(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190167
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】密封構造および密封方法
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3232 20160101AFI20221215BHJP
F16J 15/3252 20160101ALI20221215BHJP
F16J 15/3212 20160101ALI20221215BHJP
【FI】
F16J15/3232 201
F16J15/3252
F16J15/3212
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178321
(22)【出願日】2022-11-07
(62)【分割の表示】P 2022544310の分割
【原出願日】2022-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2021056971
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 篤史
(57)【要約】
【課題】シール性能を維持しながら、摩擦によるシール部材の温度の過度な上昇を抑制する。
【解決手段】密封装置は、ロッドの軸方向において隣合う高圧空間と低圧空間との間に配置され、ロッドの外周面と、ロッドを挿通するハウジングの内周面との間の隙間を密封する。密封装置は、ハウジング装着される環状部材と、環状部材に取り付けられ、ロッドの外周面に向かって張り出し、ロッドの外周面と接触可能なシール部材と、を備える。シール部材は、径方向において外側に配置される外周部と、径方向において内側に配置される内周部とを有する。シール部材は、湾曲して変形可能であり、ロッドの外周面と接触可能な部分が、ロッドの軸方向において低圧空間に向かって張り出すように変形可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能なロッドと、
前記ロッドが挿通される開口部を有するハウジングと、
前記ハウジングの内部において前記ロッドの軸に沿って隣合う高圧空間と低圧空間との間に配置され、前記ロッドの外周面と前記開口部の内周面との間の隙間を密封する密封装置とを備え、
前記密封装置は、
前記ハウジングに装着された環状部材と、
前記環状部材に固定された環状のシール部材とを含み、
前記シール部材は、前記ロッドに近い内周部を有し、
前記内周部は、前記低圧空間に向けて湾曲し、かつ、前記湾曲した状態の内周部のうち前記ロッドに対向する封止面は、前記ロッドの外周面に接触した状態にある
密封構造。
【請求項2】
前記シール部材は、前記高圧空間の圧力が基準値を上回る場合に前記封止面が前記ロッドの外周面から離間するように、変形する、
請求項1の密封構造。
【請求項3】
前記環状部材は、前記ロッドの軸方向に延びる筒部を有し、
前記筒部は、前記シール部材よりも前記低圧空間に向かって張り出している、
請求項1又は2の密封構造。
【請求項4】
前記環状部材に対して前記シール部材を固定する取付部材を更に備え、
前記環状部材は、前記ロッドの外周面に向かって張り出すフランジを有し、
前記シール部材のうち前記ハウジングに近い外周部は、前記ロッドの軸方向において、前記フランジと前記取付部材との間に固定され、
前記フランジは、前記シール部材よりも高圧空間に近く、
前記取付部材は、前記シール部材よりも低圧空間に近く、
前記フランジの内周面は、前記取付部材の内周面よりも前記ロッドの外周面に近い、
請求項1から請求項3の何れかの密封構造。
【請求項5】
前記密封装置は、前記シール部材に接触する環状の板バネを含み、
前記板バネは、前記シール部材に沿って湾曲した状態で前記内周部を前記ロッドの外周面に押圧し、
前記板バネの内周面は、前記シール部材の内周面よりも前記低圧空間に向けて張り出している
請求項1から請求項4の何れかの密封構造。
【請求項6】
回転可能なロッドと、前記ロッドが挿通される開口部を有するハウジングと、前記ハウジングの内部において前記ロッドの軸方向に隣合う高圧空間と低圧空間との間に配置され、前記ロッドに近い内周部を有するシール部材と、を利用した密封方法であって、
