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特開2022-190270電極、電極の製造方法、オゾン発生装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190270
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】電極、電極の製造方法、オゾン発生装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/051 20210101AFI20221219BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20221219BHJP
   C25B 11/067 20210101ALI20221219BHJP
   C25B 11/063 20210101ALI20221219BHJP
   C25B 1/13 20060101ALI20221219BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20221219BHJP
   C25B 9/30 20210101ALI20221219BHJP
   C01B 13/10 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
C25B11/051
C25B11/081
C25B11/067
C25B11/063
C25B1/13
C25B9/00 A
C25B9/30
C01B13/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098520
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】落合 剛
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 萌
(72)【発明者】
【氏名】矢矧 束穂
(72)【発明者】
【氏名】濱田 健吾
【テーマコード(参考)】
4G042
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G042CA04
4G042CC23
4K011AA20
4K011AA21
4K011AA26
4K011AA31
4K011DA11
4K021AA09
4K021BA02
4K021DA13
(57)【要約】
【課題】電解オゾンの発生に利用可能であり、継続したオゾン発生を実現できる電極、電極の製造方法、オゾン発生装置を提供する。
【解決手段】第1金属14によって形成された金属基部11の表面11aに、第1金属14の酸化膜12が形成された電極基材13と、電極基材13の酸化膜12の表面12aの一部が除去されて金属基部11に達するように形成された凹部15内で金属基部11に付着した状態に形成された付着金属部16とを有する電極10であって、付着金属部16は、第1金属と第1金属とは別の第2金属との合金を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属によって形成された金属基部の表面に前記第1金属の酸化膜が形成された電極基材と、前記電極基材の前記酸化膜の表面の一部が除去されて前記金属基部に達するように形成された凹部内で前記金属基部に付着した状態に形成された付着金属部とを有し、
前記付着金属部は、前記第1金属と前記第1金属とは別の第2金属との合金を含むことを特徴とする電極。
【請求項2】
前記第1金属が、前記第2金属より酸化されやすいことを特徴とする請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記第2金属が、貴金属であることを特徴とする請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】
前記第2金属が、白金、イリジウム、パラジウム、インジウムから選択される少なくとも1以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の電極。
【請求項5】
前記付着金属部が、前記第2金属を40atom%以上含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の電極。
【請求項6】
前記第1金属が、チタンまたは二酸化鉛であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の電極。
【請求項7】
