の前後境界で割れが生じる。
図7(b)(d)は、筒状パイル編地1の外側と内側とで、前後のパイルループ領域1aの境界に生じる割れ1bの例を示す。ただし、
図7(f)に示す編幅の他端側では割れが生じない。割れが生じるのは、特許文献2の
図8で説明されているような編糸の交差が生じる端部側である。
【0006】
本発明の目的は、横編機による筒状のパイル編成で、前後境界に生じる割れを改善することが可能な筒状パイル編地の編成方法および筒状パイル編地を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前後方向で対向する少なくとも一組の針床を備え、針床間の歯口上方に複数の糸道レールを備える横編機で、針床の長手方向に、編糸としてパイル糸と地糸とをそれぞれ給糸する先行の給糸口と後行の給糸口とを異なるトラックで往復走行させながら、一方の針床でベースとなる編目をパイル糸および地糸で形成し、他方の針床でパイループをパイル糸で形成するパイル編成を,一方と他方とを交代して行い、予め定める組み合わせとなる1サイクルのパイル編成を繰り返して筒状パイル編地を形成する編成方法において、
1サイクルのパイル編成に、編糸としてパイル糸および地糸と異なる付加糸をベースとなる編目を係止する編針に給糸して付加編成を行うことを追加し、
付加編成は、袋付加編成を含み、
袋付加編成は、
少なくともパイル糸と地糸との交差が生じる側の前後境界を挟む編地の端部領域で、かつ、パイル編成で形成されたベースの編目を係止する編針が属する針床に対向する針床で袋編みを行い、
編地の他の領域では、当該ベースの編目を係止する編針に新たな編目を形成する、 ことを特徴とする筒状パイル編地の編成方法である。
【0008】
また本発明で前記パイル編成は、
前期ベースの編目の形成後の工程中で、対向する針床に係止されるパイルループを払えば、筒状パイル編地の内周側に向くパイルループを形成し、
当該工程中で、対向する針床でパイルループを係止している編針間の空針に目移ししてから、パイルループを払えば、筒状パイル編地の外周側に向くパイルループを形成する、
ことを特徴とする。
【0009】
また本発明で前記付加編成は、裏目であるベースの編目に続いて天竺編みの表目で新たな編目を形成することを特徴とする。
【0010】
また本発明で前記袋付加編成は、前記編地の前記長手方向の両側の前後境界をそれぞれ挟むように設ける端部領域で行うことを特徴とする。
【0011】
さらに本発明は、前後に針床を備える横編機で編糸としてパイル糸および地糸を使用して編成される筒状パイル編地において
前後の針床でそれぞれ編成されたパイル編地で、少なくともパイル糸と地糸とが交差する側の編幅端部の前後境界を挟む端部領域に、パイル糸および地糸と異なる付加糸による袋編み部分を有する、
ことを特徴とする筒状パイル編地である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、筒状パイル編地を編成するために繰り返す1サイクルのパイル編成に、少なくともパイル糸と地糸との交差が生じる側の前後境界を挟む編地の端部領域で、袋編みを行う袋付加編成を含む。袋付加編成は、編糸としてパイル糸および地糸と異なる付加糸をベースとなる編目を係止する編針に給糸して行う付加編成に含めて行われる。端部領域に付加糸による袋編みを付加することで、端部領域の編目が前後境界へ引かれて割れを埋め、外観を改善することができる。付加糸は、編地の他の領域で、パイル編成で形成されたベースの編目に続いて新たな編目を形成するので、パイルループが緩まないように締めることができる。
【0013】
また本発明によれば、工程の違いで、筒状パイル編地でパイルループの向く方向を、外周側とすることも、内周側とすることも可能になる。
【0014】
また本発明によれば、付加編成では、裏目と天竺編みの表目とが続くので、ガーター編みの組織となり、ウエール方向に収縮して、パイルが密に見えるようにすることができる。
【0015】
また本発明によれば、袋付加編成を編地の編幅の両側で行うので、パイル糸と地糸との交差が生じる端部での割れを改善するばかりではなく、両側の端部での見栄えを同等にすることができる。
【0016】
さらに本発明によれば、前後に対向する針床で筒状に編成しても、前後の針床で編成した編地を編幅の端部で連結することで生じる前後境界で、パイル編みの割れが目立ち難いように改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の実施例1である筒状パイル編地10の編成方法の一部を示す編成工程図である。
【
図3】
図3は、
図1および
