(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190064
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】IL-33アンタゴニストを含む子宮内膜症治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20221215BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20221215BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20221215BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221215BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20221215BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20221215BHJP
C07K 16/24 20060101ALN20221215BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20221215BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P15/00
A61P9/00
A61P43/00 105
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K38/17
C07K16/24 ZNA
C07K16/28
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176101
(22)【出願日】2022-11-02
(62)【分割の表示】P 2019539686の分割
【原出願日】2018-08-31
(31)【優先権主張番号】62/552,594
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】000002956
【氏名又は名称】田辺三菱製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506208908
【氏名又は名称】学校法人兵庫医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】善本 知広
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフ エム パルンボ
(72)【発明者】
【氏名】アイ ヴィオレッタ ストーン
(72)【発明者】
【氏名】加藤 徹
(72)【発明者】
【氏名】安田 好文
(57)【要約】
【課題】子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療剤を提供すること。
【解決手段】IL-33が子宮内膜症又は子宮腺筋症の悪化因子であることを特定し、IL-33の作用を阻害することができるIL-33アンタゴニストが、子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療、予防、又は軽減に有用であることを見出した。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL-33アンタゴニストを有効成分とする子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療剤。
【請求項2】
子宮内膜症又は子宮腺筋症の痛みを緩和する、請求項1に記載の治療剤。
【請求項3】
子宮内膜症又は子宮腺筋症における異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)の成長を抑制する、請求項1又は2に記載の治療剤。
【請求項4】
子宮内膜症又は子宮腺筋症の異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)での血管新生を抑制する、請求項1~3のいずれか一項に記載の治療剤。
【請求項5】
異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)での線維化又は細胞増殖を抑制する、請求項1~4のいずれか一項に記載の子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療剤。
【請求項6】
子宮内膜症における異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)の諸臓器との癒着を抑制する、請求項1~5に記載の治療剤。
【請求項7】
IL-33アンタゴニストが、抗IL-33抗体、抗IL-33受容体抗体又は可溶性IL-33受容体である請求項1~6のいずれか一項に記載の子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療剤。
【請求項8】
抗IL-33抗体が、A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04、又はA26-1F02である、請求項7に記載の子宮内膜症又は子宮腺筋症治療剤。
【請求項9】
可溶性IL-33受容体が、sST2-Fcである請求項7に記載の子宮内膜症又は子宮腺筋症治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターロイキン-33(IL-33)アンタゴニストを有効成分として含有する子宮内膜症治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
子宮内膜症は子宮腔から離れた部位で(異所性に)子宮内膜組織が増殖する良性(非癌性)の疾患であり、生殖可能年齢にある全女性の約10%が罹患している。不妊症の女性の25~50%は子宮内膜症を患っている。
【0003】
子宮内膜症の発症原因には諸説あるが、子宮内膜細胞が月経血にのって他組織にたどり着き、子宮内膜組織が異所性に発生及び増殖することが一因と考えられている。
【0004】
子宮腺筋症は、子宮筋層に子宮内膜に類似した病変が認められる疾患である。子宮内膜症と組織学的類似性を有する疾患であるが、子宮内膜症とは発生機序や臨床像が異なるため、別疾患として取り扱われている。40歳代に発症年齢のピークがあり、月経困難症、下腹部痛、腰痛、不妊、過多月経などが認められる。典型的な臨床症状は月経時の疼痛であり、日常生活を障害するほど強い疼痛を訴える患者も多い。子宮腺筋症患者は、子宮内膜症や子宮筋腫を合併することもある。
【0005】
子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療方法には手術療法と薬物療法があるが、これらはいずれも対症療法であり、根本的な治療方法は存在しない。手術療法を選択した場合でも、妊孕性温存のために根治を果たせず、再発防止のために術後の薬物療法を併用することが多い。薬物療法としては、低用量ピル、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)アゴニスト(リュープリンなど)、男性ホルモン類(ダナゾールなど)及び黄体ホルモン類(ジェノゲストなど)が挙げられる。しかしながら、いずれもホルモンバランスに影響を及ぼすが故の副作用がある。すなわち、ジェノゲストは妊娠ラットへの投与により胚死亡率を増加させることが知られている。このため、いずれの薬剤も、妊婦の使用が禁忌となっている。また、多くの薬物において擬閉経や擬妊娠の症状を伴うことから、不妊やホットフラッシュ、骨粗鬆症などの更年期障害様の副作用がある。したがって、安全性が高く、妊娠に影響しないような子宮内膜症又は子宮腺筋症の予防剤、又は治療剤の登場が期待されている。
【0006】
インターロイキン-33(IL-33)は、炎症性状態において役割を果たすと考えられているインターロイキン-1ファミリーに属するサイトカインである。IL-33は、上皮細胞や血管内皮細胞の核内で恒常的に発現しており、感染や物理的・化学的ストレスによる組織傷害によって細胞破壊と共に放出され、アラーミンとして機能する。また、IL-33の発現はリポ多糖等の刺激によって上昇し、分泌される機構もあると考えられている。細胞外に放出されたIL-33は、細胞上に発現するIL-33受容体に結合することによって、細胞内シグナルを活性化することができる。IL-33受容体は、様々な免疫系細胞や上皮細胞などで発現しており、これらの細胞において、IL-33誘導性の細胞内シグナル伝達が生じる。
【0007】
IL-33は、IL-33受容体を発現する免疫系細胞の内、Th2細胞、マスト細胞、好酸球、好塩基球、NK(natural killer)T細胞やグループ2自然リンパ球からのTh2サイトカイン(IL-4、IL-5、IL-6、IL-13等)の産生を誘導することによって、アレルギー性炎症(喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症、アナフィラキシーショックなど)を誘導すると考えられている(非特許文献1:Tatsukuni Ohno et al., Allergy, 2012, Vol. 67, p1203)。近年、IL-33アンタゴニストである抗IL-33抗体や抗IL-33受容体抗体が喘息やアトピー性皮膚炎、ピーナッツアレルギーを適応症として臨床試験がすすめられている。
【0008】
子宮内膜症患者の血清や腹水を解析することにより、IL-33が子宮内膜症の腹水などで病態(ステージ)の進行とともに増加し、サロゲートマーカーとして使用できることがMbarikらにより報告されている(非特許文献2:Maroua Mbarik et al., Immunolo.Lett. 2015, Vol.166, p1)。Mbarikらの報告によると、IL-33のアンタゴニストとして機能する可溶性IL-33受容体(sST2)の腹水中の濃度がIL-33の約100倍の濃度であり、IL-33と同様に子宮内膜症の進行とともに増加している。従って、子宮内膜症において発現が増加したIL-33が疾患の原因であるのか、又は結果であるのか、及びどのように病態に対して機能しているのかは依然として不明であった。
