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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189733
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】トナー
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/08 20060101AFI20221215BHJP
   G03G 9/097 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
G03G9/08
G03G9/097 374
G03G9/097 371
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022077314
(22)【出願日】2022-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2021098008
(32)【優先日】2021-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】上田 未紀
(72)【発明者】
【氏名】橋本 武
(72)【発明者】
【氏名】村田 一貴
(72)【発明者】
【氏名】椎野 萌
(72)【発明者】
【氏名】阿部 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】井田 隼人
【テーマコード(参考)】
2H500
【Fターム(参考)】
2H500AA09
2H500AA11
2H500CA03
2H500CA11
2H500CA40
2H500CB06
2H500CB08
2H500EA39B
2H500EA42B
2H500EA44B
2H500EA52D
2H500EA55D
2H500EA58D
(57)【要約】      (修正有)
【課題】良好な低温定着性を有し、画像の耐擦過性に優れたトナーの提供。
【解決手段】結着樹脂と無機微粒子を含有するトナー粒子を有するトナーであって、該結着樹脂は、結晶性樹脂を含有し、該結晶性樹脂は下記式(1)であらわされる第一のモノマーユニットを有し、
該無機微粒子は、CaCO3を含有する粒子、BaSO4を含有する粒子、Mg3Si410(OH)2を含有する粒子、およびAl2Si25(OH)4を含有する粒子からなる群より選ばれる少なくとも1つの無機微粒子であり、該無機微粒子は、脂肪酸で処理された無機微粒子であり、該トナー粒子中の該無機微粒子の含有量Bが1.0質量%以上15.0質量%以下であることを特徴とする。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂と無機微粒子を含有するトナー粒子を有するトナーであって、
該結着樹脂は、結晶性樹脂を含有し、
該結晶性樹脂は下記式(1)で表される第一のモノマーユニットを有し、
該無機微粒子は、
(i)CaCO3を含有する粒子、
(ii)BaSO4を含有する粒子、
(iii)Mg3Si410(OH)2を含有する粒子、および
(iv)Al2Si25(OH)4を含有する粒子、
からなる群より選ばれる少なくとも1つの無機微粒子であり、
該無機微粒子は、脂肪酸で処理された無機微粒子であり、
該トナー粒子中の該無機微粒子の含有量Bが1.0質量%以上15.0質量%以下であることを特徴とするトナー。
【化1】
[式(1)中、RZ1は、水素原子又はメチル基を表し、R1は、炭素数18~36のアルキル基を表す。]
【請求項2】
前記結晶性樹脂において、第一のモノマーユニットの含有量Xが30質量%以上である、請求項1に記載のトナー。
【請求項3】
前記無機微粒子の個数平均粒径が100nm以上500nm以下である、請求項1または2に記載のトナー。
【請求項4】
前記脂肪酸の炭素数が12~18である、請求項1または2に記載のトナー。
【請求項5】
前記無機微粒子が有する前記脂肪酸の量Cが、前記無機微粒子の質量を基準として、0.1質量%以上5.0質量%以下である請求項1または2に記載のトナー。
【請求項6】
前記無機微粒子の表面処理に用いる前記脂肪酸の炭素数と、前記第一のモノマーユニットに含まれるR1の炭素数との差が5以下である、請求項1または2に記載のトナー。
【請求項7】
前記無機微粒子のBET比表面積が4.5m2/g以上25.0m2/g以下である、請求項1または2に記載のトナー。
【請求項8】
前記結晶性樹脂の含有量が全結着樹脂の40質量%以上である、請求項1または2に記載のトナー。
【請求項9】
前記トナー粒子中の上記式(1)で表される第一のモノマーユニットの含有量をA(質量%)、前記トナー粒子中の前記無機微粒子の含有量をB(質量%)、前記無機微粒子が有する前記脂肪酸の量をC(質量%)としたとき、該A~該Cが以下の関係を満たす請求項1または2に記載のトナー。
0.0001≦B×C/(100×A)≦0.0100
【請求項10】
前記無機微粒子が有する前記脂肪酸の量をC(質量%)、前記無機微粒子のBET比表面積をD(m2/g)としたとき、該Cおよび該Dが以下の関係を満たす請求項1または2に記載のトナー。
0.015≦C/D≦0.500
【請求項11】
前記無機微粒子が、炭酸カルシウム粒子である請求項1または2に記載のトナー。
【請求項12】
前記炭酸カルシウム粒子が、紡錘形状である請求項11に記載のトナー。
【請求項13】
前記炭酸カルシウム粒子は、トナー粒子に対するCuKα線によるX線回折測定において、ブラッグ角をθとしたとき、2θ=26.5°±0.5°の範囲および2θ=29.5°±0.5°の範囲にピークを有し、
2θ=29.5°±0.5°のピークに帰属される結晶の結晶子径が、10nm以上45nm以下であり、
2θ=26.5°±0.5°のピーク強度と2θ=29.5°±0.5°のピーク強度との比が0.15以上0.24以下である請求項11または12に記載のトナー。
【請求項14】
前記結晶性樹脂は、ニトリル基、カルボキシ基、ヒドロキシ基のいずれかを有するモノマーユニットを5質量%以上50質量%以下含有する請求項1または2に記載のトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の画像形成方法において使用するトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真方式のフルカラー複写機が広く普及し、印刷市場へも適用され始めている。印刷市場では、厚紙やコート紙も含め幅広いメディア(紙種)に対応しながら、高速、高画質、高生産性に加え、低ランニングコスト化が要求されるようになってきている。省エネルギー対応策として、定着工程での消費電力を低下させるために、トナーをより低い温度で定着させる技術が検討されている。
