(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189646
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20221215BHJP
F16H 61/684 20060101ALI20221215BHJP
F16H 59/42 20060101ALI20221215BHJP
F16D 48/06 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H61/684
F16H59/42
F16D28/00 A
F16D48/06 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098345
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】近藤 真実
(72)【発明者】
【氏名】水戸 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】佐野 健
【テーマコード(参考)】
3J057
3J552
【Fターム(参考)】
3J057AA03
3J057BB02
3J057GA01
3J057GB13
3J057GB14
3J057GB22
3J057GB27
3J057JJ01
3J552MA04
3J552MA13
3J552NA01
3J552NB01
3J552NB05
3J552NB08
3J552PA02
3J552PA70
3J552RA03
3J552SA07
3J552SA26
3J552SB09
3J552UA03
3J552VA32W
3J552VA34W
(57)【要約】
【課題】アップシフトに際して、ドライバビリティーの悪化を抑制する。
【解決手段】変速機のアップシフト時に、変速機の出力トルクの低下に起因する車両振動を、変速機の入力回転部材の回転低下に伴って、駆動力源と変速機との間の動力伝達経路に設けられたクラッチが一時的にスリップ状態とされている期間における駆動力源の回転低下によって発生する変速機の入力トルクの増加に起因する車両振動で相殺させるように、クラッチのトルク容量が制御されるので、変速機の出力トルクの低下に起因する車両振動が抑制される。よって、アップシフトに際して、ドライバビリティーの悪化を抑制することができる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源と、前記駆動力源と駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた変速機と、前記駆動力源と前記駆動輪との間の動力伝達経路における前記駆動力源と前記変速機との間に設けられたクラッチと、を備えており、前記変速機は、互いに平行に配置された複数の回転軸間に設けられた、複数のギヤ段を各々成立させる為の常時噛み合う複数の変速ギヤ対と、前記変速ギヤ対の各々における動力伝達状態を動力伝達可能状態と動力伝達不能状態とに切り替える複数の切替機構と、を有し、変速前のギヤ段を成立させる為の前記変速ギヤ対における動力伝達状態が動力伝達可能状態とされている状態で変速後のギヤ段を成立させる為の前記変速ギヤ対における動力伝達状態が動力伝達可能状態とされたことに起因して前記変速前のギヤ段を成立させる為の前記変速ギヤ対における動力伝達状態が動力伝達不能状態へ切り替えられることによってアップシフトが行われるものである車両の、制御装置であって、
前記変速機のアップシフト時に、前記変速機の出力トルクの低下に起因する車両振動を、前記変速機の入力回転部材の回転低下に伴って前記クラッチが一時的にスリップ状態とされている期間における前記駆動力源の回転低下によって発生する前記変速機の入力トルクの増加に起因する車両振動で相殺させるように、前記クラッチのトルク容量を制御するクラッチ制御部を含むことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記変速ギヤ対のうちの一方のギヤである遊転ギヤは、前記回転軸に相対回転可能に設けられていると共に、ギヤ側噛合歯が形成されており、
前記切替機構は、前記遊転ギヤとは前記遊転ギヤが設けられた前記回転軸である遊転設置軸の軸方向で隣り合う位置において前記遊転設置軸に相対回転不能に設けられていると共に、前記ギヤ側噛合歯と噛合可能な切替用噛合歯が形成されており、
前記切替機構は、前記ギヤ側噛合歯と前記切替用噛合歯とが噛み合わされることによって、前記変速ギヤ対における動力伝達状態を動力伝達可能状態とする、前記遊転ギヤと前記遊転設置軸とを一体的に回転する接続状態へ切り替える一方で、前記ギヤ側噛合歯と前記切替用噛合歯との噛合いが解除されることによって、前記変速ギヤ対における動力伝達状態を動力伝達不能状態とする、前記遊転ギヤと前記遊転設置軸とを相対回転可能な遮断状態へ切り替えるものであることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記切替機構は、前記遊転設置軸に相対回転不能且つ前記遊転設置軸の軸方向に相対移動可能に設けられた第1リングと、前記遊転設置軸に相対回転不能且つ前記遊転設置軸の軸方向に相対移動可能に設けられた第2リングと、前記遊転設置軸の軸方向で前記第1リングと前記第2リングとの間に介挿された、前記第1リングと前記第2リングとが互いに引き付けられる方向に付勢する弾性部材と、を含むものであり、
前記切替用噛合歯は、前記第1リングに形成された、前記遊転設置軸の軸方向で隣り合う前記遊転ギヤに向かって突き出す第1噛合歯と、前記第2リングに形成された、前記第1リングを前記遊転設置軸の軸方向に貫通し、前記遊転ギヤに向かって突き出す第2噛合歯と、を含むものであることを特徴とする請求項2に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力源と変速機との間に設けられたクラッチを備えた車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
駆動力源と、前記駆動力源と駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた変速機と、を備えており、前記変速機は、互いに平行に配置された複数の回転軸間に設けられた、複数のギヤ段を各々成立させる為の常時噛み合う複数の変速ギヤ対と、前記変速ギヤ対の各々における動力伝達状態を動力伝達可能状態と動力伝達不能状態とに切り替える複数の切替機構と、を有するものである車両の制御装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載された車両用トランスミッション装置がそれである。