第1金属によって形成された金属基部の表面に前記第1金属の酸化膜が形成された陽極と、前記第1金属とは別の第2金属によって形成された陰極とを用い、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加し、前記陰極の接触端を前記陽極の前記酸化膜に押圧しながら前記陽極の表面に摺動させ、前記陽極に、前記酸化膜の表面の一部が除去されて前記金属基部に達する凹部と、前記凹部内で前記金属基部に付着した付着金属部とを形成する付着金属部形成工程を有し、
前記付着金属部において、前記第1金属と前記第1金属とは別の第2金属との合金を形成することを特徴とする電極の製造方法。
【請求項8】
前記付着金属部形成工程において、水中で前記陰極の接触端を前記陽極の前記酸化膜に押圧しながら前記陽極に摺動させることを特徴とする請求項7に記載の電極の製造方法。
【請求項9】
前記付着金属部形成工程において、前記接触端をテーパ状に形成し、前記陽極に点接触または線接触の状態で前記陽極に摺動させることを特徴とする請求項7または8に記載の電極の製造方法。
【請求項10】
第1金属によって形成された金属基部の表面に前記第1金属の酸化膜が形成された陽極と、
前記第1金属とは別の第2金属によって形成された陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加する電圧印加装置と、
貯留した水中に前記陽極および前記陰極を挿入することが可能な水槽と、
前記陰極の接触端を前記陽極の前記酸化膜に押圧しながら前記陽極の表面に摺動させる摺動機構と、
を有することを特徴とするオゾン発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気分解等に好適に使用できる電極、電極の製造方法、オゾン発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、第1金属によって形成された電極主材と、電極主材の表面に点在する第2金属とを有し、電極主材の表面に第1金属の酸化膜を有し、電極主材の表面のうち、溝を避けた位置に第2金属が存在する電極、および、この電極を用いて水を電気分解し、オゾンを発生させるオゾン製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-160502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の発明の場合、点在する貴金属微粒子が形成された直後はオゾンが発生するが、その後、オゾンの発生が停止する事象が起こり、オゾンを連続的に継続して発生させることが難しいことが分かった。
【0005】
本発明は、電解オゾンの発生に利用可能であり、継続したオゾン発生を実現できる電極、電極の製造方法、オゾン発生装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は、次の態様を提供する。
本発明の第1の態様は、第1金属によって形成された金属基部の表面に前記第1金属の酸化膜が形成された電極基材と、前記電極基材の前記酸化膜の表面の一部が除去されて前記金属基部に達するように形成された凹部内で前記金属基部に付着した状態に形成された付着金属部とを有し、前記付着金属部は、前記第1金属と前記第1金属とは別の第2金属との合金を含むことを特徴とする電極である。
【0007】
本発明の第2の態様は、前記第1金属が、前記第2金属より酸化されやすいことを特徴とする第1の態様の電極である。
本発明の第3の態様は、前記第2金属が、貴金属であることを特徴とする第1または第2の態様の電極である。
本発明の第4の態様は、前記第2金属が、白金、イリジウム、パラジウム、インジウムから選択される少なくとも1以上であることを特徴とする第1または第2の態様の電極である。
本発明の第5の態様は、前記付着金属部が、前記第2金属を40atom%以上含むことを特徴とする第1~4のいずれか1の態様の電極である。
本発明の第6の態様は、前記第1金属が、チタンまたは二酸化鉛であることを特徴とする第1~5のいずれか1の態様の電極である。
【0008】
本発明の第7の態様は、第1金属によって形成された金属基部の表面に前記第1金属の酸化膜が形成された陽極と、前記第1金属とは別の第2金属によって形成された陰極とを用い、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加し、前記陰極の接触端を前記陽極の前記酸化膜に押圧しながら前記陽極の表面に摺動させ、前記陽極に、前記酸化膜の表面の一部が除去されて前記金属基部に達する凹部と、前記凹部内で前記金属基部に付着した付着金属部とを形成する付着金属部形成工程を有し、前記付着金属部において、前記第1金属と前記第1金属とは別の第2金属との合金を形成することを特徴とする電極の製造方法である。
