(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189698
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】ヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を指標とした核酸メチル化検出法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/28 20060101AFI20221215BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20221215BHJP
C12N 15/10 20060101ALN20221215BHJP
【FI】
C12Q1/28 ZNA
C12Q1/68
C12N15/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021183328
(22)【出願日】2021-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2021097086
(32)【優先日】2021-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】518427074
【氏名又は名称】LG Japan Lab株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 聖
(72)【発明者】
【氏名】池袋 一典
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA08
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QR02
4B063QS12
4B063QS28
4B063QX02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】核酸を損傷させる可能性のある前処理工程を行うことなく、高い確度で簡便に、迅速に、かつ低コストで目的核酸のメチル化状態を同定するための方法を提供する。
【解決手段】核酸は、そのメチル化状態に依存して、異なるコンフォメーションのグアニン四重鎖構造を形成する。ヘムタンパク質は、結合した核酸のグアニン四重鎖構造のコンフォメーションに依存して異なるペルオキシダーゼ活性を示す。そこでグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を検出することにより、上記目的を達成することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的核酸のメチル化状態を同定するための方法であって、
目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を検出することを含む、方法。
【請求項2】
目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルと、対照核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルとを比較することをさらに含み、
比較により得られたペルオキシダーゼ活性のレベルの差に基づいて目的核酸のメチル化状態が同定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ヘムタンパク質がミオグロビン、ヘモグロビン、またはシトクロムである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
対照核酸が非メチル化核酸であり、
目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルが、対照核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルと比較して同レベルである場合に、目的核酸がメチル化されていない、と同定され、
目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルが、対照核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルと比較して低い、または高い場合に、目的核酸がメチル化されている、と同定される、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
対照核酸がメチル化核酸であり、
目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルが、対照核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルと比較して同レベルである場合に、目的核酸がメチル化されている、と同定され、
目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルが、対照核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルと比較して低い、または高い場合に、目的核酸がメチル化されていない、と同定される、請求項2または3に記載の方法。
【請求項6】
ヘムタンパク質と化学発光基質との反応により生じる化学発光を検出することにより、ペルオキシダーゼ活性を検出する、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
核酸がDNA又はRNAである、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
DNAがゲノムDNAである、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を指標とした、核酸のメチル化状態を同定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DNA(deoxyribonucleic acid:デオキシリボ核酸)のメチル化は、遺伝子発現に大きな影響を与えている。例えば、細胞の分化や、臓器の発達をDNAのメチル化が制御している。DNAのメチル化状態は、ヒトの生活習慣や様々な疾病の進行状況により変化するため、様々な疾患の指標となる。よって、メチル化状態を同定することにより疾患の診断や発症前診断が可能になると期待されている。
【0003】
従来のメチル化DNA解析では、試料DNA中のメチル化DNAと非メチル化DNAを区別する前処理後、定量PCR法、高速シーケンス法、マイクロアレイ法等を用いてDNAのプロファイリングを行う。前処理方法としては、DNA中のシトシン塩基を、重亜硫酸ナトリウム(sodium bisulfite)等の薬剤処理によりウラシルに変化させる方法が最も多く用いられているが、ゲノムサンプルに非特異的な損傷が発生するという欠点があった。また、メチル化シトシン感受性の制限酵素や非感受性の制限酵素を利用する方法や、抗メチル化シトシン抗体等のメチル化DNA結合タンパク質を用いるメチル化DNA免疫沈降法等も用いられるが、検出操作が煩雑であることや試薬が高価であること等の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/188426号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】CpG Methylation Changes G-Quadruplex Structures Derived from Gene Promoters and Interaction with VEGF and SP1, Kaori Tsukakoshi et al., Molecules 2018, 23(4), 944
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来法において必要とされていた核酸を損傷させる可能性のある前処理工程を行うことなく、高い確度で、簡便に、迅速に、かつ低コストで目的核酸のメチル化状態を同定するための方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を検出することにより、目的核酸のメチル化状態を同定することができることを見出した。
【0008】
この知見に基づき、以下の発明が提供される。
【0009】
[1]目的核酸のメチル化状態を同定するための方法であって、
目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を検出することを含む、方法。
[2]目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルと、対照核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルとを比較することをさらに含み、
