(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189863
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】ゲノム編集初代B細胞ならびに作製方法および使用方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20221215BHJP
C12N 5/0781 20100101ALI20221215BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221215BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20221215BHJP
C12N 15/52 20060101ALI20221215BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20221215BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
C12N15/12
C12N5/0781 ZNA
C12N5/10
C12N15/09 100
C12N15/52 Z
C12N15/63 Z
C12N15/867 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022162584
(22)【出願日】2022-10-07
(62)【分割の表示】P 2019513999の分割
【原出願日】2017-09-12
(31)【優先権主張番号】62/393,512
(32)【優先日】2016-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】305023366
【氏名又は名称】リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】ブランデン エス.モリアリティ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ハンゼカー
(72)【発明者】
【氏名】マシュー ジョンソン
(72)【発明者】
【氏名】カナット ラオハラウィー
(57)【要約】
【課題】ゲノム工学法を用いるB細胞への治療遺伝子の送達、任意の標的化ヌクレアーゼの初代ヒトB細胞への使用を提供すること。
【解決手段】ゲノム編集初代B細胞、ゲノム編集初代B細胞の作製方法、初代B細胞に導入することができる治療用カセットならびにゲノム編集初代B細胞および治療用カセットの使用方法。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノム編集初代B細胞。
【請求項2】
CD19、IgM、IgD、CD27+、CD21+およびCXCR5+のうちの少なくとも1つのものを発現する細胞を含む、請求項1に記載のゲノム編集初代B細胞。
【請求項3】
末梢血、臍帯細胞、腹水または固形腫瘍から単離された細胞を含む、請求項1または2のいずれかに記載のゲノム編集初代B細胞。
【請求項4】
非クローン性細胞を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のゲノム編集初代B細胞。
【請求項5】
増殖性細胞を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のゲノム編集初代B細胞。
【請求項6】
哺乳動物細胞である、請求項1~5のいずれか1項に記載のゲノム編集初代B細胞。
【請求項7】
内在遺伝子が欠失している、請求項1~6のいずれか1項に記載のゲノム編集初代B細胞。
【請求項8】
内在遺伝子が点変異を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のゲノム編集初代B細胞。
【請求項9】
外来遺伝子を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のゲノム編集初代B細胞。
【請求項10】
前記内在遺伝子および前記外来遺伝子のうちの少なくとも一方が、B細胞受容体(BCR)の少なくとも一部分をコードする核酸を含む、請求項7~9のいずれか1項に記載のゲノム編集初代B細胞。
【請求項11】
非ゲノム編集初代B細胞に比して内在性B細胞受容体(BCR)の発現の減少を示す、請求項1~10のいずれか1項に記載のゲノム編集初代B細胞。
【請求項12】
CD19の発現または活性を変化させる修飾を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載のゲノム編集初代B細胞。
【請求項13】
B細胞受容体(BCR)をコードする核酸と過剰発現させる遺伝子をコードする核酸とを含む治療用カセットを含む、請求項1~12のいずれか1項に記載のゲノム編集初代B細胞。
【請求項14】
対象に請求項1~13のいずれか1項に記載のゲノム編集初代B細胞を含む組成物を投与することを含む、方法。
【請求項15】
対象の疾患を治療または予防することを含み、前記疾患が、酵素異常症、癌、前癌状態、病原体による感染症またはウイルス感染症を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
B細胞受容体(BCR)をコードする核酸と、過剰発現させる遺伝子をコードする核酸とを含む、治療用カセット。
【請求項17】
前記過剰発現させる遺伝子が、酵素をコードする核酸を含む、請求項16に記載の治療用カセット。
【請求項18】
前記酵素が、酵素異常症を有する対象に欠如している酵素を含む、請求項17に記載の治療用カセット。
【請求項19】
前記BCRをコードする核酸と前記過剰発現させる遺伝子をコードする核酸が、転写的に結合しているか、翻訳的に結合しているか、またはその両方である、請求項16~18のいずれか1項に記載の治療用カセット。
【請求項20】
前記BCRをコードする核酸および前記過剰発現させる遺伝子をコードする核酸の転写を駆動するプロモーターを含む、請求項16~19のいずれか1項に記載の治療用カセット。
【請求項21】
請求項16~20のいずれか1項に記載の治療用カセットを含む、ベクター。
【請求項22】
レンチウイルスベクターを含む、請求項20に記載のベクター。
【請求項23】
BaEV-偽型レンチウイルスベクター、VSVg-偽型レンチウイルスベクター、FAM1レンチウイルスベクターおよびFAM2レンチウイルスベクターのうちの少なくとも1つのものを含む、請求項21または22のいずれかに記載のベクター。
【請求項24】
請求項16~20のいずれか1項に記載の治療用カセットを含む、細胞。
【請求項25】
初代B細胞を含む、請求項24に記載の細胞。
【請求項26】
対象に請求項24または25のいずれかに記載の細胞を投与することを含む、方法。
【請求項27】
前記対象に抗原を投与することをさらに含み、前記治療用カセットの前記BCRが前記抗原に特異的なものである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
初代B細胞のゲノムを編集することを含む方法であって、前記初代B細胞が、CD19、IgM、IgD、CD27+、CD21+およびCXCR5+のうちの少なくとも1つのものを発現する細胞を含む、方法。
【請求項29】
前記初代B細胞に外来性のタンパク質または核酸を導入することを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記細胞のエレクトロポレーションを含む、請求項28または29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
標的化ヌクレアーゼまたは標的化ヌクレアーゼをコードする核酸を導入することを含む、請求項28~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記初代B細胞を活性化、刺激および増殖の段階のうち少なくとも1つのものに供することをさらに含む、請求項28~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記初代B細胞を活性化、刺激および増殖の段階のうち少なくとも1つのものに供することと、
前記初代B細胞に外来性タンパク質または外来性核酸を導入するための前記細胞のエレクトロポレーションと
を含む、請求項32に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(継続出願データ)
本願は、2016年9月12日に出願された米国仮特許出願第62/393,512号の利益を主張するものであり、上記出願は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(配列表)
本願には、大きさが90.3キロバイトであり2017年9月12日に作成された「110-05460201_ST25.txt」と題するASCIIテキストファイルとしてEFS-Webから電子形式で米国特許商標庁に提出された配列表が含まれる。配列表を電子形式で出願することによって、電子形式で提出された配列表は、37 CFR 1.821(c)により義務付けられている紙面コピーおよび1.821(e)により義務付けられているCRFの両方の役割を果たす。配列表の含まれている情報は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
Bリンパ球は、特異的抗原性エピトープを認識するクローン的に多様な細胞表面免疫グロブリン(Ig)受容体を発現する細胞集団であるとされる適応免疫系の構成要素のひとつである。B細胞成熟の過程は、大部分がヒトとマウスとの間で保存されている。正常なB細胞発生に調節異常があると、先天性免疫不全、自己免疫疾患、さらには白血病またはリンパ腫を引き起こすことがある。B細胞は、最初に抗原に曝露してから数十年にわたって持続する防御的抗体を産生することができる。免疫感作後、長期生存形質細胞が生じることによって、抗原反応性Igが何年もの間にわたって検出される。この長期生存形質細胞は、増殖しない長期生存抗体産生細胞、または抗体成熟の段階で胚中心から生じる細胞から生じ得る。このような形質細胞は何年もの間生存し、さらには数十年もの間生存する可能性があると考えられている。
【発明の概要】
【0004】
本開示には、ゲノム編集初代B細胞、ゲノム編集初代B細胞の作製方法、初代B細胞に導入することができる治療用カセットならびにゲノム編集初代B細胞および治療用カセットの使用方法が記載される。
【0005】
一態様では、本開示にはゲノム編集初代B細胞が記載される。いくつかの実施形態では、B細胞は、CD19、IgM、IgD、CD27、CD21およびCXCR5のうち少なくとも1つのものを発現する細胞を含む。
【0006】
いくつかの実施形態では、B細胞は、末梢血、臍帯細胞、腹水または固形腫瘍から単離される細胞を含む。いくつかの実施形態では、B細胞は、非クローン性細胞、増殖性細胞、哺乳動物細胞および/またはヒト細胞を含む。
【0007】
ゲノム編集初代B細胞のいくつかの実施形態では、内在遺伝子が欠失しており、ある遺伝子が点変異を含み、かつ/または細胞が外来遺伝子を含む。遺伝子は、B細胞受容体(BCR)の少なくとも一部分をコードする核酸を含み得る。
【0008】
いくつかの実施形態では、B細胞は、非ゲノム編集初代B細胞に比して内在性B細胞受容体(BCR)の発現の減少を示す。
【0009】
いくつかの実施形態では、B細胞は、CD19の発現または活性を変化させる修飾を含む。いくつかの実施形態では、B細胞は、ゲノムの非コード領域の修飾を含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集初代B細胞は、非ゲノム編集初代B細胞に比して生存能の増大を示す。
【0011】
別の態様では、本開示には、対象にゲノム編集初代B細胞を含む組成物を投与することを含む方法が記載される。いくつかの実施形態では、この方法は、対象の疾患を治療または予防することを含み、疾患は、例えば、酵素異常症、癌、前癌状態、病原体による感染症またはウイルス感染症を含み得る。