【0009】
本発明の第8の態様は、前記付着金属部形成工程において、水中で前記陰極の接触端を前記陽極の前記酸化膜に押圧しながら前記陽極に摺動させることを特徴とする第7の態様の電極の製造方法である。
本発明の第9の態様は、前記付着金属部形成工程において、前記接触端をテーパ状に形成し、前記陽極に点接触または線接触の状態で前記陽極に摺動させることを特徴とする第7または第8の態様の電極の製造方法である。
【0010】
本発明の第10の態様は、第1金属によって形成された金属基部の表面に前記第1金属の酸化膜が形成された陽極と、前記第1金属とは別の第2金属によって形成された陰極と、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加する電圧印加装置と、貯留した水中に前記陽極および前記陰極を挿入することが可能な水槽と、前記陰極の接触端を前記陽極の前記酸化膜に押圧しながら前記陽極の表面に摺動させる摺動機構と、を有することを特徴とするオゾン発生装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電解オゾンの発生に利用可能であり、継続したオゾン発生を実現できる電極、電極の製造方法、オゾン発生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】電極の一例を示す断面図である。
図2】付着金属部形成工程の一例を示す説明図である。
図3】オゾン発生装置の一例を示す概略図である。
図4】実験1におけるオゾン発生量のグラフである。
図5】実験2におけるオゾン発生量のグラフである。
図6】実験2における電流変化のグラフである。
図7】PtTi合金の一例を示す顕微鏡写真である。
図8】電気分解による構造変化を(a)~(c)の順に示す顕微鏡写真である。
図9】スポンジ状のPtナノ微粒子多孔質体の一例を示す顕微鏡写真である。
図10】InTi合金の電気分解後の多孔質体の一例を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、好適な実施形態に基づいて、本発明を説明する。
【0014】
図1に示すように、実施形態の電極10は、第1金属14によって形成された金属基部11の表面11aに、第1金属14の酸化膜12が形成された電極基材13と、酸化膜12の表面12aの一部が除去されて金属基部11に達するように形成された凹部15内で、金属基部11に付着した状態に形成された付着金属部16とを有する。付着金属部16は、第1金属と第2金属との合金を含む。第2金属は、金属基部11を形成する第1金属14とは別の金属である。
【0015】
電極基材13は、例えば、第1金属14からなる金属板の表面を電気化学法により陽極酸化処理して形成することができる。この場合、金属基部11は、酸化されていない金属板から形成される。また、酸化膜12は、陽極酸化処理された表層として形成される。
【0016】
電極基材13は、例えば、チタン製の金属基部11の表面11aに酸化チタン(TiO)の酸化膜12が形成された材料が好適である。電極基材13は、その全体が二酸化鉛(PbO)によって形成された構成も採用可能である。この場合、第1金属14は、二酸化鉛または鉛(Pb)であってもよい。
【0017】
電極基材13の酸化膜12は、表面12aの一部が除去されて形成された凹部15を有する。図示例の凹部15は、金属基部11に達している。特に図示しないが、酸化膜12が除去された箇所の凹部15において、金属基部11の表面が剥離していなくてもよく、金属基部11の一部が剥離または除去されても構わない。
【0018】
凹部15の幅は、特に限定されないが、100μm程度またはそれ以下が好適である。凹部15が面内で線状に形成されている場合、凹部15の幅は、凹部15の長さ方向および深さ方向に垂直の方向の寸法である。酸化膜12の表面12aに複数の凹部15が形成されている場合、各凹部15の長さ方向は、一定に揃っていてもよく、様々な向きになっていてもよい。凹部15が、酸化膜12の表面12aに沿って真っ直ぐに延在してもよく、曲線状、屈曲線状に延在してもよい。
【0019】
上述したように、第2金属は第1金属とは別の金属である。第2金属としては、貴金属または触媒活性を有する金属が好ましい。ここで、貴金属は、金(Au)、銀(Ag)、白金族金属、あるいは、これらから選択される1以上を含む合金を指す。白金族金属とは、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)の総称である。また、第2金属が、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、インジウム(In)から選択される少なくとも1以上であることが好ましい。
