(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189839
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】耐火性樹脂成形物、構造部材の耐火構造、耐火構造部材の施工方法、および、耐火性樹脂成形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 21/04 20060101AFI20221215BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20221215BHJP
A62C 2/00 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
C09K21/04
E04B1/94 F
E04B1/94 U
E04B1/94 D
A62C2/00 X
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160769
(22)【出願日】2022-10-05
(62)【分割の表示】P 2017250823の分割
【原出願日】2017-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】501352619
【氏名又は名称】三商株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390018717
【氏名又は名称】旭化成建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 圭一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 賢
(57)【要約】
【課題】充分な耐火性能と製造のしやすさとを両立できる耐火性樹脂成形物を提供することを目的とする。
【解決手段】耐火性樹脂成形物は、合成樹脂からなる結合剤と、前記結合剤以外の成分である非結合剤により構成され、前記非結合剤が、ポリリン酸アンモニウムと、多価アルコールと、酸化チタンとを含み、前記結合剤100質量部に対して、前記非結合剤が240質量部以上365質量部以下である。このような構成によれば、耐火性樹脂成形物を所望の形状(ペレット、シートなど)に成形して使うことができるため、施工が容易である。また、耐火性能と製造時の混錬の容易性とを両立できる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融混錬により形成される耐火性樹脂成形物であって、
合成樹脂からなる結合剤と、前記結合剤以外の成分である非結合剤により構成され、
前記非結合剤が、ポリリン酸アンモニウムと、多価アルコールと、酸化チタンとを含み、
前記結合剤が、エチレン共重合体樹脂であり、
前記結合剤100質量部に対して、前記非結合剤が230質量部以上365質量部以下であり、
前記結合剤100質量部に対して前記酸化チタンが60質量部以上95質量部以下であり、
前記結合剤100質量部に対して前記ポリリン酸アンモニウムが120質量部以上185質量部以下であり、
800℃で2時間加熱後の発泡倍率が5~12倍である耐火性樹脂成形物。
【請求項2】
前記酸化チタンの吸油量が15g/100g以上25g/100g以下である、請求項1に記載の耐火性樹脂成形物。
【請求項3】
他の部材を挿通可能な挿通孔を有する構造部材と、
前記挿通孔の内周面に配置される耐火性樹脂層とを備え、
前記耐火性樹脂層が、
合成樹脂からなる結合剤と、前記結合剤以外の成分である非結合剤により構成され、
前記非結合剤が、ポリリン酸アンモニウムと、多価アルコールと、酸化チタンとを含み、
前記結合剤が、エチレン共重合体樹脂であり、
前記結合剤100質量部に対して、前記非結合剤が230質量部以上365質量部以下であり、
前記結合剤100質量部に対して前記酸化チタンが60質量部以上95質量部以下であり、
前記結合剤100質量部に対して前記ポリリン酸アンモニウムが120質量部以上185質量部以下であり、
