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特開2022-189780同じ車軸の車輪に作用する独立したエンジンを有する道路車両の制御方法及び関連する道路車両
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  • 特開-同じ車軸の車輪に作用する独立したエンジンを有する道路車両の制御方法及び関連する道路車両 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189780
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】同じ車軸の車輪に作用する独立したエンジンを有する道路車両の制御方法及び関連する道路車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20221215BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20221215BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20221215BHJP
【FI】
B60W30/02
B60L15/20 S
B60L3/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022093465
(22)【出願日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】102021000015206
(32)【優先日】2021-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(71)【出願人】
【識別番号】519463178
【氏名又は名称】フェラーリ エッセ.ピー.アー.
【氏名又は名称原語表記】FERRARI S.p.A.
【住所又は居所原語表記】Via Emilia Est, 1163, 41100 MODENA, Italy
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アレッサンドロ フルメリ
(72)【発明者】
【氏名】フランチェスカ ミンチグルッチ
【テーマコード(参考)】
3D241
5H125
【Fターム(参考)】
3D241BA16
3D241BC04
3D241CA09
3D241CC03
3D241DA52Z
3D241DB12Z
5H125AA01
5H125AB01
5H125BA06
5H125CA02
5H125CA12
5H125DD15
5H125EE06
5H125EE08
5H125EE09
5H125EE41
5H125EE42
5H125EE52
5H125EE53
5H125EE58
(57)【要約】      (修正有)
【課題】同じ車軸の車輪に作用する独立したモータを有する道路車両を制御する方法及び関連する道路車両を提供する。
【解決手段】運転者によって運転され、同じ車軸に属する少なくとも第1の駆動輪(3)及び第2の駆動輪(3)を備え、各駆動輪(3)がそれぞれの第1及び第2の電気モータ(5)によって独立して動作される、道路車両(1)を制御する方法は、第1の駆動輪(3)に又は第2の駆動輪(3)に各それぞれのモータ(5)によって送達されるトルク(T、T)を、運転者によって要求されるトルクに応じて、及び第1及び第2の車輪(3)との間の角速度の差とは無関係に制御するステップを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者によって運転され、車軸(RA)に属する少なくとも第1の駆動輪(3)及び第2の駆動輪(3)を備え、各駆動輪(3)がそれぞれの第1及び第2のハーフシャフト(7)によって独立して動作される、道路車両(1)の制御方法であって、
前記制御方法が、前記第1の駆動輪(3)に向かって又は前記第2の駆動輪(3)に向かって各それぞれのハーフシャフト(7)に送達されるトルク(T、T)を、前記運転者によって要求されるトルクに応じて、及び前記第1及び第2の駆動輪(3)との間の角速度の差とは無関係に制御するステップを含む、制御方法。
【請求項2】
