(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190217
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】3Dプリンターで作成する積層造形体に用いる材料の性状評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 11/00 20060101AFI20221219BHJP
G01N 3/40 20060101ALI20221219BHJP
G01N 33/38 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
G01N11/00 E
G01N3/40 B
G01N33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098434
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100130362
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 嘉英
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 友基
(72)【発明者】
【氏名】梶田 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】福山 隼人
(72)【発明者】
【氏名】西脇 智哉
(72)【発明者】
【氏名】宮田 賢優
(72)【発明者】
【氏名】古江 翔子
(57)【要約】
【課題】 コンクリートを用いた3Dプリンターで使用する材料の性状(圧送性・自立性・積層性)を簡便な方法で評価する。
【解決手段】 圧送性適性評価工程(S1)と、自立性適正評価工程(S2)と、積層性適正評価工程(S3)とを含む。圧送性適正評価工程(S1)は、テーブルフロー試験又はコーンプランジャー試験の少なくとも一方を行って、試験結果が適正値の範囲内であるか否かにより複合材料の圧送性を評価する。自立性適正評価工程(S2)は、コーンプランジャー試験を行って、試験結果が適正値の範囲内であるか否かにより複合材料の自立性を評価する。積層性適正評価工程(S3)は、積層造形体の表面性状について算術平均粗さを求めて、当該算術平均粗さが適正値の範囲内であるか否かにより複合材料の積層性を評価する。すべての適性評価工程で適正値を満足した材料を適正な材料と判断する(S4)。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3Dプリンターで積層造形体を造成するために用いる複合材料の性状を評価するための方法であって、
圧送性の適性評価を行う圧送性適性評価工程と、自立性の適正評価を行う自立性適正評価工程と、積層性の適正評価を行う積層性適正評価工程と、
を含み、
前記圧送性適正評価工程は、テーブルフロー試験又はコーンプランジャー試験の少なくとも一方を行って、試験結果が適正値の範囲内であるか否かにより複合材料の圧送性を評価し、
前記自立性適正評価工程は、コーンプランジャー試験を行って、試験結果が適正値の範囲内であるか否かにより複合材料の自立性を評価し、
前記積層性適正評価工程は、積層造形体の表面性状について算術平均粗さを求めて、当該算術平均粗さが適正値の範囲内であるか否かにより複合材料の積層性を評価する、
ことを特徴とする3Dプリンターで作成する積層造形体に用いる材料の性状評価方法。
【請求項2】
前記圧送性適正評価工程は、テーブルフロー試験又はコーンプランジャー試験の少なくとも一方により、材料の流動性を評価し、当該試験値に基づいて複合材料の圧送性を評価する、
ことを特徴とする請求項1に記載の3Dプリンターで作成する積層造形体に用いる材料の性状評価方法。
【請求項3】
前記自立性適正評価工程は、コーンプランジャー試験により、積層造形体の降伏応力を求め、当該降伏応力に基づいて複合材料の自立性を評価する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の3Dプリンターで作成する積層造形体に用いる材料の性状評価方法。
【請求項4】
前記積層性適正評価工程は、積層造形体の断面形状を認識して算術平均粗さを求め、当該算術平均粗さに基づいて複合材料の積層性を評価する、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の3Dプリンターで作成する積層造形体に用いる材料の性状評価方法。
