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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189560
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20221215BHJP
   G01N 24/00 20060101ALI20221215BHJP
   G01N 24/08 20060101ALI20221215BHJP
   G01R 33/50 20060101ALI20221215BHJP
   G01R 33/54 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
A61B5/055 380
G01N24/00 530B
G01N24/08 510L
G01R33/50
G01R33/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098207
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】油井 正生
(72)【発明者】
【氏名】池崎 愛菜
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AB12
4C096AB44
4C096AD06
4C096AD07
4C096AD14
4C096BA05
4C096BA07
4C096BA10
4C096BA21
4C096BB02
4C096BB07
4C096DC22
4C096DC33
(57)【要約】
【課題】精度の高いT2値と、拡散や乱流的な動きに関する指標とを、短い撮像時間で取得できるようにする。
【解決手段】一実施形態の磁気共鳴イメージング装置は、励起パルスと、前記励起パルスに続く複数のリフォーカスとを有するFSE型のパルスシーケンスであって、隣接する前記リフォーカスパルスの夫々の間に第1の傾斜磁場パルスが配置される第1のパルスシーケンスと、隣接する前記リフォーカスパルスの夫々の間に、前記第1の傾斜磁場パルスとはパルス形状が異なる第2の傾斜磁場パルスが配置される第2のパルスシーケンスと、を設定する撮像条件設定部と、前記第1のパルスシーケンス及び前記第2のパルスシーケンスを被検体に印加し、第1の信号及び第2の信号を夫々取得する撮像部と、前記第1の信号及び前記第2の信号から、第1の画像及び第2の画像をそれぞれ生成する画像生成部と、前記第1の画像及び前記第2の画像から、前記被検体の体液の拡散を含む動きの影響が除去された前記体液のT2値を算出する、解析部と、を備える。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起パルスと、前記励起パルスに続く複数のリフォーカスパルスとを有するFSE(Fast Spin Echo)型のパルスシーケンスであって、隣接する前記リフォーカスパルスの夫々の間に第1の傾斜磁場パルスが配置される第1のパルスシーケンスと、隣接する前記リフォーカスパルスの夫々の間に、前記第1の傾斜磁場パルスとはパルス形状が異なる第2の傾斜磁場パルスが配置される第2のパルスシーケンスと、を設定する撮像条件設定部と、
前記第1のパルスシーケンス及び前記第2のパルスシーケンスを被検体に印加し、第1の信号及び第2の信号を夫々取得する撮像部と、
前記第1の信号及び前記第2の信号から、第1の画像及び第2の画像をそれぞれ生成する画像生成部と、
前記第1の画像及び前記第2の画像から、前記被検体の体液の拡散を含む動きの影響が除去された前記体液のT2値を算出する、解析部と、
を備える磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記画像生成部は、エコー時間の異なる複数の前記第1の画像と、エコー時間の異なる複数の前記第2の画像とを生成する、
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記解析部は、前記被検体の体液の拡散を含む動きに関する指標を算出し、算出した前記指標を用いて前記T2値を算出する、
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記第2の傾斜磁場パルスは、前記第1の傾斜磁場パルスの前縁側と後縁側にそれぞれ所定の形状の追加傾斜磁場パルスを付加して構成される、
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記第1のパルスシーケンス及び第2のパルスシーケンスの夫々では、前記複数のリフォーカスパルスは前記エコー時間の異なる複数のグループに分割され、前記リフォーカスパルスの夫々に対応付けられる位相エンコード量は、グループ内では位相エンコード量が所定の変化パターンで前記リフォーカスパルス毎に変化するように設定される、
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記位相エンコード量の前記変化パターンは各グループで同じ変化パターンが繰り返されるように設定される、
請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記位相エンコード量の前記変化パターンは各グループで異なる変化パターンに設定される、
請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
前記第1のパルスシーケンス及び第2のパルスシーケンスの夫々は、所定の繰り返し時間で所定の繰り返し数だけ繰り返されるように設定され、
繰り返される各第1のパルスシーケンスの間、及び、繰り返される各第2のパルスシーケンスの間における、同じエコー時間に対応する前記グループ内の前記位相エンコード量は、互いに重複せず、所望の画像を再構成するのに必要な位相エンコード方向のk空間を充填できるように設定される、
請求項5乃至7のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
前記解析部は、
前記第1の傾斜磁場パルス及び前記第2の傾斜磁場パルスのそれぞれの強度と形状から第1のb値及び第2のb値をそれぞれ算出し、
前記第1の信号及び前記第2の信号からそれぞれ生成された第1の画像及び第2の画像の画素値と、前記第1のb値及び前記第2のb値とから、前記被検体の体液の拡散を含む動きに関する指標が画素位置ごとに配置されたADCマップを算出する、
請求項2乃至8のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
