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特開2022-190226圧力容器のひずみ解析装置および圧力容器の製造方法
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  • 特開-圧力容器のひずみ解析装置および圧力容器の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190226
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】圧力容器のひずみ解析装置および圧力容器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/12 20060101AFI20221219BHJP
   F17C 13/02 20060101ALI20221219BHJP
   F17C 1/06 20060101ALI20221219BHJP
   B29C 70/32 20060101ALI20221219BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20221219BHJP
   F16J 12/00 20060101ALI20221219BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20221219BHJP
   B29L 22/00 20060101ALN20221219BHJP
【FI】
G01N3/12
F17C13/02 301Z
F17C1/06
B29C70/32
B29C70/16
F16J12/00 A
F16J12/00 Z
B29K105:08
B29L22:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098451
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】里屋 大輔
(72)【発明者】
【氏名】石川 武史
【テーマコード(参考)】
2G061
3E172
3J046
4F205
【Fターム(参考)】
2G061AA02
2G061AB01
2G061AC06
2G061BA20
2G061CA15
2G061CB04
2G061DA01
2G061DA11
2G061DA12
2G061EA04
2G061EB07
2G061EC02
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172BA01
3E172BB03
3E172BB12
3E172BB17
3E172BC04
3E172CA20
3E172DA36
3J046AA09
3J046AA20
3J046BA03
3J046BD20
3J046DA05
3J046EA10
4F205AD16
4F205AG07
4F205AH55
4F205HA02
4F205HA23
4F205HA37
4F205HB01
4F205HK19
4F205HL02
4F205HT22
(57)【要約】
【課題】製造条件とひずみとの相関関係を把握することが可能な圧力容器のひずみ解析装置を提供する。
【解決手段】圧力容器のひずみ解析装置1は、解析部11を備える。解析部11は、複数の圧力容器の複数の製造条件MC1~MC6と、当該複数の製造条件MC1~MC6の下で製造された複数の圧力容器に所定の内圧をかけた状態で画像相関法により取得された複数のひずみStとに基づいて、複数の製造条件MCと複数のひずみStとの相関関係CRを算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧力容器の複数の製造条件と、前記複数の製造条件の下で製造された前記複数の圧力容器に所定の内圧をかけた状態で画像相関法により取得された複数のひずみとの相関関係を算出する解析部を備えることを特徴とする圧力容器のひずみ解析装置。
【請求項2】
解析対象の圧力容器の製造条件が入力される入力部と、
前記入力部に入力された前記製造条件と、前記解析部により算出された前記相関関係とに基づいて、前記入力部に入力された前記製造条件の下で製造された前記解析対象の圧力容器に前記所定の内圧をかけた状態で画像相関法により取得されるひずみの予測値を算出する演算部と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の圧力容器のひずみ解析装置。
【請求項3】
前記解析部は、前記複数の圧力容器の各々の圧力容器に規定された複数の解析区画の各々の解析区画に対する複数の製造条件と、当該複数の製造条件の下で製造された前記各々の圧力容器に所定の内圧をかけた状態で画像相関法により取得された前記各々の解析区画における複数のひずみとの相関関係を算出し、
