(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189860
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】フォトマスクブランク、フォトマスクの製造方法及び表示装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/32 20120101AFI20221215BHJP
G03F 1/54 20120101ALI20221215BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
G03F1/32
G03F1/54
C23C14/06
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162311
(22)【出願日】2022-10-07
(62)【分割の表示】P 2019062891の分割
【原出願日】2019-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】田辺 勝
(72)【発明者】
【氏名】石原 重徳
(72)【発明者】
【氏名】浅川 敬司
(72)【発明者】
【氏名】安森 順一
(57)【要約】
【課題】パターン形成用薄膜に転写パターンをウェットエッチングにより形成する際に、良好な断面形状を有する転写パターンが形成でき、透明基板の表面荒れを抑制できるとともにパターン形成用薄膜の洗浄耐性を高めることができるフォトマスクブランクを提供する。
【解決手段】透明基板上にパターン形成用薄膜を有するフォトマスクブランクであって、フォトマスクブランクは、パターン形成用薄膜をウェットエッチングにより透明基板上に転写パターンを有するフォトマスクを形成するための原版であって、パターン形成用薄膜は、遷移金属と、ケイ素と、窒素とを含有し、該パターン形成用薄膜に含まれる遷移金属とケイ素の原子比率は、遷移金属:ケイ素=1:3以上1:15以下であって、パターン形成用薄膜は、ナノインデンテーション法により導き出される押し込み硬さが18GPa以上23GPa以下である。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上にパターン形成用薄膜を有するフォトマスクブランクであって、
前記パターン形成用薄膜は、遷移金属と、ケイ素と、窒素とを含有し、
前記パターン形成用薄膜は、柱状構造を有し、
前記パターン形成用薄膜は、ナノインデンテーション法により導き出される押し込み硬さが18GPa以上23GPa以下であることを特徴とするフォトマスクブランク。
【請求項2】
前記パターン形成用薄膜は、膜厚方向に向かって伸びる柱状の粒子構造を有することを特徴とする請求項1記載のフォトマスクブランク。
【請求項3】
前記パターン形成用薄膜は、遷移金属シリサイドの窒化物、遷移金属シリサイドの酸化物、遷移金属シリサイドの酸化窒化物、および遷移金属シリサイドの酸化窒化炭化物のいずれかを含有することを特徴とする請求項1または2に記載のフォトマスクブランク。
【請求項4】
前記遷移金属は、モリブデンであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【請求項5】
前記窒素の含有率は、35原子%以上60原子%以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【請求項6】
前記パターン形成用薄膜は、露光光の代表波長に対して透過率が1%以上80%以下、位相差が160度以上200度以下の光学特性を備えた位相シフト膜であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【請求項7】
前記パターン形成用薄膜上に、該パターン形成用薄膜に対してエッチング選択性が異なるエッチングマスク膜を備えていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【請求項8】
前記エッチングマスク膜は、クロムを含有することを特徴とする請求項7記載のフォトマスクブランク。
【請求項9】
請求項1から6のいずれかに記載のフォトマスクブランクを準備する工程と、
前記パターン形成用薄膜上にレジスト膜を形成し、前記レジスト膜から形成したレジスト膜パターンをマスクにして前記パターン形成用薄膜をウェットエッチングして、前記透明基板上に転写パターンを形成する工程と、を有することを特徴とするフォトマスクの製造方法。
【請求項10】
請求項7または8に記載のフォトマスクブランクを準備する工程と、
前記エッチングマスク膜上にレジスト膜を形成し、前記レジスト膜から形成したレジスト膜パターンをマスクにして前記エッチングマスク膜をウェットエッチングして、前記パターン形成用薄膜上にエッチングマスク膜パターンを形成する工程と、
前記エッチングマスク膜パターンをマスクにして、前記パターン形成用薄膜をウェットエッチングして、前記透明基板上に転写パターンを形成する工程と、を有することを特徴とするフォトマスクの製造方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載のフォトマスクの製造方法により得られたフォトマスクを露光装置のマスクステージに載置し、前記フォトマスク上に形成された前記転写パターンを、表示装置基板上に形成されたレジストに露光転写する露光工程を有することを特徴とする表示装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスクブランク、フォトマスクの製造方法及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LCD(Liquid Crystal Display)を代表とするFPD(Flat Panel Display)等の表示装置では、大画面化、広視野角化とともに、高精細化、高速表示化が急速に進んでいる。この高精細化、高速表示化のために必要な要素の1つが、微細で寸法精度の高い素子や配線等の電子回路パターンの作製である。この表示装置用電子回路のパターニングにはフォトリソグラフィが用いられることが多い。このため、微細で高精度なパターンが形成された表示装置製造用の位相シフトマスクやバイナリマスクといったフォトマスクが必要になっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、透明基板上に位相反転膜が備えられた位相反転マスクブランクが開示されている。このマスクブランクにおいて、位相反転膜は、i線(365nm)、h線(405nm)、g線(436nm)を含む複合波長の露光光に対して35%以下の反射率及び1%~40%の透過率を有するようにするとともに、パターン形成時にパターン断面の傾斜が急激に形成されるように酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)の少なくとも1つの軽元素物質を含む金属シリサイド化合物からなる2層以上の多層膜で構成され、金属シリサイド化合物は、上記軽元素物質を含む反応性ガスと不活性ガスが0.5:9.5~4:6の比率で注入して形成されている。
また、特許文献2には、透明基板と、露光光の位相を変える性質を有しかつ金属シリサイド系材料から構成される光半透過膜と、クロム系材料から構成されるエッチングマスク膜と、を備えた位相シフトマスクブランクが開示されている。この位相シフトマスクブランクにおいて、光半透過膜とエッチングマスク膜との界面に組成傾斜領域が形成されている。組成傾斜領域では、光半透過膜のウェットエッチング速度を遅くする成分の割合が、深さ方向に向かって増加する。そして、組成傾斜領域における酸素の含有量は、10原子%以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】韓国登録特許第1801101号
【特許文献2】特許第6101646号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の高精細(1000ppi以上)のパネル作製に使用される位相シフトマスクとしては、高解像のパターン転写を可能にするために、位相シフトマスクであって、かつホール径で、6μm以下、ライン幅で4μm以下の微細な位相シフト膜パターンが形成された位相シフトマスクが要求されている。具体的には、ホール径で1.5μmの微細な位相シフト膜パターンが形成された位相シフトマスクが要求されている。
また、より高解像のパターン転写を実現するため、露光光に対する透過率が15%以上の位相シフト膜を有する位相シフトマスクブランクおよび、露光光に対する透過率が15%以上の位相シフト膜パターンが形成された位相シフトマスクが要求されている。なお、位相シフトマスクブランクや位相シフトマスクの洗浄耐性(化学的特性)においては、位相シフト膜や位相シフト膜パターンの膜減りや表面の組成変化による光学特性の変化が抑制された洗浄耐性を有する位相シフト膜が形成された位相シフトマスクブランクおよび洗浄耐性を有する位相シフト膜パターンが形成された位相シフトマスクが求められている。
露光光に対する透過率の要求を満たすためには、位相シフト膜に添加する酸素や窒素の含有比率を高くすることが効果的である。位相シフト膜の透過率を高めるためには、酸素の含有比率を高くすることは効果的だが、窒素を添加する場合に比べて屈折率nは低く、所望の位相差を得るために必要な膜厚は厚くなるとともに、洗浄耐性が悪化してしまう。また、位相シフト膜の透過率を高めるために、窒素の含有比率を高くすることも効果的だが、透過率を高くするのには限界があるとともに、ウェットエッチング速度が遅く(ウェットエッチング時間が長く)なることによる、ウェットエッチングによる透明基板へのダメージ(表面荒れ)が発生してしまい、透明基板の透過率が低下する等の問題があった。また、位相シフト膜を構成する金属シリサイド化合物(金属シリサイド系材料)における金属とケイ素の原子比率におけるケイ素の比率を高くすることも、透過率を調整するのには効果的である。しかしながら、上記の窒素の場合と同様に、ウェットエッチング速度が大幅に遅く(ウェットエッチング時間が長く)なるとともに、ウェットエッチングによる透明基板へのダメージ(表面荒れ)が発生してしまい、透明基板の透過率が低下する等の問題があった。このように、位相シフト膜に添加する酸素や窒素の含有比率を高くすることや、位相シフト膜を構成する金属シリサイド化合物(金属シリサイド系材料)におけるケイ素の比率を単に高くするのみでは、ウェットエッチングによる透明基板の表面荒れの抑制と、位相シフト膜の洗浄耐性を高めることを両立させることは出来なかった。
