(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189554
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】歩行型苗移植機
(51)【国際特許分類】
A01C 11/02 20060101AFI20221215BHJP
【FI】
A01C11/02 315
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098200
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092794
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 正道
(72)【発明者】
【氏名】今泉 大介
【テーマコード(参考)】
2B062
【Fターム(参考)】
2B062AA14
2B062AB04
2B062BA13
2B062BA14
2B062BA18
2B062BA22
(57)【要約】
【課題】従来、機体に搭載したエンジンの駆動力で駆動車輪を回転して機体を前進させ苗載台や苗植付装置を作動して、田植作業を行う歩行型田植機がある。エンジンにて各部を駆動する構成で車体重量が重く、高価であった。そこで、車体重量が軽くて操作性が良く、安価な歩行型苗移植機を提供する。
【解決手段】苗載台4、苗植付装置5及び整地フロート6を設けた、機体を構成する植付伝動ケース2の前後方向一側に車輪8を設け、該車輪8の回転にて苗載台4及び苗植付装置5を作動させると共に、車輪8の前後一側に、機体を構成する植付伝動ケース2を設け、他側に植付伝動ケース2に基部を固定した操作アーム9の把持部9aを設ける。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
苗載台(4)、苗植付装置(5)及び整地フロート(6)を設けた、機体を構成する植付伝動ケース(2)の前後方向一側に車輪(8)を設け、該車輪(8)の回転にて苗載台(4)及び苗植付装置(5)を作動させると共に、車輪(8)の前後一側に、機体を構成する植付伝動ケース(2)を設け、他側に植付伝動ケース(2)に基部を固定した操作アーム(9)の把持部(9a)を設けたことを特徴とする歩行型苗移植機。
【請求項2】
車輪(8)の回転力を、苗載台(4)の左右往復動機構(3)及び苗植付装置(5)に伝動する状態と伝動しない状態に切り換える植付けクラッチ(10b)を操作するクラッチレバー(10)を操作アーム(9)の把持部(9a)近傍に設けたことを特徴とする請求項1に記載の歩行型苗移植機。
【請求項3】
車輪(8)の回転を制動するブレーキ装置(11b)を操作するブレーキレバー(11)を操作アーム(9)の把持部(9a)近傍に設けたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の歩行型苗移植機。
【請求項4】
植付伝動ケース(2)に基部が枢支され先端部が所定量上下作動する伝動ケース(7)の先端部に車輪(8)を装着して、車輪(8)を上下調節自在に設けたことを特徴とする請求項1~請求項3の何れか1項に記載の歩行型苗移植機。
【請求項5】
車輪(8)が機体左右に2つ設けた2輪または機体左右方向中央に設けた1輪であることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の歩行型苗移植機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行型苗移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機体に搭載したエンジンの駆動力で駆動車輪を回転して機体を前進させ苗載台や苗植付装置を作動して、田植作業を行う歩行型田植機がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジンにて各部を駆動する構成で車体重量が重く、高価であった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、車体重量が軽くて操作性が良く、安価な歩行型苗移植機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、苗載台4、苗植付装置5及び整地フロート6を設けた、機体を構成する植付伝動ケース2の前後方向一側に車輪8を設け、該車輪8の回転にて苗載台4及び苗植付装置5を作動させると共に、車輪8の前後一側に、機体を構成する植付伝動ケース2を設け、他側に植付伝動ケース2に基部を固定した操作アーム9の把持部9aを設けた歩行型苗移植機である。
