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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189906
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20221215BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20221215BHJP
   H01M 8/2475 20160101ALI20221215BHJP
   B60L 50/72 20190101ALI20221215BHJP
【FI】
H01M8/04 Z
H01M8/00 Z
H01M8/2475
H01M8/04 H
B60L50/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168734
(22)【出願日】2022-10-21
(62)【分割の表示】P 2021024782の分割
【原出願日】2021-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】内藤 秀晴
(72)【発明者】
【氏名】田倉 貴史
(57)【要約】
【課題】燃料電池スタックを収容するスタックケースの剛性を確保しつつ、該スタックケースの換気効率を向上させる。
【解決手段】車両(12)に搭載される燃料電池システム10は、燃料電池スタック16と、前記燃料電池スタック16を収納するスタックケース18とを備える。スタックケース18の、車両の進行方向前方に臨む前端面(74)には、下部に流入孔82が形成される一方、上部に流出孔84が形成される。流入孔82からは、スタックケース18の周囲の空気が該スタックケース18の内部に進入する。また、流出孔84には、スタックケース18の内部から進出する空気が通過する。この構成において、流出孔84の開口面積は、流入孔82の開口面積に比して大きく設定される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックを収納するスタックケースとを備え、車両に搭載される燃料電池システムであって、
前記スタックケースは、前記車両の進行方向前方に臨む前端面を有し、
前記前端面の下部に、前記スタックケースの内部に進入する空気が通過するための流入孔が形成され、
前記前端面の上部に、前記スタックケースの内部から進出する空気が通過するための流出孔が形成され、
前記流出孔の開口面積が前記流入孔の開口面積に比して大である燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池システムにおいて、前記流入孔又は前記流出孔の少なくともいずれかが車幅方向に沿って並列するように複数個形成された孔を含む燃料電池システム。
【請求項3】
請求項2記載の燃料電池システムにおいて、複数個の前記孔を含む前記流入孔又は前記流出孔が、車高方向に沿って並列するように複数個形成された孔をさらに含む燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の燃料電池システムにおいて、前記流入孔が前記前端面の車幅方向左方又は右方に偏倚するように形成されている燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の燃料電池システムにおいて、前記流入孔又は前記流出孔を覆うカバー部材が設けられるとともに、前記カバー部材に、前記流入孔又は前記流出孔を大気に連通させる通気用連通孔が形成されている燃料電池システム。
【請求項6】
請求項5記載の燃料電池システムにおいて、前記通気用連通孔と、前記流入孔又は前記流出孔との間にクランク通路が形成されている燃料電池システム。
【請求項7】
請求項5又は6記載の燃料電池システムにおいて、前記カバー部材と前記スタックケースとの間にフィルタ材が介装されている燃料電池システム。
【請求項8】
請求項7記載の燃料電池システムにおいて、前記フィルタ材を押さえる押さえ部材が設けられるとともに、前記押さえ部材が前記通気用連通孔に重なり、且つ前記カバー部材の、前記押さえ部材を臨む端面に、前記押さえ部材から離間する側に向かって陥没する段部が形成され、前記押さえ部材と前記段部の間に流通路が形成される燃料電池システム。
【請求項9】