【0009】
IL-33アンタゴニストを、局所線維症の治療に用いることが報告されている(特許文献1:国際公開第2016/140921号)。特許文献1は、局所線維症の一症例として、子宮内膜症について言及するものの、その実施例において、子宮内膜症の治療効果は調べられていない。特許文献1は、単に線維症の一態様として列挙されているに過ぎず、子宮内膜症等におけるIL-33の役割については見いだされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2016/140921号
【特許文献2】国際公開第2014/164959号
【特許文献3】国際公開第2015/099175号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Tatsukuni Ohno et al., Allergy, 2012, Vol. 67, p1203
【非特許文献2】Maroua Mbarik et al., Immunolo.Lett. 2015, Vol.166, p1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
子宮内膜症又は子宮腺筋症を治療するための安全性が高く、妊娠に影響しないような薬剤が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、IL-33が子宮内膜症又は子宮腺筋症の悪化因子であることを特定した。また、本発明者らは、IL-33の作用を阻害することができるIL-33アンタゴニストが、子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療、予防、又は軽減に有用であることを見出し、本発明に至った。
【0014】
そこで、本発明は、以下のものに関する:
【0015】
[1] IL-33アンタゴニストを有効成分とする子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療剤。
[2] 子宮内膜症又は子宮腺筋症の痛みを緩和する、項目1に記載の治療剤。
[3] 子宮内膜症又は子宮腺筋症における異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)の成長を抑制する、項目1又は2に記載の治療剤。
[4] 子宮内膜症又は子宮腺筋症の異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)での血管新生を抑制する、項目1~3のいずれか一項に記載の治療剤。
[5] 異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)での線維化又は増殖を抑制する、項目1~4のいずれか一項に記載の子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療剤。
[6] 子宮内膜症における異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)の諸臓器との癒着を抑制する、項目1~5に記載の治療剤。
[7] IL-33アンタゴニストが、抗IL-33抗体、抗IL-33受容体抗体又は可溶性IL-33受容体である項目1~6のいずれか一項に記載の子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療剤。
[8] 抗IL-33抗体が、A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04、又はA26-1F02である、項目7に記載の子宮内膜症又は子宮腺筋症治療剤。
[9] 可溶性IL-33受容体が、sST2-Fcである項目7に記載の子宮内膜症又は子宮腺筋症治療剤。
[10] IL-33アンタゴニストを投与することを含む、子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療方法。
[11] 子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療剤の製造において使用するための、IL-33アンタゴニストの使用。
[12] 子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療において使用する、IL-33アンタゴニスト。
[13] 子宮内膜症又は子宮腺筋症の痛みを緩和する、項目10~12のいずれか一項に記載の治療方法、使用、又はIL-33アンタゴニスト。
[14] 子宮内膜症又は子宮腺筋症における異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)の成長を抑制する、項目10~12のいずれか一項に記載の治療方法、使用、又はIL-33アンタゴニスト。
[15] 子宮内膜症又は子宮腺筋症の異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)での血管新生を抑制する、項目10~12のいずれか一項に記載の治療方法、使用、又はIL-33アンタゴニスト。
[16] 異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)での線維化又は増殖を抑制する、項目10~12のいずれか一項に記載の治療方法、使用、又はIL-33アンタゴニスト。
[17] IL-33アンタゴニストが、抗IL-33抗体、抗IL-33受容体抗体又は可溶性IL-33受容体である、項目10~16のいずれか一項に記載の治療方法、使用、又はIL-33アンタゴニスト。
【発明の効果】
【0016】
本発明の子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療剤は、子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療効果を有する。また、本発明の子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療剤は、子宮内膜症又は子宮腺筋症に伴う、痛みの緩和、異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)の成長の抑制、異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)での血管新生の抑制、及び異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)での線維化又は増殖の抑制からなる群から選ばれる少なくとも1の作用を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は子宮内膜症モデルにおけるIL-33遺伝子ノックアウトマウス(IL-33KO)は、ワイルドタイプの対照マウス(control)に比較して異所性の子宮内膜組織である嚢胞病変の成長が抑制されることを示すグラフである。
【
図2】
図2は、子宮内膜症モデルにおけるIL-33投与マウス(IL-33 ip)は、対照マウス(control)に比較して異所性の子宮内膜組織である嚢胞病変の成長を促進することを示すグラフである。
【
図3】
図3は、子宮内膜症モデルにおけるIL-33アンタゴニスト投与マウス(sST2-Fc)は、対照マウス(cont Fc)に比較して異所性の子宮内膜組織である嚢胞病変の成長が抑制されていることを示すグラフである。
【
図4】
図4は、子宮内膜症モデルにおけるIL-33アンタゴニスト投与マウス(sST2-Fc)は、対照マウス(cont Fc)に比較して異所性の子宮内膜組織である嚢胞病変の線維化が抑制されていることを示すアザン染色像である。
【
図5】
図5は、IL-33投与子宮内膜症モデルにおいて抗IL-33抗体(Anti-IL-33)投与により、対照抗体(Control Ab)と比較して嚢胞病変の成長が抑制されていることを示すグラフである。
【
図6】
図6は、IL-33投与子宮内膜症モデルにおいて抗IL-33抗体(Anti-IL-33 Ab)投与により、対照抗体(Control Ab)と比較して嚢胞病変での細胞増殖(Ki-67陽性細胞の割合)が抑制されていることを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の理解を容易にするため、以下に本発明に用いられる用語を説明する。
【0019】
[IL-33]
IL-33はIL-1ファミリーに属するサイトカインであり、ヒトIL-33は配列表の配列番号1に示すように270アミノ酸からなり、そのmRNAの配列を配列番号2に示す。IL-33は、N末端側にクロマチン結合ドメインを有し、C末端側に12個のβストランドを持つ分子量18kDaのIL-1様サイトカインドメインを有しており、さらに95位及び109位にカテプシンG切断部位、99位にエラスタラーゼ切断部位及び178位にカスパーゼ切断部位を有している。IL-33は、細胞がネクローシスを起こす過程で、リソゾーム等に由来するエラスタラーゼ、カテプシンG、又はプロテイナーゼ3などの酵素により切断されて成熟型IL-33、例えばIL-33(残基95から残基270)(配列表の配列番号1のN末から95位から270位のアミノ酸配列で表されるIL-33を「IL-33(残基95から残基270)」と表記する。以下同様に表記する)、IL-33(残基99から270)、IL-33(残基109から残基270)、IL-33(残基112から残基270位)などを含むさまざまな断片となり、サイトカインとして機能すると考えられている。一方で、細胞死がアポトーシスである場合、アポトーシスの過程で活性化されるカスパーゼにより、IL-33は、178位で切断されて、不活性型IL-33、例えばIL-33(残基179から残基270)になると考えられている。
