(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190084
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】膜付き部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 26/00 20060101AFI20221215BHJP
【FI】
C23C26/00 C
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176391
(22)【出願日】2022-11-02
(62)【分割の表示】P 2019028266の分割
【原出願日】2019-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 侑宜
(72)【発明者】
【氏名】千葉 理大
(57)【要約】
【課題】必須金属成分による汚染の抑制を図ることが可能な膜付き部材の製造方法を提供する。
【解決手段】膜付き部材10の製造方法アは、ルミニウム又はアルミニウムを主成分とするアルミニウム合金からなり、必須金属成分を含む基材1を準備する工程と、第1の金属塩を含む第1の溶液を準備する工程と、基材1を第1の溶液に浸漬させる工程と、第1の溶液に浸漬させた基材1を300℃以上500℃以下で加熱して、基材1の表面1aに非晶質の第1の金属の酸化物からなる第1の膜2を形成する工程とを備え、基材1の温度が250℃以上500℃以下となるプラズマ環境下で使用される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウムを主成分とするアルミニウム合金からなり、必須金属成分を含む基材と、前記基材の表面を被覆し、非晶質の酸化アルミニウムからなる第1の膜とを備え、前記基材の温度が250℃以上500℃以下となるプラズマ環境下で使用されることを特徴とする膜付き部材。
【請求項2】
前記第1の膜の表面を被覆し、イットリウム酸化物又はガドリニウム酸化物からなる第2の膜を備えることを特徴とする請求項1に記載の膜付き部材。
【請求項3】
アルミニウム又はアルミニウムを主成分とするアルミニウム合金からなり、必須金属成分を含む基材を準備する工程と、
第1の金属塩を含む第1の溶液を準備する工程と、
前記基材を前記第1の溶液に浸漬させる工程と、
前記第1の溶液に浸漬させた前記基材を300℃以上500℃以下で加熱して、前記基材の表面に非晶質の前記第1の金属の酸化物からなる第1の膜を形成する工程とを備え、前記基材の温度が250℃以上500℃以下となるプラズマ環境下で使用されることを特徴とする膜付き部材の製造方法。
【請求項4】
第2の金属塩を含む第2の溶液を準備する工程と、
前記第1の膜を表面に形成した前記基材を前記第2の溶液に浸漬させる工程と、
前記第2の溶液に浸漬させた前記基材を300℃以上500℃以下で加熱して、前記第1の膜の表面に非晶質の前記第2の金属の酸化物からなる第2の膜を形成する工程とを備えることを特徴とする請求項3に記載の膜付き部材の製造方法。
【請求項5】
アルミニウム又はアルミニウムを主成分とするアルミニウム合金からなり、必須金属成分を含む基材を準備する工程と、
第1の金属塩を含む第1の水溶液を準備する工程と、
前記基材を前記第1の水溶液に浸漬させた状態で容器内に収容し、当該容器内を温度が180℃以上250℃以下、ゲージ圧が0.9MPa以上3.9MPa以下となるように加熱加圧して、前記基材の表面に非晶質の前記第1の金属の酸化物からなる第1の膜を水熱合成により形成する工程とを備え、前記基材の温度が250℃以上500℃以下となるプラズマ環境下で使用されることを特徴とする膜付き部材の製造方法。
【請求項6】
前記第1の膜が表面に形成された前記基材を300℃以上500℃以下で加熱する工程を備えることを特徴とする請求項5に記載の膜付き部材の製造方法。
【請求項7】
第2の金属塩を含む第2の水溶液を準備する工程と、
前記第1の膜が表面に形成された前記基材を前記第2の水溶液に浸漬させた状態で容器内に収容し、当該容器内を温度が180℃以上250℃以下、ゲージ圧が0.9MPa以上3.9MPa以下となるように加熱加圧して、前記第1の膜の表面に非晶質の前記第2の金属の酸化物からなる第2の膜を水熱合成により形成する工程とを備えることを特徴とする請求項5又は6に記載の膜付き部材の製造方法。