前記高圧空間内の圧力が基準値を下回る場合に、前記シール部材のうち前記ロッドに近い内周部が前記低圧空間に向けて湾曲し、かつ、前記湾曲した状態の内周部のうち前記ロッドに対向する封止面が前記ロッドの外周面に接触した状態に、前記シール部材を維持することで、前記ロッドの外周面と前記開口部の内周面との間の隙間を密封し、
前記高圧空間内の圧力が前記基準値を上回る場合に、前記高圧空間内の圧力により前記内周部の前記封止面を押圧することで、前記封止面を前記ロッドの外周面から離間させる
密封方法。
【請求項7】
前記ロッドの回転数が増加することで、前記高圧空間内の圧力が上昇する
請求項6の密封方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
相対的に移動する軸とハウジングとの間の隙間を密封する密封装置がある(例えば、特許文献1参照)。密封装置は、ハウジングの軸孔の内周面に密着する円筒部を有する金属環と、板状かつ環状の樹脂部材により構成された樹脂製シールとを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術に係る密封装置の樹脂製シールは、外周部が金属環に固定され、内周部が湾曲するように変形した状態で軸の外周面に摺動自在に密着している。以上の状態で軸が高速に回転した場合、樹脂製シールと軸との間の摩擦により樹脂製シールの温度が過度に上昇する可能性がある。本開示は、シール性能を維持しながら、摩擦によるシール部材の温度の過度な上昇を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の密封構造は、回転可能なロッドと、前記ロッドが挿通される開口部を有するハウジングと、前記ハウジングの内部において前記ロッドの軸に沿って隣合う高圧空間と低圧空間との間に配置され、前記ロッドの外周面と前記開口部の内周面との間の隙間を密封する密封装置とを備え、前記密封装置は、前記ハウジングに装着された環状部材と、前記環状部材に固定された環状のシール部材とを含み、前記シール部材は、前記ロッドに近い内周部が前記低圧空間に向けて湾曲し、かつ、前記湾曲した状態の内周部のうち前記ロッドに対向する封止面が前記ロッドの外周面に接触した状態にある。
【0006】
本開示の密封方法は、回転可能なロッドと、前記ロッドが挿通される開口部を有するハウジングと、前記ハウジングの内部において前記ロッドの軸に沿って隣合う高圧空間と低圧空間との間に配置され、前記ロッドに近い内周部を有するシール部材と、を利用した密封方法であって、前記高圧空間内の圧力が基準値を下回る場合に、前記シール部材のうち前記ロッドに近い内周部が前記低圧空間に向けて湾曲し、かつ、前記湾曲した状態の内周部のうち前記ロッドに対向する封止面が前記ロッドの外周面に接触した状態に、前記シール部材を維持することで、前記ロッドの外周面と前記開口部の内周面との間の隙間を密封し、前記高圧空間内の圧力が前記基準値を上回る場合に、前記高圧空間内の圧力により前記内周部の前記封止面を押圧することで、前記封止面を前記ロッドの外周面から離間させる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】ロッドに装着された密封装置を示す部分断面図である。
【
図4】ロッドに装着された密封装置を示す部分断面図であり、基準値以下の圧力が作用し、ロッドの外周面とシール部材とが接触している状態を示す図である。
【
図5】ロッドに装着された密封装置を示す部分断面図であり、基準値を上回る圧力が作用し、ロッドの外周面からシール部材が離間している状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面において各部の寸法及び縮尺は実際のものと適宜に異ならせてある。また、以下に記載する実施形態は、本開示の好適な具体例である。このため、本実施形態には、技術的に好ましい種々の限定が付されている。しかし、本開示の範囲は、以下の説明において特に本開示を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0009】
図1は、実施形態に係る密封構造100を示す部分断面図である。密封構造100は、例えば気体を圧縮する圧縮機等の各種の装置に利用される。密封構造100は、ハウジング2とロッド3と密封装置10とを備える。
図2は、密封装置10を示す部分断面図である。
