(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190146
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】建造物建設方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/16 20060101AFI20221215BHJP
【FI】
E04B1/16 C
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177861
(22)【出願日】2022-11-07
(62)【分割の表示】P 2020535275の分割
【原出願日】2018-09-10
(31)【優先権主張番号】2017903701
(32)【優先日】2017-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(31)【優先権主張番号】2018901613
(32)【優先日】2018-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(71)【出願人】
【識別番号】520085006
【氏名又は名称】イアヴィラール ピーティーワイ リミティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャクソン,イアン
(57)【要約】
【課題】従来のシステムの制限のうちの幾つかを少なくとも部分的に緩和する。
【解決手段】垂直なスタッド30と水平なレール32,34,36とを含む壁枠構成要素である。壁枠12が、相対的に上昇させられた位置と相対的に降下させられた位置との間で可動の最上部レール36を有している。壁枠12が、最上部レール36をその上昇させられた位置において維持する取り外し可能な固定部材(保持ねじ50)を含み、その固定部材の取り外しが、最上部レール36をその降下させられた位置へ移動させる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直なスタッドと水平なレールとを含む壁枠構成要素であって、該壁枠が、相対的に上昇させられた位置と相対的に降下させられた位置との間で可動の最上部レールを有し、前記壁枠が、前記最上部レールをその上昇させられた位置において維持する取り外し可能な固定部材を含み、該固定部材の取り外しが、前記最上部レールをその降下させられた位置へ移動させる、壁枠構成要素。
【請求項2】
前記最上部レールが相対的に上昇させられた位置にあるときに、前記壁枠構成要素が、前記最上部レールから少なくとも1つの取り外し可能な固定部材を介して前記垂直なスタッドへと荷重を移動させる荷重経路を含む、請求項1に記載の壁枠構成要素。
【請求項3】
前記最上部レールが複数の開口を含み、該開口は、前記最上部レールが相対的に降下させられた位置にあるときに前記垂直なスタッドに設けられた対応する開口に整合するように配置されている、請求項1または請求項2に記載の壁枠構成要素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物の建設に関する。本発明は、2つよりも多くの階層を備えた建造物に特に適用される、多層建造物を建設するための方法として成されている。
【0002】
発明の背景
幾つかの国々における建築規則は、概して、3つよりも多くの階層から成る建造物は、コンクリートまたは組積造から成る、階層の荷重を支持する耐力壁を有していなければならないことを要求している。これらの規則は、耐火要求に基づくものである。構造的に堅固である鉄骨枠または木骨枠によって荷重が支えられる建造物を建設することが可能であるが、このような枠は、火によって著しく弱化させられてしまう。
【0003】
組積造を用いて建設される建造物は、概して地面から層状に段階的に築き上げられる。ある一定の高さを超えると、更なる荷重を加える前に、組積造内のグラウトを硬化させることが必要である。実際には、これは、より高い階層の建設が開始される前に、各階層を硬化させなければならないことを意味している。
【0004】
プレキャストコンクリートを用いて建設される建造物は、より迅速に建造することができる。しかしながら、プレキャストコンクリートは、個別のパネルを、典型的にはグラウティングにより互いに結合させることをなおも要求している。プレキャストパネルを使用することにおける固有の費用および難点(重いパネルに関連する顕著な搬送および移動コスト)に対して付加的に、このようなパネルの使用は、グラウティングに関連する相当の「待機」時間をなおも有している。
【0005】
