(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189905
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】化粧シート及び化粧板
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20221215BHJP
【FI】
B32B27/32 E
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168672
(22)【出願日】2022-10-20
(62)【分割の表示】P 2019503050の分割
【原出願日】2018-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2017037391
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 智美
(72)【発明者】
【氏名】金木 潤
(72)【発明者】
【氏名】河西 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】藤井 亮
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 治
(57)【要約】
【課題】本発明は、高荷重条件下での耐擦傷性に優れるとともに、優れた曲げ加工性を有する化粧シート、及びそれを用いた化粧板を提供する。
【解決手段】本発明は、具体的には、第一オレフィン樹脂層、第二オレフィン樹脂層、及び表面保護層をこの順に有する化粧シートにおいて、
前記第二オレフィン樹脂層のインデンテーション硬さHIT
2と前記表面保護層のインデンテーション硬さHIT
1とが下記式(1)及び(2);
HIT
2 ≧ 100MPa (1)
HIT
1 > HIT
2 (2)
を満たすことを特徴とする化粧シート、及びそれを用いた化粧板を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一オレフィン樹脂層、第二オレフィン樹脂層、及び表面保護層をこの順に有する化粧シートにおいて、
前記第二オレフィン樹脂層のインデンテーション硬さHIT
2と前記表面保護層のインデンテーション硬さHIT
1とが下記式(1)及び(2);
HIT
2 ≧ 100MPa (1)
HIT
1 > HIT
2 (2)
を満たすことを特徴とする化粧シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シート、及び化粧板に関する。
【背景技術】
【0002】
建材の表面材等に用いられる化粧シートの耐擦傷性を向上させるために当該シートの表面保護層を電離放射線硬化型樹脂の硬化塗膜から形成する方法が知られている。しかしながら、このような化粧シートの中で耐擦傷性が優れているとされる床用化粧シートであっても全く傷が付かないものではなく、高荷重条件下で傷付き試験を行うと傷が付くという問題がある(特許文献1)。
【0003】
また、化粧シートを住宅内の床だけでなく店舗などの非住宅の床など、色々な使用状況の床に使用するためには、化粧シートの表面保護層面における耐擦傷性の更なる向上が望まれている。
【0004】
そこで、化粧シートの高荷重条件下での耐擦傷性を更に向上させるために、表面保護層を硬くすることが提案されている。しかしながら、表面保護層を硬くし過ぎると、化粧シートをVカット加工、ラッピング加工等の曲げ加工に適用する際に、表面保護層に亀裂や破断を生じてしまう。このように、化粧シートにおいて、曲げ加工適性と耐擦傷性のための硬さとを両立させることは必ずしも容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高荷重条件下での耐擦傷性に優れるとともに、優れた曲げ加工性を有する化粧シート、及びそれを用いた化粧板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の化粧シート及び化粧板が本発明の課題を解決し得ることを見出した。
1.第一オレフィン樹脂層、第二オレフィン樹脂層、及び表面保護層をこの順に有する化粧シートにおいて、
前記第二オレフィン樹脂層のインデンテーション硬さHIT
2と前記表面保護層のインデンテーション硬さHIT
1とが下記式(1)及び(2);
HIT
2 ≧ 100MPa (1)
HIT
1 > HIT
2 (2)
を満たすことを特徴とする化粧シート。
2.前記表面保護層のインデンテーション硬さHIT
1が下記式(3);
450MPa > HIT
1 (3)
を満たす、上記項1に記載の化粧シート。
3.前記第二オレフィン樹脂層のインデンテーション硬さHIT
2と前記第一オレフィン樹脂層のインデンテーション硬さHIT
3とが下記式(4);
HIT
2 > HIT
3 (4)
を満たす、上記項1又は2に記載の化粧シート。
4.前記第二オレフィン樹脂層は、微結晶化オレフィン樹脂層である、上記項1~3のいずれかに記載の化粧シート。
5.前記表面保護層は、平均粒子径10μm以下の無機微粒子を含有する、上記項1~4のいずれかに記載の化粧シート。
6.厚さ方向において順に、化粧板基材と、上記項1~5のいずれかに記載の化粧シートとを備える積層体から構成される化粧板。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高荷重条件下での耐擦傷性に優れるとともに、優れた曲げ加工性を有する化粧シート、及びそれを用いた化粧板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の化粧シートの一つの態様の断面を示す模式図である。
【
図2】本発明の化粧シートの別の態様の断面を示す模式図である。
【
図3】本発明の化粧シートと化粧板基材とを組み合わせて化粧板を形成することを示す断面の模式図である。
【
図4】本明細書におけるインデンテーション硬さの測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.化粧シート
以下、本発明の化粧シート及び化粧板について詳細に説明する。
【0011】
図1は本発明の化粧シートの一つの態様の断面を示す模式図であり、厚さ方向において、第一オレフィン樹脂層3、第二オレフィン樹脂層2、及び表面保護層1をこの順に有する化粧シート10が図示されている。また、
図2においては、少なくとも表面保護層側からエンボス加工凹部4が形成されている。以下、適宜図面を参照しながら説明する。
【0012】
本明細書では、
図1を例に挙げると、第二オレフィン樹脂層2から見て表面保護層1が積層されている方向を「上」又は「おもて面」と称し、第二オレフィン樹脂層2から見て第一オレフィン樹脂層3が積層されている方向を「下」又は「裏面」と称する。そして、化粧シート又は化粧板の「おもて(側)の面」又は「表面保護層(側)の面」とは、化粧シート又は化粧板の施工後に視認される面を意味する。
【0013】
なお、本明細書において「~」で示される数値範囲は「以上」、「以下」を意味する。例えば、α~βmmの表記は、αmm以上βmm以下を意味する。
(化粧シート)
本発明の化粧シート10は、
図1に図示の如く第一オレフィン樹脂層3、第二オレフィン樹脂層2、及び表面保護層1をこの順に有する化粧シートであって、
第二オレフィン樹脂層2のインデンテーション硬さH
IT
2と表面保護層1のインデンテーション硬さH
IT
1とが下記式(1)及び(2);
H
IT
2 ≧ 100MPa (1)
H
IT
1 > H
IT
2 (2)
を満たすことを特徴とする。
(インデンテーション硬さ)
本明細書において、各層の「インデンテーション硬さ」は、表面皮膜物性試験機トライボインデンター(登録商標)「TI-950」(HYSITRON社製)を用いて測定されるナノインデンテーション硬さで示す。