図3は、密封装置10を示す正面図である。なお、各図において、軸方向X及び径方向Yが矢印で示されている。
図2及び
図3には、ロッド3に装着される前の状態の密封装置10が図示されている。
図3には、密封装置10のうち低圧空間Lに向かう表面が図示されている。
【0010】
密封装置10は、ハウジング2の開口部2aの内周面2bとロッド3の外周面3aとの間の隙間に配置される。ハウジング2は、例えば回転機械の一部でもよい。開口部2aは、円形状の開口である。ロッド3は、ハウジング2の開口部2aの内部に挿通されている回転軸である。ロッド3は軸回りに回転する。ロッド3は、図示しない軸受によって回転可能に支持される。ハウジング2及びロッド3は同軸上に配置される。密封装置10は、ハウジング2の内周面2bとロッド3の外周面3aとの間の隙間を封止する。
【0011】
密封装置10の使用状態において、密封装置10を挟んで軸方向Xに沿って隣合う2つの空間のうち一方の空間は、低圧空間Lであり、他方の空間は、高圧空間Hである。
図1において、密封装置10の左側の空間が、低圧空間Lであり、密封装置10の右側の空間が、高圧空間Hである。例えば、高圧空間Hは、密封構造100を備える機器の内部空間でもよい。低圧空間Lは、密封構造100を備える機器の外部空間でもよい。低圧空間Lは、ハウジング2内において、外部空間と連通する空間でもよい。ロッド3が回転することで高圧空間Hの内部の気体が圧縮される。具体的には、ロッド3の回転数が増加するほど高圧空間H内の気体が圧縮され、結果的に高圧空間H内の圧力が上昇する。ロッド3は、最大で例えば100krpm(rotation per minute)以上の高速で回転する。密封装置10の通常の使用状態において、高圧空間Hの内部の圧力は、低圧空間Lの内部の圧力よりも高い。なお、ロッド3の回転数は以上の例示に限定されない。例えばロッド3の回転数は、5000rpm~100000rpmでもよい。
【0012】
密封装置10は、外側リング20、内側リング30、シール部材40、及び板バネ50を備える。外側リング20は、筒部21、フランジ22、及びカシメ部23を有する。筒部21は、所定の長さにわたり軸方向Xに延びる部分である。筒部21は、軸方向Xに離間する端部21a,21bを含む。フランジ22は、筒部21の一方の端部21aから径方向Yの内側に張り出す。すなわち、フランジ22は、ロッド3の外周面3aに向かって張り出す。フランジ22の厚さ方向は、軸方向Xに沿う。カシメ部23は、筒部21の他方の端部21bから径方向Yの内側に突出する。カシメ部23は、筒部21の端部21bが折り曲げられることで形成されている。筒部21の外周面21cは、ハウジング2の内周面2bと接触する面を含む。筒部21の外周面21cは、ハウジング2の内周面2bと密着してもよい。外側リング20は、例えば金属製である。外側リング20に採用される金属としてはステンレス鋼が挙げられる。外側リング20は、ステンレス鋼以外の金属から形成されていてもよく、樹脂などその他の材料から形成されていてもよい。外側リング20は、環状部材の一例である。
【0013】
内側リング30は、筒部31、及びフランジ32を有する。内側リング30は、径方向Yにおいて、外側リング20の内側に配置される。内側リング30は、外側リング20に嵌る。内側リング30の外周面31cは、外側リング20の内周面21dに接触する。筒部31は、軸方向Xに所定の長さを有する。軸方向Xにおける筒部31の長さは、外側リング20の筒部21の軸方向Xにおける長さより短い。筒部31は、軸方向Xに離間する端部31a,31bを含む。フランジ32は、筒部31の一方の端部31aから径方向Yの内側に張り出す。フランジ32の厚さ方向は、軸方向Xに沿う。フランジ32は、軸方向Xにおいて、外側リング20のフランジ22に近い位置に配置される。筒部31の他方の端部31bは、外側リング20のカシメ部23によって、軸方向Xの位置が規定される。軸方向Xにおいて、筒部31の端部31bは、カシメ部23と接触する。筒部31の外周面31cは、外側リング20の筒部21の内周面21dと当接する面を含む。内側リング30は、外側リング20に対してシール部材40を固定するための部材であり、取付部材の一例である。
【0014】