【0020】
IL-33は、サイトカインとして細胞外に放出されると、IL-33受容体と結合し、当該IL-33受容体を発現する細胞において、細胞内シグナル伝達を開始させるという機能を有する。IL-33により誘導されるシグナル伝達には、非限定的に、NF-κB経路と、MAPKKs経路とがあり、最終的に各種のサイトカインやケモカイン、炎症性メディエータの産生を惹起する。IL-33により誘導されるサイトカインの例として、TNF-α、IL-1β、IFN-γ、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-13などが挙げられる。IL-33により誘導されるケモカインの例としてCXCL2、CCL2、CCL3、CCL6、CCL17、CCL24などが挙げられる。IL-33により誘導される炎症性メディエータの例としてPGD2、LTB4などが挙げられる。IL-33により誘導されるサイトカインやケモカイン、炎症性メディエータは、免疫系細胞の遊走、サイトカイン産生、脱顆粒に関与し炎症を惹起する。本発明では、IL-33は、後述するIL-33受容体に結合して作用するものであれば、全長IL-33又はその活性型断片のいずれかを指してもよいし、それらの誘導体又は変異体であってもよい。また、本発明のIL-33は、ヒトIL-33でも他の生物由来のIL-33でもよい。本発明のIL-33は、中でも配列表の配列番号1のアミノ酸配列で表されるヒトIL-33が好ましい。
【0021】
IL-33が結合するIL-33受容体は、ST2とIL-1RAcP(IL-1 receptor accessory protein)とのヘテロ二量体から構成される。IL-33受容体において、IL-33を特異的に認識して結合する部位は、ST2の細胞外領域に存在する。IL-33の受容体は、様々な免疫系細胞(Th2細胞、マスト細胞、好酸球、好塩基球、マクロファージ、樹状細胞、NK細胞、NKT細胞、グループ2自然リンパ球(ナチュラルヘルパー細胞)、nuocyte、Ih2(innate helper type 2)細胞など)や上皮細胞などで発現しているが、これらの細胞に限定されない。
【0022】
[IL-33アンタゴニスト]
本願において「アンタゴニスト」とは目的の標的又はそのリガンドもしくはその受容体又はそれらの遺伝子(mRNAを含む)に対し直接的に作用し、その機能の中和作用を有する物質の総称を意味する。したがって、アンタゴニストには、単に標的の機能を直接中和する作用を有する物質の他に、標的のタンパク質と相互作用する物質の機能の中和や、標的のタンパク質の遺伝子発現を抑制することで、間接的に標的の機能を中和する作用を有する物質も含まれるものとする。すなわち、「IL-33アンタゴニスト」は、IL-33に結合して、IL-33のいずれかの機能を阻害することができる物質であってもよいし、IL-33受容体に結合し、IL-33の機能を阻害することが出来る物質であってもよい。さらに、IL-33やIL-33受容体の遺伝子発現を抑制するアンチセンス及びsiRNAもIL-33アンタゴニストに含まれる。IL-33アンタゴニストとして、例えば抗IL-33抗体、抗IL-33受容体抗体、可溶性IL-33受容体、及びIL-33やIL-33受容体に対するアプタマーなどが挙げられるが、これらのものに限定されることを意図するものではない。抗IL-33抗体及び抗IL-33受容体抗体、ならびにIL-33及びIL-33受容体に結合するアプタマーは、それぞれ標的分子であるIL-33及びIL-33受容体に結合することで、IL-33と、IL-33受容体との間の会合を妨げることができる。一方、可溶性IL-33受容体は、遊離しているIL-33と結合することで、IL-33と、細胞表面上のIL-33受容体との会合を妨げることができる。
【0023】
[IL-33受容体]
IL-33の受容体のサブユニットをコードするST2遺伝子は、膜貫通型(ST2L)タンパク質をコードするが、選択的スプライシングにより膜貫通領域及び細胞内領域を欠く分泌型タンパク質もコードする。ヒトST2Lの全長アミノ酸配列は、配列表の配列番号3で表される。このうち、ST2Lと、他のIL-33受容体サブユニット、例えばIL-1RAcPとが会合することで形成されるIL-33受容体(ヘテロダイマー)に、IL-33が結合することで細胞内シグナル伝達系が活性化される。IL-33はST2Lの細胞外領域に結合する。したがって、ST2Lを、単にIL-33受容体ということもある。
【0024】
[可溶性IL-33受容体]
本発明において可溶性IL-33受容体は、ST2Lタンパク質の細胞外領域(配列表の配列番号3の残基19から残基328)の一部又は全部を含むタンパク質であり、かつIL-33と結合することによりIL-33アンタゴニストとして機能するものであればよい。可溶性IL-33受容体は、任意に修飾されていてもよく、例えばポリエチレングリコールや抗体の定常領域が結合したものでもよい。特に、免疫グロブリンの定常領域が結合した可溶性IL-33受容体をsST2-Fcと呼ぶものとする。好ましいsST2-Fcとしては、ヒトST2Lタンパク質の細胞外領域及びヒトIgG抗体の定常領域の融合タンパク質である、配列表の配列番号5で表される融合タンパク質があげられる。
【0025】
[抗体]
本発明において「抗体」という語は、最も広い意味で使用するものとし、所望の特異的結合性が示される限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体が含まれるものとする。本発明における抗体は、マウス抗体、ヒト抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体、ラクダ抗体など、任意の動物由来の抗体であってもよい。
【0026】
[モノクローナル抗体]
本発明の抗体のうちモノクローナル抗体は、設計上のアミノ酸配列において単一クローン(単一分子種)のみからなる抗体集団の抗体のことをいう。モノクローナル抗体には、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、マルチスペシフィック抗体、及び人工抗体、並びにそれらの機能改変抗体、並びにそれらのコンジュゲート抗体、並びにそれらのフラグメントが含まれるものとする。本発明のモノクローナル抗体はハイブリドーマ法、ファージディスプレイ法、及び遺伝子工学的手法など、任意の公知の手法を用いて生成することができる。
【0027】
[キメラ抗体]
キメラ抗体とは、軽鎖、重鎖、又はその両方が、非ヒト由来の免疫グロブリンの可変領域と、ヒト由来の免疫グロブリンの定常領域から構成される抗体をいう。
【0028】
[ヒト化抗体]
ヒト化抗体は、非ヒト由来免疫グロブリンの相補性決定領域と、ヒト免疫グロブリン由来のフレームワーク領域とからなる可変領域並びにヒト免疫グロブリン由来の定常領域からなる抗体をいう。
【0029】
[ヒト抗体]
ヒト抗体とは、軽鎖、重鎖ともにヒト免疫グロブリン由来の抗体をいう。ヒト抗体は、重鎖の定常領域の違いにより、γ鎖の重鎖を有するIgG(IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含む)、μ鎖の重鎖を有するIgM、α鎖の重鎖を有するIgA(IgA1、IgA2を含む)、δ鎖の重鎖を有するIgD、又はε鎖の重鎖を有するIgEを含む。また原則として軽鎖は、κ鎖とλ鎖のどちらか一方を含む。
【0030】
[マルチスペシフィック抗体]
マルチスペシフィック抗体とは、2つ以上の異なる抗原特異性を有する2つ以上の独立した抗原認識部位を持ち合わせた非対称となりうる抗体であり、2つの抗原特異性を有するバイスペシフィック抗体、3つの抗原特異性を有するトリスペシフィック抗体などが挙げられる。本発明のマルチスペシフィック抗体が認識する1つ以上の抗原はIL-33分子又はIL-33受容体分子である。
【0031】
[人工抗体]
人工抗体とは、例えばタンパク質スキャフォールドであり、免疫グロブリンの構造を有しないものの、免疫グロブリンと同様の機能を有する人工抗体である。タンパク質スキャフォールドとしてはヒトのセリンプロテアーゼ阻害剤のKunitzドメインやヒトのファイブロネクチンの細胞外ドメイン、アンキリン、リポカリンなどが利用され、スキャフォールド上の標的結合部位の配列を改変すれば本発明のエピトープに結合するタンパク質スキャフォールドを生成することができる(Clifford Mintz et.al BioProcess International, 2013, Vol.11(2), pp40-48)。
【0032】
[機能改変抗体]
本願において機能改変抗体とは、免疫グロブリンの主に定常領域のアミノ酸や糖鎖を改変することにより、抗体の有する抗原結合機能以外の細胞殺傷機能、補体活性化機能や血中半減期等を調節した抗体をいう。
【0033】
[コンジュゲート抗体]
本願においてコンジュゲート抗体とは、抗体にポリエチレングリコール(PEG)等の非ペプチド性ポリマー、放射性物質、毒素、低分子化合物、サイトカイン、アルブミン、酵素などの抗体以外の機能分子を化学的又は遺伝子工学的に結合した抗体をいう。
【0034】
[フラグメント]
本願において抗体のフラグメントとは、抗体の一部分を含むタンパク質であり、抗原に結合できるものをいう。抗体のフラグメントの例としては、Fabフラグメント、Fvフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fab’フラグメント、又はscFvが挙げられる。
さらにこれらの抗体のフラグメントは、ポリエチレングリコール(PEG)等の非ペプチド性ポリマー、放射性物質、毒素、低分子化合物、サイトカイン、アルブミン、酵素などの抗体以外の機能分子を化学的又は遺伝子工学的に結合していてもよい。
【0035】
[ヒトモノクローナル抗体]
ヒトモノクローナル抗体は、ヒトの生殖系列の免疫グロブリンの配列に由来する可変領域及び定常領域を有するモノクローナル抗体をいう。ヒト抗体遺伝子を導入したトランスジェニックマウス由来のモノクローナル抗体や、ヒト抗体遺伝子ライブラリーに由来する抗体も含まれる。