各駆動輪(3)が、それぞれの第1及び第2の電気モータ(5)によって独立して駆動され、
前記制御方法が、前記第1の駆動輪(3)に向かって又は前記第2の駆動輪(3)に向かって各それぞれのモータ(5)によって送達される前記トルク(T、T)を、前記運転者によって必要とされるトルクに従って、及び前記第1及び第2の駆動輪(3)との間の角速度の前記差とは無関係に制御するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記道路車両(1)の姿勢角(β)、すなわち、前記道路車両(1)の縦軸(x)と重心(B)における前記道路車両(1)の進行の速度(V)の方向との間の前記角度(β)の変動(β’)を決定するさらなるステップを含み、前記第1又は第2の駆動輪(3)に向かって各それぞれのエンジン(5)によって送達される前記トルク(T、T)が、前記姿勢角(β)の前記変動(β’)の関数として計算される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記姿勢角(β)の前記変動(β’)が、前記車両(1)の前記姿勢角(β)の数値微分に頼ることなく計算され、特に、前記車両(1)のヨーレート(Ψ’)、横加速度、及び線速度(Vx)の非線形の組合せによって計算される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
特に少なくとも1つの慣性測定ユニットによって、前記道路車両(1)のヨーの速度(Ψ’)を検出するさらなるステップを含み、前記第1又は第2の駆動輪(3)に向かって各それぞれのモータ(5)によって送達される前記トルク(T、T)が、ヨーの前記速度(Ψ’)の関数として計算される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
適切なセンサを用いて測定されたか又は前記道路車両(1)をモデル化することによって推定された、前記駆動輪(3)、特に後輪に作用する垂直力(F)を検出するさらなるステップを含み、前記第1又は第2の駆動輪(3)に向かって各それぞれのモータ(5)によって送達される前記トルク(T、T)が、前記駆動輪間の前記垂直力の配分(F%)の関数として計算される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
所望の出力が、前記第1又は第2の駆動輪(3)に取り付けられたそれぞれのタイヤのグリップによって決定される制限を超える場合、各それぞれのエンジン(5)から前記第1又は第2の駆動輪(3)へのトルク出力(T、T)を制限するさらなるステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第1及び第2の駆動輪(3)に送達されることになる前記トルク(T、T)が、寄与(ΔTLIN)とヨーイング寄与(ΔTNL)との和を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
逆ヨーイング寄与(ΔTLIN)が、前記道路車両(1)の姿勢角(β)の変動(β’)、前記道路車両(1)自体のヨーイング速度(Ψ’)及び縦方向速度(Vx)の関数として計算される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ヨーイング寄与(ΔTNL)が、前記同じ車軸(RA)の各それぞれのモータ(5)によって送達されるトルクの差(T-T)の関数として計算され、特に、前記車軸(RA)のトラック幅と、前記第1及び第2の駆動輪(3)の半径との幾何学的関係関数に従って計算される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
制御が、前記道路車両(1)の後車軸(RA)の前記第1及び第2の車輪(3)に対して実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第2の駆動輪(3)に作用する第2のモータ(5)の故障を補償するように前記第1の駆動輪(3)に向かって第1のモータ(5)によって送達され、その逆も同様である、前記トルク(T、T)を制御するさらなるステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
