IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジャパンディスプレイの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189600
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】検出装置及び検出システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/41 20060101AFI20221215BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20221215BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
G01N21/41 A
G01N33/483 C
C12M1/34 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098264
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】502356528
【氏名又は名称】株式会社ジャパンディスプレイ
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木原 剛
【テーマコード(参考)】
2G045
2G059
4B029
【Fターム(参考)】
2G045AA28
2G045FA14
2G045JA07
2G059AA05
2G059BB05
2G059BB06
2G059BB12
2G059CC20
2G059DD12
2G059EE02
2G059EE04
2G059FF01
2G059FF07
2G059JJ21
2G059KK04
2G059MM03
2G059MM05
2G059MM10
2G059NN02
2G059NN07
4B029AA07
4B029BB02
4B029FA02
(57)【要約】
【課題】バイオフィルムの増殖をモニタリングすることができる検出装置及び検出システムを提供する。
【解決手段】検出装置1は、内部空間を有する筐体2と、筐体2の内部空間を上側の第1空間3と下側の第2空間4とに仕切る透光性基板5と、透光性基板5を上面視して第1空間3を分割する複数の内壁6と、第2空間4に設けられるセンサ部8と、を備える。筐体2は、外部と第1空間3とを連通する複数の微細孔7が設けられており、内壁6は、複数の微細孔7が設けられている。
【選択図】図4B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を有する筐体と、
前記筐体の内部空間を上側の第1空間と下側の第2空間とに仕切る透光性基板と、
前記透光性基板を上面視して前記第1空間を分割する複数の内壁と、
前記第2空間に設けられるセンサ部と、
を備え、
前記筐体は、外部と前記第1空間とを連通する複数の微細孔が設けられており、
前記内壁は、複数の微細孔が設けられている、
検出装置。
【請求項2】
前記筐体は、前記透光性基板の外周を囲う外周壁を有し、当該外周壁の上側の所定領域に複数の微細孔が設けられており、
前記内壁は、上側の所定領域に複数の微細孔が設けられている、
請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記外周壁及び前記内壁は、前記微細孔が設けられる上側の領域と、前記微細孔が設けられていない下側の領域との比率が、1:9以上、かつ、3:7以下の範囲内である、
請求項2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記第1空間に設けられ、前記透光性基板に光を照射する光源を含む、
請求項2又は3に記載の検出装置。
【請求項5】
前記光源から照射され、前記透光性基板によって反射した光を集光するレンズを含み、
前記センサ部は、前記レンズによって検出領域に集光された光を検出する複数の光検出素子を備える、
請求項4に記載の検出装置。
【請求項6】
前記筐体の外壁材は、多孔質構造体である、
請求項1から5の何れか一項に記載の検出装置。
【請求項7】
前記外周壁は、多孔質構造体である、
請求項2から5の何れか一項に記載の検出装置。
【請求項8】
請求項1から7の何れか一項に記載の検出装置と、
前記検出装置から出力されるセンサデータに基づき、前記第1空間に形成されるバイオフィルムを検出する処理装置と、
を備える、
検出システム。
【請求項9】
前記処理装置は、
前記第1空間にバイオフィルムが形成されていない状態で取得されたセンサデータが登録データとして保存された記憶部と、
前記第1空間に形成されるバイオフィルムを検出する際に前記検出装置から出力されるセンサデータを取得し、当該センサデータと前記登録データとの双方に誤認識率を適用して照合する照合部と、
