(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190230
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】発泡成形用の射出成形機
(51)【国際特許分類】
B29C 44/00 20060101AFI20221219BHJP
B29C 45/18 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
B29C44/00 D
B29C45/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098459
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100097696
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(72)【発明者】
【氏名】内藤 章弘
(72)【発明者】
【氏名】油布 拓也
【テーマコード(参考)】
4F206
4F214
【Fターム(参考)】
4F206AB02
4F206AG20
4F206AR20
4F206JA04
4F206JF04
4F206JF12
4F206JF23
4F206JF46
4F206JN03
4F206JQ11
4F214AB02
4F214AG20
4F214AR20
4F214UA08
4F214UB01
4F214UF04
4F214UF12
4F214UF23
4F214UF46
4F214UL03
4F214UM11
(57)【要約】
【課題】安定的に不活性ガスを注入でき、機械長が短い射出成形機を提供する。
【解決手段】加熱シリンダ(2)とスクリュ(3)とからなる射出成形機(1)は、上流側の第1のステージ(5)と下流側の第2のステージ(6)とに区分され、そして第1のステージ(5)は供給区間(8)と第1の圧縮区間(9)と第1の計量区間(10)とから、第2のステージ(6)は飢餓区間(13)と第2の圧縮区間(14)と第2の計量区間(15)とから構成されている。不活性ガスの注入部(17、18)は2カ所以上設け、逆止弁(20、21)を設ける。注入部(17、18)の間隔Pと、個数Nとの積P×Nは、飢餓区間(13)の長さHに対して0.5H以上、1.71H以下になるようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱シリンダと、
該加熱シリンダに入れられているスクリュと、
前記加熱シリンダにおいて軸方向に離間した複数箇所に設けられて不活性ガスを注入するようになっている複数個の注入部と、を備え、
前記加熱シリンダ内が前記スクリュの形状により上流側の第1のステージと下流側の第2のステージとに区分され、前記第1のステージは樹脂が溶融される上流側の供給区間と溶融樹脂が圧縮される下流側の第1の圧縮区間と最下流側の第1の計量区間とから構成され、前記第2のステージは樹脂の圧力が低下する上流側の飢餓区間と溶融樹脂が圧縮される下流側の第2の圧縮区間と最下流側の第2の計量区間とから構成され、前記複数個の注入部からの不活性ガスが前記飢餓区間において供給されるようになっており、
前記複数個の注入部のそれぞれには、逆止弁あるいは開閉機構が設けられ、
前記複数個の注入部の間隔Pと、前記注入部の個数Nとの積P×Nは、前記飢餓区間の長さHに対して0.5H以上、1.71H以下になっている、発泡成形用の射出成形機。
【請求項2】
前記飢餓区間の長さHは、前記スクリュが計量時に後退する長さである計量ストロークSに対して0.7S以上、1.2S以下になっており、
前記複数個の注入部の少なくとも1個は、前記計量ストロークにおいて前記飢餓区間に入るように配置されている、請求項1に記載の発泡成形用の射出成形機。
【請求項3】
前記計量ストロークの開始から完了までの間において、前記飢餓区間の両端から0.1S以上内側の範囲に少なくとも1個の前記注入部が存在するように前記複数個の注入部が配置されている、請求項2に記載の発泡成形用の射出成形機。
【請求項4】
前記複数個の注入部の間隔Pは、前記計量ストロークSに対して0.25S以上、0.8S以下になっている、請求項2または3に記載の発泡成形用の射出成形機。
【請求項5】
前記複数個の注入部の間隔Pと、前記注入部の個数Nとの積P×Nは、前記計量ストロークSに対して0.5S以上、1.6S以下になっている、請求項2~4のいずれかの項に記載の発泡成形用の射出成形機。
【請求項6】
前記複数個の注入部の個数Nが2個以上、4個以下になっている、請求項1~5のいずれかの項に記載の発泡成形用の射出成形機。
【請求項7】
