(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189544
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】化粧シート
(51)【国際特許分類】
B32B 27/16 20060101AFI20221215BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20221215BHJP
B29C 59/16 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
B32B27/16
B32B27/00 E
B29C59/16
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098179
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 仁美
(72)【発明者】
【氏名】米澤 杏奈
【テーマコード(参考)】
4F100
4F209
【Fターム(参考)】
4F100AK15A
4F100AK25B
4F100AK51B
4F100AR00B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100EJ37
4F100EJ52
4F100EJ54
4F100GB07
4F100GB33
4F100GB41
4F100HB00B
4F100JB14B
4F100JN21B
4F100JN26B
4F100YY00B
4F209AA21A
4F209AA31
4F209AC03
4F209AF01
4F209AG01
4F209AG05
4F209PA15
4F209PB01
4F209PC05
4F209PN03
(57)【要約】
【課題】艶消し効果による低光沢性を有するとともに、加熱延伸を行った場合であっても、美観に優れた化粧シートを提供することを目的とする。
【解決手段】化粧シート1は、基材2と、基材2の表面上に設けられたエキシマ光照射物である表面層3とを備え、23℃における表面層3の20°光沢度が1以下であり、60°光沢度が10以下であり、80℃の延伸温度により延伸した場合、延伸前の23℃における表面層3の60°光沢度と、延伸後の表面層3の60°光沢度との差が1.5以下であり、延伸前の23℃における表面層3の60°光沢度に対する延伸後の表面層3の60°光沢度の比が0.8以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の表面上に設けられたエキシマ光照射物である表面層と
を備え、
23℃における前記表面層の20°光沢度が1以下であり、60°光沢度が10以下であり、
80℃の延伸温度により延伸した場合、延伸前の23℃における前記表面層の60°光沢度と、延伸後の前記表面層の60°光沢度との差が1.5以下であり、延伸前の23℃における前記表面層の60°光沢度に対する延伸後の前記表面層の60°光沢度の比が0.8以下である
ことを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
基材と、
前記基材の表面上に設けられたエキシマ光照射物である表面層と
を備え、
23℃における前記表面層の20°光沢度が1以下であり、60°光沢度が10以下であり、
23℃における前記表面層の85°光沢度から23℃における前記表面層の20°光沢度を引いた値が0以上8以下であり、
90℃の延伸温度により延伸した場合、延伸後の表面層の85°光沢度から延伸後の表面層の20°光沢度を引いた値が0以上4以下である
ことを特徴とする化粧シート。
【請求項3】
前記表面層が、2~10官能ウレタンアクリレートと単官能アクリレートとを含有し、
前記表面層における前記2~10官能ウレタンアクリレートと前記単官能アクリレートとの質量比が、ウレタンアクリレート:単官能アクリレート=10:90~80:20であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の化粧シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シートに関する。
【背景技術】
【0002】
壁面材、造作材、建具等の建装材、家具等の表面装飾、自動車内装・弱電の表装等の様々な用途において、表面装飾を施して意匠性を高めるために化粧シートが用いられている。この化粧シートとしては、例えば、基材上に低艶化(艶消し)効果を有する層が設けられたものが知られている。
【0003】