そして、遷移金属とケイ素とを含有する遮光膜を備えたバイナリマスクブランクにおいて、ウェットエッチングによって遮光膜に遮光パターンを形成する際にも、遮光膜の洗浄耐性や透明基板の表面荒れ抑制についての要求があり、上記と同様の問題があった。
【0006】
そこで本発明は、上述の問題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、遷移金属とケイ素とを含有する位相シフト膜や遮光膜といったパターン形成用薄膜に転写パターンをウェットエッチングにより形成する際に、良好な断面形状を有する転写パターンが形成でき、透明基板の表面荒れを抑制できるとともにパターン形成用薄膜の洗浄耐性を高めることができるフォトマスクブランク、フォトマスクの製造方法及び表示装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はこれらの問題点を解決するための方策を鋭意検討した。まず、パターン形成用薄膜における遷移金属とケイ素の原子比率を、遷移金属:ケイ素が1:3以上1:15以下である材料とし、パターン形成用薄膜におけるウェットエッチング液によるウェットエッチング時間を短縮するため、パターン形成用薄膜に酸素(O)が多く含まれるように成膜室内に導入するスパッタリングガス中に含まれる酸素ガスを調整してパターン形成用薄膜を形成した。その結果、転写パターンを形成するためのウェットエッチング速度は速くなったものの、位相シフトマスクブランクにおける位相シフト膜においては、露光光に対する屈折率が低下するために、所望の位相差(例えば180°)を得るための必要な膜厚が厚くなってしまう。また、バイナリマスクブランクにおける遮光膜においては、露光光に対する消衰係数が低下するために、所望の遮光性能(例えば、光学濃度(OD)が3以上)を得るための必要な膜厚が厚くなってしまう。パターン形成用薄膜の膜厚が厚くなることは、ウェットエッチングによるパターン形成においては不利であるとともに、膜厚が厚くなるため、ウェットエッチング時間の短縮効果としては限界があった。一方で、上述した遷移金属とケイ素の原子比率(遷移金属:ケイ素=1:3以上1:15以下)とすると、パターン形成用薄膜の洗浄耐性を高められる等の有利な点があるため、この点においても、上述した遷移金属とケイ素の組成比から外れるようにすることは好ましくない。
【0008】
そこで、本発明者は発想を転換し、成膜室内におけるスパッタリングガスの圧力を調整して、膜構造を変えることを検討した。透明基板上にパターン形成用薄膜を成膜する際には、成膜室内におけるスパッタリングガス圧力を0.1~0.5Paとすることが通常である。しかしながら、本発明者は、スパッタリングガス圧力をあえて0.5Paよりも大きくして、パターン形成用薄膜を成膜した。そして、0.7Pa以上のスパッタリングガス圧力でパターン形成用薄膜を成膜したところ、エッチング時間を大幅に短縮でき、良好な断面形状を有する転写パターンが形成でき、透明基板の表面荒れを抑制できることを見出した。一方で、成膜時におけるスパッタリングガス圧力を大きくしすぎると、パターン形成用薄膜に十分な洗浄耐性が得られないことが分かった。本発明者は、鋭意検討の結果、0.7Pa以上2.4Pa以下のスパッタリングガス圧力でパターン形成用薄膜を成膜することによって、パターン形成用薄膜としての好適な特性を備えたうえで、良好な断面形状を有する転写パターンが形成でき、透明基板の表面荒れを抑制できるとともに、パターン形成用薄膜の洗浄耐性を高めることができることを見出した。
そして、本発明者は、このように優れた特性を持つパターン形成用薄膜の物理的な指標についてさらに探求した。その結果、パターン形成用薄膜の押し込み硬さと、ウェットエッチングレートとに相関があることを見出した。この点についてさらに鋭意検討を行った結果、ナノインデンテーション法により導き出される押し込み硬さが18GPa以上23GPa以下であれば、パターン形成用薄膜としての好適な特性を備えたうえで、パターン形成用薄膜に転写パターンをウェットエッチングにより形成する際に良好な断面形状を有する転写パターンが形成でき、透明基板の表面荒れを抑制できるとともにパターン形成用薄膜の洗浄耐性を高めることができることを見出した。本発明は、以上のような鋭意検討の結果なされたものであり、以下の構成を有する。
【0009】
(構成1)透明基板上にパターン形成用薄膜を有するフォトマスクブランクであって、
前記フォトマスクブランクは、前記パターン形成用薄膜をウェットエッチングにより前記透明基板上に転写パターンを有するフォトマスクを形成するための原版であって、
前記パターン形成用薄膜は、遷移金属と、ケイ素と、窒素とを含有し、該パターン形成用薄膜に含まれる前記遷移金属と前記ケイ素の原子比率は、遷移金属:ケイ素=1:3以上1:15以下であって、
前記パターン形成用薄膜は、ナノインデンテーション法により導き出される押し込み硬さが18GPa以上23GPa以下であることを特徴とするフォトマスクブランク。
【0010】
(構成2)前記遷移金属は、モリブデンであることを特徴とする構成1記載のフォトマスクブランク。
(構成3)前記窒素の含有率は、35原子%以上60原子%以下であることを特徴とする構成1または2記載のフォトマスクブランク。
【0011】
(構成4)前記パターン形成用薄膜は、露光光の代表波長に対して透過率が1%以上80%以下、位相差が160°以上200°以下の光学特性を備えた位相シフト膜であることを特徴とする構成1から3のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
【0012】
(構成5)前記パターン形成用薄膜上に、該パターン形成用薄膜に対してエッチング選択性が異なるエッチングマスク膜を備えていることを特徴とする構成1から4のいずれかに記載のフォトマスクブランク。
(構成6)前記エッチングマスク膜は、クロムを含有し、実質的にケイ素を含まない材料からなることを特徴とする構成5記載のフォトマスクブランク。
【0013】
(構成7)構成1から4のいずれかに記載のフォトマスクブランクを準備する工程と、
前記パターン形成用薄膜上にレジスト膜を形成し、前記レジスト膜から形成したレジスト膜パターンをマスクにして前記パターン形成用薄膜をウェットエッチングして、前記透明基板上に転写パターンを形成する工程と、を有することを特徴とするフォトマスクの製造方法。
【0014】
(構成8)構成5または6に記載のフォトマスクブランクを準備する工程と、
前記エッチングマスク膜上にレジスト膜を形成し、前記レジスト膜から形成したレジスト膜パターンをマスクにして前記エッチングマスク膜をウェットエッチングして、前記パターン形成用薄膜上にエッチングマスク膜パターンを形成する工程と、
前記エッチングマスク膜パターンをマスクにして、前記パターン形成用薄膜をウェットエッチングして、前記透明基板上に転写パターンを形成する工程と、を有することを特徴とするフォトマスクの製造方法。
(構成9)構成7または8に記載のフォトマスクの製造方法により得られたフォトマスクを露光装置のマスクステージに載置し、前記フォトマスク上に形成された前記転写パターンを、表示装置基板上に形成されたレジストに露光転写する露光工程を有することを特徴とする表示装置の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るフォトマスクブランクによれば、転写パターン用薄膜をウェットエッチングにより要求される微細な転写パターンを形成する際に、良好な断面形状を有する転写パターンが形成でき、透明基板の表面荒れを抑制できるとともに転写パターン用薄膜の洗浄耐性を高めることができるフォトマスクブランクを得ることができる。
【0016】
また、本発明に係るフォトマスクの製造方法によれば、上述したフォトマスクブランクを用いてフォトマスクを製造する。このため、良好な断面形状を有する転写パターンが形成でき、透明基板の表面荒れを抑制できるとともに転写パターン用薄膜の洗浄耐性を高めることができるフォトマスクを製造することができる。このフォトマスクは、ラインアンドスペースパターンやコンタクトホールの微細化に対応することができる。
【0017】
また、本発明に係る表示装置の製造方法によれば、上述したフォトマスクブランクを用いて製造されたフォトマスクまたは上述したフォトマスクの製造方法によって得られたフォトマスクを用いて表示装置を製造する。このため、微細なラインアンドスペースパターンやコンタクトホールを有する表示装置を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施の形態1にかかる位相シフトマスクブランクの膜構成を示す模式図である。
【
図2】実施の形態2にかかる位相シフトマスクブランクの膜構成を示す模式図である。
【
図3】実施の形態3にかかる位相シフトマスクの製造工程を示す模式図である。
【
図4】実施の形態4にかかる位相シフトマスクの製造工程を示す模式図である。
【
図5】実施例1の位相シフトマスクの断面写真である。
【
図6】比較例1の位相シフトマスクの断面写真である。
【
図7】実施例1~4、比較例1、2の位相シフトマスクの位相シフト膜における、エッチングレートと、スパッタリングガス圧力と、押し込み硬さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態1.2.