この特許文献1には、変速機の入力軸を回転自在に支持する支持部に作用する力を検出して入力トルクを検出し、変速機の出力軸を回転自在に支持する支持部に作用する力を検出して出力トルクを検出し、入力トルクに応じて予め設定する目標出力トルクと、検出した出力トルクと、を比較し、比較結果に基づいて、予め設定した切替機構のギヤ締結クラッチ用油圧を補正して変速制御を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、変速機のアップシフトの際に、変速機の出力トルクが低下したことに起因して動力伝達系の振動成分が大きくなり、ドライバビリティーを悪化させるような車両振動が発生するおそれがある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、アップシフトに際して、ドライバビリティーの悪化を抑制することができる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の要旨とするところは、(a)駆動力源と、前記駆動力源と駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた変速機と、前記駆動力源と前記駆動輪との間の動力伝達経路における前記駆動力源と前記変速機との間に設けられたクラッチと、を備えており、前記変速機は、互いに平行に配置された複数の回転軸間に設けられた、複数のギヤ段を各々成立させる為の常時噛み合う複数の変速ギヤ対と、前記変速ギヤ対の各々における動力伝達状態を動力伝達可能状態と動力伝達不能状態とに切り替える複数の切替機構と、を有し、変速前のギヤ段を成立させる為の前記変速ギヤ対における動力伝達状態が動力伝達可能状態とされている状態で変速後のギヤ段を成立させる為の前記変速ギヤ対における動力伝達状態が動力伝達可能状態とされたことに起因して前記変速前のギヤ段を成立させる為の前記変速ギヤ対における動力伝達状態が動力伝達不能状態へ切り替えられることによってアップシフトが行われるものである車両の、制御装置であって、(b)前記変速機のアップシフト時に、前記変速機の出力トルクの低下に起因する車両振動を、前記変速機の入力回転部材の回転低下に伴って前記クラッチが一時的にスリップ状態とされている期間における前記駆動力源の回転低下によって発生する前記変速機の入力トルクの増加に起因する車両振動で相殺させるように、前記クラッチのトルク容量を制御するクラッチ制御部を含むことにある。
【0007】
また、第2の発明は、前記第1の発明に記載の車両の制御装置において、前記変速ギヤ対のうちの一方のギヤである遊転ギヤは、前記回転軸に相対回転可能に設けられていると共に、ギヤ側噛合歯が形成されており、前記切替機構は、前記遊転ギヤとは前記遊転ギヤが設けられた前記回転軸である遊転設置軸の軸方向で隣り合う位置において前記遊転設置軸に相対回転不能に設けられていると共に、前記ギヤ側噛合歯と噛合可能な切替用噛合歯が形成されており、前記切替機構は、前記ギヤ側噛合歯と前記切替用噛合歯とが噛み合わされることによって、前記変速ギヤ対における動力伝達状態を動力伝達可能状態とする、前記遊転ギヤと前記遊転設置軸とを一体的に回転する接続状態へ切り替える一方で、前記ギヤ側噛合歯と前記切替用噛合歯との噛合いが解除されることによって、前記変速ギヤ対における動力伝達状態を動力伝達不能状態とする、前記遊転ギヤと前記遊転設置軸とを相対回転可能な遮断状態へ切り替えるものである。
【0008】
また、第3の発明は、前記第2の発明に記載の車両の制御装置において、前記切替機構は、前記遊転設置軸に相対回転不能且つ前記遊転設置軸の軸方向に相対移動可能に設けられた第1リングと、前記遊転設置軸に相対回転不能且つ前記遊転設置軸の軸方向に相対移動可能に設けられた第2リングと、前記遊転設置軸の軸方向で前記第1リングと前記第2リングとの間に介挿された、前記第1リングと前記第2リングとが互いに引き付けられる方向に付勢する弾性部材と、を含むものであり、前記切替用噛合歯は、前記第1リングに形成された、前記遊転設置軸の軸方向で隣り合う前記遊転ギヤに向かって突き出す第1噛合歯と、前記第2リングに形成された、前記第1リングを前記遊転設置軸の軸方向に貫通し、前記遊転ギヤに向かって突き出す第2噛合歯と、を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
前記第1の発明によれば、変速機のアップシフト時に、変速機の出力トルクの低下に起因する車両振動を、変速機の入力回転部材の回転低下に伴って、駆動力源と変速機との間の動力伝達経路に設けられたクラッチが一時的にスリップ状態とされている期間における駆動力源の回転低下によって発生する変速機の入力トルクの増加に起因する車両振動で相殺させるように、クラッチのトルク容量が制御されるので、変速機の出力トルクの低下に起因する車両振動が抑制される。よって、アップシフトに際して、ドライバビリティーの悪化を抑制することができる。
【0010】
また、前記第2の発明によれば、遊転ギヤのギヤ側噛合歯と切替機構の切替用噛合歯とが噛み合わされたり、その噛合いが解除されることによって、変速ギヤ対における動力伝達状態を動力伝達可能状態としたり動力伝達不能状態とする切替機構を作動させることによる変速機のアップシフトに伴う変速機の出力トルクの急速な低下に起因する車両振動を、変速機の入力トルクの増加に起因する車両振動で相殺させるように、クラッチのトルク容量が制御されるので、変速機の出力トルクの急速な低下に起因する車両振動が抑制される。
【0011】
また、前記第3の発明によれば、切替機構は、遊転設置軸に相対回転不能且つ遊転設置軸の軸方向に相対移動可能に設けられた第1リングと、遊転設置軸に相対回転不能且つ遊転設置軸の軸方向に相対移動可能に設けられた第2リングと、第1リングと第2リングとが互いに引き付けられる方向に付勢する弾性部材と、を含むものであり、切替機構の切替用噛合歯は、第1リングに形成された第1噛合歯と第2リングに形成された第2噛合歯とを含むものであるので、遊転ギヤのギヤ側噛合歯と切替機構の切替用噛合歯とを噛み合わせたり、その噛合いを解除することによって、変速ギヤ対における動力伝達状態が動力伝達可能状態とされたり動力伝達不能状態とされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図である。
【
図2】遊転ギヤ及び切替機構の構造について説明する図である。
【
図3】車両における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
【
図4】変速機のアップシフトに伴う変速機出力トルクの低下に起因する車両振動を説明する図である。
【
図5】変速機のアップシフトに伴う変速機入力回転速度の低下に起因する車両振動を説明する図である。
【
図6】変速機のアップシフト時に、低下後の変速機入力回転速度にK1クラッチ入力回転速度が同期するまでの期間における車両振動を説明する図である。
【
図7】電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、アップシフトに際してドライバビリティーの悪化を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【
図8】
図7のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例0014】
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図である。
図1において、車両10は、走行用の駆動力源SPである、エンジン12及び電動機MGを備えたハイブリッド車両である。又、車両10は、駆動輪14と、駆動力源SPと駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16と、を備えている。
【0015】