【0007】
請求項1記載の発明によれば、機体は左右車輪8,8と整地フロート6にて安定良く支持され、作業者が操作アーム9の把持部9aを持って機体を容易に引っ張る(又は押す)ことができて、軽量で機体操作が容易な人力式の歩行型田植機となり、安価で作業性良く容易に田植作業が行える。
【0008】
請求項2記載の発明は、車輪8の回転力を苗載台4の左右往復動機構3及び苗植付装置5に伝動する状態と伝動しない状態に切り換える植付けクラッチ10bを操作するクラッチレバー10を操作アーム9の把持部9a近傍に設けた請求項1に記載の歩行型苗移植機である。
【0009】
請求項3記載の発明は、車輪8の回転を制動するブレーキ装置11bを操作するブレーキレバー11を操作アーム9の把持部9a近傍に設けた請求項1または請求項2に記載の歩行型苗移植機である。
【0010】
請求項4記載の発明は、植付伝動ケース2に基部が枢支され先端部が所定量上下作動する伝動ケース7の先端部に車輪8を装着して、車輪8を上下調節自在に設けた請求項1~請求項3の何れか1項に記載の歩行型苗移植機である。
【0011】
請求項5記載の発明は、車輪8が機体左右に2つ設けた2輪または機体左右方向中央に設けた1輪である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の歩行型苗移植機である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態にかかる歩行型田植機の側面図である。
【
図6】本発明の第2実施形態を示す歩行型田植機の平面図である。
【
図7】本発明の第3実施形態を示す歩行型田植機の側面図である。
【
図8】同第3実施形態を示す作用説明用要部平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明の歩行型苗移植機の一実施形態である歩行型田植機について図面に基づき説明する。尚、以下の実施の形態は、あくまで実施の一形態であって、特許請求の範囲を拘束するものではない。本明細書では、歩行型田植機の前進方向に向かって左右をそれぞれ左側と右側といい、前進方向を前側、後進方向を後側という。
【0014】
図1及び
図2は、歩行型田植機1の全体側面図及び平面図である。この歩行型田植機1は、作業者が機体を押し引きして動かす人力式であって、植付伝動ケース2と、該植付伝動ケース2に機体左右方向に移動自在に支持されて左右往復動機構3にて左右往復動する苗載台4と、植付伝動ケース2の後端部両側に設けた苗植付装置5と、植付伝動ケース2の下側に装着された整地フロート6と、植付伝動ケース2の前部左右両側に基部が枢支され各々の前部が所定量上下作動する左右伝動ケース7,7の前端部に装着された左右車輪8,8と、植付伝動ケース2の前部に基部が固着され前方に延びる操作アーム9から構成される。
【0015】
植付伝動ケース2には、作業者が圃場を歩いて操作アーム9の把持部9aを持って機体を引っぱって移動すると圃場に接地して回転する左右車輪8,8の回転により苗載台4の左右往復動機構3を回転駆動すると共に、左右往復動する苗載台4から1株分の苗を取り出して圃場に植付ける苗植付装置5,5を作動させる伝動機構が設けられている。
【0016】
整地フロート6は、圃場の泥面に接地して機体を支持すると共に、機体の進行に伴って苗植付装置5,5が苗を植付ける泥面を整地する。
【0017】
左右伝動ケース7,7は、植付伝動ケース2の前部左右両側に基部が枢支され各々の前部が所定量上下作動して左右車輪8,8の上下高さを調節でき、耕盤の深さに応じて左右車輪8,8の上下高さ調節した後にストッパピン10’により上下位置を固定できる。
