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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189596
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】被覆部材
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/44 20060101AFI20221215BHJP
   F28F 19/02 20060101ALI20221215BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20221215BHJP
   B22F 1/16 20220101ALI20221215BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20221215BHJP
   B22F 10/00 20210101ALN20221215BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALN20221215BHJP
【FI】
C23C16/44 A
F28F19/02 501D
B22F1/00 L
B22F1/02 D
C23C16/40
B22F10/00
B33Y70/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098257
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】592207463
【氏名又は名称】株式会社愛新鉄工所
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100200001
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 明彦
(74)【代理人】
【識別番号】100203910
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 健弘
(72)【発明者】
【氏名】片座 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】水野 潤
(72)【発明者】
【氏名】河合 アラリック 洋平
【テーマコード(参考)】
4K018
4K030
【Fターム(参考)】
4K018BA02
4K018BB04
4K018BC28
4K018KA23
4K030BA10
4K030BA42
4K030CA02
4K030JA01
4K030LA01
(57)【要約】
【課題】複雑な形状の金属基材の表面を均一に被覆し、金属基材の腐食を防ぐ被覆部材を提供する。
【解決手段】被覆部材であり、金属基材と、前記金属基材の表面を覆う防錆膜を有し、前記防錆膜は、原子層堆積法(ALD法)による、酸化ハフニウムからなるALD蒸着膜であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材と、
前記金属基材の表面を覆う防錆膜を有し、
前記防錆膜は、原子層堆積法(ALD法)による、酸化ハフニウムからなるALD蒸着膜であることを特徴とする被覆部材。
【請求項2】
前記防錆膜の膜厚は1~50nmであることを特徴とする請求項1に記載の被覆部材。
【請求項3】
前記金属部材は銅であることを特徴とする請求項1又は2に記載の被覆部材。
【請求項4】
前記金属基材の表面と前記防錆膜の間に第2防錆膜を有し、
前記第2防錆膜は、原子層堆積法(ALD法)による、酸化アルミニウムからなるALD蒸着膜であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の被覆部材。
【請求項5】
熱交換器であって、
前記熱交換器の表面を覆う防錆膜を有し、
前記防錆膜は、原子層堆積法(ALD法)による、酸化ハフニウムからなるALD蒸着膜であることを特徴とする熱交換器。
【請求項6】
金属粉末であって、
前記金属粉末の表面を覆う防錆膜を有し、
前記防錆膜は、原子層堆積法(ALD法)による、酸化ハフニウムからなるALD蒸着膜であることを特徴とする金属粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子層堆積法(ALD法)による防錆膜を有する被覆部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の技術分野において、金属基材の表面を被覆する被覆材を備えた被覆部材が使用されている。被覆材は、その材質に応じて、例えば熱や腐食に対する耐久性を高め、摩耗を低減する等の機能を被覆部材に付与することができる。