トナーの結着樹脂の主成分を、シャープメルト性を有する結晶性樹脂にすることで主成分が非晶性樹脂であるトナーに比べて優れた低温定着性を有することが知られている。例えば、特許文献1には、結晶性樹脂を含む結晶領域を海とし、着色剤を含む非結晶領域を島とする海島構造(マトリクスドメイン構造)を有するトナーにおいて、低温定着性、耐熱保存性及び画像の彩度について検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-66994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のような結晶性樹脂を含み低温定着性に優れるトナーにおいて、特に室温付近における強度が比較的低い結晶性樹脂を利用した際には、厚紙コート紙などの無機微粒子の多いメディアへの定着画像において耐擦過性に課題が残る場合があった。
そこで、本発明の目的は、良好な低温定着性を有し、高速印刷下においても画像の耐擦過性に優れたトナーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、結着樹脂と無機微粒子を含有するトナー粒子を有するトナーであって、
該結着樹脂は、結晶性樹脂を含有し、
該結晶性樹脂は下記式(1)であらわされる第一のモノマーユニットを有し、
該無機微粒子は、
(i)CaCO3を含有する粒子、
(ii)BaSO4を含有する粒子、
(iii)Mg3Si410(OH)2を含有する粒子、および
(iv)Al2Si25(OH)4を含有する粒子、
からなる群より選ばれる少なくとも1つの無機微粒子であり、
該無機微粒子は、脂肪酸で処理された無機微粒子であり、
該トナー粒子中の該無機微粒子の含有量Bが1.0質量%以上15.0質量%以下であることを特徴とする。
【0006】
【化1】
[式(1)中、RZ1は、水素原子又はメチル基を表し、R1は、炭素数18~36のアキル基を表す。]
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、良好な低温定着性を有し、画像の耐擦過性に優れたトナーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示において、数値範囲を表す「XX以上YY以下」や「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。
【0009】
数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
【0010】
本発明のトナーは、結着樹脂(結着樹脂として結晶性樹脂)と無機微粒子を含有する。以下、各成分について説明する。
【0011】
<結着樹脂>
トナー粒子が含有する結着樹脂としては、公知の重合体を使用することが可能であり、具体的には下記の重合体を用いることが可能である。
【0012】
ポリスチレン、ポリ-p-クロルスチレン、ポリビニルトルエンなどのスチレンおよびその置換体の単重合体;スチレン-p-クロルスチレン共重合体、スチレン-ビニルトルエン共重合体、スチレン-ビニルナフタリン共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-メタクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-クロルメタクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-ビニルメチルエーテル共重合体、スチレン-ビニルエチルエーテル共重合体、スチレン-ビニルメチルケトン共重合体、スチレン-アクリロニトリル-インデン共重合体などのスチレン系共重合体;ポリ塩化ビニル、フェノール樹脂、天然樹脂変性フェノール樹脂、天然樹脂変性マレイン酸樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、ポリビニルブチラール、テルペン樹脂、クマロン-インデン樹脂、石油系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0013】
結着樹脂はエステル基を有することが好ましい。結着樹脂がエステル基を有することで、結着樹脂と無機微粒子の極性部位との親和性が向上し、無機微粒子あたりのフィラー効果が向上する。これによりトナーの耐ホットオフセット性が向上する。エステル基を有する好ましい結着樹脂の具体的な例としては、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル樹脂が挙げられる。
【0014】
<結晶性樹脂>
本発明においては、トナー粒子が含有する結着樹脂として、下記式(1)で表される第一のモノマーユニットを有する結晶性樹脂を含むことが必要である。
【0015】
【化2】
[式(1)中、RZ1は、水素原子又はメチル基を表し、R1は、炭素数18~36のアルキル基を表す。]
【0016】
式(1)で表される第一のモノマーユニットを含む結晶性樹脂は、室温付近における強度が比較的低く、そのような結晶性樹脂を含有するトナーを用いて画像形成を行った場合、画像の耐擦過性が不十分となる場合がある。トナー粒子に無機微粒子を含有させることによって、トナー粒子の機械強度が向上させる技術も知られている。しかしながら、樹脂と無機微粒子の親和性が低い場合には、両者の界面で分離しやすくなり、画像の耐擦過性の十分な向上が得られない。
【0017】
これに対し、本発明者らが鋭意検討した結果、式(1)で表される第一のモノマーユニットを含む結晶性樹脂を含むトナー粒子中に、脂肪酸による表面処理を行った特定の無機微粒子を、特定量含有させることで、上記課題を解決しうることを見出した。
【0018】
本発明に係るトナーにおいて、上記課題が解決されるメカニズムについては明確ではないが、該理由を、本発明者らは以下のように推測している。
【0019】
式(1)で表される第一のモノマーユニットを含む結晶性樹脂を含むトナー粒子に、脂肪酸処理を行った無機微粒子を含有させると、表面処理剤の脂肪酸が有するアルキル基と式(1)で表した(メタ)アクリル酸エステルユニットのアルキル基(R1部分)とが高い親和性を示すことで、脂肪酸を介して無機微粒子と結晶性樹脂が強固に接着し、トナー粒子全体としての強度が高まる。その結果、画像の耐擦過性が改善されると考えられる。また、無機微粒子の表面処理に用いられる脂肪酸のアルキル基が結晶性樹脂の結晶化を高めるため、低温定着性に関しても改善効果が得られる。
【0020】
結晶性樹脂において、第一のモノマーユニットの含有量Xは30質量%以上であることが好ましい。30%より少ないと結晶性樹脂における結晶性が低下し、十分なシャープメルト性が得られず、優れた低温定着性が得られにくくなる。