800℃で2時間加熱後の前記耐火性樹脂層の発泡倍率が5~12倍である構造部材の耐火構造。
【請求項4】
前記構造部材が、貫通孔を有する鉄骨梁と、前記鉄骨梁に取り付けられる補強部材とを備え、
前記補強部材が、外周面にねじ山を有し、前記貫通孔に挿通される挿通部材と、ねじ孔を有し、前記挿通部材にねじ付けにより固定されるととともに、前記鉄骨梁における前記貫通孔の周縁部分に沿って配置されるリング部材とを備え、
前記挿通部材が前記挿通孔を有している、請求項3に記載の構造部材の耐火構造。
【請求項5】
合成樹脂からなる結合剤と、前記結合剤以外の成分である非結合剤とを混練する混練工程と、
前記混練工程で得られた混練物をシート状に成形する成形工程と、
前記成形工程で得られた成形物を、他の部材を挿通可能な挿通孔を有する構造部材における前記挿通孔の内周面に貼り付けて耐火性樹脂層を形成させる施工工程とを含み、
前記混練工程において、前記非結合剤が、ポリリン酸アンモニウムと、多価アルコールと、酸化チタンとを含み、前記結合剤が、エチレン共重合体樹脂であり、かつ、前記結合剤100質量部に対して、前記非結合剤が230質量部以上365質量部以下であり、前記結合剤100質量部に対して前記酸化チタンが60質量部以上95質量部以下であり、前記結合剤100質量部に対して前記ポリリン酸アンモニウムが120質量部以上185質量部以下であり、800℃で2時間加熱後の前記耐火性樹脂層の発泡倍率が5~12倍である耐火構造部材の施工方法。
【請求項6】
合成樹脂からなる結合剤と、前記結合剤以外の成分である非結合剤とを混練する混練工程と、
前記混練工程で得られた混練物を成形する成形工程と、を含み、
前記混練工程において、前記非結合剤が、ポリリン酸アンモニウムと、多価アルコールと、酸化チタンとを含み、前記結合剤が、エチレン共重合体樹脂であり、かつ、前記結合剤100質量部に対して、前記非結合剤が230質量部以上365質量部以下であり、前記結合剤100質量部に対して前記酸化チタンが60質量部以上95質量部以下であり、前記結合剤100質量部に対して前記ポリリン酸アンモニウムが120質量部以上185質量部以下であり、800℃で2時間加熱後の発泡倍率が5~12倍である耐火性樹脂成形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、耐火性樹脂成形物、構造部材の耐火構造、および、耐火構造部材の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨等の建築材を被覆する耐火性の被覆材として、結合剤、難燃剤、発泡剤、炭化材および充填剤等を混錬してシート状とした被覆材が提案されている(特許文献1参照)。この被覆材は、建築物の火災によって高温にさらされると、発泡、炭化して断熱層を形成し、この断熱層によって建築材を保護する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2013/008819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のような被覆材では、火災時の炎に耐えて断熱層の形状を維持するために、充填剤等の含有量を高めようとすると、相対的に結合剤の含有量が低くなるため、混合物の流動性が低くなり混錬が困難となる等の問題があり、充分な耐火性能と製造のしやすさとを両立するためには、改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書によって開示される耐火性樹脂成形物は、合成樹脂からなる結合剤と、前記結合剤以外の成分である非結合剤により構成され、前記非結合剤が、ポリリン酸アンモニウムと、多価アルコールと、酸化チタンとを含み、前記結合剤100質量部に対して、前記非結合剤が240質量部以上365質量部以下である。
【0006】
