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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189640
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】ポリエステルおよび樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/199 20060101AFI20221215BHJP
【FI】
C08G63/199
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098334
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】松浦 洋
(72)【発明者】
【氏名】曾禰 央司
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA03
4J029AB01
4J029AC01
4J029AD07
4J029AE01
4J029AE03
4J029AE04
4J029AE11
4J029AE13
4J029AE16
4J029AE18
4J029BD02
4J029BD05A
4J029CA04
4J029CA05
4J029CA06
4J029CB04A
4J029CB05A
4J029CB06A
4J029CB06B
4J029CB10A
4J029CC05A
4J029CC06A
4J029CD00
4J029CD03
4J029CD04
4J029CD05
4J029CF19
4J029GA12
4J029HA01
4J029HB01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐熱性に優れたポリエステルの提供。
【解決手段】式(1):

[式中、R~R13は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、またはアルコキシ基を表し、aは、0~10の整数であり、bは、0~10の整数であり、cは、0または1である]で表される構成単位を有するポリエステルを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
[式中、R~R13は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、またはアルコキシ基を表し、
aは、0~10の整数であり、
bは、0~10の整数であり、
cは、0または1である]
で表される構成単位を有する、ポリエステル。
【請求項2】
上記式(1)中、R~R13は全て水素である、請求項1に記載のポリエステル。
【請求項3】
上記式(1)中、aは0~3の整数であり、bは0~3の整数である、請求項1または2に記載のポリエステル。
【請求項4】
ジオールと、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体との反応生成物である、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリエステル。
【請求項5】
前記ジオールが、下記式(2):
【化2】
[式中、R~R13は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、またはアルコキシ基を表し、
aは、0~10の整数であり、
bは、0~10の整数であり、
cは、0または1である]
で表される化合物を含む、請求項4に記載のポリエステル。
【請求項6】
前記ジオールが、下記式(3):
【化3】
[式中、R~R13は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、またはアルコキシ基を表し、
aは、0~10の整数であり、
bは、0~10の整数である]
で表される化合物を含む、請求項5に記載のポリエステル。
【請求項7】
前記ジオールが、下記式(4)
【化4】
[式中、R~RおよびR~R13は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、またはアルコキシ基を表し、
aは、0~10の整数であり、
bは、0~10の整数である]
で表される化合物を含む、請求項5に記載のポリエステル。
【請求項8】
前記ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体が、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体からなる群から選択される少なくも1種である、請求項4~7のいずれか一項に記載のポリエステル。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のポリエステルを含む、樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルに関する。また、本発明は、該ポリエステルを含む樹脂成形体にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステルやポリカーボネート等のプラスチック材料は、耐熱性、透明性、および成形性等の様々な特性に優れることから、自動車部品、電子部品、光学部品、および日用品等の様々な分野の成形体に用いられてきた。