シール部材40は、環状の板状部材である。シール部材40の中央部には、開口部40aが形成されている。開口部40aにはロッド3が挿通される。ロッド3が挿通されていない状態において、開口部40aの内径は、ロッド3の外径よりも小さい。シール部材40のうちハウジング2に近い部分(以下「外周部」という)40bは、外側リング20に対して取り付けられる部分を含む。外周部40bは、シール部材40のうち外周を含む環状の部分である。シール部材40の外周部40bの厚さ方向は、軸方向Xに沿う。シール部材40の外周部40bは、軸方向Xにおいて、外側リング20のフランジ22と内側リング30のフランジ32との間に固定される。シール部材40は、板バネ50と共に、フランジ22,32に挟まれている。
【0015】
シール部材40の外周部40bは、軸方向Xにおいて外側リング20のフランジ22と、内側リング30のフランジ32との間に配置されている。外側リング20のフランジ22は、シール部材40の外周部40bよりも高圧空間Hに近い位置に配置されている。内側リング30のフランジ32は、シール部材40の外周部40bよりも低圧空間Lに近い位置に配置されている。
【0016】
外側リング20のフランジ22は、内側リング30のフランジ32よりもロッド3の外周面3aに向かって張り出している。すなわち、フランジ22の内周面22aは、フランジ32の内周面32aよりもロッド3の外周面3aに近い位置にある。
【0017】
シール部材40は、内周部40cを有する。内周部40cは、シール部材40のうちロッド3に近い環状の部分である。すなわち、内周部40cは、シール部材40のうち内周を含む環状の部分である。密封装置10の使用状態において、内周部40cは、低圧空間Lに向かって張り出している。
図1に示される断面において、シール部材40の内周部40cは、低圧空間Lに向かって湾曲している。開口部40aにロッド3が挿通された状態において、内周部40cは筒状を成していてもよい。この状態において、内周部40cにおける径方向Yの内側の面(以下「封止面」という)40eは、ロッド3の外周面3aに接触する。内周部40cの封止面40eは、ロッド3の外周面3aに密着してもよい。封止面40eは、低圧空間Lに向かって湾曲した状態の内周部40cのうちロッド3に対向する面である。なお、シール部材40は、円盤状のものに限定されない。シール部材40は、例えば、複数の板状片を含んでもよい。
【0018】
シール部材40は例えば樹脂製である。シール部材40に採用される樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が挙げられる。このPTFEは、耐熱性,耐圧性及び耐薬品性に優れる。PTFEは、摺動摩耗が少ない。シール部材40は、可撓性及び伸縮性を有する。シール部材40は、樹脂製に限定されず、ゴムなどその他の材質から形成されてもよい。
【0019】
板バネ50は、円盤状を成す。板バネ50の中央部には、開口部50aが形成されている。
図2に示されるように、密封装置10がロッド3に装着されていない状態において、開口部50aの内径は、シール部材40の開口部40aの内径よりも小さい。ただし、開口部50aの内径は、シール部材40の開口部40aの内径よりも大きくてもよく、同じでもよい。
【0020】
板バネ50の外周部50bは、外側リング20に対して取り付けられる。板バネ50の外周部50bの厚さ方向は、軸方向Xに沿う。板バネ50の外周部50bは、軸方向Xにおいて、シール部材40の外周部40bと、内側リング30のフランジ32との間に配置されている。以上の通り、シール部材40及び板バネ50は、フランジ22,33に挟まれている。これにより、シール部材40及び板バネ50は、外側リング20及び内側リング30に対して取り付けられる。板バネ50は、シール部材40よりも低圧空間Lに近い位置に配置され、シール部材40に接触する。
【0021】
図3に示されるように、板バネ50には、開口部50aから径方向Yに放射状に延びる複数のスリット51が形成されている。スリット51は、板バネ50を厚み方向に貫通する。
【0022】
密封装置10の使用状態において、板バネ50のうちロッド3に近い部分(以下「内周部」という)50cは、低圧空間Lに向けて張り出している。
図1に示される断面において、板バネ50の内周部50cは、低圧空間Lに向けて湾曲している。すなわち、板バネ50は、シール部材40に沿って湾曲している。密封装置10の使用状態において、板バネ50の開口部50aの内周面50dは、シール部材40の開口部40aの内周面40dよりも、低圧空間Lに向けて張り出している。なお、内周面40dは、シール部材40のうち使用状態において低圧空間Lを向く端面である。内周面50dは、板バネ50のうち使用状態において低圧空間Lを向く端面である。