請求項7又は8記載の燃料電池システムにおいて、前記フィルタ材が、フィルタ本体と、前記フィルタ材を支持する支持部材とを有し、前記支持部材が前記流入孔又は前記流出孔に臨む燃料電池システム。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の燃料電池システムにおいて、前記スタックケースの車幅方向端面に、前記燃料電池スタックを構成するエンドプレートを該スタックケースに連結するための連結孔が車高方向に沿って複数個形成されるとともに、前記流入孔及び前記流出孔が、低位置に形成された前記連結孔と、該連結孔よりも高位置で且つ該連結孔に隣接する別の前記連結孔との間となる位置に形成されている燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池スタックをスタックケースに収納した状態で車両に搭載される燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池スタックを車両に搭載する場合、例えば、特許文献1に記載されるように、該燃料電池スタックをスタックケース内に収納する構成が広汎に採用されている。車両を走行させるべく燃料電池スタックを発電させる際には、スタックケース内の燃料電池スタックに対し、水素ガスと圧縮空気が供給される。このような環境下では、燃料電池スタックから水素ガスが漏洩することが想定される。この場合、水素ガスがスタックケース内に蓄積される。
【0003】
そこで、スタックケース内の水素ガスの濃度が所定の閾値を下回るように、外部からスタックケース内に空気(大気)を導入してスタックケース内を換気する換気機構を設けることが提案されている。例えば、特許文献1に記載されたスタックケースでは、その図1に示されるように、燃料電池スタックを構成する単位セルの積層方向端部を覆う壁面に換気カバーが設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-76152号公報(特に図1図4参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種のスタックケースにおいて、剛性を確保しつつ、換気効率を一層向上させることが要請されている。
【0006】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、十分な構成を有するとともに換気効率に優れるスタックケースを備える燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明の一実施形態によれば、燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックを収納するスタックケースとを備え、車両に搭載される燃料電池システムであって、
前記スタックケースは、前記車両の進行方向前方に臨む前端面を有し、
前記前端面の下部に、前記スタックケースの内部に進入する空気が通過するための流入孔が形成され、
前記前端面の上部に、前記スタックケースの内部から進出する空気が通過するための流出孔が形成され、
前記流出孔の開口面積が前記流入孔の開口面積に比して大である燃料電池システムが提供される。
【0008】
ここで、開口面積は、流入孔又は流出孔が1個であるときには当該1個の孔の開口面積を指す。一方、流入孔又は流出孔が複数個であるときには、開口面積は、複数個の孔の開口面積の総和である。従って、例えば、流出孔が1個であり且つ流入孔が複数個であるときには、1個の流出孔の開口面積が、複数個の流入孔の総開口面積よりも大に設定される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スタックケースの、車両の進行方向前方に臨む前端面、すなわち、車両が走行した際の大気の流れで生じる走行風の進行方向下流側に流入孔を形成している。従って、流入孔の開口面積を小さく設定した場合であっても、走行風をスタックケース内に効率よく取り込むことができる。これにより、換気効率の向上が図られる。しかも、流入孔の開口面積が小さい分、スタックケースの剛性が十分なものとなる。以上のような理由から、換気効率に優れ且つ十分な剛性を示すスタックケースを含んだ燃料電池システムを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る燃料電池システムを備えた車両の要部概略斜視図である。
図2】燃料電池スタックを構成する単位セルの概略分解斜視図である。
図3】燃料電池スタックを収納するスタックケースの全体概略斜視図である。
図4】スタックケースに形成された流入孔を覆う第1カバー部材と、流出孔を覆う第2カバー部材とを示す要部分解斜視図である。
図5】押さえ部材とフィルタ材が組み合わされた状態の概略縦断面図である。
図6】第1カバー部材とスタックケースによって形成された、流入孔側のクランク通路(クランク形状のラビリンス流路)である。