【0003】
このような被覆材は、例えば熱交換器を構成する金属基材の被覆や、粉末のコーティングに用いられる。
【0004】
熱交換器の多くは、限られたスペースの中で優れた放熱効率或いは冷却効率を得るために、放熱部及び冷却部の表面積をできる限り大きくとるように設計されている。そのため、フィンとフィンとの間隔が極めて狭くなっている。これらの熱交換器を冷却用として使用する場合、大気中の水分がフィンの表面に凝縮し、水滴として表面に付着することがある。こうした水滴の付着は、熱交換器を腐食させる原因となる。
【0005】
これらの問題を解決するための従来技術として、特許文献1のように、熱交換器を構成する金属基材の表面に表面処理皮膜を形成することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-161876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の表面処理皮膜は浸漬処理により形成されたものであり、当該皮膜の厚みのバラつきが大きくなりやすい問題があった。また、被膜の形成方法として、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)やPVD(Physical Vapor Deposition)が挙げられるが、凹凸のある金属基材の表面を均一に被覆できない問題があった。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、複雑な形状の金属基材の表面を均一に被覆し、金属基材の腐食を防ぐ被覆部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、被覆部材であって、金属基材と、前記金属基材の表面を覆う防錆膜を有し、前記防錆膜は、原子層堆積法(ALD法:atomic layer deposition)による、酸化ハフニウムからなるALD蒸着膜であることを特徴とする。
【0010】
当該態様は、複雑な形状の金属基材の表面を均一に被覆し、金属基材の腐食を防ぐことができる。
【0011】
このとき、前記防錆膜の膜厚は1~50nmとしてもよい。
【0012】
当該態様は、非常に薄い被膜で金属基材の腐食を防ぐことができる。
【0013】
このとき、前記金属部材は銅であってもよい。
【0014】
当該態様は、熱伝導性に優れる銅は熱交換器の部材として用いることができる。
【0015】
このとき、前記金属基材の表面と前記防錆膜の間に第2防錆膜を有し、前記第2防錆膜は、原子層堆積法(ALD法)による、酸化アルミニウムからなるALD蒸着膜であってもよい。
【0016】
当該態様は、より衝撃、変形に強い防錆膜を形成することができる。
【0017】
本発明の他の態様は、熱交換器であって、前記熱交換器の表面を覆う防錆膜を有し、前記防錆膜は、原子層堆積法(ALD法)による、酸化ハフニウムからなるALD蒸着膜であることを特徴とする。
【0018】
当該態様は、構造が複雑な熱交換器の表面を均一に被覆し、熱交換器の腐食を防ぐことができる。
【0019】
本発明の他の態様は、金属粉末であって、前記金属粉末の表面を覆う防錆膜を有し、前記防錆膜は、原子層堆積法(ALD法)による、酸化ハフニウムからなるALD蒸着膜であることを特徴とする。
【0020】
当該態様は、金属粉末を均一に被覆することで、金属粉末表面の不純物を低減し、不純物による熱伝導率の低下、焼結温度の上昇を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、複雑な金属基材の表面を均一に被覆し、金属基材の腐食を防ぐ被覆部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は本発明の一実施形態に係る、被覆部材の一例を示す模式的な断面図である。
図2図2は本発明の他の実施形態に係る、被覆部材の一例を示す模式的な断面図である。
図3図3は本発明の一実施形態に係る、熱交換器の一例を示す模式的な断面図である。
図4図4は本発明の他の実施形態に係る、熱交換器の一例を示す模式的な断面図である。
図5図5図4の2-2線部位における縦断面図である。
図6図6は本発明の一実施形態に係る金属粉末の模式的な断面図である。
図7図7は、噴霧試験法後の被覆部材の表面の様子を示す写真図である。図7(A)は比較例1、図7(B)は実施例1、図7(C)は実施例2における噴霧試験法後の被覆部材の表面写真である。
