(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190271
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】ソフトカプセル皮膜及びソフトカプセル
(51)【国際特許分類】
A61K 9/48 20060101AFI20221219BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20221219BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20221219BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20221219BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20221219BHJP
【FI】
A61K9/48
A61K47/26
A61K47/12
A61K47/42
A23L5/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098521
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】503315676
【氏名又は名称】中日本カプセル 株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【弁理士】
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】山中 利恭
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 康博
(72)【発明者】
【氏名】須原 渉
(72)【発明者】
【氏名】諸岡 智弘
(72)【発明者】
【氏名】井辰 かおる
(72)【発明者】
【氏名】今村 星香
【テーマコード(参考)】
4B035
4C076
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LE12
4B035LG15
4B035LG17
4B035LG57
4B035LP01
4B035LP34
4C076AA56
4C076BB01
4C076DD38A
4C076DD43A
4C076DD67A
4C076EE42A
4C076FF70
(57)【要約】
【課題】ゼラチン製のソフトカプセル皮膜の可塑剤として従前より多用されていたグリセリンを含有することなく、柔軟性・弾力性を有しているソフトカプセル皮膜を提供し、該ソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルを提供する。
【解決手段】ソフトカプセル皮膜は、ゼラチン、乳酸ナトリウム、及び、糖アルコールとしてエリスリトールまたはキシリトールを含有し、グリセリンを含有しないものであり、ソフトカプセルは、上記のソフトカプセル皮膜に内容物が充填されたものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチン、乳酸ナトリウム、及び、糖アルコールとしてエリスリトールまたはキシリトールを含有し、グリセリンを含有しないものであり、
糖アルコールがエリスリトールのとき、次の条件(a)、(b)、及び(c)の何れかを満たし、
糖アルコールがキシリトールのとき、次の条件(d)、(e)、及び(f)の何れかを満たす、ことを特徴とするソフトカプセル皮膜。
(a)ゼラチン100重量部に対して乳酸ナトリウムを固形分で27重量部以上、40重量部以下含有し、且つ、ゼラチン100重量部に対してエリスリトールを6重量部以上、11重量部以下含有する。
(b)ゼラチン100重量部に対して乳酸ナトリウムを固形分で21重量部以上、40重量部以下含有し、且つ、ゼラチン100重量部に対してエリスリトールを10重量部含有する。
(c)ゼラチン100重量部に対して乳酸ナトリウムを固形分で40重量部含有し、且つ、ゼラチン100重量部に対してエリスリトールを3.3重量部以上、16.7重量部以下含有する。
(d)ゼラチン100重量部に対して乳酸ナトリウムを固形分で24重量部以上、40重量部以下含有し、且つ、ゼラチン100重量部に対してキシリトールを6重量部以上、11重量部以下含有する。
(e)ゼラチン100重量部に対して乳酸ナトリウムを固形分で21重量部以上、40重量部以下含有し、且つ、ゼラチン100重量部に対してキシリトールを10重量部含有する。
(f)ゼラチン100重量部に対して乳酸ナトリウムを固形分で40重量部含有し、且つ、ゼラチン100重量部に対してキシリトールを3.3重量部以上、20重量部以下含有する。
【請求項2】
