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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022019005
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】医療用成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/02 20060101AFI20220120BHJP
   C08F 8/00 20060101ALI20220120BHJP
   C08F 12/06 20060101ALI20220120BHJP
   C08F 297/04 20060101ALI20220120BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20220120BHJP
   A61J 1/05 20060101ALI20220120BHJP
   A61J 1/06 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
C08L25/02
C08F8/00
C08F12/06
C08F297/04
C08L53/02
A61J1/05 313H
A61J1/05 311
A61J1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020122516
(22)【出願日】2020-07-17
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】佐野 二朗
【テーマコード(参考)】
4C047
4J002
4J026
4J100
【Fターム(参考)】
4C047AA03
4C047AA05
4C047AA27
4C047BB12
4C047BB25
4C047CC04
4C047CC24
4C047CC25
4C047GG08
4J002BC02W
4J002BC03W
4J002BP01X
4J002GB01
4J026HA06
4J026HA26
4J026HA32
4J026HA39
4J026HB15
4J026HB26
4J026HB32
4J026HB39
4J026HB45
4J026HB48
4J026HC06
4J026HC26
4J026HC32
4J026HC39
4J026HC49
4J026HE02
4J100AB02P
4J100CA01
4J100CA31
4J100DA01
4J100DA11
4J100DA42
4J100HA05
4J100HB02
4J100HB17
4J100JA51
(57)【要約】
【課題】透明性、柔軟性及び低温ヒートシール性の優れた熱可塑性樹脂組成物及び成形体を提供することを目的とする。
【解決手段】環状ポリオレフィン(B)と、スチレン系エラストマー(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、環状ポリオレフィン(B)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなり、水素化ブロックコポリマーは、芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有し、水素化ブロックコポリマーは、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有する、熱可塑性樹脂組成物を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化芳香族ビニル重合体(A)と、環状ポリオレフィン(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物からなる医療用成形体であって、
該環状ポリオレフィン(B)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなり、
該水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び、前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有し、
該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有する、医療用成形体。
【請求項2】
前記水素化芳香族ビニル重合体(A)が水素化ポリスチレンである、請求項1に記載の医療用成形体。
【請求項3】
前記水素化芳香族ビニル重合体(A)が90%以上の水素化レベルをもつ、請求項1又は2に記載の医療用成形体。
【請求項4】
前記環状ポリオレフィン(B)中の、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率が30~80モル%であり、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位の含有率が20~70モル%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の医療用成形体。
【請求項5】
前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上の水素化レベルをもち、且つ、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上の水素化レベルをもつ、請求項1~4のいずれか一項に記載の医療用成形体。
【請求項6】
前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化ポリスチレンからなる単位であり、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が水素化ポリブタジエンからなる単位である、請求項1~5のいずれか一項に記載の医療用成形体。
【請求項7】
前記水素化芳香族ビニル重合体(A)100質量部に対して、環状ポリオレフィン(B)10~300質量部を含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の医療用成形体。
【請求項8】