【請求項8】
前記第2の膜が前記第1の膜の表面に形成された前記基材を300℃以上500℃以下で加熱する工程を備えることを特徴とする請求項7に記載の膜付き部材の製造方法。
【請求項9】
前記第1の金属はアルミニウムであることを特徴とする請求項3から8の何れか1項に記載の膜付き部材の製造方法。
【請求項10】
前記第2の金属はイットリウム又はガドリニウムであることを特徴とする請求項4、7又は8の何れか1項に記載の膜付き部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜付き部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス、液晶デバイスなどを製造する場合、シリコンウエハやガラス基板に形成された所定の膜をCF4などのハロゲン系の腐食性ガスを用いプラズマ環境下で処理するドライエッチングなどの工程が存在する。そこで、近年、半導体デバイス、液晶デバイスなどの製造装置において、プラズマ環境下で腐食ガスに曝されるチャンバーや各種部材を構成するアルミニウムやアルミニウム合金などの金属材料からなる基材の腐食を防止するために、基材の表面に耐食性を有するAl2O3やY2O3などからなる溶射膜を形成することがある。
【0003】
なお、特許文献1には、非晶質のアルミナ酸化膜を金属材料等の保護膜として用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、基材に含まれる必須金属成分が溶射膜の表面に載置される基板などを汚損する対策が十分でなかった。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、必須金属成分による汚染の抑制を図ることが可能な膜付き部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の膜付き部材は、アルミニウム又はアルミニウムを主成分とするアルミニウム合金からなり、必須金属成分を含む基材と、前記基材の表面を被覆し、非晶質の酸化アルミニウムからなる第1の膜とを備え、前記基材の温度が250℃以上500℃以下となるプラズマ環境下で使用されることを特徴とする。
【0008】
本発明の膜付き部材によれば、非晶質の酸化アルミニウムからなる第1の膜を備えることにより、アルミニウム又はアルミニウムを主成分とするアルミニウム合金からなる基材に含まれる必須金属成分が第1の膜の表面上に載置される基板などを汚染することの防止を図ることが可能となる。
【0009】
また、非晶質の酸化アルミニウムは緻密であり、500℃以下であれば変成もしないので、半導体製造装置のプラズマプロセス工程などにおいて好適に使用することが可能となる。
【0010】
また、基材の温度が500℃以下であるので、非晶質の第1の膜が結晶化することで必須金属成分が第1の膜の表面に載置される基板などを汚染することの抑制を図ることが可能となる。さらに、基材の温度が500℃以下であるので、基材が変形することの抑制を図ることが可能となる。
【0011】
本発明の膜付き部材において、前記第1の膜の表面を被覆し、イットリウム酸化物又はガドリニウム酸化物からなる第2の膜を備えることが好ましい。
【0012】
この場合、第1の膜とは機能の相違する第2の膜を備えることが可能となり、これによりプラズマ耐性の更なる向上を図ることが可能となる。
【0013】
本発明の第1の膜付き部材の製造方法は、アルミニウム又はアルミニウムを主成分とするアルミニウム合金からなり、必須金属成分を含む基材を準備する工程と、第1の金属塩を含む第1の溶液を準備する工程と、前記基材を前記第1の溶液に浸漬させる工程と、前記第1の溶液に浸漬させた前記基材を300℃以上500℃以下で加熱して、前記基材の表面に非晶質の前記第1の金属の酸化物からなる第1の膜を形成する工程とを備え、製造された第1の膜付き部材は前記基材の温度が250℃以上500℃以下となるプラズマ環境下で使用されることを特徴とする。
【0014】
