(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189922
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】薬剤を溶出させる医療装置
(51)【国際特許分類】
A61L 31/08 20060101AFI20221215BHJP
A61L 17/00 20060101ALI20221215BHJP
A61L 17/14 20060101ALI20221215BHJP
A61L 31/12 20060101ALI20221215BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20221215BHJP
A61L 31/16 20060101ALI20221215BHJP
A61B 17/03 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
A61L31/08
A61L17/00 100
A61L17/14 100
A61L31/12
A61L31/14
A61L31/14 400
A61L31/16
A61B17/03
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169785
(22)【出願日】2022-10-24
(62)【分割の表示】P 2018004711の分割
【原出願日】2018-01-16
(31)【優先権主張番号】62/448,509
(32)【優先日】2017-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15/837,498
(32)【優先日】2017-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】512269650
【氏名又は名称】コヴィディエン リミテッド パートナーシップ
(74)【代理人】
【識別番号】100107489
【弁理士】
【氏名又は名称】大塩 竹志
(72)【発明者】
【氏名】テリー モーガン
(72)【発明者】
【氏名】ベス サーセン
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル シュルツ-ジャンデル
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフ トレイナ
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン グラハム
(72)【発明者】
【氏名】キャロル サリバン
(72)【発明者】
【氏名】ジェラルド ホジキンソン
(57)【要約】
【課題】組織固定装置と共に用いることができる、手術用バットレスを含む医療装置、及びその使用方法を提供すること。
【解決手段】実施形態において、医療装置は、化学療法薬及び任意の賦形剤の治療層を上部に有する多孔性基材を含むバットレスとすることができる。化学療法薬と賦形剤の形態を変えることにより、医療装置は、その医療装置が取り付けられた領域、及びそこからある距離離れた組織の両方を治療するために用いることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2017年1月20日に出願された、米国仮特許出願第62/448,509号の利益と優先権を主張し、その開示の全体はこの参照によって、本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
本開示は、バットレス等の手術用装置を含む、創傷閉鎖装置と共に用いる医療装置に関する。本開示の材料から形成される医療装置は、患者に薬を送達できる。
【0003】
手術用のステープル留め機器は、身体組織の部分を一体に接合するために、ファスナ、例えばステープルまたは2部品ファスナの複数の列を、順次または同時に身体組織に適用するために、外科医によって、用いられる。そのような機器は、一般的に、接合すべき身体組織がそれらの間に配置される一対の顎部または指のような構造を含んでいる。ステープル留め機器が作動しまたは「起動する」ときに、長手方向に延びて可動な起動バーが、顎部のうちの1つにおけるステープル駆動部材に接触する。ステープル駆動部材は、身体組織を貫通して反対側の顎部のアンビル内へと手術用ステープルを押し、それがステープルを形成する。組織を取り出しまたは分離する場合は、ステープルの列の間の組織を切断するために、装置の顎部の内側にナイフブレードをもたらすことができる。
【0004】
例えば肺、食道、腸管、十二指腸及び脈管組織、または相対的に薄いもしくは脆い組織といったある種の組織をステープル留めするときには、空気または流体の漏れに対してステープル列を密封することが望ましいことがあり得る。空気もしくは流体の漏れを防止しまたは低減することは、術後の回復時間を著しく短縮できる。加えて、組織の断裂または組織によるステープルの引張りを防止するために、組織に対してステープル列を補強することが望ましいことがあり得る。これらの断裂を防止する1つの方法には、いくつかの実施形態において、時々「バットレス」材料と本明細書中で呼ぶ生体適合性の織物補強材を、ステープルとその下にある組織との間に配置することが含まれる。
【0005】
いくつかの外科的手技については、治療部位への治療薬の投入が望ましいこともあり得る。例えば、肺、腸または他の臓器における腫瘍切除部位の近傍に組織内に存在し得る微小転移癌細胞を治療するために、低用量ラジオアイソトープ密封小線源療法用シードを患者に植設できる。
【0006】
組織に対してステープル列を密封し及び/または補強するためのバットレスとして用いることができる、改良された手術用修復材料、及び患者に治療薬を投入するための改良された方法が、望ましい状態にある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、組織固定装置と共に用いることができる、手術用バットレスを含む医療装置、及びその使用方法に関する。例えば組織支持体または他の構造といった、組織固定装置と共に用いない他の医療装置も同様に意図される。
【0008】
実施形態において、本開示の医療装置は、多孔性基材と、その多孔性基材の少なくとも一部の上にある治療層とを含む。治療層は、化学療法薬を単独で、あるいは2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、ドデシル硫酸ナトリウム、オクチルグルコシド、モノオレイン酸ソルビタン、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンのポリエトキシル化脂肪酸エステル、塩化ナトリウム、尿素、オレイン酸、クエン酸、アスコルビン酸、ブチルヒドロキシトルエン、D-ソルビトール、及びそれらの組み合わせといった賦形剤と組み合わせて含んでおり、治療層は、約500mm-1~約90,000mm-1の比表面積を有する。コーティングされたバットレスの重量パーセントを低くしつつ、化学療法薬を回避するためのきわめて高い表面積をもたらす、治療層のきわめて高い比表面積が達成されている。本明細書に開示される実施形態のいずれかにおいて、治療層は、賦形剤なしの化学療法薬を有することができる。
【0009】
いくつかの実施形態において、化学療法薬は、パクリタキセル及びその誘導体、ドセタキセル及びその誘導体、アブラキサン、タモキシフェン、シクロホスファミド、アクチノマイシン、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、塩酸ドキソルビシン、エピルビシン、マイトマイシン、メトトレキセート、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ゲムシタビン塩酸塩、カルボプラチン、カルマスチン、メチル-CCNU、シスプラチン、エトポシド、カンプトセシン及びその誘導体、フェネステリン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ゴセレリン、ロイプロリド、インターフェロンα、レチノイン酸、ナイトロジェンマスタードアルキル化剤、ピポスルファン、ビノレルビン、イリノテカン、イリノテカン塩酸塩、ビンブラスチン、ペメトレキセド、トシル酸ソラフェニブ、エベロリムス、エルロチニブ塩酸塩、スニチニブリンゴ酸塩、カペシタビン/オキサリプラチン、ロイコボリンカルシウム、ベバシズマブ、セツキシマブ、ラムシルマブ、トラスツズマブ、ならびにそれらの組み合わせとすることができる。
【0010】
ある実施形態において、化学療法薬は、パクリタキセルの多形体を含む。パクリタキセルの適切な多形体には、非結晶質パクリタキセル、結晶質パクリタキセル二水和物、無水パクリタキセル、及びそれらの組み合わせが含まれる。
【0011】