前記解析部は、前記ADCマップの中の前記指標を用いて前記第1の画像の各画素値を補正し、前記体液の前記動きの影響が除去された前記体液のT2値が反映されるように前記第1の画像を補正する、
請求項9に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
前記解析部は、エコー時間の異なる複数の前記第1の画像のそれぞれに対して、前記ADCマップの中の前記指標を用いて前記第1の画像の各画素値を補正し、前記体液の前記動きの影響が除去された前記体液のT2値が反映されるように前記複数の前記第1の画像を補正する、
請求項10に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項12】
前記解析部は、補正後の前記エコー時間の異なる前記複数の前記第1の画像間の、同じ画素位置における画素値の変化から画素毎のT2値を算出して、T2マップを生成する、
請求項11に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項13】
前記解析部は、補正後の前記エコー時間の異なる前記複数の前記第1の画像間の、同じ画素位置における画素値の変化から画素毎のT2スペクトラム、を算出する、
請求項11に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項14】
前記第2の傾斜磁場パルスは、前記第1の傾斜磁場パルスと同じ方向に印加され、
前記撮像条件設定部は、その印加方向が前記第2の傾斜磁場パルスの印加方向に直交する第3の傾斜磁場パルスを有する第3のパルスシーケンスと、その印加方向が前記第2の傾斜磁場パルスの印加方向と前記第3の傾斜磁場パルスの印加方向の双方に直交する第4の傾斜磁場パルスを有する第4のパルスシーケンスとをさらに設定し、
前記画像生成部は、前記第2、第3、及び第4のパルスシーケンスの前記被検体への印加によって取得されるそれぞれの信号に基づいて、第2、第3、及び第4の拡散強調画像、第2、第3、及び第4の拡散係数画像、並びに、拡散テンソル画像、の少なくとも1つを生成する、
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項15】
前記第2のパルスシーケンスにおける前記追加傾斜磁場パルスは、前記励起パルスに続く複数のリフォーカスパルスのうち、前記励起パルスから所定のエコー時間が経過した後の前記リフォーカスパルスのそれぞれの間に設けられる、
請求項4に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項16】
前記画像生成部は、前記エコー時間の異なる複数の第1、第2の画像の一部を間引きして、対応する前記エコー時間の間隔を不等間隔とし、間引きによって削減された数の第1、第2の画像を用いて、前記T2値を算出する、
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項17】
前記被検体の体液は、脳脊髄液および脳間質液の少なくとも一方である、
請求項1乃至16のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項18】
前記FSE型のパルスシーケンスは、CPMG(Carr-Purcell-Meiboom-Gill)シーケンスである、
請求項1乃至17のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング装置は、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをラーモア周波数の高周波(RF:Radio Frequency)信号で励起し、励起に伴って被検体から発生する磁気共鳴信号(MR(Magnetic Resonance)信号)を再構成して画像を生成する撮像装置である。
【0003】
磁気共鳴イメージング装置は、脳脊髄液(CSF:cerebrospinal fluid)や脳間質液等を撮像することが可能である。近年、脳脊髄液や脳間質液はNeurofluidと呼ばれ、脳内老廃物のクリアランス機能(即ち、除去機能)の解明で重要であると考えられている。Neurofluidの撮像画像の代表例として、T2強調画像や拡散強調画像が挙げられる。
【0004】
T2強調画像において、CSF等のNeurofluidを良好に描出しようとすると、脳実質部を分離する必要があり、CPMG(Carr-Purcell-Meiboom-Gill)シーケンス、或いは、FSE(Fast Spin Echo)シーケンスと呼ばれるパルスシーケンスがしばしば用いられる。一方、拡散強調画像においては、ブラウン運動による拡散(diffusion)のみではなく、灌流(perfusion)や乱流的な動きを含めた画像化が試みられている。
【0005】
Neurofluidの着目領域は、脳内の血管周囲腔(即ち、脳内の血管の周囲にできた隙間)、狭い脳溝(即ち、脳のしわの溝の部分)、脳表面等であり、空間分解能の高いイメージング手法が必要とされる。
【0006】
上述したCPMG(或いはFSE)シーケンスを用いてT2強調画像やT2マッピングを高分解能で取得しようとすると、リードアウト傾斜磁場パルスの強度Gやパルス長Tを大きくする必要がある。
【0007】
しかしながら、リードアウト傾斜磁場パルスの強度Gやパルス長Tを大きくすると、リードアウト傾斜磁場パルスそのものによって、拡散や乱流的な動きによる影響が無視できなくなり、T2マッピングにおけるT2値の精度が低下することになる。
【0008】
脳内の老廃物のクリアランスに関連する評価では、拡散や乱流的な動きの影響のないNeurofluidのT2値が重要であると共に、Neurofluidの拡散や乱流的な動きに関する指標もまた重要である。
【0009】
