(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022018982
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の補修面の垂直基準面出し装置
(51)【国際特許分類】
G01C 9/00 20060101AFI20220120BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20220120BHJP
E02D 29/12 20060101ALI20220120BHJP
E03F 5/02 20060101ALI20220120BHJP
E03F 7/00 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
G01C9/00 Z
E04G23/02 A
E02D29/12 Z
E03F5/02
E03F7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020122467
(22)【出願日】2020-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】520265088
【氏名又は名称】株式会社ノーブルマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100074181
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 明博
(74)【代理人】
【識別番号】100206139
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 匡
(72)【発明者】
【氏名】今▲崎▼ 貴弘
【テーマコード(参考)】
2D063
2D147
2E176
【Fターム(参考)】
2D063DA30
2D063EA05
2D147BA07
2E176AA02
2E176AA04
2E176BB01
(57)【要約】
【課題】 コンクリート構造物の補修対象面に素地面形成用の垂直基準面を有するレベル出し体や補強層形成用の垂直基準面を有するレベル出し体を容易に形成することができるコンクリート構造物の補修面の垂直基準面出し装置を得る。
【解決手段】 コンクリート構造物の補修対象面に補修材を塗布して垂直な面を有する素地面や補強層を形成するために用いられるコンクリート構造物の補修面の垂直基準面出し装置に、外周に真円弧状の円弧面2を有する直棒体3と、直棒体3の垂直状体を確認する垂直測定器4とを備えさせた。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の補修対象面に補修材を塗布して垂直な面を有する素地面や補強層を形成するために用いられるコンクリート構造物の補修面の垂直基準面出し装置であって、
外周に真円弧状の円弧面を有する直棒体と、前記直棒体の垂直状体を確認する垂直測定器とを備えてなり、コンクリート構造物の補修対象面に配置された可塑性物質からなる塊に前記直棒体の前記円弧面を当接させて前記補修対象面側に押し込むことにより、前記コンクリート構造物の前記補修対象面に前記素地面や補強層の垂直な面の位置を示す垂直基準面有するレベル出し体を形成することを特徴とするコンクリート構造物の補修面の基準面出し装置。
【請求項2】
前記直棒体は、断面真円形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造物の補修面の基準面出し装置。
【請求項3】
前記直棒体の前記円弧面には、補修対象面上に形成される補強層の厚さに設定されたゲージ部材が取り付けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のコンクリート構造物の補修面の基準面出し装置。
【請求項4】