いくつかの実施形態において、パクリタキセルは、非結晶質パクリタキセル及び結晶質パクリタキセル二水和物の組み合わせである。実施形態において、非結晶質パクリタキセルは、約24時間~約168時間の期間にわたって医療装置から放出され、かつ結晶質パクリタキセル二水和物は、約1週間~約6週間の期間にわたって医療装置から放出される。
【0012】
実施形態において、賦形剤は、尿素、メチル-β-シクロデキストリン、オレイン酸、ポリソルベート80、D-ソルビトール、オクチルグルコシド、及びそれらの組み合わせを含む。本明細書に開示される実施形態のいずれかにおいて、治療層は、賦形剤なしの化学療法薬を含む。
【0013】
ある実施形態において、医療装置には、手術用バットレス、ヘルニアパッチ、ステープル、タック、ステント、及び組織足場が含まれる。
【0014】
本開示の他の医療装置は、多孔性基材と、その多孔性基材の少なくとも一部の上にある治療層であり、非結晶質パクリタキセル及び結晶質パクリタキセル二水和物を単独で、あるいは尿素、メチル-β-シクロデキストリン、オレイン酸、ポリソルベート80、D-ソルビトール、オクチルグルコシド、及びそれらの組み合わせといった賦形剤と組み合わせて含んでいる治療層と、を備える。治療層は、約500mm-1~約90,000mm-1の比表面積を有する。
【0015】
実施形態において、非結晶質パクリタキセルは、約24時間~約168時間の期間にわたって医療装置から放出され、かつ結晶質パクリタキセル二水和物は、約1週間~約6週間の期間にわたって医療装置から放出される。
【0016】
いくつかの実施形態において、賦形剤は、コーティングされたバットレスの約0.014重量%~約14重量%の量で存在する。
【0017】
ある実施形態において、非結晶質パクリタキセル及び結晶質パクリタキセル二水和物は、コーティングされたバットレスの約0.1重量%~約50重量%の量で存在する。
【0018】
実施形態において、医療装置は、約65%~約85%の細孔容積を有する。
【0019】
これらの医療装置で組織を治療する方法もまたもたらされる。医療装置がバットレスである場合、この方法は、例えばステープル、タック、クリップ、縫合糸、接着剤、及びそれらの組み合わせといった固定装置と共に、医療装置を組織に適用することを含む。
【0020】
これらの装置で癌を治療する方法もまたもたらされる。実施形態において、本開示による癌を治療する方法は、薬のコーティングを含むバットレスをその上に有する手術用ステープラを患者に導入すること、ならびにバットレスを組織にステープル留めすること及び組織を切断することを含めて、臓器の望ましくない部分を取り除きかつ臓器の残りの部分にバットレスを据え付けるためにステープラを用いること、を含む。
【0021】
実施形態において、ステープラは肺に用いられる。
【0022】
いくつかの実施形態において、バットレスは、化学療法薬でコーティングされた不織布材料から作製される
【0023】
ある実施形態において、この方法に用いる化学療法薬には、パクリタキセル及びその誘導体、ドセタキセル及びその誘導体、アブラキサン、タモキシフェン、シクロホスファミド、アクチノマイシン、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、塩酸ドキソルビシン、エピルビシン、マイトマイシン、メトトレキセート、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ゲムシタビン塩酸塩、カルボプラチン、カルマスチン、メチル-CCNU、シスプラチン、エトポシド、カンプトセシン及びその誘導体、フェネステリン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ゴセレリン、ロイプロリド、インターフェロンα、レチノイン酸、ナイトロジェンマスタードアルキル化剤、ピポスルファン、ビノレルビン、イリノテカン、塩酸イリノテカン、ビンブラスチン、ペメトレキセド、トシル酸ソラフェニブ、エベロリムス、塩酸エルロチニブ、スニチニブリンゴ酸塩、カペシタビン/オキサリプラチン、ロイコボリンカルシウム、ベバシズマブ、セツキシマブ、ラムシルマブ、トラスツズマブ、ならびにそれらの組み合わせが含まれる。
【0024】
実施形態において、この方法に用いるバットレス上のコーティングは、賦形剤を含まない。
【0025】
実施形態において、この方法に用いるバットレスは、ポリグリコール酸、ポリ乳酸またはグリコリドトリメチレンカルボナートの繊維から形成された不織布手術用バットレスである。いくつかの実施形態において、不織布材料は多孔性である。
【0026】
ある実施形態において、この方法に用いるバットレスの厚みは、約0.05mm~約0.5mmである。
【0027】
実施形態において、方法で用いる薬は、パクリタキセルである。いくつかの実施形態において、パクリタキセルは非結晶質である。他の実施形態において、薬は、非結晶質のパクリタキセルと結晶質のパクリタキセルを含む。
【0028】
実施形態において、本開示の医療装置、例えばバットレスは、多孔性基材と、その多孔性基材の少なくとも一部の上にある治療層とを備え、治療層は化学療法薬を含み、治療層は、約1,100mm-1~約87,000mm-1の比表面積を有し、治療薬は、コーティングされたバットレスの約1重量%~約10重量%の量で存在する。いくつかの実施形態において、治療層は、如何なる追加の賦形剤も含まない。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
医療装置であって、
多孔性基材と、
前記多孔性基材の少なくとも一部の上の治療層であって、化学療法薬を単独で、または2-ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、ドデシル硫酸ナトリウム、オクチルグルコシド、モノオレイン酸ソルビタン、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンのポリエトキシル化脂肪酸エステル、塩化ナトリウム、尿素、オレイン酸、クエン酸、アスコルビン酸、ブチルヒドロキシトルエン、D-ソルビトール、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される賦形剤と組み合わせて含んでいる、治療層と、を備え、
前記治療層が約500mm-1~約90,000mm-1の比表面積を有している、医療装置。
(項目2)
前記化学療法薬が、パクリタキセル及びその誘導体、ドセタキセル及びその誘導体、アブラキサン、タモキシフェン、シクロホスファミド、アクチノマイシン、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、塩酸ドキソルビシン、エピルビシン、マイトマイシン、メトトレキセート、フルオロウラシル、ゲムシタビン、塩酸ゲムシタビン、カルボプラチン、カルマスチン、メチル-CCNU、シスプラチン、エトポシド、カンプトセシン及びその誘導体、フェネステリン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ゴセレリン、ロイプロリド、インターフェロンα、レチノイン酸、ナイトロジェンマスタードアルキル化剤、ピポスルファン、ビノレルビン、イリノテカン、塩酸イリノテカン、ビンブラスチン、ペメトレキセド、トシル酸ソラフェニブ、エベロリムス、塩酸エルロチニブ、スニチニブリンゴ酸塩、カペシタビン/オキサリプラチン、ロイコボリンカルシウム、ベバシズマブ、セツキシマブ、ラムシルマブ、トラスツズマブ、ならびにそれらの組み合わせから成る群から選択される、項目1または項目2に記載の医療装置。
(項目3)
前記化学療法薬がパクリタキセルの多形体を含んでいる、上記項目のいずれかに記載の医療装置。
(項目4)
前記パクリタキセルの多形体が、非結晶質パクリタキセル、結晶質パクリタキセル二水和物、無水パクリタキセル、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される、上記項目のいずれかに記載の医療装置。
(項目5)
前記パクリタキセルが、非結晶質パクリタキセルと結晶質パクリタキセル二水和物の組み合わせである、上記項目のいずれかに記載の医療装置。
(項目6)
前記非結晶質パクリタキセルが約24時間~約168時間の期間にわたって前記医療装置から放出され、前記結晶質パクリタキセル二水和物が約1週間~約6週間の期間にわたって前記医療装置から放出される、上記項目のいずれかに記載の医療装置。
(項目7)
前記賦形剤は、尿素、メチル-β-シクロデキストリン、オレイン酸、ポリソルベート80、D-ソルビトール、オクチルグルコシド、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される、上記項目のいずれかに記載の医療装置。
(項目8)
前記多孔性基材が、約65%~約85%の細孔容積を有している、上記項目のいずれかに記載の医療装置。
(項目9)
前記医療装置は、手術用バットレス、ヘルニアパッチ、ステープル、タック、ステント、及び組織足場から成る群から選択される、上記項目のいずれかに記載の医療装置。
