IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 参天製薬株式会社の特許一覧

特開2022-189934ジクアホソルまたはその塩、銀塩およびイオン性等張化剤を含有する水性点眼液
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189934
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】ジクアホソルまたはその塩、銀塩およびイオン性等張化剤を含有する水性点眼液
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7084 20060101AFI20221215BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20221215BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20221215BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20221215BHJP
   A61K 33/38 20060101ALI20221215BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20221215BHJP
【FI】
A61K31/7084
A61K9/08
A61K47/02
A61P27/02
A61K33/38
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170692
(22)【出願日】2022-10-25
(62)【分割の表示】P 2021210804の分割
【原出願日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2020215953
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000177634
【氏名又は名称】参天製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100158414
【弁理士】
【氏名又は名称】秦野 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100191710
【弁理士】
【氏名又は名称】馬渡 洋介
(72)【発明者】
【氏名】桃川 雄介
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 洋子
(72)【発明者】
【氏名】浅田 博之
(57)【要約】
【課題】銀塩とイオン性等張化剤とを含有する水性点眼液において、安定な水性点眼液を提供する。
【解決手段】ジクアホソルまたはその塩、銀塩およびイオン性等張化剤を含有する水性点眼液。銀塩およびイオン性等張化剤を含有する水性点眼液に、ジクアホソルまたはその塩を添加することを特徴とする、水性点眼液の安定化方法。銀塩およびイオン性等張化剤を含有する水性点眼液に、ジクアホソルまたはその塩を添加することを特徴とする、水性点眼液の白濁化を抑制する方法。銀塩およびイオン性等張化剤を含有する水性点眼液に、ジクアホソルまたはその塩を添加することを特徴とする、銀塩の安定化方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジクアホソルまたはその塩、銀塩およびイオン性等張化剤を含有する水性点眼液(以下、「本点眼液」ともいう)に関する。また、本発明は、水性点眼液の安定化方法、水性点眼液の白濁化を抑制する方法、銀塩の安定化方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
点眼液には、開封後一定期間にわたり何回も使用するタイプ(マルチドーズ型点眼液)と1回使い切りタイプ(ユニットドーズ型点眼液)がある。特に、マルチドーズ型点眼液には、使用時の微生物汚染等による製品の腐敗を防止し、点眼液の保存安定性を確保するために、防腐剤が含まれることが一般的である。点眼液の防腐剤としては、塩化ベンザルコニウムやクロルヘキシジングルコン酸塩などが使用されている。また、点眼液の防腐剤は塩化ベンザルコニウムなどの他にも複数存在する。例えば、特表2016-507469号公報(特許文献1)には、ジフルプレドナートおよび抗菌性金属を含有するエマルション組成物が開示されており、抗菌性金属として銀塩が例示されている他、当該エマルション組成物を眼科用組成物とすることができることも記載されている。
【0003】
また、点眼液には有効成分や上述の防腐剤以外にも必要に応じて様々な添加剤が配合されている。例えば、涙液の生理的な状態に近い浸透圧に合わせるために等張化剤が用いられる。等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどのイオン性等張化剤やマンニトール、濃グリセリンなどの非イオン性等張化剤が知られている。これら有効成分、添加剤を配合して点眼液は調製されるが、一般的に有効成分が水に溶けやすい場合は水性点眼液として調製され、有効成分が水に溶けにくい場合は懸濁性点眼液として調製されている。特に、水性点眼液においては、不溶性の異物を含まないことが要求され、溶液の白濁はたとえわずかなものであっても無視できない。よって、水性点眼液の調製にあたっては、溶液中に白濁を形成しないことが強く望まれる。
【0004】