本発明の第1の膜付き部材の製造方法によれば、アルミニウム又はアルミニウムを主成分とするアルミニウム合金からなる基材の表面に非晶質の金属酸化物からなる第1の膜が形成される。これにより、第1の膜を備えた本発明の膜付き部材を簡易に製造することが可能となる。さらに、従来のように500℃を超える高温に加熱する必要がないので、基材の変形を抑制することが可能となる。また、基材と第1の膜との密着強度の増大を図ることも可能となる。
【0015】
本発明の第1の膜付き部材の製造方法において、第2の金属塩を含む第2の溶液を準備する工程と、前記第1の膜を表面に形成した前記基材を前記第2の溶液に浸漬させる工程と、前記第2の溶液に浸漬させた前記基材を300℃以上500℃以下で加熱して、前記第1の膜の表面に非晶質の前記第2の金属の酸化物からなる第2の膜を形成する工程とを備えることが好ましい。
【0016】
この場合、第2の膜を備えた本発明の膜付き部材を簡易に製造することが可能となる。
【0017】
本発明の第2の膜付き部材の製造方法は、アルミニウム又はアルミニウムを主成分とするアルミニウム合金からなり、必須金属成分を含む基材を準備する工程と、第1の金属塩を含む第1の水溶液を準備する工程と、前記基材を前記第1の水溶液に浸漬させた状態で容器内に収容し、当該容器内を温度が180℃以上250℃以下、ゲージ圧が0.9MPa以上3.9MPa以下となるように加熱加圧して、前記基材の表面に非晶質の前記第1の金属の酸化物からなる第1の膜を水熱合成により形成する工程とを備え、製造された第2の膜付き部材は前記基材の温度が250℃以上500℃以下となるプラズマ環境下で使用されることを特徴とする。
【0018】
本発明の第2の膜付き部材の製造方法によれば、アルミニウム又はアルミニウムを主成分とするアルミニウム合金からなる基材の表面に非晶質の金属酸化物からなる第1の膜が形成される。これにより、第1の膜を備えた本発明の膜付き部材を簡易に製造することが可能となる。さらに、従来のように500℃を超える高温に加熱する必要がないので、基材の変形を抑制することが可能となる。また、基材と第1の膜との密着強度の増大を図ることも可能となる。
【0019】
本発明の第2の膜付き部材の製造方法において、前記第1の膜が表面に形成された前記基材を300℃以上500℃以下で加熱する工程を備えることが好ましい。
【0020】
この場合、第1の膜の緻密化及び第1の膜と基材との密着強度の向上を図ることが可能となる。
【0021】
また、本発明の第2の膜付き部材の製造方法において、第2の金属塩を含む第2の水溶液を準備する工程と、前記第1の膜が表面に形成された前記基材を前記第2の水溶液に浸漬させた状態で容器内に収容し、当該容器内を温度が180℃以上250℃以下、ゲージ圧が0.9MPa以上3.9Pa以下となるように加熱加圧して、前記第1の膜の表面に非晶質の前記第2の金属の酸化物からなる第2の膜を水熱合成により形成する工程とを備えることが好ましい。
【0022】
この場合、第2の膜を備えた本発明の膜付き部材を簡易に製造することが可能となる。
【0023】
また、本発明の第2の膜付き部材の製造方法において、前記第2の膜が前記第1の膜の表面に形成された前記基材を300℃以上500℃以下で加熱する工程を備えることが好ましい。
【0024】
この場合、第2の膜の緻密化及び第1の膜と第2の膜との密着強度の向上を図ることが可能となる。
【0025】
本発明の第1又は第2の膜付き部材の製造方法において、前記第1の金属はアルミニウムであることが好ましい。
【0026】
この場合、第1の金属酸化物が酸化アルミニウムであるので、第1の膜は耐プラズマ性に優れたものとなり、膜付き部材を半導体製造装置のプラズマプロセス工程などにおいて好適に使用することが可能となる。
【0027】
本発明の第1又は第2の膜付き部材の製造方法において、前記第2の金属はイットリウム又はガドリニウムであることが好ましい。
【0028】
この場合、第2の金属酸化物はイットリウム酸化物又はガドリニウム酸化物であるので、第2の膜は耐プラズマ性に優れたものとなり、膜付き部材を半導体製造装置のプラズマプロセス工程などにおいて好適に使用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施形態に係る膜付き部材を示す模式断面図。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る膜付き部材10の製造方法を示すフローチャート。