前記入力部は、前記解析対象の圧力容器の前記各々の解析区画に対する製造条件が入力され、
前記演算部は、前記入力部に入力された前記製造条件と、前記解析部により算出された前記相関関係とに基づいて、前記解析対象の圧力容器の前記各々の解析区画のひずみの予測値を算出することを特徴とする請求項2に記載のひずみ解析装置。
【請求項4】
前記解析部は、前記相関関係を機械学習により算出する機械学習部を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のひずみ解析装置。
【請求項5】
前記製造条件は、前記圧力容器のライナーの外形情報、前記ライナーの厚さ、前記圧力容器の繊維強化樹脂層の形成時に前記ライナーに巻き付けられる熱可塑性樹脂が含浸された繊維束の巻き付け条件、または、形成後の前記繊維強化樹脂層のボイド率の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1に記載の圧力容器のひずみ解析装置。
【請求項6】
複数の圧力容器の複数の製造条件と、当該複数の製造条件の下で製造された前記複数の圧力容器に所定の内圧をかけた状態で画像相関法により取得された複数のひずみとの相関関係を算出し、
前記相関関係に基づいて、新たに製造する圧力容器のひずみが所定値以下となる製造条件を算出し、
算出した前記製造条件を用いて新たな圧力容器を製造することを特徴とする圧力容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧力容器のひずみ解析装置および圧力容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から圧力容器の検査方法に関する発明が知られている。下記特許文献1は、製造した圧力容器の状態を非破壊で簡便に判断できる圧力容器の製造方法を提供することを目的として、以下のような圧力容器の検査方法を開示している(要約、請求項1、第0007段落等)。この従来の検査方法の検査対象である圧力容器は、筒状の直胴部と、その直胴部の両端に設けられ、直胴部から離れるにつれて窄む形状のドーム部とを備えている。直胴部およびドーム部は、容器本体と、その容器本体の外側に設けられた繊維強化樹脂複合材料層とで形成されている。
【0003】
この従来の圧力容器の検査方法は、使用圧力として同じ設計に基づいて製造されたp個(pは3以上の整数)の圧力容器からなる圧力容器群を用いている。そして、その圧力容器群のそれぞれの圧力容器に対し、上記使用圧力以上の圧力を負荷した状態で、上記直胴部の軸方向において異なる3箇所以上を含むq箇所(qは3以上の整数)でフープ方向のひずみを測定してその標準偏差を求める。さらに、その標準偏差を用いて各圧力容器の状態を判断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-153503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、ひずみの測定方法として、ひずみゲージ法、オプティカルファイバー法、画像相関法等を例示している(第0043段落)。しかしながら、ひずみゲージ法やオプティカルファイバー法では、圧力容器に貼り付けたり埋め込んだりしたひずみゲージやオプティカルファイバーなどのセンシング素子によって、圧力容器のひずみを測定する。
【0006】
そのため、ひずみゲージ法やオプティカルファイバー法では、厳密には、センシング素子を含まない実際の圧力容器のひずみを計測することはできない。一方、画像相関法では、センシング素子を含まない実際の圧力容器のひずみを計測することは可能であるが、圧力容器の製造条件とひずみとの相関関係を把握することはできない。
【0007】
本開示は、圧力容器の製造条件とひずみとの相関関係を把握することが可能なひずみ解析装置と、その相関関係を用いた圧力容器の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、複数の圧力容器の複数の製造条件と、前記複数の製造条件の下で製造された前記複数の圧力容器に所定の内圧をかけた状態で画像相関法により取得された複数のひずみとの相関関係を算出する解析部を備えることを特徴とする圧力容器のひずみ解析装置である。
【0009】
上記態様の圧力容器のひずみ解析装置は、解析対象の圧力容器の製造条件が入力される入力部と、前記入力部に入力された前記製造条件と、前記解析部により算出された前記相関関係とに基づいて、前記入力部に入力された前記製造条件の下で製造された前記解析対象の圧力容器に前記所定の内圧をかけた状態で画像相関法により取得されるひずみの予測値を算出する演算部と、を備えてもよい。