近年、「捨て型枠」のシステムを用いた建造物を建設することがますます増えてきている。建造物壁は、軽量で中空の壁パネルを用いてレイアウトされ、次いでコンクリートがパネル内に注ぎ込まれて、構造強度を提供するために硬化させられる。このようなパネルの搬送および移動のコストは、プレキャストコンクリートを用いる場合よりもかなり低くなる一方で、このシステムは、後続の階が築き上げられる前に、各階のパネル内のコンクリートが完全に硬化することを要求する。
【0006】
上述の全てのシステムは、概して、構造内に内壁を固定する前に、耐力壁および柱が固定され、必要な場合には硬化させられるまで待つことが必要となってしまうという更なる制限を有している。実際に、非耐力壁が配置され得る前に、建造物の全体的な耐力構造を完成させることがしばしば必要となる。
【0007】
米国特許出願公開第2010/0058687号明細書には、上述のような捨て型枠のシステムが記載されていて、この型枠は、その上に配置されている荷重を部分的に支持している。コンクリート柱の硬化の後に、荷重は、コンクリートと捨て型枠とにより分担される。
【0008】
本発明は、これらの制限のうちの幾つかを少なくとも部分的に緩和することを目的とする代替的な建設システムを提案する。
【0009】
誤解を避けるために、本明細書で使用される「柱」という用語は、比較的均等な長さ幅比を有する従来の柱、長さが幅よりもはるかに長くてよいブレード柱(blade column)およびブレード壁(blade wall)を含む、鉛直荷重を支持する建造要素を広く包含する。
【発明の概要】
【0010】
本発明の1つの態様によれば、建造物を建設する方法が提供され、該方法が、
建造物枠を形成する工程であって、該枠が、複数の垂直な通路を含み、少なくとも1つのより高い階層からの荷重を支持するために十分な強さを有し、少なくとも1つのより高い階層の荷重に対する荷重経路を規定する、建造物枠を形成する工程と、
少なくとも1つのより高い階層を少なくとも部分的に形成する工程と、
通路に硬化可能な物質を充填する工程と、
通路内の硬化可能な物質を硬化させ、建造物内に柱を形成する工程と、
枠の荷重経路における断絶部を創出し、これにより、少なくとも1つのより高い階層からの荷重を建造物枠から硬化させられた柱へと移動する工程と
を有している。
【0011】
建造物枠から硬化させられた柱への荷重の移動が終了すると、最終的な荷重のいずれもが枠によって支持されないことを理解されたい。
【0012】
建造物枠が、より高い階層の荷重のかなりの部分を支持するが、すべての荷重を支持しなくてもよいことも理解されたい。場合によっては、本発明は、建造物枠といくつかの一時的な支柱との間でより高い階層のすべての荷重を分担することを想定している。本発明に関連して使用される場合、一時的な支柱の要求される個数および耐荷量は実質的に減じられることを理解されたい。
【0013】
有利には、これにより、柱が硬化している間に、より高い階層の荷重を建造物枠によって支えながら、建造を継続することができる。建造が完了すると、硬化した柱が、枠に対して優先的に耐力部材となり、したがって建築法規の要件を満たす。
【0014】
好適には、建造物枠が、構造用鋼から形成されている。好適な実施形態では、建造物枠が、0.75mmと1.6mmとの間のオーダの公称厚さを備えた冷間圧延形鋼により形成されている。
【0015】
硬化可能な物質がコンクリートであると、好適である。
【0016】
好適には、方法が、建造物枠の頂部にデッキ型枠を配置して、このデッキ型枠に通路を流体的に接続する工程を含んでいる。次いで、硬化可能な物質で通路を充填するステップが、構造物枠上に床面を完成させるために硬化可能な物質を型枠内に注ぐことと同時に行われる。
【0017】
好適には、少なくともいくつかの内壁枠が、外壁枠を配置することと同時に配置される。たとえば、集合住宅が建設される場合、界壁用のフレームが含まれていてよい。階全体の壁を同時に完成させることが可能であるが、検査を困難にすることがあるため、このことは常に望ましいとは限らない。内壁枠を使用することにより、高い方の階層が建設されている間に、低い方の階層の内装のためのアクセスが可能となる。
【0018】
建造物枠は、好適には垂直な(縦の)スタッドと、水平な(横の)レールとを含んでいる。建造物枠は、好適には、取り外し可能な少なくとも1つの固定部材を用いてスタッドに1つのレール、好適には最上部レールを固定することによって作られた荷重移動手段を含んでいる。荷重経路における断絶部を創出するステップは、固定部材を取り外すことにより達成される。
【0019】