【0018】
図3,
図4に示すように、操作アーム9の把持部9a近傍には、クラッチレバー10とブレーキレバー11が設けられている。
【0019】
クラッチレバー10は、クラッチ操作ワイヤ10aを介して植付伝動ケース2内の植付けクラッチ10bを入り切りして、左右車輪8,8の回転力を苗載台4の左右往復動機構3及び苗植付装置5,5に伝動する状態と伝動しない状態に切り換える。
【0020】
ブレーキレバー11は、ブレーキ操作ワイヤ11bを介して左右車輪8,8の回転力を伝達する軸をブレーキ装置11bで制動して、左右車輪8,8にブレーキをかける。
【0021】
次に、田植作業について説明する。
【0022】
先ず、圃場の耕盤深さに応じて左右車輪8,8を上下高さ調節し、ストッパピン10’により上下位置を固定する。
【0023】
苗載台4にマット状苗を載置し、作業者は操作アーム9の把持部9aを持って機体を圃場の植付け作業工程に沿って歩きながら機体を引っぱる。
【0024】
すると、機体は、圃場の泥面に接地している整地フロート6に支持された状態で進行し、左右車輪8,8が圃場に接地しているので回転し、該左右車輪8,8の回転により苗載台4の左右往復動機構が回転駆動されて苗載台4が左右往復動すると共に、該左右往復動する苗載台4から1株分の苗を取り出して圃場に植付ける苗植付装置5,5が作動し、整地フロート6にて整地された圃場に苗を植付ける。
【0025】
そして、圃場端まで植付けて機体を旋回する場合には、クラッチレバー10を操作して植付けクラッチ10bを切り、左右車輪8,8の回転力が苗載台4の左右往復動機構3及び苗植付装置5,5に伝動しない状態にして、左右車輪8,8が回転しても苗載台4及び苗植付装置5,5が作動しないようにする。
【0026】
そこで、作業者は、
図5に示すように、操作アーム9の把持部9aを押し下げて左右車輪8,8回りに機体を上昇させて整地フロート6が圃場面に接地しない状態として、把持部9aを持って機体を旋回させて次の植付け作業工程に入り、操作アーム9の把持部9aを押し下げるのを止めて左右車輪8,8回りに機体を下降させて整地フロート6が圃場面に接地する状態として、クラッチレバー10を操作して植付けクラッチ10bを入りにして、操作アーム9の把持部9aを持って機体を圃場の植付け作業工程に沿って歩きながら機体を引っぱって植付け作業を行う。
【0027】
また、畦や道路で機体を移動させる場合には、
図5に示すように、操作アーム9の把持部9aを押し下げて左右車輪8,8回りに機体を上昇させて整地フロート6が畦や道路に接地しない状態として、操作アーム9の把持部9aを持って引っぱったり押したりして移動する。
【0028】
以上要するに、歩行型田植機1は、苗載台4、苗植付装置5及び整地フロート6を設けた機体を構成する植付伝動ケース2の前後方向一側に左右車輪8,8を設け、該左右車輪8,8の回転にて苗載台4及び苗植付装置5を作動させると共に、左右車輪8,8の前後一側に機体を構成する植付伝動ケース2を設け、他側に植付伝動ケース2に基部を固定した操作アーム9の把持部9aを設けたので、機体は左右車輪8,8と整地フロート6にて安定良く支持され、作業者が操作アーム9の把持部9aを持って機体を容易に引っ張る(又は押す)ことができて、軽量で機体操作が容易な人力式の歩行型田植機となり、安価で作業性良く容易に田植作業が行える。
【0029】
<他の実施形態>
(1)
図6は、人力式の歩行型田植機1を1輪仕様にした第2実施形態を示す。
【0030】
即ち、植付伝動ケース2の前部左右両側に基部が枢支された左伝動ケース7及び回動アーム7aの前部間に設けた車軸8aに車輪8を設けている。1輪の車輪8は機体左右方向の中央位置に設けられている。そして、車輪8の回転は、左伝動ケース7にて植付伝動ケース2に伝動される。
【0031】
1輪仕様以外の構成は、前記第1実施形態と同じ構成である。1輪仕様にすることにより、更に軽量で操作性の向上が図れる。
【0032】
【0033】
