(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190247
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】太陽電池セル及び太陽電池セル製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/0224 20060101AFI20221219BHJP
H01L 31/0468 20140101ALI20221219BHJP
【FI】
H01L31/04 262
H01L31/04 532C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098489
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】岡本 紳平
(72)【発明者】
【氏名】中村 淳一
【テーマコード(参考)】
5F151
【Fターム(参考)】
5F151AA02
5F151AA03
5F151AA08
5F151CB21
5F151DA03
5F151FA06
5F151FA10
5F151FA18
5F151GA04
(57)【要約】
【課題】安価で光電変換効率が高いシースルー型の太陽電池セルを提供すること。
【解決手段】本発明の一態様に係る太陽電池セル1は、板状に形成され、厚み方向に貫通する複数の透光開口を有する半導体基板10と、前記半導体基板10の受光面側に積層される第1半導体層20と、前記半導体基板10の裏面側に積層される第2半導体層30と、前記第1半導体層20に積層され、互いに平行に配置される複数のフィンガー電極41を有する表面電極40と、前記第2半導体層30に積層される裏面電極50と、前記第1半導体層20及び前記フィンガー電極41に跨って積層され、互いに平行かつ前記フィンガー電極41と交差するよう配置される複数の線状の補償電極60と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状に形成され、厚み方向に貫通する複数の透光開口を有する半導体基板と、
前記半導体基板の受光面側に積層される第1半導体層と、
前記半導体基板の裏面側に積層される第2半導体層と、
前記第1半導体層に積層され、互いに平行に配置される複数のフィンガー電極を有する表面電極と、
前記第2半導体層に積層される裏面電極と、
前記第1半導体層及び前記フィンガー電極に跨って積層され、互いに平行かつ前記フィンガー電極と交差するよう配置される複数の線状の補償電極と、
を備える、太陽電池セル。
【請求項2】
前記補償電極のピッチは、前記フィンガー電極のピッチの1.2倍以上5.0倍以下である、請求項1に記載の太陽電池セル。
【請求項3】
前記補償電極は、前記フィンガー電極に対して垂直である、請求項1又は2に記載の太陽電池セル。
【請求項4】
板状の半導体基板と、前記半導体基板の受光面側に積層される第1半導体層と、前記半導体基板の裏面側に積層される第2半導体層と、前記第1半導体層に積層され、互いに平行に配置される複数のフィンガー電極を有する表面電極と、前記第2半導体層に積層される裏面電極と、を備える、太陽電池一次製品に、前記第1半導体層及び前記フィンガー電極に跨って、互いに平行かつ前記フィンガー電極と交差するよう複数の線状の補償電極を積層する工程と、
前記太陽電池一次製品に、前記半導体基板の厚み方向に貫通する複数の透光開口を形成する工程と、
を備える、太陽電池セル製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池セル及び太陽電池セル製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クリーンなエネルギー源として、太陽電池の利用が広がっている。一般的な太陽電池は、光を遮断するために、窓等には設置することが控えられる。そこで、光を透過する開口を形成したシースルー型の太陽電池も検討されている。例として、特許文献1には、光の入射によりキャリアを生成するn型半導体の基材にp型半導体の膜を積層することによりキャリアを回収するpn接合を形成した半導体基板に複数の開口を形成し、半導体基板の受光面に開口を避けるようフィンガー電極を配設した太陽電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既存の太陽電池セルに開口を形成してシースルー化すると、フィンガー電極が切断され、光電変換効率が低下するおそれがある。このため、高効率のシースルー型太陽電池セルを提供するためには、既存の太陽電池セルとは異なる設計をする必要があり、高価となりやすい。このため、本発明は、安価で光電変換効率が高いシースルー型の太陽電池セルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る太陽電池セルは、板状に形成され、厚み方向に貫通する複数の透光開口を有する半導体基板と、前記半導体基板の受光面側に積層される第1半導体層と、前記半導体基板の裏面側に積層される第2半導体層と、前記第1半導体層に積層され、互いに平行に配置される複数のフィンガー電極を有する表面電極と、前記第2半導体層に積層される裏面電極と、前記第1半導体層及び前記フィンガー電極に跨って積層され、互いに平行かつ前記フィンガー電極と交差するよう配置される複数の線状の補償電極と、を備える。