代替的には、建造物枠は、単独のより高い階層の荷重よりは大きいが、構造全体の完成後の荷重よりは小さな荷重でせん断するように配置されたせん断ヘッドを含んでいてよい。この実施形態では、柱の硬化に続いてせん断ヘッドをせん断させることによって荷重経路における断絶部に影響を与えることができ、鉛直荷重が、枠ではなく、柱により受け止められる。
【0020】
本発明の第2の態様によれば、垂直なスタッドと水平なレールとを含む壁枠構成要素が提供される。壁枠は、相対的に上昇させられた位置と相対的に降下させられた位置との間で可動の最上部レールを有していて、壁枠が、最上部レールをその上昇させられた位置において維持する取り外し可能な固定部材を含み、固定部材の取り外しが、最上部レールをその降下させられた位置へと移動させる。
【0021】
最上部レールが相対的に上昇させられた位置にあるときに、壁枠構成要素は、好適には最上部レールから少なくとも1つの取り外し可能な固定部材を介して垂直なスタッドへと荷重を移動させる荷重経路を含んでいる。固定部材の取り外しが荷重経路に断絶部を生じさせることを理解されたい。
【0022】
最上部レールは、開口を含んでいてもよく、その開口は、最上部レールが相対的に降下させられた位置にあるときに、垂直なスタッドに設けられた対応する開口に整合するように配置されている。このようにして、最上部レールを、所望の場合にはファスナを用いることによって相対的に降下させられたその位置において固定することができる。
【0023】
本発明の好適な実施形態を参照しながら本発明をさらに説明すると好都合である。他の実施形態も可能であり、したがって、以下の議論の詳細は、本発明の上述の説明の一般性に取って代わるものとして理解すべきものではない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に従って建設されている多層建造物の一部の一連の概略図である。
【
図2】本発明に従って建設されている多層建造物の一部の一連の概略図である。
【
図3】本発明に従って建設されている多層建造物の一部の一連の概略図である。
【
図4】本発明に従って建設されている多層建造物の一部の一連の概略図である。
【
図5】本発明に従って建設されている多層建造物の一部の一連の概略図である。
【
図6】本発明に従って建設されている多層建造物の一部の一連の概略図である。
【
図7】本発明に関する壁枠構成要素の正面図である。
【
図8】
図7に示した壁枠構成要素の上端部を示す斜視図である。
【
図9】
図7に示した壁枠構成要素の上端部を示す端面図である。
【0025】
好適な実施形態の詳細な説明
図面を参照すると、
図1は、多層建造物の1つの階の概略図を示している。この階は、基礎スラブ10を含んでいる。基礎スラブ10上には、壁枠12が配置されている。この実施形態の壁枠12は、スラブ10上に内壁および外壁のレイアウトを形づくるために配置されている。
【0026】
壁枠12は、冷間圧延形鋼から形成されている。典型的な肉厚は、90mmのオーダにある。鋼は、典型的には0.75mmと1.6mmとの間の公称厚さである。壁枠12は、比較的高い鉛直荷重を支持することができるように構成されている。
【0027】
壁枠12は、所望の交差部分において、垂直な通路14を置くことができるように配置されている。これらの通路14は、
図2に示されているような所望の箇所に置かれた柱せき板16を使用することにより作られている。垂直な通路14は、概して横断面で方形であり、柱を形成するためにコンクリートを充填したときに、コンクリート柱が壁枠12よりも大きな鉛直耐荷量を有しているように寸法設定されている。
【0028】
壁枠12と柱せき板16とが位置決めされると、適当な位置に適切な補強を行いながら、枠組みデッキ20を壁枠12の頂部に固定することができる。枠組みデッキ20は、デッキ20に設けられた空所が垂直な通路14への開口上に位置するように配置されている。補強ロッド22は、垂直な通路14内に配置されていて、デッキ20を越えて延在している。これは、
図3において確認することができる。必要であれば、付加的で一時的な支柱をデッキ20の下に設置することができる。
【0029】
次いで、垂直な通路14内の柱24と、浮きスラブ26とを同時に形成するために、コンクリートを注ぎ込むことができる。壁枠12は、それ自体でまたは一時的な支柱と共に浮きスラブ26の重量を受け止めるために十分な強さを有している。このことは、
図4および
図5に示されている。
【0030】
浮きスラブ26が乾燥するとすぐに、壁枠12を、建造物の次の階を形成するために浮きスラブ26の頂部に配置することができる。これが行われている間に、建造物設備に関する作業、たとえば配管工事および配電工事を最下階の壁枠10に対して開始することができる。スラブ26および柱24のコンクリートは、時間が経過するにつれて硬化してその最終強度に達するが、この時間の間、荷重は壁枠12により受け止められる。これは、