【0014】
なお、トライボインデンター(登録商標)「TI-950」を用いた各層のインデンテーション硬さ(H
IT)の測定方法は次の通りである。
(1)
図4(a)に示されるバーコビッチ圧子を用いて、
図4(b)に示すように測定試料にバーコビッチ圧子を後述の押込み条件にて押込み、表面にできた三角錘型の幾何学的形状から、「装置標準の方法で補正した接触投影面積(Ap)(mm
2)」を計算し、最大試験荷重(F
max)を前記Apで除することにより硬さを求める。
【0015】
すなわち、H
IT=F
max/Apである。
(2)ここで、押込み条件は、第一オレフィン樹脂層及び第二オレフィン樹脂層については、室温(実験室環境温度)において、
図4(c)に示される通り、先ず0~50μNまでの負荷を5秒間で加え(すなわち10μN/s)、次に50μN(F
max)の負荷で5秒間保持し、最後に50~0μNまでの除荷を10秒間で行う。また、表面保護層については、先ず0~100μNまでの負荷を10秒間で加え(すなわち10μN/s)、次に100μN(F
max)の負荷で5秒間保持し、最後に100~0μNまでの除荷を10秒間で行う。通常、押し込み量(h)は100~150nm程度であるため、測定試料となる層の押し込み方向の厚さは1.0μm以上(好適には1.5μm以上)であればよい。
【0016】
Apは、24.50〔hmax-ε(hmax-hr)〕2で算出される(ここで、εは圧子の幾何学形状による補正係数であり、hrは除荷後の表面に残存している三角錐型の幾何学的形状の深さである。)。
(3)なお、硬さの測定に際し、測定試料となる層以外の層の硬さの影響を回避するために測定対象の層の断面の硬さを測定する。すなわち、化粧シートを樹脂(冷間硬化タイプのエポキシ2液硬化樹脂)で包埋し、室温で24時間以上放置して硬化させた後、硬化した埋包サンプルを機械研磨して測定対象の層の断面を露出させ、測定対象の層の断面(充填材等の微粒子が層中に含まれる場合には当該微粒子を避けた位置)に上記バーコビッチ圧子を押込むことにより各層の断面の硬さを測定する。
(4)各層について、それぞれ偏りが生じないように10箇所のインデンテーション硬さを測定し、10箇所の平均値をそれぞれ「表面保護層のインデンテーション硬さHIT
1」、「第二オレフィン樹脂層のインデンテーション硬さHIT
2」及び「第一オレフィン樹脂層のインデンテーション硬さHIT
3」とする。
【0017】
本発明において、第二オレフィン樹脂層のインデンテーション硬さHIT
2と表面保護層のインデンテーション硬さHIT
1とは、下記式(1)及び(2)を満たすことを要する。第二オレフィン樹脂層及び表面保護層のインデンテーション硬さが下記式(1)及び(2)を満たさない場合には高荷重条件下での優れた耐擦傷性と曲げ加工性とが得られない。
【0018】
HIT
2 ≧ 100MPa (1)
HIT
1 > HIT
2 (2)
なお、表面保護層のインデンテーション硬さHIT
1は、比較的高荷重での耐擦傷性を発揮させるという理由から第二オレフィン樹脂層のインデンテーション硬さHIT
2よりも大きい必要があり、且つ100MPa超過である。
【0019】
また、優れた耐擦傷性と良好な曲げ加工性を得る観点から、表面保護層のインデンテーション硬さHIT
1は、下記式(3);
450MPa > HIT
1 (3)
を満たすことが好ましい。
【0020】
また、優れた耐擦傷性と良好な曲げ加工性を得る観点から、第二オレフィン樹脂層のインデンテーション硬さHIT
2と第一オレフィン樹脂層のインデンテーション硬さHIT
3とが、下記式(4);
HIT
2 > HIT
3 (4)
を満たすことが好ましい。
(第一オレフィン樹脂層)
第一オレフィン樹脂層は、オレフィン樹脂からなる層であり、オレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン等のオレフィンの単独重合体;エチレン-プロピレンのブロック共重合体、ランダム共重合体;エチレン及びプロピレンの少なくとも一種と、ブテン、ペンテン、ヘキセン等の少なくとも一種の他のオレフィンとの共重合体;エチレン及びプロピレンの少なくとも一種と、酢酸ビニル、ビニルアルコール等の少なくとも一種の他の単量体との共重合体;等が挙げられる。なかでも、優れた耐擦傷性と良好な曲げ加工性とを得る観点から、ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく、特にポリエチレンが好ましい。
【0021】
ポリエチレンは、エチレンの単独重合体であってもよいし、エチレンと、エチレンと共重合可能な他のコモノマー(例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン等のα-オレフィン、酢酸ビニル、ビニルアルコール等)との共重合体であってもよい。ポリエチレン樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、架橋ポリエチレン(PEX)等が挙げられる。これらのポリエチレンは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
ポリプロピレンは、プロピレンの単独重合体であってもよいし、プロピレンと、プロピレンと共重合可能な他のコモノマー(例えば、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン等のα-オレフィン;酢酸ビニル、ビニルアルコール等)との共重合体であってもよい。これらのポリプロピレンは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
第一オレフィン樹脂層のインデンテーション硬さHIT
3と第二オレフィン層のインデンテーション硬さHIT
2とは、上記式(4)の関係を有することが好ましい。
【0024】
その中でも、優れた耐擦傷性と良好な曲げ加工性とを得る観点から、第一オレフィン樹脂層のインデンテーション硬さHIT
3は、10~80MPaであることが好ましく、15~70MPaであることがより好ましく、20~60MPaであることが更に好ましく、30~55MPaであることが特に好ましい。かかる範囲内であることにより、化粧シートの耐擦傷性及び耐衝撃性(特に耐凹み性)を良好に保持できることに加えて、印刷機で印刷やコーティングを施す際に印刷時に加わる張力で第一オレフィン樹脂層が伸びてしまうことを抑制することができる。また、曲げ加工における表面保護層の亀裂や破断を抑制し易く、耐衝撃性(特に耐割れ性)を良好に保持することができる。
【0025】
なお、インデンテーション硬さは、異なる硬さを有する2種以上の樹脂を混合することや樹脂にエラストマーを混合すること等によって適宜設定することができる。
【0026】
第一オレフィン樹脂層の厚さは、優れた耐擦傷性と曲げ加工性の観点から、30~120μmが好ましく、40~110μmがより好ましく、50~100μmが更に好ましく、55~85μmが特に好ましい。
【0027】
なお、本明細書における第一オレフィン樹脂層、第二オレフィン樹脂層及び表面保護層の厚さは、10箇所の厚みを測定した際の平均値である。
(第二オレフィン樹脂層)
第二オレフィン樹脂層は、オレフィン樹脂からなる層であり、そのインデンテーション硬さHIT
2が上記式(1)及び(2)を満足することを要する層である。
【0028】
第二オレフィン樹脂層を形成するオレフィン樹脂としては、第一オレフィン樹脂層を形成し得るオレフィン樹脂と同じものが例示できる。なかでも、優れた耐擦傷性と曲げ加工性の観点から、ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく、特にポリプロピレンが好ましい。
【0029】