上記のような組成の耐火性樹脂成形物は、所望の形状(ペレット、シートなど)に成形して使うことができるため、施工が容易である。また、火災時に充分な厚さの断熱層を形成し、吸熱反応によって燃焼熱の伝導を遅らせる効果を大きくするためには、ポリリン酸アンモニウムや多価アルコールの含有量が大きい方がよく、断熱層のたれ落ちを抑制して強度を維持するためには酸化チタンの含有量が大きい方がよいが、これらの成分の含有量を大きくすると、相対的に結合剤の含有量が小さくなり、製造時の混錬が困難となる。結合剤100質量部に対して、非結合剤が240質量部以上365質量部以下であれば、耐火性能と製造時の混錬の容易性とを両立させることができる。
【0007】
上記の耐火性樹脂成形物において、前記酸化チタンの吸油量が15g/100g以上25g/100g以下であっても構わない。
【0008】
使用される酸化チタンの比表面積が小さすぎると、火災時に形成された断熱層が構造部材からたれ落ちることを抑制して断熱層の強度を維持する効果が十分に得られなくなるおそれがある。一方、使用される酸化チタンの比表面積が大きすぎると、混錬が困難となる。酸化チタンの吸油量が15g/100g以上25g/100g以下であれば、断熱層の強度維持と、混練の容易性を両立することができる。なお、本明細書において、吸油量とはJIS K5101-13に準拠して測定されたものを意味する。
【0009】
また、本明細書によって開示される構造部材の耐火構造は、他の部材を挿通可能な挿通孔を有する構造部材と、前記挿通孔の内周面に配置される耐火性樹脂層とを備え、前記耐火性樹脂層が、合成樹脂からなる結合剤と、前記結合剤以外の成分である非結合剤により構成され、前記非結合剤が、ポリリン酸アンモニウムと、多価アルコールと、酸化チタンとを含み、前記結合剤100質量部に対して、前記非結合剤が240質量部以上365質量部以下である。
【0010】
上記の構造部材の耐火構造において、前記構造部材が、貫通孔を有する鉄骨梁と、前記鉄骨梁に取り付けられる補強部材とを備え、前記補強部材が、外周面にねじ山を有し、前記貫通孔に挿通される挿通部材と、ねじ孔を有し、前記挿通部材にねじ付けにより固定されるととともに、前記鉄骨梁における前記貫通孔の周縁部分に沿って配置されるリング部材とを備え、前記挿通部材が前記挿通孔を有していても構わない。
【0011】
また、本明細書によって開示される耐火構造部材の施工方法は、合成樹脂からなる結合剤と、前記結合剤以外の成分である非結合剤とを混練する混練工程と、前記混練工程で得られた混練物をシート状に成形する成形工程と、前記成形工程で得られた成形物を、他の部材を挿通可能な挿通孔を有する構造部材における前記挿通孔の内周面に貼り付けて耐火性樹脂層を形成させる施工工程とを含み、前記混練工程において、前記非結合剤が、ポリリン酸アンモニウムと、多価アルコールと、酸化チタンとを含み、かつ、前記結合剤100質量部に対して、前記非結合剤が240質量部以上365質量部以下である。
【0012】
上記の構成の構造部材の耐火構造、および、耐火構造部材の施工方法によれば、火災が生じると、耐火性樹脂層が発泡して膨張するとともに炭化し、断熱層を形成する。この断熱層が挿通孔の孔縁と他の部材との隙間を埋めることで、構造部材への熱の伝達を抑制するとともに、火炎や熱が挿通孔を通って拡がることを抑制できる。
【0013】
ここで、他の部材の挿通作業の困難化を避けるために、耐火性樹脂層の厚さはある程度薄くされ、施工時に、挿通される他の部材と耐火性樹脂層との間に十分な隙間が確保されることが好ましい。一方、火災時に構造部材への熱の伝達を抑制するとともに、断熱層が挿通孔の内周面と他の部材との隙間をある程度埋め、充分な耐火性能を発揮するためには、充分な厚さの断熱層が形成されることが望ましい。上記の組成の耐火性樹脂層は、発泡倍率(発泡前の厚さに対する発泡後の厚さの比率)が十分に大きいため、他の部材の挿通作業の困難化を避けることと、必要な耐火性能を確保することとを両立することができる。
【発明の効果】
【0014】
本明細書によって開示される耐火性樹脂成形物、構造部材の耐火構造、および、耐火構造部材の施工方法によれば、充分な耐火性能と製造のしやすさとを両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】実施形態における構造部材の部分拡大分解斜視図