図6において確認することができる。
【0031】
上述のプロセスは、後続の階に対して繰り返すことができる。
【0032】
壁枠12は、垂直なスタッド30と、3つの水平なレール、すなわち、基礎レール32、中間レール34および上部レール36とから形成されている。これは、
図7~
図9において確認することができる。
【0033】
各々の垂直なスタッド30は、下端部40と上端部42とを有している。垂直なスタッドは、基礎レール32内に配置するために下端部40において僅かにクリンピングされているので、基礎レール32と垂直なスタッド30とは、ほぼ同一の幅である。垂直なスタッド30の下端部40と、基礎レール32とは、それぞれ内方に向かって押込み加工されたねじ受入開口44を含んでいる。このようにして、基礎レール32をねじ46によって垂直なスタッド30に固定することができる。ねじ46は、壁枠12の相応に平坦な表面を提供するために、有効に皿頭にされている。
【0034】
中間レール34は、垂直なスタッド30内に配置するためにクリンピングされた外端部を有している。この配置は、中間レール34の外面が垂直なスタッド30の外面と概して同一平面となるように行われる。
【0035】
各々の垂直なスタッド30の中心領域は、中間レール34の外端部と同様に、内方に向かって押込み加工されたねじ受入開口44を含んでいる。基礎レールと同様に、中間レール34は、ねじ46によって垂直なスタッド30に固定することができる。ねじは、壁枠12の相応に平坦な表面を提供するために、有効に皿頭にされている。
【0036】
上部レール36と、その接続部であって垂直なスタッド30の上端部42への接続部とは、主として基礎レール32のそれに対する鏡像である。垂直なスタッドは、上部レール36内に配置するために上端部42において僅かにクリンピングされているので、上部レール36と垂直なスタッド30とは、ほぼ同一の幅である。垂直なスタッド30の上端部42と、上部レール36とは、それぞれ内方に向かって押込み加工されたねじ受入開口44を含んでいる。このようにして、上部レール36を有効な皿ねじによって垂直なスタッド30に固定することができる。
【0037】
上部レール36の配置は、保持ねじ50を含む点で基礎レール32の配置と異なる。
【0038】
垂直なスタッド30の上端部42のねじ受入開口44が、上部レール36のねじ受入開口44と整合している配置は、上部レール36の相対的に降下させられた位置を示す。使用時には、上部レール36は保持ねじ50によって、相対的に上昇させられた位置で垂直なスタッドに固定されていて、この相対的に上昇させられた位置に保持されている。
【0039】
実際には、上述のような壁枠12は、保持ねじ50によってその上昇させられた位置に保持された上部レール36を有する状態で組み立てられる。これは、浮きスラブ26の重量が、上部レール36から保持ねじ50を通って垂直なスタッド30へと通過することを意味する。この形式で浮きスラブ26は壁枠12によって支持されている。したがって、壁枠12は、上部レール36、保持ねじ50および垂直なスタッド30を通ってスラブ10に向かう荷重経路を規定する。
【0040】
柱24が硬化すると、保持ねじ50を取り外すことができる。保持ねじ50の取り外しは、上部レール36の移動、すなわち上昇させられた位置と降下させられた位置との間での、スラブ26に対する相対的な移動を可能にする。保持ねじ50の取り外しにより、スラブ26(および上方の階層)の鉛直荷重は柱24により受け止められるので、壁枠12はもはや荷重を支持しない。したがって、保持ねじ50の取り外しは、上で明示した荷重経路における断絶部を創出する。
【0041】
これは、実質的に、壁枠12が建造物の建設中に荷重を支持していて、非常に速いペースの建設を可能にすることを意味している。建設後、壁枠12は、荷重を支持しなくなるので、荷重支持要素は建築法規の要求に応じてコンクリートになる。
【0042】
このことは、壁枠12から柱24への荷重の完全な移動を示すことを理解されたい。
【0043】
代替的な実施形態では、保持ねじ50が、特定の荷重下、たとえば2つのより高い階層の荷重下でせん断するように設計されてもよい。保持ねじ50のせん断は、壁枠12からの荷重の移動という同一の目的に役立つ。
【0044】
柱せき板16は、荷重を支持しなくてもよいことを理解されたい。代替的には、柱せき板16は、壁枠12と類似の形式で形成されてよく、荷重移動前の壁枠12の耐荷量の一部を成していてよい。
【0045】
当業者にとって明らかな変形およびバリエーションは、本発明の範囲内にあるとみなされる。