【0021】
また、結晶性樹脂の含有量が全結着樹脂の40質量%以上であることが好ましい。40質量%以上含有されることで、十分なシャープメルト性が得られ、より優れた低温定着性が得られやすくなる。
【0022】
さらに、結晶性樹脂は、ニトリル基、カルボキシ基、ヒドロキシ基のいずれかを有するモノマーユニットを含有することが好ましい。これらの極性基を有することで、無機微粒子母体や脂肪酸の有するカルボキシ基と結晶性樹脂との相互作用が高まり、より顕著な効果が得られる。また、結晶性樹脂は、これらの極性基を有するモノマーユニットを5質量%以上50質量%以下有することが、耐擦過性と低温定着性の両者の改善の観点から好ましい。
【0023】
なお、本発明においては、結晶性樹脂としては、公知の結晶性樹脂を用いることができる。例えば、結晶性ポリエステル、結晶性ビニル樹脂、結晶性ポリウレタン、及び結晶性ポリウレアが挙げられる。また、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体などのエチレン共重合体等も挙げられる。
【0024】
<無機微粒子(内添)>
トナー粒子が含有する無機微粒子は、CaCO3を含有する粒子、BaSO4を含有する粒子、Mg3Si410(OH)2を含有する粒子、およびAl2Si25(OH)4を含有する粒子からなる群より選ばれる少なくとも1つの無機微粒子であり、該微粒子は脂肪酸で処理された微粒子である。
【0025】
Mg3Si410(OH)2は含水珪酸マグネシウムである。Mg3Si410(OH)2を含有する粒子の例としてはタルク(滑石)粒子が挙げられる。Al2Si25(OH)4は含水珪酸アルミニウムである。Al2Si25(OH)4を含有する粒子の例としてはカオリン粒子、クレー粒子が挙げられる。
【0026】
無機微粒子としては、CaCO3粒子が好ましい。CaCO3粒子は、ドメインからの脱離による潤滑作用が適度に作用するため、耐擦過性をより向上させる効果が期待できる。
【0027】
炭酸カルシウムの製造方法としては、炭酸ガス法、石灰・ソーダ法、ソーダ法、粉砕法などがある。
【0028】
炭酸カルシウム粒子は、紡錘形状であることが好ましい。適度な比表面積の炭酸カルシウムが得られやすく、炭酸カルシウム粒子表面の脂肪酸が有するアルキル基と結晶性樹脂中の(メタ)アクリル酸エステルユニットが有するアルキル基の相互作用が強固となり、トナー粒子全体としての強度が向上し、耐擦過性向上の効果が得られやすくなる。
【0029】
また、炭酸カルシウム粒子は、トナー粒子に対するCuKα線によるX線回折測定において、ブラッグ角をθとしたとき、2θ=26.5°±0.5°の範囲および2θ=29.5°±0.5°の範囲にピークを有しており、
(i)2θ=29.5°±0.5°のピークに帰属される結晶の結晶子径が、10nm以上45nm以下であり、
(ii)2θ=26.5°±0.5°のピーク強度と2θ=29.5°±0.5°のピーク強度との比が0.15以上0.24以下である、
ことが好ましい。
【0030】
結晶子径がこの範囲にあるとき炭酸カルシウムの(104)面のステップと結着樹脂の相互作用が適度となり、耐擦過性向上につながると考えられる。なお、X線回折の測定方法は後述する。
【0031】
トナー粒子中の無機微粒子の含有量Bは、1.0質量%以上15.0質量%以下で画像の耐擦過性向上の効果が得られる。無機微粒子の含有量が少なすぎると、無機微粒子表面の脂肪酸によるアルキル基とアクリル酸のアルキル基の反応カ所が少ないためにトナー粒子全体としての強度向上効果が十分に得られない。また、多すぎると、もろくなり耐擦過性向上の効果が十分に得られない。
【0032】
また、無機微粒子の一次粒子の個数平均粒径をDcとしたとき、Dcは100nm以上500nm以下であることが好ましい。Dcが上記範囲であることで、無機微粒子表面の脂肪酸が有するアルキル基と結晶性樹脂中のアクリル酸エステルユニットの(メタ)アクリル酸のアルキル基との高い親和性に基づく接着効果が適度となり、トナー粒子全体としての強度が向上し、耐擦過性向上の効果が得られやすくなる。
【0033】
また、無機微粒子のBET比表面積をDとしたとき、Dは4.5m2/g以上25.0m2/g以下であることが好ましい。Dが上記範囲であることで、無機微粒子表面の脂肪酸が有するアルキル基と結晶性樹脂中の(メタ)アクリル酸エステルユニットのアルキル基との高い親和性に基づく接着効果が適度となり、トナー粒子全体としての強度が向上し、耐擦過性向上の効果が得られる。
【0034】
脂肪酸の炭素数は低温定着性の観点から、12~18であることが好ましい。炭素数が大きすぎると融点が高くなり、炭素数が小さすぎると結晶性が十分に得られず、シャープメルト特性が得られにくくなる。
【0035】
また、無機微粒子の表面処理に用いる脂肪酸の炭素数と、前記第一のモノマーユニットに含まれるR1の炭素数との差が5以下であることが好ましい。5以下であることにより、無機微粒子表面の脂肪酸によるアルキル基と結晶性樹脂中のアクリル酸の親和性が十分に高く、接着強度がより高まり、耐擦過性向上の効果が顕著となる。
【0036】
無機微粒子が有する脂肪酸の量Cが、無機微粒子の質量を基準として、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。処理量が上記の範囲内であれば、無機微粒子表面の脂肪酸が有するアルキル基と、結晶性樹脂中の(メタ)アクリル酸エステルユニットが有するアルキル基との間で作用する接着効果が十分となる。
【0037】
トナー粒子中の式(1)で表される第一のモノマーユニットの含有量をA(質量%)、トナー粒子中の前記無機微粒子の含有量をB(質量%)、無機微粒子が有する脂肪酸の量をC(質量%)としたとき、
0.0001≦B×C/(100×A)≦0.0100
の関係を満たすことが好ましい。B×C/(100×A)の値が上記範囲であることで、無機微粒子表面の脂肪酸が有するアルキル基と結晶性樹脂中の(メタ)アクリル酸エステルユニットが有するアルキル基の存在割合が適度となり、トナー粒子全体としての強度が向上し、耐擦過性向上の効果が得られる。
【0038】
無機微粒子が有する脂肪酸の量をC(質量%)とし、無機微粒子のBET比表面積をD(m2/g)としたとき、
0.015≦C/D≦0.500
の関係を満たすことが好ましい。C/Dの値が上記範囲において、無機微粒子表面の脂肪酸による被覆率が適度となり、トナー粒子全体としての強度が向上し、耐擦過性向上の効果が得られる。
【0039】
<着色剤>
トナー粒子は、必要に応じてさらに着色剤を含有していてもよい。着色剤としては、顔料を単独で使用してもよく、染料と顔料とを併用してもよい。フルカラー画像の画質の観点から、染料と顔料とを併用することが好ましい。具体的には、着色剤としては、以下のものが挙げられる。