図7】第2カバー部材とスタックケースによって形成された、流出孔側のクランク通路(クランク形状のラビリンス流路)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る燃料電池システムにつき好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明における「左(方)」、「右(方)」、「前(方)」、「後(方)」「下(方)」及び「上(方)」は、車両の運転席に着座したユーザの左側、右側、前側、後側、下側及び上側を表す。さらに、車幅方向は左右方向、車長方向は前後方向、車高方向は上下方向と同義である。
【0012】
図1は、本実施形態に係る燃料電池システム10を備えた燃料電池車両12(車両)の要部概略斜視図である。該燃料電池車両12の前方にはフロントルーム14が設けられるとともに、該フロントルーム14内に、燃料電池スタック16を収納したスタックケース18が配設される。スタックケース18には、図示しない燃料電池用補機を収納する補機ケース19が隣接する。これら燃料電池用補機及び補機ケース19も、燃料電池システム10を構成する。フロントルーム14内には、図示しない車両駆動用のモータ等も配設される。
【0013】
燃料電池スタック16は、単位セル20(図2参照)が車幅方向に沿って複数個積層されることで構成されたセル積層体21を備える。セル積層体21の積層方向一端(車幅方向左端)には、第1ターミナルプレート22a、第1絶縁プレート24a、第1エンドプレート26aが外方に向かって順次配設される。また、セル積層体21の積層方向他端(車幅方向右端)には、第2ターミナルプレート22b、第2絶縁プレート24b、第2エンドプレート26bが外方に向かって順次配設される。
【0014】
単位セル20につき、図2を参照して説明する。単位セル20は、電解質膜・電極構造体32と、電解質膜・電極構造体32を両側から挟持する第1セパレータ34及び第2セパレータ36とを有する。電解質膜・電極構造体32は、電解質膜40と、電解質膜40を挟持するカソード電極42及びアノード電極44とを備える。電解質膜・電極構造体32の外周部には、フィルム状の樹脂枠部材33が全周に亘って設けられている。第1セパレータ34及び第2セパレータ36は、金属材又は炭素材から構成される。
【0015】
単位セル20の車長方向前端部には、積層方向(車幅方向)に沿って個別に延在する酸化剤ガス入口連通孔46a、冷却媒体入口連通孔60a及び燃料ガス出口連通孔48bが形成される。これら連通孔46a、60a、48bは、車高方向上方から下方に向かってこの順序で並ぶ。酸化剤ガス入口連通孔46aには、カソード電極42に供給される酸化剤ガス(例えば、圧縮空気等の酸素含有ガス)が流通する。また、冷却媒体入口連通孔60aには、セル積層体21を冷却する冷却媒体が流通し、燃料ガス出口連通孔48bには、アノード電極44に供給される燃料ガス(例えば、水素ガス等の水素含有ガス)が流通する。
【0016】
単位セル20の車長方向後端部には、積層方向(車幅方向)に沿って個別に延在する燃料ガス入口連通孔48a、冷却媒体出口連通孔60b及び酸化剤ガス出口連通孔46bが、車高方向上方から下方に向かってこの順序で並ぶように形成される。燃料ガス入口連通孔48aには、アノード電極44に供給される燃料ガスが流通し、酸化剤ガス出口連通孔46bには、カソード電極42から排出された酸化剤ガスが流通する。また、冷却媒体出口連通孔60bには、セル積層体21を冷却した冷却媒体が流通する。
【0017】
第1セパレータ34の電解質膜・電極構造体32に臨む面には、酸化剤ガス入口連通孔46aと酸化剤ガス出口連通孔46bとに連通する酸化剤ガス流路62が設けられる。一方、第2セパレータ36の電解質膜・電極構造体32に臨む面には、燃料ガス入口連通孔48aと燃料ガス出口連通孔48bとに連通する燃料ガス流路64が設けられる。
【0018】
互いに隣接し単位セル20を構成する第1セパレータ34と第2セパレータ36との間には、冷却媒体入口連通孔60aと冷却媒体出口連通孔60bとを連通する冷却媒体流路66が設けられる。第1セパレータ34と第2セパレータ36とには、それぞれ樹脂枠部材33に当接し、弾性を有するゴム材からなるシール部材50、52が、一体的又は個別に設けられる。第1セパレータ34及び第2セパレータ36には、シール部材50、52に代えて、樹脂枠部材33に向かって突出したビードシールがプレス成形によって一体に設けられてもよい。
【0019】
燃料電池スタック16は、上記したように構成されるセル積層体21の積層方向左端部に第1ターミナルプレート22a、第1絶縁プレート24a、第1エンドプレート26aが配設されるとともに、積層方向右端部に第2ターミナルプレート22b、第2絶縁プレート24b、第2エンドプレート26bが配設されることで構成される。この中の第1エンドプレート26a及び第2エンドプレート26bは、図3に示すように、締結ボルト70を介してスタックケース18に連結される。