加熱シリンダと、
該加熱シリンダに入れられているスクリュと、
前記加熱シリンダにおいて軸方向に離間した複数箇所に設けられて不活性ガスを注入するようになっている複数個の注入部と、を備え、
前記加熱シリンダ内が前記スクリュの形状により上流側の第1のステージと下流側の第2のステージとに区分され、前記第1のステージは樹脂が溶融される上流側の供給区間と溶融樹脂が圧縮される下流側の第1の圧縮区間と最下流側の第1の計量区間とから構成され、前記第2のステージは樹脂の圧力が低下する上流側の飢餓区間と溶融樹脂が圧縮される下流側の第2の圧縮区間と最下流側の第2の計量区間とから構成され、前記複数個の注入部からの不活性ガスが前記飢餓区間において供給されるようになっており、
前記複数個の注入部のそれぞれには、開閉機構が設けられ、前記開閉機構は前記スクリュの位置に基づいて開閉が制御されるようになっており、
前記複数個の注入部の間隔Pと、前記注入部の個数Nとの積P×Nは、前記飢餓区間の長さHに対して0.5H以上、1.71H以下になっている、発泡成形用の射出成形機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融樹脂に不活性ガスを注入して金型に射出し発泡成形品を得る発泡成形に使用される射出成形機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内部に微細な気泡を多数含む成形品すなわち発泡成形品は、軽量であるだけでなく強度にも優れており、応用分野は広い。射出成形により発泡成形品を得るには発泡剤を樹脂に混入させる必要があり、発泡剤として物理発泡剤が選択される場合には、窒素、二酸化炭素等の不活性ガスが利用されている。不活性ガスを発泡剤として利用する場合、加熱シリンダ内で溶融した樹脂に不活性ガスを注入し、混練して溶解させる。そうすると樹脂中に不活性ガスが飽和状態になる。これを金型に射出すると、樹脂中で圧力が解放されて不活性ガスが気泡化する。樹脂が冷却固化すると発泡成形品が得られる。不活性ガスにより発泡成形品を成形するとき、不活性ガスを高圧高温の超臨界状態にして注入する方法もあるが、比較的低圧の不活性ガスを注入して発泡成形品を得る、いわゆる低圧発泡成形方法も周知である。低圧発泡成形方法を実施する場合、特許文献1、2に記載の射出成形機のように、スクリュの所定の区間においてスクリュの溝深さを深くして、それによって加熱シリンダ内の溶融樹脂の圧力が低下するようにする。すなわち飢餓区間を形成する。加熱シリンダにはこの飢餓区間に対応して不活性ガスの注入部を設けておき、不活性ガスを注入するようにする。飢餓区間において溶融樹脂中に不活性ガスが浸透することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-177696号公報
【特許文献2】特開2019-18522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
低圧発泡成形が実施される射出成形機は、不活性ガスの注入は低圧で実施することができるので、不活性ガス注入装置をシンプルに構成することができ、安価に提供でき優れている。しかしながら、改善すべき点も見受けられる。具体的にはスクリュや加熱シリンダの長さが比較的長くなってしまうという問題がある。前記したように、低圧発泡成形用の射出成形機においては加熱シリンダ内に飢餓区間が形成されるようにし、この区間において不活性ガスを注入するようにしているが、スクリュは計量が進むと後退する。後退しても不活性ガスが継続的に注入できるようにするためには、そして不活性ガスの注入部から樹脂が浸入しないようにするためには、飢餓区間を十分に長くする必要がある。つまり、計量によって後退する長さ、つまり計量ストロークより十分長く飢餓区間を確保する必要がある。従って、低圧発泡成形用の射出成形機においてはスクリュ、加熱シリンダが必然的に長くなり、機械長が長くなる問題がある。ところで、加熱シリンダにおいて軸方向に離間した2カ所以上に不活性ガスの注入部を設けるようにすると、飢餓区間を短くすることができるかも知れない。すなわち、スクリュの前進、後進の位置に拘わらずいずれか1カ所の不活性ガスの注入部が飢餓区間に位置するようになっていれば不活性ガスの注入を継続できるからであり、他の1カ所の注入部を弁によって閉鎖するようにすれば樹脂の浸入を防止できるからである。特許文献2に記載の射出成形機は、このように加熱シリンダにおいて軸方向に離間した2カ所に不活性ガスの注入部が設けられており、飢餓区間を短くすることが可能な射出成形機であると言える。しかしながら、特許文献2には2カ所以上の注入部をどのような間隔で設けるべきであるのか、あるいは飢餓区間をどの程度短くできるのか等について具体的な記載はない。