即ち、この歩行型田植機1は、機体の前端部に設けた原動機となるエンジン20と、該エンジン20の後側に設けた主伝動ケース21と、該主伝動ケース21の左右に各々設けた走行支持部材となる左右走行伝動ケース22,22と、該左右走行伝動ケース22,22からの動力で駆動する左右各々の走行体となる左右駆動車輪23,23と、主伝動ケース21の後側面から後方に延びる主フレーム24と、主フレーム24の後端に固着された植付伝動ケース25と、該植付伝動ケース25の後側面から湾曲して斜め後上方に延びる後部フレーム26と、該後部フレーム26の後端に取り付けた操縦ハンドル27を備えている。尚、操縦ハンドル27は、後部フレーム26の上端部に固定されている。
【0034】
植付伝動ケース25の下部には4個の苗植付装置5を取り付け、後部フレーム26の前側には該後部フレーム26に左右移動可能に支持される苗載台4を設けている。従って、この歩行型田植機1は、圃場に同時に4条分の苗を植付ける4条植えの構成となっている。
【0035】
また、機体の下部には圃場面に接地する3個の整地フロート6を設けており、機体の走行により該整地フロート6が圃場面を滑走して整地する。整地フロート6のうち、機体の左右中央のセンター整地フロート6は左右内側の2条の苗植付装置5の植付け位置を整地し、機体の左右両外側のサイド整地フロート6は左右外側の各々1条の苗植付装置5の植付け位置を整地する。
【0036】
センター整地フロート6及びサイド整地フロート6は、側面視で同じ位置に配置された各々の左右方向の回動支点軸28回りに上下に回動自在に支持され、前部が圃場面の凹凸に追従して上下動する構成となっている。尚、左右駆動車輪23,23は、各々左右内側の苗植付装置5の植付け位置と左右外側の苗植付装置5の植付け位置との間の条間の左右中央位置に配置されている。従って、左右の左右駆動車輪23,23の間にセンター整地フロート6を配置し、左右の左右駆動車輪23,23の左右外側にサイド整地フロート6を配置した構成となっている。
【0037】
エンジン20の出力軸は主伝動ケース21内に突入しており、エンジン20からの動力が主伝動ケース21内に伝達される。主伝動ケース21内には、左右駆動車輪23,23、苗植付装置5及び苗載台4への全ての伝動を断つことができる主クラッチと、該主クラッチからの動力を左右駆動車輪23,23への伝動経路と苗植付装置5及び苗載台4への伝動経路とに分岐する動力分岐部と、前記苗植付装置5及び苗載台4への伝動経路上において該苗植付装置5及び苗載台4への伝動を断つことができる植付クラッチと、前記左右駆動車輪23,23への伝動経路上において噛み合うギヤの切替により路上走行用の前進高速状態、植付作業用の前進低速状態、ギヤが噛み合わずに非伝動となる中立状態及び後進状態の4状態に切り替えて変速できる変速部と、該変速部の伝動下手側で左右の左右駆動車輪23,23への伝動を非伝動状態に切り替えできる左右各々のサイドクラッチとを設けている。従って、前記変速部及びサイドクラッチを介して主伝動ケース21から左右に突出する左右各々の走行出力軸29に伝動される。尚、走行出力軸29は、左右走行伝動ケース22,22を上下に回動させる回動軸心となる。左右走行伝動ケース22,22の上下方向への回動により、左右走行伝動ケース22,22の後端部に設けた左右車軸30,30を上下に移動させて左右駆動車輪23,23を上下動させる構成となっている。
【0038】
走行出力軸29は、左右走行伝動ケース22,22内に突入しており、左右走行伝動ケース22,22内の伝動機構31にて車軸30に駆動回転動力を伝達する。
【0039】
伝動機構31は、例えば、左走行伝動ケース22の断面図を
図8に示すように(右走行伝動ケース22は、左走行伝動ケース22と左右対称で同様の構成である)、走行出力軸29からの駆動力を伝動する駆動シャフト32と、該駆動シャフト32後端部に設けた駆動ベベルギヤ33と、走行伝動ケース22後端部に設けた車軸30に遊転自在に設け駆動ベベルギヤ33左右側に各々噛合する左右従動ベベルギヤ34,34と、車軸30にスプライン係合し左右移動自在に設け左右従動ベベルギヤ34,34間に設けられた切換クラッチ体35と、該切換クラッチ体35を左右移動させて切換クラッチ体35の左側係合爪35aと左従動ベベルギヤ34の係合爪34aを係合させる状態と切換クラッチ体35の右側係合爪35bと右従動ベベルギヤ34の係合爪34bを係合させる状態に切り換える切換フォーク36から構成される。