(項目10)
組織を治療する方法であって、上記項目のいずれかに記載の医療装置を組織に適用することを含む、方法。
(項目10A)
組織を治療するための、上記項目のいずれかに記載の医療装置であって、前記医療装置が前記組織に適用されるように構成されている、医療装置。
(項目11)
前記医療装置がバットレスであり、前記医療装置を組織に適用することが、ステープル、タック、クリップ、縫合糸、接着剤、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される固定装置と共に起こる、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目11A)
前記医療装置がバットレスであり、前記医療装置が、ステープル、タック、クリップ、縫合糸、接着剤、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される固定装置により前記組織に適用されるように構成されている、上記項目のいずれかに記載の医療装置。
(項目12)
医療装置であって、
多孔性基材と、
前記多孔性基材の少なくとも一部の上にある治療層であって、非結晶質パクリタキセル及び結晶質パクリタキセル二水和物を単独で、または尿素、メチル-β-シクロデキストリン、オレイン酸、ポリソルベート80、D-ソルビトール、オクチルグルコシド、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される賦形剤と組み合わせて含んでいる、治療層と、を備え、
前記治療層が約500mm-1~約90,000mm-1の比表面積を有している、医療装置。
(項目13)
前記非結晶質パクリタキセルが約24時間~約168時間の期間にわたって前記医療装置から放出され、前記結晶質パクリタキセル二水和物が約1週間~約6週間の期間にわたって前記医療装置から放出される、上記項目のいずれかに記載の医療装置。
(項目14)
前記賦形剤が、前記コーティングされたバットレスの約0.014重量%~約14重量%の量で存在する、上記項目のいずれかに記載の医療装置。
(項目15)
前記非結晶質パクリタキセル及び結晶質パクリタキセル二水和物が、前記コーティングされたバットレスの約0.1重量%~約50重量%の量で存在する、上記項目のいずれかに記載の医療装置。
(項目16)
前記医療装置が、約65%~約85%の細孔容積を有している、上記項目のいずれかに記載の医療装置。
(項目17)
組織を治療する方法であって、上記項目のいずれかに記載の医療装置を組織に適用することを含む、方法。
(項目17A)
組織を治療するための、上記項目のいずれかに記載の医療装置であって、前記医療装置が前記組織に適用されるように構成されている、医療装置。
(項目18)
前記医療装置がバットレスであり、前記医療装置を組織に適用することが、ステープル、タック、クリップ、接着剤、縫合糸、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される固定装置と共に起こる、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目18A)
前記医療装置がバットレスであり、前記医療装置が、ステープル、タック、クリップ、接着剤、縫合糸、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される固定装置により前記組織に適用さるように構成されている、上記項目のいずれかに記載の医療装置。
(項目19)
癌を治療する方法であって、
薬のコーティングを含むバットレスを上部に有する手術用ステープラを患者に導入することと、
前記ステープラを用いて臓器の望ましくない部分を取り除き、前記バットレスを組織にステープル留めすること及び前記組織を切断することを含む、前記臓器の残りの部分に前記バットレスを据え付けることと、を含む、方法。
(項目19A)
癌を治療するための医療装置であって、前記医療装置が、
薬のコーティングを含むバットレスを上部に有する手術用ステープラ
を備え、前記ステープラが、患者に導入されるように構成されており、前記ステープラが、臓器の望ましくない部分を取り除き、前記バットレスを組織にステープル留めすること及び前記組織を切断することによって、前記臓器の残りの部分に前記バットレスを据え付けるように構成されている、医療装置。
(項目20)
前記ステープラが肺に用いられ、かつ/または前記バットレスが化学療法薬でコーティングされた不織布材料から作製されている、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目20A)
前記ステープラが肺に用いられ、かつ/または前記バットレスが化学療法薬でコーティングされた不織布材料から作製されている、上記項目のいずれかに記載の医療装置。
本開示の摘要
本開示は、医療装置と、その装置を製造しかつ使用する方法に関する。実施形態において、医療装置は、化学療法薬及び任意の賦形剤の治療層を上部に有する多孔性基材を含むバットレスとすることができる。化学療法薬と賦形剤の形態を変えることにより、医療装置は、その医療装置が取り付けられた領域、及びそこからある距離離れた組織の両方を治療するために用いることができる。
【0029】
本開示の試料回収装置の実施形態は、図面を参照して本明細書に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】試験のためにバットレスがどのように切断されたかを示す、本開示の一実施形態により処理されたバットレスの図である。
【
図2】試験のためにバットレスを切断する異なるパターンを示す、本開示の実施形態により処理されたバットレスの別の図である。
【
図3】パクリタキセルを塗布した後に
図2に描写するバットレスの個々の部分に見出されたパクリタキセルの重量%を示すグラフである。
【
図4】様々なコーティングのバットレスから溶出した平均累積パクリタキセルを示すグラフである。
【
図5】犬に配置した後の本開示のバットレスに隣接する組織をサンプリングするための肺を切断する仕組み描写である。
【
図6】本開示の配合物9~16についての溶出曲線を描いたグラフである。
【
図7】本開示の2つのバットレスを犬に配置した後のパクリタキセルの血漿中濃度を描いたグラフである。
【
図8】埋め込み後の0~7日の間の犬の胸膜液中のパクリタキセル濃度を、観察された臨床血漿レベルと比較して要約するグラフである。
【
図9】7日後の犬の肺における本開示の様々なパクリタキセル配合物の濃度をステープル列からの異なる距離と共に示すグラフである。
【
図10】他の組織(縦隔、胸壁、心嚢、隔膜、縦隔リンパ節、気管支、食道及び心臓)における7日後のパクリタキセル配合物のパクリタキセル濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本開示の様々な例示的な実施形態を、実施形態の手術用ステープルにおいて、組織固定装置と共に用いるバットレスに関し、以下に議論する。以下の開示は、ステープルと共にバットレスを用いることについて詳細に議論するが、本開示の医療装置が、組織を機械的に支持し、ステープルまたは縫合線に沿って組織を補強し、かつ流体の漏れ及び/または組織の出血の発生を低下させるために用いる強化材料及びフィルムベースの様々な医療装置を含むことは、理解されるであろう。例えば、他の適切な医療装置は、ヘルニアパッチ、ステープル、タック、ステント及び組織足場が含まれる。
【0032】
本開示の医療装置は、組織の何らかの創傷、欠損及び/または開口を閉じるために用いる任意の固定装置と共に用いることができる。したがって、手術用バットレスを手術用のステープル留め装置と共に議論するが、医療装置を組織に固定するために例えばタック、縫合糸、クリップ、接着剤等といった他の固定装置を本開示の医療装置と共に用い得ることが想定される。組織固定装置または他の組織支持装置と共に用いない医療装置もまた想定される。
【0033】
実施形態において、本開示のバットレスは、本開示の手術用バットレスが設置される部位またはその近傍において、組織をさらに治療するための治療薬を含む治療層またはコーティングを、その上に有することができる。したがって、本開示は、患者に対する標的部位に向けた治療薬の送達のための手術用バットレス、及びそれを用いる方法と機構を記載する。
【0034】
以下の議論において、「近位側」「後に続く」という用語は入れ替え可能に用いることができ、かつ適切な使用の間に臨床医により近くにある構造部分を指すものと理解されなければならない。「遠位側」「先行する」という用語は入れ替え可能に用いることができ、かつ適切な使用の間に臨床医からより遠くにある構造部分を指すものと理解されなければならない。本明細書に用いる、「患者」という用語はヒト被験体または他の動物を指すものと理解されなければならず、かつ「臨床医」という用語は医師、看護婦または他の介護提供者を指すと共に支援要員をも含むものと理解されなければならない。
【0035】
