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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189838
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】プラズマ殺菌水生成装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/48 20060101AFI20221215BHJP
   A61L 2/18 20060101ALI20221215BHJP
   F24F 6/00 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
C02F1/48 B
A61L2/18
F24F6/00 D
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160759
(22)【出願日】2022-10-05
(62)【分割の表示】P 2018082910の分割
【原出願日】2018-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000236160
【氏名又は名称】株式会社テクノ菱和
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 朋且
(72)【発明者】
【氏名】田村 一
(72)【発明者】
【氏名】江藤 美紗
(72)【発明者】
【氏名】水野 彰
(72)【発明者】
【氏名】高島 和則
(57)【要約】
【課題】高い殺菌効果を有するプラズマ殺菌水を生成するプラズマ殺菌水生成装置を提供する。
【解決手段】減圧チャンバ1と、減圧チャンバ1の内部に配置され、被処理水を貯留する箱型の水槽2と、減圧チャンバ1の内部に配置される一対の電極3と、一対の電極3に交流電圧を印加する電源5と、を有し、一対の電極3は、水槽2に貯留された被処理水の水面上方に位置するように設けられた平板状の電極3aと、平板状の電極3aの下面側に設けられ、水槽2に貯留された被処理水の水面と空間を介して対向する誘電体4と、水槽2に貯留された被処理水中に位置するように設けられた接地極3bと、を有し、減圧チャンバ1には、減圧チャンバ1の内部が極低真空となるように気相雰囲気を減圧する減圧ポンプ1aが接続され、水槽2には、殺菌対象に対してプラズマ殺菌水を供給する供給配管Dが接続され、電源5は、前記被処理水1Lあたり10Wh以上の電力を投入するように構成されている
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧チャンバと、
前記減圧チャンバの内部に配置され、被処理水を貯留する箱型の水槽と、
前記減圧チャンバの内部に配置される一対の電極と、
前記一対の電極に交流電圧を印加する電源と、を有し、
前記一対の電極は、
前記水槽に貯留された被処理水の水面上方に位置するように設けられた平板状の電極と、
前記平板状の電極の下面側に設けられ、前記水槽に貯留された被処理水の水面と空間を介して対向する誘電体と、
前記水槽に貯留された被処理水中に位置するように設けられた接地極と、を有し、
前記減圧チャンバには、前記減圧チャンバの内部が極低真空となるように気相雰囲気を減圧する減圧ポンプが接続され、
前記水槽には、殺菌対象に対してプラズマ殺菌水を供給する供給配管が接続され、
前記電源は、前記被処理水1Lあたり10Wh以上の電力を投入するように構成されているプラズマ殺菌水生成装置。
【請求項2】
前記電源は、前記被処理水1Lあたり20Wh以上の電力を投入するように構成されている請求項1記載のプラズマ殺菌水生成装置。
【請求項3】
前記水槽には、純水を供給する給水管が接続されている請求項1または2記載のプラズマ殺菌水生成装置。
【請求項4】
前記プラズマ殺菌水生成装置により生成されたプラズマ殺菌水が供給される殺菌対象が外調機の気化式加湿器であり、
前記給水管が、前記外調機において前記気化式加湿器に純水を滴下水として供給する加湿給水用配管に接続されている請求項3に記載のプラズマ殺菌水生成装置。
【請求項5】
前記プラズマ殺菌水生成装置により生成されたプラズマ殺菌水が供給される殺菌対象が外調機の気化式加湿器であり、
前記供給配管が、前記外調機において前記気化式加湿器に純水を滴下水として供給する加湿給水用配管に接続されている請求項1-4いずれか1項に記載のプラズマ殺菌水生成装置。
【請求項6】
前記水槽が金属で形成されアース接続されることにより前記接地極となる請求項1-5いずれか1項に記載のプラズマ殺菌水生成装置。
【請求項7】
前記水槽には、前記水槽に貯留された被処理水を攪拌する攪拌装置が設けられている請求項1-6いずれか1項に記載のプラズマ殺菌水生成装置。
【請求項8】
前記水槽には、被処理水を冷却する冷却装置が設けられ、プラズマ処理中の被処理水を10℃以下に冷却する請求項1-7いずれか1項に記載のプラズマ殺菌水生成装置。
【請求項9】
前記水槽には、被処理水を冷却する冷却装置が設けられ、生成されたプラズマ殺菌水を7℃以下に冷却する請求項1-8いずれか1項に記載のプラズマ殺菌水生成装置。
【請求項10】
前記誘電体と前記水槽に貯留された被処理水の水面との間の空間は、5mm以上10mm以下である請求項1-9いずれかに1項に記載のプラズマ殺菌水生成装置。
【請求項11】
前記水槽の内壁面と前記平板状の電極の側面との間に、50mm以上の空間が設けられている請求項1-10いずれか1項に記載のプラズマ殺菌水生成装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば外気処理空気調和器の気化式加湿器の殺菌に用いられる、プラズマ殺菌水を生成するプラズマ殺菌水生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子産業分野の工場等で用いられる外気処理空気調和器(外調機)に対し、一般的な蒸気加湿方式に比べ省エネルギーである気化式加湿方式を適用することで、消費エネルギーを大幅に削減することに成功している。省エネルギーに対する要望は、医薬品製造を始めとするバイオロジカルクリーンルームを有する施設に対しても高まっている。そのため、バイオロジカルクリーンルームにおいても気化式加湿方式による加湿を行うことが望まれている。
【0003】
気化式加湿方式では、加湿用の給水を気化式加湿器のエレメント部に含浸させ、空調空気を通風させることで自然蒸散により加湿を行う。そのため、エレメント部は恒に湿潤状態であることから微生物が繁殖しやすい環境となる。また、微生物の繁殖は、悪臭の原因となることが知られている。特にバイオロジカルクリーンルームでは微生物による汚染制御が非常に重要であり、その懸念から気化式加湿方式が普及していないのが現状である。そこで、外調機の気化式加湿器の有効な殺菌方法の開発が必要であった。
【0004】
殺菌方法としては、薬液や殺菌力を持つ機能水を、気化式加湿器に滴下される給水として用いる方式がある。殺菌力を持つ機能水としては、電解水やオゾン水などが用いられている。しかし、例えばオゾン水を用いた場合には、残留成分による臭気や周辺部材の腐食というような問題が生じた。また、紫外線ランプを用いて気化式加湿器の殺菌を行う方法も提案されている。しかし、殺菌範囲が紫外線の照射範囲に限定されることから、広範囲の殺菌を行うのには適していない。
【0005】
他にも、気化式加湿器に対するマイクロ波照射や、加湿給水中への銀イオンの供給なども提案されている。しかし、マイクロ波照射装置はコストがかさみシステムも煩雑化する。また、銀イオンを供給するには、濃度管理が必要となる上、銀イオンの供給源である電極の寿命も問題となっていた。
【0006】
このような背景を受け、近年では、薬液等を用いない殺菌方法として、放電プラズマを利用した殺菌方法が提案されている。この方法は、放電プラズマにより生成する反応性の高い化学活性種やイオンの酸化力を用いて殺菌するものである。電気的なエネルギーのみで高い殺菌効果が得られ、薬液などを用いる方法のような残留性が無いことから様々な分野で応用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開1999-187872号公報
【特許文献2】特開2001-252665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