動力伝達装置16は、K1クラッチ18、変速機20等を備えている。又、動力伝達装置16は、エンジン12のクランクシャフト12cに連結されたダンパ22、ダンパ22を介してエンジン12とK1クラッチ18とを連結するクラッチ入力軸24、変速機20の出力回転部材である変速機出力軸20oに連結されたプロペラシャフト26、プロペラシャフト26に連結されたディファレンシャルギヤ28、ディファレンシャルギヤ28に連結された1対のドライブシャフト30等を備えている。
【0016】
電動機MGは、クラッチ入力軸24に動力伝達可能に連結されている。K1クラッチ18の入力側部材であるK1入力部材18iは、クラッチ入力軸24に連結されている。K1クラッチ18の出力側部材であるK1出力部材18oは、変速機20の入力回転部材である変速機入力軸20iに連結されている。K1クラッチ18は、駆動力源SPと駆動輪14との間の動力伝達経路における駆動力源SPと変速機20との間に設けられたクラッチである。
【0017】
エンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置100(
図3参照)によって、車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含む不図示のエンジン制御装置が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
【0018】
電動機MGは、電力から機械的な動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。電動機MGは、後述する電子制御装置100によって不図示のインバータが制御されることにより、電動機MGの出力トルクであるMGトルクTmが制御される。前記電力は、特に区別しない場合には電気エネルギも同意である。前記動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。
【0019】
K1クラッチ18は、例えば多板式或いは単板式のクラッチにより構成される油圧式の摩擦係合装置である。K1クラッチ18は、車両10に備えられた油圧制御回路32(
図3参照)から供給される調圧された油圧であるK1油圧PRk1によりK1クラッチ18のトルク容量であるK1トルクTk1が変化させられることで、係合状態や解放状態などの制御状態が切り替えられる。
【0020】
車両10において、K1クラッチ18の係合状態では、エンジン12及び電動機MGと変速機20とが動力伝達可能に連結される。一方で、K1クラッチ18の解放状態では、エンジン12及び電動機MGと変速機20との間の動力伝達が遮断される。K1クラッチ18は、駆動力源SPと変速機20との間の動力伝達を断接するクラッチとして機能する。動力伝達装置16において、駆動力源SPから出力される動力は、K1クラッチ18が係合された場合に、クラッチ入力軸24から、K1クラッチ18、変速機20、プロペラシャフト26、ディファレンシャルギヤ28、及びドライブシャフト30等を順次介して駆動輪14へ伝達される。
【0021】
変速機20は、互いに平行に配置された複数の回転軸として、変速機入力軸20i、変速機出力軸20o、第1副軸34、及び第2副軸36を備えている。変速機20は、変速機入力軸20iの回転を所定のギヤ比(変速比ともいう)γ(=変速機入力回転速度Ni/変速機出力回転速度No)で減速或いは増速することで複数のギヤ段(変速段ともいう)を成立させる、所謂平行軸式のトランスミッションである。変速機入力回転速度Niは、変速機入力軸20iの回転速度であり、変速機20の入力回転速度である。変速機出力回転速度Noは、変速機出力軸20oの回転速度であり、変速機20の出力回転速度である。
【0022】
又、変速機20は、常時噛み合うギヤ対として、変速機入力軸20iと第1副軸34との回転軸間に設けられた第1カウンタギヤ対38aと、変速機入力軸20iと第2副軸36との回転軸間に設けられた第2カウンタギヤ対38bと、を備えている。変速機20は、複数のギヤ段を各々成立させる為の常時噛み合う複数の変速ギヤ対40として、第1副軸34と変速機出力軸20oとの回転軸間に設けられた、7速ギヤ対40a、1速ギヤ対40b、5速ギヤ対40c、及び3速ギヤ対40dと、第2副軸36と変速機出力軸20oとの回転軸間に設けられた、8速ギヤ対40e、2速ギヤ対40f、6速ギヤ対40g、及び4速ギヤ対40hと、を備えている。第1カウンタギヤ対38a、7速ギヤ対40a、1速ギヤ対40b、5速ギヤ対40c、及び3速ギヤ対40dは、第1副軸34の軸方向(回転軸線CL1方向)でエンジン12から駆動輪14に向かって順番に設けられている。第2カウンタギヤ対38b、8速ギヤ対40e、2速ギヤ対40f、6速ギヤ対40g、及び4速ギヤ対40hは、第2副軸36の軸方向(回転軸線CL2方向)でエンジン12から駆動輪14に向かって順番に設けられている。
【0023】
第1カウンタギヤ対38aは、カウンタドライブギヤ42と、カウンタドライブギヤ42と常時噛み合う第1カウンタドリブンギヤ44aと、から構成されている。第2カウンタギヤ対38bは、カウンタドライブギヤ42と、カウンタドライブギヤ42と常時噛み合う第2カウンタドリブンギヤ44bと、から構成されている。カウンタドライブギヤ42は、変速機入力軸20iに相対回転不能に固定されている。第1カウンタドリブンギヤ44aは、第1副軸34に相対回転不能に固定されている。第2カウンタドリブンギヤ44bは、第2副軸36に相対回転不能に固定されている。変速機入力軸20iが回転すると、第1副軸34が第1カウンタギヤ対38aのギヤ比に応じた回転速度で回転させられると共に、第2副軸36が第2カウンタギヤ対38bのギヤ比に応じた回転速度で回転させられる。
【0024】
7速ギヤ対40aは、7速ドライブギヤ46aと、7速ドライブギヤ46aと常時噛み合う(7、8)速ドリブンギヤ48aと、から構成されている。1速ギヤ対40bは、1速ドライブギヤ46bと、1速ドライブギヤ46bと常時噛み合う(1、2)速ドリブンギヤ48bと、から構成されている。5速ギヤ対40cは、5速ドライブギヤ46cと、5速ドライブギヤ46cと常時噛み合う(5、6)速ドリブンギヤ48cと、から構成されている。3速ギヤ対40dは、3速ドライブギヤ46dと、3速ドライブギヤ46dと常時噛み合う(3、4)速ドリブンギヤ48dと、から構成されている。8速ギヤ対40eは、8速ドライブギヤ46eと、8速ドライブギヤ46eと常時噛み合う(7、8)速ドリブンギヤ48aと、から構成されている。2速ギヤ対40fは、2速ドライブギヤ46fと、2速ドライブギヤ46fと常時噛み合う(1、2)速ドリブンギヤ48bと、から構成されている。6速ギヤ対40gは、6速ドライブギヤ46gと、6速ドライブギヤ46gと常時噛み合う(5、6)速ドリブンギヤ48cと、から構成されている。4速ギヤ対40hは、4速ドライブギヤ46hと、4速ドライブギヤ46hと常時噛み合う(3、4)速ドリブンギヤ48dと、から構成されている。
【0025】
7速ドライブギヤ46a、1速ドライブギヤ46b、5速ドライブギヤ46c、及び3速ドライブギヤ46dは、各々、第1副軸34に対して相対回転可能に設けられている。8速ドライブギヤ46e、2速ドライブギヤ46f、6速ドライブギヤ46g、及び4速ドライブギヤ46hは、各々、第2副軸36に対して相対回転可能に設けられている。(7、8)速ドリブンギヤ48a、(1、2)速ドリブンギヤ48b、(5、6)速ドリブンギヤ48c、及び(3、4)速ドリブンギヤ48dは、各々、変速機出力軸20oに相対回転不能に固定されている。従って、変速ギヤ対40のうちの一方のギヤである、7速ドライブギヤ46a~4速ドライブギヤ46hは、遊転ギヤ46である。変速ギヤ対40のうちの他方のギヤである、(7、8)速ドリブンギヤ48a~(3、4)速ドリブンギヤ48dは、固定ギヤ48である。遊転ギヤ46が設けられた回転軸である、第1副軸34及び第2副軸36は、各々、遊転設置軸である。