本開示の医療装置は、手術用バットレスを含めて、生体吸収性、非吸収性、天然材料または合成材料である、生体適合性の基材材料から製造できる。医療装置は、多孔性または非多孔性の材料から形成することもできる。本開示の医療装置を形成するために、多孔性、非多孔性、天然、合成、生体吸収性及び/または非生体吸収性の材料の任意の組み合わせを用い得ることは、もちろん理解されなければならない。
【0036】
実施形態において、本開示の医療装置、例えば手術用バットレスは、その装置を身体から取り出す必要がないように生物分解性とすることができる。本明細書に用いる「生物分解性」という用語は、生体吸収性及び生体再吸収性の材料を含むものと定義される。生物分解性とは、医療装置が、分解生成物が排泄可能であるかまたは身体によって、吸収可能であるように、身体状態の下で分解(例えば、酵素的分解または加水分解)しもしくは構造的な完全性を失い、または身体内部の生理状態の下で(物理的にまたは化学的に)分解されることを意味する。
【0037】
本開示の医療装置、例えば手術用バットレスを形成するために用い得る材料の非限定的な実施例には、これらに限定されるものではないが、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(トリメチレンカルボナート)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(ヒドロキシ酪酸塩)、ポリ(燐酸アジン)、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシエチルメチルアクリレート、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアセテート、ポリカプロラクトン、ポリプロピレン、脂肪族ポリエステル、グリセロール、ポリ(アミノ酸)、コポリ(エーテル-エステル)、ポリアルキレンシュウ酸エステル、ポリアミド、ポリ(イミノカルボナート)、ポリアルキレンシュウ酸エステル、ポリオキサエステル、ポリオルトエステル、ポリホスファゼン、及びそれらのコポリマー、ブロックコポリマー、ホモポリマー、ブレンド、ならびにそれらの組み合わせが含まれる。
【0038】
実施形態において、天然の生物重合体は、本開示の医療装置を形成するために用いることができる。適切な天然の生物重合体には、これらに限定されるものではないが、コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、フィブリノゲン、エラスチン、ケラチン、アルブミン、セルロース、酸化セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、キチン、キトサン、及びそれらの組み合わせが含まれる。加えて、天然の生物重合体は、本開示の医療装置を製造するために、本明細書に記載する他のポリマー材料のいずれかと組み合わせることができる。
【0039】
実施形態において、本開示の医療装置、例えば手術用バットレスは、多孔質材料(複数可)から形成できる。本開示の医療装置の如何なる多孔質部分も、その表面の少なくとも一部に開口または孔を有することができる。適切な多孔質材料には、これらに限定されるものではないが、繊維構造(例えば、編み込み構造、織布構造、不織布構造等)及び/または発泡体(例えば、連続気泡体または独立気泡体)が含まれる。
【0040】
実施形態において、孔は、医療装置の厚み全体にわたって相互に接続するように、充分な数及び寸法とすることができる。織布、編物及び連続気泡体は、孔が医療装置の厚み全体にわたって相互に接続するように充分な数及び寸法である構造の例示的な実例である。
【0041】
他の実施形態において、孔は、医療装置の厚み全体にわたって相互に接続しないことができる。独立気泡発泡体または融合不織布材料は、医療装置の厚み全体にわたって孔が相互に接続しない構造の例示的な実例である。いくつかの実施形態において、孔は、非多孔性のテクスチャを有する医療装置の他の部分と共に、医療装置の一部に配置できる。当業者は、本開示の多孔性の医療装置について、様々な細孔分布のパターン及び構成を想定できる。
【0042】
本開示の医療装置が多孔性であって繊維状の材料を含む場合、医療装置は、編み込み、織り込み、不織布技術(メルトブローを含む)、湿式紡糸、電界紡糸、押出成形、共押出等を含むが、これらには限定されない、任意の好適な方法を用いて形成できる。実施形態において、医療装置は、例えば米国特許第7,021,086号及び同第6,443,964号に記載されている織物といった、三次元構造を有する手術用バットレスであり、それらの各々の開示の全体はこの参照によって、本明細書に援用される。
【0043】
基材を形成するために用いる織物の多孔性は、生物学的流体及び/または細胞の成分の浸潤を許すことができ、それは翻って本開示の医療装置からの任意の治療薬の放出の動力学を加速することができ、したがって周囲の組織及び流体への医療装置からの治療薬(複数可)の放出速度を増加させる。
【0044】
例えば手術用バットレスといった本開示の医療装置を形成するために用いる基材は、約0.05mm~約0.5mm、実施形態においては約0.1mm~約0.2mmの厚みを有することができる。
【0045】
医療装置を形成するために用いる基材が多孔性の場合、本開示の医療装置は、約65%~約85%、実施形態においては約70%~約80%の細孔容積を有することができる。
【0046】
上記したように、実施形態において、本開示の医療装置はまた、治療層またはその上のコーティング内に治療薬(複数可)も含んでいる。本開示の医療装置に添加できる治療薬には、それらに限定されるものではないが、薬剤、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、多糖、突然変異蛋白質、免疫グロブリン、抗体、サイトカイン(例えば、リンフォカイン、モノカイン、ケモカイン)、血液凝固因子、造血因子、インターロイキン(1~18)、インターフェロン(β-IFN、α-IFN及びγ-IFN)、エリスロポイエチン、ヌクレアーゼ、腫瘍壊死因子、コロニー刺激因子(例えば、GCSF、GM-CSF、MCSF)、インシュリン、抗腫瘍薬剤及び腫瘍サプレッサ、血液蛋白質、フィブリン、トロンビン、フィブリノゲン、合成トロンビン、合成フィブリン、合成フィブリノゲン、ゴナドトロピン(例えば、FSH、LH、CGなど)、ホルモン類及びホルモン類似体(例えば、成長ホルモン、黄体形成ホルモン放出因子)、ワクチン(例えば、腫瘍、細菌及びウイルス抗原)、ソマトスタチン、抗原、血液凝固因子、成長因子(例えば、神経成長因子、インスリン様成長因子)、骨形態発生タンパク質、TGF-B、タンパク質抑制薬、タンパク質アンタゴニスト、タンパク質アゴニスト、核酸(例えばアンチセンス分子、DNA、RNA、RNAi、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、細胞、ウイルス及びリボザイムが含まれる。
【0047】
実施形態において、本開示の医療装置に適用される治療薬は、実施形態において、「化学療法薬」及び/または「抗腫瘍薬」として言及する、抗腫瘍薬剤及び/または腫瘍サプレッサを含むことができる。適切な化学療法薬には、例えば、パクリタキセル及びその誘導体、ドセタキセル及びその誘導体、アブラキサン、タモキシフェン、シクロホスファミド、アクチノマイシン、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、塩酸ドキソルビシン、エピルビシン、マイトマイシン、メトトレキセート、フルオロウラシル、ゲムシタビン、塩酸ゲムシタビン、カルボプラチン、カルマスチン(BCNU)、メチル-CCNU、シスプラチン、エトポシド、カンプトセシン及びその誘導体、フェネステリン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ゴセレリン、ロイプロリド、インターフェロンα、レチノイン酸(ATRA)、ナイトロジェンマスタードアルキル化剤、ピポスルファン、ビノレルビン、イリノテカン、塩酸イリノテカン、ビンブラスチン、ペメトレキセド、トシル酸ソラフェニブ、エベロリムス、塩酸エルロチニブ、スニチニブリンゴ酸塩、カペシタビン/オキサリプラチン、ロイコボリンカルシウム、ベバシズマブ、セツキシマブ、ラムシルマブ、トラスツズマブ、それらの組み合わせ等が含まれる。
【0048】
実施形態において、パクリタキセル及び/またはパクリタキセル誘導体を治療薬として用いることができる。パクリタキセルは、非結晶質パクリタキセル、時々結晶質パクリタキセル二水和物と呼ぶ、結晶質パクリタキセル、及び/もしくは無水パクリタキセル、またはそれらの混合物を含む、本明細書において、「多形体」と言及する様々な形態を有することができる。
【0049】