【0020】
スタックケース18は、単位セル20が車幅方向に沿って積層されることに対応し、車幅方向に沿って長尺であり、且つ車長方向に沿う切断面が略矩形状をなす枠形状物である。スタックケース18は、下方を臨む底壁部72、前方を臨む前壁部74(前端面)、上方を臨む天井壁部76を有する一方、車幅方向両端が開口した開放端となっている。第1エンドプレート26aはスタックケース18の左端開口を閉塞する左サイドパネルを兼ねるとともに、補機ケース19の一部を兼ねる。また、第2エンドプレート26bは、スタックケース18の右端開口を閉塞する右サイドパネルを兼ねる。
【0021】
スタックケース18の後端には、枠部78が設けられる。該枠部78に形成される後端開口79には、バックパネル80(図1参照)が設けられる。
【0022】
図1及び図3に示すように、スタックケース18の前壁部74の右下端近傍には、複数個の流入孔82が形成される。すなわち、この場合、流入孔82はスタックケース18の車幅方向右下方に偏倚している。図示の例では、例えば、6個の流入孔82が形成され、その中の3個が下列として左方に向かうように並列している。また、残余の3個は、その直上で上列として左方に向かうように並列している。すなわち、6個の流入孔82は、車高方向に沿って2列となり、且つ車幅方向に沿って3個が1列として並ぶように配置されている。なお、各流入孔82の車高方向寸法及び車幅方向寸法は互いに同一である。このため、各流入孔82の開口面積も互いに同一である。
【0023】
スタックケース18の前壁部74において、天井壁部76の近傍には、複数個の流出孔84が形成される。図示の例では、例えば、16個の流出孔84が形成され、その中の8個が下列として右端近傍から左端近傍に至るまで車幅方向に沿って並列している。また、残余の8個は、その直上において上列として右端近傍から左端近傍に至るまで車幅方向に沿って並列している。すなわち、16個の流出孔84は、車高方向に沿って2列となり、且つ車幅方向に沿って8個が1列として並ぶように配置されている。
【0024】
なお、各流出孔84の車高方向寸法及び車幅方向寸法は互いに同一である。このため、各流出孔84の開口面積も互いに同一である。そして、16個の流出孔84の開口面積の総和は、6個の流入孔82の開口面積の総和よりも大きく設定されている。1個の流出孔84の開口面積は、1個の流入孔82の開口面積と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0025】
スタックケース18の車幅方向端面である右縁面及び左縁面には、スタックケース18に対して第1エンドプレート26a、第2エンドプレート26bを、締結ボルト70を介して連結するための連結孔であるボルト孔86が形成される。図3では、車高方向に沿って延在する前壁部74の左縁面に4個のボルト孔86を形成した態様を例示している。特に図示はしていないが、右縁面においても同様に4個のボルト孔86が形成されている。以下、説明の便宜上、前壁部74の左縁面の4個のボルト孔86を下方から第1左ボルト孔~第4左ボルト孔、右縁面の4個のボルト孔を下方から第1右ボルト孔~第4右ボルト孔と指称し、各々の参照符号を86La~86Ld、86Ra~86Rdとする。
【0026】
第1左ボルト孔86Laと第1右ボルト孔86Raの上下方向の高さ位置は、略同一に設定される。同様に、第2左ボルト孔86Lb~第4左ボルト孔86Ldのそれぞれと、第2右ボルト孔86Rb~第4右ボルト孔86Rdのそれぞれとの高さ位置も略同一である。そして、第1左ボルト孔86La及び第1右ボルト孔86Raの高さ位置は、下列の流入孔82よりも下方に位置する。一方、第2左ボルト孔86Lb及び第2右ボルト孔86Rbの高さ位置は、上列の流入孔82よりも上方である。このため、全ての流入孔82は、第1左ボルト孔86La及び第1右ボルト孔86Raと、これらボルト孔86La、86Raよりも高位置である第2左ボルト孔86Lb及び第2右ボルト孔86Rbとの間に位置する。
【0027】
また、第3左ボルト孔86Lc及び第3右ボルト孔86Rcの高さ位置は、下列の流出孔84よりも下方に位置する。その一方で、第4左ボルト孔86Ld及び第4右ボルト孔86Rdの高さ位置は、上列の流出孔84よりも上方である。このため、全ての流出孔84は、第3左ボルト孔86Lc及び第3右ボルト孔86Rcと、これらボルト孔86Lc、86Rcよりも高位置である第4左ボルト孔86Ld及び第4右ボルト孔86Rdとの間に位置する。
【0028】
このような構成のスタックケース18は、例えば、押出成形によって一体の単一部材として作製することができる。又は、底壁部72、前壁部74、天井壁部76、枠部78を部材として個別に作製した後にこれらの部材を接合するようにしてもよい。