ポリプロピレンは、プロピレンの単独重合体であってもよいし、プロピレンと、プロピレンと共重合可能な他のコモノマー(例えば、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン等のα-オレフィン;酢酸ビニル、ビニルアルコール等)との共重合体であってもよい。これらのポリプロピレンは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。本発明においては、優れた耐擦傷性と曲げ加工性の観点から、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン)であることが特に好ましい。
【0030】
第二オレフィン樹脂層は、そのインデンテーション硬さHIT
2について、下記式(1)及び(2)を満足することを要し、好ましくは下記式(4)を満足するものである。
【0031】
HIT
2 ≧ 100MPa (1)
HIT
1 > HIT
2 (2)
HIT
2 > HIT
3 (4)
第二オレフィン樹脂層のインデンテーション硬さHIT
2は、耐擦傷性及び曲げ加工性のバランスの観点から、100MPa以上200MPa以下が好ましく、105MPa以上150MPa以下がより好ましく、110MPa以上130MPa以下が更に好ましい。
【0032】
HIT
2が100MPa未満であると、耐擦傷性や耐衝撃性(特に耐凹み性)が劣ったり、印刷機で印刷やコーティングを施す際に印刷時に加わる張力で第二オレフィン樹脂層が伸びてしまうことがある。また、200MPaを超えると、曲げ加工において表面保護層に亀裂や破断を生じてしまうことや耐衝撃性(特に耐割れ性)が劣ってしまうことがある。
【0033】
インデンテーション硬さHIT
2を容易に調節するには、例えば、異なる硬さを有する2種以上の樹脂を混合すること、樹脂にエラストマーを混合すること、第二オレフィン樹脂層を微結晶化オレフィン樹脂層とすること等によって適宜設定することができる。
【0034】
微結晶化オレフィン樹脂層を得るためには、例えば、第二オレフィン樹脂層を形成するオレフィン樹脂組成物に結晶核剤を含有させて溶融し、次いで冷却することにより行うことができる。この場合、冷却方法としては、例えば、押出し成型時において冷却水を通した冷却ロール(チルロール)にダイから押し出された材料を接触させて冷却を行なうチルロール法による冷却が挙げられる。
【0035】
結晶核剤としては、例えば脂肪酸金属塩、ホスホン酸の金属塩、リン酸エステル金属塩、安息香酸金属塩、ピメリン酸金属塩、ロジン金属塩等の金属塩系結晶核剤;脂肪酸エステル、脂肪族アミド、ベンジリデンソルビトール、キナクリドン、シアニンブルー等の有機系結晶核剤;タルク等の無機系結晶核剤;等が挙げられる。
【0036】
また、結晶核剤としては、上記の結晶核剤がナノシェルに内包されたものを用いることもできる。ナノシェルに内包された結晶核剤を用いることにより、第二オレフィン樹脂層中において結晶核剤がより均一に分散するため、溶融条件、冷却条件等の諸条件によらず、容易にかつ安定的に、インデンテーション硬さHIT
2を調節することができ、また優れた耐擦傷性と良好な曲げ加工性とが得られる。
【0037】
本発明において、「ナノシェル」とは、「ナノサイズの殻状に閉じた膜構造を有し、中空の小胞体」であり、好ましくは380nm未満、より好ましくは375nm以下の平均一次粒子径を有するものを意味する。ここで、平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査透過型電子顕微鏡(STEM)により測定した観察像から統計処理により算出される値である。統計処理による算出は、具体的には、SEM画像からランダムに選んだ1000個の粒子について、直径を測定し、3nm区分のヒストグラムを作成したときの、下記式(A)を用いた算出により行ったものである。当該式(A)で得られた数平均一次粒子径Dnpを、本明細書の平均一次粒子径とした。
【0038】
Dnp=Σnidi/Σni (A)
Dnp:数平均分子量
di:ヒストグラムのi番目の直径
ni:頻度
本発明において、ナノシェルの平均一次粒子径は、可視光の波長領域(380~750nm)未満であり、また可視光の波長の1/2以下程度である、すなわち、380nm未満であることが好ましく、より具体的には、1nm以上380nm未満が好ましく、1~375nmがより好ましく、5~300nmが更に好ましく、10~250nmがより更に好ましく、15~200nmが特に好ましい。平均一次粒子径が上記範囲内にあると、より容易に第二オレフィン樹脂層のインデンテーション硬さを調節でき、優れた耐擦傷性と曲げ加工性とを得ることができる。
【0039】
ナノシェルとしては、上記の結晶核剤を内包できるものであれば特に制限はないが、単層膜であってもよいし、多重膜であってもよいが、平均一次粒子径をより小さくして、結晶核剤の分散性を向上させて、優れた耐擦傷性及び曲げ加工性をより効率的に向上させる観点から、単層膜であることが好ましい。また、ナノシェルを形成する材料としては、より容易に第二オレフィン樹脂層のインデンテーション硬さを調節し、優れた耐擦傷性及び曲げ加工性を得る観点から、リン脂質が好ましい。
【0040】
本発明において、ナノシェルの形態としては、リン脂質からなる単層膜であることがより好ましい。リン脂質からなるナノシェルとすることで、上記の第二オレフィン樹脂層を形成する樹脂との相溶性が向上するため、第二オレフィン樹脂層のインデンテーション硬さを調節し、優れた耐擦傷性及び曲げ加工性を得る点で有利である。また、ナノシェルが単層膜であることで、平均一次粒子径がより小さいものとなるため、ナノシェルを形成するリン脂質による分散性向上との相乗効果により、結晶核剤の分散性が向上し、より効率的に、第二オレフィン樹脂層のインデンテーション硬さを調節し、優れた耐擦傷性及び曲げ加工性を得ることが可能となる。
【0041】
リン脂質としては、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセルロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオピン、黄卵レシチン、水添黄卵レシチン、大豆レシチン、水添大豆レシチン等のグリセロリン脂質;スフィンゴミエリン、セラミドホスホリエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール等のスフィンゴリン脂質;等が挙げられる。これらのリン脂質は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
上記の結晶核剤をナノシェルに内包する手法としては、例えば、Bangham法、エクストルージョン法、水和法、界面活性剤透析法、逆相蒸発法、凍結融解法、超臨界逆相蒸発法等が挙げられる。
【0043】
ここで、Bangham法は、クロロホルム、メタノール等の溶媒に、リン脂質を加えて溶解した後、エバポレータを用いて溶媒を除去してリン脂質からなる薄膜を形成し、上記結晶核剤を加えた後、ミキサーを用いて、例えば、1000~2500rpm程度の高速回転で撹拌することで、水和し、分散させて、結晶核剤をナノシェルに内包する方法である。エクストルージョン法は、外部摂動として用いたミキサーに代えてフィルターを通過させる方法である。水和法は、Bangham法において、ミキサーを用いずに、穏やかに攪拌し、分散させて、結晶核剤をナノシェルに内包する方法である。逆相蒸発法は、リン脂質をジエチルエーテル、クロロホルム等の溶媒に溶解し、上記結晶核剤(分散液の状態としたものでもよい。)を加えてW/Oエマルジョンを作り、該エマルジョンから減圧下において溶媒を除去し、水を添加して、結晶核剤をナノシェルに内包する方法である。また、凍結融解法は、外部摂動として冷却、加熱の少なくともいずれかを行う方法であり、冷却、加熱を繰り返すことによって結晶核剤をナノシェルに内包する方法である。
【0044】