図8図8は噴霧試験法後の被覆部材の表面の様子を示すSEM写真図及び、EDXスペクトル図である。図8(A)は表面のSEM写真図、図8(B)は被覆部材の表面全体のEDXスペクトル図、図8(C)(D)(E)は各測定点におけるEDXスペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[本発明の一実施形態]
以下、本発明の一実施形態に係る、被覆部材及び、その実施形状の一例である熱交換器と金属粉末について順に説明する。また、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を、不当に限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更が可能である。なお、本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
1.被覆部材
2.熱交換器
3.金属粉末
【0024】
1.被覆部材
図1に、本発明の一実施形態に係る被覆部材の模式的な断面図を示す。本発明の一実施形態に係る被覆部材10は、図1に示すように、金属基材11と、金属基材11の表面を覆う防錆膜12を有している。金属基材11は、銅、アルミニウム及び鉄のいずれかから構成されている。防錆膜12は、原子層堆積法(ALD法)による、酸化ハフニウムからなるALD蒸着膜である。なお防錆膜12は、図1に示すように両面に設けられていることが好ましいが、片面に設けられていても構わない。
【0025】
本発明の一実施形態に係る防錆膜12は、原子層堆積法(ALD法)により生成された被膜であり、構造が複雑な金属基材11に対しても、その表面を均一に被覆し、金属基材11の腐食を防ぐことができる。
【0026】
(金属基材)
被覆部材10における金属基材11は、銅、アルミニウム及び鉄のいずれかから構成されている。また、前述した「銅」は純銅及び銅合金を含む概念であり、「アルミニウム」は純アルミニウム及びアルミニウム合金を含む概念であり、「鉄」は純鉄及び鉄合金を含む概念である。なお、金属基材11は、純銅からなる基材であってもよいし、銅合金からなる基材であってもよいし、場合によっては純銅と銅合金との複合基材であってもよい。また、熱伝導率の高さから、金属基材11は銅であることが好ましい。
【0027】
金属基材11の形状は特に限定されることはなく、被覆部材10の用途に応じた形状とすることができる。例えば、金属基材11は、貫通孔、有底孔及び溝のうち1種以上の開口部を有していてもよい。なお、貫通孔とは、金属基材11を貫通する孔をいい、有底孔とは、金属基材11を貫通せず、底部を有する孔をいう。なお被覆部材10の用途としては、例えば、エアコンディショナー等の熱交換器に用いられるチューブ、フィン及び中空プレート等であってもよい。
【0028】
(防錆膜)
防錆膜12は、金属基材11の表面に設けられる。防錆膜12は、金属基材11の表面全部を覆う被膜である。例えば平板等だけでなく、構造が複雑な金属基材11においても、防錆膜12はその表面全部を覆っている。金属基材11の表面に設けられた防錆膜12は、金属基材11の耐食性を向上させることができる。
【0029】
防錆膜12は、酸化ハフニウムで構成される。酸化ハフニウムにより、金属基材21の耐食性を向上させることができる。酸化物の被膜としては、従来の酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素があるが、酸化ハフニウムは、加工性について曲げ加工に追従できる点、高融点であり高温でも安定である点、極薄膜化でも性能を有する点、例えば王水、フッ酸以外にはほぼ不溶のように、化学安定度が高い点、低温での製作が可能な点を全て有していることから、酸化ハフニウムを用いることが好ましい。例えば酸化ジルコニウムは加工性の点で好ましくない。また、酸化ハフニウムの融点は2758℃であり、酸化ジルコニウムの融点2715℃、酸化チタンの融点の1870℃、酸化アルミニウムの融点の2000℃、二酸化ケイ素の融点1700℃であり、酸化ハフニウムは他の酸化物より高融点である。また、後述するように酸化ハフニウムのALD蒸着膜は、2nmでも金属基材の酸化を防ぐことができる。なお酸化ハフニウムのALD蒸着膜は絶縁性も有する。また、酸化ハフニウムは王水やフッ酸に対しても、他の酸化物より溶解反応が遅い。また、例えば二酸化ケイ素の被膜は熱酸化で作製するため100℃以下での成膜が困難だが、酸化ハフニウムのALD蒸着膜はより低い、例えば50℃で成膜することができる。
【0030】