そうすると機械長を十分に短くすることができない。なお、特許文献1には飢餓区間の長さをスクリュ径の6倍にすることが記載されてはいる。しかしながら、この飢餓区間の長さは不活性ガスの注入部が複数箇所設けられていることを前提として決定されたものではない。さらには飢餓区間の長さは計量ストロークと関係することが予想されるが、これらの関係についての記載はない。いずれにしても、特許文献1、2の記載からは、注入部を2カ所以上設けるときに、飢餓区間と計量ストロークとの関係において、それら2カ所以上の間隔をどのようにすべきかについて記載がないので、十分に飢餓区間を短くすることができず、射出成形機の機械長を短くできない。
【0005】
本開示は、加熱シリンダに飢餓区間を形成し、溶融樹脂に比較的低圧の不活性ガスを注入して発泡成形品を成形するようになっている射出成形機において、安定的に不活性ガスを注入できると共に、十分に機械長が短い射出成形機を提供することを目的としている。
【0006】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、発泡成形用の射出成形機において不活性ガスを注入する注入部を複数個設け、これらに逆止弁あるいは開閉機構を設ける。加熱シリンダはスクリュの形状によって、上流側の第1のステージと下流側の第2のステージとに区分され、そして第1のステージは上流から下流に向かって、樹脂が溶融される供給区間と圧縮される第1の圧縮区間と樹脂が送られる第1の計量区間とから構成され、第2のステージは上流から下流に向かって飢餓区間と第2の圧縮区間と第2の計量区間とから構成されている。本開示は、複数個の注入部の間隔Pと、注入部の個数Nとの積P×Nが、飢餓区間の長さHに対して0.5H以上、1.71H以下になるようにする。これによって機械長を短くするようにする。他の開示においては、飢餓区間の長さHは、スクリュが計量時に後退する長さである計量ストロークSに対して0.7S以上、1.2S以下になるようにする。さらに他の開示においては、複数個の注入部に設けられているのは開閉機構であり、開閉機構はスクリュの位置に基づいて開閉が制御されるようにする。
【発明の効果】
【0008】
本開示により、複数個の注入部の間隔Pと、注入部の個数Nとの積P×Nは、飢餓区間の長さHに対して0.5H以上、1.71H以下になっているので、計量時にスクリュが後退しても少なくとも1個の注入部は飢餓区間に位置することが保証される。つまり不活性ガスを安定的に供給できることが保証される。そして注入部には逆止弁あるいは開閉機構が設けられている。計量時にスクリュが後退すると複数の注入部のうちいずれかが飢餓区間から外れることになるが、このような注入部では樹脂が浸入する虞がある。しかしながら逆止弁あるいは開閉機構が設けられているので、樹脂の逆流を確実に防止することができる。そして飢餓区間の長さが短いので機械長を短くすることができる。他の開示によると、飢餓区間の長さHが、スクリュが計量時に後退する長さである計量ストロークSに対して0.7S以上、1.2S以下になっている。飢餓区間の長さHがこのように短いので、スクリュの長さが短く、射出成形機の機械長は短い。さらに他の開示によると、複数個の注入部には開閉機構が設けられ、これらの開閉機構はスクリュの位置に基づいて開閉が制御されるようになっている。そうすると注入部が飢餓区間から外れるスクリュ位置を記憶しておき、スクリュがこのスクリュ位置に達したら開閉機構を閉じるようにして確実に樹脂の逆流を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態に係る発泡成形用の射出成形機を示す図で、その(A)、(B)はそれぞれスクリュが最前進したときと、計量により最後退したときを示す、射出成形機の正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、以下の実施の形態に限定される訳ではない。説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜簡略化されている。各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。また、図面が煩雑にならないように、ハッチングが省略されている部分がある。
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明の実施の形態に係る射出成形機1は、