取得したセンサデータと前記登録データとの双方が一致したときの誤認識率に基づき、前記第1空間の汚染状態を判定する判定部と、
を備える、
請求項8に記載の検出システム。
【請求項10】
前記照合部は、
取得したセンサデータと前記登録データとの双方に適用する誤認識率を所定量ずつ増加させる、
請求項9に記載の検出システム。
【請求項11】
前記処理装置は、
前記第1空間の汚染状態情報を送信する通信部を備える、
請求項9又は10に記載の検出システム。
【請求項12】
前記処理装置は、
前記第1空間の汚染状態に応じて、前記検出装置が適用される機器の電源を切断する電源制御部を備える、
請求項9又は10に記載の検出システム。
【請求項13】
前記判定部は、
取得したセンサデータと前記登録データとの双方が一致したときの誤認識率の所定期間内における移動平均を算出し、移動平均に対して所定範囲を超える誤認識率を除外する、
請求項8から12の何れか一項に記載の検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出装置及び検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
循環式浴槽、冷却塔、噴水、加湿器等の人工的に作られた水環境では、水等の溶液に接した物質表面にレジオネラ属菌等の病原菌が付着し、付着したレジオネラ属菌等の病原菌が分泌する細胞外高分子物質(EPS:Extracellular Polymeric Substances)によってバイオフィルム(生体膜)と呼ばれるぬめりが発生する。バイオフィルムは、レジオネラ属菌の温床となるため、レジオネラ属菌の発生を防止するためには、バイオフィルムを除去することが有効である。特許文献1には、バイオフィルムの形成を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-46385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、バイオフィルムの検出は目視により行われる。このため、バイオフィルムの増殖をモニタリングする手法が望まれている。
【0005】
本発明は、バイオフィルムの増殖をモニタリングすることができる検出装置及び検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る検出装置は、内部空間を有する筐体と、前記筐体の内部空間を上側の第1空間と下側の第2空間とに仕切る透光性基板と、前記透光性基板を上面視して前記第1空間を分割する複数の内壁と、前記第2空間に設けられるセンサ部と、を備え、前記筐体は、外部と前記第1空間とを連通する複数の微細孔が設けられており、前記内壁は、複数の微細孔が設けられている。
【0007】
本発明の一態様に係る検出システムは、前記検出装置と、前記検出装置から出力されるセンサデータに基づき、前記第1空間に形成されるバイオフィルムを検出する処理装置と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係る検出装置を適用する水環境の第1例を示す模式図である。
図2図2は、実施形態に係る検出装置の適用する水環境の第2例を示す模式図である。
図3図3は、実施形態に係る検出装置の概略構造の一例を示す模式図である。
図4A図4Aは、実施形態に係る検出装置の上面透視図である。
図4B図4Bは、実施形態に係る検出装置の図4Aに示すA-A線断面図である。
図5図5は、実施形態に係る検出装置のセンサ部の一例を示す模式図である。
図6図6は、実施形態に係る検出装置におけるバイオフィルムの形成プロセスを説明する概念図である。
図7図7は、内壁の幅と、内壁間に形成される溝の幅との関係を示す模式図である。
図8A図8Aは、実施形態に係る検出装置における検出手法の具体例を示す第1図である。
図8B図8Bは、実施形態に係る検出装置における検出手法の具体例を示す第2図である。
図9A図9Aは、図8Aに示す第1図により検出されるセンサデータの模式図である。
図9B図9Bは、図8Bに示す第2図により検出されるセンサデータの模式図である。
図10図10は、実施形態1に係る検出システムにおいて、バイオフィルム形成状態判定に関わる構成例を示すブロック図である。
図11図11は、誤認識率を用いたバイオフィルム形成状態判定手法を示す模式図である。
図12図12は、実施形態1に係るバイオフィルム形成状態判定処理の一例を示すフローチャートである。
図13図13は、実施形態1の変形例1に係るバイオフィルム形成状態判定処理の一例を示すフローチャートである。
図14図14は、実施形態1の変形例1に係るバイオフィルム形成状態判定処理のエラーリジェクト手法の一例を示す図である。
図15図15は、実施形態1の変形例2に係るバイオフィルム形成状態判定処理の一例を示すフローチャートである。