【
図3】本発明の第2の実施形態に係る膜付き部材10の製造方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施形態に係る膜付き部材10について
図1を参照して説明する。なお、
図1は、膜付き部材10及びその構成要素などを明確化するためにデフォルメされており、実際の比率を表すものではなく、上下などの方向も単なる例示である。
【0031】
本発明の実施形態に係る膜付き部材10は、
図1に示すように、基材1と、基材1の表面1aを被覆する第1の膜2と、第1の膜2の表面2aを被覆する第2の膜3とを備えている。ただし、第2の膜3が存在せず、基材1と第1の膜2とからなるものも本発明の範囲に含まれる。
【0032】
基材1は、アルミニウム又はアルミニウムを主成分とするアルミニウム合金からなり、必須金属成分を含む。なお、必須金属成分は、基材1を作製する際に不可避的に存在する微量な金属成分であり、本発明においては、Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn、Tiの少なくとも1種以上が含まれる。
【0033】
第1の膜2は、基材1の表面1aを被覆し、非晶質の酸化アルミニウム(Al2O3)からなる。第1の膜2の平均厚さは、例えば、200nm以上3000nm以下であり、好ましくは500nm以上1000nm以下である。
【0034】
膜付き部材10は、基材1の温度が250℃以上500℃以下となるプラズマ環境下において好適に使用される。
【0035】
膜付き部材10は、例えば、半導体製造装置のプラズマプロセス工程などにおいて好適に使用される。この場合、基材1の温度は350℃程度、基板(ウエハ)の温度、すなわちプロセス温度は600℃程度となる。
【0036】
第1の膜2は非晶質の酸化アルミニウムからなり緻密であるので、500℃以下であればプラズマ環境化においても変成せず、このようなプラズマ環境化において好適に使用することができる。
【0037】
そして、膜付き部材10は、非晶質の酸化アルミニウムからなる第1の膜2を備えることによって基材1に含まれる必須金属成分が基板を汚染することの抑制を図ることが可能となる。非晶質の酸化アルミニウムはAlとOとの結合距離が不規則になり結晶性の良いAlとOとの結合距離よりも狭くなり、その結果、金属成分が第1の膜2の表面2aに載置される基板などを汚染することを抑制することができるものとも考えられる。
【0038】
なお、基材1の温度が500℃を超えると、基材1の変形が大きくなり、使用に困難をきたすおそれがあるので好ましくない。
【0039】
第2の膜3は、イットリウム酸化物又はガドリニウム酸化物からなる。このように、イットリウム酸化物又はガドリニウム酸化物からなる第2の膜3を備えることによって、基材1のプラズマ耐性の更なる向上を図ることが可能となる。第2の膜3の平均厚さは、例えば、200nm以上3000nm以下であり、好ましくは500nm以上1000nm以下である。
【0040】
以下、本発明の第1の実施形態に係る膜付き部材10の製造方法について説明する。
【0041】
本製造方法は、
図2を参照して、基材準備工程STEP1、第1の溶液準備工程STEP2、第1の溶液浸漬工程STEP3、第1の膜形成工程STEP4、第2の溶液準備工程STEP5、第2の溶液浸漬工程STEP6及び第2の膜形成工程STEP7を備えている。
【0042】
基材準備工程STEP1は、上述した基材1を準備する工程である。
【0043】
第1の溶液準備工程STEP2は、第1の金属塩を含む第1の溶液を準備する工程である。第1の金属をアルミニウム又はアルミニウム合金とすれば、第1の金属酸化物が酸化アルミニウム又はこれを含むものになるので、耐プラズマ性に優れた第1の膜2を備えた、上記の膜付き部材10を得ることが可能となる。ただし、本発明の膜付き部材の製造方法においては、第1の金属はアルミニウム又はアルミニウム合金に限定されず、例えばSi、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn、Tiであってもよい。
【0044】