図1の(A)、(B)に示されているように、加熱シリンダ2と、この加熱シリンダ2内で回転方向と軸方向とに駆動可能に設けられているスクリュ3とから構成されている。加熱シリンダ2には後方つまり上流側にホッパが設けられ、前方つまり下流側には射出ノズルが設けられ、加熱シリンダ2の外周面には、複数個のバンドヒータが巻かれているが、これらは図に示されていない。
【0012】
本実施の形態に係る射出成形機1は、比較的低圧の不活性ガスを注入して発泡成形品を成形する、いわゆる低圧発泡成形方法を実施するための射出成形機になっている。従って、本実施の形態に係るスクリュ3は低圧発泡成形方法に適した構造になっている。まずスクリュ3は、上流側の第1のステージ5と下流側の第2のステージ6とに大きく分けることができる。第1のステージ5は、上流から中流にかけてスクリュの溝深さが大きい供給区間8になっており、ホッパから供給される樹脂が溶融されながら前方に送られるようになっている。この供給区間8の下流側には、スクリュの溝深さが徐々に小さくなる第1の圧縮区間9が形成されている。第1の圧縮区間9は溶融樹脂が圧縮されながら前方に送られる区間である。そして第1のステージ5の最下流部にはスクリュの溝深さが小さく一定の第1の計量区間10が形成され、圧縮された樹脂が前方に送られるようになっている。なお、本実施の形態においては、第1の圧縮区間9と第1の計量区間10は、いわゆるバリアフライトが形成されている。つまり、所定のピッチとリード角のメインフライトと、メインフライトよりピッチとリード角が大きいサブフライトとから形成されている。従って、この区間において樹脂の逆流は発生し難くい。なお、これらの区間9、10はシングルフライト等の他の種類のフライトから形成するようにしてもよい。第2のステージ6は、上流側に飢餓区間13が形成されている。飢餓区間13はスクリュの溝深さが大きく一定深さになっており、溶融樹脂の圧力が低下するようになっている。次に説明するように不活性ガスはこの飢餓区間13で供給され樹脂に溶融され、溶融樹脂に浸透して溶解する。本実施の形態に係る射出成形機1は、この飢餓区間13の長さHに特徴があるが、後で説明する。この飢餓区間13の下流にはスクリュの溝深さが徐々に小さくなる第2の圧縮区間14が形成され不活性ガスが溶解した溶融樹脂が圧縮・混練されながら送られるようになっている。そして第2のステージ6の最下流部にはスクリュの溝深さが小さく一定の第2の計量区間15が形成され、不活性ガスが浸透した溶融樹脂が前方に送られるようになっている。第1の計量区間10と飢餓区間13の間に、圧力の調整等を目的として中間領域を設けるようにしてもよい。
【0013】
不活性ガスを注入する注入部17、18は加熱シリンダ2に設けられている。本実施の形態においては個数Nが2の第1、2の注入部17、18が軸方向に離間した箇所に設けられている点、およびその間隔Pに特徴がある。第1の注入部17は、
図1の(A)に示されているように、スクリュ3が最前進した状態で、飢餓区間13に対応する位置に設けられている。これに対して第2の注入部18は、第1の注入部17より上流側に設けられ、本実施の形態においては第1のステージ5に対応する位置に設けられている。なお、より好ましくは第2の注入部18は第1の計量区間10より下流側に設けられるようにする。このように第1、2の注入部17、18が設けられているので、
図1の(B)に示されているように計量時にスクリュ3が後退して、第1の注入部17が飢餓区間13から外れても、第2の注入部18が飢餓区間13に入ることになり、不活性ガスの注入を継続できる。本発明において、不活性ガスの注入を安定的に実施できるように、第1、2の注入部17、18の個数Nと間隔Pは、飢餓区間13の長さHと関係づけられており、これについては後で説明する。第1、2の注入部17、18は、それぞれ逆止弁20、21を備え、不活性ガスを供給するボンベ22に接続されている。なお、図において逆止弁20、21は注入部17、18から離間した位置に設けられているように示されているが、実際にはこれらは注入部17、18に組み込まれていてもよい。
【0014】
本実施の形態に係る射出成形機1においては、第1、2の注入部17、18の個数Nと間隔Pとが飢餓区間13の長さHとの関係で規定され、そして、これらは計量ストロークSとの関係にいても規定されている。さらにいくつかの点が規定されている。これらを説明するにあたって、溶融樹脂に安定して不活性ガスを注入するために従来の射出成形機において設計上考慮されている点、および従来の問題点を説明する。
【0015】