プラズマを用いた殺菌には、電極を用いてコロナ放電を発生させ、生成したラジカル類により殺菌を行う方法がある。しかし、ラジカル類の寿命が短い上に、殺菌範囲が限定されるため、外調機の気化式加湿器を殺菌するのには適していない。また、被処理水中にて電極間に高電圧パルスを印加することで被処理水を絶縁破壊し、生成するラジカル類と衝撃波により被処理水を殺菌する方法も提案されている。この被処理水を用いて殺菌を行う場合には、外調機から気化式加湿器を取り外して被処理水槽に投入する必要が生じ、作業負荷が大きくなる。すなわち、外調機の気化式加湿器の殺菌に適したプラズマを用いた殺菌方法はいまだ提案されておらず、その開発が切望されている。
【0009】
本発明は、上述したような従来技術の問題点を解決するために提案されたものである。その目的は、高い殺菌効果を有するプラズマ殺菌水を生成するプラズマ殺菌水生成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明のプラズマ殺菌水生成装置は、以下のような特徴を有している。
(1)減圧チャンバと、前記減圧チャンバの内部に配置され、被処理水を貯留する箱型の水槽と、前記減圧チャンバの内部に配置される一対の電極と、前記一対の電極に交流電圧を印加する電源と、を有し、前記一対の電極は、前記水槽に貯留された被処理水の水面上方に位置するように設けられた平板状の電極と、前記平板状の電極の下面側に設けられ、前記水槽に貯留された被処理水の水面と空間を介して対向する誘電体と、前記水槽に貯留された被処理水中に位置するように設けられた接地極と、を有し、前記減圧チャンバには、前記減圧チャンバの内部が極低真空となるように気相雰囲気を減圧する減圧ポンプが接続され、前記水槽には、殺菌対象に対してプラズマ殺菌水を供給する供給配管が接続され、前記電源は、前記被処理水1Lあたり10Wh以上の電力を投入するように構成されている。
【0011】
(2)前記電源は、前記被処理水1Lあたり20Wh以上の電力を投入するように構成されていても良い
【0012】
(3)水槽には、純水を供給する給水管が接続されていても良い。
【0013】
(4)前記プラズマ殺菌水生成装置により生成されたプラズマ殺菌水が供給される殺菌対象が外調機の気化式加湿器であり、前記給水管が、前記外調機において前記気化式加湿器に純水を滴下水として供給する加湿給水用配管に接続されていても良い。
【0014】
(5)前記プラズマ殺菌水生成装置により生成されたプラズマ殺菌水が供給される殺菌対象が外調機の気化式加湿器であり、前記供給配管が、前記外調機において前記気化式加湿器に純水を滴下水として供給する加湿給水用配管に接続されていても良い。
【0015】
(6)前記水槽が金属で形成されアース接続されることにより前記接地極となっても良い。
【0016】
(7)前記水槽には、前記水槽に貯留された被処理水を攪拌する攪拌装置が設けられていても良い。
【0017】
(8)前記水槽には、被処理水を冷却する冷却装置が設けられ、プラズマ処理中の被処理水を10℃以下に冷却しても良い。
【0018】
(9)前記水槽には、被処理水を冷却する冷却装置が設けられ、生成されたプラズマ殺菌水を7℃以下に冷却しても良い。
【0019】
(10)前記誘電体と前記水槽に貯留された被処理水の水面との間の空間は、5mm以上10mm以下であっても良い。
【0020】
(11)前記水槽の内壁面と前記平板状の電極の側面との間に、50mm以上の空間が設けられていても良い。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高い殺菌効果を有するプラズマ殺菌水を生成するプラズマ殺菌水生成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1の実施形態にかかるプラズマ殺菌水生成装置の一例を示す構成図である。
図2】第1の実施形態にかかるプラズマ殺菌水生成装置の一例を示す部分拡大図である。
図3】プラズマ殺菌水の生成工程を示すフローチャートである。
図4】第1の実施形態にかかるプラズマ殺菌水生成装置が生成したプラズマ殺菌水の殺菌効果を示すグラフである。
図5】第1の実施形態にかかるプラズマ殺菌水生成装置が生成したプラズマ殺菌水の殺菌効果と電解水の殺菌効果を示すグラフである。
図6】被処理水を冷却した状態で生成したプラズマ殺菌水の殺菌効果を示すグラフである。
図7】投入電力量を10Wh/Lとした状態生成したプラズマ殺菌水の殺菌効果を示すグラフである。
図8】投入電力量を20Wh/Lとした状態で生成したプラズマ殺菌水の殺菌効果を示すグラフである。
図9】投入電力量を20Wh/Lまたは17Wh/Lとした状態で生成したプラズマ殺菌水の殺菌効果を示すグラフである。
図10】常温の2Lの被処理水を用いて生成したプラズマ殺菌水の殺菌効果を示すグラフである。
図11】2℃に冷却した2Lの被処理水を用いて生成したプラズマ殺菌水の殺菌効果を示すグラフである。
図12】被処理水の冷却温度と投入電力量を異ならせた状態で生成したプラズマ殺菌水の殺菌効果を示すグラフである。
図13】(a)は、プラズマ殺菌水の保管温度と殺菌効果の持続時間をプロットしたグラフである。(b)は、殺菌効果が30分以上持続する保管温度を算出した結果を示すグラフである。
図14】(a)は、プラズマ殺菌水の処理温度と保管温度を10℃とした場合における保管時間と殺菌効果を示すグラフである。(b)は、プラズマ殺菌水の処理温度と保管温度を7℃とした場合における保管時間と殺菌効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1の実施形態]
[1.全体構成]
(装置構成概要)
本発明に係るプラズマ殺菌水生成装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
プラズマ殺菌水生成装置Aは、殺菌対象に供給されるプラズマ殺菌水を生成する装置である。プラズマ殺菌水は、被処理水に対してプラズマ放電を行うことで生成されたラジカル類が溶存する水である。このラジカル類が有するとされる殺菌力により、殺菌対象は殺菌される。
【0024】
本実施形態では、殺菌対象の一例として外調機の気化式加湿器を想定している。プラズマ殺菌水生成装置Aは、例えば、外調機の上や横等に設置される。プラズマ殺菌水生成装置Aは、プラズマ殺菌水の供給配管を介して、外調機の気化式加湿器に接続される。プラズマ殺菌水生成装置Aは、減圧チャンバ1、水槽2、一対の電極3、誘電体4、および電源5を有する。以下、各構成について、図1を参照しつつ詳細に説明する。
【0025】
(減圧チャンバ)
減圧チャンバ1は、金属または樹脂製の耐圧構造を有する真空容器である。減圧チャンバ1には、減圧ポンプ1aとバルブ1bを有する排気ダクトEが接続されている。排気ダクトEは、減圧チャンバ1の内部の気体を排出するためのダクトである。減圧ポンプ1aは、減圧チャンバ1の内部の気体を吸引して排出するためのポンプである。バルブ1bは、減圧チャンバ1の内部の気体を排気する際に、その排気量を調整するための弁である。減圧ポンプ1aとバルブ1bは、不図示の制御装置に接続されており、この制御装置からの制御信号により、減圧ポンプ1aの流量やバルブ1bの開度が制御される。
【0026】
減圧ポンプ1aは、具体的には減圧チャンバ1の気相雰囲気を減圧する。減圧ポンプ1aによる気相雰囲気の減圧により、誘電体バリア放電の発生に必要な印加電圧が低減される。ここで、減圧ポンプ1aは、空気の絶縁耐力をある程度低下させ、プラズマが進展しやすくなる程度の極低真空状態となるように、減圧チャンバ1の内部の気体を排出できれば良い。
【0027】
極低真空とは、電源電圧が20kV/cmの場合、減圧度が50kPa(abs)以下の状態を示し、より好ましくは50kpa(abs)~30kPa(abs)程度の状態を示す。減圧チャンバ1を極低真空とすることで、放電に必要な印加電圧を約50%低くすることが可能となる。例えば、減圧チャンバ1が大気圧として30kVppの印加電圧が必要となる場合、減圧チャンバ1を30kPa(abs)の極低真空とすることで必要な印加電圧は14kVppとなる。
【0028】