上述したように、従来のイメージング手法では、Neurofluidの拡散や乱流的な動きの影響によってT2マッピングにおけるT2値の精度が低下していた。また、拡散や乱流的な動きに関する指標を得ようとすると、T2値を取得するための撮像とは別の撮像を行う必要があり、全体の撮像時間が長くなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2017-225501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の1つは、精度の高いT2値と、拡散や乱流的な動きに関する指標とを、短い撮像時間で取得できるようにすることである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限らない。後述する各実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置付けることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一実施形態の磁気共鳴イメージング装置は、励起パルスと、前記励起パルスに続く複数のリフォーカスとを有するFSE型のパルスシーケンスであって、隣接する前記リフォーカスパルスの夫々の間に第1の傾斜磁場パルスが配置される第1のパルスシーケンスと、隣接する前記リフォーカスパルスの夫々の間に、前記第1の傾斜磁場パルスとはパルス形状が異なる第2の傾斜磁場パルスが配置される第2のパルスシーケンスと、を設定する撮像条件設定部と、前記第1のパルスシーケンス及び前記第2のパルスシーケンスを被検体に印加し、第1の信号及び第2の信号を夫々取得する撮像部と、前記第1の信号及び前記第2の信号から、第1の画像及び第2の画像をそれぞれ生成する画像生成部と、前記第1の画像及び前記第2の画像から、前記被検体の体液の拡散を含む動きの影響が除去された前記体液のT2値を算出する、解析部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の全体構成例を示す構成図。
図2】実施形態の処理回路で実現する機能に焦点を当てた機能ブロック図。
図3】CSFの撮像における従来の課題を説明する図。
図4】第1、第2のパルスシーケンスの概略シーケンスダイヤグラムを例示する図。
図5】拡散や乱流的な動きの影響のない真のT2値を得るための処理概念の説明図。
図6】実施形態の磁気共鳴イメージング装置の処理例を示すフローチャート。
図7】第1、第2のパルスシーケンスの第1の詳細シーケンスダイヤグラムを例示する図。
図8】第1、第2のパルスシーケンスの第2の詳細シーケンスダイヤグラムを例示する図。
図9】複数のセグメントで収集したk空間データをk空間に配列する方法の概念を説明する図。
図10】エコー時間毎の第1、第2のk空間データセットを再構成して、エコー時間毎の第1、第2の画像を生成する処理の概念を示す図。
図11】第1、第2の画像の画素値と第1、第2のb値とからADCマップを算出する処理の概念を示す図。
図12】ADCマップを用いて、エコー時間毎に生成されている第1の画像の補正し、拡散・乱流の影響を取り除く処理の概念を示す図。
図13】補正後の第1の画像の画素値のエコー時間TEに対する変化から、拡散・乱流の影響が取り除かれた真のT2値を画素位置ごとに算出し、T2マップを生成する処理の概念を示す図。
図14】補正後の第1の画像の画素値のエコー時間TEに対する変化から、T2スペクトラムを算出する処理の概念を示す図。
図15】実施形態の第1の変形例に係る第1、第2のパルスシーケンスのシーケンスダイヤグラム。
図16】実施形態の第2の変形例の処理概念を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1を、添付図面に基づいて説明する。
【0015】
(構成及び基本動作の概要)
図1は、本実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1の全体構成を示すブロック図である。実施形態の磁気共鳴イメージング装置1は、磁石架台100、制御キャビネット300、コンソール400、寝台500等を備えて構成される。
【0016】
磁石架台100は、静磁場磁石10、傾斜磁場コイル11、WB(Whole Body)コイル12等を有しており、これらの構成品は円筒状の筐体に収納されている。寝台500は、寝台本体50と天板51を有している。また、磁気共鳴イメージング装置1は、被検体に近接して配設されるアレイコイル20を有している。
【0017】
制御キャビネット300は、傾斜磁場電源31(X軸用31x、Y軸用31y、Z軸用31z)、RF受信器32、RF送信器33、及びシーケンスコントローラ34を備えている。
【0018】
磁石架台100の静磁場磁石10は、概略円筒形状をなしており、被検体(例えば、患者)の撮像領域であるボア(即ち、静磁場磁石10の円筒内部の空間)内に静磁場を発生させる。静磁場磁石10は超電導コイルを内蔵し、液体ヘリウムによって超電導コイルが極低温に冷却されている。静磁場磁石10は、励磁モードにおいて静磁場用電源(図示せず)から供給される電流を超電導コイルに印加することで静磁場を発生し、その後、永久電流モードに移行すると、静磁場用電源は切り離される。一旦永久電流モードに移行すると、静磁場磁石10は長時間、例えば1年以上に亘って、大きな静磁場を発生し続ける。なお、静磁場磁石10を永久磁石として構成しても良い。
【0019】
傾斜磁場コイル11も概略円筒形状をなし、静磁場磁石10の内側に固定されている。この傾斜磁場コイル11は、傾斜磁場電源(31x、31y、31z)から供給される電流によりX軸,Y軸,Z軸の方向に傾斜磁場を被検体に印加する。
【0020】
寝台500の寝台本体50は天板51を上下方向に移動可能であり、撮像前に天板51に載った被検体を所定の高さまで移動させる。その後、撮影時には天板51を水平方向に移動させて被検体をボア内に移動させる。
【0021】
WBコイル12は、傾斜磁場コイル11の内側に被検体を取り囲むように概略円筒形状に固定されている。WBコイル12は、RF送信器33から伝送されるRFパルスを被検体に向けて送信する一方、水素原子核の励起によって被検体から放出される磁気共鳴信号を受信する。
【0022】
アレイコイル20はRFコイルであり、被検体から放出される磁気共鳴信号を被検体に近い位置で受信する。アレイコイル20は、例えば、複数の要素コイルから構成される。アレイコイル20は、被検体の撮像部位に応じて、頭部用、胸部用、脊椎用、下肢用、或いは全身用など種々のタイプがあるが、図1では胸部用のアレイコイル20を例示している。
【0023】
RF送信器33は、シーケンスコントローラ34からの指示に基づいて、WBコイル12にRFパルスを送信する。一方、RF受信器32は、WBコイル12やアレイコイル20によって受信された磁気共鳴信号を検出し、検出した磁気共鳴信号をデジタル化して得られる生データをシーケンスコントローラ34に送る。
【0024】
シーケンスコントローラ34は、コンソール400による制御のもと、傾斜磁場電源31、RF送信器33およびRF受信器32をそれぞれ駆動することによって被検体のスキャンを行う。そして、シーケンスコントローラ34は、スキャンを行ってRF受信器32から生データを受信すると、その生データをコンソール400に送る。
【0025】
シーケンスコントローラ34は、処理回路(図示を省略)を具備している。この処理回路は、例えば所定のプログラムを実行するプロセッサや、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアで構成される。