第1の金属塩は、例えば、第1の金属の硝酸塩、塩化物、酢酸塩、炭酸塩であればよい。第1の金属がアルミニウムである場合、第1の溶液は、例えば、硝酸アルミニウム水溶液とすればよい。
【0045】
第1の溶液浸漬工程STEP3は、基材1を第1の溶液に浸漬させる工程である。例えば、ステンレス等からなる非密閉容器に基材1及び第1の溶液を投入すればよい。
【0046】
第1の膜形成工程STEP4は、第1の溶液に浸漬させた基材1を300℃以上500℃以下で加熱して、基材1の表面1aに非晶質の第1の金属の酸化物からなる第1の膜2を形成する工程である。例えば、基材1及び第1の溶液を投入した前記非密閉容器をオーブンや加熱炉内に入れて加熱すればよい。加熱条件は1時間当たり100℃のスピードで昇温させることが好ましい。また、加熱雰囲気は大気雰囲気でよい。形成される第1の膜2の平均厚さは、例えば、200nm以上3000nm以下であり、好ましくは500nm以上1000nm以下である。
【0047】
第2の溶液準備工程STEP5は、第2の金属塩を含む第2の溶液を準備する工程である。第2の金属をイットリウム又はガドリニウムとすれば、第2の金属酸化物はイットリウム酸化物又はガドリニウム酸化物となるので、耐プラズマ性に優れた第2の膜3を備えて、上記の膜付き部材10を得ることが可能である。ただし、本発明の膜付き部材の製造方法においては、第2の金属はイットリウム又はガドリニウムに限定されない。
【0048】
第2の溶液浸漬工程STEP6は、第1の膜2を表面1aに形成した基材1を第2の溶液に浸漬させる工程である。例えば、ステンレス等からなる非密閉容器に上記の基材1及び第2の溶液を投入すればよい。
【0049】
第2の金属がガドリニウムである場合、第2の溶液は、例えば、硝酸ガドリニウム水溶液とすればよい。
【0050】
第2の膜形成工程STEP7は、第2の溶液に浸漬させた基材1を300℃以上500℃以下で加熱して、第1の膜2の表面2aに非晶質の第2の金属の酸化物からなる第2の膜3を形成する工程である。例えば、上記の基材1及び第2の溶液を投入した前記非密閉容器をオーブンや加熱炉内に入れて加熱すればよい。加熱時間は12時間以上24時間以下であることが好ましい。また、加熱雰囲気は大気雰囲気でよい。形成される第2の膜3の平均厚さは、例えば、200nm以上3000nm以下であり、好ましくは500nm以上1000nm以下である。
【0051】
これにより、基材1の表面に非晶質の金属酸化物からなる第1の膜2、第1の膜2とは機能の相違する第2の膜3を簡易に形成することが可能となる。そして、従来のように500℃を超える高温に加熱する必要がないので、基材1の変形を抑制することが可能となる。また、基材1と第1の膜2との密着強度の増大を図ることも可能となる。
【0052】
さらに、本製造方法において、第1の膜2が表面1aに形成された基材1を300℃以上500℃以下で加熱する加熱工程STEP8を、さらに備えることが好ましい。これにより、第1の膜2の緻密化及び第1の膜2と基材1との密着強度の向上を図ることが可能となる。加熱条件は1時間当たり100℃のスピードで昇温し500℃まで昇温させることが好ましい。また、加熱雰囲気は大気雰囲気でよい。
【0053】
なお、上述したように、第2の膜3は存在しなくともよい。この場合、第2の溶液準備工程STEP5、第2の溶液浸漬工程STEP6及び第2の膜形成工程STEP7を省略すればよい。
【0054】
以下、本発明の第2の実施形態に係る膜付き部材10の製造方法について説明する。
【0055】
本製造方法は、
図3を参照して、基材準備工程STEP1、第1の水溶液準備工程STEP11、第1の水溶液浸漬工程STEP12、第1の膜水熱合成工程STEP13、第2の水溶液準備工程STEP14、第2の水溶液浸漬工程STEP15及び第2の膜水熱合成工程STEP16を備えている。
【0056】
基材準備工程STEP1は、上述した第1の実施形態に係る膜付き部材10の製造方法で説明した基材準備工程STEP1と同じである。
【0057】