【請求項5】
前記積層性適正評価工程は、積層造形体の断面形状に対する美観の評価値を加味して、複合材料の積層性を評価する、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の3Dプリンターで作成する積層造形体に用いる材料の性状評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3Dプリンターで作成する積層造形体に用いる材料の性状評価方法に関し、特に、3Dプリンターで積層造形体を造成するために用いる複合材料の圧送性、自立性、積層性に関する性状(物性)を評価するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建設分野において国内外を問わず、3Dプリント技術を用いて積層造形体(構造物)を積層しながら造形する構築方法である積層型3Dプリンターの開発が進んでいる。積層型3Dプリンターの材料は、基本的にセメント系材料を用い、ミキサーで練り上げたモルタルをポンプで圧送し、3次元造形装置に供給している。積層型3Dプリンターを用いた施工は、型枠なしで構造物を積層造形することができ、省人化、デザインの自由度、安全性などの点で従来のコンクリート施工に比べて高い優位性をもつものと期待される。
【0003】
今後、このような施工方法を実用化するためには、3Dプリンターの開発や改良などのほかにも、材料の圧送性、ノズルから積層造形体(構造物)に吐出された直後の材料の自立性、硬化後の積層体の表面性状などについても検討しておく必要がある。
【0004】
施工精度が高い積層造形体(構造物)の造形には、主として、自立性能が高い材料の開発、ノズルの位置精度や速度、材料の吐出量等の機械開発が要求される。さらに、様々な外力に対して、造形された構造物(構造形式)が十分な強度を発揮できるための構造性能が要求される。
【0005】
上述した材料の性状(物性)の中でも、ノズルから吐出されるセメント系材料は、輸送管内をスムーズに流れる流動性(圧送性)と、吐出後直ちに自立し強度を発現する形状安定性を兼ね備えた物性であるため、水添加率、練り上がりからの経過時間、輸送速度などの諸条件に、その物性が大きく左右される。
【0006】
コンクリート3Dプリンターに用いられる材料について、従来より数多くの技術が提案されている(例えば、特許文献1~4参照)。
【0007】
特許文献1に記載された技術は、3Dプリント技術で積層構造物を作成するための付加積層用セメント質材料に関するものである。この付加積層用セメント質材料は、セメント、細骨材、速硬性混和材、凝結遅延剤を含み、セメント100質量部に対して、速硬性混和材を20質量部以上200質量部以下含む付加積層用セメント質材料を混練してモルタルまたはコンクリートを製造する。そして、このモルタルまたはコンクリートを用いることにより、3Dプリント技術を用いたコンクリート施工法において、流動性と自立安定性とに優れた材料を提供することができるとしている。
【0008】
特許文献2に記載された技術は、3Dプリンター用ノズル装置に関するものである。この3Dプリンター用ノズル装置は、ポンプから供給された粘性材料を一時的に貯留するシリンダ部と、シリンダ部内の粘性材料を押し出すスクリューを備えたスクリュー搬送部と、スクリュー搬送部の先端に着脱可能に装着されるノズル部とを有している。そして、この3Dプリンター用ノズル装置を用いることにより、ポンプ等の粘性材料供給手段から供給される粘性材料の脈動の影響を受けずに粘性材料を定量供給できるとしている。
【0009】
特許文献3に記載された技術は、建設向け立体造形用セメント質材料に関するものである。この建設向け立体造形用セメント質材料は、セメント、骨材、リグニンスルホン酸系分散剤(R)とメラミンスルホン酸系分散剤(M)の質量割合が、R:M=100:80~400である分散剤、増粘剤、凝結遅延剤、酸化物換算でSiO2を10~25%含有する非晶質カルシウムアルミノシリケート、セッコウ、及び短繊維を含有している。そして、この建設向け立体造形用セメント質材料を用いることにより、一定量の材料供給が可能となるとともに、一定の積層スピードを確保できるとしている。また、優れた自立性及び強度発現性が得られるので、短時間に大型の造形体を構築できるとしている。
【0010】