【0012】
別の態様では、本開示には、B細胞受容体(BCR)をコードする核酸と、過剰発現させる遺伝子をコードする核酸とを含む、治療用カセットが記載される。B細胞受容体は膜貫通領域を含み得る。過剰発現させる遺伝子は酵素をコードする核酸を含み得る。いくつかの実施形態では、酵素は、酵素異常症を有するか、酵素異常症であると診断された対象に欠如している酵素を含む。いくつかの実施形態では、BCRをコードする核酸と過剰発現させる遺伝子をコードする核酸は、転写的に連結しているか、翻訳的に連結しているか、またはその両方である。
【0013】
いくつかの実施形態では、治療用カセットは、BCRをコードする核酸および過剰発現させる遺伝子をコードする核酸の転写を駆動するプロモーターを含む。
【0014】
別の態様では、本開示には、治療用カセットを含む細胞が記載される。いくつかの実施形態では、細胞はB細胞および/または長期生存形質細胞を含む。細胞は、内在性B細胞受容体(BCR)をコードする核酸の修飾を含み得る。
【0015】
さらなる態様では、本開示には、治療用カセットを含む細胞を投与することを含む、方法が記載される。いくつかの実施形態では、この方法は、対象に抗原を投与することも含むものであり得、治療用カセットのBCRは抗原に特異的なものである。
【0016】
さらに別の態様では、本開示には、初代B細胞のゲノムを編集することを含む方法が記載される。初代B細胞は、CD19を発現する細胞;IgMもしくはIgDまたはその組合せを発現する細胞;CD27+細胞;CD21+細胞;ならびに/あるいはCXCR5+細胞を含み得る。いくつかの実施形態では、初代B細胞は、末梢血、臍帯細胞、腹水もしくは固形腫瘍から単離された細胞;非クローン性細胞;増殖性細胞;哺乳動物細胞;および/またはヒト細胞を含み得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、この方法は、初代B細胞に外来性のタンパク質または核酸を導入することを含む。この方法は、細胞のエレクトロポレーションを含み得る。いくつかの実施形態では、この方法は、標的化ヌクレアーゼまたは標的化ヌクレアーゼをコードする核酸(例えば、Cas9またはCas9をコードする核酸を含む)を導入することを含む。いくつかの実施形態では、この方法はガイドRNA(gRNA)を導入することを含む。gRNAは化学修飾されたgRNAを含み得る。化学修飾されたgRNAは、2’-O-メチル(M)、2’-O-メチル-3’-ホスホロチオアート(MS)または2’-O-メチル-3’-チオホスホノアセタート(MSP)を含み得る。
【0018】
いくつかの実施形態では、この方法は、ナトロノバクテリウム・グレゴリー(Natronobacterium gregoryi)アルゴノート(NgAgo)およびガイドDNA(gDNA)を導入することを含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、ゲノムを編集することは、例えばCD19をコードする核酸を含む遺伝子を編集すること;B細胞受容体(BCR)の一部分をコードする核酸を編集すること;および/またはゲノムの非コード領域を編集することを含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、この方法は、B細胞を選択することをさらに含む。いくつかの実施形態では、ゲノムを編集した後に選択を実施する。いくつかの実施形態では、B細胞を編集されたゲノムに関して選択する。
【0021】
いくつかの実施形態では、この方法は、初代B細胞を活性化、刺激および増殖の段階のうち少なくとも1つのものに供する。
【0022】
「好ましい」および「好ましくは」という単語は、特定の状況下で特定の利益をもたらし得る本発明の実施形態を指す。ただし、同じまたは別の状況下でそれ以外の実施形態が好ましい場合もある。さらに、1つまたは複数の好ましい実施形態が記載される場合、それは他の実施形態が有用ではないことを意味するのではなく、また他の実施形態を本発明の範囲から除外することを意図するものではない。
【0023】
「comprises」(「含む」)という用語およびその変化形は、それらの用語が説明および請求項に見られる場合に限定的な意味を有するものではない。
【0024】
特に明記されない限り、「a」、「an」(以上、1つの)、「the」(その)および「at least one」(少なくとも1つの)は互換的に使用され、1つまたは2つ以上という意味である。
【0025】
本明細書ではほかにも、数値の範囲が終点によって記載される場合、その範囲内に含まれるあらゆる数値が含まれる(例えば、1~5には、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などが含まれる)。
【0026】
本明細書に開示される個別の段階を含むいずれの方法に関しても、実行可能な順序で諸段階を実施してよい。また、適宜、2つ以上の段階を任意に組み合わせて同時に実施してもよい。
【0027】
見出しはいずれも読者の便宜を図ったものであり、特に明記されない限り、見出しに続く本文の意味を限定するために用いるべきものではない。
【0028】
特に明示されない限り、明細書および請求項で使用される成分、分子量などの量を表すあらゆる数値は、いかなる場合も「約」という用語が修飾しているものと理解されるべきである。したがって、特にそうでないことが明示されない限り、明細書および請求項に記載される数値パラメータは近似値であり、本発明によって得ようとする所望の特性に応じて変化し得るものである。よくても、請求項の範囲に対する均等論を制限しようとするものではないが、各数値パラメータは少なくとも、報告される有効数字の数値を考慮に入れ、通常の丸め法を適用することによって解釈されるべきである。
【0029】
本発明の広い範囲を記載する数値の範囲およびパラメータは近似値ではあるが、具体例に記載される数値は可能な限り正確に報告される。ただし、いかなる数値にも本来、その各試験測定値にみられる標準偏差から必然的に生じる範囲が含まれている。
【0030】
上の本発明の概要は、開示される本発明の各実施形態または本発明のあらゆる実施を記載することを意図するものではない。以下の説明では、例示的実施形態をさらに具体的に例示する。本願全体を通じていくつかの箇所では、例のリストにより指針が示され、その例を様々な組合せで用いることができる。いずれの場合も、記載されるリストは単に代表的なグループとしての役割を果たすものであって、排他的なリストとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】刺激初代ヒトB細胞へのeGFPをコードするmRNAの送達を示す図である。(A)生存細胞にゲートをかけた後のeGFP陽性B細胞のパーセントを示すヒストグラム。(B)パネルAに示されるB細胞の生存率をAPC e-Fluor 780 Fixable Viability Dyeに基づき定量化したフロープロット。
【
図2】化学修飾gRNAおよびCas9 mRNAまたはタンパク質で処理し刺激した初代ヒトB細胞から得たsurveyor nucleaseアッセイの例示的結果を示す図である。トランスフェクションから3日後にDNAを抽出した。遺伝子修飾率の記載されてないレーンには簡略化のため表示されていないが、編集が0%であったことを示している。各レーンには、用いた条件を示すキーとともに(左から右へ)1~5の番号が付されている。各画像の下には標的遺伝子が括弧内に記されている。
【
図3】BCR重鎖遺伝子座での標的化遺伝子組込みのいくつかの例示的実施形態の模式図を示す図である。(A)エンハンサー、D、Jおよび定常エクソンを示すBCR重鎖遺伝子座の略図。導入遺伝子組込みに提案される部位が示されている。(B)BCR重鎖遺伝子座での遺伝子送達のためのカーゴ設計の2つの実施形態の略図。P2A:cDNAを転写的に連結するリボソームスキップ配列、pA:ポリアデニル化配列、スプライスacc:強力なスプライスアクセプターエレメント。
【
図4】初代ヒトB細胞のレンチウイルス形質導入の例示的結果を示す図である。等高線図は、APC e-Fluor780 Fixable Viability Dyeに基づき生存細胞にゲートをかけた後のeGFP発現B細胞のパーセントを示している。実施例2に記載される通りに、急性刺激したB細胞培養物(上の行)、慢性刺激したB細胞培養物(中央の行)および未刺激のB細胞培養物(下の行)でBaEV-偽型(Fusilら,Molecular Therapy,2015,23(11):1734-47)(左の列)、VSVg-偽型(中央の列)およびレンチウイルス無しの対照(右の列)を試験した。いずれの条件でも、BaEV偽型ウイルスを用いた場合に、標準的なVSVg偽型で形質導入した細胞よりも効率的にB細胞に形質導入された。
【
図5】初代ヒトB細胞培養物のCD19遺伝子をノックアウトした後の例示的なCD19タンパク質の細胞表面発現を示す図である。刺激したB細胞にNEONトランスフェクションシステム(1400ボルト、10ミリ秒(ms)、3パルス)を用いてCas9 mRNAおよび化学修飾gRNA(TriLink社)をエレクトロポレートすることにより、CD19遺伝子座を標的化した。CD19の対照レベルを示すため、gRNAを加えないCas9 mRNAの試料およびエレクトロポレーション無しの試料を含めた。エレクトロポレーションから5日後、フローサイトメトリーによりCD19発現を測定した。(A)Cas9+rRNAで処理した細胞(実線)でのCD19発現をCas9単独で処理した細胞(破線)および無エレクトロポレーション対照(灰色無地の背景)に対して示したヒストグラム。(B)CD19の細胞表面発現が、Cas9単独で処理した細胞および無エレクトロポレーション対照の96~98%からCas9とCD19 gRNAで処理したB細胞の38%に減少した。
【
図6A-B】初代ヒトB細胞を操作して抗体を発現させるのに用いた治療用カセットをコードするプラスミドの例示的ベクター構築物を示す図である。これらのプラスミドは、B細胞の成熟状態に応じて膜結合B細胞受容体(BCR)または分泌抗体を発現させる。(A)MNDプロモーターの制御下で抗PEの重鎖および軽鎖ならびにコドン最適化アルファ-L-イズロニダーゼ(coIDUA)を発現するよう構築したレンチウイルスベクターの模式図。P2Aペプチド配列を導入することにより、重鎖、軽鎖およびcoIDUAを同時発現させた。配列を表3に示す。(B)抗PE B細胞受容体(BCR)/抗体を発現するよう修飾したFAM1レンチウイルスベクターおよびFAM2レンチウイルスベクター(原型はFusilら,Molecular Therapy,2015,23(11):1734-47に記載されている)の模式図。配列を表6および8に示す。(C)MNDプロモーターの制御下でB12の重鎖および軽鎖ならびにコドン最適化IDUA(coIDUA)を発現するよう構築したレンチウイルスベクターの模式図。P2Aペプチド配列を導入することにより、重鎖、軽鎖およびcoIDUAを同時発現させた。配列を表4に示す。(D)B12 B細胞受容体(BCR)/抗体を発現するよう修飾したFAM1レンチウイルスベクターおよびFAM2レンチウイルスベクター(原型はFusilら,Molecular Therapy,2015,23(11):1734-47に記載されている)の模式図。配列を表5および7に示す。
【