前記直棒体の前記円弧面に取り付けられた前記ゲージ部材は、前記直棒体に嵌脱可能に嵌合するリング形状に形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のコンクリート構造物の補修面の基準面出し装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、 腐食や塩害などの原因により劣化したコンクリート構造物の垂直面の補修に際し、コンクリート構造物の補修対象面に補修材を塗布して垂直な面を有する素地面や補強層を形成するために用いられるコンクリート構造物の補修面の垂直基準面出し装置に関する。
【背景技術】
【0002】
腐食や塩害等により劣化したコンクリート構造物の表面の補修として、表面の劣化層を除去したうえで、失われた強度を補強するためにモルタルや合成樹脂製の補修材を塗布して補強層を形成するといったことが行われている。
【0003】
この様な補修方法として、従来、既設コンクリートの表面をケレンし、その表面を洗浄して劣化層を除去し、そのうえにエポキシ樹脂等を塗布し、炭素繊維シートを貼り付け、ローラー等で炭素繊維シートを押しつけてエポキシ樹脂が炭素繊維シートの表面に浮き出るように含浸させるといった方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、他の補修方法として、劣化層を除去した後に露出された健全面に生じている凹凸を補修材を塗布することにより埋めて、平坦な素地面を形成し、その素地面の上にさらに補修材を塗布することにより補強層を形成するといった方法が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。この方法によれば、コンクリート構造物の元の厚さから、素地面形成時のコンクリート構造物の厚さを減じた厚さをコンクリート構造物の減肉量とし、この減肉量からコンクリート構造物の強度の低下量を計算するとともに、低下した強度を回復することができる補強層の厚さも計算して設計することができるので、補修したコンクリート構造物の強度を確実に回復させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】平成27年度 建設技術審査証明事業(下水道技術) 技術概要書 複合マンホール更生工法-塗布型 エコロガード工法ハイブリッド(平成27年 建設技術審査証明事業実施機関 公益社団法人 日本下水道新技術機構)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コンクリート構造物の補修において、非特許文献1に記載されているコンクリート構造物の補修方法では、補修面への素地面の形成や補強層の形成のための補修材の塗布は一般にコテやヘラを使用して行われているが、補修面が垂直面である場合、補修面の上方から下方までを垂直方向に合わせて面を形成することは難しく、作業者の技術の熟練度合いにより、面に垂直方向のずれが生じ素地面や補強層の表面が歪む場合がある。
【0008】
また、健全面に生じている凹凸の影響により、素地面や補強層の表面に凹凸が浮き出る場合がある。
【0009】
この様な、面のゆがみや凹凸が生じると、コンクリート構造物の美粧性が損なわれるといった問題がある。
【0010】
また、素地面の歪みによりコンクリート構造物の減肉量が正確に測れない場合や、補強層の歪みにより補強層の厚さが設計量に満たない場合が生じるおそれがあるといった問題がある。
【0011】
このような問題を解決するために、本発明者は、コンクリート構造物の垂直面の表面の劣化層を取り除いて露出させた健全面に、可塑性物質からなる第1塊を、間隔を空けて複数貼り付け、第1塊を押し潰し第1塊に押し潰し面を形成して、押し潰し面を素地面の表面の位置を示す素地面形成用の垂直基準面とした第1レベル出し体を形成し、健全面に、第1レベル出し体の素地面形成用の垂直基準面に沿って補修材を塗布して、平坦で垂直な素地面を形成し、そして、形成された素地面に可塑性物質からなる第2塊を、間隔を空けて複数貼り付け、第2塊を補強層の厚さに相当する高さに押し潰し第2塊に押し潰し面を形成して、押し潰し面を補強層の表面の位置を示す補強層形成用の垂直基準面とした第2レベル出し体を形成し、素地面に、第2レベル出し体の補強層形成用の垂直基準面に沿って補修材を塗布して、平坦で垂直な補強層を形成することにより、コンクリート構造物の垂直面の補修を行う工法を見いだした。
【0012】