防錆膜12は、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition:ALD法)により成膜された被膜である。ALD法は、基材表面の分子と、基材表面に吸着した原料ガスとの反応により、単原子層ずつ堆積させる方法で、高精度かつ均一に成膜することができ、かつ、極めて薄く緻密な被膜を成膜することができる。また、一般的な成膜方法である真空蒸着法、スパッタリング法といったPVD法では、基材に堆積させる粒子の直線性が高く、凹凸を有する基材表面への成膜は困難であるが、ALD法ではこのような凹凸を有する基材表面にも、均一に成膜することができる。
【0031】
防錆膜12の厚さは1nm以上50nm以下が好ましく、1nm以上10nm未満が好ましい。本発明では、1nm以上10nm未満のシングルナノレイヤーという超薄膜を実現することができる。防錆膜12の厚さが上記範囲であることによって、金属基材11の耐食性を向上させることができる。防錆膜12の厚さが1nm未満では、金属基材11の耐食性を向上させることが困難となる可能性がある。また、防錆膜12の厚さが50nmを超えると、成膜に長時間を要する為に生産コストが増大する。
【0032】
(第2防錆膜)
図2に、本発明の他の実施形態に係る被覆部材の模式的な断面図を示す。本発明の他の実施形態に係る被覆部材20は、図2に示すように、金属基材21と、金属基材21の表面を覆う防錆膜22と、第2防錆膜23を有している。なお、上述した実施形態と重複する部分については説明を省略する。
【0033】
第2防錆膜23は、金属基材21の表面に設けられ、金属基材21と防錆膜22の間に設けられる。金属基材21と防錆膜22の間に設けられた第2防錆膜23は、金属基材21と防錆膜22との密着性を向上させることができ、防錆膜22による耐食性向上の効果をより発揮させることができる。また、第2防錆膜23は、金属基材21の表面全部を覆う被膜である。例えば平板等だけでなく、構造が複雑な金属基材21においても、第2防錆膜23は、その表面全部を覆っている。金属基材21の表面に設けられた第2防錆膜23は、金属基材21の耐食性をより向上させることができる。
【0034】
第2防錆膜23は、酸化アルミニウムで構成される。酸化アルミニウムは、金属基材21を構成する銅や、防錆膜22を構成する酸化ハフニウムとの密着性がよく、防錆膜22の剥離をより防ぐことができる。また、酸素が透過しにくい酸化アルミニウムにより、金属基材21の耐食性をより向上させることができる。
【0035】
第2防錆膜23は、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition:ALD法)により成膜された被膜である。ALD法により第2防錆膜23の厚さを極めて薄くすることで、防錆膜全体が厚くなるのを防ぐことができる。また、防錆膜22と同様に、緻密な被膜を成膜することができ、凹凸を有する基材表面にも、均一に成膜することができる。また、ALD法による成膜の際に原料ガスを交換することで、第2防錆膜23上に防錆膜22を容易に成膜することができる。
【0036】
第2防錆膜23の厚さは1nm以上10nm以下が好ましく、また、10nm以上20nm以下でもよい。第2防錆膜23の厚さが上記範囲であることによって、金属基材21と防錆膜22との密着性を向上させることができる。第2防錆膜23の厚さが1nm未満では、金属基材21と防錆膜22との密着性を向上させることが困難となる可能性がある。また、第2防錆膜23の厚さが20nmを超えると、防錆膜全体が厚膜化し、変形に弱くなる可能性がある。
【0037】
2.熱交換器
図3に、本発明の一実施形態に係る熱交換器の模式的な断面図を示す。熱交換器30は、図3に示すように、上記の一実施形態に係る防錆膜33で被覆されている。その結果、複雑な形状の熱交換器30の表面を均一に被覆し、熱交換器30の腐食を防ぐことができる。
【0038】
図3の例では、隣り合う配管(チューブ)31同士の間に放熱部(フィン)32を有する熱交換器30を挙げているが、本発明はこうした形態の熱交換器のみに限定されない。すなわち、熱交換器は、チューブ状(中空管状)、中実管状、中空板状、中実板状のいずれであってもよく、それらに防錆膜33が設けられて、本発明の一実施形態に係る熱交換器30となる。本発明の一実施形態に係る熱交換器30は、構造が複雑な熱交換器の表面を均一に被覆し、熱交換器の腐食を防ぐことができる。
【0039】
また、本発明の一実施形態に係る熱交換器20は、図3に示すように、配管(チューブ)31、放熱部(フィン)32の表面に防錆膜33が設けられているとともに、配管(チューブ)31の内側面に防錆膜33を設けることができる。本発明の一実施形態に係る熱交換器30は、構造が複雑な熱交換器の配管の内側面を均一に被覆し、熱交換器の腐食を防ぐことができる。