【0036】
[中和]
本願において「中和」とは、その標的のいずれかの機能を阻害することができる作用のことをいう。IL-33の機能(生物学的活性)の阻害としては、IL-6などのIL-33誘導性サイトカインの産生の阻害を含むが、これに限定されない。IL-33の生物学的活性の指標は、当分野において知られたいくつかのin vitro又はin vivo分析の1つ又はそれ以上によって評価することができる。
【0037】
[相補性決定領域]
相補性決定領域とは免疫グロブリン分子の可変領域のうち、抗原結合部位を形成する領域をいい、超可変領域とも呼ばれ、免疫グロブリン分子ごとに特にアミノ酸配列の変化が大きい部分をいう。相補性決定領域には軽鎖、重鎖それぞれに3つの相補性決定領域(相補性決定領域1、相補性決定領域2及び相補性決定領域3)がある。本願では、免疫グロブリン分子の相補性決定領域はカバット(Kabat)の番号付けシステム(Kabatら, 1987, Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Department of Health and Human Services, NIH, USA)に従って決定される。
【0038】
[アプタマー]
アプタマーとは、特定の物質と特異的に結合する核酸分子のことであり、本願においてアプタマーとは、IL-33やIL-33受容体に結合してアンタゴニストとして機能する分子を意味する。本願におけるアプタマーは天然の核酸分子以外に人工的な核酸分子を含んでもよい。
【0039】
[アンチセンス]
アンチセンスとは、標的遺伝子RNAにハイブリダイズすることのできるアンチセンス核酸(RNAもしくはDNA)であり、遺伝子機能発現を抑制する機能を有するものである。本願においてアンチセンスとは、IL-33やIL-33受容体のmRNAに結合して遺伝子の発現を抑制するアンタゴニストとして機能する分子を意味する。本願におけるアンチセンスは天然の核酸分子以外に人工的な核酸分子を含んでもよい。
【0040】
[siRNA]
siRNA(small interfering RNA)とは15-30塩基対から成る低分子二本鎖RNAである。 siRNAはRNA干渉と呼ばれる現象に関与しており、標的遺伝子のmRNAの破壊によって配列特異的に遺伝子の発現を抑制する。本願においてsiRNAとは、IL-33やIL-33受容体のmRNAを破壊して遺伝子の発現を抑制するアンタゴニストとして機能する分子を意味する。本願におけるsiRNAは天然の核酸分子以外に人工的な核酸分子を含んでもよい。
【0041】
[子宮内膜症]
子宮内膜症は子宮腔から離れた部位で(異所性に)子宮内膜組織が増殖する良性(非癌性)の疾患であり、離れた部位としては卵巣、腹腔、腹膜、ダクラス窩、S状結腸、直腸、仙骨子宮靱帯、腟、外陰部、膀胱、腹壁、へそなどがある。異所性の子宮内膜組織は諸臓器と癒着が起こることがある。卵巣にできた子宮内膜組織の血腫はチョコレート嚢胞と呼ばれることがある。子宮内膜症の確定診断としては腹腔鏡検査があり、直接異所性の子宮内膜組織を観察する。子宮内膜症の臨床進行期の分類としてはRe-ASRM分類があり、病巣部位、表在性か深在性か、あるいは諸臓器との癒着度合によりスコア化され第1期から第4期までとされる。子宮内膜症の経過観察としてBeecham分類があり、病態の進行に応じて第1期から第4期までとされる。
【0042】
[子宮腺筋症]
子宮腺筋症は子宮内膜組織が子宮の筋層内に認められる疾患であり、MRIの診断により子宮の一部に限定される部分性子宮腺筋症、子宮全体にひろがる全周性子宮腺筋症に分類される。
【0043】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されない。
【0044】
本発明は、IL-33アンタゴニストを有効成分とする子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療剤に関する。治療剤は、子宮内膜症又は子宮腺筋症を患う患者に対し投与されることで、根治、症状を軽減、又は悪化を予防しうる。IL-33アンタゴニストとしては、抗IL-33抗体、抗IL-33受容体抗体、IL-33受容体結合アプタマー又は可溶性IL-33受容体を挙げることができる。
【0045】
別の態様では、本発明はIL-33アンタゴニストを含有する、子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療用、予防用、又は軽減用の医薬組成物に関する。また、さらに別の態様では、本発明は、IL-33アンタゴニストを投与することを含む、子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療、予防又は軽減方法に関する。また、子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療、予防又は軽減用医薬の製造のための本発明のIL-33アンタゴニストの使用に関する。また、子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療、予防又は軽減において使用するためのIL-33アンタゴニストにも関する。
【0046】
子宮内膜症は、子宮内膜組織が、子宮内膜以外の場所で生育してしまう疾患である。子宮の筋層内に子宮内膜組織が存在するものを子宮腺筋症という。これら異所性の子宮内膜組織は、子宮の内膜と同様に、月経周期に併せて発育と出血を繰り返すが、経血のように出口がないことから血腫を形成することもある。こうして形成された血腫をチョコレート嚢胞という。嚢胞が形成した結果、組織が線維化して癒着や硬結を形成しうる。異所性の子宮内膜組織が諸臓器(腹膜、腸、卵巣など)に癒着してしまうと、痛みの原因となる。また、卵管が癒着してしまうと不妊の原因となる。子宮内膜症に対して、通常ホルモン療法や外科的手術による切除が行われる。子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療、軽減、予防により、子宮内膜症又は子宮腺筋症に伴う痛みの緩和、異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)の成長の抑制、異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)での血管新生の抑制、異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)の諸臓器との癒着の抑制及び異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)の線維化又は細胞増殖の抑制からなる群から選ばれる少なくとも1の作用を発揮する。
【0047】
子宮内膜症及び子宮腺筋症を患う患者は、月経周期の変動に伴い、経血量の増加、月経痛が強くなるなどの症状を有する。したがって月経周期の変動に伴う症状変化を有する対象や、月経周期の変動に伴う愁訴を訴える対象に対し、IL-33アンタゴニストを含む治療剤、又は治療、予防、又は軽減用の医薬組成物が投与されうる。このような対象は、単に局所線維症を有する対象と区別しうる。
【0048】
本発明の別の態様では、本発明は、IL-33アンタゴニストを有効成分して含有する子宮内膜症又は子宮腺筋症に伴う痛みの緩和剤、IL-33アンタゴニストを有効成分して含有する子宮内膜症における異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)の諸臓器との癒着の抑制剤、IL-33アンタゴニストを有効成分して含有する子宮内膜症又は子宮腺筋症における異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)の成長の抑制剤、IL-33アンタゴニストを有効成分して含有する子宮内膜症又は子宮腺筋症の異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)における血管新生抑制剤、IL-33アンタゴニストを有効成分して含有する子宮内膜症又は子宮腺筋症の異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)における子宮内膜ストローマ細胞の線維化抑制剤、IL-33アンタゴニストを有効成分して含有する子宮内膜症又は子宮腺筋症の異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)における細胞増殖抑制剤、IL-33アンタゴニストを有効成分して含有する表在性子宮内膜症治療剤、IL-33アンタゴニストを有効成分して含有する深在性子宮内膜症治療剤、IL-33アンタゴニストを有効成分して含有する部分性子宮腺筋症治療剤、又はIL-33アンタゴニストを有効成分して含有する全周性子宮腺筋症治療剤にも関する。
【0049】
本発明のIL-33アンタゴニストは、子宮内膜症又は子宮腺筋症患者の月経時の腰痛、下腹部痛もしくは排便痛または月経時以外の腰痛、下腹部痛もしくは排便痛を緩和することが好ましく、当該痛みをなくすことがより好ましい。
【0050】
本発明のIL-33アンタゴニストは、子宮内膜症患者の骨盤、卵巣、腹腔、腹膜、ダクラス窩、S状結腸、直腸、仙骨子宮靱帯、腟、外陰部、膀胱、腹壁及び/又はへそにおける痛みを緩和することが好ましく、当該痛みをなくすことがより好ましい。
【0051】
本発明のIL-33アンタゴニストの痛みを緩和することは、例えば痛みにともなうQOLをスコア化したBiberogluとBehrmanスケール(Biberoglu KO, Behrman SJ, Am J Obstet Gynecol.,139:645(1981))で評価することができる。このスケールでは月経時以外の骨盤痛、月経困難性疼痛、及び性交痛などが自覚症状として評価される。
【0052】
本発明のIL-33アンタゴニストの痛みを緩和することは、鎮痛剤の服用の回数や量が減ることで評価することができる。鎮痛剤としては、非ステロイド系の消炎鎮痛剤が好ましく、例えばロキソプロフェンナトリウム水和物やジクロフェナクナトリウム、アスピリンがあげられる。