そして、本発明者は、上記の工法で、コンクリート構造物の補修対象面に素地面形成用の垂直基準面を有する第1レベル出し体や補強層形成用の垂直基準面を有する第2レベル出し体を形成するために用いるコンクリート構造物の補修面の基準面出し装置について試験、研究の結果、本発明を成すに到った。
【0013】
本発明の目的は、コンクリート構造物の補修対象面に素地面形成用の垂直基準面を有する第1レベル出し体や補強層形成用の垂直基準面を有する第2レベル出し体を容易に形成できるコンクリート構造物の補修面の垂直基準面出し装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、コンクリート構造物の補修対象面に補修材を塗布して垂直な面を有する素地面や補強層を形成するために用いられるコンクリート構造物の補修面の垂直基準面出し装置であって、外周に真円弧状の円弧面を有する直棒体と、前記直棒体の垂直状体を確認する垂直測定器とを備えてなり、コンクリート構造物の補修対象面に配置された可塑性物質からなる塊に前記直棒体の前記円弧面を当接させて前記補修対象面側に押し込むことにより、前記コンクリート構造物の前記補修対象面に前記素地面や補強層の垂直な面の位置を示す垂直基準面有するレベル出し体を形成することを特徴とする。
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、外周に真円弧状の円弧面を有する直棒体と、前記直棒体の垂直状体を確認する垂直測定器とを備えてなり、コンクリート構造物の補修対象面に配置された可塑性物質からなる塊に前記直棒体の前記円弧面を当接させて前記補修対象面側に押し込むことにより、前記コンクリート構造物の前記補修対象面に前記素地面や補強層の垂直な面の位置を示す垂直基準面を形成するので、垂直測定器を視認することにより前記直棒体の軸方向を垂直に保持することができ、そして、可塑性物質からなる塊に前記直棒体の前記円弧面を当接させて前記補修対象面側に押し込むといった簡単な作業により、前記コンクリート構造物の前記補修対象面に前記素地面や補強層の垂直な面の位置を示す垂直基準面を容易に且つ確実に形成することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の、前記直棒体は、断面真円形状に形成されていることを特徴とする。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、前記直棒体は、断面真円形状に形成されているので、前記直棒体の全周が円弧面となり、前記直棒体のいずれの位置をつかんでも円弧面を前記補修対象面に配置された可塑性物質からなる前記塊に確実に押し当てることができ、作業を迅速に行うことができる。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の、前記直棒体の前記円弧面には、補修対象面上に形成される補強層の厚さに設定されたゲージ部材が取り付けられていることを特徴とする。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、前記直棒体の前記円弧面には、補修対象面上に形成される補強層の厚さに設定されたゲージ部材が取り付けられているので、円弧面の塊への押し込みを前記素地面に前記ゲージ部材が当接するまで行うことにより、前記素地面の上に補強層の設計厚に相当する厚みの前記レベル出し体を容易に形成することができる。
【0020】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項に記載の、前記直棒体の前記円弧面に取り付けられた前記ゲージ部材は、前記直棒体に嵌脱可能に嵌合するリング形状に形成されていることを特徴とする。
【0021】
請求項4に記載の発明によれば、前記直棒体の前記円弧面に取り付けられた前記ゲージ部材は、前記直棒体に嵌脱可能に嵌合するリング形状に形成されているので、前記素地面の形成時にはゲージ部材を外し、前記補強層の形成時にはゲージ部材を取り付けて使用することができる。