プラスチックスライドガラス、点眼容器、薬瓶アンプル、バイアル、試験管、採血管、検体容器、プレフィルドシリンジ、注射器シリンジから選ばれる成形体である、請求項1~7のいずれか一項に記載の医療用成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、靭性、耐熱性の優れた医療用成形体を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
水素化芳香族ビニル重合体は優れた透明性及び耐熱性を有することから、医療用の材料としての適用が期待される。
例えば、特許文献1では、水素化芳香族ビニル重合体に、芳香族ビニル/共役ジエンブロック共重合体の水素化物を配合した樹脂組成物を光ディスク用途に用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4-288360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者による水素化芳香族ビニル重合体の医療用の成形体の検討において、特許文献1で提案されている水素化芳香族ビニル重合体は靭性が劣るため、医療用の成形体への適用は困難であることがわかった。
医療用の成形体としては、プラスチック製のスライドガラス、点眼容器、薬瓶アンプルやバイアル等の医薬品収納容器、試験管や採血管や検体容器等のサンプリング容器、プレフィルドシリンジや注射器シリンジ等のシリンジ類等が挙げられる。これらの医療用の成形体に適用させるためには、耐熱性、透明性を維持したままで靭性を向上する必要があることが見出されている。
本発明は、このような問題を鑑みてなされたものである。即ち、本発明の課題は、透明性、靭性、耐熱性の優れた医療用成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は鋭意検討した結果、水素化芳香族ビニル重合体と特定の環状ポリオレフィンを用いることで透明性、靭性、耐熱性に優れた医療用成形体が得られることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は以下の特徴を有する。
【0006】
[1]水素化芳香族ビニル重合体(A)と、環状ポリオレフィン(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物からなる医療用成形体であって、該環状ポリオレフィン(B)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなり、該水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び、前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有し、該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有する、医療用成形体。
【0007】
[2]前記水素化芳香族ビニル重合体(A)が水素化ポリスチレンである、[1]に記載の医療用成形体。
[3]前記水素化芳香族ビニル重合体(A)が90%以上の水素化レベルをもつ、[1]又は[2]に記載の医療用成形体。
[4]前記環状ポリオレフィン(B)中の、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率が30~80モル%であり、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位の含有率が20~70モル%である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の医療用成形体。
[5]前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上の水素化レベルをもち、且つ、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上の水素化レベルをもつ、[1]~[4]のいずれか一項に記載の医療用成形体。
【0008】
[6]前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化ポリスチレンからなる単位であり、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位が水素化ポリブタジエンからなる単位である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の医療用成形体。
[7]前記水素化芳香族ビニル重合体(A)100質量部に対して、環状ポリオレフィン(B)10~300質量部を含有する、[1]~[6]のいずれか一項に記載の医療用成形体。
[8]プラスチックスライドガラス、点眼容器、薬瓶アンプル、バイアル、試験管、採血管、検体容器、プレフィルドシリンジ、注射器シリンジから選ばれる成形体である、[1]~[7]のいずれか一項に記載の医療用成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかる水素化芳香族ビニル重合体と特定の環状ポリオレフィンを含有する熱可塑性樹脂組成物からなる医療用成形体は、透明性、靭性、耐熱性に優れ、医療用成形体として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
以下において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0011】
本願に係る発明は、水素化芳香族ビニル重合体(A)と、特定の環状ポリオレフィン(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物からなる医療用成形体についての発明である。
【0012】
<水素化芳香族ビニル重合体(A)>
本発明の水素化芳香族ビニル重合体(A)は、芳香族ビニル重合体の水素化体である。
本発明の水素化芳香族ビニル重合体は、ポリスチレン、スチレン/α-メチルスチレン共重合体、スチレン/ビニルナフタレン共重合体等の芳香族ビニル重合体の水素化によって製造される。この中でも、ポリスチレンの水素化体である水素化ポリスチレンが好ましい。
【0013】
前記芳香族ビニル重合体の原料となる芳香族ビニルモノマーは、一般式(1)で示されるモノマーである。
【0014】
【化1】
【0015】
一般式(1)において、Rは水素又はアルキル基である。
前記アルキル基は、ハロ基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基、及びカルボキシル基のような官能基で単置換若しくは多重置換されたアルキル基であってもよい。また、前記アルキル基の炭素数は1~6がよい。