実施の形態1、2では、位相シフトマスクブランクについて説明する。実施の形態1の位相シフトマスクブランクは、エッチングマスク膜に所望のパターンが形成されたエッチングマスク膜パターンをマスクにして、位相シフト膜をウェットエッチングにより透明基板上に位相シフト膜パターンを有する位相シフトマスクを形成するための原版である。また、実施の形態2の位相シフトマスクブランクは、レジスト膜に所望のパターンが形成されたレジスト膜パターンをマスクにして、位相シフト膜をウェットエッチングにより透明基板上に位相シフト膜パターンを有する位相シフト膜を形成するための原版である。
【0020】
図1は実施の形態1にかかる位相シフトマスクブランク10の膜構成を示す模式図である。
図1に示す位相シフトマスクブランク10は、透明基板20と、透明基板20上に形成された位相シフト膜30と、位相シフト膜30上に形成されたエッチングマスク膜40とを備える。
図2は実施の形態2にかかる位相シフトマスクブランク10の膜構成を示す模式図である。
図2に示す位相シフトマスクブランク10は、透明基板20と、透明基板20上に形成された位相シフト膜30とを備える。
以下、実施の形態1および実施の形態2の位相シフトマスクブランク10を構成する透明基板20、位相シフト膜30およびエッチングマスク膜40について説明する。
【0021】
透明基板20は、露光光に対して透明である。透明基板20は、表面反射ロスが無いとしたときに、露光光に対して85%以上の透過率、好ましくは90%以上の透過率を有するものである。透明基板20は、ケイ素と酸素を含有する材料からなり、合成石英ガラス、石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、低熱膨張ガラス(SiO2-TiO2ガラス等)などのガラス材料で構成することができる。透明基板20が低熱膨張ガラスから構成される場合、透明基板20の熱変形に起因する位相シフト膜パターンの位置変化を抑制することができる。また、表示装置用途で使用される透明基板20は、一般に矩形状の基板であって、該透明基板の短辺の長さは300mm以上であるものが使用される。本発明は、透明基板の短辺の長さが300mm以上の大きなサイズであっても、透明基板上に形成される例えば2.0μm未満の微細な位相シフト膜パターンを安定して転写することができる位相シフトマスクを提供可能な位相シフトマスクブランクである。
【0022】
位相シフト膜30は、遷移金属と、ケイ素とを含有する遷移金属シリサイド系材料で構成される。遷移金属として、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)などが好適であり、特に、モリブデン(Mo)であるとさらに好ましい。
また、位相シフト膜30は、少なくとも窒素を含有していることが好ましい。上記遷移金属シリサイド系材料において、軽元素成分である窒素は、同じく軽元素成分である酸素と比べて、屈折率を下げない効果があるため、所望の位相差を得るための膜厚を薄くできる。位相シフト膜30に含まれる窒素の含有率は、35原子%以上60原子%以下であることが好ましい。
また、位相シフト膜30は、酸素を含有していてもよい。上記遷移金属シリサイド系材料において、軽元素成分である酸素は、同じく軽元素成分である窒素と比べて、消衰係数を下げる効果があるため、所望の透過率を得るための他の軽元素成分(窒素など)の含有率を少なくすることができるとともに、位相シフト膜30の表面および裏面の反射率も効果的に低減することができる。また、位相シフト膜30に含まれる酸素と窒素を含む軽元素成分の合計含有率は、40原子%以上が好ましい。さらに好ましくは、40原子%以上70原子%以下、50原子%以上65原子%以下が望ましい。また、位相シフト膜30に酸素が含まれる場合は、酸素の含有率は、0原子%超40原子%以下であることが、欠陥品質、耐薬品性に於いて望ましい。
遷移金属シリサイド系材料としては、例えば、遷移金属シリサイドの窒化物、遷移金属シリサイドの酸化物、遷移金属シリサイドの酸化窒化物、遷移金属シリサイドの酸化窒化炭化物が挙げられる。また、遷移金属シリサイド系材料は、モリブデンシリサイド系材料(MoSi系材料)、ジルコニウムシリサイド系材料(ZrSi系材料)、モリブデンジルコニウムシリサイド系材料(MoZrSi系材料)であると、ウェットエッチングによる優れたパターン断面形状が得られやすいという点で好ましく、特にモリブデンシリサイド系材料(MoSi系材料)であると好ましい。
また、位相シフト膜30には、上述した酸素、窒素の他に、膜応力の低減やウェットエッチングレートを制御する目的で、炭素やヘリウム等の他の軽元素成分を含有してもよい。
位相シフト膜30は、透明基板20側から入射する光に対する反射率(以下、裏面反射率と記載する場合がある)を調整する機能と、露光光に対する透過率と位相差とを調整する機能とを有する。
位相シフト膜30は、スパッタリング法により形成することができる。
【0023】
この位相シフト膜30の押し込み硬さは、18GPa以上23GPa以下である。この押し込み硬さは、ISO14577で制定されているナノインデンテーション法の原理を用いて測定される硬さである。
この位相シフト膜30の押し込み硬さを18GPa以上23GPa以下とすることにより、ウェットエッチング液を用いたウェットエッチングの際、位相シフト膜30の膜厚方向にウェットエッチング液が浸透しやすくなるので、ウェットエッチング速度が速くなり、ウェットエッチング時間を短縮することができる。また、位相シフト膜30としての好適な特性を備えたうえで、良好な断面形状を有する位相シフト膜パターン30aが形成でき、透明基板20の表面荒れを抑制できるとともに、位相シフト膜30の洗浄耐性を高めることができる。
この位相シフト膜30は柱状構造を有している。この柱状構造は、位相シフト膜30を断面SEM観察により確認することができる。すなわち、本発明における柱状構造は、位相シフト膜30を構成する遷移金属とケイ素とを含有する遷移金属シリサイド化合物の粒子が、位相シフト膜30の膜厚方向(上記粒子が堆積する方向)に向かって伸びる柱状の粒子構造を有する状態をいう。
【0024】
位相シフト膜30に含まれる遷移金属とケイ素の原子比率は、遷移金属:ケイ素=1:3以上1:15以下であることが好ましい。
この範囲であると、位相シフト膜30のパターン形成時におけるウェットエッチングレート低下を、押し込み硬さを18GPa以上23GPa以下としたことにより抑制する効果を大きくすることができる。また、位相シフト膜30の洗浄耐性を高めることができ、透過率を高めることも容易となる。位相シフト膜30の洗浄耐性を高める視点からは、位相シフト膜30に含まれる遷移金属とケイ素の原子比率は、遷移金属:ケイ素=1:4以上1:15以下、さらに好ましくは、遷移金属:ケイ素=1:5以上1:15以下が望ましい。
【0025】