また、超臨界逆相蒸発法を採用することで、より確実に、かつ容易に、ナノシェルを、リン脂質からなる単層膜とすることができる。超臨界逆相蒸発法は、超臨界状態、又は臨界点以上の温度条件下、又は圧力条件下の二酸化炭素を用いて、結晶核剤をナノシェルに内包する方法である。ここで、超臨界状態の二酸化炭素は、臨界温度(30.98℃)及び臨界圧力(7.3773±0.0030MPa)以上の超臨界状態にある二酸化炭素を意味し、臨界点以上の温度条件下、又は圧力条件下の二酸化炭素とは、温度又は臨界の一方のみが臨界条件を超えた条件下である二酸化炭素を意味する。
【0045】
超臨界逆相蒸発法は、具体的には、上記の結晶核剤と、超臨界二酸化炭素と、リン脂質との混合物に水を加え、攪拌することにより、超臨界二酸化炭素と水相のエマルジョンを形成し、次いで、減圧することで二酸化炭素が膨張、蒸発して転相が生じ、結晶核剤の表面をリン脂質の単層膜で覆ったナノシェルを形成し、ナノシェルに内包される結晶核剤を得る、というものである。なお、従来のように、多重膜を形成したい場合は、上記の方法において、結晶核剤と、リン脂質と、水との混合物に、超臨界二酸化炭素を加えればよい。
【0046】
本発明において、ナノシェルは、リン脂質以外の材料、例えば、脂肪族多価ポリカルボン酸、ポリカルボン酸アルキルアミン、ポリ(メタ)アクリル酸等の分子量1万~50万、好ましくは1.5万~30万、より好ましくは2万~20万程度の高分子界面活性剤;ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、リシノール酸等の好ましくは炭素数10~30、より好ましくは12~28の飽和又は不飽和脂肪酸と、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム等の金属とが結合した脂肪酸金属塩;(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリロキシ系シランカップリング剤、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル系シランカップリング剤、(エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシ系シランカップリング剤、イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート系シランカップリング剤、フェニルトリメトキシシラン等のフェニル系シランカップリング剤等のシランカップリング剤;テトラキス[ビス(アリルオキシメチル)ブトキシ]チタン、ジプロポキシチタンジオソステアレート、(ブトキシカルボニルベンゾイルオキシ)トリブトキシチタン、トリイソステアリン酸イソプロピルチタン、ジブトキシ-ビス(トリエタノールアミナト)チタン、テトラキス(エチルヘキシルオキシ)チタン、ジプロポキシ-ビス(アセチルアセトナト)チタン等のチタネートカップリング剤;ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、環状ジメチルシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、長鎖アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸変性シリコーンオイル等のシリコーンオイル;ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンポリエチレン共重合体ワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、サゾールワックス等の炭化水素系ワックス、好ましくは炭素数10~30、より好ましくは12~24の脂肪族カルボン酸とジペンタエリスリトールとのエステルワックス、カルナウバワックス、モンタンワックス等の脱酸ワックス等のワックス;ポリオレフィン樹脂をマレイン酸、スルホン酸、カルボン酸、ロジン酸等の有機酸を用いて変性した変性樹脂;等の分散剤からなるものであってもよい。これらの分散剤は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
ナノシェルに内包された結晶核剤の作製方法の一例として、結晶核剤としてリン酸エステル金属塩系結晶核剤(2,2’-メチレンビス-(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)リン酸ナトリウム)を用いた場合を例にとって、より具体的に説明する。
【0048】
メタノール等の有機溶媒100質量部、結晶核剤として上記リン酸エステル金属塩系結晶核剤60~100質量部、及びリン脂質としてホスファチジルコリン2~10質量部を、40~70℃に保たれた容器に入れて密閉し、内圧が7.5~25MPaとなるように該容器内に二酸化炭素を供給して超臨界状態とする。次いで、該容器内を1000~2500rpm程度の高速回転で撹拌し、イオン交換水50~150質量部を供給する。温度及び圧力が超臨界状態となるように維持しながら、10~25分程度撹拌を続けた後、二酸化炭素を該容器から排出し、容器内を大気圧に戻すことで、リン脂質からなる単層膜のナノシェルに内包された、結晶核剤(リン酸エステル金属塩系結晶核剤)を作製することができる。得られたナノシェルに内包された結晶核剤の一次平均粒子径は、10~250nm程度である。
【0049】
第二オレフィン樹脂層における結晶核剤の含有量は、第二オレフィン樹脂層を形成する樹脂成分100質量部に対して、0.01~5質量部が好ましく、0.02~3質量部がより好ましく、0.03~1質量部が更に好ましく、0.05~0.5質量部が特に好ましい。結晶核剤の含有量が上記範囲内であると、第二オレフィン樹脂層を形成する樹脂中に均一に分散しやすく、結晶核剤としての効果が得られやすく、容易にかつ安定的にインデンテーション硬さHIT
2を調節することができ、また優れた耐擦傷性と曲げ加工性とが得られる。
【0050】
第二オレフィン樹脂層の厚さは、優れた耐擦傷性と曲げ加工性とを得る観点から、30~120μmが好ましく、40~110μmがより好ましく、50~100μmが更に好ましく、55~85μmが特に好ましい。30μm未満であると、耐擦傷性や耐衝撃性(特に耐凹み性)が劣ったり、印刷機で印刷やコーティングを施す際に印刷時に加わる張力で第二オレフィン樹脂層が伸びてしまうおそれがある。また、120μmを超えると、曲げ加工において表面保護層に亀裂や破断を生じてしまうことや耐衝撃性(特に耐割れ性)が劣ってしまうおそれがある。
(表面保護層)
表面保護層は、
図1及び2に示されるように、化粧シートの最表面に設けられて外面に露出する層であり、化粧シートの耐汚染性、耐擦傷性、耐薬品性等の表面特性を向上させるために設けられる。また、表面保護層は、そのインデンテーション硬さH
IT
1が、下記式(2)を満足することを要する。
【0051】
HIT
1 > HIT
2 (2)
表面保護層のインデンテーション硬さHIT
1は、比較的高荷重での耐擦傷性を発揮させるという理由から第二オレフィン樹脂層のインデンテーション硬さHIT
2よりも大きい必要があり、且つ100MPa超過である。
【0052】
なお、インデンテーション硬さは、異なる硬さを有する2種以上の樹脂を混合することや樹脂にエラストマーを混合すること等によって適宜設定することができる。
【0053】
また、耐擦傷性の観点から、インデンテーション硬さHIT
1は、170MPa以上であることが好ましく、250MPa以上であることがより好ましく、300MPa以上であることがさらに好ましく、350MPa以上であることがよりさらに好ましい。
【0054】
また、曲げ加工性の観点から、インデンテーション硬さHIT
1は、下記式(3)を満たすことが好ましく、400MPa以下がより好ましく、350MPa以下がより好ましく、320MPa以下がよりさらに好ましい。
【0055】
450MPa > HIT