【0053】
本発明のIL-33アンタゴニストは、子宮内膜症患者の骨盤、卵巣、腹腔、腹膜、ダクラス窩、S状結腸、直腸、仙骨子宮靱帯、腟、外陰部、膀胱、腹壁及び/又はへそにおける異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)の癒着を抑制することが好ましく、当該癒着をなくすことがより好ましい。本発明のIL-33アンタゴニストは子宮の癒着を抑制し、子宮可動性の制限が緩和させられることが好ましい。
【0054】
本発明のIL-33アンタゴニストは、子宮内膜症患者の骨盤、卵巣、腹腔、腹膜、ダクラス窩、S状結腸、直腸、仙骨子宮靱帯、腟、外陰部、膀胱、腹壁及び/又はへそにおける異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)の成長を抑制することが好ましく、当該異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)を縮小させることがより好ましい。
【0055】
本発明のIL-33アンタゴニストは、子宮内膜症患者の骨盤、卵巣、腹腔、腹膜、ダクラス窩、S状結腸、直腸、仙骨子宮靱帯、腟、外陰部、膀胱、腹壁及び/又はへそにおける異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)での血管新生を抑制することが好ましい。
【0056】
本発明のIL-33アンタゴニストは、子宮内膜症患者の骨盤、卵巣、腹腔、腹膜、ダクラス窩、S状結腸、直腸、仙骨子宮靱帯、腟、外陰部、膀胱、腹壁及び/又はへそにおける異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)での線維化又は細胞増殖を抑制することが好ましい。
【0057】
本発明のIL-33アンタゴニストは、子宮内膜症患者の骨盤、卵巣、腹腔、腹膜、ダクラス窩、S状結腸、直腸、仙骨子宮靱帯、腟、外陰部、膀胱、腹壁及び/又はへそにおける異所性の子宮内膜組織(嚢胞を含む)でのサイトカイン及び/又はメディエータ―の産生を抑制を抑制することが好ましく、IL-6、TNF-α、IL-8及び/又はプロスタグランジンの産生を抑制することがより好ましい。
【0058】
本発明のIL-33アンタゴニストはBeecham分類での診察により、第1期、第2期、第3期及び/又は第4期の子宮内膜症の患者を治療することが好ましく、Re-ASRM分類でのスコアの評価により、第1期、第2期、第3期及び/又は第4期の子宮内膜症の患者を治療することが好ましい。
【0059】
本発明のIL-33アンタゴニストは子宮内膜症にともなうQOLの改善できることが好ましい。QOLの改善は例えば、Endometriosis Health Profile-30(EHP-30) (Jones Gら、Obstet Gynecol;98:258(2001))、EQ-5D(Brooks, Rら、Health Policy,37:53(1997))またはEndometriosis Treatment Satisfaction Questionnaire(ETSQ)(Deal LSら、 Qual Life Res.;19(6):899(20101))での問診により評価することができる。QOLの改善としては、例えば直立困難、着座困難、歩行困難、食欲、睡眠困難、フラストレーション、憂鬱、涙もろさ、悲哀感、躁鬱、短気、乱暴、孤独感、自信喪失、性交困難を改善することがあげられる。
【0060】
IL-33アンタゴニストを用いた子宮内膜症や子宮腺筋症の治療剤は一般的に使用されるホルモン調節剤の薬物療法と異なり、不妊や更年期障害様の副作用が緩和されている。従って、本発明のIL-33アンタゴニストは、妊娠可能な状態を維持し、妊娠時の胎児毒性がない子宮内膜症又は子宮腺筋症治療剤であることが好ましく、更年期障害様の副作用をともなわない子宮内膜症又は子宮腺筋症治療剤であることが好ましい。更年期障害様の副作用としては、例えば不妊やホットフラッシュ、骨粗鬆症、うつ状態などがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
抗IL-33抗体及び抗IL-33受容体抗体には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体が含まれるものとする。本発明における抗体は、マウス抗体、ヒト抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体、ラクダ抗体など、任意の動物由来の抗体であってもよい。好ましくは、本発明の抗IL-33抗体及び抗IL-33受容体抗体は、モノクローナル抗体であり、より好ましくは、本発明の抗IL-33抗体及び抗IL-33受容体抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体であるモノクローナル抗体である。
【0062】
本発明の抗IL-33抗体、抗IL-33受容体抗体は、本技術分野に既知の任意の方法により取得することができる。モノクローナル抗体に関する場合、ハイブリドーマ法、ファージディスプレイ法、及び遺伝子工学的手法などのうち、任意の手法を用いて取得することができる。
【0063】
ハイブリドーマ法では、免疫原を用いて免疫した動物、特にラット又はマウスの脾臓又はリンパ節から採取したB細胞と、不死化細胞、例えばミエローマ細胞とを融合させてハイブリドーマを作成し、所望の結合性を有する抗体を生成するハイブリドーマをスクリーニングし、スクリーニングされたハイブリドーマを用いて生成することができる。また、ヒトの抗体遺伝子を導入したマウスを使用することによりヒト抗体を取得することができる。ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法にしたがい培養し、その培養上清として得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。モノクローナル抗体を作製する技術は、公知の技術を用いればよく、例えばCurrent Protocols in Immunology, Wiley and Sons Inc.のChapter 2の記載に従うことで生成することができる。
【0064】
ファージディスプレイ法では、任意のファージ抗体ライブラリより選別したファージを、目的の抗原(本願ではIL-33又はIL-33受容体)を用いてスクリーニングを行い、抗原に対する所望の結合性を有するファージを選択する。次に、ファージ内に含まれる抗体対応配列を単離又は配列決定し、単離された配列又は決定された配列情報に基づき、モノクローナル抗体をコードする核酸分子を含む発現ベクターを構築する。そしてかかる発現ベクターをトランスフェクションされた細胞株を培養することにより、モノクローナル抗体を産生させることができる。ファージ抗体ライブラリとして、ヒト抗体ライブラリを用いることにより、所望の結合性を有するヒト抗体を生成することができる。
【0065】
遺伝子工学的手法では、抗体をコードする遺伝子配列において、相補性決定領域(CDR)に対応する配列、又はその他の配列に変異を導入して、かかる配列を発現ベクターに組み込み、これを宿主細胞に形質転換し、抗原との親和性を高めた、及び/又は機能を改変した抗体を作製することができる(例えば、Borrebaeck C. A. K. and Larrick J. W. THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in theUnited Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990参照)。
【0066】
本発明では、ヒトに対する異種抗原性を低下させたり、別の機能を付加すること等を目的として、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、マルチスペシフィック抗体、人工抗体も使用することができるし、これらの抗体は、遺伝子工学的手法などの既知の方法を用いて製造することができる。
【0067】
キメラ抗体は、非ヒト免疫グロブリンの可変領域をコードするDNAを、ヒト免疫グロブリンの定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる(EP 125023、国際公開第92/19759号参照)。この既知の方法を用いて、本発明に有用なキメラ抗体を得ることができる。
【0068】
ヒト化抗体は、非ヒト免疫グロブリン由来の相補性決定領域(CDR)と、その他の部分のヒト免疫グロブリンの領域をコードするDNAを連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる。
【0069】
ヒト抗体は、例えば、以下に提供される実施例に記載の手順を使用して調製される。またヒト抗体は、トリオーマ技術、ヒトB-細胞ハイブリドーマ技術(Kozborら, 1983 Immunol Today 4: p72)及びヒトモノクローナル抗体を生成するためのEBVハイブリドーマ技術(Coleら, 1985, MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY, Alan R. Liss, Inc., p. 77)等を使用し、調製することもできる。さらに、ヒト抗体遺伝子を導入したトランスジェニックマウスに抗原タンパク質(本願ではIL-33又はIL-33受容体)を免疫し、ハイブリドーマを作製することにより、ヒト抗体を生成することもできる。トランスジェニックマウスとしては、HuMab(登録商標)マウス(Medarex)、KMTMマウス (Kirin Pharma)、KM(FCγRIIb-KO)マウス、VelocImmuneマウス(Regeneron)等が挙げられる。
【0070】