【
図3】実施形態における、構造部材の耐火構造の断面図
【
図4】変形例における構造部材の部分拡大分解斜視図
【
図5】変形例における、構造部材の耐火構造の断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施形態を、
図1~
図3を参照しつつ説明する。本実施形態の耐火性樹脂成形物は、合成樹脂からなる結合剤と、結合剤以外の成分である非結合剤とを混錬し、任意の形状に成形することによって製造され、建築材等、耐火性が要求される施工対象物を被覆する耐火性の被覆材として好適に用いられる。非結合剤は、難燃剤としてのポリリン酸アンモニウムと、炭化材としての多価アルコールと、増粘剤としての酸化チタンとを含む。この耐火性樹脂組成物は、火災時の燃焼熱によって発泡して炭化し、断熱層を形成する。
【0017】
結合剤としての合成樹脂の種類は、特に限定されないが、EVA(エチレン-酢酸ビニル共重合体)、EEA(エチレン-酢酸エチル共重合体)等のエチレン共重合体樹脂、塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等の塩化ビニル樹脂、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム等の合成ゴム等を用いることができる。特に、練り込み特性に優れるエチレン共重合体樹脂を用いることが好ましい。結合剤としてEVAを用いる場合には、充分な発泡倍率を得るために、VA比率(酢酸ビニルの含有率)が10~20%であることが好ましい。
【0018】
非結合剤のうち、ポリリン酸アンモニウムは、難燃剤であり、火災時の燃焼熱により脱水縮合して発泡する。この脱水縮合は吸熱反応であり、この吸熱反応により、鉄骨等の被覆対象に火災時の燃焼熱が伝導することを遅らせることができる。吸熱反応はポリリン酸アンモニウムの脱アンモニア反応である。
【0019】
多価アルコールは、炭化剤であり、ポリリン酸アンモニウムと同様に、火災時の燃焼熱により脱水縮合して発泡する。多価アルコールの種類は、特に限定されないが、ペンタエリスリトールを好ましく用いることができる。
【0020】
酸化チタンは、増粘剤であり、火災時に形成された断熱層が、施工対象物からたれ落ちることを抑制して断熱層の強度を維持する。使用される酸化チタンの比表面積が大きいほどたれ落ち抑制効果が大きいが、製造時の混錬が困難となる。このため、酸化チタンの、JIS K5101-13に準拠して測定された吸油量が15g/100g以上25g/100g以下であることが好ましい。
【0021】
非結合剤は、上記の他に、無機繊維(セラミックファイバー、ロックウール等)、離型剤(脂肪酸エステル)、滑剤、加工助剤(ポリカルボジイミド等)等を含んでいても構わない。
【0022】
火災時に充分な厚さの断熱層を形成し、吸熱反応によって燃焼熱の伝導を遅らせる効果を大きくするためには、ポリリン酸アンモニウムや多価アルコールの含有量が大きい方がよく、断熱層のたれ落ち抑制効果を大きくするためには酸化チタンの含有量が大きい方がよい。しかし、これらの成分の含有量を大きくすると、相対的に結合剤の含有量が小さくなり、製造時の混錬が困難となる。結合剤100質量部に対して、非結合剤が240質量部以上365質量部以下であれば、耐火性能と製造時の混錬の容易性とを両立させることができる。
【0023】
本実施形態の耐火性樹脂成形物は、メラミンなどの発泡剤を含まないことが好ましい。これらの発泡剤の分解温度は一般的にポリリン酸アンモニウムや多価アルコールよりも高いため、ポリリン酸アンモニウムや多価アルコールの発泡によっていったん形成された断熱層を、発泡剤の発泡によって弱くしてしまうためである。
【0024】
本実施形態の耐火性樹脂成形物は、上記の材料を、例えば単軸押出機や二軸押出機を用いて溶融混練し、得られた混練物を紐または棒状に押し出したストランドを水冷してペレタイズすることにより得られるペレットであってもよく、上記の材料を、例えばバンバリーミキサー、ニーダーミキサーを用いて溶融混練し、得られた混練物を延伸ロール等で板状に成形したものを棒状にカットしてペレタイズすることにより得られるペレットであってもよく、これらの方法で得られたペレットをプレス成形、押出成形、射出成形等の公知の成形方法により任意の形状に成形した成形物であってもよく、あるいは、溶融混練物をペレット化することなく公知の成形方法により任意の形状に成形した成形物であってもよい。