図6C-D】初代ヒトB細胞を操作して抗体を発現させるのに用いた治療用カセットをコードするプラスミドの例示的ベクター構築物を示す図である。これらのプラスミドは、B細胞の成熟状態に応じて膜結合B細胞受容体(BCR)または分泌抗体を発現させる。(A)MNDプロモーターの制御下で抗PEの重鎖および軽鎖ならびにコドン最適化アルファ-L-イズロニダーゼ(coIDUA)を発現するよう構築したレンチウイルスベクターの模式図。P2Aペプチド配列を導入することにより、重鎖、軽鎖およびcoIDUAを同時発現させた。配列を表3に示す。(B)抗PE B細胞受容体(BCR)/抗体を発現するよう修飾したFAM1レンチウイルスベクターおよびFAM2レンチウイルスベクター(原型はFusilら,Molecular Therapy,2015,23(11):1734-47に記載されている)の模式図。配列を表6および8に示す。(C)MNDプロモーターの制御下でB12の重鎖および軽鎖ならびにコドン最適化IDUA(coIDUA)を発現するよう構築したレンチウイルスベクターの模式図。P2Aペプチド配列を導入することにより、重鎖、軽鎖およびcoIDUAを同時発現させた。配列を表4に示す。(D)B12 B細胞受容体(BCR)/抗体を発現するよう修飾したFAM1レンチウイルスベクターおよびFAM2レンチウイルスベクター(原型はFusilら,Molecular Therapy,2015,23(11):1734-47に記載されている)の模式図。配列を表5および7に示す。
【
図7】NEONトランスフェクションシステムを用いて初代ヒトB細胞にeGFPをコードするDNAまたはRNAをトランスフェクトする効果に対する例示的エレクトロポレーションの設定の影響を示す図である。(A)試験した条件、すなわち、電圧(ボルト);幅(ミリ秒(ms))およびパルス回数のリストを示している。(B)GFPをコードするプラスミド(左の列)またはGFPをコードするmRNA(右の列)を用いて、トランスフェクションの効果(上の行)、細胞生存率(中央の行)および総細胞カウント数(下の行)に対するエレクトロポレーション条件の影響を試験した。
【
図8】実施例2に記載される通りにAlt-R CRISPR-Cas9システムを用いたBCL2遺伝子座でのインデル形成の例示的結果を示す図である。NEONトランスフェクションシステム(1400ボルト、10ms、3パルス)を用いて、初代ヒトB細胞にBCL-2遺伝子座を標的とするAlt-R CRISPR-Cas9システム(Integrated DNA Technology社、コーラルビル、アイオワ州)をエレクトロポレートした。TIDEプログラム(tide.nki.nlのワールドワイドウェブで利用可能)を用いたシーケンシング解析により、総編集効率が11.3%であることがわかった(R
2=0.89)。編集の大部分には1ヌクレオチドの挿入または9ヌクレオチドの欠失が含まれているのが観察された。
【
図9】末梢血単核球から単離したCD19
+細胞由来の成熟ナイーブ様B細胞をCD40L架橋抗体(Miltenyi Biotech社、サンディエゴ、カリフォルニア州)およびIL-4で活性化させた後の増殖および拡大に対する細胞密度の影響を示す図である。HSC Expansion Media(Miltenyi Biotech社、サンディエゴ、カリフォルニア州)に高密度の濃度(1×10
6細胞/mL)で播いた細胞は、第14日までの拡大が、低密度の濃度(2×10
5細胞/mL)で播いた細胞で観察された30倍の増加と比較して最小限のものであった。
【
図10-A】実施例2に詳細に記載されるエレクトロポレーションから3日後のHEK 293T細胞の例示的(A)細胞内IDUA活性および(B)分泌IDUA活性を示す図である。
【
図10-B】実施例2に詳細に記載されるエレクトロポレーションから3日後のHEK 293T細胞の例示的(A)細胞内IDUA活性および(B)分泌IDUA活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(詳細な説明)
B細胞は、長期生存型になることができ、本来大量のタンパク質(すなわち、抗体)を産生する能力を有することから、例えば酵素異常症の治療を含めた遺伝子治療に理想的なプラットフォームになるものと思われる。B細胞はまた、末梢血中に容易に得ることができ(白血球全体の1~7%を占める)、細胞を拡大する方法も容易に利用することができる。さらに、データから、細胞はタンパク質よりも容易に血液脳関門を通過し、このため、脳に及ぶ酵素異常症には酵素補充療法よりも細胞療法の方が望ましいものとなる可能性が示唆されている。しかし、ゲノム工学法を用いるB細胞への治療遺伝子の送達も、任意の標的化ヌクレアーゼの初代ヒトB細胞への使用もこれまで報告されていない。
【0033】
本開示には、ゲノム編集初代B細胞;ゲノム編集初代B細胞の作製方法;および例えば細胞の投与を含めたゲノム編集初代B細胞の使用方法が記載される。本開示にはさらに、初代B細胞に導入することができる治療用カセット、治療用カセットの作製方法、治療用カセットを含むB細胞の作製方法および治療用カセットの使用方法が記載される。
【0034】
B細胞
いくつかの実施形態では、B細胞はCD19+細胞であり得る。いくつかの実施形態では、B細胞は初代B細胞であり得る。本明細書で使用される「初代B細胞」は非不死化B細胞である。いくつかの実施形態では、「初代B細胞」は新たに単離したB細胞である。いくつかの実施形態では、B細胞は末梢血単核球(PBMC)から単離したものであり得る。いくつかの実施形態では、B細胞はiPSCから誘導したものであり得る。いくつかの実施形態では、B細胞はCD34+細胞の集団から誘導したものであり得る。
【0035】
いくつかの実施形態では、「初代B細胞」は、単離してから最大5回の複製もしくは分裂、単離してから最大10回の複製もしくは分裂、単離してから最大15回の複製もしくは分裂、単離してから最大20回の複製もしくは分裂、単離してから最大25回の複製もしくは分裂、単離してから最大30回の複製もしくは分裂、単離してから最大35回の複製もしくは分裂、または単離してから最大40回を経たB細胞である。
【0036】
いくつかの実施形態では、「初代B細胞」は、誘導してから最大5回の複製もしくは分裂、誘導してから最大10回の複製もしくは分裂、誘導してから最大15回の複製もしくは分裂、誘導してから最大20回の複製もしくは分裂、誘導してから最大25回の複製もしくは分裂、誘導してから最大30回の複製もしくは分裂、誘導してから最大35回の複製もしくは分裂、または誘導してから最大40回を経たB細胞である。
【0037】
いくつかの実施形態では、初代B細胞は非クローン性細胞である。いくつかの実施形態では、初代B細胞は増殖性細胞である。いくつかの実施形態では、B細胞をCD40Lの存在下で培養するのが好ましい。
【0038】
いくつかの実施形態では、B細胞はナイーブB細胞であり得る。いくつかの実施形態では、「ナイーブB細胞」は、CD19+、IgD+、IgM+、CD27-、CD21+および/またはCXCR5+である。いくつかの実施形態では、B細胞は記憶B細胞であり得る。いくつかの実施形態では、「記憶B細胞」は、CD19+、IgD-、CD27+、CD21+および/またはCXCR5+である。いくつかの実施形態では、B細胞は活性化記憶B細胞であり得る。いくつかの実施形態では、「活性化記憶B細胞」は、CD19+、IgD-、CD27+、CD21-および/またはCXCR5+である。いくつかの実施形態では、B細胞は天然のエフェクターB細胞であり得る。いくつかの実施形態では、「天然のエフェクターB細胞」は、CD19+、IgD+、IgM+および/またはCD27+である。いくつかの実施形態では、B細胞は形質芽球であり得る。いくつかの実施形態では、「形質芽球」は、CD19+、CXCR5-、CD38+、CD27-および/またはCD20-である。
【0039】
いくつかの実施形態では、B細胞は、クラススイッチ組換えを経たB細胞であり得る。いくつかの実施形態では、B細胞は、クラススイッチ組換えを経ていないB細胞であり得る。
【0040】
いくつかの実施形態では、B細胞は哺乳動物細胞である。いくつかの実施形態では、B細胞はヒト細胞であるのが好ましい。いくつかの実施形態では、B細胞はマウス細胞である。
【0041】
ゲノム編集初代B細胞
初代B細胞が、そのゲノムに非ゲノム編集B細胞と比較して修飾を含む場合、その初代B細胞は「ゲノム編集された」ものである。いくつかの実施形態では、非ゲノム編集B細胞は野生型B細胞である。いくつかの実施形態では、非ゲノム編集B細胞は新たに単離したB細胞である。
【0042】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集初代B細胞は、ゲノムの非コード領域および/またはゲノムのコード領域(例えば、遺伝子)に修飾を含む。いくつかの実施形態では、ゲノムの非コード領域は、例えばマイクロRNA(miRNA)を含めた小型の調節非コードRNAの配列を含み得る。いくつかの実施形態では、ゲノムの非コード領域は、B細胞の機能、活性化および/または生存の調節に関与するものであるのが好ましい。
【0043】
いくつかの実施形態では、ゲノム情報の一部分および/または遺伝子を欠失させ得る。いくつかの実施形態では、ゲノム情報の一部分および/または遺伝子を付加し得る。いくつかの実施形態では、付加するゲノム情報および/または遺伝子は外来性である。いくつかの実施形態では、「外来性の」ゲノム情報または「外来性の」遺伝子は、非B細胞由来のゲノム情報または遺伝子であり得る。いくつかの実施形態では、「外来性の」ゲノム情報または「外来性の」遺伝子は、B細胞中に既に存在するゲノム情報または遺伝子の追加のコピーであり得る。いくつかの実施形態では、「外来性の」ゲノム情報または「外来性の」遺伝子は、修飾するB細胞とは別の種の細胞由来のゲノム情報または遺伝子であり得る。いくつかの実施形態では、「外来性の」ゲノム情報または「外来性の」遺伝子は、例えばキメラ抗原受容体をコードする核酸を含めた人為的に作製したものであり得る。いくつかの実施形態では、ゲノム情報の一部分および/または遺伝子を例えば点変異によって変化させ得る。
【0044】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集初代B細胞は、ゲノム編集初代B細胞の発現または活性を非ゲノム編集初代B細胞に比して変化させる修飾を含むのが好ましい。例えば、いくつかの実施形態では、ゲノム編集初代B細胞は、のちにさらに説明するように、治療用カセットを含み得る。
【0045】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集初代B細胞は、内在性B細胞受容体(BCR)をコードする核酸の修飾を含むのが好ましい。いくつかの実施形態では、この修飾が内在性BCRの発現に修飾をもたらす。例えば、内在性BCRの発現が非ゲノム編集初代B細胞に比して抑制され得る。いくつかの実施形態では、内在性BCRの発現が非ゲノム編集初代B細胞に比して増強され得る。いくつかの実施形態では、ゲノム編集初代B細胞は、CD19をコードする核酸の修飾を含む。いくつかの実施形態では、ゲノム編集初代B細胞は、軽鎖をコードする核酸の修飾を含む。
【0046】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集初代B細胞は、サイトカインをコードする核酸の修飾を含む。サイトカインは、例えば、IL-10、IL-4、IL-7、IL-2、IL-15、IL-6もしくはIFN-γまたはその組合せを含み得る。
【0047】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集初代B細胞は、例えばbcl-2様タンパク質4としても知られるBAXおよびbcl-2を含めたBcl-2ファミリーのメンバーをコードする核酸の修飾を含む。いくつかの実施形態では、Bcl-2ファミリーのメンバーをコードする核酸の修飾によって、ゲノム編集初代B細胞の生存能の増大、例えば培養時の生存能の増大が可能になる。
【0048】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集初代B細胞は、例えばFCγRII、CD22、PD-1、CD5、CD66a、LAIR1、ILT2もしくはCD72またはその組合せを含めたB細胞抑制性受容体をコードする核酸の修飾を含む。いくつかの実施形態では、この修飾によって抑制性受容体の発現または活性が非ゲノム編集初代NK細胞に比して変化する。例えば、抑制性受容体の発現が減少し得る。