【0040】
また、防錆膜33は被覆部材にて述べたものを用いることができる。本発明の一実施形態に係る熱交換器30は、極めて薄く緻密なALD蒸着膜である防錆膜33が、配管(チューブ)31、放熱部(フィン)32の表面や、配管(チューブ)31の内側面を被覆し、熱交換器30の腐食を防ぐことができる。そして、本発明の一実施形態に係る熱交換器30は、構造が複雑な熱交換器において、その表面及び配管の内側面を、ALD蒸着膜である防錆膜33が均一に被覆することで、熱交換器30の腐食を防ぐことができる。また、上述した実施形態と重複する部分については説明を省略する。
【0041】
図4に、本発明の他の実施形態に係る熱交換器の模式的な断面図を示す。なお図4は、図5の1-1線部位における縦断面図である。
【0042】
本発明の他の実施形態に係る熱交換器40はいわゆる多管式熱交換器であり、図4に示すように、上記の一実施形態に係る防錆膜48で被覆されている。その結果、複雑な形状の熱交換器40の表面を均一に被覆し、熱交換器40の腐食を防ぐことができる。
【0043】
図4に示すように、熱交換器40には、第一流体が通過する複数本(多数本)の内管(伝熱管群)41と、第二流体が通過する外管(シェル、胴体)42とを備え、伝熱管群41が、それらの両端を第一流体導入側及び第一流体排出側にそれぞれ位置する導入側・排出側保持板(チューブシート)43に保持されて配設されている。また、図4の例では、シェル42の内部に多数本の伝熱管群41が、シェル42両端の導入側・排出側保持板(チューブシート)43を介して配設されている。シェル42の両端には円錐台状の導入側・排出側整流筒部(整流部)44を介してフランジ45a、45b付きの導入・排出口(接続パイプ)46a、46bを備えて、伝熱管群41内を第一流体が通過可能となっている。また、シェル42の上下には、導入・排出ノズル47a、47bを備え各伝熱管41の外側に第二流体が通過可能となっている。また図4では、内管41は長手方向に見て直線状になっているが、内管41の形状はこれに限定されず、例えば第一流体、第二流体の乱流を発生させ第一流体、第二流体間の熱交換効率を高めるために、波形状に曲折形成してもよい。
【0044】
熱交換器40における第一流体は、例えば高温ガスのような流体を用いることができるが、これに限定されず、熱交換器40の用途により適宜選択することができる。また、第二流体は、例えば冷却水のような流体を用いることができるがこれに限定されず、熱交換器40の用途により適宜選択することができる。
【0045】
図5に、図4の2-2線部位における縦断面図を示す。図5に示すように、熱交換器40では、円筒状の外管42内に円筒状の内管41が複数配置されている。また。内管41の内側面に防錆膜48を設けることができる。また図5では、外管42内に内管41が均等に配置されているが、配置方法はこれに限定されず、例えば乱流を発生させるために、複数の内管41をスパイラル状に捩った態様で円筒状の外管42内に配置してもよい。
【0046】
また、本発明の一実施形態に係る熱交換器40は、図5に示すように、内管41の内側面に防錆膜48を設けることができる。そして、本発明の一実施形態に係る熱交換器40は、構造が複雑な熱交換器の配管の内側面を均一に被覆し、熱交換器40の腐食を防ぐことができる。なお図5では、内管41の内側面に防錆膜48を設ける態様を説明したが、当該態様に限られず、内管41の外側面、外管42の内側面、整流筒部44の内側面等、流体と接する面に防錆膜48を設けることができる。本発明の一実施形態に係る熱交換器40は、構造が複雑な熱交換器の配管の内側面を均一に被覆し、熱交換器の腐食を防ぐことができる。なお、上述した実施形態と重複する部分については説明を省略する。
【0047】
3.金属粉末
図6に、本発明の一実施形態に係る金属粉末の模式的な断面図を示す。本発明の一実施形態に係る金属粉末50は、図6に示すように、上記の一実施形態に係る防錆膜52で被覆されている。そして、金属粉末50の表面を均一に被覆することで、金属粉末表面への不純物の吸着を低減し、不純物による熱伝導率の低下、焼結温度の上昇を防ぐことができる。
【0048】
本発明の一実施形態に係る金属粉末50は、低温焼結用の金属粉末や、1.2μm以下の波長を有するレーザ光を照射して積層造形される素材粉末として使用される。金属粉末50は、平均粒径が50μm以下である金属粒子51と、金属粒子51の表面を覆う防錆膜52を有している。