また、前記補強層の厚さはコンクリート構造物の減肉量等によって変化する補強層の設計厚に合わせてゲージ部材を取り替えることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るコンクリート構造物の補修面の垂直基準面出し装置によれば、コンクリート構造物の補修対象面に素地面形成用の垂直基準面を有するレベル出し体や補強層形成用の垂直基準面を有するレベル出し体を容易に形成することができ、また、構成が簡単なので、取り扱いが容易であり、また安価に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係るコンクリート構造物の補修面の垂直基準面出し装置の実施の形態の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す直棒体の他例を示す斜視図である。
【
図4】
図1に示す直棒体にゲージ部材を取り付けた状態を示す斜視図である。
【
図6】本発明に係るコンクリート構造物の補修面の垂直基準面出し装置を使用するコンクリート構造物の垂直面の補修の一例を示すものであり、コンクリート構造物の垂直面の劣化層の除去後、第1塊を配置した状態の一例を示す断面図である。
【
図7】
図6に示す第1塊に
図1に示す直棒体の円弧面を当接させた状態を示す拡大端面図である。
【
図8】
図1に示す直棒体を第1塊に押し込み、素地面形成用の垂直基準面を有する第1レベル出し体を形成した状態を示す拡大端面図である。
【
図9】健全面に補修材を塗布し、
図8に示す素地面形成用の垂直基準面に沿って素地面を形成した状態を示す拡大端面図である。
【
図10】
図9に示す素地面に第2塊を配置し、ゲージ部材を取り付けた直棒体を第2塊に当接させた状態を示す拡大端面図である。
【
図11】
図10に示す直棒体をゲージ部材が素地面に当接するまで第2塊に押し込み、補強層形成用の垂直基準面を有する第2レベル出し体を形成した状態を示す拡大端面図である。
【
図12】
図11に示す素地面に補修材を塗布し、補強層形成用の垂直基準面に沿って補強層を形成した状態を示す拡大端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るコンクリート構造物の補修面の垂直基準面出し装置を詳細に説明する。
図1は、本発明に係るコンクリート構造物の補修面の垂直基準面出し装置の実施の形態の一例を示す斜視図、
図2は
図1に示す直棒体の他例を示す斜視図、
図3は垂直測定器の他例を示す斜視図、
図4は
図1に示す直棒体にゲージ部材を取り付けた状態を示す斜視図、
図5はゲージ部材の他例を示す斜視図である。
【0025】
本発明に係るコンクリート構造物の補強層の基準面出し装置1は、外周に真円弧状の円弧面2を有する直棒体3と、直棒体3の垂直状体を確認する垂直測定器4とを備えている(
図1参照)。
【0026】
本例の直棒体3は、断面真円に形成された丸棒であり、周方向の全面が円弧面2となっている。なお、直棒体の形状は丸棒に限られず、直棒体の周方向の一部が円弧面となっていてもよく、例えば、
図2に示すように断面略四角形状の角棒の一側面を半円状の円弧面2とした形状の直棒体3を用いることもできる(
図2参照)。
直棒体を形成する素材は特に限定されないが、本例の直棒体3は、後述する垂直測定器の視認を容易にするために、透明なアクリル樹脂で形成している。
また、直棒体の長さも特に限定されず、補修対象となるコンクリート構造物の垂直面の高さに応じて選択される。後述の本例のコンクリート構造物の補強層の基準面出し装置1を使用した補修方法のように、第1塊または第2塊を垂直方向に並べて配置する場合は、複数の第1塊又は第2塊を一度に押し潰すことができる長さを持っていることが望ましい。
【0027】
本例の垂直測定器4は、目盛りの入った透明な容器に液体と気泡が封入されており、気泡の位置で直棒体3の垂直を確認できる水準器を使用している。本例では天面中央に円形の目盛りが付された丸形容器に液体と気泡を封入し、気泡が目盛り内に入ったことにより傾きがないことを示す、いわゆる丸形水準器5を直棒体3の頂部と底部に設けている。本例では直棒体3を透明なアクリル樹脂で形成しているので、水準器を容易に視認できるようになっている。
垂直測定器の構成や配置は本例に限られず、直棒体の垂直を確認することができればよい。例えば、円筒管形状の容器に液体と気泡を封入した円筒管型水準器を2つ用い、円筒管の軸方向が直棒体の軸方向と直交し、且つ、円筒管の軸方向同士が直交するように円筒管を配置して、2つの水準器のいずれも水平である場合に直棒体が垂直であることを示すようにした垂直測定器であってもよい。