比較により得られたペルオキシダーゼ活性のレベルの差に基づいて目的核酸のメチル化状態が同定される、[1]に記載の方法。
[3]ヘムタンパク質がミオグロビン、ヘモグロビン、またはシトクロムである、[1]または[2]に記載の方法。
[4]対照核酸が非メチル化核酸であり、
目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルが、対照核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルと比較して同レベルである場合に、目的核酸がメチル化されていない、と同定され、
目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルが、対照核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルと比較して低い、または高い場合に、目的核酸がメチル化されている、と同定される、[2]または[3]に記載の方法。
[5]対照核酸がメチル化核酸であり、
目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルが、対照核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルと比較して同レベルである場合に、目的核酸がメチル化されている、と同定され、
目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルが、対照核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルと比較して低い、または高い場合に、目的核酸がメチル化されていない、と同定される、[2]または[3]に記載の方法。
[6]ヘムタンパク質と化学発光基質との反応により生じる化学発光を検出することにより、ペルオキシダーゼ活性を検出する、[1]~[5]のいずれか1つに記載の方法。
[7]核酸がDNA又はRNAである、[1]~[6]のいずれか1つに記載の方法。
[8]DNAがゲノムDNAである、[7]に記載の方法。
[9]目的核酸のメチル化状態を同定するためのキットであって、
ヘムタンパク質、及び前記ヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を検出するための試薬を含む、キット。
[10]核酸のメチル化状態と関連する疾患を診断するための診断キットであって、
ヘムタンパク質、及び前記ヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を検出するための試薬を含む、診断キット。
[11]目的核酸のメチル化状態を同定するための装置であって、
核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を検出するための手段を含む、装置。
[12]核酸のメチル化状態と関連する疾患を診断するための、[11]に記載の装置を備える診断装置。
[13][1]~[8]のいずれか1つに記載の方法を含む、核酸のメチル化状態と関連する疾患の診断を補助するための方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前処理不要のため核酸を損傷させることなく、高い確度で、簡便に、迅速に、かつ低コストで目的核酸のメチル化状態を同定することができる。その結果、当該結果を用いて、様々な疾患を高い確度で、簡便に、迅速に、かつ低コストで診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本願実施例において使用したDRD2-2(ヒトドーパミンD2受容体遺伝子のプロモーター領域内の塩基配列)、DRD2-2変異体、DRD2-4(ヒトドーパミンD2受容体遺伝子のプロモーター領域内の塩基配列)、及びそのメチル化部位(下線部)を示す図である。
【
図2】本願実施例において使用した化学発光基質を用いたヘムタンパク質(ミオグロビン)のペルオキシダーゼ活性の検出系を示す。
【
図3】実施例1における、プレート上への固定化時のDNAの濃度(0~200nM)と、各濃度におけるミオグロビンのペルオキシダーゼ活性を示す化学発光強度を示す。
【
図4】実施例2における、未固定の目的核酸についてのミオグロビンのペルオキシダーゼ活性を示す化学発光強度を示す。
【
図5】実施例3における、メチル化DRD2-2、及び非メチル化DRD2-2についてのCDスペクトル測定結果を示す。
【
図6】実施例4における、非メチル化DRD2-2、メチル化DRD2-2、及びDRD2-2変異体を電気泳動した結果を示す。
【
図7】メチル化及び非メチル化DRD2-2、並びにメチル化及び非メチル化DRD2-4についてのミオグロビンのペルオキシダーゼ活性を示す化学発光強度を示す。
【
図8】実施例6における、未固定の目的核酸についてのヘモグロビンのペルオキシダーゼ活性を示す化学発光強度を示す。
【
図9】実施例7における、未固定の目的核酸についてのシトクロムのペルオキシダーゼ活性を示す化学発光強度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0013】
==目的核酸のメチル化状態を同定するための方法==
本実施形態にかかる目的核酸のメチル化状態を同定するための方法は、目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を検出することを含む方法である。
【0014】
〔目的核酸〕
本明細書において、「目的核酸」とは、メチル化状態を同定する対象となる1または複数の核酸を指す。
【0015】
目的核酸は、DNAまたはRNAのいずれあってもよい。ここで、「DNA」とは、一本鎖または二本鎖構造のデオキシリボ核酸を意味し、「RNA」とは、一本鎖または二本鎖構造のリボ核酸を意味する。
一実施形態において、疾患の診断のために、疾患と関連性を有するメチル化状態を同定することを考慮する場合、目的核酸は、DNAであることが好ましく、ゲノムDNAであることがより好ましい。
【0016】
目的核酸は、天然由来の核酸であっても、生物工学的に作製された、または改変された核酸であってもよいが、疾患の診断のために、疾患と関連性を有するメチル化状態を同定することを考慮する場合、生物から単離された、天然由来の核酸であることが好ましい。
生物は、動物であっても植物であってもよいが、動物であることが好ましく、哺乳類であることがより好ましく、ヒト、家畜動物、実験動物、及び/または愛玩動物であることがさらに好ましく、ヒトであることが最も好ましい。
目的核酸の由来する生物組織は特に限定されず、血液(全血、血漿、血清)、唾液、毛髪、鼻腔・口腔等の粘膜組織、各種内臓の組織等であってもよい。
目的核酸は、単一の塩基配列からなる単一の核酸のみを含んでいても、または異なる塩基配列からなる複数種の核酸を含んでいてもよく、異なる生物種または異なる生物個体由来の1または複数種の核酸、異なる細胞由来の1または複数種の核酸、及び/または異なる調製方法によって得られた1または複数種の核酸を含んでいてもよい。
【0017】
ここで、生物からの核酸の単離は、当該分野での通常の方法によって、行うことができる。
【0018】
目的核酸が二本鎖の核酸である場合、本実施形態にかかる目的核酸のメチル化状態を同定するための方法に用いるために、核酸を一本鎖化しておくことが好ましい。
ここで、一本鎖化とは、二本鎖の核酸を解離し、一本鎖の核酸にすることを意味し、例えば、熱変性、アルカリ変性等の当該分野での通常の方法によって行うことができる。一本鎖化のための処理は、目的核酸を生物から単離する工程で生じる立体構造や、核酸同士の付着を解離するためにも有効である。これにより、本実施形態にかかる目的核酸のメチル化状態を同定するための方法において、目的核酸が、そのメチル化状態に依存したグアニン四重鎖構造のコンフォメーションを形成することが可能になる。
【0019】
また、本実施形態にかかる目的核酸のメチル化状態を同定するための方法に用いるために、あらかじめ、目的核酸を、グアニン四重鎖構造を形成し得る塩基長に断片化しておくことが好ましい。
断片化は、化学的手法(制限酵素)、物理的手法(機械的破砕、超音波等)等の当該分野での通常の方法によって行うことができる。
断片化された核酸の塩基長は、目的核酸がグアニン四重鎖構造を形成し得る範囲で限定されず、当該分野における通常の方法によれば、約数10~約数1000塩基長に断片化されるが、約数10~約100塩基長であることがより好ましい。
【0020】
ここで、目的核酸の塩基配列は、本実施形態にかかる目的核酸のメチル化状態を同定するための方法に用いることができる範囲で限定されない。すなわち、一本化、及び/または断片化された状態において、目的核酸の塩基配列は、そのグアニン四重鎖構造がヘムタンパク質と結合し、ヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を変化させることのできる塩基配列であればよい。