【0010】
上記態様の圧力容器のひずみ解析装置において、前記解析部は、前記複数の圧力容器の各々の圧力容器に規定された複数の解析区画の各々の解析区画に対する複数の製造条件と、当該複数の製造条件の下で製造された前記各々の圧力容器に所定の内圧をかけた状態で画像相関法により取得された前記各々の解析区画における複数のひずみとの相関関係を算出し、前記入力部は、前記解析対象の圧力容器の前記各々の解析区画に対する製造条件が入力され、前記演算部は、前記入力部に入力された前記製造条件と、前記解析部により算出された前記相関関係とに基づいて、前記解析対象の圧力容器の前記各々の解析区画のひずみの予測値を算出するようにしてもよい。
【0011】
上記態様の圧力容器のひずみ解析装置において、前記解析部は、前記相関関係を機械学習により算出する機械学習部を含んでいてもよい。
【0012】
上記態様の圧力容器のひずみ解析装置において、前記製造条件は、前記圧力容器のライナーの外形情報、前記ライナーの厚さ、前記圧力容器の繊維強化樹脂層の形成時に前記ライナーに巻き付けられる熱可塑性樹脂が含浸された繊維束の巻き付け条件、または、形成後の前記繊維強化樹脂層のボイド率の少なくとも一つを含むことができる。
【0013】
本開示の一態様は、複数の圧力容器の複数の製造条件と、当該複数の製造条件の下で製造された前記複数の圧力容器に所定の内圧をかけた状態で画像相関法により取得された複数のひずみとの相関関係を算出し、前記相関関係に基づいて、新たに製造する圧力容器のひずみが所定値以下となる製造条件を算出し、算出した前記製造条件を用いて新たな圧力容器を製造することを特徴とする圧力容器の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本開示の上記態様によれば、圧力容器の製造条件とひずみとの相関関係を把握することが可能なひずみ解析装置と、その相関関係を用いた圧力容器の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示に係る圧力容器のひずみ解析装置の実施形態を示すブロック図。
図2図1のひずみ解析装置に入力される圧力容器の製造条件の説明図。
図3図1のひずみ解析装置に入力される圧力容器のひずみの説明図。
図4】圧力容器の内圧とひずみの関係の一例を示すグラフ。
図5】本開示に係る圧力容器の製造方法のフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本開示に係る圧力容器のひずみ解析装置および圧力容器の製造方法の実施形態を説明する。
【0017】
図1は、本開示に係る圧力容器のひずみ解析装置の実施形態を示すブロック図である。図2は、図1のひずみ解析装置1に入力される圧力容器の製造条件MCの説明図である。本実施形態の圧力容器のひずみ解析装置1は、複数の圧力容器の複数の製造条件MCと複数のひずみStとの相関関係CRを算出する解析部11を備えている。また、図1に示す例において、解析部11は、機械学習部11aを有し、ひずみ解析装置1は、さらに、入力部12と、演算部13とを備えている。
【0018】
本実施形態のひずみ解析装置1は、たとえば、中央処理装置(CPU)、メモリ、タイマ、および入出力部を備えたマイクロコントローラを含むコンピュータシステムである。図1のひずみ解析装置1の各部は、たとえば、メモリに記憶されたプログラムをCPUによって実行することで実現される、ひずみ解析装置1の機能ブロックを示している。
【0019】
図1に示す例において、ひずみ解析装置1は、たとえば、3Dスキャナ2と、フィラメントワインディング装置(FW装置3)と、撮像装置4と、コンピュータ断層撮影装置(CT装置5)と、デジタル画像相関法システム(DICシステム6)とに接続されている。また、ひずみ解析装置1は、たとえば、入力装置7と、出力装置8と、製造装置9とに接続されている。なお、ひずみ解析装置1は、複数の圧力容器Tの製造条件MCとひずみStを取得するためのデータ取得部として、これらの装置を含んでもよい。
【0020】
ひずみ解析装置1の解析対象である圧力容器Tは、たとえば、高圧の水素ガスが充填される高圧タンクである。圧力容器Tは、たとえば、ガスを収容するライナーT1と、そのライナーT1の外面を覆う繊維強化樹脂層T2とを備えている。繊維強化樹脂層T2は、たとえば、熱可塑性樹脂が含浸された繊維束T21を、FW装置3によってライナーT1の外面に巻き付けることによって形成される。なお、図2では図示を省略しているが、圧力容器Tは、ガスの出入口となる開口部と、その開口部を開閉するバルブを備えている。
【0021】