【0023】
密封装置10の使用状態において、板バネ50は、シール部材40に沿って湾曲した状態で当該シール部材40の内周部40cを、径方向Yの内側に押圧する。シール部材40の内周部40cは、ロッド3の外周面3aに押し当てられている。シール部材40の封止面40eは、ロッド3の外周面3aに接触している。シール部材40の封止面40eは、ロッド3の外周面3aと密着してもよい。
【0024】
次に、密封装置10の動作について説明する。ロッド3は、密封装置10のうち高圧空間Hに近い空間からシール部材40の開口部40aに挿入される。前述の通り、ロッド3の外径はシール部材40の内径を上回る。したがって、内周部40cは、挿入の過程においてロッド3により押圧されることで低圧空間Lに向けて湾曲する。すなわち、シール部材40の内周部40cは、ロッド3の外周面3aに接触して、低圧空間Lに向けて張り出す。密封装置10の使用状態において、内周部40cの封止面40eは、ロッド3の外周面3aに接触するリップシールとして機能できる。ロッド3の軸方向Xにおいて、ロッド3の外周面3aとシール部材40の封止面40eとの接触面は所定の長さを有する。
【0025】
ロッド3は、ハウジング2に対してX軸方向に相対移動可能である。ロッド3は、軸回りに回転する。シール部材40の内周部40cは、板バネ50によって、径方向Yの外側からロッド3の外周面3aに押し当てられている。シール部材40の封止面40eは、ロッド3の外周面3aと接触する。シール部材40自体の弾性的な復元力と板バネ50による押圧とにより、シール性能が維持される。
【0026】
本実施形態においては、封止面40eがロッド3の外周面3aに接触した状態で、ロッド3が例えば100krpm以上の高速で回転する。また、本実施形態の密封構造100は、貧潤滑環境で動作する。貧潤滑環境は、潤滑油が存在しない環境、または潤滑油が充分に少ない環境である。貧潤滑環境のもとでロッド3が高速回転する構成において、ロッド3とシール部材40とが恒常的に密着するとすれば、ロッド3とシール部材40との間の摩擦により、シール部材40の温度が過度に上昇する可能性がある。以上の事情を背景として、本実施形態においては、前述の通り、シール部材40の内周部40cが低圧空間Lに向けて湾曲する構成を採用する。以上の構成によれば、高圧空間H内の圧力が上昇した場合に、シール部材40の封止面40eがロッド3の外周面3aから離間する。封止面40eの離間により封止面40eと外周面3aとの摩擦が解消され、結果的にシール部材40の温度の上昇が抑制される。以上の作用について詳述する。
【0027】
まず、
図4を参照して、高圧空間H内の圧力が基準値PBを下回る状態について説明する。高圧空間Hの内部の圧力は、例えば第1圧力P1となっている。第1圧力P1は、基準値PBを下回る圧力である。第1圧力P1がシール部材40に作用する場合には、シール部材40の封止面40eは、ロッド3の外周面3aと接触している。第1圧力P1が作用することで、シール部材40の内周部40cは、ロッド3の外周面3aから離間する方向に押される。しかし、シール部材40は、板バネ50によってロッド3の外周面3aに押し当てられているため、ロッド3の外周面3aから離間しない。第1圧力P1がシール部材40を押し上げる力を、板バネ50によってシール部材40をロッド3に向かって押し付ける力が上回る。したがって、シール部材40は、内周部40cの封止面40eがロッド3の外周面3aに接触した状態に維持される。この場合、高圧空間Hから低圧空間Lへの内部気体の漏れは、高圧空間Hの内部圧力が基準値PBを上回る場合と比較して少ない。高圧空間Hから低圧空間Lへの漏れは非常に少なくてもよい。シール部材40がロッド3の外周面3aから離間しない場合であっても、高圧空間Hの内部の圧力がシール部材40に作用しているので、シール部材40を押し上げる方向に力が作用している。このように、シール部材40を押し上げる方向の力が作用している分だけ、シール部材40とロッド3との間の摺動抵抗は低下する。密封装置10は、シール部材40とロッド3とを接触させながら、摺動抵抗を低減できる。密封装置10は、高圧空間Hから低圧空間Lへの内部気体の漏れを抑制しつつ、摺動抵抗を低減できる。