例えば、一般に、GGG配列を4つ以上含む核酸は、グアニン四重鎖構造を形成し、ヘムタンパク質と結合して、該ヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を変化させる。従って、目的核酸の塩基配列は、GGG配列を4つ以上含む核酸であることが好ましい。
天然由来の核酸においては、ゲノムDNAの5’-シトシン-グアニン-3’配列を高頻度で含むGpCアイランドにグアニンが高頻度で含まれること、GpCアイランドにおけるメチル化状態が様々な疾患の状態と関連することが見出されていることから、目的核酸の塩基配列は、ゲノムDNAのGpCアイランドの一部または全部を含むことがより好ましい。
【0021】
一実施形態において、天然由来の核酸の場合、生物から取得した核酸試料に、目的核酸以外の核酸が含まれている場合がある。この場合、目的核酸とその他の核酸とを含む核酸試料を本実施形態にかかる目的核酸のメチル化状態を同定するための方法にそのまま用いてもよいが、ペルオキシダーゼ活性の検出感度、及び/またはメチル化状態の同定の正確性を考慮する場合、目的核酸以外の核酸から目的核酸をあらかじめ分離しておくことが好ましい。このような分離は、当該分野での通常の方法によって行うことができるが、例えば、異なる複数種の核酸を含んだ核酸試料に対し、目的核酸に含まれる塩基配列に特異的に結合するように設計したDNAプローブを用いてもよい。
【0022】
〔メチル化状態〕
「メチル化状態」とは、核酸における塩基にメチル基が付加されている状態(メチル化)及び/またはメチル基が付加されていない状態(非メチル化)を包含する。
一実施形態において、核酸のメチル化状態と関連する疾患の診断のために、目的核酸のメチル化状態を同定することを考慮する場合、メチル化状態は、好ましくはDNAの、より好ましくはゲノムDNAの、さらに好ましくは、ゲノムDNAの5’-シトシン-グアニン-3’配列における、シトシンのメチル化及び/または非メチル化を指す。
【0023】
ここで、「メチル化状態」は、定性的な状態だけでなく定量的な状態も包含し、例えば目的核酸内にメチル化され得る部位(塩基)、すなわちメチル化可能部位が複数存在する場合、それらの部位のうちのメチル化部位の数または比率、及び/または非メチル化部位の数または比率であってもよく、またはメチル化部位数と非メチル化部位数との比であってもよい。
【0024】
また、本実施形態にかかる目的核酸のメチル化状態を同定するための方法に用いられる核酸試料中に単一の塩基配列からなる複数の核酸、または異なる塩基配列からなる複数の核酸が含まれる場合、「メチル化状態」は、核酸試料中の全核酸または目的核酸のうち、メチル化核酸の数または比率、及び/または非メチル化核酸の数または比率であってもよく、またはメチル化核酸と非メチル化核酸との比であってもよい。
【0025】
ここで、メチル化核酸は、複数のメチル化可能部位を有する核酸について、該核酸内のメチル化可能部位の全てがメチル化されている核酸、及び少なくとも1つ以上がメチル化されている核酸を包含し、例えば、目的核酸内の少なくとも1つ以上の特定のメチル化可能部位がメチル化されていることに基づいて、該核酸内のその他のメチル化可能部位のメチル化状態に関係なく、該核酸をメチル化核酸であると同定してもよい。
一方、非メチル化核酸は、複数のメチル化可能部位を有する核酸について、該核酸内のメチル化可能部位の全てがメチル化されていない核酸、及び少なくとも1つ以上がメチル化されていない核酸を包含し、例えば、目的核酸内の少なくとも1つ以上の特定のメチル化部位がメチル化されていないことに基づいて、該核酸内のその他のメチル化可能部位のメチル化状態に関係なく、該核酸を非メチル化核酸であると同定してもよい。
【0026】
〔グアニン四重鎖構造〕
グアニン四重鎖(G4)構造は、グアニン(G)塩基4個が非ワトソン-クリック型水素結合を介して同一平面上に環状に配置したG-カルテットと呼ばれる平面構造がπ-πスタッキングされることで重層化した高次構造である(「G-Quadruplexes as An Alternative Recognition Element in Disease-Related Target Sensing」 Jeunice Ida et al., Molecules 2019, 24, 1079、「新たな神経疾患治療ターゲット~グアニン四重鎖~」 塩田倫史ら、日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)、2019、154、294~300)。
グアニンを有する4本のオリゴヌクレオチド鎖の配置によってグアニン四重鎖構造が形成され、そのコンフォメーションは形成時の様々な条件により異なる。
例えば、すべて平行である場合にはパラレル型、反平行である場合はアンチパラレル型、これらが混合している場合はハイブリッド型と呼ばれる。グアニン四重鎖構造の型の違いは、例えば、CD(円二色性)スペクトルにより判別することができる。例えば、パラレル型とアンチパラレル型の場合、「パラレル型」は、260nmに正のピーク、240nmに負のピークが現れ、「アンチパラレル型」は、295nmに正のピーク、265nmに負のピークが現れることに基づき判別することができる。
【0027】
〔目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質〕
本実施形態にかかる目的核酸のメチル化状態を同定するための方法において、目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質は、例えば、目的核酸を含む核酸試料とヘムタンパク質とをそれぞれ該方法を実施するための緩衝液中に導入し、目的核酸とヘムタンパク質とを接触させることによって得ることができる。
【0028】
ここで、目的核酸は、緩衝液中で担体に固定されていても、緩衝液中に懸濁されており未固定であってもよく、本実施形態にかかる目的核酸のメチル化状態を同定するための方法において、目的核酸のメチル化状態を同定することができるペルオキシダーゼ活性が検出できる範囲で制限されない。
【0029】
担体に固定されている場合、目的核酸は、当該分野での通常の方法によって担体に固定され得る。
例えば、目的核酸を特異的に捕捉することのできる修飾があらかじめ付された担体を用い、修飾を介して目的核酸が担体に固定されていてもよい。
【0030】
担体に付された修飾は、目的核酸に含まれる塩基配列、または目的核酸に付された修飾の少なくとも一部に特異的に結合するように設計したDNAプローブであっても、ストレプトアビジン修飾であっても、または官能基であってもよく、当該分野で通常用いられる手法から当業者が適宜選択することができる。
担体に付された修飾が官能基である場合、該修飾は、目的の核酸を直接、または核酸に付加された修飾を介して捕捉することのできる範囲で限定されないが、例えば、マレイミド基、カルボキシ基若しくはその活性エステル、エポキシ基、トシル基、アミノ基、チオール基、及び/またはブロモアセトアミド基等が挙げられる。
【0031】
一実施形態において、担体に付された修飾により捕捉され、担体に固定されるために、必要に応じ、目的核酸に修飾が付されていてもよい。
【0032】
目的核酸に修飾が付されている場合、該修飾は、目的核酸が担体に固定され得る範囲で限定されないが、例えば、担体に付された修飾がDNAプローブである場合、目的核酸は、該プローブにハイブリダイズする付加的核酸断片等を有することが好ましい。
担体に付された修飾がストレプトアビジン修飾である場合、目的核酸は、ストレプトアビジンに結合する、ビオチン修飾等の修飾を有することが好ましい。
また、例えば、担体に付された修飾がマレイミド基である場合、目的核酸は、チオール基を有することが好ましい。
【0033】
ここで、目的核酸への付加的核酸配列の付加、ビオチン修飾の付加、またはチオール基の付加は、当該分野での通常の方法によって行うことができ、例えば、市販のキットを用いてもよい。
【0034】
目的核酸は、その5’または3’末端の塩基、またはその他の塩基のいずれの部分を介して担体に固定されていてもよく、目的核酸がそのメチル化状態に依存してグアニン四重鎖構造を形成し得る範囲で限定されず、選択する固定方法、担体及び目的核酸に付する修飾の種類によって当業者が適宜選択することができる。
例えば、5’または3’末端の塩基、またはその他の塩基にビオチン修飾を付した目的核酸と、ストレプトアビジン修飾を付した担体とを用いることができる。
【0035】
一実施形態において、例えば、修飾が付された担体が浸漬された緩衝液中に、必要に応じ修飾が付された目的核酸を導入し、担体と目的核酸とを接触させることができる。これにより、目的核酸が担体に付された修飾に捕捉されるため、目的核酸を担体に固定することができる。