図2の編成工程で形成される筒状パイル編地10を模式的に示す斜視図である。
【
図4】
図4は、
図1および
図2の編成工程に使用する編針20およびカムシステム30を示す側面図およびカム配置図である。
【
図5】
図5は、
図4のカムシステム30でパイル編成を行う際の動作を簡略化して示す図である。
【
図6】
図6は、袋付加編成で形成される袋編み7cについて、概略的な形状と、前後境界10dに引かれる状態とを示す図である。
【
図7】
図7は、
図3の筒状パイル編地10の外観の例を、前後境界で割れ1bが生じる筒状パイル編地1の例と比較して示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施例2である編成方法の一部を示す編成工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、
図1から
図7は、本発明の実施例1である筒状パイル編地10の編成方法と構成に関する。
図8は、本発明の他の実施例の編成方法に関する。各図で対応する部分は,同一の参照符を付して示し、重複する説明を省略する場合がある。また説明の便宜上、説明対象の図には記載されていない部分について、他の図に記載される参照符を付して言及する場合がある。
【実施例0019】
図1および
図2は、
図3に示す筒状パイル編地10を、本発明の実施例1として編成する工程を示す。本実施例では、前後に対向する一組の針床を用いる針抜き編成で筒状のパイル編成を行う。以下、前針床はFBと、後針床はBBと、それぞれ略称する。FBの編針をA,B,C,D,E,F,G,H,I,J,K,L,M,Zのように大文字の英字で、BBの編針をa,b,c,d,e,f,g,h,i,j,k,l,m,n,oのように小文字の英字でそれぞれ示す。基本的には、同じ英字の大文字と小文字とで示す編針が対向して配置され、目移しが可能である。ただし、端部の編針A~D,K~N,Z,a~d,k~n,oを除く編針E~J,e~jは、筒状パイル編地10では多数の編針が使用されるけれども、図示の都合上、簡略化して示す。編糸は、パイル糸3、地糸5および付加糸7を使用し、給糸口9a,9b,9cからそれぞれ給糸する。
【0020】
給糸口9a,9b,9cは、前後方向に異なるトラックを走行し、先行する給糸口9aが前側のトラック、給糸口9bが中間のトラック、後行する給糸口9cが後側のトラックを走行する。キャリッジおよび給糸口9a,9b,9cは、左行でFBをベースとする前側パイル編地10aF,10afを編成し、右行でBBをベースとする後側パイル編地10aB,10abをそれぞれ編成する。特許文献2では、筒状編地としての編成方向は、本実施例と同じであるけれども、先行する給糸口Bが後側で、後行する給糸口Aが前側となって、右側の端部に交差が生じるけれども、本実施例では左側の端部で交差が生じる。"10a"に続く英字"F,f","B,b"は、"F,f"でFBをベースとし、"B,b"でBBをベースとすることを示し、"F,B"の大文字で筒状パイル編地10の外周面にパイルループが向く外向きパイル、"f、b"の小文字で筒状パイル編地10の内周面にパイルループが向く内向きパイルであることを示す。各工程は、[ ]で囲む数字で示し、矢印でキャリッジの走行方向を示す。工程[1]から工程[4]までは、それぞれ1コースのパイル編成を含み、組み合わせで編成の1サイクルを構成し、このサイクルの繰り返しで筒状パイル編地10が形成される。
【0021】
図1は、筒状パイル編地10での編目を係止する編針の配置を工程[0]として、後側外向きパイル編地10aBを編成する工程[1]、および前側外向きパイル編地10aFを編成する工程[2]とともに示す。工程[0]は、筒状パイル編地10が編針A,C,E,G,I,K,M,b,d,f,h,j,l,nを使用し、編針B,D,F,H,J,L,N,a,c,e,g,i,k,mを空針とする1×1針抜き編成で形成されることを示す。編成に使用するキャリッジは、少なくとも3連のカムシステムS1,S2,S3を搭載し、各カムシステムS1,S2,S3には
図4のカムシステム30が含まれ、両側のカムシステムS1,S3は目移しが可能であるとともに、キャリッジの走行方向に応じて交代して示される。給糸される直後は、編目を塗り潰して示し、パイル糸3および付加糸7を太く示す。
【0022】
工程[0]からキャリッジが右行する工程[1]への移行は、カムシステムS1で編針b~nから編針B~Nに編目を目移しして行う。工程[1]の前半では次に、給糸口9a,9bを連行してカムシステムS2で1コースのパイル編成を行い、給糸口9aからのパイル糸3で編針a~mに掛目でパイルループを形成し、パイル糸3および給糸口9bからの地糸5で編針B~Nにベースの編目を形成する。次に、カムシステムS3で、ベースの編目を編針B~Nから編針b~nに目移しする。