【0026】
7速ドライブギヤ46aが回転すると、(7、8)速ドリブンギヤ48a及び変速機出力軸20oが、7速ギヤ対40aのギヤ比に応じた回転速度で回転させられる。1速ドライブギヤ46bが回転すると、(1、2)速ドリブンギヤ48b及び変速機出力軸20oが、1速ギヤ対40bのギヤ比に応じた回転速度で回転させられる。5速ドライブギヤ46cが回転すると、(5、6)速ドリブンギヤ48c及び変速機出力軸20oが、5速ギヤ対40cのギヤ比に応じた回転速度で回転させられる。3速ドライブギヤ46dが回転すると、(3、4)速ドリブンギヤ48d及び変速機出力軸20oが、3速ギヤ対40dのギヤ比に応じた回転速度で回転させられる。8速ドライブギヤ46eが回転すると、(7、8)速ドリブンギヤ48a及び変速機出力軸20oが、8速ギヤ対40eのギヤ比に応じた回転速度で回転させられる。2速ドライブギヤ46fが回転すると、(1、2)速ドリブンギヤ48b及び変速機出力軸20oが、2速ギヤ対40fのギヤ比に応じた回転速度で回転させられる。6速ドライブギヤ46gが回転すると、(5、6)速ドリブンギヤ48c及び変速機出力軸20oが、6速ギヤ対40gのギヤ比に応じた回転速度で回転させられる。4速ドライブギヤ46hが回転すると、(3、4)速ドリブンギヤ48d及び変速機出力軸20oが、4速ギヤ対40hのギヤ比に応じた回転速度で回転させられる。
【0027】
又、変速機20は、変速ギヤ対40の各々における動力伝達状態を動力伝達可能状態と動力伝達不能状態とに切り替える複数の切替機構50として、第1副軸34上に設けられた、第1切替機構50a及び第2切替機構50bと、第2副軸36上に設けられた、第3切替機構50c及び第4切替機構50dと、を備えている。
【0028】
第1切替機構50aは、7速ドライブギヤ46aと1速ドライブギヤ46bとは第1副軸34の軸方向で隣り合う位置において第1副軸34に相対回転不能に設けられている。第2切替機構50bは、5速ドライブギヤ46cと3速ドライブギヤ46dとは第1副軸34の軸方向で隣り合う位置において第1副軸34に相対回転不能に設けられている。第3切替機構50cは、8速ドライブギヤ46eと2速ドライブギヤ46fとは第2副軸36の軸方向で隣り合う位置において第2副軸36に相対回転不能に設けられている。第4切替機構50dは、6速ドライブギヤ46gと4速ドライブギヤ46hとは第2副軸36の軸方向で隣り合う位置において第2副軸36に相対回転不能に設けられている。
【0029】
第1切替機構50aは、7速ドライブギヤ46a又は1速ドライブギヤ46bと第1副軸34との間を接続したり切断したりすることが可能な断接装置である。例えば、7速ドライブギヤ46aと第1副軸34とが第1切替機構50aを介して接続されると、7速ギヤ対40aにおける動力伝達状態が動力伝達可能状態とされ、変速機20において第7速ギヤ段7thが成立させられる。又、1速ドライブギヤ46bと第1副軸34とが第1切替機構50aを介して接続されると、1速ギヤ対40bにおける動力伝達状態が動力伝達可能状態とされ、変速機20において第1速ギヤ段1stが成立させられる。第2切替機構50b、第3切替機構50c、第4切替機構50dの作動についても第1切替機構50aと基本的には同じであり、第2切替機構50bの作動によって第5速ギヤ段5th又は第3速ギヤ段3rdが成立させられ、第3切替機構50cの作動によって第8速ギヤ段8th又は第2速ギヤ段2ndが成立させられ、第4切替機構50dの作動によって第6速ギヤ段6th又は第4速ギヤ段4thが成立させられる。
【0030】
図2は、遊転ギヤ46及び切替機構50の構造について説明する図である。
図2は、7速ドライブギヤ46a及び1速ドライブギヤ46bの斜視図、及び第1切替機構50aを分解して示した斜視図である。以下、1速ドライブギヤ46bを例示して遊転ギヤ46の構造について説明すると共に、第1切替機構50aを例示して切替機構50の構造について説明する。尚、7速ドライブギヤ46a、5速ドライブギヤ46c、3速ドライブギヤ46d、8速ドライブギヤ46e、2速ドライブギヤ46f、6速ドライブギヤ46g、及び4速ドライブギヤ46hの構造は、1速ドライブギヤ46bと基本的に変わらない為、それらの構造については説明を省略する。又、第2切替機構50b、第3切替機構50c、及び第4切替機構50dの構造は、第1切替機構50aと基本的に変わらない為、それらの構造については説明を省略する。
【0031】
図2において、1速ドライブギヤ46bは、第1副軸34の軸方向(回転軸線CL1方向)で第1切替機構50aと対向する側に複数個のギヤ側噛合歯52が形成されている。ギヤ側噛合歯52は、周方向で等角度間隔に配置され、それぞれ第1切替機構50a側に向かって突き出している。
【0032】
第1切替機構50aは、スリーブ54と、円盤状の第1リングである第1ドグリング56と、円盤状の第2リングである第2ドグリング58と、第1副軸34の軸方向(回転軸線CL1方向)で第1ドグリング56と第2ドグリング58との間に介挿されている複数個のスプリング60と、を含んで構成されている。スプリング60は、第1ドグリング56と第2ドグリング58とが互いに引き付けられる方向に付勢する弾性部材である。
【0033】
スリーブ54は、円筒形状を有し、内周部には第1副軸34とスプライン嵌合するスプライン歯が形成されている。組付後において、スリーブ54が第1副軸34とスプライン嵌合されることで、スリーブ54が第1副軸34と一体的に回転させられる。又、スリーブ54の外周面には、第1ドグリング56及び第2ドグリング58とスプライン嵌合する為のスプライン歯62が形成されている。
【0034】
第1ドグリング56は、第1副軸34の軸方向(回転軸線CL1方向)で1速ドライブギヤ46bと隣り合う位置に配置され、且つ、第1副軸34の軸方向で7速ドライブギヤ46aに対して第2ドグリング58を隔てた位置に配置されている。第1ドグリング56の内周部には、スリーブ54のスプライン歯62とスプライン嵌合する為のスプライン歯64が形成されている。第2ドグリング58は、第1副軸34の軸方向で7速ドライブギヤ46aと隣り合う位置に配置され、且つ、第1副軸34の軸方向で1速ドライブギヤ46bに対して第1ドグリング56を隔てた位置に配置されている。第2ドグリング58の内周部には、スリーブ54のスプライン歯62とスプライン嵌合する為のスプライン歯66が形成されている。第1ドグリング56及び第2ドグリング58は、各々、スリーブ54にスプライン嵌合された状態において、第1副軸34に対して相対回転不能、且つ、第1副軸34に対して軸方向に相対移動可能に設けられている。
【0035】
第1ドグリング56の外周端部であって、第1副軸34の軸方向で第2ドグリング58と向かい合う側には、L字状に切り欠かれた切欠68が周方向全体に渡って形成されている。同様に、第2ドグリング58の外周端部であって、第1副軸34の軸方向で第1ドグリング56と向かい合う側には、L字状に切り欠かれた切欠70が周方向全体に渡って形成されている。第1ドグリング56と第2ドグリング58とが一体的に組み付けられた状態では、互いのL字状の切欠68、70によって、シフトフォーク72(
