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特開2022-189621容器内充填物の製造装置及び固形化粧料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189621
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】容器内充填物の製造装置及び固形化粧料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65B 39/00 20060101AFI20221215BHJP
   B65B 3/12 20060101ALI20221215BHJP
   A61K 8/02 20060101ALN20221215BHJP
【FI】
B65B39/00 Z
B65B3/12
A61K8/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098294
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山脇 健司
(72)【発明者】
【氏名】木村 匡志
(72)【発明者】
【氏名】福田 茂彦
(72)【発明者】
【氏名】小原 茂浩
【テーマコード(参考)】
3E055
3E118
4C083
【Fターム(参考)】
3E055AA02
3E055CA08
3E055CA10
3E055CB08
3E055EA07
3E055EA10
3E055EB01
3E055FA03
3E118AA04
3E118AB18
3E118BA07
3E118BB21
3E118CA03
3E118DA02
3E118EA03
3E118EA08
3E118FA03
4C083CC11
4C083CC19
4C083DD21
4C083FF06
(57)【要約】
【課題】充填対象物を容器に充填する際に、固化した充填対象物が容器下部に付着しづらい製造装置及び製造方法を提供すること。
【解決手段】本製造装置は、流動体Lを吐出するノズル20と、ノズル20の先端を覆うように配された弾性部材30とを備える。弾性部材30は、少なくとも流動体Lの吐出時に該ノズルの内外を連通する開孔31を有する。開孔31は、流動方向Rと直交する横方向の断面積が、流動体Lの吐出時に生じる圧力に応じて増減する。開孔31の自然状態における断面積が、前記ノズルの流路における前記断面積よりも小さい。弾性部材30と容器の底部に設けられた充填孔85とを当接させた状態で流動体Lをノズル20から吐出し、流動体Lを容器内に充填できるように構成されている。本発明は、化粧料を含む流動体を用いて容器内充填物としての固形化粧料を製造する方法も提供する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を含む流動体を容器底部に設けた充填孔から該容器内に充填する、容器内充填物の製造装置であって、
前記製造装置は、前記流動体を圧送するポンプと、該流動体を流通させるチューブと、該流動体を吐出するノズルと、該ノズルの先端を覆うように配された弾性部材とを備え、
前記弾性部材は、少なくとも前記流動体の吐出時に該ノズルの内外を連通する開孔を有し、
前記開孔は、前記流動体の流動方向と直交する横方向の断面積が、前記流動体の吐出時に生じる圧力に応じて増減するように構成されており、且つ
前記開孔は、その自然状態における前記断面積が、前記ノズルの流路における前記断面積よりも小さく構成されており、
前記弾性部材と容器の底部に設けられた充填孔とを当接させた状態で前記流動体を前記ノズルから吐出することで、前記流動体を前記開孔及び前記充填孔を介して該容器内に充填できるように構成されている、容器内充填物の製造装置。
【請求項2】
前記弾性部材が、ニトリルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、またはフッ素ゴムである、請求項1に記載の製造装置。
【請求項3】
前記ノズルの断面積に対する前記開孔の自然状態での面積の百分率が10%以上90%以下である、請求項1又は2に記載の製造装置。
【請求項4】
化粧料を含む流動体を圧送するポンプと、該流動体を流通させるチューブと、該流動体を吐出するノズルと、該ノズルの先端を覆うように配された弾性部材とを用い、
前記弾性部材と容器の底部に設けられた充填孔とを当接させた状態で前記流動体を前記ノズルから吐出することで、前記流動体を前記弾性部材に設けられた開孔及び前記充填孔を介して該容器内に充填し、充填された該流動体を固化させる工程を有し、
前記開孔は、少なくとも前記流動体の吐出時に該ノズルの内外を連通するように構成されており、
前記開孔は、前記流動体の流動方向と直交する横方向の断面積が、前記流動体の吐出時に生じる圧力に応じて増減するように構成されており、且つ
前記開孔は、その自然状態における前記断面積が、前記ノズルの流路における前記断面積よりも小さく構成されており、
前記弾性部材と前記充填孔とを当接させた状態で前記流動体を吐出させることで前記開孔を拡開させて、該流動体を前記容器内に充填する、固形化粧料の製造方法。
【請求項5】
前記弾性部材として、ニトリルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、またはフッ素ゴムを用いる、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ノズルの断面積に対する前記開孔の自然状態での面積の百分率が10%以上90%以下である前記弾性部材を用いる、請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記流動体が揮発性溶媒を含有し、
前記流動体を前記充填孔から前記容器内に充填し、その後、充填された該流動体から前記揮発性溶媒を吸引除去することで該流動体を固化させる、請求項4~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器内充填物の製造装置及び固形化粧料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アイシャドウやファンデーション等といった固形化粧料は、化粧料成分を含む流動体(スラリー)を皿状の容器に充填して製造されるのが一般的である。その製造方法としては、例えば、化粧料成分である粉体及び油剤に水やアルコールなどの揮発性液媒を混合してスラリー状としたものを容器に充填し、その後、液媒を除去する湿式法がある。
【0003】
斯かる湿式法の製造方法としては、充填容器の上部が開口した上部開口部から充填対象物を充填する充填方法(いわゆるフロント充填)と、皿状の容器における底部に掲載された充填孔から化粧料を含むスラリーを充填して製造する方法(いわゆるバック充填)がある。特許文献1には、スラリーをバック充填するとともに、容器上面の開口部を溶媒除去できる治具で塞いで、スラリーにおける溶媒を吸引除去する製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、フローマークや亀裂などを生じにくくして、固形化粧料の外観不良を低減することを目的として、充填圧力の調整、ポンプのサックバック機構、充填ノズルのシャット弁機構等の各種機構を設けた固形化粧料の製造装置が開示されている。