コンソール400は、処理回路40、記憶回路41、ディスプレイ42、及び入力デバイス43を有するコンピュータとして構成されている。
【0026】
記憶回路41は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)の他、HDD(Hard Disk Drive)や光ディスク装置等の外部記憶装置を含む記憶媒体である。記憶回路41は、各種の情報やデータを記憶する他、処理回路40が具備するプロセッサが実行する各種のプログラムを記憶する。
【0027】
入力デバイス43は、例えば、マウス、キーボード、トラックボール、タッチパネル等であり、各種の情報やデータを操作者が入力するための種々のデバイスを含む。ディスプレイ42は、液晶ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル、有機ELパネル等の表示デバイスである。
【0028】
処理回路40は、例えば、CPUや、専用又は汎用のプロセッサを備える回路である。プロセッサは、記憶回路41に記憶した各種のプログラムを実行することによって、後述する各種の機能を実現する。処理回路40は、FPGA(field programmable gate array)やASIC(application specific integrated circuit)等のハードウェアで構成してもよい。これらのハードウェアによっても後述する各種の機能を実現することができる。また、処理回路40は、プロセッサとプログラムによるソフトウェア処理と、ハードウェア処理とを組み合わせて、各種の機能を実現することもできる。
【0029】
これらの各構成品によって、コンソール400は、磁気共鳴イメージング装置1全体を制御する。具体的には、検査技師等の操作者による、マウスやキーボード等(入力デバイス43)の操作によって撮像条件その他の各種情報や指示を受け付ける。そして、処理回路40は、入力された撮像条件に基づいてシーケンスコントローラ34にスキャンを実行させる一方、シーケンスコントローラ34から送信された生データに基づいて画像を再構成する。再構成された画像はディスプレイ42に表示され、或いは記憶回路41に保存される。
【0030】
(実施形態の細部構成と動作)
図2は、実施形態の磁気共鳴イメージング装置1のブロック図であり、特に、処理回路40で実現する機能に焦点を当てた機能ブロック図である。
【0031】
なお、図2では、図1に示す磁気共鳴イメージング装置1の構成のうち、コンソール400以外の構成品、即ち、磁石架台100、制御キャビネット300、及び寝台500の総称を撮像部600として記載している。
【0032】
図2に示すように、磁気共鳴イメージング装置1の処理回路40は、撮像条件設定機能F01、画像生成機能F02、ADCマップ生成機能F03、拡散・動き補正機能F04、T2マップ生成機能F05、及び、T2スペクトラム生成機能F06の各機能を実現する。
【0033】
撮像条件設定機能F01は、入力デバイス43等を介して設定或いは選択された撮像条件に基づいてパルスシーケンスのパラメータを決定し、決定したパラメータを有するパルスシーケンスを撮像部600のシーケンスコントローラ34に対して設定する。
【0034】
実施形態の磁気共鳴イメージング装置1は、特に、励起パルスと、この励起パルスに続く複数のリフォーカスとを有するFSE(Fast Spin Echo)型のパルスシーケンスであって、隣接するリフォーカスパルスの夫々の間に第1の傾斜磁場パルスが配置される第1のパルスシーケンスと、隣接する前記リフォーカスパルスの夫々の間に、前記第1の傾斜磁場パルスとはパルス形状が異なる第2の傾斜磁場パルスが配置される第2のパルスシーケンスとを設定することができる。第1、第2のパルスシーケンスについては、より詳しく後述する。
【0035】
撮像部600は、設定された第1のパルスシーケンス及び第2のパルスシーケンスを被検体に印加し、第1のMR信号及び第2のMR信号を夫々取得し、シーケンスコントローラ34を介して、コンソール400の処理回路40に送出する。
【0036】
処理回路40の画像生成機能F02は、第1のMR信号及び第2のMR信号から、第1の画像及び第2の画像をそれぞれ生成する。例えば、第1のMR信号及び第2のMR信号をそれぞれフーリエ変換等の処理によって再構成して、第1の画像及び第2の画像を生成する。
【0037】
解析機能F07は、第1の画像及び第2の画像から、被検体の体液の拡散を含む動きの影響が除去された体液のT2値を算出する。ここで、被検体の体液とは、例えば、CSF(脳脊髄液)や脳間質液などのNeurofluidである。また、被検体の体液とは、血液やリンパ液を含めてもよいし、その他の被検体の内部にある液体を含めても良い。
【0038】
解析機能F07は、その内部構成として、ADCマップ生成機能F03、拡散・動き補正機能F04、T2マップ生成機能F05、及びT2スペクトラム生成機能F06を有している。
【0039】
ADCマップ生成機能F03、拡散・動き補正機能F04、T2マップ生成機能F05、及びT2スペクトラム生成機能F06の具体的な説明の前に、CSF等のNeurofluidの撮像における従来の課題と、本実施形態による解決手段の要点を図3乃至図5を用いて説明しておく。なお、以下では、説明を簡潔にするため、撮像の対象がCSFであるものとして説明するが、脳間質液等のNeurofluidやその他の体液を排除するものではない。
【0040】
図3は、CSFの撮像における従来の課題を説明する図である。CSF等の体液は、脳実質部に比べると横緩和時間T2が長いため、CSFの撮像画像としてはT2強調画像が多く用いられている。特に、CSFを良好に描出しようとすると、脳実質部を十分に分離する必要があり、CPMG(Carr-Purcell-Meiboom-Gill)シーケンス、或いは、FSE(Fast Spin Echo)シーケンスと呼ばれるパルスシーケンスが従来からしばしば用いられている。
CPMGシーケンスは、所謂CPMG条件を満たすFSEパルスシーケンスのことである。ここで、CPMG条件とは、
条件(1)隣接する2つのリフォーカスパルス間の間隔ESPが、励起パルスと1番目のリフォーカスパルスとの間隔の2倍であり、励起パルスとリフォーカスパルスのRF信号の位相が90度シフトしており、且つ、
条件(2)全ての隣接する2つのリフォーカスパルス間において、隣接する2つのリフォーカスパルス間における総ての傾斜磁場の積分値が同じである、
という条件である。CPMG条件が満たされると、スピンエコーSEと、誘発エコー(stimulated echo)STEとが、時間方向の同じ位置において同位相で加算され、SN比が向上する。