【0049】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集初代B細胞は、B細胞が親和性成熟を経る頻度または速度に影響を及ぼす修飾を含む。いくつかの実施形態では、ゲノム編集初代B細胞は、BCL6および/またはBLIMP1をコードする核酸の修飾を含む。BCL6はBLIMP1発現を阻害し、BLIMP1発現はBCL6発現を阻害する。BCL6発現はB細胞を胚中心にとどまらせることができ、そこでB細胞が親和性成熟し続ける。BLIMP1は、B細胞を形質細胞(短期生存型および長期生存型の両方)に分化させる。いくつかの実施形態では、BCL6および/またはBLIMP1をコードする核酸の修飾を用いて、親和性成熟を経るB細胞の頻度または速度に影響を及ぼすことが可能である。
【0050】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集初代B細胞は、その最初の分化過程でカスパーゼ依存性細胞死の一過性阻止の下、例えばIRE1、PERKもしくはATF6またはその組合せを含めた小胞体(ER)ストレス応答経路のメンバーをコードする核酸の修飾を含む。いくつかの実施形態では、ERストレス応答経路のメンバーをコードする核酸の修飾は、ゲノム編集初代B細胞の生存能に影響を及ぼし得る、例えば、培養時の生存能を増大させ得る。
【0051】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集初代B細胞は、ゲノム編集初代B細胞の生存能を非ゲノム編集初代B細胞に比して変化させる修飾を含むのが好ましい。いくつかの実施形態では、遺伝子編集初代B細胞は、非ゲノム編集初代B細胞に比して拡大する能力の増大を示す。拡大は、例えばin vivoまたはin vitroであり得る。いくつかの実施形態では、拡大は、サイトカイン、抗体、抗原、抗原を発現する細胞またはその組合せとの共培養後にin vitroであり得る。
【0052】
B細胞のゲノム編集
本開示には、ゲノム編集初代B細胞を含めたゲノム編集B細胞の作製方法も記載される。
【0053】
いくつかの実施形態では、この方法は、初代B細胞にタンパク質または核酸を導入する技術を含む。タンパク質または核酸を導入する任意の適切な方法を用い得る。いくつかの実施形態では、この方法は、初代B細胞に例えばDNA、RNAおよび/またはmRNAを含めた遺伝物質を導入するエレクトロポレーションを含むのが好ましい。本明細書で使用されるエレクトロポレーションはヌクレオフェクションを含み得る。いくつかの実施形態では、例えばアデノ随伴ウイルス(AAV)、インテグラーゼ欠損レンチウイルス(IDLV)などを含めたウイルスによる形質導入を介して遺伝物質を導入し得る。アデノ随伴ウイルスは、例えばAAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6などを含めた任意の適切な血清型を含み得る。プラスミドDNAはB細胞に対して毒性を示す可能性があるため、いくつかの実施形態では、mRNAまたはタンパク質をベースとするゲノム編集方法が好ましい。いくつかの実施形態では、タンパク質または核酸を導入する技術は、エレクトロポレーション;マイクロインジェクション;ウイルス送達;エキソソーム;リポソーム;微粒子銃;ジェットインジェクション;ハイドロダイナミックインジェクション;超音波;磁場による遺伝子導入;電気パルスによる遺伝子導入;例えば脂質系ナノ粒子を含めたナノ粒子の使用;エンドソーム溶解剤とのインキュベーション;細胞透過性ペプチドの使用などによりタンパク質または核酸を導入することを含み得る。いくつかの実施形態では、この方法は、NEONトランスフェクションシステムを用いる初代B細胞のエレクトロポレーションを含むのが好ましい。
【0054】
いくつかの実施形態では、この方法は遺伝子を編集することを含む。遺伝子を編集することは、遺伝子の1つもしくは複数のコピーを導入すること、遺伝子を変化させること、遺伝子を欠失させること、遺伝子の発現をアップレギュレートすること、遺伝子の発現をダウンレギュレートすること、遺伝子を変異させること、遺伝子をメチル化すること、遺伝子を脱メチル化すること、遺伝子をアセチル化すること、および/または遺伝子を脱アセチル化することを含み得る。遺伝子を変異させることは、活性化変異を導入すること、不活性化および/または阻害変異を導入すること、ならびに/あるいは点変異を導入することを含み得る。
【0055】
いくつかの実施形態では、この方法は、初代B細胞のゲノム内に二本鎖切断を誘導することを含むのが好ましい。二本鎖切断は、例えば転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、CRISPR関連ヌクレアーゼなどを含めた標的化ヌクレアーゼを用いて導入し得る。いくつかの実施形態では、CRISPR/Cas9システムを用いて二本鎖切断を導入するのが好ましい。いくつかの実施形態では、この方法は、CRISPRヌクレアーゼ(例えば、Cas9および/またはCpf1を含む)またはCRISPRヌクレアーゼをコードするDNAもしくはRNA(例えば、Cas9またはCpf1をコードするDNAまたはRNAを含む)を導入することを含むのが好ましい。この方法は、いくつかの実施形態では、ガイドRNA(gRNA)を導入することを含み得る。
【0056】
いくつかの実施形態では、この方法は、DNA誘導型DNアーゼを導入することを含む。いくつかの実施形態では、この方法はナトロノバクテリウム・グレゴリー(Natronobacterium gregoryi)アルゴノート(NgAgo)を導入することを含む。いくつかの実施形態では、NgAgoをDNA誘導型エンドヌクレアーゼとして使用し得る。(Gaoら,Nature Biotechnology,2016,doi:10.1038/nbt.354.)。この方法は、例えばガイドDNA(gDNA)を導入することをさらに含み得る。
【0057】
gRNAの標的またはgDNAの標的は任意の適切な標的を含み得る。いくつかの実施形態では、標的は、例えば遺伝子または遺伝子の一部分を含めたB細胞ゲノムの一部分を含む。いくつかの実施形態では、標的遺伝子または同遺伝子の一部分はB細胞機能を増強する。例えば、gRNAの標的またはgDNAの標的は、例えば重鎖遺伝子、軽鎖遺伝子もしくはCD79を含めたB細胞受容体;CD19;例えばBLIMP1もしくはBCL6を含めたB細胞発生調節因子;アデノ随伴ウイルス組込み部位1(AAVS1);B細胞抑制性受容体(例えば、FCyRII、CD22、PD1、CD5、CD66a、LAIR1、ILT2、CD72など);および/またはERストレス応答経路のメンバー(例えば、IREI、PERK、ATF6など)を含み得る。
【0058】
いくつかの実施形態では、トランスフェクションを用いてCRISPR/Cas9システムを送達し得る場合、gRNAは、化学修飾gRNAを含むのが好ましくあり得る。いくつかの実施形態では、gRNAに対する化学修飾は、細胞がRNAを分解する能力を低下させるものであるのが好ましい。いくつかの実施形態では、化学修飾gRNAは、以下の修飾:2’-フルオロ(2’-F)、2’-O-メチル(2’-O-Me)、S-拘束エチル(cEt)、2’-O-メチル(M)、2’-O-メチル-3’-ホスホロチオアート(MS)および/または2’-O-メチル-3’-チオホスホノアセタート(MSP)のうちの1つまたは複数のものを含む。いくつかの実施形態では、化学修飾gRNAは、Hendelら,Nature Biotechnology,2015,33(9):985-989またはRahdarら,PNAS,2015,112(51):E7110-7に記載されているgRNAおよび/または化学修飾を含み得る。
【0059】
このような実施形態では、ゲノム編集は、相同組換え(HR)および/または例えばマイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)によるものを含めた非相同末端結合(NHEJ)経路を介して起こり得る。
【0060】
いくつかの実施形態では、この方法はB細胞を選択することを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子を編集した後に選択を実施する。B細胞は、いくつかの実施形態では、以下の方法:フローソーティング(例えば、GFP発現に関するものを含む);磁気ビーズ分離(例えば、細胞表面マーカーを標的とすることを含む);一過性薬物耐性遺伝子発現(例えば、抗生物質耐性を含む)のうちの1つまたは複数のものを用いて選択し得る。いくつかの実施形態では、選択は、編集されたゲノムを有するB細胞に関するものであり得る。
【0061】
いくつかの実施形態では、この方法は編集されたB細胞を拡大することを含む。いくつかの実施形態では、B細胞を選択した後に拡大を実施し得る。いくつかの実施形態では、B細胞受容体によって認識される抗原またはB細胞受容体によって認識される抗原を発現する細胞との共インキュベーションによりB細胞を拡大し得る。いくつかの実施形態では、例えばCD40Lおよび/またはIL-4を含めたサイトカインまたはリガンドとの共インキュベーションによりB細胞を拡大し得る。
【0062】
トランスフェクション法
いくつかの実施形態では、エレクトロポレーションまたはトランスフェクションを実施する際の初代B細胞は、刺激した細胞、すなわち、活性化、刺激および/または増殖の段階に供した細胞であるのが好ましい。
【0063】
いくつかの実施形態では、B細胞を少なくとも12時間、少なくとも18時間、少なくとも1日間、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間または少なくとも7日間刺激し得る。いくつかの実施形態では、B細胞を最大1日間、最大2日間、最大3日間、最大4日間、最大5日間、最大6日間、最大7日間、最大8日間、最大9日間、最大10日間、最大12日間、最大14日間、最大3週間、最大4週間または最大2か月間刺激し得る。いくつかの実施形態では、B細胞を14日間刺激するのが好ましい。
【0064】
いくつかの実施形態では、B細胞をサイトカインで刺激し得る。サイトカインは、例えば、IL-4、IL-7、IL-21および/またはB細胞活性化因子(BAFF)を含み得る。いくつかの実施形態では、例えば(例えば、CD40Lまたは抗CD40抗体により連結および/または架橋された)CD40を含めた細胞表面受容体を架橋することによりB細胞を刺激し得る。
【0065】
いくつかの実施形態では、B細胞をエレクトロポレーションによりトランスフェクトするのが好ましい。例えば反応1回当たりのB細胞数(例えば、細胞10万個、50万個、100万個、200万個、300万個、400万個または500万個)、パルス回数(例えば、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回または8回)、電圧(例えば、1000ボルト、1100ボルト、1200ボルト、1300ボルト、1500ボルトまたは1600ボルト)、核酸量(例えば、0.5μg、1μg、2μg、5μg、10μg、15μg、20μg、25μg、30μg、35μg、40μg、45μgまたは50μg)およびパルス(1つまたは複数)の持続時間(例えば、2ms、5ms、7ms、9ms、10ms、11ms、13msまたは15ms)を変化させることなどによりエレクトロポレーションのプロトコルを最適化し得る。
【0066】
いくつかの実施形態では、AMAXA nucleofectorまたはNEONシステムを用いてB細胞にエレクトロポレートし得る。いくつかの実施形態では、反応1回当たり100万個のB細胞にNEONプラットフォーム、mRNA 25μgならびにパルス3回、1400ボルトおよび持続時間10msのプロトコルを用いてエレクトロポレートし得る。
【0067】
いくつかの実施形態では、トランスフェクションから48時間後にトランスフェクションレベルを試験するのが好ましい。いくつかの実施形態では、トランスフェクションから72時間後にトランスフェクションレベルを試験するのが好ましい。いくつかの実施形態では、eGFP mRNAのトランスフェクションを用い、トランスフェクションから48時間後および/または72時間後にフローサイトメトリー解析を実施してeGFP発現レベルおよび細胞生存率を評価することによりトランスフェクションレベルを試験するのが好ましい。
