(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190043
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】電子装置及び距離計測方法
(51)【国際特許分類】
G01C 3/06 20060101AFI20221215BHJP
G01S 7/4865 20200101ALI20221215BHJP
G01S 17/93 20200101ALI20221215BHJP
【FI】
G01C3/06 120Q
G01S7/4865
G01S17/93
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175687
(22)【出願日】2022-11-01
(62)【分割の表示】P 2019090052の分割
【原出願日】2019-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 順生
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 康
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】タ トァン タン
(72)【発明者】
【氏名】大國 英徳
(57)【要約】
【課題】受光信号に応じたデジタル信号を記憶するデータ量を削減する。
【解決手段】電子装置は、第1の光が対象物で反射された反射光を含む第2の光を受光する受光部と、第1の光の投光タイミングと反射光の受光タイミングとに基づいて、対象物までの距離を計測する距離計測部と、受光部で受光された第2の光の情報一部であるデジタル信号を記憶する記憶部と、を備える。距離計測部は、さらに、第1時刻に受光した第2の光の情報と、記憶部に記憶された第1時刻よりも過去の第2時刻に受光した第2の光の情報とを用いて、対象物までの距離を計測する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の光が対象物で反射された反射光を含む第2の光を受光する受光部と、
前記第1の光の投光タイミングと前記反射光の受光タイミングとに基づいて、前記対象物までの距離を計測する距離計測部と、
前記受光部で受光された前記第2の光の情報一部であるデジタル信号を記憶する記憶部と、
前記受光部で受光された前記第2の光を複数の受光時間領域に分けて、各受光時間領域ごとに前記第2の光の光強度を検出する時分割検出部と、
前記複数の受光時間領域のそれぞれごとに、前記第2の光の光強度の累積加算値を算出する時分割累積加算部と、を備え、
前記記憶部は、前記最大の受光時間領域とは異なる受光時間領域内の前記デジタル信号を記憶せずに、前記第2の光の光強度の累積加算値が最大の受光時間領域内の前記デジタル信号を記憶し、
前記距離計測部は、前記記憶部に記憶された前記デジタル信号と、前記第1の光の投光タイミングとに基づいて、前記距離を計測する、電子装置。
【請求項2】
前記第1の光を投光する投光部をさらに備え、
前記距離計測部は、前記第1の光の投光タイミングを取得する、請求項1に記載の電子装置。
【請求項3】
第1の光が対象物で反射された反射光を含む第2の光を受光し、
前記第1の光の投光タイミングと前記反射光の受光タイミングとに基づいて、前記対象物までの距離を計測し、
前記受光された前記第2の光の情報であるデジタル信号を記憶部に記憶し、
前記受光部で受光された前記第2の光を複数の受光時間領域に分けて、各受光時間領域ごとに前記第2の光の光強度を検出し、
前記複数の受光時間領域のそれぞれごとに、前記第2の光の光強度の累積加算値を算出し、
前記記憶部は、前記最大の受光時間領域とは異なる受光時間領域内の前記デジタル信号を記憶せずに、前記第2の光の光強度の累積加算値が最大の受光時間領域内の前記デジタル信号を記憶し、