ところで、ジクアホソルはP,P-ジ(ウリジン-5’)四リン酸またはUpUとも呼ばれるプリン受容体アゴニストであり、特許第3652707号公報(特許文献2)に開示されているように、涙液分泌促進作用を有することが知られている。日本国においては、有効成分として3%(w/v)の濃度のジクアホソル四ナトリウム塩を含有する水性点眼液がドライアイ治療薬として使用されている(製品名:ジクアス(登録商標)点眼液3%)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2016-507469号公報
【特許文献2】特許第3652707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、銀塩とイオン性等張化剤とを含有する水性点眼液において、安定な水性点眼液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、銀塩とイオン性等張化剤が共存すると水性点眼液の調製時において白濁が生じるという課題を見出した。さらに、水性点眼液における銀イオンの溶解濃度が低下するという課題を見出した。水性点眼液中の白濁化を抑制し、水性点眼液中に含有される銀塩を安定化させる方法を鋭意検討した結果、驚くべきことに、有効成分であるジクアホソルまたはその塩を水性点眼液に添加することでジクアホソルまたはその塩自体に白濁化を抑制させ、さらに、水性点眼液中に含有される銀塩を安定化する作用があることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下を提供する。
【0009】
(1)ジクアホソルまたはその塩、銀塩およびイオン性等張化剤を含有する水性点眼液。
【0010】
(2)銀塩が、硝酸銀、硫酸銀、塩化銀、臭化銀、酸化銀、酢酸銀、炭酸銀、クエン酸銀、乳酸銀、リン酸銀、シュウ酸銀、チオ硫酸銀およびプロテイン銀からなる群から選択される少なくとも1種である、(1)に記載の水性点眼液。
【0011】
(3)銀塩が硝酸銀である、(1)に記載の水性点眼液。
【0012】
(4)イオン性等張化剤が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ホウ酸およびホウ砂からなる群から選択される少なくとも1種である、(1)に記載の水性点眼液。
【0013】
(5)イオン性等張化剤が塩化ナトリウムである、(1)に記載の水性点眼液。
【0014】
(6)水性点眼液のpHが6~8の範囲である、(1)~(5)のいずれか1に記載の水性点眼液。
【0015】
(7)ジクアホソルまたはその塩の濃度が1~10%(w/v)である、(1)に記載の水性点眼液。
【0016】
(8)ジクアホソルまたはその塩の濃度が3%(w/v)である、(1)に記載の水性点眼液。
【0017】
(9)ジクアホソルまたはその塩が、ジクアホソルナトリウムである、(1)に記載の水性点眼液。
【0018】
(10)水性点眼液が安定化されていることを特徴とする、(1)~(9)のいずれか1に記載の水性点眼液。
【0019】
(11)水性点眼液の白濁化が抑制されていることを特徴とする、(1)~(10)のいずれか1に記載の水性点眼液。
【0020】
(12)銀塩が安定化されていることを特徴とする、(1)~(11)のいずれか1に記載の水性点眼液。
【0021】
(13)銀塩およびイオン性等張化剤を含有する水性点眼液に、ジクアホソルまたはその塩を添加することを特徴とする、水性点眼液の安定化方法。
【0022】
(14)銀塩およびイオン性等張化剤を含有する水性点眼液に、ジクアホソルまたはその塩を添加することを特徴とする、水性点眼液の白濁化を抑制する方法。
【0023】
(15)銀塩およびイオン性等張化剤を含有する水性点眼液に、ジクアホソルまたはその塩を添加することを特徴とする、銀塩の安定化方法。
【0024】
なお、前記(1)~(15)の各構成は、任意に2つ以上を選択して組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、銀塩およびイオン性等張化剤を含有する水性点眼液であっても白濁化せず、澄明なジクアホソルまたはその塩を含有する水性点眼液を得ることができる。さらに、水性点眼液中に含有される銀塩を安定化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明に関してさらに詳しく説明する。
【0027】
本発明において、「水性点眼液」とは水を溶媒(基剤)とする点眼液を意味する。本発明における水性点眼液は外観が無色澄明であって、溶解型の点眼液である。ここで点眼液とは点眼剤または点眼薬と同義であり、コンタクトレンズ用点眼液も点眼液の定義に含まれる。
【0028】
本明細書において、「%(w/v)」は、本発明の水性点眼液100mL中に含まれる対象成分の質量(g)を意味する。
【0029】
ジクアホソルは、下記化学構造式で示される化合物である。
【0030】
【化1】
【0031】
「ジクアホソルの塩」としては、医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛などとの金属塩;塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸との塩;酢酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、乳酸、馬尿酸、1,2-エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、硫酸ラウリルエステル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸などの有機酸との塩;臭化メチル、ヨウ化メチルなどとの四級アンモニウム塩;臭素イオン、塩素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオンとの塩;アンモニアとの塩;トリエチレンジアミン、2-アミノエタノール、2,2-イミノビス(エタノール)、1-デオキシ-1-(メチルアミノ)-2-D-ソルビトール、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、プロカイン、N,N-ビス(フェニルメチル)-1,2-エタンジアミンなどの有機アミンとの塩などが挙げられる。