3Dスキャナ2は、たとえば、圧力容器TのライナーT1にレーザを照射し、ライナーT1によって反射されたレーザをセンサによって検出することで、ライナーT1の外形の3次元形状データを取得する装置である。このライナーT1の外形の3次元形状データは、たとえば、圧力容器Tの製造条件MCの一つであるライナーT1の形状情報として、ひずみ解析装置1に入力される。なお、ライナーT1の形状情報は、ライナープロファイルMC1を含む。
【0022】
ライナーT1の外面上の点は、たとえば、図2に示すように、円筒状のライナーT1の中心軸をX軸とし、その中心軸を中心とする中心角θをY軸とするXY座標上の点として表すことができる。ライナープロファイルMC1は、たとえば、そのXY座標上の各点におけるライナーT1の中心軸から外面までの距離またはライナーT1の外面の半径として表すことができる。
【0023】
図2に示す例において、ライナープロファイルMC1は、ライナーT1の溶着ビードWB上およびその近傍において、ライナーT1の他の部分よりもライナーT1の中心軸から外面までの距離(半径)が減少していることを示している。このようなライナーT1の外面の半径の部分的な減少は、たとえば、ライナーT1の外面の溶着ビードWBを研削等によって平坦化する際に生じ得る。
【0024】
FW装置3は、たとえば、樹脂を含浸させた繊維束T21を、ライナーT1の外面へ所定の供給速度で供給する装置である。さらに、FW装置3は、繊維束T21に所定の張力を付与した状態で、繊維束T21をライナーT1の外面上の所定の位置に巻き付けていく。FW装置3は、たとえば、繊維束T21の供給速度を検出する速度センサと、繊維束T21の張力を検出する張力センサとを備えている。
【0025】
FW装置3は、たとえば、図2に示すように、ライナーT1の外面上の始点SPから終点EPまで繊維束T21を巻回するとともに、繊維束T21の巻回時の張力MC2と供給速度MC3を検出して記録する。FW装置3は、たとえば、図1に示すように、繊維束T21の巻回時の張力MC2および供給速度MC3を、それぞれ、ひずみ解析装置1へ入力する。これら張力MC2および供給速度MC3は、圧力容器Tの製造条件MCである繊維束T21の巻き付け条件に含まれる。
【0026】
撮像装置4は、たとえば、単眼カメラやステレオカメラであり、FW装置3によってライナーT1の外面上に配置された繊維束T21のXY座標である位置情報MC4を検出し、その位置情報MC4を、圧力容器Tの製造条件MCの一つとして、ひずみ解析装置1へ入力する。なお、撮像装置4は、FW装置3に含まれていてもよい。この場合、FW装置3は、撮像装置4によって検出された位置情報MC4ごとに、張力MC2および供給速度MC3をひずみ解析装置1へ出力する。
【0027】
CT装置5は、たとえば、ライナーT1に対する繊維束T21の巻回の終了後に、繊維強化樹脂層T2が形成された圧力容器Tの中心軸に直交する断面の画像を取得する装置である。また、CT装置5は、たとえば、圧力容器Tの断面の画像に基づいて、ライナーT1の厚さMC5およびボイド率MC6を検出する。ここで、ボイド率MC6は、たとえば、繊維強化樹脂層T2の各層に対するボイドの比率である。CT装置5は、たとえば、0.1[mm]以上のボイドを検出することが可能である。
【0028】
CT装置5は、検出したライナーT1の厚さMC5およびボイド率MC6を、それぞれ、圧力容器Tの製造条件MCの一つとして、ひずみ解析装置1へ入力する。図2に示す例において、CT装置5からひずみ解析装置1へ入力されるライナーT1の厚さMC5は、ライナーT1に溶着ビードWBが形成された部分において、他の部分よりも厚くなっていることを示している。なお、ライナーT1の厚さMC5およびボイド率MC6は、たとえば、CT装置5によって取得された圧力容器Tの断面の画像を用いて、ひずみ解析装置1またはその他の装置によって検出してもよい。
【0029】
図3は、図1のひずみ解析装置1に入力される圧力容器TのひずみStの説明図である。DICシステム6は、上記の製造条件MCの下で製造された圧力容器Tに所定の内圧をかけた状態で、画像相関法によって圧力容器TのひずみStを取得する。より具体的には、まず、圧力容器Tに内圧をかけていない状態、すなわち、圧力容器Tの開口部を開いて圧力容器Tの内部と外部を連通させた状態で、圧力容器Tの外面にスペックルパターンと呼ばれるランダムな模様を塗装する。
【0030】
そして、圧力容器Tに内圧をかけていない状態で、スペックルパターンが塗装された圧力容器Tの画像の撮影を開始し、圧力容器Tの開口部から圧力容器Tの内部へ空気などの気体を送り込み、圧力容器Tの内圧を上昇させる。この際、圧力容器Tの内圧は、たとえば、圧力容器Tの許容最大圧力よりも低い圧力、より具体的には、たとえば、圧力容器Tが破裂する圧力の50%程度の圧力まで上昇させる。