減圧チャンバ1は、内部は極低真空となっていれば良い上に、減圧チャンバ1の内部には水槽2が配置されるため減圧チャンバ1の気相容積は比較的小さい。そのため、減圧ポンプ1aとしては、到達圧力が20kPa(abs)~30kPa(abs)程度、排気速度が10L/min程度の比較的安価なポンプを用いても、減圧チャンバ1を極低真空状態とすることができる。市販価格数万円程度の比較的安価で小型のでも減圧ポンプでも、気相容積数10Lを数分で設定の極程真空状態とすることが可能である。
【0029】
(水槽)
水槽2は、減圧チャンバ1の内部に配置され、被処理水を貯留する金属または樹脂製のタンクである。水槽2は、上面に開口を有する箱形の部材である。水槽2は、例えば5Lの被処理水を貯留できる程度の大きさを有する。被処理水の貯留量は、後述する一対の電極3および誘電体4による電極構成や、電源5の電源容量等を考慮して決定すれば良い。用いる電極構成および電源容量に対して被処理水の貯留量が多すぎる場合には、十分な殺菌力を有するプラズマ殺菌水を得ることができない。本実施形態では、5Lの被処理水に対して十分な殺菌力を与えることができる構成を例として説明する。
【0030】
水槽2には、バルブ2aを有する給水管Sが接続されている。給水管Sは、水槽2の内部に被処理水となる液体を導入するための配管である。バルブ2aは、液体の導入量を調整するための弁である。バルブ2aは、不図示の制御装置に接続されており、この制御装置からの制御信号により、バルブ2bの開度が制御される。水槽2には、給水管Sから、純水又は水道水等の被処理水が供給される。水槽2に供給する被処理水としては、純水を用いることが好ましい。生成されるプラズマ殺菌水の殺菌力が向上するからである。
【0031】
殺菌対象となる外調機がバイオロジカルクリーンルームで使用されている場合、外調機の気化式加湿器には、純水が滴下水として供給されていることが一般的である。従って、外調機において気化式加湿器に対して滴下水を供給する加湿給水用配管に、水槽2の給水管Sをバルブを介して接続しても良い。このバルブを切り替えることにより、外調機の通常運転時においては気化式加湿器に純水が供給され、外調機の運転終了後には水槽2に純水が供給される。すなわち外調機で用いられる純水を被処理水として水槽2に供給することができる。このように構成することで、プラズマ殺菌水生成装置Aのために純水供給ラインを確保する必要がなくなるため好ましい。
【0032】
水槽2には、バルブ2bおよび送液ポンプ2cを有する供給配管Dが接続されている。
供給配管Dは、殺菌対象に対してプラズマ殺菌水を供給するための配管である。供給配管Dは、例えば外調機の加湿給水用配管に、バルブを介して接続されていても良い。このバルブを切り替えることにより、外調機の通常運転時においては気化式加湿器に滴下水が供給され、外調機の運転終了後には気化式加湿器にプラズマ殺菌水が供給される。外調機の加湿給水用配管を利用する場合には、気化式加湿器に滴下水を滴下する加湿用滴下ヘッダーを介してプラズマ殺菌水が気化式加湿器に供給される。ただし、供給配管Dは、外調機の加湿給水用配管に連結せずに、殺菌対象である気化式加湿器に直接供給するように配管し専用の供給ヘッダーを設けることもできる。
【0033】
バルブ2bは、殺菌対象に対してプラズマ殺菌水を供給する際に、その供給量を調整するための弁である。送液ポンプ2cは、供給されるプラズマ殺菌水の流量を調整するためのポンプである。バルブ2bおよび送液ポンプ2cは、不図示の制御装置に接続されており、この制御装置からの制御信号により、バルブ2bの開度や送液ポンプ2cの流量が制御される。
【0034】
プラズマ殺菌水の供給速度は、速い方が殺菌処理工程の時間短縮になる。ただし、プラズマ殺菌水の送液に外調機の加湿給水用配管および加湿用滴下ヘッダーを用いる場合、送液ポンプの流量は、加湿給水配管、および加湿用滴下ヘッダーの配管抵抗の制限を受けることになる。その場合は、加湿給水配管および加湿用滴下ヘッダーの配管抵抗の制限内で最大流量となるように、バルブ2bの開度や送液ポンプ2cの流量を制御する。
【0035】
さらに、被処理水の水量が多く、水深が例えば100mm以上の場合に、被処理水を攪拌する攪拌装置を備えても良い。通常、誘電体バリア放電により被処理水の水面に揺れが生じるため、誘電体バリア放電が撹拌機能を有していると言える。ただし、水深が深い場合には、放電による揺れのみでは撹拌が不十分になる可能性があるので、水槽2に、貯留された被処理水中に位置するようにプロペラ等を設けると良い。
【0036】
また、プラズマ殺菌水は、後述する電極3aの近傍である水面において生成される。一方、図2に示すように、プラズマ殺菌水の供給配管Dは、システムの構成上、水槽2の下部側に設けられる場合が多い。従って、水槽2の内部に撹拌装置を設けることで、殺菌対象に供給されるプラズマ殺菌水の殺菌力を一定に保つことができてよい。
【0037】
さらに、水槽2に冷却装置を設けて、被処理水を冷却する構成としても良い。プラズマ放電により被処理水の水温が上昇することで、殺菌因子が分解され殺菌効果が低減する可能性がある。特に、2L以上の被処理水に対してプラズマ処理を行う場合には、処理中または処理後における被処理水の水温上昇が顕著に表れる。また、プラズマ殺菌水生成装置Aのプラズマ放電の条件や、装置を用いた際の気温の影響を受け、2L以下の被処理水であっても被処理水の水温上昇が生じる場合がある。そのような場合には、被処理水を冷却することで、殺菌因子の分解を抑制し生成されたプラズマ殺菌水の殺菌力が高まる。
【0038】
被処理水の冷却はプラズマ放電中のみならず、プラズマ処理において生成されたプラズマ殺菌水を保管する際にも行うことが好ましい。プラズマ処理後の被処理水を冷却することで、プラズマ殺菌水の殺菌力を長時間持続させることが可能となる。冷却機構による被処理水の冷却温度は、10℃以下とすることで、強力な殺菌力を有するプラズマ殺菌水が生成される。また、生成後のプラズマ殺菌水の殺菌効果をより長く持続するためには、プラズマ殺菌水の保管温度を7℃以下とすることが好ましい。
【0039】
以上より、冷却機構としては、5~10Lの処理水を、10~15分程度で10℃以下に冷却可能な、700W程度の能力のチラーを用いることが好ましい。このチラーに付帯して、水槽2内に金属チューブの熱交換器を設置することで、水槽2内の被処理水の冷却が可能となる。冷却機構の金属チューブの熱交換器は、下記接地極3bと兼用しても良い。
【0040】
(一対の電極と誘電体)
減圧チャンバ1の内部には、一対の電極3に相当する電極3aと接地極3bが対向するように配置されている。また、電極3aと接地極3bの間には誘電体4が設置されている。
【0041】
電極3aは、平板状の電極であり、金属で構成されている。金属としては、耐腐食性のある金属として、例えばニッケル、各種ステンレス鋼、アルミ、銅を用いることができる。他には、誘電体4の一例であるガラスとの相性からコバールを用いても良い。電極3aの水平方向の大きさは、水槽2の開口部分より小さく、水槽の内部に収まる程度の大きさとする。すなわち、電極3aの平面の面積は、水面の面積と同程度となる。これにより、水面の面積と同程度の面積を有する面状の誘電体バリア放電を発生させる。
【0042】
平板状の電極3aは、円盤状または四角形において角部分を丸めた形状とすると良い。角を有さない形状とすることで、エッジ部への電解集中や火花放電の進展が防止される。以上より、電極3aは、例えばφ150mmの円盤形状とすることができる。なお、電極3aの金属部には交流電圧印加による発熱が伝導する。従って、電極3aの上面に金属製のヒートシンクを設置し、放熱を促してもよい。
【0043】
電極3aは、水槽2の上部側に配置される。具体的には、図2に示すように、電極3aは、水槽2において被処理水が満水となるように供給された場合において、被処理水の水面上方に位置するように設けられている。すなわち、被処理水の水面と電極aとの間には空間が生じる。
【0044】
本実施形態では、電極3aの下面側は誘電体4で被覆されている。よって、誘電体4は、水槽2に貯留された被処理水の水面と空間を介して対向することになる。従って、上記電極3aと被処理水の水面との間の空間は、実際には誘電体4と被処理水の水面との空間を意味する。
【0045】
誘電体4と被処理水の水面との間の空間は、狭い方が抵抗は低くなるため放電し易い。ただし、プラズマ殺菌水生成装置Aは外調機の上部等、微細な揺れが生じる場所に載置されることがある。そのため、振動等により被処理水が波立った際に、誘電体4と被処理水が接触する恐れがある。そのため誘電体4と被処理水の水面との間の空間は、5mm以上10mm以下とすることが好ましい。特に、空間を8mmとすることで、適度な印加電圧で放電可能であるとともに、誘電体4と被処理水の接触を防止できることを確認した。