これらの内、Rは水素が好ましい。
【0016】
一般式(1)において、Arはフェニル基、ハロフェニル基、アルキルフェニル基、アルキルハロフェニル基、ナフチル基、ピリジニル基、又はアントラセニル基である。
これらの内、Arはフェニル基又はアルキルフェニル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0017】
前記芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン(全ての異性体を含み、特にp-ビニルトルエン)、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン(全ての異性体)、及びこれらの混合物が挙げられ、スチレンが好ましい。
【0018】
水素化芳香族ビニル重合体(A)の重量平均分子量(Mw)の下限は、好ましくは100,000以上である。また、Mwの上限は、好ましくは400,000以下、より好ましくは300,000以下、更に好ましくは200,000以下である。
Mwが上記下限値以上であれば機械強度が低下せず、上記上限値以下であれば成形加工性が悪化しない。
【0019】
ここで、水素化芳香族ビニル重合体(A)のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて下記条件で測定したポリスチレン換算の数値である。
・機器 :東ソー(株)製「GPC HLC-832GPC/HT」
・カラム:昭和電工(株)製「AD806M/S」3本(カラムの較正は東ソー(株)製単分散ポリスチレン(A500,A2500,F1,F2,F4,F10,F20,F40,F288の各0.5mg/mL溶液)の測定を行ない、溶出体積と分子量の対数値を3次式で近似した。)
・検出器:MIRAN社製「1A赤外分光光度計」(測定波長、3.42μm)
・溶媒:o-ジクロロベンゼン
・温度:135℃
・流速:1.0mL/分
・注入量:200μL
・濃度:20mg/10mL
【0020】
水素化芳香族ビニル重合体(A)の水素化レベルは、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは97%以上である。
尚、水素化芳香族ビニル重合体の水素化レベルとは、芳香族ビニル重合体が水素化によって飽和される割合を示す。このように高レベルの水素化は、耐熱性及び透明性のために好ましい。
水素化芳香族ビニル重合体(A)の水素化レベルは、プロトンNMRを用いて決定される。
【0021】
本発明の水素化芳香族ビニル重合体(A)のメルトフローレート(MFR)は、成形方法や成形体の外観の観点から0.1g/10分以上が好ましく、0.2g/10分以上がより好ましい。また材料強度の観点から200g/10分以下が好ましく、100g/10分以下がより好ましく、50g/10分以下が更に好ましい。
MFRは、ISO R1133に従って、測定温度230℃、測定荷重2.16kgの条件で測定した。
【0022】
水素化芳香族ビニル重合体(A)は、1種を単独で用いてもよく、モノマー単位の組成や物性等の異なる2種以上を併用してもよい。
【0023】
<環状ポリオレフィン(B)>
本発明の環状ポリオレフィン(B)は、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び、少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する、水素化ブロックコポリマーである。
該水素化ブロックコポリマーは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を少なくとも2個有すると共に、前記水素化共役ジエンポリマーブロック単位を少なくとも1個有するものである。
【0024】
尚、「ブロック」とは、コポリマーの構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントをいう。このため、例えば「ブロック単位を少なくとも2個有する」とは、水素化ブロックコポリマーの中に、構造的又は組成的に異なった重合セグメントからのミクロ層分離を表すコポリマーの重合セグメントを少なくとも2個有することをいう。
【0025】
前記芳香族ビニルモノマー単位の原料となる芳香族ビニルモノマーは、前記の一般式(1)で示されるモノマーである。
【0026】
前記芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン(全ての異性体を含み、特にp-ビニルトルエン)、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン(全ての異性体)、及びこれらの混合物が挙げられ、スチレンが好ましい。
【0027】
前記共役ジエンモノマー単位の原料となる共役ジエンモノマーは、2個の共役二重結合を持つモノマーであればよい。
共役ジエンモノマーとしては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2-メチル-1,3ペンタジエンとその類似化合物、及びこれらの混合物が挙げられ、ブタジエンが好ましい。
【0028】
前記1,3-ブタジエンの重合体であるポリブタジエンは、水素化で1-ブテン繰り返し単位の等価物を与える1,2配置、又は水素化でエチレン繰り返し単位の等価物を与える1,4配置のいずれかを含むことができる。
【0029】
前記の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリスチレンからなる単位が挙げられ、前記の水素化共役ジエンポリマーブロック単位の好ましい例としては、水素化ポリブタジエンからなる単位が挙げられる。
そして、水素化ブロックコポリマーの好ましい一態様としては、スチレンとブタジエンの水素化トリブロック又はペンタブロックコポリマーが挙げられ、他の如何なる官能基又は構造的変性剤も含まないことが好ましい。
【0030】
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率は、前記環状ポリオレフィン(B)に対して30~80モル%であり、好ましくは40~75モル%である。
水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の比率が上記下限値以上であれば剛性が低下することがなく、上記上限値以下であれば、靭性が向上し、脆性が悪化することがない。