【0031】
DICシステム6は、圧力容器Tに内圧をかける前の画像と、圧力容器Tに内圧をかけた状態の画像とを用い、画像相関法によって圧力容器TのひずみStを取得する。ここで、DICシステム6によって取得される圧力容器TのひずみStは、たとえば、図3に示すX軸方向とY軸方向のそれぞれのひずみを含む。図2では、DICシステム6によって取得される圧力容器TのX軸方向のひずみStの一例を示している。この例では、ライナーT1の溶着ビードWBおよびその近傍においてほかの部分よりもX軸方向のひずみStが大きくなっている。
【0032】
また、図3に示すように、DICシステム6は、たとえば、圧力容器Tに規定された複数の解析区画ACの各々の解析区画ACに対するひずみStを取得する。図3に示す例では、ひずみStが大きい解析区画ACほど黒色に近い濃色で表され、ひずみStが小さい解析区画ACほど白色に近い淡色で表されているが、実際には様々な色によってひずみStの大きさを表すことができる。圧力容器Tの表面に規定される複数の解析区画ACは、たとえば、X軸方向およびY軸方向に平行な境界によって区画された複数の矩形の領域とすることができる。また、各区画の大きさは、圧力容器T上の位置によって異なっていてもよい。
【0033】
具体的には、たとえば、ライナーT1の溶着ビードWB上およびその近傍において、他の部分よりも解析区画ACの大きさを小さくしてもよい。この場合、溶着ビードWB上の解析区画ACのX軸方向の大きさは、たとえば、溶着ビードWBの幅よりも小さくされる。また、各々の解析区画ACの大きさは、たとえば、ライナーT1に巻き付けられる繊維束T21の幅に基づいて決定してもよい。
【0034】
具体的には、Y軸方向に対して傾斜して巻回される繊維束T21上に、Y軸方向において1つの解析区画ACが位置するように、解析区画ACの大きさを決定することができる。これにより、各々の解析区画ACが必要以上に小さくなることが防止され、各々の解析区画ACのひずみStが平均化されることで、繊維束T21の配向の影響を低減することができる。
【0035】
図4は、圧力容器Tの内圧PとひずみStとの関係の一例を示すグラフである。ここでは、圧力容器TのひずみStを検出する際に、圧力容器Tの内圧Pを圧力容器Tが破裂する内圧PXの50%程度の低い圧力P1に設定する理由を説明する。図4のグラフにおいて、横軸は圧力容器Tの内圧Pであり、縦軸は圧力容器TのひずみStである。
【0036】
図4に示すように、圧力容器TのひずみStの検出時の内圧P1と、圧力容器Tが破裂する内圧PXとの間には、相関関係がある。したがって、圧力容器TのひずみStの検出と圧力容器Tの破裂試験とを繰り返し行ってデータを蓄積することで、圧力容器TのひずみStの検出時の内圧P1と圧力容器Tの破裂時の内圧PXとの相関関係を求めることができる。さらに、その相関関係に基づいて、ひずみStの検出時の内圧P1から破裂時の内圧PXを求めることができる。
【0037】
図1に示す入力装置7は、たとえば、キーボード、USB接続端子、ディスクドライブなどを含む。入力装置7は、たとえば、圧力容器Tに所定の内圧P1をかけたときのひずみStの目標値などを入力するために用いられる。出力装置8は、たとえば、画像表示装置であり、ひずみ解析装置1から出力される圧力容器TのひずみStの算出結果や、圧力容器Tの製造条件MCなどを表示する。製造装置9は、たとえば、ライナーT1の製造装置やFW装置3などを含む圧力容器Tの製造装置であり、ひずみ解析装置1から出力される圧力容器Tの製造条件MCが入力される。
【0038】
以下、本実施形態のひずみ解析装置1の動作と、本実施形態の圧力容器Tの製造方法Mを説明する。図5は、本開示に係る圧力容器の製造方法Mの実施形態を示すフロー図である。
【0039】
ひずみ解析装置1は、まず、複数の圧力容器Tの複数の製造条件MCを取得する(工程M1)。具体的には、ひずみ解析装置1は、たとえば、解析部11により、3Dスキャナ2から入力されたライナープロファイルMC1と、FW装置3から入力された繊維束T21の張力MC2および供給速度MC3を取得する。また、ひずみ解析装置1は、たとえば、解析部11により、撮像装置4から入力された繊維束T21の位置情報MC4と、CT装置5から入力されたライナーT1の厚さMC5およびボイド率MC6を取得する。
【0040】
ひずみ解析装置1は、次に、複数の圧力容器Tの複数のひずみStを取得する(工程M2)。具体的には、ひずみ解析装置1は、たとえば、解析部11により、DICシステム6から入力されたひずみStを取得する。ここで、ひずみ解析装置1が取得するひずみStは、前述のように、前の工程M1において取得した複数の製造条件MCの下で製造された複数の圧力容器Tに所定の内圧P1をかけた状態で画像相関法により取得された複数のひずみStである。