露光光に対する位相シフト膜30の透過率は、位相シフト膜30として必要な値を満たす。位相シフト膜30の透過率は、露光光に含まれる所定の波長の光(以下、代表波長という)に対して、好ましくは、1%以上80%以下であり、より好ましくは、15%以上65%以下であり、さらに好ましくは20%以上60%以下である。すなわち、露光光が313nm以上436nm以下の波長範囲の光を含む複合光である場合、位相シフト膜30は、その波長範囲に含まれる代表波長の光に対して、上述した透過率を有する。例えば、露光光がi線、h線およびg線を含む複合光である場合、位相シフト膜30は、i線、h線およびg線のいずれかに対して、上述した透過率を有する。
透過率は、位相シフト量測定装置などを用いて測定することができる。
【0026】
露光光に対する位相シフト膜30の位相差は、位相シフト膜30として必要な値を満たす。位相シフト膜30の位相差は、露光光に含まれる代表波長の光に対して、好ましくは、160°以上200°以下であり、より好ましくは、170°以上190°以下である。この性質により、露光光に含まれる代表波長の光の位相差を160°以上200°以下に変えることができる。このため、位相シフト膜30を透過した代表波長の光と透明基板20のみを透過した代表波長の光との間に160°以上200°以下の位相差が生じる。すなわち、露光光が313nm以上436nm以下の波長範囲の光を含む複合光である場合、位相シフト膜30は、その波長範囲に含まれる代表波長の光に対して、上述した位相差を有する。例えば、露光光がi線、h線およびg線を含む複合光である場合、位相シフト膜30は、i線、h線およびg線のいずれかに対して、上述した位相差を有する。
位相差は、位相シフト量測定装置などを用いて測定することができる。
【0027】
位相シフト膜30の裏面反射率は、365nm~436nmの波長域において15%以下であり、10%以下であると好ましい。また、位相シフト膜30の裏面反射率は、露光光にj線が含まれる場合、313nmから436nmの波長域の光に対して20%以下であると好ましく、17%以下であるとより好ましい。さらに好ましくは15%以下であることが望ましい。また、位相シフト膜30の裏面反射率は、365nm~436nmの波長域において0.2%以上であり、313nmから436nmの波長域の光に対して0.2%以上であると好ましい。
裏面反射率は、分光光度計などを用いて測定することができる。
【0028】
この位相シフト膜30は複数の層で構成されていてもよく、単一の層で構成されていてもよい。単一の層で構成された位相シフト膜30は、位相シフト膜30中に界面が形成され難く、断面形状を制御しやすい点で好ましい。一方、複数の層で構成された位相シフト膜30は、成膜のし易さ等の点で好ましい。
【0029】
エッチングマスク膜40は、位相シフト膜30の上側に配置され、位相シフト膜30をエッチングするエッチング液に対してエッチング耐性を有する(位相シフト膜30とエッチング選択性が異なる)材料からなる。また、エッチングマスク膜40は、露光光の透過を遮る機能を有してもよいし、さらに、位相シフト膜30側より入射される光に対する位相シフト膜30の膜面反射率が350nm~436nmの波長域において15%以下となるように膜面反射率を低減する機能を有してもよい。エッチングマスク膜40は、クロム(Cr)を含有するクロム系材料から構成される。クロム系材料として、より具体的には、クロム(Cr)、又は、クロム(Cr)と、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)のうちの少なくともいずれか1つを含有する材料が挙げられる。又は、クロム(Cr)と、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)のうちの少なくともいずれか1つとを含み、さらに、フッ素(F)を含む材料が挙げられる。例えば、エッチングマスク膜40を構成する材料として、Cr、CrO、CrN、CrF、CrCO、CrCN、CrON、CrCON、CrCONFが挙げられる。
エッチングマスク膜40は、スパッタリング法により形成することができる。
【0030】
エッチングマスク膜40が露光光の透過を遮る機能を有する場合、位相シフト膜30とエッチングマスク膜40とが積層する部分において、露光光に対する光学濃度は、好ましくは3以上であり、より好ましくは、3.5以上、さらに好ましくは4以上である。
光学濃度は、分光光度計またはODメーターなどを用いて測定することができる。
【0031】
エッチングマスク膜40は、機能に応じて組成が均一な単一の膜からなる場合であってもよいし、組成が異なる複数の膜からなる場合であってもよいし、厚さ方向に組成が連続的に変化する単一の膜からなる場合であってもよい。
【0032】
なお、
図1に示す位相シフトマスクブランク10は、位相シフト膜30上にエッチングマスク膜40を備えているが、位相シフト膜30上にエッチングマスク膜40を備え、エッチングマスク膜40上にレジスト膜を備える位相シフトマスクブランクについても、本発明を適用することができる。
【0033】
次に、この実施の形態1および2の位相シフトマスクブランク10の製造方法について説明する。
図1に示す位相シフトマスクブランク10は、以下の位相シフト膜形成工程とエッチングマスク膜形成工程とを行うことによって製造される。
図2に示す位相シフトマスクブランク10は、位相シフト膜形成工程によって製造される。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0034】
1.位相シフト膜形成工程
先ず、透明基板20を準備する。透明基板20は、露光光に対して透明であれば、合成石英ガラス、石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、低熱膨張ガラス(SiO2-TiO2ガラス等)などのいずれのガラス材料で構成されるものであってもよい。
【0035】
次に、透明基板20上に、スパッタリング法により、位相シフト膜30を形成する。
位相シフト膜30の成膜は、位相シフト膜30を構成する材料の主成分となる遷移金属とケイ素を含む遷移金属シリサイドターゲット、又は遷移金属とケイ素と酸素及び/又は窒素を含む遷移金属シリサイドターゲットをスパッタターゲットに使用して、例えば、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス及びキセノンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む不活性ガスからなるスパッタガス雰囲気、又は、上記不活性ガスと、酸素ガス、窒素ガス、二酸化炭素ガス、一酸化窒素ガス、二酸化窒素ガスからなる群より選ばれて酸素及び窒素を少なくとも含む活性ガスとの混合ガスからなるスパッタガス雰囲気で行われる。そして、位相シフト膜30は、スパッタリングを行う際における成膜室内のガス圧力が0.7Pa以上2.4Pa以下で形成する。ガス圧力の範囲をこのように設定することで、ナノインデンテーション法により導き出される押し込み硬さが18GPa以上23GPa以下となる位相シフト膜30を形成することができる。位相シフト膜30の押し込み硬さを18GPa以上23GPa以下とすることにより、後述するパターン形成時におけるサイドエッチングを抑制できるとともに、高エッチングレートを達成することができ、透明基板20の表面荒れを抑制することができる。ここで、遷移金属シリサイドターゲットの遷移金属とケイ素の原子比率は、遷移金属:ケイ素=1:3以上1:15以下であることが、ウェットエッチング速度の低下を、押し込み硬さを18GPa以上23GPa以下としたことにより抑制する効果が大きく、位相シフト膜30の洗浄耐性を高めることができ、透過率を高めることも容易となる等の点で、好ましい。