従来の発泡成形用の射出成形機の場合、飢餓区間の開始部と終了部には、樹脂の圧力が高い状態から低い状態、あるいは低い状態から高い状態へと変化する領域、すなわち、樹脂が充満している部分と飢餓状態になっている部分の遷移領域が存在する。この遷移領域ではガスは十分に浸透することができないため、ガス供給口が開閉機構を持たない場合は、スクリュが前後進してガス供給口が遷移領域に差し掛かると、溶融樹脂がガス供給口内部に侵入し、ガス供給ができなくなる。この状態が継続すると発泡成形を継続できなくなるため、ガス供給口の清掃などのメンテナンスが必要になる。本開示においては、第1、2の注入部17、18における逆止弁20、21のように、ガス流路に開閉機構を設けることで、ガス供給口が遷移領域に差し掛かっても溶融樹脂の侵入が防止できるようになっている。しかしながら、その期間はガスの供給ができなくなり、ガス溶解量の低下などの不具合を生じる可能性がある。この遷移領域の長さは、スクリュの形状、あるいは計量時の樹脂の粘度やスクリュ回転数などの計量条件などにより変化する。この遷移領域が存在することによって、計量中の間、少なくとも1個のガス供給口が飢餓区間内に常に存在するようにするだけでは高品質の発泡成形品が得られない。計量中においては、飢餓区間の両端から特定の長さだけ内側の範囲に、少なくとも1個のガス供給口が存在するようにする必要がある。具体的に特定の長さは、スクリュが0.5回転で樹脂が進む距離、より望ましくは1回転で樹脂が進む距離とすればよい。通常、スクリュフライトのピッチは、スクリュの径をDとして、1D前後になることが多いので、この特定の長さは0.5D、より望ましくは1Dになる。つまり、計量中において、飢餓区間の両端から0.5Dあるいは1D以上内側の範囲に、少なくとも1個のガス注入口が存在するようにする。そうするとガス供給口が遷移領域に差し掛かるのを回避することができる。これにより、従来の射出成形機において、不活性ガスを溶融樹脂に効率的、安定的に供給することができる。つまり、従来の射出成形機は、飢餓区間の長さはストロークSに対して、前後0.5Dずつ以上、より望ましくは1Dずつ以上、つまりS+1D以上、より望ましくはS+2D以上になるように設計している。しかし、このような従来の設計にすると、飢餓区間は、必要な計量ストロークSに対して長くする必要があるので、機械全長が長くなるという課題がある。
【0016】
このような従来の問題に対して本実施の形態に係る射出成形機1は複数の規定を設けて問題を解決している。まず、第1、2の注入部17、18の間隔Pと、その個数Nとの積P×Nが、飢餓区間13の長さHに対して0.5H以上、1.71H以下になるようにしている。そして、第1、2の注入部17、18の間隔Pは、計量ストロークSに対して0.25S以上、0.8S以下になるようにしている。本実施の形態において第1、2の注入部17、18の個数Nは2個であるが、注入部の個数を増やすことにより、そしてその間隔Pを狭めることによって、確実に不活性ガスを注入することができるようになっている。したがって、飢餓区間13の長さHを短くすることができる。これによって、飢餓区間13の長さHは、スクリュ3が計量時に後退する長さである計量ストロークSに対して0.7S以上、1.2S以下になるようにしている。これは従来の発泡成形用の射出成形機では実現できなかった長さである。さらに、第1、2の注入部17、18の間隔Pと、これらの個数Nとの積P×Nは、計量ストロークSに対して0.5S以上、1.6S以下になるように規定している。これらによって、不活性ガスを溶融樹脂に効率的、安定的に供給することができ、かつ機械長が小さくなるようになっている。
【0017】
なお、本実施の形態においては、不活性ガスの注入部の個数Nは第1、2の注入部17、18の2個であるが、3個以上とすることもできる。しかしながら注入部の個数を増やしすぎるとコストアップの要因になるので4個以下とすることが望ましい。
【実施例0018】
本実施の形態に係る射出成形機1において、安定して発泡成形が実施できることを確認するため実験を行った。
「実験方法」
まず、基準条件を以下に定めた。(各部の寸法、長さは計量ストロークSの比で示している。)
スクリュ径D:84mm(0.2S)
計量ストロークS:420mm (射出容量は約2、327cm3)
飢餓区間13の長さH:420mm (1.0S)
不活性ガス注入部の個数N:2個
注入部の弁機構:逆止弁
注入部同士の間隔P:252mm(0.6S)
使用する樹脂:PP樹脂
そして、上記の基準条件と同じ条件になるようにし、あるいは一部の条件を変えてパージ試験を実施し、良好な発泡状態が得られるか否かを確認した。この際、N個の注入部17、18、…は加熱シリンダ2において等ピッチに配置した。また、スクリュ3が計量ストロークSの半分移動したとき、つまり0.5S後退したとき、加熱シリンダ3にけるスクリュ3の飢餓区間13の中央の位置と、N個の注入部17、18、…の中央の位置とが一致するように注入部17、18、…を配置した。本発明において規定する条件を満たす実施例1~10と、規定する条件を満たしていない比較例1~8とを試験した。