【0040】
黒色着色剤としては、カーボンブラック;イエロー着色剤、マゼンタ着色剤およびシアン着色剤とを用いて黒色に調色したものが挙げられる。
【0041】
マゼンタトナー用顔料としては、以下のものが挙げられる。C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、39、40、41、48:2、48:3,48:4、49、50、51、52、53、54、55、57:1、58、60、63、64、68、81:1、83、87、88、89、90、112、114、122、123、146、147、150、163、184、202、206、207、209、238、269、282;C.I.ピグメントバイオレット19;C.I.バットレッド1、2、10、13、15、23、29、35。
【0042】
マゼンタトナー用染料としては、以下のものが挙げられる。C.I.ソルベントレッド1、3、8、23、24、25、27、30、49、81、82、83、84、100、109、121;C.I.ディスパースレッド9;C.I.ソルベントバイオレット8、13、14、21、27;C.I.ディスパースバイオレット1のような油溶染料、C.I.ベーシックレッド1、2、9、12、13、14、15、17、18、22、23、24、27、29、32、34、35、36、37、38、39、40;C.I.ベーシックバイオレット1、3、7、10、14、15、21、25、26、27、28のような塩基性染料。
【0043】
シアントナー用顔料としては、以下のものが挙げられる。C.I.ピグメントブルー2、3、15:2、15:3、15:4、16、17;C.I.バットブルー6;C.I.アシッドブルー45、フタロシアニン骨格にフタルイミドメチル基を1~5個置換した銅フタロシアニン顔料。
【0044】
シアントナー用染料としては、C.I.ソルベントブルー70が挙げられる。
【0045】
イエロートナー用顔料としては、以下のものが挙げられる。C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、15、16、17、23、62、65、73、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、185;C.I.バットイエロー1、3、20。
【0046】
イエロートナー用染料としては、C.I.ソルベントイエロー162が挙げられる。
【0047】
これらの着色剤は、単独または混合して、さらには固溶体の状態で用いることができる。着色剤は、色相角、彩度、明度、耐光性、OHP透明性、およびトナーへの分散性の点から選択される。
【0048】
トナー粒子中の着色剤の含有割合Mp(質量%)は、トナー粒子に対して、0.5質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがより好ましい。
【0049】
<離型剤(ワックス)>
必要に応じて、トナー粒子は離型剤を含有してもよい。トナー粒子が離型剤を含有することで、トナーの加熱定着時にホットオフセットの発生を抑制することができる。
【0050】
離型剤としては、低分子量ポリオレフィン類、シリコーンワックス、脂肪酸アミド類、エステルワックス類、カルナバワックス、炭化水素系ワックスなどが一般的に例示できる。
【0051】
<外添用無機微粒子>
本発明のトナーは、外添剤を含有してもよい。例えば、トナー粒子に外添剤を外添してトナーとしてもよい。外添剤としては、シリカ微粒子、酸化チタン微粒子、酸化アルミニウム微粒子などの無機微粒子が好ましい。
【0052】
続いて、本発明に係るトナーを製造するためのトナーの製造方法について説明する。本発明のトナーについては、その製造方法は特に制限されず、粉砕法、懸濁重合法、溶解懸濁法、乳化凝集法、分散重合法などの公知の方法を用いることができる。
【0053】
以下、粉砕法でのトナー製造手順について説明する。
【0054】
<原料混合工程>
原料混合工程では、トナー粒子を構成する材料として、例えば、結着樹脂、無機微粒子、ワックス、着色剤、必要に応じて荷電制御剤等の他の成分を所定量秤量して配合し、混合する。混合装置の一例としては、ダブルコン・ミキサー、V型ミキサー、ドラム型ミキサー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、メカノハイブリッド(日本コークス工業株式会社製)などが挙げられる。
【0055】
<溶融混練工程>
次に、混合した材料を溶融混練して、結着樹脂中に無機微粒子、ワックス等を分散させる。その溶融混練工程では、加圧ニーダー、バンバリィミキサーの如きバッチ式練り機や、連続式の練り機を用いることができ、連続生産できる優位性から、1軸又は2軸押出機が主流となっている。例えば、KTK型2軸押出機(神戸製鋼所社製)、TEM型2軸押出機(東芝機械社製)、PCM混練機(池貝鉄工製)、2軸押出機(ケイ・シー・ケイ社製)、コ・ニーダー(ブス社製)、ニーデックス(日本コークス工業株式会社製)などが挙げられる。更に、溶融混練することによって得られる樹脂組成物は、2本ロール等で圧延され、冷却工程で水などによって冷却してもよい。
【0056】
溶融混練工程の混練温度、スクリューの回転数などにより、無機微粒子やワックスの分散状態などを制御することが可能である。
【0057】
<粉砕工程>
ついで、樹脂組成物の冷却物は、粉砕工程で所望の粒径にまで粉砕される。粉砕工程では、例えば、クラッシャー、ハンマーミル、フェザーミルの如き粉砕機で粗粉砕した後、更に、例えば、クリプトロンシステム(川崎重工業社製)、スーパーローター(日清エンジニアリング社製)、ターボ・ミル(ターボ工業製)やエアージェット方式による微粉砕機で微粉砕する。
【0058】
<分級工程>
その後、必要に応じて慣性分級方式のエルボージェット(日鉄鉱業社製)、遠心力分級方式のターボプレックス(ホソカワミクロン社製)、TSPセパレータ(ホソカワミクロン社製)、ファカルティ(ホソカワミクロン社製)の如き分級機や篩分機を用いて分級する。
【0059】
<表面処理工程>
その後、加熱によるトナー粒子の表面処理を行うことも好ましい。例えば、表面処理装置を用いて、熱風により表面処理を行うこともできる。
【0060】
<外添工程>
更に必要に応じて、トナー粒子の表面に外添剤が外添処理される。外添剤を外添処理する方法としては、分級されたトナーと公知の各種外添剤を所定量配合し、ダブルコン・ミキサー、V型ミキサー、ドラム型ミキサー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、メカノハイブリッド(日本コークス工業株式会社製)、ノビルタ(ホソカワミクロン株式会社製)等の混合装置を外添機として用いて、撹拌・混合する方法が挙げられる。