第1及び第2のモータ(5)以外の1つ又は複数のアクチュエータ(8、9)を監視するさらなるステップと、前記道路車両(1)の所望の軌道(T)を維持しながら、前記1つ又は複数のアクチュエータ(8、9)の故障を補償するように前記第1の駆動輪(3)及び/又は前記第2の駆動輪(3)に向かって送達される前記トルク(T、T)を制御するステップとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
道路車両(1)であって、
-同じ車軸(RA)に属する少なくとも1つの第1の駆動輪(3)及び1つの第2の駆動輪(3)と、
-前記第1及び第2の駆動輪(3)を、それぞれ、独立して駆動するように構成された少なくとも1つの第1の電気モータ(5)及び1つの第2の電気モータ(5)とを備え、
前記車両(1)は、それが、請求項1に記載の方法を実行することによって前記第1の電気モータ(5)及び前記第2の電気モータ(5)によって送達されるトルク(T、T)を制御するように構成された制御ユニット(10)を備えることを特徴とする、道路車両(1)。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本特許出願は、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる、2021年6月10日に出願されたイタリア特許出願第102021000015206号からの優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、同じ車軸の車輪に作用する独立したモータを有する道路車両を制御する方法及び関連する道路車両に関する。
【背景技術】
【0003】
よりゆっくりと回転する車輪への動力の伝達を促進するためにトルク配分を変更する(例えば、摩擦が低減された表面、例えば濡れた表面上での車輪の持ち上げ又は車輪のスリップに起因する、失速又はスリップを回避する)ように構成されたセルフロック差動装置が知られている。これらのデバイスは、一般に、よりゆっくりと回転する駆動輪に有利になるように、より速く回転する駆動輪に伝達されるトルクを制限するように構成されたクラッチシステムを備える。
【0004】
さらに、近年、車両の安定性、安全性又は性能を高めるために、異なるタイプの電子制御式セルフロック差動装置が開発されている。
【0005】
国際公開第2004/087453号は、電子制御式セルフロック差動装置を備えた道路車両を開示し、そのロック率は、道路車両を安定化すること(すなわち、より安定に、したがってより安全にすること)を試みるために制御ユニットによって制御される。
【0006】
国際公開第2004/087453号によれば、カーブに沿って走行している間、電子制御ユニットは、道路車両を安定化するために、アクセルペダルを解放した場合、セルフロック差動装置のロック率を徐々に増加させる(すなわち、電子制御ユニットは、よりゆっくりと回転する駆動輪に、すなわちカーブの内側の車輪により大きい量のトルクを転送するためにセルフロック差動装置のクラッチを「閉じる」)。
【0007】
国際公開第2004/087453号によれば、カーブに沿って走行している間、制御ユニットは、道路車両の安定性とカーブに沿った加速性能の両方を改善するために、アクセルペダルを押した場合、セルフロック差動装置のロック率を徐々に減少させ(すなわち、制御ユニットは、より速く回転する駆動輪に、すなわちカーブの外側の車輪により大きい量のトルクを転送するためにセルフロック差動装置のクラッチを「開く」)、特に、セルフロック差動装置のロック率の低減は、道路車両の横加速度、道路車両の走行速度、エンジン及び/又は変速機に係合したギアによって送達されるトルクに比例する。
【0008】
国際公開第2004/087453号によれば、実質的に一定の速度でカーブに沿って走行している間、制御ユニットは、路面に対する駆動輪のグリップの状態を推定し、結果として、路面に対する駆動輪のグリップの状態がグリップ限界から遠い場合、セルフロック差動装置のロック率を取り消し、路面に対する駆動輪のグリップの状態がグリップ限界に近づいている場合、セルフロック差動装置のロック率を徐々に増加させ、最終的に、路面に対する駆動輪のグリップの状態がグリップ限界に極めて近い場合、セルフロック差動装置のロック率をゼロ値まで低減する。