第1の水溶液準備工程STEP11及び第2の水溶液準備工程STEP14は、それぞれ上述した第1の実施形態に係る膜付き部材10の製造方法で説明した第1の溶液準備工程STEP2及び第2の溶液準備工程STEP5と同様である。ただし、第1の水溶液は、水溶液であり、例えば、第1の金属の硝酸塩、塩化物、酢酸塩、炭酸塩などの水溶液とすればよい。また、第1の金属がアルミニウムである場合、第1の溶液は、例えば、硝酸アルミニウム水溶液であればよい。第2の水溶液は、水溶液であり、例えば、イットリウム又はガドリニウムの硝酸塩、塩化物、酢酸塩、炭酸塩などの水溶液とすればよい。
【0058】
第1の水溶液浸漬工程STEP12及び第2の水溶液浸漬工程STEP15は、それぞれ上述した第1の実施形態に係る膜付き部材10の製造方法で説明した第1の溶液浸漬工程STEP3及び第2の溶液浸漬工程STEP6と同様である。ただし、第1の水溶液浸漬工程STEP12及び第2の水溶液浸漬工程STEP15において、容器は密閉可能な容器を用いる。
【0059】
第1の膜水熱合成工程STEP13は、基材1を第1の水溶液に浸漬させた状態で密閉した容器内を温度が180℃以上250℃以下、ゲージ圧が0.9MPa以上3.9MPa以下となるように加熱加圧して、基材1の表面1aに非晶質の第1の金属の酸化物からなる第1の膜2を水熱合成により形成する工程である。
【0060】
例えば、基材1及び第1の溶液をポリテトラフルオロエチレン(登録商標名テフロン)などからなる密閉可能な耐圧容器に投入し、この容器を耐圧ステンレス製の外筒に入れた状態で密閉し、この容器をオーブンや加熱炉内に入れて加熱すればよい。加熱時間は12時間以上24時間以下であることが好ましい。形成される第1の膜2の平均厚さは、例えば、200nm以上3000nm以下であり、好ましくは500nm以上1000nm以下である。
【0061】
第2の膜水熱合成工程STEP16は、第1の膜2が表面に形成された基材1を第2の水溶液に浸漬させた状態で密閉した容器内を温度が180℃以上250℃以下、ゲージ圧が0.9MPa以上3.9MPa以下となるように加熱加圧して、第1の膜2の表面に非晶質の第2の金属の酸化物からなる第2の膜3を水熱合成により形成する工程である。
【0062】
例えば、上記基材1及び第2の溶液をポリテトラフルオロエチレンなどからなる密閉可能な耐圧容器に投入し、この容器を耐圧ステンレス製の外筒に入れた状態で密閉し、この容器をオーブンや加熱炉内に入れて加熱すればよい。加熱時間は12時間以上24時間以下であることが好ましい。形成される第2の膜3の平均厚さは、例えば、200nm以上3000nm以下であり、好ましくは500nm以上1000nm以下である。
【0063】
これにより、上述した第1実施形態に係る膜付き部材10の製造方法と同様に、非晶質の金属酸化物からなる第1の膜2を基材1の表面1aに、第1の膜2とは機能の相違する第2の膜3を第1の膜2の表面2aに簡易に形成することが可能となる。
【0064】
そして、従来のように500℃を超える高温に加熱する必要がなく、第1実施形態に係る膜付き部材10の製造方法における加熱温度よりも第1及び第2の膜水熱合成工程STEP13,STEP16における加熱温度が低いので、基材1の変形をより抑制することが可能となる。また、基材1と第1の膜2との密着強度の増大を図ることも可能となる。
【0065】
また、本製造方法においても、上述した加熱工程STEP8をさらに備えることが好ましい。また、第2の膜3が存在しなくともよい場合、第2の水溶液準備工程STEP14、第2の水溶液浸漬工程STEP15及び第2の膜水熱合成工程STEP16を省略すればよい。
【0066】
さらに、第1の実施形態に係る膜付き部材10の製造方法において、第2の膜形成工程STEP7の代わりに、第2の膜水熱合成工程STEP12を行ってもよい。第2の実施形態に係る膜付き部材10の製造方法において、第2の膜水熱合成工程STEP12の代わりに、第2の膜形成工程STEP7を行ってもよい。
【実施例0067】
以下、本発明の実施例及び比較例を具体的に挙げて、本発明を説明する。
【0068】
(実施例1)
実施例1においては、まず、基材準備工程STEP1として、アルミニウム合金(A6061)からなる基材1を準備した。
【0069】
次に、第1の溶液準備工程STEP2として、Al(NO3)・9H2Oからなる第1の金属塩を用意した。また、NH3aq(水酸化アンモニウム水溶液)とCH3COOH(酢酸)とを混合してゾルを作製した。さらに、上面が開放されたステンレス製の容器に、750gの第1の金属塩及び20L(リットル)の前記ゾルを入れ、第1の溶液を得た。