本開示によると、治療層の形成に用いるパクリタキセルの多形体の形態は、治療層を適用するための溶液を形成するために溶媒システムに用いる水溶性組成物、溶媒極性、プロトン性及び非プロトン性溶媒の組成物によって、変化させることができる。例えば、メタノール中の10体積%の水溶解させ、続いて乾燥させたパクリタキセルは、大部分が結晶質パクリタキセル二水和物の層を生じさせるが、無極性溶媒ジクロロメタンに溶解させ、続いて乾燥させた同じパクリタキセルは大部分が非結晶質の層を生じさせる。
【0050】
パクリタキセルの結晶化度は、水溶性システムの溶解性に影響を与える。したがって、治療層のパクリタキセルの多形体の形態は、本開示の移植組織からの治療薬の調整された放出をもたらすために、調整しかつ選択できる。如何なる形態の薬剤も疎水性ではあり、非結晶質パクリタキセルは水溶性環境において、より可溶性であり、かつ結晶質パクリタキセルは水溶性環境において、可溶性が低いが、パクリタキセルの多くの放出プロファイルを有した移植組織をもたらすために、実施形態においては、パクリタキセルの複数の多形性の形態を用いることができる。例えば、非結晶質パクリタキセルと結晶質パクリタキセル二水和物の両方をその上に有する本開示の医療装置は、移植の際には(非結晶質パクリタキセルの形態の)治療薬の塊を放出することができ、一方では(結晶質パクリタキセル二水和物の形態の)治療薬をゆっくりと放出できる。
【0051】
賦形剤のない実施形態において、医療装置上の治療層の非結晶質パクリタキセルの量は、治療層の約10重量%~約90重量%の実施形態においては、治療層の0重量%~約100重量%とすることができ、結晶質パクリタキセル二水和物は、治療層の約90重量%~約10重量%の実施形態において、約0~約100重量%で治療層に存在する。
【0052】
本開示の医療装置は、約24時間~約168時間、実施形態においては約48時間~約96時間の期間にわたって非結晶質パクリタキセルを放出できると共に、約1週間~約6週間、実施形態においては約2週間~約4週間の期間にわたって結晶質パクリタキセル二水和物を放出できる。
【0053】
他の実施形態において、治療薬は、当業者の範囲内のポリマー材料または他のキャリヤ成分を含めて、コーティングの一部として適用できる。実施形態において、そのようなコーティングは、例えばグリコリド、ラクチド、トリメチレンカルボナート、p-ジオキサノン、イプシロン-カプロラクトン、及びそれらの組み合わせといったモノマーから調製される分解可能なコーティングを含むことができる。コーティングを用いる場合、そのようなコーティングを含むバットレスは、移植の間及びその後、柔軟なままでなければならない。
【0054】
他の実施形態においては、コーティングを形成するために治療薬がいくつかの追加のポリマー材料と共にまたはポリマー材料なしに適用されるかどうかにかかわらず、上記した治療薬に加えて、本開示の医療装置を形成する際に基材材料に適用される治療層は、医療装置、実施形態においては手術用バットレスに治療薬が付着する能力、ならびに医療装置からの治療薬の溶出を修正する能力の両方を高めるために、賦形剤を含むことができる。
【0055】
実施形態において、医療装置上に治療層を形成するために治療薬と組み合わせることができる適切な賦形剤は、それらには限定されないが、例えば2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン及びメチル-β-シクロデキストリンといったシクロデキストリン、ドデシル硫酸ナトリウム、オクチルグルコシド、ならびに、例えばモノオレイン酸ソルビタン、ソルビタンモノラウレート及びソルビタンのポリエトキシル化脂肪酸エステルといった、本明細書において、時々ポリソルベートと呼ぶ、TWEEN(商標)の下で販売されているものを含むソルビタン脂肪酸エステルといった界面活性剤が含まれる。そのようなポリソルベートの実施例には、ポリソルベート80(TWEEN(商標)80)、ポリソルベート20(TWEEN(商標)20)、ポリソルベート60(TWEEN(商標)60)、ポリソルベート65(TWEEN(商標)65)、ポリソルベート85(TWEEN(商標)85)、それらの組み合わせ、及びその他の同種のものが含まれる。実施形態において、低分子量ポリ(エチレングリコール)を、単独で、あるいは他の上記した賦形剤のいずれかと任意に組み合わせて、賦形剤として添加できる。
【0056】
他の実施形態において、適切な賦形剤には、例えば塩化ナトリウムといった塩類、及び/または例えば尿素、オレイン酸、クエン酸及びアスコルビン酸といった他の材料を含めることができる。さらに他の実施形態において、賦形剤は、例えばブチルヒドロキシトルエン(BHT)といった安定剤とすることができる。
【0057】
さらに他の適切な賦形剤は、例えばD-ソルビトール、マンニトール、それらの組み合わせ、及びその他同種のものといった多価アルコールを含む。
【0058】
ある実施形態において、適切な賦形剤には、尿素、メチル-β-シクロデキストリン、オレイン酸、ポリソルベート80、D-ソルビトール、オクチルグルコシド、それらの組み合わせ、その他同種のものが含まれる。
【0059】
いくつかの実施形態において、ヒドロトロープである賦形剤を本開示の治療層に含めることができる。これらの材料は、治療層に水分を引き寄せて、その分解と、結果として生じる治療層からの治療薬の放出を高めることができる。しかしながら、本開示の治療層における治療薬の高い比表面積を鑑みると、そのような賦形剤は、実際、必須ではない。本開示の実施形態は、賦形剤のない化学療法薬を有した治療層を含む。
【0060】
治療薬(複数可)及び任意の賦形剤を、当業者の範囲内の任意の方法によって、本開示の医療装置に適用できる。上記したように、実施形態において、治療薬は溶液であり、例えばバットレスといった本開示の医療装置に適用される。治療薬を含んでいる溶液は、賦形剤と共に、噴霧、浸漬、溶液カスティング、それらの組み合わせ、その他同種のものを含む、当業者の範囲内の任意の方法によって、医療装置に適用できる。適用の後、溶媒は、加熱、真空の適用、それらの組み合わせ、及びその他同種のものを含む、当業者の範囲内の方法によって、取り除くことができる。溶媒の取り除きは、治療薬と任意の賦形剤を後に残して医療装置上に治療層を形成する。
【0061】
形成の後、本開示の医療装置はコーティングされたバットレス上に、コーティングされたバットレスの約0.1重量%~約50重量%、実施形態においてはコーティングされたバットレスの約1重量%~約10重量%の量の治療薬を有することができる。賦形剤は必須ではないが、存在する場合、非ポリマー賦形剤は、コーティングされたバットレスの約0.01重量%~約80重量%、実施形態においてはコーティングされたバットレスの約1重量%~約11重量%の量で存在し得る。他の実施形態において、存在する場合、賦形剤は、コーティングされたバットレスの約0.014重量%~約14重量%、実施形態においてはコーティングされたバットレスの約5重量%~約15重量%の量で存在し得る。
【0062】
形成の後、本開示の医療装置は、治療層の約0.01重量%~約100重量%、実施形態においては治療層の約1重量%~約75重量%の量の治療薬を治療層に有することができる。賦形剤が必須ではないが、存在する場合、非ポリマー賦形剤は、治療層の約1重量%~約99重量%、実施形態においては治療層の約8.5重量%~約79.4重量%、最も好ましい実施形態においては9.5%~約15%の量で存在し得る。実施形態において、存在する場合、ポリマー賦形剤は治療層の約1重量%~約99重量%、実施形態においては治療層の約5重量%~約15重量%の量で存在し得る。
【0063】
治療薬と非ポリマー賦形剤の両方を有する治療層は、約13ナノメートル~約2.9マイクロメートル、実施形態においては約25ナノメートル~約100ナノメートルの厚みを有することができる。
【0064】
治療薬とポリマー賦形剤の両方を有する治療層は、約2ナノメートル~約1.1マイクロメートル、実施形態においては約30ナノメートル~約100ナノメートルの厚みを有し得る。
【0065】
他の実施形態において、治療層は賦形剤をほとんどまたは全く含まず、したがってきわめて薄い治療層を基材に適用できる。このことは基材の多孔性を維持する。そのような治療層は、約11ナノメートル~約218ナノメートル、実施形態においては約25ナノメートル~約75ナノメートルの厚みを有し得る。
【0066】
基材が多孔性である実施形態において、治療層は、それ自体の孔の内側を含めて基材全体の表面上に存在し得る。非ポリマー賦形剤を有するまたは賦形剤を有しないそのような装置は、約500mm-1~約90,000mm-1の比表面積の治療層を有し得る。ポリマー賦形剤を有するそのような装置は、約1,100mm-1~約87,000mm-1の比表面積の治療層を有し得る。この高い比表面積は、治療層からの治療薬、例えば水溶性の溶解度が低いパクリタキセルといった、特に疎水性の薬物の、相対的に速い溶出を可能にする。バットレスまたは他の装置の低い重量パーセンテージで、化学療法薬を回避するための高い表面領域をもたらす、きわめて高い表面積比が達成されてきた。
【0067】