【0009】
国際公開第2015/146445号は、速度低減ギアの寸法及び構成要素の数を増加させることなく速度低減ギアにおいて発生するギアの歯打ち音を低減することができる、モータの作動を制御するデバイスについて説明する。
【0010】
電気自動車の出現により、差動装置の概念は、異なるモータがある、例えば前車軸用に1つと後車軸用に1つとがある場合でも維持された。場合によっては、さらに、同じ車軸の駆動輪が異なるアクチュエータによって動作される場合、電子制御式セルフロック差動装置の挙動を模倣するためにソフトウェアが実装された。
【0011】
上記で説明されたすべての例は、それらが物理的差動装置、すなわち電子制御式のもの又はソフトウェアシミュレート式のもののいずれかを使用するので、同じ軸に属する駆動輪の角速度の差の間の結び付きを決定又は定義する。特に、これらの結び付きは、性能(トルクの一部はいずれにせよ、より大きい角速度で車輪に伝達される)又は快適性に関して最適化の欠如を引き起こし、地面の悪条件による、又はアクチュエータの故障によって発生する、反対の考えられる望ましくないヨーの可能性をさらに回避する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2004/087453号
【特許文献2】国際公開第2015/146445号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、同じ車軸の車輪に作用する独立したモータを有する道路車両を制御する方法及び関連する道路車両を提供することであり、前記制御方法は、上記で説明された欠点を被ることがなく、容易かつ経済的に実施され、特に、道路車両を不安定にすることなく、トラック上を走行しながら性能を最大化することができる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、添付の特許請求の範囲による、同じ車軸の車輪に作用する独立したモータを有する道路車両を制御する方法並びに関連する道路車両が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
次に、本発明は、その非限定的な実施形態を示す添付の図面を参照して説明される。
図1】本発明に従って制御される2つの別個の独立したモータを備える道路車両の概略平面図である。
図2】軌道、走行速度及び姿勢角を強調する、カーブに沿って走行している間の図1の道路車両の概略図である。
図3】本発明による、制御部の論理構造を示す概略図である。
図4図3に示されているコントローラの構造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1では、番号1は、全体として、パワートレインシステム4からトルクを受け取る2つの前輪2及び2つの後駆動輪3(したがって、同じ車軸、すなわち後車軸に属する)を備えた道路車両を示す。
【0017】
パワートレインシステム4は、各々がそれぞれの駆動輪3を独立して動作する少なくとも2つの電気モータ5を備える。電気モータ5は、好ましくは、横方向中央の、縦方向後方位置に配置される。前記電気モータ5の各々は、それぞれの後駆動輪3に一体化されたそれぞれのアクスルシャフト7を通して、それぞれの車輪3に(減速又は伝達要素6によって)機械的に接続される。
【0018】
本明細書に示されていないいくつかの非限定的な場合では、各駆動輪3は、それぞれのアクスルシャフト7によって独立して動作される。特に、制御方法は、第1の駆動輪3又は第2の駆動輪3に向かって各それぞれのアクスルシャフトに送達されるトルクT、Tを、運転者によって要求されるトルクに応じて、及び第1及び第2の車輪3との間の角速度の差とは無関係に制御するステップを含む。より正確には、アクスルシャフト7に送達されるトルクは、パワートレインシステム4の単一の(燃焼又は電気)アクチュエータによって送達され得る。
【0019】