【0023】
工程[1]の後半では、次に、給糸口を連行しないで、編針も駆動しない空走行としてキャリッジを左行させ、キャリッジの反転後、給糸口9cを連行する右行で、カムシステムS1によって、給糸口9cからの付加糸7でベースの編目に続く新たな編目を形成する付加編成を行う。この付加編成は、目移しされてBBの編針b~nに裏目で係止されているベースの編目に、天竺編みの表目が続くようにニットするので、ガーター編みの組織となる。ガーター編みの組織は、ウエール方向に収縮するので、パイルが密に見えるようにすることができる。次に、カムシステムS2で、BBの編針a~mで係止しているパイルループを払う。パイルループは、掛目としてフックに係止されているので、編糸を供給しないで、編針a~mを進退させることで、フックから一旦針幹側にクリアし、さらにクリアしたパイルループを閉じたフックを通過して歯口に移行させる。この結果、後側外向きパイル編地10aBが編成される。
【0024】
キャリッジが右行する工程[1]からキャリッジが左行する工程[2]への移行は、カムシステムS1で編針M~Aから編針m~aに編目を目移しして行う。工程[2]の前半では次に、給糸口9a,9bを連行してカムシステムS2でパイル編成を行い、給糸口9aからのパイル糸3で編針N~Bに掛目でパイルループを形成し、パイル糸3および給糸口9bからの地糸5で編針m~aにベースの編目を形成する。次に、カムシステムS3で、ベースの編目を編針m~aから編針M~Aに目移しする。
【0025】
工程[2]の後半では、空走行でキャリッジを右行させ、給糸口9cを連行する左行で、カムシステムS1によって、給糸口9cからの付加糸7でベースの編目に続く新たな編目を形成する付加編成を行う。この付加編成は、目移しされてFBの編針M~Aに裏目で係止されているベースの編目に、天竺編みの表目が続くようにニットするので、ガーター編みの組織となる。次に、カムシステムS2で、FBの編針N~Bで係止しているパイルループを払い、前側外向きパイル編地10aFが編成される。
【0026】
図2に示す工程[3]は、工程[2]に続き、BBをFBに対して左側に編針の1ピッチ振るラッキングを行った後、キャリッジが右行して行われる。ラッキングの結果、BBの編針aはFBで編針Aの左側に隣接する編針Zと対向し、FBの編針NはBBで編針nの右側に隣接する編針oと対向する。カムシステムS1は、給糸口9aからのパイル糸3で編針Z~Lに掛目でパイルループを形成し、パイル糸3および給糸口9bからの地糸5で編針b~nにベースの編目を形成する。カムシステムS2では、給糸口9cからの付加糸7で付加編成を行う。この付加編成は、パイル編地のベースの編目を係止する編針b~nが属する針床BBとともに、対向する針床FBの端部領域10cに属する編針A,C,K,Mも対象とする袋付加編成となる。この袋付加編成は、編針A,Cと編針K,Mとに、編幅の左端と右端に設ける袋編み7cの半分をそれぞれ形成し、ベースの編目が属するパイル編地の他の領域の編針f,h,jでは、パイル編成で形成されたベースの編目に続けて編目7bをニットする。カムシステムS3では、編針Z~Lのパイルループを払い、後側内向きパイル編地10abが形成される。
【0027】
キャリッジが左行する工程[4]は、キャリッジが右行する工程[3]に続き、カムシステムS1は、給糸口9aからのパイル糸3で、編針o~cに掛目でパイルループを形成し、パイル糸3および給糸口9bからの地糸5で編針M~Aにベースの編目を形成する。カムシステムS2では、給糸口9cからの付加糸7で付加編成を行う。この付加編成は、パイル編地のベースの編目を係止する編針M~Aが属する針床FBとともに、対向する針の端部領域10cに属する編針n,l,d,bも対象とする袋付加編成となる。この袋付加編成は、編針n,lと編針d,bとで袋編み7cの半分を形成し、ベースの編目が属するパイル編地の他の領域の編針I,G,Eでは、パイル編成で形成されたベースの編目を係止する編針に続けて編目7bをニットする。袋編み7cは、編幅の左側で編針A,C,d,bによって、編幅の右側で編針K,M,n,lによって、それぞれ1周分ずつ形成される。カムシステムS2に続くカムシステムS3では、編針o~cのパイルループを払い、前側内向きパイル編地10afが形成される。工程[4]が終了すると、BBをFBに対して右側に編針の1ピッチ戻すラッキングを行った後、工程[1]に戻る。工程[3]と工程[4]とを合わせて、袋編み7cは端部領域10cを一周するように形成され、