【0005】
特許文献3には、化粧料の漏れを抑制することを目的として、弾性部材がノズル本体の先端に取り付けられた化粧料の充填装置が開示されている。この弾性部材は、ノズル本体を容器に向かって付勢することによって、容器と当接して弾性変形することで化粧料の流路を密閉するためのものであることも同文献に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭56-128107号公報
【特許文献2】特開2013-1667号公報
【特許文献3】特開2015-77990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したバック充填によって充填対象物を容器内に充填する場合、その充填後に、容器下部の貫通孔の周囲に充填対象物が付着することがある。この状態で以後の工程に供すると、容器下部と接触した製造装置が容器下部の付着物で汚染したり、容器の貫通孔の周囲に固化付着した充填対象物によって充填物の亀裂や割れが生じたりしやすい。これらの点を両立して解決することに関し、特許文献1~3の技術は十分なものとは言えない。
【0008】
したがって、本発明は、バック充填によって充填対象物を容器に充填する際に、固化した充填対象物が容器下部に付着しづらい製造装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、容器内充填物の製造装置に関する。
前記製造装置は、液体を含む流動体を容器底部に設けた充填孔から該容器内に充填するものであることが好ましい。
前記製造装置は、該流動体を圧送するポンプと、該動体を流通させるチューブと、該流動体を吐出するノズルと、該ノズルの先端を覆うように配された弾性部材とを備えることが好ましい。
前記弾性部材は、少なくとも前記流動体の吐出時に該ノズルの内外を連通する開孔を有することが好ましい。
前記開孔は、前記流動体の流動方向と直交する横方向の断面積が、前記流動体の吐出時に生じる圧力に応じて増減するように構成されていることが好ましい。
前記開孔は、その自然状態における前記断面積が、前記ノズルの流路における前記断面積よりも小さく構成されていることが好ましい。
前記弾性部材と容器の底部に設けられた充填孔とを当接させた状態で前記流動体を前記ノズルから吐出することで、前記流動体を前記開孔及び前記充填孔を介して該容器内に充填できるように構成されていることが好ましい。
【0010】
また本発明は、固形化粧料の製造方法に関する。
前記製造方法は、化粧料を含む流動体を圧送するポンプと、該流動体を流通させるチューブと、該流動体を吐出するノズルと、該ノズルの先端を覆うように配された弾性部材とを用いることが好ましい。
前記製造方法は、前記弾性部材と容器の底部に設けられた充填孔とを当接させた状態で前記流動体を前記ノズルから吐出することで、前記流動体を前記弾性部材に設けられた開孔及び前記充填孔を介して該容器内に充填し、充填された該流動体を固化させる工程を有することが好ましい。
前記開孔は、少なくとも前記流動体の吐出時に該ノズルの内外を連通するように構成されていることが好ましい。
前記開孔は、前記流動体の流動方向と直交する横方向の断面積が、前記流動体の吐出時に生じる圧力に応じて増減するように構成されていることが好ましい。
前記開孔は、その自然状態における前記断面積が、前記ノズルの流路における前記断面積よりも小さく構成されていることが好ましい。
前記製造方法は、前記弾性部材と前記充填孔とを当接させた状態で前記流動体を吐出させることで前記開孔を拡開させて、該流動体を前記容器内に充填することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、充填対象物を容器に充填する際に、固化した充填対象物が容器下部に付着しづらい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の製造装置の一実施形態において、該製造装置の一部を構成する充填部を容器とともに模式的に示す断面図である。
図2図2(a)は、流動体を吐出していない状態におけるノズル先端及びその近傍の一実施形態を模式的に示す断面の要部拡大図であり、図2(b)は図2(a)のI-I線における弾性部材及び開孔の形態を模式的に示す断面図である。
図3図3(a)は、流動体の吐出状態におけるノズル先端及びその近傍の一実施形態を模式的に示す断面の要部拡大図であり、図3(b)は図3(a)のII-II線における弾性部材及び開孔の形態を模式的に示す断面図である。
図4図4(a)~(d)は、図1に示す充填部を備える製造装置を用いた本発明の製造方法に係る各工程の一実施形態を、該充填部とともに模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の製造装置及び製造方法は、容器内に充填対象物が充填された容器内充填物を好適に製造可能なものである。
【0014】
本発明の製造装置及び製造方法として、底部を有し且つ上部が開口した容器を用い、容器の底部に設けられた貫通孔である充填孔から、充填対象物である流動体を容器の底部側から容器内に充填できる方式を適用可能な構成を採用することが好ましい。この方式は、本技術分野において、いわゆるバック充填と呼ばれるものである。この充填方式を採用することによって、立体的な形状を有する充填物を製造しやすく、機械による自動化に適するように目的とする充填物を製造でき、生産性が向上する。
なお本発明は、いわゆるバック充填を適用可能に構成される限りにおいて、容器の上部側から充填対象物を充填可能な構成を更に採用することは妨げられないが、好ましくはバック充填のみを行う。
【0015】
本発明は、流動体を容器に充填し、その後、必要に応じて該流動体を固化させるために好適に適用可能である。流動体は、液体そのものであるか、液体を含むものであることが好ましい。すなわち、本発明の流動体は、固体のみの形態又は気体のみの形態は除外される。
このような流動体としては、例えば、充填対象物と、液体である分散媒とを含む混合物である分散液や、充填対象物を液体の溶媒に溶解させた溶液、あるいは、充填対象物の単体又は充填対象物を含む組成物を加熱溶融させた溶融液などが挙げられる。分散液としては、固体の粉体である充填対象物が液体の分散媒や乳化液に分散されてなるスラリーや、充填対象物と分散媒とを乳化させた乳化液等が挙げられる。
このような流動体としては、例えば食品、外用剤、化粧料等が挙げられるが、これらに限られない。流動体及びその構成材料の詳細は後述する。
【0016】
以下に、本発明の一実施形態を図1ないし図4を適宜参照して説明する。図1には、本発明の製造装置の一部を構成する充填部10が、容器80とともに示されている。