【0036】
ここで、上記〔目的核酸〕の項で説明したとおり、目的核酸は、緩衝液中に導入する前にあらかじめその他の核酸から分離しておくことが好ましいが、目的核酸とその他の核酸とを含む核酸試料を、本実施形態にかかる目的核酸のメチル化状態を同定するための方法にそのまま用いてもよい。
この場合、例えば、目的核酸に含まれる塩基配列の少なくとも一部に特異的に結合するように設計したDNAプローブで修飾された担体を用い、目的核酸を担体に固定する工程で同時に目的核酸を特異的に捕捉する等して、他の核酸から分離してもよい。
【0037】
緩衝液中に導入される目的核酸の濃度は、本実施形態にかかる目的核酸のメチル化状態を同定するための方法が実施できる範囲で限定されず、当業者が適宜決定することができる。
【0038】
緩衝液中に導入された核酸試料中の目的核酸は、そのメチル化状態に依存して、異なるコンフォメーションのグアニン四重鎖構造を形成する。
グアニン四重鎖構造のコンフォメーションは、目的核酸の塩基配列、メチル化状態、緩衝液の組成等の各条件によって異なるものである。
【0039】
上記のように取得された担体に固定された目的核酸、または未固定の目的核酸に加え、ヘムタンパク質を緩衝液中に導入し、接触させることによって、目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質を取得することができる。
【0040】
一実施形態において、目的核酸が担体に固定されている場合、目的核酸とヘムタンパク質とを接触させる前に、担体表面のブロッキングを行ってもよい。ブロッキングにより、ヘムタンパク質の担体への非特異的結合を低減することができる。
【0041】
本実施形態におけるヘムタンパク質は、結合した核酸のグアニン四重鎖構造のコンフォメーションに依存して異なるペルオキシダーゼ活性を示す、及び/または結合した核酸のグアニン四重鎖構造のコンフォメーションに依存してペルオキシダーゼ活性が変化するヘムタンパク質である範囲で限定されない。
核酸のグアニン四重鎖構造とヘムタンパク質のヘム(ポルフィリン鉄錯体)とが相互作用し、該相互作用によってヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性が変化すると考えられる。従って、ヘムタンパク質は、ヘムを有していることで、結合した核酸のグアニン四重鎖構造のコンフォメーションに依存して異なるペルオキシダーゼ活性を示す、及び/または結合した核酸のグアニン四重鎖構造のコンフォメーションに依存してペルオキシダーゼ活性が変化すると理解できる。
ここで、一実施形態において、ヘムタンパク質として、例えば、ミオグロビン、ヘモグロビン、シトクロム、メトミオグロビン、及びカタラーゼ等が例示でき、好ましくは、ミオグロビン、ヘモグロビン、及びシトクロムが例示できる。
シトクロムは、ヘムの種類に応じ分類されるが、本実施形態におけるシトクロムは、電子伝達体である狭義のシトクロム、及びヘムを含む酵素を包含する広義のシトクロムの全ての種類のシトクロムを包含し、例えば、シトクロムa、シトクロムb、シトクロムc、シトクロムd、及びシトクロムP450等のいずれであってもよく、これらの2以上からなる複合体であってもよく、結合した核酸のグアニン四重鎖構造のコンフォメーションに依存して異なるペルオキシダーゼ活性を示す、及び/または結合した核酸のグアニン四重鎖構造のコンフォメーションに依存してペルオキシダーゼ活性が変化する範囲で限定されない。
ヘムタンパク質の由来生物は、結合した核酸のグアニン四重鎖構造のコンフォメーションに依存して異なるペルオキシダーゼ活性を示す、かつ/または結合した核酸のグアニン四重鎖構造のコンフォメーションに依存してペルオキシダーゼ活性が変化するヘムタンパク質である範囲で限定されず、例えば、哺乳類、鳥類、魚類、両生類、は虫類であってもよく、市販のヘムタンパク質であってもよい。
【0042】
緩衝液中に導入されるヘムタンパク質の濃度は、目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合し、そのペルオキシダーゼ活性の検出が可能であり、本実施形態にかかる目的核酸のメチル化状態を同定するための方法が実施できる範囲で限定されず、当業者が適宜決定することができる。
より具体的には、本実施形態において、ヘムタンパク質は目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合し、ヘムタンパク質のヘムと目的核酸のグアニン四重鎖構造とが相互作用するため、当業者は、緩衝液中に導入される目的核酸の濃度を考慮した上で、緩衝液中に導入される目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合するのに十分であり、かつ余剰ヘムタンパク質による非特異的なペルオキシダーゼ活性が許容範囲となるように、緩衝液中に導入されるヘムタンパク質の濃度を決定すればよい。
その際、例えば、本実施形態にかかる目的核酸のメチル化状態を同定するための方法に用いられる系が、余剰ヘムタンパク質の洗浄工程を含むかどうか、及び/または1分子のヘムタンパク質に含まれるヘムの数、すなわち1分子のヘムタンパク質に何分子の目的核酸のグアニン四重鎖構造が結合するか、等の条件を考慮することができる。なお、実施例1は、目的核酸が担体に固定化されており、余剰ヘムタンパク質の洗浄工程を含む系を例示し、実施例2、6、7は、目的核酸が未固定であり、余剰ヘムタンパク質の洗浄工程を含まない系を例示する。
【0043】
一実施形態において、目的核酸が担体に固定されている場合、目的核酸とヘムタンパク質とを接触させることによって、目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質を取得した後に、目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合しなかった余剰のヘムタンパク質の洗浄を行ってもよい。洗浄により、余剰のヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性、すなわち非特異的なペルオキシダーゼ活性を低減することができる。
【0044】
一実施形態において、目的核酸が担体に固定されている場合、担体の形状は、目的核酸のメチル化状態を同定するための方法が実施できる範囲で限定されないが、担体に固定化された目的核酸とヘムタンパク質とを接触させ、必要に応じブロッキング及び/または洗浄を行った上で、ペルオキシダーゼ活性を検出するために適した形状であることが好ましく、例えば、チューブ、シャーレ、ビーズ、及び/または複数のウェルを備えたマイクロプレート等が例示できる。また、担体の材質は、目的核酸のメチル化状態を同定するための方法が実施できる範囲で限定されず、硝子、セラミック、樹脂、金属等が例示できる。
【0045】
ここで、本実施形態にかかる目的核酸のメチル化状態を同定するための方法における緩衝液は、目的核酸がそのメチル化状態に依存したグアニン四重鎖構造のコンフォメーションを形成することができ、かつグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を検出することができる範囲で限定されず、当該分野で周知の生理学的緩衝液、すなわち、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、HEPES緩衝液、MOPS緩衝液、及びMES緩衝液等から、当業者が適宜選択し、かつ/または改変することができる。
【0046】
ここで、グアニン四重鎖構造の形成、形成されるグアニン四重鎖構造のコンフォメーション、及び/またはグアニン四重鎖構造の安定性等は、緩衝液の組成等により影響を受けることがあるが、使用する緩衝液は、本実施形態にかかる目的核酸のメチル化状態を同定するための方法のための事前の条件設定において、目的核酸においてメチル化状態を同定するために適したものであるか否かを当業者が判断し、適宜選択することができる。
その他各条件、例えば、緩衝液のpH、緩衝液の温度等も当業者が適宜決定することができる。
【0047】
〔ヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性の検出〕
緩衝液中のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質はペルオキシダーゼ活性を有する。該ペルオキシダーゼ活性のレベルは、結合したグアニン四重鎖構造の型の差異等のコンフォメーションの違いによって異なる。
従って、グアニン四重鎖構造のコンフォメーションの違いは核酸のメチル化状態に依存するため、グアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を検出することによって、その核酸のメチル化状態を同定することができる。