図16図16は、実施形態1の変形例2に係るバイオフィルム形成状態判定処理のリピート処理を示すフローチャートである。
図17図17は、実施形態2に係る検出システムにおいて、バイオフィルム形成状態判定に関わる構成例を示すブロック図である。
図18図18は、実施形態2に係るバイオフィルム形成状態判定処理を示すフローチャートである。
図19図19は、実施形態2の変形例1に係るバイオフィルム形成状態判定処理の一例を示すフローチャートである。
図20図20は、実施形態2の変形例2に係るバイオフィルム形成状態判定処理の一例を示すフローチャートである。
図21図21は、実施形態2の変形例2に係るバイオフィルム形成状態判定処理のリピート処理を示すフローチャートである。
図22図22は、超音波センサを用いた検出手法を示す図である。
図23図23は、静電容量に基づく検出手法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。また、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0010】
図1は、実施形態に係る検出装置を適用する水環境の第1例を示す模式図である。図2は、実施形態に係る検出装置の適用する水環境の第2例を示す模式図である。図1に示すように、検出装置1は、例えば温泉の配管200内に設けられる。また、図2に示すように、検出装置1は、例えば加湿器のタンク300内に設けられる。
【0011】
温泉の配管200や加湿器のタンク300等の水環境で発生するレジオネラ属菌は、主に、呼吸器系に感染する病原菌であり、レジオネラ症(レジオネラ属菌に起因する肺炎等の感染症)を引き起こすことが知られている。本実施形態に係る検出装置1は、レジオネラ属菌の温床となるバイオフィルムを検出する装置であり、温泉の配管200や加湿器のタンク300の温水HWから生じる蒸気Vに晒される空間に設置される。なお、検出装置1が適用される水環境は、図1に示す温泉の配管200や加湿器のタンク300に限定されず、例えば、循環式浴槽の配管、冷却塔、噴水、給湯設備等であっても良い。
【0012】
図3は、実施形態に係る検出装置の概略構造の一例を示す模式図である。図4Aは、実施形態に係る検出装置の上面透視図である。図4Bは、実施形態に係る検出装置の図4Aに示すA-A線断面図である。
【0013】
図3に示すように、検出装置1は、外周壁2a、上蓋2b、下蓋2cで囲われた筐体2の内部が透光性基板5によって第1空間3と第2空間4とに仕切られている。透光性基板5は、透光性を有する樹脂又はガラスで構成された光学素子(プリズムミラー)である。透光性基板5の外周は、外周壁2aによって囲われている。
【0014】
外周壁2a、上蓋2b、下蓋2cを含む外壁材は、例えば、多孔質構造体で構成される。これにより、筐体2の内部空間が断熱される。
【0015】
検出装置1は、図4Aに示すように、透光性基板5を上面視して第1空間を分割する複数の内壁6が設けられている。
【0016】
外周壁2aの上部aには、筐体2の外部と第1空間3とを連通する複数の微細孔7が設けられている。また、内壁6の上部aには、外周壁2aと同様に複数の微細孔7が設けられている。微細孔7のサイズは、例えば、レジオネラ属菌のサイズ(長さ2[μm]~20[μm]、幅0.3[μm]~0.9[μm])よりも大きい(例えば、0.9[μ]×3[μm])。また、微細孔7が設けられる境域aと、微細孔7が設けられない領域bとの比率a:bは、例えば、2:8とされる(a:b=2:8)。境域aと領域bとの比率a:bはこれに限らず、例えば、1:9以上、かつ、3:7以下の範囲内であれば良い。
【0017】
第2空間には、図4Bに示すように、センサ部8、レンズ9、及び光源10が設けられている。図5は、実施形態に係る検出装置のセンサ部の一例を示す模式図である。
【0018】
図5に示すように、センサ部8は、複数の光センサ(光検出素子)PDがX方向及びY方向に並ぶ検出領域111を有している。光センサPDは、例えばフォトダイオードである。検出領域111の外側の周辺領域110には、信号線選択回路113、走査線駆動回路114、及びドライバIC115が設けられている。
【0019】
図5に示す例において、信号線SLはY方向と平行に延在し、走査線GLはX方向と平行に延在する。信号線選択回路113は、信号線SLと電気的に接続されている。走査線駆動回路114は、走査線GLと電気的に接続されている。光センサPDは、信号線SLと走査線GLとの交点に設けられる。ドライバIC115は、走査線駆動回路114によって、光検出素子を制御するためのスイッチング素子(例えば、TFT)のON/OFFを制御する。
【0020】