各車輪2又は3は、(図1に部分的に示されている)サスペンション8によって道路車両1のフレームに機械的に接続され、サスペンション8は、電子制御式ショックアブソーバ9を備え、すなわち、電子制御式ショックアブソーバ9の減衰を変更する(すなわち、増加又は減少させる)ことができる電気アクチュエータを備える。例として、各電子制御式ショックアブソーバ9の電気アクチュエータは、電子制御式ショックアブソーバ9内のオイルの通過のための孔の寸法を調節する1つ又は複数のソレノイドバルブを備えてもよく、あるいは、電気アクチュエータは、印加された磁場に応じてその物理的特性を変化させる磁気レオロジー流体を備えてもよい。
【0020】
道路車両1は、電子制御ユニット10(「ECU」)を備え、電子制御ユニットは、とりわけ、以下でより詳細に説明されるように、電気モータ5によって駆動輪3に送達されるトルクに作用することによって、及び必要な場合、サスペンション8のショックアブソーバ9と協働して、道路車両1が直線道路に沿って走行する間と道路車両1がカーブに沿って走行する間の両方において、道路車両1の挙動を調整する。制御ユニット10は、物理的に単一のデバイスから構成されるか、又は、互いに別個であり、道路車両1のCANネットワークを通して互いと通信するいくつかのデバイスから構成され得る。
【0021】
既知の車両では、上述したように、電子制御式セルフロック差動装置が存在するか又はシミュレートされる。これらのデバイスでは、ロッククラッチが完全に開いている(すなわち、ロック率が0である)とき、セルフロック差動装置は完全に自由であり、トルクは2つの後駆動輪間で等しく分割され(すなわち、各後部駆動輪が、その回転速度にかかわらず総トルクの50%を受け取る)、反対に、ロッククラッチを閉じることによって(すなわち、ロック率を増加させることによって)、セルフロック差動装置はロックを開始し、よりゆっくりと回転する後駆動輪に送達されるトルクは徐々に増加される(すなわち、よりゆっくり回転する後駆動輪は、より速く回転する後駆動輪よりも多くのトルクを受け取る)。これらのデバイスでは、各駆動輪に送達され得るトルクの差は、駆動輪の角速度の差の関数である。さらに、差動装置は、2つの駆動輪間のトルクの分割において前述のバランスを再確立する傾向があり、したがって、駆動輪が同じ角回転速度を有する場合、2つの駆動輪に送達されるトルクの区別を禁止する。
【0022】
反対に、以下で説明される制御方法によれば、制御ユニット10、特にその内部のコントローラCTRは、各電気モータ5によってそれぞれの駆動輪3に送達されるトルクを、(例えば、アクセルペダルを介して)運転者によって要求されるトルクCinの関数として、及び駆動輪3間の角速度差とは無関係に制御するように構成される。このようにして、例えば、「性能」又は「運転の容易さ」を選好するために運転者によって選択された運転モードに基づいて、モータ5によって車輪3に送達されるトルクは、駆動輪3の角速度条件に関係なく区別され得る。特に、角速度の差と車輪3に送達されるトルクの差との間の前述の結び付きの排除により、でこぼこのある又は平坦でない道路上の直線軌道の維持を改善することが可能である。
【0023】
図2によれば、カーブに沿って走行するとき、制御ユニット10は、既知の方法で、道路車両1の姿勢角β(すなわち、重心Bにおける道路車両1の縦軸xと道路車両1の走行速度Vの方向との間の角度)の変動β’を決定する。道路車両1は、大きく異なる姿勢角βを想定しているが、平面内で同じヨー角を想定することができ、その逆も同様であるため、姿勢角βはヨー角(すなわち、道路車両1の縦軸xと固定接地基準との間の角度)とは異なることを指摘しておきたい。
【0024】
特に、制御ユニット10は、姿勢角βの変動β’を決定し、各駆動輪3に送達されるトルクを姿勢角の変動β’の関数として計算する。
【0025】
図3及び図4に示されている好ましい実施形態によれば、制御ユニット10は、特に(既知であり、したがって詳細に説明されない)1つ又は複数の慣性測定ユニットによって、道路車両1のヨーレートΨ’を検出する。好ましくは、コントローラCTRは、各モータ5によってそれぞれの駆動輪3に送達されるトルクT、TをヨーレートΨ’の関数として計算する。
【0026】
有利には、必ずしもそうとは限らないが、姿勢角βの変動β’は、車両の姿勢角βの数値微分を使用せずに計算されるが、車両1のヨーレートΨ’、(道路車両1の既知のモデルによって検出又は決定される)横加速度、及び線速度Vxの非線形の組合せによって計算される。このようにして、時間的に姿勢角β自体を導出する、姿勢角βの変動β’の計算において必然的に必要となるそれらの近似の発生を回避することが可能である。