【0048】
ここで、緩衝液中のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性は、当該分野での通常の方法によって検出することができる。
【0049】
例えば、ペルオキシダーゼの、基質に対する触媒反応により生成される生成物を検出すること等により、ペルオキシダーゼ活性を検出してもよい。該検出のために、このようなメカニズムを利用した、市販のペルオキシダーゼ活性測定/検出キットを用いてもよい。
【0050】
より具体的には、例えば、ペルオキシダーゼ活性によって、発色物質を生成する基質を用い、生成された発色物質量を吸光光度計で測定し、検出してもよい(比色法)。
あるいは、例えば、ペルオキシダーゼ活性によって、化学発光物質を生成する化学発光基質を用い、生成された化学発光物質の化学発光の強度を蛍光光度計で測定し、検出してもよい(化学発光法)。
比色法に用いる基質としては、例えば、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)、化学発光法に用いる化学発光基質としては、例えば、ルミノールが例示できるが、本実施形態にかかる目的核酸のメチル化状態を同定において、目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を検出できる範囲で限定されない。
【0051】
ここで、同程度のペルオキシダーゼ活性の場合には化学発光基質を用いる系を使用した場合により高い感度が得られるのが一般的であることから、ペルオキシダーゼ活性の検出感度を考慮すれば、ペルオキシダーゼ活性の検出には化学発光基質を用いた系を使用することが好ましい。
【0052】
すなわち、本実施形態にかかる目的核酸のメチル化状態を同定するための方法は、ヘムタンパク質と化学発光基質との反応により生じる化学発光を検出することにより、目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したペルオキシダーゼ活性を検出することを含む方法であることが好ましい。
【0053】
一実施形態において、目的核酸のメチル化状態を同定するための方法は、目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルと、対照核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルとを比較することをさらに含み、比較により得られたペルオキシダーゼ活性のレベルの差に基づいて目的核酸のメチル化状態が同定される方法であってもよい。
【0054】
ここで、対照核酸は、目的核酸の比較対象として、何らかの指標となり得る核酸であれば制限されず、例えば、目的核酸と同一の塩基配列を有する核酸であって、そのメチル化状態(メチル化核酸/非メチル化核酸)が既に判明している核酸であることが好ましい。一方、具体的なメチル化状態は不明であるが、目的核酸と同一の塩基配列を有する核酸であって、メチル化状態が被検体の状態と関連することが既に判明しており、目的核酸のメチル化状態を同定するための方法により目的核酸と対照核酸のペルオキシダーゼ活性を検出することによって、目的核酸が対照核酸と同一または異なるメチル化状態であると同定された場合、当該同定結果に基づき目的核酸の由来する被検体の状態を判定できるような、核酸であってもよい。
【0055】
従って、目的核酸のメチル化状態を同定するための方法は、被検体から単離された目的核酸についてペルオキシダーゼ活性を検出する前に、被検体から単離された目的核酸についてペルオキシダーゼ活性を検出するのと同時に、または被検体から単離された目的核酸についてペルオキシダーゼ活性を検出した後に、目的核酸についてペルオキシダーゼ活性を検出するのと同条件下で、対照核酸についてペルオキシダーゼ活性を検出することを含んでもよい。
【0056】
対照核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルを標準値として設定してもよく、または、異なるメチル化状態を有する複数種の対照核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルを用いて標準曲線を設定してもよい。
ここで、標準値及び/または標準曲線は、1または複数の対照核酸を用いて複数回ペルオキシダーゼ活性を検出することにより取得した平均値や中央値等に基づき設定されてもよい。
【0057】
目的核酸について得られたペルオキシダーゼ活性のレベルを、上記のように設定された標準値及び/または標準曲線と比較することで、目的核酸のメチル化状態を同定することができる。
【0058】
一実施形態において、目的核酸のメチル化状態を同定するための方法は、目的核酸についてのペルオキシダーゼ活性のレベルを、標準値と比較し、標準値と同レベルである場合に、目的核酸のメチル化状態が、対照核酸のメチル化状態と同じであると同定することを含んでもよい。
また、目的核酸のメチル化状態を同定するための方法は、目的核酸についてのペルオキシダーゼ活性のレベルを、標準曲線と比較し、標準曲線内のいずれかの点と同レベルである場合に、目的核酸のメチル化状態が、当該点に対応する対照核酸のメチル化状態と同じであると同定することを含んでもよい。
【0059】
一実施態様において、目的核酸のメチル化状態を同定するための方法は、目的核酸についてのペルオキシダーゼ活性を、標準値と比較し、標準値と同レベルでない場合に、目的核酸のメチル化状態が、対照核酸のメチル化状態とは異なると同定することを含んでもよい。
また、目的核酸のメチル化状態を同定するための方法は、目的核酸についてのペルオキシダーゼ活性のレベルを、標準曲線と比較し、標準曲線内のいずれかの点と同レベルでない場合に、目的核酸のメチル化状態が、標準曲線内のいずれの点に対応する対照核酸のメチル化状態とも異なると同定することを含んでもよい。
【0060】
一実施形態において、例えば、対照核酸が非メチル化核酸である場合、目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルが、対照核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルと比較して同レベルである場合に、目的核酸がメチル化されていない、と同定され、目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルが、対照核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルと比較して低い、または高い場合に、目的核酸がメチル化されている、と同定されてもよい。
【0061】
別の一実施形態において、例えば、対照核酸がメチル化核酸である場合、目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルが、対照核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルと比較して同レベルである場合に、目的核酸がメチル化されている、と同定され、目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルが、対照核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルと比較して低い、または高い場合に、目的核酸がメチル化されていない、と同定されてもよい。
【0062】
なお、目的核酸についてのペルオキシダーゼ活性のレベルが、対照核酸についてのペルオキシダーゼ活性のレベルと同レベルであるか否かの基準は、必ずしも同一の活性レベルであることに制限されず、各種統計処理による有意差の有無を基準としても、またはあらかじめ設定した任意の数値範囲に該当するか否かを基準としてもよく、当該分野の通常の方法によって当業者が適宜設定することができる。
【0063】
ここで、グアニン四重鎖構造のコンフォメーションは、目的核酸の塩基配列、メチル化状態、緩衝液の組成等の条件によって影響を受けるものである。従って、目的核酸がメチル化核酸である場合と、非メチル化核酸である場合とで、いずれの核酸に結合した場合にヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性がより高くなるか(または低くなるか)は、上記各条件に左右され、普遍的なものではない。
しかしながら、例えば、一実施形態において、実施例1のように、配列番号1の塩基配列からなるDRD2-2(ヒトドーパミンD2受容体遺伝子のプロモーター領域内の塩基配列)、または配列番号3の塩基配列からなるDRD2-4(ヒトドーパミンD2受容体遺伝子のプロモーター領域内の塩基配列)を目的核酸としてメチル化状態の同定を行う場合、メチル化核酸についてのペルオキシダーゼ活性のレベルが、非メチル化核酸についてのペルオキシダーゼ活性のレベルよりも低くなる。