光源10から照射された光は、透光性基板5により反射し、レンズ9に入射する。レンズ9により集光された光は、センサ部8の検出領域111に入射する。検出領域111に設けられた複数の光センサPDは、それぞれ、入射する光に応じた電気信号を信号線選択回路113に出力する。
【0021】
図6は、実施形態に係る検出装置におけるバイオフィルムの形成プロセスを説明する概念図である。図6では、実施形態に係る検出装置1の図4Bに示す破線部を拡大している。図7は、内壁の幅と、内壁間に形成される溝の幅との関係を示す模式図である。
【0022】
レジオネラ属菌Leは、バイオフィルムBi内に生息するアメーバに寄生し、バイオフィルムBi内で増殖する。バイオフィルムBi内で増殖したレジオネラ属菌Leは、図6に示すように、アメーバの破裂によってバイオフィルムBiから放出される。バイオフィルムBiから放出されたレジオネラ属菌Leは、空中を浮遊して、筐体2の外周壁2aに設けられた微細孔7から検出装置1の第1空間3の内部に侵入する。検出装置1の第1空間3の内部に侵入したレジオネラ属菌Leは、検出装置1の第1空間3の内部で細胞外高分子物質(EPS:Extracellular Polymeric Substances)を分泌し、透光性基板5の表面に新たなバイオフィルムBiを形成する。以下、上記プロセスを繰り返すことにより、検出装置1の第1空間3の内部においてバイオフィルムBiの形成範囲が拡大していく。なお、図6に示す検出装置1の第1空間3の高さcは、例えば、20[cm]以下とされる。また、図7に示す内壁6の幅e、及び内壁6間に形成される溝の幅dは、例えば、約0.4[mm]とされる。検出装置1の第1空間3の高さc、内壁6の幅e、内壁6間に形成される溝の幅dは一例であって、上記に限定されない。
【0023】
図8Aは、実施形態に係る検出装置における検出手法の具体例を示す第1図である。図8Bは、実施形態に係る検出装置における検出手法の具体例を示す第2図である。図9Aは、図8Aに示す第1図により検出されるセンサデータの模式図である。図9Bは、図8Bに示す第2図により検出されるセンサデータの模式図である。図8A及び図9Aは、検出装置1の第1空間3の内部にバイオフィルムBiが形成されていないクリーンな状態を示し、図8B及び図9Bは、検出装置1の第1空間3の内部がバイオフィルムBiによって汚染された状態を示している。
【0024】
光の屈折は、屈折率がそれぞれ異なる物と物との境界でよりはっきり起こる。ここで、内壁6を構成する弾性体が有する屈折率と、内壁6間に形成される溝に入り込んでいる空気の屈折率とは異なる。このため、透光性基板5に対して内壁6が当接していない溝の位置と、透光性基板5に対して内壁6が当接している位置とでは、屈折率が異なる。従って、透光性基板5に対して内壁6が当接していない溝の位置に照射された光と、透光性基板5に対して内壁6が当接する位置に照射された光とでは、屈折率に差が生じる。この屈折率の差は、結果としてセンサ部8の検出領域111に入射する光L1の強度と光L2の強度との差として現れる。
【0025】
図8Aに示すように、検出装置1の第1空間3の内部にバイオフィルムBiが形成されていないクリーンな状態では、透光性基板5に対して内壁6が当接していない溝の位置に照射された光の反射光L1の強度と、透光性基板5に対して内壁6が当接していない溝の位置に照射された光の反射光L2の強度との差によって、図9Aに示すように、透光性基板5に対して内壁6が当接していない溝の位置における検出値と、透光性基板5に対して内壁6が当接している位置における検出値との差が鮮明になる。
【0026】
一方、図8Bに示すように、検出装置1の第1空間3の内部がバイオフィルムBiによって汚染された状態では、透光性基板5に対して内壁6が当接していない溝の位置に照射された光の反射光L1の強度と、透光性基板5に対して内壁6が当接していない溝の位置に照射された光の反射光L2の強度との差が小さくなり、図9Bに示すように、透光性基板5に対して内壁6が当接していない溝の位置における検出値と、透光性基板5に対して内壁6が当接している位置における検出値との差が不鮮明になる。
【0027】
なお、検出装置1の第1空間3の内部にバイオフィルムBiが形成されていないクリーンな状態であっても、検出装置1の第1空間3の内部が結露した場合、透光性基板5に対して内壁6が当接していない溝の位置に水滴が生じる可能性がある。この場合、検出装置1の第1空間3の内部がバイオフィルムBiによって汚染された状態と同様に、透光性基板5に対して内壁6が当接していない溝の位置に照射された光の反射光L1の強度と、透光性基板5に対して内壁6が当接していない溝の位置に照射された光の反射光L2の強度との差が小さくなり、図9Bに示すように、透光性基板5に対して内壁6が当接していない溝の位置における検出値と、透光性基板5に対して内壁6が当接している位置における検出値との差が不鮮明になる。
【0028】