【0068】
一実施形態では、初代ヒトB細胞へのmRNA送達の効率および毒性を試験するため、標準的フィコール-Paque分離を用いてロイコパックから末梢血単核球を単離した。次いで、EasySep Human CD19 Positive Selection Kit(Stem Cell Technologies社、バンクーバー、カナダ)を用いてPBMCからB細胞を単離し、10%ヒト血清を含むX-VIVO 20培地(Lonza Group社、アレンデール、ニュージャージー州)で培養した。AMAXAまたはNEONエレクトロポレーションプラットフォームを用いて、B細胞にeGFPをコードするin vitro転写mRNA(TriLink BioTechnologies社、サンディエゴ、カリフォルニア州)をエレクトロポレートした。この方法を用いた予備結果は、エレクトロポレーションから48時間後にフローサイトメトリー解析による測定で検出されたEGFP+B細胞が6%未満であるという不本意なものであった。
【0069】
これとは対照的に、エレクトロポレーションの前に初代B細胞を例えばIL-4およびCD40L(Miltenyi Biotech社、サンディエゴ、カリフォルニア州)とともに7日間培養することなどを用いて刺激し拡大した場合、エレクトロポレーションから72時間後、EGFP+B細胞が最大97.6%というeGFP陽性細胞の割合の増加が観察され、生存率も最大68.6%であった。
【0070】
CRISPR/Cas9技術の適用に対する主な障壁の1つが、トランスフェクトが困難な細胞、種々の初代細胞およびクローン化する(すなわち、単一の単離細胞から増殖させる)ことができない他の細胞を含めた一部のタイプの細胞では遺伝子修飾率が低くなることである。例えば、最初に未修飾gRNAを用いて試みたところ、初代ヒトT細胞にもCD34+細胞にも検出可能な二本鎖切断を誘導することができなかった。
【0071】
CRISPR/Cas9システムを用いればB細胞への標的化遺伝子送達遺伝子送達が可能になるかどうかを明らかにするため、相同組換え(HR)または非相同末端結合(NHEJ)経路による二本鎖切断(DSB)誘導を検討した。5’末端および3’末端に直列2-O-メチル-3-ホスホロチオアート修飾塩基を3つ含むRNAオリゴヌクレオチドとして合成したgRNAおよびCas9 mRNAまたはタンパク質用いて遺伝子修飾を誘導した(
図2)。これらのデータは、B細胞に標的化二本鎖切断を誘導することができることを示している。
【0072】
治療用カセット
いくつかの実施形態では、ゲノム編集初代B細胞は治療用カセットを含み得る。いくつかの実施形態では、治療用カセットは、BCRをコードする核酸と、過剰発現させる遺伝子をコードする核酸とを含むのが好ましい。いくつかの実施形態では、過剰発現させる遺伝子は、酵素をコードする核酸を含むのが好ましい。BCRをコードする核酸と過剰発現させる遺伝子をコードする核酸は、転写的かつ/または翻訳的に連結されているのが好ましい。
【0073】
いくつかの実施形態では、内在性BCRがBCR導入遺伝子の機能に干渉する可能性があるため、それを不活性化することが望まれ得る。いくつかの実施形態では、内在性BCRの重鎖遺伝子座に治療用カセットを挿入するのが好ましくあり得る。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるトランスフェクション法により内在性BCRを編集するのが好ましくあり得る。VDJ組換えによって内在性の重鎖遺伝子座の一部の領域が除去されるため、いくつかの実施形態では、例えば治療用カセットの挿入を含めたゲノム編集を定常領域にみられるエンハンサー付近に標的化し得る。いくつかの実施形態では、ほぼあらゆる重鎖組換え事象で保持される領域である
図3Aに示される領域に治療用カセットを標的化し得る。
【0074】
いくつかの実施形態では、治療用カセットは、BCRをコードする核酸を含むのが好ましい。いくつかの実施形態では、BCRは、免疫感作により対象に投与することができる抗原に特異的なものである。いくつかの実施形態では、BCRは膜貫通領域および/または膜結合抗体を含むのが好ましい。本明細書で使用されるBCRは、膜アンカー型BCRもしくは可溶性Igまたはその両方を含み得る。
【0075】
いくつかの実施形態では、治療用カセットは重鎖をコードする核酸を含む。いくつかの実施形態では、重鎖をコードする核酸の転写は内在性プロモーターによって駆動され得る。いくつかの実施形態では、重鎖をコードする核酸の転写は外来性プロモーターによって駆動され得る。いくつかの実施形態では、プロモーターは、例えば、MNDプロモーター、CMVプロモーター、CAGプロモーター、PGKプロモーター、EF1Aプロモーター、FEEKプロモーターなどを含み得る。いくつかの実施形態では、重鎖をコードする核酸は、単一の可変セグメント、単一の多様性セグメント、単一の結合セグメントおよび単一のC領域をコードするのが好ましい。いくつかの実施形態では、重鎖をコードする核酸は、例えばM1および/またはM2ドメインを含めた膜貫通領域をコードするのが好ましい。
【0076】
いくつかの実施形態では、治療用カセットは軽鎖をコードする核酸を含み得る。いくつかの実施形態では、軽鎖をコードする核酸の転写は内在性プロモーターによって駆動され得る。いくつかの実施形態では、軽鎖をコードする核酸の転写は外来性プロモーターによって駆動され得る。いくつかの実施形態では、プロモーターは、例えば、MNDプロモーター、CMVプロモーター、CAGプロモーター、PGKプロモーター、EF1Aプロモーター、FEEKプロモーターなどを含み得る。いくつかの実施形態では、軽鎖をコードする核酸は、単一の可変セグメント、単一の結合セグメントおよび単一のC領域をコードするのが好ましい。
【0077】
いくつかの実施形態では、軽鎖をコードする核酸の発現は、例えば内部リボソーム進入部位(IRES)、2Aペプチド配列、「2A様」配列、リボソームスキッピングおよび/またはCHYSEL(シス作用性加水分解酵素エレメント)配列などにより、重鎖をコードする核酸の発現と転写的または翻訳的に連結され得る。2Aペプチド配列は、リボソームスキッピングの機序により正常なペプチド結合形成を障害し、配列内リボソーム進入部位(IRES)も追加のプロモーターも導入せずに2つ以上のタンパク質の発現を可能にする。いくつかの実施形態では、2Aペプチドは、ブタテッショウウイルス-1(P2A)、口蹄疫ウイルス(F2A)またはトセア・アシグナ(Thosea asigna)ウイルス(T2A)に由来するものであり得る。
【0078】
いくつかの実施形態では、治療用カセットの重鎖および/または軽鎖は、免疫感作により対象に投与することができる抗原に特異的なものである。例えば、いくつかの実施形態では、重鎖および/または軽鎖はフィコエリトリン(PE)に特異的なものであり得る。また別の例では、いくつかの実施形態では、重鎖および/または軽鎖は、抗HIVエンベロープタンパク質であるB12に特異的なものであり得る。
【0079】
治療用カセットは、過剰発現させる遺伝子をコードする核酸を含む。いくつかの実施形態では、過剰発現させる遺伝子をコードする核酸の転写は、BCRの重鎖または軽鎖のうちの少なくとも一方の転写を駆動するプロモーターと同じプロモーターによって駆動されるのが好ましい。いくつかの実施形態では、過剰発現させる遺伝子をコードする核酸の転写は、BCRの重鎖または軽鎖のうちの少なくとも一方の転写を駆動するプロモーターと異なるプロモーターによって駆動され得る。
【0080】
例えば、過剰発現させる遺伝子をコードする核酸の転写がBCRの重鎖または軽鎖のうちの少なくとも一方の転写を駆動するプロモーターと同じプロモーターによって駆動される場合、対象を外来性BCRによって認識される抗原に対して免疫感作させることにより遺伝子の過剰発現を制御することができる。さらに、いくつかの実施形態では、治療用カセットが膜アンカー型のBCRまたは可溶性Ig型のBCRのいずれを産生するかは、治療用カセットを標的化するB細胞の成熟状態に左右される。
【0081】
いくつかの実施形態では、治療用カセットは、
図3Bに示される構成要素を含み得る。いくつかの実施形態では、治療用カセットは、
図3Bに示されるように配置された構成要素を含み得る。いくつかの実施形態では、治療用カセットは、
図6の少なくとも1つのパネルに示される構成要素を含み得る。いくつかの実施形態では、治療用カセットは、
図6の少なくとも1つのパネルに示されるように配置された構成要素を含み得る。
【0082】
いくつかの実施形態では、酵素をコードする核酸の発現は、例えば内部リボソーム進入部位(IRES)、2Aペプチド配列、「2A様」配列、リボソームスキッピングおよび/またはCHYSEL(シス作用性加水分解酵素エレメント)配列などによりBCR発現と転写的または翻訳的に連結され得る。いくつかの実施形態では、スプライスアクセプター法または構成的プロモーターを用いて、治療用酵素をコードする核酸と連結したBCRをコードする核酸を駆動し得る。
【0083】
いくつかの実施形態では、過剰発現させる遺伝子は酵素および/または治療用酵素を含むのが好ましい。治療用酵素は、例えば、酵素異常症を有する対象に欠如している酵素を含み得る。酵素異常症は、例えば、ゴーシェ病、ファブリー病、MPS I、MPS II(ハンター症候群)、MPS VI、II型糖尿病、アデノシンデアミナーゼ欠損症またはポンペ病を含み得る。いくつかの実施形態では、治療用酵素は、グリコサミノグリカン(GAG)の分解に不可欠な酵素であるアルファ-L-イズロニダーゼ(IDUA)を含む。治療用酵素は、上記のものに加えて、またはこれに代えて、例えば、発現が対象の健康を向上させる酵素を含む。
【0084】
いくつかの実施形態では、治療用カセットは、例えばGFPの遺伝子または薬物耐性の遺伝子を含めたマーカー遺伝子をコードする核酸を含む。
【0085】
いくつかの実施形態では、重鎖をコードする核酸、軽鎖をコードする核酸および過剰発現させる遺伝子をコードする核酸が治療用カセットに含まれており、転写的に連結している。いくつかの実施形態では、治療用カセットは、重鎖をコードする核酸、軽鎖をコードする核酸および治療用酵素と転写的に連結した1つまたは複数の2Aペプチドをさらに含む。
【0086】
治療用カセットはベクター構築物によってコードされ得る。いくつかの実施形態では、ベクター構築物はプラスミドを含む。いくつかの実施形態では、ベクターは、例えばBaEV-偽型レンチウイルスベクター、VSVg-偽型レンチウイルスベクター、FAM1レンチウイルスベクターおよび/またはFAM2レンチウイルスベクター(Fusilら,Molecular Therapy,2015,23(11):1734-47を参照されたい)を含めたレンチウイルスベクターを含み得る。いくつかの実施形態では、ベクターは、例えばウッドチャック肝炎ウイルス(WPRE)の転写後調節エレメントをコードする遺伝子、マウス槽内A型粒子をコードする遺伝子、様々なサルレトロウイルスに由来する構成的輸送エレメント(CTE)をコードする遺伝子の1つまたは複数のコピーなどを含めたシス作用性DNAエレメントを含み得る。
【0087】
ゲノム編集形質細胞およびゲノム編集初代B細胞をゲノム編集形質細胞に分化させる方法
本開示はさらに、ゲノム編集形質細胞およびゲノム編集初代B細胞を長期生存形質細胞に分化させる方法を提供する。
【0088】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集初代B細胞およびゲノム編集形質細胞は、内在性B細胞受容体(BCR)をコードする核酸の修飾を含むのが好ましい。いくつかの実施形態では、内在性BCRの発現が非ゲノム編集初代B細胞に比して抑制され、外来性BCRの発現が非ゲノム編集初代B細胞に比して増強される。
【0089】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集初代B細胞のBCRは、免疫感作により対象に投与することができる抗原に特異的なものである。例えば、いくつかの実施形態では、B細胞受容体はフィコエリトリン(PE)に特異的なものであり得る。また別の例では、いくつかの実施形態では、B細胞受容体は、抗HIVエンベロープタンパク質であるB12に特異的なものであり得る。