図3参照)の嵌合部と嵌合する環状の凹溝が形成される。
【0036】
第1ドグリング56は、第1副軸34の軸方向で隣り合う1速ドライブギヤ46bと向かい合う側の面には、1速ドライブギヤ46bに向かって突き出す第1噛合歯としての複数個の1速用第1噛合歯74aが周方向で等角度間隔に形成されている。第2ドグリング58は、第1副軸34の軸方向で1速ドライブギヤ46bと向かい合う側の面には、1速ドライブギヤ46bに向かって突き出す第2噛合歯としての複数個の1速用第2噛合歯74bが周方向で等角度間隔に形成されている。1速用第2噛合歯74bは、第1ドグリング56及び第2ドグリング58の組付状態において、第1ドグリング56に形成されている貫通穴76を第1副軸34の軸方向に貫通している。1速用第1噛合歯74a及び1速用第2噛合歯74bは、各々、1速ドライブギヤ46bのギヤ側噛合歯52と噛合可能な切替用噛合歯74である。尚、第1ドグリング56及び第2ドグリング58には、各々、7速ドライブギヤ46aのギヤ側噛合歯と噛合可能な切替用噛合歯74も形成されている。但し、7速ドライブギヤ46aに対しては第1ドグリング56が第2リングとなり、第2ドグリング58が第1リングとなる。
【0037】
第1ドグリング56及び第2ドグリング58は、複数個のスプリング60によって連結されている。第1ドグリング56及び第2ドグリング58は、スプリング60によって互いに引き付けられる方向に付勢されている。従って、第1切替機構50aに外力が付与されない状態では、第1ドグリング56及び第2ドグリング58の互いに向かい合う面が当接させられる。この状態において、1速用第2噛合歯74bは、第1ドグリング56の貫通穴76を貫通し、1速用第1噛合歯74aと同じ高さまで突き出した状態になる。尚、スプリング60による、第1ドグリング56及び第2ドグリング58の連結構造については、公知の技術である為その説明を省略する。
【0038】
第1切替機構50aは、1速ドライブギヤ46bのギヤ側噛合歯52と切替用噛合歯74(1速用第1噛合歯74a、1速用第2噛合歯74b)とが噛み合わされることによって、1速ギヤ対40bにおける動力伝達状態を動力伝達可能状態とする、1速ドライブギヤ46bと第1副軸34とを一体的に回転する接続状態へ切り替える一方で、ギヤ側噛合歯52と切替用噛合歯74との噛合いが解除されることによって、1速ギヤ対40bにおける動力伝達状態を動力伝達不能状態とする、1速ドライブギヤ46bと第1副軸34とを相対回転可能な遮断状態へ切り替える。
【0039】
変速機20は、切替機構50の作動状態がそれぞれ切り替えられることで、前進8速のギヤ段に変速可能に構成されている。切替機構50の作動状態は、各々、切替機構50が第1副軸34や第2副軸36の軸方向に移動させられることで切り替えられる。切替機構50は、各々、シフト機構78(
図3参照)によって第1副軸34や第2副軸36の軸方向に移動させられる。
【0040】
図3を参照して、シフト機構78は、切替機構50を、それぞれ第1副軸34や第2副軸36の軸方向に移動可能に構成されている。シフト機構78は、切替機構50に嵌合するシフトフォーク72と、シフトフォーク72の位置を規定する為のシフト溝が形成されているシフトバレル80と、シフトバレル80を回転させるシフトアクチュエータ82と、を備えて構成されている。シフト機構78は、変速機20のアップシフト時には、変速機20が高速ギヤ段側に順次アップシフトされるように、切替機構50を第1副軸34や第2副軸36の軸方向に移動させ、ダウンシフト時には、変速機20が低速ギヤ段側に順次ダウンシフトされるように、切替機構50を第1副軸34や第2副軸36の軸方向に移動させるように構成されている。アップシフト及びダウンシフトの過渡期において、各々、適切なタイミングで切替機構50の断接状態が切り替えられる、すなわち適切なタイミングで変速行程が進行するように、シフトバレル80の各シフト溝の形状が形成されている。従って、シフトバレル80の回転に応じて、切替機構50が第1副軸34や第2副軸36の軸方向における規定の位置にそれぞれ移動させられることにより、切替機構50の断接状態が切り替えられて変速機20が変速させられる。
【0041】
第1切替機構50aにおいて1速ドライブギヤ46bのギヤ側噛合歯52と切替用噛合歯74(1速用第1噛合歯74a、1速用第2噛合歯74b)とが噛み合わされた状態での走行中、すなわち第1速ギヤ段1stが形成された状態での走行中に、第2速ギヤ段2ndへの1→2アップシフトが実行される場合を例示して、アップシフトの進行過程を説明する。
【0042】
1→2アップシフトが開始されると、シフトバレル80が回転することで、第1切替機構50aと嵌合するシフトフォーク72の位置がシフト溝の溝形状に沿って1速ドライブギヤ46bから離れる方向に移動させられる。このとき、シフトフォーク72に押されて第2ドグリング58が第1ドグリング56から離れる方向に移動し、第2ドグリング58と第1ドグリング56との間に介挿されているスプリング60が弾性変形させられる。又、第1ドグリング56の1速用第1噛合歯74aと1速ドライブギヤ46bのギヤ側噛合歯52との間で動力が伝達されている状態である為、1速用第1噛合歯74aとギヤ側噛合歯52との間の摩擦抵抗によって、スプリング60の弾性復帰力に抗って、1速用第1噛合歯74aとギヤ側噛合歯52との噛合が維持されている。従って、第1切替機構50aの第2ドグリング58と第1ドグリング56とが乖離した状態となる。
【0043】
更に、シフトバレル80が回転することで、第3切替機構50cと嵌合するシフトフォーク72の位置がシフト溝の溝形状に沿って変化し、このシフトフォーク72に押されて、第3切替機構50cが第2副軸36の軸方向で2速ドライブギヤ46f側に移動させられる。これにより、第3切替機構50cの切替用噛合歯74と2速ドライブギヤ46fのギヤ側噛合歯とが噛合可能な状態となる。第3切替機構50cの回転速度は2速ドライブギヤ46fの回転速度よりも速いことから、第3切替機構50cの切替用噛合歯74と2速ドライブギヤ46fのギヤ側噛合歯とが噛合可能な状態になると速やかにそれらが噛み合わされる。このとき、第3切替機構50cの切替用噛合歯74と2速ドライブギヤ46fのギヤ側噛合歯とが噛み合うと共に、第1切替機構50aの1速用第1噛合歯74aと1速ドライブギヤ46bのギヤ側噛合歯52とが噛み合う、同時噛み合い状態となる。
【0044】
第3切替機構50cの切替用噛合歯74と2速ドライブギヤ46fのギヤ側噛合歯とが噛み合うと、第3切替機構50cと一体回転する第2副軸36や変速機入力軸20iは第2速ギヤ段2ndに対応する回転速度で回転させられる為、第1ドグリング56の1速用第1噛合歯74aと1速ドライブギヤ46bのギヤ側噛合歯52との噛合いが解除され、第1切替機構50aは遮断状態に切り替えられる。従って、上述した同時噛み合い状態は、極めて短い時間だけ形成される。
【0045】
1速用第1噛合歯74aとギヤ側噛合歯52との噛合が解除されると、1速用第1噛合歯74aとギヤ側噛合歯52との間で作用していた摩擦抵抗がなくなる為、スプリング60の弾性復帰力によって、第1ドグリング56が第2ドグリング58側に引き寄せられる。このとき、変速機20の第2速ギヤ段2ndへの変速が完了する。第3切替機構50cの切替用噛合歯74と2速ドライブギヤ46fのギヤ側噛合歯とが噛み合うと、第1切替機構50aの1速用第1噛合歯74aと1速ドライブギヤ46bのギヤ側噛合歯52との噛合いが即座に解除される為、アップシフト過渡期のトルク抜けが防止される。