【0061】
ここで、上記原料混合工程に用いる原料の準備として、以下の工程Aを含むことが好ましい。以下は無機微粒子(内添)が炭酸カルシウムの場合について記載するが、上記、他の無機微粒子(内添)についても以下の工程Aを含むことができる。
【0062】
<工程A>
工程Aは、炭酸カルシウムの(104)面のステップ(活性面)を増やす工程である。
【0063】
原料混合工程では、結着樹脂、炭酸カルシウム、着色剤粒子等を所定量秤量して配合し、混合する。混合装置としては特に限定されないが、ヘンシェルミキサー(日本コークス社製);スーパーミキサー(カワタ社製);リボコーン(大川原製作所社製);ナウターミキサー、タービュライザー、サイクロミックス(ホソカワミクロン社製);スパイラルピンミキサー(太平洋機工社製);レーディゲミキサー(マツボー社製)等が挙げられる。この混合装置で混合した混合物を、混合物1とする。
【0064】
次に、混合物1を二軸押し出し機により溶融混練する。この際、炭酸カルシウム粒子同士の擦り合わせ、または、炭酸カルシウム粒子と、例えば着色剤粒子のような他材料との擦り合わせによって、炭酸カルシウム粒子の(104)面を減らし、ステップを増やすことができる。加えて、ステップをより増やすためには、高い剪断力が必要である。そのために、工程Aは高粘度の状態で行われることが好ましい。そして、ステップと結着樹脂との間に相互作用が発現する。ここで、工程Aで製造した溶融混練物を「炭酸カルシウム粒子分散体」と定義する。
【0065】
工程Aでの混合物1の質量を基準として、結着樹脂の含有量をMr(質量%)、炭酸カルシウム粒子の含有量をMi(質量%)としたとき、
15≦Mr≦75
0.17≦Mi/Mr≦1.3
を満たすことが好ましい。なぜなら、上記範囲にあることで、炭酸カルシウム粒子同士の擦り合わせ、または、炭酸カルシウム粒子と顔料粒子との擦り合わせによって、炭酸カルシウム粒子の(104)面を減らし、ステップ(活性面)を増やすことができる。
【0066】
溶融混練装置としては特に限定されないが、加圧ニーダー、バンバリィミキサーのようなバッチ式練り機や、TEM型押し出し機(東芝機械社製);TEX二軸混練機(日本製鋼所社製);PCM混練機(池貝鉄工所社製);ニーデックス(三井鉱山社製)等が挙げられる。連続生産できる等の優位性から、バッチ式練り機よりも、1軸または2軸押出機といった連続式の練り機が好ましい。加えて、軸の周速度は78mm/s以上であることが望ましい。周速度とは、押し出し機の軸の外周部の一点が、1秒間に移動する距離であると定義する。周速度は、軸の直径(mm)×円周率×回転数(rpm)/60から求まる。周速度が上記の範囲にあることで、炭酸カルシウム粒子の(104)面を減らし、ステップ(活性面)を増やすことができる。
【0067】
溶融混練することによって得られる炭酸カルシウム粒子分散体は、溶融混練後、2本ロール等で圧延され、水冷等で冷却する冷却工程を経て冷却される。
【0068】
上記で得られた炭酸カルシウム粒子分散体の冷却物は、次いで、粉砕工程で所望の粒径にまで粉砕される。粉砕工程では、まず、クラッシャー、ハンマーミル、フェザーミル等で粗粉砕され、さらに、クリプトロンシステム(川崎重工業社製)、スーパーローター(日清エンジニアリング社製)等で微粉砕され、炭酸カルシウム粒子分散体微粒子を得る。この炭酸カルシウム粒子分散体微粒子を混合物2とし、原料混合工程に用いる原料に含めてトナーを作製することができる。
【0069】
以下、本発明に関連する各物性の測定方法について記載する。
【0070】
<トナーからの各材料の分離方法>
トナーに含まれる各材料の溶剤への溶解度の差を利用して、トナーから各材料を分離することができる。
【0071】
第一分離:23℃のメチルエチルケトン(MEK)にトナーを溶解させ、可溶分(第二の樹脂(例えば非晶性樹脂))と不溶分(第一の樹脂(例えば結晶性樹脂)、離型剤、着色剤、無機微粒子など)を分離する。
【0072】
第二分離:100℃のMEKに、第一分離で得られた不溶分(第一の樹脂、離型剤、着色剤、無機微粒子など)を溶解させ、可溶分(第一の樹脂、離型剤)と不溶分(着色剤、無機微粒子など)を分離する。
【0073】
第三分離:23℃のクロロホルムに、第二分離で得られた可溶分(第一の樹脂、離型剤)を溶解させ、可溶分(第一の樹脂)と不溶分(離型剤)を分離する。
【0074】
第四分離:第二分離で得られた不溶分をテトラヒドロフランに分散させ、遠心分離法における遠心力を変えることで、比重の差から炭酸カルシウムと着色剤とを分離する。
【0075】
(第一の樹脂、第二の樹脂に加えて、第三の樹脂を含む場合)
第一分離:23℃のメチルエチルケトン(MEK)にトナーを溶解させ、可溶分(第二の樹脂、第三の樹脂)と不溶分(第一の樹脂、離型剤、着色剤、無機微粒子など)を分離する。
【0076】
第二分離:23℃のトルエンに第一分離で得られた可溶分(第二の樹脂、第三の樹脂)を溶解させ、可溶分(第三の樹脂)と不溶分(第二の樹脂)を分離する。
【0077】
第三分離:100℃のMEKに、第一分離で得られた不溶分(第一の樹脂、離型剤、着色剤、無機微粒子など)を溶解させ、可溶分(第一の樹脂、離型剤)と不溶分(着色剤、無機微粒子など)を分離する。
【0078】
第四分離:23℃のクロロホルムに、第三分離で得られた可溶分(第一の樹脂、離型剤)を溶解させ、可溶分(第一の樹脂)と不溶分(離型剤)を分離する。
【0079】
第五分離:第三分離で得られた不溶分をテトラヒドロフランに分散させ、遠心分離法における遠心力を変えることで、比重の差から無機微粒子と着色剤とを分離する。
【0080】
<無機微粒子の含有量>
上述の方法でトナー粒子から分離した無機微粒子の量から、無機微粒子の含有量を算出する。
【0081】
<無機微粒子の粒径>
無機微粒子の個数平均粒子径は、トナー粒子断面を走査型電子顕微鏡(S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ)にて観察し、粒子100個についての長径を計測し、平均値を求めることで算出する。
【0082】
<無機微粒子の表面処理材料の構造解析>
熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析装置(GC・MS)により、以下のようにして構造を解析した。上述の方法でトナー粒子から分離した炭酸カルシウム300μgを下記パイロフォイルF590に包埋して熱分解炉に導入し、不活性(ヘリウム)雰囲気の中590℃、5秒間加熱し発生した分解ガスをガスクロの注入口に導入し、下記オーブンプロファイルを実施した。カラム出口はトランスファーラインでMS分析装置に繋ぎ、イオン電流を縦軸に横軸にリテンション時間をプロットしたトータルイオンクロマトグラム(TIC)を得る。次いで、得られたクロマトグラムにおいて、検出された全ピークについて、付属のソフトでマススペクトルを抽出して、NIST-2017データベースに基づいて化合物を帰属させた。