ゼラチン、乳酸ナトリウム、及び、糖アルコールとしてエリスリトールまたはキシリトールを含有し、グリセリンを含有しないものであり、
次の条件(g)、(h)、及び(i)の全てを満たすことを特徴とするソフトカプセル皮膜。
(g)乳酸ナトリウムの固形分と糖アルコールの含有量の和が、ゼラチン100重量部に対して35重要部以上、60重量部以下である。
(h)糖アルコールに対する乳酸ナトリウムの固形分の重量比が2.4以上、4.0以下である。
(i)糖アルコールがエリスリトールのとき、ゼラチン100重量部に対して乳酸ナトリウムを固形分で27重量部以上、40重量部以下含有し、糖アルコールがキシリトールのとき、ゼラチン100重量部に対して乳酸ナトリウムを固形分で24重量部以上、40重量部以下含有する。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のソフトカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑剤としてグリセリンを含有しないソフトカプセル皮膜、及び、該ソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ソフトカプセル皮膜には、柔軟性・弾力性が要請される。これは主に、ソフトカプセル皮膜内に充填される内容物が、通常“液体”(溶液または懸濁液)であり、環境の温度変化に伴う体積変化が大きいため、ソフトカプセル皮膜が柔軟性・弾力性に乏しい場合は、内容物の体積変化に起因してソフトカプセル皮膜に割れが生じ、内容物が漏出するおそれがあるからである。そこで、ソフトカプセル皮膜には、柔軟性・弾力性を高めるために可塑剤が添加されるのが一般的であり、可塑剤としては、従前よりグリセリンが多用されていた。
【0003】
一方、本出願人は、グリセリンを含有しないソフトカプセル皮膜、及び、該ソフトカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセルを提案している(特許文献1参照)。この提案にかかるソフトカプセル皮膜は、ゼラチン、高糖化還元水飴、及び、エリスリトールを含有し、グリセリンを含有しないものである。このように、可塑剤として従前より多用されていたグリセリンを含有しないソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルを提供することにより、医薬成分、健康食品成分、栄養補助成分の容器としてのソフトカプセルを多様なものとし、需要者による選択の自由度を高めることができる。
【0004】
本出願人はその後も、ソフトカプセルをより多様なものとし、需要者による選択の自由度をより高めるために、グリセリンを含有することなく柔軟性・弾力性を有しているソフトカプセル皮膜を、異なる手段で実現することを課題として、研究・開発を進めて来ている。本発明は、その過程でなされたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、本発明は、グリセリンを含有することなく柔軟性・弾力性を有しているソフトカプセル皮膜、及び、該ソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルの提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明にかかるソフトカプセル皮膜は、
「ゼラチン、乳酸ナトリウム、及び、糖アルコールとしてエリスリトールまたはキシリトールを含有し、グリセリンを含有しないものであり、
糖アルコールがエリスリトールのとき、次の条件(a)、(b)、及び(c)の何れかを満たし、
糖アルコールがキシリトールのとき、次の条件(d)、(e)、及び(f)の何れかを満たす、ことを特徴とする。
(a)ゼラチン100重量部に対して乳酸ナトリウムを固形分で27重量部以上、40重量部以下含有し、且つ、ゼラチン100重量部に対してエリスリトールを6重量部以上、11重量部以下含有する。
(b)ゼラチン100重量部に対して乳酸ナトリウムを固形分で21重量部以上、40重量部以下含有し、且つ、ゼラチン100重量部に対してエリスリトールを10重量部含有する。
(c)ゼラチン100重量部に対して乳酸ナトリウムを固形分で40重量部含有し、且つ、ゼラチン100重量部に対してエリスリトールを3.3重量部以上、16.7重量部以下含有する。
(d)ゼラチン100重量部に対して乳酸ナトリウムを固形分で24重量部以上、40重量部以下含有し、且つ、ゼラチン100重量部に対してキシリトールを6重量部以上、11重量部以下含有する。
(e)ゼラチン100重量部に対して乳酸ナトリウムを固形分で21重量部以上、40重量部以下含有し、且つ、ゼラチン100重量部に対してキシリトールを10重量部含有する。
(f)ゼラチン100重量部に対して乳酸ナトリウムを固形分で40重量部含有し、且つ、ゼラチン100重量部に対してキシリトールを3.3重量部以上、20重量部以下含有する。」