特に、結合剤100質量部に対して、ポリリン酸アンモニウムと、多価アルコールと、酸化チタンとを含む非結合剤が240質量部以上365質量部以下となるようにする構成は、耐火性樹脂組成物がペレットである場合に、材料の混練が困難となったり、ストランドがちぎれてしまうことを避けることができ、好適である。また、二軸押出機を使用してペレットを製造する場合に、さらに好適である。
【0025】
本実施形態の耐火性樹脂成形物を、構造部材の耐火構造に好適に適用した一例を、以下に説明する。
【0026】
構造部材10は、
図1および
図2に示すように、貫通孔12を有する鉄骨梁11と、この鉄骨梁11に取り付けられ、貫通孔12の周辺部分を補強する補強部材21とを備える。鉄骨梁11は、H形鋼であって、
図3に示すように、コンクリートスラブSの下に配置されている。補強部材21は、貫通孔12の内部に通されるスリーブ管22(挿通部材に該当)と、このスリーブ管22に接合されるとともに、鉄骨梁11に溶接される2つのリング鋼材25(リング部材に該当)とで構成される。スリーブ管22は、
図2に示すように、貫通孔12の孔径とほぼ等しいか、僅かに小さい外径を有する短い円筒状の部材であって、筒の内部空間が挿通孔23に該当する。スリーブ管22の外周面には、ねじ山24が設けられている。2つのリング鋼材25のそれぞれは、
図2に示すように、ねじ孔26を有するリング状の板材であって、スリーブ管22にねじ付けにより固定可能となっている。各リング鋼材25は、ねじ孔26を取り囲むように配置された複数の溶接孔27を有している。溶接孔27は、プラグ溶接を施すための孔である。
【0027】
スリーブ管22は、両端がそれぞれ鉄骨梁11の板面から突出するようにして、貫通孔12の内部に通されている。2つのリング鋼材25は、鉄骨梁11を挟むように配置され、それぞれスリーブ管22にねじ付けられることによって固定され、さらに、プラグ溶接によって鉄骨梁11に接合されている。挿通孔23の内周面には、
図3に示すように、全周にわたって、耐火性樹脂層30が配置されている。耐火性樹脂層30は、シート状に成形された、上記の構成の耐火性樹脂成形物を、挿通孔23の内周面に貼り付けることによって形成された層である。スリーブ管22の一端は、一方のリング鋼材25の表面(鉄骨梁11とは反対側の面)から外方に僅かに突出しており、耐火性樹脂層30の一端は、それよりもさらに外側に突出している。他端についても同様である。
【0028】
上記のような耐火構造部材の施工方法の一例を、以下に説明する。
【0029】
まず、上記した耐火性樹脂成形物の材料を、二軸押出機を用いて混練する(混練工程)。得られた混練物を紐または棒状に押し出したストランドを水冷してペレタイズすることによりペレットを得る。このペレットを、単軸押出機に投入して、幅60~120mm、厚さ3mmのシート状に成形する(成形工程)。なお、溶融混練物をペレット化することなくシート状に成形することも可能であるが、生産設備、工程の簡素化の観点から、溶融混練物からペレットを経てシート状に成形することが好ましい。
得られたシート状の成形物を、上記の構成の構造部材10において、スリーブ管22の挿通孔23の内周面に貼り付けて耐火性樹脂層30を形成させる(施工工程)。
この後、鉄骨梁11の表面には、
図3に示すように、吹き付けロックウールによって耐火被覆Rが形成されてもよい。
【0030】
耐火性樹脂層30が設けられた挿通孔23の内部には、
図3に示すように、電気の配線等を通すための配管Pが挿通される。火災が起きていない通常時においては、耐火性樹脂層30の内周面と、配管Pの外周面との間には、ある程度の隙間がある。
【0031】