【0083】
測定装置及び測定条件は、下記の通りである。
熱分解炉:日本分析工業 JSP900(日本分析工業社製)
パイロフォイル:F590(日本分析工業社製)
GC:Agilent Technologies 7890A GC
MS:Agilent Technologies 5975C
カラム:HP-5ms 30m、内径0.25mm、移動相厚0.25μm(アジレント社製)
キャリアーガス:He(純度99.9995%以上)
オーブンプロファイル:(1)温度40℃で3分ホールド、(2)10℃/分で温度320℃まで昇温、(3)温度320℃で20分ホールド
注入口温度:280℃
スプリット比:50:1
カラム流量:1mL/min(定量)
トランスファーライン温度:280℃
観測MS範囲:30-600Da
イオン化:EI 70eV
イオン源温度:280℃
四重極温度:150℃
【0084】
<無機微粒子の表面処理材料の量>
上述の方法でトナー粒子から分離した無機微粒子を、熱重量・示差熱分析装置(リガク社製、示差熱天秤TG-DTA、ThermoPlusTG8120)を用いて測定し、25℃から400℃まで10℃/minの速度で昇温を行い、その重量変化から表面処理剤の量を測定した。
【0085】
〔本発明の実施形態に含まれる構成〕
本実施形態の開示は、以下の構成を含む。
(構成1)結着樹脂と無機微粒子を含有するトナー粒子を有するトナーであって、
該結着樹脂は、結晶性樹脂を含有し、
該結晶性樹脂は上述の式(1)で表される第一のモノマーユニットを有し、
該無機微粒子は、
(i)CaCO3を含有する粒子、
(ii)BaSO4を含有する粒子、
(iii)Mg3Si410(OH)2を含有する粒子、および
(iv)Al2Si25(OH)4を含有する粒子、
からなる群より選ばれる少なくとも1つの無機微粒子であり、
該無機微粒子は、脂肪酸で処理された無機微粒子であり、
該トナー粒子中の該無機微粒子の含有量Bが1.0質量%以上15.0質量%以下であることを特徴とするトナー。
(構成2)前記結晶性樹脂において、第一のモノマーユニットの含有量Xが30質量%以上である、構成1に記載のトナー。
(構成3)前記無機微粒子の個数平均粒径が100nm以上500nm以下である、構成1または2に記載のトナー。
(構成4)前記脂肪酸の炭素数が12~18である、構成1~3のいずれかに記載のトナー。
(構成5)前記無機微粒子が有する前記脂肪酸の量Cが、前記無機微粒子の質量を基準として、0.1質量%以上5.0質量%以下である構成1~4のいずれかに記載のトナー。
(構成6)前記無機微粒子の表面処理に用いる前記脂肪酸の炭素数と、前記第一のモノマーユニットに含まれるR1の炭素数との差が5以下である、構成1~5のいずれかに記載のトナー。
(構成7)前記無機微粒子のBET比表面積が4.5m2/g以上25.0m2/g以下である、構成1~6のいずれかに記載のトナー。
(構成8)前記結晶性樹脂の含有量が全結着樹脂の40質量%以上である、構成1~7のいずれかに記載のトナー。
(構成9)前記トナー粒子中の上記式(1)で表される第一のモノマーユニットの含有量をA(質量%)、前記トナー粒子中の前記無機微粒子の含有量をB(質量%)、前記無機微粒子が有する前記脂肪酸の量をC(質量%)としたとき、該A~該Cが以下の関係を満たす構成1~8のいずれかに記載のトナー。
0.0001≦B×C/(100×A)≦0.0100
(構成10)前記無機微粒子が有する前記脂肪酸の量をC(質量%)、前記無機微粒子のBET比表面積をD(m2/g)としたとき、該Cおよび該Dが以下の関係を満たす構成1~9のいずれかに記載のトナー。
0.015≦C/D≦0.500
(構成11)前記無機微粒子が、炭酸カルシウム粒子である構成1~10のいずれかに記載のトナー。
(構成12)前記炭酸カルシウム粒子が、紡錘形状である構成11に記載のトナー。
(構成13)前記炭酸カルシウム粒子は、トナー粒子に対するCuKα線によるX線回折測定において、ブラッグ角をθとしたとき、2θ=26.5°±0.5°の範囲および2θ=29.5°±0.5°の範囲にピークを有し、
2θ=29.5°±0.5°のピークに帰属される結晶の結晶子径が、10nm以上45nm以下であり、
2θ=26.5°±0.5°のピーク強度と2θ=29.5°±0.5°のピーク強度との比が0.15以上0.24以下である構成11または12に記載のトナー。
(構成14)前記結晶性樹脂は、ニトリル基、カルボキシ基、ヒドロキシ基のいずれかを有するモノマーユニットを5質量%以上50質量%以下含有する構成1~13のいずれかに記載のトナー。
【実施例0086】
以上、本発明の基本的な構成と特色について述べたが、以下、実施例に基づいて具体的に本発明について説明する。しかしながら、本発明は何らこれに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り部は、質量基準である。
【0087】
<無機微粒子>
表1に記載のように材料、粒径、形状、表面処理量の異なる無機微粒子を準備し、後述のトナー粒子の製造に供した。表1中、表面処理脂肪酸の炭素数と名称は以下の通りである。
炭素数18:ステアリン酸
炭素数12:ラウリン酸
【0088】
【表1】
【0089】
<結晶性樹脂C-1の製造例>
・溶媒:トルエン 100.0部
・単量体組成物 100.0部
(単量体組成物は、以下のアクリル酸ベヘニル、アクリロニトリル、アクリル酸及びスチレンを以下に示す割合で混合したものである。
・アクリル酸ベヘニル:60.0部
・アクリロニトリル:13.0部
・アクリル酸:2.0部
・スチレン:25.0部)
・重合開始剤 0.5部
[t-ブチルパーオキシピバレート(日油社製:パーブチルPV)]
還流冷却管、撹拌機、温度計、窒素導入管を備えた反応容器に、窒素雰囲気下、上記材料を投入した。反応容器内を200rpmで撹拌しながら、70℃に加熱して12時間重合反応を行い、単量体組成物の重合体がトルエンに溶解した溶解液を得た。
【0090】
続いて、上記溶解液を25℃まで降温した後、1000.0部のメタノール中に上記溶解液を撹拌しながら投入し、メタノール不溶分を沈殿させた。得られたメタノール不溶分をろ別し、さらにメタノールで洗浄後、40℃で24時間真空乾燥して、結晶性樹脂C-1を得た。
【0091】
<結晶性樹脂C-2、C-3の製造例>
単量体及び質量部数を表2の通りとして、結晶性樹脂C-1の製造例と同様の方法で、結晶性樹脂C-2、C-3を得た。
【0092】
【表2】
表2中の略号は以下の通りである。
BEA:アクリル酸ベヘニル(式(1)中のR1炭素数22)
SA:アクリル酸ステアリル(式(1)中のR1炭素数18)