【0031】
また、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の含有率は、前記環状ポリオレフィン(B)に対して20~70モル%であり、好ましくは25~60モル%である。
水素化共役ジエンポリマーブロック単位の比率が上記下限値以上であれば、靭性が向上し、脆性が悪化することがなく、上記上限値以下であれば剛性が低下することがない。
【0032】
尚、本願発明において、環状ポリオレフィンの「環状」とは、前記水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が有する、芳香族環の水素化により生じる脂環式構造のことをいう。
【0033】
水素化ブロックコポリマーは、SBS、SBSBS、SIS、SISIS、及びSISBS(ここで、Sはポリスチレン、Bはポリブタジエン、Iはポリイソプレンを意味する。)のようなトリブロック、マルチブロック、テーパーブロック、及びスターブロックコポリマーを含むブロックコポリマーの水素化によって製造される。
【0034】
水素化ブロックコポリマーはそれぞれの末端に芳香族ビニルポリマーからなるセグメントを含む。このため水素化ブロックコポリマーは、少なくとも2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位を有することとなる。そして、この2個の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の間には、少なくとも1つの水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有することとなる。
【0035】
前記水素化ブロックを構成する水素化前のブロックコポリマーは、何個かの追加ブロックを含んでいてもよく、これらのブロックはトリブロックポリマー骨格のどの位置に結合していてもよい。このように、線状ブロックは、例えばSBS、SBSB、SBSBS、そしてSBSBSBを含む。コポリマーは分岐していてもよく、重合連鎖はコポリマーの骨格に沿ってどの位置に結合していてもよい。
【0036】
水素化ブロックコポリマーのMwの下限は、好ましくは30,000以上、より好ましくは40,000以上、更に好ましくは45,000以上、特に好ましくは50,000以上である。また、Mwの上限は、好ましくは120,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは95,000以下、特に好ましくは90,000以下、最も好ましくは85,000以下、極めて好ましくは80,000以下である。
Mwが上記下限値以上であれば機械強度が低下せず、上記上限値以下であれば成形加工性が悪化しない。
ここで、環状ポリオレフィン(B)のMwは、水素化芳香族ビニル重合体(A)と同じ測定条件で、GPCを用いて決定される。
【0037】
水素化ブロックコポリマーの水素化レベルは、好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が90%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が95%以上;より好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が95%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99%以上;更に好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が98%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99.5%以上;特に好ましくは水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位が99.5%以上、水素化共役ジエンポリマーブロック単位が99.5%以上である。
尚、水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベルとは、芳香族ビニルポリマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示し、水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベルとは、共役ジエンポリマーブロック単位が水素化によって飽和される割合を示す。このように高レベルの水素化は、耐熱性及び透明性のために好ましい。
環状ポリオレフィン(B)の水素化レベルは、プロトンNMRを用いて決定される。
【0038】
本発明の環状ポリオレフィン(B)のMFRは、成形方法や成形体の外観の観点から0.1g/10分以上が好ましく、0.2g/10分以上がより好ましい。また材料強度の観点から200g/10分以下が好ましく、100g/10分以下がより好ましく、50g/10分以下が更に好ましい。
MFRは、ISO R1133に従って、測定温度230℃、測定荷重2.16kgの条件で測定した。
【0039】
環状ポリオレフィン(B)は、1種を単独で用いてもよく、モノマー単位の組成や物性等の異なる2種以上を併用してもよい。
本発明の環状ポリオレフィン(B)としては、市販のものを用いることができ、具体的には三菱ケミカル(株)製:ゼラス(商標登録)が挙げられる。
【0040】
<熱可塑性樹脂組成物>
本発明の医療用成形体は、前記の水素化芳香族ビニル重合体(A)と環状ポリオレフィン(B)とを含有する熱可塑性樹脂からなる。
熱可塑性樹脂組成物は、水素化芳香族ビニル重合体(A)100質量部に対して、環状ポリオレフィン(B)10~300質量部を含有することが好ましい。
【0041】
環状ポリオレフィン(B)の含有量は、水素化芳香族ビニル重合体(A)100質量部に対して、15質量部以上がより好ましく、20質量部以上が更に好ましい。また、250質量部以下がより好ましく、200質量部以下が更に好ましい。
環状ポリオレフィン(B)の含有量が上記範囲内であれば、透明性、靭性、耐熱性が良好となる。
【0042】
前記熱可塑性樹脂組成物のヘーズは、透明性の指標であり、好ましくは30%以下、より好ましく20%以下、更に好ましく10%以下である。値が小さいほど透明性に優れる。
また、熱可塑性樹脂組成物の曲げ弾性率は、好ましくは100~3000MPa、より好ましくは200~2800MPa、更に好ましくは300~2500MPaある。