【0006】
上述の太陽電池セルにおいて、前記補償電極のピッチは、前記フィンガー電極のピッチの1.2倍以上5.0倍以下であってもよい。
【0007】
上述の太陽電池セルにおいて、前記補償電極は、前記フィンガー電極に対して垂直であってもよい。
【0008】
本発明の一態様に係る太陽電池セル製造方法は、板状の半導体基板と、前記半導体基板の受光面側に積層される第1半導体層と、前記半導体基板の裏面側に積層される第2半導体層と、前記第1半導体層に積層され、互いに平行に配置される複数のフィンガー電極を有する表面電極と、前記第2半導体層に積層される裏面電極と、を備える、太陽電池一次製品に、前記第1半導体層及び前記フィンガー電極に跨って、互いに平行かつ前記フィンガー電極と交差するよう複数の線状の補償電極を積層する工程と、前記太陽電池一次製品に、前記半導体基板の厚み方向に貫通する複数の透光開口を形成する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安価で光電変換効率が高いシースルー型の太陽電池セルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る太陽電池セルの模式平面図である。
【
図2】
図1の太陽電池セルのA-A線模式断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る太陽電池セル製造方法の手順を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の一実施形態に係る太陽電池セル製造方法で用意される太陽電池一次製品の模式断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る太陽電池セル製造方法での一工程を示す模式断面図である。
【
図6】本発明に係る太陽電池セルの補償電極のピッチと出力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照して本発明の各実施形態について説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。また、簡略化のために、部材の図示、符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、他の図面を参照するものとする。また、図面における種々部材の形状及び寸法は、便宜上、見やすいように調整されている。
【0012】
図1は、本発明の第1実施形態に係る太陽電池セル1の模式平面図である。
図2は、太陽電池セル1の模式断面図である。太陽電池セル1は、板状に形成される半導体基板10と、半導体基板10の受光面側に積層される第1半導体層20と、半導体基板10の裏面側(受光面と反対側)に積層される第2半導体層30と、第1半導体層20に積層される表面電極40と、第2半導体層30に積層される裏面電極50と、第1半導体層20及び表面電極40に跨って積層される複数の補償電極60と、を備える。
【0013】
半導体基板10は、入射光を吸収して光キャリア(電子及び正孔)を生成する光電変換基板として機能する。半導体基板10は、受光面に光の入射率を向上するために、テクスチャ構造と呼ばれるピラミッド型の微細な凹凸構造を有してもよい。
【0014】
半導体基板10は、単結晶シリコン又は多結晶シリコン等の結晶シリコン材料で形成することができる。また、ガリウムヒ素(GaAs)等の他の半導体材料から形成されてもよい。半導体基板10は、例えば結晶シリコン材料にn型ドーパントがドープされたn型の半導体基板とすることができる。n型ドーパントとしては、例えばリン(P)が挙げられる。半導体基板10の材料として結晶シリコンが用いられることにより、暗電流が比較的に小さく、入射光の強度が低い場合であっても比較的高出力(照度によらず安定した出力)が得られる。
【0015】
半導体基板10は、厚み方向に貫通する複数の透光開口11を有する。透光開口11は、太陽電池セル1の裏面側に光を透過して採光することを可能にする。透光開口11の平面視での形状としては、典型的には円形とされるが、楕円形状、多角形状等、任意の形状とされてもよい。
【0016】