【0020】
付着金属部16またはその付近における第1金属、第2金属、およびその他の元素の分布および組成比は、例えばTEM(透過型電子顕微鏡)、STEM(走査型透過型電子顕微鏡)、SEM(走査型電子顕微鏡)、電子線回折等を用いた観察により確認することができる。例えば、付着金属部16の断面または表面を観測してもよい。ナノメートルオーダーの観察において、付着金属部16が同一の位置(面内方向および深さ方向が同一の座標)に第1金属および第2金属が存在する場合は、第1金属と第2金属とが合金を形成していると推測することができる。また、電子線等のエネルギー線を局所的に照射し、放出されたX線強度の解析等により、元素を定量することが可能である。これにより測定される組成比は、原子数比(atom%)、質量比(mass%)等に換算することが可能である。付着金属部16が、第2金属を40atom%以上含むことが好ましい。
【0021】
実施形態の電極10は、水(HO)の電気分解によるオゾン(O)生成の陽極電極に用いた場合に、オゾン発生特性を確保することができる。すなわち、電極10をオゾン発生用電極として用いることができる。
【0022】
次に、電極10の製造方法の一例について説明する。実施形態の製造方法は、まず、第1金属14によって形成された金属基部11の表面11aに、第1金属の酸化膜12が形成された電極基材13を用意する。この段階の電極基材13には、凹部15および付着金属部16が形成されていなくてもよい。
【0023】
図2および図3に示すように、電極基材13から形成され得る陽極21と、第2金属17によって形成された陰極22とを用い、陽極21と陰極22との間に電圧を印加する。陽極21および陰極22は、それぞれ電圧印加装置23,24に接続されてもよい。電圧印加装置23,24は、陽極21と陰極22との間に電圧を印加する。
【0024】
実施形態の製造方法は、付着金属部形成工程を有する。付着金属部形成工程では、陰極22の先端を陽極21の表面に接触させ、陰極22の接触端22aを陽極21の酸化膜12に押圧しながら陽極21の表面に摺動させる。酸化膜12は第1金属14および第2金属17に比べて電気伝導性が低いため、直ちに通電しないが、電気的なショート(短絡)が起こり、酸化膜12の一部が破壊されると、凹部15が形成される。
【0025】
凹部15が酸化膜12の表面12aの一部が除去されて金属基部11に達すると、電極基材13の第1金属14と、陰極22の第2金属17とが結合して、付着金属部16が形成される。付着金属部16は、凹部15内で金属基部11に付着し、第1金属14と第2金属17との合金を形成する。図1では、付着金属部16を模式的に表示している。付着金属部16が酸化膜12より薄くてもよく、酸化膜12と同程度の厚みでもよく、酸化膜12より厚く隆起してもよい。また、付着金属部16が凹部15全体に形成されてもよく、凹部15の一部に形成されてもよい。
【0026】
第1金属14は、陽極21において第2金属17よりも酸化されやすい金属であることが好ましい。また、第2金属17は、陽極21において第1金属14よりも酸化されにくい金属であることが好ましい。これにより、第1金属14と第2金属17との合金を形成した後で、第1金属14が溶出または剥離し、第2金属17が陽極21上に残留しやすい。陽極21上に残留した第2金属17がスポンジ状等の多孔質となると、表面積が拡大し、反応活性、触媒活性が増大する結果、オゾン発生が促進されると考えられる。金属の酸化されやすさは、イオン化傾向、電極電位等により比較することができる。
【0027】
付着金属部16を形成する工程において、水26中で陰極22の接触端22aを陽極21の酸化膜12に押圧しながら陽極21に摺動させることが好ましい。貯留した水26中に陽極21および陰極22を挿入することが可能な水槽25を設けることができる。水26は、導電性を高めるため、電解質を含有してもよい。電解質は、不揮発性であることや、電気分解の際、化学的に変化しないことが望ましい。例えば、0.5mol/L程度の硫酸(HSO)が挙げられる。
【0028】
付着金属部16を形成する工程において、陰極22の接触端22aをテーパ状に形成し、接触端22aが陽極21に対して点接触または線接触の状態で接触し、陽極21に摺動させることが好ましい。この場合、接触端22aが陽極21に接触した箇所において、局所的なショートが発生しやすく、また、接触端22aの圧力が集中することにより、酸化膜12が局所的に剥離しやすくなる。
【0029】