このため、本実施形態に係る検出装置1では、上述したように、筐体2を構成する外周壁2a、上蓋2b、下蓋2cを含む外壁材を多孔質構造体で構成する。よりこのましくは、例えば、シリカエアロゲル等のナノ多孔質構造体で構成することが望ましい。これにより、筐体2の内部空間が断熱され、検出装置1の第1空間3の内部が結露することを防ぐことができる。なお、筐体2を構成する外周壁2a及び上蓋2bを多孔質構造体で構成することにより、検出装置1の第2空間4が断熱層として機能する。このため、少なくとも外周壁2a及び上蓋2bを多孔質構造体で構成することにより、第1空間3の内部が結露することを防ぐことができる。
【0029】
以下、上述した検出装置1を用いた検出システム、及び、バイオフィルム形成状態判定処理の具体例について説明する。
【0030】
(実施形態1)
図10は、実施形態1に係る検出システムにおいて、バイオフィルム形成状態判定に関わる構成例を示すブロック図である。実施形態1に係る検出システム100は、内壁6によって分割された第1空間3に形成されるバイオフィルムを検出する。
【0031】
図10に示すように、実施形態1に係る検出システム100は、検出装置1と、検出装置1から出力されるセンサデータに基づき、バイオフィルム形成状態判定処理を行う処理装置20と、を含む。処理装置20は、照合部21、記憶部22、判定部23、及び通信部24を備えている。
【0032】
記憶部22には、センサ部8から出力されるセンサデータとの照合に用いる初期データが保存されている。初期データは、予め、検出装置1の第1空間3の内部にバイオフィルムBiが形成されていないクリーンな状態(図8A図9A参照)で取得されたセンサデータである。以下、第1空間3の内部にバイオフィルムBiが形成されていないクリーンな状態で取得され、記憶部22に保存されている初期データを、「登録データ」とも称する。
【0033】
照合部21及び判定部23は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、当該CPUが行う演算で取り扱われるソフトウェア・プログラム、データ、パラメータ等が一時的に格納される半導体メモリ、当該ソフトウェア・プログラムが記憶される不揮発性メモリ等を含む情報処理装置である。また、照合部21及び判定部23は、単一の集積回路であってもよい。当該集積回路の例として、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)が挙げられるが、これに限られるものでなく、他の形態をとっても良い。
【0034】
照合部21は、センサ部8から出力されるセンサデータと、記憶部22に保存されている登録データとの照合を行う。本開示では、センサデータが登録データと一致しているか否かを検出するために、バイオメトリクス認証において他人を本人と誤認識する確率を示す他人受入率(以下、「誤認識率(FAR:False Acceptance Rate)」とも称する)を用いる。
【0035】
図11は、誤認識率を用いたバイオフィルム形成状態判定手法を示す模式図である。具体的に、例えば、センサデータと登録データとの双方のFARをX[%]に設定した場合、センサデータと登録データとの差異がX[%]未満であることを許容することを示している。言い換えると、実際の汚染度合いがFAR=X[%]である場合、照合部21は、FARがX[%]未満の領域では「不一致」と判定し、FARがX[%]以上の領域では「一致」と判定する。本開示において、照合部21は、センサデータと登録データとの双方に適用するFARを0[%]から徐々に上げていき、「一致」と判定したFAR=X[%]を実際の汚染度合いとして判定する。
【0036】
判定部23は、照合部21によってセンサデータと登録データとが一致したと判定されたときのFARを所定の閾値と比較する。具体的に、判定部23は、センサデータと登録データとが一致したときのFARが閾値を超えたか否かを判定する判定処理を行う。当該判定処理に用いる閾値は、例えば、記憶部22に予め保存されている。
【0037】
通信部24は、所定のプロトコルで外部機器40との間で通信を行う回路である。通信部24は、判定部23の判定結果を外部機器40に送信する。具体的に、通信部24は、判定部23によってセンサデータと登録データとが一致したときのFARが閾値を超えたと判定した場合に、当該閾値を定義した汚染状態を示す汚染状態情報を外部機器40に送信する。ここで、本開示における汚染状態情報とは、例えば、FARが閾値を超える場合に、このときの汚染レベル(警告レベル、危険レベル)を含む。あるいは、FARが閾値を超えたときのセンサデータを画像処理した画像データや、このときのFARを含む態様であっても良い。
【0038】
通信部24が汚染状態情報を送信する外部機器40は、例えば、図1に示す温泉の配管200等の管理者が所有する通信端末が例示される。
【0039】