透光開口11は、均等に採光するために、半導体基板10の略全体に分散して形成されることが好ましいが、半導体基板10の強度を確保するために、例えば半導体基板10の周縁部、半導体基板10を横断する帯状領域等の特定の領域には設けられないようにしてもよい。透光開口11は、より均等に採光するとともに、美観を向上できるよう、規則的に配置されることが好ましい。例えば複数の透光開口11が等間隔に並んだ列を一定の間隔で配置することができる。
【0017】
半導体基板10における透光開口11の面積率、つまり半導体基板10の開口率としては、例えば3%以上50%以下、好ましくは5%以上30%以下とすることができる。これにより、十分な光が太陽電池セル1を透過することができ、且つ比較的大きい電力を得ることができる。
【0018】
透光開口11の平均径(円相当径)としては、例えば0.5mm以上10mm以下好ましくは1mm以上5mm以下とすることができる。これにより、太陽電池セル1の光電変換効率を大きくしながら、十分な採光が可能となる。透光開口11のピッチ(中心間距離)としては、例えば透光開口11の平均径の2倍以上5倍以下とすることができる。
【0019】
第1半導体層20及び第2半導体層30は、半導体基板10の内部から、互いに極性が異なるキャリアを誘引することにより、異なる極性の電荷を収集する。具体的には、半導体基板10がn型である場合、第1半導体層20はp型半導体から形成され、第2半導体層30はn型半導体から形成され得る。
【0020】
第1半導体層20及び第2半導体層30は、例えば所望の導電型を付与するドーパントを含有するアモルファスシリコン材料で形成することができる。p型ドーパントとしては、例えばホウ素(B)が挙げられ、n型ドーパントとしては、例えば上述したリン(P)が挙げられる。
【0021】
表面電極40及び裏面電極50は、第1半導体層20及び第2半導体層30が引き寄せたキャリアを電荷として取り出す。表面電極40及び裏面電極50は、導電性を有する材料から形成され、電気抵抗が小さい金属を主体とすることが好ましい。また、表面電極40及び裏面電極50は、多層構造であってもよい。
【0022】
表面電極40は、互いに平行に配置される複数のフィンガー電極41と、複数のフィンガー電極41を接続するバスバー電極42とを含む。一方、裏面電極50は、透光開口11を除いて略全面に積層され得る。なお、「互いに平行」とは、全体から2本を選択する可能な全ての組合わせにおける角度差の平均値が10°以下、好ましくは5°以下、より好ましくは2°以下であることを意味する。
【0023】
フィンガー電極41は、可能な限り面積を小さくして光の入射量を大きくするために、導電性を担保できる最小限の幅で形成され、等間隔に配置されることが好ましい。材質及び形成方法にもよるが、フィンガー電極41の幅としては、例えば30μm以上200μm以下とすることができる。フィンガー電極41のピッチを大きくすれば、フィンガー電極41の合計面積を小さくして光の入射量を大きくできるが、半導体基板10の内部で生成したキャリアがフィンガー電極41まで到達する前に再結合することで損失が増大する。このため、フィンガー電極41のピッチは、遮光による損失(シャドーロス)とキャリア再結合による損失とを考慮して総合的に光電変換効率を最大化できるよう選択される。具体的なフィンガー電極41のピッチとしては、例えば1mm以上3mm以下とすることができる。
【0024】
バスバー電極42は、各フィンガー電極41から収集した電流を損失なく流すことが望まれるのに加えて、太陽電池セル1を外部に接続するための接続端子としても使用され得る。このため、バスバー電極42の幅はフィンガー電極41の幅よりも大きい。特に、複数の太陽電池セル1を、互いに端部を重ね合わせて配置することによりモジュール化する場合、バスバー電極42が表側の太陽電池セル1の裏側に配置されるようにすることで、バスバー電極42の面積を大きくしても出力が低下しないようにできる。このため、バスバー電極42は、複数のフィンガー電極41の端部を接続するよう、太陽電池セル1の側縁に沿って配置されることが好ましいバスバー電極42の幅としては、たとえば0.5mm以上2mm以下とすることができる。
【0025】
複数の補償電極60は、互いに平行かつフィンガー電極41と交差するよう配置される。補償電極60は、複数のフィンガー電極41を接続し、いずれかのフィンガー電極41に透光開口11が重なってそのフィンガー電極41が切断されたとしても、切断されたフィンガー電極41から電荷を補償電極60を介して隣接するフィンガー電極41に迂回させて最終的にバスバー電極42まで伝達することができる。補償電極60は、隣接するフィンガー電極41を最短距離で接続して電気抵抗を低減できるよう、フィンガー電極41に対して垂直であることが好ましい。なお、「垂直」とは、フィンガー電極41と補償電極60のすべての交差における角度の平均値が80°以上100°以下、好ましくは85°以上95°以下、より好ましくは88°以上92°以下であることを意味する。
【0026】