図6(b)で後述するように前後境界10d側に引かれて、割れを埋め、割れが目立たないようにすることができる。
【0028】
図3に示す筒状パイル編地10は、パイル糸3、地糸5および付加糸7が全体的には時計回り方向10yに周回するように形成される。筒状パイル編地10は、工程[1]で編針b~nに形成される後側外向きパイル編地10aB、および工程[2]で編針M~Aに形成される前側外向きパイル編地10aFを含む。筒状パイル編地10は、工程[3]で編針f,h,jに形成される後側内向きパイル編地10ab、および工程[4]でI,G,Eに形成される前側内向きパイル編地10afとともに、これらのベースの編目に続くように工程[3]および工程[4]で新たに形成される編目7bと、編針A,C,d,bと編針K,M,n,lに形成される袋編み7cとを含む。
【0029】
図4は、
図1および
図2の編成工程に使用する編針20およびカムシステム30の構成をキャリッジが左行する場合で示す。編針20は、先端にフックを有するニードル本体21と、ニードルジャック23、セレクトジャック25、およびセレクタ27を含む。編針20はべら針であり、ニードルジャック23は、ニードル本体21の尾部に結合され、編針20の進退操作用のバット23aを備える。バット23aは、セレクトジャック25のバット25aがプレッサ群40で押圧されると沈められる。セレクタ27は、カムシステム30に含まれる選針機構50の作用を受けて、セレクトジャック25がプレッサ群40を通過するポジションを決定する。編針20は、目移し用の羽根なども含むけれども図示を省略する。編針としては、編針20のようなべら針ばかりではなく、スライダでフックを開閉する複合針を使用することもできる。
【0030】
カムシステム30は、ニット、タック、ミスを選択可能である。カムシステム30の中央には、ニードルレイジングカム31が設けられ、上げカム面31aで編針20のバット23aを上昇させて、編目がフックに係止されていると、編目をクリアさせることができる。編目のクリアは、ニードル本体21の上昇で編目を相対的に後退させ、フックを開いてニードル本体21の針幹に移行させる。カムシステム30は、度山カム33とともに、ルート切り換えカム35を含む。度山カム33およびルート切り換えカム35は、バット23aを引き込む第1引込み面33aおよび第2引込み面35aをそれぞれ備える。ルート切り換えカム35は、ニードルレイジングカム31や度山カム33の半分程度の厚さにする。
【0031】
プレッサ群40は、Bポジションにウエルトプレッサ41、Aポジションにタックプレッサ43、Hポジションにルート切り換えプレッサ45を備える。ウエルトプレッサ41は、選針の初期位置となるBポジションで、選針されなかった編針20のバット25aを押圧することでバット23aを沈め、編針20をミスにさせる。タックプレッサ43は、バット23aがニードルレイジングカム31の上げカム面31aで案内させるか否かを、バット25aを押圧しないか、押圧することでバット23aを沈めるかで切り換える。ルート切り換えプレッサ45は、左側に示す不作用位置と右側に示す作用位置とを、揺動で切り換えることができる。作用位置のルート切り換えプレッサ45は、ニードルジャック23のバット23aを、ウエルトプレッサ41やタックプレッサ43の半分程度沈めるようにバット25aを押圧する。この結果し、パット23aは、第2引込み面35の作用は受けず、第1引込み面33aの作用を受けて、編針20が引き込まれるようになる。
【0032】
図5は、
図4のカムシステム30で、FBの編針でベース、BBの編針でパイルループを形成しながら、左方Lにパイル編成を行う際の動作を簡略化して示す。カムシステム30の左行時、パイル編成に使用するBBの編針は、空針であり、Hポジションに選針され、ルート切り換えプレッサ45は先行後行とも不作用位置に設定される。BBの編針は、バット23aが沈められずに、ルート切り換えカム35の第2引込み面35aに沿って、フックにパイル糸3を捕捉して引き込む。パイル糸3に対して後行する地糸5は、第2引込み面35aに沿う引込みで、フックの位置が下がってしまうので捕捉することができず、パイル糸3のみで掛目が形成される。この掛目を形成する編針に対向するFBの編針はミスに選針する。FBの次の編針は、Hポジションに選針される。Hポジションでは、先行のルート切り換えプレッサ45は不作用で、後行のルート切り換えプレッサ45の作用でバット25aを押圧する。この押圧は、バット23aを半分沈め、ルート切り換えカム35の第2引込み面35aを通過して、度山カム33の第1引込み面33aに沿って編針20を引き込む。この引込みでは、編針20のフックに、パイル糸3と地糸5とを共に捕捉して、ベースの編目を形成することができる。ベースの編目を形成する編針は、旧編目をフックに係止している。この旧編目は、上げカム面31aによる編針20の上昇時にクリアされ、新たなベースの編目を形成する際にノックオーバされる。ベースの編目を形成するFBの編針に対向するBBの編針は、ミスに選針する。