MYA:アクリル酸ミリシル(式(1)中のR1炭素数30)
AN:アクリロニトリル
AA:アクリル酸
St:スチレン
【0093】
<結晶性樹脂C-4の製造例>
・1,10-デカンジオール:
46.9部(0.27モル部;多価アルコール総モル数に対して100.0mol%)
・セバシン酸:
53.1部(0.26モル部;多価カルボン酸総モル数に対して100.0mol%)
冷却管、撹拌機、窒素導入管、及び、熱電対のついた反応槽に、上記材料を秤量した。次にフラスコ内を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら徐々に昇温し、140℃の温度で撹拌しつつ、3時間反応させた。
・2-エチルヘキサン酸錫:0.5部
その後、上記材料を加え、反応槽内の圧力を8.3kPaに下げ、温度200℃に維持したまま、4時間反応させ、結晶性ポリエステル樹脂の結晶性樹脂C-4を得た。
【0094】
<非晶性樹脂A-1の製造例>
オートクレーブにキシレン50.0部を仕込み、窒素で置換した後、撹拌下、密閉状態で185℃まで昇温した。
【0095】
ここに、スチレン75.0部、アクリル酸-n-ブチル15.5部、ジビニルベンゼン1.1部、アクリルニトリル9.5部及びアクリル酸0.5部、並びに、ジ-tert-ブチルパーオキサイド1.5部及びキシレン20.0部の混合溶液を、オートクレーブ内温度を185℃にコントロールしながら、3時間連続的に滴下し重合させた。
【0096】
さらに同温度で1時間保ち重合を完了させ、溶媒を除去し、非晶性樹脂A-1を得た。
【0097】
<非晶性樹脂A-2の製造例>
・ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン:71.9部(0.20モル;多価アルコール総モル数に対して100.0mol%)
・テレフタル酸:
26.8部(0.16モル;多価カルボン酸総モル数に対して96.0mol%)
・チタンテトラブトキシド:0.5部
冷却管、撹拌機、窒素導入管、及び、熱電対のついた反応槽に、上記材料を秤量した。次にフラスコ内を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら徐々に昇温し、200℃の温度で撹拌しつつ、4時間反応させた。
【0098】
さらに、反応槽内の圧力を8.3kPaに下げ、1時間維持した後、大気圧に戻した(第1反応工程)。
・無水トリメリット酸:
1.3部(0.01モル;多価カルボン酸総モル数に対して4.0mol%)
その後、上記材料を加え、反応槽内の圧力を8.3kPaに下げ、温度180℃に維持したまま、1時間反応させ(第2反応工程)、重量平均分子量(Mw)5000である非晶性ポリエステル樹脂の非晶性樹脂A-2を得た。
【0099】
<無機微粒子分散体1の製造例>
・着色剤 6.0部
(シアン顔料 :Pigment Blue 15:3)
・無機微粒子1 10.0部
・結晶性樹脂C-1 20.0部
上記材料をヘンシェルミキサー(FM-75型、三井鉱山(株)製)を用いて、回転数20s-1、回転時間5minで混合した後、二軸混練機(PCM-30型、株式会社池貝製)にて100℃で混練した。得られた混練物を冷却し、ピンミルにて重量平均粒径100μm以下に粗粉砕し、着色剤含有の無機微粒子分散体1を得た。
【0100】
<トナー粒子1の製造例>
・結晶性樹脂C-1 28部
・非晶性樹脂A-1 32部
・無機微粒子分散体1 36部
・ワックス 4部
(フィッシャートロプシュワックス;最大吸熱ピークのピーク温度90℃)
上記材料をヘンシェルミキサー(FM-75型、日本コークス工業株式会社製)を用いて、回転数20s-1、回転時間5minで混合した後、温度130℃に設定した二軸混練機(PCM-30型、株式会社池貝製)にてスクリュー回転数250rpm、吐出温度130℃にて混練した。
【0101】
ハンマーミルにて1mm以下に粗粉砕し、粗砕物を得た。得られた粗砕物を、機械式粉砕機(T-250、フロイントターボ(株)製)にて微粉砕した。さらにファカルティF-300(ホソカワミクロン社製)を用い、分級を行い、重量平均粒径約6.0μmのトナー粒子1を得た。分級運転条件は、分級ローター回転数を130s-1、分散ローター回転数を120s-1とした。
【0102】
<トナー粒子2~42の製造例>
表3記載の無機微粒子と結晶性樹脂を用い、トナー粒子1と同様にしてトナー粒子2~42を得た。表3の結晶性樹脂の成分は、トナー粒子の製造時に用いる結晶性樹脂と無機微粒子分散体に含有される結晶性樹脂の両方を合わせた値を記載している。
【0103】
トナー粒子9、13、24~35、37~41では、結晶性樹脂C-1のモノマー成分を基に、(1)第一のモノマーユニットの含有量と、(2)ニトリル基、カルボキシ基、ヒドロキシ基のいずれかを有するモノマーユニットの含有量を表3の通りとした。
【0104】
一方、トナー粒子8では結晶性樹脂C-1に替えてC-2を、トナー粒子36では結晶性樹脂C-1に替えてC-3を、トナー粒子42では結晶性樹脂C-1に替えて結晶性樹脂C-4、非晶性樹脂A-1に替えて非晶性樹脂A-2を用いた。
【0105】
また、無機微粒子分散体の製造において、樹脂成分と炭酸カルシウム粒子の混合比率、混練温度、混練速度を調整することで、結晶子径、ピーク強度比が異なる無機微粒子を含有する分散体を製造した。それらを用いた結果、トナー中の炭酸カルシウム粒子の「2θ=29.5°±0.5°のピークに帰属される結晶の結晶子径」、「2θ=26.5°±0.5°のピーク強度と2θ=29.5°±0.5°のピーク強度との比」は、表4に記載する値であった。
【0106】
ここで、トナー粒子1~39は実施例1~39に対応し、トナー粒子40~42は比較例1~3にそれぞれ対応する。
【0107】
【表3】
表3中の記号は以下のものを表す。
A:トナー粒子中の、式(1)であらわされる第一のモノマーユニットの存在割合(質量%)
B:トナー粒子中の無機微粒子の含有量(質量%)
C:無機微粒子の脂肪酸による処理量(質量%)
D:無機微粒子のBET比表面積(m2/g)
【0108】
さらに、無機微粒子として炭酸カルシウム粒子のみを用いたトナー粒子1、6~28、30~42に関しては下記の測定も行った。
【0109】
[X線回折の測定方法]
X線回折測定は、測定装置「RINT-TTRII」(株式会社リガク社製)と、装置付属の制御ソフト及び解析ソフトを用いる。
【0110】
測定条件は以下の通りである。
X線:Cu/50kV/300mA
ゴニオメータ:ローター水平ゴニオメータ(TTR-2)
アタッチメント:標準試料ホルダー
発散スリット:解放
発散縦制限スリット:10.00mm
散乱スリット:開放
受光スリット:開放
カウンタ:シンチレーションカウンタ
走査モード:連続
スキャンスピード:4.0000°/min.