なお図示していないが、本発明の製造装置は、流動体を圧送するポンプと、流動体を流通させるチューブとを更に備える。チューブはその一方がポンプと接続され、その他方が後述するノズル20と接続されており、ポンプ及びノズル20はチューブを介してそれぞれ連通している。
【0017】
本実施形態に用いられる容器80は、底部81及び上部開口部82を有し、底部81に設けられた貫通孔である充填孔85を備える。充填孔85は単独で又は複数設けられていてもよい。本実施形態の容器80は、底部周縁から滑らかに接続されて立設した側壁部を有し、底部上面及び側壁部における内側壁に囲まれた空間に流動体Lを充填及び保持できるようになっている。
【0018】
図1図3に示すように、製造装置の一部を構成する充填部10は、ノズル20と、ノズル20の先端を覆うように配された弾性部材30とを備える。製造装置の一部を構成する充填部10は、弾性部材30と充填孔85とを当接させた状態で流動体Lをノズル20から吐出することで、流動体Lを容器80内に充填できるように構成されている。これに加えて、製造装置は、充填治具40を備えることが好ましい。
【0019】
製造装置は、ノズル20の位置及び充填治具40の位置をそれぞれ独立して上下に変位させる昇降機構(図示せず)を更に有していることも好ましい。これによって、ノズル20及び充填治具40と容器80との間隔や、各部材の当接の度合いを調整できるようになっている。また製造装置は、上述の構成に加えて、ノズル20や充填治具40等を所定の位置に固定する部材や容器の搬送機構(図示せず)などを備えていてもよい。これらは、当該分野で用いられる通常のものを用いることができる。
【0020】
ノズル20は、液体を含む流動体Lを容器に向けて吐出する管状の部材である。ノズル20は、その内部に形成された空間である流動体の流路がその流動方向(図1中、符号Rとして示す)に沿って形成されている。ノズル20は少なくとも1本備えられており、容器80の充填孔85の個数と対応するように、単独で又は複数設けられていてもよい。
ノズル20は、その一方の端部が流動体の吐出口を構成し、他方の端部は上述したチューブを介して、上述したポンプと連通するように接続されている。これによって、ポンプの制御を受けて流動体Lを吐出するための圧力が付与されて、所定量の流動体Lがノズルの吐出口に向けて連続的に又は非連続的に供給されたり、供給が停止されたりするように構成されている。
【0021】
ノズル20は、流動体Lの流動方向Rに沿ってみたときに、流動方向Rと直交する横方向での断面視における断面積(以下、これを単に「断面積」ともいう)が略変化しない筒状のものであってもよく、ノズル20の内径が流動方向Rに向けて連続的に若しくは段階的に狭くなるか、又は連続的に若しくは段階的に広くなるものであってもよい。いずれの場合であっても、ノズル20の断面視形状は、圧力の均一性の観点から、好ましくは外形の形状及び流路の形状(内部の断面形状)はともに真円状である。
ノズルの構成材料は特に限定されず、例えば金属やプラスチックなどを採用できる。
【0022】
製造装置の一部を構成する充填部10は、所定の形状を有する弾性部材30を備えることを特徴の一つとしている。弾性部材30は、ノズル20の先端を覆うように配されている弾性変形可能な部材である。
弾性部材30は、その自然状態において、流動方向Rと直交する横方向で断面視したときに開孔31が形成されている。開孔31は少なくとも流動体Lの吐出時において、該ノズルの内外を連通する空間を形成する。本実施形態の開孔31は、流動方向Rに沿って延びるように形成された空間となっており、ノズル20と連通して流動体Lの流路をともに形成している。これによって、ノズル20から吐出される流動体Lを、開孔31及び充填孔85を介して容器80内に充填できるように構成されている。
【0023】
なお、本明細書における「開孔」は、その自然状態において孔が視認できる程度の開口、並びに、自然状態において実質的に開口していない切れ込み(いわゆるスリット)を有する形態も含む。つまり、流動体Lの非吐出状態における開孔31の自然状態での断面積は、前者のように該断面積がゼロを超える値となるように開孔31の開口状態が維持されている(すなわち開孔31が非閉塞である)状態であってもよく、これに代えて、後者のように流動体Lの非吐出状態における開孔31の自然状態での断面積がゼロである(すなわち開孔31が閉塞している)状態であってもよい。いずれの形態であっても、流動体Lの吐出時においては少なくとも、ノズルの内外を連通する貫通孔となる。
開口の形態である場合は、弾性部材30の自然状態及び流動体Lの吐出時の双方において、該ノズルの内外が連通した状態となっている。スリットの形態である場合は、弾性部材30の自然状態においては連通していないが、流動体Lの吐出時において該ノズルの内外を連通した状態となる。また、この開孔は、自然状態において、弾性部材30の流動方向Rに沿う全域に連続して形成されていることが好ましい。
【0024】
ノズル20と同様に、開孔31は、その断面積が流動方向Rに沿って略変化しない筒状のものであってもよく、該断面積が流動方向Rに向けて連続的に若しくは段階的に狭くなるか、または広くなっていてもよい。流動体Lを吐出したあとの流動体Lの切れを良好にして、流動体Lが容器底部に意図せず付着することを防止する観点から、ノズルの先端部(すなわち流動方向R)に向かうにつれて、開孔31の自然状態における断面積が小さくなっていることが好ましい。いずれの場合であっても、開孔31の自然状態における断面視形状は、付与される圧力の均一性の観点から、好ましくは真円状である。
本実施形態における弾性部材30は、自然状態において、ノズル20の断面視外形と一致するように配されている。また本実施形態における弾性部材30は、軸方向に沿う断面視において、その先端が外方に向かって凸状に形成されているが、この形態に限られず、該先端は平坦となっていてもよい。
【0025】
弾性部材30における開孔31は、その断面積が、流動体Lの吐出時に生じる圧力に応じて増減するように構成されている。断面積の増減は、流動体Lの吐出時に生じる圧力の変化に応じて連続的に変化することも好ましい。具体的には、弾性部材30における開孔31は、流動体Lの非吐出状態における断面積が、流動体Lの吐出状態における流路の断面積よりも小さくなるように構成されていることが好ましい。
【0026】
詳細には、図2(a)及び(b)に示すように、流動体Lの吐出前、吐出終了時、あるいは吐出が停止している状態の場合には、圧力が減少するか又は発生していないので、当該状態における開孔31は吐出時の状態よりも断面視内方に収縮した状態となる。その結果、当該状態における開孔31の断面積は、自然状態の断面積となっているか、又は、流動体Lの吐出時における開孔31の断面積よりも連続的に又は段階的に減少している。
他方、図3(a)及び(b)に示すように、流動体Lを外部に吐出する時には流動圧が生じ、断面視における内方から外方に向かう圧力が弾性部材30に付与されるので、当該状態における開孔31は、自然状態よりも断面視外方に拡開した状態となる。その結果、当該状態における開孔31の断面積は、開孔31の自然状態での断面積よりも連続的に又は段階的に増加する。