オゾン発生装置20は、上述の陽極21、陰極22、電圧印加装置23,24、水槽25に加え、陰極22の接触端22aを陽極21の酸化膜12に押圧しながら陽極21の表面に摺動させる摺動機構(図示せず)を有することが好ましい。摺動機構は、陽極21または陰極22の少なくとも一方を駆動させればよい。摺動機構が電動で駆動されてもよく、手動で動作してもよい。
【0030】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【実施例0031】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0032】
(実験1)
第1金属として、平板状のチタン板を用いた。チタン板の表面に、陽極酸化処理により酸化チタンの酸化膜を形成して、陽極を作製した。陽極を水中に配置し、白金線を陰極として、陽極と陰極との間に電圧をかけながら、白金線を陽極の表面にこすりつけた。この方法をME(Multiple Electrostrike)法と称する。ME法で作製した電極は、表面の酸化チタン膜にプラチナ(Pt)が担持されている。
【0033】
ME法で作製した電極を陰極に用いて水を電気分解したときのオゾンの発生量を図4のグラフに示す。図4には、対比例として、陽極が配置された水中に、陰極として、プラチナ(Pt)電極またはダイヤモンド電極を配置した場合のオゾンの発生量を併せて示した。プラチナ電極の陰極を陽極に接触させない場合は、7.5Vの直流電圧を印加しても、オゾンの発生が確認できなかった。ME法で作製した電極を用いる場合は、水中で陰極を陽極に接触させてショートさせ、陰極の白金を陽極の表面に担持させると、陽極からオゾンを高濃度に含む気泡が発生した。
【0034】
ダイヤモンド電極は、ホウ素ドープにより導電性を付与したダイヤモンド(BDD)から形成されている。ダイヤモンド電極を陰極として用いた場合は、時間の経過とともに、徐々にオゾン発生量が増加する傾向がみられた。ME法で作製した電極を陰極として用いた場合は、ダイヤモンド電極よりも当初のオゾン発生量の増加が著しいが、60min程度経過した後は、徐々にオゾン発生量が減少する傾向がみられた。
【0035】
(実験2)
ME法で作製した電極を陰極に用いて水を電気分解する際、水中で陰極を陽極に接触させてショートさせる動作を繰り返した。そのときのオゾン発生量(ppm)を図5に、電流の変化を図6に示す。図6において、電流が増加するピークが電極をショートさせた瞬間に対応する。5minに1回程度の頻度でショートを繰り返すことにより、1時間30分にわたり、オゾン発生量を高濃度に維持することができた。その後、20分間程度、陰極を陽極に接触させないまま放置すると、徐々にオゾン発生量が減少する傾向がみられた。その後、再び陰極を陽極に接触させてショートさせると、オゾン発生量を増加させることができた。
【0036】
(実験1および実験2の考察)
陽極に担持されたPt付着部にHOが結合すると、HOが電子(e)を奪われて酸化される。その結果、次の(a)~(e)のように段階的に酸化が進行し、Oが発生する(参考文献:Mio Hayashi et al.「Electrolytic Ozone Generation at Pt/Ti Electrode Prepared by Multiple Electrostrike Method」、Chemistry Letters、2019年、48巻、6号、574-577ページ参照)。
【0037】
<オゾンが発生する場合>
(a)Pt付着部 H
(b)Pt付着部-OH
(c)Pt付着部-O
(d)Pt付着部-OOH
(e)Pt付着部 O
【0038】
<オゾンが発生しない場合>
(a)Pt付着部 H
(b)Pt付着部-OH
(c)Pt付着部-O
(d)Pt付着部-OOH
(f)Pt付着部 O
【0039】
上述の(a)から(b)の反応経路、および(b)から(c)の反応経路は、eの除去とともにHが放出されるだけで進行する。しかし、上述の(c)から(d)の反応経路、および(d)から(e)の反応経路は、eの除去およびHの放出だけでなく、HOが供給される必要がある。HOの供給が不足すると、(d)から(f)の反応経路が進行して、酸素(O)が発生すると考えられる。
【0040】
ME法で作製した電極では、Ptの接触によりTi板の表面がショートすると、TiO膜が局所的に破壊され、PtがTiに接触しPtとTiの合金が形成される。形成された合金において、酸化されやすいTiが溶出する結果、Ptのみが残留し、スポンジ状のナノ微粒子多孔質構造が形成される。形成されたスポンジ状のPtナノ微粒子多孔質体において、HOの供給が多くなり、(d)から(e)の反応経路を進む確率が高くなり、Oの生成効率が上昇する。しかし、電気分解が進むにつれて、Pt付着部が溶解したり、電解質中のイオン等で被毒したりすると、(d)から(f)の反応経路を進む確率が高くなり、Oの生成効率が低下すると考えられる。