前記記憶部に記憶された前記デジタル信号と、前記第1の光の投光タイミングとに基づいて、前記対象物までの距離を計測する、距離計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電子装置及び距離計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光を対象物に照射して、レーザ光の投光タイミングと対象物からの反射光の受光タイミングに基づいて対象物までの距離を計測する技術が知られている。この種の技術を利用すると、車両の周囲に存在する障害物までの距離を非接触かつ高速に検出できることから、衝突防止や自動運転などに不可欠な技術として注目されている。
【0003】
レーザ光の対象物からの反射光は、太陽光などの環境光とともに受光されるため、反射光の光強度が弱いと、環境光との識別が困難になる。対象物からの反射光を環境光から正しく識別するには、受光信号をデジタル信号に変換してメモリに記憶した後に平均化処理などの信号処理を行う必要がある。最近は、より遠方の対象物までの距離を計測することが求められているが、そのためには多くの画素の受光データを保持する必要がある。するとより大容量のメモリが必要となり、設備コストが高くなってしまう。特に、上述した距離計測機能をSoC(System On Chip)で実現しようとした場合、必要なメモリの記憶容量が増えると、SoCによるワンチップ化が困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一態様は、受光信号に応じたデジタル信号を記憶するデータ量を削減可能な電子装置及び距離計測方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態によれば、第1の光が対象物で反射された反射光を含む第2の光を受光する受光部と、
前記第1の光の投光タイミングと前記反射光の受光タイミングとに基づいて、前記対象物までの距離を計測する距離計測部と、
前記受光部で受光された前記第2の光の情報一部であるデジタル信号を記憶する記憶部と、を備え、
前記距離計測部は、さらに、第1時刻に受光した第2の光の情報と、前記記憶部に記憶された前記第1時刻よりも過去の第2時刻に受光した第2の光の情報とを用いて、前記対象物までの距離を計測する、電子装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施形態による電子装置の概略構成を示すブロック図。
【
図2A】第2の光の光強度が第1基準レベルを一時的に超える例を示す図。
【
図2B】第2の光の光強度が第1基準レベルを超えない例を示す図。
【
図3】第1の実施形態による電子装置の処理動作を示すフローチャート。
【
図4】SiPMの受光信号の信号波形を模式的に示す図。
【
図5】第3の実施形態による電子装置の概略構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、電子装置及び距離計測方法の実施形態について説明する。以下では、電子装置の主要な構成部分を中心に説明するが、電子装置には、図示又は説明されていない構成部分や機能が存在しうる。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態による電子装置1の概略構成を示すブロック図である。
図1の電子装置1は、例えば車両等の移動体に搭載することができる。移動体とは、車両だけでなく、船舶、航空機、列車などを対象とする。
【0010】
図1の電子装置1は、投光部2と、光制御部3と、受光部4と、信号処理部5と、画像処理部6とを備えている。このうち、投光部2と、光制御部3と、受光部4と、信号処理部5とで、距離計測装置7が構成されている。以下では、距離計測装置7が走査方式及びTOF(Time Of Flight)方式の距離計測を行う例を説明する。
【0011】
投光部2は、第1の光を投光する。第1の光は、例えば所定の周波数帯域のレーザ光である。レーザ光とは、位相及び周波数が揃ったコヒーレントな光である。投光部2は、パルス状の第1の光を所定の周期で間欠的に投光する。投光部2が第1の光を投光する周期は、レーザ光の各パルスごとに距離計測装置7で距離を計測するのに要する時間以上の時間間隔である。
【0012】