【0046】
誘電体4は、比誘電率(εr)が比較的大きく、誘電正接(tanδ)が小さく、絶縁耐力(KV/mm)が良いことが好ましい。ただし、比誘電率が数1000を超えるようなチタン酸バリウム等に代表される強誘電体を用いた場合、交流電圧印加による誘電効果がもたらす発熱が高温に達する可能性がある。その場合には、電極3aにヒートシンク等の放熱機構を設け、発熱を発散させる構成を設けると良い。誘電体4の厚さについては、薄い方が放電し易い。ただし、後述する電源5の印加電圧と誘電体4の絶縁耐力との兼ね合いを考慮する必要がある。また、電極3aとしての耐久性・機械的な強度も考慮した上で、誘電体4の厚みを決定する。
【0047】
以上の条件を考慮すると、誘電体4の材料としては、ガラス(εr:3~10、tanδ:0.003)、ポリエチレン(εr:2~2.5、tanδ:~0.0005)、ポリプロピレン(εr:2~2.3、tanδ:~0.0005)、ポリテトラフルオロエチレン(εr:2.0、tanδ:~0.0002)、アルマイト(蓚酸アルマイト;εr:6~10、tanδ:~0.001)や窒化ケイ素(εr:7~8、tanδ:0.0005)等のセラミックスを用いることができる。例えば、誘電体4として十分な強度を有するように2~3mm程度のガラス板やセラミック板を用い、この上に電極3aとして50μm程度の金属層を蒸着することができる。蒸着する金属としては、例えばニッケルやチタンとすると良い。特にガラスとニッケルは相性が良く、ニッケル層に孔等が生じないように均一に蒸着することができるので良い。また、誘電体にコバール封着ガラスを用いてコバールと溶着することも可能である。
【0048】
接地極3bは、水槽2の下部側に配置されている。図1の例では、水槽2は樹脂で形成されており、接地極3bは、水槽2に貯留された被処理水中に水没する位置に設けられている。誘電体バリア放電の放電電流は、被処理水中を経由して接地極3bに流れる構造とする。
【0049】
接地極3bの材質は金属であれば良く、その形状も自由に変更可能である。ただし、誘電体バリア放電の放電電流を確実にアースに導くことができるように構成する。後述の通り、プラズマによって生成する硝酸の影響により、被処理水はpH3程度となることが実験から明らかとなっている。そのため、水槽2の非処理水中に接地極3bを水没させる場合、水中における耐腐食性に優れ、比較的硝酸系の酸にも耐力がある金属として、例えばステンレスを用いると良い。
【0050】
なお、水槽2を金属にて形成した場合には、水槽2をアースに接続することで水槽2に接地極3bの機能を持たせることができて良い。すなわち、被処理水2の水中に配置される接地極3bは、水槽2そのものを含む。ただし、水槽2が金属で形成されている場合、被処理水の水面から気相側に露出した水槽2の内壁面が、電極3aと著しく近くなると、水槽2の内壁面に向かう火花放電が発生することが考えられる。
【0051】
そのため、図2に示すように、電極3aの側面と水槽2の内壁面との間に、所定の距離を確保すると良い。この距離は、電極3aへの印加電圧、誘電体4の厚み、および減圧チャンバ1の気圧により異なるが、空気の絶縁が1cmあたり30kVであることを考慮すると、50mm以上確保することで火花放電を防止できる。また、水槽2の内壁面の気相に露出する部分を、樹脂コーティング2dを用いて絶縁被覆しても良い。
【0052】
(電源)
電源5は、一対の電極3に誘電体バリア放電発生用の交流電圧を印加する高圧電源である。電源5は、交流の交番周波数が数kHz~数十kHz、印加電圧は最大で10kV0-p(2~3kV/cm)程度、電源容量は500VA程度のものを用いることができる。電源5は、被処理水の容量等を考慮し、電圧の印加時間を30分以下とした場合に、プラズマ殺菌水の殺菌力のピークが得られる電源を適宜選択すればよい。電源5は、減圧チャンバ1の外部に設けられ、電極3aに接続される。
【0053】
電源装置の回路構成は、数kHz~数十kHzの正弦波、三角波、パルス波で、10kV0-p(2~3kV/cm)程度の交流電圧が発生できるものであれば良い。印加電圧は高い方が処理効率は高くなるが、減圧チャンバ1において気相部が50kPa以下の極低真空に減圧されていることから、10kV0-p(2~3kV/cm)程度の印加電圧でプラズマを進展させることができる。
【0054】
ここで、電源5は、被処理水1Lに対して、10Wh以上、より好ましくは20Wh以上の電力を投入するように構成されている。例えば、3Lの被処理水を180Wで20分処理することで、被処理水1Lに対して20Whの電力を投入することができる。なお、同じ電力量を投入する場合、電力と投入時間が異なっても、トータルの投入電力量が同じであれば、同様の殺菌効果が得られる。本実施形態のプラズマ殺菌水生成装置Aでは、10Wh/L以上の電力を投入すれば、殺菌効果を持つプラズマ処理水が生成される。投入する電力を20Wh/L以上とすることで、生成されたプラズマ殺菌水の殺菌効果が向上される。投入電力量は、電源系統に電力計を搭載すればモニタリング可能である。
【0055】
[2.殺菌水生成工程]
以上のような構成を有するプラズマ殺菌水生成装置Aは、図3に示す通り、以下の工程によりプラズマ殺菌水を生成する。
(1)水槽2に対する被処理水供給工程
(2)減圧チャンバ1の減圧工程
(3)誘電体バリア放電によるプラズマ処理工程
(4)減圧チャンバ1の大気圧開放工程
(5)プラズマ殺菌水の供給工程
【0056】
本実施形態における殺菌対象である気化式加湿器は、吸水した加湿フィルタ等のエレメント部に送風することにより気体を加湿する加湿器である。この加湿フィルタは、5~15L程度の液体を吸水する。一般的な外調機には、加湿フィルタが2枚設けられていることが多い。そのため、以下の殺菌水生成工程では、30Lのプラズマ殺菌水を生成するのに適した構成および条件を一例として記載する。
【0057】
また、プラズマ殺菌水による気化式加湿器の殺菌は、外調機の運転終了後である夜間などに行われることを想定している。従って、上記30Lのプラズマ殺菌水は必ずしも一度に生成する必要がない。プラズマ殺菌水を数Lに分けて複数回生成し、その都度気化式加湿器に供給する構成とすると良い。以下の説明では、5Lのプラズマ殺菌水を6回生成することにより、30Lのプラズマ殺菌水を生成する処理工程を詳述する。
【0058】
5Lのプラズマ殺菌水を生成する場合に必要な電源容量は、電源容量500VA~1000VAである。また、直径150mm程度の円盤状の電極3aを用い、誘電体4はガラスとすると良い。誘電体4であるガラスの厚みは、電極容量を考慮すると2~3mmとし、十分な強度を持たせた。
【0059】
(被処理水供給工程)
被処理水供給工程では、水槽2に被処理水である純水を5L供給する。すなわち、制御装置からの制御信号により、水槽2のバルブ2aが開状態となる。バルブ2aが開放されることにより、外調機の加湿給水用配管に接続された水槽2の給水管Sを介して、水槽2に純水が供給される。ここでは、水槽2に5Lの純水が供給された時点で、制御装置からの制御信号によりバルブ2aは閉状態に戻される。
【0060】
(減圧工程)
減圧工程では、減圧チャンバ1の内部の気体を排出し減圧状態とする。すなわち、制御装置からの制御信号により、減圧チャンバ1のバルブ1bが開状態となる。バルブ1bが開放されると、制御装置からの制御信号により、減圧ポンプ1aが稼働する。減圧ポンプ1aは、減圧チャンバ1が極低真空状態となるまで、減圧チャンバ1の内部の気体を吸引して排出する。ここでは極低真空とは、減圧度が50kPa以下の状態を示す。制御装置は、減圧チャンバ1が極低真空状態となった後に、減圧ポンプ1aを停止しバルブ1bを閉状態とする。
【0061】
(プラズマ処理工程)
プラズマ処理工程では、誘電体4が被覆された電極3aと、被処理水の水面との間の空間に、誘電体バリア放電によりプラズマを生成する。すなわち、電極3aに電源5からの高電圧が印加されると、被処理水の水面と誘電体4との間の空間に、プラズマが生成される。被処理水が、接地極3bと導通していることから、被処理水の水面と誘電体4との間の空間にプラズマが生成されるのである。この気相において生成されたプラズマにより、被処理水においてラジカル類が生成されるため、プラズマ殺菌水を得ることができる。