【0027】
図3及び図4の好ましいが非限定的な実施形態によれば、制御ユニット10は、既知の方法(適切なセンサで測定されるか又は道路車両1のモデル化によって推定される)によって、駆動輪3、特に後駆動輪に作用する垂直力Fを検出する。このようにして、コントローラCTRは、各モータ5によってそれぞれの駆動輪3に送達されるトルクT、Tを、駆動輪3間の垂直力の配分F%の関数として計算する(例えば、図4参照)。
【0028】
有利には、必ずしもそうとは限らないが、制御ユニット10、特にコントローラCTRは、(以下でより詳細に説明されるように、ヨーイング寄与ΔTNLと逆ヨーイング寄与ΔTLINとの和から生じる)目標送達量が、駆動輪3のうちの1つに取り付けられたそれぞれのタイヤのグリップによって決定される限界を超える場合、各モータ5からそれぞれの駆動輪3へのトルクT、Tの送達量を(適切なスリップ制御SLCによって)制限する。特に、前記限界は、タイヤの特性、車両1の縦方向速度Vx、並びにそれぞれ右駆動輪3及び左駆動輪3の角速度VRR及びVRLの関数として、既知の技法に従って計算される(図4)。このようにして、差動装置の存在に由来する利点(すなわち、グリップがない状態で車輪が過度に回転することを防止すること)は、他方の駆動輪にトルクを送達することなしに、及び必ずしもトルクを等しく分割する傾向なしに、維持され得る。
【0029】
上述したように、有利には、必ずしもそうとは限らないが、コントローラCTRは、(特に、線形)ヨーイング寄与ΔTNLと(特に、非線形)逆ヨーイング寄与ΔTLINとを互いに加算することによって、各駆動輪(左右の車輪それぞれ)に送達されるトルクT、Tを処理する。特に、ヨーイング寄与ΔTNL及び逆ヨーイング寄与ΔTLINは、各々、同じ(後)車軸RAに属する2つの駆動輪3間のトルク差を示す。より正確には、ヨーイング寄与ΔTNL及び逆ヨーイング寄与ΔTLINは、後車軸の総入力トルクFZMのうち、右駆動輪3と左駆動輪3との間のトルクの送達にどのような差がなければならないかを示すNm単位の値である。
【0030】
有利には、必ずしもそうとは限らないが、逆ヨーイング寄与ΔTLINは、道路車両1の姿勢角βの変動β’、道路車両(1)自体のヨーレートΨ’及び縦方向速度Vxの関数として(コントローラCTRによって)計算される。
【0031】
特に、逆ヨーイング寄与ΔTLINは、姿勢角βの変動β’に基づく寄与RTと、ヨーレートΨ’に基づく寄与SLとの和から生じる。より正確には、寄与RTは、より突然の軌道変動に対抗する、最終制御出力への逆ヨーイング寄与を提供する。これらの変動は、典型的には、道路入力外乱d、又は線形と非線形両方の過渡的ダイナミクスによって引き起こされる。言い換えれば、寄与RTは、真直度及び過渡に関する道路車両1のダイナミクス挙動の領域に関係する。
【0032】
一方、ヨーレートΨ’に基づく寄与SLは、運転者によって提供されるステアリング入力(SW)に対する道路車両1の横方向定常応答を調節するのに有用な、最終出力への逆ヨーイング寄与を提供する。したがって、この制御によって、運転者によって知覚されるハンドルトルクも変更され得る。車両の横方向定常応答を調節(較正)するとき、ヨーレートΨ’の乗算係数は、縦方向速度Vxに依存し、テーブルLUT(ルックアップテーブル)による運転者の要求に依存する。
【0033】
有利には、必ずしもそうとは限らないが、ヨーイング寄与ΔTNLは、車両の横方向ダイナミクスVDL(図3)の関数として(コントローラCTRによって)計算され、これは次に、好ましくは前記車軸RAのトラック幅及び駆動輪3の半径の幾何学的関係関数によって、各それぞれのモータ5によって同じ車軸RAに送達されるトルクの差T-Tの関数である。
【0034】
特に、T-TとMとの間の関係は、好ましくは、車両のダイナミクスの式によって明確に決定される(すなわち、コントローラCTRによって決定されない)。詳細には、前記関係は、それ自体を、自動車トラック幅t及び車輪半径Rから生じる乗算利得に変換し、ここで、M=0.5*(T-T)/R*tである。
【0035】