【0003】
例えば、特許文献1では、高速紡糸において、従来にない高い収縮性のみならず耐光性をも有するポリエステル繊維として、ジカルボン酸成分とジオ-ル成分とからなり、ノルボルナン骨格を有する化合物を共重合してなるポリエステル高収縮繊維が提案されている。特に、ノルボルナン骨格を有する化合物の一部としてトリシクロデカンジメタノールを用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-95820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1において提案されているポリエステルの耐熱性には改善の余地があった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、耐熱性に優れたポリエステルを提供することである。また、本発明の目的は、このようなポリエステルを含む樹脂成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の脂環式オレフィン由来の構成単位を有するポリエステルを用いることにより、耐熱性に優れたポリエステルが得られることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0008】
本発明は以下の発明を包含する。
[1] 下記式(1):
【化1】
[式中、R~R13は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、またはアルコキシ基を表し、
aは、0~10の整数であり、
bは、0~10の整数であり、
cは、0または1である]
で表される構成単位を有する、ポリエステル。
[2] 上記式(1)中、R~R13は全て水素である、[1]に記載のポリエステル。
[3] 上記式(1)中、aは0~3の整数であり、bは0~3の整数である、[1]または[2]に記載のポリエステル。
[4] ジオールと、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体との反応生成物である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリエステル。
[5] 前記ジオールが、下記式(2):
【化2】
[式中、R~R13は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、またはアルコキシ基を表し、
aは、0~10の整数であり、
bは、0~10の整数であり、
cは、0または1である]
で表される化合物を含む、[4]に記載のポリエステル。
[6] 前記ジオールが、下記式(3):
【化3】
[式中、R~R13は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、またはアルコキシ基を表し、
aは、0~10の整数であり、
bは、0~10の整数である]
で表される化合物を含む、[5]に記載のポリエステル。
[7] 前記ジオールが、下記式(4)
【化4】
[式中、R~RおよびR~R13は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、またはアルコキシ基を表し、
aは、0~10の整数であり、
bは、0~10の整数である]
で表される化合物を含む、[8]に記載のポリエステル。
[8] 前記ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体が、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体からなる群から選択される少なくも1種である、[4]~[7]のいずれかに記載のポリエステル。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載のポリエステルを含む、樹脂成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐熱性に優れたポリエステルを提供することができる。さらに、本発明によるポリエステルは、靭性、曲げ強度、および曲げ弾性率等の機械物性に優れたものである。特に、本発明によれば、耐熱性および機械物性のバランスに優れたポリエステルを提供することができる。また、本発明によれば、このようなポリエステルを含む樹脂成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[ポリエステル]
本発明のポリエステルは、下記式(1):
【化5】
[式中、R~R13は、それぞれ独立して、水素、アルキル基、またはアルコキシ基を表し、
aは、0~10の整数であり、
bは、0~10の整数であり、
cは、0または1である]
で表される構成単位を有するものである。