【0062】
(大気圧開放工程)
大気圧開放工程では、減圧チャンバ1の減圧を大気圧に開放する。すなわち、制御装置からの制御信号により、減圧チャンバ1のバルブ1bを開状態とする。
【0063】
(プラズマ殺菌水供給工程)
プラズマ殺菌水供給工程では、生成されたプラズマ殺菌水を外調機の気化式加湿器に供給する。すなわち、制御装置からの制御信号により、水槽2のバルブ2bが開状態となる。バルブ2bが開放されると、制御装置からの制御信号により、送液ポンプ2cが稼働する。送液ポンプ2cは、水槽2に貯留されている5Lのプラズマ殺菌水が排出されるまで、水槽2の内部のプラズマ殺菌水を吸引して排出する。プラズマ殺菌水の供給配管Dは、外調機の加湿給水用配管に接続されているため、水槽2から排出されたプラズマ殺菌水は外調機の気化式加湿器に供給され気化式加湿器を殺菌する。そして、水槽2の内部のプラズマ殺菌水が全て排出されたときに、制御装置からの制御信号によりバルブ2bは閉状態に戻される。
【0064】
以上のようなプラズマ殺菌水生成工程を6回繰り返すことで、合計30Lのプラズマ殺菌水を生成し、外調機の気化式加湿器に供給する。なお、外調機の気化式加湿器の下部にはドレンパンが設けられている。そのため、気化式加湿器から滴下したプラズマ殺菌水は、このドレンパンを介して外調機の外部に排出される。プラズマ殺菌水のpHは低いが、通常運転時において気化式加湿器に供給される純水により十分に希釈されることから、外調機に腐食等の影響を与えることはない。
【0065】
[3.プラズマ殺菌水の殺菌原理について]
以下では、本実施形態のプラズマ殺菌水生成装置が生成したプラズマ殺菌水が、殺菌対象を殺菌する原理について説明する。
【0066】
まず、気相のプラズマによって生成されるラジカル類の代表的な例として、ヒドロキシラジカル(OH・)やスーパーオキシドアニオンラジカル(O ・)、ヒドロペルオキシラジカル(HOO・)などがあり。これらのラジカル類がプラズマ殺菌水に溶存・拡散して殺菌力を発揮する。これまでの研究によれば、高い殺菌力を有するヒドロキシラジカル(OH・)は寿命が非常に短く、殺菌対象液中にほとんど拡散しないとされている。一方、スーパーオキシドアニオンラジカル(O ・)は、水中でも数秒間存在でき、式(1)に示す通り、液中の水素イオン(H)と反応することで極めて殺菌力の高いヒドロペルオキシラジカル(HOO・)を形成するとされる。そして、このヒドロペルオキシラジカル(HOO・)により、液中の菌が殺菌されるとされている。
[O ・] + [H] ⇔ [HOO・] ・・・・(1)
【0067】
この平衡反応の酸解離定数がpKa4.8である。そのため、液中のpHが4.8よりも低い状態では式(1)の反応が右に進行し、ヒドロペルオキシラジカル(HOO・)が増加する。そのため、従来のプラズマ殺菌水生成装置では、予め液体のpHを4.8以下に調整することで所望の殺菌力を有するプラズマ殺菌水を得ていた。
【0068】
本実施形態で得られるプラズマ殺菌水においても、気相の誘電体バリア放電で生成したラジカル類が、被処理水中に溶存・拡散することで殺菌力を得ていると考えられる。その殺菌因子としては、ヒドロペルオキシラジカル(HOO・)であると思われる。ここで、本実施形態のプラズマ殺菌水生成装置Aでは、減圧チャンバ1内部の気相に対し誘電体バリア放電が作用することにより気相が含有する窒素分が酸化され、被処理水中に最終的に硝酸として溶解することが確認されている。そのため、表1に示す通り、自動的にpHが3前後まで低下することが実験データから確認された。
【0069】
【表1】
表1からも明らかな通り、プラズマ殺菌水生成装置Aにて30分間誘電体バリア放電を作用させたプラズマ殺菌水には、500ppm以上の硝酸が含有しており、pHは3.1前後まで低下していた。以上の測定結果より、本実施形態のプラズマ殺菌水生成装置Aでは、被処理水のpHが4.8以下となるため、あらかじめpHを調整する手順を取らずとも高い殺菌効果が得られる状態にすることができる。
【0070】
次に、従来の研究では、殺菌力の高いヒドロペルオキシラジカル(HOO・)の供給源としては、過硝酸(ペルオキシ硝酸:HOONO)が示されている。化学反応などによって合成された過硝酸(HOONO)は、式(2)に示すように、液中で水素イオン(H)、スーパーオキシドアニオンラジカル(O ・)、二酸化窒素(NO・)などを生成するとされており、生じたスーパーオキシドアニオンラジカル(O ・)は、強酸性条件下で殺菌力の高いヒドロペルオキシラジカル(HOO・)を生成して殺菌力が得られるとされている。
[HOONO] ⇔ [H] + [O ・] + [NO・] ・・・・(2)
【0071】
また、過硝酸(HOONO)の生成機構については、式(3)~式(5)に示す通り、とされている。すなわち、亜硝酸(HNO)と過酸化水素(H)が反応してペルオキシナイトライト(HOONO)が生成する。そして、酸性下で水素イオン(H)と反応してニトロニウムイオン(NO )と水(HO)を生成する。さらに、ニトロニウムイオン(NO )が過酸化水素(H)と反応して過硝酸(HOONO)と水素イオン(H)を生成する反応が、強酸性下で進行するとされている。
[HNO] + [H] → [HOONO] ・・・・(3)
[HOONO] + [H] ⇔ [NO ] + [HO] ・・・・(4)
[NO ] + [H] ⇔ [HOONO] + [H] ・・・・(5)
【0072】
ここで、一般に、大気圧プラズマの放電場では様々な反応生成物が生じており、その中には過酸化水素(H)や亜硝酸(HNO)も含まれることが報告されている。上記表1に記載の通り、本実施形態のプラズマ殺菌水生成装置Aにて生成したプラズマ殺菌水においては、過酸化水素(H)および硝酸(HNO)の含有が確認されている。従って、被処理水に誘電体バリア放電が作用することで、過硝酸(HOONO)の前駆体である亜硝酸(HNO)と過酸化水素(H)が生成される。この前駆体の生成により、被処理水中に過硝酸(HOONO)が生成されていると考えられる。
【0073】
上述の通り、プラズマ殺菌水生成装置Aが生成するプラズマ殺菌水のpHは3.1前後の強酸性下である。従って、誘電体バリア放電により亜硝酸(HNO)と過酸化水素(H)により過硝酸(HOONO)を生成され、被処理水中に溶解する。これらの物質が、高い殺菌力を持つヒドロペルオキシラジカル(HOO・)の供給源となっていると考えられる。
【0074】
[4.実験]
(1)常温のプラズマ殺菌水を用いた実験
本実施形態のプラズマ殺菌水生成装置Aが生成したプラズマ殺菌水について、その殺菌効果を検証した結果を以下に示す。実験に用いたプラズマ殺菌水は、被処理水として常温(約25℃)の純水1Lを用いて生成した。減圧チャンバ1の減圧度は50kPa(abs)とし、電源5の交番周波数を20kHz、印加電圧を10kV0-p(18kVp-p)にて発生させた正弦波により誘電体バリア放電を発生させた。電圧の印加時間、すなわちプラズマの生成時間は、30分とした。
【0075】
実験は、濃度約10CFU/mLに調整した大腸菌(ATCC13706)懸濁液1mLを採取したアンプルを4つ用意して行った。アンプルのうち、1つには純水を9mL添加して10倍希釈し、濃度約10CFU/mLのコントロール検体とした。残りの3のアンプルには、プラズマ殺菌水を9mL添加して10倍希釈し、試験検体とした。試験検体については、生成直後のプラズマ殺菌水、生成後30分経過したプラズマ殺菌水、および生成後60分経過したプラズマ殺菌水、の3種のプラズマ殺菌水を用いて各試験検体を作成した。コントロール検体と3種の試験検体を培養後、コロニー数をカウントした。
【0076】
コロニー数をカウントした結果を図4に示す。図4より、プラズマ処理直後のプラズマ殺菌水を用いた試験検体の生菌数は、コントロール検体に対して6桁以上減少しており、生成直後のプラズマ殺菌水が強力な殺菌力を有していることが分かる。また、プラズマ処理後30分経過したプラズマ殺菌水を用いた試験検体では、コントロール検体に対して5桁以上生菌が減少しており、十分高い殺菌力を有していた。一方、プラズマ処理後60分経過したプラズマ殺菌水を用いた試験検体では、他の2種のプラズマ殺菌水と比較して殺菌力が低下していることが分かる。
【0077】