マルチスペシフィック抗体は、2種類以上のモノクローナル抗体の抗原結合領域を利用して、遺伝子工学的な手法により作製することができる。該遺伝子工学的な手法はこの分野において既に確立されている。例えば、2種類のモノクローナル抗体の抗原結合領域を直列に連結したDVD-Ig(Wuら、Nature Biotechnology 25(11), 1290(2007))の技術や、免疫グロブリンの定常領域を改変することにより、異なった抗原に結合する2種類の抗体の重鎖が組み合わされるART-Igの技術(Kitazawaら、Nature Medicine 18(10), 1570(2012))を利用すれば所望のバイスペシフィック抗体が取得できる。
【0071】
人工抗体としては、例えばヒトファイブロネクチンタイプIIIドメインの10番目のユニット(FNfn10)が利用でき、該ユニットのBC、DE、及び/又はFGループに変異をいれることにより所望の標的に結合する人工抗体が取得できる。人工抗体としては、ファイブロネクチンの細胞外ドメイン以外に、セリンプロテアーゼ阻害剤のKunitzドメインやアンキリン、リポカリンなどのペプチドが利用できる。これらの人工抗体は該ペプチドをコードする核酸分子を含むベクターを大腸菌や酵母又は動物細胞等に導入し、該宿主細胞を培養した培養上清から精製することにより、遺伝子工学的に製造することができる(特許文献4、Clifford Mintz et.al BioProcess International, 2013, Vol.11(2), pp40-48)。
【0072】
人工抗体としては、上記のような特定のタンパク質、又はその一部のアミノ酸配列を利用するのではなく、アミノ酸をランダムに組み合わせたランダム配列ライブラリから、抗体のように本発明のエピトープに特異的に結合する低分子ペプチド分子として探索することもできる(例えば、Hipolito et al., Current Opinion in Chemical Biology, 2012 Vol 16: 196, Yamagishi et al., Chemistry & Biology, 2011 Vol 18: 1562)。このようなペプチドは、遺伝子工学的な方法以外に、フルオレニルメチルオキシ力ルボニル法、tーブチルオキシ力ルボニル法などの化学合成法によって製造することもできる。
【0073】
本発明に使用するモノクローナル抗体は、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)等の非ペプチド性ポリマー、放射性物質、トキシン等の各種分子と結合したコンジュゲート抗体でもよい。このようなコンジュゲート抗体は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、化学的修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。本発明におけるモノクローナル抗体にはこれらのコンジュゲート抗体も包含される(D.J.King., Applications and Engineering of Monoclonal antibodies., 1998 T.J. International Ltd, Monoclonal Antibody-Based Therapy of Cancer., 1998 Marcel Dekker Inc; Chari et al., Cancer Res., 1992 Vol152:127; Liu et al., Proc Natl Acad Sci USA., 1996 Vol 93:8681, )。
【0074】
本発明では、上記のような全抗体とは別に、抗原結合性を有し、アンタゴニスト活性を発揮する限り、モノクローナル抗体のフラグメントやその修飾物であってよい。例えば、抗体のフラグメントとしては、Fabフラグメント、Fvフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fab’フラグメント、又はH鎖とL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)が挙げられる。さらにこれらの抗体のフラグメントは、ポリエチレングリコール(PEG)等の非ペプチド性ポリマー、放射性物質、毒素、低分子化合物、サイトカイン、アルブミン、酵素などの抗体以外の機能分子を化学的又は遺伝子工学的に結合していてもよい。
【0075】
モノクローナル抗体製造のための産生系は、本技術分野に周知であり、目的製剤の品質に応じて適宜選択することができる。一例として、in vitro又はin vivoの産生系のいずれかを利用することができる。in vitroの産生系としては、真核細胞、例えば動物細胞、植物細胞、又は真菌細胞を使用する産生系や原核細胞、例えば大腸菌、枯草菌などの細菌細胞を使用する産生系が挙げられる。使用される動物細胞としては、哺乳動物細胞、例えばCHO、COS、ミエローマ、BHK、HeLa、Veroといった一般に使用される細胞、昆虫細胞、植物細胞などが用いられてもよい。in vivoの産生系としては、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。動物を使用する場合、例えば哺乳類動物、昆虫を用いる産生系などがある。哺乳類動物としては、例えばヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシなどを用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications, 1993 )。また、昆虫としては、例えばカイコを用いることができる。植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。
【0076】
上述のようにin vitro又はin vivoの産生系にてモノクローナル抗体を産生する場合、免疫グロブリンの重鎖(H鎖)又は軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖及びL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで、宿主を形質転換させてもよい(国際公開第94/11523号参照)。
【0077】
得られたモノクローナル抗体は、均一になるまで精製することができる。モノクローナル抗体の分離、精製は通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えばアフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組み合わせれば、モノクローナル抗体を分離、精製することができる(Antibodies: A Laboratory Manual. Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)が、これらに限定されるものではない。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。例えばプロテインAカラムを用いたカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose F. F.(Amersham Biosciences)等が挙げられる。
【0078】
本発明のアプタマー、アンチセンス又はsiRNAである核酸分子はモノマーの核酸分子を材料として、例えばホスホラミダイト法により合成することができる。ホスホラミダイト法としては、例えば国際公開第2014/046212号に記載の方法に準じる方法に従って行うことができる。本発明のアプタマーはヒトIL-33タンパク質(配列表の配列番号1)、又はヒトIL-33受容体タンパク質(配列表の配列番号3)に結合することが好ましく、アンチセンス又はsiRNAはヒトIL-33mRNA(配列表の配列番号2)又はヒトIL-33受容体mRNA(配列表の配列番号4)に結合することが好ましい。本発明のアプタマー、アンチセンス又はsiRNAである核酸分子は人工核酸を含んでもよく、人工核酸としてはホスホロチオエート(Phosphorothioate:S-PO3)型オリゴヌクレオチド(S-オリゴ)、2’,4’-ブリッジド(架橋)核酸(bridged nucleic acid)(BNA)/2’,4’-ロックト核酸(locked nucleic acid)(LNA)(国際公開第98/39352号、国際公開第2005/021570号、国際公開第2003/068795号、国際公開第2011/052436号)などがある。
【0079】
本発明の好ましいIL-33アンタゴニスト態様としては、例えば、ヒトIL-33受容体に結合して、IL-33の作用を中和しうるアプタマーであればよく、例えば、RBM-009があげられる。
【0080】
本発明のIL-33アンタゴニストを含む治療剤又は医薬組成物は、有効成分であるヒトIL-33アンタゴニストに関する抗IL-33抗体、抗IL-33受容体抗体、又は可溶性IL-33受容体など、或いはその塩の他に、薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤を含んでいてもよい。さらに本発明のIL-33アンタゴニスト以外の他の活性成分、例えば抗炎症性薬剤や免疫抑制剤等を含んでもよい。このような組成物は、非経口投与又は経口に適する剤形として提供されるが、非経口投与が好ましい。非経口投与としては、例えば、静脈内、動脈内、皮下、局所、腹腔内、筋肉内、経鼻、点眼、経皮、経粘膜、髄膜内、経直腸、筋肉内、膣内投与等が挙げられるがこれらに限られるものではない。
【0081】
本発明の治療剤又は医薬組成物は、その投与経路に応じて適宜剤形を選択することができ、例えば注射剤、粉末剤、輸液製剤等いかなるものでもよいが、非経口投与する観点では、注射剤、輸液製剤、用時溶解性の粉末剤等が好ましい。また、これらの製剤は医薬用に用いられる種々の補助剤、即ち、担体やその他の助剤、例えば、安定剤、防腐剤、無痛化剤、乳化剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0082】