火災が生じると、耐火性樹脂層30が発泡して膨張するとともに炭化し、断熱層を形成する。この断熱層が構造部材への熱の伝達を抑制するとともに、挿通孔23の内周面と配管Pとの隙間をある程度埋めることで、火炎や熱が挿通孔23を通って拡がることを抑制できる。
【0032】
配管Pの挿通作業の困難化を避けるために、施工時の耐火性樹脂層30の厚さはある程度薄く(例えば4mm以下)され、挿通される配管Pと耐火性樹脂層30との間に十分な隙間が確保されることが好ましい。一方、火災時に断熱層が構造部材への熱の伝達を抑制するとともに、挿通孔23の内周面と配管Pとの隙間をある程度埋め、充分な耐火性能を発揮するためには、充分な厚さ(例えば20mm以上)の断熱層が形成されることが望ましい。本実施形態の耐火性樹脂成形物は、発泡倍率(発泡前の厚さに対する発泡後の厚さの比率)が十分に大きいため、配管Pの挿通作業の困難化を避けることと、必要な耐火性能を確保することとを両立することができる。
【0033】
<試験例>
[使用機器、使用材料]
二軸混練押出機として、株式会社神戸製鋼所製「HYPERKTX」を使用した。単軸押出機として、東芝機械株式会社製「SE」を使用した。
結合剤としてEVA(エチレン-酢酸ビニル共重合体)樹脂、PP(ポリプロピレン)樹脂、EEA(エチレン-酢酸エチル共重合体)樹脂、または塩化ビニル樹脂を使用した。
非結合剤のうち、難燃剤としてポリリン酸アンモニウム、炭化剤としてペンタエリスリトール、増粘剤として酸化チタン、発泡剤としてメラミン、加工助剤として脂肪酸エステル、可塑剤としてアジピン酸系ポリエステルを使用した。
【0034】
[試験方法]
1)試験例1、3~9
表1に示す各成分を、二軸混練押出機を用いて溶融混錬し、ストランド状に押し出された溶融樹脂を水冷し、ペレタイザーで長さ5mmにカットしてペレットとした。押出機の温度設定は160℃とした。ペレット成形性を、問題なくペレット状に成形できたものを〇、ストランドがちぎれて連続生産できないものを△、押出機から吐出できずペレット状に成形できないものを×として評価した。
【0035】
次に、得られたペレットを単軸押出機を用いて溶融して押し出し、厚さ2mm、幅20mmのシート状に成形した。押出機のシリンダー温度は120℃、金型温度は140℃とした。
【0036】
続いて、得られたシートを鋼板に両面テープで貼り付けて試験体とし、電気炉内に垂直に立てかけて800℃で2時間加熱して、断熱層を形成させた。断熱層の形状保持性を、力を入れないと断熱層がつぶれないものを〇、容易につぶれてしまうものを×として評価した。また発泡倍率についても測定を行った。さらに、加熱終了後の断熱層が垂れ落ちていないかどうかを評価した。加熱前とほぼ同じ位置を保っていたものを〇、同じ位置ではないものの、上端がずれている程度のものを△、電気炉内に垂れ落ちていたものを×とした。結果を表1に示した。
【0037】
2)試験例2、10
表1に示す各成分を加圧ニーダーで混練した後、オープンロールで厚さ5mmのシート状に加工してからカットしてペレット状に成形した。その他は上記1)と同様である。
【0038】
3)試験例11~20
表2に示す各成分をオープンニーダーで混練した後、150℃でホットプレス(手動式)してシート状に成形した。得られたシートを鋼板に両面テープで貼り付けて試験体とし、上記1)と同様にして断熱層の形状保持性、およびたれ落ちを評価した。また発泡倍率についても測定を行った。結果を表2に示した。
【0039】
【0040】
【0041】
なお、表1および表2における各成分の配合比を示す数値の単位は質量部である。
【0042】
[結果と考察]
結合剤100質量部に対して、非結合剤が240質量部以上365質量部以下である試験例1~6では、混錬物を良好にペレットとして成形することができた。また、断熱層は良好に形状を保持しており、たれ落ちも観察されなかった。発泡倍率は5倍~12倍であり、例えば構造部材における挿通孔の内周面に配置される場合に、配管の挿通作業の困難化を避けることと、必要な耐火性能を確保することとを両立するために十分であった。
【0043】