【0027】
上述した構成を有する弾性部材30の材質としては、弾性変形可能な各種の材料が挙げられ、例えば、スポンジやゴムから選ばれる1又は2以上を用いることができる。
スポンジとしては、例えば、合成樹脂又は天然樹脂を発泡させた多孔質材料が挙げられ、例えばウレタンゴム、ポリエチレン、メラミン、天然ゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどを用いることができる。
ゴムとしては、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エチレン酢酸ビニルゴム、エビクロルヒドリンゴム、多流化ゴムなどを用いることができる。
【0028】
これらのうち、弾性部材30は、ニトリルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、またはフッ素ゴムであることが好ましく、シリコーンゴムであることがより好ましい。弾性部材としてこれらのゴムを用いることによって、容器に充填された充填物の見栄えを良好にして、製造物の外観を更に向上させることができる。
【0029】
充填対象物を容器下部に付着し難くする観点から、ISO7619に準拠して測定された弾性部材30のゴム硬度(ショアA)は、好ましくは20度以上、より好ましくは30度以上、更に好ましくは45度以上であり、また、好ましくは70度以下、より好ましくは65度以下、更に好ましくは60度以下である。
また同様の観点から、弾性部材30の流動方向Rと直交する横方向の厚みは、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1.0mm以上であり、また、好ましくは4.0mm以下、より好ましくは3.0mm以下である。
【0030】
開孔31の自然状態での断面積A1とノズル20の断面積A2との関係においては、開孔31の自然状態における断面積A1が、ノズル20の流路における断面積A2よりも小さく構成されていることが好ましい。
詳細には、ノズル20の断面積A2に対する開孔31の自然状態での断面積A1の百分率(100×A1/A2)が、好ましくは0%以上、より好ましくは10%以上、更に好ましくは20%以上、一層好ましくは30%以上であり、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、更に好ましくは70%以下である。このような割合となっていることによって、流動体Lの容器内への充填効率を高めつつ、製造物の外観を更に向上させることができる。
上述したノズル20及び開孔31の各断面積の関係は、流動体Lの流路である内部空間の断面積を基準とする。
【0031】
開孔31の自然状態での断面積A1は、製造装置の規模や流動体の物性、吐出圧力等に応じて適宜変更可能であり、スリット等の非閉塞の形態である場合は0mmであっても良い。開口の形態である場合、前記断面積A1は、好ましくは0.19mm以上、より好ましくは0.78mm以上であり、好ましくは3.14mm以下、より好ましくは1.76mm以下である。このような断面積であることによって、流動体Lの容器内への充填効率を高めつつ、充填孔85及びその近傍への付着物の発生を低減して、製造物の外観を更に向上させることができる。
流動体Lの吐出時における開孔31の断面積は、流動体Lの吐出圧力や弾性部材の材質等に応じて適宜変更可能であるが、開孔31の自然状態の断面積よりも大きいことが好ましい。
【0032】
ノズル20が備える流路の断面積A2は、製造装置の規模や流動体の物性、吐出圧力等に応じて適宜変更可能であるが、好ましくは0.78mm以上、より好ましくは3.14mm以上であり、好ましくは12.56mm以下、より好ましくは19.6mm以下である。このような断面積であることによって、流動体Lのノズル内での詰まりを低減して、流動体Lの容器内への充填効率を高めることができる。
【0033】
ノズル20の断面視において、流動体Lの流路となるノズル20の内部空間が円形状である場合、ノズル20の最小内径D1(図2(a)参照)は、直径で表して、好ましくは0.78mm以上、より好ましくは1.76mm以上、更に好ましくは3.14mm以上であり、好ましくは19.6mm以下、より好ましくは12.5mm以下、更に好ましくは7.06mm以下である。このような内径を有することによって、流動体Lのノズル内での詰まりを低減して、一定量の流動体Lを効率的に吐出することができる。
【0034】
開孔31の開口寸法は、スリット等の閉塞の形態である場合は0mmであっても良い。開孔が開口の形態であり自然状態で非閉塞であるとともに、該開孔が断面視円形状である場合、開孔31の自然状態における最小内径D3(図2(b)参照)は、直径で表して、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは0.75mm以上、更に好ましくは1.0mm以上であり、好ましくは2.0mm以下、より好ましくは1.75mm以下、更に好ましくは1.5mm以下である。またこの最小内径は、流動体Lの吐出口端において満たすことも好ましい。このような内径を有することによって、流動体の容器内への充填効率を高めつつ、流動体を吐出したあとの流動体の切れを良好にして、流動体が容器底部に意図せず付着することを防止することができる。
【0035】
図1に示すように、製造装置の一部を構成する充填部10は、充填治具40を備えることが好ましい。本実施形態における充填治具40は、その下面が容器80の上部開口部82と対向するように配される部材である。充填治具40の下面の平面視形状は、容器80の上部開口部82の平面視形状と概ね一致しており、充填治具40の下面の平面視寸法は、上部開口部82の平面視における内寸法と概ね一致している。したがって、流動体の充填時又は充填後において、上部開口部82が覆われるように充填治具40を配することによって、充填された流動体の上面を平坦となるようにしたり、該流動体を固化させたり、あるいは流動体又は充填物を鉛直方向に加圧したりすることができる。
必要に応じて、製造装置の一部を構成する充填部10は、容器80の底面側に位置し、且つ充填治具40と対向して配された支持部材(図示せず)を更に備えていてもよい。支持部材を備える場合、この支持部材上に容器80を配した状態で、充填治具40と支持部材とを相対的に近接又は離間させることによって、流動体Lの充填量(容器80内の充填厚み)を制御したり、あるいは流動体又は充填物を鉛直方向に加圧又は加圧の解除をしたりすることができる。
【0036】
本実施形態における充填治具40は、図1に示すように、連通した一つ又は二つ以上の連通孔41を充填治具40の内部に備えていてもよい。連通孔41は、その一方側が充填治具40における流動体Lと対向又は当接する面である充填治具40の下面に開口しており、その他方側は吸引ポンプ(図示せず)に接続されている。これによって、流動体Lの充填時又は充填後に、流動体Lに含まれる液体を吸引除去できるように構成されている。例えば、流動体Lが液体及び固体を含むスラリーである場合には、液体を吸引除去することで、固体を容器中に残存させてスラリーを固化させることができる。