【0028】
ロッド3が高速に回転することで高圧空間H内の気体が圧縮されると、高圧空間H内の圧力が上昇する。
図5を参照して、高圧空間H内の圧力が基準値PBを上回る状態について説明する。高圧空間Hの内部の圧力は、例えば第2圧力P2となっている。第2圧力P2は、第1圧力P1より高い。第2圧力P2は、基準値PBを上回る圧力である。
【0029】
基準値PBを上回る第2圧力P2がシール部材40に作用する場合には、シール部材40の封止面40eは、ロッド3の外周面3aから離間する。すなわち、第2圧力P2がシール部材40を押し上げる力が、板バネ50によってシール部材40をロッド3に向かって押し付ける力を上回る。シール部材40は、高圧空間Hから第2圧力P2が作用することで、シール部材40の内周部40cがロッド3の外周面3aから離間する方向に押されて変形する。これにより、封止面40eはロッド3の外周面3aから離間して、高圧空間Hから低圧空間Lへ内部気体が漏れる。高圧空間Hの内部気体は、シール部材40の封止面40eとロッド3の外周面3aとの間の隙間を通り、低圧空間Lに流れ出る。シール部材40は、基準値PBを上回る圧力が作用している場合に、一時的に、ロッド3の外周面3aから離間してもよい。
【0030】
高圧空間Hの内部気体が、低圧空間Lに流出することにより、高圧空間Hの内部の圧力が低下する。高圧空間Hの内部の圧力が基準値PBを下回ると、シール部材40は、板バネ50によって押されて、ロッド3の外周面3aに接触する。
【0031】
密封装置10では、高圧空間Hの内部の圧力が上昇して基準値PBを上回ると、シール部材40が変形して、シール部材40の封止面40eがロッド3の外周面3aから離間する。したがって、高圧空間Hの圧力を低圧空間Lに逃がすことができる。これにより、高圧空間Hにおける過大な圧力上昇を抑制できる。
【0032】
以上の通り、密封構造100においては、高圧空間Hの内部の圧力が基準値PBを上回る場合に、シール部材40の封止面40eがロッド3の外周面3aから離間するように変形する。したがって、封止面40eの離間により封止面40eと外周面3aとの摩擦が解消され、結果的にシール部材40の温度の上昇が抑制される。すなわち、本実施形態によれば、高圧空間H内の圧力が基準値PBを下回る状態ではシール性能を充分に維持しながら、高圧空間H内の圧力が基準値PBを上回る状態ではシール部材40の過度な温度上昇を抑制できる。前述の通り、貧潤滑環境のもとでロッド3が高速回転する構成では、シール部材40の温度の上昇が特に顕著である。したがって、高圧空間H内の圧力の上昇時に封止面40eをロッド3から離間させる本実施形態は特に有効である。
【0033】
また、密封装置10では、シール部材40の封止面40eがロッド3の外周面3aから離間するように変形するので、シール部材40とロッド3との間の摺動抵抗を低減できる。密封装置10では、シール部材40とロッド3との間の摺動抵抗が一定の値を超えないように、シール部材40をロッド3の外周面3aから離間させて、摺動抵抗の上昇を回避できる。密封装置10では、摺動抵抗を低減することで、発熱を抑制し、クリープによる永久ひずみの発生を抑制できる。密封装置10では、高圧空間Hの圧力が適切に維持されるので、高圧空間Hを形成するハウジング2の損傷が抑制できる。
【0034】
密封装置10の使用状態において、高圧空間Hには、圧力が印加されている。密封装置10を備える機器は、高圧空間Hの圧力を増大させる昇圧機構を備えていてもよい。昇圧機構は、高圧空間Hの内部に圧力を印加できる。高圧空間H内の圧力が基準値PBを上回るように増大させることで、シール部材40は、内周部40cの封止面40eがロッド3の外周面3aから離間するように変形させてもよい。これにより、シール部材40の封止面40eとロッド3の外周面3aとの間の摺動抵抗を低減して、シール部材40の減耗を抑制できる。
【0035】
このような密封装置10によれば、シール部材40の内周部40cが低圧空間Lに向けて張り出しているので、内周部40cの外側の面40fには、高圧空間H内の圧力ではなく、低圧空間L内の圧力が作用する。これにより、シール部材40の内周部40cによる過大な締め付けを防止できる。そのため、摺動発熱を抑制すると共に、ロッド3を回転させるためのトルクの増大を抑制できる。摺動発熱を抑制することで、内周部40cにおけるクリープの発生を抑制できる。密封装置10では、クリープによる永久ひずみの発生を抑制することで、シール性能を維持して、製品寿命を延ばすことができる。