【0036】
位相シフト膜30の組成及び厚さは、位相シフト膜30が上記の位相差及び透過率となるように調整される。位相シフト膜30の組成は、スパッタターゲットを構成する元素の含有比率(例えば、遷移金属の含有率とケイ素の含有率との比)、スパッタガスの組成及び流量などにより制御することができる。位相シフト膜30の厚さは、スパッタパワー、スパッタリング時間などにより制御することができる。また、位相シフト膜30は、インライン型スパッタリング装置を使用して形成することが好ましい。スパッタリング装置がインライン型スパッタリング装置の場合、透明基板の搬送速度によっても、位相シフト膜30の厚さを制御することができる。このように、位相シフト膜30の酸素と窒素を含む軽元素成分の含有率が40原子%以上70原子%以下となるように制御を行う。
【0037】
位相シフト膜30が、単一の膜からなる場合、上述した成膜プロセスを、スパッタガスの組成及び流量を成膜プロセスの経過時間と共に変化させながら1回だけ行う。位相シフト膜30が、組成の異なる複数の膜からなる場合、上述した成膜プロセスを、成膜プロセス毎にスパッタガスの組成及び流量を変えて複数回行う。スパッタターゲットを構成する元素の含有比率が異なるターゲットを使用して位相シフト膜30を成膜してもよい。成膜プロセスを複数回行う場合、スパッタターゲットに印加するスパッタパワーを小さくすることができる。
【0038】
2.表面処理工程
遷移金属と、ケイ素と、酸素を含有する遷移金属シリサイド酸化物や、遷移金属と、ケイ素と、酸素と、窒素を含有する遷移金属シリサイド酸化窒化物などの酸素を含有する遷移金属シリサイド材料からなる位相シフト膜30を形成した後の位相シフト膜30について、遷移金属の酸化物の存在によるエッチング液による浸み込みを抑制するため、位相シフト膜30の表面酸化の状態を調整する表面処理工程を行うようにしてもよい。
位相シフト膜30の表面酸化の状態を調整する表面処理工程としては、酸性の水溶液で表面処理する方法、アルカリ性の水溶液で表面処理する方法、アッシング等のドライ処理で表面処理する方法などが挙げられる。
このようにして、実施の形態2の位相シフトマスクブランク10が得られる。実施の形態1の位相シフトマスクブランク10の製造には、以下のエッチングマスク膜形成工程をさらに行う。
【0039】
3.エッチングマスク膜形成工程
位相シフト膜30の表面の表面酸化の状態を調整する表面処理を必要に応じて行った後、スパッタリング法により、位相シフト膜30上にエッチングマスク膜40を形成する。エッチングマスク膜40は、インライン型スパッタリング装置を使用して形成することが好ましい。スパッタリング装置がインライン型スパッタリング装置の場合、透明基板20の搬送速度によっても、エッチングマスク膜40の厚さを制御することができる。
エッチングマスク膜40の成膜は、クロム又はクロム化合物(酸化クロム、窒化クロム、炭化クロム、酸化窒化クロム、酸化窒化炭化クロム等)を含むスパッタターゲットを使用して、例えば、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス及びキセノンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む不活性ガスからなるスパッタガス雰囲気、又は、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス及びキセノンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む不活性ガスと、酸素ガス、窒素ガス、一酸化窒素ガス、二酸化窒素ガス、二酸化炭素ガス、炭化水素系ガス、フッ素系ガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む活性ガスとの混合ガスからなるスパッタガス雰囲気で行われる。炭化水素系ガスとしては、例えば、メタンガス、ブタンガス、プロパンガス、スチレンガス等が挙げられる。そして、スパッタリングを行う際における成膜室内のガス圧力を調整することにより、エッチングマスク膜40を柱状構造にすることができる。これにより、後述するパターン形成時におけるサイドエッチングを抑制できるとともに、高エッチングレートを達成することができる。
【0040】
エッチングマスク膜40が、組成の均一な単一の膜からなる場合、上述した成膜プロセスを、スパッタガスの組成及び流量を変えずに1回だけ行う。エッチングマスク膜40が、組成の異なる複数の膜からなる場合、上述した成膜プロセスを、成膜プロセス毎にスパッタガスの組成及び流量を変えて複数回行う。エッチングマスク膜40が、厚さ方向に組成が連続的に変化する単一の膜からなる場合、上述した成膜プロセスを、スパッタガスの組成及び流量を成膜プロセスの経過時間と共に変化させながら1回だけ行う。
このようにして、実施の形態1の位相シフトマスクブランク10が得られる。
【0041】
なお、
図1に示す位相シフトマスクブランク10は、位相シフト膜30上にエッチングマスク膜40を備えているため、位相シフトマスクブランク10を製造する際に、エッチングマスク膜形成工程を行う。また、位相シフト膜30上にエッチングマスク膜40を備え、エッチングマスク膜40上にレジスト膜を備える位相シフトマスクブランクを製造する際は、エッチングマスク膜形成工程後に、エッチングマスク膜40上にレジスト膜を形成する。また、
図2に示す位相シフトマスクブランク10において、位相シフト膜30上にレジスト膜を備える位相シフトマスクブランクを製造する際は、位相シフト膜形成工程後に、レジスト膜を形成する。
【0042】
この実施の形態1の位相シフトマスクブランク10は、位相シフト膜30上にエッチングマスク膜40が形成されている。また、実施の形態2の位相シフトマスクブランク10は、位相シフト膜30が形成されている。いずれの実施の形態1、2の位相シフト膜30においても、押し込み硬さは、18GPa以上23GPa以下である。
【0043】
この実施の形態1および2の位相シフトマスクブランク10は、位相シフト膜30をウェットエッチングにより要求される微細な位相シフト膜パターン30aを形成する際に、良好な断面形状を有する位相シフト膜パターン30aが形成でき、透明基板20の表面荒れを抑制できるとともに、位相シフト膜30の洗浄耐性を高めることができる位相シフトマスクブランク10とすることができる。
【0044】
実施の形態3.4.