【0040】
そして、切換クラッチ体35は、左側係合爪35aと左従動ベベルギヤ34の係合爪34aが係合する状態に圧縮バネにより付勢されており、操縦ハンドル27近傍に設けた逆転操作レバー37の操作にて操作ワイヤを介して右側係合爪35bと右従動ベベルギヤ34の係合爪34bが係合する状態に切り換えられる。
【0041】
切換クラッチ体35の左側係合爪35aと左従動ベベルギヤ34の係合爪34aが係合する状態では、駆動シャフト32からの回転駆動力により駆動ベベルギヤ33、左従動ベベルギヤ34及び切換クラッチ体35を介して車軸30は正転し機体が前進方向に移動するように駆動車輪23は正転する。切換クラッチ体35の右側係合爪35bと右左従動ベベルギヤ34の係合爪34bが係合する状態では、駆動シャフト32からの回転駆動力により駆動ベベルギヤ33、右従動ベベルギヤ34及び切換クラッチ体35を介して車軸30は逆転し駆動車輪23が逆転する。
【0042】
なお、上記実施例では、切換クラッチ体35を車軸30にスプライン係合させて左右移動自在に設けた例を示したが、車軸30に軸方向にキー溝を設けてキーを装着し、切換クラッチ体35に該キーと係合するキー溝を設けて車軸30の軸方向には左右移動自在であるが車軸30の回転方向には一体的に回転する構成としても良い。
【0043】
また、植付クラッチの伝動により、主伝動ケース21から後側に延びる植付伝動軸38を介して植付伝動ケース25内へ伝動される。尚、エンジン20及び主伝動ケース21を左右の左右駆動車輪23,23の各々の車軸30よりも前側に配置し、植付伝動ケース25、複数の苗植付装置5及び苗載台4を備える植付部を左右の左右駆動車輪23,23の各々の車軸30よりも後側に配置している。
【0044】
主伝動ケース21の左側の側部には油圧ポンプを固着し、主伝動ケース21の後部には油圧バルブユニットを固着し、該油圧バルブユニットの後側に単動式の油圧昇降シリンダ39を固着している。この油圧昇降シリンダ39は、前後方向に移動する移動部材となるシリンダロッド39aを後部に備え、主フレーム24の上方に配置される。従って、油圧バルブユニットの切替により油圧ポンプからの油圧を油圧昇降シリンダ39へ供給すると、シリンダロッド39aが後方へ移動する。また、油圧昇降シリンダ39内の油圧を油圧タンクとなる主伝動ケース21内へ戻す状態に切り替えると、機体の自重によりシリンダロッド39aが前方へ移動する。従って、油圧昇降シリンダ39及びシリンダロッド39aが、アクチュエータとなる。シリンダロッド39aの後端部には上下方向の支点軸を介して中継部材となる中継リンク部材40を回動自在に連結している。中継リンク部材40は、左右中央で上下方向の支点軸に連結され、左右対称な形状となっている。尚、中継リンク部材40の左右中央部にはスプリング受け部を設け、シリンダロッド39aに設けた圧縮スプリング41がスプリング受け部に接触している。従って、圧縮スプリング41により、中継リンク部材40の支点軸回りの回動抵抗を与え、無負荷状態では中継リンク部材40が中立位置に回動して復帰する構成となっている。
【0045】
中継リンク部材40の左右両端部には、左右各々の上下方向の連結軸を介して左右各々の連結ロッド42の後端部を連結している。連結ロッド42の前端は左右走行伝動ケース22,22の上側に固着された左右各々のアーム43に連結されている。従って、左右駆動車輪23,23の接地荷重を、左右走行伝動ケース22,22、アーム43及び連結ロッド42を介して中継リンク部材40が受けている。
【0046】
従って、油圧ポンプからの油圧を油圧昇降シリンダ39内へ供給するべく油圧バルブユニットを切り替えると、シリンダロッド39aが後方へ移動し、中継リンク部材40が後側へ移動し、該中継リンク部材40が連結軸を介して左右の連結ロッド42を後側に引き、左右のアーム43を後側に回動させることにより左右の左右走行伝動ケース22,22が下側に回動し、左右の左右駆動車輪23,23が下動して圃場に対して機体が上昇する。逆に、油圧昇降シリンダ39内の油圧を主伝動ケース21内へ戻すべく油圧バルブユニットを切り替えると、左右の左右駆動車輪23,23の接地荷重により左右のアーム43、左右の連結ロッド42及び中継リンク部材40等を介してシリンダロッド39aが前方へ戻され、左右の左右駆動車輪23,23が上動して圃場に対して機体が下降する。