特許文献4に記載された技術は、造形用セメント組成物に関するものである。この造形用セメント組成物は、少なくとも、セメント含有結合材を25~70質量%、混和剤を0.1~5質量%、及び細骨材を25~70質量%含んでいる。そして、この造形用セメント組成物を用いることにより、繊細かつ多様なデザインを有するセメント質硬化体を製造することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2020-200215号公報
【特許文献2】特開2019-147338号公報
【特許文献3】特開2018-140906号公報
【特許文献4】特開2017-24979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
現在、3Dプリンターで作成する積層造形体に用いる材料の性状評価方法について、ISOやJISなどで正式に定められている試験は存在しない。また、従来の技術では、規模が大きい試験方法が大半であり、試験体の準備や載荷設備の用意を踏まえると、必ずしも簡便な方法とは言えない(特に、自立性評価試験においては、この傾向が顕著である)。また、経時変化を確認する際には、時間ごとに試験体を準備する必要があり、同一サンプルでの繰り返し計測を実施できないため、結果のばらつきが懸念される。
【0013】
また、硬化後の積層体の表面性状は材料の配合により異なるが、表面の粗さを把握するために、常に硬化体を切断して断面を観察できるわけではない。さらに、積層体の表面を撮影した写真を用いて、目視で表面性状の違いを判断することは難しい。
【0014】
このように、3Dプリンターに用いられるセメント系材料の物性評価方法は、いまだ確立されていないのが現状である。そのため、3Dプリンターごとにそれぞれ独自に対応したセメント系材料を用いなければならないことが課題となっている。
【0015】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、コンクリートを用いた3Dプリンターで使用する材料の性状(圧送性・自立性・積層性)を簡便な方法で評価することが可能な性状評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る3Dプリンターで作成する積層造形に用いる材料の性状評価方法(以下、積層造形に用いる材料の性状評価方法と略記することがある)は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を有している。すなわち、本発明に係る積層造形に用いる材料の性状評価方法は、3Dプリンターで積層造形体を造成するために用いる複合材料の性状を評価するための方法であって、圧送性の適性評価を行う圧送性適性評価工程と、自立性の適正評価を行う自立性適正評価工程と、積層性の適正評価を行う積層性適正評価工程とを含んでいる。なお、各評価工程における試験自体としては、各試験を独立して行うが、各評価に関する工程の実施順位は任意であり、各評価工程を並列で実施してもよいし、いずれかの評価工程を優先して実施してもよい。
【0017】
圧送性適正評価工程は、テーブルフロー試験又はコーンプランジャー試験の少なくとも一方を行って、試験結果が適正値の範囲内であるか否かにより複合材料の圧送性を評価する工程である。例えば、テーブルフロー試験又はコーンプランジャー試験の少なくとも一方により、材料の流動性を評価し、当該試験値に基づいて複合材料の圧送性を評価する。なお、流動性は、圧送性と相関がある性質である。
【0018】
自立性適正評価工程は、コーンプランジャー試験を行って、試験結果が適正値の範囲内であるか否かにより複合材料の自立性を評価する工程である。例えば、コーンプランジャー試験により、積層造形体の降伏応力(せん断降伏応力)を求め、当該降伏応力に基づいて複合材料の自立性を評価する。
【0019】
積層性適正評価工程は、積層造形体の表面性状について算術平均粗さを求めて、当該算術平均粗さが適正値の範囲内であるか否かにより複合材料の積層性を評価する工程である。例えば、積層造形体の断面形状を認識して算術平均粗さを求め、当該算術平均粗さに基づいて複合材料の積層性を評価する。また、積層性適正評価工程は、積層造形体の断面形状に対する美観の評価値を加味して、複合材料の積層性を評価することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る積層造形に用いる材料の性状評価方法によれば、テーブルフロー試験、コーンプランジャー試験、積層造形体の表面性状について求めた算術平均粗さにより、3Dプリンターで作成する積層造形体に用いる材料の性状を評価する。すなわち、大がかりな試験機器や複雑な工程を行うことなく、簡便な方法により3Dプリンターで作成する積層造形体に用いる材料の性状を評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係る積層造形に用いる材料の性状評価方法の手順を示す説明図。