非結合剤の配合量が365質量部よりも大きい試験例7、10では、材料の混錬が困難であり、ペレットを得ることができなかった。また非結合剤の配合量が240質量部よりも小さい試験例8、9では、発泡倍率が充分ではなかったり、断熱層のたれ落ちが観察されたりした。
【0044】
断熱層の形状保持、十分な発泡倍率、断熱層のたれ落ち抑制という性能をバランスよく発揮させるために、結合剤100質量部に対して、ポリリン酸アンモニウムが120~185質量部、ペンタエリスリトールが40~100質量部、酸化チタンが60~95質量部であることが好ましいと考えられた。
【0045】
<変形例>
図4および
図5に示す構造部材40のように、補強部材41が、2つのフランジ付き筒42により構成されていてもよい。各フランジ付き筒42は、貫通孔12の内径とほぼ等しい内径を有し、両端が開口した円筒状の筒部43と、筒部43の一方の開口部の開口縁から外側に張り出すフランジ部44とを備えている。各フランジ付き筒42は、フランジ部44が、鉄骨梁11において貫通孔12の周縁部に当接するように配置され、溶接されることによって、鉄骨梁11に固定されている。
【0046】
2つのフランジ付筒42の筒部43と、貫通孔12の内周面とには、全周にわたって、上記実施形態と同様の耐火性樹脂層45が配置されている。耐火性樹脂層45の一端は、一方の筒部43の一端(フランジ部44とは反対側の端縁)から外方に僅かに突出している。他端についても同様である。
【0047】
<他の実施形態>
本明細書によって開示される技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような種々の態様も含まれる。
(1)上記実施形態では、補強部材21が、スリーブ管22とリング鋼材25とを備えていたが、補強部材の構成は上記実施形態の限りではなく、例えば、補強部材がスリーブ管を備えておらず、2つのリング鋼材が、溶接のみによって鉄骨梁に接合されていても構わない。あるいは、補強部材が、鉄骨梁の片面に溶接される1つのリング鋼材のみを備えていても構わない。あるいは、補強部材が、配管を挿通可能な孔を有する鉄板であって、溶接によって鉄骨梁に接合されていても構わない。これらの場合、鉄骨梁の貫通孔および、リング鋼材または鉄板の孔の内周面に、耐火性樹脂層を配置すればよい。
また、補強部材が配管を挿通可能な鋼管であって、鉄骨梁の貫通孔の内周面に溶接により接合されていても構わない。この場合、鋼管の内周面に耐火性樹脂層を配置すればよい。
また、鉄骨梁が補強部材を備えていなくても構わない。その場合、鉄骨梁の貫通孔の内周面に、耐火性樹脂層を配置すればよい。
【0048】
(2)耐火性樹脂組成物は、所望の形状に成形することにより種々の用途に用いることができる。例えば、シート状に成形して、鉄骨構造物の耐火被覆材として用いることができる。また、テープ状に成形して、窓枠、扉枠等の隙間に配置し、火災時に膨張して空隙を埋めることで火炎の裏面貫通を防ぐために用いたり、樹脂製・木製窓枠の外表面に設けて火災時の燃焼熱から樹脂枠・木枠にチャックすることを防止する耐火被覆テープとして用いたりすることができる。また、板状に成形して、軽量防火シャッターとして用いることもできる。また、フィルム状に成形して、リチウムイオン電池等の蓄電池が発火した場合に燃焼を抑制するフィルム、溶接時の火花から保護するシートとして使用することもできる。その他に、適切な形状に成形して、水素タンクやガソリンタンクの外表面に設けて火災時の温度上昇により引火することを抑制する自動車用部品、自動車の燃料タンクを収容する内壁に設けて火災時に居室内を保護する部品として使用することもできる。
【0049】
(3)上記実施形態では、耐火性樹脂層30の端部がスリーブ管22から突出していたが、耐火性樹脂層の端面がスリーブ管の端面と面一となっていても構わない。変形例についても同様に、耐火性樹脂層の端面が筒部の端面と面一となっていても構わない。
【符号の説明】
【0050】
10、40…構造部材
11…鉄骨梁
12…貫通孔
21、41…補強部材
22…スリーブ管(挿通部材)
23…挿通孔
24…ねじ山
25…リング鋼材(リング部材)
26…ねじ孔
30、45…耐火性樹脂層