【0090】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集初代B細胞を含む対象をBCRによって認識される抗原に曝露する。いくつかの実施形態では、ゲノム編集初代B細胞のBCRがある抗原に特異的なものである場合、その抗原を免疫感作により対象に投与することによって長期生存形質細胞が生じる。BCRの抗原結合部位が抗原と結合する場合、BCRはその抗原に特異的であると考えられる。
【0091】
内在性B細胞受容体を特異性が既知のB細胞受容体に置き換えることにより、B細胞受容体の構成要素と同じプロモーターの下で核酸の転写を調節することが可能になる。
【0092】
例えば、フィコエリトリン(PE)に特異的なB細胞受容体を含み、アルファ-L-イズロニダーゼ(IDUA)をコードする核酸を含むゲノム編集初代B細胞を対象に導入し得る。対象はIDUA欠損症であり得る。対象をPEで免疫感作することによって、ゲノム編集初代B細胞から長期生存形質細胞への分化およびIDUAをコードする核酸の転写が起こり、それにより患者のゲノム編集B細胞および全身でのIDUA発現が増大し、疾患の交差是正が起こり得る。他の実施形態では、B細胞の特異性を変化させ、かつ/または過剰発現させる遺伝子をコードする核酸を修飾し得る。
【0093】
投与
本開示はさらに、本明細書に記載されるゲノム編集初代B細胞を使用する方法を提供する。例えば、ゲノム編集初代B細胞を用いて、対象の疾患を治療または予防し得る。ある方法は、本明細書に記載されるゲノム編集初代B細胞または本明細書に記載される方法により作製されるゲノム編集初代B細胞を含む組成物を対象に投与することを含み得る。疾患は、例えば、酵素異常症、癌、前癌状態、病原体(例えば、マラリアを含む)による感染症またはウイルスによる感染症を含み得る。
【0094】
ゲノム編集初代B細胞を単独で、または1つもしくは複数の他の治療法と併用して対象に投与し得る。例えば、ゲノム編集初代B細胞を活性薬剤と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物と併用して、かつ/または例えばキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)を含めた細胞療法と併用して、対象に投与し得る。B細胞は、所望の効果を得るのに有効な量で患者、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトに投与し得る。B細胞は、例えば静脈内、腫瘍内、動脈内、経皮、カテーテルまたはステントによる局所送達によるもの、針またはその他の腫瘍内注射用の装置によるもの、皮下などを含めた様々な経路によって投与し得る。B細胞は1回または複数回投与し得る。通常の技術を有する医師であれば、ゲノム編集初代B細胞および任意選択で必要な医薬組成物の有効な量および投薬を決定し処方することができる。
【0095】
癌としては、例えば、骨癌、脳腫瘍、乳癌、子宮頸癌、喉頭癌、肺癌、膵臓癌、前立腺癌、皮膚癌、脊椎癌、胃癌、子宮癌、造血系癌および/またはリンパ系癌などが挙げられる。造血系癌および/またはリンパ系癌としては、例えば、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、骨髄異形成症候群(MDS)、非ホジキンリンパ腫(NHL)、慢性骨髄性白血病(CML)、ホジキン病および/または多発性骨髄腫が挙げられる。癌は転移性癌であり得る。
【0096】
さらなる態様では、ゲノム編集初代B細胞を投与して、対象の腫瘍の成長を阻害し得る。いくつかの実施形態では、腫瘍は固形腫瘍を含み得る。
【0097】
ウイルスとしては例えば、例えばCMV、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)もしくはカポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)を含めたヘルペスウイルス;例えばデングウイルスもしくはジカウイルスを含めたフラビウイルス科のウイルス;または例えばヒト免疫不全ウイルス(HIV)を含めたレンチウイルスが挙げられる。
【0098】
酵素異常症は、いくつかの実施形態では、現時点で酵素補充療法によって治療される、例えばゴーシェ病、ファブリー病、MPS I、MPS II(ハンター症候群)、MPS VI、II型糖尿病、アデノシンデアミナーゼ欠損症またはポンペ病を含めた酵素異常症を含み得る。酵素異常症は、いくつかの実施形態では、現時点で遺伝子治療によって治療される酵素異常症を含み得る。
【0099】
ゲノム編集初代B細胞を他の治療の実施前、実施時および/または実施後に投与または調製し得る。このような併用療法は、ゲノム編集初代B細胞を他の抗癌剤、他の抗ウイルス剤または他の抗癌剤と他の抗ウイルス剤の組合せの使用前、使用時および/または使用後に投与することを含み得る。このような薬剤としては、例えば,サイトカイン;ケモカイン;例えば抗親和性抗CMV IgG抗体を含めた治療用抗体;例えばBiKEもしくはTRiKEを含めたNK細胞受容体リガンド;アジュバント;抗酸化剤;化学療法剤;および/または放射線が挙げられる。ゲノム編集初代B細胞の投与または調製は、他の抗癌剤および/または他の抗ウイルス剤の投与と時間単位、日単位、または場合によって週単位で時間的に分離し得る。上記のものに加えて、またはこれに代えて、投与または調製を他の生物学的に活性な薬剤または様式、例えば、特に限定されないが、抗悪性腫瘍剤および特に限定されないが外科手術などの非薬物療法などと組み合わせ得る。
【0100】
いくつかの実施形態では、対象をB細胞受容体によって認識される抗原で免疫感作する前に、特異性が既知のB細胞受容体を含むゲノム編集初代B細胞を対象に投与し得る。このような実施形態では、抗原で免疫感作することにより、B細胞受容体の構成要素と同じプロモーターの下で核酸の転写調節を可能にし得る。
【0101】
例えば、ある抗原に特異的なB細胞受容体を含み、ある酵素をコードする核酸を含むゲノム編集初代B細胞を対象に導入し得る。対象は酵素欠損症であり得る。対象を抗原で免疫感作することにより、ゲノム編集初代B細胞から長期生存形質細胞への分化および酵素をコードする核酸の転写が起こり、それによりゲノム編集B細胞での酵素の発現が増大することが予想される。
【0102】
ゲノム編集初代B細胞の例示的実施形態
1.ゲノム編集初代B細胞。
【0103】
2.CD19を発現する細胞を含む、実施形態1のゲノム編集初代B細胞。
【0104】
3.IgMもしくはIgDまたはその組合せを発現する細胞を含む、実施形態1または2のいずれかのゲノム編集初代B細胞。
【0105】
4.CD27+細胞を含む、実施形態1~3のいずれか1つのゲノム編集初代B細胞。
【0106】
5.B細胞がCD21+細胞を含む、実施形態1~4のいずれか1つのゲノム編集初代B細胞。
【0107】
6.CXCR5+細胞を含む、実施形態1~5のいずれか1つのゲノム編集初代B細胞。
【0108】
7.末梢血、臍帯細胞、腹水または固形腫瘍から単離された細胞を含む、実施形態1~6のいずれか1つのゲノム編集初代B細胞。
【0109】
8.非クローン性細胞を含む、実施形態1~7のいずれか1つのゲノム編集初代B細胞。
【0110】
9.増殖性細胞を含む、実施形態1~8のいずれか1つのゲノム編集初代B細胞。
【0111】
10.哺乳動物細胞である、実施形態1~9のいずれか1つのゲノム編集初代B細胞。
【0112】
11.ヒト細胞である、実施形態1~10のいずれか1つのゲノム編集初代B細胞。
【0113】
12.ゲノム編集初代B細胞の内在遺伝子が欠失している、実施形態1~11のいずれか1つのゲノム編集初代B細胞。
【0114】
13.ゲノム編集初代B細胞の内在遺伝子が点変異を含む、実施形態1~12のいずれか1つのゲノム編集初代B細胞。
【0115】
14.外来遺伝子を含む、実施形態1~13のいずれか1つのゲノム編集初代B細胞。
【0116】
15.遺伝子が、B細胞受容体(BCR)の少なくとも一部分をコードする核酸を含む、実施形態12~14のいずれか1つのゲノム編集初代B細胞。
【0117】
16.非ゲノム編集初代B細胞に比して内在性B細胞受容体(BCR)の発現の減少を示す、実施形態1~15のいずれか1つのゲノム編集初代B細胞。
【0118】
17.CD19の発現または活性を変化させる修飾を含む、実施形態1~16のいずれか1つのゲノム編集初代B細胞。
【0119】
18.ゲノムの非コード領域の修飾を含む、実施形態1~17のいずれか1つのゲノム編集初代B細胞。
【0120】
19.非ゲノム編集初代B細胞に比して生存能の増大を示す、実施形態1~18のいずれか1つのゲノム編集初代B細胞。
【0121】
20.B細胞受容体(BCR)をコードする核酸と過剰発現させる遺伝子をコードする核酸とを含む治療用カセットを含む、実施形態1~19のいずれか1つのゲノム編集初代B細胞。
【0122】
21.対象の疾患を治療または予防する方法であって、対象に実施形態1~20のいずれか1つのゲノム編集初代B細胞を含む組成物を投与することを含む、方法。
【0123】
22.疾患が、酵素異常症、癌、前癌状態、病原体による感染症またはウイルス感染症を含む、実施形態21の方法。
【0124】
例示的な治療用カセットの実施形態
1.B細胞受容体(BCR)をコードする核酸と、過剰発現させる遺伝子をコードする核酸とを含む、治療用カセット。
【0125】
2.BCRが膜貫通領域を含む、実施形態1の治療用カセット。
【0126】
3.過剰発現させる遺伝子が、酵素をコードする核酸を含む、実施形態1または実施形態2の治療用カセット。
【0127】
4.酵素が、酵素異常症を有する対象に欠如している酵素を含む、実施形態3の治療用カセット。
【0128】
5.酵素がアルファ-L-イズロニダーゼ(IDUA)を含む、実施形態4の治療用カセット。
【0129】
6.BCRをコードする核酸と過剰発現させる遺伝子をコードする核酸が、転写的に結合しているか、翻訳的に結合しているか、またはその両方である、実施形態1~5のいずれか1つの治療用カセット。
【0130】
7.BCRをコードする核酸および過剰発現させる遺伝子をコードする核酸の転写を駆動するプロモーターを含む、実施形態1~6のいずれか1つの治療用カセット。
【0131】
8.BCRがフィコエリトリン(PE)に特異的なBCRを含む、実施形態1~7のいずれか1つの治療用カセット。
【0132】
9.BCRがB12に特異的なBCRを含む、実施形態1~7のいずれか1つの治療用カセット。
【0133】
10.実施形態1~9のいずれか1つの治療用カセットを含む、ベクター。
【0134】
11.レンチウイルスベクターを含む、実施形態10のベクター。
【0135】
12.BaEV-偽型レンチウイルスベクター、VSVg-偽型レンチウイルスベクター、FAM1レンチウイルスベクターおよびFAM2レンチウイルスベクターのうちの少なくとも1つを含む、実施形態10または実施形態11のいずれかのベクター。
【0136】
13.シス作用性DNAエレメントを含む、実施形態10~12のいずれか1つのベクター。
【0137】
14.実施形態1~9のいずれか1つの治療用カセットを含む、細胞。
【0138】
15.実施形態10~13のいずれか1つのベクターを含む、細胞。
【0139】
16.内在性B細胞受容体(BCR)をコードする核酸の修飾を含む、実施形態14または実施形態15のいずれかの細胞。
【0140】
17.修飾が、内在性BCRの発現を減少させる修飾を含む、実施形態16の細胞。
【0141】
18.B細胞を含む、実施形態15~17のいずれか1つの細胞。
【0142】
19.長期生存形質細胞を含む、実施形態15~18のいずれか1つの細胞。
【0143】
20.対象に実施形態14~19のいずれか1つの細胞を投与することを含む、方法。
【0144】
21.対象に抗原を投与することをさらに含み、治療用カセットのBCRが抗原に特異的なものである、実施形態20の方法。
【0145】