サンプリング幅:0.0200°
走査軸:2θ/θ
走査範囲:10.0000°~40.0000°
【0111】
続いて試料板にトナー粒子をセットして測定を開始する。
【0112】
CuKα特性X線において、ブラッグ角をθとし、回折角を2θとして、2θが3°以上35°以下の範囲で、回折角2θを横軸とし、X線強度を縦軸としたX線回折スペクトルを得る。
【0113】
2θ=29.5°±0.5°に帰属される結晶の「結晶子径」、および、2θ=26.5°±0.5°に帰属される結晶のピーク強度と2θ=が29.5°±0.5°に帰属される結晶の「ピーク強度比」の測定結果を表4に示す。
【0114】
【表4】
【0115】
<トナー1の製造例>
100部のトナー粒子1に対し、
・ヘキサメチルジシラザン4質量%で表面処理したBET比表面積25m2/gの疎水性シリカ微粒子0.5部
・ポリジメチルシロキサン10質量%で表面処理したBET比表面積100m2/gの疎水性シリカ微粒子0.5部
を添加し、ヘンシェルミキサー(FM-75型、日本コークス工業株式会社製)で回転数30s-1、回転時間10min混合して、トナー1を得た。
【0116】
<トナー2~42の製造例>
トナー粒子2~42についても、それぞれ上記と同様のシリカ微粒子の外添を行うことによって、トナー2~42を得た。
【0117】
<磁性キャリア1の製造例>
・個数平均粒径0.30μm、(1000/4π(kA/m)の磁界下における磁化の強さ65Am2/kg)のマグネタイト1
・個数平均粒径0.50μm、(1000/4π(kA/m)の磁界下における磁化の強さ65Am2/kg)のマグネタイト2
上記の材料それぞれ100部に対し、4.0部のシラン化合物(3-(2-アミノエチルアミノプロピル)トリメトキシシラン)を加え、容器内にて100℃以上で高速混合撹拌し、それぞれの微粒子を処理した。
・フェノール:10質量%
・ホルムアルデヒド溶液:6質量%(ホルムアルデヒド40質量%、メタノール10質量%、水50質量%)
・上記シラン化合物で処理したマグネタイト1:58質量%
・上記シラン化合物で処理したマグネタイト2:26質量%
上記材料100部と、28質量%アンモニア水溶液5部、水20部をフラスコに入れ、撹拌、混合しながら30分間で85℃まで昇温及び保持し、3時間重合反応させて、生成するフェノール樹脂を硬化させた。
【0118】
その後、硬化したフェノール樹脂を30℃まで冷却し、さらに水を添加した後、上澄み液を除去し、沈殿物を水洗した後、風乾した。
【0119】
次いで、これを減圧下(5mmHg以下)、60℃の温度で乾燥して、磁性体分散型の球状の磁性キャリア1を得た。磁性キャリア1の体積基準の50%粒径(D50)は、34.2μmであった。
【0120】
<二成分系現像剤1の製造例>
92.0部の磁性キャリア1に対して、8.0部のトナー1を加え、V型混合機(V-20、セイシン企業製)により混合し、二成分系現像剤1を得た。
【0121】
<二成分系現像剤2~42の製造例>
トナー1に代えてトナー2~42をそれぞれ用いて、二成分系現像剤1と同様にして、二成分現像剤2~42を得た。
【0122】
画像形成装置として、デジタル商業印刷用プリンター(商品名:imageRUNNER ADVANCE C9075 PRO、キヤノン社製)の改造機を用いた。
改造機の現像器に各トナーの二成分現像剤を入れ、静電潜像担持体または紙上のトナーの載り量が所望の量となるように、現像剤担持体の直流電圧VDC、静電潜像担持体の帯電電圧VD、およびレーザーパワーを調整し、後述の評価を行った。改造機における改造点は、定着温度、およびプロセススピードを自由に設定できるように変更したことである。
【0123】
〔実施例1〕
二成分系現像剤1を用いて、以下の方法により、耐擦過性と低温定着性の評価を行った。
【0124】
[試験例1:耐擦過性の評価]
紙:Oce Top Coated Plus Silk 270g(270.0g/m2
トナーの載り量:0.20mg/cm2
評価画像:上記A4用紙に単色のハーフトーン画像(5cm×25cm)を配置
定着試験環境:常温常湿環境(温度23℃/湿度50%RH)
プロセススピード:450mm/sec
定着温度:150℃
上記の条件で得られた画像を短冊状に切り、以下の装置に上向きにセットした。ダンパー部には紙のみをセットし、以下の条件で擦り試験を実施した。
擦り試験機:学振型摩擦堅牢度試験機(AB-301)
錘:500g(0.5kgf)
ストローク:10往復
【0125】
擦った紙(擦り紙)にはトナーが移行しており、この擦り紙および白紙について、SpectroScan Transmission(GretagMacbeth社製)(測定条件:D50 視野角2°)を用いて各階調の画像のL*、a*、b*を測定した。白紙のL*、a*、b*をL0*、a0*、b0*とし、擦り紙のL*、a*、b*をL1*、a1*、b1*としたとき、以下の式で求められるΔEを比較し、擦過性評価の指標とした。
ΔE={(L1*2+(a1*2+(b1*20.5-{(L0*2+(a0*2+(b0*20.5
【0126】
ΔEが低いほど、耐擦過性は良好である。評価結果を表5に示す。
【0127】
(評価基準)
AAA:2.0未満
AA:2.0以上2.5未満
A:2.5以上3.0未満
BBB:3.0以上3.5未満
BB:3.5以上4.0未満
B:4.0以上4.5未満
CCC:4.5以上5.0未満
CC:5.0以上5.5未満
C:5.5以上6.0未満
DDD:6.0以上6.5未満
DD:6.5以上7.0未満
D:7.0以上7.5未満
EEE:7.5以上8.5未満
EE:8.5以上10.0未満
E:10.0以上
【0128】
[試験例2:低温定着性の評価]
紙:CF-C104(104.0g/m2
(キヤノンマーケティングジャパン株式会社より販売)
紙上のトナーの載り量:0.90mg/cm2
評価画像:上記A4用紙の中心に25cm2の画像を配置
定着試験環境:低温低湿環境:温度15℃/湿度10%RH(以下「L/L」)
紙上のトナーの載り量が上記になるように、現像剤担持体の直流電圧VDC、静電潜像担持体の帯電電圧VD、及びレーザーパワーを調整した後、プロセススピードを300mm/sec、定着温度を130℃に設定し低温定着性を評価した。画像濃度低下率の値を低温定着性の評価指標とした。画像濃度低下率は、X-Riteカラー反射濃度計(500シリーズ:X-Rite社製)を用い、先ず、中心部の画像濃度を測定する。次に、画像濃度を測定した部分に対し、4.9kPa(50g/cm2)の荷重をかけてシルボン紙により定着画像を摺擦(5往復)し、画像濃度を再度測定する。そして、摺擦前後での画像濃度の低下率(%)を測定した。
【0129】
評価基準は以下の様にした。評価結果を表5に示す。
【0130】
[評価基準]
A:1.0未満
B:1.0以上3.0未満
C:3.0以上6.0未満
D:6.0以上10.0未満
E:10.0以上
【0131】
〔実施例2~39、比較例1~3〕
二成分系現像剤1に替えて、それぞれ二成分系現像剤2~42を用いる他は、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表5に示す。
【0132】
【表5】