上記範囲内であれば、靭性と成形体に必要な剛性が得られる。
【0043】
また、熱可塑性樹脂組成物の121℃×15分のオートクレーブ滅菌での収縮率は、耐熱性の指標であり、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下、更に好ましくは0.8%以下である。値が小さいほど耐熱性に優れる。
また、熱可塑性樹脂組成物の121℃×15分のオートクレーブ滅菌でのクラックは、靭性の指標であり、クラックが発生しないことが好ましい。
【0044】
<その他の成分>
本発明の医療用成形体の熱可塑性樹脂組成物には、その他の成分として、樹脂組成物に常用されている配合剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。
このような配合剤としては、例えば、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、防錆剤、無機充填材、発泡剤及び顔料が挙げられる。
この内、酸化防止剤、特にフェノール系、硫黄系又はリン系の酸化防止剤を含有させることが好ましい。酸化防止剤は、前記熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して0.01~2質量部含有させることが好ましい。
【0045】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、水素化芳香族ビニル重合体(A)及び環状ポリオレフィン(B)以外の樹脂成分やエラストマー成分を含有させてもよい。
このような樹脂成分としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン/α-オレフィン共重合樹脂、プロピレン/α-オレフィン共重合樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン/アクリル酸エステル共重合樹脂、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチレン/ビニルアルコール共重合体、アクリル系樹脂、石油樹脂が挙げられる。
【0046】
またエラストマー成分としては、例えば、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、アクリル系エラストマー、ナイロン系エラストマーが挙げられる。
【0047】
その他の成分の配合は、熱可塑性樹脂の溶融混練に常用されている混練方法にて成分(A)及び成分(B)に添加してもよいし、成分(A)と共に有機溶媒へ溶解させて混合してもよい。
その他の樹脂成分やエラストマー成分の含有率は、全成分の50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0048】
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前記水素化芳香族ビニル重合体(A)、前記環状ポリオレフィン(B)、及び必要に応じて前記のその他の成分を、通常の押出機やバンバリーミキサー、ロール、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーブラベンダー等を用いて常法で混練して製造することができる。
これらの製造方法の中でも、押出機、特に二軸押出機を用いることが好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物を押出機等で混練して製造する際には、通常220~320℃、好ましくは250~300℃に加熱した状態で溶融混練する。
【0049】
<医療用成形体及びその製造方法>
本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形することにより、各種医療用成形体を得ることができる。
成形方法としては、通常の射出成形法、ガスインジェクション成形法、射出圧縮成形法、ショートショット発泡成形法等の各種成形法が挙げられる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形して医療用成形体とすることが好ましく、射出成形する際の成形条件は以下の通りである。
成形温度は250~320℃であり、好ましくは270~300℃である。
射出圧力は5~100MPaであり、好ましくは10~80MPaである。
金型温度は0~100℃であり、好ましくは30~95℃である。更に好ましくは70~95℃である。
【0050】
<用途>
本発明の医療用成形体は、プラスチックスライドガラス;点眼容器、薬瓶アンプル、バイアル等の医薬品収納容器;試験管、採血管、検体容器等のサンプリング容器;プレフィルドシリンジ、注射器シリンジ等のシリンジ類等に好適に使用できる。
【実施例0051】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限または下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
尚、以下の記載において、「部」は「質量部」を表す。
【0052】
[物性]
<環状ポリオレフィン(B)のポリマーブロックの比率>
[カーボンNMRによる測定]
・装置:Bruker社製「AVANCE400分光計」
・溶媒:o-ジクロロベンゼン-h/p-ジクロロベンゼン-d混合溶媒
・濃度:0.3g/2.5mL
・測定:13C-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・積算回数:1536
・フリップ角:45度
・データ取得時間:1.5秒
・パルス繰り返し時間:15秒
・測定温度:100℃
H照射:完全デカップリング
【0053】
<水素化レベル>
[プロトンNMRによる測定]
・装置:日本分光社製「400YH分光計」
・溶媒:重クロロホルム
・濃度:0.045g/1.0mL
・測定:H-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・積算回数:8
・測定温度:18.5℃
・水素化芳香族ビニル重合体(A)の水素化レベル:6.8~7.5ppmの積分値低減率
・環状ポリオレフィン(B)の水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位の水素化レベル:6.8~7.5ppmの積分値低減率