実施の形態3、4では、位相シフトマスクの製造方法について説明する。
【0045】
図3は実施の形態3にかかる位相シフトマスクの製造方法を示す模式図である。
図4は実施の形態4にかかる位相シフトマスクの製造方法を示す模式図である。
図3に示す位相シフトマスクの製造方法は、
図1に示す位相シフトマスクブランク10を用いて位相シフトマスクを製造する方法であり、以下の位相シフトマスクブランク10のエッチングマスク膜40上にレジスト膜を形成する工程と、レジスト膜に所望のパターンを描画・現像を行うことにより、レジスト膜パターン50を形成し(第1のレジスト膜パターン形成工程)、該レジスト膜パターン50をマスクにしてエッチングマスク膜40をウェットエッチングして、位相シフト膜30上にエッチングマスク膜パターン40aを形成する工程(第1のエッチングマスク膜パターン形成工程)と、該エッチングマスク膜パターン40aをマスクにして、位相シフト膜30をウェットエッチングして透明基板20上に位相シフト膜パターン30aを形成する工程(位相シフト膜パターン形成工程)と、を含む。そして、第2のレジスト膜パターン形成工程と、第2のエッチングマスク膜パターン形成工程とをさらに含む。
【0046】
図4に示す位相シフトマスクの製造方法は、
図2に示す位相シフトマスクブランク10を用いて位相シフトマスクを製造する方法であり、以下の位相シフトマスクブランク10の上にレジスト膜を形成する工程と、レジスト膜に所望のパターンを描画・現像を行うことにより、レジスト膜パターン50を形成し(第1のレジスト膜パターン形成工程)、該レジスト膜パターン50をマスクにして位相シフト膜30をウェットエッチングして、透明基板20上に位相シフト膜パターン30aを形成する工程(位相シフト膜パターン形成工程)と、を含む。
以下、実施の形態3および4にかかる位相シフトマスクの製造工程の各工程を詳細に説明する。
【0047】
実施の形態3にかかる位相シフトマスクの製造工程
1.第1のレジスト膜パターン形成工程
第1のレジスト膜パターン形成工程では、先ず、実施の形態1の位相シフトマスクブランク10のエッチングマスク膜40上に、レジスト膜を形成する。使用するレジスト膜材料は、特に制限されない。例えば、後述する350nm~436nmの波長域から選択されるいずれかの波長を有するレーザー光に対して感光するものであればよい。また、レジスト膜は、ポジ型、ネガ型のいずれであっても構わない。
その後、350nm~436nmの波長域から選択されるいずれかの波長を有するレーザー光を用いて、レジスト膜に所望のパターンを描画する。レジスト膜に描画するパターンは、位相シフト膜30に形成するパターンである。レジスト膜に描画するパターンとして、ラインアンドスペースパターンやホールパターンが挙げられる。
その後、レジスト膜を所定の現像液で現像して、
図3(a)に示されるように、エッチングマスク膜40上に第1のレジスト膜パターン50を形成する。
【0048】
2.第1のエッチングマスク膜パターン形成工程
第1のエッチングマスク膜パターン形成工程では、先ず、第1のレジスト膜パターン50をマスクにしてエッチングマスク膜40をエッチングして、第1のエッチングマスク膜パターン40aを形成する。エッチングマスク膜40は、クロム(Cr)を含むクロム系材料から形成される。エッチングマスク膜40が柱状構造を有している場合、エッチング速度が速く、サイドエッチングを抑制できる点で好ましい。エッチングマスク膜40をエッチングするエッチング液は、エッチングマスク膜40を選択的にエッチングできるものであれば、特に制限されない。具体的には、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むエッチング液が挙げられる。
その後、レジスト剥離液を用いて、又は、アッシングによって、
図3(b)に示されるように、第1のレジスト膜パターン50を剥離する。場合によっては、第1のレジスト膜パターン50を剥離せずに、次の位相シフト膜パターン形成工程を行ってもよい。
【0049】
3.位相シフト膜パターン形成工程
第1の位相シフト膜パターン形成工程では、第1のエッチングマスク膜パターン40aをマスクにして位相シフト膜30をウェットエッチングして、
図3(c)に示されるように、位相シフト膜パターン30aを形成する。位相シフト膜パターン30aとして、ラインアンドスペースパターンやホールパターンが挙げられる。位相シフト膜30をエッチングするエッチング液は、位相シフト膜30を選択的にエッチングできるものであれば、特に制限されない。例えば、フッ化アンモニウムとリン酸と過酸化水素とを含むエッチング液、フッ化水素アンモニウムと過酸化水素とを含むエッチング液が挙げられる。
ウェットエッチングは、位相シフト膜パターン30aの断面形状を良好にするために、位相シフト膜パターン30aにおいて透明基板20が露出するまでの時間(ジャストエッチング時間)よりも長い時間(オーバーエッチング時間)で行うことが好ましい。オーバーエッチング時間としては、透明基板20への影響等を考慮すると、ジャストエッチング時間に、そのジャストエッチング時間の10%の時間を加えた時間内とすることが好ましい。
【0050】
4.第2のレジスト膜パターン形成工程
第2のレジスト膜パターン形成工程では、先ず、第1のエッチングマスク膜パターン40aを覆うレジスト膜を形成する。使用するレジスト膜材料は、特に制限されない。例えば、後述する350nm~436nmの波長域から選択されるいずれかの波長を有するレーザー光に対して感光するものであればよい。また、レジスト膜は、ポジ型、ネガ型のいずれであっても構わない。
その後、350nm~436nmの波長域から選択されるいずれかの波長を有するレーザー光を用いて、レジスト膜に所望のパターンを描画する。レジスト膜に描画するパターンは、位相シフト膜30にパターンが形成されている領域の外周領域を遮光する遮光帯パターンや、位相シフト膜パターンの中央部を遮光する遮光帯パターンなどである。なお、レジスト膜に描画するパターンは、露光光に対する位相シフト膜30の透過率によっては、位相シフト膜パターン30aの中央部を遮光する遮光帯パターンがないパターンの場合もある。
その後、レジスト膜を所定の現像液で現像して、
図3(d)に示されるように、第1のエッチングマスク膜パターン40a上に第2のレジスト膜パターン60を形成する。
【0051】
5.第2のエッチングマスク膜パターン形成工程
第2のエッチングマスク膜パターン形成工程では、第2のレジスト膜パターン60をマスクにして第1のエッチングマスク膜パターン40aをエッチングして、
図3(e)に示されるように、第2のエッチングマスク膜パターン40bを形成する。第1のエッチングマスク膜パターン40aは、クロム(Cr)を含むクロム系材料から形成される。第1のエッチングマスク膜パターン40aをエッチングするエッチング液は、第1のエッチングマスク膜パターン40aを選択的にエッチングできるものであれば、特に制限されない。例えば、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むエッチング液が挙げられる。
その後、レジスト剥離液を用いて、又は、アッシングによって、第2のレジスト膜パターン60を剥離する。
このようにして、位相シフトマスク100が得られる。
なお、上記説明ではエッチングマスク膜40が、露光光の透過を遮る機能を有する場合について説明したが、エッチングマスク膜40が単に、位相シフト膜30をエッチングする際のハードマスクの機能のみを有する場合においては、上記説明において、第2のレジスト膜パターン形成工程と、第2のエッチングマスク膜パターン形成工程は行われず、位相シフト膜パターン形成工程の後、第1のエッチングマスク膜パターンを剥離して、位相シフトマスク100を作製する。
【0052】
この実施の形態3の位相シフトマスクの製造方法によれば、実施の形態1の位相シフトマスクブランクを用いるため、良好な断面形状を有する位相シフト膜パターン30aが形成でき、透明基板20の表面荒れを抑制できるとともに位相シフト膜30の洗浄耐性を高めることができる。従って、高精細な位相シフト膜パターン30aを精度よく転写することができる位相シフトマスク100を製造することができる。このように製造された位相シフトマスク100は、ラインアンドスペースパターンやコンタクトホールの微細化に対応することができる。
【0053】
実施の形態4にかかる位相シフトマスクの製造工程
1.レジスト膜パターン形成工程
レジスト膜パターン形成工程では、先ず、実施の形態2の位相シフトマスクブランク10の位相シフト膜30上に、レジスト膜を形成する。使用するレジスト膜材料は、実施の形態3で説明したのと同様である。なお、必要に応じてレジスト膜を形成する前に、位相シフト膜30と密着性を良好にするため、位相シフト膜30に表面改質処理を行なうようにしても構わない。上述と同様に、レジスト膜を形成した後、350nm~436nmの波長域から選択されるいずれかの波長を有するレーザー光を用いて、レジスト膜に所望のパターンを描画する。その後、レジスト膜を所定の現像液で現像して、
図4(a)に示されるように、位相シフト膜30上にレジスト膜パターン50を形成する。
2.位相シフト膜パターン形成工程
位相シフト膜パターン形成工程では、レジスト膜パターンをマスクにして位相シフト膜30をエッチングして、
図4(b)に示されるように、位相シフト膜パターン30aを形成する。位相シフト膜パターン30aや位相シフト膜30をエッチングするエッチング液やオーバーエッチング時間は、実施の形態3で説明したのと同様である。
その後、レジスト剥離液を用いて、又は、アッシングによって、レジスト膜パターン50を剥離する(
図4(c))。
このようにして、位相シフトマスク100が得られる。
この実施の形態4の位相シフトマスクの製造方法によれば、実施の形態2の位相シフトマスクブランクを用いるため、良好な断面形状を有する位相シフト膜パターン30aが形成でき、透明基板20の表面荒れを抑制できるとともに位相シフト膜30の洗浄耐性を高めることができる。従って、高精細な位相シフト膜パターン30aを精度よく転写することができる位相シフトマスク100を製造することができる。このように製造された位相シフトマスク100は、ラインアンドスペースパターンやコンタクトホールの微細化に対応することができる。
【0054】
実施の形態5.