【0047】
圃場の耕盤の左右傾斜や圃場の耕盤の凹凸に左右の左右駆動車輪23,23が追従するべく、中継リンク部材40が圧縮スプリング41に抗して支点軸を中心に一時的に回動しようとするが、圧縮スプリング41により中継リンク部材40を中立位置へ復帰させるべく回動し、機体の左右ローリング姿勢を維持し、機体の左右傾斜姿勢が不安定になるようなことを防止している。
【0048】
苗植付装置5及び苗載台4は、植付伝動ケース25からの動力で作動する。苗載台4は、植付伝動ケース25の左右に突出して左右移動する左右移動軸44の左右両端から左右各々の連結部材45を介して支持され、苗受板46に沿って左右往復移動し、苗受板46に設けた各条の苗取口に一株分ずつ苗を供給する。尚、苗載台4の上部には左右移動用レール47を固着して設けており、該左右移動用レール47が後部フレーム26の上部から支持される支持ローラ48に案内されて左右移動可能に支持されている。従って、苗載台4は、下部で苗受板46に左右移動可能に支持され、上部で支持ローラ48に左右移動可能に支持され、植付伝動ケース25からの動力で左右移動軸44を介して左右に往復移動する構成となっている。また、苗載台4には、左右移動端で苗取口側(下側)に苗を移送する各条の苗送りベルト49を備えている。この苗送りベルト49は、植付伝動ケース25からの動力で作動し、苗載台4の左右移動端でマット苗を一株分移送して苗を苗取口へ供給する。
【0049】
苗植付装置5は、植付伝動ケース25の下部に取り付けられ、該植付伝動ケース25からの動力で作動するクランク式であり、分離爪50aが苗取口上の苗を掻き取り、掻き取った苗を押出具50bが圃場面に向かって押し出して圃場に苗を植付ける。
【0050】
操縦ハンドル27の前側で且つ苗載台4の後側には、左右駆動車輪23,23、苗植付装置5及び苗載台4への伝動を断つことができる主クラッチレバー51と、苗植付装置5及び苗載台4への伝動を断ったり油圧昇降シリンダ39を作動させるべく油圧バルブユニットの油路を切り替えたりする植付昇降レバー52とを設けている。前記主クラッチレバー51は、入位置と切位置との2つの操作位置に操作できる構成となっており、主伝動ケース21内の主クラッチを操作して伝動状態と非伝動状態とに切り替える。前記植付昇降レバー52は、植付け位置、下降位置、中立位置及び上昇位置の4つの操作位置に操作できる構成となっており、主伝動ケース21内の植付クラッチを操作して植付伝動軸38を駆動状態と非駆動状態とに切り替えると共に、油圧昇降シリンダ39を作動させて左右の左右駆動車輪23,23を上下動させる。すなわち、前記植付け位置に操作すると、植付クラッチを伝動状態にして苗植付装置5及び苗載台4を作動させると共に、機体の自重で左右の左右駆動車輪23,23が接地荷重を受けることにより油圧昇降シリンダ39内の油圧を主伝動ケース21内に戻して左右の左右駆動車輪23,23を上動させ、機体を下降させて整地フロート6が接地状態となる。前記下降位置に操作すると、上述のように機体を下降させた状態で、植付クラッチを非伝動状態にして苗植付装置5及び苗載台4の作動を停止させる。前記中立位置に操作すると、上述のように苗植付装置5及び苗載台4の作動を停止させた状態で、油圧昇降シリンダ39への油路を遮断して油圧昇降シリンダ39の作動を固定し、左右の左右駆動車輪23,23を任意の上下位置で固定して機体の昇降を停止させる。前記上昇位置に操作すると、上述のように苗植付装置5及び苗載台4の作動を停止させた状態で、油圧昇降シリンダ39内へ油圧を供給して左右の左右駆動車輪23,23を下動させ、機体を上昇させて整地フロート6が非接地状態となる。また、センター整地フロート6の上下動で該センター整地フロート6の前部に連結されるロッドを介して油圧バルブユニットの油路を切り替える構成となっており、センター整地フロート6の前部が上動すると油圧昇降シリンダ39内へ油圧を供給して左右の左右駆動車輪23,23を下動させる構成となっている。従って、植付昇降レバー52が前記植付け位置及び下降位置のとき、センター整地フロート6が圃場面に接地して上下動することにより該センター整地フロート6が所望の前後姿勢になるよう左右の左右駆動車輪23,23が上下動し、機体が所定の対地高さとなるよう昇降制御される構成となっている。