【0036】
また、密封装置10では、使用状態において、高圧空間Hの圧力が基準値PBを上回る場合に、シール部材40を変形させて、シール部材40の内周部40cの封止面40eと、ロッド3の外周面3aとの接触圧を減少させるように調整できる。これにより、シール部材40における減耗を抑制することができると共に、ロッド3を回転させるためのトルク増大を抑制できる。また、シール部材40とロッド3との間の摩擦抵抗を緩和することで、シール部材40における発熱を抑制し、シール部材40のクリープによる永久ひずみを抑制できる。その結果、密封装置10によるシール性能を維持し、信頼性の向上を図ることができる。
【0037】
密封装置10によれば、内周部40cに対してロッド3の外周面3aに向かう方向に作用する付勢力と、高圧空間Hに印加される圧力とを調整することで、ロッド3の低トルク化を実現できる。密封装置10は、高速回転、貧潤滑の過酷環境下における使用状態においても、摺動発熱による内周部40cのクリープを抑制することができるので、シール性能を確保し、製品寿命を延ばすことができる。
【0038】
密封装置10では、外側リング20の筒部21が、シール部材40よりも低圧空間Lに向かって張り出している。径方向Yにおいて、シール部材40は、外側リング20の内側に配置されている。密封装置10では、軸方向Xにおいて、シール部材40が筒部21から張り出していないので、シール部材40が他の物体と当たるおそれが低減される。これにより、シール部材40の機械的な損傷が抑制される。
【0039】
密封装置10では、高圧空間Hに近いフランジ22が、低圧空間Lに近いフランジ32よりも、ロッド3の外周面3aに向かって張り出している。これにより、シール部材40が低圧空間Lに向けて曲がりやすくできる。
【0040】
また、密封装置10においては、シール部材40の内周部40cが板バネ50によりロッド3の外周面3aに押圧される。したがって、基準値PBを上回る圧力により内周部40cが変形するとはいっても、内周部40cが過度に変形する可能性は低減される。すなわち、内周部40cが板バネ50により押圧されることで、当該内周部40cを適度な範囲で変形させることが可能である。また、以上の通り、封止面40eがロッド3の外周面3aから過度に離間する可能性が低減される。すなわち、封止面40eと外周面3aとの隙間の過度な拡大が抑制される。したがって、高圧空間Hから過度に多量の気体が低圧空間Lに流出する可能性を低減できる。経年変化によりシール部材40の弾性力が低下した状態でも、板バネ50による押圧でシール性能を維持できるという利点もある。
【0041】
密封装置10では、板バネ50の板厚を適宜設定することで、シール部材40の変形の程度を設定できる。また、板バネ50のスリット51の本数を変更することで、シール部材40の変形の程度を変更できる。また、シール部材40の厚さを適宜設定することで、シール部材40の変形の程度を設定できる。
【0042】
次に従来技術に係る密封装置について説明する。従来技術に係る密封装置では、シール部材が高圧空間Hに向けて張り出すように湾曲している。シール部材のうちロッド3に近い部分は、シール部材のうちロッド3から遠い部分よりも高圧空間Hに向けて張り出している。この場合、シール部材のうちロッド3に近い部分は、高圧空間Hの内部の圧力によって、ロッド3の外周面3aに押し付けられる。従来技術に係る密封装置では、高圧空間Hの内部の圧力が上昇すると、シール部材のロッド3に近い部分は、ロッド3の外周面3aに向かって押される。そのため、高圧空間Hの圧力が上昇すると、より強い力でシール部材がロッド3に押し当てられるので、シール部材はロッド3の外周面3aから離間しない。
【0043】
一方、本実施形態に係る密封装置10では、シール部材40が低圧空間Lに向けて張り出すように湾曲している。シール部材40のうちロッド3に近い部分である内周部40cは、