実施の形態5では、表示装置の製造方法について説明する。表示装置は、上述した位相シフトマスクブランク10を用いて製造された位相シフトマスク100を用い、または上述した位相シフトマスク100の製造方法によって製造された位相シフトマスク100を用いる工程(マスク載置工程)と、表示装置上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程(露光工程)とを行うことによって製造される。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0055】
1.載置工程
載置工程では、実施の形態3で製造された位相シフトマスクを露光装置のマスクステージに載置する。ここで、位相シフトマスクは、露光装置の投影光学系を介して表示装置基板上に形成されたレジスト膜に対向するように配置される。
【0056】
2.パターン転写工程
パターン転写工程では、位相シフトマスク100に露光光を照射して、表示装置基板上に形成されたレジスト膜に位相シフト膜パターンを転写する。露光光は、365nm~436nmの波長域から選択される複数の波長の光を含む複合光や、365nm~436nmの波長域からある波長域をフィルターなどでカットし選択された単色光である。例えば、露光光は、i線、h線およびg線を含む複合光や、i線の単色光である。露光光として複合光を用いると、露光光強度を高くしてスループットを上げることができるため、表示装置の製造コストを下げることができる。
【0057】
この実施の形態3の表示装置の製造方法によれば、高解像度、微細なラインアンドスペースパターンやコンタクトホールを有する、高精細の表示装置を製造することができる。
なお、以上の実施形態においては、パターン形成用薄膜を有するフォトマスクブランクや転写パターンを有するフォトマスクとして、位相シフト膜を有する位相シフトマスクブランクや位相シフト膜パターンを有する位相シフトマスクを用いる場合を説明したが、これらに限定されるものではない。例えば、パターン形成用薄膜として遮光膜を有するバイナリマスクブランクや遮光膜パターンを有するバイナリマスクにおいても、本発明を適用することが可能である。
【実施例0058】
以下、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明するための、実施例1~4および比較例1、2について述べる。
A.位相シフトマスクブランクおよびその製造方法
実施例1~4および比較例1、2のそれぞれ(以下、単に各例という場合もある)について、位相シフトマスクブランクを製造するため、先ず、透明基板20として、1214サイズ(1220mm×1400mm)の合成石英ガラス基板を準備した。
【0059】
その後、各例において、合成石英ガラス基板を、主表面を下側に向けてトレイ(図示せず)に搭載し、インライン型スパッタリング装置のチャンバー内に搬入した。
透明基板20の主表面上に位相シフト膜30を形成するため、まず、第1チャンバー内に、アルゴン(Ar)ガスとヘリウム(He)ガスと窒素(N2)ガスを含む混合ガスを導入した。この導入時におけるスパッタリングガス圧力は、位相シフト膜が所定の透過率と位相差を満たす範囲内で、アルゴン(Ar)ガスとヘリウム(He)ガスと窒素(N2)ガスの流量を調整することにより、各例において異なる値とした(下記の表1を参照)。表1に示されるように、各実施例1~4におけるスパッタリングガス圧力は、0.7Pa以上2.4Pa以下の範囲を満たすものであり、比較例1、2におけるスパッタリングガス圧力は、0.7Pa以上2.4Pa以下の範囲を満たさないものであった。そして、各例において、モリブデンとケイ素を含む第1スパッタターゲット(モリブデン:ケイ素=1:9)に7.6kWのスパッタパワーを印加して、反応性スパッタリングにより、透明基板20の主表面上にモリブデンとケイ素と窒素を含有するモリブデンシリサイドの窒化物を堆積させて、位相シフト膜30を成膜した。各例において、位相シフト膜30の膜厚は、144nm~170nmであった。
【0060】
次に、各例において、位相シフト膜30付きの透明基板20を第2チャンバー内に搬入し、第2チャンバー内にアルゴン(Ar)ガスと窒素(N2)ガスとの混合ガスを導入した。そして、クロムからなる第2スパッタターゲットに1.5kWのスパッタパワーを印加して、反応性スパッタリングにより、位相シフト膜30上にクロムと窒素を含有するクロム窒化物(CrN)を形成した(膜厚15nm)。次に、第3チャンバー内を所定の真空度にした状態で、アルゴン(Ar)ガスとメタン(CH4:4.9%)ガスの混合ガスを導入し、クロムからなる第3スパッタターゲットに8.5kWのスパッタパワーを印加して、反応性スパッタリングによりCrN上にクロムと炭素を含有するクロム炭化物(CrC)を形成した(膜厚60nm)。最後に、第4チャンバー内を所定の真空度にした状態で、アルゴン(Ar)ガスとメタン(CH4:5.5%)ガスの混合ガスと窒素(N2)ガスと酸素(O2)ガスとの混合ガスを導入し、クロムからなる第4スパッタターゲットに2.0kWのスパッタパワーを印加して、反応性スパッタリングによりCrC上にクロムと炭素と酸素と窒素を含有するクロム炭化酸化窒化物(CrCON)を形成した(膜厚30nm)。以上のように、各例において、位相シフト膜30上に、CrN層とCrC層とCrCON層の積層構造のエッチングマスク膜40を形成した。
このようにして、各例において、透明基板20上に、位相シフト膜30とエッチングマスク膜40とが形成された位相シフトマスクブランク10を得た。
【0061】
各例において、得られた位相シフトマスクブランク10の位相シフト膜30(位相シフト膜30の表面について、レーザーテック社製のMPM-100により透過率、位相差を測定した。位相シフト膜30の透過率、位相差の測定には、同一のトレイにセットして作製された、合成石英ガラス基板の主表面上に位相シフト膜30が成膜された位相シフト膜付き基板(ダミー基板)を用いた。各例において、位相シフト膜30の透過率、位相差は、エッチングマスク膜40を形成する前に位相シフト膜付き基板(ダミー基板)をチャンバーから取り出し、測定した。その結果、各例において、透過率および位相差は、いずれも要求される範囲(透過率:波長405nmにおいて10~50%、位相差:波長405nmにおいて160°以上200°以下)を満たすものであった。
【0062】
また、各例において、得られた位相シフトマスクブランク10について、X線光電子分光法(XPS)による深さ方向の組成分析を行った。
各例において、位相シフトマスクブランク10に対するXPSによる深さ方向の組成分析結果において、位相シフト膜30は、透明基板20と位相シフト膜30との界面の組成傾斜領域、および、位相シフト膜30とエッチングマスク膜40との界面の組成傾斜領域を除いて、深さ方向に向かって、各構成元素の含有率はほぼ一定であった。また、各例において、モリブデンとケイ素の原子比率は、いずれも1:3以上1:15以下の範囲内であった。
【0063】
そして、各例において、得られた位相シフト膜30の押し込み硬さを測定した。具体的には、各例における位相シフト膜30に、測定位置50umピッチの6×6のマトリックス位置(36箇所)で設定して、各位置においてダイヤモンド圧子を備える特殊なプローブを最大0.5mNで押し込み、荷重の変化を測定した。各位置において得られた測定値から、異常値と最大値、最小値を取り除き、各例における押し込み硬さを算出した(表1を参照)。なお、異常値と最大値、最小値を取り除くことで、測定値に対して標準偏差が測定値の7%以下になることを確認した。
【0064】
表1に示されるように、実施例1~4における押し込み硬さは、18GPa以上23GPa以下を満たすものであり、比較例1、2における押し込み硬さは、18GPa以上23GPa以下を満たさないものであった。
【0065】
B.位相シフトマスクおよびその製造方法
上述のようにして製造された位相シフトマスクブランク10を用いて位相シフトマスク100を製造するため、先ず、各例において、位相シフトマスクブランク10のエッチングマスク膜40上に、レジスト塗布装置を用いてフォトレジスト膜を塗布した。