特に、ヨーイング寄与ΔTNLは、駆動輪3間の垂直力の配分F%と後車軸の総入力トルクFZMとの積から生じる。詳細には、駆動輪3間の垂直力の配分F%は、後車軸RAに作用する総垂直力に対する、左右の駆動輪3に作用する垂直力の割合を示す。図4に示されているブロック%は、各駆動輪3の垂直力を車軸RAに作用する力Fの合計で除算した単純なパーセンテージ計算を示す。より正確には、トルクFZMは、適切なペダルによって運転者によって制御され、入力トルクTi(図3)、すなわち、少なくとも1つのペダル(例えば、アクセルペダル)の状態に基づいて提供される駆動トルク又は制動トルクの要求に実質的に対応する。このようにして、運転者によるトルクのこの要求が満たされなければならない場合でも、それは、従来技術のシステムの駆動輪間の速度差による限界を受ける必要なしに、車両状態に基づいて駆動輪3間で自由にスプリットされ得る。
【0036】
いくつかの非限定的な場合には、制御ユニット10は、左駆動輪3に作用するモータ5の起こり得る故障を補償するために、それぞれのモータ5によって右駆動輪3に送達されるトルクTを制御し、逆もまた同様であるように、構成される。
【0037】
有利には、必ずしもそうとは限らないが、代替又は追加として、制御ユニット10は、モータ5以外の1つ又は複数のアクチュエータ(例えば、サスペンション8、特にショックアブソーバ9)を監視し、道路車両1の目標軌道Tを維持するために、前記1つ又は複数のアクチュエータの起こり得る故障を補償するために右駆動輪3及び/又は左駆動輪3に送達されるトルクT、Tを制御するように構成される。
【0038】
非限定的な実施形態によれば、制御ユニット10は、3軸ジャイロスコープ及びGPS追跡ユニットによってリアルタイムで提供される測定値を使用して、道路車両1がたどる軌道Tを推定し、特に、軌道Tは、3軸ジャイロスコープによって測定された加速度を時間的に2回積分することによって決定され、GPS追跡ユニットによって提供される測定値は、積分プロセス中に発生する位置誤差を周期的に相殺するために使用される。さらに、制御ユニット10は、3軸ジャイロスコープによってリアルタイムで提供される測定値を使用して、重心Bにおける道路車両1の走行速度Vを推定し、特に、重心Bにおける道路車両1の速度Vは、3軸ジャイロスコープによって測定された加速度を時間的に1回積分することによって決定される(重心Bにおける道路車両1の走行速度Vが、道路車両1がたどる軌道Tに実際に接していることを確実にし、そうではなく、著しい偏差がある場合、計算の少なくとも1回のさらなる反復が実行され、使用されるパラメータに対する補正を行う)。
【0039】
カーブに沿って走行している間、制御ユニット10は、道路車両1の実際の(現実の)姿勢角βの変動β’を(例えば、以下で説明されるように)リアルタイムで決定する。
【0040】
可能な(ただし、拘束力のない)実施形態によれば、制御ユニット10は、路面に対する車輪2及び3のグリップを(例えば、少なくとも数十Hzの周波数で、及び既知の方法で)周期的に推定し、道路車両1の軌道Tの曲率半径を決定し(すなわち、軌道Tの湾曲度を決定し)、道路車両1の走行速度Vを決定する。車輪2及び3のグリップ(したがって、道路車両1の安定性)、軌道Tの曲率半径、及び走行速度Vの関数として、制御ユニット10は、姿勢角の変動β’を周期的に決定する。
【0041】
制御ユニット10は、姿勢角βの変動の速度β’を検出又は計算し、それぞれの電気モータ5によって駆動輪3に送達されるトルクを変更する。
【0042】
図3の非限定的な実施形態では、制御ユニット10は、道路車両1の横方向ダイナミクスのモデルVDLを、特に運転者によって提供されるステアリング入力SW(例えば、時間的なその角度及び微分)及び電気モータ5によって送達されるトルクの差T-Tに(比例係数Gによって)正比例するヨーイングモーメントMzの関数として処理する。特に、比例係数Gは、後部トラック幅及び駆動輪3の半径の前述の幾何学的関係関数を考慮に入れる。さらに、道路車両1の横方向ダイナミクスを計算するために、既知のアルゴリズムに従って、道路条件に関する外乱dも考慮される。
【0043】
モデルVDLの処理に続いて、制御ユニット10はコントローラCTRに複数の入力を送り、その中には、以下のものがある。