次に、実施形態1に係るバイオフィルム形成状態判定処理の具体例について、図12を参照して説明する。図12は、実施形態1に係るバイオフィルム形成状態判定処理の一例を示すフローチャートである。
【0040】
図12に示す例では、バイオフィルムによる汚染状態が警告レベルであることを定義した第1閾値FARth1(例えば、12[%])と、バイオフィルムによる汚染状態が危険レベルであることを定義した第2閾値FARth2(>FARth1、例えば、31[%])とが、予め設定されているものとする。
【0041】
バイオフィルム形成状態判定処理を開始すると、照合部21は、FARの初期化処理(FAR=0[%])を行う(ステップS101)。
【0042】
照合部21は、センサ部8から出力されるセンサデータを取得し(ステップS102)、記憶部22から登録データを読み出し(ステップS103)、取得したセンサデータと登録データとの双方にFARを適用して(ステップS104)、センサデータと登録データとの照合を行う(ステップS105)。
【0043】
センサデータと登録データとが一致していない場合(ステップS105;No)、照合部21は、このときのFARが100[%]未満(FAR<100[%])であるか否か(FAR<100[%])を判定する(ステップS106)。
【0044】
FARが100[%]未満(FAR<100[%])である場合(ステップS106;Yes)、照合部21は、ステップS104においてセンサデータと登録データとの双方に適用するFARを増加させ(ステップS107)、ステップS102の処理に戻り、ステップS102以降の処理を繰り返し実行する。なお、ステップS107において増加させるFARの増加量xは、例えば、0.01[%]とする。なお、ステップS107において増加させるFARの増加量xはこれに限らず、例えば、検出システム100が適用される加湿器の設計者によって適切な値に設定可能な態様であっても良い。
【0045】
FARが100[%](FAR=100[%])である場合(ステップS106;No)、検出システム100においてシステムエラーが発生したものと見做し、バイオフィルム形成状態判定処理を終了する。
【0046】
ステップS105において、センサデータと登録データとが一致した場合(ステップS105;Yes)、判定部23は、このときのFARが第2閾値以上(FAR≧FARth2)であるか否かを判定する(ステップS109)。
【0047】
FARが第2閾値未満(FAR<FARth2)である場合(ステップS109;No)、続いて、判定部23は、このときのFARが第1閾値以上(FAR≧FARth1)であるか否かを判定する(ステップS110)。
【0048】
FARが第1閾値未満(FAR<FARth1)である場合(ステップS110;No)、ステップS106に移行し、ステップS106以降の処理を繰り返し実行する。
【0049】
FARが第1閾値以上(FAR≧FARth1)である場合(ステップS110;Yes)、通信部24は、バイオフィルムによる汚染状態が警報レベルであることを示す第1汚染状態情報を送信し(ステップS111a)、バイオフィルム形成状態判定処理を終了する。
【0050】
ステップS109において、FARが第2閾値以上(FAR≧FARth2)である場合(ステップS109;Yes)、通信部24は、バイオフィルムによる汚染状態が危険レベルであることを示す第2汚染状態情報を送信し(ステップS111b)、バイオフィルム形成状態判定処理を終了する。
【0051】
(変形例1)
図13は、実施形態1の変形例1に係るバイオフィルム形成状態判定処理を示すフローチャートである。図14は、実施形態1の変形例1に係るバイオフィルム形成状態判定処理のエラーリジェクト手法の一例を示す図である。以下の説明では、図12とは異なる処理について説明する。
【0052】
センサデータに含まれるノイズにより、ステップS105において取得されるFARが異常値となる可能性がある。図14に示す例では、前後のFAR=32[%]に対し、その間に取得されたFAR=40[%]は、センサデータに含まれるノイズによって異常値となった可能性がある。このため、実施形態1の変形例1では、判定部23は、例えば、所定の検出期間Tdet期間内に取得したFARの移動平均を算出し、異常値となったFARを判定部23における判定処理から除外する。
【0053】
ステップS105において、センサデータと登録データとが一致した場合(ステップS105;Yes)、判定部23は、所定の検出期間Tdet内に取得したFARの移動平均を算出し(ステップS112)、ステップS105において取得したFARが移動平均に対して所定範囲内にあるか否かを判定する(ステップS113)。
【0054】
ステップS105において取得したFARが移動平均に対して所定範囲外である場合(ステップS113;No)、ステップS106以降の処理を繰り返し実行する。
【0055】