例えば、基材上に着色材を含有する化粧層を有し、化粧層上に、コールターカウンター法(AP50μm)により測定される平均粒子径が5μm以下の湿式ゲル法シリカ粒子を含有するクリア層を有する化粧シートが提案されている。そして、このような構成により、無機粒子を含有するクリア層を有している場合であっても着色層の色味を好適に保持し、良好な艶消し表面を有する化粧シートを提供することができると記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、基材上に設けられた塗膜構成体の表面にエキシマランプから照射されたエキシマ光を照射することにより、塗膜構成体の表面における電磁波の照射部分の光沢を、電磁波の照射前よりも低減させた化粧シートが提案されている。そして、このような構成により、艶消感の異なる領域を有する化粧シートを提供することができると記載されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-77691号公報
【特許文献2】特開2018-164901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載の化粧シートにおいては、単に、クリア層にシリカ粒子を配合したに過ぎないため、十分な艶消し効果が得られず、低光沢性が発現しにくいという問題があった。
【0007】
また、上記特許文献2に記載の化粧シートにおいては、クリア層にシリカ粒子等が配合されておらず、単に、エキシマ光を照射するに過ぎないため、十分な艶消し効果が得られず、さらにクリア層に不均一な凹凸が形成されるため、美観(意匠性)が低下するという問題があった。
【0008】
さらに、これらの加熱シートにおいては、加熱延伸時に、外観に影響のある大きなクラックが形成されるため、美観に優れた化粧シートを得ることができないという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、艶消し効果による低光沢性を有するとともに、加熱延伸を行った場合であっても、美観に優れた化粧シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の化粧シートは、基材と、基材の表面上に設けられたエキシマ光照射物である表面層とを備え、23℃における表面層の20°光沢度が1以下であり、60°光沢度が10以下であり、80℃の延伸温度により延伸した場合、延伸前の23℃における表面層の60°光沢度と、延伸後の表面層の60°光沢度との差が1.5以下であり、延伸前の23℃における表面層の60°光沢度に対する延伸後の表面層の60°光沢度の比が0.8以下であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の他の化粧シートは、基材と、基材の表面上に設けられたエキシマ光照射物である表面層とを備え、23℃における表面層の20°光沢度が1以下であり、60°光沢度が10以下であり、23℃における表面層の85°光沢度から23℃における表面層の20°光沢度を引いた値が0以上8以下であり、90℃の延伸温度により延伸した場合、延伸後の表面層の85°光沢度から延伸後の表面層の20°光沢度を引いた値が0以上4以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれは、艶消し効果による低光沢性を有するとともに、加熱延伸を行った場合であっても、美観に優れた化粧シートを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る化粧シートを示す断面図である。
【
図2】実施例1の化粧シートにおける表面層の表面の状態を示すレーザー顕微鏡写真である。
【
図3】実施例1の化粧シート(80℃の延伸温度において加熱延伸処理をしたもの)における表面層の表面の状態を示すレーザー顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の化粧シートについて具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、適宜変更して適用することができる。
【0015】
<化粧シート>
図1に示すように、本発明の化粧シート1は、基材2と、基材2の表面2a上に設けられた表面層3とを備えている。
【0016】
<基材>
基材2は、例えば、熱可塑性樹脂シートからなり、この熱可塑性樹脂シートとしては、化粧シート1における基材に通常用いられるものを使用できる。具体例としては、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)シート、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)シート、非晶状態の結晶性ポリエステル樹脂(APET)シート、ポリオレフィンシート(ポリエチレンシート、ポリプロピレンシート等)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)シート、ポリカーボネートシート等が挙げられる。また、基材2に用いられる非晶状態の結晶性ポリエステル樹脂(APET)シートとして、PETボトルなどを原料としたリサイクルポリエチレンテレフタレート(RPET)シートが挙げられる。
【0017】