【0037】
製造装置は、必要に応じて、上述した構成に加えて、充填物の充填量や充填状態を制御するために、チューブ内の圧力、ポンプのトルク、又は流動体Lの流量を計測する部材、並びにこれら物性値を検出し、充填を制御する制御機構を取り付けてもよい。これらは、当該分野で用いられる通常のものを用いることができる。
【0038】
以下に、上述の構成を有する製造装置を用いた製造方法の一実施形態を図4(a)~(d)を参照して説明する。本製造方法は、開孔31を有する弾性部材30が先端を覆うように配されたノズル20を用い、流動体Lを容器80の底部81に設けられた充填孔85を介して容器80内に充填し、その後、充填された流動体Lを固化させる工程を有する。
上述した実施形態と同様の構成部分は同一の符号を付して説明を省略する。特に説明しない構成部分は、上述した実施形態についての説明が適宜適用される。
【0039】
以下の説明では、本製造方法に用いられる流動体Lとして、固体粉体及び油剤を含む化粧料成分と液体の分散媒とを含む化粧料スラリー(以下、単に「化粧料スラリー」と記載する)を用いた場合を例にとり説明する。
【0040】
図4(a)には、流動体Lを容器80に充填する前の状態が例示されている。化粧料スラリーは分散媒を除去することで容易に固化可能であるところ、分散媒の吸引除去を充分に達成しつつ、固体粉体の意図しない吸引や、充填治具40と充填された流動体Lとの直接的な接触に伴う製造装置の汚染を低減する観点から、充填治具40と容器80との間に布60を介在させて以後の工程を行うことが好ましい。
布60としては、液体を厚み方向に通過させるが、固体は厚み方向に通過せず容器内に残存する程度の空隙を有する部材が挙げられ、例えば各種の不織布を用いることができる。
流動体Lを構成する分散媒としては、後述する揮発性溶媒を用いることが好ましい。
【0041】
次いで、図4(b)に示すように、充填治具40と容器80とを相対的に近接させて、充填治具40の下面と上部開口部82とを布60を介して対向配置する。
これと同時に、又は充填治具40の近接よりも前に若しくは後に、容器80とノズル20とを相対的に近接させて、ノズル20の先端に配された弾性部材30と、容器底部に設けられた充填孔85とを、開孔31の位置と充填孔85の位置とが対応するように当接させる。
【0042】
続いて、図4(c)に示すように、弾性部材30における開孔31と充填孔85とを当接させた状態で流動体Lを流動方向Rに沿って吐出する。そして、吐出によって生じる圧力によって開孔31を拡開させ、流動体Lを開孔31及び充填孔85を介して容器80内に充填する。
これと同時に、又は流動体Lの充填の後で、充填治具40を上部開口部82の位置と対応するように配置して、流動体Lの上面に対して充填治具40を布60を介して当接させながら、流動体Lに含まれる液体Vを吸引除去する。吸引された液体Vは充填治具40内の連通孔41を通過し、吸引ポンプ(図示せず)側に吸引される。これによって、容器内に充填された流動体Lは、液体の少なくとも一部が除去されることで流動性を失って固化し、固化物Sとなる。流動体Lが化粧料スラリーである場合、固化物Sと流動体Lとは、分散媒となる液体の含有量の変化を除き実質的に同一の構成を有する。
【0043】
流動体Lの吐出圧力は、好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは0.15MPa以上、更に好ましくは0.2MPa以上であり、好ましくは1.0MPa以下、より好ましくは0.8MPa以下、更に好ましくは0.6MPa以下である。このような吐出圧力とすることによって、流動体の充填効率を高めつつ、製造装置の過負荷を低減することができる。上述の吐出圧力は、例えば、ポンプによって付与される圧力、ノズル20の形状や内径、あるいは流動体Lの粘度などを調整することで、適宜変更可能である。
【0044】
流動体Lの流量は、好ましくは30mL/min以上、より好ましくは60mL/min以上、更に好ましくは90mL/min以上であり、好ましくは1000mL/min以下、より好ましくは800mL/min以下、更に好ましくは600mL/min以下である。このような流量とすることによって、製造装置の過負荷を低減しつつ、生産効率を高めることができる。上述の流量は、例えば、ポンプによって付与される圧力、ノズル20の形状や内径、あるいは流動体Lの粘度などを調整することで適宜変更可能である。
【0045】
最後に、図4(d)に示すように、ノズル20からの流動体Lの吐出を停止した後、充填治具40及びノズル20、並びに必要に応じて配される布60をそれぞれ容器80から相対的に離間させて、容器80内に固化物Sが収容された充填物を得ることができる。流動体Lとして化粧料スラリーを用いた場合には、固化物Sは固形化粧料となる。
【0046】
ノズル20からの流動体Lの吐出が停止することで、吐出時の圧力が生じなくなるので、弾性部材30における開孔31は自然状態となるように収縮する。これによって、自然状態での開孔31の径と概ね一致し、ノズル20の内径よりも細い付着物が形成されるか、または開孔31が閉じることによって流動体が分断される。付着物が形成される場合、該付着物はノズルの離間の際に自然に脱落する程度の細さを有する。自然状態での開孔31が閉塞の形態である場合には、開孔31が閉塞し、これに伴ってノズル先端近傍に付着した流動体が切断され、流動体が容器側に付着しづらくなる。
これに加えて、又はこれに代えて、弾性部材30における開孔31が、充填孔85及びその近傍に付着し残存した流動体の付着物を切断するように又はぬぐうように機能する。一方で、容器80内の固化物Sの充填状態は、そのまま維持される。その結果、所定の開孔を有する弾性部材をノズル先端に設けるという、従来技術と比較して簡便な構成を採用することによって、固化した流動体が容器下部に付着しづらくなり、得られる容器内充填物の外観が向上する。
この点につき、例えば上述した特許文献2及び3に記載の技術はその構成が複雑であり且つノズル先端の径が変化しないので、ノズル先端に残存又は固化した流動体が容器側に付着してしまったり、充填孔及びその近傍に残存した付着物が除去できなかったりして、製造上の不具合並びに得られる製品の品質の不具合が生じやすい。
【0047】
容器80内に充填された固化物Sは、これをそのまま目的とする容器内充填物である固形化粧料としてもよく、あるいは更に別の工程を行って、目的とする容器内充填物としてもよい。
固化物Sの成形性を高めて、流通時及び使用時における耐衝撃性を向上させるとともに、充填物の使用感を高める観点から、流動体Lを固化させて容器80内に充填された固化物Sを得た後、固化物Sをその厚み方向に加圧する加圧工程を更に行うことが好ましい。
【0048】