1 (3)
なお、前述したインデンテーション硬さHIT
1の上限及び下限の多段階の好適な範囲は、それぞれ組み合わせることが可能である。例えば下限の最大値と、上限の最大値とを組み合わせてHIT
1の範囲を350MPa以上450MPa未満とすることができる。
【0056】
表面保護層は、化粧シートの耐汚染性、耐擦傷性、耐薬品性等の表面特性を向上させ、上記のインデンテーション硬さを満足させる観点から、硬化性樹脂組成物の硬化物からなることが好ましく、硬化性樹脂組成物としては、例えば、熱硬化性樹脂、2液硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂等の硬化性樹脂を含む樹脂組成物が挙げられ、より優れた表面特性を得る観点から、硬化性樹脂として2液硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂を含む樹脂組成物が好ましい。
【0057】
2液硬化性樹脂としては、主剤と硬化剤とにより硬化する樹脂であれば特に制限はなく、好ましくは主剤をポリオール(多価アルコール)とし、硬化剤をイソシアネート硬化剤とする2液硬化性ウレタン樹脂が挙げられる。
【0058】
主剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール等のポリオール;アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等の官能基として水酸基を有するポリオール;等が好ましく挙げられる。これらは単独又は複数種を混合して使用できる。
【0059】
また、イソシアネート硬化剤としては、従来公知の化合物を適宜使用すればよく、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート(TDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート;1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、メチレンジイソシアネート(MDI)、水素添加トリレンジイソシアネート等の脂肪族(ないしは脂環式)イソシアネート;等のポリイソシアネートが用いられる。また、これら各種イソシアネートの付加体又は多量体、例えば、トリレンジイソシアネートの付加体、トリレンジイソシアネート3量体(trimer)なども用いられる。
【0060】
電離放射線硬化性樹脂は、電離放射線、すなわち電磁波又は荷電粒子線のうち、分子を重合あるいは架橋し得るエネルギー量子を有するもの、例えば、紫外線(UV)又は電子線(EB)の他、X線、γ線などの電磁波、α線、イオン線等の荷電粒子線を照射することにより硬化する樹脂である。具体的には、電離放射線硬化性樹脂としては、慣用されている重合性モノマー、重合性オリゴマー及びプレポリマーの中から適宜選択して用いることができる。
【0061】
重合性モノマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレート系モノマーが好適であり、なかでも多官能(メタ)アクリレートモノマーが好ましい。多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子内にエチレン性不飽和結合を2個以上有する(メタ)アクリレートモノマーであればよく、例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が好ましく挙げられる。これらの(メタ)アクリレートモノマーは、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
重合性オリゴマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つオリゴマー、例えばウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー、アクリル(メタ)アクリレートオリゴマー等の(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましく挙げられる。これらの重合性オリゴマーは、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
硬化性樹脂組成物は、上記の硬化性樹脂の他、後述する分散剤等が含まれていてもよい。
【0064】
また、硬化性樹脂組成物は、添加剤として、本発明の目的を損なわない範囲で、紫外線吸収剤、紫外線遮蔽剤、光安定剤、耐摩耗性向上剤、重合禁止剤、架橋剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、接着性向上剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、カップリング剤、可塑剤、消泡剤、充填剤、ブロッキング防止剤、滑剤、溶剤等を添加することができる。中でも、耐候性向上のために、紫外線吸収剤、光安定剤等の耐候剤等を含有することが好ましい。
【0065】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、サリチレート系、アクリロニトリル系等が挙げられ、光安定剤としては、ヒンダードアミン系、アクリレート系、オキサミド系、シアノアクリレート系等が挙げられる。
【0066】
表面保護層は、分散剤を含有することができる。
【0067】
分散剤としては、上記のナノシェルを形成し得る材料として例示した、高分子界面活性剤、脂肪酸金属塩、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、シリコーンオイル、ワックス、変性樹脂等が挙げられる。これらの分散剤は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
また、分散剤として、ナノシェルに内包される分散剤も用いられる。ナノシェルに内包される分散剤におけるナノシェルは、上記第二オレフィン樹脂層におけるナノシェルに内包される結晶核剤と同じナノシェルとすればよく、その作製方法もナノシェルに内包される結晶核剤の作製方法と同じである。
【0069】
ナノシェルに内包される分散剤と、後述する無機微粒子とを含有することにより、インデンテーション硬さを高くしやすくできる。
【0070】
ナノシェルに内包された分散剤の作製方法の一例として、分散剤としてメタクリロキシプロピルトリメトキシシランを用いた場合を例に挙げてより具体的に説明する。
【0071】
メタノール等の有機溶媒100質量部、分散剤としてメタクリロキシプロピルトリメトキシシラン40~80質量部、及びリン脂質としてホスファチジルコリン2~10質量部を、40~70℃に保たれた容器に入れて密閉し、内圧が7.5~25MPaとなるように該容器内に二酸化炭素を供給して超臨界状態とする。次いで、該容器内を1000~2500rpm程度の高速回転で撹拌し、イオン交換水50~150質量部を供給する。温度及び圧力が超臨界状態となるように維持しながら、10~25分程度撹拌を続けた後、二酸化炭素を該容器から排出し、容器内を大気圧に戻すことで、リン脂質からなる単層膜のナノシェルに内包された、分散剤(メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)を作製することができる。
【0072】
このようにして得られたナノシェルに内包される分散剤の平均一次粒子径は、上記のナノシェルに内包される分散剤の平均一次粒子径と同じく、380nm未満であることが好ましく、より具体的には、1nm以上380nm未満が好ましく、1~375nmがより好ましく、5~300nmが更に好ましく、10~250nmがより更に好ましく、15~200nmが特に好ましい。
【0073】