【0029】
図4に示すように、前壁部74には、流入孔82及び流出孔84を個別に覆う第1カバー部材90、第2カバー部材92が位置決め固定される。第1カバー部材90につき先ず説明すると、前壁部74には、全ての流入孔82が含まれるようにして第1トラック状凹部94が形成される。この第1トラック状凹部94には、第1ガスケット96が保持される。また、第1ガスケット96の枠内には第1フィルタ材98、第1押さえ部材100が挿入される。第1押さえ部材100が前方に配置され、第1フィルタ材98が後方に配置される。
【0030】
ここで、第1フィルタ材98は、図5に示すように、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなるフィルタ本体102が、不織布からなる支持材104(支持部材)に支持されることで構成されている。フィルタ本体102が前方の第1押さえ部材100に臨み、支持材104が後方のスタックケース18に臨む。その一方で、第1押さえ部材100の後面には、第1フィルタ材98の一部を収容するための収容凹部106が形成される。すなわち、第1フィルタ材98は、フィルタ本体102の前部が収容凹部106に収容されるとともに、該フィルタ本体102の前面の外縁近傍が、収容凹部106の、前記外縁近傍に当接する壁部に、溶着や接着により接合される。
【0031】
第1押さえ部材100には、車幅方向に沿って並列する3個の第1通気口108が形成される。1個の第1通気口108は、車高方向に沿って並列する2個の流入孔82に重なる。従って、第1フィルタ材98の、流入孔82を覆った部位には、第1通気口108が重なる。
【0032】
第1カバー部材90は、第1本体部110と、該第1本体部110の前面から下方又は上方に突出するように設けられた複数個の脚部112とを有する。図6に示すように、第1本体部110の後面には、該後面から前面に向かって陥没した第1段部114が形成される。また、第1本体部110の後面には、前面から第1段部114に向かって貫通する第1通気用連通孔116が形成される。第1通気用連通孔116は横方向(車幅方向)に沿って延在する形状を有し、第1本体部110の高さ方向の中央よりも上方寄りに配置される。
【0033】
第1押さえ部材100の第1通気口108近傍の縁部は、その一部が第1通気用連通孔116に重なるとともに、残部が第1段部114に対向する。このため、第1押さえ部材100と第1段部114の間にクリアランスが形成される。このクリアランスが、流通路としての進入路118となる。第1押さえ部材100の、第1通気用連通孔116に重なった部分は、換気用の空気(大気)である走行風を進入路118に向かって方向変換する進路変更部としての役割を果たす。
【0034】
そして、第1通気用連通孔116、進入路118、第1通気口108により、クランク形状のラビリンス流路が形成される。結局、スタックケース18の下部内部に、ラビリンス流路(第1通気用連通孔116、進入路118、第1通気口108)、第1フィルタ材98の目、流入孔82を介して大気が流入する。換言すれば、スタックケース18の下部内部は大気に連通する。
【0035】
複数個の脚部112の各々には、ネジ挿通孔120が形成される。このネジ挿通孔120に通された連結ネジ122の胴体部が、前壁部74に形成された螺合孔124に螺合されることにより、第1カバー部材90がスタックケース18に位置決め固定される。また、第1フィルタ材98、第1押さえ部材100が、第1ガスケット96の枠内に挿入された状態で、第1トラック状凹部94に収容される。
【0036】
第2カバー部材92についても上記と同様である。すなわち、前壁部74には、全ての流出孔84が含まれるようにして第2トラック状凹部130が形成される(図4参照)。この第2トラック状凹部130に、第2ガスケット132が保持される。また、第2ガスケット132の枠内に第2フィルタ材134及び第2押さえ部材136が、後方から前方に向かってこの順序で挿入される。
【0037】
図7に示すように、第2フィルタ材134も、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなり且つ前方の第2押さえ部材136に臨むフィルタ本体102と、不織布からなり且つ後方のスタックケース18に臨む支持材104(支持部材)とを有する。この構成や、フィルタ本体102が第2押さえ部材136の収容凹部106の後面に溶着される点等は第1フィルタ材98と同様である。従って、第2フィルタ材134については図5を援用するに留め、別個の図示及び詳細な説明は省略する。
【0038】
第2押さえ部材136には、車幅方向に沿って並列する8個の第2通気口138が形成される。1個の第2通気口138は、車高方向に沿って並列する2個の流出孔84に重なる。勿論、第2通気口138には、第2フィルタ材134の一部が露呈している。このため、全ての流出孔84が第2フィルタ材134で覆われる。