【0041】
ひずみ解析装置1は、次に、解析部11により、前の工程M1,M2で取得した複数の製造条件MCと複数のひずみStとの相関関係CRを算出する(工程M3)。具体的には、解析部11は、たとえば、各々の圧力容器Tに規定された複数の解析区画ACの各々の解析区画ACに対する製造条件MCと、その製造条件MCの下で製造された圧力容器Tに所定の内圧P1をかけた状態で画像相関法により取得された各々の解析区画ACにおけるひずみStとを用いる。以下の表1に、解析部11が相関関係CRの算出に使用する情報の一例を示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示すように、圧力容器Tの製造条件MCは、たとえば、ライナーT1のXY座標の位置に対するライナーT1の半径(ライナープロファイルMC1)および厚さMC5、繊維束T21の張力MC2および供給速度MC3、各々の繊維強化樹脂層のボイド率MC6を含む。ひずみ解析装置1の解析部11は、たとえば、表1に示すように、複数のライナーT1または複数の圧力容器TのXY座標の各々の位置に対するひずみStと製造条件MCとをメモリに格納する。
【0044】
ここで、解析部11は、たとえば、各々の圧力容器Tに規定された複数の解析区画ACの各々の解析区画ACに対する製造条件MCと、各々の解析区画ACにおけるひずみStとに基づいて、各々の解析区画ACの製造条件MCとひずみStとの相関関係CRを算出する。解析部11は、たとえば、図1に示すように、機械学習部11aを含んでいる。機械学習部11aは、複数の製造条件MCと複数のひずみStとの相関関係CRを、機械学習により算出する。
【0045】
ひずみ解析装置1は、次に、前の工程M3で解析部11が算出した相関関係CRに基づいて、解析対象の圧力容器TのひずみStが所定値以下となる圧力容器Tの製造条件MCを算出する(工程M4)。ここで、圧力容器TのひずみStの所定値は、たとえば、図4に示すように、所定の破裂圧力PXの圧力容器Tに、その破裂圧力PXの50%または50%よりも小さい内圧P1を掛けたときのひずみStの値に設定することができる。
【0046】
より具体的には、たとえば、図1に示すように、入力装置7を介して、ひずみ解析装置1の入力部12に、解析対象の圧力容器TのひずみStの目標値を入力する。ここで、解析対象の圧力容器Tは、たとえば、新たに製造される圧力容器Tである。演算部13は、たとえば、入力部12に入力されたひずみStの目標値と、解析部11によって算出された相関関係CRとに基づいて、解析対象の圧力容器TのひずみStが目標値以下となる製造条件MCを算出する。
【0047】
ここで、ひずみ解析装置1の入力部12に入力する圧力容器TのひずみStの目標値は、たとえば、図3に示すように、圧力容器Tの各々の解析区画ACのひずみStの目標値であってもよい。この場合、演算部13は、入力部12に入力されたひずみStの目標値と、解析部11によって各々の解析区画ACに対して算出された相関関係CRとに基づいて、各々の解析区画ACのひずみStが目標値以下となる圧力容器Tの製造条件MCを算出する。
【0048】
ひずみ解析装置1は、次に、算出した製造条件MCを用いて圧力容器Tを製造する(工程M5)。具体的には、ひずみ解析装置1の演算部13は、たとえば、図1に示すように、算出した圧力容器Tの製造条件MCを、出力装置8および製造装置9へ出力する。この圧力容器Tの製造条件MCは、たとえば、表1および図2に示すように、ライナーT1のXY座標の位置に対するライナーT1の半径(ライナープロファイルMC1)および厚さMC5、繊維束T21の張力MC2および供給速度MC3、各々の繊維強化樹脂層のボイド率MC6を含む。
【0049】
製造装置9は、ひずみ解析装置1から入力された圧力容器Tの製造条件MCに基づいて圧力容器Tを製造する。なお、製造装置9に対する圧力容器Tの製造条件MCの入力は、たとえば、出力装置8に表示された圧力容器Tの製造条件MCに基づいて、作業員が製造装置9に入力することも可能である。以上により、図5に示す圧力容器の製造方法Mが終了する。
【0050】
また、ひずみ解析装置1は、圧力容器Tの製造条件MCに基づいて、解析対象の圧力容器TのひずみStの予測値を算出することも可能である。ここで、解析対象の圧力容器Tは、たとえば、新たに製造された圧力容器Tである。具体的には、たとえば、図1に示すひずみ解析装置1の入力部12に対し、表1に示すような解析対象の圧力容器Tの製造条件MCを入力する。演算部13は、入力部12に入力された圧力容器Tの製造条件MCと、解析部11により算出された相関関係CRとに基づいて、その製造条件MCの下で製造される圧力容器TのひずみStの予測値を算出する。