【0046】
このように、変速機20は、変速前のギヤ段を成立させる為の変速ギヤ対40における動力伝達状態が動力伝達可能状態とされている状態で変速後のギヤ段を成立させる為の変速ギヤ対40における動力伝達状態が動力伝達可能状態とされたことに起因して変速前のギヤ段を成立させる為の変速ギヤ対40における動力伝達状態が動力伝達不能状態へ切り替えられることによってアップシフトが行われる。変速機20では、トルク抜けが防止される、シームレス変速にてアップシフトが行われる。
【0047】
図3は、車両10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
図3において、車両10は、車両10の制御装置を含む電子制御装置100を備えている。電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置100は、必要に応じてエンジン制御用、電動機制御用、油圧制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
【0048】
電子制御装置100には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ84、MG回転速度センサ86、入力回転速度センサ88、出力回転速度センサ90、アクセル開度センサ92、スロットル弁開度センサ94、ブレーキスイッチ96、バレル回転角センサ98など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne、クラッチ入力軸24の回転速度であるK1クラッチ入力回転速度Nkiと同値であって電動機MGの回転速度であるMG回転速度Nm、変速機入力回転速度Ni、車速Vに対応する変速機出力回転速度No、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキオン信号Bon、シフトバレル80の回転角であるバレル回転角θbrlなど)が、それぞれ供給される。
【0049】
電子制御装置100からは、車両10に備えられた各装置(例えば不図示のエンジン制御装置、不図示のインバータ、油圧制御回路32、シフトアクチュエータ82など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、電動機MGを制御する為のMG制御指令信号Sm、K1クラッチ18を制御する為のK1油圧制御指令信号Sk1、シフトバレル80を回転駆動する為のバレル制御指令信号Sbrlなど)が、それぞれ出力される。
【0050】
電子制御装置100は、車両10における各種制御を実現する為に、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部102、クラッチ制御手段すなわちクラッチ制御部104、及び変速制御手段すなわち変速制御部106を備えている。
【0051】
ハイブリッド制御部102は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部102aとしての機能と、電動機MGの作動を制御する電動機制御手段すなわち電動機制御部102bとしての機能と、を含んでおり、それらの制御機能によりエンジン12及び電動機MGによるハイブリッド駆動制御等を実行する。
【0052】
ハイブリッド制御部102は、例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで、運転者による車両10に対する駆動要求量を算出する。前記駆動要求量マップは、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である。前記駆動要求量は、例えば駆動輪14における要求駆動トルクTrdemである。要求駆動トルクTrdem[Nm]は、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動パワーPrdem[W]である。前記駆動要求量としては、駆動輪14における要求駆動力Frdem[N]、変速機出力軸20oにおける要求変速機出力トルク等を用いることもできる。前記駆動要求量の算出では、車速Vに替えて変速機出力回転速度Noなどを用いても良い。要求変速機出力トルクは、変速機20の出力トルクである変速機出力トルクToに対する要求値である。
【0053】
ハイブリッド制御部102は、伝達損失、補機負荷、変速機20の変速比γ、電動機MGに対して電力を授受する不図示のバッテリの充電可能電力Winや放電可能電力Wout等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン12を制御するエンジン制御指令信号Seと、電動機MGを制御するMG制御指令信号Smと、を出力する。エンジン制御指令信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度NeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジン12のパワーであるエンジンパワーPeの指令値である。MG制御指令信号Smは、例えばそのときのMG回転速度NmにおけるMGトルクTmを出力する電動機MGの消費電力Wmの指令値である。
【0054】
ハイブリッド制御部102は、要求駆動トルクTrdemをエンジン12による駆動力のみでは賄えない場合には、エンジン12による駆動力に加えて電動機MGから駆動力を出力する、電動機MGによるアシスト制御を行う。
【0055】
クラッチ制御部104は、少なくとも駆動力源SPの駆動力を駆動輪14へ伝達して走行する車両10の走行中には、要求駆動トルクTrdemに応じた駆動力源SPの出力トルクつまり変速機20の入力トルクである変速機入力トルクTiを伝達可能なK1トルクTk1が得られるようにK1油圧PRk1を調圧するK1油圧制御指令信号Sk1を油圧制御回路32へ出力する。要求駆動トルクTrdemに応じた変速機入力トルクTiを伝達可能なK1トルクTk1は、例えばK1クラッチ18の滑りが生じることなくK1クラッチ18の係合状態が維持され得るうちで、できるだけ小さなK1クラッチ18のトルク容量である。又、クラッチ制御部104は、例えばエンジン12が運転状態にあるときの車両10の停止時には、K1クラッチ18を解放状態とするK1油圧制御指令信号Sk1を油圧制御回路32へ出力する。
【0056】
変速制御部106は、例えば予め定められた関係である変速マップを用いて変速機20の変速判断を行い、必要に応じてシフトバレル80を回転駆動して変速機20の変速制御を実行する為のバレル制御指令信号Sbrlをシフトアクチュエータ82へ出力する。
【0057】
ところで、変速機20のアップシフト時には、種々の要因によってドライバビリティーを悪化させる車両振動が発生する場合がある。
【0058】
図4は、変速機20のアップシフトに伴う変速機出力トルクToの低下に起因する車両振動を説明する図である。
図4において、t1時点は、1→2アップシフト時に、第3切替機構50cの切替用噛合歯74と2速ドライブギヤ46fのギヤ側噛合歯とが噛み合ったことによって、第1切替機構50aの1速用第1噛合歯74aと1速ドライブギヤ46bのギヤ側噛合歯52との噛合いが即座に解除された時点を示している。変速機20のアップシフト特にはパワーオンアップシフトでは、変速機出力トルクToが低下する為(図中[1]参照)、その変速機出力トルクToの低下に起因して車両振動が発生する(図中[2]参照)。