具体的には、直角に折り曲げた板片状の支持体6を直棒体3にとりつけ、支持体6の一方の片6aに第1の円筒管型水準器7を配置し、支持体6の他方の片6bに第2の円筒型水準器8を配置する(
図3参照。)。このように配置された第1の円筒管水準器7と第2の円筒管水準器8のいずれもが水平であることが示されれば、直棒体3の軸方向は垂直に保持されていることが分かる。
【0028】
また、直棒体3の円弧面2には、補修対象面上に形成される層である補強層の厚さに形成されたゲージ部材9を取り付けることもできる。
ゲージ部材9は後述する補強層形成工程において、第2塊を押し潰したときに直棒体3の円弧面2と素地面との間に補強層の設計厚Tに相当するスペースを確保するものであり、本例のゲージ部材9は設計厚Tに相当する厚みのリング幅Wを有し、直棒体3の外周に嵌脱可能に嵌合するリング形状に形成されている。ゲージ部材9を直棒体3に嵌合させると、リング部は直棒体3の外周面に全周に渡ってリング幅W分突出し(
図4参照。)、円弧面2と素地面との間に補強層の設計厚Tに相当するスペースを確実に確保することができる。
また、ゲージ部材9は直棒体3に嵌脱可能に形成されているので、素地面形成工程ではゲージ部材9を取り外し、補強層形成工程においてはゲージ部材を取り付けて使用するといったことができる。
なお、ゲージ部材の形状は本例の形状に限られず、例えば厚さWのリング幅を有する帯体に形成したゲージ部材9を用いて、両面テープ等の接着手段により直棒体の円弧面2に取り付けるようにしてもよい(
図5参照。)。
【0029】
このように構成したコンクリート構造物の補強層の基準面出し装置を使用するコンクリート構造物の垂直面の補修方法の一例を、図面を参照して説明する。
図6はコンクリート構造物の垂直面の劣化層の除去後、第1塊を配置した状態の一例を示す断面図、
図7は
図6に示す第1塊に
図1に示す直棒体の円弧面を当接させた状態を示す拡大端面図、
図8は
図1に示す直棒体を第1塊に押し込み、素地面形成用の垂直基準面を有する第1レベル出し体を形成した状態を示す拡大端面図、
図9は健全面に補修材を塗布し、
図8に示す素地面形成用の垂直基準面に沿って素地面を形成した状態を示す拡大端面図、
図10は
図9に示す素地面に第2塊を配置し、ゲージ部材を取り付けた直棒体を第2塊に当接させた状態を示す拡大端面図、
図11は
図10に示す直棒体をゲージ部材が素地面に当接するまで第2塊に押し込み、補強層形成用の垂直基準面を有する第2レベル出し体を形成した状態を示す拡大端面図、
図12は
図11に示す素地面に補修材を塗布し、補強層形成用の垂直基準面に沿って補強層を形成した状態を示す拡大端面図である。
【0030】
本発明に係るコンクリート構造物の補強層の基準面出し装置を使用するコンクリート構造物の垂直面の補修方法は、劣化層を除去して健全面を露出させる劣化層除去工程、コンクリート構造物の垂直面の表面の劣化層を取り除いて露出させた健全面に樹脂系やモルタル系の補修材を塗布して健全面の凹凸を埋めて平坦な素地面を形成する素地面形成工程、及び、素地面形成工程により形成された素地面に補修材を塗布してコンクリート構造物の強度が回復できる厚みをもった補強層を形成する補強層形成工程とを含む。
【0031】
なお、補修対象となるコンクリート構造物は垂直面を有するものであればよく特に限定されない。また、補修する垂直面は建物の壁面のような平面に限られず、人孔の内面のような湾曲面でも使用することができる。本例では、コンクリート構造物の垂直面として人孔の内面を例に説明する。
【0032】
まず、劣化層除去工程では、高圧洗浄やハツリによりコンクリート構造物10の垂直面の劣化層を除去する。劣化層の除去は劣化が生じていない健全面11が露出するまで行う。このとき、露出した健全面11には劣化層を除去したことによる凹凸が生じている。
【0033】
素地面形成工程では、劣化層除去工程により露出させた健全面11に補修材を塗布して、健全面11に生じている凹凸を埋めて、平坦な素地面を形成する。
【0034】