なお、熱可塑性樹脂シートとしては、二次曲面加工が容易であり、三次元成形性に優れるとの観点から、グリコール変性ポリエチレンテレフタレートシートが好ましい。グリコール変性ポリエチレンテレフタレートシートは、ポリエチレンテレフタレートの一種であり、ポリエチレンテレフタレートのグリコール成分がエチレングリコールであるのに対し、グリコール成分として、エチレングリコールの他、エチレングリコール以外のジオール(1,4-シクロヘキサンジメタノール)が含まれている非結晶性ポリエステルである。
【0018】
また、熱可塑性樹脂シートは、延伸シートであってもよく、未延伸シートであってもよい。また、熱可塑性樹脂シートには、必要に応じて、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、保存安定剤、滑剤、充填剤等の添加剤が含有されていてもよい。なお、熱可塑性樹脂シートは、意匠性の点から、着色されていることが好ましい。
【0019】
基材2の厚みは、特に限定されないが、50~800μmが好ましく、250~500μmがより好ましい。基材2の厚みが50μm以上であれば、機械強度と隠蔽性を十分に向上させることができる。また、基材2の厚みが800μm以下であれば、三次元成形性がより優れ、また、可撓性と印刷適性を確保し易くなる。
【0020】
<表面層>
表面層3は、ウレタンアクリレートを主成分とする塗料の塗膜である。この表面層3は、塗料を基材2の表面2a上に塗工し、硬化させることにより形成することができ、表面層3は、塗料硬化物により形成されている。また、
図1に示すように、表面層3の表面(すなわち、基材2側と反対側の表面)3aにはシワが形成されている。
【0021】
ウレタンアクリレートとしては、2~10官能のものが使用され、例えば、フェニルグリカミシルエーテルアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、及びジペンタエリスリトールペンタアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー等が挙げられる。また、EBECRYL8402、KRM8452、EBECRYL210、EBECRYL220、EBECRYL4500、EBECRYL230、EBECRLY270、EBECRYL4858、EBECRYL8804、EBECRYL8807、EBECRYL9270、EBECRYL4100、EBECRYL4513、EBECRYL8311、EBECRYL8465、EBECRYL9260、EBECRYL8701、KRM8667、EBECRYL4265、EBECRYL4587、EBECRYL4200、EBECRYL8210、EBECRYL1290、EBECRYL5129、EBECRYL5129、EBECRYL8254、EBECRYL8301R、KRM8200、KRM8904、U-6LPA、UA-1100H、U-200PA、及びUA-160TM(いずれも商品名)等の市販品を使用することができる。なお、これらのウレタンアクリレートは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
また、表面層3は、単官能アクリレートを含んでもよい。単官能アクリレートとしては、例えば、エチルカルビトールアクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンサクシネート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシエチルフタル酸、3-アクリロイルオキシグリセリンモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1-(メタ)アクリロキシ-3-(メタ)アクリロキシプロパン、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリε-カプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、モノ[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]アッシドホスフェート、トリフロロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3-テトラフロロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,4,4,4-ヘキサフロロブチル(メタ)アクリレート、パーフロロオクチルエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシアルキル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニルオキシエチル(メタ)アクリレート、及びイソボルニルオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、これらの単官能アクリレートは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