【0008】
本発明は、ゼラチン製のソフトカプセル皮膜に、可塑剤としてのグリセリンに代替して、乳酸ナトリウムと、糖アルコールとしてエリスリトールまたはキシリトールを含有させるものである。詳細は後述するように、糖アルコールがエリスリトールの場合は、少なくとも条件(a)、(b)、及び(c)の何れかを満たすことにより、糖アルコールがキシリトールの場合は、少なくとも条件(d)、(e)、及び(f)の何れかを満たすことにより、柔軟性・弾力性を有していると共に、結晶が析出することなく透明な外観を呈するソフトカプセルを提供することができる。
【0009】
本発明にかかるソフトカプセル皮膜は、上記構成に替えて、
「ゼラチン、乳酸ナトリウム、及び、糖アルコールとしてエリスリトールまたはキシリトールを含有し、グリセリンを含有しないものであり、
次の条件(g)、(h)、及び(i)の全てを満たすことを特徴とする。
(g)乳酸ナトリウムの固形分と糖アルコールの含有量の和が、ゼラチン100重量部に対して35重要部以上、60重量部以下である。
(h)糖アルコールに対する乳酸ナトリウムの固形分の重量比が2.4以上、4.0以下である。
(i)糖アルコールがエリスリトールのとき、ゼラチン100重量部に対して乳酸ナトリウムを固形分で27重量部以上、40重量部以下含有し、糖アルコールがキシリトールのとき、ゼラチン100重量部に対して乳酸ナトリウムを固形分で24重量部以上、40重量部以下含有する。」
【0010】
詳細は後述するように、少なくとも条件(g)、(h)、及び(i)の全てを満たすことにより、柔軟性・弾力性が非常に良好であり、結晶が析出することなく透明な外観を呈していることに加え、高温・多湿の環境下で保存されても付着しにくいソフトカプセル皮膜を提供することができる。
【0011】
次に、本発明にかかるソフトカプセルは、「上記に記載のソフトカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセル」である。
【0012】
「内容物」は、特に限定されるものではなく、医薬成分、健康食品成分、栄養補助成分などの目的物質を、油脂または油状物質に溶解又は懸濁させたもの、或いは、上記の目的物質自体が油状やペースト状であるものを使用することができる。
【0013】
本発明により、柔軟性・弾力性を有していると共に、透明な外観を呈しているソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルを、提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明の効果として、グリセリンを含有することなく柔軟性・弾力性を有しているソフトカプセル皮膜、及び、該ソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態であるソフトカプセル皮膜、及び、該ソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルについて説明する。
【0016】
本実施形態のソフトカプセル皮膜は、ゼラチン、乳酸ナトリウム、及び、糖アルコールとしてエリスリトールまたはキシリトールを含有し、グリセリンを含有しないものである。
【0017】
このようなソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルは、ロータリーダイ式の成形装置を使用して製造することができ、ソフトカプセル皮膜の原液である皮膜原液を調製する皮膜原液調製工程と、ソフトカプセル皮膜の成形と同時にソフトカプセル皮膜内に内容物を充填し封入する成形・充填工程と、成形・充填工程後のソフトカプセルを乾燥させる乾燥工程とを経て、得ることができる。
【0018】
皮膜原液調製工程では、皮膜基剤であるゼラチンを加熱しながら水に溶解し、ここに乳酸ナトリウムの水溶液、及び、エリスリトールまたはキシリトールの粉末を添加し、流延に適する粘度の皮膜原液を調製する。
【0019】
ロータリーダイ式成形装置は、一般的に、皮膜原液をフィルム状に成形するキャスティングドラムと、外表面に成形鋳型が形成された一対のダイロールと、ダイロール間に配されたくさび状のセグメントと、セグメント内に内容物を圧入すると共にセグメントの先端から内容物を押し出すポンプとを主に具備している。
【0020】
そして、成形・充填工程では、まず、皮膜原液がキャスティングドラム表面に流延され、ゲル化することによりフィルム化される。次に、形成されたフィルムの二枚が、セグメントに沿って一対のダイロール間に送入される。そして、一対のダイロールの相反する方向への回転に伴い、二枚のフィルムがヒートシールされて上方に開放したカプセルが形成されると、この中にセグメントから押し出された内容物が充填される。これと同時に、二枚のフィルムが上部でヒートシールされ、閉じた内部空間に内容物が充填されたソフトカプセルが形成される。