本発明のIL-33アンタゴニストは、例えば、1日、1週間、1月間に1回もしくは1年間に1から7回の間隔での持続注入によってか、又はボーラス投与によって提供され得る。投薬は、静脈内、腹腔内、皮下、局所、経口、経鼻、経直腸、筋肉内、膣内によって提供され得る。好ましい用量プロトコルは、重大な望まれない副作用を避ける最大用量又は投薬頻度を含むものである。1回の投与量は、一般的に少なくとも約0.05μg/kg体重、より一般的には少なくとも約0.2μg/kg、最も一般的には少なくとも約0.5μg/kg、代表的には少なくとも約1μg/kg、より代表的には少なくとも約10μg/kg、最も代表的には少なくとも約100μg/kg、好ましくは少なくとも約0.2mg/kg、より好ましくは少なくとも約1.0mg/kg、最も好ましくは少なくとも約2.0mg/kg、より適切には少なくとも約10mg/kg、さらにより適切には少なくとも約25mg/kg、そして最適には少なくとも約50mg/kgである。
【0083】
本発明の好ましいIL-33アンタゴニストの態様としては、ヒト抗IL-33モノクローナル抗体である、A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04及びA26-1F02があげられる。これらのモノクローナル抗体の軽鎖及び重鎖のアミノ酸配列はそれぞれ、配列表の配列番号7及び配列番号8(A10-1C04)、配列番号9及び配列番号10(A23-1A05)、配列番号11及び配列番号12(A25-2C02)、配列番号13及び配列番号14(A25-3H04)、配列番号15及び配列番号16(A26-1F02)である。これらの抗体の定常領域はヒト抗体の定常領域であることが好ましく、ヒトIgG1の定常領域であることが、より好ましい。
【0084】
本発明の別のIL-33アンタゴニスト態様としては、例えば、ヒトIL-33に結合して、IL-33の作用を中和しうる抗体であればよく、例えば、etokimab(ANB-020ともいう)、REGN-3500(SAR-440340ともいう)、MEDI-3506、PF-06817024及びCBP-233があげられる。
【0085】
本発明の別のIL-33アンタゴニスト態様としては、例えば、ヒトIL-33受容体に結合して、IL-33の作用を中和しうる抗体であればよく、例えば、RG-6149(AMG-282、MSTT1041AまたはRO-7187807ともいう)、GSK-3772847(CNTO-7160ともいう)及びLY-3375880があげられる。
【0086】
可溶性IL-33受容体は、配列表の配列番号3のST2Lの細胞外領域(残基19から残基328)の1部又は全部のアミノ酸配列を有するタンパク質であるが、IL-33アンタゴニスト作用を発揮する限りにおいて、アミノ酸の置換、欠失又は挿入がされてもよい。IL-33アンタゴニスト作用を損なわない観点から、置換、欠失又は挿入されるアミノ酸の数は、1又は数個であることが好ましく、1~9の任意の数のアミノ酸が置換、欠失又は挿入されうる。別の態様では、可溶性IL-33受容体は、IL-33アンタゴニスト作用を発揮する限りにおいて、配列表の配列番号3のST2Lの細胞外領域(残基19から残基328)のアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、より一層好ましくは少なくとも98%の同一性を有していてもよい。また、薬物動態を改善するする観点から、可溶性IL-33受容体に対し、免疫グロブリンの定常領域、ポリエチレングリコール等を融合させてもよい。抗体の定常領域が融合された可溶性IL-33受容体はsST2-Fcと呼ぶことができる。結合しうる免疫グロブリンの定常領域は、任意の種由来の定常領域であってよいが、低い抗原性を担保する観点から、ヒト定常領域が好ましい。好ましいヒトsST2-Fcとしては、配列表の配列番号5で表される融合タンパク質があげられる。
【0087】
sST2-Fcは、免疫グロブリンと同様に二量体を形成しうる。sST2-Fcは、元のアミノ酸配列、例えば配列番号5又は6のアミノ酸配列に対し、IL-33アンタゴニスト作用を発揮する限りにおいて、アミノ酸の置換、欠失又は挿入がされていてもよい。IL-33アンタゴニスト作用を損なわない観点から、置換、欠失又は挿入されるアミノ酸の数は1又は数個であることが好ましく、1~9の任意の数のアミノ酸が置換、欠失又は挿入されうる。別の態様では、sST2-Fcは、IL-33アンタゴニスト作用を発揮する限りにおいて、配列表の配列番号5又は6のアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、より一層好ましくは少なくとも98%の同一性を有していてもよい。これらのsST2-Fcは、さらに二量体形成能を維持することが好ましい。
【0088】
sST2-Fcなどの可溶性IL-33受容体は、可溶性IL-33受容体タンパク質をコードする核酸を含むベクターを用いたin vitroの産生系を利用して製造することができる。in vitroの産生系としては、真核細胞、例えば動物細胞、植物細胞又は真菌細胞を使用する産生系や原核細胞、例えば大腸菌、枯草菌などの細菌細胞を使用する産生系等が挙げられる。使用される動物細胞としては、哺乳動物細胞、例えばCHO、COS、ミエローマ、BHK、HeLa、Vero、293、NS0、Namalwa、YB2/0といった一般に使用される細胞、昆虫細胞、植物細胞などが用いられてもよい。このようにして産生されたタンパク質をさらに精製することで、可溶性IL-33受容体を単離することができる。
【0089】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、特に言及しない限り、本発明は以下に限定されるものではない。本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0090】
実施例1:子宮内膜症モデルにおけるIL-33遺伝子欠損の影響
子宮内膜症の動物モデルとして、エストロゲンを投与する子宮移植マウスを使用した(Ricci et al.,Reprod.Sci.2011, vol.18,p614)。ワイルドタイプである6週齢雌性Balb/cマウス(日本チャールズ・リバー)又はBalb/c―バックグラウンドIL-33ノックアウトマウス(Yasuda et al., PNAS, 2012, Vol. 109, p3451、Haenuki et al., J.Allergy Clin. Immunol., 2012, Vol. 130, p184)(以下、「IL-33KOマウス」と表記する)にイソフルラン(イソフルラン濃度:3.0%、air流量:300~400周囲で維持麻酔)で吸入麻酔導入後、マウス下腹部正中やや左側に小切開を加え、開腹孔から左右の子宮を順番に引き出し、子宮先端に付着している卵巣を摘出した。これらのマウスにCorn oil(Wako純薬工業)で5μg/mLに溶解したエストラジオール吉草酸エステル注射液(富士製薬)(エストロゲン)を0.5μg/100μL/bodyでマウス後頸部皮下に22G注射針を用いて皮下注射を2週間(1 回/週)行い、ドナーマウスとレシピエントマウスを作製した。2週間後ドナーマウスを頸椎脱臼させ、開腹し子宮を摘出した。シャーレ上で摘出子宮の重量を40mgに統一して切断した。その後、摘出子宮を25mL広口丸底スピッツに、抗生剤アンピシリン(1mg/mL)を溶解したPBS400μLと共に入れ、クーパーで2mm角のシート状に細かく細砕した。細砕した子宮片を2.5mLのシリンジで吸引した。卵巣摘出術時と同様に吸入麻酔したレシピエントマウスの腹部正中を小切開し、シリンジ内の子宮組織を腹腔内に散布し、切開部を3-0モノクリルで縫合した。子宮片を移植後、レシピエントマウスにエストロゲンをさらに2週間(1回/週)皮下注射にて投与した。移植2週間後にマウスを安楽死させ、開腹した。腹腔内に形成された異所性の子宮内膜組織(嚢胞)病変を可能な限り傷つけないように摘出し,各々の重量と体積を測定した。嚢胞病変の体積は、V=(4/3)πb2A(b:小径、A:大径)にて算出した。
【0091】
図1に示すように、ドナー、レシピエント共にIL-33KOマウスを使用した場合、嚢胞病変の体積はワイルドタイプを使用した場合と比較し、有意に減少した。また、IL-33KOマウスの嚢胞病変は対照マウスの嚢胞病変と比較して、摘出する際に腹膜等への癒着が抑制されていた。さらに、IL-33KOマウスの嚢胞病変は対象マウスの嚢胞病変と比較して、外観上の血管の数が減少していた。この結果は、IL-33が子宮内膜症モデルにおいて嚢胞病変の成長や諸臓器への癒着(諸臓器への癒着は痛みの原因となる)、及び血管新生に関与していること、並びにIL-33を阻害することにより嚢胞病変の成長や諸臓器への癒着(痛み)、及び血管新生を抑制できること示す。
【0092】
実施例2:IL-33投与の子宮内膜症モデルに対する影響
ワイルドタイプ6週齢雌性Balb/cマウスを用い、実施例1に記載した方法で子宮内膜症モデルを作製した。IL-33投与群には子宮片の移植時からPBSで溶解したリコンビナント ヒトIL-33タンパク質(残基112-残基270)(Kondo et al.,Int.Immunol.2008, vol. 20, p791)を1回100ng/200μL/bodyで3回/週、2週間、計6回腹腔内に投与した。移植2週間後にマウスを安楽死させ、開腹し、腹腔内に形成された嚢胞病変を摘出し、各々の体積を測定した。
図2に示すように、ヒトIL-33投与群は媒体投与群に比べ、嚢胞病変の体積が有意に増大した。この結果はIL-33が嚢胞病変の成長に関与していることを示す。また、IL-33の濃度が子宮内膜症患者の腹水や血清で上昇している(非特許文献2)ため、ヒトIL-33投与子宮内膜症モデルは子宮内膜症の病態を反映した、有用な疾患モデルであると考えられる。
【0093】
実施例3:IL-33アンタゴニスト