投光部2は、発振器11と、投光制御部12と、光源13と、第1駆動部14と、第2駆動部15とを有する。発振器11は、第1の光を投光する周期に応じた発振信号を生成する。第1駆動部14は、発振信号に同期させて、光源13に間欠的に電力を供給する。光源13は、第1駆動部14からの電力に基づいて、第1の光を間欠的に出射する。光源13は、単一のレーザ光を出射するレーザ素子でもよいし、複数のレーザ光を同時に出射するレーザユニットでもよい。投光制御部12は、発振信号に同期させて、第2駆動部15を制御する。第2駆動部15は、投光制御部12からの指示に応じて、発振信号に同期した駆動信号を光制御部3に供給する。
【0013】
光制御部3は、光源13から出射された第1の光の進行方向を制御する。また、光制御部3は、受光された第2の光の進行方向を制御する。
【0014】
光制御部3は、第1レンズ21と、ビームスプリッタ22と、第2レンズ23と、ハーフミラー24と、走査ミラー25と、を有する。
【0015】
第1レンズ21は投光部2から出射された第1の光を集光させて、ビームスプリッタ22に導く。ビームスプリッタ22は、第1レンズ21からの第1の光を二方向に分岐させて、第2レンズ23とハーフミラー24に導く。第2レンズ23は、ビームスプリッタ22からの分岐光を受光部4に導く。
【0016】
ハーフミラー24は、ビームスプリッタ22からの分岐光を通過させて走査ミラー25に導く。また、ハーフミラー24は、電子装置1に入射された反射光を含む第2の光を受光部4の方向に反射させる。
【0017】
走査ミラー25は、第2駆動部15の駆動力に基づいて、投光部2内の第2駆動部15からの駆動信号に同期して、ミラー面を回転駆動する。これにより、ハーフミラー24を通過して走査ミラー25のミラー面に入射された分岐光(第1の光)の反射方向を制御する。ハーフミラー24のミラー面を一定周期で回転駆動することで、光制御部3から出射された第1の光を少なくとも一方向に走査させることができる。ミラー面を回転駆動する軸を二方向に設けることで、光制御部3から出射された第1の光を二方向に走査させることも可能となる。
図1では、走査ミラー25により、電子装置1から投光される第1の光をX方向及びY方向に走査させる例を示している。
【0018】
電子装置1から投光された第1の光の走査範囲内に、人間や物体等の対象物8が存在する場合、第1の光は対象物8で反射される。対象物8で反射された反射光のうち、少なくとも一部は、第1の光と略同一の経路を逆に進んで光制御部3内の走査ミラー25に入射される。走査ミラー25のミラー面は所定の周期で回転駆動されているが、レーザ光は光速で伝搬するため、走査ミラー25のミラー面の角度がほとんど変化しない間に、対象物8からの反射光がミラー面に入射される。ミラー面に入射された対象物8からの反射光は、ハーフミラー24で反射されて、受光部4にて受光される。
【0019】
受光部4は、光検出器31と、増幅器32と、第3レンズ33と、受光センサ34と、A/D変換器35とを有する。光検出器31は、ビームスプリッタ22で分岐された光を受光して電気信号に変換する。光検出器31にて、第1の光の投光タイミングを検出できる。増幅器32は、光検出器31から出力された電気信号を増幅する。
【0020】
第3レンズ33は、ハーフミラー24で反射された第2の光を受光センサ34に結像させる。受光センサ34は、第2の光を受光して電気信号に変換する。受光センサ34は、例えばSiPM(Silicon Photomultiplier)であってもよい。SiPMは、アバランシェフォトダイオード(以下、APD)を二次元方向にアレイ状に配列した光検出素子である。SiPMは、APDの降伏電圧よりも高い逆バイアス電圧を印加することにより動作し、ガイガーモードと呼ばれる領域で駆動される。ガイガーモード時のAPDの利得は非常に高いため、光子1個の微弱な光でさえ計測可能となる。受光センサ34で光電変換された電気信号は、A/D変換器35でデジタル信号に変換される。
【0021】
信号処理部5は、第1の光を反射させた対象物8までの距離を計測するとともに、第2の光に応じたデジタル信号を記憶部43に記憶する。信号処理部5は、距離計測部41と、抽出部42と、記憶部43とを有する。
【0022】