実施形態において、治療層を有する医療装置の組織への取り付けの際に、本開示の治療層は分解し得る。これは、移植部位から遠い位置への治療薬の移動に帰着することになり、例えばバットレスが肺葉の表面に取り付けられる場合、治療薬は縦隔リンパ節に移行し得るが、移植組織上に残っている治療薬(複数可)は移植部位に隣接する組織に直接拡散し得る。
【0068】
以下の実施例において、より詳細に説明するように、本開示の治療層にパクリタキセルを有する医療装置が、胸膜腔の全体にわたってパクリタキセルを放出することができ、かつ胸壁、隔膜、食道、縦隔及び心嚢を含む胸腔内の他の遠い部位において、治療レベルに達するという驚くべきことが犬モデルにおいて、見出された。これらは、手術的な切除の後に局所的な癌が再発し得る全ての部位である。パクリタキセルのような可溶性の低い薬剤の、治療レベルでの広範囲にわたる配給は、驚くべきことである。加えて、きわめて低いレベルのパクリタキセルが血液内に観察され、これは従来の静脈内療法に関連する毒性を回避できることを意味している。本開示の移植組織を用いることにより、肺及び胸部を治療するための局所領域治療が、現在は可能である。
【0069】
何らかの理論により束縛されることは望まないが、多くのメカニズムがこれらの驚くべき結果の原因になっていると考えられる。上述したように、バットレスの形態が大きな表面積をもたらし、パクリタキセルがバットレスから離れて拡散するためのより多くの機会を与えている。加えて、ステープルを起動する間に治療層の一部が医療装置を介して剥がれ落ち、胸膜液に移行する。そうなると、胸膜液がどこに移動してもフレークが溶けてパクリタキセルを送達する。これは、胸壁、隔膜、食道及び心嚢のような部位への、パクリタキセルの遠隔移動を説明できる。
【0070】
上記したように、本開示の医療装置は、組織の密封をさらに助けるために任意の固定装置と共に用いることができる。例えば、本開示の医療装置は、ステープル、タック、クリップ、縫合糸、接着剤、それらの組み合わせ、及びその他同種のものと共に用いることができる。
【0071】
実施形態において、本開示の医療装置は、ステープルと共に用いることができる。例えば、本開示の医療装置から形成された手術用バットレスは、手術用ステープル留め装置によって、組織に適用されたステープルの列を補強して密封するためにもたらされる。バットレスは、任意の手術用のステープル留め、固定、または起動装置への取り付けに適した任意の形状、寸法、または長さに構成できる。
【0072】
実施形態において、本明細書に記載するバットレスは、ステープルカートリッジとバットレスを含んでいる手術用ステープル留め装置のアンビルとの間の創傷組織の縁を接合することにより、創傷の密封に用いることができる。手術用ステープル留め装置の起動は、少なくとも1つのステープルの脚部が、ステープルカートリッジ及びバットレス上の開口、組織、及びアンビル上の開口を通過することを強制して、バットレスを組織に固定し、隣接する組織を互いに固定し、及び組織を密封する。
【0073】
手術用バットレスを形成するために本開示の医療装置を用いる場合、出血している組織部位への適用の際に、バットレスは組織の止血に影響を及ぼし得る。本明細書で用いる「止血」という用語は、出血の停止を意味する。
【0074】
バットレスを適用する部位に止血をもたらすことに加えて、本開示の医療装置は、移植部位及び身体の他の場所の両方において、治療薬による組織の治療をもたらすこともできる。
【0075】
いくつかの実施形態において、本開示は癌を治療する方法をもたらす。これらの方法は、実施形態において、例えば化学療法薬といった薬剤のコーティングを含んでいるバットレスを有している手術用ステープラを、治療を必要としている患者に導入すること、ならびにバットレスを組織にステープル留めすること及び組織を切断することを含めて、臓器の望ましくない部分を取り除きかつ臓器の残りの部分にバットレスを据え付けるためにステープラを用いることを含む。取り除くべき組織が患者の身体の内部にある場合、この方法は、患者の身体の内部にステープラ及びバットレスを導入することを含む。
【0076】
例えば、実施形態において、例えば肺癌の治療における肺切除といった用途については、本開示の医療装置、実施形態において、手術用バットレスの適用が、例えばパクリタキセルまたはその誘導体といった化学療法薬により、手術用バットレスの適用部位を治療することになることが見出された。さらに、本開示の装置は、化学療法薬、賦形剤、それらの組み合わせ、その他同種のものの形態に応じ、そこから化学療法薬を溶出させ得ることも見出された。化学療法薬は、ステープルを起動させる際にバットレスに与えられる機械的/物理的な力によって、手術用バットレスから物理的に取り除かれ得る。化学療法薬は、胸膜空間の内部で胸膜液に溶解すると共に、その空間の全体にわたって移動し得る。
【0077】
実施形態において、例えば手術用バットレスといった本開示の医療装置の適用は、例えばパクリタキセルといった化学療法薬の治療レベルを維持し、それによって、患者を治療し続けて、非小細胞性肺癌の再発を防止するために用いることができる。
【0078】
本開示の医療装置による化学療法薬の導入の利益には、例えば、
・静脈内化学療法に典型的に関連する全身毒性の排除、
・従来の静脈内化学療法の点滴の10%への薬剤充填量の低減、
及び
・長期にわたる露出をもたらし、パクリタキセルの場合にはより低い薬剤濃度でより大きな効力をもたらすこと、が含まれる。
【0079】
以下の非限定的な実施例を参照しつつ、本開示のいくつかの実施形態を説明する。これらの実施例は、単に例証を目的としており、本開示の範囲を制限することを目的としていない。本明細書に用いる「室温」とは、約20℃~約30℃の温度を指す。また、例えば溶液のパーセンテージといった、比率及びパーセントは、特に明記しない限り重量による。
【0080】
実施例1
パクリタキセルを肺ステープルバットレスに適用することの実施可能性を以下の)に試験した。ポリグリコール酸でできているステープルバットレスを試験のために用いた。材料の部分を、可能性のある配合物溶媒としてのテトラヒドロフラン、クロロホルム、トルエン、ジクロロメタンまたはメタノールまたはそれらの組み合わせに浸漬した。バットレスは、数日後の変形または粘着性がないことにより、各溶媒と互換性を有することが視覚的に見て取れた。
【0081】
バットレス材料をコーティングするために用いたパクリタキセルの配合物は、50mg/mlのパクリタキセル及び7mg/mlの尿素の、10:90の体積比での水:THF(FREEPAC(商標)として入手可能なパクリタキセル溶出配合物)の溶液であった。乾燥させた配合物は、非結晶質パクリタキセルとパクリタキセル二水和物の混合物を含むことが予想された。3つのバットレスをコーティングするためにこの配合物を用いた。
【0082】
約5mlの上記のパクリタキセル溶液を3つの小ガラス瓶に配置し、バットレス(長さ40mm)を各ガラス瓶にもたらして、30秒未満の間にパクリタキセル溶液に浸漬できるようにした。各バットレスは、ピンセットで取り除いて乾燥できるようにした。バットレスは、パクリタキセル溶液から除去した後、15~30秒で視覚的に乾燥したように見えた。続いて、各バットレスをガラス板上に設置し、約10分間十分に乾燥できるようにした。
【0083】
バットレスの視覚的な外観の実際的な変化は観察されなかった。軽い取り扱いは、如何なる毛羽立ちまたは微粒子をもバットレスに生じさせなかった。処理した及び未処理のバットレスを50倍の倍率で撮影したが、表面の外観の差はほとんど何も観察されなかった。
【0084】
各バットレス及び未処理のバットレスは、パクリタキセルについて以下の通りに分析した。クーポンは、約30分間の超音波処理の下でメタノールの0.5%容積比の酢酸で抽出した。抽出物は、既知の濃度基準に対する残留パクリタキセルについて、きわめて高性能の液体クロマトグラフを用いて229ナノメートルのUV検出で分析した。
【0085】
パクリタキセルの回収は、通常関連複合プロフィールで観察した。未処理のバットレスにおいて、干渉ピークは観察されなかった。結果は以下の表1に要約されている。
【表1】
【0086】
表1中の上記のデータに鑑みると、パクリタキセル溶液のバットレスへの適用は、浸漬コーティングが有効であるように見える。
【0087】
実施例2
パクリタキセルの形態を変動させたステープルバットレスの製造を以下の通りに試験した。結晶質パクリタキセル二水和物、非結晶質パクリタキセル、及び2つの組み合わせ(実施例1において、前述した)を用いてパクリタキセルの溶液を調製した。サンプルの2つは賦形剤として尿素を含んでいた。
【0088】
パクリタキセル(PTX)の量及び様々な形態、もしあれば賦形剤、及びパクリタキセル溶液を製造するために用いた溶媒を含む、調製した配合物は表2に要約されている。
【表2】
【0089】
サンプル4は、賦形剤として尿素を含んでいた。整合性のために、二水和物材料(サンプル5)に尿素を同じ比率で含めた。アモルファス配合物(サンプル6)には尿素は含まれなかった。