5種類のヒト抗IL-33抗体(A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04、A26-1F02)、及びマウスST2とヒトIgG1定常領域の融合蛋白であるマウスsST2-Fcを組み換えCHO細胞にて作製した(国際公開第2015/099175号)。これらのアミノ酸配列は下表のとおりであり、5種類のヒト抗IL-33抗体のヒトIL-33タンパク質(残基112-残基270)(ATGen, ILC0701)に対する親和性をKinExAで測定したところ、A10-1C04でKd=100.3pM、A23-1A05でKd=195.3pM、A25-2C02でKd=700fM、A25-3H04でKd=7.7pM、A26-1F02でKd=5.3pMであった。
【表1】
【0094】
実施例4:IL-33アンタゴニストsST2-Fcの異所性子宮内膜組織の成長に対する効果
子宮内膜症モデルにおいてIL-33が嚢胞病変の増殖に関与しており、IL-33を阻害することにより、子宮内膜症を治療できることが示された。そこで、IL-33のアンタゴニストを投与して子宮内膜症を治療した。IL-33のアンタゴニストとしては実施例3で調製したマウスsST2-Fcを用いた。実施例1で示した方法により作製した各群6匹の子宮内膜症モデルマウスを用い、子宮片の移植後にマウスsST2-Fcを20mg/kgで3日毎に2週間にわたって静脈内投与した。対照群のマウスにはコントロールFc(InVivoMAb recombinant Human Fc-G1 (Bio X Cell 社 Cat# BE0096)をマウスsST2-Fcの代わりに投与した。マウスsST2-Fcを用いた治療後にマウスを安楽死させ、開腹し、腹腔内に形成された嚢胞病変を摘出し、摘出時の嚢胞病変の癒着の程度、嚢胞病変の体積、嚢胞病変の血管について解析した。
図3に示すようにコントロールFc投与群と比較し、マウスsST2-Fc投与群において嚢胞病変の体積が有意に減少した。また、嚢胞病変の体積が減少するのにともない、マウスsST2-Fc投与マウスの嚢胞病変は対照マウスの嚢胞病変と比較して、摘出する際に腹膜等への癒着が抑制されていた。さらに、マウスsST2-Fc投与マウスの嚢胞病変は対照マウスの嚢胞病変と比較して、外観上の血管の数が減少していた。
以上の結果から、マウスsST2-Fcの投与によって子宮内膜症を治療することができ、子宮内膜症の異所性子宮内膜組織の成長、癒着(諸臓器への癒着は痛みの原因となる)、血管新生を抑制することができる。
【0095】
実施例5:IL-33アンタゴニストsST2-Fcの異所性子宮内膜組織の線維化に対する効果
実施例4で摘出した嚢胞病変をパラフォルムアルデヒドで固定後、パラフィンに包埋して8μm厚のパラフィン切片を作製した。マロリー・アニリン青オレンジG液(武藤化学)の染色液を用いて、武藤化学の推奨するプロトコールに従って線維化された組織を青色に染色した。線維化の程度はアザン染色の青色の濃さを、1(薄い)から3(濃い)点のスコアで評価した。表2に示すようにコントロールFc投与群と比較し、マウスsST2-Fc投与群において嚢胞病変の線維化が抑制された。
図4にそれぞれの群における平均的な染色像(コントロールFc投与群個体番号DとマウスsST2-Fc投与群個体番号C)を示した。
【表2】
以上の結果から、マウスsST2-Fcの投与によって子宮内膜症を治療することができ、子宮内膜症の異所性子宮内膜組織の線維化を抑制することができる。
【0096】
実施例6:抗IL-33モノクローナル抗体の異所性子宮内膜組織の成長に対する効果
IL-33KOマウスで作製した子宮内膜症モデルにおいて、リコンビナント ヒトIL-33投与により嚢胞病変が増大することを示した(実施例2)。このモデルを用いて、実施例3で調製したヒト抗IL-33モノクローナル抗体(A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04、A26-1F02)の効果を調べた。実施例2で示した方法により作製したIL-33投与子宮内膜症モデルを用い、子宮片の移植後にヒト抗IL-33抗体を1週間毎に静脈内に10mg/kgで投与した。対照群のマウスには対照抗体(Fully human IgG1 isotype control PC grade (EUREKA社 Cat#ET901 ))をヒト抗IL-33抗体の代わりに投与した。ヒト抗IL-33抗体を用いた治療後にマウスを安楽死させ、開腹し、腹腔内に形成された嚢胞病変を摘出し、摘出時の嚢胞病変の癒着の程度、嚢胞病変の体積、嚢胞病変の血管について解析した。
図5(A10-1C04の結果を示す)に示すようにPBS投与群と比較し、ヒトIL-33投与群において嚢胞病変の体積が増加し、対照抗体を投与しても嚢胞病変の体積は有意に増加していた。嚢胞病変の体積増加は抗IL-33抗体投与によって有意に阻害された。また、嚢胞病変の体積が減少するのにともない、抗IL-33抗体投与マウスの嚢胞病変は対照抗体投与マウスの嚢胞病変と比較して、摘出する際に腹膜等への癒着が抑制されていた。さらに、抗IL-33抗体投与マウスの嚢胞病変は対照マウスの嚢胞病変と比較して、外観上の血管の数が減少していた。
以上の結果から、抗IL-33抗体の投与によって子宮内膜症を治療することができ、子宮内膜症の異所性子宮内膜組織の成長、癒着(諸臓器への癒着は痛みの原因となる)、血管新生を抑制することができる。
【0097】
実施例7:抗IL-33モノクローナル抗体の異所性子宮内膜組織の細胞増殖に対する効果
実施例6で摘出した嚢胞病変をパラフォルムアルデヒドで固定後、パラフィンに包埋して8μm厚のパラフィン切片を作製した。嚢胞病変の増殖を調べるために細胞増殖マーカーであるKi-67抗原の免疫組織染色を抗Ki-67抗体〔SP6〕(Abcam社、ab16667)とDako Envision+ Dual link (Agilent社、K4063)を用い、Abcam社の推奨するプロトコールに従って行った。切片の顕微鏡1視野当りの細胞核のKi-67陽性率を算出した。1スライド当り3か所のKi-67陽性率を算出し、平均値をとった。
図6(A10-1C04の結果を示す)に示すように、PBS投与群と比較して、ヒトIL-33投与は子宮内膜症嚢胞病変の細胞において細胞増殖マーカーであるKi-67陽性細胞数の割合を増大させ、対照抗体を投与してもKi-67陽性細胞数の割合は増大していたが、抗IL-33抗体投与によって増大が抑制された。
以上の結果から、抗IL-33抗体の投与によって子宮内膜症を治療することができ、子宮内膜症の異所性子宮内膜組織の細胞増殖を抑制することができる。
【0098】
実施例8 抗IL-33モノクローナル抗体の子宮内膜症の疼痛に対する効果
子宮内膜症や子宮腺筋症患者に抗IL-33モノクローナル抗体を投与することにより、子宮内膜症や子宮腺筋症の治療することができる。子宮内膜症や子宮腺筋症患者にともなう骨盤痛、月経困難性疼痛、性交痛などの疼痛を緩和することができる。また、子宮内膜症や子宮腺筋症にともなう歩行困難や性交困難などに関するQOLを改善することができる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明におけるIL-33アンタゴニストを有効成分とする治療剤は、子宮内膜症又は子宮腺筋症の診断、治療、予防又は軽減用の医薬組成物として用いることができる。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2022-12-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL-33アンタゴニストを有効成分とする子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療、予防又は軽減剤であって、子宮内膜症又は子宮腺筋症が、表在性子宮内膜症、深在性子宮内膜症、部分性子宮腺筋症、及び全周性子宮腺筋症からなる群から選ばれる、子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療、予防又は軽減剤。
【請求項2】
不妊や更年期障害様の副作用が緩和された、請求項1に記載の子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療、予防又は軽減剤。
【請求項3】
更年期障害様の副作用が不妊、ホットフラッシュ、骨粗鬆症、及びうつ状態からなる群から選ばれる少なくとも1の症状である、請求項2に記載の子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療、予防又は軽減剤。
【請求項4】
IL-33アンタゴニストが、抗IL-33抗体、抗IL-33受容体抗体又は可溶性IL-33受容体である請求項1~3のいずれか一項に記載の子宮内膜症又は子宮腺筋症の治療、予防又は軽減剤。
【請求項5】
前記抗IL-33抗体又は抗IL-33受容体抗体がモノクローナル抗体である、請求項4に記載の治療、予防又は軽減剤。
【請求項6】
前記IL-33抗体が、ヒトモノクローナル抗体である、請求項5に記載の治療、予防又は軽減剤。
【請求項7】
前記IL-33抗体の軽鎖アミノ酸配列及び重鎖アミノ酸配列が、以下の:配列番号7及び配列番号8、配列番号9及び配列番号10、配列番号11及び配列番号12、配列番 号13及び配列番号14、並びに配列番号15及び配列番号16からなる群から選ばれる請求項4~6のいずれか一項に記載の治療、予防又は軽減剤。
【請求項8】
抗IL-33抗体が、A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04、又はA26-1F02である、請求項4~6のいずれか一項に記載の治療、予防又は軽減剤。
【請求項9】
前記可溶性IL-33受容体が、ST2Lタンパク質の細胞外領域の全部又は一部を含む、請求項4に記載の治療、予防又は軽減剤。
【請求項10】
前記ST2Lタンパク質の細胞外領域が、配列番号3の残基19~328残基を含む、 請求項9に記載の治療、予防又は軽減剤。
【請求項11】
前記可溶性IL-33受容体が、免疫グロブリンの定常領域を有する、請求項4に記載の治療、予防又は軽減剤。
【請求項12】
可溶性IL-33受容体が、sST2-Fcである請求項4に記載の治療、予防又は軽減剤。