【0041】
図3(a)乃至図3(c)は、従来から用いられているCPMGシーケンスである。図3(a)はRFパルス列、図3(b)は位相エンコード傾斜磁場パルス列、図3(c)はリードアウト傾斜磁場パルス列を示している。なお、各RFパルスの発生タイミングに対応してスライス選択傾斜磁場パルスも生成されるが、図3では図示を省略している。
【0042】
リードアウト傾斜磁場パルス、位相エンコード傾斜磁場パルス、スライス選択傾斜磁場パルスのそれぞれの印加方向は、例えば、図1におけるX方向、Y方向、Z方向であるが、これに限定されず、設定されたFOV(Field Of View)の傾き応じた、所望の印加方向を取り得る。
【0043】
図3(a)に示すように、RFパルス列は、励起パルス(例えばフリップ角が90°のRFパルス)と、励起パルスに続く複数のリフォーカスパルス(例えばフリップ角が180°のRFパルス)とで構成されている。励起パルスと複数のリフォーカスパルスは、前述したCPMG条件(1)を満たしている。
【0044】
図3(b)に示す位相エンコード傾斜磁場パルスGでは、隣接する2つのリフォーカスパルスの間において、位相エンコード量を決定する位相エンコードパルスと、これと同一振幅で逆極性のリワインダパルスのペアを有している。このペアにより、リフォーカスパルス毎に異なる位相エンコード量を設定しつつ、前述したCPMG条件(2)を満たすことができる。
【0045】
図3(c)に示すリードアウト傾斜磁場パルスGr1のうち、励起パルスと1番目のリフォーカスパルスとの間にある傾斜磁場パルスは、1番目と2番目のリフォーカスパルスの間にあるリードアウト傾斜磁場パルスの中央において横磁化の位相がゼロとなるように、事前に横磁化の位相をマイナス方向に回転させておくための傾斜磁場パルスであり、プリフェージングパルスと呼ばれている。通常、プリフェージングパルスの強度はリードアウト傾斜磁場パルスと同一に設定され、プリフェージングパルスのパルス長はリードアウト傾斜磁場パルスの半分に設定される。
【0046】
前述したように、CSFに対するT2強調画像やT2マッピングを高分解能で取得しようとすると、リードアウト傾斜磁場パルスの強度やパルス長を大きくする必要がある。これに対応してプリフェージングパルスの強度やパルス長も大きくなる。
【0047】
プリフェージングパルスとリードアウト傾斜磁場パルスの強度やパルス長が大きくなると、CSFの拡散や乱流的な動きに起因するMR信号の位相分散による信号減衰が無視できなくなってくる。
【0048】
つまり、図3(c)にハッチングで示した、プリフェージングパルスと、1番目のリードアウト傾斜磁場パルスの半分のパルスとのペアが、拡散強調撮像におけるMPG(Motion Probing Gradient)パルスと同等の働きをして、MPGパルスと同等な効果を示すようになる。以下、このような効果、即ち、強度やパルス長の大きいリードアウト傾斜磁場パルスの印加により、CSFの拡散や乱流的な動きに起因する位相分散が発生し、信号強度が減衰する効果を、リードアウト傾斜磁場パルスのMPG効果と呼ぶものとする。
【0049】
図3(d)は、リードアウト傾斜磁場パルスの印加に伴って被検体から発せられるMR信号を示している。MR信号は、隣接する2つのリフォーカスパルス間にあるそれぞれのリードアウト傾斜磁場パルスの中央の位置においてピークを示す。
【0050】
各ピーク値は、T2緩和により、励起パルスからの経過時間と共に、図3(d)に破線で示した曲線のように減衰していく。通常は、この減衰曲線の形状から横緩和時間T2を算出する。
【0051】
しかしながら、上述したように、リードアウト傾斜磁場パルスの強度やパルス長が大きくなると、MPG効果による減衰がT2緩和による減衰に重畳される。このため、得られた減衰曲線の形状から横緩和時間T2を算出しても、真のT2値とならず、誤差をもったT2値しか得られないことになる。なお、図3では、スライス選択ないしスライスエンコーディング傾斜磁場パルスを省略して示した。また、リフォーカスパルスの前後にFID信号抑制用傾斜磁場パルス(いわゆるスポイラーないしクラッシャー傾斜磁場パルス)を挿入することもあり、同様にMPG効果を有しうる。この場合も、図3のようにリードアウト傾斜磁場パルスによるMPG効果とそれに対する補正方法を同様に適用することができる。
【0052】
このような課題を解決するため、実施形態の磁気共鳴イメージング装置1では、図3に示した従来のパルスシーケンス(第1のパルスシーケンス)に加えて、第2のパルスシーケンスを用いるものとしている。
【0053】
図4は、実施形態で用いる第1のパルスシーケンスと第2のパルスシーケンスを例示する図である。図4(a)から図4(d)は、図3に示した従来のパルスシーケンス(第1のパルスシーケンス)と同じものである。図4(c)にハッチングで示したプリフェージングパルスとリードアウト傾斜磁場パルスの前半部分とで構成されるペアが、上述したMPG効果を生むMPGパルスを構成している。
【0054】
第2のパルスシーケンスは、RFパルス(図4(a))、スライス選択傾斜磁場パルス(図示を省略)、及び、位相エンコード傾斜磁場パルス(図4(b))は第1のパルスシーケンスと同じであり、リードアウト傾斜磁場パルスだけが第1のパルスシーケンスと異なる。
【0055】
図4(e)は、第2のパルスシーケンスにおけるリードアウト傾斜磁場パルスGr2の一例を示す図である。第2のパルスシーケンスにおけるリードアウト傾斜磁場パルスGr2は、第1のパルスシーケンスにおけるリードアウト傾斜磁場パルスGr1の前縁側と後縁側にそれぞれ所定の形状の追加傾斜磁場パルスが付加された形状となっている。また、第2のパルスシーケンスにおけるプリフェージングパルスは、第1のパルスシーケンスのプリフェージングパルスの後縁側に、上記と同じ追加傾斜磁場パルスが付加された形状となっている。図4(e)にハッチングで示したプリフェージングパルスと、リードアウト傾斜磁場パルスの前半部分とで構成されるペアによって、第2のパルスシーケンスにおけるMPG効果を生むMPGパルスが構成される。
【0056】
図4(f)は、第2のパルスシーケンスのリードアウト傾斜磁場パルスの印加に伴って被検体から発せられるMR信号を示している。第1のパルスシーケンスと同様に、MR信号の各ピーク値は、T2緩和により、励起パルスからの経過時間と共に減衰していく。
【0057】
図4(c)と図4(e)から明らかなように、第2のパルスシーケンスにおけるMPGパルスの時間積分値の方が、第1のパルスシーケンスにおけるMPGパルスの時間積分値よりも大きい。このため、MPG効果に関しては第2のパルスシーケンスの方が第1のパルスシーケンスよりも大きくなり、励起パルスからの経過時間によるMR信号ピーク値の減衰の程度は、第2のパルスシーケンスの方が大きくなる。