【0090】
90×10mmのバットレスプロフィール(一方の側が8cm2の織物領域)を各配合物に浸漬コーティングして乾燥させた。実施例1に上記した結果と同様に、どの配合物についてもバットレス表面の目に見える変化はなかった。薬剤はポリマー織物への優れた親和性を示し、かつ各配合物のバットレスは激しく取り扱い、振り回し、ガラス板にぶつけたが薬剤の目に見える脱粒はなかった。コーティングしたバットレスを溶出分析のために残しておいた。
【0091】
実施例3
10:90容積比のトルエン:THFのパクリタキセルの配合物を51.1mg/mlの濃度で調整し、サンプル8に指定した。この配合物は、非結晶質パクリタキセルレイヤを生じさせ、(一方の側が8cm
2の織物領域の)90×10mmの(サンプル8.1、8.2、8.3、8.4及び8.5と称する)5つのバットレスプロフィールをコーティングするために用い、適用の前にそれぞれ計量した。適用の後、
図1に示すように各バットレスを4つの部分A、B、C及びDに切断した。各部分は、計量し、続いて発展的薬剤含有法(developmental drug content method)で試験した。バットレスは、15分間の超音波処理の下でメタノール中の0.5%容積比の酢酸で抽出した。試料抽出物は、Agilent Zorbax RRHD Eclipse PlusC18、2.1×100mm、1.8μm微粒子サイズカラム上での水とアセトニトリルの勾配を用いつつ、既知のパクリタキセル濃度基準に対するパクリタキセル及び関連化合物の両方について、229ナノメートルのUV検出によるUPLCを用いて分析した。
【0092】
バットレスの各部分に観察された重量、薬剤質量、及び重量/重量パーセントは、表3、表4及び表5に要約されている。
【表3】
【表4】
【表5】
【0093】
上の表3に要約したデータから判るように、バットレス材料は平均して9.3重量%、または約4mgの薬剤を得た。回収されたパクリタキセル(表4)の結果と、部分毎の重量/重量%して観察されたパクリタキセル(表5)は、かなり一致している。
【0094】
実施例4
90×10mmのバットレスプロフィールを形成するためにポリグリコール酸織物のシートを打ち抜き、パクリタキセルの配合物をそれに適用した。配合物及び試験は以下に記載されている。
【0095】
パクリタキセルの配合物は、様々な賦形剤の25mg/mlの濃度で調製した。サンプル10、11及び12におけるパクリタキセルの結晶化度は、完全に結晶質のパクリタキセル二水和物または完全に非結晶質の形態のいずれかであるパクリタキセルにより制御された。実施例1に上記した10:90水:THF溶媒システムベースの、残りのサンプル(9、13、14、15及び16)の組成物は、非結晶質パクリタキセルとパクリタキセル二水和物の混合物を含むことが予想される。様々な配合物が表6に要約されている。
【表6-1】
【表6-2】
【0096】
5ミリリットルの上記の配合物の各々を調製し、コーティング治具のリザーバに注入した(リザーバ容積は25mlであった)。12のバットレスプロフィールのシートを手でリザーバに通し、材料をコーティングし、かつ乾燥させるためにピンセットで保持した。全ての溶媒システムを30秒未満以内にきわめて急速に乾燥させた。
【0097】
上記の実施例1及び2のように、サンプル10(結晶質パクリタキセル二水和物と尿素)を除いて、全ての配合物について肉眼では材料上の変化はほとんど見えない。そのサンプルについては、いくつかの白い縞と均一でないコーティングが観察された。バットレスプロフィールは、ピンセットでシートから取り出した。
【0098】
続いて薬剤の効力/均一性についてバットレスを検査した。各配合物からの5つのバットレス(指定されたサンプル9-1、9-2、9-3、9-4、9-5、10-1、10-2、10-3等)を抽出し、発展的薬剤含有法(developmental drug content method)で試験した。バットレスは、15分間の超音波処理の下で、メタノール中の0.5%容積比の酢酸で抽出した。
試料抽出物は、Agilent Zorbax RRHD Eclipse PlusC18、2.1×100mm、1.8μm微粒子サイズカラム上での水とアセトニトリルの勾配を用いつつ、既知のパクリタキセル濃度基準に対するパクリタキセル及び関連化合物の両方について、229ナノメートルのUV検出によるUPLCを用いて分析した。
【0099】
図2に示すように、各バットレスは2つ部分E及びFに切断した。バットレスプロフィールのほぼ半分を代表する部分は、計量し、個々に試験した。
【0100】
部分値と合計値は
図3(
図3は個々の部分について重量/重量パクリタキセル%を有している)と下記の表7(各サンプルの文字は
図2に示すように試験した部分に相当している)に示されており、配合物毎の平均は下記の表8に示されている。
【表7-1】
【表7-2】
【表7-3】
【表8】
【0101】
表7及び表8のデータから判るように、個々のバットレス重量にはかなりの量の変動があったが、治療層のパクリタキセルの%重量/重量は各グループ内でかなり一致していた。ほとんどの配合物は重量で8~10%の間に薬剤を有していた。配合物13(メチル-β-シクロデキストリン賦形剤)及び配合物14(オレイン酸/Naオレアート賦形剤)は治療層により少ない薬剤を有していた。
【0102】
バットレスからの薬剤溶出は以下の通りに試験した。各配合物からの3つのバットレスをマンドレルに載置し、10ミリモルの酢酸アンモニウム中の37℃、0.3%のSDSに導入し、かつ100回転数/分で37℃恒温器シェーカに設置した。各時点において、マンドレル及びバットレスを取り除いて媒質の新しいガラス瓶に移送した。時点は配合物毎に変動させた。各配合物のアリコートは0.2μmナイロンフィルタでろ過し、かつ類似のサンプルタイプについて発達HPLC法(developmental HPLC method)で分析した。既知のパクリタキセル濃度基準に対する229ナノメートルでのUV検出による分離のために、Luna 3μm PFP(2)100Å上の水及びアセトニトリル勾配、4.6×100カラムを用いた。
図4は、バットレスから溶出する平均累積薬剤を示すグラフである。下記の表9、表10、表11及び表12は、それぞれ配合物9、10、11及び12のバットレスについて溶出した累積薬を要約している。
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【0103】
表9から表12に記載されるデータから判るように、バットレスに適用する賦形剤及びパクリタキセルの形態、ならびにパクリタキセル及び賦形剤をバットレスに適用するために用いる溶液を形成するための溶媒を変動させることにより、バットレスから放出されるパクリタキセルの量及びパクリタキセルの放出特性(例えば、塊と延長させた放出)を調整できる。
【0104】
図6は、配合物9~16の溶出曲線を描いたグラフである。
【0105】
各バットレスの表面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって、画像化した。結果は概ね予想通りであり、結晶質の配合物はニードルの形成を示し、非結晶質配合物はタイトにコーティングされた繊維と繊維間のいくつかの帯ひもを示す。配合物16は、他の半非結晶質の配合物よりも完全に材料をコーティングするように見える点において、僅かに異なっていた。
【0106】
実施例5
本開示のバットレス犬の胸膜腔に植設した調査を行い、バットレス上の薬剤の溶出及び移動を測定した。
【0107】
簡単に述べると、2つの配合物を合計4匹の犬に(1つの配合物を2匹の犬に、他の配合物を他の2匹の犬に)植設した。両側開胸を生じさせ、その上にパクリタキセルを有したバットレスのうちの2つを有する60mmのステープラを用いた。第1のバットレスは実施例5のサンプル9(半結晶質のパクリタキセルと尿素)の配合物を含み、第2のバットレスは実施例5、サンプル12に上記した非結晶質パクリタキセルであった。第1のバットレスを有する二匹の犬はFREEPAC#1(またはPTX+尿素犬#1)及びFREEPAC#2(またはPTX+尿素犬#1)と呼び、かつ第2のバットレスを有する二匹の犬はアモルフ犬#1及びアモルフ犬#2と呼んだ。
【0108】
各バットレスは、各動物の5つまたは6つの肺葉の尖端を横切って起動された。片側胸郭の間の液体及び空気の連通を可能にするために縦隔開窓を設置した。胸部ドレインを設置して、両方の開胸を閉じた。胸部ドレインは手術後に約36~約48時間以内に取り除いた。4匹の動物は手術の7日後に安楽死させ、パクリタキセルを分析するために関心を引く組織を収集した。収集した組織は、以下を含んでいた:1)バットレスステープル列の組織、2)ステープル列に隣接する組織、及び
3)胸郭壁、縦隔、心臓、心嚢、縦隔リンパ節、残りの肺葉、食道、気管支及び隔膜を含む、バットレスから間隔を開けた様々な位置。
【0109】