加圧工程を更に行う場合、例えば、ノズル20を離間させた状態で、充填治具40を上部開口部82の位置と対応するように配置して、固化物Sの上面に対して充填治具40を布60を介して当接させながら、固化物Sを厚み方向に加圧する。固化物Sに対する加圧は、例えば、固化物Sが収容された容器80を支持部材又は板状部材に載置した状態で充填治具40を固化物Sに近接させて、充填治具40と支持部材又は板状部材との間で行うことができる。このとき、固化物の成形性を更に高める観点から、充填治具40によって加圧を行いながら、固化物Sに残存した液体Vを更に吸引除去することも好ましい。
【0049】
加圧工程を行う場合には、充填孔85の周囲に流動体L由来の付着物が残存していると、該付着物も厚み方向に加圧されてしまうので、付着物と厚み方向で重なる位置における固化物Sに過度な圧力が付与されて、充填物の亀裂や割れが生じやすい。
本製造方法においては、上述のとおり、固化した流動体が容器下部に付着しづらくなっているので、加圧工程を行った場合であっても、加圧に起因する充填物の亀裂や割れが生じにくい。その結果、高い成形性、耐衝撃性及び良好な使用感を兼ね備えつつ、外観が良好である高品質の充填物を安定的に製造できる点で特に有利である。
これに対して、例えば上述した特許文献2及び3に記載の技術は、充填孔及びその周囲に付着物が残存しやすいので、加圧工程時に発生し得る亀裂や割れを抑制することは困難である。その結果、外観が悪化し、得られる充填物は品質に劣るものとなる。
【0050】
高い成形性、耐衝撃性及び良好な使用感を高いレベルで兼ね備えた充填物を得る観点から、加圧工程において固化物Sに付与される圧力は、面積60mm当たり、好ましくは0.3kN以上、より好ましくは0.5kN以上、更に好ましくは1.0kN以上であり、好ましくは10.0kN以下、より好ましくは8.0kN以下、更に好ましくは6.0kN以下である。
【0051】
高い成形性、耐衝撃性及び良好な使用感を高いレベルで兼ね備えた充填物を得る観点から、加圧工程における加圧時間は、上述の圧力範囲であることを条件として、好ましくは0.5秒以上、より好ましくは1.0秒以上、更に好ましくは1.5秒以上であり、好ましくは20秒以下、より好ましくは15秒以下、更に好ましくは10秒以下である。
【0052】
図4(a)~(d)に示す各工程、並びに必要に応じて行われる以後の工程において、容器80を搬送する方法は特に限定されないが、充填孔85及びその近傍に意図せず固化付着した流動体が製造装置に付着することを低減して、製造装置のメンテナンスを効率的に行いやすくする観点から、容器80の底部が他の部材と接触しない搬送方法を採用することが好ましい。このような搬送方法としては、例えば、搬送用の部材として、容器80の底部が接触しないよう容器80を保持できるパレットを用いる方法が挙げられる。
【0053】
また上述の説明では、流動体Lとして化粧料スラリーを用いた場合を例にとり説明したが、本製造方法は、スラリー以外の流動体を用いた場合でも適用可能である。
例えば、流動体Lとして充填対象物を含む溶液を用いた場合には、該溶液を容器内に充填した後、減圧等の公知の方法で容器内の溶液から溶媒を除去して、充填対象物を析出させて固化させればよい。
また例えば、流動体Lとして充填対象物を含む加熱溶融液や乳化液を用いた場合には、該溶融液を容器内に充填した後、容器内の溶融液を冷却する等して、該溶融液を固化させればよい。溶融液や乳化液を用いる場合には、少なくともノズル20から吐出する際において液体の状態であれば適用可能である。上述した冷却は、容器内に充填したあとの充填物の温度を吐出する流動体の温度よりも低下させる趣旨であり、加熱状態の物体を常温等に温度低下させる態様の他に、冷蔵や冷凍も包含する。
【0054】
以上の工程を経て、目的とする容器内充填物を得ることができる。容器内充填物の一実施形態は、固形化粧料である。必要に応じて、容器内充填物を包装袋や包装箱等に収容する包装工程を行って、市場に流通させることができる。
【0055】
以下に、各実施形態に適用可能な事項について説明する。特に断りのない限り、以下に説明する物質の状態(三態)は、1気圧、20℃を基準とする。
【0056】
容器80における充填孔85は、その平面視形状に制限はないが、好ましくは真円状であり、且つ径が変化しない筒状のものである。
充填孔85が断面視円形状である場合、充填孔85の最小内径は、直径で表して、好ましくは1.0mm以上、より好ましくは1.5mm以上、更に好ましくは2.0mm以上であり、好ましくは5.0mm以下、より好ましくは4.0mm以下、更に好ましくは3.0mm以下である。このような内径を有することによって、流動体の容器内への充填効率を高めつつ、流動体を吐出したあとの流動体の切れを良好にして、流動体が容器底部に意図せず付着することを防止することができる。
【0057】
容器80の材質は、本発明の効果が奏される限りにおいて特に制限なく使用でき、例えばプラスチックやアルミニウム等を用いることができる。
容器80の内容積は、目的とする容器内充填物の容量に応じて適宜変更可能であるが、好ましくは0.5cm以上であり、好ましくは20cm以下である。
【0058】
本発明に用いられる流動体は、流動体に含まれる材料の均一分散性を向上し品質を安定化させる観点から、その粘度が、好ましくは100mPa・s以上、より好ましくは500mPa・s以上、更に好ましくは1000mPa・s以上であり、また、吐出性を向上させ、容器への充填性をより容易にする観点から、好ましくは30000mPa・s以下、より好ましくは20000mPa・s以下、更に好ましくは10000mPa・s以下である。
上述した流動体の粘度は、例えば流動体がスラリーである等といった加熱溶融液以外のものである場合には、25℃において、B型粘度計(東機産業社製、TVB-10形粘度計)を用いて測定された値とする。この場合の測定条件は、ロータNo.H3、回転数は20rpmとする。流動体が加熱溶融液である場合、流動体の温度を充填時の流動体と同じ温度にした上で、前述の測定条件にて粘度を測定する。
【0059】
本発明に用いられる流動体は、充填対象物として、粉体等の固体及び油剤のうち一種又は二種以上を含むことが好ましい。このような流動体としては、例えば、ゼリーやプリン、ヨーグルト、グミ、アイスクリーム、マヨネーズ、ドレッシング、ジャム、蜂蜜等の容器に充填された食品;軟膏等の皮膚外用剤;メイクアップ化粧料やUV化粧料などの化粧料成分;等が挙げられる。
【0060】
容器内充填物として化粧料を製造する場合には、流動体は、例えば、着色顔料及び体質顔料などの通常の化粧料成分に用いられる粉体を含むことが好ましい。
着色顔料及び体質顔料としては、例えば、ケイ酸、無水ケイ酸、ケイ酸マグネシウム、タルク、セリサイト、マイカ、カオリン、ベンガラ、クレー、ベントナイト、雲母、チタン被膜雲母、オキシ塩化ビスマス、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化鉄、群青、酸化クロム、水酸化クロム、カラミン、カーボンブラック、チッ化ホウ素これらの複合体等の無機粉体;ポリアミド、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリウレタン、ビニル樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、ケイ素樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ジビニルベンゼン・スチレン共重合体、シルクパウダー、セルロース、長鎖アルキルリン酸金属塩、N-モノ長鎖アルキルアシル塩基性アミノ酸、これらの複合体等の有機粉体;及び前記無機粉体と前記有機粉体との複合粉体などが挙げられる。