【0011】
上記式(1)中、R~R13はそれぞれ独立して、水素、アルキル基およびアルコキシ基からなる群より選択される。これらの中でも、水素であることが特に好ましい。アルキル基の炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。また、アルキル基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。アルコキシ基の炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。特に好ましくはR~R13は全て水素である。
【0012】
上記式(1)中、aは、0~10の整数であり、好ましくは0~5の整数であり、より好ましくは0~3の整数であり、さらに好ましくは1である。
また、bは、0~10の整数であり、好ましくは0~5の整数であり、より好ましくは0~3の整数であり、さらに好ましくは1である。
【0013】
本発明のポリエステルは、上記式(1)で表されるジオール由来の構成単位に加えて、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体由来の構成単位を有することができる。ジカルボン酸由来の構成単位の構造は特に限定されないが、下記で詳述する[ジカルボン酸]に記載のおよび/またはそのエステル形成性誘導体に由来する構成単位であることが好ましい。
【0014】
本発明のポリエステル中の上記のジオール由来の構成単位の含有量は、全構成単位に対して、好ましくは40モル%以上であり、好ましくは45モル%以上であり、さらに好ましくは48モル%以上であり、また、好ましくは50モル%以下である。
本発明のポリエステル中の上記のジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体由来の構成単位の含有量は、全構成単位に対して、好ましくは40モル%以上であり、好ましくは45モル%以上であり、さらに好ましくは48モル%以上であり、また、好ましくは50モル%以下である。
本発明のポリエステル中の上記のジオール由来の構成単位および上記のジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体由来の構成単位の合計含有量は、全構成単位に対して、好ましくは80モル%以上であり、好ましくは90モル%以上であり、さらに好ましくは96モル%以上であり、また、好ましくは100モル%以下である。
【0015】
本発明のポリエステルは、上記のジオール由来の構成単位および上記のジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体由来の構成単位以外の他の構成単位を含んでもよい。
【0016】
[ポリエステルの製造方法]
本発明のポリエステルは、ジオールとジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体との重合反応により得ることができる。以下、ポリエステルの原料および重合反応の好ましい態様について詳述する。
【0017】
[ジオール]
本発明のポリエステルの原料であるジオールは、下記式(2):
【化6】
で表される化合物を含む。
【0018】
上記式(2)中のR~R13、a、b、cは、いずれも上記式(1)で定義した通りである。同様に、R~R13、a、b、cの好ましい態様も、上記式(1)で説明した通りである。
【0019】
ジオールは、上記式(2)中、cが0の場合、下記式(3)で表される化合物である。
【化7】
特に好ましい態様としては、R~R13がいずれも水素であり、aが1、bが1の化合物である。
【0020】
ジオールは、上記式(2)中、cが1の場合、下記式(4)で表される化合物である。
【化8】
特に好ましい態様としては、R~RおよびR~R13がいずれも水素であり、aが1、bが1の化合物である。
【0021】
上記式(3)で表されるジオールや上記式(4)で表されるジオールを原料として用いたポリエステルは、従来公知のトリシクロデカンジメタノールを原料として用いたポリエステルに比べて耐熱性を向上させることができる。さらに、上記式(3)で表されるジオールや上記式(4)で表されるジオールを原料として用いたポリエステルは、従来公知のジシクロペンタジエンを原料として用いたポリエステルに比べて、靭性、曲げ強度、および曲げ弾性率等の機械物性に優れたものとなる。その理由は、ポリエステル中に上記式(3)または(4)で表されるジオール由来の環状骨格構造を有する構成単位がジシクロペンタジエンと比較して多く存在するためである。
【0022】
また、上記式(3)で表されるジオールを原料として用いたポリエステルは、上記式(4)で表されるジオールを原料として用いたポリエステルに比べて、靭性、曲げ強度、および曲げ弾性率等の機械物性に優れており、耐熱性と機械物性のバランスが良好である。
【0023】
上記式(2)で表されるジオールの製造方法は、特に限定されないが、例えば、下記式(5)で表される脂環式オレフィンのヒドロホルミル化反応によってアルデヒドを得る工程と、続いて前記アルデヒドの還元反応によってジオールを得る工程とを含むものである。なお、下記式(5)中のR~R13、cは、いずれも上記式(1)で定義した通りである。同様に、R~R13、cの好ましい態様も、上記式(1)で説明した通りである。