【0058】
図5は、第1のパルスシーケンスで得られるMR信号s1(t)と、第2のパルスシーケンスで得られるMR信号s(t)とを用いて、拡散や乱流的な動きの影響のない、真のT2値を得るための処理の概念を説明する図である。
【0059】
図5の上段のグラフ中の実線は、第1のパルスシーケンスによるMR信号s1(t)と、第2のパルスシーケンスによるMR信号s(t)の、励起パルス印加後の経過時間に伴う減衰曲線を模式的に示す図である。それぞれのカーブは、リフォーカスパルス間に発生するMR信号の各ピークの包絡線となっている。
【0060】
第1のパルスシーケンスによるMR信号s1(t)は、前述したように、T2緩和による減衰と、MPGパルスに起因する拡散や乱流的な動きによる減衰を受ける。MR信号s1(t)は、例えば、以下の(式1)で表すことができる。
s1(t)=s0*exp(-t/T2)*exp(-b1*ADC) (式1)
(式1)において、tは励起パルスからの経過時間、T2は撮像対象の横緩和時間T2値、ADCは、撮像対象の拡散や乱流的な動きの指標である、見かけ上の拡散係数(apparent diffusion coefficient)を表している。なお、以下では、ADCを単に拡散係数と呼ぶものとする。bは、MPGパルスによるMPG効果を示す指標であり、MPGパルスの時間波形から算出できる既知の値である。
【0061】
同様に、第2のパルスシーケンスによるMR信号s(t)も、例えば、以下の(式2)で表すことができる。
s(t)=s0*exp(-t/T2)*exp(-b*ADC) (式2)
(式1)と(式2)の差異はbだけである。bも、MPGパルスによるMPG効果を示す指標であり、MPGパルスの時間波形から算出できる既知の値である。
【0062】
とbとが既知の値であるので、(式1)と(式2)とから、拡散係数ADCを算出することができる。そして、算出されたADCと、既知のb値であるbを(式1)に代入することにより、以下の(式3)を得ることができる。
s(t)=s0*exp(-t/T2) (式3)
(式3)は、補正後のMR信号s(t)を表している。(式3)では、(式1)における拡散係数ADCの減衰項であるexp(-b1*ADC)が除去されており、撮像対象の拡散や乱流的な動きによる影響のない、T2減衰による減衰項であるexp(-t/T2)のみとなっている。したがって、(式3)で表される減衰曲線から、拡散や乱流的な動きによる影響のない、真のT2値を算出することができる。
【0063】
なお、図4に示した第1、第2のパルスシーケンス、及び、図5に示した本実施形態の処理の概念は、撮像対象の全体が同じT2値、同じ拡散係数ADCで一様に分布していることを暗に想定している。しかしながら、実際には、T2値や拡散係数ADCは、撮像対象の位置ごとに異なる値を示すはずである。したがって、拡散係数ADCは、再構成された画像の画素位置ごとに算出する必要があり、拡散や乱流的な動きによる影響が取り除かれた真のT2値も画素位置ごとに算出する必要がある。言い換えると、拡散係数ADCが画素位置ごとに配列されたADCマップと、真のT2値が画素位置ごとに配列された真のT2マップを算出する必要がある。
以下、実施形態に係る、ADCマップと真のT2マップの算出処理について、図6に示すフローチャートと、図7乃至図13の説明図を用いて説明する。
【0064】
まず、図6のステップST100で、第1、第2のパルスシーケンスを設定する。ステップST100の処理は、図3の撮像条件設定機能F01が行う。図7乃至図9は、ステップST100で設定される第1、第2のパルスシーケンスの一例を示す図である。
【0065】
図7(a)及び図7(b)は、第1、第2のパルスシーケンスに共通するRFパルスと、位相エンコード傾斜磁場パルスGをそれぞれ例示する図である。一方、図7(c)は第1のパルスシーケンスのリードアウト傾斜磁場パルスGr1であり、図7(d)は第2のパルスシーケンスのリードアウト傾斜磁場パルスGr2である。
【0066】
図8(a)及び図8(b)は、第1、第2のパルスシーケンスを、図7よりも長い時間スパンで見た図である。図8(b)は、横方向に延びる実線が位相エンコード量ゼロに対応し、黒四角の実線からの距離によって、位相エンコード量の値を模式的に示している。
【0067】
図7(b)、図8(a)、図8(b)に示すように、第1、第2のパルスシーケンスでは、複数のリフォーカスパルスはエコー時間TEの異なる複数のグループに分割され、リフォーカスパルスの夫々に対応付けられる位相エンコード量は、グループ内では位相エンコード量が所定の変化パターンでリフォーカスパルス毎に変化するように設定される。
【0068】
例えば、図8(a)、(b)に示すように、複数のリフォーカスパルスは、グループ1からグループNのN個のグループに分割され、それぞれのグループにはM個のリフォーカスパルス(図8の例では5つのリフォーカスパルス)が設けられている。そして、リフォーカスパルスの夫々に対応付けられる位相エンコード量は、各グループ内では位相エンコード量が、例えば、「+2a、+a、0、-a、-2a」(aは所定の単位位相エンコード量)といった所定の変化パターンでリフォーカスパルス毎に変化するように設定されている。
【0069】
励起パルスから各グループの中央までの経過時間は、各グループを代表するエコー時間TEと考えられる。つまり、グループ1、グループ2、グループ3、・・・、グループN内では、エコー時間TE1、TE2、TE3,・・・、TE(N)に対応するMR信号が得られると考えられる。
【0070】
また、図8(a)に示すように、第1、第2のパルスシーケンスでは、1つの励起パルスとこれに続く複数のリフォーカスパルスで構成される1つの群(以下、この群をセグメントと呼ぶものとする)が、繰り返し時間TRで、所定の繰り返し数だけ(例えば、L回)繰り返すように設定されている。
【0071】
そして、各グループ内での位相エンコード量の変化パターンは、異なるセグメント間では、異なる変化パターンとなるように位相エンコート量が設定される。例えば、図8(b)に示すように、第1セグメントの位相エンコード量の変化パターンが「+2a、+a、0、-a、-2a」のとき、第2セグメントの位相エンコード量の変化パターンは、例えば、第1セグメントの位相エンコード量をプラス方向に一律αだけシフトさせた変化パターン「+2a+α、+a+α、+α、-a+α、-2a+α」に設定される。
【0072】
このように、同じエコー時間TEに対応するグループ内の位相エンコード量の変化パターンをセグメント間で異ならせることにより、エコー時間毎の画像を再構成するのに必要な位相エンコード方向のk空間を、互いに重複することなく充填することができる。