距離計測部41は、第1の光及び反射光に基づいて、対象物8までの距離を計測する。また、距離計測部41は、第1時刻に受光した第2の光の情報と、記憶部43に記憶された第1時刻よりも過去の第2時刻に受光した第2の光の情報とを用いて、対象物までの距離を計測する。より具体的には、距離計測部41は、第1の光の投光タイミングから所定時間内に、第2の光の光強度が基準レベルを超えると、所定時間内に受光された第2の光に対応するデジタル信号を記憶部43に記憶せずに、基準レベルを超えた受光タイミングに基づいて距離を計測する。距離計測部41は、以下の(1)式に基づいて、距離を計測する。
距離=光速×(反射光の受光タイミング-第1の光の投光タイミング)/2 …(1)
【0023】
抽出部42は、受光部4で受光された第2の光のうち、距離計測部41による距離の計測に有用な一部の光を抽出する。後述するように、抽出部42は、記憶部43に記憶されるデジタル信号の数を減らすために、距離計測に必要な一部の光のみを抽出する。
【0024】
記憶部43は、抽出部42で抽出された一部の光に応じたデジタル信号を記憶する。すなわち、記憶部43は、受光部4で受光された第2の光のすべてに対応するデジタル信号を記憶部43に記憶するのではなく、抽出部42で抽出された距離計測に有用な一部の光に対応するデジタル信号のみを記憶部43に記憶する。
【0025】
図1の信号処理部5は、上述した距離計測部41、抽出部42及び記憶部43の他に、記憶制御部44と、基準レベル設定部45と、信号加算部46とを有していてもよい。
【0026】
記憶制御部44は、第2の光の光強度の基準レベルに基づいて、受光部4で受光された第2の光の情報であるデジタル信号を記憶部43に記憶するか否かを制御する。より具体的には、記憶制御部44は、第1の光の投光タイミングから所定時間内に、第2の光の光強度が第1基準レベルを超えると、所定時間内に受光された第2の光に対応するデジタル信号を記憶部43に記憶させない。また、記憶制御部44は、所定時間内に第2の光の光強度が継続して第1基準レベル以下だった場合には、所定時間内に受光された第2の光に対応するデジタル信号を記憶部43に記憶させる。このように、記憶制御部44は、近い距離からの反射光が受光された場合、すなわち対象物8が近くに存在する場合には、その反射光を記憶部43に記憶させない。この場合、距離計測部41は、近い距離の対象物からの反射光をそのまま利用して、距離計測を行う。また、記憶制御部44は、第2の光の光強度が基準レベルを少なくとも1回超える場合に、基準レベルを超えた少なくとも1回の受光タイミングを記憶部43に記憶させる。
【0027】
基準レベル設定部45は、第1の光の投光タイミングからの経過時間に応じて値が変化する第1基準レベルを設定する。より具体的には、基準レベル設定部45は、第1の光の投光タイミングからの経過時間が長いほど、第1基準レベルを低くする。このようにする理由は、第1の光の投光タイミングからの経過時間が長いほど、より遠方の対象物8からの反射光が受光され、より遠方からの反射光は減衰度合いが大きいためである。
【0028】
基準レベル設定部45は、第1の光の投光タイミングからの経過時間だけでなく、受光部4の周囲の明るさを考慮に入れて第1基準レベルを設定してもよい。この場合、例えば、
図1の電子装置1に、光量センサ(明るさ検出部)47を設けることが考えられる。光量センサ47は、電子装置1の周囲の光量を検出する。光量センサ47により検出された光量により、受光部4の周囲の明るさを検出できる。よって、基準レベル設定部45は、第1の光の投光タイミングからの経過時間と受光部4の周囲の明るさとに基づいて、第1基準レベルを設定できる。例えば、周囲が明るいほど、太陽光等の環境光の影響を受けやすくなるため、第1基準レベルを引き上げるのが望ましい。より具体的には、基準レベル設定部45は、曇天より晴天の場合、また夜間よりも昼間の場合に、第1基準レベルを引き上げる。
【0029】