これらの体質顔料や着色顔料は、着色しているか又は非着色(例えば、白色又は本質的に透明)であり、組成物又は皮膚に対して、着色、光の回折、油分吸収、半透明性、不透明性、光沢、光沢のない外観、すべすべ感などのうちの一つ以上の効果を提供し得る。
【0061】
流動体中における粉体の含有量は、その目的に応じて異なるが、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは40質量%以上であり、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。このような範囲であることで、固形化粧料を製造した場合に、化粧料としての良好な発色性を高めることができる。
同様の観点から、流動体中における粉体の平均粒径は、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。平均粒径は、例えばレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置で測定される累積体積50容量%における体積累積粒D50とすることができる。
【0062】
流動体中に含まれ得る油剤は、1気圧、20℃で液体の油(以下、これを液体油ともいう。)、及び1気圧、20℃で固体の油(以下、これを固体油ともいう。)のうち一種又は二種以上が挙げられる。
【0063】
液体油としては、例えば、流動パラフィン、スクワラン等の直鎖又は分岐の炭化水素油;ホホバ油、オリーブ油等の植物油、液状ラノリン等の動物油、モノアルコール脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステル等のエステル油;ジメチルポリシロキサン、ジメチルシクロポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、高級アルコール変性オルガノポリシロキサン等のシリコーン油;ポリエチレングリコール等の高分子アルコール;などが挙げられる。
固体油としては、例えば、ワセリン、セタノール、ステアリルアルコール、セラミド等が挙げられる。
【0064】
流動体中における油剤の含有量は、その目的に応じて異なるが、総量として、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上であり、さらに好ましくは4質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。このような範囲であることで、固形化粧料を製造した場合に、化粧料としての良好な発色性や感触を高めることができる。
【0065】
流動体は、目的とする容器内充填物の種類に応じて、増粘剤、皮膜剤、界面活性剤、糖、多価アルコール、水溶性高分子、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、アミノ酸、有機アミン、pH調整剤、皮膚コンディショニング剤、ビタミン、酸化防止剤、香料、防腐剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤等の一種又は二種以上の成分を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜含有することができる。
紫外線吸収剤としては、例えばジヒドロキシベンゾフェノン、ジヒドロキシジメトキシベンゾフェノン、ヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルホン酸塩、ジヒドロキシジメトキシベンゾフェノンジスルホン酸塩等のベンゾフェノン誘導体、メトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル等のメトキシ桂皮酸誘導体、から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
紫外線散乱剤としては、例えば平均粒径が0.1μm以下の微粒子からなる酸化亜鉛、酸化チタン及びシリカ等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0066】
流動体は、液媒を更に含むことも好ましい。液媒は、充填対象物を溶解又は分散させる溶媒又は分散媒として使用することができる液体である。流動体をスラリーの形態とする場合、該流動体は、粉体及び液媒を少なくとも含むことが好ましい。化粧料スラリーの形態とする場合には、流動体は、上述した顔料を含む粉体、油剤及び液媒を少なくとも含むことが好ましい。
【0067】
上述した液媒としては、例えば、水、アルコール及びケトン等の、液体の状態において揮発性を有する物質(揮発性溶媒)の一種又は二種以上が好ましく挙げられる。
アルコールとしては、例えば一価の炭素数1~6の鎖式脂肪族アルコールや、一価の炭素数3~6の環式脂肪族アルコールや、一価の芳香族アルコールが好適に用いられる。それらの具体例としては、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、フェニルエチルアルコール、プロパノール、ペンタノールなどが挙げられる。
ケトンとしては例えば炭素数3~6の鎖式脂肪族ケトンや、炭素数3~6の環式脂肪族ケトンや、炭素数8~10の芳香族ケトンが好適に用いられる。それらの具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノンなどが挙げられる。
上述した製造工程における吸引除去の効率を高める観点から、液媒として、水及びエタノールのうち少なくとも一種を用いることが更に好ましい。
【0068】
流動体に液媒を含む場合、流動体中における液媒の含有量は、その目的に応じて異なるが、総量として、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、さらに好ましくは30質量%以上であり、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。このような範囲であることで、流動体の構成材料の均一分散性を高めつつ、取り扱い性を高めることができる。
【実施例0069】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0070】
〔実施例1〕
図1図4に示す充填部10を備える製造装置を用い、容器内充填物として、化粧料が充填容器内に充填された固形化粧料を以下の方法で製造した。以下の製造条件は、いずれも1気圧、20℃で行った。