以上の結果より、本実施形態のプラズマ殺菌水生成装置Aにより生成された常温のプラズマ殺菌水は、プラズマ処理終了後30分程度は殺菌効果が持続することが確認された。
【0078】
(2)プラズマ殺菌水の殺菌効果に関する実験
本実施形態のプラズマ殺菌水生成装置Aが生成したプラズマ殺菌水の殺菌効果と、殺菌用途に用いられる市販の電解水の殺菌効果を比較した。比較対象とした電解水は、外調機の気化式加湿器の殺菌にも利用されているもので、pH6付近の微酸性の次亜塩素酸水(HCLO)である。以下の実験に用いたプラズマ殺菌水は、純水500mLを用いて生成した。減圧チャンバ1の条件は上記実験(1)と同じである。電圧の印加時間、すなわちプラズマの生成時間は、10分とした。
【0079】
実験方法は、上記の2つの実験と同様であり、大腸菌(ATCC13706)懸濁液1mLを、コントロール検体では純水9mL、試験検体では本実施形態のプラズマ殺菌水生成装置Aが生成したプラズマ殺菌水9mL、比較検体では電解水(微酸性次亜塩素酸水)9mLを用いて、それぞれ10倍希釈した。これら3つの検体を培養してコロニー数をカウントした。
【0080】
図5より、試験検体および比較検体の生菌数は、コントロール検体に対して6桁以上減少し、検出限界に達していた。これより、本実施形態のプラズマ殺菌水生成装置Aが生成したプラズマ殺菌水は、気化式加湿器の殺菌にも用いられる市販の電解水(微酸性次亜塩素酸水)と同等の、強力な殺菌効果を有することが証明された。
【0081】
(3)低温の被処理水を用いた実験
常温(約25℃)の被処理水を用いて生成したプラズマ殺菌水と、冷却状態(約5℃)の被処理水を用いて生成したプラズマ殺菌水の殺菌力の比較を行った。実験に用いたプラズマ殺菌水は、それぞれ純水500mLを用いて生成した。減圧チャンバ1の条件は上記実験(1)と同じである。電圧の印加時間、すなわちプラズマの生成時間は、10分とした。
【0082】
実験は、濃度約10CFU/mLに調整した大腸菌(ATCC13706)懸濁液1mLを採取したアンプルを8つ用意して行った。コントロール検体については、上記(1)と同様に作成した。同じものを冷却した純水にて作成し、冷却した場合のコントロール検体とした。また、3つのアンプルには、プラズマ殺菌水を9mL添加して10倍希釈し、試験検体とした。試験検体については、生成直後のプラズマ殺菌水、生成後30分経過したプラズマ殺菌水、および生成後60分経過したプラズマ殺菌水、の3種のプラズマ殺菌水を用いて各試験検体を作成した。さらに3つのアンプルには、同じものを冷却して生成された各種プラズマ殺菌水にて作成し、冷却した場合の試験検体とした。2種のコントロール検体と6種の試験検体を培養後、コロニー数をカウントした。
【0083】
コロニー数をカウントした結果を図6に示す。図6には、被処理水が常温であった場合と冷却されていた場合の結果を並べて示す。まず、常温の被処理水を用いて生成されたプラズマ殺菌水では、プラズマ処理後30分程度は高い殺菌力を有するが、60分経過すると殺菌効果が著しく低下した。一方、5℃程度に冷却した被処理水を用いて生成されたプラズマ殺菌水では、プラズマ処理後60分経過しても、コントロール検体に対して5桁以上菌が減少していた。
【0084】
上記の通り、プラズマ殺菌水生成装置Aが生成するプラズマ殺菌水には、殺菌因子として過硝酸が含まれる。この過硝酸は、温度上昇により消失するため、被処理水を冷却することにより殺菌因子を長寿命化できたと考えられる。以上の結果より、被処理水の水温を低く保ってプラズマ処理を施すことで、生成されるプラズマ殺菌水の殺菌効果の持続性を向上できることがわかった。
【0085】
(4)被処理水に対する投入電力量に関する実験
本実施形態のプラズマ殺菌水生成装置Aにより投入される電力量と、生成されたプラズマ殺菌水の殺菌効果の関係を検証した結果を以下に示す。第1の実験に用いたプラズマ殺菌水は、被処理水として冷却した純水4Lを用いて生成した。減圧チャンバ1の条件は上記実験(1)と同じである。そして、電源5は、被処理水4Lに対して、240wの電力を10分間印加した。すなわち、第1の実験における投入電力量は、10Wh/Lである。
【0086】
実験は、濃度約10CFU/mLに調整した大腸菌(ATCC13706)懸濁液1mLを採取したアンプルを10用意して行った。半分の5つのアンプルには純水を9mL添加して10倍希釈し、濃度約10CFU/mLのコントロール検体とした。残りの5のアンプルには、プラズマ殺菌水を9mL添加して10倍希釈し、試験検体とした。試験検体については、生成直後のプラズマ殺菌水のプラズマ殺菌水を用いて各試験検体を作成した。コントロール検体と試験検体を培養後、コロニー数をカウントした。
【0087】
コロニー数をカウントした結果を図7に示す。図7より、殺菌効果にバラつきはあるものの、3桁~6桁生菌が減少しており、殺菌力を有していることが分かる。以上の結果より、本実施形態のプラズマ殺菌水生成装置Aの電源5を、被処理水1Lに対して10Whの電力を投入する構成とすることで、殺菌力を有するプラズマ殺菌水が生成可能であることが確認された。
【0088】
次に、電源5による投入電力量を増加して第2の実験を行った。第2の実験に用いたプラズマ殺菌水は、被処理水として冷却した純水3Lを用いて生成した。減圧チャンバ1の条件は上記実験(1)と同じである。そして、電源5は、被処理水3Lに対して、180Wの電力を20分間印加した。すなわち、第2の実験における投入電力量は、20Wh/Lである。
【0089】
実験は、濃度約10CFU/mLに調整した大腸菌(ATCC13706)懸濁液1mLを採取したアンプルを14用意して行った。半分の7つのアンプルには純水を9mL添加して10倍希釈し、濃度約10CFU/mLのコントロール検体とした。残りの7のアンプルには、プラズマ殺菌水を9mL添加して10倍希釈し、試験検体とした。試験検体については、生成直後のプラズマ殺菌水のプラズマ殺菌水を用いて各試験検体を作成した。コントロール検体と試験検体を培養後、コロニー数をカウントした。
【0090】
コロニー数をカウントした結果を図8に示す。図8より、第2の実験では、1つを除くほぼすべての検体において、6桁以上生菌が減少しており、非常に高い殺菌力を有していることが分かる。以上の結果より、本実施形態のプラズマ殺菌水生成装置Aの電源5を、被処理水1Lに対して20Whの電力を投入する構成とすることで、より高い殺菌力を有するプラズマ殺菌水を確実に生成可能であることが確認された。
【0091】
(5)被処理水に対する投入電力量の検討
本実施形態のプラズマ殺菌水生成装置Aの電源5が投入する電力と、投入時間が生成されたプラズマ殺菌水に与える影響を検討した。具体的には、プラズマ殺菌水Aとして、被処理水として冷却した純水3Lに対して、180Wの電力を20分間印加した殺菌水を用意した。プラズマ殺菌水Aに対する電力投入量は20Wh/Lである。また、プラズマ殺菌水Bとして、被処理水として冷却した純水4Lに対して、400Wの電力を10分間印加した殺菌水を用意した。プラズマ殺菌水Bに対する電力投入量は17Wh/Lである。
【0092】
実験は、濃度約10CFU/mLに調整した大腸菌(ATCC13706)懸濁液1mLを採取したアンプルを10用意して行った。5つのアンプルには純水を9mL添加して10倍希釈し、濃度約10CFU/mLのコントロール検体とした。残りのアンプルのうち、3つのアンプルには、プラズマ殺菌水Aを9mL添加して10倍希釈し、試験検体とした。また、2つのアンプルには、プラズマ殺菌水Bを9mL添加して10倍希釈し、試験検体とした。試験検体については、生成直後のプラズマ殺菌水のプラズマ殺菌水を用いて各試験検体を作成した。コントロール検体と試験検体を培養後、コロニー数をカウントした。
【0093】
コロニー数をカウントした結果を図9に示す。図9より、プラズマ殺菌水Aを用いた場合と、プラズマ殺菌水Bを用いた場合では、どちらも6桁以上生菌が減少しており、非常に高い殺菌力を有していることが分かる。すなわち、ほぼ同じ電力量を投入する場合であれば、電力と投入時間が異なっても、トータルの電力量に基づいた殺菌力を有するプラズマ殺菌水が生成可能であることが確認された。
【0094】
(6)被処理水量と水温に関する実験
上記(1)に記載の実験の通り、被処理水の水量が1L以下である場合には、常温でプラズマ処理を行っても殺菌力を有するプラズマ殺菌水を生成することが可能であった。そこで、本実験では、被処理水として常温(約25℃)の純水2Lに増加させて生成された常温のプラズマ殺菌水の殺菌力を検証した。