【0019】
実施例1:基準条件と同じ条件の射出成形機を用意し、基準条件の計量ストロークSによりパージ試験を実施した。得られたサンプルは均一に発泡が形成され良好であった。
実施例2:基準条件のうち、注入部17、18同士の間隔を0.8Sに変更してパージ試験を実施した。2個の注入部17、18は、計量中において少なくとも1個が常に飢餓区間13内であって、飢餓区間13の両端より0.1S以上内側に存在するように配置した。具体的には、一方の注入部17は、計量の開始時において飢餓区間13の上流側の端部より0.1Sだけ下流側に位置するように、他方の注入部18は計量の完了時において飢餓区間13の下流側の端部より0.1Sだけ上流側に位置するように、それぞれ加熱シリンダ2に配置した。前記計量ストロークの開始から完了までの間において、注入部は常にこれらの位置よりも内側に配置される。得られたサンプルは均一に発泡が形成され良好であった。
実施例3:基準条件の内、飢餓区間13の長さHを0.8Sにし、注入部17、18、…の個数Nを3個として軸方向に離間させ、隣り合う注入部17、18、…の間隔Pを0.4Sにしてパージ試験を実施した。飢餓区間13の長さHを基準条件より0.2S短くした分、機械長が0.2S短くなった。得られたサンプルは均一に発泡が形成され良好であった。
実施例4:基準条件のうち、逆止弁20、21を他の弁に交換した。すなわち逆止弁付きの注入部17、18を単なる注入孔とし、この注入孔に不活性ガスを供給する管路にエア駆動で開閉するニードル式の注入弁を設けた。他の点は基準条件と同じとしてパージ試験を実施した。なお、注入弁の開閉はスクリュ位置に基づいて切り換えた。すなわち注入孔が飢餓区間13の両端より0.1S以上内側に入っているとき注入弁は開き、飢餓区間13から外れたら閉にして樹脂の逆流を防止するようにした。得られたサンプルは均一に発泡が形成され良好であった。
実施例5:実施例4と同様の条件とした。ただし、注入弁の開閉について、さらに条件を追加し、計量が完了したら次の計量が始まるまでの間いずれも閉にするようにした。パージ試験を実施したところ、均一に発泡が形成され良好なサンプルが得られた。
実施例6:基準条件に加え、逆止弁20、21付きの注入部17、18に不活性ガスを供給する管路において、電気信号を受けて流路を開閉する自動弁を介装した。すなわち開閉機構を設けた。この自動弁の開閉はスクリュ位置に基づいて切換え、注入孔が飢餓区間13の両端より0.1S以上内側に入っているとき自動弁は開き、飢餓区間13から外れたら閉にして樹脂の逆流を防止するようにした。これによってパージ試験を実施したところ、均一に発泡が形成され良好なサンプルが得られた。
実施例7:基準条件において、逆止弁20、21を取り外した。すなわち、注入部17、18は単なる注入孔とし、この注入孔に不活性ガスを供給する管路に、電気信号を受けて流路を開閉する自動弁を介装した。すなわち開閉機構を設けた。この自動弁の開閉はスクリュ位置に基づいて切換え、注入孔が飢餓区間13の両端より0.1S以上内側に入っているとき自動弁は開き、飢餓区間13から外れたら閉にして樹脂の逆流を防止するようにした。得られたサンプルは均一に発泡が形成され良好であった。
実施例8:基準条件の内、計量ストロークSを350mmにした。飢餓区間13の長さHと、注入部17、18の間隔Pはそれぞれ420mmと252mmでいずれも基準条件であるが、計量ストロークSを短くしたことにより、飢餓区間13の長さHと注入部17、18の間隔Pはそれぞれ1.2S、0.72Sになった。得られたサンプルは均一に発泡が形成され良好であった。
実施例9:基準条件の内、注入部17、18の間隔Pを105mm、つまり0.25Sにした。注入部17、18の間隔Pと個数Nの積は、計量ストロークSに対して0.5S、飢餓区間13の長さHに対して0.5Hとなった。この条件でサンプルを得たところ、得られたサンプルは均一に発泡が形成され良好であった。
実施例10:基準条件の内、飢餓区間13の長さHを373mmつまり0.9S、注入部17、18の間隔Pを189mmつまり0.45Sにした。この条件でサンプルを得たところ、得られたサンプルは均一に発泡が形成され良好であった。
実施例11:基準条件の内、飢餓区間13の長さHを294mmつまり0.7Sとし、注入部17、18の間隔Pを126mmつまり0.3Sとした。得られたサンプルは均一に発泡が形成され良好であった。