【0039】
第2カバー部材92は、第2本体部140と、該第2本体部140の下縁部から下方、又は上縁部から上方に突出するように設けられた複数個のタブ部142とを有する。図7に示すように、第2本体部140の後面には、該後面から前面に向かって陥没する第2段部144が形成される。また、第2本体部140には、前面から第2段部144に向かって貫通する第2通気用連通孔146が形成される。第2通気用連通孔146は横方向(車幅方向)に沿って延在する形状を有し、第2本体部140の高さ方向の中央よりも上方寄りに配置される。
【0040】
第2押さえ部材136の第2通気口138近傍の縁部は、その一部が第2通気用連通孔146に重なるとともに、残部が第2段部144に対向する。これにより、第2押さえ部材136と第2段部144の間にクリアランス、すなわち、流通路としての進出路148が形成される。第2押さえ部材136の、第2通気用連通孔146に重なった部分は、走行風を進出路148から第2通気用連通孔146に向かって方向変換する進路変更部となる。
【0041】
そして、第2通気口138、進出路148、第2通気用連通孔146により、クランク形状のラビリンス流路が形成される。すなわち、スタックケース18の上部内部から、流出孔84、第2フィルタ材134の目、ラビリンス流路(第2通気口138、進出路148、第2通気用連通孔146)を介して内部の走行風が排出される。換言すれば、スタックケース18の上部内部もまた、大気に連通している。
【0042】
複数個のタブ部142にも、ネジ挿通孔120がそれぞれ形成される。このネジ挿通孔120に通された連結ネジ122の胴体部は、前壁部74に形成された螺合孔124に螺合される。これにより、第2カバー部材92がスタックケース18に位置決め固定される。また、第2フィルタ材134、第2押さえ部材136が、第2ガスケット132の枠内に挿入された状態で第2トラック状凹部130に収容される。
【0043】
なお、例えば、第1押さえ部材100及び第2押さえ部材136に係合用ピン部を設けるとともに第1カバー部材90及び第2カバー部材92に係合孔を形成し、係合用ピン部を係合孔に係合するようにしてもよい。この場合、第1押さえ部材100及び第2押さえ部材136を、第1カバー部材90、第2カバー部材92に位置決め固定することができる。これにより、進入路118及び進出路148を確実にクランク形状のラビリンス流路として形成することができる。
【0044】
燃料電池スタック16の前面は、スタックケース18の前壁部74の後面から若干離間する。このため、燃料電池スタック16の前面と、前壁部74の後面との間に間隙が形成される。走行風は、この間隙を流通することが可能である。
【0045】
特に図示はしていないが、第1エンドプレート26a、第2エンドプレート26bがスタックケース18に取り付けられた燃料電池スタック16には、酸化剤ガス入口連通孔46a、酸化剤ガス出口連通孔46b、燃料ガス入口連通孔48a、燃料ガス出口連通孔48b、冷却媒体入口連通孔60a及び冷却媒体出口連通孔60b(図2参照)にそれぞれ接続される接続配管が設けられる。このようにして、燃料電池システム10の要部が構成されている。
【0046】
フロントルーム14において、スタックケース18の前方には、ラジエタやファン等の図示しない補機類が収納される。これらの補機も、燃料電池システム10を構成する。フロントルーム14内には、燃料電池車両12の前部に設けられたフロントグリル150等から走行風として大気が進入するが、スタックケース18の上部に向かって進行する走行風は、これらの機器に遮られる。従って、スタックケース18の上部に比して下部に一層多くの走行風が到達する。
【0047】
本実施形態に係る燃料電池システム10の要部は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果につき説明する。
【0048】
先ず、スタックケース18では、第1左ボルト孔86La及び第1右ボルト孔86Raと、これらのボルト孔86La、86Raよりも高位置である第2左ボルト孔86Lb及び第2右ボルト孔86Rbとの間に、全ての流入孔82が位置する。同様に、第3左ボルト孔86Lc及び第3右ボルト孔86Rcと、これらのボルト孔86Lc、86Rcよりも高位置である第4左ボルト孔86Ld及び第4右ボルト孔86Rdとの間に、全ての流出孔84が位置する(図3参照)。このように、第1左ボルト孔86La~第4左ボルト孔86Ld、第1右ボルト孔86Ra~第4右ボルト孔86Rdは流入孔82及び流出孔84の側部に形成されていない。このため、流入孔82及び流出孔84が前壁部74に集中して形成されているにも拘わらず、スタックケース18の剛性が十分なものとなる。