初代B細胞のゲノムを編集する方法の例示的実施形態
1.初代B細胞のゲノムを編集することを含む、方法。
【0146】
2.初代B細胞が、CD19を発現する細胞を含む、実施形態1の方法。
【0147】
3.初代B細胞が、IgMもしくはIgDまたはその組合せを発現する細胞を含む、実施形態1または2のいずれかの方法。
【0148】
4.初代B細胞がCD27+細胞を含む、実施形態1または3のいずれかの方法。
【0149】
5.初代B細胞がCD21+細胞を含む、実施形態1~4のいずれか1つの方法。
【0150】
6.初代B細胞がCXCR5+細胞を含む、実施形態1~5のいずれか1つの方法。
【0151】
7.初代B細胞が、末梢血、臍帯細胞、腹水または固形腫瘍から単離された細胞を含む、実施形態1~6のいずれか1つの方法。
【0152】
8.初代B細胞が非クローン性細胞を含む、実施形態1~7のいずれか1つの方法。
【0153】
9.初代B細胞が増殖性細胞を含む、実施形態1~8のいずれか1つの方法。
【0154】
10.初代B細胞が哺乳動物細胞である、実施形態1~9のいずれか1つの方法。
【0155】
11.初代B細胞がヒト細胞である、実施形態1~10のいずれか1つの方法。
【0156】
12.初代B細胞に外来性のタンパク質または核酸を導入することを含む、実施形態1~11のいずれか1つの方法。
【0157】
13.細胞のエレクトロポレーションを含む、実施形態1~12のいずれか1つの方法。
【0158】
14.標的化ヌクレアーゼまたは標的化ヌクレアーゼをコードする核酸を導入することを含む、実施形態1~13のいずれか1つの方法。
【0159】
15.ガイドRNA(gRNA)を導入することを含む、実施形態1~14のいずれか1つの方法。
【0160】
16.gRNAが、化学修飾gRNAを含む、実施形態15の方法。
【0161】
17.化学修飾gRNAが、2’-O-メチル(M)、2’-O-メチル-3’-ホスホロチオアート(MS)または2’-O-メチル-3’-チオホスホノアセタート(MSP)を含む、実施形態16の方法。
【0162】
18.ナトロノバクテリウム・グレゴリー(Natronobacterium gregoryi)アルゴノート(NgAgo)およびガイドDNA(gDNA)を導入することを含む、実施形態1~17のいずれか1つの方法。
【0163】
19.ゲノムを編集することが、CD19の遺伝子を編集することを含む、実施形態1~18のいずれか1つの方法。
【0164】
20.ゲノムを編集することが、B細胞受容体(BCR)の一部分をコードする核酸を編集することを含む、実施形態1~19のいずれか1つの方法。
【0165】
21.ゲノムを編集することが、ゲノムの非コード領域を編集することを含む、実施形態1~20のいずれか1つの方法。
【0166】
22.B細胞を選択することをさらに含む、実施形態1~21のいずれか1つの方法。
【0167】
23.ゲノムを編集した後に選択を実施する、実施形態22の方法。
【0168】
24.B細胞を編集されたゲノムに関して選択する、実施形態22または23のいずれかの方法。
【0169】
25.初代B細胞を活性化、刺激および増殖の段階のうち少なくとも1つのものに供することをさらに含む、実施形態1~24のいずれか1つの方法。
【0170】
26.初代B細胞を活性化、刺激および増殖の段階のうち少なくとも1つのものに供することが、B細胞をサイトカインに曝露することを含む、実施形態25の方法。
【0171】
27.初代B細胞を活性化、刺激および増殖の段階のうち少なくとも1つのものに供することが、B細胞をCD40Lに曝露することを含む、実施形態25または26のいずれかの方法。
【0172】
28.初代B細胞に外来性のタンパク質または核酸を導入する前に、初代B細胞を活性化、刺激および増殖の段階のうち少なくとも1つのものに供する、実施形態25~27のいずれか1つの方法。
【0173】
29.初代B細胞にB細胞受容体(BCR)をコードする核酸と過剰発現させる遺伝子をコードする核酸とを含む治療用カセットを導入することをさらに含む、実施形態1~28のいずれか1つの方法。
【0174】
本発明を以下の実施例により説明する。具体的な例、材料、量および手順は、本明細書に記載される本発明の範囲および趣旨に従って広く解釈されるべきであることを理解するべきである。
【0175】
(実施例)
実施例1
培地
培養培地:
-X-VIVO 20(Lonza Group社、アレンデール、ニュージャージー州)
-10%ヒト血清
または
-HSC Expansion Media XF(Miltenyi Biotec社、サンディエゴ、カリフォルニア州
-5%ヒト血清
凍結培地:
-ウシ胎児血清(FBS)45mL(熱不活化したもの)
-DMSO 5mL
【0176】
方法
ガイドRNAの設計および構築
CRISPR Design Program(Zhang Lab、MIT 2015)を用いて、表1に示すガイドRNA(gRNA)を遺伝子の所望の領域に対して設計した。オフターゲット位置により求めた最高順位の数値に基づき複数のgRNAを選択した。gRNAをオリゴヌクレオチド対、すなわち、5’-CACCG-gRNA配列-3’および5’-AAAC-逆相補的gRNA 配列-C-3’の形で順番に並べた。改変した標的配列クローン化プロトコル(Zhang Lab、MIT)を用いてgRNAを一緒にクローン化した。サーモサイクラーでT4 PNK(NEB社)および10×T4 Ligation Buffer(NEB社)を用い、37℃で30分、95℃で5分、次いで5℃/分で25℃まで段階的に低下させるプロトコルでオリゴヌクレオチド対を一緒にリン酸化しアニールさせた。ライゲーション反応にはFastDigest BbsI(Fermentas社)、FastAP(Fermentas社)および10×Fast Digest Bufrerで消化したpENTR1ベクターを用いる。T4 DNA LigaseおよびBuffer(NEB)を用いて、消化pENTR1ベクターと、前段階でリン酸化しアニールさせたオリゴ二本鎖(希釈比1:200)とをライゲートした。ライゲーション物を室温で少なくとも1時間インキュベートし、次いで形質転換し、ミニプレップした(GeneJET Plasmid Miniprep Kit、Life Technologies社).プラスミドにシーケンシングを実施して適切な挿入を確認した。
【0177】
【0178】
gRNAの検証
293T細胞を24ウェルプレートに1×105細胞/ウェルの密度で播いた。Opti-MEM培地150μLにgRNAプラスミド1.5μg、Cas9プラスミド1.5μgおよびGFP100ngを混ぜ合せた。また別のOpti-MEM培地150μLにLipofectamine 2000 Transfection試薬(Invitorgen社、Life Technologies社)5μを混ぜた。これらの溶液を混ぜ合わせ、室温で10分~15分間インキュベートした。24ウェルプレートの1つのウェルにDNA-脂質複合体を滴加した。細胞を37℃で3日間インキュベートし、次いで、GeneJET Genomic DNA Purification Kit(Thermo Scientific社)を用いてゲノムDNAを収集した。Surveyor Digest、ゲル電気泳動およびデンシトメトリーによりgRNAの活性を定量化した(Guschinら.Methods Mol Biol.2010,649:247-56)。
【0179】
ロイコパックからの末梢血単核球(PBMC)の単離
ヒトPBMC(Stem Cell Technologies社、バンクーバー、カナダ)を冷却した1×PBSで3:1に希釈した。50mLのコニカルチューブに入ったLymphoprep(Stem Cell Technologies社、バンクーバー、カナダ)15mLの上に希釈血液を(極めてゆっくりと)滴加した。細胞を400×gで25分間、ブレーキ無し遠心した。バフィーコートを取り出し、新たなコニカルチューブに入れた。細胞を冷却した1×PBSで洗浄し、400×gで10分間遠心した(ブレーキ有り)。上清を除去し、細胞を凍結培地に再懸濁させ、カウントし、凍結させた。
【0180】
CD19+B細胞の単離
PBMCを解凍してカウントし、細胞密度を1×108細胞/mLに調整し、細胞を14mLのポリスチレン製丸底チューブに移した。EasySep Human CD19 Positive Selection Kit(Stem Cell Technologies社、バンクーバー、カナダ)を製造業者のプロトコル通りに用いてB細胞を選択した。収集した細胞を400×gで5分間遠心し、増殖培地に再懸濁させた。
【0181】
CD19+B細胞の活性化および刺激
B細胞を刺激するため、単離CD19+B細胞をカウントし、24ウェルプレートに1×106細胞/mLの密度で播いた。製造業者のプロトコル(Miltenyi Biotec社、サンディエゴ、カリフォルニア州)に従い、細胞をCD40LおよびIL-4とともに播いた。細胞を37℃で1週間インキュベートし、次いで、血球計数器を用いてカウントした。
【0182】
CD19+B細胞のNEONトランスフェクション
NEON Transfection System(100μL Kit、ThermoFisher Scientific社、ウォルサム、マサチューセッツ州)を下に記載する任意の変更以外は製造業者の指示通りに用いて、未刺激のB細胞または刺激したB細胞にエレクトロポレートした。細胞をカウントし、100μLのResuspension Buffer Tに1×106細胞の密度で再懸濁させた。細胞混合物にGFPプラスミドもしくはmRNA 5μgまたはCas9 15μgおよびプラスミドもしくはmRNA gRNA 10μg(分子水中)を加えた。細胞に1400V、10ms、3パルスでエレクトロポレートした。トランスフェクション後、細胞を6ウェルプレートの培養培地2mLに播いた。
【0183】
AMAXA NUCLEOFECTORおよびHuman B Cell NUCLEOFECTOR Kit(Lonza Cologne社、ケルン、ドイツ)を用いて、未刺激のB細胞または刺激したB細胞を製造業者の指示通りにヌクレオポレートした。
【0184】
フローサイトメトリー
トランスフェクションから24~72時間時間後、エレクトロポレートしたB細胞のGFP発現をフローサイトメトリーにより解析した。細胞を0.5%FBSを含む冷却した1×PBSで洗浄することによって調製し、Viability Dye eFlour 780(eBiosciences社、サンディエゴ、カリフォルニア州)で染色した。LSR II(BD Biosciences社、サンノゼ)およびFlowJo v.9を用いて細胞を解析した。
【0185】
CD19+B細胞の相同組換え
刺激したCD19+B細胞にNEONトランスフェクションシステム(100μL Kit、ThermoFisher Scientific社、ウォルサム、マサチューセッツ州)を用いてエレクトロポレートした。細胞をカウントし、100μLのResuspension Buffer Tに1.0~3.0×106細胞の密度で再懸濁させた。mRNA Cas9(TriLink BioTechnologies社、サンディエゴ、カリフォルニア州)15μg、mRNA gRNA(TriLink BioTechnologies社)10μg および相同組換え(HR)標的化ベクター10μgを用いてHRを検討した。HR標的化ベクター10μg単独またはCas9 15μgとmRNA gRNA 10μgを対照として用いた。エレクトロポレーション後、細胞を6ウェルプレートの培養培地2mLに播いた。3日毎にCountess II Automated Cell Counter(ThermoFisher Scientific社、ウォルサム、マサチューセッツ州)を用い細胞をカウントして、上記の様々な条件下での増殖をモニターした。HRをモニターするため、細胞をフローサイトメトリーにより解析し、PCRにより試験した。フローサイトメトリーでは、細胞を週1回で3週間解析した。B細胞をFixable Viability Dye eFluor 780(eBiosciences社、サンディエゴ)で染色した。LSR II(BD Biosciences社、サンノゼ、カリフォルニア州)およびFlowJo v.9を用いて細胞を解析した。PCRによりHRを試験するため、B細胞からgDNAを単離し、accuprime taq DNAポリメラーゼ high fidelity(ThermoFisher Scientific社、ウォルサム、マサチューセッツ州)を用いてPCRにより増幅した。CCR5遺伝子およびHR標的化ベクターの両端の両方に対し表2に示すプライマーを設計して、適切な相同組換えを探した。