実施例12:スクリュ径Dを40mm、計量ストロークSを180mm、飢餓区間13の長さHを180mm、注入部17、18の間隔Pを120mm、注入部17、18の個数Nを2個とした。すなわち、飢餓区間13の長さHは1.0S、注入部17、18の間隔Pは0.3Sであり、本発明において規定する条件を満たしている。実験により得られたサンプルは均一に発泡が形成され良好であった。
【0020】
比較例1:基準条件のうち、不活性ガスの注入部の個数を1個にし、計量ストロークSを252mmとした。ただし、注入部は計量ストロークの開始点における飢餓区間の開始位置から42mm(0.5D)の位置に設けた(比較例8を除き、比較例2以降も注入部の個数が1個の場合は同様とする)。飢餓区間13の長さHは1.7Sとなり、本発明の規定を満たしていない。パージ試験を実施した、得られたサンプルは均一に発泡が形成され良好であったが、射出容量は約931cm3に過ぎなかった。つまり十分な射出量が得られなかった。
比較例2:基準条件のうち、不活性ガスの注入部の個数を1個とし、これを単なる注入孔に代えた。つまり逆止弁を取り外した。これによってパージ試験を実施した。しかしながら、サンプルは発泡しなかった。注入孔を調べたところ樹脂が詰まって不活性ガスが供給されていないことがわかった。計量ストローク中に注入部が飢餓区間13の外に出るためと推察される。
比較例3:基準条件のうち、飢餓区間13の長さHを672mm、つまり1.6Sとした。また、不活性ガスの注入部の個数Nを1個とし、これを単なる注入孔に代えた。つまり逆止弁を取り外した。これによってパージ試験を実施した。得られたサンプルは均一に発泡が形成され良好であった。飢餓区間13の長さHが長いので注入孔は常に飢餓区間13内に入ることが保証されたが、機械長は0.6S長くなった。
比較例4:基準条件のうち、不活性ガスの注入部を変更し、いずれも逆止弁のない単なる注入孔に代えた。これによってパージ試験を実施した。しかしながらサンプルは発泡しなかった。調べたところ2個の注入孔には樹脂が詰まっていた。
比較例5:基準条件のうち、2個の注入部の間隔Pを大きくし、420mmつまり、1.0Sとした。パージ試験を実施したところ、サンプルにおける気泡が粗く大きくなっていた。計量工程において2個の注入部がいずれも飢餓区間13から外れるタイミングが生じて、それによって溶融樹脂に不活性ガスが十分に浸透していないことが予想される。
比較例6:基準条件のうち、飢餓区間13の長さHを168mm、つまり0.4Sとした。これによってパージ試験を実施したが、サンプルには気泡がわずかしか形成されなかった。
比較例7:基準条件のうち、計量ストロークSを350mmとした。これにより、飢餓区間13の長さHは1.2Sになった。また注入部の個数Nを1個とした。パージ試験を実施したが、サンプルに形成された気泡は径が大きくなった。
比較例8:スクリュ径Dを40mm、計量ストロークSを180mm、飢餓区間13の長さHを180mmとした。また、注入部は計量ストロークの開始点における飢餓区間の開始位置から20mm(0.5D)の位置に設けたすなわち、飢餓区間13の長さHは1.0Sであり、本発明において規定する条件を満たしている。しかしながら、注入部の個数Nは1個とした。パージ試験を実施したが、サンプルに形成された気泡は径が大きくなった。
以下表に、実験結果をまとめる。
【0021】
【0022】
表1の(※1)は、計量中において飢餓区間13の両端から注入口17、18が最大でどの程度離れたかを示している。計量中において1個または複数個の注入口17、18、…は、飢餓区間13に対して相対的な位置が変化している。そこで計量中の各タイミングにおいて、飢餓区間13の中央にもっとも近く位置する1個の注入口17、18、…に着目する。計量中のあるタイミングでは、例えば一方の注入口17が飢餓区間13の中央に最も近くなり、他のタイミングでは他方の注入口18が最も近くなる。このように、計量中の各タイミングにおいて、飢餓区間13の中央にもっとも近く位置する1個の注入口17、18、…について、飢餓区間13の両端からの最短距離が、※1にまとめられている。この数値が正の値のとき、計量中において少なくとも1個の注入口17、18、…が飢餓区間13内に入っており、飢餓区間13の両端から当該正の値だけ常に内側に入っていることを意味している。一方、負の値のとき、計量中において全ての注入口17、18、…が飢餓区間13から外れるときがあることを示している。
【0023】
表1において項目「H/S」は、飢餓区間13の長さHの計量ストロークSに対する比率を、項目「P/S」は、注入部の間隔Pの計量ストロークSに対する比率を、項目「P×N/S」は、注入部の間隔Pと個数Nとの積P×Nの計量ストロークSに対する比率を、そして項目「P×N/H」は、注入部の間隔Pと個数Nとの積P×Nの飢餓区間13の長さHに対する比率を、項目「A/S」は、計量ストロークSに対する※1の長さの比率を、それぞれ示している。