【0051】
ここで、入力装置7を介して、ひずみ解析装置1の入力部12に入力する圧力容器Tの製造条件MCは、たとえば、圧力容器Tの各々の解析区画ACに対する製造条件MCであってもよい。この場合、演算部13は、入力部12に入力された各々の解析区画ACの製造条件MCと、解析部11により算出された相関関係CRとに基づいて、その製造条件MCの下で製造される圧力容器Tの各々の解析区画ACのひずみの予測値を算出する。
【0052】
以上のように、本実施形態のひずみ解析装置1は、解析部11を備えている。解析部11は、前述のように、複数の圧力容器Tの複数の製造条件MCと、その複数の製造条件MCの下で製造された複数の圧力容器Tに内圧P1をかけた状態で画像相関法により取得された複数のひずみStとの相関関係CRを算出する。
【0053】
このような構成により、本実施形態のひずみ解析装置1は、圧力容器Tの製造条件MCとひずみStとの相関関係CRを把握することが可能になる。これにより、ひずみ解析装置1は、把握した相関関係CRと、圧力容器Tの製造条件MCとに基づいて、加圧試験を行うことなく、ひずみStの予測値を算出することが可能になる。また、ひずみ解析装置1は、把握した相関関係CRと、圧力容器TのひずみStの目標値とに基づいて、そのひずみStの目標値を達成するための製造条件MCを算出することが可能になる。
【0054】
また、本実施形態のひずみ解析装置1は、入力部12と演算部13とを備えている。入力部12は、解析対象の圧力容器Tの製造条件MCが入力される。演算部13は、入力部12に入力された製造条件MCと、解析部11により算出された相関関係CRとに基づいて、入力部12に入力された製造条件MCの下で製造された解析対象の圧力容器Tに所定の内圧P1をかけた状態で画像相関法により取得されるひずみStの予測値を算出する。
【0055】
このような構成により、ひずみ解析装置1は、入力部12に解析対象の圧力容器Tの製造条件MCを入力することで、演算部13により、当該製造条件MCの下で製造された圧力容器TのひずみStの予測値を算出することができる。これにより、圧力容器Tの内圧を上昇させてひずみStを取得する必要がなくなる。また、ひずみ解析装置1は、入力部12に所定のひずみStを入力することで、演算部13により、当該ひずみStを実現可能な圧力容器Tの製造条件MCを算出することができる。これにより、演算部13によって算出された製造条件MCに基づいて圧力容器Tを製造して、所定の内圧P1で所定のひずみStの目標値を達成可能な圧力容器Tを製造することができる。
【0056】
また、本実施形態のひずみ解析装置1において、解析部11は、複数の圧力容器Tの各々の圧力容器Tに規定された複数の解析区画ACの各々の解析区画ACに対する複数の製造条件MCと、当該複数の製造条件MCの下で製造された各々の圧力容器Tに所定の内圧P1をかけた状態で画像相関法により取得された各々の解析区画ACにおける複数のひずみStとの相関関係CRを算出する。また、入力部12は、解析対象の圧力容器Tの各々の解析区画ACに対する製造条件MCが入力される。そして、演算部13は、入力部12に入力された製造条件MCと、解析部11により算出された相関関係CRとに基づいて、解析対象の圧力容器Tの各々の解析区画ACのひずみStの予測値を算出する。
【0057】
このような構成により、ひずみ解析装置1は、圧力容器Tの解析が要求される事象に応じて解析区画ACの大きさを変更することで、圧力容器Tの製造条件MCとひずみStとの相関関係CRをより正確に把握することが可能になる。具体的には、たとえば、ライナーT1において溶着ビードWBが切削された切削領域における解析区画ACのX軸方向における大きさを溶着ビードWBの幅よりも小さくし、他の領域における解析区画ACのX軸方向における大きさを切削領域の解析区画ACよりも大きくすることができる。これにより、切削領域および溶着ビードWBのひずみStに対する影響を正確に把握するとともに、その他の領域において隣接する解析区画ACに同一値が重複して含まれることを防止して、製造条件MCとひずみStとの相関関係CRをより正確に把握することが可能になる。
【0058】
なお、解析区画ACの大きさは、たとえば、圧力容器Tの繊維強化樹脂層に発生し得るボイドの大きさよりも大きいことが好ましい。ボイドの大きさは、たとえば、直径が0.1[mm]程度である。また、解析区画ACの大きさは、圧力容器TのライナーT1に巻き付けられる繊維束の幅よりも小さいことが好ましい。たとえば、繊維束の幅が9[mm]程度である場合、解析区画ACのX軸方向の大きさは、繊維束の幅の半分よりも小さい4[mm]程度に設定することができる。