【0186】
【0187】
【0188】
実施例2
方法
gRNAの検証
293T細胞を24ウェルプレートに1×105細胞/ウェルの密度で播いた。Opti-MEM培地150マイクロリットル(μL)にgRNAプラスミド1.5マイクログラム(μg)、Cas9プラスミド1.5μgおよびGFP 100ナノグラム(ng)を混ぜた。また別のOpti-MEM培地150μLにLipofectamine 2000 Transfection試薬(Invitrogen社、カールスバド、カリフォルニア州;Life Technologies社、カールスバド、カリフォルニア州)5μLを混ぜた。これらの溶液を混ぜ合わせ、室温で10~15分間インキュベートした。24ウェルプレートの1つのウェルにDNA-脂質複合体を滴加した。細胞を37℃で3日間インキュベートし、次いで、GeneJET ゲノムDNA Purification Kit(Thermo Fisher Scientific社、ウォルサム、マサチューセッツ州)を用いてゲノムDNAを収集した。
【0189】
図5および8では、Tracking of Indels by Decomposition(TIDE)アルゴリズム(tide.nki.nlのワールドワイドウェブで利用可能)によりgRNAの活性を定量化した。簡潔に述べれば、編集した領域をPCRにより領域特異的プライマーを用いて増幅し、ACGT社(ホイーリング、イリノイ州)に送付してSanger Sequencingに供した。ACGT社から返送されたクロマトグラムファイルをTIDEウェブサイトにアップロードして編集効率を解析した。
【0190】
レンチウイルスベクターの作製および力価測定
Lipofectamine 2000 Transfection試薬(Invitrogen社、ウォルサム、マサチューセッツ州)を製造業者の指示通りに用いた293T細胞の一過性トランスフェクションにより、BaEV-偽型レンチウイルスベクターおよびVSVg-偽型レンチウイルスベクターを作製した。BaEV糖タンパク質(Fusilら,Molecular Therapy,2015,23(11):1734-47)15μgまたはVSV糖タンパク質15μgにgagpolパッケージングプラスミドおよびカーゴプラスミド20μgを混ぜて、それぞれBaEV-偽型ウイルスまたはVSVg-偽型ウイルスを構築した。トランスフェクションから18時間後、培地を10%FBSおよび1×ペニシリン-ストレプトマイシンを含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に入れ替えた。24時間後、ウイルス力価を得、ろ過して細胞残屑を除去した。qPCR Lentivirus Titration Kit(Applied Biological Materials社、バンクーバー、カナダ)を製造業者の指示通りに用いてレンチウイルス力価を求めた。結果を
図4に示す。
【0191】
さらに2種類のレンチウイルスベクターを構築して、MNDプロモーター(骨髄増殖性肉腫ウイルスエンハンサーを有する修飾MoMuLV LTRのU3領域を含む合成プロモーター)の制御下でB12の重鎖および軽鎖または抗PEの重鎖および軽鎖ならびにコドン最適化IDUA(coIDUA)を発現させた。P2Aペプチド配列を導入することにより、重鎖、軽鎖およびcoIDUAを同時発現させた。これらのベクターは、mRNA転写物の選択的スプライシングを用いて成熟ナイーブB細胞の機能的BCRまたは形質細胞の機能的可溶性抗体の発現を誘導するものであり、このため、BCRまたは可溶性抗体の発現はB細胞の成熟状態に左右される。ベクターの模式図を
図6に示す。ベクターの配列を表3~8に示す。
【0192】
B細胞の急性活性化および慢性活性化
CD40の架橋によりB細胞を活性化させるB Cell Expansion Kit(Miltenyi Biotec社、サンディエゴ、カリフォルニア州)で急性活性化B細胞および慢性活性化B細胞の両方を活性化させた。急性に活性化させる細胞は、レンチウイルス構築物を加える前に12時間刺激し、慢性に活性化させる細胞は、レンチウイルス構築物を加える前に14日間活性化させた。
【0193】
CD19発現の標的化ノックアウト
CRISPR/Cas9システムを用いて、初代ヒトB細胞のCD19発現をノックアウトした。NEON Transfection System(1400ボルト、10ms、3パルス)を用いて、慢性活性化B細胞にCas9タンパク質をコードする化学修飾mRNA(TriLink BioTechnologies社、サンディエゴ、カリフォルニア州)1.5μgおよび化学修飾CD19 gRNA4 oligo1(TriLink BioTechnologies社)1μgをトランスフェクトした。Cas9タンパク質とCD19 gRNAとを組み合わせることにより二本鎖切断が生じ、それにより、遺伝子発現およびタンパク質レベルを打ち消すインデル形成およびフレームシフト変異が生じる。
【0194】
CD19発現の評価
エレクトロポレーションから5日後、操作した初代ヒトB細胞をAPC e-Fluor780 Fixable Viability DyeおよびBV421コンジュゲート抗CD19抗体(BioLegend社、サンディエゴ、カリフォルニア州)で染色した。細胞をLSRIIフローサイトメータ(BD Biosciences社)にかけ、FlowJo Version 9(Tree Star社、アシュランド、オレゴン州)を用いてデータを解析した。結果を
図5に示す。
【0195】
B細胞でのエレクトロポレーション条件の検討
14日間活性化させたB細胞に様々な電圧、幅およびパルス設定の下、NEONトランスフェクションでeGFPをコードするプラスミドDNAまたはmRNAをエレクトロポレートした(
図7A)。エレクトロポレーションから2日間後、eGFP発現によりトランスフェクションのパーセントを求め、LSRIIフローサイトメータで測定した。トリパンブルー排除法により細胞カウント数および細胞生存率を求めた。結果を
図7Bに示す。
【0196】
CD19
+B細胞の遺伝子ノックアウト
刺激したCD19
+B細胞にNEON Transfection Kit and System(Invitrogen社、カールスバド、カリフォルニア州)を用いてエレクトロポレートした。Integrated DNA Technologies社(コーラルビル、アイオワ州)のAlt-R CRISPR-Cas9試薬を用いてBCL2遺伝子座での遺伝子編集(gRNA6 Oligo1)を実施した。簡潔に述べれば、200uMのAlt-R CRISPR-Cas9 crRNA 1.1uL、Alt-R tracrRNA 1.1uLおよび無ヌクレアーゼ二本鎖緩衝液2.8uLを95℃で5分間インキュベートし、次いで、室温(RT)で冷却してcrRNA:tracrRNA二本鎖を形成させた。22ピコモル(pmol)のcrRNA:tracrRNA二本鎖0.5uLおよび18pmolのAlt-R Cas9酵素0.5uLをRTで20分間インキュベートしてAlt-R CRISPR-Cas9システムを形成させた。このAlt-R CRISPR-Cas9システムにエレクトロポレーションエンハンサー(Invitrogen社、カールスバド、カリフォルニア州)を混ぜ、次いで慢性活性化B細胞360,000個に加え、T緩衝液で最終体積12μLとした。10μLのピペットチップを用いて細胞に1400ボルト、10ms、3パルスでエレクトロポレートした。エレクトロポレートした細胞を5日間培養した後、上に記載した通りにTIDE解析を用いて遺伝子編集を測定した。結果を
図8に示す。
【0197】
B細胞の拡大
B細胞拡大キット(Miltenyi Biotec社、サンディエゴ、カリフォルニア州)を製造業者のプロトコル通りに用いて、分取したCD19
+B細胞を14日間拡大した。低密度の開始B細胞濃度(1×10
5細胞/mL)および高密度の開始B濃度(1×10
6細胞/mL)の両方を試験した。トリパンブルー排除法を用いて、示される時点での細胞カウント数を求めた。結果を
図9に示す。
【0198】
IDUA活性
NEON System(1400ボルト、10ms、3パルス)を用いて、293T細胞にGFP mRNA単独(対照)またはGFP mRNAとpLL MND B12-IDUA発現プラスミドをエレクトロポレートした。pLL MND B12-IDUA発現プラスミドには、
図6Cに示される発現カセットが含まれている。
【0199】
細胞内IDUA活性を測定するため、エレクトロポレーションから3日後に細胞を回収した。Ouら,2014,Mol Genet Metab.,2014;111(2):113-5に記載されているIDUAアッセイを用いてIDUA活性(nmol/(時・mgタンパク質))を測定した。pLL MND B12-IDUA発現プラスミドを導入したHEK 293T細胞の方が対照よりも有意に高い細胞内IDUA活性(40倍)を示した。結果を
図10Aに示す。
【0200】
細胞培地のIDUA活性を測定するため、エレクトロポレーションから3日後に培地を収集した。Ouら,2014,Mol Genet Metab.,2014;111(2):113-5に記載されているIDUAアッセイを用いてIDUA活性(nmol/(時・mL))を測定した。pLL MND B12-IDUA発現プラスミドを導入したHEK 293T細胞が含まれていた培地の方が対照よりも有意に高いIDUA活性(14倍)を示した。結果を
図10Bに示す。
【0201】
本明細書に引用されている特許、特許出願および刊行物ならびに電子的に入手可能な資料(例えば、例えばGenBankおよびRefSeqのヌクレオチド配列提出物および例えばSwissProt、PIR、PRF、PDBのアミノ酸配列提出物ならびにGenBankおよびRefSeqの注釈付きコード領域からの翻訳物を含む)はいずれも、開示全体が参照により組み込まれる。本願の開示と参照により本明細書に組み込まれる任意の文献の開示(1つまたは複数)との間に何らかの不一致が存在する場合、本願の開示の方が適用されるものとする。上記の詳細な説明および実施例は、単に明確な理解を目的に記載したものである。そこから理解されるべき不必要な限定は一切ない。本発明は、当業者に明らかな変形形態が請求項によって定められる本発明の範囲内に含まれることから、図示および記載されている正確な詳細に限定されることはない。
【0202】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【表3-5】
【表3-6】
【0203】
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【表4-4】
【表4-5】
【表4-6】
【0204】
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【表5-4】
【表5-5】
【表5-6】
【表5-7】
【0205】
【表6-1】
【表6-2】
【表6-3】
【表6-4】
【表6-5】
【表6-6】
【表6-7】
【0206】
【表7-1】
【表7-2】
【表7-3】
【表7-4】
【表7-5】
【表7-6】
【表7-7】
【0207】
【表8-1】
【表8-2】
【表8-3】
【表8-4】
【表8-5】
【表8-6】
【表8-7】
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2022-11-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書及び/又は図面に記載された発明。
【外国語明細書】