-姿勢角βの変動β’、すなわち、横加速度、ヨーレートΨ’及び速度V(道路車両1に搭載された既知のセンサから入手可能なすべての信号)の非線形の組合せから、上記で示されたように計算された姿勢角βの微分、
-ヨーレートΨ’、すなわち、(既知の慣性プラットフォームから入手可能な)自動車のヨー速度、
-(適切なセンサで測定されるか又は自動車モデル化によって推定される)駆動輪3、特に後輪に作用する垂直力Fz。
【0044】
さらに、コントローラCTRには、入力トルクTi、すなわち、少なくとも1つのペダル(例えば、アクセルペダル)の状態に基づいて提供される駆動トルク又は制動トルクの要求が提供される。
【0045】
コントローラCTRは、モータ駆動(後)車軸RAのモータ5への出力として、送達されるトルクT、Tを提供し、それらの差T-Tを比例係数Gに送る。
【0046】
図4は、コントローラCTRの構造の好ましいが非限定的な実施形態を、図の形態で示す。
【0047】
特に、上述したように、(スリップ制御SLCのチェックの前の)制御の最終出力は、自動車の動的挙動の各領域を扱う寄与(ヨーイング寄与及び逆ヨーイング寄与)の和として計算される。
【0048】
要約すると、要求される総トルクFZM(又はTi)は、これまでに説明された制御により、その角速度の差による結び付きなしで、駆動輪3に向けられるトルクTとTとの間で分割される。
【0049】
さらに、既知の性能指標(トラック上のラップタイム)及び運転満足度を最大化する目標自動車ダイナミクスを追求するように、正しい利得、閾値、荷重テーブルなど(例えば、β’のK、又はVxのルックアップテーブルLUT、又はスリップ制御SLCにおける)を処理するコントローラCTRの較正が提供される。この較正により、各モーメントにおいて、及び自動車の状態に基づいて、より重要な寄与ΔTNL、ΔTLINが優勢になることが可能になる。
【0050】
上記で説明された制御方法は、異なる利点を有する。
【0051】
第1に、機械的差動装置を有するシステムに対する利点は、同じ車軸の車輪のトルクと角速度との間の結び付きを除去することにある。
【0052】
さらに、前述の方法は、(既知のシステムでは可能でない)駆動輪が同じ角速度を有する条件においてでも、駆動輪に異なるトルクを自由に送達する自由によってもたらされる可能性を同時に利用して、スリップが制限された機械的差動装置の安定化能力を維持する。
【0053】
さらに、上記で説明された制御は、でこぼこのある又は傾斜した道路上であっても、直線軌道を容易に維持し、並びに、例えば、ハンドレバーの位置に応じて又は運転者の要求に基づいて、例えば、性能が目標である場合には第1のもの、又は自動車の運転の単純化が目標である場合には第2のものを好むように、ヨーイング寄与及び逆ヨーイング寄与を管理する。
【0054】
その上、上記で説明された制御方法は、運転者が望まない、及び他のアクチュエータにおいて検出された起こり得る故障によって引き起こされるヨーに対抗し、必要な場合に迅速かつ効果的に介入するため、特に安全である。
【0055】
最後に、上記で説明された制御方法は、物理的構成要素の追加を必要とせず(実際、差動装置は取り外すことができ、したがって車両1の保守及び柔軟性を容易にする)、ソフトウェアを介して完全に実行され得るため、各駆動輪についてモータを備えた道路車両1において簡単かつ経済的に実施される。上記で説明された制御方法は、高い計算能力又は大きいメモリ空間のいずれも使用せず、したがって、更新又はブーストを必要とせずに制御ユニットにおいて実施され得ることを指摘しておきたい。
【符号の説明】
【0056】
1 道路車両
2 前輪
3 後輪
4 パワートレインシステム
5 電気モータ
6 減速ギア
7 アクスルシャフト
8 サスペンション
9 ショックアブソーバ
10 制御ユニット
B 重心
CTR コントローラ
d 外乱
垂直力
% 垂直力の配分
ZM 後車軸の総入力トルク
G 比例係数
K 利得
LUT ルックアップテーブル
MZ ヨーイングモーメント
RA 後車軸
RT 寄与
SL 寄与
SLC スリップ制御
SW ステアリング角
T 軌道
Ti 入力トルク
TL 左車輪トルク
TR 右車輪トルク
Vx 縦方向速度
x 縦軸
y 横軸
β 姿勢角
β’ 姿勢角の変動
ΔTLIN 逆ヨーイング寄与
ΔTNL ヨーイング寄与
Ψ’ ヨーレート
図1
図2
図3
図4
【外国語明細書】