【化9】
【0024】
(ヒドロホルミル化反応)
上記式(5)で表される脂環式オレフィンのヒドロホルミル化反応により、2つの炭素二重結合にそれぞれホルミル基(-CH=O)を導入することで、アルデヒドを得ることができる。ヒドロホルミル化反応としては、特に限定されず、例えば、内部オレフィンに対し、8族、9族、10族金属化合物を有機リン化合物などの配位子で修飾してなる8族、9族、10族金属錯体からなる触媒の存在下に水素および一酸化炭素と反応させてアルデヒドに変換する方法が挙げられる。
【0025】
ヒドロホルミル化反応に用いられる8族、9族、10族金属化合物としては、内部オレフィンのヒドロホルミル化反応を促進させる触媒能を当初から有するか、またはヒドロホルミル化反応条件下でそのような触媒能を獲得する化合物であり、従来からヒドロホルミル化反応において触媒として使用されているロジウム化合物、コバルト化合物、ルテニウム化合物、鉄化合物などが挙げられる。これら化合物の中では、ヒドロホルミル化反応の反応条件が温和である観点から、コバルト化合物やロジウム化合物を使用するのが好ましい。
【0026】
コバルト化合物としては、例えば、Co2(CO)8があり、ロジウム化合物としては、例えば、RhO、Rh2O、Rh23、RhO2などの酸化ロジウム;硝酸ロジウム、硫酸ロジウム、塩化ロジウム、ヨウ化ロジウム、酢酸ロジウムなどのロジウム塩;Rh4(CO)12、Rh6(CO)16、RhH(CO)(PPh、RhCl(CO)(PPh32、RhCl(PPh33、RhBr(CO)(PPh32、RhCl(CO)(AsPPh32、Rh(acac)(CO)2(ここで、acacはアセチルアセトナト配位子を示す。以下同様)などのロジウム錯化合物などが挙げられる。
【0027】
ヒドロホルミル化反応に用いられる有機リン化合物としては、特に限定されないが、例えば、トリシクロヘキシルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ-t-ブチルホスフィン、トリベンジルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(パラ-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(パラ-N,N-ジメチルアミノフェニル)ホスフィン、トリス(パラ-フルオロフェニル)ホスフィン、トリス(パラ-クロロフェニル)ホスフィン、トリ-オルト-トルイルホスフィン、トリ-メタ-トルイルホスフィン、トリ-パラ-トルイルホスフィン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィン、ビス(ペンタフルオロフェニル)フェニルホスフィン、ジフェニル(ペンタフルオロフェニル)ホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、エチルジフェニルホスフィン、シクロヘキシルジフェニルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ジエチルフェニルホスフィン、2-フリルジフェニルホスフィン、2-ピリジルジフェニルホスフィン、4-ピリジルジフェニルホスフィン、メタ-ジフェニルホスフィノベンゼンスルホン酸またはその金属塩、パラ-ジフェニルホスフィノ安息香酸またはその金属塩、パラ-ジフェニルホスフィノフェニルホスホン酸またはその金属塩などが挙げられ、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン等が好ましい。これらの有機リン化合物は単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
有機リン化合物の使用量は、良好な触媒の安定性及び反応速度を得る観点から、8族、9族、10族金属原子換算で8族、9族、10族金属化合物1モルに対して、リン原子換算で1~10000モルの範囲であるのが好ましく、1~1000モルの範囲であるのがより好ましく、1.5~100モルの範囲がさらに好ましい。
【0029】
8族、9族、10族金属錯体の調製方法は特に制限はないが、例えばヒドロホルミル化反応に影響を及ぼさない溶媒を用いて別途調製された、8族、9族、10族金属化合物溶液および有機リン化合物溶液をヒドロホルミル化反応系に別個に導入し、その系中で両者を反応させて錯体化することにより調製することができる。また、上記の8族、9族、10族金属化合物溶液に有機リン化合物を入れ、次いでヒドロホルミル化反応に影響を及ぼさない溶媒を添加して均一な溶液とすることにより調製することもできる。
【0030】
ヒドロホルミル化反応に使用される水素と一酸化炭素との混合ガスのH2/COモル比は、仕込み時のガス組成として、0.1~10の範囲が好ましく、0.5~2の範囲が混合ガス組成の維持が容易である観点からより好ましい。反応圧力は、0.1~10MPaの範囲が好ましく、0.5~8MPaの範囲が反応速度の観点から好ましい。反応温度は、40~150℃の範囲が好ましく、60~140℃の範囲が触媒の失活を抑制する観点などからより好ましい。