ステップS105において取得したFARが移動平均に対して所定範囲内である場合(ステップS113;Yes)、ステップS109の処理に移行する。
【0056】
これにより、異常値となったFARを判定部23における判定処理から除外することができる。
【0057】
(変形例2)
図15は、実施形態1の変形例2に係るバイオフィルム形成状態判定処理の一例を示すフローチャートである。以下の説明では、図13とは異なる処理について説明する。
【0058】
上述した図12及び図13に示すバイオフィルム形成状態判定処理では、ステップS106において、FARが100[%](FAR=100[%])である場合(ステップS106;No)、検出システム100においてシステムエラーが発生したものと見做し、バイオフィルム形成状態判定処理を終了する。
【0059】
バイオフィルムによる汚染は、急激に進行するものではなく、常時、バイオフィルム形成状態判定処理を実行する必要性は低い。
【0060】
実施形態1の変形例2では、ステップS106において、FARが100[%](FAR=100[%])である場合(ステップS106;No)、検出システム100においてシステムエラーが発生したものと見做し、バイオフィルム形成状態判定処理を終了する。
【0061】
図16は、実施形態1の変形例2に係るバイオフィルム形成状態判定処理のリピート処理を示すフローチャートである。
【0062】
実施形態1の変形例2では、図16に示すように、図15に示すバイオフィルム形成状態判定処理(ステップS1)終了後に、所定のインターバル期間Tintが経過したか否かを判定(ステップS2)し、インターバル期間Tintが経過していない場合(ステップS2;No)、ステップS2の処理を繰り返し行い、インターバル期間Tintが経過すると(ステップS2;Yes)、ステップS1に戻り、バイオフィルム形成状態判定処理(ステップS1)を繰り返し実行する。
【0063】
これにより、所定のインターバル期間Tintを適宜設定することで、バイオフィルムによる汚染の進行状態に応じて、バイオフィルム形成状態判定処理を実行することができる。
【0064】
(実施形態2)
図17は、実施形態2に係る検出システムにおいて、バイオフィルム形成状態判定に関わる構成例を示すブロック図である。なお、実施形態1に係る検出システム100と同一の構成部には同一の符号を付して、ここでの詳細な説明は省略する。
【0065】
図17に示す実施形態2に係る検出システム100aは、例えば、図2に示す加湿器のような機器に検出装置1を適用することを想定している。
【0066】
図17に示すように、実施形態2に係る検出システム100aは、検出装置1と、検出装置1から出力されるセンサデータに基づき、バイオフィルム形成状態判定処理を行う処理装置20aと、を含む。処理装置20aは、照合部21、記憶部22、判定部23、及び電源制御部25を備えている。
【0067】
電源制御部25は、判定部23によってセンサデータと登録データとが一致したときのFARが閾値を超えたと判定した場合に、検出システム100aが適用された機器の電源50を切断するための電源オフ指令を出力する。
【0068】
次に、実施形態2に係るバイオフィルム形成状態判定処理の具体例について、図18を参照して説明する。図18は、実施形態2に係るバイオフィルム形成状態判定処理を示すフローチャートである。
【0069】
図18に示す例では、検出システム100aが適用された機器の電源50を切断することを定義した閾値FARthが予め設定されているものとする。
【0070】
検出システム100aが適用された機器の電源50が投入されると(ステップS200)、バイオフィルム形成状態判定処理を開始し、照合部21は、FARの初期化処理(FAR=0[%])を行う(ステップS201)。
【0071】
照合部21は、センサ部8から出力されるセンサデータを取得し(ステップS202)、記憶部22から登録データを読み出し(ステップS203)、取得したセンサデータと登録データとの双方にFARを適用して(ステップS204)、センサデータと登録データとの照合を行う(ステップS205)。
【0072】
センサデータと登録データとが一致していない場合(ステップS205;No)、照合部21は、このときのFARが100[%]未満(FAR<100[%])であるか否か(FAR<100[%])を判定する(ステップS206)。
【0073】
FARが100[%]未満(FAR<100[%])である場合(ステップS206;Yes)、照合部21は、ステップS204においてセンサデータと登録データとの双方に適用するFARを増加させ(ステップS207)、ステップS202の処理に戻り、ステップS202以降の処理を繰り返し実行する。なお、ステップS207において増加させるFARの増加量xは、例えば、0.01[%]とする。なお、ステップS207において増加させるFARの増加量xはこれに限らず、例えば、検出システム100aが適用される加湿器の設計者によって適切な値に設定可能な態様であっても良い。