【0049】
(金属粒子)
金属粉末50における金属粒子51は、上述した金属基材の金属を用いることができる。また、熱伝導率の高さから、金属粒子51は銅で構成されていることが好ましい。
【0050】
金属粒子51の形状、粒径は特に制限されず、金属粉末50の用途に応じた形状、粒径とすることができる。また、凹凸がある粒子形状においても、ALD蒸着膜である防錆膜52はその表面を均一に被覆することができる。
【0051】
金属粒子51の表面に不純物が吸着すると、金属粉末50の熱伝導率が低下する。そして、不純物の量が多くなると、金属粉末50の熱伝導率の低下により焼結温度が上昇する。極めて薄く緻密なALD蒸着膜である防錆膜52は、このような不純物の吸着を低減し、熱伝導率の低下、焼結温度の上昇を防ぐことができる。また、防錆膜52で被覆された金属粉末50は、不純物吸着の要因となる帯電を防ぐことができる。
【0052】
また、極めて薄く緻密なALD蒸着膜である防錆膜52は、不純物として検出されにくい利点がある。
【実施例0053】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
本実施例では、半径50mm、厚さ2mmの円板状の無酸化銅板を用いた。エタノールを用いて無酸化銅板の洗浄および脱脂処理を行った後、無酸化銅板上に、原子層堆積法により酸化ハフニウム膜を形成し、被覆部材を得た。酸化ハフニウム膜の厚さは20nmであった。
【0055】
表面に酸化ハフニウム膜を形成した無酸化銅板を、JIS Z-2371に基づく塩水噴霧試験法により、100時間暴露後の錆面積を外観により評価した。
【0056】
(実施例2)
酸化ハフニウム膜の厚さを40nmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、被覆部材を得ると共に噴霧試験法後の外観、表面観察及び元素分析を行った。
【0057】
次に、塩水噴霧試験法後の被覆部材の表面をSEM(走査電子顕微鏡)で観察し、EDX(エネルギー分散型X線分析)で元素分析を行った。
【0058】
(比較例1)
酸化ハフニウム膜を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、被覆部材を得ると共に噴霧試験後の外観、表面観察及び元素分析を行った。
【0059】
図7に噴霧試験法後の被覆部材の表面を示す。図7(A)は比較例1、図7(B)は実施例1、図7(C)は実施例2における噴霧試験法後の被覆部材の表面写真である。図7(A)では、被覆部材の表面全体に錆が生じていたが、図7(B)(C)では、錆により変色した面積が図7(A)より少なかった。
【0060】
図8に、噴霧試験法後の被覆部材の表面SEM写真図を示す。また図8に、噴霧試験法後の被覆部材の表面における元素分析結果として、EDXスペクトル図を示す。図8(A)は表面のSEM写真図、図8(B)は被覆部材の表面全体のEDXスペクトル図、図8(C)(D)(E)は各測定点におけるEDXスペクトル図である。
【0061】
図8(D)では、被覆部材の表面にハフニウム、酸素、塩素の存在は確認されなかった。これは、酸化ハフニウム膜が無酸化銅板の酸化を防いだためと考えられる。また、図8(C)では酸素、塩素の存在は確認されたが、ハフニウムの存在は確認されなかった。また、図8(E)では図8(C)に比べ、ハフニウムの存在が確認され、酸素濃度が減少していた。また、塩素の存在は確認されなかった。図8(E)の酸素は酸化ハフニウムによるものと考えられる。また、図8(E)における酸素濃度の減少は、酸化ハフニウム膜が無酸化銅板の酸化を防いだためと考えられる。
【0062】
なお、上記のように本発明の各実施形態および各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0063】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また被覆部材の構成、動作も本発明の各実施形態および各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0064】
10、20 被覆部材、30、40 熱交換器、50 金属粉末、11 金属基材、12、33、48、52 防錆膜、13 第2防錆膜、31 配管、32放熱部(フィン)、41 内管、42 外管、43 保持版、44 整流筒部、45a、45b フランジ、46a 導入口、46b 排出口、47a 導入ノズル、47b 排出ノズル、51 金属粒子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8