【0024】
追加の試験として、実施例1~10と同等の条件で、実施例1’~10’として金型による発泡成形の試験を実施した。すなわち金型の開き量によってキャビティの体積が自由に設定できるインロー金型を用いて、設定した射出ストロークに合うように適切な金型開き量を設定し、他の条件は全て実施例1~10と同じにして発泡成形品を成形するようにした。いずれの条件においても、計量ストローク中に1個以上の注入部17、18、…が飢餓区間13の両端から0.1S以上内側の範囲に入るように注入部17、18、…が配置されており、遷移区間を避けて安定的にガスが供給された。その結果、実施例1’~10’として得られた発泡成形品は、全て均一に発泡が形成され、良好であった。
【0025】
表1から読み取れるように、試験で使用した射出成形機1のスクリュ3は、スクリュ径Dが84mmと40mmの2種類のみとしている。つまり他のスクリュ径Dに対する試験は実施していない。しかしながら、スクリュ径Dが異なっていても、ガス注入部が2個以上設けられ、これら複数個のガス注入部のそれぞれに逆止弁あるいは開閉機構が設けられ、そして注入部の間隔Pと、その個数Nとの積P×Nが、飢餓区間13の長さHに対して0.5H以上、1.71H以下になっていれば、スクリュ径Dが異なっていても、本開示が奏する効果を奏することができる。一般的に、射出成形機において特定の効果を奏するように特定の形状を備えたスクリュを設計するとき、各部分の長さ、例えばスクリュ長さL、飢餓区間13の長さH、他の部分の長さL1、L2、…等を、スクリュの径Dとの比率により決定している。そして、スクリュ径Dを大きくしたり小さくしたりするスケールアップ、スケールダウンをするとき、それぞれの比率に対してスクリュ径Dを乗じて各部分の長さを決定するようにしている。このようにすると、同等の効果を奏するからである。つまり、各部分の長さとスクリュ径Dとの比率が同じであれば、同等の効果を奏することは技術常識になっている。ところで、上の表1では、項目「H/S」、「P/S」、「P×N/S」、「A/S」が、いずれも計量ストロークSを基準とした比率になっており、スクリュ径Dを基準としていない。しかしながら、計量ストロークS自体がスクリュ径Dを基準とした比率で表すことができる長さということができる。そうすると、表1のこれら項目の比率は、実質的にスクリュ径Dを基準として示すことができるものである。以上から、スクリュ径Dが表1にないスクリュであっても、これら項目の比率に基づいて各部分の長さを決定すれば、本開示に係るスクリュ3と同等の効果を奏することができることがわかる。
【0026】
ところで、実施例1~12および比較例1~8では、計量ストロークSは必ずしも射出成形機1における最大計量ストロークではない。しかしながら、射出成形機1の設計において、最大計量ストロークとして実施例1~12で示した計量ストロークSを考慮すべきである。もし、最大計量ストロークが計量ストロークSを超えていると、ガス供給口が飢餓区間13の開始部、終了部にある遷移領域に差し掛かるため、不活性ガスの供給が阻害され、成形品品質に悪影響を及ぼすからである。
【0027】
本実施の形態に係る射出成形機1は色々な変形が可能である。例えば、上の実験において実施したように、注入部17、18には逆止弁20、21に代えて、実施例4、5で説明したような注入弁からなる開閉機構を設けるようにしてもよい。あるいは、実施例6、7で説明したように、注入部17、18に不活性ガスを供給する管路に自動弁からなる開閉機構を設けてもよい。開閉機構はコントローラから開閉を制御できるようにし、スクリュ3の位置に応じて開閉するようにする。そうすると、注入部17、18が飢餓区間13に入っているときに開にして、飢餓区間13から外れたら閉にすることができ、注入部17、18からの樹脂の逆流を確実に防止できる。他にも変形が可能であり、前記したように注入部17、18は3個以上設けるようにしてもよい。あるいは逆止弁と開閉機構を同時に設けてもよい。また、3個以上の注入部を異なるピッチで配置したり、N個の注入部の配置を飢餓区間13に対して上流側あるいは下流側に偏芯させても良い。さらには、スクリュ3のフライトについても変形が可能であり、シングルフライト、ダブルフライト等の色々なフライトから選定することができる。
【0028】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は既に述べた実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることはいうまでもない。以上で説明した複数の例は、適宜組み合わせて実施されることもできる。