【0074】
FARが100[%](FAR=100[%])である場合(ステップS206;No)、検出システム100においてシステムエラーが発生したものと見做し、電源制御部25は、検出システム100aが適用された機器の電源50に対し、電源オフ指令を出力し(ステップS211)、バイオフィルム形成状態判定処理を終了する。
【0075】
ステップS205において、センサデータと登録データとが一致した場合(ステップS205;Yes)、判定部23は、このときのFARが閾値以上(FAR≧FARth)であるか否かを判定する(ステップS209)。
【0076】
FARが閾値未満(FAR<FARth)である場合(ステップS209;No)、ステップS206に移行し、ステップS206以降の処理を繰り返し実行する。
【0077】
FARが閾値以上(FAR≧FARth)である場合(ステップS209;Yes)、電源制御部25は、検出システム100aが適用された機器の電源50に対し、電源オフ指令を出力し(ステップS211)、バイオフィルム形成状態判定処理を終了する。
【0078】
(変形例1)
図19は、実施形態2の変形例1に係るバイオフィルム形成状態判定処理の一例を示すフローチャートである。以下の説明では、図18とは異なる処理について説明する。
【0079】
ステップS205において、センサデータと登録データとが一致した場合(ステップS205;Yes)、判定部23は、所定の検出期間Tdet内に取得したFARの移動平均を算出し(ステップS212)、ステップS205において取得したFARが移動平均に対して所定範囲内にあるか否かを判定する(ステップS213)。
【0080】
ステップS205において取得したFARが移動平均に対して所定範囲外である場合(ステップS213;No)、ステップS206以降の処理を繰り返し実行する。
【0081】
ステップS205において取得したFARが移動平均に対して所定範囲内である場合(ステップS213;Yes)、ステップS209の処理に移行する。
【0082】
これにより、異常値となったFARを判定部23における判定処理から除外することができる。
【0083】
(変形例2)
図20は、実施形態2の変形例2に係るバイオフィルム形成状態判定処理の一例を示すフローチャートである。以下の説明では、図19とは異なる処理について説明する。
【0084】
実施形態2の変形例2では、ステップS206において、FARが100[%](FAR=100[%])である場合(ステップS206;No)、検出システム100においてシステムエラーが発生したものと見做し、電源制御部25は、検出システム100aが適用された機器の電源50に対し、電源オフ指令を出力し(ステップS211)、バイオフィルム形成状態判定処理を終了する。
【0085】
図21は、実施形態2の変形例2に係るバイオフィルム形成状態判定処理のリピート処理を示すフローチャートである。
【0086】
実施形態2の変形例2では、図21に示すように、図20に示すバイオフィルム形成状態判定処理(ステップS1a)終了後に、所定のインターバル期間Tintが経過したか否かを判定(ステップS2)し、インターバル期間Tintが経過していない場合(ステップS2;No)、ステップS2の処理を繰り返し行い、インターバル期間Tintが経過すると(ステップS2;Yes)、ステップS1aに戻り、バイオフィルム形成状態判定処理(ステップS1a)を繰り返し実行する。
【0087】
これにより、所定のインターバル期間Tintを適宜設定することで、バイオフィルムによる汚染の進行状態に応じて、バイオフィルム形成状態判定処理を実行することができる。
【0088】
以上、本発明の好適な実施の形態を説明したが、本発明はこのような実施の形態に限定されるものではない。実施の形態で開示された内容はあくまで一例にすぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で行われた適宜の変更についても、当然に本発明の技術的範囲に属する。上述した各実施形態及び各変形例の要旨を逸脱しない範囲で、構成要素の種々の省略、置換及び変更のうち少なくとも1つを行うことができる。
【符号の説明】
【0089】
1 検出装置
2 筐体
2a 外周壁
2b 上蓋
2c 下蓋
3 第1空間
4 第2空間
5 透光性基板
6 内壁
7 微細孔
8 センサ部
9 レンズ
10 光源
20,20a 処理装置
21 照合部
22 記憶部
23 判定部
24 通信部
25 電源制御部
40 外部機器
50 電源
100,100a 検出システム
200 配管
300 タンク
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23