その後、加熱・冷却工程を経て、膜厚520nmのフォトレジスト膜を形成した。
その後、レーザー描画装置を用いてフォトレジスト膜を描画し、現像・リンス工程を経て、エッチングマスク膜上に、ホール径が1.5μmのホールパターンのレジスト膜パターンを形成した。
【0066】
その後、各例において、レジスト膜パターンをマスクにして、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むクロムエッチング液によりエッチングマスク膜をウェットエッチングして、第1のエッチングマスク膜パターン40aを形成した。
【0067】
その後、各例において、第1のエッチングマスク膜パターン40aをマスクにして、フッ化水素アンモニウムと過酸化水素との混合溶液を純水で希釈したモリブデンシリサイドエッチング液により位相シフト膜30をウェットエッチングして、位相シフト膜パターン30aを形成した。
このウェットエッチングは、断面形状を垂直化するためかつ要求される微細なパターンを形成するために、各例において、110%のオーバーエッチング時間で行った。
各例における位相シフト膜30のエッチングレートを表1に示す。表1に示されるように、比較例1におけるエッチングレートが最も小さい1.0nm/分であり、比較例2におけるエッチングレートが最も大きい12.0nm/分であった。
その後、レジスト膜パターンを剥離した。
【0068】
その後、各例において、レジスト塗布装置を用いて、第1のエッチングマスク膜パターン40aを覆うように、フォトレジスト膜を塗布した。
その後、加熱・冷却工程を経て、膜厚520nmのフォトレジスト膜を形成した。
その後、レーザー描画装置を用いてフォトレジスト膜を描画し、現像・リンス工程を経て、第1のエッチングマスク膜パターン40a上に、遮光帯を形成するための第2のレジスト膜パターン60を形成した。
【0069】
その後、第2のレジスト膜パターン60をマスクにして、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むクロムエッチング液により、転写パターン形成領域に形成された第1のエッチングマスク膜パターン40aをウェットエッチングした。
その後、第2のレジスト膜パターン60を剥離した。
また、各例において、薬液(硫酸過水(SPM)、アンモニア過水(SC1)、オゾン水)を用いた洗浄処理を適宜行った。
【0070】
このようにして、各例において、透明基板20上に、転写パターン形成領域にホール径が1.5μmの位相シフト膜パターン30aと、位相シフト膜パターン30aとエッチングマスク膜パターン40bの積層構造からなる遮光帯が形成された位相シフトマスク100を得た。
【0071】
【0072】
表1は、実施例1~4、比較例1、2における位相シフト膜30成膜時におけるスパッタリングガス圧力(Pa)、位相シフト膜30のエッチングレート(nm/分)、位相シフト膜30の押し込み硬さ(GPa)、ウェットエッチングによる透明基板20の表面荒れの有無、位相シフト膜30の洗浄耐性の結果、をそれぞれ示したものである。
【0073】
また、
図7は、実施例1~4、比較例1、2の位相シフトマスク100の位相シフト膜30における、エッチングレートと、スパッタリングガス圧力と、押し込み硬さとの関係を示すグラフである。
図7には、左側から右側に向かって(エッチングレートの小さい順に)、比較例1、実施例4、実施例3、実施例2、実施例1、比較例2における押し込み硬さ、スパッタリングガス圧力を示している。
図7に示されるように、位相シフト膜30におけるエッチングレートと、押し込み硬さ又はスパッタリングガス圧力との間に、相関が見られることが分かった。
【0074】
得られた位相シフトマスクの断面を走査型電子顕微鏡により観察した。その結果、実施例1~4、比較例2の位相シフトマスクの位相シフト膜パターン30aの断面形状は、65°~75°の範囲であり、いずれも位相シフト効果を十分に発揮できる断面形状を有していた。
図5は、実施例1~4の位相シフトマスク100の断面写真の一例であり、代表実施例1の位相シフトマスク100の断面写真である。
図5に示されるように、実施例1~4における位相シフトマスク100の露出した透明基板20の表面はスムースで、透明基板20の表面荒れによる透過率低下は無視できる状態であった。そのため、300nm以上500nm以下の波長範囲の光を含む露光光、より具体的には、i線、h線およびg線を含む複合光の露光光において、優れた位相シフト効果を有する位相シフトマスクが得られた。
このため、実施例1~4の位相シフトマスクを露光装置のマスクステージにセットし、表示装置上のレジスト膜に露光転写した場合、2.0μm未満の微細パターンを高精度に転写することができるといえる。
なお、
図5に示されるように、実施例1~4における位相シフトマスク100の位相シフト膜パターン30aには、いずれも柱状構造が見られた。
【0075】
これに対し、
図6に示されるように、比較例1における位相シフトマスク100の露出した透明基板20の表面は荒れており、目視においても白濁した状態であった。従って、透明基板20の表面荒れによる透過率の低下は著しかった。
このため、比較例1の位相シフトマスク100を露光装置のマスクステージにセットし、表示装置上のレジスト膜に露光転写した場合、2.0μm未満の微細パターンを転写することはできないことが予想される。
【0076】
また、比較例2における位相シフトマスク100の露出した透明基板20の表面はスムースで、透明基板20の表面荒れによる透過率低下は無視できる状態であった。しかしながら、位相シフトマスク100の洗浄で使用される薬液(硫酸過水(SPM)、アンモニア過水(SC1)、オゾン水)による、透過率変化量、位相差変化量が大きく、位相シフトマスク100に要求される透過率や位相差を満たさないものとなっていた。
このため、比較例2の位相シフトマスクを露光装置のマスクステージにセットし、表示装置上のレジスト膜に露光転写した場合、2.0μm未満の微細パターンを転写することはできないことが予想される。
なお、
図6に示されるように、比較例1における位相シフトマスク100の位相シフト膜パターン30aには、柱状構造が見られなかった。比較例2における位相シフトマスク100の位相シフト膜パターン30aにおいても同様であった。
【0077】
なお、上述の実施例では、遷移金属としてモリブデンを用いた場合を説明したが、他の遷移金属の場合でも上述と同等の効果が得られる。
また、上述の実施例では、表示装置製造用の位相シフトマスクブランクや、表示装置製造用の位相シフトマスクの例を説明したが、これに限られない。本発明の位相シフトマスクブランクや位相シフトマスクは、半導体装置製造用、MEMS製造用、プリント基板用等にも適用できる。また、パターン形成用薄膜として遮光膜を有するバイナリマスクブランクや遮光膜パターンを有するバイナリマスクにおいても、本発明を適用することが可能である。
また、上述の実施例では、透明基板のサイズが、1214サイズ(1220mm×1400mm×13mm)の例を説明したが、これに限られない。表示装置製造用の位相シフトマスクブランクの場合、大型(Large Size)の透明基板が使用され、該透明基板のサイズは、一辺の長さが、300mm以上である。表示装置製造用の位相シフトマスクブランクに使用する透明基板のサイズは、例えば、330mm×450mm以上2280mm×3130mm以下である。
また、半導体装置製造用、MEMS製造用、プリント基板用の位相シフトマスクブランクの場合、小型(Small Size)の透明基板が使用され、該透明基板のサイズは、一辺の長さが9インチ以下である。上記用途の位相シフトマスクブランクに使用する透明基板のサイズは、例えば、63.1mm×63.1mm以上228.6mm×228.6mm以下である。通常、半導体製造用、MEMS製造用は、6025サイズ(152mm×152mm)や5009サイズ(126.6mm×126.6mm)が使用され、プリント基板用は、7012サイズ(177.4mm×177.4mm)や、9012サイズ(228.6mm×228.6mm)が使用される。