パクリタキセルの血漿レベル、及び移植した時間に比較した胸部ドレイン流体内のパクリタキセルのレベルを各動物について追跡した。血漿は、手術中、手術後の30分、1時間、2時間、4時間、6時間、24時間、72時間及び168時間に収集した。
【0110】
検死においては、サンプルを取った組織の各々を3×3cmの格子に分割し、さらに3つのレイヤにスライスして、パクリタキセルの薬物分析のために27のサンプルを生じさせた。バットレスに隣接する組織の肺切断スキームは
図5に概説されている。
【0111】
得られた結果を要約するグラフは
図7~
図10として記載されている。
図7に描写するように、非結晶質パクリタキセルを有するバットレスと非結晶質パクリタキセル及びパクリタキセル二水和物の組み合わせと尿素を有するバットレスの両方の血漿レベルは、時間と共に低い血漿レベルに鎮静化した。(
図7のはめ込みボックスは、3時間の期間にわたって供与された180mg/m
2の注入についてのヒトの臨床データ(大津その他)から取得した。3人の患者について報告された平均Cmax値は5,232±151ナノモルであり、30ナノモルの治療レベル未満のパクリタキセル血漿レベルに達するまでのクリアランス期間を48時間と仮定すると3人の患者の平均血漿値は402±3ナノモルであった。肺組織切除部位におけるパクリタキセルの局所的な送達は、血漿への薬剤の最小の送達をもたらした。実際に、両方の配合物が治療的な閾値を越えたわけではなく、ピークレベルは、パクリタキセルの臨床的な静脈(IV)投与の後に通常経験されるよりも二桁以上低かった。ここで留意されるべきことは、4匹の犬のいずれもが、血流好中球数の著しい変化を全くないことを含めて、IVパクリタキセルの送達によって、典型的に経験される薬物毒性の如何なる徴候も経験しなかったことである。)
【0112】
図8は、移植後の0日~7日の間の犬の胸膜液におけるパクリタキセルの濃度を、観察された臨床的な血漿レベルと比較して要約している。
図8に説明するように、犬の研究におけるパクリタキセル(PTX)胸膜液濃度は、重ねられた臨床血漿パクリタキセルレベル(黒い丸)、重ねられたNSCLCセル列倍加時間(黒い三角形)、及び肺癌臨床分離株倍加時間(白い三角形)と比較されている。目標パクリタキセル有効測定範囲は、点線で縁取りされた領域に強調されている。目標治療範囲は、実験的な生体外NSCLCセル列IC90値を生体内での腫瘍環境の影響の原因因子で調整することにより決定された。2つのパクリタキセルを含む配合物(半結晶パクリタキセル+尿素対非結晶質パクリタキセル)の各々は、犬の肺に7日間移植された。血漿及び胸膜液のパクリタキセルレベルはいくつかの時点において、監視され、かつパクリタキセルの組織レベルは術後7日に測定された。半結晶パクリタキセル+尿素の配合物は、胸膜液中のパクリタキセルの治療レベルを少なくとも7日間の研究の終了時点まで持続したが、非結晶質の配合物は少なくとも40~60時間治療レベルを維持し、その時点において、胸部ドレインを取り除いた。局所的に送達された配合物の両方が、ヒトの静注の後に血漿中で達成されるよりも長く、胸膜液空間内のパクリタキセルの治療レベルを持続させた。加えて、局所的な配合物の両方が、多くの肺癌臨床分離株のセル倍加時間を越えて治療レベルを持続し、静脈パクリタキセル供与に比較して有効性の改良された可能性を表している。
【0113】
図8のはめ込みボックスは、3時間の期間にわたって供与された180mg/m
2の注入についてのヒトの臨床データ(大津その他)から取得した。3人の患者について報告された平均Cmax値は5,232±151ナノモルであり、30ナノモルの治療レベル未満のパクリタキセル血漿レベルに達するまでのクリアランス期間を48時間と仮定すると3人の患者の平均血漿値は402±3ナノモルであった。3時間の期間にわたって供与された180mg/m
2の注入について大津により報告された臨床的なパクリタキセル血漿レベルは、7日間の犬の研究で見出されたパクリタキセル胸膜液レベルと比較してプロットされている。組織のパクリタキセルレベルが静脈注射の後の血漿レベルに続くことは多数の前臨床医学モデルにおいて、示されてきた(Eiseman,et al.Cancer Chemother.Pharmacol.1994;34(6):465-71;Soma,et al.J.Surg.Res.2009 Jul;155(1):142-6;Schrump,et al.J.Thorac.Cardiovasc.Surg.2002 Apr;123(4):686-94を参照されたい)。
【0114】
マウス、ウサギ及びヒツジにおける静脈注射後の肺のパクリタキセルレベルは、血漿レベルが治療的パクリタキセルレベル以下に接近し始めるまでに薬剤塊/組織塊ベース上の血漿内に見出されるレベルの0.6~4.3倍である。重要なことは、パクリタキセルが血流から消えたときに、それが肺及び他の組織においても急速に洗い流されることである。これらの前臨床医学の観測から、ヒトに投与される静注パクリタキセルが肺組織において、治療的濃度で残るのは、治療を開始した後の48時間に過ぎないと推測できる。
【0115】
実証されたことは、パクリタキセルの効力が露出時間と共に上昇し、より速く分割する細胞タイプに対しより低い濃度において、より有効であることである。露出期間と共に効力が高まるこの効果は、パクリタキセルの作用機構に起因し得る。すなわちパクリタキセルは、微小管ポリメリゼーションを阻害し、したがって細胞死を生じさせるために、細胞分裂の間に十分に高い濃度でなければならない。この効果により、パクリタキセルは、関心を引く組織において、長い期間にわたって治療レベルに維持されるときに、ゆっくり分割する癌細胞に対し化学療法薬として最も有効である。例えば、実証されたことは、15人の冒された患者から臨床分離株として集められた原発性の肺癌腫瘍が、ほぼ68~296時間に及ぶ倍加時間を有していたことである。(Baguley,et al.,‘‘
Inhibition of growth of primary human tumour cell cultures by a 4-anilinoquinazoline inhibitor of the epidermal growth factor receptor family of tyrosine kinases,’’Eur.J.Cancer.1998 Jun;34(7):1086-90.)
【0116】
パクリタキセルの持続される局所的な送達が静脈内療法よりもきわめて長い期間にわたる治療レベルを可能にするので、送達のこのモードは非小細胞性肺癌に対して優れた有効性をもたらさなければならない。
【0117】
図9は、7日後の肺における様々なパクリタキセル配合物の濃度をステープル列からの距離の変動と共に要約するグラフである。パクリタキセルの治療レベルは、半結晶パクリタキセル+尿素の配合物での手術の7日後に、ステープル列のバットレス縁部から最高で3cmの間隔を開けて、肺の表面と内部の両方において、犬の肺に見出された。非結晶質パクリタキセルの配合物は、肺の内部ではなく肺の表面に治療レベルを生じさせた。
【0118】
図10は、様々なパクリタキセル配合物の、他の組織(縦隔、胸壁、心嚢、隔膜、リンパ節、気管支、食道及び心臓)における7日後のパクリタキセル濃度を要約するグラフである。術後7日において、半結晶パクリタキセル+尿素の配合物は、心臓を除く同側の胸部において、サンプルを取った全ての局所組織において、パクリタキセルの治療レベルを生じさせたが、非結晶質パクリタキセルの配合物は、縦隔及び縦隔リンパ節において、治療レベルを生じさせた。これらがそれぞれ肺葉切除及び亜肺葉切除の後の典型的なローカル及び局所の再発の部位であるにつれて、縦隔及び縦隔リンパ節に対する治療レベルのパクリタキセルの遠隔送達は重要である。理論的には、これらの構造に対するパクリタキセルの送達は、初期段階の非小細胞性肺癌の手術後の局所限局再発のリスクを低減しなければならない。加えて、胸壁、隔膜、気管支及び食道に対する治療レベルのパクリタキセルの送達は、同様にこれらの構造の再発リスクを低減しなければならない。
【0119】
加えて、パクリタキセルの治療レベルは、本開示の移植組織を移植した後に縦隔リンパ節に見出された。パクリタキセルが見出されたリンパ節は、強化されたステープル列から数センチメートル離れていた。リンパ節のパクリタキセルの濃度は、強化されたステープル列に隣接する第1の3cm以内に見出されたパクリタキセルの濃度に匹敵していた。これらの結果は、最も多くの場合に転移のための経路として特記されるリンパ液のドレナージシステムに最も可能性がある、これらの部位へのパクリタキセルのいくつかの能動的な輸送を暗示している。
【0120】
本明細書に開示されている実施形態に様々な変更をなし得ることは理解されるであろう。したがって、上記の説明は限定的なものと解釈されてはならず、単に好ましい実施形態の実例として解釈させるべきである。当業者は、本開示の範囲及び趣旨の範囲内で他の変更を想定するであろう。そのような修正及び変更は、以下の請求の範囲の範囲内となることが意図されている。