従って、このような条件においては、メチル化核酸、または非メチル化核酸のいずれかを対照核酸とし、対照核酸についてのペルオキシダーゼ活性のレベル(標準値)と比較して、目的核酸についてのペルオキシダーゼ活性のレベルが同レベルか、高いか、または低いかによって、目的核酸のメチル化状態を同定することができる。
【0064】
==疾患の診断方法==
核酸のメチル化状態は、被検体における疾患等の状態、及び/または生活習慣により変化する。
従って、核酸のメチル化状態は、被検体の特定の疾患への罹患及び/または特定の疾患の発症の有無、被検体の罹患した疾患の進行度、被検体の特定の疾患への将来的な罹患及び/または特定の疾患の発症の可能性の有無、及び/または特定の疾患に罹患した被検体の予後等の、被検体における疾患の状態の指標になり、核酸のメチル化状態に基づいて、これらの状態を診断することができる。
【0065】
すなわち、本実施形態にかかる核酸のメチル化状態と関連する疾患の診断方法、または当該診断を補助するための方法は、上記「目的核酸のメチル化状態を同定するための方法」に記載のいずれかの実施形態の方法を含む。
【0066】
診断は、罹患前、罹患後、発症前、及び発症後の診断、及び診断の補助方法を含む。
【0067】
本実施形態にかかる診断方法、または診断を補助するための方法の対象となる疾患は、核酸のメチル化状態が被検体における疾患の状態と関連する疾患であれば制限されず、例えば、がん、精神疾患、免疫疾患、及び/または代謝疾患等が挙げられる。
【0068】
ここで、本実施形態にかかる診断方法、または診断を補助するための方法において、核酸のメチル化状態が特定の疾患の状態と関連する場合、被検体から取得した目的核酸のメチル化状態を上記「目的核酸のメチル化状態を同定するための方法」に従い同定する。
【0069】
一実施形態において、本実施形態にかかる診断方法、または診断を補助するための方法が、被検体から取得した目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルと、対照核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルとを比較することをさらに含み、比較により得られたペルオキシダーゼ活性のレベルの差に基づいて目的核酸のメチル化状態が同定される方法であってもよい。
この場合、対照核酸は、目的核酸と同一の塩基配列を有する核酸であって、特定の疾患の状態と対応するメチル化状態が既に判明している核酸であることが好ましい。
一方、対照核酸は、その具体的なメチル化状態は不明であるが、目的核酸と同一の塩基配列を有する核酸であって、メチル化状態が特定の疾患の状態と関連することが既に判明しており、目的核酸と対照核酸のペルオキシダーゼ活性を検出することによって、目的核酸が対照核酸と同一または異なるメチル化状態であると同定された場合、当該同定結果に基づき被検体における疾患の状態を診断できるような、核酸であってもよい。
【0070】
より具体的には、本実施形態にかかる診断方法、または診断を補助するための方法において、例えば、メチル化状態が特定の疾患への罹患の有無と関連する場合、罹患者の核酸と同じメチル化状態の核酸、または健常者の核酸と同じメチル化状態の核酸を対照核酸としてペルオキシダーゼ活性を検出し、罹患を示すメチル化状態の指標となるペルオキシダーゼ活性のレベルの標準値を設定しても、または健常者を示すメチル化状態の指標となるペルオキシダーゼ活性のレベルの標準値を設定してもよい。
あるいは、例えば、メチル化状態が特定の疾患の進行度に応じて段階的に変化し得る場合、対照核酸として、複数の、異なる進行度にある罹患者と同じメチル化状態の核酸を用いてペルオキシダーゼ活性を検出し、標準曲線を設定してもよい。
【0071】
上記のように設定された標準値を用い、例えば、対照核酸が罹患者の核酸と同じメチル化状態の核酸である場合、被検体から取得した目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルが、対照核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルと比較して同レベルである場合に、被検体が罹患していると診断し、目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルが、対照核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルと比較して低い、または高い場合に、被検体は罹患していないと診断してもよい。
また、例えば、対照核酸が健常者の核酸と同じメチル化状態の核酸である場合、被検体から取得した目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルが、対照核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルと比較して同レベルである場合に、被検体は罹患していないと診断し、目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルが、対照核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルと比較して低い、または高い場合に、被検体が罹患していると診断してもよい。
【0072】
上記のように設定された、異なる進行度にある罹患者と対応するよう設定された標準曲線を用いた場合、目的核酸についてのペルオキシダーゼ活性のレベルを、標準曲線と比較し、標準曲線内のいずれかの点と同レベルである場合に、被検体が、当該点に対応する進行度にあると診断し、目的核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性のレベルが、標準曲線のいずれの点とも異なる場合に、被検体が、標準曲線に対応するいずれの進行度でもないと診断してもよい。
【0073】
一実施形態において、配列番号1の塩基配列(DRD2-2)、及び配列番号3の塩基配列(DRD2-4)は、ヒトドーパミンD2受容体遺伝子のプロモーター領域内の塩基配列であり、配列番号1の塩基配列を含む核酸を目的核酸として、ドーパミンが関与する疾患の罹患の有無、及び/または疾患の進行度を診断することができる。ドーパミンが関与する疾患として、統合失調症、パーキンソン病、大うつ病性障害、及び自閉症スペクトラム障害等が例示できる。
例えば、統合失調症の場合、患者から取得した、目的核酸と同一の塩基配列を含む核酸を対照核酸とし、被検体から取得した目的核酸についてペルオキシダーゼ活性を検出する。当該ペルオキシダーゼ活性のレベルが、対照核酸についてのペルオキシダーゼ活性のレベル(標準値)と同レベルであれば、被検体は統合失調症に罹患していると診断し、異なれば、被検体は統合失調症に罹患していないと診断してもよい。
また、例えば、健常者から取得した、目的核酸と同一の塩基配列を含む核酸を対照核酸とし、被検体から取得した目的核酸についてペルオキシダーゼ活性を検出する。当該ペルオキシダーゼ活性のレベルが、対照核酸についてのペルオキシダーゼ活性のレベル(標準値)と同レベルであれば、被検体は、統合失調症に罹患していないと診断し、異なれば、被検体は統合失調症に罹患していると診断してもよい。
【0074】
==キット==
〔目的核酸のメチル化状態を同定するためのキット〕
本実施形態にかかるキットは、目的核酸のメチル化状態を同定するためのキットである。
該キットは、ヘムタンパク質、及びヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を検出するための試薬を含む。
【0075】
一実施形態において、該キットは、上記「目的核酸のメチル化状態を同定するための方法」に記載のいずれかの実施形態の方法を実施するためのキットである。
【0076】
従って、ヘムタンパク質、及びヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性の検出の各実施形態は、上記「目的核酸のメチル化状態を同定するための方法」に記載のとおりである。
【0077】
該キットは、ヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を検出するための試薬として、例えば、緩衝液またはその濃縮液、対照核酸、目的核酸を生物試料から単離するための試薬、目的核酸または担体に必要な修飾を付すための試薬、ペルオキシダーゼ活性を示すシグナルを可視化するための試薬、及び/またはペルオキシダーゼ活性を示すシグナルを増幅するための試薬等を含んでもよい。
【0078】
該キットは、さらに、ヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性の検出に用いるチューブ、シャーレ、ビーズ、及び/または複数のウェルを備えたマイクロプレート等の消耗品、及び/または目的核酸のメチル化状態の同定方法を説明する説明書等を含んでもよい。