【0073】
図9は、複数のセグメントで収集したMR信号(即ち、k空間データ)を、k空間に配列する方法の概念を説明する図である。図9(c)に示すように、同じエコー時間TEに対応するグループ(即ち、同じ番号のグループ)のk空間データが、各セグメントから集められ、TE1、TE2、TE3、・・・、TE(n)等の異なるエコー時間TEごとに設けられるk空間に充填されていく。
【0074】
このようにして、異なるエコー時間の複数のグループで構成されるセグメントを複数回繰り返してk空間データを収集することにより、異なるエコー時間に対応する複数のk空間を、所望の画像を再構成するのに十分なだけのk空間データでフルに充填することができる。
【0075】
なお、図7乃至図9に示した例では、同一セグメント内のグループ間における位相エンコード量の変化パターンは同じパターンとなるものとしているが、これに限定されない。同一セグメント内のグループ間における位相エンコード量の変化パターンは異なるパターンであってもよい。要は、複数のセグメントでk空間データを収集するとき、異なるエコー時間に対応する複数のk空間を、所望の画像を再構成するのに十分なだけのk空間データで、最終的に重複なくフルに充填することができればよい。
図6に戻り、ステップST100において、上述した第1、第2のパルスシーケンスが設定されることになる。
【0076】
次のステップST101では、第1、第2のパルスシーケンスのリードアウト傾斜磁場パルスのうちのMPGパルスの形状(MPG、MPG)から、公知の手法により第1、第2のb値(b、b)をそれぞれ算出する(図11(a)参照)。ステップST101の処理は、例えば、ADCマップ生成機能F03が行う。
【0077】
ステップST102では、ステップST100で設定された第1、第2のパルスシーケンスを被検体に印加して、第1、第2のMR信号を収集する。ステップST102の処理は、撮像部600が行う。
【0078】
ステップST103では、図7乃至図9に関連して説明したように、第1、第2のMR信号を同じエコー時間TEのグループで集約するようにしてk空間に配列し、エコー時間TE毎の第1、第2のk空間データセットを生成する。図10(a)及び図10(c)は、TE1からTE(N)までのエコー時間毎に生成された第1、第2のk空間データセットを例示する図である。
【0079】
次のステップST104では、エコー時間毎の第1、第2のk空間データセットを再構成して、エコー時間毎の第1、第2の画像を生成する。図10(a)乃至図10(d)は、エコー時間毎の第1、第2のk空間データセットを再構成して、エコー時間毎の第1、第2の画像を生成する処理の概念を示す図である。ステップST103とステップST104の処理は、例えば、図2の画像生成機能F02が行う。
【0080】
次に、ステップST105では、第1、第2の画像の画素値S1(x, y)、S2(x, y)と第1、第2のb値(b、b)とから、画素位置ごとの拡散係数ADC(ADCマップ)を算出する。ステップST105の処理は、図2のADCマップ生成機能F03が行う。
【0081】
図11は、ステップST105の処理概念を説明する図である。図11(b)に示すように、第1の画像の画素値S1(x, y)は、画素位置(x, y)における被検体の組織のT2値とエコー時間TE(n)に応じたT2減衰(exp(-TE(n)/T2)を受けるとともに、画素位置(x, y)における拡散係数ADCと第1のパルスシーケンスのb値に応じた拡散や乱流的な動きによる減衰(exp(-b1*ADC(x, y))をリードアウト毎に受ける。TE(n+1)とTE(n)の間にM回のリードアウトを行う場合、MPG効果として実効的に(M*b)値に相当する減衰を受ける(例えば、図7の場合はM=5である)。以下では、説明の都合上、隣り合うエコー時間の間で積算された実効的なb値を用いることにする。したがって、第1の画像の画素値S1(x, y)は次の(式4)で表すことができる。
S1(x, y)=S0(x, y)*exp(-TE(n)/T2)*exp(-b1*ADC(x, y)) (式4)
【0082】
同様に、図11(c)に示すように、第2の画像の画素値S(x, y)は、画素位置(x, y)における被検体の組織のT2値とエコー時間TE(n)に応じたT2減衰(exp(-TE(n)/T2)を受けるとともに、画素位置(x, y)における拡散係数ADCと第2のパルスシーケンスのb値に応じた拡散や乱流的な動きによる減衰(exp(-b*ADC(x, y))を受ける。したがって、第2の画像の画素値S(x, y)は次の(式5)で表すことができる。
S2(x, y)=S0(x, y)*exp(-TE(n)/T2)*exp(-b2*ADC(x, y)) (式5)
【0083】
(式4)と(式5)の比(S1(x, y)/S2(x, y))を求めることにより、拡散や乱流的な動きによる減衰の項のみが残り、b値(b、b)は既知であることから、画素位置毎の拡散係数ADC(x, y)を算出することができる。そして、拡散係数ADC(x, y)を対応する画素位置に配列することにより、図11(d)に示すようなADCマップを生成することができる。
【0084】
次に、ステップST106において、画素位置ごとの拡散係数ADC(即ち、ADCマップ)を用いて、エコー時間毎に生成されている第1の画像の補正し、拡散・乱流の影響を取り除く。ステップST106の処理は、図2の拡散・動き補正機能F04が行う。
【0085】
図12は、ステップST106の処理概念を説明する図である。図12(a)は、拡散や乱流的な動きの影響を受けている補正前の、エコー時間TE(n)(n=1~N)毎の第1の画像を示している。補正前の第1の画像は、(式4)に示されるように、第1のパルスシーケンスのb値に応じた拡散や乱流的な動きによる減衰(exp(-b1*ADC(x, y))を受けている。
【0086】
そこで、この減衰を、ステップST105で算出したADCマップ(図12(b))を用いて画素位置毎に補正する。その結果、図12(c)に示すように、拡散や乱流的な動きの影響を受けていない補正後の第1の画像が、エコー時間TE(n)(n=1~N)毎に算出される。補正後の第1の画像の画素値SC(x, y)は、以下の(式6)で表される。
SC(x, y)=S0(x, y)*exp(-TE(n)/T2) (式6)
【0087】
次に、ステップST107において、補正された第1の画像の画素値のエコー時間TEに対する変化から、拡散・乱流の影響が取り除かれた真のT2値を画素位置ごとに算出し、T2マップを生成する。ステップST107の処理は、図2のT2マップ生成機能F05が行う。
【0088】