【0095】
減圧チャンバ1の条件は上記実験(1)と同じである。まず、電源5が、常温の被処理水2Lに対して、180Wの電力を20分間印加したものを、常温のプラズマ殺菌水Cとした。次に、電源5が、常温の被処理水2Lに対して、180Wの電力を30分間印加したものを、常温のプラズマ殺菌水Dとした。
【0096】
実験は、濃度約10CFU/mLに調整した大腸菌(ATCC13706)懸濁液1mLを採取したアンプルを5つ用意して行った。コントロール検体については、上記(1)と同様に作成した。残りの4つアンプルには、生成後1分間静置したプラズマ殺菌水C、D、および生成後30分間静置したプラズマ殺菌水CおよびDをそれぞれ9mL添加して10倍希釈し、試験検体とした。コントロール検体と試験検体を培養後、コロニー数をカウントした。
【0097】
コロニー数をカウントした結果を図10に示す。なお、図10では、コントロール検体のコロニー数はグラフ上部に点線で示している。図10より、静置時間を問わず、プラズマ殺菌水Cおよびプラズマ殺菌水Dのいずれもが、十分な殺菌力を有していなかった。なお、被処理水2Lに対して、投入電力量を330W×20分、および330W×30分としてプラズマ殺菌水を生成しても殺菌効果を得ることはできなかった。この結果は、被処理水の水量が増加する場合、プラズマのパワーを増加させる必要が生じ、被処理後の水温が上昇することに原因があると考えられた。上記実験では、プラズマ処理開始前の被処理水の温度は20℃程度であったものの、処理後の被処理水の温度は30~40℃であった。プラズマ放電による水温上昇により、殺菌因子が分解され、殺菌効果がなくなっていることが予想された。
【0098】
そこで、プラズマ処理工程時において、純水2Lを2℃に冷却して同様の実験を行った。まず、電源5が、被処理水に対して、180Wの電力を10分間印加したものを、常温のプラズマ殺菌水Eとした。次に、電源5が、の被処理水に対して、180Wの電力を20分間印加したものを、常温のプラズマ殺菌水Fとした。最後に、電源5が、被処理水に対して、180Wの電力を30分間印加したものを、常温のプラズマ殺菌水Gとした。
【0099】
実験は、濃度約10CFU/mLに調整した大腸菌(ATCC13706)懸濁液1mLを採取したアンプルを13用意して行った。コントロール検体については、上記(1)と同様に作成した。残りの12のアンプルのうち、2つのアンプルには、生成後1分間静置したプラズマ殺菌水Eを9mL添加して10倍希釈し、試験検体とした。他の2つのアンプルには、生成後1分間静置したプラズマ殺菌水Fを9mL添加して10倍希釈し、試験検体とした。また他の2つのアンプルには、生成後1分間静置したプラズマ殺菌水Gを9mL添加して10倍希釈し、試験検体とした。さらに残りの6つのアンプについては、生成後30分間静置したプラズマ殺菌水E、F、Gを用いて、同様に試験検体を作成した。コントロール検体と試験検体を培養後、コロニー数をカウントした。
【0100】
コロニー数をカウントした結果を図11に示す。図11より、生成後1分間静置したプラズマ殺菌水では、5桁以上生菌が減少しており、十分な殺菌効果が得られていた。特に、電力投入量が30Wh/L以上であるプラズマ殺菌水FおよびGでは、6桁以上生菌が減少しており、強力な殺菌効果を有するプラズマ殺菌水が得られていることが分かった。被処理水が2L以上である場合には、被処理水を冷却することで殺菌効果を有するプラズマ殺菌水を生成できることが確認できた。
【0101】
また、図11より、生成後30分静置されたプラズマ殺菌水では、殺菌効果が得られなかった。本実験では、プラズマ処理中のみ被処理水を冷却したため、静置中にプラズマ殺菌水の水温が上昇し、殺菌因子が分解されたと考えられる。
【0102】
(7)冷却温度と投入電力量に関する実験
本実施形態のプラズマ殺菌水生成装置Aにおいて、冷却機構による冷却温度と、投入電力量が生成されたプラズマ殺菌水に与える影響を検討した。減圧チャンバ1の条件は上記実験(1)と同じである。電源5が、2℃に冷却された被処理水3Lに対して、180Wの電力を10分間印加したものプラズマ殺菌水Hとした。電源5が、2℃に冷却された被処理水3Lに対して、180Wの電力を20分間印加したものプラズマ殺菌水Iとした。電源5が、2℃に冷却された被処理水3Lに対して、180Wの電力を30分間印加したものプラズマ殺菌水Jとした。
【0103】
また、電源5が、10℃に冷却された被処理水3Lに対して、180Wの電力を10分間印加したものプラズマ殺菌水Kとした。電源5が、10℃に冷却された被処理水3Lに対して、180Wの電力を20分間印加したものプラズマ殺菌水Lとした。電源5が、10℃に冷却された被処理水3Lに対して、180Wの電力を30分間印加したものプラズマ殺菌水Mとした。
【0104】
実験は、濃度約10CFU/mLに調整した大腸菌(ATCC13706)懸濁液1mLを採取したアンプルを7つ用意して行った。コントロール検体については、上記(1)と同様に作成した。残りの6のアンプルには、放電時間10分のプラズマ殺菌水H、K、放電時間20分のプラズマ殺菌水I、L、および放電時間30分のプラズマ殺菌水J、Mをそれぞれ9mL添加して10倍希釈し、試験検体とした。試験検体については、生成直後のプラズマ殺菌水のプラズマ殺菌水を用いて各試験検体を作成した。コントロール検体と試験検体を培養後、コロニー数をカウントした。
【0105】
コロニー数をカウントした結果を図12に示す。なお、図12では、コントロール検体のコロニー数はグラフ上部に点線で示している。図12より、電力投入量が15Wh/Lであったプラズマ殺菌水HとGを比較すると、被処理水が2℃に冷却されたプラズマ殺菌水Hでは、5桁以上生菌が減少しており、殺菌効果が得られていた。一方、被処理水が10度に冷却されたプラズマ殺菌水Kでは、十分な殺菌効果が得られていなかった。
【0106】
一方、電力投入量が20Wh/L以上であるプラズマ殺菌水I、L、J、およびMでは、冷却温度に関わらず、6桁以上生菌が減少しており、優れた殺菌効果が得られていた。以上の結果より、冷却温度は10℃以下のより低い温度が好ましいことが確認された。また、電力投入量を20Wh/Lとすることで、殺菌力の高いプラズマ殺菌水が生成できることが分かった。
【0107】
(8)プラズマ殺菌水の保管温度に関する実験
上記(6)の実験より、冷却してプラズマ処理を行っても、30分間静置した場合には殺菌効果が低減することが分かった。そこで、プラズマ殺菌水の保管温度についてさらに検討を行った。図13(a)は、同一のプラズマ殺菌水について、保管温度を5℃、12℃、14℃、および20℃とし、プラズマ殺菌水の殺菌効果の持続時間を測定した結果である。この結果より、冷却温度が低いほど、殺菌効果の持続時間が長いことが分かった。
【0108】
図13(a)の結果から、図13(b)のグラフを作成し、殺菌効果の持続時間と保管温度の関係を求めたところ、30分間殺菌効果を持続させるためには7℃以下に冷却する必要があることが分かった。プラズマ殺菌水生成装置Aで生成されたプラズマ殺菌水は、殺菌対象への供給スピードを考慮して、ある程度の殺菌効果を持続させる必要がある。プラズマ殺菌水の保管温度を7℃以下とすることで、供給時間を考慮した構成とできることが分かった。
【0109】
(9)プラズマ処理時の冷却温度と保管温度に関する実験
上記(7)の実験より、プラズマ処理時の冷却温度は、10℃以下とすることが好ましいことが分かった。また、上記(8)の実験より、生成されたプラズマ殺菌水の保管温度は7℃以下とすることが好ましいことが分かった。冷却エネルギーを生成時、保管時で共通化するために、処理温度と、保管温度を10℃と7℃で共通化して検証した。
【0110】
図14(a)は、処理温度と保管温度をともに10℃とした場合の、保管時間と殺菌効果の関係を示すグラフである。図14(a)より、10℃処理・10℃保管の条件では、プラズマ処理後は高い殺菌効果があるものの、バラつきもあり、時間の経過とともに殺菌効果が弱まっていることが分かった。また、図14(b)は、処理温度と保管温度をともに7℃とした場合の、保管時間と殺菌効果の関係を示すグラフである。図14(b)より、7℃処理・7℃保管の条件では、プラズマ処理直後から30分経過しても、6桁以上生菌が減少しており、プラズマ殺菌水の殺菌効果が高い状態で持続されることが分かった。以上より、処理温度と保管温度を共通化する場合には、保管温度を基準として、双方における冷却温度を7℃以下とすることが好ましいことが確認された。