【0021】
乾燥工程では、ソフトカプセル皮膜が所定の水分含有率となるまで、調湿乾燥機内で乾燥させる。
【0022】
検討の結果、ゼラチン製のソフトカプセル皮膜に乳酸ナトリウムのみを含有させ、エリスリトールまたはキシリトールを含有させない場合であっても、可塑剤としてグリセリンを使用している従来のソフトカプセル皮膜と同程度の柔軟性・弾力性を有するソフトカプセルを製造することは可能であったものの、そのためには乳酸ナトリウムをかなり多く含有させる必要があった。そして、乳酸ナトリウムを多く含有させていることに起因して、乳酸ナトリウムが結晶化してソフトカプセル皮膜中に析出してしまうことが判明した。
【0023】
この検討結果を具体的に説明する。ゼラチン100重量部に対する乳酸ナトリウムの割合を異ならせた試料S1~S4について、皮膜原液の粘度の測定、ソフトカプセル皮膜中の結晶析出の有無による外観の評価、ソフトカプセル皮膜の柔軟性・弾力性の評価を、次の方法で行い、グリセリンを可塑剤とする従来のゼラチン製ソフトカプセル皮膜である試料Rと対比した。乳酸ナトリウムとしては、60質量%の水溶液を使用した。
【0024】
<皮膜原液の粘度>
測定条件は、B型粘度計、ロータNo.4、回転速度6rpm、測定温度60℃とした。
【0025】
<ソフトカプセル皮膜の外観の評価>
シート状に成形されたソフトカプセル皮膜を乾燥後、常温、湿度20%~40%の環境下で放置し、所定時間の経過後の肉眼よる観察によって、結晶の析出がなく透明感に優れる場合を「○」(良好)、部分的であっても結晶が析出し不透明な箇所がある場合を「×」(不良)で評価した。観察期間は、1日、3日、及び7日とした。
【0026】
<ソフトカプセル皮膜の柔軟性・弾力性>
シート状に成形されたソフトカプセル皮膜を乾燥後、常温、湿度20%~40%の環境下で所定時間放置した後、ソフトカプセル皮膜を二つに折り曲げ、皮膜に亀裂が発生するか否かを確認した。放置期間は1日、3日、及び7日とし、1日後に亀裂が発生した場合を「×」(不良)、1日後に亀裂が発生せず3日後に亀裂が発生し場合を「△」(やや不良)、3日後まで亀裂が発生せず7日後に亀裂が発生し場合を「○」(良好)、7日後まで亀裂が発生しなかった場合を「◎」(非常に良好)と評価した。
【0027】
【0028】
表1に示すように、ゼラチン100重量部に対し乳酸ナトリウムを固形分で40重量部~50重量部含有させた試料S1~S3のソフトカプセル皮膜は、柔軟性・弾力性に乏しく、3日後には結晶が析出した。試料S4は試料R(グリセリンを可塑剤とする従来のソフトカプセル皮膜)と同程度の柔軟性・弾力性を有していたが、ゼラチン100重量部に対し乳酸ナトリウムを固形分で60重量部含有している。これは、試料Rではグリセリンの含有量がゼラチン100重量部に対し40重量部であることと比べると、非常に多い。そして、このように乳酸ナトリウムを多く含有することに起因して、7日後には結晶の析出が見られた。
【0029】
ソフトカプセルは、透明な外観に高い市場的価値を有するとされることが多いため、結晶の析出によってその外観が損なわれることは、重大な問題である。そこで、本実施形態では、柔軟性・弾力性を有していることに加え、7日後においても結晶の析出が見られない外観のよいソフトカプセル皮膜を、望ましいソフトカプセル皮膜とする。
【0030】
本実施形態のソフトカプセル皮膜は、乳酸ナトリウムと、エリスリトールまたはキシリトールである糖アルコールとを、共存させるところに特徴がある。これは、エリスリトールまたはキシリトールは、もともと溶解度が小さいにも関わらず、乳酸ナトリウムを共存させることにより溶解度が高められ再結晶化が抑制されること、及び、乳酸ナトリウムの水溶液においても時間の経過に伴い結晶の析出が生じるが、エリスリトールまたはキシリトールを共存させることにより、結晶析出が抑制されることを見出したことを端緒としている。
【0031】
具体的には、乳酸ナトリウム(60質量%水溶液)100重量部に対するエリスリトールの割合を異ならせた試料E01~E07の水溶液、及び、乳酸ナトリウム(60質量%水溶液)100重量部に対するキシリトールの割合を異ならせた試料X01~X05の水溶液を調製し、それぞれ溶液のまま放置して結晶の析出の有無を確認した。観察期間は、1日、3日、及び7日とした。対比のために、エリスリトールもキシリトールも含有させない乳酸ナトリウム水溶液の試料E00についても、同様に溶液のまま放置して結晶析出の有無を確認した。これらの結果を表2、表3に示す。
【0032】
【0033】
【0034】