【
図2】コーンプランジャー試験機の模式図(全体図、一部拡大図)。
【
図3】コーンプランジャー試験による降伏応力の経時変化を示す説明図。
【
図5】従来の自立性評価試験の結果とコーンプランジャー試験の結果の関係を示す説明図。
【
図7】積層造形体の表面の算術平均粗さを示す説明図。
【
図9】試験に用いた材料の配合(調合)を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の積層造形に用いる材料の性状評価方法を説明する。
図1~
図9は本発明の実施形態に係る積層造形に用いる材料の性状評価方法を説明するもので、
図1は積層造形に用いる材料の性状評価方法の手順を示す説明図、
図2はコーンプランジャー試験機の模式図(全体図(a)、一部拡大図(b))、
図3はコーンプランジャー試験による降伏応力の経時変化を示す説明図、
図4は降伏応力と自立性との関係を示す説明図、
図5は従来の自立性評価試験の結果とコーンプランジャー試験の結果の関係を示す説明図、
図6は積層造形体の断面形状を示す説明図、
図7は積層造形体の表面の算術平均粗さを示す説明図、
図8は試験に用いた材料成分の説明図、
図9は試験に用いた材料の配合(調合)を示す説明図である。
【0023】
<積層造形に用いる材料の性状評価方法の概要>
本発明の実施形態に係る積層造形に用いる材料の性状評価方法は、コンクリートを用いた3Dプリンターで使用する材料の性能(圧送性・自立性・積層性)を簡便な方法で評価するための方法である。各評価項目において簡便な試験を行い、使用する3Dプリンターごとの閾値をクリアすることで適正な材料であることを判断する。なお、以下の説明において、複合材料とは、3Dプリンターのノズルから吐出した後のプリンティング材料のことである。
【0024】
本発明の実施形態に係る積層造形に用いる材料の性状評価方法は、
図1に示すように、圧送性の適性評価を行う圧送性適性評価工程(S1)と、自立性の適正評価を行う自立性適正評価工程(S2)と、積層性の適正評価を行う積層性適正評価工程(S3)とを含んでいる。なお、
図1では圧送性適性評価工程(S1)と自立性適正評価工程(S2)を並列に実行し、両適性評価工程において適正な材料と判断した後に、積層性適正評価工程(S3)を実行するように記載しているが、圧送性適性評価工程(S1)と、自立性適正評価工程(S2)と、積層性適正評価工程(S3)とは、それぞれ独立した適性評価工程であり、実行する順序は問わない。なお、各評価工程を実行する順序を問わないとは、工程としての順序のことであり、各評価工程における試験自体は、それぞれ独立して行う。そして、圧送性適性評価工程(S1)、自立性適正評価工程(S2)、積層性適正評価工程(S3)の全ての適性評価工程において、適性値の範囲内にある材料が、積層造形に用いる適正な材料となる(S4)。
【0025】
<圧送性適性評価工程>
圧送性適性評価工程は、テーブルフロー試験又はコーンプランジャー試験の少なくとも一方を行って、試験結果が適正値の範囲内であるか否かにより複合材料の圧送性の評価を行う工程である。具体的には、テーブルフロー試験又はコーンプランジャー試験の少なくとも一方により、材料の流動性(圧送性と相関のある性質)を評価し、当該試験値に基づいて複合材料の圧送性を評価する。
【0026】
<テーブルフロー試験>
テーブルフロー試験は、セメントの物理試験方法を規定したJIS R 5201に準拠した試験であり、詳しくは、モルタルの流動性を計測するための試験である。テーブルフロー試験は、テーブル上に載置したフローコーン内に試料を2層で充填し、全面にわたって各層15回ずつ突き棒で突く。その後、フローコーンを抜き取り、フローテーブルを上下動させて、15秒間に15回の落下運動を与える。そして、広がった試料の径を最大と認める方向と、これに直角な方向とで測定し、その平均値をフロー値(mm)とする。
【0027】
テーブルフロー試験により求めたフロー値により材料の流動性が解るため、このフロー値に基づいて複合材料の圧送性を評価する。圧送性の評価では、フロー値が適正値の範囲内であれば積層造形に用いる適正な材料と判断し、フロー値が適正値の範囲を逸脱していれば積層造形に用いることができない不適正な材料と判断する。