【0033】
図6は、袋付加編成で形成される袋編み7cについて、概略的な形状を(a)で、前後境界10dに引かれる状態を(b)でそれぞれ示す。
図6(a)に示す袋編み7cは、工程[3]で半分ずつ編幅の両側のFBの編針A,Cおよび編針K,Mに形成される。両側の袋編み7cの半分ずつの間には、対向するBBに係るベースの編目に、編目7bがニットされる。続く工程[4]では、BBの編針n,lと編針d,bとに袋編み7cの半分ずつ、FBの編針I,Eに編目7bが同様に形成される。編針A,b間が前後境界10dとなる。
図6(b)は、筒状パイル編地10の内側から見た状態を、袋編み7cについて、前後境界10dを中心として示す。編針A,Cに係る袋編み7cの半分の形成のために給糸された付加糸7は、編針CからBBの編針fに渡り、編針f、hより右側で係止している編目に新たな編目を形成するように給糸される。編針d,bに係る袋編み7cの半分へは、編針G,Eの右側で係止している編目に新たな編目を形成するように給糸される付加糸7が給糸される。この結果、A→C→f→hとG→E→d→bのそれぞれで前後境界10dを挟んで給糸方向が折り返すように付加糸7が繋がるため、端部領域10cの編目が前後境界10d側に引かれる。このように、端部領域10cに付加糸7による袋編み7cを付加することで、端部領域10cの編目が前後境界10dへ引かれて割れを埋め、外観を改善することができる。付加糸7は、編地の他の領域で、パイル編成で形成されたベースの編目に続いて新たな編目7bを形成するので、パイルループが緩まないように締めることができる。
【0034】
図7は、
図3の筒状パイル編地10の外観の例を、前後境界で割れ1bが生じる筒状パイル編地1の例と比較して示す。
図7(a)、
図7(c)および
図7(e)は、筒状パイル編地10について、
図7(b)、
図7(d)および
図7(f)の筒状パイル編地1とそれぞれ対応する。すなわち筒状パイル編地1で割れ1bが生じる交差側の端部で、筒状パイル編地10では端部領域10cに袋編み7cが付加されて、
図7(a)および
図7(c)に示すように、割れが目立たないようにすることができる。また、
図7(e)に示すように、交差しない側の端部にも、袋編み7cを付加する端部領域10cを設けることで、両側の端部での見栄えを同等にすることができる。
1サイクルのパイル編成として、工程[1]、工程[2]、工程[3]および工程[4]を行えば、筒状パイル編地10を形成することができる。工程[1']、工程[2']、工程[3]および工程[4]の1サイクルを繰り返しても、同様な筒状パイル編地を編成することができる。ただし、付加糸7による付加編成は、袋付加編成のみ行われる。付加編成を袋付加編成のみとする筒状パイル編地は、1サイクルを工程[1']と工程[2']とで構成する場合や、工程[3]と工程[4]とで構成する場合にも編成される。工程[1]と工程[2]とを繰り返すだけでは袋付加編成が含まれないけれども、たとえば工程[1]、工程{2]、工程[1']、工程[2']で1サイクルとするように、袋付加編成を含む工程と組み合わせて1サイクルを形成すればよい。
工程[1]から工程[4]での払いは、付加糸7による付加編成の前に行うこともできる。実施例1および実施例2のように、付加編成の後で払いを行うことで、ベースの編目は付加編成でノックオーバーされた旧編目となって安定に編み込まれ、パイルループは確実に払うことができる。付加糸7による袋付加編成で各針床で2本ずつの編針を使用する袋編み7cを行っているけれども、編針の本数は1~4本程度にして調整する。袋編み7cを行う編針は、少ないと割れが目立ち、多いと端部領域10cが絞られて目立つ可能性があるからである。前後の針床で、袋編み7cに使用する編針の本数を異ならせることもできる。付加糸7は、給糸口9aから給糸するパイル糸3や給糸口9bから給糸する地糸5とは、異なる給糸口9cから給糸する点で異なればよく、編糸としては同一のものでもよく、材質、色、太さなどが異なっていてもよい。また、実施例1および実施例2では、端部領域10cを除く中間の部分のすべてでパイル編成を行っているけれども、パイル編成を行わない区間と行う区間とを交互に設けて模様を形成したり、大きくパイル編成を行わない区間を設けたりしてもよい。