詳細には、まず、健全面11にモルタル又は光硬化性樹脂・熱硬化性樹脂等の樹脂系補修材から形成した塊状の第1塊12を複数配置する。第1塊12の配置は、健全面11に複数配置するものであれば特に限定されないが、本例では第1塊12が垂直方向に並んだ第1塊12の列を構成し、第1塊12の列が水平方向に間隔を開けて複数配置されるようにしている(
図6参照。)。
【0035】
次に、第1塊12を配置したら、ゲージ部材9を取り外した状態のコンクリート構造物の補強層の基準面出し装置1を用いて、直棒体3の軸方向が垂直となる状態を保持し、直棒体3の円弧面2を第1塊12に当接させ、押し込み、転動させて、第1塊12を押し潰して第1塊12に押し潰し面を形成することにより、押し潰し面を素地面の位置を示す垂直基準面13とした第1レベル出し体14を形成する。
【0036】
具体的には、まず、垂直測定器4である丸形水準器5を確認して直棒体3の軸方向を垂直にし、この状態を保持して直棒体3の円弧面2を第1塊12に当接させる(
図7参照。)。そして、直棒体3の軸方向が垂直な状態を保ったまま、円弧面2のいずれかの箇所が健全面11に当接するまで押し込み、この状態から直棒体3を転動させて、第1塊12を押し潰して第1塊12に第1レベル出し体14の垂直基準面13となる押し潰し面を形成する(
図8参照。)。
直棒体3の転動は健全面11に形成されている凹凸の最も突出した箇所に当接した位置で行う。このようにすることにより、平坦且つ垂直な素地面の位置を示す垂直基準面13を有する第1レベル出し体14を形成することができる。
本例では、第1塊12の貼り付けを、垂直方向に並んだ第1塊12の列を構成し、第1塊12の列が水平方向に間隔を開けて複数配置されるように行っているので、垂直方向に揃った垂直基準面13を有する第1レベル出し体14の列が周方向に複数形成される。
【0037】
次に、健全面11に第1レベル出し体14の垂直基準面13に沿って補修材を塗布して平坦な素地面15を形成する(
図9参照。)。素地面形成に使用する補修材はモルタル又は光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂等からなる公知の補修材であればよく特に限定されない。
補修材を垂直基準面13に沿って、その周囲を埋めるように塗布することにより、垂直な素地面15を容易に形成することができる。また、健全面11に形成されている凹凸の最も突出した箇所に当接した位置で直棒体3を転動させて垂直基準面13を形成しているので、素地面15に健全面11の凹凸が表れず、平坦な素地15面を確実に形成することができる。また、本例では、垂直方向に揃った垂直基準面13を有する第1レベル出し体14の列が周方向に複数形成されているので、垂直な素地面15をより容易に形成することができる。
【0038】
素地面15を形成したら、素地面15上に補強層を積層する補強層形成工程を行う。補強層形成工程では、まず、コンクリート構造物の元の厚さから、素地面形成時のコンクリート構造物の厚さを減じた厚さをコンクリート構造物の減肉量とし、この減肉量からコンクリート構造物の強度の低下量を計算する。そして、減肉量とコンクリート構造物の構造や補強層の形成に使用する補修材の特性を基に、低下した強度を回復することができる補強層の厚さを設計する。本明細書では、この設計された補強層の厚さを補強層の設計厚Tとする。
【0039】
次に、素地面15上にモルタル又は光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂等から形成した塊状の第2塊16を複数配置する。本例の第2塊16の配置は、第1塊3と同様に、垂直方向に並んだ第2塊16の列が構成され、また、第2塊16の列が水平方向に間隔を開けて複数配置されるようにしている。
【0040】
第2塊16を配置したら、ゲージ部材9を取りつけた状態のコンクリート構造物の補強層の基準面出し装置1を用いて、直棒体3の軸方向が垂直となる状態を保持し、円弧面2を第2塊16に当接させ、押し込み、転動させて、第2塊16を押し潰して第2塊16に押し潰し面を形成することにより、押し潰し面を補強層の表面の位置を示す垂直基準面17とした第2レベル出し体18を形成する。
【0041】