また、表面層3におけるウレタンアクリレートと単官能アクリレートとの配合比は、本発明の化粧シート1の特徴を損なわない限り、特に制限はないが、質量比で、ウレタンアクリレート:単官能アクリレート=10:90~80:20の範囲が好ましい。これは、ウレタンアクリレートは流動性が低いため、ウレタンアクリレートの質量比が大きくなると、表面層3の表面3aにシワが発生しにくくなり、艶消し効果による低光沢性が発現しにくくなるためである。また、単官能アクリレートは反応性が低いため、単官能アクリレートの質量比が大きくなると、塗料の硬化が生じにくくなるためである。
【0024】
また、表面層3の厚みは、特に限定されないが、1~45μmが好ましい。表面層3の厚みが45μm以上の場合は、表面粗さが大きくなるため、耐指紋性が向上する反面、触感性が低下する場合があるためである。
【0025】
また、耐擦傷性と柔軟性(加熱延伸性)を両立するとの観点から、表面層3の厚みは5~10μmがより好ましい。
【0026】
また、塗料は、発明の効果を損なわない範囲で、ウレタンアクリレート及び単官能アクリレート以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、多官能アクリレート、光重合開始剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、保存安定剤、可塑剤、滑剤、充填剤等が挙げられる。
【0027】
多官能アクリレートとしては、例えば、ジプピレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、EBECRYL145、EBECRYL150、IRR214K,EBECRYL130、トリメチロールプロパントリアクリレート、EBECRYL160S、OTA480、PETIA、PETRA、EBECRYL40、PETA、EBECRYL140、EBECRL1140、EBECRYL1142、DPHA、EBECRYL895、EBECRYL896、エトキシカビスフェノールAジアクリレート、及びグリセリントリアクリレート等が挙げられる。なお、これらの多官能アクリレートは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
光重合開始剤としては、例えば、アルキルフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、及びカチオン系等の開始剤を使用することができる。
【0029】
<製造方法>
本発明の化粧シート1を製造する際には、まず、例えば、上述の熱可塑性樹脂シートからなる基材2を準備する。この熱可塑性樹脂シートは、市販のものを用いてもよく、カレンダー法、押出成形法等の公知の製造方法により製造したものを用いてもよい。
【0030】
次に、基材2の表面2a上に、例えば、ウレタンアクリレート、単官能アクリレート、及び光重合開始剤が添加された塗料を塗布し、基材2の表面2a上に表面層3となる塗膜を形成する。
【0031】
なお、例えば、光重合開始剤を含有する2~10官能のウレタンアクリレートを使用する場合は、単官能アクリレートの使用を省略することができる。
【0032】
また、塗料の塗工方法としては、特に限定されず、例えば、キャスト塗工法、ダイコート法、グラビアコート法、ロールナイフコート法、リバースロールコート法、ロールコート法、及びコンマコート法等が挙げられる。
【0033】
次に、基材2の表面2a上に形成された塗膜にエキシマ光を照射する。より具体的には、ピーク波長が短い(120~230nmの範囲内にある)エキシマ光を塗膜に照射する。
【0034】
なお、エキシマランプを用いてエキシマ光を照射する場合、エキシマランプに充填されている放電ガスを変更することにより、電磁波のピーク波長を変化させることができる。上記ピーク波長のエキシマ光を照射する放電ガスとしては、例えば、Ar2、Kr2、Xe2等を用いることができる。
【0035】
そして、紫外線(350~450nm)を照射して塗膜を硬化させることにより、
図1に示す、基材2の表面上に表面層3が形成され、表面層3の表面3aにシワが形成された化粧シート1が製造される。
【0036】
なお、上記紫外線(350~450nm)の代わりに、再度、ピーク波長が短い(120~230nmの範囲内にある)エキシマ光を塗膜に照射しても、塗膜は完全に硬化しない。
【0037】
ここで、本発明者らは、化粧シート1において、低光沢性と加熱延伸性とを両立することができる条件を検討したところ、表面層3となる塗膜に上述のエキシマ光を照射して、塗膜をエキシマ光照射物とし、塗膜の表面にシワを形成することにより、表面層3における低光沢性を実現できるとともに、加熱延伸処理時の光沢度の変化を制御することにより、加熱延伸を行った場合であっても、美観に優れた化粧シートを得ることができることを見出した。
【0038】
すなわち、塗膜にエキシマ光を照射することにより、塗膜の最表面のみに硬化が生じて、塗膜の表面と内部との間で不均一性が生じ、塗膜内部の未反応部分から塗膜成分が表面に移動するため、塗膜の表面にシワが形成され、結果として、表面層3における光沢度を制御することが可能になる。