【0079】
〔診断キット〕
目的核酸のメチル化状態を同定するためのキットによって目的核酸のメチル化状態を同定することができるため、目的核酸のメチル化状態を同定するためのキットは、メチル化状態と関連する疾患を診断するための診断キットとしても有用である。
【0080】
従って、本実施形態にかかる核酸のメチル化状態と関連する疾患を診断するための診断キットは、目的核酸のメチル化状態を同定するためのキットと同様に、ヘムタンパク質、及びヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を検出するための試薬を含む。
【0081】
一実施形態において、該診断キットは、上記「疾患の診断方法」に記載のいずれかの実施形態の方法を実施するためのキットである。
【0082】
従って、ヘムタンパク質、及びヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性の検出の各実施形態は、上記「目的核酸のメチル化状態を同定するための方法」及び「疾患の診断方法」に記載のとおりである。
【0083】
ヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を検出するための試薬の実施形態、及びその他の任意の構成物は、〔目的核酸のメチル化状態を同定するためのキット〕に記載のとおりである。
【0084】
==装置==
〔目的核酸のメチル化状態を同定するための装置〕
本実施形態にかかる装置は、目的核酸のメチル化状態を同定するための装置である。
該装置は、核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を検出するための手段を含む。
【0085】
一実施形態において、該装置は、上記「目的核酸のメチル化状態を同定するための方法」に記載のいずれかの実施形態の方法を実施するための装置である。
【0086】
該装置は、核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を検出するための手段として、ペルオキシダーゼ活性を示す発色物質量(比色法)、及び/または化学発光物質の化学発光の強度(化学発光法)を測定し、検出するための部分を含んでもよい。
【0087】
該装置は、さらに、目的核酸を生物試料から単離するための部分、単離された目的核酸について一本化及び/または断片化等の調製をするための部分、目的核酸についてのペルオキシダーゼ活性のレベルと、対照核酸についてのペルオキシダーゼ活性のレベルとを比較するための部分、及び/または該比較によって得られたペルオキシダーゼ活性のレベルの差に基づいて目的核酸のメチル化状態を同定するための部分等を含んでいてもよい。
【0088】
該装置は、また、上記各部分において得られた結果を処理するための、CPU、メモリー、データ入力部、データ出力部、及び/またはソフトウェア等からなる部分をさらに含んでいてもよい。
【0089】
〔診断装置〕
目的核酸のメチル化状態を同定するための装置によって目的核酸のメチル化状態を同定することができるため、目的核酸のメチル化状態を同定するための装置は、核酸のメチル化状態と関連する疾患を診断するための装置としても有用である。
【0090】
本実施形態にかかる診断装置は、核酸のメチル化状態と関連する疾患を診断するための装置である。
該装置は、上記〔目的核酸のメチル化状態を同定するための装置〕に記載のいずれかの実施形態の装置を備える。
【0091】
一実施形態において、該装置は、上記「疾患の診断方法」に記載のいずれかの実施形態の方法を実施するための装置である。
【0092】
該装置において、核酸のグアニン四重鎖構造と結合したヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を検出するための手段の実施形態、及びその他の任意の構成物は、上記〔目的核酸のメチル化状態を同定するための装置〕に記載のとおりである。
【0093】
該装置において、ヘムタンパク質のペルオキシダーゼ活性を検出するための試薬の実施形態、及びその他の任意の構成物は、上記〔目的核酸のメチル化状態を同定するための装置〕に記載のとおりであるが、さらに、同定された目的核酸のメチル化状態に基づいて、被検体における疾患の状態を判定する部分を含んでいてもよい。
【実施例0094】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0095】
〔実施例1〕担体に固定化された目的核酸におけるメチル化状態の同定
5’末端にビオチンを修飾した、メチル化及び非メチル化DNA(DRD2-2(ヒトドーパミンD2受容体遺伝子のプロモーター領域内の塩基配列)、配列番号1、
図1)(ユーロフィンジェノミクス株式会社)をMES buffer(10mM MES、10mM NaCl、100mM KCl、pH6.0)中にて95℃で10分間熱処理し、25℃まで徐冷した。
熱処理後のDNA(n=3)を、プレート添加後の終濃度が0~200nMになるように調製し、ストレプトアビジン修飾96穴プレート(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)に添加し、MES buffer中でプレート上に固定化した。
MES-T(0.05% Tween-20 in MES buffer)で洗浄後、Blocking buffer(4%(w/v) skim milk、1.8mM biotin in MES-T buffer)を添加し、室温で1時間振盪することでプレート表面のブロッキングを行った。
MES-Tで洗浄後、添加後濃度が200nMとなるようミオグロビン(Life Diagnostics, Inc.、製品コード:1510)をMES bufferに添加し、室温で1時間振盪した。MES-Tで洗浄後、BM Chemiluminescent ELISA Substrate(POD)(Roche Diagnostics GmbH社、Cat.No.11 582 950 001)の化学発光基質溶液100μlを添加し、Varioskan Flash(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を用いて、波長選択を伴わない発光測定により化学発光強度を測定した。
【0096】
図2に、本実施例で用いた化学発光基質を用いたヘムタンパク質(ミオグロビン)のペルオキシダーゼ活性の検出系を示す。
【0097】
プレート上への固定化時のDNA濃度(0~200nM)と、各濃度におけるミオグロビンのペルオキシダーゼ活性を示す化学発光強度を
図3に示す。
ここで、
図3に示す化学発光強度は、DNAを固定していないウェル(DNA濃度0nM)に由来する化学発光強度(バックグラウンド)を差し引いた値である。このため、DNA濃度0nMの化学発光強度は0 rluである。
【0098】
メチル化DNAとミオグロビンを混合した系と比較して、非メチル化DNAとミオグロビンを混合した系において、DNA濃度に関わらず高い化学発光強度が観察された。
例えば、比較的低濃度の条件(12.5nM、25nM)においても、非メチル化DNAとミオグロビンを混合した系の化学発光強度の平均値(n=3)は、メチル化DNAとミオグロビンを混合した系よりも高く、比較的高濃度の条件(50nM以上)において、非メチル化DNAとミオグロビンを混合した系の化学発光強度の平均値(n=3)は、メチル化DNAとミオグロビンを混合した系よりも有意に高かった(p<0.01)。
従って、本実施例の手法により核酸のメチル化状態を高感度で同定できることが示された。
【0099】
〔実施例2〕未固定の目的核酸におけるメチル化状態の同定
メチル化及び非メチル化DNA(DRD2-2、配列番号1、
図1)をMES buffer(10mM MES、10mM NaCl、100mM KCl、pH6.0)中にて、95℃で10分間熱処理後、25℃まで徐冷した。
熱処理後のDNA(混合後の終濃度100nM)とミオグロビン(混合後の終濃度100nM)をMES buffer中で混合し、室温で1時間インキュベートした。その後、BM Chemiluminescent ELISA Substrate(POD)の化学発光基質溶液50μlを添加し、Varioskan Flashを用いて、波長選択を伴わない発光測定により化学発光強度を測定した。
【0100】
ミオグロビンのペルオキシダーゼ活性を示す化学発光強度の測定結果を
図4に示す。
【0101】
DNAと混合していない系と比較して、DNAとミオグロビンを混合した系においてミログロビンのペルオキシダーゼ活性が向上した。メチル化DNAとミオグロビンを混合した系に比較して、非メチル化DNAとミオグロビンを混合した系において、有意に高い化学発光強度が観察された(N=3、p<0.05)。
この結果から、目的DNAの固定化と、ミオグロビンのB/F分離の工程とを含まない、より簡便なプロセスによって、核酸のメチル化状態を同定できることが示された。