記憶制御部44は、基準レベル設定部45で設定された第1基準レベルに基づいて、所定時間内に受光された第2の光に対応するデジタル信号を記憶部43に記憶させるか否かを制御する。より具体的には、記憶制御部44は、第1の光の投光タイミングから所定時間内に、第2の光の光強度が第1基準レベルを超えると、所定時間内に受光された第2の光に対応するデジタル信号を記憶部43に記憶させず、所定時間内に第2の光の光強度が継続して基準レベル以下だった場合には、所定時間内に受光された第2の光に対応するデジタル信号を記憶部43に記憶させる。第2の光の光強度が第1基準レベルより高い場合は、近くの対象物8からの反射光が受光されたことを示しており、この場合は、反射光の光強度が十分に高くて、太陽光等のノイズに埋もれるおそれがほとんどないため、記憶部43への記憶は行わない。実際には、記憶制御部44は、第1の光の投光タイミングから所定時間内に、第2の光の光強度が基準レベルを超えた場合には、基準レベルを超えた受光タイミングだけは記憶部43に記憶させる。
【0030】
信号加算部46は、投光部2が投光した第1の光に関する距離計測を行う度に信号加算処理を行う。より具体的には、信号加算部46は、光制御部3が第1の光を一次元又は二次元方向に走査する場合には、第1の光の走査に応じて、記憶部43に格納された隣接した複数画素のデジタル信号を呼び出して累積加算することで信号の対ノイズ耐性を向上することができる。また、前回走査時に取得したデータを保存しておき、累積加算に用いることでも対ノイズ耐性を向上することができる。このように累積加算をすることで測定データの性能を向上できるようなデータを補助データとここでは仮に呼ぶ。もし累積加算時に補助データが記憶部43に格納されているようならば累積加算に使い、格納されていないならば加算には用いず無視する。
【0031】
距離計測部41は、所定時間内に第2の光の光強度が第1基準レベルを超えると、第1基準レベルを超えた受光タイミングに基づいて距離を計測し、所定時間内に第2の光の光強度が継続して第1基準レベル以下だった場合には、信号加算部46で累積加算を行ったデジタル信号に基づいて距離を計測する。また、距離計測部41は、第1の光の投光タイミングから所定時間を超えた場合、信号加算部46で累積加算されたデジタル信号に基づいて距離を計測する。
【0032】
信号処理部5は、記憶部43とは別個に、デジタル信号を一時的に記憶する不図示の小記憶容量のバッファを有する。A/D変換部で変換されたデジタル信号は、いったんバッファに記憶される。その後、バッファに記憶されたデジタル信号を記憶部43に記憶するか否かの処理を行った後、一部のデジタル信号のみが記憶される。
【0033】
図1の画像処理部6は、距離計測部41で計測された距離に基づいて、電子装置1の周囲に存在する対象物8を画像化した距離画像データを生成する。画像処理部6で生成された距離画像データは、例えば不図示の表示部に表示される。
【0034】
図2A及び
図2Bは基準レベル設定部45が設定する第1基準レベルL1の一例を示す図である。
図2A及び
図2Bの横軸は時間、縦軸は第2の光の光強度である。
図2A及び
図2Bは投光部2が第1の光を投光した時刻t0から、所定時間経過後の時刻t2までに第1基準レベルL1が変化する様子を示している。
図2A及び
図2Bの例では、基準レベル設定部45は、時間が経過するにつれて、第1基準レベルL1を単調に低くしている。
図2Aは時刻t0~t2の間の時刻t1での第2の光の光強度が第1基準レベルL1を一時的に超える例を示し、
図2Bは時刻t0~t2の間では第2の光の光強度が常に第1基準レベルL1以下の例を示している。
【0035】
図2A及び
図2Bのデジタル信号と基準レベルとの対比は、上述したバッファに一時的に記憶されたデジタル信号を用いて行われる。
【0036】
図2Aの場合は、時刻t0~t2の間の時刻t1で、受光された第2の光の光強度が第1基準レベルL1を超えているため、記憶制御部44は、時刻t0~t2の間に受光された第2の光に対応するデジタル信号を記憶部43に記憶させないようにし、記憶部43の記憶容量の削減を図る。
【0037】
一方、
図2Bの場合は、時刻t0~t2の間に、受光された第2の光の光強度が第1基準レベルL1を超えることがないため、記憶制御部44は、時刻t0~t2の間に受光された第2の光に対応するデジタル信号を記憶部43に記憶させる。信号加算部46は、複数の近傍画素についての時刻t0~t2の間のデジタル信号を累積加算する。距離計測部41は、信号加算部46が累積加算したデジタル信号に基づいて、時刻t0~t2の間に対象物8で反射された反射光が含まれるか否かを判断する。