表2及び表3に示すように、エリスリトールもキシリトールも含有させない乳酸ナトリウム水溶液の試料E00では、7日後に結晶の析出が見られたのに対し、エリスリトールの濃度が12,5質量%~62.5質量%である試料E01~E06、キシリトールの濃度が62.5質量%~100質量%の試料X01~X03は、7日後にも結晶の析出が見られなかった。エリスリトールの飽和溶解度(水100[g]に溶解する溶質の質量[g]の割合)が36%であり、キシリトールの飽和溶解度が64%であることから、試料E04~E06、試料X02,X03の溶液は過飽和である。従って、乳酸ナトリウムを共存させることにより、過飽和であっても、エリスリトールまたはキシリトールの結晶析出が有効に抑制されていることが分かる。また、乳酸ナトリウム水溶液における結晶析出も、エリスリトールまたはキシリトールを共存させることにより、抑制されていることが分かる。
【実施例0035】
まず、糖アルコールとしてエリスリトールを使用する実施例について説明する。エリスリトールの含有率をゼラチン100重量部に対して10質量%とし、乳酸ナトリウムの含有率を異ならせた試料E11~E17について、上記と同様に、皮膜原液の粘度測定、ソフトカプセル皮膜中の結晶析出の有無による外観の評価、ソフトカプセル皮膜の柔軟性・弾力性の評価を行った。その結果を表4に示す。なお、柔軟性・弾力性の評価では、1日後に亀裂が発生せず3日後に亀裂が発生した場合に加えて、3日後には結晶が析出したことにより柔軟性・弾力性の評価を行わなかった場合も「△」とし、3日後まで亀裂が発生せず7日後に亀裂が発生し場合に加えて、7日後には結晶が析出したことにより柔軟性・弾力性の評価を行わなかった場合も「○」としている。これは、以下の実施例でも同様である。
【0036】
【0037】
乳酸ナトリウム(固形分)の含有率をゼラチン100重量部に対して40質量%とし、エリスリトールの含有率を異ならせた試料E21~E31について、上記と同様に、皮膜原液の粘度測定、ソフトカプセル皮膜中の結晶析出の有無による外観の評価、ソフトカプセル皮膜の柔軟性・弾力性の評価を行った。その結果を表5に示す。
【0038】
【0039】
乳酸ナトリウム(固形分)の含有率をゼラチン100重量部に対して27質量%とし、エリスリトールの含有率を異ならせた試料E41~E48について、上記と同様に、皮膜原液の粘度測定、ソフトカプセル皮膜中の結晶析出の有無による外観の評価、ソフトカプセル皮膜の柔軟性・弾力性の評価を行った。その結果を表6に示す。
【0040】
【0041】
表4~表6に示した結果から、7日後においても結晶の析出が見られることなく外観が良いと共に、柔軟性・弾力性の評価が「◎」または「〇」である場合を望ましいソフトカプセル皮膜とすると、糖アルコールとしてエリスリトールを使用するとき、少なくとも次の条件(a)、条件(b)、及び条件(c)の何れかを満たせばよいことが分かる。
【0042】
条件(a):ゼラチン100重量部に対して乳酸ナトリウムを固形分で27重量部以上、40重量部以下含有し、且つ、ゼラチン100重量部に対してエリスリトールを6重量部以上、11重量部以下含有する。
条件(b):ゼラチン100重量部に対して乳酸ナトリウムを固形分で21重量部以上、40重量部以下含有し、且つ、ゼラチン100重量部に対してエリスリトールを10重量部含有する。
条件(c):ゼラチン100重量部に対して乳酸ナトリウムを固形分で40重量部含有し、且つ、ゼラチン100重量部に対してエリスリトールを3.3重量部以上、16.7重量部以下含有する。
【0043】
次に、糖アルコールとしてキシリトールを使用する実施例について説明する。キシリトールの含有率をゼラチン100重量部に対して10質量%とし、乳酸ナトリウムの含有率を異ならせた試料X11~X17について、上記と同様に、皮膜原液の粘度測定、ソフトカプセル皮膜中の結晶析出の有無による外観の評価、ソフトカプセル皮膜の柔軟性・弾力性の評価を行った。その結果を表7に示す。
【0044】
【0045】
乳酸ナトリウム(固形分)の含有率をゼラチン100重量部に対して40質量%とし、キシリトールの含有率を異ならせた試料X21~X31について、上記と同様に、皮膜原液の粘度測定、ソフトカプセル皮膜中の結晶析出の有無による外観の評価、ソフトカプセル皮膜の柔軟性・弾力性の評価を行った。その結果を表8に示す。
【0046】
【0047】
乳酸ナトリウム(固形分)の含有率をゼラチン100重量部に対して27質量%とし、キシリトールの含有率を異ならせた試料X41~X48について、上記と同様に、皮膜原液の粘度測定、ソフトカプセル皮膜中の結晶析出の有無による外観の評価、ソフトカプセル皮膜の柔軟性・弾力性の評価を行った。その結果を表9に示す。
【0048】
【0049】
乳酸ナトリウム(固形分)の含有率をゼラチン100重量部に対して24質量%とし、キシリトールの含有率を異ならせた試料X51~X59について、上記と同様に、皮膜原液の粘度測定、ソフトカプセル皮膜中の結晶析出の有無による外観の評価、ソフトカプセル皮膜の柔軟性・弾力性の評価を行った。その結果を表10に示す。