【0028】
本発明では、圧送性適性評価工程における試験方法として、テーブルフロー試験だけではなくコーンプランジャー試験の試験結果も利用することができる。すなわち、テーブルフロー試験に代えてコーンプランジャー試験を行うか、テーブルフロー試験に加えてコーンプランジャー試験を行って、複合材料の圧送性を評価する。コーンプランジャー試験については、後に詳述する。
【0029】
<自立性適正評価工程>
自立性適正評価工程は、コーンプランジャー試験を行って、試験結果が適正値の範囲内であるか否かにより複合材料の自立性を評価する工程である。具体的には、コーンプランジャー試験により、積層造形体の降伏応力を求め、当該降伏応力に基づいて複合材料の自立性を評価する。
【0030】
<コーンプランジャー試験>
コーンプランジャー試験は、セメントの物理試験方法を規定したJIS R 5201に準拠した試験であり、詳しくは、ビカー針装置を用いてセメントの標準軟度、始発、終結時間を測定するための試験である。
【0031】
本実施形態のコーンプランジャー試験では、
図2に示すコーンプランジャー試験機10を用いて、試験対象となる複合材料の自立性を評価するための降伏応力を簡便に求めることができる。コーンプランジャー試験機10は、
図2に示すように、基台11の上部にアーム12を取り付けてある。また、アーム12には、治具15により、支持棒14を上下移動可能に取り付けてある。そして、支持棒14の先端(下端部)には、コーン13を取り付けてある。なお、治具15を操作することにより、支持棒14をアーム12に固定した状態と、アーム12への固定を解除して、支持棒14が自由落下する状態とに設定することができる。そして、基台11上に試料20を載置し、以下の試験手順に従って、コーン13を自由落下させ、試料20中に貫入したコーン13の深さにより、降伏応力を測定する。
【0032】
コーンプランジャー試験は、次の手順に従って実施する。まず、試料20をφ170mm×H40mmの型枠に詰め、質量893.2g、先端角度30°のコーン13を自由落下によって貫入させる。
図2に示すように、先端角度θ[°]、質量m[kg]のコーン13を試料20に貫入させた際の貫入深さh[m]から、下記式(1)によって降伏応力τ
0[Pa]を求めることができる。なお、g[m/s
2]は重力加速度である。
τ
0=m×g×(cosθ)
2/πh
2×tanθ ・・・ 式(1)
【0033】
コーンプランジャー試験は、材料の配合(調合)ごとに2回ずつ行い、練り後10~60分後まで5分ごとに行った。貫入深さは、コーンプランジャー試験機10に取り付けた治具15をガイドとしてノギスで測定した。試料20は、モルタルミキサーを用いて1Lを練り混ぜ、ガラス板の上に設置した型枠に2層に分けて詰め、1層ごとに60回突き棒で突いた後に表面を均す。そして、型枠に試料20を詰め終えた後に、上面へガラス板を設置して上下を反転させる。すなわち、コーン13を貫入させる試験面は、型枠に試料20を詰めた際の底面となる。
【0034】
コーンプランジャー試験から得た練り後経過時間と式(1)によって算出した降伏応力の関係を
図3に示す。試験に用いたいずれの配合(調合)の材料でも、練上がり後からの経過時間に伴って降伏応力が大きくなった。
図3から明らかなように、基準モルタル、S40-F2.0、S60-F1.25は同程度の降伏応力を示し、S60-F2.0Cのみ他の配合(調合)よりも大きい値を示した。なお、各試料20に使用した材料成分及び配合(調合)は後述する。
【0035】
図4に、降伏応力と自立性との関係を示す。
図4から明らかなように、降伏応力と自立性とは相関が認められる。したがって、コーンプランジャー試験により求めた降伏応力により材料の自立性が解るため、この降伏応力に基づいて複合材料の自立性を評価する。自立性の評価では、降伏応力が適正値の範囲内であれば積層造形に用いる適正な材料と判断し、降伏応力が適正値の範囲を逸脱していれば積層造形に用いることができない不適正な材料と判断する。
【0036】
<従来の自立性評価試験>
本発明では、コーンプランジャー試験により複合材料の自立性を評価しているが、一般的に、複合材料の自立性は圧縮試験(以下、従来の自立性評価試験という)により評価している。この従来の自立性評価試験は、練り混ぜ直後からの試料の自立性を評価するために、フレッシュモルタルを圧縮試験機によって載荷する試験方法である。図示しないが、従来の自立性評価試験の試験方法は、型枠にモルタルを打込んで脱型することにより試験体を作製する。試験体を脱型した後に所定時間まで静置し、ねじ式手動載荷試験機を用いて載荷を行う。従来の自立性評価試験で計測する変位は載荷板の角4点で測定して、その平均値を得る。自立性の評価方法としては、練上がり後15分~90分経過まで15分置きに試験を実施して、応力及びひずみの関係式を得ることで評価する。