【0032】
本発明において、「ジクアホソルまたはその塩」には、ジクアホソル(フリー体)またはその塩の水和物および有機溶媒和物も含まれる。
【0033】
ジクアホソルまたはその塩に、結晶多形および結晶多形群(結晶多形システム)が存在する場合には、それらの結晶多形体および結晶多形群(結晶多形システム)も本発明の範囲に含まれる。ここで、結晶多形群(結晶多形システム)とは、それらの結晶の製造、晶出、保存などの条件および状態により、結晶形が変化する場合の各段階における個々の結晶形およびその過程全体を意味する。
【0034】
本発明の「ジクアホソルまたはその塩」として好ましいのはジクアホソルのナトリウム塩であり、下記化学構造式で示されるジクアホソル四ナトリウム塩(以下、単に「ジクアホソルナトリウム」ともいう)が特に好ましい。
【0035】
【化2】
【0036】
ジクアホソルまたはその塩については、特表2001-510484号公報に開示された方法などにより製造することができる。
【0037】
本点眼液はジクアホソルまたはその塩以外の有効成分を含有することもできるが、好ましくは、ジクアホソルまたはその塩を唯一の有効成分として含有する。
【0038】
本点眼液中のジクアホソルまたはその塩の濃度は、例えば、0.1~10%(w/v)であり、1~10%(w/v)であることが好ましく、1~5%(w/v)であることがより好ましく、3%(w/v)であることが特に好ましい。
【0039】
本発明において、銀塩としては、例えば、硝酸銀、硫酸銀、塩化銀、臭化銀、酸化銀、酢酸銀、炭酸銀、クエン酸銀、乳酸銀、リン酸銀、シュウ酸銀、チオ硫酸銀、プロテイン銀などが挙げられるが、好ましくは硝酸銀が挙げられる。
【0040】
本点眼液に含有される銀塩の濃度は、特に限定されるものではないが、その下限値としては、例えば、0.00000001%(w/v)以上、0.0000001%(w/v)以上、0.000001%(w/v)以上、0.0000025%(w/v)以上、0.000004%(w/v)以上、0.000005%(w/v)以上、0.000008%(w/v)以上、0.00001%(w/v)以上、0.000016%(w/v)以上、0.000025%(w/v)以上、0.00004%(w/v)以上、0.00005%(w/v)以上、0.00008%(w/v)以上、または0.0001%(w/v)以上が好ましい。また、その上限値としては、例えば、1%(w/v)以下、0.5%(w/v)以下、0.1%(w/v)以下、0.05%(w/v)以下、0.01%(w/v)以下、0.005%(w/v)以下、または0.001%(w/v)以下が好ましい。
【0041】
本点眼液に含有される銀塩の濃度範囲は、特に限定されるものではないが、例えば、0.00000001~1%(w/v)であり、0.0000001~0.01%(w/v)であることが好ましく、0.000001~0.001%(w/v)であることがより好ましく、0.000003~0.0003%(w/v)であることがさらに好ましく、0.00001~0.0001%(w/v)であることがことさら好ましく、0.0001~0.001%(w/v)であることが特に好ましい。
【0042】
本発明において、イオン性等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ホウ酸、ホウ砂などが挙げられるが、好ましくは塩化ナトリウム、塩化カリウム、より好ましくは塩化ナトリウムが挙げられる。
【0043】
本点眼液に含有されるイオン性等張化剤の濃度は、本点眼液を等張化する量であれば特に制限はないが、例えば、0.1~0.9%(w/v)のイオン性等張化剤を本点眼液に添加することができる。
【0044】
本点眼液には、上記に挙げた成分の他にも必要に応じて製薬学的に許容される添加剤を汎用されている技術を用いて適宜添加することができる。例えば、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、イプシロン-アミノカプロン酸などの緩衝化剤;濃グリセリン、マンニトールなどの非イオン性等張化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などの界面活性剤;クエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム水和物、エデト酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム水和物などの安定化剤;塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジングルコン酸塩などの防腐剤;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロースなどのセルロース系高分子化合物;ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマーなどのポリビニル系高分子化合物;キサンタンガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウムなどの天然高分子化合物;ポリエチレングリコールなどの合成高分子化合物等を必要に応じて選択し、添加することができる。なお、ポリビニルピロリドンとは、N-ビニル-2-ピロリドンが重合した高分子化合物を意味し、ポビドンとも呼ばれる。
【0045】