・環状ポリオレフィン(B)の水素化共役ジエンポリマーブロック単位の水素化レベル:5.7~6.4ppmの積分値低減率
【0054】
<メルトフローレート(MFR)>
ISO R1133に従って、下記の条件で測定した。
・装置:(株)東洋精機製作所製「メルトインデクサー」
・温度:230℃
・オリフィス孔径:2mm
・荷重:2.16kg
【0055】
<ヘーズ>
プランジャータイプ射出成形機(Xplore Instruments社製 小型混練機XploreMC15付属射出成形機)を用いて、射出圧力3.5bar、シリンダー温度290℃、金型温度90℃にて、厚さ2mm×幅30mm×長さ80mmの試験片を成形し、ISO 14782に準拠して透明性の指標であるヘーズを測定した。
【0056】
<曲げ弾性率>
プランジャータイプ射出成形機(Xplore Instruments社製 小型混練機XploreMC15付属射出成形機)を用いて、射出圧力3.5bar、シリンダー温度290℃、金型温度90℃にて、厚さ4mm×幅10mm×長さ80mmの試験片を成形した。
この試験片を用い、ISO178に準拠してスパン間64mm、曲げ速度2mm/分で、剛性の指標である曲げ弾性率を測定した。
【0057】
<オートクレーブ滅菌:収縮率、クラック有無>
プランジャータイプ射出成形機(Xplore Instruments社製 小型混練機XploreMC15付属射出成形機)を用いて、射出圧力3.5bar、シリンダー温度290℃、金型温度90℃にて、厚さ2mm×幅30mm×長さ80mmの試験片を成形し、高圧蒸気滅菌器(アルプ社製 高圧蒸気滅菌器 形式CLS-32S)を用いて、121℃にて15分間オートクレーブ滅菌処理をし、試験片の長さ方向の寸法変化から収縮率を測定した。この収縮率は耐熱性の指標である。
また、目視にてクラックの有無を確認した。クラックの有無は靭性の指標である。
【0058】
[原料]
<水素化芳香族ビニル重合体(A-1)>
ポリスチレン(PSジャパン社製 HH-102)をテトラヒドロフランに溶解し触媒として5%Pd/Cを加え、温度:170℃、水素圧:100kg/cmで6時間水素化反応を行ない、下記物性の水素化ポリスチレンを得た。
水素化ポリスチレン
・密度(ASTM D792):0.94g/cm
・MFR(230℃、2.16kg):0.3g/10分
・水素化芳香族ビニル重合体の水素化レベル:99.9%以上
・Mw:160,000
【0059】
<環状ポリオレフィン(B-1)>
三菱ケミカル(株)製 ゼラス(商標登録)MC930
・密度(ASTM D792):0.94g/cm
・MFR(230℃、2.16kg):1g/10分
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位:含有率65モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリスチレン
・水素化共役ジエンポリマーブロック単位:含有率35モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリブタジエン
・ブロック構造:ペンタブロック構造、合計水素化レベル:99.5%以上
・Mw:72,000
【0060】
<環状ポリオレフィン(B-2)>
三菱ケミカル(株)製 ゼラス(商標登録)MC931
・密度(ASTM D792):0.94g/cm
・MFR(230℃、2.16kg):35g/10分
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位:含有率60モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリスチレン
・水素化共役ジエンポリマーブロック単位:含有率40モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリブタジエン
・ブロック構造:ペンタブロック構造、合計水素化レベル:99.5%以上
・Mw:51,000
【0061】
<環状ポリオレフィン(B-3)>
三菱ケミカル(株)製 ゼラス(商標登録)MC932
・密度(ASTM D792):0.94g/cm
・MFR(230℃、2.16kg):0.5g/10分
・水素化芳香族ビニルポリマーブロック単位:含有率50モル%、水素化レベル98.7%の水素化ポリスチレン
・水素化共役ジエンポリマーブロック単位:含有率50モル%、水素化レベル99.5%以上の水素化ポリブタジエン
・ブロック構造:ペンタブロック構造、合計水素化レベル:99.2%
・Mw:75,000
【0062】
<実施例1>
水素化芳香族ビニル重合体(A-1)100部と環状ポリオレフィン(B-1)33部、酸化防止剤としてBASF社製イルガノックス1010 0.05部及びBASF社製イルガフォス168 0.05部を加え、プランジャータイプ射出成形機(Xplore Instruments社製 小型混練機XploreMC15付属射出成形機)を用いて、温度290℃、スクリュー回転数100rpmにて1分間溶融混練し、射出圧力3.5bar、シリンダー温度290℃、金型温度90℃にて、厚さ2mm×幅30mm×長さ80mmの試験片と、厚さ4mm×幅10mm×長さ80mmの試験片を成形した。
各種物性の評価結果を表1に示す。
【0063】
<実施例2~6、比較例1~4>
成分(A)及び成分(B)を表1に示す配合とし、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物の試験片を成形した。各種物性の評価結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1より、本発明に該当する実施例1~6は透明性に優れ、オートクレーブ滅菌での収縮率が小さく耐熱性に優れ、また、オートクレーブ滅菌でクラックが発生せず靭性にも優れていることがわかる。
これに対して、環状ポリオレフィン(B)を含まない比較例1はオートクレーブ滅菌でクラックが発生し、靭性が劣ることがわかった。
水素化芳香族ビニル重合体(A)を含まない比較例2~4はオートクレーブ滅菌での収縮が大きく、耐熱性が劣ることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の医療用成形体は、プラスチックスライドガラス;点眼容器、薬瓶アンプル、バイアル等の医薬品収納容器;試験管、採血管、検体容器等のサンプリング容器;プレフィルドシリンジ、注射器シリンジ等のシリンジ類として非常に有用である。