補償電極60は、フィンガー電極41と同様に、可能な限り面積を小さくして光の入射量を大きくするために、導電性を担保できる最小限の幅で形成され、等間隔に配置されることが好ましい。補償電極60の幅は、フィンガー電極41と同様に、例えば30μm以上200μm以下とすることができるが、第1半導体層20とフィンガー電極41とに跨って段差を乗り越えるように積層されるため、フィンガー電極41よりもやや大きい幅で形成され得る。
【0027】
補償電極60のピッチの下限としては、フィンガー電極41のピッチの1.2倍が好ましく、2.0倍がより好ましい。一方、補償電極60のピッチの上限としては、フィンガー電極41のピッチの5.0倍が好ましく、4.0倍がより好ましい。補償電極60のピッチを前記下限以上とすることによって、補償電極60による光の入射量の減少による出力低下を軽減できる。また、補償電極60のピッチを前記上限以下とすることによって、透光開口11がフィンガー電極41を切断した場合に隣接するフィンガー電極41を迂回して電荷を回収することによって、出力低下を抑制できる。
【0028】
このように、太陽電池セル1は、フィンガー電極41と交差する補償電極60を備えるため、設計及び製造の際にフィンガー電極41と透光開口11との位置関係を精密に調整する必要がないため、安価に製造することができるにもかかわらず、比較的光電変換効率が高い。
【0029】
太陽電池セル1は、
図3に示す、本発明に係る太陽電池セル製造方法の一実施形態によって製造することができる。本実施形態の太陽電池セル製造方法は、太陽電池一次製品用意工程(ステップS1)と、補償電極積層工程(ステップS2)と、透光開口形成工程(ステップS3)と、を備える。
【0030】
ステップS1の太陽電池製品用意工程では、
図4に示すように、板状の半導体基板10と、半導体基板10の受光面側に積層される第1半導体層20と、半導体基板10の裏面側に積層される第2半導体層30と、第1半導体層20に積層され、互いに平行に配置される複数のフィンガー電極41を有する表面電極40と、第2半導体層30に積層される裏面電極50と、を備える太陽電池一次製品Pを用意する。つまり、太陽電池一次製品Pとしては、透光開口を有しない既存の太陽電池セルを用いることができる。
【0031】
ステップS2の補償電極積層工程では、
図5に示すように、太陽電池一次製品Pに、第1半導体層20及びフィンガー電極41に跨って、互いに平行かつフィンガー電極41と交差するよう複数の線状の補償電極60を積層する。補償電極60は、例えば導電性ペースト等の印刷及び焼成によって形成することができる。また、補償電極60は、サブトラクティブ法、セミアディティブ法等の導電パターン形成方法を用いて積層してもよい。
【0032】
ステップS3の透光開口形成工程では、太陽電池一次製品Pに、半導体基板10の厚み方向に貫通する複数の透光開口11を形成する。これにより、
図1に示す太陽電池セル1が得られる。透光開口11は、レーザ加工、エッチング加工等又はそれらの複数の組み合わせによって形成することができる。透光開口形成工程は、補償電極積層工程で支障がなければ、補償電極積層工程よりも先に行ってもよい。
【0033】
このように、本実施形態の太陽電池セル製造方法によれば、既存の太陽電池セルPに透光開口11を形成してシースルー型の太陽電池セル1に改変することができるので、設計コストの低減及びマスプロダクト効果により比較的安価にシースルー型の太陽電池セル1を製造することができる。
【0034】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、種々の変更及び変形が可能である。本発明に係る太陽電池セルは、例えばパッシベーション層、反射防止膜等、さらなる構成要素を備えてもよい。また、表面電極、裏面電極及び補償電極は構造であってもよい。
【実施例0035】
以下に、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されない。
【0036】
フィンガー電極のピッチが1.5mmである太陽電池セルに、フィンガー電極に垂直な補償電極をピッチを異ならせて形成し、それぞれに直径2.5mmの透光開口をピッチ6mm、列間隔6mm、1列ごとに半周期ずらして形成することでシースルー型太陽電池セルとするシミュレーションを行い、それぞれの太陽電池セルの最大出力を確認した。
【0037】
図6に、前記シミュレーションによって確認された補償電極のピッチのフィンガー電極のピッチに対する比と最大出力との関係を示す。なお、補償電極及び透光開口を形成する前の太陽電池セルの最大出力は、0.792Wである。
【0038】
この結果から、補償電極のピッチをフィンガー電極のピッチの1.2倍以上5.0倍以下とすることによって、補償電極が光を遮断することによる出力低下(シャドーロス)を小さくしつつ、透光開口によって切断されたフィンガー電極からの補償電極を介した電荷の回収効率を向上し、比較的高い出力が得られることが確認された。