本点眼液のpHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、通常pH4~8の範囲内が好ましく、pH6~8の範囲がより好ましく、pH7付近が特に好ましい。より具体的には、例えば、pH6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、および8.0が好ましい。本点眼液には、適宜、塩酸や水酸化ナトリウムなどのpH調節剤を添加することができる。
【0046】
本点眼液は、気密容器、具体的には、点眼容器に充填されて保存することができる。本組成物が充填される点眼容器としては、例えば、「マルチドーズ型点眼容器」が挙げられる。
【0047】
本発明において、「マルチドーズ型点眼容器」とは、容器本体と当該容器本体に装着可能なキャップを備えた点眼容器であって、キャップの開封、再封を自由に行うことができる点眼容器のことをいう。当該マルチドーズ型点眼容器には、通常一定期間使用するために複数回分の点眼液が収容されている。また、マルチドーズ型点眼容器に充填される本点眼液の充填量は、例えば、1~20mLが好ましく、1~15mLがより好ましく、1~10mLがさらに好ましく、2.5~10mLがよりさらに好ましく、5mLが特に好ましい。
【0048】
本発明において、「眼科医薬用製品」とは、本点眼液が点眼容器に充填された眼科医薬用の製品のことをいう。ここで、「眼科医薬用製品」としては、例えば、点眼剤の製品が挙げられる。なお、本発明の「眼科医薬用製品」における各用語の定義は、本点眼液における各用語の定義と同様である。
【0049】
本点眼液は、ジクアホソルまたはその塩を有効成分として含有し、「ドライアイの予防および/または治療」に使用することができる。
【0050】
ドライアイは「様々な要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり、眼不快感や視覚異常を伴う疾患」と定義づけられ、乾性角結膜炎(KCS:Keratoconjunctivitis sicca)はドライアイに含まれる。また、本発明においては、ソフトコンタクトレンズ装用を原因とするドライアイ症状の発生もドライアイに含まれるものとする。
【0051】
ドライアイ症状には、眼乾燥感、眼不快感、眼疲労感、鈍重感、羞明感、眼痛、霧視(かすみ目)などの自覚症状の他、充血、角結膜上皮障害などの他覚所見も含まれる。
【0052】
ドライアイの病因については不明点も多いが、シェーグレン症候群;先天性無涙腺症;サルコイドーシス;骨髄移植による移植片対宿主病(GVHD:Graft Versus Host Disease);眼類天疱瘡;スティーブンス・ジョンソン症候群;トラコーマなどを原因とする涙器閉塞;糖尿病;角膜屈折矯正手術(LASIK:Laser(-assisted) in Situ Keratomileusis)などを原因とする反射性分泌の低下;meibom腺機能不全;眼瞼炎などを原因とする油層減少;眼球突出、兎眼などを原因とする瞬目不全または閉瞼不全;胚細胞からのムチン分泌低下;VDT(Visual Display Terminals)作業などがその原因であると報告されている。
【0053】
本発明において、「ドライアイの予防および/または治療」とは、ドライアイに伴う病的症状および/または所見を予防および/または治療もしくは改善することと定義づけられ、ドライアイに伴う眼乾燥感、眼不快感、眼疲労感、鈍重感、羞明感、眼痛、霧視(かすみ目)などの自覚症状の予防および/または治療もしくは改善を意味するだけでなく、ドライアイに伴う充血、角結膜上皮障害などの予防および/または治療もしくは改善も含まれる。また、「ドライアイの予防および/または治療」には、ソフトコンタクトレンズ装用眼における涙液層の安定性の向上によってドライアイ症状を予防および/または治療もしくは改善せしめることも含まれる。なお、ドライアイ症状の予防および/または治療もしくは改善には、ドライアイ患者がソフトコンタクトレンズ装用することで悪化するに至ったドライアイ症状の予防および/または治療もしくは改善、ソフトコンタクトレンズ装用そのものにより発生するに至ったドライアイ症状の予防および/または治療もしくは改善をも意味する。
【0054】
本点眼液の用法は、剤形、投与すべき患者の症状の軽重、年令、体重、医師の判断などに応じて適宜変えることができるが、例えば、剤形として点眼剤を選択した場合には、1日1~10回、好ましくは1日2~8回、より好ましくは1日3~6回に分けて眼局所に投与することができる。
【0055】
本点眼液は、ソフトコンタクトレンズ用として、ソフトコンタクトレンズ装着時にも使用することができる。ソフトコンタクトレンズとしては、例えば、ヒドロキシエチルメタクリレートを主成分とするコンタクトレンズまたはシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズなどが挙げられる。
【0056】
本点眼液の適用対象となるソフトコンタクトレンズの種類については特に制限されるものでなく、また、イオン性または非イオン性、含水性または非含水性の別を問わない。例えば、繰り返し使用されるレンズの他、1日使い捨て用レンズ、1週間使い捨て用レンズ、2週間使い捨て用レンズなどの現在市販されているまたは将来市販されるすべてのソフトコンタクトレンズに適用可能である。
【0057】
本発明の一態様は、銀塩およびイオン性等張化剤を含有する水性点眼液に、ジクアホソルまたはその塩を添加することを特徴とする、水性点眼液の安定化方法である。なお、上記本発明の水性点眼液の詳細な説明は、本発明の水性点眼液の安定化方法にも適用される。
【0058】
本発明の一態様は、銀塩およびイオン性等張化剤を含有する水性点眼液に、ジクアホソルまたはその塩を添加することを特徴とする、水性点眼液の白濁化を抑制する方法である。なお、上記本発明の水性点眼液の詳細な説明は、本発明の水性点眼液の白濁化を抑制する方法にも適用される。
【0059】