分散剤の含有量は、表面保護層を形成する樹脂成分100質量部に対して、0.01~30質量部が好ましく、0.05~15質量部がより好ましく、0.1~10質量部が更に好ましく、特に0.3~5質量部が好ましい。
【0074】
表面保護層は、さらに、耐擦傷性を向上する観点から、無機微粒子を含有することが好ましい。無機微粒子としては、シリカ、アルミナ、アルミノシリケート、カオリナイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム及びガラス等が挙げられる。
【0075】
無機微粒子の平均粒子径は限定的ではないが、20μm以下が好ましく、その中でも1~20μmが好ましく、2~15μmがより好ましい。
【0076】
無機微粒子の平均粒子径は、溶液中の該粒子を動的光散乱方法で測定し、粒子径分布を体積累積分布で表したときの50%粒子径(d50:メジアン径)である。50%粒子径は、例えば、Microtrac粒度分析計(日機装株式会社製)を用いて測定することができる。
【0077】
また、無機微粒子の含有量は、表面保護層を形成する樹脂成分100質量部に対して、1~30質量部が好ましく、2~25質量部がより好ましく、5~20質量部がさらに好ましい。
【0078】
表面保護層の厚さは、3~45μmが好ましく、5~35μmがより好ましく、10~30μmが更に好ましい。表面保護層の厚さが上記範囲内であると、前述の第一オレフィン樹脂層及び第二オレフィン樹脂層との組み合わせにより優れた表面特性が得られる。
(その他の層)
本発明の化粧シートは、上記の第一オレフィン樹脂層、第二オレフィン樹脂層及び表面保護層の他、用途に応じて、例えば、装飾層、プライマー層、接着剤層等を有することができる。
(装飾層)
本発明の化粧シートは、意匠性を向上させる観点から、装飾層を有することができる。装飾層は、例えば、第一オレフィン樹脂層と第二オレフィン樹脂層との間、又は第二オレフィン樹脂層と表面保護層との間、表面保護層上等に設けることができる。
【0079】
装飾層は、例えば、全面を被覆する着色層(いわゆるベタ着色層)であってもよいし、種々の模様をインキと印刷機を使用して印刷することにより形成される絵柄層であってもよいし、またこれらを組み合わせたものであってもよい。更に、装飾層は同一層内で複数箇所に設けてもよいし、一層だけでなく複数の層で設けてもよい。
【0080】
例えば、化粧板基材の地色を着色隠蔽する場合には、ベタ着色層とすることで、着色隠蔽しつつ、意匠性を向上させることができる。更に意匠性を向上させる観点から、ベタ着色層と絵柄層とを組み合わせてもよいし、一方、化粧板基材の地模様を生かす場合は、ベタ着色層とせずに絵柄層のみを設ければよい。
【0081】
装飾層に用いられるインキとしては、バインダーに顔料、染料等の着色剤、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を適宜混合したものが使用される。
【0082】
バインダーとしては特に制限はなく、例えば、ウレタン樹脂、アクリルポリオール樹脂、アクリル樹脂、エステル樹脂、アミド樹脂、ブチラール樹脂、スチレン樹脂、ウレタン-アクリル共重合体、ポリカーボネート系ウレタン-アクリル共重合体(ポリマー主鎖にカーボネート結合を有し、末端、側鎖に2個以上の水酸基を有する重合体(ポリカーボネートポリオール)由来のウレタン-アクリル共重合体)、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル-アクリル共重合体樹脂、塩素化プロピレン樹脂、ニトロセルロース樹脂、酢酸セルロース樹脂等の樹脂が好ましく挙げられる。これらのバインダーは、単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0083】
着色剤としては、化粧板基材の地色を着色隠蔽し、かつ意匠性を向上させる観点から、例えば、白色顔料、鉄黒、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルー等の無機顔料;キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルー等の有機顔料又は染料;アルミニウム、真鍮等の鱗片状箔片からなる金属顔料;二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛等の鱗片状箔片からなる真珠光沢(パール)顔料等の着色剤を用いることもできる。
【0084】
装飾層として絵柄層を有する場合、その模様としては、木目模様、大理石模様(例えばトラバーチン大理石模様)等の岩石の表面を模した石目模様、布目や布状の模様を模した布地模様、タイル貼模様、煉瓦積模様等があり、これらを複合した寄木、パッチワーク等の模様もある。これらの模様は通常の黄色、赤色、青色、および黒色のプロセスカラーによる多色印刷によって形成される他、模様を構成する個々の色の版を用意して行う特色による多色印刷等によっても形成される。
【0085】
装飾層の厚さは、所望の絵柄に応じて適宜選択すればよいが、化粧板基材の地色を着色隠蔽し、かつ意匠性を向上させる観点から、0.5~20μmが好ましく、1~10μmがより好ましく、2~5μmが更に好ましい。
(プライマー層)
プライマー層は、主に各層の密着性の向上を図るために設けられる層である。
【0086】
本発明の化粧シートにおいて、プライマー層は、例えば、第一オレフィン樹脂層の片面又は両面、第二オレフィン樹脂層の片面又は両面、等に設けることができる。また、プライマー層と同様に、各層の密着性の向上を図るため、第一オレフィン樹脂層、第二オレフィン樹脂層の片面又は両面に、酸化法、凹凸化法等の物理的表面処理、又は化学的表面処理等の表面処理を施してもよい。
【0087】
プライマー層は、例えば、上記の装飾層に用い得るバインダーとして例示したバインダーに、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を適宜混合した樹脂組成物により形成することができる。
【0088】
プライマー層の厚さは、密着性を向上させる観点から、0.2~10μmが好ましく、0.5μm~8μmがより好ましく、1~5μmが更に好ましい。
(合成樹脂製バッカー層)
本発明の化粧シートは、化粧シートの最下層、すなわち化粧シートの第一オレフィン樹脂層側に合成樹脂製バッカー層を備えていてもよい。合成樹脂製バッカー層を備えることにより、化粧材の耐衝撃性がより一層向上する。
【0089】
合成樹脂製バッカー層を構成する樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリメチレン、ポリメチルペンテン、ポリエチレンテレフタレート、耐熱性の高いポリアルキレンテレフタレート〔例えば、エチレングリコールの一部を1,4-シクロヘキサンジメタノールやジエチレングリコール等で置換したポリエチレンテレフタレートである、いわゆる商品名PET-G(イーストマンケミカルカンパニー製)〕、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンナフタレート-イソフタレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリイミド、ポリスチレン、ポリアミド、ABS等が挙げられる。これらの樹脂は、単独又は2種以上で使用できる。
【0090】
合成樹脂製バッカー層の厚みは、0.1~0.6mmが好ましく、0.15~0.45mmがより好ましく、0.20~0.40mmが更に好ましい。合成樹脂製バッカー層の厚みの下限が上記範囲であることにより、化粧シートの耐衝撃性がより一層向上する。また、合成樹脂製バッカー層の厚みの上限が上記範囲であることにより、化粧シートの反りがより一層抑制される。
(凹部)
本発明の化粧シートは、表面保護層側に凹部(例えば、エンボス加工凹部)を有してもよい。凹部を有することで、化粧シートの質感(触感)の向上に伴う高級感が得られ、意匠性が向上する。