図5に示されるように、高圧空間Hの内部の圧力が上昇すると、ロッド3の外周面3aから離れる方に押される。すなわち、密封装置10では、高圧空間Hの内部の圧力が上昇すると、従来技術とは異なり、シール部材40は、ロッド3の外周面3aから離間するように変形する。密封装置10では、高圧空間Hの内部気体が、低圧空間Lに漏れ出すことを許容する。密封装置10では、高圧空間Hの内部の圧力が上昇して基準値PBを上回ると、シール部材40がロッド3から離間するので、シール部材40とロッド3との間の摩擦が解消される。したがって、シール部材40とロッド3との間摩擦に起因したシール部材40の温度上昇が抑制される。また、密封装置10では、高圧空間Hの内部の圧力が基準値PBを上回る場合に、高圧空間Hの圧力を下げると共に、シール部材40とロッド3との間の摺動抵抗を下げることができる。
【0044】
なお、高圧空間Hから低圧空間Lへの内部気体の漏れ量は、ロッド3を備える機器の運転に支障がない程度の漏れ量である。高圧空間Hから低圧空間Lへの内部気体の漏れ量は、低圧空間Lの環境に大きな影響を与えない程度の漏れ量でもよい。
【0045】
なお、前述した実施形態は、本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本開示は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更、付加が可能である。
【0046】
(1)上記の実施形態では、密封装置10は、板バネ50を備える構成としているが、密封装置10は板バネ50を備えていない構成でもよい。上記の実施形態では、内側リング30を用いて、シール部材40を外側リング20に対して取り付けているが、その他の部材を用いて、シール部材40を外側リング20に対して取り付けてもよい。
【0047】
(2)上記の実施形態では、高圧空間Hの圧力が基準値PBを上回る場合に、シール部材40がロッド3の外周面3aから離間する構成を例示しているが、高圧空間Hの圧力が基準値PBを超えても、シール部材40がロッド3の外周面3aから離間しない場合もある。例えば、高圧空間Hの圧力が基準値PBを上回る場合であっても、高圧空間Hと低圧空間Lとの圧力差が少ない場合には、シール部材40はロッド3の外周面3aと接触したままでもよい。シール部材40とロッド3とが接触している場合であっても、高圧空間Hの圧力が、シール部材40を押し上げる方向に作用するので、シール部材40とロッド3との間の摺動抵抗が低下する。
【0048】
(3)上記の実施形態では、高圧空間Hに気体が充填された形態を例示したが、高圧空間Hに充填される流体は液体でもよく、液体及び気体が混合された流体でもよい。ただし、高圧空間Hに充填された気体を密封装置10により封止する構成においては、ロッド3が高速で回転した場合におけるシール部材40の温度の上昇が特に顕著である。したがって、本発明は、高圧空間Hに気体が充填された構成(すなわち密封装置10が気体を封止する構成)において特に有効である。
【0049】
(4)上記の実施形態では、貧潤滑環境を想定したが、密封装置10に対して潤滑油が供給されてもよい。潤滑油は、例えば、高圧空間H側から供給されてもよく、低圧空間L側から供給されてもよい。潤滑油は、シール部材40の内周部40cと、ロッド3の外周面3aとの間に存在し得る。潤滑油は、シール部材40の封止面40eとロッド3の外周面3aとの間の隙間に存在してもよい。封止面40eがロッド3の外周面3aから離間すると、高圧空間H内に存在する潤滑油は、シール部材40とロッド3との間の隙間に侵入し得る。密封装置10では、摩擦抵抗の増大を抑制することができ、ロッド3のトルク増大が抑制される。
【0050】
(5)上記の実施形態では、外側リング20と内側リング30とによりシール部材40を支持したが、シール部材40を支持するための構造は、以上の例示に限定されない。例えば、外側リング20と内側リング30とが一体をなす環状部材により、シール部材40が支持されてもよい。また、例えばシール部材40の外周面がハウジング2の内周面2bに接触した状態で当該シール部材40が環状部材により支持されてもよい。
【0051】
(6)上記の実施形態では、軸方向Xにおいて、シール部材40が外側リング20から張り出していない場合について例示しているが、密封装置10はこれに限定されない。軸方向Xにおいて、シール部材40が外側リング20から張り出してもよい。
【符号の説明】
【0052】
2…ハウジング、2a…開口部、2b…内周面、3…ロッド、3a…外周面、10…密封装置、20…外側リング(環状部材)、30…内側リング(取付部材)、40…シール部材、40b…外周部、40c…内周部、40e…封止面、H…高圧空間、L…低圧空間、X…軸方向、Y…径方向。