【0071】
<1.流動体の調製>
まず、油剤13.3質量%及び界面活性剤1.6質量%を量り取り、60℃に加熱して均一な油相とした。次に、60℃に加熱した水33.3質量%に防腐剤0.2質量%を添加して水相とし、前記油相に投入し、ホモミキサーにて6,000rpmで5分間混合した。その後、ヘラで撹拌しながら水冷し乳化物を得た。得られた乳化物に、顔料を含む粉体51.6質量%を投入し、自転公転ミキサーにて、150秒間混練して、目的とする流動体(化粧料スラリー)を調製した。上述の方法で測定した流動体の粘度は、25℃において、4540mPa・sであった。
【0072】
<2.容器内充填物の製造>
得られた流動体を、製造装置を用いて容器に充填した。容器80は、厚さ3.5mmの底部81と、該容器80の平面視内寸法が22.8mm×26.5mmである上部開口部82と、底部81を厚み方向に貫通し、直径3.0mmの充填孔85とを1つ有するものを用いた。この容器内に以下の条件で充填して、目的とする容器内充填物としての固形化粧料を製造した。
詳細には、内径直径3.0mm、外径直径4.5mmである断面視真円状を有し、材質がSUS製であるノズル20の先端に、弾性部材30としてシリコーンゴム(SMC社製、ZP3-04BS)を取り付けた。弾性部材30の開孔31は、自然状態での断面視において直径が1.8mmの真円形の開口であり、その断面積は2.54mmであり、ノズルの断面積に対する百分率は36%であった。弾性部材30の開孔は、その断面積が、化粧料スラリーの吐出時に生じる圧力に応じて増減するものであった。ISO7619に準拠して測定された弾性部材30のゴム硬度(ショアA)は、60度であった。
【0073】
そして、弾性部材30と充填孔85とを当接させた状態で、化粧料スラリーを圧力0.4MPa、流量166mL/minにてノズル20から吐出して、化粧料のスラリーを開孔31及び充填孔85を介して容器80内に充填した。これと同時に、充填治具40を容器80の上部開口部82側から布を介在させた状態で圧接させつつ、スラリーから分散媒を吸引除去し、充填されたスラリーを固化した。
その後、充填治具40を用いて、固化物中に残存した分散媒を更に吸引除去しながら、該固化物を0.7kN/60mmの荷重にて2秒間厚み方向に加圧して、目的とする固形化粧料を得た。
【0074】
〔実施例2〕
弾性部材をニトリルゴム(SMC社製、ZP3-04BN)に変更した以外は、実施例1と同様の条件及び方法で、容器内に充填された固形化粧料を製造した。
本実施例で用いた弾性部材の開孔は、自然状態での断面視において直径が1.8mmの真円形の開口であり、その断面積は2.54mmであり、ノズルの断面積に対する百分率は36%であった。弾性部材30の開孔は、その断面積が、化粧料スラリーの吐出時に生じる圧力に応じて増減するものであった。ISO7619に準拠して測定された弾性部材30のゴム硬度(ショアA)は、60度であった。
【0075】
〔実施例3〕
弾性部材をウレタンゴム(SMC社製、ZP3-04BU)に変更した以外は、実施例1と同様の条件及び方法で、容器内に充填された固形化粧料を製造した。
本実施例で用いた弾性部材の開孔は、自然状態での断面視において直径が1.8mmの真円形の開口であり、その断面積は2.54mmであり、ノズルの断面積に対する百分率は36%であった。弾性部材30の開孔は、その断面積が、化粧料スラリーの吐出時に生じる圧力に応じて増減するものであった。ISO7619に準拠して測定された弾性部材30のゴム硬度(ショアA)は、60度であった。
【0076】
〔実施例4〕
弾性部材をフッ素ゴム(SMC社製、ZP3-04BF)に変更した以外は、実施例1と同様の条件及び方法で、容器内に充填された固形化粧料を製造した。
本実施例で用いた弾性部材の開孔は、自然状態での断面視において直径が1.8mmの真円形の開口であり、その断面積は2.54mmであり、ノズルの断面積に対する百分率は36%であった。弾性部材30の開孔は、その断面積が、化粧料スラリーの吐出時に生じる圧力に応じて増減するものであった。ISO7619に準拠して測定された弾性部材30のゴム硬度(ショアA)は、60度であった。
【0077】
〔実施例5〕
弾性部材に設けられた開孔を、自然状態での断面視において直径1.2mmの真円形の開口に変更した以外は、実施例1と同様の条件及び方法で、容器内に充填された固形化粧料を製造した。
本実施例で用いた弾性部材の開孔は、自然状態での断面積が1.44mmであり、ノズルの断面積に対する百分率は16%であった。弾性部材30の開孔は、その断面積が、化粧料スラリーの吐出時に生じる圧力に応じて増減するものであった。
【0078】
〔比較例1〕
弾性部材をニトリルゴム(ミスミ社製、WRBN8-4-3)に変更し、表1に示すように、自然状態における開孔の断面積A1を、ノズル20の流路における断面積A2よりも大きくした以外は、実施例1と同様の条件及び方法で、容器内に充填された固形化粧料を製造した。ISO7619に準拠して測定された弾性部材30のゴム硬度(ショアA)は、70度であった。
【0079】
〔容器底面の汚れの評価〕
実施例及び比較例の方法にて製造した固形化粧料の容器充填物について、容器の底部側を見たときの充填孔及びその周囲の汚れの度合いを、以下の基準で目視にて評価した。評価点が高いほど、結果が良好であることを意味する。結果を以下の表1に示す。
【0080】
<汚れの評価基準>
5点:容器底部の汚れが全く観察されない。
4点:容器底部の汚れが底部の面積の0%超5%未満の範囲に観察される。
3点:容器底部の汚れが底部の面積の5%以上10%未満の範囲に観察される。
2点:容器底部の汚れが底部の面積の10%以上30%未満の範囲に観察される。
1点:容器底部の汚れが底部の面積の30%以上の範囲に観察される。
【0081】
〔割れの評価〕
実施例及び比較例の方法にて製造した固形化粧料の容器充填物について、容器の上部開口部から見たときの固形化粧料の割れの度合いを、以下の基準で目視にて評価した。評価点が高いほど、結果が良好であることを意味する。結果を以下の表1に示す。
【0082】
<割れの評価基準>
5点:成型品の表面に割れが全く観察されない。
4点:成型品の表面に0mm超1mm未満の割れが観察される。
3点:成型品の表面に1mm以上2mm未満の割れが観察される。
2点:成型品の表面に2mm以上3mm未満の割れが観察される。
1点:成型品の表面に3mm以上の割れが観察される。
【0083】
【表1】
【0084】
表1に示すように、実施例の方法で製造した容器内充填物は、固化した充填対象物が容器下部に付着しておらず、外観に優れた目的物を生産性高く製造することができる。このことは加圧工程を更に行った場合であっても、亀裂や割れが生じにくいので、固形化粧料の意図しない飛散や脱落を低減して、消費者にとって取り扱い性が高く、購買意欲を高める外観を有する目的物を製造することができる点で有利である。
【符号の説明】
【0085】
10 充填部
20 ノズル
30 弾性部材
31 開孔
80 容器
85 充填孔
L 流動体
図1
図2
図3
図4