詳細には、まず、垂直測定器4である丸形水準器5を確認して直棒体3の軸方向を垂直にし、この状態を保持して、ゲージ部材9が第2塊16に当たらない位置で直棒体3の円弧面2を第2塊16に当接させる(
図10参照。)。そして、直棒体3の軸方向が垂直な状態を保ったまま、ゲージ部材9が素地面15に当接するまで押し込み、ゲージ部材9が素地面15上を転動するように、直棒体3を転動させて、第2塊16を押し潰して第2塊16に第2レベル出し体18の垂直基準面17となる押し潰し面を形成する(
図11参照。)。直棒体3の転動は、ゲージ部材9が素地面15上を転動するように行うので、素地面15からゲージ部材9のリングのリング幅Wのスペースを空けた位置で行われ、第2レベル出し体18の厚さはゲージ部材9のリング幅Wと同じ寸法となり、即ち、補強層の設計厚Tと同じ寸法となる。このようにすることにより、設計厚Tの厚さの補強層の表面の位置を示す垂直基準面17を有する第2レベル出し体18が形成される。
本例では、第2塊16の貼り付けを、垂直方向に並んだ第2塊16の列を構成し、第2塊16の列が水平方向に間隔を開けて複数配置されるように行っているので、垂直方向に揃った垂直基準面17を有する第2レベル出し体18の列が周方向に複数形成される。
【0042】
次に、素地面15に第2レベル出し体18の垂直基準面17に沿って補修材を塗布して表面が平坦な補強層を形成する(
図12参照。)。補強層形成に使用する補修材はモルタル又は光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂等からなる公知の補修材であればよく特に限定されない。
補修材を垂直基準面17に沿ってその周囲を埋めるように塗布することにより、表面が垂直な補強層19を容易に形成することができる。また、第2レベル出し体18は補強層19の設計厚Tに相当する厚さを有するので、設計厚Tの厚さを有する補強層19を確実に形成することができる。また本例では垂直方向に揃った垂直基準面17を有する第2レベル出し体18の列が周方向に複数形成されるので、垂直な補強層19をより容易に形成する事ができる。
【0043】
以上のように構成され使用されるコンクリート構造物の補強層の基準面出し装置1によれば、外周に真円弧状の円弧面2を有する直棒体3と、直棒体2の垂直状体を確認する垂直測定器4とを備え、コンクリート構造物の補修対象面に配置された可塑性物質からなる塊に前記円弧面を当接させ、押し込むことにより、前記コンクリート構造物の補修対象面に塗布する補修材から形成される補強層の表面の位置を示す基準面を形成するので、垂直測定器を視認することにより直棒体の軸方向を垂直に保持することができ、垂直方向にずれのない基準面を確実に形成することができる。
【0044】
また、直棒体3は、断面真円形状に形成されているので、直棒体3の全周が円弧面となるので、直棒体3のいずれの位置をつかんでも円弧面2を第1塊12又は第2塊16に押し当てることができ、作業を迅速に行うことができる。
【0045】
また、直棒体3の円弧面2には、補修対象面上に形成される層の厚さに設定されたゲージ部材9が取り付けられているので、円弧面2の第2塊16への押し込みを素地面15にゲージ部材9が当接するまで行うことにより、補強層16の設計厚Tに相当する厚みの第2レベル出し体18を容易に形成することができる。
【0046】
直棒体3の円弧面2に取り付けられた9ゲージ部材は、直棒体3に嵌脱可能に嵌合するリング形状に形成されているので、素地面15の形成時にはゲージ部材9を外し、補強層19の形成時にはゲージ部材9を取り付けて使用することができる。
また、補強層19の厚さはコンクリート構造物の減肉量等によって変化する補強層19の設計厚Tに合わせてゲージ部材9を取り替えることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 コンクリート構造物の補強層の基準面出し装置
2 円弧面
3 直棒体
4 垂直測定器
5 丸形水準器
6 支持体
6a 支持体の一方の片
6b 支持体の他方の片
7 第1の円筒管型水準器
8 第2の円筒管型水準器
9 ゲージ部材
10 コンクリート構造物
11 健全面
12 第1塊
13 垂直基準面
14 第1レベル出し体
15 素地面
16 第2塊
17 垂直基準面
18 第2レベル出し体
19 補強層