【0037】
<従来の自立性評価試験とコーンプランジャー試験における試験結果の相関性>
従来の自立性評価試験では材料のヤング率を得ることができ、コーンプランジャー試験では材料の降伏応力を得ることができる。
図5にコーンプランジャー試験の結果と従来の自立性評価試験の結果の関係を示す。
図5から明らかなように、算出された降伏応力は従来の自立性評価試験から得られる変形に対する抵抗性と相関が認められる。
【0038】
<積層性適正評価工程>
積層性適正評価工程は、積層造形体の表面性状について算術平均粗さを求めて、当該算術平均粗さが適正値の範囲内であるか否かにより複合材料の積層性を評価する工程である。具体的には、積層造形体の断面形状を認識して算術平均粗さを求め、当該算術平均粗さに基づいて複合材料の積層性を評価する。積層造形体の表面性状の算術平均粗さにより、積層造形体の表面の歪み具合(中心からの凹凸状態)が解るため、積層性の適性評価を行うことができる。
【0039】
算術平均粗さを求めるには、試験体となる複合材料から積層体を切り出して、断面形状を座標として取得し、積層体の上下各50mm分を除いた一般部の算術平均粗さRaをJIS B 0601:2013に従って求めることにより、試験体(積層造形体)の表面性状を評価する。また、積層体の切出しが困難な場合には、積層体の表面の凹凸を手動やレーザースキャンにより座標を取得してRaを求め、試験体(積層造形体)の表面性状を評価する。
【0040】
すなわち、
図6に示すように、積層体の断面形状を座標として取得し、積層体の上下各50mm分を除いた一般部の算術平均粗さRaをJIS B 0601:2013に従って求めて評価した。測定した算術平均粗さを
図7に示す。積層性の評価では、算術平均粗さが適正値の範囲内であれば積層造形に用いる適正な材料と判断し、算術平均粗さが適正値の範囲を逸脱していれば積層造形に用いることができない不適正な材料と判断する。
【0041】
<美観の評価>
積層性適正評価工程では、積層造形体の断面形状に対する美観の評価値を加味して、複合材料の積層性を評価することが好ましい。すなわち、積層性については、算術平均粗さに閾値を設けることで適正を判断する。ただし、美観として安定性に欠ける形状を芸術性が高いと評価する場合もあり、単純に安定性だけを評価するのではなく、安定性○点・芸術性△点といった評価点をつけていくことも考えられる。例えば、画像認識を行って、認識した画像データに対して、断面形状と美観の評価値との関係を機械学習することで造形した積層物項目ごとの評価点を算出する。
【0042】
具体的には、信頼できる美観評価を行うことができる複数の評価者に、同一の断面形状に対して美観評価を行って評価点を付けてもらい、当該断面形状の画像データと、各評価者による評価点の平均値とを機械学習することにより、当該断面形状に対する美観評価点のリファレンスデータとする。その後、評価の対象となる積層造形体の断面形状を画像認識して画像データを取得し、機械学習した美観評価点のリファレンスデータと比較して、評価の対象となる積層造形体について美観評価点を算出する。また、美観評価点の評価者について、技術者、芸術家、任意の一般人、年齢層、国籍等による評価者の属性分類を行い、あるいは評価の対象となる積層造形体について、住宅、スポーツ施設、図書館や博物館、集会場、ベンチ、オブジェ、橋梁などの土木構造物等による積層造形体の属性分類を行って、リファレンスデータを生成することが好ましい。すなわち、評価者の属性に関連する嗜好や、積層造形体の属性に関する使用目的等に基づいてリファレンスデータを生成し、各リファレンスデータを単独であるいは組み合わせて用いることにより、評価の対象となる積層造形体に適した美観評価点を算出する。
【0043】
<試料(試験体)>
以下、上述した各評価方法における試験結果を説明する。各評価方法における試験では、試料(試験体)として、以下の配合(調合)による材料(基準モルタル、S40-F2.0、S60-F1.25、S60-F2.0C)を用いた。基準のセメント系材料として、積層実績のあるプレミックス材料(P)を採用し、W/P=14.75%で用いた。試料(試験体)に使用する材料の諸元及び各試料(試験体)の配合(調合)を