図13は、ステップST107の処理概念を説明する図である。図13(b)に点線で示す曲線は、補正後の第1の画像の画素値SC(x, y)を、エコー時間TEに対してプロットした模式的なグラフである。また、図13(b)に実線で示す曲線は、補正前の第1の画像の画素値S(x, y)を、エコー時間TEに対してプロットした模式的なグラフである。
【0089】
補正後の第1の画像の画素値SC(x, y)の変化が指数関数で変化するものと仮定すると、最低2つのエコー時間TEに対する画素値SC(x, y)があればT2値を算出することができるが、エコー時間TEのサンプルポイントを増やすことにより、カーブフィッティング等の手法を用いて、T2値の算出精度を高めることができる。
【0090】
また、同じ画素位置に(即ち、同じボクセル内に)異なるT2値を示す多成分の物質が含まれる場合もあり得る。このような場合にも、2よりも多い複数のエコー時間TEに対応する画素値SC(x, y)の変化曲線から、各成分のT2値を推定することもできる。
【0091】
そして、画素位置毎に算出したT2値(拡散や乱流的な動きの影響を受けていない、真のT2値)を対応する画素位置に配列することにより、図13(c)に示すような、真のT2マップを生成することができる。
【0092】
なお補正後の第1の画像の画素値SC(x, y)のエコー時間TEに対する変化曲線(図14(a))から、図14(b)に例示したT2スペクトラムを算出することもできる。T2スペクトラムは、横軸をT2値、縦軸を強度としてプロットしたものである。拡散や乱流的な動きの影響を受けていると、T2値のピークは真のT2値よりも大きな位置に現れるが、補正後の画素値の変化から算出した真のT2値では、本来のT2値の位置にピークが発生する。T2スペクトラムの算出処理は、図2のT2スペクトラム生成機能F06が行う。
【0093】
(第1の変形例)
図15は、実施形態の第1の変形例に係る第1、第2のパルスシーケンスのシーケンスダイヤグラムである。第1の変形例では、第1のパルスシーケンス(図15(a)及び図15(b))は、上述した実施形態と同じであるが、図15(c)に示すように第2のパルスシーケンスのうちのリードアウト傾斜磁場パルスが若干異なっている。
【0094】
具体的には、第2のパルスシーケンスのリードアウト傾斜磁場パルスでは、励起パルスの印加から所定のエコー時間TEaの間は、第1のパルスシーケンスのリードアウト傾斜磁場パルスと同じ、即ち、追加傾斜磁場パルスを付加しないものとし、所定のエコー時間TEaが経過した後に、追加傾斜磁場パルスを付加するものとしている。
【0095】
実施形態の磁気共鳴イメージング装置1の主な撮像対象は、比較的T2時間の長いCSF等の体液である。したがって、所定のエコー時間TEaよりも長いエコー時間TEの信号を処理の対象とすれば十分である場合も多い。励起パルスの印加から所定のエコー時間TEaまでの期間に追加傾斜磁場パルスを付加しないことにより、装置への負担が軽減される。また、第1、第2の画像の再構成処理、第1の画像に対する補正処理、及び、補正後の第1の画像を用いたT2値算出処理等を、追加傾斜磁場パルスを付加して収集したデータに限定することにより、これらの処理時間を短縮することができる。
【0096】
(第2の変形例)
図16は、実施形態の第2の変形例の処理概念を説明する図である。第2の変形例は、図16(b)に示すように、取得するエコー時間TEの間隔を、図14(a)のように等間隔ではなく、第1、第2の画像の一部を間引きして不等間隔にする。前述したように、T2値は補正後の第1の画像の画素値の、エコー時間TEに対する曲線から算出する。通常、この曲線は、エコー時間TEが短い領域では変化が大きく、エコー時間TEが長くなるにつれて変化しなくなる。したがって、エコー時間TEが短い領域では、図14(a)のように等間隔でデータを取得し、エコー時間TEが長い領域では、エコー時間TEが短い領域よりも隣接するエコー時間の間隔を広くする。そして、このようにして取得したデータから第1の画像を生成することで、T2値の算出精度を劣化させることなく、生成する画像の総数を低減することができ、T2値の算出や解析に要する処理時間を短縮することができる。
【0097】
(第3の変形例)
上述した実施形態における第2のパルスシーケンスのリードアウト傾斜磁場パルスの印加方向は、第1のパルスシーケンスのリードアウト傾斜磁場パルスの印加方向と同一に設定される。
【0098】
第3の変形例では、撮像条件設定機能F01は、リードアウト傾斜磁場パルスの印加方向が、第2のパルスシーケンスのリードアウト傾斜磁場パルスの印加方向に直交する第3のパルスシーケンスを設定する。さらに、リードアウト傾斜磁場パルスの印加方向が、第2のパルスシーケンスのリードアウト傾斜磁場パルスの印加方向と、第3のパルスシーケンスのリードアウト傾斜磁場パルスの印加方向の双方に直交する第4のパルスシーケンスを設定する。
【0099】
なお、第3、第4のパルスシーケンスにおけるリードアウト傾斜磁場パルスは、第2のパルスシーケンスにおけるリードアウト傾斜磁場パルスと同様に、第1のパルスシーケンスにおけるリードアウト傾斜磁場パルスの前縁側と後縁側に追加傾斜磁場パルスを付加したものであり、所定の大きさのMPG効果を有している。
【0100】
また、第3の変形例に係る画像生成機能F02は、上記の第2、第3、及び第4のパルスシーケンスの被検体への印加によって取得されるそれぞれの信号に基づいて、第2、第3、及び第4の拡散強調画像、第2、第3、及び第4の拡散係数画像、並びに、拡散テンソル画像、の少なくとも1つを生成する。
【0101】
以上、実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1といくつかの変形例を説明してきたが、実施形態またはその変形例の説明における撮像条件設定機能、画像生成機能、及び解析機能は、特許請求の範囲の記載における撮像条件設定部、画像生成部、及び解析部の一例である。
以上説明してきたように、実施形態の磁気共鳴イメージング装置は、精度の高いT2値と、拡散や乱流的な動きに関する指標とを、短い撮像時間で取得できる。
【0102】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0103】
1 磁気共鳴イメージング装置
40 処理回路
41 記憶回路
42 ディスプレイ
43 入力デバイス
400 コンソール
600 撮像部
F01 撮像条件設定機能
F02 画像生成機能
F03 ADCマップ生成機能
F04 拡散・動き補正機能
F05 T2マップ生成機能
F06 T2スペクトラム生成機能
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16