【0038】
図2A及び
図2Bには、時刻t0~t2の間に受光された第2の光しか図示していないが、時刻t2以降に受光された第2の光は、原則として信号加算部46で累積加算するようにしてもよい。その理由は、時刻t2以降に受光された反射光は、遠方にある対象物8からの反射光であり、反射光の光強度がそれほど高くないと判断できるためである。
【0039】
図3は第1の実施形態による電子装置1の処理動作を示すフローチャートである。このフローチャートを開始するにあたって、基準レベル設定部45は、
図2A及び
図2Bに示すような第1基準レベルL1を予め生成してテーブル化しておいてもよいし、リアルタイムに第1基準レベルL1を生成してもよい。
【0040】
投光部2からの第1の光の投光を開始するとともに、投光タイミングからの経過時間の計測を開始する(ステップS1)。次に、経過時間に応じて、場合によっては、受光部4の周囲の明るさも考慮に入れて、基準レベル設定部45にて第1基準レベルL1を設定する(ステップS2)。
【0041】
ステップS1で第1の光を投光した以降、継続して受光部4で第2の光を受光する(ステップS3)。ステップS1で第1の光を投光してからの経過時間が所定時間を超えたか否かを判定する(ステップS4)。所定時間とは、例えば、対象物8が受光部4から数十mの距離に存在する場合を念頭に置いて設定することが考えられる。なお、所定時間の具体的な値は任意である。
【0042】
ステップS4で、経過時間が所定時間を超えていないと判定されると、受光部4で受光された第2の光の光強度が、その受光タイミングでの第1基準レベルL1を超えるか否かを判定する(ステップS5)。第1基準レベルL1を超えると判定されると、その受光タイミングで受光された第2の光は、対象物8からの有効な反射光であると判断しその受光タイミングに基づいて、距離計測部41にて距離計測を行う(ステップS6)。また、この場合、記憶制御部44は、受光部4で受光された第2の光に応じたデジタル信号を記憶部43に記憶しないように制御する。ステップS4~S5の処理は、抽出部42が行う。ステップS6の処理が終了すると、ステップS2以降の処理を繰り返す。また、ステップS5で、第2の光の光強度が第1基準レベルL1以下であると判定された場合も、ステップS2以降の処理を繰り返す。
【0043】
一方、ステップS4で経過時間が所定時間を超えたと判定されると、第2の光の光強度に応じたデジタル信号を記憶部43に記憶する(ステップS7)。また、信号加算部46は、記憶部43に記憶されたデジタル信号を累積加算する(ステップS8)。
【0044】
次に、累積加算されたデジタル信号が第2基準レベルを超えたか否かを判定する(ステップS9)。第2基準レベルは、第1基準レベルL1と同様に、投光タイミングからの経過時間や周囲の明るさに応じて値を変化させてもよい。
【0045】
ステップS9で第2基準レベルを超えたと判定されると、距離計測部41は、そのときの受光タイミングと投光タイミングとに基づいて、対象物8までの距離を計測する(ステップS10)。
【0046】
ステップS9で第2基準レベルを超えなかったと判定されると、第1の光の投光を開始してからの経過時間が制限時間に到達したか否かを判定する(ステップS11)。まだ制限時間に到達していなければ、ステップS3以降の処理を繰り返す。制限時間に到達した場合には、
図3の処理を終了する。
【0047】
このように、第1の実施形態では、受光部4が受光した第2の光のうち、距離計測に有用な一部の光を抽出して、そのデジタル信号を記憶部43に記憶する。このため、記憶部43の記憶容量を削減することができる。より具体的には、電子装置1の近くに存在する対象物8からの反射光は、太陽光などの環境光よりも光強度が高いと予想されるため、記憶部43に記憶することなく、距離計測を行う。これにより、特に記憶部43にデジタル信号を記憶しておく必要がない場合は、記憶部43に記憶しないようにしたため、記憶部43の記憶容量を抑制できる。
【0048】