【0070】
次に、第1の溶液浸漬工程STEP3として、前記容器に基材1を投入して、第1の溶液に基材1を浸漬させた。
【0071】
次に、第1の膜形成工程STEP4として、第1の溶液に浸漬させた基材1を収容してなる前記容器をオーブンに入れ、オーブン内の温度を350℃として大気雰囲気で12時間加熱した。
【0072】
これにより、基材1の表面1aに第1の膜2が形成されてなる膜付き部材10が得られた。第1の膜2の厚さは平均500nmであった。
【0073】
第1の膜2に対して、X線回析を行った。X線回析は、全自動多目的X線回析装置(rigaku製、SmartLab)を用い、X線回折スペクトルを測定した。結果は、明確なピークが認められなかった。これにより、第1の膜2は、Al(OH3)を含むAlの非晶質の酸化物層であることが分かった。
【0074】
(実施例2)
実施例2においては、まず、基材準備工程STEP1及び第1の水溶液準備工程STEP11として、実施例1と同じ基材1、実施例1と同じ溶液を準備した。そして、ポリテトラフルオロエチレン製の密閉可能な容器に、750gの第1の金属塩及び20Lの前記ゾルを入れ、第1の水溶液を得た。
【0075】
次に、第1の水溶液浸漬工程STEP12として、前記容器に基材1を投入して、第1の水溶液に基材1を浸漬させた。
【0076】
次に、第1の膜水熱合成工程STEP13として、基材1を第1の水溶液に浸漬させた状態で前記容器を密閉した。そして、この密閉した容器を耐熱ステンレス製の外筒に入れた状態でオーブン内に入れ、オーブン内の温度を200℃、容器内のゲージ圧を1.4MPaとして大気雰囲気で12時間加熱した。
【0077】
これにより、基材1の表面1aに第1の膜2が形成されてなる膜付き部材10が得られた。第1の膜2の厚さは平均500nmであった。
【0078】
第1の膜2に対して、実施例1と同様にX線回析を行った。結果は、明確なピークが認められなかった。これにより、第1の膜2は、Al(OH3)を含むAlの非晶質の酸化物層であることが分かった。
【0079】
(実施例3)
実施例3においては、まず、実施例2と同じように、基材準備工程STEP1、第1の水溶液準備工程STEP11、第1の水溶液浸漬工程STEP12及び第1の膜水熱合成工程STEP13を行うことにより、基材1の表面1aに第1の膜2を形成した。
【0080】
次に、第2の水溶液準備工程STEP14として、Gd(NO3)・6H2Oからなる第2の金属塩を用意した。また、NH3aqとCH3COOHとを混合してph10の溶液を調整した。さらに、密閉可能なポリテトラフルオロエチレン製の容器に、900gの第2の金属塩及び20Lの前記溶液を入れ、第2の水溶液を得た。
【0081】
次に、第2の水溶液浸漬工程STEP15として、前記容器に第1の膜2が表面1aに形成された基材1を投入して、第2の水溶液に基材1を浸漬させた。
【0082】
次に、第2の膜水熱合成工程STEP16として、基材1を第2の水溶液に浸漬させた状態で前記容器を密閉した。そして、この密閉した容器を耐熱ステンレス製の外筒に入れた状態でオーブン内に入れ、オーブン内の温度を200℃、容器内のゲージ圧を1.4MPaとして大気雰囲気で12時間加熱した。
【0083】
これにより、第1の膜2の表面2aに第2の膜3が形成されてなる膜付き部材10が得られた。第2の膜3の厚さは平均500nmであった。
【0084】
第2の膜3に対して、実施例1と同様にX線回析を行った。これにより、第2の膜3は、Gdの非晶質の酸化物層であることが分かった。
【0085】
(実施例4)
実施例4においては、実施例1から実施例3で形成されたそれぞれの膜付き部材10に対して加熱工程STEP8を行った。
【0086】
加熱工程STEP8においては、膜付き部材10をオーブン内に入れ、オーブン内の温度を200℃として大気雰囲気で12時間加熱した。
【0087】
そして、実施例1及び実施例2で形成された膜付き部材10の第1の膜2並びに実施例実施例3で形成された第2の膜3に対して、実施例1と同様にX線回析を行った。これにより、第1の膜2又は第2の膜3は、部分的に結晶化しており、非晶質と結晶質が混在化していることが分かった。