【0041】
(実験3)
ME法で作製した電極(陽極)の表面をSEMで観測し、元素分析を行った。その結果、白金線をこすりつけた箇所の陽極の表面に線状の凹部が形成され、酸化膜が除去された箇所にPtが存在することが分かった。また、酸化膜が除去された箇所の外側は、TiO膜で覆われたままであることが分かった。
【0042】
観測および分析結果の一部として、図7に、陽極に形成されたPtTi合金層の断面を表すSTEM写真を示す。また、Area 1~3に対応する領域の元素組成を、EDS(エネルギー分散型X線分光法)を用いて分析した結果は、次のとおりである。
【0043】
Area 1:Ti 3.6atom%、Pt 67.7atom%
Area 2:Ti 29.1atom%、Pt 45.3atom%
Area 3:Ti 60.6atom%、Pt 20.9atom%
【0044】
図7の写真の上部は、PtTi合金を含む付着金属部16のうち、電極10の表面に近い側である。図7の写真の下部は、付着金属部16のうち、Tiの金属基部11に近い側である。上部のArea 1では、Tiの割合が低くて、Ptの割合が高かった。Area 1より下側のArea2では、Tiの割合がやや低くて、Ptの割合がやや高かった。下部のArea 3では、Tiの割合が高く、Ptの割合がやや低かった。
【0045】
ME法で作製した電極においては、Pt線をこすりつけることにより、Ptが柔らかいTiO膜を削るが、硬いTi板を削らないので、Ti板の表面にPtTi合金が形成される。酸化膜が除去された箇所に形成されるPtTi合金では、Pt中にTiが4%程度の比較的低い割合で広がり、酸化膜が除去された箇所の底部では、Tiの割合が多くなっていた。
【0046】
(実験4)
図8は、陽極に形成されたPtTi合金層の断面を表すSTEM写真であり、電気分解の進行による構造の変化を(a)~(c)の順に示す。図8(a)は0.5分後、図8(b)は2分後、図8(c)は5分後の状態である。これらの写真は、必ずしも同一の位置を表していないが、写真で明るい領域として表されるPtTi合金に対し、その上部にスポンジ状の多孔質体が成長し、また減少していく様子がみられる。図8(a)では、多孔質体の構造は顕著でないが、図8(b)では、多孔質体が顕著に肥大している。図8(c)では、多孔質体が薄くなっており、剥離が進行した結果と考えられる。
【0047】
ショートを繰り返さない場合にオゾン発生が停止するメカニズムについては、次のように推測することができる。陽極でPtTi合金のうち、Tiが酸化され溶出することにより、Ptナノ粒子のスポンジ状多孔質構造が形成される。その後時間経過とともに、Ptが徐々に剥離していくことが観察された。スポンジ状のPtナノ粒子が剥離により消失するか、あるいは、Tiの酸化により形成されるTiO層がPt多孔質体の表面を覆うと、オゾン発生が停止すると考えられる。
【0048】
(実験5)
チタン板の表面に酸化チタンの酸化膜を有する陽極を水中に配置し、Pt以外の各種の金属片を陰極として用い、陽極と接触させた。オゾンの発生は、電気化学式溶存オゾン濃度計での測定およびヨウ化カリウムでんぷん紙での呈色試験により確認した。線状(φ0.5mm)のイリジウム(Ir)、線状(φ1.0mm)のパラジウム(Pd)、球状(φ1.0mm)のインジウム(In)を用いたときは、プラチナ(Pt)を用いたときと同様に、オゾンが発生することが分かった。また、電子顕微鏡による観察の結果、白金と同様にナノ微粒子のスポンジ状多孔質構造を形成していることが分かった。
【0049】
図9に、PtTi合金の電気分解後に生じたスポンジ状のPtナノ微粒子多孔質体の断面を拡大して示すSTEM写真である。また、図10に、InTi合金の電気分解後に生じた多孔質体の表面を示すSEM写真である。いずれの場合も、陽極の表面に多孔質体が形成されたことが分かる。また、図10に示すように、多孔質体の表面をより広い範囲で観測すると、不規則な表面起伏が生じていることが分かる。
【符号の説明】
【0050】
10…電極、11…金属基部、11a…金属基部の表面、12…酸化膜、12a…酸化膜の表面、13…電極基材、14…第1金属、15…凹部、16…付着金属部、17…第2金属、20…オゾン発生装置、21…陽極、22…陰極、23,24…電圧印加装置、25…水槽、26…水。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10