【0091】
凹部は、本発明の化粧シートの表面保護層に少なくとも存在していればよく、凹部の深さは表面保護層内に留まるものであってもよいし、また第一オレフィン樹脂層まで至るものがあってもよい。優れた質感(触感)を得る観点から、表面保護層内に留まるものだけでなく、第二オレフィン樹脂層まで至るもの、第一オレフィン樹脂層まで至るものが組み合わされていることが好ましい。
【0092】
凹部の模様としては、例えば木目板導管溝、石板表面凹凸、布表面テクスチャア、梨地、砂目、ヘアライン、万線条溝等がある。意匠性を向上させる観点から、凹部の模様は、装飾層の絵柄と同調させた模様であることが好ましい。例えば、絵柄層が木目模様の場合は、凹部の模様として木目板導管溝を選択し、かつ絵柄層の木目と凹部の木目とを同調させると、よりリアルで質感に溢れた、高級感のある化粧シートが得られる。
(化粧シートの製造方法)
本発明の化粧シートの製造方法について、本発明の化粧シートとして好ましい態様の一つである、厚さ方向において、第一オレフィン樹脂層、装飾層、第二オレフィン樹脂層、及び表面保護層を順に有する化粧シートを例にとって、その製造方法の一例を説明する。
【0093】
まず、第一オレフィン樹脂層を形成する樹脂組成物を用意して、溶融押出法等の方法により第一オレフィン樹脂層を製膜し、該第一オレフィン樹脂層の上に、装飾層を形成する。
【0094】
また、これとは別に、第二オレフィン樹脂層を形成する樹脂組成物を用意して、溶融押出法等の方法により第二オレフィン樹脂層を製膜し、該第二オレフィン樹脂層の上に、硬化性樹脂組成物を塗布した未硬化層に、加熱又は電離放射線を照射して硬化させて、表面保護層を形成する。
【0095】
次いで、装飾層及び第二オレフィン樹脂層の少なくとも一方の面に接着剤を塗布し、装飾層と第二オレフィン樹脂層とが対向するようにして貼着することにより、第一オレフィン樹脂層、装飾層、第二オレフィン樹脂層、及び表面保護層を順に有する化粧シートを製造することができる。
【0096】
また、上記の製造方法において、装飾層を形成した後、第二オレフィン樹脂層を形成する樹脂組成物を用いて、第二オレフィン樹脂層を押出ラミネーション、ドライラミネーション、ウエットラミネーション、サーマルラミネーション等の方法により接着剤及び/又は酸変性ポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂を介して接着及び圧着させて積層して形成し、次いで、該第二オレフィン樹脂層の上に、硬化性樹脂組成物を塗布した未硬化層に、加熱又は電離放射線を照射して硬化させて、表面保護層を形成することによっても、第一オレフィン樹脂層、装飾層、第二オレフィン樹脂層、及び表面保護層を順に有する化粧シートを製造することができる。
【0097】
装飾層は、第一オレフィン樹脂層、第二オレフィン樹脂層上に装飾層の形成に用いられるインキを塗布して所望の着色層、絵柄層を設けることにより形成される。該インキの塗布は、グラビア印刷法、バーコート法、ロールコート法、リバースロールコート法、コンマコート法等の公知の方式、好ましくはグラビア印刷法により行う。
【0098】
表面保護層の形成において、硬化性樹脂組成物の塗布は、硬化後の厚さが所定の厚さとなるように、好ましくはグラビアコート、バーコート、ロールコート、リバースロールコート、コンマコート等の公知の方式により、より好ましくはグラビアコートにより行う。
【0099】
表面保護層の形成に電離放射線樹脂組成物を用いる場合、該樹脂組成物の塗布により形成した未硬化樹脂層は、電子線、紫外線等の電離放射線を照射して硬化物とすることで、表面保護層となる。ここで、電離放射線として電子線を用いる場合、その加速電圧については、用いる樹脂や層の厚みに応じて適宜選定し得るが、通常加速電圧70~300kV程度で未硬化樹脂層を硬化させることが好ましい。
【0100】
照射線量は、電離放射線硬化性樹脂の架橋密度が飽和する量が好ましく、通常5~300kGy(0.5~30Mrad)、好ましくは10~50kGy(1~5Mrad)の範囲で選定される。
【0101】
電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器を用いることができる。
【0102】
また、電離放射線として紫外線を用いる場合には、波長190~380nmの紫外線を含むものを放射する。紫外線源としては特に制限はなく、例えば高圧水銀燈、低圧水銀燈、メタルハライドランプ、カーボンアーク燈等が用いられる。
【0103】
表面保護層の形成に熱硬化性樹脂組成物を用いる場合は、使用する樹脂組成物に応じた熱処理を施して、硬化させて表面保護層を形成すればよい。
【0104】
また、プライマー層を設ける場合は、プライマー層を形成する樹脂組成物を、例えば、グラビア印刷法、バーコート法、ロールコート法、リバースロールコート法、コンマコート法等の公知の方式で塗布して形成することができる。
【0105】
また、合成樹脂製バッカー層を設ける場合は、例えば、Tダイ押出し法などで作製した合成樹脂層バッカー層と、第一オレフィン樹脂層とを、熱ラミネートや接着剤を介してドライラミネートにより積層するなど、公知の方式で形成することができる。
【0106】
また、凹部を形成する場合、作業の容易さを考慮すると、エンボス加工を採用することが好ましい。エンボス加工は、公知の枚葉又は輪転式のエンボス機を使用する通常の方法により行えばよい。
【0107】
2.化粧板
本発明の化粧板は、厚さ方向において順に、化粧板基材と、前述の本発明の化粧シートとを備える積層体から構成される。
【0108】
図3に、化粧板基材11上に本発明の化粧シート10(表面保護層側とは反対面と化粧板基材11とを貼り合わせる)がこの順に積層された化粧板12の一例を示す。
【0109】
化粧板基材としては限定的ではないが、例えば、中密度木質繊維板、高密度木質繊維板、パーティクルボード、針葉樹合板、広葉樹合板、早成樹合板、コルクシート、コルク含有複合基材、熱可塑性樹脂板(ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂等を主成分とする樹脂板、又はそれらを発泡させたもの)等の少なくとも1種が挙げられる。これらの化粧板基材は、単独又は2種以上を組み合わせて積層することにより使用してもよい。
【0110】
ここで、針葉樹としては、例えば、椴松、唐松、蝦夷松、杉、ヒノキ、パイン、セコイヤ、トウヒ等が挙げられる。広葉樹としては、例えば、ラワン、シナ、カバ、セン、ブナ、ナラ、メランチ等が挙げられる。また、早成樹としては、ポプラ、ファルカタ、アカシア、カメレレ、ユーカリ、ターミナリア等が挙げられる。
【0111】
針葉樹合板、広葉樹合板、早成樹合板等の木質合板を用いる場合の木質単板の積層数(プライ数)は限定的ではないが、通常3~7枚が好ましく、5~7枚がより好ましい。また、木質合板作製時に用いる接着剤も限定されず、公知の木工用接着剤が広く使用できる。
【0112】
接着剤としては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、アイオノマー、ブタジエン-アクリルニトリルゴム、ネオプレンゴム、天然ゴム等を有効成分とする接着剤が挙げられる。また、熱硬化型接着剤として、メラミン系、フェノール系、ユリア系(酢酸ビニル-尿素系など)等の接着剤も挙げられる。
【0113】
化粧板基材の厚さは限定的ではないが、2~15mm程度が好ましく、2~12mm程度がより好ましい。
【0114】
化粧シート及び化粧板基材を積層する積層方法は限定的でなく、例えば接着剤によりそれぞれを貼着する方法等を採用することができる。接着剤は、化粧板基材の種類等に応じて公知の接着剤から適宜選択すればよい。例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、アイオノマー、ウレタン系反応型ホットメルト(以下、「PUR系接着剤」という。)などの反応型ホットメルト接着剤等や、ブタジエン-アクリルニトリルゴム、ネオプレンゴム、天然ゴム等が挙げられる。これら接着剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いる。