【0031】
ヒドロホルミル化反応は、攪拌型反応槽、液循環型反応槽、ガス循環型反応槽、気泡塔型反応槽などを用いて行うことができる。また、反応は、連続方式またはバッチ方式で行うことができる。
【0032】
8族、9族、10族金属錯体の使用量は、反応速度及び触媒コストの観点から、原料1000g当たり、8族、9族、10族金属原子換算で0.1~1000mmolの範囲となるような量を選択するのが好ましく、0.5~100mmolの範囲となるような量を選択するのがより好ましい。
【0033】
8族、9族、10族金属錯体を用いて内部オレフィンをヒドロホルミル化する場合には、反応系に溶媒を存在させてもよい。溶媒としては、例えば、トルエン、ジメチルスルホキシド、1-メチル-2-ピロリジノン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフランのような非プロトン性極性溶媒;メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、s-ブチルアルコール、t-ブチルアルコールなどのアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコール、テトラエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテルなどのポリアルキレングリコール類などを挙げることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、トルエン、ジメチルスルホキシド、アセトン、テトラヒドロフラン等の非プロトン性極性溶媒を用いるのが好ましい。これらの溶媒の使用量は、ヒドロホルミル化反応混合液中50容量%以下の範囲となるような量を選択するのが好ましく、20容量%以下の範囲となるような量を選択するのがより好ましい。
【0034】
ヒドロホルミル化反応における原料の仕込み方法に特に制限はないが、内部オレフィン、別途調製された8族、9族、10族金属錯体溶液および必要に応じて溶媒を仕込み、次いで、水素と一酸化炭素との混合ガスを所定圧力で導入し、所定温度で撹拌して均一系で反応を行うのが好ましい。
【0035】
(還元反応)
上記のヒドロホルミル化反応により得られたアルデヒドの2つのホルミル基(-CH=O)の還元反応によってアルコキシ基に変換することで、ジオールを得ることができる。
【0036】
還元反応は特に限定されないが、水素還元反応を行うことが好ましい。水素還元反応としては、特に限定されず、公知の方法で水素還元を行えばよく、例えば、NaBH4(水素化ホウ素ナトリウム)を加え、還元する方法、金属触媒の存在下、水素ガスにより還元する方法などが挙げられる。
【0037】
NaBH4を加えて水素還元する方法では、NaBH4の添加量は、アルデヒドに対して等モル以上加えるのが好ましく、1~3倍モル添加がより好ましく、1.2~1.5倍モル添加がさらに好ましい。また、反応温度は0~100℃が好ましく、10~50℃がより好ましく、10~30℃がさらに好ましい。
【0038】
金属触媒を用い水素ガスにより還元する方法において、水素還元に用いる金属触媒としては、特に限定されないが、Ru、Pd、Rh、Ptをアルミナ、活性炭、シリカ、ジルコニア、シリカアルミナなどに担持した触媒や、Cu-Cr、Cu-Fe、Cu-ZnなどCu系触媒やRaney Ni、ニッケル/ケイソウ土、ニッケル/シリカアルミナなどNi系触媒などが好ましい。また、金属触媒の添加量はアルデヒドに対し20重量%以下が好ましく、0.1~5重量%がより好ましい。反応温度は使用する触媒により異なるが、300℃以下が好ましく、20~250℃がより好ましく、20~150℃がさらに好ましい。水素ガスの圧力は常圧~30MPaが好ましく、常圧~25MPaがより好ましい。
【0039】
[ジカルボン酸]
本発明のポリエステルの原料であるジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体としては、特に限定されず、従来公知のポリエステル用原料を用いることができる。
【0040】
ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、2-メチルテレフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-カルボキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、5-カルボキシ-5-エチル-2-(1,1-ジメチル-2-カルボキシエチル)-1,3-ジオキサン、1,4:5,8-ジメタノデカヒドロナフタレンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸;9,9-ビス(カルボキシメチル)フルオレン、9,9-ビス(1-カルボキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