本発明の一態様は、銀塩およびイオン性等張化剤を含有する水性点眼液に、ジクアホソルまたはその塩を添加することを特徴とする、銀塩の安定化方法である。なお、上記本発明の水性点眼液の詳細な説明は、本発明の銀塩の安定化方法にも適用される。
【0060】
本発明において、水性点眼液の安定化とは、水性点眼液が安定化されていることをいい、具体的には、後述の実施例でも示されるように、(1)水性点眼液の白濁化が抑制されていること、および/または(2)水性点眼液に含まれる銀塩が安定化されていることをいうが、好ましくは、(1)水性点眼液の白濁化が抑制されていること、かつ(2)水性点眼液に含まれる銀塩が安定化されていることをいう。
【実施例0061】
以下に、試験例および製剤例を挙げて本発明を詳細に説明するが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0062】
[試験例1]
(試料調製)
試料1:表1に示す処方表に従い、試料1を調製した。すなわち、硝酸銀3.2mgおよび塩化ナトリウム4.5gを水に溶解して1000mLとし試料1を調製した。
【0063】
試料2~4:試料1と同様にして、表1に示す処方表に従い、試料2~4を調製した。
【0064】
なお、pH調節剤が含まれる試料はpH7.5となるようにpHを調整し、pH調節剤が含まれない処方はpHを成り行きとした。
【0065】
【表1】
【0066】
(試験方法)
試料1~4について、調製直後の溶液中の析出物の有無を目視で確認した。
【0067】
また、試料1~4について、低密度ポリエチレン(LDPE:Low Density
Polyethylene)製点眼容器に5mLを充填し、1か月間遮光冷所下で保管した。保存後の試料をポリプロピレン製遠沈管に全量を回収し、遠心分離機を用いて15,000rpmで30分間の遠心処理を行った。その後、試料上清の銀イオン含有量を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES:Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy)を用いて定量し、各試料中の銀イオン溶解濃度を測定した。
【0068】
(試験結果)
調製直後の溶液中の析出物の有無を目視で確認した結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
試料中の銀イオン溶解濃度(ppb)を表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
表2から明らかなように、硝酸銀および塩化ナトリウムを含有する試料には白濁が認められた。さらに、EDTAまたはリン酸水素ナトリウムを含有していても白濁は認められた。一方、硝酸銀および塩化ナトリウムを含有する試料にジクアホソルナトリウムを添加したところ、白濁は認められなかった。すなわち、驚くべきことに、硝酸銀および塩化ナトリウムによって生じる白濁をジクアホソルナトリウム自身が抑制することが見いだされた。
【0073】
また、表3から明らかなように、銀イオンの溶解度に差異が認められた。すなわち、硝酸銀および塩化ナトリウムを含有する試料にジクアホソルナトリウムを添加したところ(試料4)、試料1~3と比較して高い銀イオンが溶解していることが認められた。
【0074】
以上より、ジクアホソルナトリウム自身が硝酸銀および塩化ナトリウムによって生じる白濁を抑制するとともに、添加された銀塩を安定化させることが示された。
【0075】
[製剤例]
以下に製剤例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例にのみ限定されるものではない。なお、下記製剤例において各成分の配合量は製剤100mL中の含量である。
【0076】
(製剤例1:点眼剤(3%(w/v)))
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.1~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~1g
塩化カリウム 0.01~1g
エデト酸ナトリウム水和物 0.0001~0.1g
硝酸銀 0.00001~0.01g
pH調節剤 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水に上記成分を加え、これらを十分に撹拌し、pH調節することで上記点眼剤を調製できる。
【0077】
(製剤例2:点眼剤(3%(w/v)))
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.1~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~1g
塩化カリウム 0.01~1g
硝酸銀 0.00001~0.01g
pH調節剤 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水に上記成分を加え、これらを十分に撹拌し、pH調節することで上記点眼剤を調製できる。
【0078】
(製剤例3:点眼剤(3%(w/v)))
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.1~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~1g
硝酸銀 0.00001~0.01g
pH調節剤 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水に上記成分を加え、これらを十分に撹拌し、pH調節することで上記点眼剤を調製できる。
【0079】
(製剤例4:点眼剤(3%(w/v)))
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.1~0.5g