【0115】
前述の本発明の化粧シートは、高荷重条件下でも優れた折り曲げ加工性と耐傷性とを兼ね備えており、化粧材として有用である。
【実施例0116】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0117】
各例で得られた化粧シートについては、下記の測定方法により性状又は特性を評価した。
<評価方法>
(1)インデンテーション硬さ(HIT)
明細書本文に記載の方法により、表面保護層のインデンテーション硬さHIT
1、第二オレフィン樹脂層のインデンテーション硬さHIT
2及び第一オレフィン樹脂層のインデンテーション硬さHIT
3を測定した。
(2)耐擦傷性試験(コインスクラッチ試験)
実施例及び比較例で作製した化粧シートを、厚みが2.5mmの中密度繊維板(MDF;化粧板基材)上に水溶性エマルション系接着剤を介して接着することにより化粧板を作製した。なお、水溶性エマルション系接着剤は、以下のものを用いた。
・水溶性エマルション系接着剤
主剤:「BA-10L」ジャパンコーティングレジン株式会社製、変性エチレン・酢酸ビニル系
硬化剤:「BA-11B」ジャパンコーティングレジン株式会社製、イソシアネート系
配合比 主剤:硬化剤=100:2.5(質量比)
その化粧板を用いて、コインスクラッチ試験により耐擦傷性を評価した。具体的には、45°に傾けた10円硬貨2枚を試験片化粧シート表面(表面保護層側)に接触させ、荷重(4kg荷重、6kg荷重及び7kg荷重)を加えながら水平方向に引き摺った際の傷付き状態を評価した。評価基準は、以下の通りであり、いずれもB評価以上(つまり、A又はB)が合格である。
<判定基準>
A:7kg荷重において傷が認められない
B:7kg荷重では傷が認められるが、6kg荷重において傷が認められない
C:4kg荷重では傷が認められないが、6kg荷重で傷が認められる
(3)曲げ加工性
実施例及び比較例で作製した化粧シートの曲げ加工性を評価した。具体的には、直径3mmの金属棒に化粧シートの第一オレフィン層が接するように巻きつけた際に、表面保護層の亀裂の有無を評価した。評価基準は、以下の通りである。
<判定基準>
A:亀裂が視認できない
B:注意深く観察すれば微小な亀裂がわずかに視認されるが、性能上問題ない範囲
C:亀裂が明確に視認できる
(4)耐衝撃性(デュポン衝撃試験)
実施例及び比較例で作製した化粧板の耐衝撃性を、デュポン衝撃試験機(JIS K5600-5-3に準拠)を用いて評価した。具体的には、100mmの高さから規定重量の錘を化粧板の化粧シート表面に落下させて化粧シートに割れが生ずるか否かを評価した。評価基準は、以下の通りである。
A:割れが視認できない
B:注意深く観察すれば微小な割れが視認できる
C:割れが明確に視認できる
(5)デュポン衝撃試験後の耐汚染性
実施例及び比較例で作製した化粧シートについて、下記の方法で耐汚染性を評価した。
(4)の試験実施部分に油性黒マジック(寺西化学工業(株)製)を塗布し、直後に溶剤(エタノール)で拭取った後の黒マジックの残存具合を目視により評価した。評価基準は、以下の通りである。
A:汚染残りが視認できない
B:注意深く観察すれば微小な汚染残りが視認できる
C:明確に汚染が視認できる
実施例1
第一オレフィン樹脂層3、第二オレフィン樹脂層2、及び表面保護層1がこの順に積層されてなる化粧シート10を作製した。
【0118】
先ず、厚さ80μmのポリエチレンシートからなる第一オレフィン樹脂層3と、下記作製方法で得られた第二オレフィン樹脂層2とを、接着剤層を介して積層した。
【0119】
次いで、第二オレフィン樹脂層2上に、下記組成の表面保護層塗工液Aをロールコート方式により乾燥後の厚みが15μmとなるように塗工した。
【0120】
次いで、酸素濃度200ppm以下の環境下において電子線照射装置を用いて、加速電圧175keV、5Mradの条件で電子線を照射して硬化させることにより表面保護層1を形成した。
【0121】
さらに、表面保護層1側から熱圧によるエンボス加工を施すことにより、木目導管柄の凹凸模様を形成して実施例1の化粧シートを作製した。
<第二オレフィン樹脂層2の作製方法>
アイソタクチックペンタッド分率が97.8%、MFRが15g/10min(230℃)、分子量分布(Mw/Mn)が2.3の高結晶性ホモポリプロピレン樹脂に、造核剤である2,2’-メチレンビス(4,6-ジ第三ブチルフェニル)ホスホン酸ナトリウム1000ppmを添加したものを溶融押出機で押出すことにより、厚さ80μmの微結晶化ホモポリプロピレンからなるポリプロピレンシートを製膜した。
<表面保護層塗工液A>
・2官能ウレタンアクリレートオリゴマー 80質量部
(ポリオール成分がポリエステルジオール、ガラス転移点:25℃、分子量1500)
・6官能脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマー 20質量部
(ガラス転移点:200℃以上、分子量1500、共栄社化学株式会社製UA306H)
・無機微粒子 14質量部
(平均粒子径10μmのシリカ微粒子)
実施例2
表面保護層塗工液Aの6官能脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーの配合量を100質量部に変更し、2官能ウレタンアクリレートオリゴマーを配合しなかった以外は、実施例1と同様にして、実施例2の化粧シートを作製した。
【0122】
実施例3
表面保護層塗工液Aの2官能ウレタンアクリレートオリゴマーの配合量を20質量部、6官能脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーの配合量を80質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例3の化粧シートを作製した。
【0123】
実施例4
実施例1の第二オレフィン樹脂層2として、造核剤の添加量を2000ppmとした以外は実施例1と同様にして、実施例4の化粧シートを作製した。
【0124】
実施例5
表面保護層塗工液Aの2官能ウレタンアクリレートオリゴマーの配合量を20質量部、6官能脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーの配合量を80質量部に変更し、更に造核剤の添加量を2000ppmとした以外は実施例1と同様にして、実施例5の化粧シートを作製した。
【0125】
比較例1
実施例1の第二オレフィン樹脂層2として、造核剤である2,2’-メチレンビス(4,6-ジ第三ブチルフェニル)ホスホン酸ナトリウム1000ppmを添加せずに溶融押出機で押出したポリプロピレンシートを用いた以外は実施例1と同様にして、比較例1の化粧シートを作製した。
【0126】
比較例2
実施例3の第二オレフィン樹脂層2として、造核剤である2,2’-メチレンビス(4,6-ジ第三ブチルフェニル)ホスホン酸ナトリウム1000ppmを添加せずに溶融押出機で押出したポリプロピレンシートを用いた以外は実施例3と同様にして、比較例2の化粧シートを作製した。
【0127】
【0128】
表1の結果から、実施例1~5の化粧シートは、高荷重条件下での耐擦傷性に優れるとともに、優れた曲げ加工性を有することが確認できる。また、実施例1~3と実施例4~5とを対比することにより、第二オレフィン樹脂層2のインデンテーション硬さHIT
2を100MPa以上140MPa未満(好ましくは130MPa以下)に設定することにより、優れた耐擦傷性及び曲げ加工性に加えて、デュポン衝撃性及びデュポン衝撃後の耐汚染性の点でも優れた効果を得ることが確認できる。