【0059】
図5は、変速機20のアップシフトに伴う変速機入力回転速度Niの低下に起因する車両振動を説明する図である。
図5において、t1時点は、
図4のt1時点と同様の時点を示している。変速機20のアップシフトでは、変速機入力回転速度Niが急速に低下する為(図中[3]参照)、変速機入力回転速度Niの急低下によるイナーシャトルクの発生によって変速機入力トルクTiが一時的に急増させられる(図中[4]参照)。その為、変速機20の内部で振動が発生して車両振動が発生する(図中[5]参照)。
【0060】
ここで、前述したように、要求駆動トルクTrdemに応じた変速機入力トルクTiを伝達可能なK1トルクTk1は、例えばK1クラッチ18の滑りが生じることなくK1クラッチ18の係合状態が維持され得るうちで、できるだけ小さなK1クラッチ18のトルク容量とされている。K1クラッチ18は、変速機20のアップシフトが実行中でない定常走行中には、上述したK1トルクTk1に制御されておれば、係合状態が維持され得る。一方で、走行中に変速機20のアップシフトが実行されると、変速機入力回転速度Niが急速に低下する為、K1クラッチ18のK1入力部材18iは、エンジン12や電動機MGの慣性によってK1クラッチ18のK1出力部材18oの回転に追従できない。その為、K1クラッチ18は、変速機20のアップシフト時には一時的にスリップ状態とされ、その後に、アップシフトに伴う低下後の変速機入力回転速度NiにK1クラッチ入力回転速度Nkiが同期して係合状態に復帰させられる。
【0061】
図6は、変速機20のアップシフト時に、低下後の変速機入力回転速度NiにK1クラッチ入力回転速度Nkiが同期するまでの期間における車両振動を説明する図である。
図6において、t1時点は、
図4や
図5のt1時点と同様の時点を示している。t2時点は、K1クラッチ18が一時的にスリップ状態とされた後に、急速な低下後の変速機入力回転速度NiにK1クラッチ入力回転速度Nkiが同期した時点を示している。変速機20のアップシフト時に、K1クラッチ18が一時的にスリップ状態とされている期間すなわち低下後の変速機入力回転速度NiにK1クラッチ入力回転速度Nkiが同期するまでの期間では、駆動力源SPの慣性を持ったK1入力部材18iが回転低下させられることに伴うイナーシャトルクが発生する。このイナーシャトルクは、スリップ状態のK1クラッチ18を介して変速機20へ伝達される為、K1クラッチ18が一時的にスリップ状態とされている期間において(t1時点-t2時点参照)、変速機入力トルクTiが一時的に増加させられる(図中[6]参照)。その為、K1クラッチ18が一時的にスリップ状態とされている期間において、変速機入力トルクTiの一時的な増加に起因する車両振動が発生する(図中[7]参照)。
【0062】
K1トルクTk1の大きさによって、アップシフト時のK1クラッチ入力回転速度Nkiの低下速度が変わるので、K1クラッチ18が一時的にスリップ状態とされている期間におけるK1入力部材18iが回転低下させられることに伴うイナーシャトルクの大きさが変わる。このイナーシャトルクの大きさが変われば、変速機入力トルクTiの一時的な増加の大きさが変わるので、車両振動の出方、特には車両振動の大きさ(振幅)も変わる。一方で、この変速機入力トルクTiの増加に起因する車両振動と、変速機20のアップシフトに伴う変速機出力トルクToの低下に起因する車両振動(
図4参照)と、は同一の駆動系における振動に因るものであるので、それらの車両振動の周波数成分は、位相が反転しただけの同一の周波数となっている。これらのことから、変速機20のアップシフト時の車両振動によるドライバビリティーの悪化に対して、変速機20のアップシフトに伴う変速機出力トルクToの低下に起因する車両振動を、変速機入力軸20iの回転低下に伴ってK1クラッチ18が一時的にスリップ状態とされている期間における駆動力源SPの回転低下によって発生する変速機入力トルクTiの増加に起因する車両振動の大きさを調整することで相殺させることを見出した。つまり、
図4中の[2]で示した車両振動を、
図6中の[7]で示した車両振動の大きさを調整することで相殺させることを見出した。
【0063】
つまり、クラッチ制御部104は、変速機20のアップシフト時に、変速機出力トルクToの低下に起因する車両振動を、変速機入力軸20iの回転低下に伴ってK1クラッチ18が一時的にスリップ状態とされている期間における駆動力源SPの回転低下によって発生する変速機入力トルクTiの増加に起因する車両振動で相殺させるように、K1トルクTk1を制御する。
【0064】
例えば、クラッチ制御部104は、変速機20のアップシフト時には、要求駆動トルクTrdemに応じた変速機入力トルクTiを伝達可能なK1トルクTk1に対して、つまり定常走行時のK1トルクTk1に対して、所定トルクTk1f分変化させたK1トルクTk1が得られるようにK1油圧PRk1を調圧するK1油圧制御指令信号Sk1を油圧制御回路32へ出力することで、K1トルクTk1を制御する。所定トルクTk1fは、例えば変速機20のギヤ段に応じた、変速機出力トルクToの低下に起因する車両振動を相殺する為の予め定められたK1トルクTk1の変動分である。又は、所定トルクTk1fは、例えば変速機20のギヤ段に加えて或いは替えて、平坦路、登坂路、降坂路などの走行路の状態に応じて予め定められても良い。或いは、定常走行時のK1トルクTk1に対して所定トルクTk1f分変化させたK1トルクTk1に替えて、変速機入力トルクTi、変速機20のギヤ段等に応じた、変速機出力トルクToの低下に起因する車両振動を相殺する為の予め定められた所定のK1トルクTk1(つまり定常走行時のK1トルクTk1+所定トルクTk1f)を用いても良い。
【0065】
具体的には、ハイブリッド制御部102は、車両10が走行中であるか否かを判定する。特には、ハイブリッド制御部102は、車両10がアクセルペダルが踏み込まれた状態つまりパワーオン状態での走行中であるか否かを判定する。
【0066】
変速制御部106は、変速機20のアップシフトを実行する必要が有るか否かを判定する。変速制御部106は、変速機20のアップシフトを実行する必要が有ると判定した場合には、所定時間TMf経過後に変速機20のアップシフトを開始して、変速機20のアップシフトを実行する。所定時間TMfは、例えば変速機20のアップシフトを実行する必要が確実に有ると判断できる為の予め定められた時間である。尚、所定時間TMfは必ずしも設けられなくても良い。
【0067】
クラッチ制御部104は、ハイブリッド制御部102により車両10が走行中であると判定されたときに、変速制御部106により変速機20のアップシフトを実行する必要がないと判定された場合には、要求駆動トルクTrdemに応じた変速機入力トルクTiを伝達可能なK1トルクTk1が得られるようにK1油圧PRk1を調圧するK1油圧制御指令信号Sk1を油圧制御回路32へ出力する。
【0068】
クラッチ制御部104は、ハイブリッド制御部102により車両10が走行中であると判定されたときに、変速制御部106により変速機20のアップシフトを実行する必要が有ると判定された場合には、変速機20のギヤ段、走行路の状態等に応じた、変速機出力トルクToの低下に起因する車両振動を相殺する為の予め定められたアップシフト時のK1トルクTk1が得られるようにK1油圧PRk1を調圧するK1油圧制御指令信号Sk1を油圧制御回路32へ出力する。