【0111】
[5.作用効果]
以上のような本実施形態のプラズマ殺菌水生成装置の作用効果は、以下のとおりである。
(1)減圧チャンバ1と、減圧チャンバ1の内部に配置され、被処理水を貯留する箱型の水槽2と、減圧チャンバ1の内部に配置される一対の電極3と、一対の電極3に交流電圧を印加する電源5と、を有し、一対の電極3は、水槽2に貯留された被処理水の水面上方に位置するように設けられた平板状の電極3aと、平板状の電極3aの下面側に設けられ、水槽2に貯留された被処理水の水面と空間を介して対向する誘電体4と、水槽2に貯留された被処理水中に位置するように設けられた接地極3bと、を有し、減圧チャンバ1には、減圧チャンバ1の内部が極低真空となるように気相雰囲気を減圧する減圧ポンプ1aが接続されている。
【0112】
以上の構成により、誘電体4が被覆された電極3aと、被処理水の水面との間の空間に、誘電体バリア放電によりプラズマを生成することが可能となる。この気相において生成されたプラズマにより、被処理水においてラジカル類が生成されるため、高い殺菌効果を有するプラズマ殺菌水を得ることができる。
【0113】
また、減圧ポンプ1aが、減圧チャンバ1の気相雰囲気を減圧することにより、誘電体バリア放電の発生に必要な印加電圧が低下される。気相雰囲気の減圧は、減圧チャンバ1が極低真空状態となればよいため、比較的安価なポンプを用いても、減圧チャンバ1を極低真空状態とすることができる。
【0114】
(2)電源5は、被処理水1Lあたり10Wh以上の電力を投入するように構成されている。
【0115】
電源5の投入電力を10Wh/Lとすることで、殺菌効果を有するプラズマ殺菌水を得ることができる。投入電力と投入時間が異なっても、トータルの投入電力量が同じであれば、同様の殺菌効果を有するプラズマ殺菌水を得ることができる。従って、投入電力により、得られるプラズマ殺菌水の殺菌効果を制御することが可能となる。
【0116】
(3)水槽2には、純水を供給する給水管Sが接続されている。
【0117】
被処理水として純水を用いることで、生成されるプラズマ殺菌水の殺菌効果を高めることができる。
【0118】
(4)プラズマ殺菌水生成装置Aにより生成されたプラズマ殺菌水が供給される殺菌対象が外調機の気化式加湿器であり、給水管Sが、外調機において気化式加湿器に純水を滴下水として供給する加湿給水用配管に接続されている。
【0119】
給水管Sを加湿給水用配管に接続することで、外調機で用いられる純水を被処理水として水槽2に供給することができる。従って、プラズマ殺菌水生成装置Aのために純水供給ラインを確保する必要がなくなるため、より安価かつ簡易な構造のプラズマ殺菌水生成装置Aを提供することが可能となる。
【0120】
(5)プラズマ殺菌水生成装置Aにより生成されたプラズマ殺菌水が供給される殺菌対象が外調機の気化式加湿器であり、水槽2には、殺菌対象に対してプラズマ殺菌水を供給する供給配管Dが接続され、供給配管Dが、外調機において気化式加湿器に純水を滴下水として供給する加湿給水用配管に接続されている請求項1-5いずれか1項に記載のプラズマ殺菌水生成装置。
【0121】
供給配管Dを加湿給水用配管に接続することで、加湿用滴下ヘッダーを含む外調機側の構成を用いてプラズマ殺菌水を殺菌水である気化式加湿器に供給することができる。プラズマ殺菌水供給用の配管を外調機側に設ける必要がなくなるため、より安価かつ簡易な構造のプラズマ殺菌水生成装置を提供することが可能となる。
【0122】
(6)水槽2が金属で形成されアース接続されることにより接地極3bとなる。
【0123】
以上のように構成することで、接地極3bを水槽2の内部に別途設ける必要が無くなる。よって、より安価かつ簡易な構造のプラズマ殺菌水生成装置を提供することが可能となる。
【0124】
(7)水槽2には、水槽2に貯留された被処理水中に位置するように、攪拌装置が設けられている。
【0125】
水槽2の内部に撹拌装置を設けることで、被処理水の水量が多く、水深が深い場合であっても、被処理水全体に対して誘電体バリア放電を施すことが可能となる。そのため、高い殺菌効果を有するプラズマ殺菌水を生成することができる。また、殺菌対象に供給されるプラズマ殺菌水の殺菌力を一定に保つことができる。
【0126】
(8)水槽2には、被処理水を冷却する冷却装置が設けられ、プラズマ処理中の被処理水を10℃以下に冷却する。
【0127】
冷却装置によりプラズマ処理中の被処理水を10℃以下に冷却することで、強力な殺菌力を有するプラズマ殺菌水を生成することができる。
【0128】
(9)水槽2には、被処理水を冷却する冷却装置が設けられ、生成されたプラズマ殺菌水を7℃以下に冷却する
【0129】
冷却装置により、生成後のプラズマ殺菌水を7℃以下に冷却して保管することで、プラズマ殺菌水の殺菌効果を長期に渡り持続させることが可能となる。
【0130】
(10)誘電体4と水槽2に貯留された被処理水の水面との間の空間は、5mm以上10mm以下である。
【0131】
誘電体4と被処理水との間の空間を、5mm以上10mm以下とすることで、適度な印加電圧で放電可能とすることができる。また、振動等により、誘電体4と被処理水が接触することが防止される。
【0132】
(11)水槽2の内壁面と平板状の電極3aの側面との間に、50mm以上の空間が設けられている。
【0133】
水槽2が金属で形成されている場合、被処理水の水面から気相側に露出した水槽2の内壁面が、電極3aと著しく近い場合には、水槽2の内壁面に向かう火花放電が発生することが考えられる。水槽2の内壁面と平板状の電極3aの側面との間の空間を、50mm以上確保することで火花放電を防止できる。
【0134】
[その他の実施の形態]
(1)上記実施形態では、水槽2に被処理水を冷却する冷却装置を設けるとした。しかし、外調機の冷却コイルの冷媒として用いられる空調用冷水(通常7℃程度)を被処理水として用いてもよい。すなわち、外調機の空調用冷水の供給配管に、水槽2の給水管Sを接続することができる。プラズマ処理開始時の水温を低くすることで、プラズマ殺菌水の水温を低く保つことが可能である。従って、生成されたプラズマ殺菌水の殺菌力を長時間持続させることができる。
【0135】
(2)上記実施形態に記載した投入電力量を用いたプラズマ殺菌水生成装置Aの制御は、被処理水の水量と電力に基づいて制御装置が電圧印加時間を算出して制御する構成としても良い。上記実施形態では制御装置はプラズマ殺菌水生成装置Aに内蔵されていることを想定しているが、外部の制御装置がプラズマ殺菌水生成装置Aに接続されている構成としても良い。制御装置は、コンピュータを所定のプログラムで制御することによって、若しくは専用の電子回路によって実現できる。なお、被処理水の水量、投入電力量および電圧印加時間は、ユーザが入力する構成とすることもできる。
【0136】
(3)殺菌対象が外調機の気化式加湿器である場合、外調機の空調運転停止後に気化式加湿器の乾燥運転を実施すると良い。プラズマ殺菌水生成装置が生成したプラズマ殺菌水が加湿エレメント部に浸み込みやすくなり、プラズマ殺菌水による殺菌効果を向上させることができる。
【0137】
(4)上記実施形態では、殺菌対象を外調機の気化式加湿器として説明したが、殺菌対象はこれに限定されない。例えば、家庭用気化式加湿器、家庭用気化式加湿機能付き空気清浄機などに応用可能である。これらの機器は、気化式加湿用のエレメント(濾材、フィルター)の一部が、加湿用貯水部の水に常時接触、もしくは回転しながら接触している構造が多い。よって、その加湿用貯水部の水に対して誘電体バリア放電を作用させることで、加湿用の水の殺菌、および加湿用の水を含浸する気化式加湿器エレメント(濾材、フィルター)の殺菌が可能となる。
【符号の説明】
【0138】
A プラズマ殺菌水生成装置
1 減圧チャンバ
E 排気ダクト
1a 減圧ポンプ
1b バルブ
2 水槽
S 給水管
2a バルブ
D 供給配管
2b バルブ
2c 送液ポンプ
3a 電極
3b 接地極
4 誘電体
5 電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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