【0059】
また、本実施形態のひずみ解析装置1において、解析部11は、製造条件MCとひずみStとの相関関係CRを機械学習により算出する機械学習部11aを含む。
【0060】
このような構成により、ひずみ解析装置1は、機械学習を行わない場合と比較して、製造条件MCとひずみStとの相関関係CRをより正確に把握することが可能になる。また、前述のように、圧力容器Tに規定された複数の解析区画ACにおいてひずみStを取得することで、一つの圧力容器Tから取得することができる機械学習の教師データの数を増加させることができ、相関関係CRの解析精度を向上させることができる。
【0061】
また、本実施形態のひずみ解析装置1において、圧力容器Tの製造条件MCは、表1に示すように、圧力容器TのライナーT1の外形情報、ライナーT1の厚さMC5、繊維束の巻き付け条件、または、形成後の繊維強化樹脂層のボイド率MC6の少なくとも一つを含む。なお、ライナーT1の外形情報は、たとえば、前述のライナープロファイルMC1を含む。また、上記の繊維束は、圧力容器Tの繊維強化樹脂層の形成時にライナーT1に巻き付けられる熱可塑性樹脂が含浸された繊維束であり、上記巻き付け条件は、たとえば、繊維束の張力MC2および供給速度MC3を含む。
【0062】
このような構成により、ひずみ解析装置1は、上記のような製造条件MCとひずみStとの相関関係CRを把握することができる。したがって、ひずみ解析装置1は、上記のような製造条件MCからひずみStを算出したり、所定のひずみStの目標値から上記のような製造条件MCを算出したりすることが可能になる。
【0063】
また、本実施形態の圧力容器の製造方法Mは、前述のように、複数の圧力容器Tの製造条件MCと、当該複数の製造条件MCの下で製造された複数の圧力容器Tに所定の内圧P1をかけた状態で画像相関法により取得された複数のひずみStとに基づいて、複数の製造条件MCと複数のひずみStとの相関関係CRを算出する(工程M1~工程M3)。この圧力容器の製造方法Mでは、さらに、算出した相関関係CRに基づいて、新たに製造する圧力容器TのひずみStが所定値以下となる製造条件MCを算出し(工程M4)、算出した製造条件MCを用いて新たな圧力容器Tを製造する(工程M5)。
【0064】
このような構成により、本実施形態の圧力容器の製造方法Mによれば、圧力容器TのひずみStの目標値を達成可能な製造条件MCで圧力容器Tを製造することが可能になり、圧力容器Tの生産性を著しく向上させることが可能になる。
【0065】
以上説明したように、本実施形態によれば、製造条件MCとひずみStとの相関関係CRを把握することが可能な圧力容器Tのひずみ解析装置1と、製造条件MCとひずみStとの相関関係CRを用いた圧力容器の製造方法Mを提供することができる。
【0066】
以上、図面を用いて本開示に係る圧力容器のひずみ解析装置と圧力容器の製造方法の実施形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【0067】
たとえば、前述の実施形態では、完成した圧力容器Tに対して内圧P1を加えて画像相関法により圧力容器TのひずみStを取得する例を説明したが、圧力容器Tの完成前の状態で内圧P1を加えてひずみStを取得してもよい。
【0068】
具体的には、たとえば、完成した圧力容器Tの繊維強化樹脂層の積層数が25層であるとする。この場合、たとえば、ライナーT1に繊維束をヘリカル巻きで巻き付けて1層目の繊維強化樹脂層を形成し、その上に繊維束をフープ巻きで巻き付けて2層目から5層目までの繊維強化樹脂層を形成し、その上に繊維束をヘリカル巻きで巻き付けて6層目の繊維強化樹脂層を形成する。
【0069】
このように、ひずみ解析装置1は、一部の繊維強化樹脂層のみが形成された未完成の圧力容器Tに対して内圧P1を加えて、圧力容器Tの製造条件MCとひずみStとの相関関係CRを算出してもよい。このような構成により、ひずみ解析装置1は、ひずみStと製造条件MCとの相関関係CRを取得しやすくすることができる。これは、圧力容器Tの構造上、繊維強化樹脂層におけるライナーT1側の層ほど、内圧P1により大きな応力が作用するためである。
【符号の説明】
【0070】
1 ひずみ解析装置
11 解析部
11a 機械学習部
12 入力部
13 演算部
AC 解析区画
CR 相関関係
M 圧力容器の製造方法
MC 製造条件
MC1 ライナープロファイル(ライナーの外形情報)
MC2 繊維束の巻き付け条件(張力)
MC3 繊維束の巻き付け条件(供給速度)
MC5 ライナーの厚さ
MC6 ボイド率
P1 内圧
St ひずみ
T 圧力容器
図1
図2
図3
図4
図5