【0051】
操縦ハンドル27及び苗載台4の前側には、主伝動ケース21内の変速部を操作するための変速レバー53と、エンジン20を始動するためのリコイルノブ54とを設けている。尚、機体の前端部にあるエンジン20とリコイルノブ54とは、リコイルロープ55により連結されている。操縦ハンドル27の左右のハンドルグリップ27aの下方には左右各々のサイドクラッチレバー56を設けており、該サイドクラッチレバー56により主伝動ケース21内の左右各々のサイドクラッチを操作する構成となっている。操縦ハンドル27の斜め前下側で後部フレーム26の左側には植付深さ調節レバー57を設けており、該植付深さ調節レバー57の操作により該植付深さ調節レバー57と一体回動する左右方向の植付深さ調節軸58を回動し、植付深さ調節軸58と一体回動する各々の植付深さ調節アーム59を介して各整地フロート6の回動支点軸28の機体に対する上下位置を変更して、苗植付装置5による苗の植付深さを変更して調節できる構成となっている。尚、回動支点軸28は、植付深さ調節アーム59に溶接され固着されている。操縦ハンドル27の斜め前下側で後部フレーム26の右側には苗取量調節レバー60を設けており、該苗取量調節レバー60の操作により苗受板46の苗植付装置5に対する上下位置を変更して、苗植付装置5による一株当たりの苗取り量を変更して調節できる構成となっている。
【0052】
エンジン20及び主伝動ケース21の上方には、ボンネットカバー61を設けている。また、エンジン20の上方には、燃料タンク62を設けている。
【0053】
ボンネットカバー61の後部の上方から植付伝動ケース25の前部の上方にわたる位置には、予備の苗を載せる予備苗載台63を設けている。
【0054】
この歩行型田植機1において、作業者が操縦ハンドル27の左右のハンドルグリップ27aを把持し、植付昇降レバー52を植付け位置に操作して機体を下降させると共に植付部を作動可能な状態にし、主クラッチレバー51を入位置に操作して機体を走行させながら植付部を作動させることにより、圃場に同時に4条分の苗を植付けていく。
【0055】
圃場の畦際に到達すると、植付昇降レバー52を上昇位置に操作して植付部の作動を停止させると共に左右駆動車輪23,23を下降させて機体を上昇させ、旋回内側のサイドクラッチレバー56を操作して旋回内側の左右駆動車輪23,23のサイドクラッチを断ち、機体を旋回させる。
【0056】
そして、特に、旋回時に旋回内側の遊転輪となった駆動車輪23が適切に遊転せず圃場(畦際の枕地)を乱すような事態がおこることがある。そこで、例えば、左旋回の場合では、逆転操作レバー37を操作して旋回内側の左走行伝動ケース22内の切換クラッチ体35をその右側係合爪35bと右従動ベベルギヤ34の係合爪34bが係合する状態に切り換えて、旋回内側の左駆動車輪23を逆転させて、圃場を乱すのを防止することができる。
【0057】
なお、右旋回の場合では、逆転操作レバー37を操作して旋回内側の右駆動車輪23を逆転させて、圃場を乱すのを防止する。
【0058】
また、切換クラッチ体35を電動モータにて左右移動して切り換える構成とし、遊転輪となった駆動車輪23が適切に遊転しない状態を検出する車輪回転センサを設けて、該車輪回転センサが遊転輪となった駆動車輪23が適切に遊転しない状態を検出すると電動モータを作動させて切換クラッチ体35を切り換えて旋回内側の駆動車輪23を自動的に逆転作動させる制御機構を設けても良い。
【0059】
旋回後は、前記と同様に植付昇降レバー52を植付け位置に操作して次行程の植付作業を行い、圃場に苗の植付を行っていく。尚、路上走行時等は、機体を上昇させ、変速レバー53を適宜操作して走行させる。
【符号の説明】
【0060】
2 植付伝動ケース
4 苗載台
5 苗植付装置
6 整地フロート
7 伝動ケース
8 車輪
9 操作アーム
9a 把持部
10 クラッチレバー
10b 植付けクラッチ
11 ブレーキレバー
11b ブレーキ装置