【0050】
【0051】
表7~表10に示した結果から、7日後においても結晶の析出が見られることなく外観が良いと共に、柔軟性・弾力性の評価が「◎」または「〇」である場合を望ましいソフトカプセル皮膜とすると、糖アルコールとしてキシリトールを使用するとき、少なくとも次の条件(d)、条件(e)、及び条件(f)の何れかを満たせばよいことが分かる。
【0052】
条件(d):ゼラチン100重量部に対して乳酸ナトリウムを固形分で24重量部以上、40重量部以下含有し、且つ、ゼラチン100重量部に対してキシリトールを6重量部以上、11重量部以下含有する。
条件(e):ゼラチン100重量部に対して乳酸ナトリウムを固形分で21重量部以上、40重量部以下含有し、且つ、ゼラチン100重量部に対してエリスリトールを10重量部含有する。
条件(f):ゼラチン100重量部に対して乳酸ナトリウムを固形分で40重量部含有し、且つ、ゼラチン100重量部に対してキシリトールを3.3重量部以上、20重量部以下含有する。
【0053】
また、可塑性を有するソフトカプセル皮膜は、高温・多湿下で軟化して表面が粘着しやすく、ソフトカプセル皮膜同士が付着したり、保存容器とソフトカプセル皮膜とが付着したりすることがある。そこで、7日後においても結晶の析出が見られることなく外観が良いと共に、柔軟性・弾力性の評価が「◎」または「〇」であった試料E11~E17、E21~E30、E43~E48、X11~X17、X21~X30、X43~X48、X54~X59について、次の方法で付着性の評価を行った。
【0054】
<付着性の評価>
シート状のソフトカプセル皮膜を1cm×1cmの大きさのシート片に切断し、シート片50枚をガラス製9号規格瓶に収容し、次の保存条件で所定時間保持した。保存条件は、通常の保存条件より高温・多湿である温度40℃,相対湿度75%の条件(条件A)と、より過酷な高温度である50℃の条件(条件B)の二種類とした。保存時間は、1日、3日、及び7日とした。保存後、シート片を瓶から取り出したとき、シート片同士の付着が全くなく一枚一枚が完全に分かれた場合を「○」(良好)、一部であってもシート片同士が手で剥離できない程度に付着していた場合を「×」(不良)で評価した。これらの結果を、表11~表17に示す。また、各試料について、乳酸ナトリウムの固形分と糖アルコールの含有量の和のゼラチン100重量部に対する割合(固形分和)と、糖アルコールの質量に対する乳酸ナトリウムの固形分の質量の割合(固形分質量比)を、表11~表17に合わせて示す。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
条件A及び条件Bの何れにおいても7日経過後に付着性が良好であった試料は、柔軟性・弾力性の評価が「◎」(非常に良好)であった試料と一致していた。そこで、表11~表13の結果から、7日後においても結晶の析出が見られることなく外観が良いと共に、柔軟性・弾力性の評価が「◎」であることに加えて、条件A及び条件Bの何れにおいても7日経過後に付着性が良好であったソフトカプセル皮膜の条件を抽出すると、少なくとも次の三つの条件(g)、条件(h)、及び条件(i)の全てを満たせばよいことが分かる。
【0063】
条件(g):乳酸ナトリウムの固形分と糖アルコールの含有量の和が、ゼラチン100重量部に対して35重要部以上、60重量部以下である。
条件(h):糖アルコールに対する乳酸ナトリウムの固形分の重量比が2.4以上、4.0以下である。
条件(i):糖アルコールがエリスリトールのとき、ゼラチン100重量部に対して乳酸ナトリウムを固形分で27重量部以上、40重量部以下含有し、糖アルコールがキシリトールのとき、ゼラチン100重量部に対して乳酸ナトリウムを固形分で24重量部以上、40重量部以下含有する。
【0064】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0065】
例えば、上記では、ロータリーダイ式でソフトカプセル皮膜を成形すると共にソフトカプセルを製造する場合を例示したが、これに限定されず、滴下法によってシームレスソフトカプセル皮膜を成形すると共にシームレスソフトカプセルを製造する場合にも、乳酸ナトリウムと、エリスリトールまたはキシリトールである糖アルコールを、グリセリンに代替する可塑剤として使用することができる。
【0066】
なお、本発明は、ソフトカプセル皮膜の可塑剤として、グリセリンに代替して、乳酸ナトリウムと、エリスリトールまたはキシリトールである糖アルコールを使用することを提案するものであるが、これらの成分に加えてグリセリンを含有させても、柔軟性・弾力性を有するソフトカプセル皮膜を製造することは、もちろん可能である。