【0069】
図7は、電子制御装置100の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、アップシフトに際してドライバビリティーの悪化を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば繰り返し実行される。
図8、
図7のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【0070】
図7において、先ず、ハイブリッド制御部102の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、車両10が走行中であるか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS10の判断が肯定される場合は変速制御部106の機能に対応するS20において、変速機20のアップシフトを実行する必要が有るか否かが判定される。このS20の判断が否定される場合はクラッチ制御部104の機能に対応するS30において、変速機入力トルクTiに応じたK1トルクTk1にてつまり定常走行時のK1トルクTk1にてK1クラッチ18の係合状態が制御される。上記S20の判断が肯定される場合はクラッチ制御部104の機能に対応するS40において、変速機20のギヤ段、走行路の状態等に応じた、変速機出力トルクToの低下に起因する車両振動を相殺する為のアップシフト時のK1トルクTk1にてK1クラッチ18の係合状態が制御される。
【0071】
図8は、車両10の走行中に変速機20のアップシフトが実行された場合の一例を示す図である。
図8において、t1b時点は、変速機20のアップシフト時に、アップシフト後のギヤ段の成立に関与する、切替機構50の切替用噛合歯74と遊転ギヤ46のギヤ側噛合歯52とが噛み合ったことによって、アップシフト前のギヤ段の成立に関与する、切替機構50の切替用噛合歯74と遊転ギヤ46のギヤ側噛合歯52との噛合いが即座に解除された時点を示している。従って、t1b時点よりも前に変速機20のアップシフトが判断されて、そのアップシフトが開始されている。t2b1時点とt2b2時点とは、各々、K1クラッチ18が一時的にスリップ状態とされた後に、急速な低下後の変速機入力回転速度NiにK1クラッチ入力回転速度Nkiが同期した時点を示している。破線に示す比較例では、定常走行時のK1トルクTk1にてK1クラッチ18の係合状態が制御されている。その為、
図4中の[2]で示した車両振動を、
図6中の[7]で示した車両振動にて適切に相殺することができず、比較的振幅が大きな車両振動が発生している(図中[8]参照)。実線に示す本実施例では、変速機20のギヤ段、走行路の状態等に応じた、変速機出力トルクToの低下に起因する車両振動を相殺する為のアップシフト時のK1トルクTk1にてK1クラッチ18の係合状態が制御されている。これにより、
図4中の[2]で示した車両振動を、
図6中の[7]で示した車両振動にて適切に相殺することができ、車両振動の振幅が比較的抑制されている(図中[9]参照)。尚、実線に示す本実施例における車両振動は、専らアップシフトに伴う変速機入力回転速度Niの低下に起因する車両振動(
図5中の[5]参照)である。
【0072】
上述のように、本実施例によれば、変速機20のアップシフト時に、変速機出力トルクToの低下に起因する車両振動を、変速機入力軸20iの回転低下に伴ってK1クラッチ18が一時的にスリップ状態とされている期間における駆動力源SPの回転低下によって発生する変速機入力トルクTiの増加に起因する車両振動で相殺させるように、K1トルクTk1が制御されるので、変速機出力トルクToの低下に起因する車両振動が抑制される。よって、アップシフトに際して、ドライバビリティーの悪化を抑制することができる。
【0073】
又、
図4中の[2]で示した車両振動を、
図6中の[7]で示した車両振動で相殺させることで、振動成分を、専ら、
図5中の[5]で示した、アップシフトに伴う変速機入力回転速度Niの低下に起因する車両振動としたので、
図5中の[5]で示した車両振動を抑制する為の、本実施例とは別の手法を適用し易い状況を作り出すことができるという副次的な効果も得られる。
【0074】
また、本実施例によれば、遊転ギヤ46のギヤ側噛合歯52と切替機構50の切替用噛合歯74とが噛み合わされたり、その噛合いが解除されることによって、変速ギヤ対40における動力伝達状態を動力伝達可能状態としたり動力伝達不能状態とする切替機構50を作動させることによる変速機20のアップシフトに伴う変速機出力トルクToの急速な低下に起因する車両振動を、変速機入力トルクTiの増加に起因する車両振動で相殺させるように、K1トルクTk1が制御されるので、変速機出力トルクToの急速な低下に起因する車両振動が抑制される。
【0075】
また、本実施例によれば、切替機構50の切替用噛合歯74は、第1ドグリング56に形成された第1噛合歯(1速用第1噛合歯74a)と第2ドグリング58に形成された第2噛合歯(1速用第2噛合歯74b)とを含むものであるので、遊転ギヤ46のギヤ側噛合歯52と切替機構50の切替用噛合歯74とを噛み合わせたり、その噛合いを解除することによって、変速ギヤ対40における動力伝達状態が動力伝達可能状態とされたり動力伝達不能状態とされる。
【0076】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0077】
例えば、前述の実施例では、駆動力源SPとしてエンジン12及び電動機MGを備えたハイブリッド車両を例示したが、この態様に限らない。例えば、駆動力源SPとしてエンジンのみを備えたエンジン車両、エンジンを備えず電動機のみを駆動力源SPとする電気自動車などであっても、本発明を適用することができる。
【0078】
また、前述の実施例では、変速機20は、変速ギヤ対40が設けられる、互いに平行に配置された3つの回転軸を備えた平行軸式のトランスミッションであったが、この態様に限らない。例えば、変速機20は、変速ギヤ対が設けられる、互いに平行に配置された2つの回転軸を備えた平行2軸式のトランスミッションであっても良い。又、変速機20は、前進8速のギヤ段に変速可能なトランスミッションであったが、ギヤ段の数は特に限定されず、例えば前進4速又は前進6速のギヤ段など適宜変更することができる。又、平行2軸式のトランスミッションの場合、切替機構と遊転ギヤとが変速機の出力回転部材上に設けられる構成であっても良い。
【0079】
また、前述の実施例では、変速機20のアップシフト時のK1トルクTk1を、変速機20のギヤ段、走行路の状態等に応じた、変速機出力トルクToの低下に起因する車両振動を相殺する為のK1トルクTk1としたが、この態様に限らない。例えば、少なくとも変速機20のアップシフト時に、K1トルクTk1を変速機出力トルクToの低下に起因する車両振動を相殺する為のK1トルクTk1とすれば良く、アップシフト時に限らず、定常走行時も、K1トルクTk1を変速機出力トルクToの低下に起因する車両振動を相殺する為のK1トルクTk1としても良い。
【0080】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。