【0049】
また、走行風(空気)をスタックケース18内に取り入れるための流入孔82が、スタックケース18の前壁部74(前端面)に形成されている。スタックケース18の前壁部74は、フロントルーム14内において、走行風の進行方向の下流側である。このため、流入孔82の開口面積を小さく設定した場合であっても、走行風が流入孔82を通過してスタックケース18の内部に進入することが容易である。このように、スタックケース18の前壁部74に流入孔82を形成したことから、流入孔82の開口面積を小さく設定することが可能となる。
【0050】
そして、流入孔82の開口面積の総和が小さい分、スタックケース18の前壁部74の剛性が大きくなる。従って、この場合、スタックケース18の強度を確保することが容易であるという利点もある。
【0051】
また、流入孔82の開口面積の総和を小さく設定し得ることから、流入孔82を、図3に示すように車幅方向右端に集中して形成することができる。勿論、これとは逆に、流入孔82を車幅方向左端に集中させるようにしてもよい。換言すれば、流入孔82を車幅方向右端又は左端のいずれかに偏倚させることができる。このため、流入孔82が形成されていない左端又は右端の前方に何らかの機器を配設することが可能となる。すなわち、本実施形態によれば、フロントルーム14内における機器の配置レイアウトの自由度が向上する。
【0052】
ところで、図1に示す燃料電池車両12の運転時には、燃料電池スタック16に燃料ガス、酸化剤ガス及び冷却媒体が供給される。図2に示すように、燃料ガスは、燃料ガス入口連通孔48aから第2セパレータ36の燃料ガス流路64に導入される。この燃料ガスは、電解質膜・電極構造体32を構成するアノード電極44に沿って供給される。酸化剤ガスは、酸化剤ガス入口連通孔46aから第1セパレータ34の酸化剤ガス流路62に導入される。酸化剤ガスは、電解質膜・電極構造体32を構成するカソード電極42に沿って供給される。
【0053】
従って、電解質膜・電極構造体32では、アノード電極44に供給される燃料ガス中の水素と、カソード電極42に供給される酸化剤ガス中の酸素とが、電極触媒層内で電気化学反応により消費され、発電が行われる。燃料ガスは、燃料ガス出口連通孔48bから排出される。酸化剤ガスは、酸化剤ガス出口連通孔46bから排出される。
【0054】
一方、冷却媒体は、冷却媒体入口連通孔60aに供給され、第1セパレータ34及び第2セパレータ36間の冷却媒体流路66に導入される。冷却媒体は、電解質膜・電極構造体32を冷却した後、冷却媒体出口連通孔60bを介して排出される。
【0055】
そして、燃料電池車両12が走行することに伴い、フロントグリル150等からフロントルーム14内に大気が走行風として進入する。走行風は、燃料電池車両12の前方から後方に向かって進行する。この過程で、スタックケース18の上部に向かう走行風は、ラジエタやファン等の燃料電池システム10の補機類に遮られる。従って、スタックケース18の上部に走行風が到達することや、走行風が流出孔84からスタックケース18の内部に進入することが回避される。その一方で、走行風の一部は、ラジエタやファン等の燃料電池システム10の補機類に遮られることなく、スタックケース18の下部に到達する。
【0056】
スタックケース18の下部に到達した走行風は、第1カバー部材90に形成された第1通気用連通孔116に進入する(図4参照)。ここで、流入孔82、第1通気口108及び第1通気用連通孔116の全てが、スタックケース18の前壁部74に設けられている。従って、フロントルーム14内を前方から後方に向かって進行する走行風が、効率よく第1通気用連通孔116を経て進入路118に進入する。このように、流入孔82、第1通気口108及び第1通気用連通孔116をスタックケース18の前壁部74に設けることにより、流入孔82の開口面積の総和を小さくした場合であっても、走行風をスタックケース18内に取り入れることが容易となる。
【0057】
第1通気用連通孔116に進入した走行風は、上記したように、第1カバー部材90の、第1通気用連通孔116に重なった部位によって、進入路118に向かって屈曲するように進路を変更する。走行風は、さらに屈曲するように進路を変更し、進入路118から第1通気口108に向かう。このように、第1通気用連通孔116に進入した走行風は、第1通気口108を経て流入孔82に到達するまでに2回の進路変更を行う必要がある。上記したように、第1通気用連通孔116から第1通気口108を経て流入孔82に至るまでの経路が、クランク形状のラビリンス流路となっているからである。
【0058】