【0102】
〔実施例3〕DRD2-2のメチル化状態によるグアニン四重鎖構造のコンフォメーションの違い
CDスペクトル測定法により、DNA(DRD2-2、配列番号1、
図1)の構造解析を行った。
DNAをTris buffer(10mM Tris-HCl、100mM KCl、pH7.4)で2μMに希釈し、95℃で10分熱処理し、25℃まで30分かけて徐冷したものを測定に用いた。
CDスペクトルは円二色性分散計(J-820(日本分光株式会社))、光路長10mmの石英セル(日本分光株式会社)を使用し、窒素気流中、20℃にて測定した。
【0103】
【0104】
パラレル型グアニン四重鎖構造のCDスペクトルの特徴として、240~245nmに負のピーク、260~265nm近傍に正のピークが検出されることが知られている。また、ハイブリッド型グアニン四重鎖構造のCDスペクトルの特徴として、240nmに負のピーク、268nm近傍にショルダーピーク、290nmに正のピークが検出されることが知られている。
【0105】
本実施例の測定によって、DRD2-2は、パラレル型もしくはハイブリッド型のグアニン四重鎖構造のDNAに近いCDスペクトルを示したことから、グアニン四重鎖構造様の構造を形成することが示された。
また、メチル化DRD2-2では、CDスペクトルのピークがシフトしたことから、メチル化DNAでは、非メチル化DNAと比較して、グアニン四重鎖構造にコンフォメーション変化が起きていることが示された。
【0106】
〔実施例4〕DRD2-2におけるグアニン四重鎖構造の形成
非メチル化DRD2-2(配列番号1、
図1)、メチル化DRD2-2(配列番号1、
図1)、DRD2-2変異体(配列番号2、
図1)を、濃度2μMとなるようにTK buffer(10mM Tris-HCl、100mM KCl、pH7.4)で調製し、95℃で10分間熱処理後、室温まで徐冷した。
20%未変性ポリアクリルアミドゲルに、熱処理を施したDNAサンプル、及び、20bp DNAラダー(タカラバイオ社製)をロードし、TBE buffer(89mM Tris-HCl、89mM H
3BO
4 2mM EDTA、pH8.3)を用いて、20mA(定電流)で電気泳動を行った。
電気泳動後、ゲルをDNA染色液(SYBR(登録商標) Gold Nucleic acid Gel stain)に浸漬後、Gel Imager (BioRad社製)によりスキャンし、ゲルの画像を得た。
【0107】
【0108】
非メチル化DRD2-2、メチル化DRD2-2ともに、DRD2-2変異体よりも低分子量側にバンドが検出された。
DRD2-2とDRD2-2変異体のDNA鎖長は同じであり、構造上の差異がなければ同様の泳動度を有する。DRD2-2の塩基配列には、3つのグアニンが連続するGGG配列が5か所存在し、グアニン四重鎖構造は、このようなGGG配列の存在に起因して形成されることが知られる。一方、DRD2-2変異体は、この配列がすべて、GTGに置換されている。
【0109】
DRD2-2のバンドがDRD2-2変異体より低分子量側に検出されたことは、DRD2-2が、GGG配列に起因するコンパクトな構造を形成し、泳動度が大きくなったことによると考察される。
実施例3の結果及び本実施例の結果は、GGG配列を有する非メチル化DRD2-2、メチル化DRD2-2ともにグアニン四重鎖構造を形成するが、GGG配列を有さないDRD2-2変異体では同様のグアニン四重鎖構造を形成しないことを示す。
【0110】
〔実施例5〕核酸のメチル化状態を同定するための方法の汎用性
5’末端にビオチンを修飾したメチル化及び非メチル化DRD2-2(配列番号1、
図1)及びメチル化及び非メチル化DRD2-4(配列番号3、
図1)(ユーロフィンジェノミクス株式会社)をMES buffer(10mM MES、10mM NaCl、100mM KCl、pH6.0)中にて95℃で10分熱処理し、25℃まで徐冷した。
熱処理後のDNA(プレート添加後の終濃度200nM)を、ストレプトアビジン修飾96穴プレート(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)に添加し、MES buffer中でプレート上に固定化した。
MES-T(0.05% Tween-20 in MES buffer)で洗浄後、Blocking buffer(4%(w/v) skim milk、1.8mM biotin in MES-T buffer)を添加し、室温で1時間振盪することでプレート表面のブロッキングを行った。
MES-Tで洗浄後、添加後濃度が200nMとなるようミオグロビン(Life Diagnostics, Inc.、製品コード:1510)をMES bufferに添加し、室温で1時間振盪した。MES-Tで洗浄後、BM Chemiluminescent ELISA Substrate(POD)の化学発光基質溶液100μlを添加し、Varioskan Flashを用いて、波長選択を伴わない発光測定により化学発光強度を測定した。
【0111】
化学発光強度測定結果を
図7に示す。
ここで、
図7に示す化学発光強度は、DNAを固定していないウェル(DNA濃度0nM)に由来する化学発光強度(バックグラウンド)を差し引いた値である。
【0112】
実施例1等にて記載したDRD2-2だけでなく、DRD2-4においても、メチル化DNA、非メチル化DNAのそれぞれとミオグロビンを混合した系の化学発光強度に有意差が観察され(p<0.01)、本発明にかかる方法の汎用性が示された。
【0113】
〔実施例6〕ヘモグロビンを使用した本発明にかかる目的核酸のメチル化状態を同定するための方法の実施
メチル化及び非メチル化DNA(DRD2-2、配列番号1、
図1)をMES buffer(10mM MES、10mM NaCl、100mM KCl、pH6.0)中にて、95℃で10分間熱処理後、25℃まで徐冷した。
熱処理後のDNA(混合後の終濃度100nM)とヘモグロビン(Sigma-Aldrich、製品コード:H7379)(混合後の終濃度10nM)をMES buffer中で混合し、室温で1時間インキュベートした。その後、BM Chemiluminescent ELISA Substrate(POD)の化学発光基質溶液50μlを添加し、Varioskan Flashを用いて、波長選択を伴わない発光測定により化学発光強度を測定した。
【0114】
ヘモグロビンのペルオキシダーゼ活性を示す化学発光強度の測定結果を
図8に示す。
【0115】
DNAと混合していない系と比較して、DNAとヘモグロビンを混合した系においてヘモグロビンのペルオキシダーゼ活性が向上した。メチル化DNAとヘモグロビンを混合した系に比較して、非メチル化DNAとヘモグロビンを混合した系において、有意に高い化学発光強度が観察された(N=3、p<0.01)。
この結果は、ヘムタンパク質としてヘモグロビンを使用し、本願発明に係る目的核酸のメチル化状態を同定するための方法が実施可能であることを示す。
【0116】
〔実施例7〕シトクロムを使用した本発明にかかる目的核酸のメチル化状態を同定するための方法の実施
メチル化及び非メチル化DNA(DRD2-2、配列番号1、
図1)をMES buffer(10mM MES、10mM NaCl、100mM KCl、pH6.0)中にて、95℃で10分間熱処理後、25℃まで徐冷した。
熱処理後のDNA(混合後の終濃度125nM)とシトクロムc(Sigma-Aldrich、製品コード:C2506)(混合後の終濃度50nM)をMES buffer中で混合し、室温で1時間インキュベートした。その後、BM Chemiluminescent ELISA Substrate(POD)の化学発光基質溶液50μlを添加し、Varioskan Flashを用いて、波長選択を伴わない発光測定により化学発光強度を測定した。
【0117】
シトクロムcのペルオキシダーゼ活性を示す化学発光強度の測定結果を
図9に示す。
【0118】
DNAと混合していない系と比較して、DNAとシトクロムcを混合した系においてシトクロムcのペルオキシダーゼ活性が向上した。非メチル化DNAとシトクロムcを混合した系に比較して、メチル化DNAとシトクロムcを混合した系において、有意に高い化学発光強度が観察された(N=3、p<0.05)。
この結果は、ヘムタンパク質としてシトクロムを使用し、本願発明に係る目的核酸のメチル化状態を同定するための方法が実施可能であることを示す。
本発明にかかる目的核酸のメチル化状態を同定するための方法によれば、核酸を損傷させ得る前処理工程を行うことなく、高い確度で、簡便に、迅速に、かつ低コストで目的核酸のメチル化状態を同定することが可能である。
従って、特に、核酸のメチル化に関連する疾患の診断等、高い確度で、簡便に、迅速に、かつ低コストで判定の求められる現場においての利用が期待できる。
以上のことから、本発明は産業上極めて有用である。