【0039】
そして、本発明の化粧シート1は、上述のシワによる艶消し効果により、23℃における表面層3の表面3aの20°光沢度が1以下であり、60°光沢度が10以下となるため、粒子の添加を行うことなく、低光沢性を図ることが可能になる。
【0040】
なお、ここで言う「光沢度」とは、低艶性の指標であり、JIS Z 8741:1997に準拠した方法で測定される光沢度のことを言い、例えば、「20°光沢度」とは、化粧シート1の測定面(表面層3の表面3a)に対して、20°の入射角で光を入射させ、その反射角の方向に設置した光検出器による測定の結果に基づいて算出される光沢度のことを言う。
【0041】
また、本発明の化粧シート1を80℃の延伸温度により延伸した場合、化粧シート1の延伸前の(すなわち、23℃における)表面3aの60°光沢度と、延伸後の表面3aの60°光沢度との差を1.5以下に制御するとともに、延伸前の表面3aの60°光沢度に対する延伸後の表面3aの60°光沢度の比を0.8以下に制御することにより、延伸前後における表面層の光沢度の差が小さくなるため、加熱延伸を行った場合であっても、外観に影響のある大きなクラックの形成を防止することができ、結果として、美観に優れた化粧シートを得ることが可能になる。
【0042】
また、23℃における表面3aの85°光沢度から23℃における表面3aの20°光沢度を引いた値を0以上8以下に制御するとともに、本発明の化粧シート1を90℃の延伸温度により延伸した場合、延伸後の表面3aの85°光沢度から延伸後の表面3aの20°光沢度を引いた値を0以上4以下に制御することにより、延伸前、及び延伸後の化粧シート全体における光沢度の変化が小さくなるため、加熱延伸を行った場合であっても、外観に影響のある大きなクラックの形成を防止することができ、結果として、美観に優れた化粧シートを得ることが可能になる。
【0043】
以上に説明したように、本発明においては、艶消し効果による低光沢性を有するとともに、加熱延伸を行った場合であっても、美観に優れた化粧シートを提供することが可能になる。
【実施例0044】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0045】
化粧シートの作製に使用した材料を以下に示す。
(1)ウレタンアクリレート-1:9官能ウレタンアクリレート(三菱ケミカル(株)製、商品名:UV-7620EA)
(2)ウレタンアクリレート-2:4官能ウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス(株)製、商品名:EBECRYL8606)
(3)ウレタンアクリレート-3:3官能ウレタンアクリレート(浅井物産(株)製、商品名:CHクリヤー #133-12、光開始剤:5%添加)
(4)ウレタンアクリレート-4:2官能ウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス(株)製、商品名:EBECRYL8402)
(5)ウレタンアクリレート-5:10官能ウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス(株)製、商品名:KRM8452)
(6)単官能アクリレート-1:テトラヒドロフルフリルアクリレート(東京化成工業(株)製、商品名:Tetrahydrofurfuryl Acrylate)
(7)開始剤:アルキルフェノン系光重合開始剤(IGM Resins B.V.製、商品名:Omnirad1173)
【0046】
(実施例1)
<化粧シートの作製>
まず、基材として、厚みが250μmであるPVCを準備した。次に、表1に示す各材料を配合して、表1に示す組成(質量部)を有する実施例1の塗料を準備し、この塗料を、バーコーターを用いて基材の表面上に塗布して、基材の表面上に表面層となる塗膜を形成した。
【0047】
次に、エキシマ照射装置(ウシオ電機(株)製、商品名:172nm Ligth Emission Unit、型式:SUS1000)を用いて、窒素雰囲気下において、Xe2を放電ガスとして用いたエキシマ光(ピーク波長:172nm)を塗膜に照射した。なお、積算光量が25mJ/cm2、照射光度が16mW/cm2となるように照射した。
【0048】
そして、紫外線照射装置(アイグラフィックス(株)製、紫外硬化用高圧水銀ランプ4kW(H04-L41))を用いて、塗膜に紫外線(主波長:365nm)を照射して、塗膜を光硬化させることにより、基材の表面上に、表面層を形成し、化粧シートを作製した。なお、紫外線の照射距離が15cm、ランプ移動速度が0.70m/分の条件下で紫外線照射を行い、照射量を200mJ/cm2とした。
【0049】
また、表面層の表面の状態を示すレーザー顕微鏡写真を
図2に示す。
図2に示すように、表面層となる塗膜にエキシマ光を照射することにより、表面層の表面に多数のシワが形成されることが分かる。
【0050】
<厚みの測定>
次に、作製した化粧シートの表面層(塗膜)の厚みを、デジタルマイクロスコープ((株)キーエンス製、商品名:VHX-5000)、もしくは電界放出型走査電子顕微鏡(SEM)((株)日立ハイテクノロジーズ製、商品名:S-4800)を用いて測定した。