一方、電子装置1から遠方に存在する対象物8からの反射光は、環境光との識別が困難なことも予想されるため、反射光に応じたデジタル信号を記憶部43に記憶した後に信号加算部46にて累積加算を行って、環境光との識別を容易にする。
【0049】
また、本実施形態では、反射光の飛行時間が長いほど、反射光の光強度が減衰することを念頭に置いて、投光タイミングからの経過時間に応じて第1基準レベルL1や第2基準レベルを可変させる。さらに、太陽光などの環境光の光量も考慮に入れて第1基準レベルL1や第2基準レベルを可変させることで、周囲の明るさを考慮に入れて第2の光に含まれる反射光を的確に抽出できる。
【0050】
(第2の実施形態)
受光部4の受光センサ34としてSiPMを用いた場合、微弱な光でも検出できるものの、SiPMの特性上、SiPMの受光信号の立ち上がりに対して立ち下がりは緩やかになり、受信信号がゼロになるまでに時間がかかる。このため、SiPMの受光信号を忠実にサンプリングしたデジタル信号を記憶部43に記憶すると、記憶容量が増大してしまう。
【0051】
図4はSiPMの受光信号の信号波形を模式的に示す図である。
図4の横軸は時間、縦軸は受信信号レベルである。
図4の破線は、A/D変換器35のサンプリング周期を示している。SiPMの受光信号は、急峻に立ち上がった後に、長い間裾を引いてゼロになるため、A/D変換器35のサンプリング数が多くなり、デジタル信号のデータ量が増大してしまう。
【0052】
そこで、本実施形態では、SiPMの受光信号を波形整形したデジタル信号を記憶部43に記憶することで、記憶容量の削減を図るものである。
【0053】
第2の実施形態による電子装置1は、
図1と同様のブロック構成を備えているが、抽出部42の処理が第1の実施形態とは異なっている。
【0054】
第2の実施形態による抽出部42は、受光部4で受光された第2の光のうち、光強度が所定の基準レベルを超える間欠光50aごとに、間欠光50aの発生タイミングを抽出する。間欠光50aとは、
図4に示すように、基準レベルから立ち上がって、その後に立ち下がる単一の波形部分を指す。
図4の例では、5つの間欠光50aが受光された例を示している。
【0055】
抽出部42は、より具体的には、
図4の下側に示すように、各間欠光50aを、各間欠光50aの立ち上がりのタイミングに同期させて、光強度が一定かつ間欠光50aの時間幅よりも短い矩形状のパルス信号50bに変換する。
【0056】
図4の上側の間欠光50aの波形は、A/D変換器35でA/D変換したデジタル信号の波形を示している。このように、抽出部42の処理は、SiPMの受光信号をA/D変換器35でデジタル信号に変換した後に行われるが、場合によっては、A/D変換器35でデジタル信号に変換する前のアナログ信号をパルス信号に変換してから、A/D変換器35でデジタル信号に変換してもよい。
【0057】
図4に示すように、パルス信号50bのパルス幅を狭くすることで、記憶部43に記憶される受光信号のデータ量を削減することができる。
【0058】
なお、A/D変換器35で生成されたデジタル信号の立ち上がり時刻によって、受光信号の立ち上がりタイミングを特定でき、また、デジタル信号の値により、受光信号の立ち上がり時のピーク値も特定できることから、受光センサ34の立ち下がりが裾を引く波形形状を事後的に忠実に再現することができる。これは、SiPMの立ち下がり波形の形状は、SiPMの素子特性からシミュレーションに精度よく予測できるためである。よって、抽出部42で受光部4の受光信号を矩形状のパルス信号50bに変換しても、その後に、元の受光信号の波形形状を再現できるため、実用上の問題は起きない。
【0059】
このように、第2の実施形態では、受光部4で受光された第2の光を、パルス幅の狭い矩形状のパルス信号50bに変換してから記憶部43に記憶するため、記憶部43に記憶されるデジタル信号の数を減らすことができる。
【0060】
なお、上述した第2の実施形態による抽出部42の処理は、第1の実施形態にも適用可能である。すなわち、第1の実施形態の抽出部42においても、第2の実施形態の抽出部42と同様に、受光部4で受光された第2の光に含まれる各間欠光50aを矩形状のパルス信号50bに変換してから第1基準レベルとの比較を行ってもよい。これにより、第1の実施形態における記憶部43の記憶容量をさらに削減できる。