塩化カリウム 0.01~1g
硝酸銀 0.00001~0.01g
pH調節剤 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。
【0080】
(製剤例5:点眼剤(3%(w/v)))
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.01~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~1g
エデト酸ナトリウム水和物 0.0001~0.1g
ポリビニルピロリドン K90 0.0001~10g
硝酸銀 0.00000001~1g
pH調節剤 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。
【0081】
(製剤例6:点眼剤(3%(w/v)))
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.01~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~1g
エデト酸ナトリウム水和物 0.0001~0.1g
ポリビニルピロリドン K60 0.0001~10g
硝酸銀 0.00000001~1g
pH調節剤 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。
【0082】
(製剤例7:点眼剤(3%(w/v)))
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.01~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~1g
エデト酸ナトリウム水和物 0.0001~0.1g
ポリビニルピロリドン K30 0.0001~10g
硝酸銀 0.00000001~1g
pH調節剤 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。
【0083】
(製剤例8:点眼剤(3%(w/v)))
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.01~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~1g
ポリビニルピロリドン K90 0.0001~10g
硝酸銀 0.00000001~1g
pH調節剤 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。
【0084】
(製剤例9:点眼剤(3%(w/v)))
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.01~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~1g
ポリビニルピロリドン K60 0.0001~10g
硝酸銀 0.00000001~1g
pH調節剤 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。
【0085】
(製剤例10:点眼剤(3%(w/v)))
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.01~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~1g
ポリビニルピロリドン K30 0.0001~10g
硝酸銀 0.00000001~1g
pH調節剤 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。
【0086】
(製剤例11:点眼剤(3%(w/v)))
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.01~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~1g
クエン酸水和物 0.0001~0.1g
ポリビニルピロリドン K90 0.0001~10g
硝酸銀 0.00000001~1g
pH調節剤 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。
【0087】
(製剤例12:点眼剤(3%(w/v)))
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.01~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~1g
クエン酸水和物 0.0001~0.1g
ポリビニルピロリドン K60 0.0001~10g
硝酸銀 0.00000001~1g
pH調節剤 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。
【0088】
(製剤例13:点眼剤(3%(w/v)))
100mL中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.01~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~1g
クエン酸水和物 0.0001~0.1g
ポリビニルピロリドン K30 0.0001~10g
硝酸銀 0.00000001~1g
pH調節剤 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、銀塩とイオン性等張化剤とを含有する水性点眼液において、白濁の発生を抑制するとともに、水性点眼液中に含有される銀塩を安定化させ、安定なジクアホソルまたはその塩を含有する水性点眼液を提供することができる。