【0051】
より具体的には、シートを割断することにより断面を露出させ、デジタルマイクロスコープ(測定倍率:500倍)、もしくは電界放出型走査電子顕微鏡(測定倍率:1000倍)で断面を観察した際の、塗膜高さの高い部分と低い部分を10か所選択して、厚みを測定し、平均値を算出した。なお、上記測定を3回行い、3回分の塗膜高さの平均値を算出し、表面層の厚みとした。以上の結果を表1に示す。
【0052】
<加熱延伸処理、及び加熱延伸性の評価>
次に、作製した化粧シートに対して、加熱延伸処理を行った。より具体的には、50mm×120mmの短冊状の試験片を準備し、80℃、及び90℃の延伸温度において、引張速度が300mm/min、チャック間距離が80mmの条件下で、長辺方向に100%延伸する引張試験を実施した。そして、目視において、80℃の延伸温度において加熱延伸した方向と直角にクラックが発生していないものを〇、当該クラックが発生しているものを×とした。以上の結果を表1に示す。
【0053】
なお、80℃の延伸温度において加熱延伸した後の表面層の表面の状態を示すレーザー顕微鏡写真を
図3に示す。
図3に示すように、加熱延伸を行った場合であっても、外観に影響のある大きなクラックが形成されていないことが分かる。
【0054】
<光沢度の測定>
次に、上述の作製した各化粧シート(延伸前(23℃)の化粧シート、80℃で延伸処理を行った化粧シート、及び90℃で延伸処理を行った化粧シート)の表面層における20°光沢度、60°の光沢度、及び85°光沢度を、JIS Z 8741:1997に準拠して、光沢計((株)堀場製作所製、商品名:グロスチェッカーIG-320)を用いて測定した。なお、上記測定を5回行い、5回分の光沢度の平均値を算出し、表面層における光沢度とした。以上の結果を表1に示す。
【0055】
<延伸部位に関する光沢度の算出>
次に、上述の光沢度に基づいて、延伸部位に関する光沢度を算出した。より具体的には、延伸前(23℃)における表面層の60°光沢度と、80℃の延伸温度により延伸した後の表面層の60°光沢度との差を算出するとともに、延伸前(23℃)における表面層の60°光沢度に対する80℃の延伸温度により延伸した後の表面層の60°光沢度の比を算出した。以上の結果を表1に示す。
【0056】
<測定角度に関する光沢度の算出>
次に、上述の光沢度に基づいて、測定角度に関する光沢度を算出した。より具体的には、延伸前(23℃)における表面層の85°光沢度から延伸前(23℃)における表面層の20°光沢度を引いた値を算出するとともに、90℃の延伸温度により延伸した場合の、延伸後の表面層の85°光沢度から延伸後の表面層の20°光沢度を引いた値を算出した。以上の結果を表1に示す。
【0057】
(実施例2~3)
塗料成分の組成を表1に示す組成(質量部)に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして化粧シートを作製した。
【0058】
そして、上述の実施例1と同様にして、厚みの測定、加熱延伸処理、加熱延伸性の評価、光沢度の測定、延伸部位に関する光沢度の算出、及び測定角度に関する光沢度の算出を行った。以上の結果を表1に示す。
【0059】
(比較例1~4)
基材として、上述のPVCの代わりに、厚みが250μmであるRPETを使用するとともに、塗料成分の組成を表1に示す組成(質量部)に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして化粧シートを作製した。
【0060】
そして、上述の実施例1と同様にして、厚みの測定、加熱延伸処理、加熱延伸性の評価、光沢度の測定、延伸部位に関する光沢度の算出、及び測定角度に関する光沢度の算出を行った。以上の結果を表1に示す。
【0061】
【0062】
表1に示すように、80℃の延伸温度により延伸した場合、延伸前の23℃における表面層の60°光沢度と、延伸後の表面層の60°光沢度との差が1.5以下であり、延伸前の23℃のおける表面層の60°光沢度に対する延伸後の表面層の60°光沢度の比が0.8以下である実施例1~3の化粧シートにおいては、延伸前後における表面層の光沢度の差が小さいため、艶消し効果による低光沢性を有するとともに、加熱延伸を行った場合であっても、外観に影響のある大きなクラックの形成を防止することができることが分かる。
【0063】
また、表1に示すように、延伸前(23℃)における表面層の85°光沢度から延伸前(23℃)における表面層の20°光沢度を引いた値が0以上8以下であり、90℃の延伸温度により延伸した場合、延伸後の表面層の85°光沢度から延伸後の表面層の20°光沢度を引いた値が0以上4以下である実施例1~3の化粧シートにおいては、延伸前、及び延伸後の化粧シート全体における光沢度の変化が小さいため、艶消し効果による低光沢性を有するとともに、加熱延伸を行った場合であっても、外観に影響のある大きなクラックの形成を防止することができることが分かる。