図8及び
図9に示す。
【0044】
評価対象となるセメント系材料を繊維補強コンクリート(FRCC)とし、結合材(B)として早強ポルトランドセメント(C)及びシリカフューム(SF)を用いた。細骨材(S)として珪砂7号を用い、また、繊維系鉱物であるワラストナイト(Wo)を細骨材の一部として用いた。
【0045】
補強繊維量2.0vol.%を目標とし、水結合材比(W/B)は30%で固定し、結合材のうちC85%、SF15%とした。WoはSの10%置換として混和し、PE繊維は、練り混ぜ体積に対して外割で添加した。また、セルロースナノファイバー(CNF)添加の際は、ブレンダーもしくはホモジナイザー(発振周波数21kHz±1kHz)を用いてCNFゲルを分散した濃度0.05%溶液を予め作製した。そして、CNFが結合材に対して0.005%となるように、溶液を練混ぜ水として用いた。
【0046】
<各評価工程における閾値>
各評価工程では、試験結果が適正値の範囲内であるか否かにより、材料の適否を判断する。すなわち、全ての試験結果が適正値の範囲内であれば、3Dプリンターで作成する積層造形体に用いる材料として適性であると判断する。以下、各評価工程における評価の閾値の一例を説明するが、閾値は、造成する積層造形体の性質(使用目的、大きさ、形状等)と、積層造形体の造形時における環境(温度、湿度等)と、使用する3Dプリンターの機器構成(圧送パイプの径や長さ、圧送圧力等)により、一律に規定できるものではない。したがって、以下に示す閾値は、実験における閾値であり、実際に積層造形体を造成する際には、種々の要因に応じて、適宜、閾値を設定する。
【0047】
<実験における閾値例>
上述したように、従来の自立性評価試験から得られたヤング率と、コーンプランジャー試験から得られた降伏応力には相関が認められる。したがって、当該相関に基づいて、圧送可能な材料及び自立可能な材料の閾値を求めることができる。本実施形態における自立性評価の閾値は、例えば、練り上がり後10分経過後/5%変形時の降伏応力が8.4kPa(ヤング率67kPa)以上、練り上がり後20分経過後/5%変形時の降伏応力が10.0kPa(ヤング率101kPa)以上、練り上がり後30分経過後/5%変形時の降伏応力が11.6kPa(ヤング率133kPa)以上とした。また、圧送性評価(圧送可能な材料)の閾値は、例えば、降伏応力が18kPa以下とした。また、積層性評価の閾値は、例えば、Raが4.0以下とした。なお、上述したように、閾値は実験における一例であり、この値に限定されるものではない。
【0048】
<従来技術と比較して有利な効果>
本発明では、特に、自立性評価工程において、従来の自立性評価試験による自立性評価に代えて、コーンプランジャー試験による自立性評価を採用している。上述したように、コーンプランジャー試験により算出した降伏応力は、従来の自立性評価試験から得られる変形に対する抵抗性と相関が認められる。
【0049】
従来の自立性評価試験による自立性評価は、国内外を問わず広く用いられている試験方法であるが、試験体の準備や載荷を踏まえると必ずしも簡便な方法ではない。特に、経時変化を確認する際には、時間ごとに試験体を準備する必要があり、同一サンプルでの繰返し計測を行うことはできず、このことに起因する結果のばらつきも懸念される。一方、コーンプランジャー試験は、1つのサンプルで経時変化を計測可能であり、従来の自立性評価試験と比較して、より一層簡便に試験を実施することが可能である。
【0050】
すなわち、従来の自立性評価試験では、試験を行うと試験体が潰れてしまう(破壊されてしまう)。したがって、1つの試験体で1回の試験を行うことができるのみであり、同一の試験体で複数回の試験を行うことはできない。一方、本発明におけるコーンプランジャー試験は、試験体に対するコーンの貫入箇所を変える(貫入箇所をずらす)ことにより、1つの試験体で複数回の試験を行うことが可能となる。
【0051】
このように、自立性評価工程や圧送性評価工程において、試験を行う度に試験体を作成する必要がないので、容易に試験を行うことができる。また、練り上がり後の時間経過に伴う自立性を評価する際に、同一の試験体を用いて試験を行うことができるので、試験体のバラツキによる評価結果の誤差をなくし、正確な評価を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0052】
10 コーンプランジャー試験機
11 基台
12 アーム
13 コーン
14 支持棒
15 治具
20 試料