(1-カルボキシプロピル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシ-1-メチルエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシ-1-メチルプロピル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシブチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシ-1-メチルブチル)フルオレン、9,9-ビス(5-カルボキシペンチル)フルオレン、9,9-ビス(4-カルボキシフェニル)フルオレン等のカルド構造を有するジカルボン酸等が挙げられる。さらに、これらのジカルボン酸のエステル形成性誘導体を用いることもできる。また、これらのジカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体からなる群から選択される少なくも1種であることが好ましい。
【0041】
(重合反応)
本発明のポリエステルの製造において、ジオールとジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体との重合反応は特に限定されず、従来公知の方法により行うことができる。例えば、ポリエステルは、溶融重合のみによって製造することができる。また、溶融重合によりプレポリマーを作製し、これをさらに固相重合することによっても製造することができる。
【0042】
重合反応において触媒は使用してもよいし、また使用しなくてもよい。使用する触媒としては、ポリエステルの重合用触媒として従来公知のものを使用することができる。触媒としては、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属塩触媒、N-メチルイミダゾール等の窒素含有複素環化合物等、有機化合物触媒等が挙げられる。触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、原料モノマーの総量100重量部に対して、0.0001~0.1重量部であることが好ましい。
【0043】
溶融重合における重合反応装置は特に限定されるものではないが、一般の高粘度流体の反応に用いられる反応装置が好ましく使用される。これらの反応装置の例としては、例えば、錨型、多段型、螺旋帯型、螺旋軸型等、あるいはこれらを変形した各種形状の攪拌翼をもつ攪拌装置を有する攪拌槽型重合反応装置、又は、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー等の、一般に樹脂の混練に使用される混合装置等が挙げられる。
【0044】
[樹脂成形体]
本発明の樹脂成形体は、上記のポリエステルを含むものである。本発明の樹脂成形体は、その特性を損なわない範囲において、各種添加剤をさらに含んでもよい。添加剤としては、例えば、充填剤、シランカップリング剤、消泡剤、酸化防止剤、光安定剤、顔料や染料等の着色剤、可塑剤、pH調整剤、紫外線安定化剤、着色防止剤、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止剤、糸摩擦低減剤、スリップ剤、離型剤、抗酸化剤、イオン交換剤等が挙げられる。上記したような添加剤を1種または2種以上含んでいてもよい。
【0045】
本発明の樹脂成形体の用途としては、特に限定されず、自動車部品、電子部品、光学部品、および日用品等の様々な物に用いることができる。具体的には、金属、樹脂フィルム、ガラス、紙、木材等の基材上に塗布する塗料、半導体素子や有機薄膜素子(例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子や有機薄膜太陽電池素子)の表面保護膜、ハードコート剤、防汚膜および反射防止膜等のコーティング剤、接着剤、粘着剤、レンズ、プリズム、フィルター、画像表示材料、レンズアレイ、光半導体素子の封止材やリフレクター材料、半導体素子の封止材、光導波路、導光板、光拡散板、回折素子および光学用接着剤等の各種光学部材、注型材料、層間絶縁体、プリント配向基板用保護絶縁膜および繊維強化複合材料等の材料等が挙げられる。
【実施例0046】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
[アルデヒド(A1)の合成例]
アルゴン気流下、3Lオートクレーブに、1997g(10.72mol)の3a,4,4a,5,8,8a,9,9a-オクタヒドロ-4,9-メタノシクロペンタ〔b〕ナフタレン(以下、DCPBとも言う。)、1.48mg(1.608mmol)のRhH(CO)(PPh、および28.12g(0.1072mol)のPPhを仕込んだ。この容器内にH/COガス(3.5MPa)を導入し、内温120℃へ昇温し、30分反応後に、内温130℃へ昇温し、9時間下記式の反応を行った。H/COガスを追加で4.5MPaになるまで導入し、2日間反応を継続した。その後、反応液を48Lのテトラヒドロフラン(THF)で希釈し、7.44kgの飽和NaHCO水溶液を加えて、アルゴン雰囲気下50℃で終夜反応を行なった。室温まで冷却した後、分液操作によりTHF層を除去し、得られた水層をクロロホルム8Lで2回洗浄した。得られた水層に15wt%NaOH水溶液(13.34kg)を加えることでpH12とし、得られた懸濁液をクロロホルム4Lで3回抽出した。この有機層をまとめてMgSOで乾燥、ろ別、濃縮することで純度98%のアルデヒド(A1)2536gを得た。