【0061】
(第3の実施形態)
第3の実施形態は、受光部4で受光した第2の光を、複数の受光時間領域に分けて累積加算した結果に基づいて、第2の光に反射光が含まれるか否かを判断するものである。
【0062】
図5は第3の実施形態による電子装置1の概略構成を示すブロック図である。
図5の電子装置1は、
図1の構成に加えて、時分割検出部48と時分割累積加算部49を備えている。この他、
図5の電子装置1内の信号処理部5は、第2の実施形態と同様に、記憶部43とは別に、A/D変換部で変換されたデジタル信号を一時的に記憶する不図示のバッファを有する。このバッファに一時的に記憶されたデジタル信号は、時分割検出部48に入力される。
【0063】
時分割検出部48は、受光部4で受光された第2の光を複数の受光時間領域に分けて、各受光時間領域ごとに第2の光50cの光強度を検出する。時分割累積加算部49は、複数の受光時間領域のそれぞれごとに、第2の光50cの光強度の累積加算値を算出する。より具体的には、時分割検出部48は、各受光時間領域ごとに、第2の光50cに応じたデジタル信号を検出する。また、時分割累積加算部49は、各受光時間領域ごとに、第2の光50cに応じたデジタル信号の累積加算値を算出する。
【0064】
図6は時分割検出部48と時分割累積加算部49の処理動作を模式的に示す図である。
図6の例では、受光される第2の光50cを5つの時間領域T1~T5に分けて、各時間領域ごとに第2の光50cに応じたデジタル信号を累積加算する。
図6では、時間領域T2に反射波50dが含まれるため、累積加算値が最大の18になる。時間領域T2以外の他の時間領域T1,T3~T5の累積加算値は10,9,11,12である。
【0065】
記憶制御部44は、各時間領域の累積加算値を比較して、最大の累積加算値を有する時間領域T2に反射波50dが受光された可能性が高いと判断して、時間領域T2内の第2の光50cに応じたデジタル信号を記憶部43に記憶する。ここでは、バッファに記憶された時間領域T2内のデジタル信号を記憶部43に記憶する。また、記憶制御部44は、時間領域T1,T3~T5内の第2の光50cに応じたデジタル信号は記憶部43に記憶させない。これにより、記憶部43の記憶容量が増大するのを防止する。
【0066】
このように、第3の実施形態では、受光部4で受光された第2の光50cを複数の受光時間領域に分けて、各受光時間領域ごとに、第2の光50cに応じたデジタル信号を累積加算し、各受光時間領域の累積加算値同士を比較して、最大の累積加算値を有する受光時間領域内の受光データのみを記憶部43に記憶する。これにより、対象物8からの反射波50dが含まれる可能性が高い受光時間領域の受光データのみを記憶部43に記憶することができ、記憶部43の記憶容量を削減できる。
【0067】
上述した各実施形態における電子装置1内の少なくとも一部の機能や動作は、ハードウェアで実現してもよいし、ソフトウェアで実現してもよい。ソフトウェアで実現する場合、機能や動作に関連するプログラムを記憶装置に記憶し、このプログラムをプロセッサが読み出して実行すればよい。プログラムを記憶する記憶装置は、HDD(Hard Disk Drive)などの固定型記憶装置でもよいし、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の半導体メモリであってもよい。
【0068】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0069】
1 電子装置、2 投光部、3 光制御部、4 受光部、5 信号処理部、6 画像処理部、7 距離計測装置、11 発振器、12 投光制御部、13 光源、14 第1駆動部、15 第2駆動部、21 第1レンズ、22 ビームスプリッタ、23 第2レンズ、24 ハーフミラー、25 走査ミラー、31 光検出器、32 増幅器、33 第3レンズ、34 受光センサ、35 A/D変換器、41 距離計測部、42 抽出部、43 記憶部、44 記憶制御部、45 基準レベル設定部、46 信号加算部、47 光量センサ、48 時分割検出部、49 時分割累積加算部