走行風に砂粒や粉塵等の異物が同伴されている場合、このような異物が上記のラビリンス流路に沿って進路を変更しながら進行することは困難である。従って、異物が第1フィルタ材98に到達することも困難である。仮に異物が第1フィルタ材98に到達したとしても、この場合、第1フィルタ材98では、PTFEからなるフィルタ本体102が前方に臨む。粉塵等は、PTFEに対して付着し難い。以上のような理由が相俟って、第1フィルタ材98が短期間で目詰まりを起こすことが回避される。
【0059】
第1通気口108、流入孔82をこの順序で通過してスタックケース18の内部に進入した走行風は、燃料電池スタック16を冷却する役割も担う。すなわち、燃料電池スタック16は、走行風によっても冷却される。なお、上記したように、異物が第1フィルタ材98に到達したり、第1フィルタ材98を通過したりすることは困難である。従って、スタックケース18の内部に異物が進入することが回避される。
【0060】
スタックケース18の前壁部74には、上部に形成された流出孔84以外、スタックケース18の内部を大気に開放する開口や孔は形成されていない。このため、走行風は、燃料電池スタック16の前面と、スタックケース18の前壁部74の後面との間を上昇して流出孔84に向かう。燃料電池スタック16からスタックケース18内に燃料ガスが漏出した場合、燃料ガス中の水素の比重が空気よりも小であることから、水素もスタックケース18内を上昇するとともに、走行風に合流する。
【0061】
走行風は、流出孔84を介して第2フィルタ材134に到達する。なお、異物が第2フィルタ材134に到達することは困難であるので、第2フィルタ材134の目詰まりを抑制するべくPTFEからなるフィルタ本体102を流出孔84側に向ける必要は特にないが、そのようにしても差し支えはない。
【0062】
走行風は、さらに、第2フィルタ材134の目を通過し、第2通気口138から流出する。この際、走行風は、第2カバー部材92の後面に形成された第2段部144によって遮られ、進出路148に向かって屈曲するように進路を変更する。走行風は、さらに屈曲するように進路を変更して第2通気用連通孔146に到達し、その後、該第2通気用連通孔146からスタックケース18の外部に排気される。そして、燃料ガスが漏洩している場合、フロントルーム14に、走行風によって希釈された燃料ガスが排出される。
【0063】
流出孔84の開口面積の総和は、流入孔82の開口面積の総和に比して大きく設定されている。このため、流出孔84をスタックケース18の前壁部74に設けた場合であっても、スタックケース18内を上昇した走行風が効率よく流出孔84を介してスタックケース18の外部に排出される。すなわち、スタックケース18内の換気がなされる。
【0064】
ここで、上記したように、流出孔84を経て第2通気口138から流出した走行風は、第2通気用連通孔146に到達するまでに2回の進路変更を行う必要がある。上記したように、流出孔84から第2通気口138を経て第2通気用連通孔146に至るまでの経路が、クランク形状のラビリンス流路となっているからである。従って、何らかの原因によって第2通気用連通孔146から第2通気口138に向かって走行風が進行しようとした場合においても、第1カバー部材90側と同様の理由から、異物が流出孔84を介してスタックケース18の内部に進入することや、第2フィルタ材134が短期間で目詰まりを起こすこと等を有効に抑制することができる。
【0065】
本発明は上記した実施形態に特に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0066】
例えば、流入孔82及び流出孔84の各々の個数を1個としてもよい。この場合、流入孔82の開口面積を、流出孔84の開口面積に比して小さく設定すればよい。また、流入孔82を1個以上形成し且つ流出孔84を複数個形成する場合において、1個の流入孔82の開口面積を、1個の流出孔84の開口面積に比して大きく設定するようにしてもよい。このときには、全ての流入孔82の開口面積の総和が、全ての流出孔84の開口面積の総和よりも小さくなるように、流入孔82及び流出孔84の個数を設定すればよい。
【符号の説明】
【0067】
10…燃料電池システム 12…燃料電池車両
16…燃料電池スタック 18…スタックケース
20…単位セル 26a、26b…エンドプレート
74…前壁部 82…流入孔
84…流出孔
86、86La~86Ld、86Ra~86Rd…ボルト孔
90、92…カバー部材 96、132…ガスケット
98、134…フィルタ材 100、136…押さえ部材
102…フィルタ本体 104…支持材
108、138…通気口 114、144…段部
116、146…通気用連通孔 118…進入路
148…進出路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7