【化10】
【0048】
[ジオール(B1)の合成例]
アルゴン気流下、10Lのフラスコに上記得られたアルデヒド(A1)634g(2.57mol)と、5LのMeOHを仕込み、20℃以上にならないようにNaBHを少量ずつ添加し、最終的に71.1g(1.879mol)添加し、下記式の反応を行った。添加終了後、室温に昇温した。反応液に0.5Lの水を加え反応を終了し、MeOHを留去した。得られた粗体に5LのAcOEtと5Lの水を加え、有機層を分離した。更に、水層を5LのAcOEtで2回抽出し、先の有機層と混合し、2Lの飽和食塩水で洗浄し、NasSO4で乾燥、ろ別、濃縮することで粗体647gを得た。得られた粗体を0.05mmHgにて蒸留精製し、塔頂温度185~193℃で純度99.9%の480gのジオール(B1)を得た。
【化11】
【0049】
[ジオール(B2)の合成例]
DCPBの代わりにジシクロペンタジエン(DCPD)を用いた以外は、アルデヒド(A1)の合成例と同様にして、アルデヒド(A2)を得た。
続いて、アルデヒド(A1)の代わりにアルデヒド(A2)を用いた以外は、ジオール(B1)の合成例と同様にして、ジオール(B2)を得た。
【0050】
(ポリエステルの合成例1)
[実施例1]
撹拌翼を有する重合容器に、上記で得られたDCPB由来のジオール(B1)50モル%と、シクロヘキサンジカルボン酸(C1)50モル%とを添加し、触媒としてテトラブチルチタネートを仕込み、重合容器の減圧-窒素注入を3回行った後、160℃まで昇温し、30分間攪拌した。さらに180℃まで昇温し、20分間攪拌した。その後、0.6℃/分で230℃まで昇温した後、230℃で1時間攪拌を行った。さらに0.6℃/分で260℃まで昇温した後、減圧度を1Torrまで調整し、所定のトルク値に達するまで攪拌を行った。反応終了後、反応容器に窒素を吹き込み常圧に戻し、
ポリエステル(D1)を得た。
【0051】
[比較例1]
ジオール(B1)の代わりに、上記で得られたDCPD由来のジオール(B2)50モル%を添加した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル(D2)を得た。
【0052】
[比較例2]
ジオール(B1)の代わりに、シクロヘキサンジメタノール(B3)50モル%を添加した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル(D3)を得た。
【0053】
(ポリエステルの熱物性評価1)
上記で得られたポリエステル(D1)~(D3)について、下記の方法により、ガラス転移温度(Tg)および熱分解温度(Td)を測定した。測定結果を表1に示す。
【0054】
(ガラス転移温度(Tg))
示差走査熱量測定(DSC、株式会社日立ハイテクサイエンス製、型番:X-DSC-7000)を用いてガラス転移温度(Tg)を測定した。まず、昇温速度10℃/分で室温から280℃まで昇温した後、速度10℃/分で30℃まで降温し、さらに10℃/分の速度で280℃まで昇温する時に得られる変曲点をガラス転移温度(Tg)とした。
【0055】
(熱分解温度(Td))
示差熱熱量同時測定装置(SIIナノテクノロジー製、型番:TG/DTA7200)を用いて室温から500℃まで乾燥空気下で10℃/分で等速昇温し、測定開始時から比べてポリエステルの重量が1%減少した際の温度(1%Td)を測定した。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例1および比較例1~2の結果から、DCPB由来のジオールを原料として得られたポリエステルは、DCPD由来のジオールやシクロヘキサンジメタノールを原料として得られたポリエステルに比べて、耐熱性に優れるものであった。
【0058】
(ポリエステルの合成例2)
[実施例2]
撹拌翼を有する重合容器に、上記で得られたDCPB由来のジオール(B1)50モル%と、テレフタル酸ジメチル(C2)50モル%とを添加した以外は、実施例1と同様にして、ポリエステル(D4)を得た。
【0059】
[比較例3]
ジオール(B1)の代わりに、上記で得られたDCPD由来のジオール(B2)50モル%を添加した以外は、実施例2と同様にしてポリエステル(D5)を得た。
【0060】
(ポリエステルの熱物性評価2)
ポリエステルの熱物性評価1と同様にして、各ポリエステル(D4)~(D5)の熱物性の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
実施例2および比較例3の結果から、DCPB由来のジオールを原料として得られたポリエステルは、DCPD由来のジオールを原料として得られたポリエステルに比べて、耐熱性に優れるものであった。